説明

化学物質製造方法及び反応装置

【課題】光反応効率の良い化学物質製造方法及び反応装置を提供する。
【解決手段】エネルギー線源と、複数の化学物質供給路と、前記複数の化学物質供給路の末端が接続され、供給された前記化学物質を合流させるための合流部と、一方の端部が前記合流部に接続され、前記合流部から流入してきた流れを絞るための縮流部と、縮流部から流入してきた流れを外部に流出するための排出部とを備え、前記化学物質供給路の少なくとも一部に前記エネルギー線を透過させる透過部を有し、前記エネルギー線源は、エネルギー線が、前記透過部を透過して前記化学物質供給路の内部を流れる化学物質に照射されるように配置され、前記縮流部の断面積は、前記縮流部と前記合流部の接続部の合流部側の断面積よりも小さく、かつ、縮流部と排出部の接続部の排出部側の断面積よりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化学物質製造方法及び反応装置に関し、特に光などのエネルギー線を利用した化学物質製造方法及び反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光エネルギーを用いた化学反応は、良く知られており、この化学反応を利用した化学物質製造方法や反応装置がいろいろ提案されている。例えば、特許文献1に記載された微小構造体の製造方法は、第1の流路にエネルギー線硬化性モノマーと重合開始剤を含む第1の液体を供給する工程と、該第1の流路を包囲するように形成された第2の流路に第2の液体を供給する工程と、該第1の流路と該第2の流路とが合流する地点で該第1の液体と該第2の液体とを層流状態で接触させる工程と、該第2の液体を接触させた該第1の液体にエネルギー線を照射する工程とを含んでいる。これにより、所望の形状を有し、かつサイズばらつきが小さい微小構造体を歩留まり良く、簡便安価に形成することができるとしている。
【0003】
また、特許文献2に記載された光触媒担持マイクロリアクターは、光透過性材料で形成され微細な反応流路を有する反応器と、前記反応流路に形成された光触媒担持膜と、光照射装置と、を備え、反応基質Aの濃度と、光触媒担持膜の比表面積と、反応流路の光触媒担持領域は、目的生成物Dと中間生成物Cとが更に反応して副生成物を生成する前に、反応溶液が光触媒担持領域から脱出する関係に設定されている。これにより、反応液中の反応分子を効率よく反応させるとともに、選択的に目的生成物を得ることが可能になるとしている。
【0004】
更に、特許文献3に記載された光触媒系マイクロ反応装置は、光透過性材料から形成されたマイクロ流路を有するマイクロ反応器と、前記マイクロ流路の内面に設けられた光触媒の層と、を備え、反応原料が前記光触媒に対して低親和性である場合、前記反応原料が前記マイクロ流路の内面に沿って流れ、気体原料が中央部を流れる状態のパイプフローを形成可能に構成されている。これにより、光触媒に対して低親和性の原料液体であってもマイクロ流路内で光触媒表面における存在割合を効果的に高めることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−90306号公報
【特許文献2】特開2007−313426号公報
【特許文献3】特開2008−86993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、光反応を行わせる場合、液中に存在する化学物質に確実に均一な光エネルギーを与えることは困難であった。例えば、特許文献1から3に記載の方法では、マイクロリアクターの壁面近傍の化学物質にエネルギーが供給されその化学物質は活性化されるが、実際の反応場にその化学物質が分子拡散するまでの間に与えられたエネルギーは散逸してしまい、化学反応の効率が悪くなるという課題があった。
【0007】
本発明は、かかる実情に鑑み、活性化された化学物質が活性を失う前に反応相手と出会う確率を上げ、反応効率を高めた化学物質製造方法及び反応装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の課題は、下記の各発明によって解決することができる。
【0009】
すなわち、本発明の反応装置は、エネルギー線を放射するエネルギー線源と、
