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化合物同定用の代謝法
説明

化合物同定用の代謝法

【課題】フレーバーおよび香料の分野で有用な化合物を同定する方法の提供。
【解決手段】化合物を、鼻、口または気道中で発現される代謝酵素、デヒドロゲナーゼ、シトクロムP450酵素、エポキシドヒドロラーゼ、エステラーゼ、フラビン含有モノオキシゲナーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ、グルタチオンシンターゼ、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、オキシダーゼ、レダクターゼ、ロダネーゼ、スルファターゼ、スルホトランスフェラーゼ、UDP−グルクロノシルトランスフェラーゼ、カルボキシルエステラーゼからなる群から選択される少なくとも1種の代謝酵素、またはこれらの混合物と反応させ、その後に、該化合物またはその代謝産物を、フレーバーもしくは香料として、それらの前駆体として、またはそれらの知覚もしくはそれらの対応する手掛かりの知覚のモジュレーターとして、同定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレーバーおよび香料の分野で有用な化合物を同定する方法、およびこれら化合物の対応する手掛かり構造(lead structure)に関する。この方法は、代謝酵素との反応を含む。本発明はまた、代謝酵素の同定および、前記方法における代謝酵素の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
フレーバーおよび香料の分野で有用な化合物とは、フレーバー化合物および香料化合物それ自体であってよく、また香料およびフレーバーの知覚のモジュレーターであってもよい。かかるモジュレーターは、嗅覚および味覚のエンハンサーおよびマスキング剤、ならびに、気道、特に口腔および/または鼻腔で生じる、前記化合物が関与する代謝反応の、調節剤またはモジュレーターを含む。
フレーバーおよび香料化合物は口腔および鼻腔に到達し、ここでこれらが嗅覚および/または味覚受容体に結合することにより、フレーバーおよび香料化合物の知覚を生じさせることができる。受容体への結合により、この受容体が活性化されて情報伝達カスケードを開始させれば、これは成功裏に伝達されるとフレーバーまたは香料信号の知覚をもたらすため、受容体への結合は知覚を引き起こす。
嗅覚受容体については約1000の遺伝子がヒト染色体で同定され、約350種の異なる機能的受容体タンパク質がヒトの鼻に存在して、多くのにおいのある化合物を検出する。典型的には、臭気物質は嗅上皮に到達して嗅覚受容体に結合し、これを活性化する。
【0003】
嗅覚および味覚受容体をin vitroでの化学受容体スクリーニング法に用いて、新しいフレーバーおよび香料化合物ならびに手掛かり構造を同定することは既知であり、例えばWO9217585、WO02059349、US20020064817、WO0127158に記載されている。これらのスクリーニング法においては、化学受容体を化合物に暴露し、化合物と目的の嗅覚受容体または味覚受容体との反応に基づき、受容体リガンドを同定する。
しかし、既知のスクリーニング法では、多くの場合に適切ではないことが判明する化合物または手掛かりも同定される。
化合物は、気道、口腔および鼻腔において酵素代謝され、化学的、物理的および生物学的特性が変化した誘導体を形成する可能性が推測されている。酵素代謝はin vivoでヒト嗅上皮ではまだ示されておらず、代謝酵素をコードする少数の遺伝子だけが、ヒトの鼻腔および口腔で発現されることが報告されている(カルボキシルエステラーゼ酵素、UDPグルクロノシルトランスフェラーゼUGT2A1、およびシトクロムP450酵素CYP2A13)。
【0004】
既知のin vitro受容体スクリーンにより同定された受容体リガンドは、必ずしも香料またはフレーバーとして知覚されない。リガンドが、ヒトの鼻において実際に香料またはフレーバーの知覚の引き金となるかどうかは、代謝の発生に依存し得るリガンドの運命に依存する。代謝酵素の作用により、リガンドはどの受容体にも結合しない化合物に反応する可能性があり、この場合ヒトの感覚には全く知覚されない。さらに、異なる質の知覚の原因となる他の受容体リガンドが生成される可能性もあり、このため手掛かり構造を見出すことがさらに困難となっている。
口腔、鼻腔または気道に存在する酵素の基質であるかかる化合物の代謝は、受容体活性化の後に起こる可能性があり、または、流動性の粘膜または腔を覆う細胞において受容体が結合する前に起こる可能性もある。代謝産物は、受容体、他の酵素および/または臭気物質結合タンパク質との相互作用に有利な、化学的および/または物理的特性を有することができる。基質は、臭気化合物または非臭気化合物であってよい。後者の場合、かかる基質の1または2種の代謝産物は臭気物質であり、および/または上記の特性を有する。
【0005】
代謝は、受容体リガンドを不活性化または活性化させる。香料およびフレーバー化合物は、受容体または酵素の作動物質、拮抗物質、酵素基質、酵素阻害剤、およびアロステリック調節剤であってよい。代謝産物は、例えば受容体の結合に競合し、付加的な受容体および酵素と相互作用し、および/または受容体、酵素および嗅覚ニューロンの環状ヌクレオチド依存性(CNG)チャネルを含む情報伝達カスケードの要素の、活性および感度を調節する。代謝酵素の基質から生成される代謝産物は、受容体および酵素と相互作用できるような特性を有することができ、これら代謝産物は実際、フレーバーおよび香料成分の知覚された質および効果に一義的に関与し、および/または受容体の相互作用について、そして特に受容体の活性化について、その基質と競合する。
【0006】
口腔または鼻腔または気道における酵素代謝の発生に依存して、既知のin vitro化学受容体スクリーニング法は、香料またはフレーバーを同定する試みにおいて、擬陽性または擬陰性の結果を示す可能性がある。例えば、スクリーニング法により同定されたリガンドは、ヒトの鼻において迅速に代謝されて非嗅覚性の化合物となることがある(擬陽性の結果)。別の問題が生じるのは、それ自体は化学受容体に対するリガンドではない化合物が、ヒトの鼻において代謝されて化学受容体に対するリガンドとなる場合、すなわち、前駆体の場合である。この前駆体は、既知のスクリーニング法を適用すると陰性のシグナルを与える(擬陰性の結果)。これらの可能性を、嗅覚化合物「A」について以下にさらに示す。
【0007】
化合物「A」は、香水業者が描写する特定の嗅覚特徴(olfactive note)を有する。Aは、鼻の中で化合物「B」に代謝され、Bは、香水業者が描写するような匂いを知覚するのに必要な、1つまたはいくつかの嗅覚受容体を活性化することにより、特定の特徴の原因となる。A(前駆体)を用いたin vitro受容体スクリーンにおいて、Bに応答する受容体は活性化されず、したがって同定されない。スクリーンは、Aについて正しい陰性の結果を与えるが、一方でBに応答する受容体の同定に失敗するか(「同定の失敗」)、または、Aに応答する受容体を同定するが、しかしAがBに代謝されるため、これは不適切である(「擬陽性の結果」)。既知のスクリーンは正しい構造−活性関係を示す。しかし、同定された化合物は香料としての知覚に関してなお不適切である可能性があり、したがってスクリーンは、構造と香料知覚の間の正しい関係を示さない。これは続く同定を、例えば手掛かり構造に基づくものを、困難または不可能とする。
【0008】
化合物が従来の受容体スクリーンにより正しく同定された場合でも、これらの結果に基づき適切な手掛かり化合物を見出すのが非常に難しい可能性があるが、これは、手掛かりが誤りで、誤解を招くものである可能性があるからである。以下の例は、これについて示す。
化合物「C」は、ヒトの鼻において一部代謝されて化合物「D」を形成し、両方の化合物が鼻に平行して存在する。「C」および「D」は異なる嗅覚特徴を有することができ、これは、幾つかの単一の香料またはフレーバー化合物に割り当てられる広範囲の嗅覚の種類を説明することができる。フレーバーまたは香料を同定するための既知のスクリーニング法は、特定の嗅覚特徴のための手掛かりの発見を非常に難しくしており、何故ならば、同定されたリガンドが、ヒトの鼻におけるある香料またはフレーバーの知覚の原因では全くない場合があるからである。したがって、特定の嗅覚特徴について同定された手掛かり化合物は、関連のない可能性がある。
【発明の開示】
【0009】
概要
本発明は、既知のスクリーニング法の上記の欠点を、香料およびフレーバーの分野において有用な化合物を同定するための代謝法を提供することにより、克服する。これにより、前記化合物およびこれらの手掛かり構造の、効率的な同定が可能となる。さらに本発明は、嗅覚および味覚のエンハンサーおよびマスキング剤を含む、また口腔および/または鼻腔における代謝反応の調節剤またはモジュレーターを含む、香料またはフレーバーの知覚のモジュレーターの同定を可能とする。本発明はまた、フレーバーおよび香料の前駆体としての、または化学感覚的知覚のモジュレーターとしての、化合物の同定を可能とする。
したがって、本発明は、化合物またはその代謝産物を、フレーバーまたは香料として、または香料もしくはフレーバーの知覚のモジュレーターとして同定するための方法を提供し、該方法は、化合物を、以下の本明細書に挙げた表1および表2の酵素からなる群から選択される代謝酵素と反応させること、および、それに続く、該化合物または少なくとも1種のその代謝産物を、香料またはフレーバーまたはモジュレーターとして同定するための方法を含む。
【0010】
詳細な説明
本発明による代謝反応に有用な酵素は、少なくとも次の一つにおいて発現される酵素である:鼻腔、口腔、気道、好ましくは嗅粘膜、呼吸粘膜および口腔粘膜、最も好ましくは嗅粘膜。これらの領域を覆う細胞および、呼吸時に空気と接触するこれらの液体(粘液および唾液)中に発現されて存在する酵素が好ましい。鼻腔は、嗅粘膜、呼吸粘膜、扁平上皮および移行上皮により覆われている。嗅粘膜は特に、嗅覚受容体発現ニューロンを含む嗅上皮の存在のために、臭気物質の知覚に特化している。最も好ましい酵素は、支持細胞、ボーマン腺の導管細胞、および前駆基底細胞を含む嗅上皮に含まれる細胞におけるそれらの発現により、選択することができる。
【0011】
本発明に有用なヒト酵素の群は、エポキシドヒドロラーゼ、エステラーゼ、フラビン含有モノオキシゲナーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ、グルタチオンレダクターゼ、グルタチオンシンターゼ、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、グルタチオンリアーゼ、オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、エポキシダーゼ、レダクターゼ、ロダネーゼ酵素、スルファターゼ、スルホトランスフェラーゼ、UDP−グルクロノシルトランスフェラーゼ(UGT)およびオキシゲナーゼを含む。
本発明に用いることができる好ましいヒト酵素は、フラビン含有モノオキシゲナーゼ(FMO)、UGT、アミンオキシダーゼ(AO、これはMAOを含み、特にMAO−Aおよび−Bを含む)、シトクロムP450酵素(CYP)、ミクロソームエポキシドヒドロラーゼ(EH)、およびカルボキシルエステラーゼ(CE)を含む。
【0012】
本発明の方法において有用となり得るさらなる酵素は、アリールアミンN−アセチルトランスフェラーゼ(NAT)、NAT1およびNAT2である。
上記の酵素の中の多数、および任意の必要なパートナー酵素および/または補酵素または補因子は、BD Biosciences, San Jose, CA, USAから、Invitrogen life Technologies, Carlsbad, CA, USAから、またはSigma-Aldrich, St. Louis, MO, USAから購入することができる。
【0013】
例えば、CYP酵素は、パートナー酵素として対応するレダクターゼ酵素を必要とし、これはNADPH依存性シトクロムP450レダクターゼ(POR)である。さらに、シトクロムb5(b5)が付加的に存在することは有利となりえる。PORおよびb5も、上記の会社から市販されている。CYP酵素のための方法および条件は、例えば、Yamazaki et al. (1999) J. Chromatography B, 721:13-19およびGu et al. (1998) JPET, 285:1287-1295に記載されている。CYP発現系の概説は、例えばGonzalez and Korzekwa (1995) Annu. Rev. Phamacol. Toxicol., 35:369-390に記載されている。
【0014】
幾つかの酵素反応に対しては、当分野で周知のように、補因子が必要である。NADPHは、P450、FMO、NADPH−P450レダクターゼおよび多くの他のオキシダーゼ酵素により触媒される、オキシダーゼ活性の測定に必要である。オキシダーゼ酵素アッセイにおけるNADPHの共通の源は、NADPHをin situで酵素反応を用いて生成する、NADPH再生系である。例えば、グルコース−6−リン酸塩デヒドロゲナーゼ(G6PDH)は、基質グルコース−6−リン酸塩(Glc−6−PO4)の存在下でNADP+をNADPHに変換する。
UGTについては、ミクロソーム、S9および組換えUGT酵素により触媒されるグルクロン酸化活性の測定に、BC Biosciences, San Jose, CA, USAから入手可能な必須UGT酵素補因子であるUDP−グルクロン酸(UDPGA)を含む、適当なインキュベーション緩衝系が必要である。
【0015】
NATは、芳香族アミン基およびヒドラジン基を含む化合物のN−アセチル化に重要な役割を果たし、これらをそれぞれ芳香族アミドおよびヒドラジドに変換する、サイトゾルタンパク質である。アセチル−補酵素A(NAT補因子)は、NATアセチル化活性に必要な活性化されたアセチル基に貢献する。ヒトは、2種類の機能的NATアイソフォーム(NAT1およびNAT2)を有する。NAT酵素に対して、特にNAT2に対して、幾つかの多型が報告されている。
NATのための反応条件は既知であり、例えば以下の文献に記載されている:Rogers et al. (1998) Drug Metabolism and Disposition, 26:502-505, Substrate selectivity of mouse N-acetyltransferases 1, 2, and 3 expressed in COS-1 cells(COS−1細胞に発現されたマウスN−アセチルトランスフェラーゼ1、2および3の基質選択性);Grant et al. (2000) Pharmacology, 61:204-211, Pharmacogenetics of human arylamine N-acetyltransferases(ヒトアリールアミンN−アセチルトランスフェラーゼの薬理遺伝学);Ilett et al. (1999) Drug Metabolism and Disposition, 27:957-959, 1998 International meeting of the arylamine N-acetyltransferases: Synopsis of the workshops on nomenclature, biochemistry, molecular biology, interspecies comparisons, and role in human disease risk;およびdeBethizy and Hayes (2001) Metabolism: A determinant of toxicity(毒性の決定因子)In: Principles and Methods of Toxicology, ed. Hayes, A. W., p.77-136。
【0016】
まだ市販されていない酵素については、遺伝子をクローニングすることができ、当分野に周知の方法により遺伝子を発現させて、タンパク質、すなわち酵素を製造することができる。CYP2A13の製造については例1を参照のこと。ヒト代謝酵素の異種発現についての概説は、Guengerich et al. (1997) Drug Metab. and Disp., 25:1234-1241にも記載されている。
好ましい酵素の群は、シトクロムP450酵素(CYP)である。CYPは構造的に特徴的なモノオキシゲナーゼのファミリーを示す。これらはヘムチオラート酵素のスーパーファミリーを構成し、この酵素は、酸素分子の2段階の還元および続く単一酸素原子の基質分子への挿入が関与するモノオキシゲナーゼ反応を主に触媒するが、還元代謝もまた知られている。
【0017】
CYP酵素はオキシドレダクターゼ(EC1群)であり、これは、酸素分子の取り込みまたは還元により(EC1.14群)、また還元フラビンまたはフラビンタンパク質を1つのドナーとして、酸素の1原子の取り込みにより(EC1.14.14)、対ドナーに作用しており、そして非特異的モノオキシゲナーゼの群(EC1.14.14.1)に属する。オキシドレダクターゼは対ドナーに対して、酸素分子の取り込みと、還元フラビンまたはフラビンタンパク質を1つのドナーとし、酸素の1原子の取り込みにより作用している。これらの非特異的モノオキシゲナーゼの群はまた、ミクロソームモノオキシゲナーゼ、生体異物モノオキシゲナーゼ、アリール−4−モノオキシゲナーゼ、アリール炭化水素ヒドロキシラーゼ、ミクロソームP450、フラビンタンパク質結合モノオキシゲナーゼ、またはフラビンタンパク質モノオキシゲナーゼとしても知られている。一般の反応スキームは以下である:RH+還元フラビンタンパク質+O→ROH+酸化フラビンタンパク質+HO;ここでRH、還元フラビンタンパク質およびOが基質であり、ROH、酸化フラビンタンパク質およびHOが産物である。
【0018】
このヘムチオラートタンパク質(CYPまたはP450)の群は、多くの生体異物、ステロイド、脂肪酸、ビタミンおよびプロスタグランジンを含む広い範囲の基質に作用する;触媒される反応には、ヒドロキシル化、エポキシド化、N−酸化、スルホ酸化、N−、S−およびO−脱アルキル化、脱硫酸化、脱アミノ化、およびアゾ、ニトロおよびN−オキシド基の還元を含む。これは、シトクロムP450オキシドレダクターゼ(POR)、EC1.6.2.4と一緒に、2還元当量がNADPHにより供給される系を形成する。
一酸化炭素と複合すると、還元ヘムタンパク質は450nmにおいて特徴的な吸収を示し、これによりこの酵素ファミリーの名前が付された。これらの酵素の構造および機構は当分野に周知であり、例えばSligar (1999) Essays in Biochemistry 34:71-83;Ortiz de Montellano (1995) Cytochrome P450: Structure, Mechanism, and Biochemistry (2nd edition) Plenum Press, New Yorkを比較のこと。
【0019】
下に示すのは、BD Biosciences (BD Gentest(登録商標))、Invitrogen life technologiesまたはSigma Aldrichから市販されており、本発明に有用となり得る酵素である:
【表1】

