説明

化学研磨液及びその製造方法

【課題】化学研磨液及びその製造方法を提供する。
【解決手段】化学研磨液を、リン酸、ピロリン酸又は硫酸のいずれかを一種以上有する酸成分100質量部と、マンガンイオン、亜鉛イオン、鉄イオン、ニッケルイオン、錫イオン、鉛イオン、銅イオン、銀イオン、白金イオン又は金イオンのいずれかと反応させた硫酸、リン酸又はピロリン酸のいずれかを一種以上有する金属酸化物5質量部以上45質量部以下で構成する。酸成分はリン酸が好ましい。金属酸化物は硫酸銅が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム製品やその合金の表面を平滑化すると共に化学研磨が施された表面に充分な光沢を付与することができる化学研磨液に関する。
【背景技術】
【0002】
化学研磨液としては、硝酸を除く無機酸と、タングステン化合物とを配合した化学研磨液がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−285360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、化学研磨の際、有毒ガスが発生することなく、アルミニウム製品やその合金の表面を平滑化すると共に化学研磨が施された表面に充分な光沢を付与することができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、リン酸、ピロリン酸又は硫酸のいずれかを一種以上有する酸成分100質量部と、マンガンイオン、亜鉛イオン、鉄イオン、ニッケルイオン、錫イオン、鉛イオン、銅イオン、銀イオン、白金イオン又は金イオンのいずれかと反応させた硫酸、リン酸又はピロリン酸のいずれかを一種以上有する金属酸化物5質量部以上45質量部以下を有する化学研磨液である。
【0006】
酸成分としては、リン酸であるのが好ましい。
【0007】
金属酸化物としては、硫酸銅であるのが好ましい。
【0008】
本発明に係る化学研磨液には、粘性付与剤20質量部以上100質量部以下を配合するのが好ましい。粘性付与剤としては、グリセリン、1,3−ブタンジオール又は1,4−ブタンジオールのいずれか一種又は混合体であるのが好ましく、さらに好ましくはグリセリンである。
【0009】
本願の他の発明は、リン酸、ピロリン酸又は硫酸のいずれかを一種以上有する酸成分100質量部と、マンガンイオン、亜鉛イオン、鉄イオン、ニッケルイオン、錫イオン、鉛イオン、銅イオン、銀イオン、白金イオン又は金イオンのいずれかと反応させた硫酸、リン酸又はピロリン酸のいずれかを一種以上有する金属酸化物を5質量部以上45質量部以下、及び、粘性付与剤20質量部以上100質量部以下を有する化学研磨液の製造方法であって、酸成分100質量部に金属酸化物の配合量の30%から70%の範囲内でのいずれかの配合量を配合した後、金属酸化物を溶解させて第一化学研磨液を作成し、粘性付与剤に金属酸化物の残りの配合量(70%から30%の範囲内でのいずれかの配合量)を配合した後、金属酸化物を溶解させて第二化学研磨液を作成し、第一化学研磨液と第二化学研磨液を混合する化学研磨液の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、化学研磨液を上述の構成で形成したため、有毒ガスが発生することなく、アルミニウム製品やその合金の表面を平滑化すると共に化学研磨が施された表面に充分な光沢を付与することができる。
【0011】
他の発明である化学研磨液の製造方法は、上述の第一化学研磨液と第二化学研磨液を混合するため、金属酸化物の酸成分と粘性付与剤への最適な比率かつ安定した状態での溶解が確保できるのである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、リン酸、ピロリン酸又は硫酸のいずれかを一種以上有する酸成分100質量部と、マンガンイオン、亜鉛イオン、鉄イオン、ニッケルイオン、錫イオン、鉛イオン、銅イオン、銀イオン、白金イオン又は金イオンのいずれかと反応させた硫酸、リン酸又はピロリン酸のいずれかを一種以上有する金属酸化物5質量部以上45質量部以下を有する化学研磨液である。
【0013】
本発明の化学研磨液において、リン酸、ピロリン酸又は硫酸のいずれかを一種以上有する酸成分100質量部配合したのは、化学研磨の対象であるアルミニウム製品やその合金の表面を溶解するためである。酸成分としては、リン酸が好ましい。銅よりイオン化傾向の大きい金属としては、アルミニウム、亜鉛、鉄、ニッケル、錫、鉛がある。
