説明

医療検査用カセット

【課題】薬液処理の透過性を改良した医療検査用カセットを提供する。
【解決手段】耐薬品性材料からなるカセット本体2と蓋3とを具備してなり、前記カセット本体2は上面が開放され、検体を収容し得る方形の容器であり、その底部に外周領域4、及びその内側に多数の透孔5aが穿設された透孔領域5を有し、前記蓋3はカセット本体2に着脱自在に取り付け可能であり、その表面に外周領域4、及びその内側に多数の透孔5aが穿設された透孔領域5を有し、前記蓋3の表面又は前記カセット本体2の底部の裏面に間隙保持用突起6が設けられた医療用カセット1において、該間隙保持用突起6は透孔5aに没入しないサイズ及び形状からなり、かつ外周領域4と透孔領域5の両方に突設されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療検査用顕微鏡標本の作製に使用する医療検査用カセットに関し、更に詳しくは、蓋の表面又はカセット本体底部の裏面に間隙保持用の突起を設け、カセットを積み重ねて、又は並接して薬液処理を施す際の薬液の透過性を改良した医療検査用カセットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種のカセットは、例えば、図11に示すように、耐薬品性合成樹脂からなるカセット本体2と蓋3とを具備してなる。カセット本体2は、上面を開放した方形の容器で、底部に多数の透孔5aを有する。蓋3は、着脱可能な板状体で、板面に多数の透孔5aを有している(例えば特許文献1参照)。
【0003】
上記カセットを使用して顕微鏡標本を作製するには、例えば特許文献1に記載されている如く、まず、採取した検体Sをカセット本体2内に収容して蓋3を取り付けておく。続いて、透孔5aから水を流入させて、検体Sを水洗し、次いでアルコールにより検体Sの水分を除去し、キシレンにより後述する液状パラフィンとの親和性を付与する。
【0004】
次に、図示しないが、検体Sをトレイに移してこれにカセット本体の底部を被せ、上からパラフィンを注入することにより、検体Sを包埋したパラフィンがカセット本体1の底部に付着してなるカセットブロックを得る。その後、ミクロトームでパラフィンに包埋された検体をスライスして薄片を得て、これに染色等の所定の処理を施すことにより顕微鏡標本を得るのである。
【0005】
上記の薬液処理は、通常、複数個のカセットを積み重ねたり並接したりすることにより複数個の検体Sに対し同時に行われる。その場合、隣接するカセットは一つのカセットの蓋の表面と他のカセットの底部裏面とが隙間なく密着した状態となり、カセット間に隙間がなくなるため、カセット間から薬液がカセット内に流入することが妨げられ、薬液の流入は専ら積み重ねた又は並接するカセット群の外側からのみに限定されることになる。その結果、薬液の流入は制限されるとともに不均一となり、検体Sの薬液処理も不均一とならざるを得ない。また、薬液処理に長時間を要することになり、作業性が低下する。
【0006】
このような問題を解決せんとして、本出願人は、積み重ねたり並接したりした場合に少々横ズレしても好適な間隙を保持でき、かつこの間隙からカセット内に薬液が十分に流入することにより均一かつ十分な薬液処理ができる医療検査用カセットを提供することを目的として、耐薬品性材料からなるカセット本体と蓋とを具備してなり、前記カセット本体が上面を開放し、検体を収容し得る方形の容器で、多数の透孔を有し、前記蓋がカセット本体に着脱自在に取り付けられ、多数の透孔を有してなる医療検査用カセットにおいて、前記蓋の表面の外側の少なくとも四角付近に間隙保持用突起を設けるとともに、内側に少なくとも1個の間隙保持用突起を設けたことを特徴とする医療検査用カセットを提案した(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
これによると、長辺方向又は短辺方向又は斜め方向のいずれにズレが生じた場合においても隣接する医療検査用カセット間に十分な間隙を保持でき、その間隙からカセット内に薬液を流入させて十分かつ均一な薬液処理が可能である。
しかしながら、特許文献1に図示されているように、間隙保持用突起は半球状又は円弧状からなるため、ズレが生じた場合に半球状又は円弧状の突起が隣接するカセットのカセット本体底部の透孔内に没入し透孔を塞いだり、また没入した部分は間隙が小さくなるため、カセット間に均一な間隙を保持することができなくなり、その結果、十分かつ均一な薬液処理ができなくなる。
【0008】