化学物質を供給するための複数の化学物質供給路と、前記複数の化学物質供給路の末端が接続され、供給された前記化学物質を合流させるための合流部と、一方の端部が前記合流部に接続され、前記合流部から流入してきた流れを絞るための縮流部と、前記縮流部のもう一方の端部に接続され、縮流部から流入してきた流れを外部に流出するための排出部と、を備え、前記化学物質供給路の少なくとも一部に前記エネルギー線を透過させる透過部を有し、前記エネルギー線源は、前記エネルギー線源から放出されたエネルギー線が、前記透過部を透過して前記化学物質供給路の内部を流れる化学物質に照射されるように配置され、前記縮流部の断面積であって前記縮流部内の流れ方向に垂直な面の断面積は、前記縮流部と前記合流部の接続部の合流部側の断面積よりも小さく、かつ、縮流部と排出部の接続部の排出部側の断面積よりも小さいことを主要な特徴としている。
【0010】
これにより、合流部からの流れが絞られ、狭い縮流部を化学物質が通過するので、エネルギー線によって励起された化学物質同士が出会う確率を増やすことができる。つまり、縮流部においては、化学物質の活性化状態が維持されている短時間のうちに、反応する化学物質同士が出会う確率を増やすことができるので、光反応を効率的に行わせ、光反応を促進することが可能になる。
【0011】
また、本発明の反応装置は、前記エネルギー線源を前記化学物質供給路の数だけ備え、前記化学物質供給路ごとに前記エネルギー線源が配置されたことを主要な特徴としている。
【0012】
これにより、反応効率を上げることができる。また、化学物質供給路ごとに、エネルギー線の種類、強度を変えることができるので、反応収率アップという効果も有する。
【0013】
更に、本発明の反応装置は、前記エネルギー線源が1つであり、1つの前記エネルギー線源で、全ての前記化学物質供給路内の化学物質にエネルギー線を照射するように前記エネルギー線源が配置されたことを主要な特徴としている。これにより、反応効率や反応収率を余り低下させないで、安価な装置を製作することができる。
【0014】
更にまた、本発明の反応装置は、前記合流部も、前記エネルギー線を透過する透過部を備え、前記合流部内の化学物質にエネルギー線を照射するためのエネルギー線源を備えることを主要な特徴としている。これにより、流路内部に流れ、到達エネルギー量が減衰した状態でも照射時間を長く保つことができると共に、エネルギー線の供給部構造がシンプルになり、安価に装置を製作することができる。
【0015】
また、本発明の反応装置は、前記化学物質供給路内において、前記透過部と対向する内面にミラー構造を有し、前記透過部を透過してきたエネルギー線が、前記ミラー構造で反射され、前記化学物質供給路内の化学物質を再度照射する構造を有することを主要な特徴としている。
【0016】
これにより、エネルギー線は、透過部を透過した後、化学物質供給路内部の化学物質を照射し、ミラー構造によって反射された後、再度化学物質を照射するので、化学物質を効率よく励起状態にすることができる。
【0017】
本発明の化学物質の製造方法は、複数の流路に化学物質を流すステップと、前記流路に前記化学物質が流れている間に、前記化学物質にエネルギー線を照射し、前記化学物質を励起状態にするステップと、前記複数の流路を流れている励起状態にされた化学物質を1つの合流部で合流させて、化学反応を始めさせるステップと、前記合流部で合流した化学物質を、化学物質の流れを絞るための縮流部に流すことにより、化学反応を促進させるステップと、縮流部に流れている化学物質を外部に流出させるための流出部に流すステップ、とを備えたことを主要な特徴としている。
【0018】
これにより、合流部から縮流部に化学物質が流れることにより、縮流部は、流れが絞られ狭くなっているので、2種類の化学物質同士が出会う確率が増加し、活性化状態が維持されている間に反応相手と出会う化学物質が増えるので、反応効率が向上することになる。
【0019】
また、本発明の化学の製造方法は、前記合流部での化学物質の滞留時間が1秒以下になるようにしたことを主要な特徴としている。これにより、活性化状態が維持された化学物質が縮流部において出会う確率が増加するので、更に反応効率が向上することになる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の化学物質製造方法及び反応装置によれば、光反応の効率を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1A】本発明の第1の実施形態に係る反応装置の側面図である。
