説明

化成処理性および耐型かじり性に優れた鋼板

【課題】化成処理性および耐型かじり性に優れた鋼板を提供する。
【解決手段】鋼板表面に亜鉛酸化物及び/又は亜鉛水酸化物を有する鋼板である。前記亜鉛酸化物及び/又は前記亜鉛水酸化物は、亜鉛イオンを含有する水溶液中で鋼板を陰極として電解することにより形成される。そして、亜鉛酸化物及び/又は亜鉛水酸化物を形成するにあたっては、被膜量は金属亜鉛換算で70〜500mg/m2、被覆率は60%以上とする。例えば、Siを0.1質量%以上含有する高強度鋼板に、本発明は好適に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化成処理性および耐型かじり性に優れた鋼板に関し、例えば、自動車用材料として好適に用いられる化成処理性および耐型かじり性に優れた鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、冷延鋼板は安価な金属材料であるため、自動車、家電、建材などの分野において広く用いられている。特に自動車分野においては、冷延鋼板が他の金属材料に比べて優れたプレス成形性や化成処理性を有することから依然として自動車用材料の主流となっている。また、近年では、自動車業界においては、燃費向上、排出ガス削減の観点から自動車の軽量化が進んでおり、衝突安全性向上のニーズともあいまって、高強度冷延鋼板の使用が急増している。
【0003】
高強度鋼板は鋼中元素としてSiやMn等を添加した鋼板であり、これらの元素が鋼板表面に酸化物として形成している。ここで、化成処理性と耐型かじり性は表層を構成する物質に依存し、中でもSi量に大きく依存する。そのため、例えば、表層のSi量を、グロー放電発光分光分析装置を用いて測定されるSiとFeの表層40nmの積算値の比(Si/Fe)と定義した場合、表層のSi/Feが多い場合には化成処理液との反応性を阻害するために化成処理結晶が形成されないスケと呼ばれる部位が発生する。また、強高度鋼板をプレス成形する際には成形荷重が増大するのみならず、局部的な高面圧部が生じることにより型かじりが発生する問題があり、表層のSi/Feが少ない場合には特に型かじりが発生しやすくなる。
このような観点から、化成処理性および耐型かじり性に優れた高強度鋼板の開発が切望されている。
上記問題に対し、冷延鋼板の化成処理性および耐型かじり性の両者を改善する技術が、特許文献1、特許文献2、特許文献3などに開示されている。
【0004】
特許文献1には、Ni、Mn、Co、Mo、Cuの1種または2種以上の金属を冷延鋼板表面に不連続に析出させる技術が開示されている。
しかしながら、特許文献1に記載の技術をSiを含有する冷延鋼板に適用したとしても鋼板表面にはSi酸化物がそのまま残存した状態であるため、このような皮膜の場合は化成処理性が依然不良である。また、Mo、Cuなどの元素は化成処理性に悪影響を及ぼすため、化成処理時に鋼板から化成処理液への溶出により、かえって化成処理性が劣化するという問題もある。
【0005】
特許文献2には、冷延鋼板表面に下層が0価の亜鉛主体の極薄皮膜、上層が2価の亜鉛とP、B、Siの1種または2種以上からなる第二元素群の酸化物からなる非晶質皮膜を複層形成する技術が開示されている。
しかしながら、特許文献2に記載の技術では、高強度鋼板のプレス時には成形荷重および局部的な面圧が増加するため、上層に付与した2価の亜鉛とP、B、Siの1種または2種以上からなる第二元素群の酸化物層が破壊した場合は、下層の0価の亜鉛と金型の凝着によりプレス成形性を阻害し、却って耐型かじり性が劣化する。また、特許文献2では、前記皮膜の鋼板表面分布率が50%以下と記載されている。このように表面被覆率が低い場合、ダブルビード等の難成型部品の場合には被覆していない下地鋼板と金型が接触して凝着を引き起こし、型かじりを引き起こすことが考えられる。