また、従来の医療検査用カセットを使用した場合、薬液の流れの大部分は医療用カセットの間隙を単に素通りする割合が多く、カセット内部に流入する薬液の量が少ないという問題を含んでいる。
【特許文献1】特開2004−294171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、間隙保持用突起を透孔に没入しないサイズ及び形状とするとともに、該突起を特定の位置に配設することにより、上記の如き欠点を解消し、積み重ね又は並接したカセットがずれても確実に均一な間隙が保持され、かつこの間隙に生じる乱流を利用してカセットの内部に薬液を流入させることにより、薬液処理が均一で且つ処理効率がさらに改善された医療検査用カセットを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る発明は、耐薬品性材料からなるカセット本体と蓋とを具備してなり、前記カセット本体は上面が開放され、検体を収容し得る方形の容器であり、その底部に外周領域、及びその内側に多数の透孔が穿設された透孔領域を有し、前記蓋はカセット本体に着脱自在に取り付け可能であり、その表面に外周領域、及びその内側に多数の透孔が穿設された透孔領域を有し、前記蓋の表面又は前記カセット本体の底部の裏面に間隙保持用突起が設けられた医療用カセットにおいて、該間隙保持用突起は透孔に没入しないサイズ及び形状からなり、かつ外周領域と透孔領域の両方に突設されていることを特徴とする医療検査用カセットを内容とする。
【0011】
本発明の請求項2に係る発明は、間隙保持用突起の最長部分の長さは、透孔の最長部分よりも長い寸法であることを特徴とする請求項1に記載の医療検査用カセットを内容とする。。
【0012】
本発明の請求項3に係る発明は、外周領域内の間隙保持用突起は、外周に沿って略等間隔に4〜8個設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の医療検査用カセットを内容とする。
【0013】
本発明の請求項4に係る発明は、外周領域内の間隙保持用突起は対向する二つの長辺の外周に沿って、それぞれ2〜4個設けられていることを特徴とする請求項3に記載の医療検査用カセットを内容とする。
【0014】
本発明の請求項5に係る発明は、一つの長辺の外周に沿って設けられた間隙保持用突起の長さの和は、長辺の長さの1/3以下であることを特徴とする請求項4に記載の医療検査用カセットを内容とする。
【0015】
本発明の請求項6に係る発明は、透孔領域内の間隙保持用突起は2〜9個設けられていることを特徴とする請求項1 乃至請求項5のいずれか1項に記載の医療検査用カセットを内容とする。
【0016】
本発明の請求項7に係る発明は、長辺又は短辺と平行に設けられた間隙保持用突起の長さの和は、長辺又は短辺の長さの1/3以下であることを特徴とする請求項6に記載の医療検査用カセットを内容とする。
【0017】
本発明の請求項8に係る発明は、カセット本体が仕切り壁により複数個の小室に区分されていることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1 項に記載の医療検査用カセットを内容とする。
【0018】
本発明の請求項9に係る発明は、蓋及び/又はカセット本体が耐薬品性の透明材料からなることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の医療検査用カセットを内容とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の医療検査用カセットは、蓋の表面又はカセット本体の底部の裏面に設けられた間隙保持用突起が透孔に没入しないサイズ及び形状からなり、かつ外周領域と透孔領域の両方に突設されているため、医療検査用カセットを積み重ねたり並接した場合に隣接する該カセットの間には均一で適当な大きさの間隙が形成され、しかもカセットにズレが生じたとしてもこの均一な間隙は保持される。従って、カセット内への薬液の流入が妨げられることなく、均一な流入量が確保され、均一な薬液処理を行うことができる。
さらに、間隙保持用突起は透孔に没入しないサイズ、形状からなるため、隣接するカセットの間隙に流入した薬液は、この突設した間隙保持用突起と衝突して乱流を生じる。そのため該間隙を単に素通りする薬液の量が減少し、カセット内に流入する薬液の量が増大し、短時間で薬液処理を効率的に行うことができる。
【0020】
