説明

化粧板原紙、及び化粧板原紙の製造方法

【課題】坪量が20〜55g/mの薄物でありながら、十分な隠蔽性を備え、かつ経時での吸湿によるシミの発生が無く、さらには印刷適性、基材への貼合適性が良好な化粧板原紙を提供すること。
【解決手段】化粧板原紙上に印刷を行い基材に貼り合わせて化粧板を製造するのに用いられる化粧板原紙において、化粧板原紙はヤンキードライヤーを有する抄紙機で生産され、サイズ剤を1.0重量%以下含有し、酸化チタンを2.5〜15重量%含有し、坪量が20〜55g/m、紙面pHが3.2〜4.8の範囲にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は化粧板原紙、及び化粧板原紙の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、プリント化粧板としては、無地あるいは柄をグラビア印刷し、樹脂コートを施したプリント用紙又は薄葉紙を、合板、MDF(中質繊維板)、パーティクルボード等の基材上に貼りつけた化粧板が、内装建築材や家具類に広く使用されている。
【0003】
プリント化粧板に使用される原紙(以下、「化粧板原紙」という。)としては、セルロース繊維等を原料に、坪量23〜60g/mに調整し、基材の色ムラを化粧板原紙で隠蔽するため、酸化チタン、焼成クレー等を内添した物や着色剤を含有した物が広く使用されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、酸化チタンを混抄したプリント化粧板原紙では、填料の歩留りを向上させるため、ベントナイトを用いた一次凝集体を、電荷調整剤と歩留剤を用いて化学的に形成させる方法が知られている(特許文献2参照)。
【0005】
化粧板原紙には、繊維間の結合を強くするため、澱粉やポリアクリルアミド等の紙力増強剤等が内添される。ところが、紙力増強剤を内添することでドライヤーの剥離性が低下し、化粧板原紙の表面平滑性が著しく悪化する。このため通常、サイズ剤等のドライヤー剥離剤を併用して化粧板原紙中に内添し、化粧板原紙の基本性能である表面強度や平滑性を同時に確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−138396号公報
【特許文献2】特開2008−231630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記化粧板原紙は、高温多湿の環境下に連続的に放置されると、シミが発生しやすくなる。化粧板原紙は、基材との非貼合面に図柄や模様等の意匠性を有する印刷が施されているため、シミの発生は商品価値を損なうことになり、高温多湿の環境下では化粧板原紙を使用しにくいという問題が生じる。
【0008】
また、基材への貼合性と、化粧板原紙への図柄や模様印刷に多用されるグラビア印刷に対する適性とを満足する特性を有する化粧板原紙として、ヤンキードライヤーにて乾燥処理が施され、印刷面を艶面に非艶面側が貼合面となる片艶紙が好適に利用されるところ、ヤンキードライヤーによる片面側からの乾燥処理により、化粧板原紙中の樹脂成分が艶面に移行しやすくなり、長網多筒による化粧板原紙に比べ、シミの発現がより顕著になる問題を有する。
【0009】
本発明は上述の問題点を解決するためになされたものであり、坪量が20〜55g/mの薄物でありながら、十分な隠蔽性を備え、かつ経時での吸湿によるシミの発生が無く、さらには印刷適性、基材への貼合適性が良好な化粧板原紙、及び、化粧板原紙の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の問題点を解決するために、請求項1に係る発明の化粧板原紙は、ヤンキードライヤーを持つ抄紙機で製造され、化粧板における原紙として基材に貼り合わせる化粧板原紙において、酸化チタンが少なくとも含有され、酸化チタンの含有量が2.5〜15重量%であり、サイズ剤の含有量が、対絶乾パルプ当たり1.0重量%以下であり、坪量が20〜55g/mであり、紙面pHが3.2〜4.8であることを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に係る発明の化粧板原紙は、請求項1に記載の発明の構成に加えて、前記サイズ剤がロジン系エマルジョンサイズ剤であることを特徴とする。