我々は、かかる酵素の以下の遺伝子が鼻粘膜において発現されることを見出し、また対応する酵素は、本発明の方法において特に好ましい(表1参照)。
【0020】
表1:ヒト嗅粘膜において発現され、本発明の方法に用いることができる代謝酵素の遺伝子
【表2】

【0021】
【表3】

【0022】
【表4】

*代表的な公的識別子:全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)および/またはGenBankアクセッション番号。
【0023】
さらに、以下の遺伝子から発現される酵素は、本発明の方法に有用であり得る;下の表2〜4を比較のこと。気道において、特に肺組織および/または鼻粘膜において発現される有用な酵素を、表2にまとめる。気道、例えば肺組織において起こる代謝は、鼻を含む気道を通る空気の交換により、肺の酵素によって形成された代謝産物が、嗅粘膜およびそこに位置する受容体に到達することができて、鼻後方の嗅覚に影響を及ぼす可能性がある。
【0024】
表2:気道組織において発現され、本発明の方法に有用となり得るCYP酵素の遺伝子。
【表5】

上記遺伝子のcDNA配列は、上記の公的識別子により全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)データベースで入手可能である。これらは通常、GenBankアクセッション番号と同一である。
代謝酵素はさらに、上記の酵素の多型変異体から選択することもでき、例えば、下の表に示されたものなどである(表3および4を参照)。
【0025】
表3:上記のようにヒトの鼻において発現される酵素に対応する、本発明の方法に有用となり得る多型酵素。最初の欄は、共通の対立遺伝子に存在する特定のアミノ酸を示し;2番目の欄は多型対立遺伝子に同定された、アミノ酸変化を示す。
【表6】