請求項2に係る発明は、間隙保持用突起の最長部分の長さが透孔の最長部分よりも長い寸法とされているため、間隙保持用突起は透孔内に没入することがないため、隣接するカセットの間隙は均一且つ確実に保持される。従って薬液のカセット内への流入が妨げられることがなく、均一な薬液処理を行うことができる。
【0021】
請求項3に係る発明は、外周領域内の間隙保持用突起が外周に沿って略等間隔に4〜8個設けられているため、間隙保持用突起の間を通って外周の全ての方向から薬液が流入し、薬液処理が一層均一に行われる。
また、隣接する医療検査用カセットとの間に横ズレが生じ、外周領域に設けられた間隙保持用突起のうち一つが隣接する該カセットに当接しなかったとしても、他の間隙保持用突起(透孔領域に設けられた突起を含む)が該カセットに当接することになるので、隣接するカセットの間隙は均一且つ確実に保持され、均一な薬液処理を行うことができる。
【0022】
請求項4に係る発明は、外周領域内の間隙保持用突起が対向する二つの長辺の外周に沿って、それぞれ2〜4個設けられているため、それぞれの間隙保持用突起は適当な距離を置いて配置される。従って、隣接するカセット間で横ズレが生じ、一方の長辺外周に設けられた間隙保持用突起が隣接するカセットに当接しなくなったとしても、他方の長辺外周及び透孔領域に設けられた間隙保持用突起が隣接するカセットに当接しているため、適当な間隙が確実に保持される。このため、間隙保持用突起の間隔からそれぞれスムースに薬液が流入し、検体の均一な薬液処理が確保される。
【0023】
請求項5に係る発明は、一つの長辺の外周に沿って設けられた間隙保持用突起の長さの和が、該長辺の長さの1/3以下であるから、薬液は該突起の存在しない残りの2/3以上の部分から流入する。従って、隣接するカセットの間隙への薬液の流入が十分に確保され、検体の均一な薬液処理が確保される。
【0024】
請求項6に係る発明は、透孔領域内の間隙保持用突起が2〜9個設けられているため、短辺側又は長辺側から隣接するカセットの間隙に流入した薬液がこの間隙保持用突起と衝突することにより乱流が生じ、このため薬液は該間隙内を素通りせずにカセット内に流入し、このため検体の薬液処理は促進される。
【0025】
請求項7に係る発明は、長辺又は短辺と平行に設けられた間隙保持用突起の長さの和が、長辺又は短辺の長さの1/3以下とされているため、間隙保持用突起が該間隙における薬液の流路を妨げることがない。これにより間隙保持用突起の左右でカセット内に流入する薬液の量にバラツキが生じる事がなくなり、検体の均一な薬液処理が確保される。
【0026】
請求項8に係る発明は、カセット本体が仕切り壁により複数個の小室に区分されているため、一つのカセットで複数個の検体を同時に処理でき、このため作業効率が向上する。
【0027】
請求項9に係る発明は、蓋及び/又はカセット本体が耐薬品性の透明材料からなるため、作業中にカセット内部にある検体の状態を視認できるため作業効率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明は、耐薬品性材料からなるカセット本体と蓋とを具備してなり、前記カセット本体は上面が開放され、検体を収容し得る方形の容器であり、その底部に外周領域、及びその内側に多数の透孔が穿設された透孔領域を有し、前記蓋はカセット本体に着脱自在に取り付け可能であり、その表面に外周領域、及びその内側に多数の透孔が穿設された透孔領域を有し、前記蓋の表面又は前記カセット本体の底部の裏面に間隙保持用突起が設けられた医療用カセットにおいて、該間隙保持用突起は透孔に没入しないサイズ及び形状からなり、かつ外周領域と透孔領域の両方に突設されていることを特徴とするものである。
【0029】
本発明における間隙保持用突起は、カセットを積み重ねたり並接した場合において、隣接するカセットの間に薬液を透過させるための均一な間隙を形成させるためのものである。
間隙保持用突起の形状は透孔に没入しないサイズ及び形状であれば特に限定されないが、幅が透孔と透孔を碁盤目状に仕切る桟の幅よりも狭く、最長部分の長さが透孔の最長部分よりも長い、適当な高さの直方体状のものが好ましい。
ここで、間隙保持用突起の最長部分とは、該突起の平面形状における一点と他点の距離が最長となる場合においてこれらの点を結ぶ部分のことを云い、例えば該突起が直方体の場合はその平面形状である長方形の対角線を指す。また、透孔の最長部分とは透孔の平面形状における一点と他点の距離が最長となる場合においてこれらの点を結ぶ部分のことを云い、例えば透孔が正方形である場合はその対角線、円形である場合はその直径を指す。
【0030】
