説明

化合物の反応性推定装置、反応性推定方法、反応性推定プログラムおよびそれを記録した記録媒体、並びに競争反応データベース

【課題】反応前化合物中に反応条件の影響を受ける複数の官能基が含まれている場合でも、効率的に反応条件及び反応前化合物を得ることができる反応性推定装置を提供する。
【解決手段】化合物の第1の官能基に所定の反応条件を作用させたときに前記第1の官能基が変換される第2の官能基を記録した反応阻害データベース11bと、化合物に複数の官能基が存在する場合において当該化合物に所定の反応条件を作用させたときにおける前記複数の官能基の他の官能基への変換され易さを順位付けして記録した競争反応データベース11cと、上記反応阻害データベース11bと上記競争反応データベース11cとを参照し、反応後化合物の生成に必要な反応前化合物及び反応条件を推定する反応性特定部8と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物に含まれる官能基の反応条件に対する反応性を推定するための反応性推定装置、反応性推定方法、反応性推定プログラムおよびそれを記録した記録媒体、並びに競争反応データベースに関する。
【背景技術】
【0002】
有機化合物などの目的化合物(以下、反応後化合物と記すことがある)を合成する場合、反応試薬、触媒、反応温度、溶媒等の反応条件下に、原料となる有機化合物(以下、反応前化合物と記すことがある)の構造の一部分、すなわち反応前化合物に含まれる官能基を変化させ、反応後化合物へと導く。反応条件、該反応条件によって変化する反応前化合物の官能基の種類、及び、該反応条件によって変化した前後の官能基の構造等(いわゆる、反応性)をデータベース化した反応データベースシステムを整理し、当該システムから、反応後化合物または反応後化合物に類似する化合物を与える反応条件を検索し、その検索結果から反応条件及び反応前化合物を類推する方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】E. J. Corey, A. K. Long, T. W. Greene, and J. W. Miller, J. Org. Chem., 50, 1920-1927 (1985)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、非特許文献1において整理されたデータは限定的であり、非常に多くの種類が存在する反応条件及び反応前化合物を類推することは必ずしも十分ではなかった。
【0005】
具体的には、同一の反応条件下で影響を受ける複数の官能基が反応前化合物中に含まれている場合、実際には、これら複数の官能基が同一の反応を起こさない場合があり、検索結果から類推された反応と実際の反応とが一致しないという問題があった。
【0006】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、反応前化合物中に複数の官能基が含まれている場合でも、効率的に反応条件及び反応前化合物を類推することができる反応性推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様において、反応後化合物の生成反応に必要な反応前化合物及び反応条件を推定する反応性推定装置が提供される。この反応性推定装置は、化合物に関する情報を管理する反応データベースと、化合物の第1の官能基と、反応条件と、前記第1の官能基に反応条件を作用させたときに前記第1の官能基が変換される第2の官能基とを、反応阻害データとして管理する反応阻害データベースと、化合物に複数の官能基が存在する場合において当該化合物に所定の反応条件を作用させたときにおける前記複数の官能基の他の官能基への変換され易さを順位付けして記録した競争反応データベースと、反応後化合物を入力する入力手段と、前記入力手段で入力された反応後化合物から前記反応データベースに基づいて反応前化合物を認識する反応前化合物認識手段と、前記反応前化合物認識手段で入力された反応前化合物の官能基を前記反応データベースに基づいて認識する官能基認識手段と、前記官能基認識手段で認識された官能基が反応条件を作用させたときに他の官能基に変換されるか否かを前記反応阻害データベースに基づいて判定する反応阻害判定手段と、前記反応阻害判定手段で変換されると判定された官能基よりも、前記反応前化合物の他の官能基の方が前記所定の反応条件によりその他の官能基へ変換され易いか否かを前記競争反応データベースに基づいて判定する競争反応判定手段と、前記競争反応判定手段でその他の官能基へ変換され易いと判定されなかった場合に、前記所定の反応条件及び反応前化合物から反応後化合物の生成を進行させることが可能な反応条件及び反応前化合物を特定する反応性特定手段と、を有する。
【0008】
第2の態様において、コンピュータを用いて、反応後化合物の生成に必要な化合物及び反応条件を推定する方法が提供される。この方法は、反応後化合物を入力するステップと、入力ステップで入力された反応後化合物から反応データベースに基づいて反応前化合物を認識する反応前化合物認識ステップと、前記反応前化合物認識ステップで入力された反応前化合物の官能基を反応データベースに基づいて認識する官能基認識ステップと、前記官能基認識ステップで認識された官能基が反応条件を作用させたときに他の官能基に変換されるか否かを反応阻害データベースに基づいて判定する反応阻害判定ステップと、前記反応阻害判定ステップで変換されると判定された官能基よりも、前記反応前化合物の他の官能基の方が前記所定の反応条件によりその他の官能基へ変換され易いか否かを競争反応データベースに基づいて判定する競争反応判定ステップと、前記競争反応判定ステップでその他の官能基へ変換され易いと判定されなかった場合に、前記所定の反応条件及び反応前化合物を反応後化合物の生成を進行させることが可能な反応条件及び反応前化合物として特定する反応性特定ステップとを実行し、上記反応データベースは、化合物に関する情報を管理する反応データベースであり、上記反応阻害データベースは、化合物の第1の官能基と、反応条件と、前記第1の官能基に反応条件を作用させたときに前記第1の官能基が変換される第2の官能基とを管理するデータベースであり、上記競争反応データベースは、化合物に複数の官能基が存在する場合において当該化合物に所定の反応条件を作用させたときにおける前記複数の官能基の他の官能基への変換され易さに関する情報を管理するデータベースである。
