説明

化合物半導体用保護膜の形成方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は化合物半導体の保護膜の形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】化合物半導体をデバイスに応用する際、その保護膜の形成方法によってデバイス特性が大きく左右される保護膜としては例えば硫化亜鉛、もしくは陽極酸化膜が従来から多く用いられてきた。しかし、これらの保護膜は界面準位密度は低いが高い固定電荷を有するために、界面がフラットバンド状態とはならずトンネル電流が生じ、ダイオード特性が良くない。
【0003】一方、最近にNemirovskyらによる保護膜形成方法において陽極硫化膜が提唱されている(A・P・L、44(4)、15 Feb.1984)。この陽極硫化膜は固定電荷密度も、界面準位密度も低いことから化合物半導体の保護膜として有望視されている。
【0004】陽極硫化膜の形成は図1に例示する電解装置により行なわれる。同図における電解液1は、硫黄源として例えばNa2S1モルを溶解させて形成したもので、この電解液1中には板状炭素の陰極と、保護膜形成予定の半導体として化合物半導体の陽極とを対向させて浸漬し、両極間に通電を施すように構成されている。上記構成の装置における両極間に電流密度200μA/cm2の通電を1時間施して形成する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上記従来の陽極硫化方法で形成された保護膜は半導体との密着力が低く、後に施される水洗やホトリソグラフィ(PEP)等の工程で保護膜の剥れを生じやすいという重大な問題があった。
【0006】本発明は上記問題点に鑑み、剥れに強い高品質の保護膜の形成方法を提供する。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明に係る化合物半導体用保護膜の形成方法は、溶媒の多価アルコール中にイオン源の硫化ナトリウムおよび沃化カドミウムを含みpHが6〜8に調整された電解液を用い、該電解液中に白金の陰極と保護膜形成予定の半導体の陽極を対向させて浸漬するとともに該電解液を60〜80℃に加熱、攪はんを施し、陽極電流密度を50〜150[μA/cm2]にて前記半導体に陽極硫化を施し保護膜を形成することである。
【0008】
【作 用】上記従来の陽極酸化方法による保護膜に形成後の工程で剥離を生じやすいのは、保護膜の溶解と形成が同時に進行するために、形成される保護膜が多孔質になることにあることを確めた。そこで、本発明は保護膜の溶解を少なくするために、CdI2を添加し、かつpHを6〜8に調整する。また、保護膜形成条件を最適に選択することにより保護膜の剥離を防止できる。さらに、CdI2は吸湿性がないため、陽極硫化膜中に取り込まれても陽極硫化膜の信頼性が劣化することがない。
【0009】
【実施例】(実施例1)本発明の実施例に係る保護膜の形成に用いられる装置を図1に断面図で示す。同図における電解液1はNa2S 0.4g、CdI2 6mgを溶解した溶媒のエチレングリコール100ccでなり、そのpHは8.0である。また、上記電解液1中には板状白金の陰極と、保護膜形成予定の半導体としてPbSnTeの陽極とを対向させて浸漬し、両極間に通電を施すように構成されている。
【0010】上記構成の装置における両極間に電流密度150μA/cm2の通電を1時間、液温度を70℃にて施した。陽極電流密度は50〜150[μA/cm2]にする事が望ましい。その理由は、50未満では膜形成がほとんど行われない。
【0011】また、150を越えると、膜の密着力が低下してはがれを生じ易くなるためである。
【0012】さらに、電解液の温度は60〜80℃であることが好ましい。その理由は、60℃未満では流れる電流の変動率が大きい。また、80℃を越えると、形成される膜のはがれが生じ易い。
【0013】この保護膜は、具体的には以下の様な素子の保護膜として使用される。
【0014】以下図2にホトダイオードの構成図を示す。
【0015】一導電型の化合物半導体4に選択的に第二の導電型領域5を形成したのち、選択的に第一の保護膜としての陽極硫化膜6を形成し第二の保護膜として、例えば硫化亜鉛膜7を蒸発法等で形成し次に配線電極8金属を選択的に形成してなるようなホトダイオードの第一の保護膜として使用される。
【0016】(実施例2)本発明の実施例に係る保護膜の形成に用いられる装置を図1に断面図で示す。同図における電解液1はNa2S 0.4g、CdI2 6mgを溶解した溶媒のエチレングリコール100ccでなり、そのpH7.0である。また、上記電解液1中には板状白金の陰極と、保護膜形成予定の半導体としてGaAsの陽極とを対向させて浸漬し、両極間に通電を施すように構成されている。
【0017】上記構成の装置における電極間に電流密度150μA/cm2の通電を1時間、液温度を70℃にて施した。
【0018】
【発明の効果】叙上の如く本発明によれば、保護膜としての陽極硫化の密着力が向上し、後に施されるレジストパターニング工程、水洗洗浄工程等での保護膜の剥れが皆無となる顕著な効果が認められた。また、保護膜の形成条件の最適範囲が存在することが明らかとなっている。これは、例えば電解液の撹拌がないと膜の剥離が生じ易く、温度が60℃未満、80℃を超えると膜の剥離が生じた。また、CdI2の量を変えてpHを調整した場合、6以下8以上では保護膜に「むら」を生じ形成されなかった。
【0019】本発明の化合物半導体としてPbSnTe、GaAsを用いた例を示したが、他の半導体にも同様な効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】陽極硫化方法に用いられる陽極硫化装置の概略の構造を示す断面図。
【図2】ホトダイオードの構成を示す断面図。
【符号の説明】
1 溶媒
2 陽極
3 陰極
4 化合物半導体
5 第2導電型領域
6 陽極硫化膜
7 硫化亜鉛膜
8 配線電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】 溶媒の多価アルコール中にイオン源の硫化ナトリウムおよび沃化カドミウムを含みpHが6〜8に調整された電解液を用い、該電解液中に白金の陰極と保護膜形成予定の半導体の陽極を対向させて浸漬するとともに該電解液を60〜80℃に加熱、攪拌を施し、陽極電流密度を50〜150[μA/cm2]にて前記半導体に陽極硫化を施し保護膜を形成する化合物半導体用保護膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【特許番号】特許第3020678号(P3020678)
【登録日】平成12年1月14日(2000.1.14)
【発行日】平成12年3月15日(2000.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−248168
【出願日】平成3年9月27日(1991.9.27)
【公開番号】特開平5−90248
【公開日】平成5年4月9日(1993.4.9)
【審査請求日】平成10年8月10日(1998.8.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【参考文献】
【文献】特開 昭60−160622(JP,A)
【文献】特開 平2−249234(JP,A)
【文献】特開 昭62−224983(JP,A)