具体的には、間隙保持用突起の長さや幅は、蓋及びカセット本体の底部に穿設された透孔の形状や大きさ、桟の幅によっても異なるが、例えば、透孔が一辺の長さ2mm程度の正方形で桟の幅が1.5mmの場合、長さ2.5〜4.0mm程度、幅0.7〜1.5mm程度が好ましい。長さ、幅が上記より小さいと、隣接するカセット間で横ズレが生じた場合に、該間隙保持用突起が透孔内に没入してしまう虞れがあり、また、上記の長さや幅より大きくなると、薬液の流れに支障を生じる場合がある。
【0031】
また間隙保持用突起の高さは、カセットの大きさによっても異なるが、例えばカセットの大きさが長辺30mm、短辺20mm、高さ7mm程度の場合、間隙保持用突起の高さは0.7〜1.5mm程度が好ましい。0.7mmよりも低くなると、隣接するカセットの間の間隙が狭くなり薬液の透過性が低下する。また、1.5mmを超えても薬液の透過性はさほど上昇しない上に、場所を取りすぎて処理効率が低下するとともに、取り扱い性も悪くなる。
【0032】
本発明における間隙保持用突起は、蓋の表面又はカセット本体底部の裏面の外側にある外周領域に設けられるとともに、透孔領域にも設けられる。本発明において、透孔領域とは、透孔が穿設されている領域を指し、該透孔領域の周囲であって透孔が穿設されていない領域を外周領域と称する。
【0033】
前記外周領域に設ける間隙保持用突起は、4〜8個程度を略等間隔に設けるのが好ましい。ここで、略等間隔とは、外周のうち一辺に全ての突起が設けられるようなことがないというほどの意味であり、厳密な意味での等間隔である必要はない。間隙保持用突起の配置に偏りがある場合は、隣接する該カセットの間に横ズレが生じた場合、外周領域に設けられた全ての間隙保持用突起が隣接する該カセットと当接しなくなり、好適な間隙を保持できなくなる虞れがある。さらに該突起の間隔が狭くなる部分が生じ、この部分からの薬液の流入が減少するため、検体を均一に薬液処理することが困難になる。
またその数が3個以下であると、その配置方法によっては、該カセット間に横ズレが生じた場合に十分な間隙保持が出来なくなる傾向があり、9個以上であっても間隙保持性がさほど向上しない上に、該間隙保持用突起の間隔が狭くなって薬液の流入量が減少するため、薬液処理の効率は該突起が6個以下のものと比較して悪化する傾向がある。
【0034】
外周領域の間隙保持用突起は、長辺、短辺、長辺と短辺の両方、のいずれに設けてもよいが、対向する長辺の外周に沿って、それぞれ2〜4個設けるのが好ましい。対向する短辺に設けると、間隙保持用突起が占める割合が大きくなり、短辺方向からの薬液の流入に支障をきたす場合があるからである。
尚、一辺に設けられる間隙保持用突起の長さの和は該長辺の長さのそれぞれ1/3以下である方が好ましい。1/3を超えると該突起が占める割合が大きくなり、該長辺側から流入する薬液の量が減少し、検体の均一な薬液処理が困難になる場合がある。
【0035】
本発明においては透孔領域にも間隙保持用突起が設けられる。これにより、隣接する医療検査用カセットの間に横ズレが生じて外周領域に設けられた間隙保持用突起の一部が隣接する該カセットに当接しなくなったとしても、透孔領域に設けられた該突起を含む残りの該突起により均一な間隙を保持することが出来るのである。
また、この間隙に流入した薬液が透孔領域内の間隙保持用突起と衝突することにより乱流が生じ、このため該間隙を単に素通りするだけの薬液の量が減少して該カセット内に流入する薬液の量が増大する。
【0036】
透孔領域に設けられる間隙保持用突起の数については、隣接する該カセットの間に均一な間隙を保持する観点からは、透孔領域の略中央部に一つだけ配置すれば十分であるが、該間隙に適当な乱流を生じさせる観点からは、2〜9個設けることが好ましい。
該突起が一つだけであると、生じる乱流自体が十分でなく、特に薬液が該突起と平行な向きに流入した場合は殆ど乱流を生じさせない。また10個以上であると該間隙への薬液の流入量自体が減少し、激しい乱流が生じたとしても医療検査用カセット内への流入量は増大しない傾向がある。
【0037】
透孔領域における間隙保持用突起の向きについては、その全てを同じ向きに配置することも出来るが、いずれの方向から薬液が流入しても乱流が生じやすくするために、その長辺と平行の配置と短辺と平行の配置とを混在させることが好ましい。
なお、現状では殆ど全ての医療検査用カセットに設けられた透孔は、長辺及び短辺と平行に碁盤目状に整列されているため、間隙保持用突起を斜めに設けると透孔をふさぐことになるので好ましいとはいえない。