【0026】
【表7】

【0027】
【表8】

【0028】
表4:気道または肺において発現され、本発明の方法に有用となり得る多型CYP酵素。
【表9】

【0029】
【表10】

【0030】
【表11】

【0031】
代謝酵素との反応:競合標準基質なし
本発明の1つの態様において、CYP代謝酵素(シトクロムP450酵素)を、本発明の方法に用いる。
ヒトまたはラットなどの動物源からのCYP酵素を、ヒトまたはラットP450レダクターゼと共に用いる。
ヒトまたはラットP450レダクターゼは、昆虫細胞単独の中で、またはCYP代謝酵素と共に、例えばCaroline et al. (1996) Meth. Enzymol. 272:86-95およびその中の参照文献に記載のようにして、作製することができる。代替的に、これは大腸菌の中で、例えばShen et al. (1989), J. Biol. Chem. 264:7584-7589に記載のようにして作製してもよい。さらに代替的に、市販の源も用いることができ、例えばBD Biosciences, USAにより販売のBD Gentest(登録商標)などである。P450レダクターゼはまた、動物(ラット、マウス、ラビット)の肝臓および肝臓ミクロソームから、例えばFrench and Coon (1979) Arch. Biochem. Biophys. 195:565-577およびその中の参照文献に記載のようにして、容易に精製することができる。
【0032】
反応容量には、CYP酵素、P450レダクターゼ、ジラウリルホスファチジルコリン(DLPC)、緩衝液およびニコチンアミド−アデニン−ジヌクレオチドリン酸(NADPH)の還元形態の過剰量が含まれる。代替的に、in situで酵素反応によりNADPHを再生する系(グルコース−6−リン酸塩デヒドロゲナーゼは、グルコース−6−リン酸塩の基質の存在下で、NADP+をNADPHに変換する)を用いることもできる。この反応は、CYP2A13について下に記載のようにして実施することができる。
特定の態様においては、ヒト代謝酵素CYP2A13を用いる。
【0033】
CYP2A13を用いる酵素反応は、酵素(試験化合物)の潜在的基質の存在下で、およびCYP2A13に対するレダクターゼの存在下で、下に記載のようにして実施する。
ミクロソーム中に含まれるヒト組換えNADPH−P450レダクターゼの過剰量(Gentest, USAから購入可能)を、ミクロソーム中でCYP2A13酵素と共に(酵素は、例えばレダクターゼ:CYP2A13の比率が3:1〜1:1、好ましくは2.5:1〜1.5:1で用いる)、約15分間、氷上でインキュベートする。ミクロソームに含まれるCYP2A13は、1つの反応当たり、1〜200pmolの酵素、好ましくは5〜100pmolの酵素に対応する。
【0034】
ジラウリルホスファチジルコリン(DLPC、Fluka, Switzerland)を、新しく超音波分解した原液(水中1mg/ml)から加えて、最終反応容量中に約0.025mg/mlの濃度となるようにし、氷上で約15分間インキュベートする。好適な反応容量は0.5mlである。レダクターゼとCYP酵素の、同一宿主細胞中での、例えば昆虫細胞、イースト細胞および細菌細胞などでの同時発現の場合は、上記のステップは省略することができ、両方の酵素を含むミクロソームを直接、好適な緩衝剤の存在下で試験化合物と共にインキュベーションに用いることができる。例えばpH7.4のリン酸カリウムなどの好適な緩衝剤を水と共に加え、0.1Mの最終緩衝剤濃度を得る。試験する化合物(CYP2A13代謝酵素用の潜在的基質)は、例えば約0.05〜0.6mMの濃度で、好ましくは約0.2〜0.5mMの濃度で加える。酵素反応は、ニコチンアミド−アデニン−ジヌクレオチドリン酸(NADPH、Fluka, Switzerland)を加えることにより開始される。NADPHは好ましくは、水中の還元形態で、25mM溶液を、例えば約0.01〜0.05ml、好ましくは0.02ml加える。反応物は、10〜120分間、好ましくは30〜90分間、最も好ましくは60分間、約37℃でインキュベートする。インキュベーションの時間は、試験化合物(基質)およびCYP2A13の対応する代謝産物(生成物)を同定するのに用いる次の検出方法の感度に応じて、調節することができる。酵素反応は、解析方法に依存して、当業者には自明のようにして停止させ、細胞残屑は遠心分離により分離する。例えば、トリクロロ酢酸(例えば、最終濃度5%で)などの有機酸の添加、またはアセトニトリル(例えば最終濃度約20〜25%で)などの有機溶媒の添加により、酵素の不活性化が起こり、混合物は氷上で冷却し、沈殿したタンパク質を遠心分離により除去する。
【0035】
分析に例えばガスクロマトグラフィ(GC)を用いる場合、メチル−t−ブチル−エーテル(MTBE)などの有機溶媒による抽出で、酵素から基質および産物が分離され、さらなる停止のステップは不要である。この場合、試料は氷上で10分間冷却して遠心分離し、上澄みを有機溶媒で抽出する。試料は次に化学的分析法、例えばGCまたはGC結合質量分析(GC−MS)により分析する。代替的に、水相を直接分析することもでき、例えば、有機溶媒を添加することなく、当業者に明らかであるように、例えば液体クロマトグラフィ(LC)またはLC−MSを用いる。
【0036】
代謝産物の形成は、当分野に既知の実践による、CYP酵素、P450レダクターゼ、DLPC、NADPHなどの濃度、試験化合物濃度、およびインキュベーション時間を含むインキュベーション条件を変更することにより、最適化することができる。CYP2A13を用いる酵素反応の最適化に標準として用いることができる、好適な基質はクマリンであり、この酵素反応の産物、7−ヒドロキシクマリン(ウンベリフェロン:umbelliferone)は、容易にモニタリングすることができる。モニタリングは、例えば分光蛍光分析的に、当分野で記載されているように368nmの励起波長および456nmの発光波長で、実施することができる。ウンベリフェロンの好ましい検出方法は、340nmの励起波長および480nmの発光波長での分光蛍光的モニタリングであり、これにより我々は検出精度が増加することを見出した。
本発明による代謝法は、同定すべき化合物の種類、例えば代謝酵素(前駆体)の基質およびその代謝産物、または、代謝酵素の阻害剤もしくはアクチベータなどの酵素のモジュレーターに応じて、適合することができる。
【0037】
代謝酵素との反応:標準基質あり
他の態様において、フレーバーまたは香料化合物の代謝産物に影響を及ぼす試験化合物を上記の代謝法で同定するが、これは、既知の基質を標準として加え、この標準物の酵素反応産物の形成で起こる減少または増加検出することにより行う。フレーバーまたは香料化合物の代謝産物に影響を及ぼす化合物は、酵素のモジュレーター(阻害剤、調節剤または活性剤)、または酵素の競合基質であってよい。
試験化合物は、好ましくは種々の濃度で、代謝酵素および標準基質と共にインキュベートする。試験化合物の存在下での、標準物または酵素反応産物の濃度の変化を、試験化合物不在の対照反応と比較して検出する。
【0038】
目的の試験化合物またはそれらの代謝産物(競合基質、酵素阻害剤、または酵素の正もしくは負のアロステリック調節剤)は、対照反応と比較した場合、増加または減少を示す。対照反応はNADPHを欠いており、NADPHは反応時間中のCYP触媒反応における必須の補因子であるため、酵素反応は起こらない。
標準基質の酵素反応産物の減少は、以下を示唆する:試験化合物が酵素の基質であり、標準基質と競合すること;または、試験化合物が酵素の阻害剤であり、基質の結合部位に競合的もしくは非競合的に結合することにより、酵素の基質の代謝回転を減少させること;または、試験化合物が負のアロステリック調節剤であり、酵素への結合が立体構造変化を誘導し、それにより酵素活性の減少をもたらすこと。
【0039】
標準基質の酵素反応産物の増加は、試験化合物がアロステリック活性剤であり、結合により酵素の立体構造変化を誘導し、酵素活性の増加をもたらすことを示唆する。
さらに、代謝産物の有無について、およびそれらの構造についての化学分析を行うことができる。化学分析の方法は当分野に周知であり、GCおよびGC−MSを含む。
酵素のモジュレーターの種類をさらに決定することができ、例えば以下のようにして行う。
【0040】
化合物を代謝酵素の正のアロステリック調節剤として同定することは、標準基質の濃度を一定に保った場合に、用量に依存して標準産物形成の増加が生じることにより行う。
化合物は、化合物の代謝産物の不在のもとで生じる、標準基質の酵素反応産物の減少により、阻害剤または負のモジュレーターとして同定される。代謝産物の有無は、以下に記載するような化学分析法により同定することができる。代謝酵素の競合阻害剤または負のアロステリック調節剤である化合物、例えば非競合阻害剤を識別するために、当分野に周知の酵素反応速度測定を行うことができる。これらの反応速度測定により、可逆的阻害と非可逆的阻害とを識別することができる。多くの酵素の反応速度特性(kinetic property)は、ミカエリス・メンテンモデルにより記述することができる。反応速度を基質濃度の関数としてプロットすると、プロットまたは両軸逆数プロットにより、酵素に対する基質特異的な反応速度定数(ミカエリス定数および最大速度)を決定できる。
【0041】
可逆的および非可逆的阻害は酵素−阻害剤複合体の解離速度の結果として識別でき、これは可逆阻害剤の場合は速く、共有結合的または非共有結合的に結合する非可逆阻害剤の場合は非常に遅い。競合および非競合阻害は、観察されるその酵素反応速度の型によって識別される。
酵素反応について、阻害剤の存在が有る場合と無い場合に、酵素の標準基質を用いて、酵素反応速度を両軸逆数形態でプロットする。化合物を競合阻害剤として識別するのは、阻害剤の存在下において、最大速度が不変で、酵素のミカエリス定数が増加することによる。化合物を非競合阻害剤として識別するのは、阻害剤の存在下において、ミカエリス定数が不変で、酵素の最大速度が増加することによる。
【0042】
好適な標準基質は、任意の既知の基質であって、好ましくはそれ自体容易に検出されるもの、または容易に検出可能な酵素反応産物を産生するものである。
蛍光性の標準基質、または蛍光産物を形成する標準基質、例えばウンベリフェロンを形成するクマリンが好ましい。蛍光測定は非常に感度が高く、分光蛍光測定は、1つの反応容器内およびマルチウェルプレートにて、例えば1プレート当たり96、384または1536ウェルを有するもので、容易に行うことができる。
特定の態様においては、代謝酵素CYP2A13を標準基質の存在下で用いる。
【0043】
酵素反応を上記のようにして、標準基質を反応物に加えて実施する。好ましい標準基質はクマリンであり、その反応産物(ウンベリフェロン)はその蛍光により容易に検出される。
試験化合物を、例えば約0.05〜0.6mMの濃度で、好ましくは約0.1〜0.3mM、最も好ましくは約0.2mMの濃度で加える。標準基質クマリンの好適な濃度は約0.01〜0.25mM、より好ましくは約0.05mMである。反応容量は任意の好適な容量であってよく、例えば約0.2mlであり、これは、蛍光検出法に用いることができる96反応ウェルを有するマルチウェルプレートにおいて操作するのに、好適な容量である。
【0044】
酵素反応は、ニコチンアミド−アデニン−ジヌクレオチドリン酸(NADPH)を加え、10〜120分間、好ましくは30〜90分間、最も好ましくは60分間、約37℃でインキュベートすることにより開始される。NADPHは好ましくは、水中の還元形態で、25mM溶液を例えば約0.01〜0.04ml、好ましくは0.015ml加える。酵素反応は、上に記載のようにして停止することができる。対照として、NADPHを酵素反応が停止した後に加え、正しい蛍光測定を確実にする。代替的に、対照反応はNADPHを加えた直後に停止させて、任意の対応する酵素反応が起こるのを防ぐこともできる。インキュベーション条件は上記のようにして調整することができる。
【0045】
化合物を香料、フレーバーまたはモジュレーターとして同定する方法
本発明の方法において、代謝反応に続いて、化合物を、香料またはフレーバー、またはかかる化合物の知覚に影響を及ぼすモジュレーターとして、またはそれらの対応する手掛かり化合物として同定するための、かかる化合物の受容体が関与する方法を実施する。これらの受容体に基づく方法は、in vitro受容体スクリーニングを含むことができる。
【0046】
化合物を香料、フレーバーまたはモジュレーターとして同定するためのin vitro受容体スクリーン
上記の代謝反応に続いて、化学受容体を用いたin vitroスクリーニング法を、試験化合物およびそれらの代謝産物を用いて行うことができる。
本明細書の上記のようにして実施した酵素反応から得られた試料を遠心分離し、上澄みを2×HEPES緩衝剤の1容量で希釈し、これを受容体スクリーニング法で用いることができる。
【0047】
用いる酵素および緩衝剤に応じて、本発明の方法の受容体スクリーンの細胞系を調整する必要があり、または代替的に、特定の細胞系を用いる場合は、酵素緩衝剤成分、pH、およびその中で培養する培地についての細胞の耐性に応じて、酵素緩衝剤を調整する必要がある。これらの調整は、当分野に周知の方法により行うことができる。培養細胞への負の効果を避けるために、酵素および反応生成物を含むプローブを遠心分離し、反応生成物を含む上澄みを細胞培地で、好ましくは1:1で希釈する。
好ましいin vitroスクリーニング法は、嗅覚受容体、味覚受容体、フェロモン受容体または温度受容体を用いている。
【0048】
スクリーニング法は、当分野に既知のように実施することができ、例えば、以下に記載される:Krautwurst et al. (1998) Cell 95:917-926;Hatt et al. (1999) Cell Molec. Biol. 45:285-291;Li et al. (2002) PNAS 99:4692-4696;Nelson et al. (2001) Cell 106:381-390;Chandrashekar et al. (2000) Cell 100:703-711;McKemy et al. (2002) Nature 416:52-58;Caterina et al. (1997) Nature 389:816-824。
受容体スクリーンを行う前に、受容体は、そのリガンドにより特性を明らかにして分類されるのが好ましく、該リガンドは既知の嗅覚特徴の化合物であるか、またはその嗅覚特徴が本明細書の以下に記載されるようにして、例えばヒト被験者により決定することができるものである。かかる分類は、例えば、グリーン、フレッシュ、木の香り、花の香り、フルーティ、動物的(animalic)、スパイシー、グルメの、甘い、粉っぽい、およびムスクの香りなどであってよい。
【0049】
試験化合物の性質、予想される代謝産物、および同定すべき香料/フレーバーまたはモジュレーターの種類に依存して、当業者に明らかであるように、以下の要求事項が適合されねばならない:代謝酵素の選択、受容体スクリーンの「組成」、「合成」スクリーンの「セットアップ」、受容体スクリーンの条件、リガンドおよび知覚されるそれらの嗅覚特徴による目的受容体の事前の特徴付け。
特に、試験化合物の中から、すなわち、実施された代謝法で同定された基質および同定された代謝産物から、作動物質、拮抗物質およびアロステリックモジュレーターを同定するために、受容体スクリーンを用いることができる。
【0050】
本発明の特定の観点において、酵素の阻害剤が、受容体リガンド特性の強調因子として同定され、これは、上記のようにして代謝法を行い、続いてin vitro受容体スクリーニング法を行うことによる。例えば、受容体の既知の作動物質を、臭気物質受容体を用いた活性調節のためのスクリーニングを行う場合の標準として、用いることができる。作動物質が知られていない場合、対応する臭気物質受容体によるスクリーンを行って、作動物質として作用する化合物を得ることができる。これらはそのように用いることができ、また分析法により分析することができる。
酵素基質が臭気物質試験化合物であり、代謝産物が無臭気化合物か、または臭気物質試験化合物それ自体より弱い臭気の化合物である場合、代謝酵素の阻害剤は、代謝酵素と前記臭気物質試験化合物のより遅い反応をもたらし、受容体スクリーンに利用可能な受容体作動物質である試験化合物の濃度はより高くなり、従ってより高い活性化シグナルをもたらす。これらの高い活性化シグナルにより、「増強」効果(ブースター)を有するモジュレーター、すなわち、臭気全体または特定の嗅覚特徴を強調するモジュレーターが同定される。
【0051】
好ましい態様においては、ブースターを同定する代謝反応の後に、受容体スクリーンを実施する。例えば、試験化合物が受容体の作動物質であり(例えば臭気化合物)、該試験化合物が代謝されて、得られた代謝産物が受容体を活性化する能力を有さない場合(例えば、無臭気化合物)、代謝反応を減少させる化合物、例えば阻害する化合物はブースターであり、これにより、より多量の活性化された受容体または臭気化合物の存在がもたらされる。他のケースでは、試験化合物は受容体を活性化することができないが(例えば、無臭気化合物)、しかし代謝反応が起こった後で、その代謝産物が受容体を活性化させる場合もある(例えば、無臭気の前駆体から形成された臭気化合物)。後者の場合、記載の特徴を有する化合物用のブースターは、代謝反応を増加させる化合物である。
【0052】
特定の態様において、冷感化合物のための前駆体を同定するために、酵素を用いる。例えば、化合物「A」は、冷感化合物「B」の前駆体である。Aを、本明細書に開示のように選択された1または2種以上の酵素と代謝反応させる。この代謝反応により冷感化合物Bが形成され、これはヒトの気道、特に口において知覚される冷たい感覚の原因となるものである。本発明の方法により乳酸メンチルを試験化合物として用いて、このことが示される。例7Bに示されるように、乳酸メンチルはエステラーゼ酵素により代謝され、冷感化合物メントールが形成される。メントールは、続く受容体スクリーンにおいて冷感受容体を活性化する(例8と9を比較のこと)。
本発明の方法に有用な受容体は、Gタンパク質結合受容体またはイオンチャネルのスーパーファミリーに属する。
【0053】
Gタンパク質結合受容体(GPCR)は、7つの疎水性ドメインを含むアミノ酸配列を特徴とする内在性膜タンパクであり、タンパク質の膜貫通領域を示すことが推測されている。幾つかのGPCRの群が、臭気物質、味物質および/またはフェロモンに反応することが見出された。
特に有用なGPCR群の1つは、嗅覚受容体(OR)である。ORはGPCRの「クラスA」に属する。ORは系統発生学上クラスIおよびクラスIIに分類される。マウスの嗅覚範囲についてさらなる分類が提言され、クラスIのORに100未満のファミリー番号(1〜42)が与えられた(Zhang and Firestein (2002) Nature Neuroscience, 5:124-133)。ヒト嗅覚のサブゲノムについては、Glusman et al. (2001) Genome Research, 11:685-702によりファミリーおよびサブファミリーでの分類が提案された。17のファミリーのうち、13がクラスIIに属し、4つはクラスIに属する。
