説明

医療検査用カセット

【課題】薬液の透過性を高め、顕微鏡標本作成の生産性及び検査精度を向上させる医療検査用カセットを提供する。
【解決手段】カセット本体1と蓋2とを具備してなり、前記カセット本体1が上面を開放し、検体を収容し得る方形の容器で、多数の透孔を有し、前記蓋2がカセット本体に着脱自在に取り付けられ、多数の透孔を有してなる医療検査用カセットにおいて、前記蓋2の少なくとも1辺の端部が外方向に開口した多数のU字状リブ片8a、8bよりなるクシ型リブから構成され、該U字状リブ片8a、8bとカセット本体1の側壁とにより多数の透孔7aが画成されてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療検査用顕微鏡標本の作製に使用する医療検査用カセットに関し、更に詳しくは、薬液の透過効率を高め、標本作成の生産性を飛躍的に高めることができ、また蓋を取り除くことなくカセット内に収容した検体を視認でき、作業性や検査精度を向上させ得る医療検査用カセットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のカセットは、例えば、図16〜18に示すように、耐薬品性樹脂からなるカセット本体1と蓋2とを具備してなる(例えば、特許文献1参照)。カセット本体1は、上面を開放した方形の容器で、底部に多数の透孔3を有し、短辺側の一側壁の外側に底部に向かって末広がり状に傾斜した板状の記録部4を設け、その内側に係止溝5を有し、他の側壁の外側に係止部6を有する。
【0003】
蓋2は、着脱可能な板状体で、板面に多数の透孔7を有し、短辺側の一方側には前記係止溝5の記録部4の裏面に沿って嵌入係合する傾斜状係止片9を有し、短辺側の他方側にはカセット本体1よりも僅かに大き目の突縁部10を有し、係合部6と係合する係止片11を有している。
【0004】
上記カセットを使用して顕微鏡標本を作製するには、まず、採取した検体17をカセット本体1内に収容して蓋2を取り付け、記録部4に被検者の氏名等を記録しておく。蓋2の傾斜状係止片9は、カセット本体1の係止溝5に係合し、また係止片11はカセット本体1の係止部6に係合して蓋2を固定する。
【0005】
続いて、透孔7、3を通じて、検体17を水洗し、次いでアルコールにより検体17の水分を除去し、キシレンにより後述する液状パラフィンとの親和性を付与する。
【0006】
次に、図19に示すように、ステンレス製トレイ18内に液状パラフィン19を入れ、検体17をカセット本体1から取り出して液状パラフィン19中に置いて検体17に液状パラフィンを浸透させる。続いて、トレイ18の段部にカセット本体1を載せ、カセット本体1の底部が液状パラフィン19に浸るまで、液状パラフィン19を検体17上に注ぎ足す。
【0007】
液状パラフィン19が固化した後トレイ18を取り去ることにより、検体17を包埋したパラフィン19がカセット本体1の底部に付着してなるカセットブロック20を得る。
【0008】
次に、図示しないが、ミクロトーム上に装着したアダプターの基台上にカセットブロック20を裏返して載せ、固定する。続いて、パラフィン19の検体17を包埋した部分をスライスし、スライスした薄片に染色、その他の所定の処理を施すことにより顕微鏡標本を得るのである。
上記カセットは、カセット本体内の検体収容部は1個であるが、仕切壁により複数個の小室に区画されたものもある。
【特許文献1】特開2001−324428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし乍ら、従来のカセットは、蓋2が外周縁2aにより囲まれているため、この外周縁2aが堰となって薬液の水平方向からのカセット本体内への流入を妨げ、その結果、外周縁2aを乗り越えた薬液のみを流入されることになる。かくして、薬液の透過性は大きく低下せざるを得ない。
【0010】
また、カセットは、通常、複数個を上下方向に積み重ねたり水平方向に並接して上記した薬液処理がなされる。しかし、上記したような従来のカセットの場合は、カセットとカセットが密着し、カセットとカセットとの間から薬液がカセット本体内に流入することがない。即ち、上部又は隣のカセットの底面と下部又は隣のカセットの蓋の表面とが密着するため、上部又は隣のカセットの蓋2の透孔7及びカセット本体1の透孔3を透過した薬液がそのまま下部又は隣のカセットの蓋2の透孔7からカセット本体1内に流入して検体17を処理した後、カセット本体1の透孔3から更に下部又は隣のカセットの蓋2の透孔7よりカセット本体1内に流入するという操作を繰り返すことになり、薬液の透過は略一方方向のみとなり、薬液処理は必ずしも十分に効率的であるとは云い難い。