【0014】
本発明に係る化学研磨液において、マンガンイオン、亜鉛イオン、鉄イオン、ニッケルイオン、錫イオン、鉛イオン、銅イオン、銀イオン、白金イオン又は金イオンのいずれかと反応させた硫酸、リン酸又はピロリン酸のいずれかを一種以上有する金属酸化物を配合したのは、酸成分で溶解させたアルミニウム製品やその合金の金属自体を、溶解させると共に、その金属より還元され易い金属イオンを用いて酸化還元反応させ、さらに、酸成分エッチングによる表面粗化を防止するためである。具体的には、アルミニウムイオンよりイオン化傾向の低いマンガンイオン、亜鉛イオン、鉄イオン、ニッケルイオン、錫イオン、鉛イオン、銅イオン、銀イオン、白金イオン又は金イオンを放出する金属酸化物を用いる。これらイオンは、化学研磨の対象となる金属のイオン化傾向を加味して選択される。
【0015】
金属酸化物の配合量は、酸成分100質量部に対して、5質量部以上45質量部以下がよく、好ましくは8質量部以上35質量部以下、さらに好ましくは12質量部以上30質量部以下である。金属酸化物の配合量は、少なくすると酸化還元反応が少なくなって酸成分エッチングによる表面粗化を防止する力が弱くなる傾向にあり、多くすると金属酸化物の溶解に時間が長くなるため、上述の範囲が好ましい。
【0016】
粘性付与剤を配合したのは、化学研磨の反応の際、化学研磨の対象物である金属製品の表面を均等に化学反応させるのではなく、表面の凹凸の凸部分だけを優先的に溶解させると共に酸成分による溶解を穏やかにするためである。
【0017】
粘性付与剤としては、上述の効果を発揮するものをいい、具体的には水溶性高沸点有機溶剤、増粘多糖類がある。水溶性高沸点有機溶剤としては、グリセリン、ブタンジオール類、プロパンジオール類、エチレングリコール、ペンタジオール等の炭素数2〜5の多価アルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール等ヒドロキシアルキル基置換環状エーテルがある。増粘多糖類としては、ペクチンがある。これら粘性付与剤として、グリセリン、1,3−ブタンジオール又は1,4−ブタンジオールのいずれか一種又は混合体であるのが好ましい。
【0018】
粘性付与剤の配合量は、酸成分100質量部に対して、20質量部以上100質量部以下がよく、好ましくは30質量部以上80質量部以下、さらに好ましくは35質量部以上60質量部以下である。粘性付与剤の配合量は、少なくすると化学研磨対象物の表面の凹凸に沿って化学研磨する傾向が強くなり、多くすると酸化還元反応の反応が遅くなるため、上述の範囲が好ましい。
【0019】
他の発明は、化学研磨液の製造方法である。
この製造方法は、リン酸、ピロリン酸又は硫酸のいずれかを一種以上有する酸成分100質量部と、マンガンイオン、亜鉛イオン、鉄イオン、ニッケルイオン、錫イオン、鉛イオン、銅イオン、銀イオン、白金イオン又は金イオンのいずれかと反応させた硫酸、リン酸又はピロリン酸のいずれかを一種以上有する金属酸化物を5質量部以上45質量部以下、及び、粘性付与剤20質量部以上100質量部以下を有する化学研磨液の製造方法であって、酸成分100質量部に金属酸化物の配合量の30%から70%の範囲内でのいずれかの配合量を配合した後、金属酸化物を溶解させて第一化学研磨液を作成し、粘性付与剤に金属酸化物の残りの配合量(70%から30%の範囲内でのいずれかの配合量)を配合した後、金属酸化物を溶解させて第二化学研磨液を作成し、
第一化学研磨液と第二化学研磨液を混合する化学研磨液の製造方法である。
【0020】
この化学研磨液に金属製品を浸漬させてその表面を化学研磨する際の液温は、好ましくは60〜150℃、さらに好ましくは80〜120℃であり、液温が低いと光沢を充分に付与し難くなり、液温が高いと研磨面に凹凸が生じやすい傾向にある。化学研磨液への浸漬時間は金属製品の組成や寸法、予熱の有無、液温等に応じて適宜設定され、好ましくは20秒間〜20分間、さらに好ましくは1分間から12分間である。金属製品の化学研磨液への浸漬時間を20秒程度の短時間とする一方、浸漬回数を数回行うと、金属製品の凹凸の凸部だけがより研磨されるため、特に優れた光沢を得ることができる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明に係る実施例を、表1を参照しつつ、比較例を用いて詳細に説明する。