【0038】
本発明のカセットの材料は、標本作成に使用する化学薬品に対して耐性を有する合成樹脂や金属が好ましく、例えば、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリプロピレン、ステンレス等が挙げられる。また、カセット本体を樹脂で、蓋を金属で作ることもでき、更に、その逆も可能である。
【0039】
また、カセット本体、蓋のいずれかが、又はその両方が透明材料で作成されることにより、蓋のみが透明材料からなる場合は蓋の外側から、また、カセット本体のみが透明材料からなる場合はカセット本体(側壁又は底部)の外側から、更に、カセット本体と蓋の両方が透明材料からなる場合は、カセット本体及び蓋の両方の外側から、内部の検体の状況を視認することができる。即ち、カセット内部に収容した検体の状況(大きさ、個数、形状、色、カセット本体内での存在位置、濾紙とともに検体を収容した場合は、濾紙の位置、濾紙上の検体の方向等)を明確に視認することができ、顕微鏡標本作成の効率化、確実化を図るとともに、精度の高い検査結果を得ることができる。
【0040】
透明材料としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル(特にPET)樹脂が好適であり、とりわけ耐薬品性に優れ低コストという点からポリプロピレン樹脂が好適である。
【0041】
また、カセット本体を仕切り壁で区画して複数個の小室にすることにより、同時に複数個の検体が処理されるので極めて効率的である。しかし、既存のミクロトーム等の装置を使用する場合には、カセットの大きさに自ら制約があり、従って、複数個の小室を設ける場合は、2〜9個程度が好ましい。9個を越えると、小室のサイズが小さくなり過ぎ、収容、処理する検体のサイズも制限され不都合な場合がある。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例を示す図面に基づいて詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されないことは云うまでもない。
【0043】
実施例1
本実施例の医療検査用カセット1は、図1〜図3に示すように、耐薬品性材料からなるカセット本体2と蓋3とを具備してなる。カセット本体2は上面を開放した、検体S(図示せず)を収容し得る方形の容器であり、底部に桟56を介して碁盤目状に多数の透孔5aが穿設された透孔領域5及びその外側に透孔5aが設けられていない外周領域4を有し、短辺側の一側壁の外側に底部に向かって末広がり状に傾斜した板状の記録部9を備えている(尚、図1〜図3においては、カセット本体2の底部は示していないので図9、図10を参照)。
【0044】
一方、蓋3は桟5bを介して碁盤目状に多数の透孔5aが穿設された透孔領域5及びその外側に透孔5aが設けられていない外周領域4を有している。
この外周領域4には長辺と平行に間隙保持用突起6(計6個)が設けられるとともに、透孔領域5には5個の間隙保持用突起6が突設されている。なお、この実施例においては、図3に示すように、透孔5a の大きさが一辺の長さ2.0mmの正方形、桟の幅は1.5mmで、一方、間隙保持用突起6は長さ3.5mm、幅1.5mm、高さ1.0mmである。従って、上記の間隙保持用突起6は透孔5a に没入することはない。
【0045】
外周領域4には、間隙保持用突起6が対向する長辺の外周に沿ってそれぞれ3個づつ設けられている。なお、蓋3の長辺の長さは70mmであるから、一辺に設けられた間隙保持用突起6の長さの和は10.5mm(3.5mm×3)であり、長辺の長さの1/3以下(約1/7)である。従って、薬液は間隙保持用突起6に遮られることなく、長辺側からも十分に流入する。
【0046】
また、透孔領域5に設けられた5個の間隙保持用突起6の内、2個は短辺方向と平行であり、3個は長辺方向と平行である。なお、前記の通り、蓋3の長辺の長さは70mmであるから、長辺と平行に設けられた間隙保持用突起6の長さの和は10.5mm(3.5mm×3)であり、長辺の長さの1/3以下(約1/7)である。さらに蓋3の短辺の長さは50mmであり、短辺と平行に設けられた間隙保持用突起6の長さの和は7mm(3.5mm×2)であり、短辺の長さの1/3以下(約1/7)である。このように間隔保持用突起6を配置することにより、薬液は縦、横方向の異なる間隙保持用突起6と衝突して乱流を生じ、カセット1内への流入量が増加する。
【0047】