代替的に、Zozulya et al. (2001) Genome Biology 2:0018.1-0018.12により、ヒト嗅覚受容体遺伝子も119のファミリーに、またはもし1つのファミリーに1種以上の遺伝子が存在しなければならないとした場合には77ファミリーに分類された。代替的に、ヒト嗅覚受容体遺伝子はクラスIおよびクラスIIに分類され、そしてクラスIIはさらに、Nimura and Nei (2003) PNAS 100:12235-12240による系統発生的解析に基づき、19クレード(A〜S)に分類された。
【0054】
上記ORの全ては、本発明による受容体として成功的に用いることができる。
ORはヘテロ三量体Gタンパク質に結合し、該Gタンパク質は嗅覚感覚ニューロンの特定のG−αサブユニット(Golf)を含み、該サブユニットはアデニル酸シクラーゼを活性化する。したがって、機能アッセイにおいて、Gタンパク質の存在が必要である。他のG−αタンパク質も用いることができ、例えばG−αァ−16は無差別代替物として、またはG−αタンパク質のキメラも用いることができ、情報伝達系はG−αタンパク質の選択に依存し得る。ORは機能アッセイの形態において用いることができ、これは当分野に周知であり、例えば以下に記載されている:Krautwurst et al. (1998) Cell 95:917-926;Hatt et al. (1999) Cell. Molec. Biol. 45:285-291;Spehr et al. (2003) Science 299:2054-2058;Kajiya et al. (2001) J. Neurosci. 21: 6018-6025;Touhara et al. (1999) PNAS 96:4040-4045;Oka et al. (2004) EMBO J. 23:120-126。
【0055】
本発明において有利に用いられるさらなるGPCRの群は、苦味受容体である。これらはGPCRのT2Rファミリーに属し、味覚細胞で発現され、そして苦い化合物に応答することが示されている。T2Rは短い細胞外アミノ末端を有し、ヘテロ三量体Gタンパク質に結合し、該Gタンパク質は特定のG−αサブユニット(ガストデューシン)を含み、該サブユニットはホスホジエステラーゼを活性化する。したがって、機能アッセイにおいて、かかるGタンパク質の存在、または無差別の代替物、例えばG−α−15もしくはG−α−16、またはG−αタンパク質のキメラの存在が必要であり、これらはイノシトール−1,4,5−三リン酸塩経路を介して情報伝達する(Lindermann (2001) Nature, 413:219)。
苦味受容体は、当分野で周知のように機能アッセイの形態において用いることができ、これは例えば、Chandrashekar et al. (2000) Cell 100:703-711およびBufe et al. (2002) Nat. Genet. 32:397-401に記載されている。
【0056】
また本発明において有利に用いられるさらなるGPCRの群は、甘味受容体であり、例えばT1R3とT1R2であり、これらはヘテロ二量体を形成するために同時に発現されることが必要である。かかるヘテロ二量体は、甘味刺激に対する機能的受容体を形成する。
甘味受容体は、T1R2およびT1R3が示すように、代謝型グルタミン酸受容体に似た大きな細胞外アミノ末端ドメインを有することができる。
甘味受容体は、当分野で知られているように機能アッセイの形態において用いることができ、これは例えば、Li et al. (2002) PNAS 99:4692-4696およびNelson et al. (2001) Cell 106:381-390に記載されている。
本発明において有利に用いられるさらなるGPCRの群は、旨味受容体である。
【0057】
旨味受容体の群は、代謝型グルタミン酸受容体mGluR4に属し、特に味覚特異的スプライス変異が旨味様化合物の知覚に関与し、これは以下に引用されたジャーナルの記事に記載されている。代謝型グルタミン酸受容体はGPCRの「クラスC」に属し、大きな細胞外アミノ末端を有する。
旨味受容体の群に属する他の受容体は、アミノ酸、特にグルタミン酸塩に応答し、これも旨味を有すると知覚される。受容体はT1R1とT1R3のヘテロ二量体であり、応答はプリン5’−リボヌクレオチド、例えばIMPおよびGMPの存在下で増強され、これらは旨味の質を目立たせることが知られている。
【0058】
旨味受容体は、当分野で周知のように機能アッセイの形態において用いることができ、これは例えば、Li et al. (2002) PNAS 99:4692-4696;Chaudhari et al. (2000) Nat. Neurosci. 3:113-119およびNelson et al. (2002) Nature 416:199-202に記載されている。
本発明において用いることができるGPCRの他の群は、非ヒトフェロモン受容体のヒト相同体(推定フェロモン受容体)である。動物において、フェロモンは鋤鼻器(性フェロモン感知器官)により検出される。ヒトに機能的鋤鼻器があるかどうかは今だに明白になっていないが、VRファミリーメンバーが主要な嗅上皮において発現されることが示されたとの事実は、ヒトの推定フェロモン受容体が、臭気物質に応答する可能性があることを示すようである。かかる臭気物質は、フェロモン活性を持ってもよく、持たなくてもよい。したがって、機能的には、ヒトフェロモン様受容体はORのようである、すなわち、これらは臭気物質であるリガンドに結合し、ヒトにおいて匂いの知覚を示すか、あるいは匂いの知覚に影響を及ぼす。嗅覚受容体と同じく、フェロモン様受容体は臭気物質に応答するだけでなく、無臭気の可能性もある他の揮発化合物にも応答することができる。この場合、受容体の活性化は匂いの知覚を引き起こさないが、しかし他の生理学的効果、例えば、ホルモン放出における変化をもたらす。
【0059】
幾つかの非ヒト哺乳類の鋤鼻器における発現から、鋤骨鼻受容体(VR)の2つのファミリーが分類された:V1RおよびV2Rである。V1Rは、OR同様、短い細胞外アミノ末端を有し、マウスにおいて約150のメンバーが同定された。V2Rは、大きな細胞外アミノ末端を示すために、代謝型グルタミン酸受容体に似ており、V2Rファミリーもまた約150のメンバーからなる。
ヒトにおいて、主要な嗅上皮で発現されるVR様遺伝子が同定された(Rodriguez et al. (2000) Nature Genetics, 26:18-19)。これらの遺伝子はクローニングすることができ、対応する遺伝子産物が、当分野に周知の方法により発現され、例えば本明細書の以下に記載されている。
【0060】
本発明により有利に用いられる受容体の他のスーパーファミリーは、イオンチャネルである。これらは、冷感受容体(温度受容体とも呼ばれる)および熱受容体(痛覚受容体とも呼ばれる)を含む。
冷感受容体は、温度受容体を含む感覚ニューロンの特定のサブセットにより発現される。冷感受容体は、チャネルの一時的受容体潜在ファミリー(TRP)に属することができ、その例はTRPM8であり、これは低温および冷却剤、例えばメントールにより、活性化される。
【0061】
冷感受容体は、当分野で周知の機能アッセイの形態において用いることができ、これは例えば、Peier et al. (2002) Cell 108:705-715;McKemy et al. (2002) Nature 416:52-58およびStory et al. (2003) Cell 112:819-829に記載されている。
熱または痛覚ニューロンは、温度受容体を含む感覚ニューロンの特定のサブセットである。熱受容体は、チャネルのTRPファミリーのメンバーであってよい。例えば、チャネルのTRPファミリーのメンバーであるバニロイド受容体1(VR1)は、不快な熱により活性化される。
熱または痛覚受容体は、当分野で周知のように機能アッセイの形態において用いることができ、これは例えば、Caterina et al. (1997) Nature 289: 816-824;Grant et al. (2002) J. Pharmacol. Exp. Therap. 300:9-17およびSprague et al. (2001) Eur. J. Pharmacol. 423:121-125に記載されている。
【0062】
試験化合物を同定する官能試験法
in vitroで受容体を用いるin vitroスクリーニング法の代替として、またはこれに加えて、官能試験法を用いて、フレーバー/香料またはモジュレーターとして有用な化合物を同定することができる。かかる官能試験法は、ガスクロマトグラフィ−オルファクトメーター法(「GCスニッフ(GC-sniff)」)およびオルファクトメーター分析を含む。
【0063】
GCスニッフ
GCスニッフは、代謝反応で生成された代謝産物が目的の臭気を有しているかどうかを決定するのに用いることができる。ヒト被験者、すなわち、ヒトの鼻においてその野生型で存在する受容体を、フレーバーまたは香料としての化合物を同定するための検出器として用いる。
【0064】
好ましい態様において、化合物は、GCおよび「匂いをかぐ」ことにより同時に分析する、すなわち、化合物を分析ツールにより検出するのと同時に、化合物の嗅覚特性をポート上のヒト被験者が検出および記述して、これにより化合物の嗅性特質を、香料またはフレーバーとして同定する。1または2種以上の代謝産物を、反応混合物から上記のMTBEなどの有機溶媒を用いて抽出し、MTBE留分をGC分析に用いる。GC装置にはスニッフポートが搭載され、ここで分離された物質の一部は装置の化学検出器により検出し、物質の一部は装置外部のガラス漏斗に導いて、ここでパネリストが化合物の匂いをかぎ、代謝物の嗅覚特性を記述することができる。
例えば2〜3人の訓練を受けていないヒト被験者を、代謝産物の嗅覚特性の最初の同定のためのパネリストとして採用することができる。さらに、官能分析の訓練を受けた人を、目的化合物の嗅覚品質の特徴付けのために採用する。
【0065】
オルファクトメーター分析
本発明の他の観点において、EP0883049に記載されたような種類のオルファクトメーターを用いて、試験化合物または代謝産物を同定することができ、上記のin vitroスクリーニング法により、受容体リガンドとして、またフレーバーおよび香料化合物の知覚のモジュレーターとして同定することができる。
本発明の他の観点において、ヒトの鼻に存在する代謝酵素活性のモジュレーターとして同定された化合物、および上記のようにして同定された嗅覚受容体活性のモジュレーターを、ヒトの鼻に送達された場合のそれらの特性および活性について試験する。
【0066】
数人のヒト被験者グループまたはパネリストを用いる。オルファクトメーターにより、パネリストがガラス漏斗で匂いをかいでいる化合物の濃度を、飽和蒸気相を希釈して調節することができる。パネリストは特定の臭気物質について異なる閾値を有するため、閾値は各パネリストについて、各実験の最初に個別に決定する。当分野に知られた標識等級尺度(LMS)を用いてもよい。LMSはその言葉による標識の準対数スケールを特徴とする、知覚強度の意味尺度であり、Green et al. (1996) Chemical Senses 21: 323-334により記載されている。尺度全体に対するパーセンテージとしての、LMS上の言葉による標識の位置は以下のとおりである:かすかに検知できる、1.4;弱い、6.1;中程度、17.2;強い、53.2;想像できる限りで最大、100。
【0067】
2つのオルファクトメーターを用いてもよく、目的の化合物はそのうちの1つのオルファクトメーター中にあり、標準臭気または臭気混合物は両方の装置中にある。例えば、様々な濃度の標準臭気と共に、目的化合物を異なる濃度で入れる。パネリストは、示された刺激の間に違いがあるかどうかを決定し、違いの量および質を記述する。示された刺激の間の嗅覚特性の違いは、官能分析において教育されたパネリストまたは香水業者により記述される。
代替的に1つのオルファクトメーターを用いてもよく、提示された刺激はパネリストにより順番に分析される。
【0068】
パネリストは、同定すべき化合物、例えば潜在的モジュレーターが存在または不在の場合において、既知の試験臭気物質の強度を決定するよう求められる。
オルファクトメーターは、酵素活性または受容体感受性のモジュレーターを同定するために用いることができる。参照臭気物質(または臭気物質混合物)および目的化合物(潜在的モジュレーター)の両方を、種々の濃度およびそれぞれの組み合わせの混合物として、セッション中にランダムな順序で提供することができる。
臭気化合物は、パネリストに対して、彼らの検知レベル(臭気閾値)より低いレベルで、その付近で、またはそれより高いレベルで示すことができる。
【0069】
化合物は代謝酵素の阻害剤または負のアロステリック調節剤として同定されるが、これは、代謝産物の嗅覚強度が低下しているかまたは無臭気である場合に、化合物の存在のもとで生じる、パネリストによる試験化合物知覚の強度の増加によって同定されるものである。この増加は、より高い濃度において知覚の質を変える可能性がある。
試験化合物およびその代謝産物の両方が臭気物質である場合、知覚された嗅覚品質はこれらが異なる場合には、酵素活性の程度に依存する。
正のアロステリック調節剤、および受容体感受性のモジュレーターは、それらの性能に応じて同定することができる。
【0070】
試験化合物または代謝産物は、悪臭物質に応答する受容体の、拮抗物質または負のアロステリック調節剤であることができる。悪臭知覚を抑制またはマスクする化合物は香水製造業にとって興味深く、本明細書下記のように、本発明の方法により同定することができる。
試験化合物または代謝産物は、以下の効果が生じることにより、モジュレーター(例えばブースター、マスキング剤)として同定することができる。
代謝反応の後、同定された試験化合物または代謝産物は、パネリストにより、試験化合物または代謝産物を含まないが香料またはフレーバーを含む対照と比較される。
【0071】
試験化合物および代謝産物は、増強効果またはマスキング効果を同定するために、幾つかの香料またはフレーバー化合物を含む混合物中において同定することができる。
全体的な香料知覚の強度または質における変化により、ブースターまたはマスキング剤を同定する。ブースターは全体的な強度の増加によって、マスキング剤は全体的な強度の減少によって同定される。ブースターまたはマスキング剤は、特定の嗅覚特徴を増強または遮断することができ、このような嗅覚特徴特異的ブースターまたはマスキング剤は、混合物中において特定の嗅覚特徴の強められた知覚、または弱められた知覚により、同定される。
同定された化合物は、香料またはフレーバーの同定用の手掛かり構造として用いることができる。同定された化合物はそれ自体臭気物質であってよく、または、それ自体が必ずしも臭気を有する必要はなく、フレーバーまたは香料の知覚を調節することができてもよい。
【0072】
手掛かり
本発明の方法、代謝反応およびin vitro受容体スクリーン、または官能試験法(GCスニッフ、オルファクトメーター分析)により化合物を同定した後、同定した試験化合物は手掛かりとして用いることができ、また特定の所望の目的品質のフレーバーまたは香料化合物を見出すために、誘導体を合成することができる。この誘導体は、本明細書に記載のように、本発明の方法において試験化合物として再度用いられる。
特定の所望の目的嗅覚特徴の化合物、または他のフレーバーまたは香料化合物との組合せにおいて特定の有利な効果を有する化合物が同定されるまで、この手順を繰り返すことができる。目的化合物は、それ自体がフレーバーまたは香料化合物であってよく、またその代謝産物、前駆体であってよく、これらは、フレーバーまたは香料化合物の性能を改善する化合物、または臭気化合物の望ましくない臭気特性の知覚を抑制または遮断する化合物である。
【0073】
化合物を分析する分析方法
目的の試験化合物または代謝産物は、GC、GC−MS、HPLC、HPLC−MS、およびGCおよび/またはHPLC(LC)に関連する方法などの当分野に周知の分析方法を用いて、さらに分析することができる。
化合物の構造を同定するために、当分野で周知のように、分析データベースを参照することができる。例えばGC滞留時間およびMSパターンを比較するためには、参照化合物の使用が好ましい。
【0074】
最も好ましくは、分析法を用いる前に、代謝産物を調製方法により精製する。
物質の量が少量に限られている場合は、分取GC(preparative GC)が好ましい。
精製化合物は、その化学構造を明らかにするために、核磁気共鳴(H−NMRおよび13C−NMR)により分析することができる。
【0075】
代謝酵素の同定および発現
出願人は、ヒト嗅粘膜において発現される代謝酵素をコードする多数の遺伝子を同定した。これらは、以下ををコードする遺伝子を含む:エポキシドヒドロラーゼ、エステラーゼ、フラビン含有モノオキシゲナーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ、グルタチオンレダクターゼ、グルタチオンシンターゼ、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、グルタチオンリアーゼ、オキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、エポキシダーゼ、レダクターゼ、ロダネーゼ酵素、スルファターゼ、スルホトランスフェラーゼおよびUDP−グルクロノシルトランスフェラーゼおよびオキシゲナーゼ。
ヒト嗅粘膜において発現されることが同定された代謝酵素に対応する遺伝子、またはこれに対応するcDNA配列は、本明細書の上記表1に挙げられている。
【0076】
代謝酵素の遺伝子の発現は、タンパク質の合成および存在の必要条件である。遺伝子が発現されると、対応するmRNAが細胞中に存在し、かかるmRNA種が生じていることを当分野で周知の方法により試験することができる。これらの方法には、例えば、いわゆるGeneChips(DNAマイクロアレイー)上に固定されたDNAに目的の源のmRNAに由来する標識プローブをハイブリダイズし、以下に記載のようにして逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)を行うことにより、特異的mRNA種を同定することを含む。
本発明において有用な代謝酵素は、口腔、鼻腔、および気道の細胞に発現されるものであってよい。これらは、例えば、これら領域の腔および分泌腺を覆う上皮細胞を含む。特に興味深いのは、鼻粘膜で発現される代謝酵素であり、これは嗅覚受容体を発現する嗅上皮およびニューロンを含んでいる。
代謝酵素をコードする遺伝子の同定および発現は、本明細書に記載されているようにして行う。
【0077】
嗅粘膜において発現される代謝酵素の遺伝子の同定
ヒト嗅粘膜において発現されるとして同定された代謝酵素に対応する遺伝子、またはこれに対応するcDNA配列は、本明細書の上記表1に挙げられている。
本明細書下記の、これらの遺伝子を同定および発現するために用いられる方法により、さらなる酵素を同定することができ、本明細書に記載のように、本発明による代謝方法において用いることができる。
【0078】
与えられた物質における遺伝子発現を同定する方法は当業者に周知であり、好適な方法は、例えばSambrook et al. 1989, “Molecular Cloning, A laboratory manual”, Cold Spring Harbor Laboratory PressおよびAusubel et al. 1987 “Current Protocols in Molecular Biology”, John Wiley & Sons, Inc.に見出すことができる。