【0022】
【表1】

【0023】
表1記載の化学研磨液の評価は次の方法で行った。
【0024】
<光沢>
実施例・比較例の化学研磨液で化学研磨した試験片と未処理品とを目視にて観察し、次の評価基準にて評価を行った。試験片はアルミニウム製の板であり、表面をサンドペーパーで荒くして光沢をなくしたものを用いた。
◎:優れた光沢を有する
○:良好な光沢を有する
△:光沢が不十分
【0025】
<平滑度>
実施例・比較例の化学研磨液で化学研磨した試験片と未処理品とを目視にて観察し、次の評価基準にて評価を行った。
◎:優れた平滑度を有する
○:良好な平滑度を有する
△:平滑度が不十分
【0026】
<液溶解時間>
実施例・比較例の化学研磨液に溶解させる硫酸銅の燐酸およびグリセリンへの溶解時間を時計計測し、次の評価基準にて評価を行った。
◎:溶解時間が比較的短い(20分未満)
○:溶解時間がやや長い(20分以上1時間未満)
△:溶解時間が長い(1時間以上)
【0027】
各実施例、比較例の化学研磨液について説明する。実施例1の化学研磨液は、表1に記載の配合で製造したものであり、酸成分としてのリン酸100質量部、金属酸化物としての銅イオンと反応させた硫酸(硫酸銅)15質量部、及び、粘性付与剤としてのグリセリン50質量部を混合したものである。
【0028】
表1にあるように、実施例1の化学研磨液は、光沢、平滑度、表面状態及び液溶解時間のいずれにおいても良好な値であった。
【0029】
本実施例1の化学研磨液の製造方法について説明する。
実施例1の化学研磨液の製造方法は、酸成分たるリン酸100質量部に金属酸化物たる硫酸銅のうちの硫酸銅5水塩7.5質量部を混合して第一化学研磨液を製造し、粘性付与剤たるグリセリン50質量部に硫酸銅5水塩7.5質量部を混合して第二化学研磨液を製造し、さらに、この第一化学研磨液と第二化学研磨液を混合したものである。
この製造方法にあっては、硫酸銅を二液に分けて溶解しているため、一液に溶解するより短い時間で溶解することができた。
【0030】
また、この製造方法の他の実施例として、表には記載しないが、実施例1の配合比で、第一化学研磨液への硫酸銅5水塩10質量部、第二化学研磨液への硫酸銅5水塩5質量部とした場合、先の製造方法の実施例とほぼ同様な効果を得た。
【0031】
実施例2から実施例14について、比較例1から6を比較しつつ詳細に説明する。
【0032】
実施例2は、硫酸銅5水塩を21質量部、グリセリン40質量部とした以外は、実施例1と同様な化学研磨液である。この実施例2は実施例1と同様な評価を得た。
【0033】
実施例3は、実施例1のグリセリンを0質量部とした以外は、実施例1と同様な化学研磨液である。本実施例は、平滑度が実施例1より評価が低かったが、製品としては問題ないものであった。
【0034】
実施例4は、実施例1のグリセリンを10質量部とした以外は、実施例1と同様な化学研磨液である。本実施例は、平滑度が実施例1より評価が低かったが、製品としては問題ないものであった。
【0035】
実施例5は、硫酸銅5水塩を21質量部、グリセリンを1,3−ブタンジオール50質量部とした以外は、実施例1と同様な化学研磨液である。本実施例は実施例1と同様な評価を得た。
【0036】
実施例6は、硫酸銅5水塩を25質量部、グリセリンをペクチン40質量部とした以外は、実施例1と同様な化学研磨液である。本実施例も実施例1と同様な評価を得た。
【0037】
実施例7は、硫酸銅5水塩を8質量部、グリセリン40質量部とした以外は、実施例1と同様な化学研磨液である。本実施例は硫酸銅が少ないので実施例1に比べて光沢がやや悪くなった。
【0038】
実施例8は、硫酸銅5水塩を21質量部、グリセリン30質量部とした以外は、実施例1と同様な化学研磨液である。本実施例はグリセリンが少ないので実施例1に比べ平滑度がやや悪くなった。
【0039】
実施例9は、硫酸銅5水塩を21質量部、グリセリン80質量部とした以外は、実施例1と同様な化学研磨液である。本実施例はグリセリンが多くなり実施例1に比べ光沢がやや悪くなった。
【0040】
実施例10は、硫酸銅5水塩を35質量部、グリセリン40質量部とした以外は、実施例1と同様な化学研磨液である。本実施例は硫酸銅が多くなったので硫酸銅の溶解時間が長くなった。