また、上記のように間隙保持用突起6を設けることにより、隣接したカセットが長辺方向、短辺方向にずれたとしても、隣接するカセットの間には均一な間隙が形成されるため、横方向からの該間隙内への均一な薬液の流入・透過が可能となる。
以上のように構成したことにより、カセット間に均一な間隙が形成され、しかもカセットにズレが生じても均一な間隙は保持される。そして、この均一な間隙に薬液を流入させ、該間隙に流入した薬液は透孔領域5内の間隙保持用突起6と衝突し、乱流を生じる。このため該間隙を単に素通りするだけの薬液の量は減少し、医療検査用カセット1内に流入する薬液の量は増大する。その結果、検体Sの薬液処理は効果的かつ均一に行われる。
【0048】
実施例2
本実施例の医療検査用カセット1は、図4及び図5に示すように、カセット本体2と蓋3からなる。カセット本体2は上方が開放された方形の容器であり、蓋3は、桟5bを介してカセット本体2の上方を閉鎖する板状部材である。カセット本体2の底部及び蓋3は透孔5a が多数穿設された透孔領域5と、その周囲にある外周領域4を有する(尚、カセット本体2の底部については図6参照)。蓋3の外周領域4には6個、透孔領域5には4個の計10個の間隙保持用突起6が設けられている。透孔領域5に設けられた4個の間隙保持用突起6の内2個は長辺と平行であり、2個は短辺と平行である。
【0049】
なお、本実施例において、間隙保持用突起6は長さ3.5mm、幅1.5mm、高さ1.0mmである。透孔5a の大きさが一辺の長さ2.0mmの正方形であるので、上記の間隙保持用突起6は透孔5a に没入することはない。また、蓋3の大きさは短辺30mm、長辺40mmである。
【0050】
以上のように構成したことにより、カセット間に均一な間隙が形成され、該間隙に薬液が流入し、縦、横に配置した間隙保持用突起6に衝突して乱流を生じ、医療検査用カセット1内に流入する薬液の量が増大して効果的且つ均一に薬液処理が行われる作用効果は実施例1と同様である。
【0051】
実施例3
本実施例の医療検査用カセット1は、図6に示すように、実施例2と同様に、カセット本体2と蓋3からなる。本実施例においては実施例2と異なり、蓋3の表面ではなく、カセット本体2の底部裏面に間隙保持用突起6が設けられている。詳しくは、カセット本体2底部裏面の外周領域4には4個、透孔領域5には2個の計6個の間隙保持用突起6が設けられている。透孔領域5に設けられた間隙保持用突起6は2個とも短辺と平行で、外周領域4に設けられた間隙保持用突起6は長辺と平行であるので、カセット本体2底部裏面には互いに直交する2種の方向の間隙保持用突起6が設けられていることになり、乱流が生起される。
【0052】
なお、本実施例において、間隙保持用突起6は長さ4.0mm、幅0.7mm、高さ1.0mmである。透孔5a の大きさが一辺の長さ2.0mmの正方形であるので、上記の間隙保持用突起6は透孔5a に没入することはない。また、カセット本体2底部の大きさは短辺28mm、長辺38mmである。
尚、作用効果については、本実施例ではカセット本体2の底部裏面に設けた間隙保持用突起6により均一な間隙が保持される他は、蓋3に間隙保持用突起6を設けた実施例2と同様である。
【0053】
実施例4
本実施例の医療検査用カセット1は、図7に示すように、実施例2と同様に、カセット本体2と蓋3からなるが、蓋3に設けられた間隙保持用突起6の数において実施例2と異なる。詳しくは、蓋3の外周領域4には4個、透孔領域5には3個の計7個の間隙保持用突起6が設けられている。透孔領域5に設けられた間隙保持用突起6は1個が短辺と平行であり、2個が長辺と平行であり、乱流が生起される。
【0054】
なお、本実施例において、間隙保持用突起6、透孔5a 、蓋3の大きさは実施例2と同様である。また、作用効果も実施例2と同様である。
【0055】
実施例5
本実施例は、図8〜図10に示したように、内部が小室に区分されている他は実施例1と同様である。
蓋3は、多数の透孔5aを有する板状体で、両端部裏面にカセット本体2の係合部10、係止部11と係合又は係止するための舌片状係合部12、係止部13がそれぞれ垂設されている。また蓋3の裏面にはカセット本体2、仕切り壁7と嵌合するためのリブ14が立設されている。
カセット本体2には仕切り壁7が立設され、これを蓋3の裏面に立設したリブ14が両側から挟着することにより9個の小室8が画成されている。
本実施例の医療検査用カセット1を使用すると、それぞれの小室に検体Sを入れることにより、同時に複数の検体を処理することができ、作業性が向上する。
【0056】