【0009】
第3の態様において、コンピュータを、反応後化合物の生成に必要な反応前化合物及び反応条件を推定する装置として機能させるプログラムが提供される。この反応性推定プログラムは、前記コンピュータを、反応後化合物を入力する入力手段と、入力手段で入力された反応後化合物から反応前化合物を反応データベースに基づいて認識する反応前化合物認識手段と、前記反応前化合物認識手段で入力された反応前化合物の官能基を反応データベースに基づいて認識する官能基認識手段と、前記官能基認識手段で認識された官能基が反応条件を作用させたときに他の官能基に変換されるか否かを反応阻害データベースに基づいて判定する反応阻害判定手段と、前記反応阻害判定手段で変換されると判定された官能基よりも、前記反応前化合物の他の官能基の方が前記所定の反応条件によりその他の官能基へ変換され易いか否かを競争反応データベースに基づいて判定する競争反応判定手段と、前記競争反応判定手段でその他の官能基へ変換され易いと判定されなかった場合に、前記所定の反応条件及び前駆体から反応後化合物の生成を進行させることが可能な反応条件及び反応前化合物を特定する手段として機能させ、上記反応データベースは、化合物に関する情報を管理する反応データベースであり、上記反応阻害データベースは、化合物の第1の官能基と、反応条件と、前記第1の官能基に反応条件を作用させたときに前記第1の官能基が変換される第2の官能基とを管理するデータベースであり、上記競争反応データベースは、化合物に複数の官能基が存在する場合において当該化合物に所定の反応条件を作用させたときにおける前記複数の官能基の他の官能基への変換され易さに関する情報を管理するデータベースである。
【0010】
第4の態様において、上記反応性推定プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体が提供される。
【0011】
第5の態様において、競争反応データベースが提供される。この競争反応データベースは、化合物に複数の官能基が存在する場合において当該化合物に所定の反応条件を作用させたときにおける前記複数の官能基の他の官能基への変換され易さを順位付けして記録しており、反応条件と、反応性が低い方の官能基及び高い方の官能基の番号と、反応性が高い方の官能基が前記反応条件において変化した官能基の番号と、反応条件と反応性が低い方の官能基の番号が同じで反応性が高い方の官能基が異なる次の競争反応データのID番号とで構成される。ここで、前記反応条件には、官能基を変化させることができる反応環境、加圧下、常圧下、減圧下等の反応圧力、反応温度、反応時間を含み、前記反応性とは、化合物中に官能基が単独で存在している場合に、当該化合物に反応条件を作用させたときに、当該官能基が化学反応して構造が変化する性質であり、前記官能基の番号とは、異なる官能基毎に付与した通し番号である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、反応前化合物中に複数の官能基が含まれている場合でも、効率的に反応条件及び反応前化合物を類推することができる反応性推定装置が提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態の反応性推定装置のブロック図である。
【図2】反応性推定処理のフローチャートである。
【図3】反応性推定データベース構築装置のブロック図である。
【図4】反応阻害データベース構築についてのフローチャートである。
【図5】競争反応データベース構築についてのフローチャートである。
【図6】データ取り出しの説明図である。
【図7】化合物1の構造図である。
【図8】化合物2の構造図である。
【図9】反応性推定の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態に係る反応性推定システムについて説明する。本実施の形態の反応性推定システムは、図1に示す反応性推定装置1と、図3に示す反応性推定データベース構築装置13とで構成されている。
【0015】
1.反応性推定装置の構成、動作
反応性推定装置1の構成について説明する。図1は、反応性推定装置1の構成を示す概略図である。反応性推定装置1は、目的化合物を生成するために必要な化合物及び反応条件等の反応性情報を特定する。
【0016】
図1に示すように、反応性推定装置1は、制御部2、入力部9、出力部10および記憶部11を備えている。
【0017】
入力部9は、ユーザが生成したい目的化合物を特定するための特定情報をユーザが入力するための入力装置であり、例えば、キーボード、マウスまたはタッチパネルにより構成される。
【0018】
出力部10は、反応性推定装置1が推定した反応性情報を出力するための出力装置であり、例えば、液晶ディスプレイなどの表示装置またはプリンタにより構成される。
【0019】
記憶部11は、反応データべース11aと、反応阻害データベース11bと、競争反応データベース11cとを記憶している。反応データべース11aは、反応式を所定の形式で記憶する。反応阻害データベース11bは、反応条件に対する各官能基の反応性の有無を示したデータ(反応阻害データと呼ぶ)を集めたデータベースであり、競争反応データベース11cは1つの反応条件に対する2つ官能基の反応性の差異データ(競争反応データと呼ぶ)である。
【0020】
本発明において、反応性とは、対象となる官能基が化合物中に唯一存在し(すなわち、当該化合物中に他の種類の官能基が存在しておらず)、当該化合物を反応条件に反応させた場合に、対象となる官能基が化学反応して構造が変化する場合、対象となる官能基は、当該反応条件に対して反応性があるという。
【0021】
制御部2は、反応性推定装置1を制御するものであり、取得部3、官能基認識部4、反応部位認識部5、反応阻害データ比較部6、競争反応データ比較部7、及び反応性特定部8を備えている。
【0022】
次に、反応データベースについて詳しく説明する。
【0023】
【表1】

【0024】
X1,X2は、それぞれ反応前化合物のID番号である。反応前化合物が1つだけのときは、X1のみ番号が与えられ、X2はゼロが入力される。
【0025】