多数のプローブを同定するのに特に有用な方法は、DNAマイクロアレイ上での全体的遺伝子発現解析(global gene expression analysis)である。
【0079】
DNAマイクロアレイ上での全体的遺伝子発現解析
有用なDNAマイクロアレイは、GeneChip(登録商標)U95Av2アレイ(Affymetrix, U.S.A.)であり、これは、広い範囲のヒト遺伝子を含む。ヒト成人および胎児組織を用いて、高品質のRNA断片を調製する。総RNAは、例えばTRI試薬(Molecular Research Centre, Cincinnati, OH)を用いて調製することができる。RNA断片および総RNAは、例えば、Qiagen, Inc. (U.S.A.)からのRNeasy kitを用いて精製することができる。精製されたRNAは、二重らせんcDNAを調製するために用い、これは次にビオチン標識されたcRNAを合成するために用いる。
非常に少量のRNAからの、ビオチン化ヌクレオチド(例えばビオチン−11−CTP、ビオチン−16−UTP)を用いた、遺伝子マイクロアレイ分析のための標識核酸は、aRNA増幅により得ることができ、これは当分野に周知であり、例えばBaugh et al. (2001) Nucleid Acids Res. 29:E29およびPabon et al. (2001) Biotechniques 31:874-879に記載されている。
【0080】
核酸増幅の他の方法も全体的遺伝子発現の解析に用いることができるが、aRNA増幅が好ましく、これはこの方法が、RNA集団中における個々のmRNA配列の相対的な豊富さを、大幅には歪めないからである。
RNAを増幅し標識する好適な産物は、MessageAmp(登録商標)aRNAであり、これはAmbion (USA)から購入可能である。MessageAmp(登録商標)aRNA産物(Ambion, USA)はRNA増幅プロトコルに基づいており、該プロトコルとは、オリゴ(dT)プライマーとT7プロモーターとの逆転写および、得られたDNAのT7RNAポリメラーゼとのin vitro転写によって、試料中の各mRNAの何百何千ものアンチセンスRNAコピー(aRNA)を生成することを含むものであり、Gelder et al. (1990) PNAS 87:1663-1667に記載されている。
【0081】
好適なDNAマイクロアレイは、例えば、GeneChip(登録商標)U95Av2アレイ(Affymetrix, U.S.A.)である。当業者に明らかであるように、DNAマイクロアレイハイブリダイゼーション用の任意の好適なプロトコルを用いることができる。U95Av2について、好適なプロトコルを以下に概説する。ハイブリダイゼーションに先立ち、標識されたRNA試料の一部を、最初に例えばTest3チップ(Affymetrix, U.S.A., “Test3”)などのテストチップにハイブリダイズして、RNA品質および標識効率を求める。対照としては、2種のいわゆるハウスキーピング遺伝子、アクチン(アクセッション番号X00351、全米バイオテクノロジー情報センター、NCBI)およびGAPDH(アクセッション番号M33197、NCBI)を、転写産物の5’、中央、および3’領域にハイブリダイズするプローブセットを用いて検出する。正しいハイブリダイゼーションおよび染色の対照として、既知の濃度の4つの非真核性ビオチン標識RNA転写産物の少量を標識RNA試料に加え、対応するプローブセットをTest3上で検出する。正しいハイブリダイゼーションにおいては、4つの転写産物のハイブリダイゼーションシグナルは、添加された対照RNA中のそれらの相対的な豊富さの順序に従うはずである。
【0082】
RNAの質は、以下のようにしてTest3を用いてチェックする。ハウスキーピング遺伝子について3’/5’比率が1.5より大を産生するRNA試料を拒絶し、残された「高品質」RNAを残す。以下に概説する、U95Av2へのハイブリダイゼーションのための断片化ビオチン標識RNAの調製、ハイブリダイゼーションの手順それ自体、および洗浄−染色−スキャニング法は、製造業者(Affymetrix, USA)から入手可能な技術マニュアル(GeneChip Expression Analysis, Technical Manual, 701021 Rev. 4)の適切な節に記載されている。
次にU95Av2は洗浄し、フルイディクス・ステーション(fluidics station)を用いてストレプトアビジンフィコエリスリン(SA−PE)で染色し、続いてアルゴンイオンレーザースキャナー内に置くことにより、蛍光標識された標的を励起し、放出されたエネルギーを蛍光画像に集める。個々の転写産物の有無は当業者に周知のして決定でき、例えばAffimetrix (USA)からのMicroArray Suite software(version 4.0, Scanalytics, USA)、GeneChip(登録商標)System Gene Array scanner、GeneChip(登録商標)Fluidics stations、およびGeneChip(登録商標)Workstation system、GeneChip(登録商標)hybridization oven(すべてAgilent Technologies, USAより)を用いて決定できる。
【0083】
ヒトの鼻粘膜中の代謝酵素の転写産物は、上記のようにU95Av2を用いて同定され、上の表1に含まれる。U95Av2を用いた結果は、嗅粘膜組織の細胞に存在する転写産物に由来する、特定の遺伝子配列を増幅する特定のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、RT−PCRで確認することができる。成人vs胎児のRNA試料に由来するビオチン標識プローブによりもたらされた結果の間には、強い正の相関が観察される。
【0084】
RT−PCR
全体的遺伝子発現解析の代替として、RT−PCRおよび/またはリアルタイム定量RT−PCRを用いて、発現を解析すること、またはDNAマイクロアレイへのハイブリダイゼーションの後にさらに確認することも可能であり、これは当業者には明らかである。
【0085】
代謝酵素:クローニング、発現、精製および同定
代謝酵素の遺伝子をクローニングし、好適な宿主細胞に発現させて、当分野に周知の方法により、例えば下に記載のようにして、対応する組換えタンパク質(代謝酵素)をかかる宿主細胞に発現させて単離することもできる。
ヒト嗅粘膜から単離したRNAを逆転写して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による完全長cDNAクローンの増幅のための代謝酵素遺伝子に特異的な、好適なプライマーを設計する。代替的に、例えば肝臓など、十分な量および質でより容易に獲得できる他の組織からのRNAを用いてもよい。
【0086】
PCR産物を精製して、好適な複数クローニング部位を有するベクター、例えばpGEM−T(Promega Corp., U.S.A.)にクローニングする。代謝酵素遺伝子のヌクレオチド配列は、DNA塩基配列決定法により確認する。逆転写、プライマー選択、PCR増幅、PCR産物精製、PCR産物のクローニング、およびDNA塩基配列決定の方法は当業者に周知であり、例えばSambrook et al. (1989) “Molecular Cloning, A laboratory manual”, Cold Spring Harbor Laboratory PressおよびAusubel et al. (1987) “Current Protocols in Molecular Biology”, John Wiley & Sons, Inc.に記載されている。
代謝酵素の遺伝子は、任意の好適な宿主細胞中、例えば、大腸菌、酵母菌、哺乳類細胞および昆虫細胞に異種発現することができ、これは当業者には明らかであり、例えばヒトCYP遺伝子についてはLee et al. (1996) Meth. Enzymol. 272: 86-95およびこの中の参考文献に記載されている。
【0087】
遺伝子の発現および対応するタンパク質の産生は、例えば昆虫細胞中で行うことができる。好適な昆虫細胞は、例えば、Sf9細胞(Invitrogen Corp., U.S.A., アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)番号CRL−1711)である。昆虫細胞での産生には、遺伝子は例えば、バキュロウィルスベクターpBlueBac4.5(Invitrogen Corp., U.S.A.)にクローニングしてもよい。
この方法は、当分野に周知のようにして行うことができ、例えば、以下の参考文献に記載されている:Kitts and Possee (1993) Bio Techniques 14:810-817;King and Possee (1992) “The Baculovirus Expression System: A laboratory guide”, Chapman and Hall, New York, U.S.;O’Reilly et al. (1992) “Baculovirus Expression Vectors: A laboratory manual”, W.H. Freeman and Company, New York, U.S.;Richardson (Waker, Ed.) (1995) “Baculovirus Expression Protocols”, Methods in Molecular Biology, Vol.39, Humana Press, Totowa, U.S.A.。
【0088】
組換えバキュロウィルスの産生は、例えば以下に概説するようにして行うことができる。Sf9細胞に、ベクターであるpBlueBac4.5ベクターを含む組換え代謝酵素遺伝子を、必須のウィルスDNA配列を含む線状化Bac−N−BlueDNAと共に同時形質移入する。
設計されたpBlueBac4.5およびBac−N−BlueDNAの組換えが成功すると、完全長βガラクトシダーゼ(lacZ)遺伝子が形成され、発色性基質X−gal(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシド)の存在下で、組換えウィルスを青色プラークとして同定することができ、これは、IPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)と共に用いて、βガラクトシダーゼ活性を検出するのに用いられる(Kitts and Possee (1993) Bio Techniques 14:810-817)。単一のプラークを単離し、組換えウィルスを増殖してPCRにより分析する。高力価の大量のウィルスストックを得るには数段階のウィルス増幅ステージが必要であり、該ストックはSf9細胞感染および酵素産生に用いられる。
【0089】
昆虫細胞は、例えば以下に記載のようにして、培養してバキュロウィルスに感染させることができる。感染のためには、ウィルスは0.01〜10の感染多重度(MOI)レベルで、好適には0.5〜5のMOIで、1ml当たり1.0〜2.5×10の細胞密度で、例えば1.5〜2.0×10細胞/mlで、用いることができる。細胞を、フラスコおよびスピナーで、室温付近またはやや高い温度、通常は27℃にて、インキュベーションフード内で当業者に知られた好適な培地中で培養する。細胞は、上記の量で0.01〜10のMOIレベルのウィルスを添加することにより、感染させる。目的タンパク質の最適な産生量および特定の活性は、幾つかのMOIレベルを試験することにより確認することができる。
産生されるタンパク質の発現レベルまたは濃度および産量は、該タンパク質に対して産生された抗体を用いて、当分野で周知の免疫ブロット法またはウェスタンブロット法に従って決定することができ、該方法は例えば以下に記載されている:Sambrook et al. (1989) “Molecular Cloning, A laboratory manual”, Cold Spring Harbor Laboratory PressおよびAusbel et al. (1987) “Current Protocols in Molecular Biology”, John Wiley & Sons, Inc.。
【0090】
産生された代謝酵素の活性は、酵素アッセイにより試験する。アッセイの特徴は、用いる特定の酵素により変化し、従って調節すべき因子は、当業者に明らかなように、緩衝液、補因子、pH、塩濃度、温度、および基質を含む。
表1および表2に挙げた代謝酵素の酵素反応条件は、当分野に知られている。CYP2A13の酵素アッセイは、本明細書で上記したように、試験化合物の代わりに例えばクマリンなどの標準基質を用いて行う。
【0091】
ヘム補因子を含有するCYP酵素に対して、培養物には、組換えバキュロウィルスの添加の約24時間後にヘミン(最終濃度:約0.001〜0.005mg/ml)を補い、スピナーフラスコでさらに48時間インキュベートする。ヘミン(例えば塩化ヘミンまたはアルギン酸ヘミン)の代わりに、他のヘムサプリメントを培養培地に加えてもよく、例えば5−アミノレブリン酸およびクエン酸鉄を含むヘム前駆体などである。
MOIの値、ヘミン濃度、細胞密度およびインキュベーション時間は、最適な結果のために調整すべきであり、これは当業者には明らかであり、例えば以下に記載されている:Phillips and Shephard (1998) “Methods in Molecular Biology, Vol.107: Cytochrome P450 Protocols”, Humana Press, Totowa, New Jersey;およびJohnson and Waterman (1996) “Methods in Enzymology, Vol.272: Cytochrome P450 (Part B)”, Academic Press, San Diego, California。
【0092】
膜結合タンパク質の発現およびそれらの精製は、当業者に周知である。CYP酵素などの膜結合タンパク質は、ミクロソームから調製でき、例えば、Zhang et al. (1997) Arch. Biochem, Biophys. 340:270-278に記載されている。代替的に、細胞溶解は、超音波分解またはポリトロンミキサーを用いたホモジナイズ法、またはこれら2つの組合せにより行うことができる。再懸濁ミクロソームは、CYP一酸化炭素(CO)スペクトルを決定するために用いて、調製物1ml当たりに含まれるCYP濃度を決定する;これはOmura and Sato (1964) J. Biol. Chem. 239:2370-2378に記載されている。
酵素活性は酵素アッセイにより確認され、例えば本明細書に上記されているように、試験基質を加えることにより行い、該試験基質は、例えばクマリン基質などの容易に分析可能な代謝産物を産生するが、このクマリン基質は、ヒドロキシル化の際に代謝酵素CYP2A13によりその代謝物7−ヒドロキシ−クマリン(ウンベリフェロン)を形成する。
【0093】
CYPタンパク質を含むミクロソーム、およびP450レダクターゼを含むミクロソームを、本明細書上記のようにして、CYP酵素を用いる代謝反応のために混合する。代替的に、Sf9細胞を、CYPタンパク質およびP450レダクターゼ用の組換えバキュロウィルスに同時感染して、両方の酵素を含む膜を産生することができる。
これは、物理的に位置が近い酵素という利点を有し、これは触媒活性に有利である。同時感染には、用いる2種のウィルスの最適な割合およびミクロソーム調製物中の酵素活性を、当業者に明らかな方法で決定する。
CYPミクロソームが別のP450レダクターゼミクロソームに組み合わされた場合、後者は上記のように組換えバキュロウィルスを用いてSf9中に産生することができ、または、例えばGentest(BD Biosciences, Gentest(登録商標), U.S.)から購入してもよい。代替的に、450レダクターゼを含むミクロソームは、大腸菌中に、Shen et al. (1989) J. Biol. Chem. 264:7584-7589に記載のようにして産生させてもよい。
【0094】
多型を用いた代謝法
遺伝子は個々人で異なることができ(遺伝的多型、例えば単一ヌクレオチド多型(「SNP」))、代謝酵素遺伝子における小さな変化は、対応する酵素の活性および特性に重大な影響を及ぼす可能性がある。
鼻粘膜で発現される代謝酵素に対して、これらはフレーバーおよび香料化合物の代謝における違い、および、フレーバーおよび香料の知覚における違いを含む可能性がある。
【0095】
遺伝的多型の同定、例えばSNPの同定は、当業者に明らかであり、目的構造遺伝子にある染色体領域の増幅および配列決定により行うことができ、例えばZhang et al. (2002) Journal of Pharmacology and Exp. Therapeutics, 302:416-423;Nagata and Yamazoe (2002) Drug Metabol. Pharmacokin. 17:167-198;Roden and George (2002) Nature Reviews Drug Discovery, 1:37-44に記載されている。
代謝酵素CYP2A13については、遺伝子の有用な遺伝的多型変異体は表3に挙げられている。これらおよびさらなる変異体は、Zhang et al. (2002) Journal of Pharmacology and Exp. Therapeutics, 302:416-423に記載されている。
【0096】
目的代謝酵素の遺伝子の同定された変異体は、本明細書上記のように、対応する代謝酵素変異体のクローニング、発現および精製に用いることができる。かかる代謝酵素変異体は次に、本明細書上記のように代謝法において用いることができる。
したがって、他の観点において、本発明は、代謝酵素CYP2A13について香料およびフレーバーを本明細書に記載のように同定するための方法であって、1または2種以上の代謝酵素の複数の多型版を含む前記方法を提供する。
【0097】
本明細書上記の本発明による方法に対して、代謝産物の精製法および分析法は、用いる酵素および基質に応じて、また得られる産物に応じて、当業者に直ちに明らかであるように調製することができる。
例えば、抽出に用いられる有機溶媒の種類および、分光光度分析および/または分光蛍光分析のための波長を含む異なる分析パラメータも、調節する必要ある。同様に、反応スケールも調節可能である。好適なスケールは、マイクロタイタープレート中で、例えば96−、384−、または1536−ウェルの形式を有する。これらの形式は、一連の反応を平行して行うためには特に有用である。
香料またはフレーバー化合物の代わりに、本発明の代謝法は、嗅上皮または口の上皮にある受容体に結合する他の化合物を同定するために用いることができる。例えば、代謝法はフェロモンおよび熱受容体のリガンドを同定するために用いることができる。当業者に明らかなように、in vitro受容体スクリーンまたは官能試験法は、当業者に明らかであるように同定すべき化合物の性質に応じて、調節する必要がある。
【0098】