上記実施例において、代表的な医療検査用カセットを例に挙げて説明したが、本発明はこれらのカセットに限られず、蓋とカセット本体とからなる全てのカセットに適用可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0057】
叙上のとおり、本発明の医療検査用カセットは、薬液処理において多数のカセットを積み重ねた場合や並接した場合において、隣接するカセットの間に横ズレが生じても、蓋に設けた間隙保持用突起により隣接するカセットの間に均一な間隙が形成され、この間隙に流入した薬液が間隙保持用突起と衝突して乱流を生じ、これにより薬液が医療検査用カセット内に流入しやすくなる。従って、薬液処理の際の薬液の透過性、拡散性、及び検体との接触性が飛躍的に高められ、均一且つ効率的な薬液処理が可能なカセットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施例1の医療検査用カセットの斜視図である。
【図2】実施例1の医療検査用カセットの平面図である。
【図3】実施例1における透孔と間隙保持用突起の関係を表す概略説明図である。
【図4】実施例2の医療検査用カセットの斜視図である。
【図5】実施例2の医療検査用カセットの平面図である。
【図6】実施例3の医療検査用カセットの底面図である。
【図7】実施例4の医療検査用カセットの平面図である。
【図8】実施例5の医療検査用カセットの斜視図である。
【図9】実施例5の医療検査用カセットのA−A線断面図である。
【図10】実施例5の医療検査用カセットのB−B線断面図である。
【図11】従来の医療検査用カセットの使用方法を示す断面図である。
【符号の説明】
【0059】
1 医療検査用カセット
2 カセット本体
3 蓋
4 外周領域
5 透孔領域
5a 透孔
5b 桟
6 間隙保持用突起
7 仕切り壁
8 小室
9 記録部
10 係合部
11 係止部
12 舌片状係合部
13 係止部
14 リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐薬品性材料からなるカセット本体と蓋とを具備してなり、
前記カセット本体は上面が開放され、検体を収容し得る方形の容器であり、その底部に外周領域、及びその内側に多数の透孔が穿設された透孔領域を有し、
前記蓋はカセット本体に着脱自在に取り付け可能であり、その表面に外周領域、及びその内側に多数の透孔が穿設された透孔領域を有し、
前記蓋の表面又は前記カセット本体の底部の裏面に間隙保持用突起が設けられた医療用カセットにおいて、
該間隙保持用突起は透孔に没入しないサイズ及び形状からなり、かつ外周領域と透孔領域の両方に突設されていることを特徴とする医療検査用カセット。
【請求項2】
間隙保持用突起の最長部分の長さは、透孔の最長部分よりも長い寸法であることを特徴とする請求項1に記載の医療検査用カセット。
【請求項3】
外周領域内の間隙保持用突起は、外周に沿って略等間隔に4〜8個設けられていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の医療検査用カセット。
【請求項4】
外周領域内の間隙保持用突起は対向する二つの長辺の外周に沿って、それぞれ2〜4個設けられていることを特徴とする請求項3に記載の医療検査用カセット。
【請求項5】
一つの長辺の外周に沿って設けられた間隙保持用突起の長さの和は、長辺の長さの1/3以下であることを特徴とする請求項4に記載の医療検査用カセット。
【請求項6】
透孔領域内の間隙保持用突起は2〜9個設けられていることを特徴とする請求項1 乃至請求項5のいずれか1項に記載の医療検査用カセット。
【請求項7】
長辺又は短辺と平行に設けられた間隙保持用突起の長さの和は、長辺又は短辺の長さの1/3以下であることを特徴とする請求項6に記載の医療検査用カセット。
【請求項8】
カセット本体が仕切り壁により複数個の小室に区分されていることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1 項に記載の医療検査用カセット。
【請求項9】
蓋及び/又はカセット本体が耐薬品性の透明材料からなることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の医療検査用カセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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