X3は、反応条件のID番号であり、反応試薬、反応触媒、反応温度、反応圧力、反応時間およびその組合せに応じて固有の番号が与えられる。具体的にはX3で示される反応条件には、例えば、酸化剤、還元剤、グリニャール試薬、酸、塩基などの反応試薬、遷移金属触媒などの反応触媒、紫外線、不活性ガス雰囲気下などの官能基を変化させることができる反応環境、加圧下、常圧下、減圧下等の反応圧力、反応温度、反応時間などを挙げることができる。
【0026】
X4,X5は、それぞれ反応後化合物のID番号である。反応後化合物が1つだけのときは、X4のみ番号が与えられ、X5はゼロが入力される。なお、上記反応データベースの構造は本実施形態における一例であり、種々の構成がとりうる。
【0027】
次に、反応阻害データベース11b、及び競争反応データベース11cについて詳しく説明する。反応阻害データベース11bは、反応条件に対する各官能基の反応性の有無を示したデータ(反応阻害データと呼ぶ)を集めたデータベースである。競争反応データベース11cは1つの反応条件に対する2つの官能基の反応性の差異のデータ(競争反応データと呼ぶ)である。
【0028】
表2は、反応阻害データ及び競争反応データの内容を示す。
【0029】
【表2】

【0030】
D1は、反応阻害データのID番号であり、D2とD3の組合せ毎に付与する。
【0031】
D2は、反応条件のID番号であり、反応試薬、反応触媒、反応温度、反応圧力、反応時間およびその組合せに応じて固有の番号が与えられる。具体的にはD2で示される反応条件には、例えば、酸化剤、還元剤、グリニャール試薬、酸、塩基などの反応試薬、遷移金属触媒などの反応触媒、紫外線、不活性ガス雰囲気下などの官能基を変化させることができる反応環境、加圧下、常圧下、減圧下等の反応圧力、反応温度、反応時間などを挙げることができる。
【0032】
D3は、分子内に含まれる部分構造、具体的には官能基の番号である。官能基は、例えば、炭素・炭素不飽和結合、例えば、ヘテロ原子を含む1〜10原子程度からなる原子団等を挙げることができる。D3は、例えば、異性体などの同じ構成原子でも結合の状態が異なる場合は他の番号が付与される。具体的には、ニトリル基(−CN)とイソニトリル基(−NC)、カルボニルオキシ基(-C(=O)−O−)とオキシカルボニル基(−O−C(=O)−)等の結合順序が異なる異性体、ニトロ基、2重結合、3重結合、有機金属、ハライド、ジエン、ジエノファイル等の立体異性体等を挙げることができる。
【0033】
D4は、D3で示される官能基がD2で示される反応条件によって影響を受ける場合は、受けた後の官能基の番号であり、D3で示される官能基がD2で示される反応条件によって影響を受けない場合は0である。つまり、D4が0であることは、D3で示される官能基がD2で示される反応条件に対して不活性であることを示す。その場合は同時に、次に説明するD5が0となる。
【0034】
D5は、D2とD3を含む1番目の競争反応データの番号であり、反応阻害データと競争反応データを関連付ける。具体的には、競争反応データの中に、D2と同じ反応条件番号(D8)およびD3と同じ官能基番号(D9)を有する1つのD7が存在しており(D2は同じ反応条件であればD3よりも反応しやすいとの情報が存在していることを意味する)、このD7をキーとして関連付ける。
例えば、反応阻害データと競争反応データとは、D2とD8(反応条件)が同じで、D3とD9(官能基、反応性が低い官能基)が同じデータと関連付けられる。任意の官能基が反応条件D2(あるいはD8)に対して、官能基D3(あるいはD9)より反応性の高い官能基(D10)が複数ある場合、反応阻害データからは1つの競争反応データにのみ関連付け、残りの複数の反応性の高い官能基(D10)についてのデータは競争反応データ中のD13で関連付けを行う。この関連付けを辿って、反応部位以外で反応条件で影響を受けそうな官能基が反応部位の官能基より反応性が低い競争反応データが存在するかを検索し、かかる官能基が存在する場合、当該官能基は反応しないと判定する。
【0035】
D6は、反応阻害データが得られた反応式が記載されている文献のID番号である。この文献データがなくても、反応性推定に影響はない。
【0036】
D7は競争反応データのID番号であり、次に説明するD8とD9、D10の組合せで決まる。そして何れのD7もD5あるいはD12によって関連付けられている。
【0037】
D8は反応条件ID番号であり、D8で示される反応条件には、D2の場合同様の反応条件が例示される。
【0038】
D9とD10は、何れも官能基の番号であり、D8で示される反応条件によって反応が進行しにくい官能基をD9とし、D8で示される反応条件によって反応が進行しやすい官能基をD10としている。
ただしD9、D10で示される官能基はそれぞれ別々な化合物に存在している場合、D8で示される反応条件によっていずれも構造が変換される官能基である。
【0039】
D11は、D8で示される反応条件によってD10で示される官能基が変化した後の官能基の番号である。
【0040】
D12は、D8とD9が同じでD10が異なる他の競争反応データのID番号(D7)である。0の場合は、他の競争反応データが存在しないことを示す。
【0041】
D13は、競争反応データが得られた反応式が記載されている文献の番号である。この文献データがなくても、反応性推定に影響はない。
【0042】
次に、上記反応阻害データベース11b及び競争反応データベース11cを利用して制御を行う制御部2の動作について図1を参照して説明する。
【0043】
取得部3は、入力部9を介して、上述した反応データベースの反応式、反応条件および文献名をそれぞれ特定する特定情報を取得し、取得した特定情報を官能基認識部4へ出力する。
【0044】
官能基認識部4は、取得部3が取得した特定情報が示す反応式の反応前化合物および反応後化合物に含まれる官能基を全て認識する。
【0045】
反応部位認識部5は、官能基認識部4が認識した反応前化合物の官能基と反応後化合物の官能基とを比較することにより、反応により変化した官能基(反応部位)を認識する。
【0046】
反応阻害データ比較部6は、官能基認識部4が認識した官能基から反応部位認識部5が認識した反応部位(官能基)を除いた官能基と、取得部3で取得した反応条件とに基づいて、反応阻害データベース11bを参照して、反応部位以外の官能基の反応性を決定する。
【0047】
