説明

医療機器履歴トレースシステム

【課題】製造の初期の段階から製品廃棄・解体までのトレースを可能とし、かつ、セキュリティとコストパフォーマンスに優れた医療機器履歴トレースシステムを提供する。
【解決手段】医療機器の工場21で、組み立て中の製品1ごとに工場内用ICタグ5を添付し、アセンブリ品の検査記録と製品検査の検査記録とを工場内用ICタグ5に記録し、製品1を梱包する前に、工場内用ICタグ5の全記録内容を管理機器8に転送すると共に工場内用ICタグ5を製品1から取り外し、製品1に製品用タグ6を添付し、製品用タグ6に出荷記録と工場内用ICタグ5から管理機器8に転送された記録内容の一部を記録し、取り外した工場内用ICタグ5を他の製品に再利用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造の初期の段階から製品廃棄・解体までのトレースを可能とし、かつ、セキュリティとコストパフォーマンスに優れた医療機器履歴トレースシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
工場から出荷される工業製品にICタグ(IDタグ、無線タグ、非接触チップなどとも呼ばれる)を添付し、その後の流通過程から消費者に販売されるときまでのイベントを記録し、記録内容を販売店で店頭表示したり、記録内容を製造業者に集めて製品改善や流通改善に利用することができる。こうした機能をトレーサビリティと言う。
【0003】
一方、医療機器の分野では、薬事法の改正によりトレーサビリティが義務づけられた。トレーサビリティは、ICタグに依らず人が書類に書き込みをするようにしても実現はできるが、省力化・ペーパレス化・迅速化・ミス防止等の面でICタグは優れている。ICタグのように記録を追加書き込みできる媒体に限らず、バーコードのような読み取り専用の媒体を製品に添付し、識別番号だけを読み取ってイベントはインターネット経由でデータベースに記録するようにしてもよい。本明細書では、医療機器製品にICタグを添付してトレーサビリティを実現する技術について述べる。
【0004】
薬事法の対象となる医療機器には、直接治療に使用されるもののほかに、内視鏡等の器具を洗浄する洗浄機、器具、衣類、建家などを殺菌する殺菌機などが含まれる。薬事法によれば、当該医療機器がいったん工場出荷された後は、当該医療機器が顧客に納入されるまでのイベントを継続して記録しなければならない。また、薬事法によれば、医療機器に組み込まれている特定のアセンブリ品についても記録が要求される。
【0005】
【特許文献1】特開2004−348391号公報
【特許文献2】特開2005−77354号公報
【特許文献3】特開2004−315154号公報
【特許文献4】特開2000−233808号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
製品を工場から出荷するときに、検査に合格していることをICタグに記録するのは言うまでもない。また、医療機器に組み込まれている特定のアセンブリ品については、そのアセンブリ品単体による検査の結果をも記録しなければならない。このため、製品が工場内で回っている間(製造中)も当該製品にどんなアセンブリ品が組み込まれ、どんな検査に合格したかをトレースする必要が生じる。そこで、製造の初期の段階から製品にICタグを添付することが考えられる。
【0007】
工場内でICタグに情報を記録するとなると、製品検査の合否だけでなく、製品検査の詳細(検査条件、結果の数値など)を記録しておいて収集することにより、工場内での不具合統計、改善箇所抽出等に利用できる。反面、このような内部情報は基本的に企業機密である。その記録が製品に添付したICタグに残ったまま外部へ出荷されるのは好ましくない。出荷時に内部情報だけ消去することは可能だが、未消去のICタグが出荷されて流出するリスクがある。
【0008】
また、工場内では、その製品を製造中であるので、製造作業を妨げないようなICタグの大きさ/形状、種類、添付方法、添付位置が望ましい。一方、出荷される製品は、ユーザに納入されるのであるから、意匠上の要請などから、ICタグの大きさ/形状、種類、添付方法、添付位置が制限される。両者の要求は背反することがあり、両立できるICタグはない。