【0012】
また、請求項3に係る発明の化粧板原紙は、請求項1又は2に記載の発明の構成に加えて、前記化粧板原紙中には電荷調整剤が含有され、前記電荷調整剤は、スルホン酸化合物を主成分とすることを特徴とする。
【0013】
また、請求項4に係る発明の化粧板原紙は、請求項1乃至3のいずれかに記載の発明の構成に加えて、前記化粧板原紙中には歩留向上剤が含有され、前記歩留向上剤は、ポリアクリル酸エステルを主成分とすることを特徴とする。
【0014】
また、請求項5に係る発明の化粧板原紙は、請求項1乃至4のいずれかに記載の発明の構成に加えて、前記酸化チタンの結晶構造がアナターゼ型であることを特徴とする。
【0015】
また、請求項6に係る発明の化粧板原紙の製造方法は、化粧板における化粧板原紙として基材に貼り合わせる化粧板原紙の製造方法であって、含有量が2.5〜15重量%である酸化チタン、対絶乾パルプ当たりの含有量が1.0重量%以下であるサイズ剤を少なくとも加えたパルプ材料を、ヤンキードライヤーを持つ抄紙機に供給することで前記化粧板原紙を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の化粧板原紙は、坪量が20〜55g/mの薄物でありながら、十分な隠蔽性を備え、かつ経時での吸湿によるシミの発生が無く、さらには印刷適性、基材への貼合適性が良好なものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
化粧板原紙におけるシミの発生原因は定かではないものの、大気中もしくは基材等からの水分等が化粧板原紙中に吸収・移動する際に、化粧板原紙中に含有する例えば未定着のサイズ剤等の樹脂成分が凝集したり酸化することにより発生するものと想定され、特に、酸化チタンを多く化粧板原紙中に含有した場合、酸化チタン自体が疎水性を有するため、吸湿によって酸化チタンの近傍に存在する例えばサイズ剤等の樹脂成分の移動が起き易くなり、シミの発生が顕著となるものと推定される。
【0018】
化粧板原紙は、具体的には以下のように使用することができる。当該化粧板原紙にグラビア印刷等によって所望の絵柄又は模様が印刷される。その後、化粧板原紙の表面にトップコート樹脂層が塗工され、化粧紙が製造される。この化粧紙は、接着剤や粘着テープによって基材に貼り合わせられる。これによって化粧板が製造される。
【0019】
化粧板原紙は、ヤンキードライヤーを持つ抄紙機(以下「ヤンキーマシン」という。)によって生産することが好ましい。ヤンキードライヤーを持つ抄紙機で生産された紙は、ヤンキードライヤー接触面にあたる片面(艶面)の平滑性が高いため、グラビア印刷適性が良くなる。化粧板原紙は、原料パルプからなるパルプスラリーに対して、酸化チタン、サイズ剤を、更に好適には硫酸バンド、電荷調整剤、及び歩留向上剤が含有され抄造される。
【0020】
化粧板原紙に使用することができるパルプ種としては広葉樹パルプ(特に広葉樹クラフトパルプ)、針葉樹パルプ(特に針葉樹クラフトパルプ)、古紙パルプ等が挙げられ、古紙パルプとしては市中回収古紙、抄紙工程で発生する仕損品も含まれる。一般的に広葉樹パルプは繊維が短く細く、逆に針葉樹パルプは長くて太いため、広葉樹パルプの含有量が多いと透気度が高く、広葉樹パルプの含有量が低いと透気度が低くなることが言える。また、針葉樹パルプは地合を乱すため、配合率は、原料パルプ全量に対して20重量%以下とすることが好ましい。
【0021】
原料パルプの叩解度は、カナダ標準濾水度(フリーネス)で100〜400mLの範囲に調整することが好ましい。叩解にはDDR(ダブルディスクリファイナー)を使用することができる。より好ましくは150〜400mLである。100mL未満とすると叩解が進み、繊維長の短いパルプの比率が高まり、透気度が高くなる問題が生じやすくなる。透気度が高くなると、本願発明で好適に用いることができるヤンキードライヤーでの乾燥処理時に、化粧板原紙中の水分の蒸発がスムーズに行われにくくなり、ヤンキードライヤーへの化粧板原紙の貼り付きが弱くなり、ヤンキードライヤー接触面(艶面)の平滑度の低下を招くため好ましくない。400mLを超えると繊維長の長いパルプの比率が高まり、平滑度が低下する。平滑度が低下することにより、グラビア印刷適性が悪化する。