【図1B】本発明の第1の実施形態に係る反応装置の部分断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る反応装置の平面図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る反応装置の側面図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る反応装置の平面図である。
【図5】本発明の第3の実施形態に係る反応装置の側面図である。
【図6】本発明の第3の実施形態に係る反応装置の平面図である。
【図7】特許文献1の実施例1にかかる反応装置200である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。ここで、図中、同一の記号で示される部分は、同様の機能を有する同様の要素である。また、本明細書中で、数値範囲を“ 〜 ”を用いて表す場合は、“ 〜 ”で示される上限、下限の数値も数値範囲に含むものとする。
【0023】
<反応装置>
本発明の反応装置の一実施例について図面を参照して説明する。図1Aは、本発明の第1の実施形態に係る反応装置の側面図である。図1(b)は、本発明の第1の実施形態に係る反応装置の部分断面図であり、図2のIB−IB断面図である。図2は、本発明の第1の実施形態に係る反応装置の平面図である。
【0024】
図1A、図1B及び図2に示すように、本発明の第1の実施形態に係る反応装置は、光などのエネルギー線を照射するエネルギー線源1と、本反応装置内に液状の化学物質または化学物質を含んだ液体(または液状物質)を供給するための2つの化学物質供給路2と、前記化学物質供給路2から供給された化学物質を合流させるための合流部3と、合流部3から流出する化学物質の流れを絞るための縮流部4と、縮流部から流出する化学物質を反応装置外部に排出するための排出部5と、を主に備えて構成される。化学物質供給路2と、合流部3と、縮流部4と、排出部5とは、それぞれ流路20、流路22、流路24、流路26とを備えている。また、化学物質供給路2は、エネルギー線源1から照射されたエネルギー線を透過させる透過部30を備えている。
【0025】
エネルギー線源1は、各化学物質供給路2の近辺にそれぞれ一つずつ、合計2つ配置され、それぞれのエネルギー線源1は、エネルギー線を各化学物質供給路2に向けて放射する。エネルギー線源1としては、可視光線、赤外光線、紫外光線を放射するもの、レーザ光を放射するもの、その他、マイクロ波、などを放射するものなど様々な電磁波を放射する線源を、適応する化学反応に応じて選択することができる。このように、化学物質供給路2ごとにエネルギー線源1を配置することにより、化学物質供給路2ごとに照射するエネルギー線の種類、強度を変えることができる。これにより、化学物質にエネルギーを与えることにより反応に必要な最小限の励起状態を与えることができる。
【0026】
ここで、エネルギー線源1は、各化学物質供給路2の近辺に一つずつ合計2つ配置されるとしたが、個数に制限はなく、1つで全ての化学物質供給路2にエネルギー線を供給する構成にしても良いし、各化学物質供給路2に複数のエネルギー線源を配置しても良い。各化学物質供給路2に複数のエネルギー線源1を配置した場合は、化学物質供給路2に複数の種類、強度のエネルギー線を供給することができる。これにより、安価な、市販のエネルギー源を上手く組み合わせることにより必要最小限の励起状態を与えることができる。このエネルギー線により、化学物質供給路2内部の化学物質を励起状態にすることができる。
【0027】
2つの化学物質供給路2は、それぞれ、化学物質を流出させる流出口が合流部3を挟んで対向するように配置され、本反応装置外部から供給された化学物質を合流部3に流出させる。これにより、化学物質供給路2から流出した化学物質が合流部3において真正面から衝突するので、反応する化学物質同士が出会いやすくなり、化学反応を促進させることができる。しかしながら、化学物質供給路2の配置は、対向する配置、即ち、2つの化学物質供給路2のなす角度が180°の配置に限定するものではない。
【0028】