競争反応データ比較部7は、反応阻害データ比較部6で反応条件の影響を受けると決定された官能基について、反応部位認識部5で認識された反応部位(官能基)との反応性を、競争反応データベースを参照して比較する。
【0048】
反応性特定部8は、反応阻害データ比較部6で決定された反応条件の影響を受ける反応部位以外の官能基であって、競争反応データ比較部7で反応部位の反応性より低くないと決定された官能基が存在する場合、入力した反応は期待どおりには進行しないと決定する。一方、反応阻害データ比較部6において反応部位以外の官能基が反応条件の影響を全く受けないと決定した場合や、反応条件の影響を受ける官能基が、反応部位以外に見つかっても、競争反応データ比較部7において反応部位の官能基より何れの反応部位以外の官能基も反応性が低いと決定された場合は、入力した反応は期待どおりに進行すると決定する。
【0049】
図2は、反応性推定装置1による反応性推定処理を示すフローチャートである。この処理では、前記制御部14が反応阻害データと競争反応データを用いて反応式の反応条件が適切であるか、反応部位以外の官能基が反応条件によって変化しないかを推定する。まず、ユーザが目的化合物を入力すると、反応性推定装置1は、上記フローチャートによる処理を実行する前に、反応後化合物から反応前化合物を反応データベースから検索する。そして、その反応前化合物の官能基を予め認識する。
【0050】
そして、処理S1では、官能基認識部3は、反応式中の反応前化合物の官能基を認識する。また、反応部位認識部5は、反応部位(反応可能部位)を認識し、処理S2へ進む。
【0051】
処理S2では、反応前化合物の反応部位以外の反応性の評価が行われていない官能基を1つ取り出し、処理S3へ進む。
【0052】
処理S3では、反応阻害データ比較部6は、選択した官能基が所定の反応条件の影響を受けるか否かを反応阻害データを用いて評価する。変化する場合は処理S4へ進む。それ以外の場合は処理S5へ進む。
【0053】
処理S4では、競争反応データ比較部7は、競争反応データの中から、D10が反応前化合物の反応部位の官能基の番号と一致するデータ、あるいはD11が反応後化合物側の反応部位の官能基の番号と一致するデータを探す。この場合、D12が0のデータに到達するまで、関連付けられている競争反応データ内を探す。該当する競争反応データが見つかった場合は処理S5へ進む。見つからなかった場合は処理S7へ進む。
【0054】
処理S5では、競争反応データ比較部7は、反応前化合物の全ての反応部位以外の官能基について反応条件の影響を確認した場合、処理S6へ進み、それ以外はS2へ進む。
【0055】
処理S6では、反応性特定部8は、反応前化合物の反応部位以外の全ての官能基が反応条件の影響を受けず、あるいは反応部位より反応性が低いため、期待する反応は進行すると推定する。
【0056】
処理S7では、反応性特定部8は、反応部位以外の官能基が反応条件の影響を受けるため、期待する反応は進行しない、あるいは副生成物を生じると推定する。
【0057】
2.反応性推定データベース構築装置の構成、動作
次に、反応性推定データベース構築装置13の構成について説明する。図3は、反応性推定データベース構築装置13の構成を示す概略図である。反応性推定データベース構築装置13は、上記反応阻害データベースと競争反応データベースを構築する。
【0058】
反応性推定データベース構築装置13は、制御部14、入力部20、出力部21および記憶部22を備えている。
【0059】
入力部20は、反応データベースの反応式、反応条件および文献名等の特定情報をユーザが入力するための入力装置であり、例えば、キーボード、マウスまたはタッチパネルにより構成される。
【0060】
出力部21は、反応性推定データベース構築装置13が構築した反応阻害データベース11b、競争反応データベース11cの情報を出力するための出力装置であり、例えば、液晶ディスプレイなどの表示装置またはプリンタにより構成される。
【0061】
記憶部22は、反応データベース11aと、反応阻害データベース11bと、競争反応データベース11cとを記憶している。反応データベース11aは、反応式を所定の形式で記憶し、反応式及び反応条件のデータ23を含んでいる。データ23としては、例えば、図6のようなデータが挙げられ、かかるデータが図3の反応データベース11aに格納されている
反応阻害データベース11b及び競争反応データベース11cは、反応性推定装置1の反応阻害データベース11b及び競争反応データベース11cと同様の構造を有している。
【0062】
制御部14は、反応性推定データベース構築装置13を制御する装置であり、取得部15、官能基認識部16、反応部位認識部17、反応阻害データ取得部18、及び競争反応データ取得部19を備えている。
【0063】
取得部15は、入力部20を介して上記特定情報を取得し、取得した特定情報を官能基認識部16へ出力する。
【0064】
官能基認識部16は、取得部15が取得した反応データベースに登録されている反応式、反応条件、引用文献に記載の情報を参照し、反応式に記載されている反応前化合物および反応後化合物の構造に包含されている官能基を全て認識する。
【0065】
反応部位認識部17は、官能基認識部16が認識した反応前化合物の官能基と反応後化合物の官能基とを比較することにより、反応により変化した官能基(反応部位)を認識する。
【0066】
反応阻害データ取得部18は、反応部位認識部17で決定された反応部位の官能基の変化および反応条件、反応を記載した文献の文献番号を取得し、反応阻害データベースに登録する。
【0067】
競争反応データ取得部19は、反応部位認識部17で決定された反応部位の官能基ではなく、反応部位以外の官能基について、反応条件では影響を受けない官能基あるいは反応部位よりも反応性が低い官能基の情報を、反応を記載した文献の文献番号と共に取得し、反応阻害データベース11bおよび競争反応データベース11cに登録する。
【0068】
次に、反応阻害データと競争反応データを反応データベースから取り出す方法について説明する。反応データベースとしては市販のデータベースを用いることが出来る。市販の反応データベースとしては例えばSymyx社が販売しているMDL Isentrisの反応データベースや、アメリカ化学会が提供しているSciFinder等が知られている。何れのデータベースにも各反応の反応式と反応条件、出展の文献は少なくとも記載されており、また、定期的にデータは更新されデータ内容が増えている。これらのデータから反応阻害データおよび競争反応データを取り出すことは、定期的に最新の反応データをデータ化できる利点がある。