【0009】
ICタグの種類のうち、特に読み書き距離にかかわるものは違いが大きい。すなわち、工場内では製品同士が非常に狭い距離で隣接しているので、誤った情報のやり取りや電波の混信をなくすために、読み書き距離が短いことが要求される。出荷後は、製品が個装箱等に収納された状態で読み書きされることもあるので、読み書き距離が長いことが要求される。なお、ICタグの種類は、この他に周波数帯、金属対応の有無、受動/能動、情報容量の違いで区別される。
【0010】
添付方法、添付位置については、工場内ではICタグを必ずしも製品に固定する必要はなく、例えば、紐に付けて製品に掛けておくだけでも可である。出荷される製品に添付するICタグは決められた位置に、決められた姿勢で、永久的に固定されていなければならない。
【0011】
工場内の生産管理にICタグを用いるとした場合、同じICタグが通用すればよい期間は、製品の最初の製造工程から検査終了までであり、例えば、1週間である。よって、耐久性の低いICタグでも採用可能であり、これによってコストは抑えられる。これに対し、製品のトレースは、その製品が最終的に廃棄・解体されるまでの長期にわたっており、例えば、数年であり、利用頻度も数ヶ月に1回程度である。よって、長期信頼性の高いICタグが不可欠であり、安易にコストは下げられない。
【0012】
これらの観点からすると、製造の初期の段階から製品にICタグを添付し、そのまま出荷してICタグをトレーサビリティに利用するのは適切でない。とはいえ、出荷する製品のICタグには、製造中のイベントである製品の検査合否とアセンブリ品の検査合否を記録しておく必要がある。
【0013】
その他の問題として、ICタグを添付したことにより、部品増加による製品のコストアップ、最終的な産業廃棄物の増加が生じることが挙げられる。
【0014】
また、トレーサビリティシステムにインターネットのような公共の通信サービスを介在させ、かつ製品のあらゆるデータをデータベースに集めて一括管理すると、大量のデータが一瞬にして漏洩するという情報セキュリティ上のリスクが伴うことになる。
【0015】
また、ICタグの記録用機器を携帯電話機に接続するなどして携帯端末化しておき、メンテナンスの際にICタグの識別番号を読み取ってインターネット経由でデータベースに通知するように構成した場合、病院や診療所で通信電波の使用が禁止されていると、通知ができなくなってしまう。オフラインでも履歴の情報が蓄積できることが望まれる。
【0016】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、製造の初期の段階から製品廃棄・解体までのトレースを可能とし、かつ、セキュリティとコストパフォーマンスに優れた医療機器履歴トレースシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために本発明は、医療機器を組み立てる工場で、組み立て中の製品ごとに管理機器が発行した工場内識別番号を記録した工場内用ICタグを添付し、この製品に組み込まれる検査済みのアセンブリ品の検査記録と、組み立て後に行われたこの製品の検査の検査記録とを上記工場内用ICタグに記録し、
この製品を梱包する前に、上記工場内用ICタグの全記録内容を上記管理機器に転送すると共にその工場内用ICタグを製品から取り外し、その製品に上記管理機器が発行した製品識別番号を記録した製品用ICタグを添付し、この製品用ICタグに出荷記録と上記工場内用ICタグから上記管理機器に転送された記録内容の一部を記録し、上記取り外した工場内用ICタグを他の製品に再利用するものである。
【0018】
上記工場内用ICタグは読み書き距離が短いICタグであり、上記製品用ICタグは読み書き距離が長いICタグであってもよい。
【0019】