化学物質供給路2は、少なくともその一部にエネルギー線源1から放射されたエネルギー線を透過させる部分である透過部30を有し、内部の化学物質にそのエネルギー線が照射されるように構成されている。また、化学物質供給路2は、その内部において、透過部30の対向する面に、例えばミラー構造などのエネルギー線を反射する構造を設けることもできる。これにより、エネルギー線は、透過部30を透過した後、化学物質供給路2内部の化学物質を照射し、ミラー構造によって反射された後、再度化学物質を照射するので、化学物質を効率よく励起状態にすることができる。また、化学物質供給路2全体をエネルギー線透過材料で形成し、エネルギー線を360°全方向から照射する構成にすることもできる。
【0029】
本反応装置においては、化学物質供給路2を2つの構成としたが、これに限定されるものではなく、複数の化学物質が反応する化学反応に適用する場合においては、流通させる化学物質ごとに1つまたは複数個の化学物質供給路2を設置することも可能である。
【0030】
合流部3は、各化学物質供給路2の末端に接続され、各化学物質供給路2から送られた化学物質を合流させ混合させる。ここで、合流部3も、少なくともその一部にエネルギー線源1から放射されたエネルギー線を透過させる部分である透過部を有し、内部の化学物質にそのエネルギー線が照射されるように構成されても良い。これにより、安価な、パワーの低いエネルギー源でも、照射時間を稼ぐことで反応に必要な励起状態を生み出すことができる。
【0031】
また、合流部に滞留する化学物質の時間が1秒以下になるように、本反応装置の各流路寸法、あるいは、化学物質を流すためのポンプ出力などが調整されることが好ましい。これにより、化学物質が折角エネルギーを貰って励起状態になったのに、反応しないでエネルギーが散逸したしまうことを防止することができる。
【0032】
縮流部4は、その一端が合流部3に接続され、他端が排出部5に接続される。縮流部4は、合流部3から供給された化学物質を排出部5に流出させる。縮流部4内の流路24の断面積(化学物質の流れ方向に垂直な面の断面積)は、縮流部4と合流部3の接続部の合流部3側の流路22の断面積(化学物質の流れ方向に垂直な面の断面積)よりも小さく、かつ、縮流部4と排出部5の接続部の排出部5側流路26の断面積(化学物質の流れ方向に垂直な面の断面積)よりも小さい。また、別の言い方をすると、合流部3と縮流部4の接続部において、合流部側の流路の円相当径をA、縮流部4側の流路の円相当径をB、縮流部4と排出部5の接続部の排出部側の流路の円相当径をCとすると、A>BかつC>Bを満たしている。これにより、合流部3からの流れが絞られ、狭い縮流部4の流路24を化学物質が通過するので、エネルギー線によって励起された化学物質同士が出会う確率を増やすことができる。つまり、縮流部においては、化学物質の活性化状態が維持されている短時間のうちに、反応する化学物質同士が出会う確率を増やすことができるので、光反応を効率的に行わせ、光反応を促進することが可能になる。本発明において「流れを絞る」とは、上記のように流れ方向の断面積が、大きな流路から小さな流路に液状物質を流すことを言う。
【0033】
排出部5は、縮流部4から流入した化学物質を本装置の外部に排出する。
【0034】
ここで、本発明に係る反応装置は、本反応装置で反応させる化学物質、この反応によって生成される化学物質、反応させる化学物質を装置内に流すための液状物質(反応させる化学物質を溶かす溶剤、反応させる化学物質を分散させる液体等)に対して不活性な物質で、かつ、加工性の良いものを使用して製造することができる。そのような物質の代表例としては、チタン、ステンレス等に代表される金属類、セラミックス、樹脂などがある。また、化学物質は、ポンプ(図示せず)などにより本装置内を流通させることができる。
【0035】
なお、エネルギー線源1から照射されるエネルギー線が、化学物質供給路2の透過部30を通して内部の化学物質に照射される構成のみならず、合流部3にエネルギー線の透過部を設け、合流部3内部の化学物質にエネルギー線が照射される構成にすることもできる。
【0036】
本発明の第2の実施形態に係る反応装置について図を参照して説明する。図3は、本発明の第2の実施形態に係る反応装置の側面図である。図4は、本発明の第2の実施形態に係る反応装置の平面図である。
【0037】