【0069】
反応データベース中に登録されている反応式から、反応阻害データと競争反応データを取り出すためには、反応式の中の反応前化合物と反応後化合物の官能基を認識し、反応部位の反応前化合物と反応後化合物の変化を認識する。反応部位の官能基の変化と反応条件から反応阻害データを作成する。その後、反応部位と反応部位以外の官能基から反応不活性な反応阻害データ(D4=0)と競争反応データを取り出す。それぞれの流れ図を図4、図5に示す。
【0070】
図4は、反応阻害データベース構築のフローチャートである。この一連の処理では、反応データベースに登録されている反応式を入力とする。
【0071】
処理S8では、反応データベース11aの反応式を1つ取り出し処理S9へ進む。
【0072】
処理S9では、官能基認識部16は、反応式に記載されている反応前化合物および反応後化合物の中の官能基を認識し、処理S10へ進む。
【0073】
処理S10では、反応部位認識部17は、官能基の変化から反応部位を認識し、反応部位と反応条件とで反応式から反応阻害データを取り出し、処理S11へ進む。
【0074】
処理S11では、反応阻害データ比較部18は、反応式から取り出した反応阻害データが反応阻害データベース11bに登録されているかを調べる。登録されている場合は処理S8へ進み、未登録の場合は処理S12へ進む。
【0075】
処理S12では、反応阻害データ比較部18は、反応式から取り出した反応阻害データを反応阻害データベースに登録し、処理S13へ進む。
【0076】
処理S13では、反応阻害データ比較部18は、反応データベース11aに登録されている全ての反応式からデータの取り出しを行ったかを確認する。確認していない場合、処理S8へ進み、確認済みの場合終了する。
【0077】
図5は、競争反応データベース構築のフローチャートである。
【0078】
処理S14では、取得部15は、反応データベースに登録されている反応式から1つの反応式を取り出し、処理S15へ進む。
【0079】
処理S15では、官能基認識部16は、反応式に記載されている反応前化合物および反応後化合物の中の官能基を認識し、処理S16へ進む。
【0080】
処理S16では、競争反応データ取得部19は、反応部位以外の官能基は反応前化合物と反応後化合物で構造は変化していない反応部位以外の官能基から未反応の反応阻害データ(D3=0)を取り出し、処理S17へ進む。
【0081】
処理S17では、競争反応データ取得部19は、反応式から取り出された無反応の反応阻害データが、反応性を有する反応阻害データとして既に登録されているかを判定し、登録されている場合、処理S19へ進む。登録されていない場合は処理S18へ進む。
【0082】
処理S18では、競争反応データ取得部19は、反応式から取り出された無反応の反応阻害データとして反応阻害データベース11cに登録して処理20へ進む。
【0083】
処理S19では、競争反応データ取得部19は、取り出された反応部位以外の官能基の方が、現在の反応条件では反応部位よりも反応性が低いため、競争反応データとして競争反応データベース11bに登録し処理S20へ進む。
【0084】
処理S20では、競争反応データ取得部19は、反応データベースに記載されている全反応(スキーム)式についてデータの取り出しを行った場合は終了する。そうでない場合は処理S14へ進む。
【0085】
3.データベース構築の具体例
次に、反応阻害データベース11b及び競争反応データベース11cの構築についてさらに具体的に説明する。図6は、3つの反応式R1, R2, R3から反応阻害データと競争反応データを認識し、取り出す流れの説明図である。
【0086】
先ず、反応データベース11aに登録されている反応式R1, R2, R3から、反応前化合物と反応後化合物の間での反応部位の変化に基づいて、反応阻害データを取り出す。例えば、R1では反応条件がサマリウムハライド(SmX2)でアジドがアミンに変化している。そこで、アジドがアミンに還元されるというデータ(ID=1)を取り出し、ID=1で登録する (処理S21)。R2では反応条件SmX2でR1と同じくアジドがアミンに変化している。しかし、反応条件SmX2でアジドがアミンに変化するのは、R1の際に登録したデータ(ID=1)とで同じであるため、新たにデータとしては追加しない(処理S22)。R3では反応条件SmX2でケトンが2級アルコールに変化している。そこで、反応条件SmX2でケトンが2級アルコールに変化するというデータを取り出し、ID=2で登録する(処理S23)。このような処理を、反応データベース中の全反応式に対して同様に実行し、反応阻害データを取り出す(1回目のデータファイル読込み)。
【0087】
次に、反応データベース11aの最初から、反応部位以外の官能基に注目し、反応条件では変化しない不活性な反応阻害データ(D4が0の反応阻害データ)あるいは競争反応データを取り出す。例えば、R1では反応部位以外の官能基としてケトンが存在し、このケトンは反応条件SmX2では影響を受けないことが認識される。しかし、既にケトンは反応条件SmX2によって2級アルコールに変化するという反応阻害データ(ID=2)として登録されている。このような矛盾が見つかった場合、このデータを競争反応データとして、新たに登録する。先ず、既存のケトンとSmX2の反応阻害データ(ID=2)は、D5が0の場合には新たに競争反応データとして競争反応データ番号を付与して登録する。一方、D5として既に登録されている場合は、その競争反応データのD12を確認する。D12が0の場合には、新たに競争反応データとして競争反応データ番号を付与して登録する。D12に既に登録されている場合は、D12が登録されていない競争反応データまで進めて、その競争反応データのD12に新たに競争反応データとして競争反応データ番号(ID=3)を付与して登録する(処理S25)。R2からは官能基C=CRをSmX2の影響を受けない反応阻害データ(ID=4)として登録する(処理S26)。R3からは反応部位以外の3つの官能基C=CH2, C=CR2, エステルを、SmX2に対して不活性な反応阻害データ(ID=5, 6, 7)として登録する(処理S27)。
【0088】