【0022】
酸化チタンとしては、粒径が0.1μm〜2.5μmのものを使用することが好ましい。酸化チタンの構造として、アナターゼ型及びルチル型があるが、アナターゼ型はルチル型に比べ比重が3.9(ルチル4.2)と軽いためワイヤー上で脱落しにくく歩留りが向上し易い傾向を有する、更に、アナターゼ型は、ルチル型に比べ比表面積が高く吸着性が高いため微量なサイズ剤が表面に存在しても吸湿時にサイズ剤の移動が起こり難くシミが発生し難い、といった効果があるため、アナターゼ型を用いるのが好ましい。
【0023】
酸化チタン以外の填料としてはタルク、クレー、炭酸カルシウム等公知のものが配合可能であるが、隠蔽性を高める上で酸化チタンが好ましい。
【0024】
酸化チタンの含有量は、原料パルプ絶乾重量当たり2.5重量%〜15重量%の範囲で調整することが好ましく、より好ましくは原料パルプ絶乾重量当たり5.0〜12重量%である。酸化チタンの含有量が原料パルプ絶乾重量当たり2.5重量%未満の場合、隠蔽性が不足し好ましくない。また、原料パルプ絶乾重量当たり15重量%を超えると、化粧板原紙中のパルプ繊維同士の絡みを阻害し、紙そのものの強度を低下させるため好ましくない。また、紙全体が硬くなるためグラビア印刷適性が悪化する。
【0025】
サイズ剤の含有量は、原料パルプ絶乾重量当たり1.0重量%以下、より好ましくは原料パルプ絶乾重量当たり0.3〜0.8重量%にすることが好ましい。サイズ剤を過度に含有した場合、パルプ繊維に直接結合しないサイズ剤が存在しやすくなるため、大気中や基材からの吸湿によりサイズ剤が移動しやすくなり、凝集、酸化反応を経てシミが発生し易くなる。サイズ剤の含有量を1.0重量%以下とすることによって、シミを発生し難くすることができる。
【0026】
サイズ剤は、極力含有量を少なくすることが好ましいものの、サイズ剤の含有量が原料パルプ絶乾重量当たり0.3重量%未満では、ヤンキードライヤーからの化粧板原紙の剥離性が低下し、ヤンキードライヤーに原料パルプ繊維が取られ、ヤンキードライヤー接触面が毛羽立ち、平坦性が低下する問題が生じ、毛羽立ちにより紙層内の酸化チタンの脱落や、原料パルプ繊維の取られに起因する紙粉の発生、印刷適性が低下する問題を引き起こしやすくなる。
【0027】
サイズ剤としては、エマルジョン系サイズ剤を用いることが好ましい。エマルジョン系サイズ剤は、水への分散性に優れ、パルプ繊維への定着が良好となるため、シミが発生し難い。エマルジョン系サイズ剤には、ロジンエマルジョンサイズ剤、スチレン−アクリルエマルジョンサイズ剤等があるが、その中でも特にロジン系エマルジョンサイズ剤を用いることが好ましい。ロジン系エマルジョンサイズ剤は、パルプ繊維に定着したカチオン性の硫酸バンドの間に取り込まれ強固に結合するため、吸湿によるサイズ剤の移動が少なくシミが発生し難い。さらに繊維間に架橋する形で結合するため、パルプ繊維間強度が向上しやすく、表面強度が要求される化粧板原紙としてより好ましい。
【0028】
なお、ヤンキードライヤーからの剥離性を補うため、前記サイズ剤(内添サイズ剤)に加え、外添剥離剤を併用することが好ましい。内添剥離剤を使用すると強度が低下する問題があるが、外添剥離剤ではそのような強度低下が無い。またヤンキードライヤーと接触する艶面側のみに剥離剤が存在するため、基材と貼合する際の接着剤の浸透を阻害することも無いためより好ましい。
【0029】
前記外添剥離剤としては、特に植物油系剥離剤を用いることが好ましい。植物油系の剥離剤は少ない含有量で剥離効果を得ることが出来る。
【0030】