【0006】
特許文献3には、Zn、Ni、Mn、Ti、Co、Mo、Alのうちの1種または2種以上の金属酸化物の粉末を冷延鋼板表面に散布した後に調質圧延を行い、金属換算で1000mg/m2以下の金属層を鋼板表面に形成させる技術が開示されている。
しかしながら、特許文献3に記載の技術の場合、粉末と鋼板とが密着するのは調質圧延による物理的な密着力であると考えられる。すなわち、粉末と鋼板との密着力は非常に低く、プレス時、特に高強度鋼板のように難加工材の場合には鋼板から粉末の脱離が激しく、脱離した粉末が蓄積することによるプレス傷が発生しやすい。また、特許文献3には、均一な化成皮膜形成には前記金属酸化物を鋼板表面に均一に点在することで効果が得られると記載されている。しかし、点在の定義が記載されていないため不明確であるが、一般的に被覆率としては50%以下であると考えられ、被覆率が低い場合、ダブルビード等の難成型部品の場合には被覆していない下地鋼板と金型が接触して凝着を引き起こし、型かじりを引き起こすことが考えられる。
【0007】
特許文献4には亜鉛系めっき鋼板の表面を1〜1000mg/mの亜鉛の水酸化物で被覆する技術が開示されている。
特許文献4に記載の技術では亜鉛系めっき鋼板を下地鋼板として使用した技術であり、亜鉛系めっき鋼板は一般的に化成処理時に溶解し易い亜鉛が表層に存在するため、元来化成処理性が悪いものではなく、化成処理性に対する記載技術の向上効果はほとんど無いと考えられる。また、その製造方法として亜鉛の水酸化物の分散液を塗布し乾燥する方法が開示されているが、特許文献3と同様の理由からプレス成形性を向上させる効果は小さいと考えられる。さらに、陽極酸化による方法も開示されているが、本発明は下地が冷延鋼板等を対象としているため、不可能である。
【特許文献1】特開平3−236491号公報
【特許文献2】特開平10−158858号公報
【特許文献3】特開平3−086302
【特許文献4】特開平9−256169
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記問題を有利に解決するためになされたもので、化成処理性および耐型かじり性に優れた鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは,上記の課題を解決すべく,鋭意研究を重ねた。その結果、鋼板表面に亜鉛酸化物及び/又は亜鉛水酸化物を、亜鉛イオンを含有する水溶液中で鋼板を陰極として電解することにより形成すること、形成するにあたっては、被膜量を金属亜鉛換算で70〜500mg/m2、被覆率を60%以上とすること、そして、これらが化成処理性および耐型かじり性の向上に対して有効であることを見出した。
【0010】
本発明は、以上の知見に基づきなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
[1]亜鉛酸化物及び/又は亜鉛水酸化物を鋼板表面に有する鋼板であって、前記亜鉛酸化物及び/又は前記亜鉛水酸化物は、亜鉛イオンを含有する水溶液中で鋼板を陰極として電解処理することにより鋼板表面に形成され、さらに、前記亜鉛酸化物及び/又は亜鉛水酸化物の前記鋼板に対する被膜量は金属亜鉛換算で70〜500mg/m2、被覆率は60%以上であることを特徴とする化成処理性および耐型かじり性に優れた鋼板。
[2]前記[1]において、前記鋼板は、Siを0.1質量%以上含有することを特徴とする化成処理性および耐型かじり性に優れた鋼板。