例1
ヒトCYP2A13をコードする遺伝子のクローニングおよび発現、ならびにCYP2A13ミクロソームの産生および単離
総RNAを、ヒト嗅上皮からRNeasy midi Kit(Qiagen, Germany)を用いて単離する。単離されたRNAは、Superscript II (MMLV) Reverse Transcriptase(Gibco, USA)を用いて逆転写する。この反応は、19.5ngのポリ(A)mRNAおよびオリゴ(dT)プライマーを20μlの総容量で用いて行い、cDNA産物を得る。
【0099】
cDNA産物を、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、CYP2A13遺伝子に特異的なプライマーを用いて、72℃の延長温度で25μlの容量で、以下のように4回増幅する。最初のPCR反応において、1μlの反応容量のcDNAを、プライマーNo.1(5’−ATATCCTTAGGCGACTGAGG−3’)(5’2A13)およびプライマーNo.2(5’−CAGGGCTGCTTCTGGTGA−3’)(3’2A13ext)と共に、67℃のアニーリング温度で35サイクル用いる。2回目のネステッド(入れ子式)PCR反応を、1μlの反応容量の最初のPCR反応産物および、プライマーNo.3(5’−ATATCCTTAGGCGACTGAGG−3’)(5’2A13)とプライマーNo.4(5’−GTCTTGATGTCAGTCTGGCG−3’)(3’2A13int)を用いて、65℃のアニーリング温度で30サイクル行う。3回目のPCR反応を、延長のために、1μlの反応容量の2回目のPCR反応産物および、プライマーNo.5(5’−TCTGGTGACCTTGCTGGCCTGCCTGACTGTGATGGTCTTGATGTCTGTTTGG−3’)(CYP−1−2F)とプライマーNo.6(5’−GGGATCGTGGCAAAGCCCACGTGTTTGGGGGACACGTCAATGTCCTTAGGCGACTGAGGA−3’)(CYP−5−3R/1)を用いて、62℃のアニーリング温度で35サイクル行う。4回目のPCR反応を、延長のために、1μlの反応容量の3回目のPCR反応産物および、プライマーNo.7(5’−TATGAATTCTATGCTGGCCTCAGGGCTGCTTCTGGTGACCTTGCTGGCCT−3’)(CYP−1−3F)とプライマーNo.8(5’−AGAAGCTTATCAGCGGGGCAGGAAGCTCATGGTGTAGTTTCGTGGGATCGTGGCAAAGCCCA−3’)(CYP−5−4R)を用いて、62℃のアニーリング温度で35サイクル行う。プライマーNo.7は制限酵素EcoRIの認識部位を含み、プライマーNo.8は、制限酵素HindIIIの認識部位を含む。4回目のPCR反応産物は、CYP2A13遺伝子の全オープンリーディングフレームにわたっており、これはEcoRIおよびHindIIIの制限酵素認識部位に隣接している。
【0100】
前記4回目のPCR反応産物はEcoRIおよびHindIII制限酵素で消化されて、全オープンリーディングフレームを含むDNA断片をもたらす。このDNA断片を、QIAquick PCR Purification Kitのカラム(Qiagen, Germany)を用いて精製し、クローニングベクターpGEM−T(Promega Corp, U.S.A.)中にクローニングする。
クローニングされたDNA断片のヌクレオチド配列を、CYP2A13に対する既知のcDNA配列(GenBankアクセッション番号AF209774)と比較する。幾つかのクローンの配列が決定され、PCR中に生じる配列エラーによる単一塩基ペアの変異を有することが示されている。既知の配列と比較することにより、数個のクローンの正しい断片を選択して組合せ、EcoRIおよびHindIIIを用いてクローニングベクターpUC19の複数クローニング部位にサブクローニングし、正しい完全配列を得る。CYP2A13のcDNAを含む組換えpUC19ベクターをEcoRIおよびHindIIIで消化し、CYP2A13のcDNA配列を含むDNAインサートを発現ベクターpBlueBac4.5(Invitrogen Corp., USA)に結合して、組換えバキュロウィルス発現ベクターを得る。
【0101】
Sf9昆虫細胞に、CYP2A13のcDNAを含む組換えpBlueBac4.5ベクターを、組換えバキュロウィルスを産生するための必須ウイルスDNA配列を含む線状化Bac−N−BlueのDNA(Invitrogen Corp., USA)と共に、同時形質移入する。トランスフェクション混合物を1.5mlの微小遠心管に調製するために、10μl(0.5μg)のBac−N−BlueのDNAを、4μlの組換えプラスミド(1μg/μl)および1mlのGrace昆虫培地(サプリメントまたはウシ胎仔血清の添加なし、Invitrogen Corp., USA)、および20μlのInsectinPlus Liposomes(Invitrogen Corp., USA)と混合する。トランスフェクション混合物を10秒間激しくボルテックスし、室温で15分間インキュベートする。形質移入のために、2×10の対数期のSf9細胞を60mmディッシュに播種し、25分間放置して完全に付着させる。培地を注意して除去し、トランスフェクション混合物を60mmディッシュ中の細胞に1滴ずつ加える。ディッシュを室温で4時間、1分当たり約2回の左右運動に調節された低速で左右にロッキングするプラットフォーム上で、インキュベートする。4時間のインキュベーションの後に、1mlのTNM−FH培地(Invitrogen, USA)を60mmディッシュに加え、ディッシュを密封したビニール袋に入れ、27℃でインキュベートする。組換えpBlueBac4.5およびBac−N−Blue DNAの形質移入により、完全長ベータガラクトシダーゼ(lacZ)遺伝子の形成がもたらされ、CYP2A13のcDNAを含む組換えウィルスが、発色基質X−galの存在下で青色プラークとして同定される。単一プラークからの組換えウィルスを単離し、増殖して、プライマーNo.1およびNo.2を用いてPCRにより解析する。組換えウィルスの増殖は、数回の連続した細胞感染により、高い力価(2×10PFU/ml)の大量のウィルスストックを得るまで実施する。
【0102】
細胞はインキュベーター内約27℃で、スピナーに入れて培養する。感染には、感染多重度(MOI)2を用いる。感染に続いて、培養物には、組換えバキュロウィルスの添加の24時間後にヘミン(最終濃度0.003mg/ml)を補充し、培養物はさらに48時間、スピナーフラスコ内でインキュベートする。CYP酵素を含むミクロソームは、Zhang et al. (1997) Arch. Biochem. Biophys., 340:270-278に記載のようにして、調製および精製する。再懸濁させたミクロソームを用いて、CYP一酸化炭素(CO)スペクトルを決定し、調製物1ml中に含まれるCYPの濃度を決定するが、これはOmura and Sato (1964) J. Biol. Chem. 239:2370-2378の記載のようにして行う。
【0103】
例2A
試験化合物のヒトCYP2A13とのインキュベーションおよび代謝産物の同定
試験化合物(CYP2A13の潜在的基質)を、シトクロムP450レダクターゼの存在下で、CYP2A13と共にインキュベートする。CYP2A13は、例1に記載のようにして調製されるミクロソームの形態で用いる。ミクロソーム(BD Biosciences Gentest, USA)に含まれた100pmolのヒト組換えNADPH−P450レダクターゼを、50pmolのCYP2A13ミクロソームと共に氷上で15分間インキュベートする。新しく超音波分解したジラウリルホスファチジルコリン(DLPC, Fluka, Switzerland)を原液(水中1mg/ml)から加え、最終濃度を0.025mg/ml(最終反応容量0.5ml)とし、混合物を氷上で15分間インキュベートする。リン酸カリウム緩衝剤(1M、pH7.4)および水を加えて、最終容量0.5ml中で緩衝剤濃度を0.1Mとする。試験化合物を、アセトニトリル中50mMの原液として調製する。試験化合物を原液から加え、最終濃度を0.3mMとする。各試験化合物につき2つの試料を調製し、1つの試料は酵素反応が起こらない陰性対照とする。1つの試料に、水に溶解した50mMのニコチンアミド−アデニン−ジヌクレオチドリン酸(NADPH、Fluka, Switzerland)の溶液を0.02ml加え、酵素反応を開始させる。2番目の試料(対照)には、NADPHの代わりに水0.02mlを加える。試料は37℃で60分間インキュベートする。
【0104】
60分のインキュベーションの後、試料は氷上で10分間冷却し、有機溶媒メチル―t−ブチル−エーテル(MTBE)0.3mlを用いた抽出により、試験化合物およびその代謝産物を酵素を含む水相から分離して、酵素反応を停止させる。MTBE断片1μlをGCおよびGC−MSで分析して、酵素反応には存在するが、対照には存在しない代謝産物を同定する。
【0105】
例2B
2−メトキシアセトフェノンのヒトCYP2A13とのインキュベーションおよび代謝産物の同定
例2Aに記載された手順を、2−メトキシアセトフェノン(Fluka, Switzerland)を試験化合物として用いて行う。50mMの原液をアセトニトリル中に調製する。試料は0.3mMの2−メトキシアセトフェノンを含む。酵素と共にインキュベーションした後の試料のGC分析により、試験化合物とは異なる滞留時間の追加のピークが、試料には存在するが、対照には存在しないことが示される。GC−MS分析により、このピークが2−ヒドロキシアセトフェノンとして同定される。この結果は、2−ヒドロキシアセトフェノン(Fluka, Switzerland)の参照試料のGCおよびGC−MS分析により、確認される。
【0106】
例3A
試験化合物の、ヒトCYP2A13と標準基質とのインキュベーション、および基質またはモジュレーターとしての同定
試験化合物と酵素のインキュベーションを、次の修正を加えて例2Aに記載されたようにして行う:試験化合物の最終濃度を0.2mMとする。標準基質として、クマリンを最終濃度0.05mMで用いる。最終総容量は0.25mlであり、これはマイクロタイタープレートに好適である。酵素反応は、水に溶解した50mMのNADPH溶液を0.01ml加えることにより開始させる。試料は37℃で60分間インキュベートする。60分後、酵素反応は、0.02mlの冷却50%トリクロロ酢酸(TCA)を添加し、4℃で15分間インキュベートして停止させる。水に溶解した50mMのNADPH溶液0.01mlを、対照に加える。変性タンパク質および他の不溶解性部分を、遠心分離により分離する(10分間、560×g、室温にて)。
【0107】
試料は分光蛍光分析により分析し、これにより、励起波長340nmおよび発光波長480nmにおいて、標準基質クマリンからの酵素産物としてウンベリフェロンの形成を検出することができる。対照と比べて、480nmにおける蛍光シグナルの変化(増加または減少)は、試験化合物またはその代謝産物が、酵素活性に影響するか、または標準基質の産物の形成に影響することを示す(試験化合物は基質またはモジュレーターである)。
ウンベリフェロンに由来する蛍光における減少を示す試験化合物に対して、クマリンなしで酵素と共にインキュベーションし、代謝産物をGCおよびGC−MSを用いて例2Aに記載のようにして分析する。陰性対照と比較しての追加のピークの同定は、試験化合物の代謝産物の形成を示唆する。代謝産物はGC−MSにより同定する。1または2種以上の代謝産物の同定は、試験化合物がCYP2A13の基質であることを示す。
【0108】
インキュベーション後のクマリンの存在下でのウンベリフェロン由来の蛍光の減少と、GCおよびGC−MS分析における追加のピークの欠如は、試験化合物がCYP2A13活性の負のモジュレーター(阻害剤または負のアロステリック調節剤)であることを示す。
蛍光の増加をもたらす試験化合物については、試験化合物またはその代謝産物の少なくとも1種は、酵素活性の正のモジュレーター(正のアロステリック調節剤)である。代謝産物がない場合は、GCおよびGC−MS分析における追加のピークの欠如により示されるように、試験化合物はCYP2A13活性の正のアロステリック調節剤である。
【0109】
代謝産物の同定は、それらの構造の解析により行う。構造は、対応するピークのMSパターンと、MSデータベースとの比較により明らかとなる。代替的には、代謝産物を単離して、構造をNMRにより明らかにする。
同定する代謝産物は、単離するか、購入するか、または合成する。代謝産物は、上記の元の試験化合物に対するのと同様にして分析し、調節効果がこれらの代謝産物自体に基づくものかどうかを決定する。
【0110】
同定されたモジュレーターはさらに以下のようにして確認する。モジュレーターは、上記の試験化合物に対するのと同様にして、以下の変更を加えて処理する:2−ヒドロキシアセトフェノンに酵素的に反応する2−メトキシアセトフェノンを、標準基質として用いる。
標準基質2−メトキシアセトフェノンの濃度は0.05mMである。モジュレーターの幾つかの試料を、種々の濃度で、例えば、0、0.01、0.02、0.05、0.1、0.2および0.5mMで調製する。反応は例えば、1.5mlの反応試験管で0.5mlの容量で行う。例2Aに記載したようにして反応を停止させ、抽出し、1μlのMTBEをGCおよびGC−MSにより分析する。
【0111】
モジュレーターの調節活性を、モジュレーターの濃度に依存した用量依存的酵素反応が起こることにより、確認する。
同定された負または正のモジュレーター(阻害剤、負のアロステリック調節剤、正のアロステリック調節剤)を以下のようにしてさらに確認する。
【0112】
モジュレーターは、以下の修正と共に上記のようにして処理する。クマリン濃度は0.05mMである。モジュレーターの幾つかの試料を、種々の濃度で、例えば、0、0.01、0.02、0.05、0.1、0.2および0.5mMで調製する。最終総容量は0.25mlであり、これはマイクロタイタープレートに好適である。酵素反応は、水に溶解した50mMのNADPH溶液を0.010ml加えることにより開始させる。試料は37℃で60分間インキュベートする。60分後、酵素反応を、0.02mlの冷却50%トリクロロ酢酸(TCA)を添加し、4℃で15分間インキュベートして停止させる。水に溶解した50mMのNADPH溶液0.010mlを対照に加える。変性タンパク質および他の不溶解性部分を、遠心分離により分離する(10分間、560×g、室温にて)。
試料は分光蛍光分析により分析し、これにより、励起波長340nmおよび発光波長480nmにおいて、クマリンからの酵素産物としてウンベリフェロンの形成を検出することができる。対照と比べた480nmにおける蛍光シグナルの減少は、試験化合物が酵素活性に影響していることを示し、代謝産物が検出されなかったため、阻害剤の性質を確認する。
【0113】
例3B
N,N−ジメチルアニリンの、ヒトCYP2A13とクマリンとのインキュベーション、および基質としての同定
N,N−ジメチルアニリンを、例3Aに記載されたようにして試験化合物として用いる。陰性対照と比較した場合に、ウンベリフェロンの形成の減少を検出する。GCおよびGC−MS分析により追加のピークの形成が示され、これは、N,N−ジメチルアニリンの代謝産物であるN−メチルアニリンと同定される。従って、N,N−ジメチルアニリンはCYP2A13の基質として同定される。
【0114】
例4
RT−PCRによる、ヒト嗅粘膜におけるCYP2E1遺伝子発現の同定
RNAを単離して逆転写し、cDNAを例1に記載のようにして調製する。
cDNA産物は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によりCYP2E1遺伝子の内部領域に特異的なプライマーを用いて増幅する。1μlのcDNAを、プライマーNo.9とプライマーNo.10と共に、アニーリング温度55℃、延長温度72℃で50サイクル、反応容量25μlで用いる。1μlのPCR産物をネステッドPCRにおいて、プライマーNo.11(5’−CTACAAGGACGAGTTCTC−3’)(CYP2E1−5−int)とプライマーNo.12(5’−GAGTTGGCACTACGACTG−3’)(CYP2E1−3−int)を用いて、アニーリング温度55℃、延長温度72℃で30サイクル、反応容量25μlで用いる。2回目のネステッドPCRからのPCR産物の、アガロースゲル電気泳動の分析により、予想された大きさの単一のDNAバンドが示され、これは、CYP2E1遺伝子がヒト嗅粘膜において発現されることを確認する。
【0115】
例5
CYP2E1をコードする遺伝子のクローニングおよび発現、ならびにCYP2E1ミクロソームの産生および単離
CYP2E1をコードする完全長遺伝子のクローニングのために、市販のヒト肝臓cDNAライブラリ(BD Biosciences Clontech, USA)を、PCR反応のテンプレートとして用いる。プライマーをコード配列の末端に結合するように選択し、その間の配列を増幅する。