【0011】
また、複数個の検体を収容した場合には、各検体を明確に識別しておく必要があり、この識別が曖昧となると、検査結果の信頼性が確保されなくなり、検査の目的を達成することが不可能となる。
【0012】
更に、たとえ、検体収容部が1個のカセットに、1個の検体を収容する場合であっても、ミクロトームでスライスして標本を作成する場合に、切り出しの位置を表示しておくことは重要で、この表示がない場合は、作業者が忘れてしまったり、作業者が交代したような場合には、容易に切り出しの位置を知ることができず、標本作成の作業性や検査結果の信頼性が著しく低下することになる。
【0013】
更にまた、仕切壁により複数個の小室に区画されているカセットの場合は、当然各小室に検体が収容され、また区画されていない、収容部が1個のカセットの場合でも、複数個の検体を収容する場合がある。また、内視鏡を用いる生検では、直径が僅か1〜2mm程度の微小な組織片であり、粘膜面を上にして濾紙上に固定し、適切な方向に包埋させスライスすることが正診率の向上につながる。その他、検体の色や形も重要な要素である。
【0014】
しかし乍ら、従来のカセットは、蓋がステンレススチール製であったり、また蓋及びカセット本体がともに不透明又は半透明の合成樹脂製であるため、作業中において、カセットの外側からはカセット内の検体を確認することができず、例えば、検体の個数、形、色をはじめ、作業中に隣り合う小室間で検体が入れ替わったり、また濾紙とともに検体を収容する場合は、濾紙が正しい位置からずれていたり、濾紙上の検体が適切な方向になかったりするような場合にも確認することが不可能又は困難である。かくして、従来のカセットにおいて、検体の状況を確認するためには、その都度蓋を取って確認するしか方法がなく、作業性を著しく低下させる原因となっている。
【0015】
本発明は、上記の如き欠点を解消し、蓋の外周縁の少なくとも一部を取り除き、薬液の流入を促進させ、また、一方方向からのみならず、積み重ねた又は並接したカセットとカセットとの間からも薬液を流入させることにより、薬液処理が均一で且つ処理効率が改善され、また作業中において、蓋を取り除くことなく、カセット内の検体を透明の蓋及び/又はカセット本体の外側から確認することにより、作業性及び検査結果の信頼性が顕著に高められる医療検査用カセットを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するための本発明の請求項1は、カセット本体と蓋とを具備してなり、前記カセット本体が上面を開放し、検体を収容し得る方形の容器で、多数の透孔を有し、前記蓋がカセット本体に着脱自在に取り付けられ、多数の透孔を有してなる医療検査用カセットにおいて、前記蓋の少なくとも1辺の端部が外方向に開口した多数のU字状リブ片が連設されたクシ型リブから構成され、該クシ型リブとカセット本体の側壁とにより多数の透孔が画成されてなることを特徴とする医療検査用カセットを内容とするものである。
【0017】
好ましい態様としての請求項2は、クシ型リブの長さを異ならしめた請求項1記載の医療検査用カセットである。
【0018】
好ましい態様としての請求項3は、蓋の裏面に内嵌め用の突条部を設けた請求項1又は2記載の医療検査用カセットである。
【0019】
好ましい態様としての請求項4は、突条部を間欠的に設けた請求項3記載の医療検査用カセットである。
【0020】
好ましい態様としての請求項5は、蓋の表面に隆起部を突設した請求項1〜4のいずれか1項に記載の医療検査用カセットである。
【0021】
好ましい態様としての請求項6は、隆起部の表面に識別表示を設けた請求項5記載の医療検査用カセットである。
【0022】
好ましい態様としての請求項7は、カセット本体が仕切壁により複数個の小室に区画されてなる請求項1〜6のいずれか1項に記載の医療検査用カセットである。
【0023】
好ましい態様としての請求項8は、蓋及び/又はカセット本体が耐薬品性の透明材料からなる請求項1〜7のいずれか1項に記載の医療検査用カセットである。
【0024】
好ましい態様としての請求項9は、透明材料がポリプロピレン樹脂である請求項8記載の医療検査用カセットである。
【0025】
好ましい態様としての請求項10は、透明材料がポリエステル樹脂である請求項8記載の医療検査用カセットである。
【発明の効果】
【0026】
本発明の請求項1の医療検査用カセットは、蓋の透孔7のみならずクシ型リブのU字状リブ片からも薬液がカセット本体内に流入するため、薬液の透過性が顕著に改善され、薬液の処理が均一になるとともに処理時間が短縮され、生産性が大巾に向上する。