また、本発明は、医療機器を組み立てる工場で、組み立て中の製品ごとに管理機器が発行した工場内識別番号を記録した工場内用ICタグを添付し、この製品に組み込まれる検査済みのアセンブリ品の検査記録と、組み立て後に行われたこの製品の検査の検査記録とを上記工場内用ICタグに記録し、
この製品を梱包する前に、上記工場内用ICタグの記録内容を上記管理機器に転送した後、その工場内用ICタグの記録内容を消去し、この工場内用ICタグを上記管理機器が発行した製品識別番号を記録した製品用ICタグとし、この製品用ICタグに出荷記録と上記工場内用ICタグから上記管理機器に転送された記録内容の一部を記録するものである。
【0020】
出荷された上記製品が医療機関に納品された後は、製品にメンテナンスを施したときにメンテナンス記録を上記製品用ICタグに記録し、この製品が再販業者や他の医療機関に譲渡されたときに譲渡記録を上記製品用ICタグに記録し、この製品が廃棄されるときに廃棄記録を上記製品用ICタグに記録すると共に該製品用ICタグを取り外して上記工場に回収し、この製品が解体されるときに解体記録を上記製品用ICタグに記録すると共に該製品用ICタグを取り外して上記工場に回収し、
上記工場で、回収した上記製品用ICタグの全記録内容を上記管理機器に転送すると共に、該製品用ICタグを他の製品に再利用してもよい。
【0021】
上記製品用ICタグに記録を行うときに、その記録を行う記録用機器固有の番号を記録してもよい。
【0022】
上記製品用ICタグに記録を行うときに、その製品用ICタグの全記録内容をインターネット上の管理機器に複写転送してもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0024】
(1)製造の初期の段階から製品廃棄・解体までのトレースが可能となる。
【0025】
(2)情報セキュリティが高い。
【0026】
(3)コストパフォーマンスに優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0028】
図1に示されるように、本発明に係る医療機器履歴トレースシステムは、工場内では工場内用ICタグを用い、出荷される製品には製品用ICタグを用いることに大きな特徴がある。工場内用ICタグは、図1に示す工程検査管理システムにおいて使用され、製品用ICタグは主として図2に示すトレーサビリティシステムにおいて使用されるが、一つの製品の工場内識別番号と製品識別番号は共通の管理装置でひもづけ管理されており、一部のデータが一方のICタグから他方のICタグへ転送されるので、二つのシステムは独立というわけではない。
【0029】
ここでは、製品はオゾン式殺菌装置であるものとする。オゾン式殺菌装置は、病室、診察室、手術室、その他の建家内に設置して、建家内の壁、床、天井、窓、据え付け器具などを殺菌したり、殺菌室に設置して、手術用道具、衣類、スリッパなどを殺菌するものである。オゾン式殺菌装置は、オゾン発生器、吸気・排気ファン、タイマ等を人が持ち運び可能な金属製の筐体に収容したもので、原則として無人の場所で運転されるが、必要以上にオゾン濃度が高くなるのは不可であり、運転停止後は人が室内に入れる程度にオゾン濃度が低いことが要求される。従って、オゾン発生器は単体で検査し、合格したものをオゾン式殺菌装置に組み込む。
【0030】
まず、図1に示す工程検査管理システムにおいて、工場内で製品が流れていく工程は、第1工程〜第n工程に大別される。一般的には、部品ピッキング、組立、試運転、検査、梱包、在庫、出荷などの工程があるが、製品の種類によって工程の種類や数が異なる。本発明は、工程の種類や数には依存せず、様々の製品の工程検査管理システムに適応できる。
【0031】
工場内用ICタグ5から製品用ICタグ6への付け替えは、どの工程の間で行っても構わない。例えば、包装や梱包の工程で付け替えるとよい。各工程において、工場内用ICタグ5、製品用ICタグ6への記録は記録用機器7で行い、各記録用機器7は管理機器8と情報交換可能である。
【0032】