図6に示した、反応データベースから1回のデータファイルの読込みで、反応阻害データおよび競争反応データの両方を取り出してもよいが、2回のファイル読込みで2つのデータを取り出す方が望ましい。
【0089】
4.まとめ
以上説明したように、本実施形態の反応性推定システムは、化合物の第1の官能基に所定の反応条件を作用させたときに前記第1の官能基が変換される第2の官能基を記録した反応阻害データベース11bと、化合物に複数の官能基が存在する場合において、所定の反応条件を作用させたときにおける前記複数の官能基の他の官能基への変換され易さを記録した競争反応データベース11cとを備え、上記反応阻害データベース11bと上記競争反応データベース11cとを参照し、目的化合物の生成に必要な化合物及び反応条件を推定する。これにより、化合物の第1の官能基に所定の反応条件を作用させたときに前記第1の官能基が変換される第2の官能基を記録した反応阻害データベース11bと、化合物に複数の官能基が存在する場合において当該化合物に所定の反応条件を作用させたときにおける前記複数の官能基の他の官能基への変換され易さを記録した競争反応データベース11cとを参照し、目的化合物の生成に必要な化合物及び反応条件を推定することができる。特に、前記複数の官能基の他の官能基への変換され易さを記録した競争反応データベースを備えているので、変換され易さを考慮した類推結果が提案されることから、無駄な実験を排除し、試行錯誤の回数を減らすことができる。したがって、反応条件の影響を受ける複数の官能基が化合物の構造中に含まれている場合においても、効率的に目的の化合物(反応後化合物)の製造方法を提案することができる。
【0090】
また、本実施形態の反応性推定システムの反応性推定データベース構築装置13は、反応式で示される反応前化合物及び反応後化合物中の官能基を認識し、反応前化合物と反応後化合物の官能基を比較し、変化した官能基が存在する場合は、変化前の官能基と変化後の官能基と反応条件とを反応阻害データとして登録する。これにより、反応阻害データの登録を、人手で行う場合よりも効率的かつ正確に行うことができる。
【0091】
また、本実施形態の反応性推定システムの反応性推定データベース構築装置13は、登録しようとする反応阻害データが、反応阻害データベース11bに既に登録されているか否かを判定し、登録しようとする反応阻害データが既に登録されていると判定されたときは、当該データを登録しない。これにより、同じ反応阻害データが重複して登録されるのが防止される。したがって、記憶部22の容量の圧迫や推定速度の低下が防止される。
【0092】
また、本実施形態の反応性推定システムの反応性推定データベース構築装置13は、反応式で示される反応前化合物及び反応後化合物中の官能基を認識し、反応前化合物と反応後化合物の官能基を比較し、変化していない官能基が存在する場合は、当該官能基と反応条件とを競争反応データとして登録する。登録しようとする競争反応データが、前記反応阻害データベースに既に登録されている反応阻害データのうち変化前の官能基及び反応条件と一致するものを検索する。検索の結果、一致する官能基及び反応条件が見つかった場合は、この一致したものについての反応阻害データの変化前の官能基の方が、前記競争反応データの官能基よりも前記反応条件における活性が高いものであることを示す情報を、前記官能基及び反応条件の情報に加えて、競争反応データとして登録する。これにより、競争反応データの登録を自動的に行うことができる。
【0093】
5.その他
上述した反応性推定装置1および反応性推定データベース構築装置13の各ブロック、特に制御部2および制御部14の機能は、ハードウェアロジックによって構成してもよいし、次のようにCPUにより実行されるソフトウェアによって実現してもよい。
【0094】
すなわち、反応性推定装置1および反応性推定データベース構築装置13は、各機能を実現する制御プログラムの命令を実行するCPU(central processing unit)、上記プログラムを格納したROM(read only memory)、上記プログラムを展開するRAM(random access memory)、上記プログラムおよび各種データを格納するメモリ等の記憶装置(記憶媒体)などを備えている。なお、本発明の目的は、上述した機能を実現するソフトウェアである反応性推定装置1の制御プログラム(反応性推定プログラム)および反応性推定データベース構築装置13(反応性推定データベース構築プログラム)のプログラムコード(実行形式プログラム、中間コードプログラム、ソースプログラム)をコンピュータで読み取り可能に記録した記録媒体を、上記反応性推定装置1および反応性推定データベース構築装置13に提供し、それらのコンピュータ(またはCPUやMPU)が記録媒体に記録されているプログラムコードを読み出して実行することによっても、達成可能である。
【0095】
上記記録媒体としては、例えば、磁気テープやカセットテープ等のテープ系、フロッピー(登録商標)ディスク/ハードディスク等の磁気ディスクやCD−ROM/MO/MD/DVD/CD−R等の光ディスクを含むディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カード等のカード系、あるいはマスクROM/EPROM/EEPROM/フラッシュROM等の半導体メモリ系などを用いることができる。
【0096】
また、反応性推定装置1および反応性推定データベース構築装置13を通信ネットワークと接続可能に構成し、上記プログラムコードを通信ネットワークを介して供給してもよい。この通信ネットワークとしては、特に限定されず、例えば、インターネット、イントラネット、エキストラネット、LAN、ISDN、VAN、CATV通信網、仮想専用網(virtual private network)、電話回線網、移動体通信網、衛星通信網等が利用可能である。また、通信ネットワークを構成する伝送媒体としては、特に限定される、例えば、IEEE1394、USB、電力線搬送、ケーブルTV回線、電話線、ADSL回線等の有線でも、IrDAやリモコンのような赤外線、Bluetooth(登録商標)、802.11無線、HDR、携帯電話網、衛星回線、地上波デジタル網等の無線でも利用可能である。なお、本発明は、上記プログラムコードが電子的な伝送で具現化された、搬送波に埋め込まれたコンピュータ信号の形態でも実現され得る。
【0097】