【0027】
また、請求項2の発明は、薬液の入り口が拡大される結果、薬液の流入、透過性が一層改善される。
【0028】
また、請求項3の発明は、内嵌め用の突条部により蓋のカセット本体への被着が容易且つ確実になるとともに、特に微小な検体を収容する場合においても、蓋とカセット本体との隙間から外部へ洩出することが防止される。
【0029】
また、請求項4の発明は突条部を間欠的に設けたことにより、蓋の可撓性が殆ど損なわれず、蓋の撓み変形を利用して片手で蓋とカセット本体との係合を解き蓋を取り去ることが容易となり、作業性が向上する。
【0030】
また、請求項5の発明は、カセットを上下方向に積み重ねたり又は水平方向に並接した場合に、隆起部が恰も空間部を形成するためのスペーサーとして機能し、カセット間の薬液流入が可能となる。
【0031】
また、請求項6の発明は、隆起部の表面に識別表示を設けることにより、切り出し位置や収容した検体を識別でき、検査精度を高めるとともに、作業性を向上させる。
【0032】
また、請求項7の発明は、カセット本体を複数個の小室に区分することにより、複数個の検体を1個のカセットを用いて同時に処理することができ、極めて効率的である。
【0033】
また、請求項8の発明は、蓋及び/又はカセット本体を透明材料製とすることにより、蓋を取り去ることなく、カセット内に収容された検体の状況を容易に視認することができるので、作業性や検査精度が飛躍的に高められる。
【0034】
更にまた、請求項9、10の発明は、耐薬品性及び透明性に優れたカセットを安価に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明は、蓋の少なくとも1辺の端部が外方向に開放された多数のU字状リブ片が連設されたクシ型リブから構成され、該クシ型リブとカセット本体の側壁とにより多数の透孔が画成されてなることを特徴とする。かかる構成とすることにより、薬液はクシ型リブに沿って導かれ、該クシ型リブとカセット本体の側壁とにより画成される多数の透孔よりカセット本体内に導入されるので、薬液処理効率が向上する。
【0036】
この場合、クシ型リブのU字状部の左右の長さを異ならしめることにより、短いリブを挟んで隣り合う長いリブ片と長いリブ片との間に形成される凹状部に薬液が導入され、云わば薬液流入の開口部が拡大し、その結果、薬液が流入し易くなるので薬液処理効率が一層高められる。
【0037】
また、蓋の裏面にカセット本体への内嵌め用の突条部を設けることにより蓋をカセット本体に被着し易くなるとともに、特に収容する検体が微小な場合においても、蓋とカセット本体との隙間から検体が外部に流出するといったトラブルが防止される。
突条部は連続的に設けてもよいが、間欠的に設けることにより、蓋の可撓性が殆ど損なわれず、蓋の上方への撓み変形を利用して開蓋する操作が容易となる。
【0038】
また、蓋の表面に隆起部を設けることにより、カセットを上下方向に積み重ねたり又は水平方向に並接した場合に、隆起部がスペーサーとして機能しカセットとカセットとの間に空間部を形成し、この空間部からも薬液が流入可能となるので薬液の処理が均一となり、且つ効率的である。
【0039】
この場合において、隆起部の表面に、収容した検体を識別するための識別表示を設けることにより、標本作成の作業性及び検査精度を高めることができる。また、ミクロトームでスライスして標本を作成する際の切り出しの識別表示を設けることにより、ミクロトームでスライスする際の切り出し位置を知ることができ、作業性及び検査精度が高められる。
【0040】
本発明における識別表示は文字通り識別又は区別できるものであれば特に制限されず、例えば、1、2、3等の数字、A、B、C(a、b、c)等のアルファベット、イ、ロ、ハ(い、ろ、は)等の五十音、○、△、×等の記号等、数字、文字、記号、模様、着色等のいずれでもよい。
【0041】
隆起部の高さは特に制限されないが、少なくとも0.3mmの高さ、好ましくは、少なくとも0.5mmの高さで設けるのが好ましい。隆起部が0.3mmよりも低くなると、作業する際に視認し難く、間違いが生じ易くなり、また、隆起部により形成される空間部が小さいため薬液の透過性の改善効果が不十分となる。隆起部の表面に設ける識別表示は、突設、刻設、又は平面的に設けてもよい。尚、隆起部の上限は、カセットの大きさにより一概には規定できないが、余り高くなると積み重ねたり並接した場合に場所をとり、処理効率が低下するとともに、取り扱い性も悪くなる。従って、10mm程度が好ましい。
【0042】