図2に示すトレーサビリティシステムにおいて、製品が運搬されていくステージは、製造ステージ、流通ステージ、消費者ステージ、リサイクルステージに大別される。製造ステージは、図1で説明した工場21の全体を表している。流通ステージは、製品1が工場を出荷されてからユーザに納品されるまでに経過する、運搬車両、倉庫、販売代理店、小売店22などを全て含む。なお、この流通ステージを対象としたトレーサビリティシステムは先行技術文献が多数存在し、周知の技術となっているから、これ以上詳しい説明は省略する。消費者ステージは、製品1がユーザ23の管理下にある間、つまり製品1が病院、診療所などのユーザ23に納品されてからそのユーザ23を離れるまでを表し、この消費者ステージにおいて製品1が運転されたり、メンテナンスされたりする。リサイクルステージは、製品1が解体される解体業者24を表す。実際には、製品が最初のユーザから直ぐに解体業者24に製品回収されるとは限らす、ユーザ23から別のユーザ(図示せず)に譲渡されたり、再販業者(図示せず)を介して別のユーザに譲渡されたり、解体業者24と再販業者が同一であったりする。また、製品1は解体される他に廃棄され、解体業者も廃棄はできるが図示上はユーザ23から廃棄物処理場25に渡って廃棄されるものとした。ここで、廃棄とは再利用や解体にならない最終的な廃棄を言う。
【0033】
図3に示すトレーサビリティシステムは、図2のものの変形例であり、図2のトレーサビリティシステムが通信ネットワークを特に利用せずデータは製品用ICタグ6のみに蓄積されるのに対して、図3のトレーサビリティシステムは通信ネットワーク31を利用して製品用ICタグ6のデータをインターネット上にある本トレーサビリティシステムの管理装置32へ随時収集するものである。この管理装置32が工場の管理装置8と物理的に一体であることは妨げないが、もちろん別々でもよい。
【0034】
工場内用ICタグ5と製品用ICタグ6には、全く同一種類のICタグを用いても良い。その場合、工場内用ICタグ5の記録内容を管理機器8に転送した後、その工場内用ICタグ5に残った記録内容を消去し、この工場内用ICタグ5を製品から取り外すことなくそのまま(あるいは取り外して別の消去済み工場内用ICタグ5を貼り付けて)製品用ICタグ6として使用しても良い。
【0035】
また、工場内用ICタグ5と製品用ICタグ6とは、通信距離、記録容量、形状、金属対応の有無、材質、取付方法などのいずれか一つ以上が異なるようにしても良い。
【0036】
以下では、工場内用ICタグ5は読み書き距離が製品用ICタグ6のそれに比べて短いICタグであるものとする。工場内用ICタグ5の記録用機器7は、この読み書き距離に対応したものを用いる。一方、製品用ICタグ6は読み書き距離が工場内用ICタグ5のそれに比べて長いICタグである。製品用ICタグ6の記録用機器もこれに対応させる。ここでは記録用機器7は種類の異なるICタグ5,6を両方とも読み書きできるものとする。記録用機器7は、工場や倉庫で用いる据え付け型、人が手持ち操作する携帯型(PDA;Personal Digital Assistance)などがある。図1のような工場内では据え付け型と携帯型を適宜使用し、図2、図3の消費ステージなどでは、サービスマンが持ち歩けるよう携帯型が好ましい。このほかに、ICタグ5,6及び記録用機器7にはメモリ容量、通信周波数などの選択肢があるが、ICタグ及び記録用機器それ自体は周知技術であるので、これ以上詳しい説明は省略する。
【0037】
工場内用ICタグ5は1回のサイクルがおおむね数時間から数週間程度なので、耐久性の低いICタグでよい。一方、製品用ICタグ6は、製品1が存続している間は何年でも使用され、数ヶ月に1回程度のメンテナンス時に確実に動作することが必要なので、長期信頼性の高いICタグでなければならない。
【0038】
管理機器8は、管理している工場内識別番号と製品識別番号の紐付けができ、工場内用ICタグ5から吸い上げた全記録のうちの一部のデータを製品用ICタグ6に受け渡すことができればよい。よって、管理機器8は、工場内識別番号と製品識別番号をリンクさせて記憶するデータベースを備える。
【0039】
次に、本発明に係る医療機器履歴トレースシステムの全体の動きを製品及びICタグの流れに沿って説明する。