なお、本明細書において、亜鉛酸化物及び/又は亜鉛水酸化物を亜鉛系酸化物と称することとする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、化成処理性および耐型かじり性に優れた鋼板が得られる。特に、本発明は、冷延鋼板、中でもSiを含有する高強度冷延鋼板に対して効果を奏しており、高強度冷延鋼板の化成処理性および耐型かじり性を両立させる有効な技術として、工業的に極めて価値の高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で対象とする鋼板は熱延鋼板および冷延鋼板である。中でも自動車分野等で多く用いられる冷延鋼板に対して、本発明は最適である。機械特性等の諸特性を向上させるために鋼中に各種元素を添加した鋼板(例えば、高強度鋼板)は、鋼中、特に表面に存在する添加元素の影響により化成処理時のリン酸塩結晶が不均一になることがある。しかし、鋼板に対しては常に均一な化成処理皮膜が要求されている。このような観点から、本発明を前記各種元素を添加した鋼板に適用することは価値があり、本発明により、安定した化成処理皮膜が得られることになる。
本発明の鋼板の成分は特に問わない。例えば、Si含有量が0.1質量%以上の冷延鋼板が好適に使用される。これは、鋼中のSi含有量が0.1質量%以上の場合、通常、鋼板表面にSi酸化物が形成し化成処理性を大きく阻害するため、本発明の処理を適用する価値が大きいからである。また、プレス時においても、Si含有量が0.1質量%以上の鋼板の場合、鋼板の強度が高くなるため型かじりが引き起こされやすいが、本発明の処理を適用することにより型かじりが大幅に抑制される。
特に、Siを0.3質量%以上含有し、Si含有量/Mn含有量≧0.4の鋼板の場合には、従来は化成処理性が著しく劣化したが、本発明を適用することにより化成処理性が著しく良好になるため、特に好適に使用される。
【0013】
本発明では上記鋼板を亜鉛イオンを含有する水溶液中で鋼板を陰極として電解し、鋼板表面に亜鉛系酸化物を形成させることを特徴とする。陰極電解処理法により形成された亜鉛系酸化物は、1辺が1μm以下の非常に微細な網目状の形態を有しており、鋼板表面にこれら亜鉛系酸化物を形成することで、この網目状の皮膜形態が耐型かじり性向上に寄与する。亜鉛系酸化物が網目状の皮膜形態を有することによる耐型かじり性向上メカニズムについては明確ではないが以下のように考えることが出来る。まず、亜鉛系酸化物は高融点金属であり金型と鋼板の凝着を抑制する為、型かじりが起こりにくくなる。と同時に、プレス時に付与されるプレス油等の油分を確保することが出来、摺動による油切れでの凝着を著しく抑制することが出来るためと考えられる。さらに、陰極電解型処理は皮膜量制御の観点からも有効である。
【0014】
さらに、本発明では、鋼板表面に亜鉛系酸化物を形成するにあたって、その皮膜量は金属亜鉛換算で70mg/m2〜500mg/m2とする。これは本発明において、最も重要な要件であり、このように、鋼板表面の亜鉛系酸化物被膜量を最適な量に規定することで、亜鉛系酸化物形成による効果が充分に発揮され、化成処理性および耐型かじり性に優れた鋼板を得ることが可能となる。亜鉛系酸化物を形成することによる化成処理性の向上メカニズムについては、明確ではないが、亜鉛系酸化物を鋼板表面に形成することにより化成処理時の核発生を促進するためであると考えられる。
また、亜鉛系酸化物を付与することによって、上述したように、プレス時の金型と鋼板との間に形成した亜鉛系酸化物は高融点であるため凝着を抑制する効果を有する。その結果、耐型かじり性が向上する。
このような観点から、皮膜量が70mg/m2より少ない場合、化成処理時の核発生サイトを十分に供給できないために化成処理性向上効果が小さい。一方、皮膜量が500mg/m2より多くなった場合、プレス時の金型と鋼板との凝着は抑制するものの、皮膜自体が変形を受けるために、皮膜の脱離量が多くなり、脱離した皮膜が摺動抵抗となるために耐型かじり性が劣化する。
以上より、化成処理性および耐型かじり性を安定して向上させるための亜鉛系酸化物の皮膜量は70mg/m2〜500mg/m2、好ましくは100〜300mg/m2とする。