また、カセット本体を仕切壁で区画して複数個の小室にすることは、同時に複数個の検体が処理されるので極めて効率的である。しかし、前記したように、既存のミクロトーム等の装置を使用する場合には、カセットの大きさに自ら制約があり、従って、複数個の小室を設ける場合は、2〜9個程度が好ましい。9個を越えると、小室のサイズが小さくなり過ぎ、収容、処理する検体のサイズも制限され不都合な場合がある。
【0043】
小室の形成は仕切壁によりなされるが、仕切壁をカセット本内にのみ突設し、蓋を被着した際に該仕切壁の先端部と蓋の裏面との対接により小室を区画形成するようにしてもよく、また蓋の裏面に背の低い仕切壁を突設するとともに、カセット本体内に背の高い仕切壁を突設し、蓋を被着した際に、両仕切壁の先端同志の対接により小室を区画形成するようにしてもよい。小室は実質的に隙間のない独立した空間であってもよく、また検体が隣接する小室に移動しない程度に小さい隙間があってもよい。
【0044】
蓋及び/又はカセット本体は耐薬品性を有する材料から作られ、例えばポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリプロピレン等の合成樹脂、ステンレス等の金属等が好適であるが、特にポリカーボネート、ポリエステル、ポリプロピレン等の透明樹脂製とすることにより、カセット内部に収容した検体の状況(個数、形状、色、カセット本体内での存在位置、濾紙とともに検体を収容した場合は、濾紙の位置、濾紙上の検体の方向等)を明確に視認することができるので、顕微鏡標本作成の効率化、確実化を図るとともに、精度の高い検査結果を得ることができる。
【0045】
上記透明樹脂の中、とりわけ耐薬品性及び低コストという点からポリプロピレン樹脂、ポリエステル(特にPET)樹脂が好適で、特にポリプロピレン樹脂が好適である。蓋のみが透明材料からなる場合は蓋の外部から、またカセット本体のみが透明材料からなる場合はカセット本体(側壁又は底部)の外側から、更に、蓋とカセット本体とが透明材料からなる場合は、蓋及びカセット本体の両方の外側から、内部の検体の状況を視認することができる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例を示す図面に基づいて詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されないことは云うまでもない。
【0047】
実施例1
本実施例の医療検査用カセットは、図1〜図3に示すように、ポリアセタール樹脂からなる、カセット本体1と蓋2とを具備してなり、カセット本体1が、上面を開放した、検体を収容し得る方形の容器で、多数の透孔3を有し、短辺側の一側壁Aの外側に底部に向かって末広がり状に傾斜した板状の記録部4を備えるとともに、その内側に係止溝5を有し、他の側壁Bの外側に係止部6を有してなる。
【0048】
一方、蓋2が多数の透孔7を有し、短辺側の一方側には前記係止溝5に記録部4の裏面に沿って嵌入係合する傾斜状係止片9を、他方側にはカセット本体1よりも僅かに大き目の突縁部10を有し、前記係止部6と係合する係止片11を有し、長辺側の2辺の各端部が外方向に開放された多数のU字状リブ片8a、8bから構成され、該U字状リブ片8a、8bとカセット本体1の側壁Cとにより多数の透孔7aが画成されてなる。
【0049】
上記カセットを用いて上記した方法で顕微鏡標本を作成するが、薬液は蓋2の透孔7からカセット本体1内に流入することは勿論、長辺側の2辺からもU字状リブ片8a、8bに沿って、即ち両リブ片8a−8b間の開口部7bより水平方向に導かれ、該U字状リブ片8a、8bと側壁Cとにより画成される透孔7aからもカセット本体1内に導入される(図3参照)。
【0050】
図4は、上記カセットを上下方向に積み重ねた状態を示すが、U字状リブ片8a、8bは水平方向に且つ外方向に向かって開口しているため、薬液は両リブ片8a−8b間の開口部7bより導入され、7a(図3)からカセット本体1内に流入することができる。
【0051】
尚、本実施例においては、U字状リブ片8aと8bとは長さが一様でなく、8aが長く、8bが短く構成されているが、このように構成することにより、先ず隣り合う長い方のリブ片8a、8aにより(短い方のリブ片8bを挟んだ8a−8b−8aの状態で)形成される凹状部に薬液が導かれ、次に、導かれた薬液は8a−8b間及び8b−8a間に分配され、7aからカセット本体1内に流入するため、極めて効率的に薬液が導入される。
【0052】