硫酸バンドは、酸化チタンやサイズ剤等の添加薬品の歩留りを向上させるため、使用することが好ましい。酸化チタンは、パルプスラリー中ではパルプ繊維に自己定着しにくいため、酸化チタンを効率良く紙に歩留らせる必要があるためである。硫酸バンドは、ロジンサイズ剤の定着剤として好適に使用できる。硫酸バンドの含有量は原料パルプ絶乾重量当たり1.6〜3.5重量%であることが好ましい。含有量が1.6重量%より少ないと、酸化チタンやサイズ剤等の添加薬品が十分にパルプ繊維に定着しにくいため、隠蔽性の低下、シミの発生といった問題が生じる場合がある。含有量が原料パルプ絶乾重量当たり3.5重量%を超えると過剰な硫酸バンドにより原料パルプのみならず酸化チタンの過剰凝集をまねく場合があり、地合いの低下による化粧板原紙の紙力低下、化粧板原紙の印刷面における平坦性の低下を招き化粧板原紙の品質低下を招く恐れがある。
【0031】
なお特許文献2では、酸化チタンの歩留りを向上させるため、酸化チタンとベントナイトの一次凝集体を形成させる技術が記載されている。ここで、ベントナイト中には鉄分が含まれているため、ロジンサイズ剤と反応しロジン酸鉄を形成し、シミの発生原因となりやすいと推定される。
【0032】
酸化チタンの歩留まりを向上させるために、電荷調整剤、及び歩留向上剤を併用することが好ましい。電荷調整剤、更には歩留向上剤を用いて酸化チタンを凝集させカチオン化させることにより、パルプ繊維との結合が安定化し、凝集した酸化チタンの抜け落ちによると推定される化粧板原紙のピンホール状の欠損が減少し、隠蔽性や印刷適性の低下を抑制することができる。
【0033】
本願発明者等による、電荷調整剤、及び歩留向上剤を用いた酸化チタンの歩留まり向上についての知見では、アニオン性の電荷調整剤を用い、酸化チタンの表面のイオン性をアニオン性とし、カチオン性を有する歩留向上剤により酸化チタンからなる凝集体を形成する。前記凝集体は、カチオン性の歩留向上剤により凝集されているため、カチオン性を示す。該カチオン性の凝集体は、アニオン性のパルプ繊維に化学的に結合する。これによって、酸化チタンの歩留りを向上させることができる。
【0034】
電荷調整剤としては、アニオン性のものを好ましく使用することができ、例えば、スルホン酸化合物(好ましくは、スチレンスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム、アクリルアミドスルホン酸ナトリウム、ビニルスルホン酸ナトリウム等のうち少なくとも1種をモノマーとして重合させて得られるスルホン酸化合物)、ポリアクリル酸ソーダ、コロイダルシリカ等が挙げられる。このうちスルホン酸化合物が好ましく、スルホン酸化合物を主成分とする電荷調整剤としては、例えば、栗田工業社製のハイホールダーD550、日本エヌエスシー社製のVERSA−TL502、日本エヌエスシー社製のVERSA−TL3等が挙げられる。
【0035】
電荷調整剤の含有がない場合、酸化チタンの表面を十分にアニオン化できず、カチオン性である歩留向上剤が十分に作用せず、化粧板原紙への酸化チタンの歩留りが低下し易い。歩留りが低下することにより隠蔽性が不足し、また系内の電荷バランスがカチオン寄りになり易く、抄紙欠陥が増加する場合が生じる。
【0036】
歩留向上剤としては、カチオン性のものを好ましく使用することができ、例えば、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステルをモノマーの一成分としてカチオン化剤とともに重合させたカチオン性ポリアクリル酸エステル、カチオン性ポリアクリルアミド、カチオン性ポリエチレンイミン、カチオン澱粉等が使用できる。しかし、カチオン性ポリアクリルアミド、カチオン性ポリエチレンイミン、カチオン澱粉などは、カチオン性が強すぎて酸化チタンの凝集物を大きくする、あるいはカチオン性が弱く酸化チタンとの凝集物形成力に劣るため、歩留向上剤としてはカチオン性ポリアクリル酸エステルが好ましい。カチオン性ポリアクリル酸エステルを主成分とする歩留向上剤としては、例えば、栗田工業社製のハイホールダー220、第一工業製薬社製ハイセットCシリーズ、浅田化学工業社製パラロック490K307等が挙げられる。
【0037】