【0041】
実施例11は、実施例1のリン酸をピロリン酸とした以外は、実施例1と同様な化学研磨液である。本実施例は実施例1と同様な評価を得た。
【0042】
実施例12は、実施例1のリン酸をリン酸90質量部及び硫酸10質量部の混合体とした以外は、実施例1と同様な化学研磨液である。本実施例は実施例1と同様な評価を得た。
【0043】
実施例13は、実施例1の硫酸銅5水塩をリン酸錫とした以外は、実施例1と同様な化学研磨液である。本実施例は実施例1と同様な評価を得た。
【0044】
実施例14は、実施例2に比べ、グリセリンの配合量を極端に多くしたものである。グリセリンの配合量が多すぎると光沢を与えることと平滑を与えるのに時間がかかった。
【0045】
比較例1は、実施例1に比べ、硫酸銅5水塩の配合量を極端にしたものである。本比較例は、光沢がかなり悪くなり、平滑度もやや悪くなった。
【0046】
比較例2は、実施例2に比べ、硫酸銅5水塩の配合量を極端に多くしたものである。硫酸銅5水塩の配合量が多くなると硫酸銅の溶解時間がかなり遅くなった。
【0047】
比較例3は、実施例1に比べ、硫酸銅5水塩とグリセリンの配合量を極端に少なくしたものである。硫酸銅とグリセリンが共に極端に少ないと、光沢と平滑度が共にかなり悪くなった。
【0048】
比較例4は、実施例1に比べ、硫酸銅5水塩の配合量を極端に少なくすると共にグリセリンの配合量を極端に多くしたものである。硫酸銅が極端に少なく、グリセリンが極端に多いと、光沢と平滑度が共にかなり悪くなった。
【0049】
比較例5は、実施例1に比べ、硫酸銅5水塩の配合量を極端に多くすると共にグリセリンの配合量を極端に少なくしたものである。硫酸銅が極端に多く、グリセリンが極端に少ないと、平滑度はやや悪くなり、硫酸銅の溶解時間はかなり遅くなった。
【0050】
比較例6は、実施例1に比べ、硫酸銅5水塩とグリセリンの配合量を極端に多くしたものである。硫酸銅とグリセリンが共に極端に多くなると、光沢も平滑度もかなり悪くなり、硫酸銅の溶解時間もかなり遅くなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸、ピロリン酸又は硫酸のいずれかを一種以上有する酸成分100質量部と、
マンガンイオン、亜鉛イオン、鉄イオン、ニッケルイオン、錫イオン、鉛イオン、銅イオン、銀イオン、白金イオン又は金イオンのいずれかと反応させた硫酸、リン酸又はピロリン酸のいずれかを一種以上有する金属酸化物5質量部以上45質量部以下を有する化学研磨液。
【請求項2】
酸成分がリン酸である請求項1記載の化学研磨液。
【請求項3】
金属酸化物が硫酸銅である請求項1又は2のいずれか記載の化学研磨液。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか記載の化学研磨液に、粘性付与剤が20質量部以上100質量部以下配合されている化学研磨液。
【請求項5】
粘性付与剤がグリセリン、1,3−ブタンジオール又は1,4−ブタンジオールのいずれか一種又は混合体である請求項4記載の化学研磨液。
【請求項6】
リン酸、ピロリン酸又は硫酸のいずれかを一種以上有する酸成分100質量部と、マンガンイオン、亜鉛イオン、鉄イオン、ニッケルイオン、錫イオン、鉛イオン、銅イオン、銀イオン、白金イオン又は金イオンのいずれかと反応させた硫酸、リン酸又はピロリン酸のいずれかを一種以上有する金属酸化物を5質量部以上45質量部以下、及び、粘性付与剤20質量部以上100質量部以下を有する化学研磨液の製造方法であって、酸成分100質量部に金属酸化物の配合量の30%から70%の範囲内でのいずれかの配合量を配合した後、金属酸化物を溶解させて第一化学研磨液を作成し、粘性付与剤に金属酸化物の残りの配合量(70%から30%の範囲内でのいずれかの配合量)を配合した後、金属酸化物を溶解させて第二化学研磨液を作成し、第一化学研磨液と第二化学研磨液を混合する化学研磨液の製造方法。

【公開番号】特開2011−38179(P2011−38179A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−189354(P2009−189354)
【出願日】平成21年8月18日(2009.8.18)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】