化合物中の官能基の反応条件に対する反応性を、反応データベースから、反応阻害データおよび競争反応データとして自動的に取り出すことが出来る。こられのデータを用いることで、化合物に施したことのない反応条件を適用すると、期待する反応が進行するか、あるいは反応させたい部位以外の官能基が反応するかを評価することが出来る。新規な合成方法を検討する上で、より確度の高い合成方法を提案することが出来るようになる。
【0098】
また、有機化合物の製品およびその中間体を製造する方法を検討する際に、本反応性推定装置を用いることで、精度の高い製造方法に絞り込むことが容易になり、製法検討研究の時間短縮やコストの削減に貢献することができる。
【実施例1】
【0099】
図7に示す化合物1を、NaBH4(反応条件)を用いて、図8に示す化合物2に変換できるか否かを本実施形態の方法により評価した。
【0100】
図9は、化合物1からNaBH4を用いた化合物2に還元させる反応で、ケトン(-C(=O)-)から2級アルコール(-CH(OH)-)に変換する反応部位以外の3つの官能基、エステル(
-CO2-)、アジド(-N3)、ケタール(-C(OR)2-)の反応性を推定した流れを示す。
【0101】
図9に示すように、反応部位以外の官能基エステル、アジド、ケタールは反応条件NaBH4に対して、それぞれ反応阻害データのID=205, 312, 455に登録されている。その反応阻害データから、エステルとアジドはNaBH4によってそれぞれアルコールとアミンに変換されるが、ケタールは変化しない不活性であることがわかる。反応阻害データと関連付けられている競争反応データ(ID=15)を参照すると、エステル(FG1)はNaBH4に対してケトン(FG2)よりも反応性が低いことがわかる。また、アジドに対しても関連付けられている競争反応データID=35を参照すると、ケトンよりもアジドのNaBH4に対する反応性が低いことがわかる。以上から、化合物1にNaBH4を反応させて化合物2を導くことが可能であると推測できる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明によれば、反応前化合物中に複数の官能基が含まれている場合でも、効率的に反応条件及び反応前化合物を類推することができる反応性推定装置が提供可能である。
【符号の説明】
【0103】
1 反応性推定システム(反応性推定装置)
8 反応性特定部(反応性推定手段)
11b 反応阻害データベース
11c 競争反応データベース
16 官能基認識部(認識手段、第2認識手段)
18 反応阻害データ取得部(反応阻害データ登録手段、既登録判定手段)
19 競争反応データ取得部(競争反応データ登録手段、検索手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応後化合物の生成反応に必要な反応前化合物及び反応条件を推定する反応性推定装置であって、
化合物に関する情報を管理する反応データベースと、
化合物の第1の官能基と、反応条件と、前記第1の官能基に反応条件を作用させたときに前記第1の官能基が変換される第2の官能基とを、反応阻害データとして管理する反応阻害データベースと、
化合物に複数の官能基が存在する場合において当該化合物に所定の反応条件を作用させたときにおける前記複数の官能基の他の官能基への変換され易さを順位付けして記録した競争反応データベースと、
反応後化合物を入力する入力手段と、
前記入力手段で入力された反応後化合物から反応前化合物を前記反応データベースに基づいて認識する反応前化合物認識手段と、
前記反応前化合物認識手段で入力された反応前化合物の官能基を前記反応データベースに基づいて認識する官能基認識手段と、
前記官能基認識手段で認識された官能基が反応条件を作用させたときに他の官能基に変換されるか否かを前記反応阻害データベースに基づいて判定する反応阻害判定手段と、
前記反応阻害判定手段で変換されると判定された官能基よりも、前記反応前化合物の他の官能基の方が前記所定の反応条件によりその他の官能基へ変換され易いか否かを前記競争反応データベースに基づいて判定する競争反応判定手段と、
前記競争反応判定手段でその他の官能基へ変換され易いと判定されなかった場合に、前記所定の反応条件及び反応前化合物から反応後化合物の生成を進行させることが可能な反応条件及び反応前化合物を特定する反応性特定手段と、
を有する反応性推定装置。
【請求項2】
請求項1記載の反応性推定装置であって、
反応式で示される反応前化合物及び反応後化合物中の官能基を認識する第2官能基認識手段と、
反応前化合物と反応後化合物の官能基を比較し、変化した官能基が存在する場合は、変化前の官能基と変化後の官能基と反応条件とを反応阻害データベースに登録する反応阻害データ登録手段と、
をさらに有する反応性推定装置。
【請求項3】
請求項2記載の反応性推定装置であって、
登録しようとする反応阻害データが、反応阻害データベースに既に登録されているか否かを判定する既登録判定手段と、
前記反応阻害データ登録手段は、登録しようとする反応阻害データが既に登録されていると判定されたときは、当該反応阻害データを登録しない、
反応性推定装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項記載の反応性推定装置であって、
反応式で示される反応前化合物及び反応後化合物中の官能基を認識する第3官能基認識手段と、
反応前化合物及び反応後化合物の官能基を比較し、変化していない官能基が存在する場合は、当該官能基及び反応条件を競争反応データとして登録する競争反応データ登録手段と、
登録しようとする競争反応データが、前記反応阻害データベースに既に登録されている反応阻害データのうち変化前の官能基及び反応条件と一致するものを検索する検索手段とをさらに有し、
前記競争反応データ登録手段は、前記検索手段で一致する官能基及び反応条件が見つかった場合は、この一致したものについての反応阻害データの変化前の官能基の方が、前記競争反応データの官能基よりも前記反応条件における反応性が高いものであることを示す情報を、前記官能基及び反応条件の情報に加えて、競争反応データとして登録する、
反応性推定装置。
【請求項5】
コンピュータを用いて、反応後化合物の生成に必要な化合物及び反応条件を推定する方法であって、
反応後化合物を入力するステップと、