なお、被膜量は蛍光X線を用いてZnの強度を測定し、既知のZn量の強度と比較することにより算出した。
【0015】
また、亜鉛系酸化物の被覆率は60%以上とする。これは、上記被膜量と同様に、本発明において重要な要件である。被膜量同様に、被覆率を60%以上とすることで、化成処理性、及び耐型かじり性を向上させることが可能となる。被覆率が60%より小さい場合、鋼板が加工を受けた場合にプレス金型と下地鋼板とが直接接触するため、ミクロな凝着が発生して摩擦係数が増加し、プレス成形性が低下する。
なお、本発明において、亜鉛系酸化物の被覆率とは亜鉛系酸化物が鋼板表面を被覆している面積率を示しており、具体的には被覆率は電子線マイクロアナライザーを用いて100μm四方の亜鉛元素マッピングを行い、測定面積(10000μm)から亜鉛の存在面積の比率により算出することが出来る。
なお、本発明では、亜鉛イオンを含有する水溶液中で鋼板を陰極として電解し、鋼板表面に亜鉛系酸化物を形成させることを特徴とするが、通常、亜鉛イオンを含有する水溶液中で鋼板を陰極として電解すると、鋼板表面には金属亜鉛が析出する。そこで、本発明では、亜鉛イオンを含有する水溶液にさらに硝酸イオンを適量添加した電解液を用いることにより、鋼板表面に亜鉛系酸化物を形成させることを可能にしている。
水溶液中の亜鉛イオン量は、硫酸亜鉛・7水和物で25〜200g/l、硝酸イオンは5〜100g/l、電流密度は3〜30A/dm2、液温は30〜70℃、めっき液の相対流速は0.5〜2.0m/secが最適範囲である。これらの範囲内で電解処理を行うことで、本発明の亜鉛系酸化物が形成される。
また、鋼板表面に亜鉛系酸化物が形成されたことは、X線光電子分光装置により確認することができる。亜鉛の結合エネルギーの調査により金属亜鉛と酸化亜鉛・水酸化亜鉛は区別することが可能である。具体的には、金属亜鉛の結合エネルギーは494eV付近にピークをもち、酸化亜鉛及び水酸化亜鉛の結合エネルギーはそれぞれ499、500eV付近にピークを持つため、本発明の亜鉛系酸化物は494eV付近にピークが無く、499、500eV付近にのみピークが認められることになり、このピークから、亜鉛系酸化物であることが明らかとなる。さらに、イオンエッチングにより深さ方向(表層から皮膜/下地鋼板界面まで)の分析を実施した結果、本発明では、いずれの深さにおいても亜鉛系酸化物は494eV付近にピークが無く、499、500eV付近にのみピークが認められたことから、皮膜全体が亜鉛系酸化物であることが明らかである。
【実施例1】
【0016】
下記実施例により本発明を更に詳細に説明する。
表1に示す成分からなる鋼板A〜G(板厚はいずれも1.2mm)を用いて、まず、これらの鋼板にトルエンによる溶剤超音波脱脂を行い、鋼板表面の油分を除去した。次いで、pHを調整した硫酸溶液および弗酸に浸漬を行う酸洗処理を行うことで表層Si/Feを変化させ、引き続き、表2に示す電解浴組成と電解条件で鋼板を陰極として電解処理を行い亜鉛系酸化物皮膜を鋼板表面に形成させた。比較例の一部として、硝酸イオンを含まない浴を用いてめっき処理を行い、金属亜鉛を析出させた。
【0017】
【表1】

【0018】
【表2】

【0019】
以上から得られた鋼板について、X線光電子分光装置を用いて、スパッタエッチングにより深さ分析を行い、皮膜種が亜鉛系酸化物であるか、金属亜鉛であるかを調査し、深さ方向全領域において亜鉛系酸化物、または金属亜鉛であることを確認した。また、亜鉛系酸化物及び金属亜鉛の皮膜量を金属亜鉛として蛍光X線を用いて測定した。さらに、亜鉛系酸化物の被覆率を電子線マイクロアナライザーを用いて100μm四方の亜鉛元素マッピングを行い、測定面積から亜鉛の存在面積の比率(被覆率)を算出した。尚、表層のSi/Fe測定のために、酸洗処理後めっきを行わないサンプルを作製して、測定に供した。