カチオン性ポリアクリル酸エステルが、電子線を照射した場合に架橋反応して硬化するものであると、化粧板原紙の強度がより向上する。そのようなカチオン性ポリアクリル酸エステルとしては、エステル基に不飽和結合を有するものが好ましい。
【0038】
また、当該カチオン性ポリアクリル酸エステルは、電荷調整剤でアニオン化された酸化チタンの周囲を取り囲むように化学的に結合し、アニオン性であるパルプ繊維とも化学的に結合するため、酸化チタンの凝集体によるピンホールの発生が少なくなり、さらに隠蔽性を高める効果が有り、しかも凝集した酸化チタンの化粧板原紙への歩留りが高くなる。
【0039】
化粧板原紙への模様や図柄の印刷に電子線硬化型のインクが多用され、電子線にて硬化処理が施されるところ、酸化チタンを含有する化粧板原紙は印刷後の硬化処理において電子線を照射した際、電子線の影響を受けにくいため、電子線照射による原料パルプの劣化を抑え、化粧板原紙の紙力低下を防ぐ効果もある。
【0040】
歩留向上剤の含有がない場合、酸化チタンを十分に紙に歩留らせることができないため、隠蔽性が不足しやすく、またサイズ剤の歩留りも低下しやすく、パルプ繊維と十分に結合しないサイズ剤が存在しやすくなりシミが発生しやすくなる。
【0041】
電荷調整剤の含有量は、電荷測定機(BTG Muetek社製 Gmbh PCD−T3)にて測定したパルプやその他薬品を含んだ原料の電荷が、−0meq/g〜−30meq/gとなるように調整すればよい。
【0042】
歩留向上剤と電荷調整剤の含有量は、歩留向上剤の固形分含有重量を1とした場合に、電荷調整剤の固形分含有重量が原料パルプ絶乾重量当たり1.0〜30.0の範囲であることが好ましく、より好ましくは原料パルプ絶乾重量当たり5.0〜20.0の範囲である。歩留向上剤の含有量に対する電荷調整剤の含有量が原料パルプ絶乾重量当たり1.0を下回ると、酸化チタン表面の電荷を十分にアニオン性とすることが出来ず、酸化チタンと歩留向上剤の凝集物を効率的に作ることが困難である。また、歩留向上剤の含有量に対する電荷調整剤の含有量が原料パルプ絶乾重量当たり30を上回ると、パルプ繊維の表面のアニオン性が強くなりすぎ、パルプ原料を含んだスラリー中に含まれる油脂が凝集した凝集物が欠点として紙に抄き込まれ、ピッチという問題を引き起こしやすくなる。
【0043】
酸化チタン、サイズ剤、更に好適には、硫酸バンド、電荷調整剤、及び歩留向上剤の含有順としては、酸化チタンを一番に含有して、パルプ原料を含んだスラリー中に分散させておき、紙力剤、次に硫酸バンド、その後にサイズ剤、さらに電荷調整剤を含有し、最後に歩留向上剤を含有することが好ましい。硫酸バンドを上記含有量にすることで、化粧板原紙の紙面pHは3.2〜4.8の範囲に調整することが好ましい。
【0044】
本件発明における紙面pHは、JAPPN TAPPI 紙パルプ試験法No.49−2に従い、化粧板原紙の印刷を施す側の測定を行なったが、pHが3.2未満では硫酸バンドを過剰含有する必要が生じるとともに、抄紙機系内の腐食や薬品歩留が低下する問題が生じやすい。またpH4.8を超えると、硫酸バンドによるサイズ剤や酸化チタンの歩留まりが悪化し、更には歩留向上剤や電荷調整剤等の助剤薬品の効果が発現しにくくなる問題が生じやすくなる。
【0045】
本発明の化粧板原紙では、上記以外に、紙力増強剤等を含有することができる。紙力増強剤としては特に限定されないが、両性ポリアクリルアミド、アニオン性ポリアクリルアミド等を好適に使用することができる。含有量としては原料パルプ絶乾重量当たり0.3重量%〜5.0重量%であることが好ましく、より好ましくは原料パルプ絶乾重量当たり1.0〜4.0重量%である。原料パルプ絶乾重量当たり0.3重量%未満の場合は紙力増強剤が不足しパルプ繊維を繋ぎ止めることができず紙の紙力が充分ではない場合がある。原料パルプ絶乾重量当たり5.0重量%を超える場合ドライヤー剥離性が著しく悪化し、表面平滑性が低くグラビア印刷適性が悪化するとともに、アクリルアミド中に含まれるチッ素分により黄変化が生じる問題を内在する。
【0046】