入力ステップで入力された反応後化合物から反応前化合物を反応データベースに基づいて認識する反応前化合物認識ステップと、
前記反応前化合物認識ステップで入力された反応前化合物の官能基を反応データベースに基づいて認識する官能基認識ステップと、
前記官能基認識ステップで認識された官能基が反応条件を作用させたときに他の官能基に変換されるか否かを反応阻害データベースに基づいて判定する反応阻害判定ステップと、
前記反応阻害判定ステップで変換されると判定された官能基よりも、前記反応前化合物の他の官能基の方が前記所定の反応条件によりその他の官能基へ変換され易いか否かを競争反応データベースに基づいて判定する競争反応判定ステップと、
前記競争反応判定ステップでその他の官能基へ変換され易いと判定されなかった場合に、前記所定の反応条件及び反応前化合物から反応後化合物の生成を進行させることが可能な反応条件及び反応前化合物を特定する反応性特定ステップとを実行し、
上記反応データベースは、化合物に関する情報を管理する反応データベースであり、
上記反応阻害データベースは、化合物の第1の官能基と、反応条件と、前記第1の官能基に反応条件を作用させたときに前記第1の官能基が変換される第2の官能基とを管理するデータベースであり、
上記競争反応データベースは、化合物に複数の官能基が存在する場合において当該化合物に所定の反応条件を作用させたときにおける前記複数の官能基の他の官能基への変換され易さに関する情報を管理するデータベースである、
反応性推定方法。
【請求項6】
請求項5記載の反応性推定方法であって、
反応式で示される反応前化合物及び反応後化合物中の官能基を認識するステップと、
反応前化合物と反応後化合物の官能基を比較し、変化した官能基が存在する場合は、変化前の官能基と変化後の官能基と反応条件とを反応阻害データベースに登録するステップと、
を有する反応性推定方法。
【請求項7】
請求項6記載の反応性推定方法であって、
登録しようとする反応阻害データが、反応阻害データベースに既に登録されているか否かを判定するステップをさらに備え、
前記反応阻害データを登録するステップでは、登録しようとする反応阻害データが既に登録されていると判定されたときは、当該反応阻害データを登録しない、
反応性推定方法。
【請求項8】
請求項5から請求項7のいずれか1項記載の反応性推定方法であって、
反応式で示される反応前化合物及び反応後化合物中の官能基を認識するステップと、
反応前化合物と反応後化合物の官能基を比較し、変化していない官能基が存在する場合は、当該官能基と反応条件とを競争反応データとして登録する競争反応データ登録ステップと、
登録しようとする競争反応データが、前記反応阻害データベースに既に登録されている反応阻害データのうち変化前の官能基及び反応条件と一致するものを検索する検索ステップとを有し、
前記競争反応データ登録ステップでは、前記検索ステップで一致する官能基及び反応条件が見つかった場合は、この一致したものについての反応阻害データの変化前の官能基の方が、前記競争反応データの官能基よりも前記反応条件における反応性が高いものであることを示す情報を、前記官能基及び反応条件の情報に加えて、競争反応データとして登録する、
反応性推定方法。
【請求項9】
コンピュータを、反応後化合物の生成に必要な反応前化合物及び反応条件を推定する装置として機能させるプログラムであって、
前記コンピュータを、
反応後化合物を入力する入力手段と、
入力手段で入力された反応後化合物から反応前化合物を反応データベースに基づいて認識する反応前化合物認識手段と、
前記反応前化合物認識手段で入力された反応前化合物の官能基を反応データベースに基づいて認識する官能基認識手段と、
前記官能基認識手段で認識された官能基が反応条件を作用させたときに他の官能基に変換されるか否かを反応阻害データベースに基づいて判定する反応阻害判定手段と、
前記反応阻害判定手段で変換されると判定された官能基よりも、前記反応前化合物の他の官能基の方が前記所定の反応条件によりその他の官能基へ変換され易いか否かを競争反応データベースに基づいて判定する競争反応判定手段と、
前記競争反応判定手段でその他の官能基へ変換され易いと判定されなかった場合に、前記所定の反応条件及び前駆体から反応後化合物の生成を進行させることが可能な反応条件及び反応前化合物を特定する手段として機能させ、
上記反応データベースは、化合物に関する情報を管理する反応データベースであり、
上記反応阻害データベースは、化合物の第1の官能基と、反応条件と、前記第1の官能基に反応条件を作用させたときに前記第1の官能基が変換される第2の官能基とを管理するデータベースであり、
上記競争反応データベースは、化合物に複数の官能基が存在する場合において当該化合物に所定の反応条件を作用させたときにおける前記複数の官能基の他の官能基への変換され易さに関する情報を管理するデータベースである
反応性推定プログラム。
【請求項10】
請求項9記載の反応性推定プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項11】
化合物に複数の官能基が存在する場合において当該化合物に所定の反応条件を作用させたときにおける前記複数の官能基の他の官能基への変換され易さを順位付けして記録しており、
反応条件と、反応性が低い方の官能基及び高い方の官能基の番号と、反応性が高い方の官能基が前記反応条件において変化した官能基の番号と、反応条件と反応性が低い方の官能基の番号が同じで反応性が高い方の官能基が異なる次の競争反応データのID番号とで構成される競争反応データベース。
ここで、前記反応条件には、官能基を変化させることができる反応環境、加圧下、常圧下、減圧下等の反応圧力、反応温度、反応時間を含み、
前記反応性とは、化合物中に官能基が単独で存在している場合に、当該化合物に反応条件を作用させたときに、当該官能基が化学反応して構造が変化する性質であり、
前記官能基の番号とは、異なる官能基毎に付与した通し番号である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−175454(P2011−175454A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38951(P2010−38951)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】