図5は、蓋2の他の例を示す斜視図で、蓋2の裏面の長辺側の外周面に沿って、カセット本体1内に内嵌め式に嵌合する突条部12が設けられている。突条部12は長辺方向のみでもよく、また短辺方向のみでもよく、更には長辺方向及び短辺方向の両方(この場合は4辺に周設)に設けてもよい。長辺方向の突条部12は、後記するように、蓋2の可撓性を利用して蓋2の撓み変形によりカセット本体1から引き離し易くするため、間欠的に設けることが望ましい。
【0053】
図6は、蓋2の更に他の例を示す斜視図で、図5で示した蓋2の表面に隆起部13が設けられている。
かかる蓋2を用いたカセットは、図7に示すように、上下方向に積み重ねた場合に、隆起部13が恰も上下のカセット間に薬液を水平方向から導入するための空間部を作るためのスペーサーとして機能し、矢示した如く、水平方向からの薬液導入を促進させる効果を発揮し、薬液の透過性は一段と向上する。
【0054】
図8は、蓋2の別の例を示す斜視図で、U字状リブ片8a、8aが同一長さに形成されている。この場合は、隣接するリブ8a−8a間に薬液が導入され、図3の場合と同様、7bからカセット本体内に流入する。
【0055】
実施例2
本実施例の医療検査用カセットは、図9〜図11に示すように、実施例1に示したカセットにおいて、図6で示した蓋2を使用するとともに、板状の記録部4を除く側壁下方に透孔14を設けたカセット本体1を使用した例である。即ち、蓋2の表面の周縁に、隆起部13が設けられ、図示しないが、そのうちの一つの隆起部13aに、切り出し位置を示すための識別表示が設けられている。
尚、側壁の下方に透孔を設けた理由は、上方の板状部を必要に応じ、記録部として使用可能とするためである。従って、記録部のスペースが不要である場合は、側壁全面に透孔を設けることもできる。
【0056】
また、内嵌め用の突条部12は、カセット本体1の側壁の上部内側に設けた段付部に載置されているが、このような段付部を設けずに、側壁の内側に嵌合する構造としてもよい。この場合は、U字状リブ片8a、8bと内嵌め用突条部12とにより透孔7aが画成される。
また、突条部12を3つに分割して間欠的に設けられているので、蓋2の長辺方向の可撓性が損なわれず、例えば人差指で蓋2の略中央部を押さえると左右側が上方に反り返るように撓み変形し、その結果、蓋2の係止片11がカセット本体1の係止部6から離脱し、親指を蓋の突縁部10又は係止片11近辺に掛けることにより、片手で容易に蓋を取り去ることができる。
【0057】
上記カセットを用いて顕微鏡標本を作成する場合は、図7に示したように、積み重ねたカセット間に隆起部13の高さだけの空間部が形成されるため、従来カセットのように縦方向からのみではなく、該空間部を介して横方向からの薬液の流入・透過が可能となり、更に、カセット本体1の板状の記録部4を除く3方の側壁下方にも透孔14が設けられているので、薬液の透過性は一層良好で、検体の薬液処理効果は均一且つ効率的となる。
【0058】
実施例3
本実施例の医療検査用カセットは、図12〜図13に示すように、実施例2に示したカセットにおいて、カセット本体1が仕切壁16により6個の小室に区画され、一方、蓋2は仕切壁15により6個に区画され、仕切壁16と15が対接して独立した6個の小室が形成されている。
この場合、6個の隆起部13の表面に識別表示を施すことにより、6個の小室を該識別表示により区別することができ、また、そのうちの1個に隆起部に切り出し位置を示す識別表示を設けることも可能である。
【0059】
実施例4
本実施例の医療検査用カセットは、図14〜図15に示すように、実施例2に示したカセットにおいて、カセット本体1が仕切壁16により9個の小室に区画され、一方、蓋2は仕切壁15により9個に区画され、仕切壁16と15が対接して独立した9個の小室が形成されている。
この場合、9個の隆起部13の表面に識別表示を施すことにより、9個の小室を該識別表示により区別することができ、また、そのうちの1個に隆起部に切り出し位置を示す識別表示を設けることも可能である。
【0060】
実施例5〜8
実施例1〜4のカセットにおいて、カセット本体1及び蓋2の材質を不透明樹脂のポリアセタール樹脂から透明樹脂のポリプロピレン樹脂に変更した他は、同様にしてカセットを作製した。蓋2及びカセット本体1は、いずれも透明で、蓋2を取り去ることなく、内部の検体が視認でき、作業性は頗る良好であった。