図3及び図4に示すように、本発明の第2の実施形態に係る反応装置は、第1の実施形態の反応装置が2つの化学物質供給路2で構成されているのに対して、4つの化学物質供給路2と、それぞれの化学物質供給路2の近辺に配置された1つのエネルギー線源1、即ち、合計4つのエネルギー線源1と、で構成されているものであり、それ以外は第1の実施形態と同じである。第1の実施形態と同じ部分の説明は省略する。
【0038】
4つの化学物質供給路2は、同一平面上に配置され、互いに隣り合う化学物質供給路と90°の角度を有するように設置される。ここで、90°の角度に限定されるものでもなく様々な配置を適用することができる。供給される物質のお互いの対向するベクトルを可能な限り大きくすることで、運動エネルギーを化学物質の混合に効果的に適用でき、反応の効率を上げることができる。
【0039】
また、合流部3に供給された化学物質の合流部での平均滞留時間が1秒以下になるように、化学物質を本反応装置に供給するためのポンプ(図示せず)の流量、化学物質供給路2、合流部3、縮流部4、排出部5の径を調整することが好ましい。これにより、エネルギー線により生起された化学物質が、エネルギーの散逸により反応性を失うことを防止することができる。
【0040】
第2の実施形態の反応装置は、4つの化学物質供給路2を有しているので、反応させる化学物質が4種類ある場合においても、それぞれの化学物質ごとに化学物質供給路2を割り当てることができる。また、反応させる化学物質が2種類であっても反応させる化学物質1種類を2つまたは3つの化学物質供給路2に分割して本反応装置内に供給することにより、混合部に以降における反応界面積を増大させて、励起状態を維持した状態で反応物質同士を出合わせ、反応を迅速化することができる。
【0041】
本発明の第3の実施形態に係る反応装置について図を参照して説明する。図5は、本発明の第3の実施形態に係る反応装置の側面図である。図6は、本発明の第3の実施形態に係る反応装置の平面図である。
【0042】
図5及び図6に示すように、本発明の第3の実施形態に係る反応装置は、第2の実施形態の反応装置が、化学物質供給路2ごとに合計4つのエネルギー線源1で構成されていたのに対し、全ての化学物質供給路2に同時にエネルギー線の照射が可能なエネルギー線放射面を有する1つのエネルギー線源6で構成されているものであり、それ以外は第2の実施形態と同じものである。第2の実施形態と同じ部分の説明は省略する。
【0043】
第3の実施形態の反応装置は、全ての化学物質供給路2に同時にエネルギー線の照射が可能な1つのエネルギー線源6を有しているので、反応装置のコンパクト化が可能なこと、及び、化学物質同士が出会う直前までエネルギーを供給することができ、安価なエネルギー源を使用することができる。
【0044】
<作動>
次に、本発明の作動について第1の実施形態に係る装置を参照して説明する。図1及び図2を参照して、2種類の化学物質が別々に2つの化学物質供給路2から反応装置に供給される。供給は、ポンプ(図示せず)などにより行われる。供給された化学物質は、化学物質供給路2を通過中に、化学物質供給路2に設けられたエネルギー線透過部(図示せず)を通して、エネルギー線源1によってエネルギー線を照射される。
【0045】
エネルギー線を照射されることにより、化学物質は活性化され励起状態になる。励起状態になった2種類の化学物質は、合流部において衝突、混合する。このとき、合流部に滞留するする化学物質の時間は1秒以下にすることが好ましい。そうすることにより、活性化状態が維持されている時間内に次の縮流部で反応を起こさせることができるからである。励起状態の2種類の化学物質が出会うことによって化学反応が起きるが、合流部3から縮流部4に化学物質が流れることにより、縮流部4は、流れが絞られ狭くなっているので、2種類の化学物質同士が出会う確率が増加し、活性化状態が維持されている間に反応相手と出会う化学物質が増えるので、反応効率が向上する。縮流部を通った後、化学物質は排出部5に流れる。排出部5は、縮流部よりも流路の円相当径が大きくなっている。これにより、縮流部では分子拡散距離を圧縮して反応を促進することができ、排出部は流路を拡大する事でRe数を大きくすることができるので混合効果を上げることが可能になる。
【0046】
<実施例及び比較例について>
本発明について、実施例、比較例として行った実験結果について以下に説明する。
【比較例】
【0047】