さらに、以下に示す方法により、耐型かじり性および化成処理性を評価した。
【0020】
(1)耐型かじり性評価
実プレス時のビード通過部を想定した面圧の高い条件下での耐かじり性を評価するため、図1の摩擦係数測定装置を用いた平板繰返し摺動試験を行った。図1に示すように供試材から採取した摩擦係数測定用試料1が試料台2に固定され、試料台2は、水平移動可能なスライドテーブル3の上面に固定されている。スライドテーブル3の下面には、これに接したローラ4を有する上下動可能なスライドテーブル支持台5が設けられ、これを押上げることにより、ビード6による摩擦係数測定用試料1への押付荷重Nを測定するための第1ロードセル7が、スライドテーブル支持台5に取付けられている。上記押付力を作用させた状態でスライドテーブル3を水平方向へ移動させるための摺動抵抗力Fを測定するための第2ロードセル8が、スライドテーブル3の一方の端部に取付けられている。なお、潤滑油として、ダフニーオイルコートSKを試料1の表面に塗布して試験を行った。耐型かじり性試験の押し付け荷重はN:1200kgf、試料の引き抜き速度(スライドテーブル3の水平移動速度):100cm/minとした。
【0021】
図2は、耐型かじり性評価に使用したビード形状・寸法を示す概略斜視図である。ビード6の下面が試料1の表面に押し付けられた状態で摺動する。図2に示すビード6の形状は幅10mm、試料の摺動方向長さ12mm、摺動方向両端の下部は曲率4.5mmRの曲面で構成され、試料が押し付けられるビード下面は幅10mm、摺動方向長さ3mmの平面を有する。このビードを用いると、プレス成形時のビード通過部での摩擦係数を評価できる。
【0022】
耐型かじり性評価試験条件は、試験前にスギムラ化学社製のプレス用洗浄油プレトンR352Lを試料1の表面に塗布し同一部位を最大20回の繰り返し摺動試験を実施し、摺動可能回数と、摺動時の鋼板と金型のミクロ凝着の大小により耐型かじり性の指標とした。尚、型かじりが発生した場合、摩擦係数測定装置での引抜力が増大するために摩擦係数測定装置が自動的に停止するように設定した。また、ミクロ凝着は、図3に示すような摺動試験時の引抜荷重の変化幅により評価を行い、引抜荷重の変化幅が10kgf以下の場合にミクロ凝着が良好(図3−A)、10kgfより大きい場合をミクロ凝着が不良(図3−B)とし、耐型かじり性を以下のように評価して示した。
×:20回の摺動が不可能(型かじり発生による摩擦係数測定装置の停止)。
○:20回の摺動が可能。
◎:20回の摺動が可能かつ、5回目摺動時の凝着を抑制している。
【0023】
(2)化成処理性評価
化成処理性評価は市販の化成処理薬剤(日本パーカライジング株式会社製 パルボンドPB−L3020システム)を用いて、浴温43℃、化成処理時間120秒の条件で行い、化成処理後の表面SEM観察を行うことにより化成処理結晶の均一性を評価した。化成処理結晶の均一性評価は以下の基準により判定した。
◎:化成処理結晶にスケ、ムラが全く無い。
○:化成処理結晶にスケは無いがムラが多少ある。
×:化成処理結晶にスケがある。
以上より得られた試験結果を表3に示す。
【0024】
【表3】

【0025】
表3より、試験No.1〜20はいずれも鋼板表面に亜鉛系酸化物が形成されており、金属亜鉛の生成は観察されなかった。一方、試験No.21〜24のいずれも皮膜の最表層のみ亜鉛系酸化物であり、皮膜内部は金属亜鉛が形成されていることが確認された。最表層は金属亜鉛が析出後、大気による酸化によって酸化物が形成されたと考えられるため、皮膜種としては金属亜鉛である。
【0026】
表3に示す試験結果から下記事項が明らかとなった。