【0061】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例で示した如き形状や構造のカセットに限られず、蓋とカセット本体とからなる全てのカセットに適用可能であることは言うまでもない。特に、蓋2とカセット本体1との係合・離脱の構造は図示したものは一例にすぎず、これに限定されないことは勿論で、例えば図17に示したような構造であってもよい。また、上記実施例では、蓋2の長辺側の2辺を多数のU字状リブ片からなるクシ型リブに形成したが、いずれかの1辺でもよく、また、残りの短辺側の1辺又は2辺も係止片11や傾斜状係止片9の部分を除いてU字状リブ片からなるクシ型リブに形成し、更に薬液の透過性を高めることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
叙上のとおり、本発明は医療検査用カセットは、薬液の透過効率を高め、標本作成の生産性を飛躍的に高めることができ、また蓋を取り除くことなくカセット内に収容した検体を視認でき、作業性や検査精度を向上させ得る医療検査用カセットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明のカセットの実施例を示す斜視図である。
【図2】図1のカセットのb−b断面図である。
【図3】図1のカセットのc−c断面図である。
【図4】図1〜3のカセットを上下方向に積み重ねた状態を示す概略図である。
【図5】本発明における蓋の他の実施例を示す上面図である。
【図6】本発明における蓋の他の実施例を示す上面図である。
【図7】図6の蓋を使用したカセットを上下方向に積み重ねた状態を示す概略図である。
【図8】本発明における蓋の他の実施例を示す上面図である。
【図9】本発明のカセットの他の実施例を示す斜視図である。
【図10】図9のカセットのb−b断面図である。
【図11】図9のカセットのc−c断面図である。
【図12】本発明のカセットの更に他の実施例を示す長さ方向の断面図である。
【図13】図12のカセットの巾方向の断面図である。
【図14】本発明のカセットの別の実施例を示す長さ方向の断面図である。
【図15】図14のカセットの巾方向の断面図である。
【図16】従来のカセットの一例を示す斜視図である。
【図17】図16のカセットの長さ方向の断面図である。
【図18】図16のカセットの巾方向の断面図である。
【図19】従来のカセットを用いて検体をパラフィンに包埋させる状態を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0064】
1 カセット本体
2 蓋
2a 外周縁
3 透孔
4 記録部
5 係止溝
6 係止部
7、7a 透孔
7b 開口部
8a、8b U字状リブ片
9 傾斜状係止片
10 突縁部
11 係止片
12 突条部
13 隆起部
14 透孔
15、16 仕切壁
17 検体
18 トレイ
19 パラフィン
20 カセットブロック


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カセット本体と蓋とを具備してなり、前記カセット本体が上面を開放し、検体を収容し得る方形の容器で、多数の透孔を有し、前記蓋がカセット本体に着脱自在に取り付けられ、多数の透孔を有してなる医療検査用カセットにおいて、前記蓋の少なくとも1辺の端部が外方向に開口した多数のU字状リブ片が連設されたクシ型リブから構成され、該クシ型リブとカセット本体の側壁とにより多数の透孔が画成されてなることを特徴とする医療検査用カセット。
【請求項2】
クシ型リブの長さを異ならしめた請求項1記載の医療検査用カセット。
【請求項3】
蓋の裏面に内嵌め用の突条部を設けた請求項1又は2記載の医療検査用カセット。
【請求項4】
突条部を間欠的に設けた請求項3記載の医療検査用カセット。
【請求項5】
蓋の表面に隆起部を突設した請求項1〜4のいずれか1項に記載の医療検査用カセット。
【請求項6】
隆起部の表面に識別表示を設けた請求項5記載の医療検査用カセット。
【請求項7】
カセット本体が仕切壁により複数個の小室に区画されてなる請求項1〜6のいずれか1項に記載の医療検査用カセット。
【請求項8】
蓋及び/又はカセット本体が耐薬品性の透明材料からなる請求項1〜7のいずれか1項に記載の医療検査用カセット。
【請求項9】
透明材料がポリプロピレン樹脂である請求項8記載の医療検査用カセット。
【請求項10】
透明材料がポリエステル樹脂である請求項8記載の医療検査用カセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2007−292579(P2007−292579A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−120271(P2006−120271)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(591242450)村角工業株式会社 (38)
【Fターム(参考)】