化粧板原紙の坪量としては20〜55g/mであることが好ましく、より好ましくは23〜50g/mである。。坪量が20g/m未満の場合、化粧板原紙は引張紙力、引裂紙力、あるいは隠蔽性にやや劣る。55g/mを超える場合、紙の引張紙力、引裂紙力、隠蔽性は十分であるが、平滑度が低くなるためグラビア印刷適性が良くない。
【0047】
化粧板原紙は、JIS P8140に記載する30秒におけるコブサイズ度が12g/m以上であることが好ましい。12g/mより低いと化粧板原紙に接着剤が浸透せず、基材との接着力が弱く貼合不良となる。
【0048】
化粧板原紙は、JIS P 8138で規定する不透明度が55%以上であることが好ましく、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上である。不透明度が55%未満であれば、化粧板原紙の隠蔽性が不足し、隠蔽性アップのための印刷などの工程を加える必要があるため好ましくない。
【0049】
不透明度は、化粧板原紙中に含有する酸化チタンによる向上効果が大きいものの、ヤンキードライヤー乾燥面の艶向上にクレー等の従来公知の填料を併用して調整することもできる。不透明度が55%未満では、十分な隠蔽性を確保できず、過不透明度を向上させるために過度に填料を含有させると化粧板原紙としての紙力が低下し加工適性が損なわれる問題が生じる。
【0050】
化粧紙原紙への印刷は主にグラビア印刷法により行うため、印刷される艶面は平滑であることが好ましく、空気漏洩式紙平滑度計(パーカープリントサーフラフネス)による艶面側の値が、加圧力1.0Mpaにて3.0μm以下であることが好ましい。3.0μmを超えると、グラビア印刷時の網点再現性が悪く、印刷見栄えが悪くなりやすい。平滑度は原料フリーネスやドライヤー剥離剤の含有量で調整することができ、また、所望の平滑度を得るためにカレンダーの使用も可能である。
【0051】
空気漏洩式による平滑度の調整には、ヤンキードライヤーによる乾燥において、化粧板原紙のヤンキードライヤー接触面が粗面にならないように乾燥すると共に剥離させる事が必要であり、本件発明におけるシミ対策との兼ね合いもあり、サイズ剤の含有量が1.0重量%以下とすること、より好適にはヤンキードライヤーにおいて外添剥離剤、特には植物性の剥離剤を用いることで調整できる。
【0052】
以上説明したように、本実施の形態の化粧板原紙は、坪量が20〜55g/mの薄物でありながら、十分な隠蔽性を備え、かつ経時での吸湿によるシミの発生が無く、さらには印刷適性、基材への貼合適性が良好となる。
【実施例1】
【0053】
以下に実施例を掲げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の重量%の数値はすべて固形換算の数値である。作成した試料(実施例1〜16、比較例1〜9)について、表1及び表2に示す。
【表1】


【表2】


<試料調整>
【0054】
原料パルプとしては、表1及び表2記載のフリーネスを示す広葉樹クラフトパルプ(LBKP)を表1及び表2記載の割合(重量%)で用いた。実施例13では、LBKPとともに、フリーネスが550mLの針葉樹クラフトパルプ(NBKP)を用いた。
【0055】
調整した原料パルプスラリーに対して、下記記載順に薬品を添加した。酸化チタン(材料名(アナターゼ型:チタン工業社製、KA−100、ルチル型:テイカ社製、JRNC))、紙力剤(両性ポリアクリルアミド、星光PMC社製、DS4366)、硫酸バンド(硫酸アルミニウム)、サイズ剤(材料名(ロジンエマルジョン:ハリマ化成社製、ハーサイズNES555、けん化ロジン:荒川化学工業社製、サイズパインE、スチレンアクリル:荒川化学工業社製、NAサイズ、)、電荷調整剤(スルホン酸化合物、栗田工業社製、ハイホールダーD550)、歩留向上剤(カチオン性ポリアクリル酸エステル、栗田工業社製、ハイホールダー220)を使用した。調整した原料スラリーをヤンキーマシン(ただし比較例9では長網多筒マシン)に供給し、表1及び表2に記載の坪量になるように抄紙することにより、化粧板原紙を製造した。
<評価>
【0056】