まず、比較例について説明する。比較例として、特許文献1の実施例1を参照し、なるべくその実施例1に近づけて反応装置を製造し、実験を行った。
【0048】
図7は、特許文献1の実施例1にかかる反応装置200である。図7に示されるように、反応装置200は、第1の流路110と、2つの第2の流路120と、第1の流路110及び2つの第2の流路120の合流部である合流点130と、合流点130の先につながった合流流路140と、エネルギー線源150と、ボディ160と、を備えて構成されている。
【0049】
ボディ160として、硬質ガラスを選択し、マイクロドリル加工によって第1の流路110を内径0.42mmで作製した。次に、第2の流路120が第1の流路に対して60°の角度で合流し、第2の流路120の内径が0.3mm、合流後の流路幅が1.5mmになるようにマイクロドリル加工を行った。その後、サファイアガラスを用いてボディ160に蓋(図示せず)をした。
【0050】
また、エネルギー線源150としてUV露光器(ウシオ電機製、ピーク波長365nm)を使用し、反応装置本体の上方から紫外光が照射されるようにUV露光器を設置した。UV露光器の直接光の照度は、24.5mW/cmであり、合流流路(肉厚L:0.3mm)内部への到達照度が、19mW/cmになるようにUV露光器の位置を調整した。また、第1の流路、第2の流路から合流点までを遮光テープで覆った。更に、合流流路の照射される部位の長さが40mmになるようにその下流部は遮光テープで覆った。
【0051】
この反応装置を使用して、以下の実験を行った。
【0052】
[第1の液体の調整]
6gの1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(商品名:HDDA、ニューフロンティア製)に、0.3gの光重合開始剤(商品名:イルガキュア1700、チバガイギー製)と0.03gの親油性染料VB2620を滴下し、均一になるまでスターラーを用いて混合した。
【0053】
前述の様に作製した反応装置を用い、第1の流路110(内側流路)に上記混合液を流し、第2の流路120(外側流路)に界面活性剤(ソルビタン脂肪酸エステル、商品名:ソルビタンモノラウレート、ナカライテスク製)を分散させた大豆油を流した。
【0054】
混合液及び大豆油のいずれも、シリンジポンプを用いて連続的に流した。混合液の流量は0.05μl/秒であり、大豆油の流量は20μl/秒であり、流量比を1:400とした。反応装置本体の合流点130で混合液と大豆油とを接触させた。
【0055】
大豆油を接触させた混合液に紫外光を照射し、微小構造体を得た。得られた微小構造体は、球状のUV硬化樹脂であった。この、サイズ分布を測定するためめ、堀場製作所LA-950を用いて粒径分布を測定したところ平均31μm、サイズ分布が±18μmと非常にブロードであった。
【0056】
サイズ分布がブロードにばらつくのは、混合後に紫外線を照射して微少構造体を形成しているが、UV光のエネルギーが必ずしも均一に照射されていないために、硬化速度が遅れ、この間に粒子の合一が発生し、結果的にサイズ分布がプロー度化するからだと考えられる。
【0057】
[実施例1]
本発明の反応装置として、第3の実施形態に係る反応装置を選択し、ただし、化学物質供給路2は、第1の反応液用として3つ、第2の反応液用として3つ、合計6つ設置したものを作製して使用した。
【0058】
第1の反応液の流路となる3つの化学物質供給路2の流路内径が1.0mm、第2の反応液の流路となる3つの化学物質供給路2の流路内径が0.8mm、合流部3の内径が1.5mm、深さ2mmとなるようにし、縮流部4の内径が1mm、排出部5の内径が2mmとなるようにした。エネルギー線源1としてUV露光器を用い、そのUV露光機の直接光の照度は、24.5mW/cmであり、化学物質供給路2(肉厚L:0.3mm)内部への到達照度は、19mW/cmになるように光源位置を調整して設置し、比較例記載の各々の流量を均等に3分割して各々の流入口から比較例と同じ化学物質を供給し反応を行った。
【0059】