(1)No.1〜7は酸洗処理の条件を変更することによる表層Si/Feを変化させて比較した結果であるが、No.1、No.2の比較例は表層Si/Feが好適でないために亜鉛酸化物がほとんど形成しておらず(被膜量、被覆率共に本発明範囲外で低く)、その結果、化成処理性が不良であることが分かる。一方、酸洗条件が好適であるNo.3〜6の本発明例の場合、亜鉛酸化物が形成しており、皮膜量も本発明範囲内にあるために耐型かじり性、化成処理性が共に優れた結果が得られていることが分かる。
(2)No.5およびNo.7〜14は亜鉛酸化物の皮膜量を変化させた場合の結果を示している。No.7の比較例の場合、皮膜量および被覆率が本発明範囲外で低いために、耐型かじり性、化成処理性共に効果が認められない。No.8の比較例の場合、No7比べ被膜量が借款多いため耐型かじり性は若干の向上が認められるものの、皮膜量および被覆率が本発明範囲外で低く化成処理性の向上効果が認められていない。皮膜量が本発明範囲より多いNo.13の比較例の場合、耐型かじり性が劣化していることが分かる。さらにNo13より皮膜量が多く、本発明範囲外のNo.14の比較例の場合、耐型かじり性のみならず、化成処理性も劣化することが分かる。皮膜量が本発明範囲であるNo.5およびNo.9〜12の本発明例の場合、耐型かじり性、化成処理性ともに良好であり、中でもNo.5およびNo.10の場合はさらに好適であることが分かる。
(3)No.5およびNo.15〜20は鋼板の種類を変化させた場合の結果を示している。いずれの鋼板種においても耐型かじり性、化成処理性ともに優れていることが分かる。
(4)No21〜24は、電解浴として、表2の浴1の電解浴から硝酸ナトリウムを除いた浴2を使用し、それ以外は他と同一条件で電解した場合の結果である。鋼板表面には金属亜鉛が生成されており、耐型かじり性が劣っていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明によれば、プレス成形時に型かじりを抑制することができ、引き続き行われる化成処理時に良好な化成処理性を示す鋼板を提供でき、自動車車体用途を中心に広範な分野で適用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】摩擦係数測定装置を示す概略正面図である。(実施例1)
【図2】図1中のビード形状及び寸法を示す概略斜視図である。(実施例1)
【図3】摺動試験時の引抜荷重変化幅を示す図である。(実施例1)
【符号の説明】
【0029】
1 摩擦係数測定用試料
2 試料台
3 スライドテーブル
4 ローラ
5 スライドテーブル支持台
6 ビード
7 第1ロードセル
8 第2ロードセル
9 レール
N 押付荷重
F 摺動抵抗力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛酸化物及び/又は亜鉛水酸化物を鋼板表面に有する鋼板であって、
前記亜鉛酸化物及び/又は前記亜鉛水酸化物は、亜鉛イオンを含有する水溶液中で鋼板を陰極として電解処理することにより鋼板表面に形成され、
さらに、前記亜鉛酸化物及び/又は亜鉛水酸化物の前記鋼板に対する被膜量は金属亜鉛換算で70〜500mg/m2、被覆率は60%以上であることを特徴とする化成処理性および耐型かじり性に優れた鋼板。
【請求項2】
前記鋼板は、Siを0.1質量%以上含有することを特徴とする請求項1に記載の化成処理性および耐型かじり性に優れた鋼板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−81808(P2008−81808A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−264302(P2006−264302)
【出願日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】