PCR反応は、25μlの反応容量中、肝臓cDNAライブラリ0.2μlを用い、プライマー配列No.9(5’−GATGTCTGCCCTCGGAGTG−3’)(CYP2E1−5−full)およびプライマー配列No.10(5’−CTCATGAGCGGGGAATGAC−3’)(CYP2E1−3−full)を用いて、アニーリング温度55℃、延長温度72℃で35サイクル実施する。反応産物はQIAquick PCR Purification Kitのカラム(Qiagen, Germany)を用いて精製し、クローニングベクターpGEM−T−Easy(Promega Corp., USA)中にクローニングする。幾つかのプラスミドから、既知のCYP2E1コード配列を含むインサートの配列を、DNA配列決定により確認する。GenBankアクセッション番号J02843に対応する正しいCYP2E1コード配列を有する組換えクローンを選択し、EcoRIで消化し、CYP2E1のcDNA配列を含むDNAインサートを、発現ベクターpBlueBac4.5(Invitrogen Corp., USA)に結合し、正しい配置を確認して、組換えバキュロウィルス発現ベクターを得る。組換えウィルスの産生、昆虫細胞の感染およびCYP2E1含有ミクロソームの調製を、例1に記載のようにして、上記のプライマーNo.9および10を用いて行い、単一の単離プラークからの組換えウィルスを分析する。
【0116】
例6
ヒトカルボキシルエステラーゼ(CE)をコードする遺伝子のクローニングおよび発現、ならびにCEミクロソームの産生および単離
嗅粘膜におけるヒトカルボキシルエステラーゼ(CE、GenBankアクセッション番号L07765)の発現を、本発明に記載の遺伝子アレイ分析における正のシグナルにより確認する(表1参照)。CEをコードする完全長遺伝子をクローニングするために、市販の肝臓cDNAライブラリ(BD Biosciences, Clontech, USA)をテンプレートとして用い、プライマーをコード配列の末端に設計する。PCR反応を、25μlの反応容量中、0.2μlの肝臓cDNAライブラリを用いて、プライマー配列No.13(5’−GATGTGGCTCCGTGCCTTTATC−3’)(CE−5−full)とプライマー配列No.14(5’−CTTCATTCACAGCTCTATGTGTTC−3’)(CE−3−full)を用いて、アニーリング温度55℃、延長温度72℃で30サイクル実施する。反応産物はQIAquick PCR Purification Kitのカラム(Qiagen, Germany)を用いて精製し、クローニングベクターpGEM−T−Easy(Promega Corp., USA)中にクローニングする。幾つかのプラスミドから、既知のCEコード配列を含むインサートの配列を、DNA配列決定により確認する。正しいCE配列を有する組換えクローンを選択し、EcoRIで消化し、CEのcDNA配列を含むDNAインサートを発現ベクターpBlueBac4.5(Invitrogen Corp., USA)に結合し、正しい配置を確認して、組換えバキュロウィルス発現ベクターを得る。組換えウィルスの産生、昆虫細胞の感染およびCE含有ミクロソームの調製を、例1のCYPについて記載したようにして上記のプライマーを用いて行い、単一の単離プラークからの組換えウィルスを分析するが、ただし、CEがこの補因子を含まないためヘミンの添加は省略する。
【0117】
例7A
試験化合物の、ヒト組換えカルボキシルエステラーゼ(CE)と標準基質p−ニトロフェニル酢酸とのインキュベーション、および基質またはモジュレーターとしての同定
試験化合物(CEの潜在的基質またはモジュレーター)とCEのインキュベーションを、例えばp−ニトロフェニル酢酸などの標準基質の存在下で行う。p−ニトロフェニル酢酸の加水分解産物はp−ニトロフェノールであり、これは405nmでの吸収を測定することにより、検出可能である。CEを、例6に記載のようにして調製したミクロソームの形態で用いる。
【0118】
インキュベーション混合物は、総容量0.2ml中に4mUのCEに相当するCE酵素を含むCEミクロソーム(1Uは、pH8.0、25℃において、1分当たり1.0μmolのエチルブチラートをブチラートおよびエタノールに加水分解する)、0.1mMのp−ニトロフェニル酢酸、および50mMのリン酸カリウム緩衝剤(pH7.2)中の試験化合物を含む。試験化合物は異なる濃度で、例えば、0、0.05、0.1、0.25、0.5、1mMで用いて、用量依存効果の検出を図る。試験化合物を含まない試料は、陰性対照となる。試料は25℃でインキュベートし、405nmにおける吸収の増加を、5分毎に30分間測定する。
陰性対照と比較して、試験化合物を含む試料におけるp−ニトロフェノールの形成の減少と、したがって吸収の減少は、競合基質または負のモジュレーター(阻害剤または負のアロステリック調節剤)の存在を示唆する。吸収の増加は、CEの正のアロステリック調節剤の存在を示唆する。化合物および/または代謝産物のさらなる同定および確認は、例3Aに記載された方法と同様にして、GCおよびGC−MSを用いて行い、標準基質p−ニトロフェニル酢酸の不在のもとでのアッセイ結果を分析することができる。
【0119】
例7B
乳酸メンチルの、ヒト組換えカルボキシルエステラーゼ(CE)と標準基質p−ニトロフェニル酢酸とのインキュベーション、および基質またはモジュレーターとしての同定
乳酸メンチルを、例7Aに記載のようにして試験化合物として用いる。p−ニトロフェニル酢酸の酵素反応産物の濃度依存的減少を、陰性対照と比較して検出する。
CEとのインキュベーションを、標準基質の不在下で、10mUのCEを用い、0.5mlの総容量で、0.25mMの基質および50mMのリン酸カリウムをアッセイ緩衝剤として用いて行う。25℃で30分間のインキュベーションの後、試料をMTBEで抽出し、GCおよびGC−MSで分析する。
GCおよびGC−MS分析により、メントールと同定される追加のピークの形成が示され、これは乳酸メンチルの代謝産物である。したがって、乳酸メンチルはヒトCEの基質として同定される。
【0120】
例8
hTRPM8をコードするヒト遺伝子のクローニングおよび発現、ならびにhTRPM8を用いる受容体スクリーン
hTRPM8をコードする遺伝子は、ラットの冷感およびメントール受容体(CMR)およびマウス受容体TRPM8のヒトオルソログである。
ヒト後根神経節総RNA(Stratagene, USA)を、Superscript II (MMLV) Reverse Transcriptase(Invitrogen Inc., USA)を用いて逆転写する。反応は、テンプレートとしての1μgの総RNAと、オリゴ(dT)プライマーを用いて、総容量20μlで行い、cDNA産物を得る。
【0121】
ヒトTRPM8のcDNA(GenBankアクセッション番号NM_024080)のコード領域を、PCRにより、プライマーNo.15(5’−GATGTCCTTTCGGGCAGCCAGG−3’)(hTMPR8−5−full)と、hTRPM8のコード領域の末端にアニールするプライマーNo.16(5’−TTTATTTGATTTTATTAGCAATCTC−3’)(hTMPR8−3−full)とを用いて増幅する。1μlのcDNA産物をテンプレートとして用い、PCR反応を、アニーリング温度55℃、延長温度72℃で、25μlの容量で35サイクル実施する。PCR産物はQIAquick PCR Purification Kitのカラム(Qiagen, Germany)を用いて精製し、クローニングベクターpGEM−T(Promega Corp., USA)中にクローニングする。
ヒトhTRPM8のcDNAを、pcDNA5(Invitrogen Inc., USA)にサブクローニングし、マウスTRPM8のcDNAに対してPeier et al.(Cell (2002) 108:705-715)に記載されているようにして、CHO−K1/FRT細胞中にFugene(Roche, Switzerland)を用いて形質移入する。形質移入したCHO−K1/FRT細胞を200μ/mlハイグロマイシン(Invitrogen Inc., USA)含有MEM培地中で生育させることにより選別する。hTRPM8のmRNAを発現する安定なCHO−K1/FRT細胞クローンが、ノーザンブロットにより同定される。これらのクローンにおけるcDNAの組み込み部位を、サザンブロットにより確認する。
【0122】
hTRPM8を発現する安定なCHO−K1/FRT細胞クローンを受容体スクリーンに用いて、この受容体のリガンドを同定する。これは、Peier et al.(Cell (2002) 108:705-715)によりマウスTRPM8のcDNAに対して記載されている方法と同様の方法で実施する。ガラスカバースリップ、24ウェルおよび96ウェル組織培養プレートを、細胞プレーティングに用いる。細胞には、カルシウムに高感度の蛍光染料、Fura−2アセトキシメチルエステル(Fura−2AM)を負荷する。試験化合物として、メントールまたは他の既知のリガンドを、CHO−K1/FRT細胞に適合する好適な緩衝剤に希釈する。この試料を、Peier et al.の記載のようにして受容体スクリーン中で用いる。細胞外カルシウムレベルの濃度依存的増加の検出は、そのリガンドによるhTRPM8の活性化を示唆する。
【0123】
例9
乳酸メンチルのカルボキシルエステラーゼとのインキュベーションおよび代謝産物の受容体リガンドとしての同定
CEの基質である乳酸メンチルを、CEと共にインキュベートする。対照は乳酸メンチルは含むが、CEは含まない。インキュベーションは、以下の変更を含めて例7Bに記載のようにして行う:25℃で30分間のインキュベーションの後、試料を氷上で10分間冷却し、遠心分離する。上澄みを空のウェルに移し、1容量の2×HEPES(4mMCa2+)で希釈する。希釈物は、例8に記載したように、受容体スクリーンの試験試料として用いる。
試験試料中にメントールが存在する場合、hTRPM8を発現するCHO−K1細胞において細胞外カルシウムレベルの増加が検出される。基質を含むがCEを含まない、したがって代謝物であるメントールを含まない対照中では、同様の増加は検出されない。これは、乳酸メンチルそれ自体が主要な受容体リガンドではなく、CEとの代謝反応が乳酸メンチルの代謝産物としてメントールを形成し、この代謝産物メントールが、乳酸メンチルに比べて、好ましいhTRPM8拮抗物質であることを示す。
【0124】
例10
オクタノールのアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)とのインキュベーション
ヒトのアルコールデヒドロゲナーゼは、広い範囲の脂肪族および芳香族アルコールを酸化することができる、アイソザイムの混成群として存在する。ヒト酵素の任意のアイソザイムを用いることができる。この例では、ヒト酵素の代わりにウマ肝臓ADH(EC1.1.1.1;Sigma-Aldrich, Switzerland)を用いる。オクタノールを、50mMのリン酸カリウム(pH8.5)および10mMのNAD+(Fluka, Switzerland)を含む1mlの反応容量中のADHと共にインキュベートする。オクタノールを0.1Mの濃度で加え、50mUのADHを添加して代謝反応を開始させ、25℃で30分間インキュベートする。管を遠心分離して任意の崩壊堆積物を分離し、上澄みをMTBEで抽出してGCおよびGC−MSによる分析を行う。酵素を含む反応物を対照と比較すると、GCの分析により追加のピークが示される。代謝産物は、GC分析およびGC−MS分析によりオクタナールと同定される。
【0125】
例11
オクタノールのアルコールデヒドロゲナーゼとのインキュベーションおよび代謝産物の受容体リガンドとしての同定
オクタノールを、例10に記載したようにしてアルコールデヒドロゲナーゼと共にインキュベートし、アルコールデヒドロゲナーゼなしの対照も同様にインキュベートする。酵素の存在下で、オクタノールの代謝産物であるオクタナールは例10に示すように存在する。
ラット嗅覚受容体17はGα15、16と共に、Krautwurst et al. (1998), Cell 95: 917-926に記載されているように、HEK293細胞中への同時形質移入により発現される。形質移入されたHEK293細胞はカバースリップ、24ウェル組織培養プレート、およびマイクロタイタープレート上にプレーティングする。これらのカバースリップおよびプレートを、Fura−2と共に例8に記載のようにインキュベートする。マイクロタイタープレートはKrautwurst et al. (1998)の記載のようにしてインキュベートする。
【0126】
代謝酸化反応が完了すると(例10に記載のように反応時間30分)、試料を氷上で10分間冷却して遠心分離する。上澄みは空の容器に移し、2×HEPES(4mMCa2+)で希釈する。この希釈物を、例8に記載のように、Gα15、16とラット嗅覚受容体17とを発現するHEK293細胞を用いた受容体スクリーンにおける試料として用いる。
蛍光記録を行って、細胞外と細胞質カルシウムレベルにおける任意の増加を監視する。
オクタナールは増加するがオクタノールは増加しない(酵素なしの対照)ことより、オクタノールが受容体を活性化できないのに対して、その代謝産物であるオクタナールはラット嗅覚受容体17の作動物質であることを示す。
【0127】
例12
スチレンオキシドのヒトミクロソームエポキシドヒドロラーゼ(EH)とのインキュベーションおよび代謝産物の同定
0.25mlの反応混合物(0.1Mのトリス−Cl、pH9)中の0.5mMのスチレンオキシドおよび0.2mg/mlのEH(25,000pmolのスチレンオキシドヒドロラーゼ活性/(分×mgタンパク質)(BD Bioscience, Gentest, US))を、37℃で30分間インキュベートする。酵素なしの対照も同様にインキュベートする。反応は、75μlのアセトニトリルを加えて混合物を氷上に置くことにより停止させ、混合物をMTBEで抽出し、GC−MSで分析する。試料中にはジオールの存在が見出されるが、対照中には見出されない。ジオールは、スチレンエポキシドが対応するジオールに加水分解されて形成される。
【0128】
例13
スチレンの、CYP2E1とエポキシドヒドロラーゼ(EH)との連続したインキュベーション、および代謝産物の同定
最初のインキュベーションステップにおいて、スチレンを、CYP2E1およびPORを含むバキュロウィルス感染のSf9昆虫細胞のミクロソーム膜と共にインキュベートし、第二のインキュベーションステップで、この試料をEHと共にインキュベートする。
最初のステップにおいて、3μlのスチレン(アセトニトリル中77mM)、425μlのリン酸カリウム緩衝剤(50mM、pH7.4)、16.5μlのMgCl、シトクロムP450レダクターゼ(BD Bioscience, Gentest, USから購入)を含む50pmolのCYP2E1、および水を混合して、総容量470μlを得る。30μlのNADPH(水中50mM)を試料に加え、対照には30μlの水を加える。試料および対照は、37℃で1時間インキュベートする。
【0129】
第二のステップにおいて、50μlの1Mトリス−Cl、pH9と、続いて0.4mg/mlのタンパク質(ヒトミクロソームエポキシドヒドロラーゼミクロソーム、25,000pmolのスチレンオキシドヒドロラーゼ活性/(分×mgタンパク質)BD Bioscience, Gentest, US)を加え、インキュベーションを30分間継続する。
第二のステップの後、100μlのアセトニトリルを試料および対照に加え、これらを氷上に置く。これにより酵素反応を停止させる。試料中の化合物をMTBEで抽出する。
【0130】
代替的に、2つの酵素をスチレンと共に同時にインキュベートすることもできる。この場合、以下の変更を適用する:緩衝剤の濃度は100mMリン酸カリウム(pH7.4)であり、第二のステップは行わず、ヒトミクロソームエポキシドヒドロラーゼミクロソームは最初のステップで加える。
代謝産物、すなわち、試料には存在するが対照には存在しない追加の化合物は、GC−MSにより同定される。同定された代謝産物は、スチレンエポキシドおよび対応するジオールである。スチレンエポキシドは、CYP2E1による、スチレンのスチレンエポキシドへの酸化により形成される。ジオールは、最初の代謝産物であるスチレンエポキシドとEHとのさらなる反応により、形成される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化合物またはその代謝産物を、フレーバーまたは香料として、またはフレーバーもしくは香料の前駆体として、または香料もしくはフレーバーの知覚のモジュレーターとして、またはかかる化合物に対する手掛かりとして同定する方法であって、最初のステップとして、
a)化合物と、デヒドロゲナーゼ、シトクロムP450酵素、エポキシドヒドロラーゼ、エステラーゼ、フラビン含有モノオキシゲナーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ、グルタチオンシンターゼ、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、オキシダーゼ、レダクターゼ、ロダネーゼ、スルファターゼ、スルホトランスフェラーゼ、UDP−グルクロノシルトランスフェラーゼ、カルボキシルエステラーゼからなる群から選択される少なくとも1種の代謝酵素、またはこれらの混合物との反応;および次のステップにおいて、
b)前記化合物またはその代謝産物の少なくとも1種を、香料またはフレーバーとして、またはフレーバーもしくは香料の前駆体として、または香料もしくはフレーバーの知覚のモジュレーターとして、またはこれらの対応する手掛かりとして、化学受容体を用いて同定すること、
を含む、前記方法。
【請求項2】
代謝酵素がシトクロムP450酵素である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
シトクロムP450酵素が、
【表1】