得られたサンプルを比較例と同様の評価方法で評価したところ、得られた微小構造体は、球状のUV硬化樹脂であった。この様にして得られた微小構造体の表面状態を簡便に分析する手法がないため、ゼータ電位測定法を用いて、本発明の第1の液と大豆油を分散したもの、第1の液から1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、光重合開始剤を抜いた状態で分散したものをUV照射無しで分散したものを比較評価したところ、この3者は明らかに表面修飾の点において違いがあり、粒子表面でアクリレートがUV硬化し樹脂化したものと推定した。また、本発明で得た粒子のサイズ分布を測定するため、堀場製作所LA-950を用いて粒径分布を測定したところ平均15.3μm、サイズ分布が±5.1μmと非常に単分散であった。
【0060】
このように、比較例の方法では、縮流部4を備えていないので、化学物質が出会う確率が低く、反応性が悪くなる。このため、粒径分布がばらつくことになる。一方、本発明においては、縮流部4を備えているので、励起状態の化学物質同士が出会う確率が高くなり、反応性が向上する。これにより、粒径分布もばらつかず単分散となった。
【符号の説明】
【0061】
1…エネルギー線源、2…化学物質供給路、3…合流部、4…縮流部、5…排出部、6…エネルギー線源、110…流路、120…流路、130…合流点、140…合流流路、150…エネルギー線源、160…ボディ、200…反応装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学反応を起こさせるための反応装置であって、
エネルギー線を放射するエネルギー線源と、
化学物質を供給するための複数の化学物質供給路と、
前記複数の化学物質供給路の末端が接続され、供給された前記化学物質を合流させるための合流部と、
一方の端部が前記合流部に接続され、前記合流部から流入してきた流れを絞るための縮流部と、
前記縮流部のもう一方の端部に接続され、縮流部から流入してきた流れを外部に流出するための排出部と、
を備え、
前記化学物質供給路の少なくとも一部に前記エネルギー線を透過させる透過部を有し、
前記エネルギー線源は、前記エネルギー線源から放出されたエネルギー線が、前記透過部を透過して前記化学物質供給路の内部を流れる化学物質に照射されるように配置され、
前記縮流部内の流路の断面積であって前記縮流部内の流れ方向に垂直な面の断面積は、前記縮流部と前記合流部の接続部の合流部側の流路の断面積よりも小さく、かつ、縮流部と排出部の接続部の排出部側の流路の断面積よりも小さい反応装置。
【請求項2】
前記エネルギー線源を前記化学物質供給路の数だけ備え、
前記化学物質供給路ごとに前記エネルギー線源が配置された、
請求項1に記載の反応装置。
【請求項3】
前記エネルギー線源が1つであり、
1つの前記エネルギー線源で、全ての前記化学物質供給路内の化学物質にエネルギー線を照射するように前記エネルギー線源が配置された、
請求項1に記載の反応装置。
【請求項4】
前記合流部も、前記エネルギー線を透過する透過部を備え、
前記合流部内の化学物質にエネルギー線を照射するためのエネルギー線源を備える、
請求項1から3のいずれか一つに記載の反応装置。
【請求項5】
前記化学物質供給路内において、前記透過部と対向する内面にミラー構造を有し、前記透過部を透過してきたエネルギー線が、前記ミラー構造で反射され、前記化学物質供給路内の化学物質を再度照射する構造を有する、
請求項1から4のいずれか一つに記載の反応装置。
【請求項6】
エネルギー線を利用した化学物質の製造方法であって、
複数の流路に化学物質を流すステップと、
前記流路に前記化学物質が流れている間に、前記化学物質にエネルギー線を照射し、前記化学物質を励起状態にするステップと、
前記複数の流路を流れている励起状態にされた化学物質を1つの合流部で合流させて、化学反応を始めさせるステップと、
前記合流部で合流した化学物質を、化学物質の流れを絞るための縮流部に流すことにより、化学反応を促進させるステップと、
縮流部に流れている化学物質を外部に流出させるための流出部に流すステップと、
を備えた化学物質の製造方法。
【請求項7】
前記合流部での化学物質の滞留時間が1秒以下になるようにした、
請求項6に記載の化学物質の製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−183235(P2011−183235A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47681(P2010−47681)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】