上述のようにして作成した化粧板原紙に対して、紙面pH、平滑度、コブサイズ、及び不透明度の測定を行った。紙面pH測定は、共立理化学研究所社製の試薬を用いてJAPPN TAPPI 紙パルプ試験法No.49―2に従い、ヤンキドライヤー接触面(化粧板原紙の印刷を施す面)を測定した。平滑度は、PPS TESTER(SE−115、ローレンツェンアンドベットレー社製)を用い、ソフトバッキングで、クランプ圧1MPaにて、JIS P 8151に準じて、ヤンキドライヤー接触面(化粧板原紙の印刷を施す面)を5回平滑度測定を行い、その平均値を求めた。コブサイズ(30秒)は、ヤンキドライヤー非接触面(化粧板原紙の基材と貼合する面)をJIS P 8140に準拠して測定した。不透明度はJIS P 8138に準拠して測定した。
【0057】
上述の化粧板原紙を40℃、65%条件下において14日間静置した後に、シミの評価を行った。また、上述のようにして作成した化粧板原紙に対して、テストグラビア印刷機(GP2)により、顔料入りインキで印刷を施した。その後、酢酸ビニル系の糊を塗布した基材MDFにホットプレスで貼合し、化粧板を製造した。得られた化粧板原紙について隠蔽性、印刷適性、貼合適性の評価を行った。評価結果について、表3及び表4に示す。
【表3】

【表4】

(1)シミ
5:シミがまったく無い
4:ごく薄いシミが見えるが、製品化可能
3:薄いシミが斑点状に見えるが、製品化可能
2:全体に薄いシミが見え、製品化不可
1:全体に濃いシミが見え、製品化不可
(2)隠蔽性
◎:化粧板の色ムラが透けて見えない
○:化粧板の色ムラがわずかに透けて見えるが、製品化可能
△:化粧板の色ムラが所々透けて見えるが、製品化可能
×:化粧板の色ムラが全体で透けて見え、製品化不可
(3)印刷適性
◎:白抜けが確認できない
○:白抜けがわずかに確認できるが、製品化可能
△:白抜けが所々確認できるが、製品化可能
×:白抜けが全体で確認でき、製品化不可
(4)貼合適性
◎:貼合時のシワや破れなどの異常なし
○:貼合時のシワや破れが1ヶ所発生するが、製品化可能
△:貼合時のシワや破れが2ヶ所発生するが、製品化可能
×:貼合時のシワや破れが3ヶ所以上発生し、製品化不可
<結果>
【0058】
サイズ剤の含有量が1.0重量%以下である場合(実施例1〜16)に、シミの数が少なくなる(シミ3〜5)ことがわかった。これに対し、サイズ剤の含有量が1.3重量%以上である場合(比較例1,2)に、シミの発生が多く、製品化不可能なレベルになってしまう(シミ1,2)ことがわかった。この結果から、サイズ剤の含有量を少なくとも1.0重量%以下とすることによって、シミの発生が少ない化粧板原紙を作製できることがわかった。
【0059】
サイズ剤としてロジンエマルジョンを使用した場合(実施例1〜8,11、12、15、16)、他の材料(けん化ロジン、スチレンアクリルエマルジョン)を使用した場合(実施例9,10)と比較して、シミの発生が小さくなった(実施例1〜8,11、12、15、16:シミ評価4〜5、実施例9,10:シミ評価3)。この結果から、サイズ剤としてロジンエマルジョンを使用することによって、シミの発生がより少ない化粧板原紙を作製できることがわかった。
【0060】
酸化チタンの含有量を2.5重量%未満(比較例3:2重量%)とした場合、2.5〜15重量%(実施例1〜16)とした場合と比較して、隠蔽性において劣る傾向があることがわかった(比較例3:隠蔽性×)(実施例1〜16:隠蔽性△〜◎)。また、酸化チタンの含有量を15重量%超(比較例4:18重量%)とした場合、5〜15重量%(実施例1〜16)とした場合と比較して、印刷適性において劣る傾向があることがわかった(比較例4:印刷適性×)(実施例1〜16:印刷適性△〜◎)。また、アナターゼ型の酸化チタンを使用した場合(実施例1)、ルチル型の酸化チタンを使用した場合(実施例12)と比較して、隠蔽性に優れる傾向があることがわかった(実施例1:隠蔽性◎)(実施例12:隠蔽性○)。この結果から、酸化チタンの含有量を5〜15重量%とし、好ましくはアナターゼ型の酸化チタンを使用することによって、隠蔽性や印刷特性に優れた化粧板原紙を作製できることがわかった。
【0061】