からなる群、またはこれらの混合物から選択される、請求項2に記載の方法
【請求項4】
1種または2種以上の請求項3に定義されたシトクロムP450酵素が、該酵素の多型形態である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
代謝酵素が、CYP2A13、CYP2E1、カルボキシルエステラーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、エポキシドヒドロラーゼからなる群、またはこれらの混合物から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
b)が、in vitro化学受容体スクリーンの方法により実施される、請求項1、2、3、4または5に記載の方法。
【請求項7】
b)が、代替的または付加的に、1または2以上のヒト被験者を用いる官能試験法により実施される、請求項1、2、3、4または5に記載の方法。
【請求項8】
代謝産物が、ガスクロマトグラフィ−オルファクトメーター法(GCスニッフ)またはオルファクトメーターを用いて同定される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
付加的に、物理化学的分析が、ガスクロマトグラフィ、ガスクロマトグラフィと質量分析、液体クロマトグラフィ、液体クロマトグラフィと質量分析、から選択される1種または2種以上の方法により実施される、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
a)が、標準基質の存在下で実施される、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
標準基質または標準産物が蛍光性である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
用いる受容体が、嗅覚受容体、味覚受容体、および冷感受容体からなる群から選択される、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2012−105655(P2012−105655A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−946(P2012−946)
【出願日】平成24年1月6日(2012.1.6)
【分割の表示】特願2007−521766(P2007−521766)の分割
【原出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【出願人】(501105842)ジボダン エス エー (158)
【Fターム(参考)】