紙面pHが3.2〜4.8である場合(実施例1〜16)、4.8超(比較例5:5.0)である場合や3.2未満(比較例6:3.0)である場合と比較して、隠蔽性や印刷適性に優れる傾向があることがわかった。従って、紙面pHを3.2〜4.8となるよう硫酸バンドを配合することによって、隠蔽性や印刷適性に優れた化粧板原紙を作製できることがわかった。
【0062】
電荷調整剤や歩留向上剤を使用しない場合(実施例11)、使用した場合(実施例1)と比較して、隠蔽性及び印刷適性の点で劣ることがわかった(実施例11:隠蔽性△、印刷適性△)(実施例1:隠蔽性:◎、印刷適性:◎)。この結果から電荷調整剤(主成分:スルホン酸化合物)及び歩留向上剤(主成分:カチオン性ポリアクリル酸エステル)を使用することによって、隠蔽性及び印刷適性に優れた化粧板原紙を作製できることがわかった。
【0063】
長網多筒の抄紙機によって作製した化粧板原紙(比較例9)は、ヤンキードライヤーを持つ抄紙機によって作製した化粧板原紙(実施例1〜16)と比較して、印刷適性に劣ることがわかった(比較例9:印刷適性×、実施例1〜16:△〜◎)。この結果から、ヤンキードライヤーを持つ抄紙機を使用して化粧板原紙を作製することによって、印刷適性の優れた化粧板原紙を作製できることがわかった。
【0064】
実施例1〜16において、坪量が20〜55g/mとなり、紙面pHが3.2〜4.8となることがわかった。
【0065】
以上から明らかなように、ヤンキードライヤーを有する抄紙機で生産され、サイズ剤を絶乾パルプ重量当たり1.0重量%以下含有し、酸化チタンを2.5〜15重量%含有し、坪量が20〜55g/m、紙面pHが3.2〜4.8の範囲にある化粧板原紙は、酸化チタンを混抄した薄紙でありながら十分な紙力を有するとともに、シミの発生が無く、隠蔽性、印刷適性、及び貼合適性のいずれにも優れることがわかった。
【0066】
更に好適には、硫酸バンドを1.6〜3.5重量部含有し、さらに電荷調整剤、及び歩留向上剤を含有することで、より好適な化粧板原紙を得ることができることがわかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヤンキードライヤーを持つ抄紙機で製造され、化粧板における原紙として基材に貼り合わせる化粧板原紙において、
酸化チタンが少なくとも含有され、酸化チタンの含有量が2.5〜15重量%であり、サイズ剤の含有量が、対絶乾パルプ当たり1.0重量%以下であり、
坪量が20〜55g/mであり、紙面pHが3.2〜4.8であることを特徴とする化粧板原紙。
【請求項2】
前記サイズ剤がロジン系エマルジョンサイズ剤であることを特徴とする請求項1に記載の化粧板原紙。
【請求項3】
前記化粧板原紙中には電荷調整剤が含有され、前記電荷調整剤は、スルホン酸化合物を主成分とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の化粧板原紙。
【請求項4】
前記化粧板原紙中には歩留向上剤が含有され、前記歩留向上剤は、ポリアクリル酸エステルを主成分とすることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の化粧板原紙。
【請求項5】
前記酸化チタンの結晶構造がアナターゼ型であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の化粧板原紙。
【請求項6】
化粧板における化粧板原紙として基材に貼り合わせる化粧板原紙の製造方法であって、
含有量が2.5〜15重量%である酸化チタン、対絶乾パルプ当たりの含有量が1.0重量%以下であるサイズ剤を少なくとも加えたパルプ材料を、ヤンキードライヤーを持つ抄紙機に供給することで前記化粧板原紙を製造することを特徴とする化粧板原紙の製造方法。


【公開番号】特開2011−58112(P2011−58112A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207590(P2009−207590)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】