【0040】
まず、トレーサビリティシステムの製造ステージについては図1で説明する。組立工程では、医療機器(ここではオゾン式殺菌装置)を組み立てる工場において、組み立て中の製品1ごとに管理機器8が発行した工場内識別番号を記録した工場内用ICタグ5を添付する。もちろん、管理機器8には当該工場内識別番号が記憶され、今後追加する情報や吸い上げた情報は当該工場内識別番号で管理することになる。工場内用ICタグ5の添付は製造の初期の段階から行うが、初期はアセンブリ品も部品もばらばらであるから、ここでは便宜上、筐体に添付するものとする。工場内用ICタグ5は必ずしも製品1に固定する必要はなく、例えば、紐に付けて製品に掛けておくだけでも可である。
【0041】
その後、工場内用ICタグ5には、製品1に組み込まれる検査済みのアセンブリ品(ここではオゾン発生器;図示せず)の検査記録と、組み立て後の運転検査工程で行われた製品検査の検査記録とを記録する。アセンブリ品の検査記録の内容は、そのアセンブリ品を納入した業者から得る(当該工場で検査しても良い)。そのデータとアセンブリ品の個体との対応付けは、何らかの方法でできているものとする。
【0042】
運転検査工程では、環境条件を人工的に与えて温度特性や性能を調べる。このとき、その試験データを検査記録として工場内用ICタグ5に記録する。全ての記録の際に日時も併せて記録する。試験データは、例えば、騒音試験であれば運転内容ごとの騒音レベルと合否である。
【0043】
製品1を梱包する前にICタグの付け替えを行う。ここでは、運転検査工程の後、完成検査工程までの間に行うものとする。その際、工場内用ICタグ5の全記録内容を管理機器8に転送した後、工場内用ICタグ5を製品1から取り外す。その製品1に管理機器8が発行した製品識別番号を記録した製品用ICタグ6を添付する。製品識別番号には、シリアル製造番号、ロット番号、型式番号、工場番号などがある。
【0044】
オゾン式殺菌装置は筐体が耐オゾン性を得るため金属製であり、電波を通しにくいため、製品用ICタグ6は筐体内に収納できない。よって、製品用ICタグ6は筐体外面に取り付けるが、筐体外面は人や物が触れることがあるため、製品用ICタグ6はしっかり固定する。また、人目に付くので美観も考慮して固定する。
【0045】
その後、完成検査工程の検査記録として、合否を製品用ICタグ6に記録する。梱包検査・保管工程の記録としては、日時を記録する。なお、日時は、組立開始、倉庫入りなどを含む全ての記録の際に記録する。また、このとき担当者名を記録しても良い。
【0046】
完成検査工程から出荷工程までに、製品用ICタグ6に、出荷記録と工場内用ICタグ5から管理機器8に転送された記録内容の一部を記録する。工場内用ICタグ5から製品用ICタグ6に受け渡されるデータは、各運転検査における合否、検査済みのアセンブリ品の合否である。当然のことながら、各運転検査・完成検査の全てに合格した製品だけが出荷される。出荷記録としては、少なくとも日時を記録する。
【0047】
一方、ICタグの付け替えで取り外された工場内用ICタグ5は、記録内容が全て吸い上げられたので、消去して初期化するとよい。これにより、工場内用ICタグ5を他の製品に再利用することができる。
【0048】
ここまでの工程検査管理システムにおいては、工場内用ICタグ5に検査記録を記録するようにしたので、従来、紙に残していた検査結果が電子化される。このとき工場内識別番号と製品識別番号の紐付けができているので、ユーザ納入後の故障・不具合についても検査記録を参照して迅速な対応をすることができる。また、検査記録には単なる合否でなく条件や数値が細かく残されているので、故障の原因究明・分析に役立つ。さらに、各工程中の各作業の開始/終了時間を工場内用ICタグ5に記録することで、工程ごと、作業ごとの所要時間が明らかになり、作業効率改善の検討に利用できる。
【0049】
また、工場内用ICタグ5から管理機器8に吸い上げた記録内容は、管理機器8において、分析をし、生産管理や在庫管理に生かすことができる。
【0050】
さて、図2又は図3に示されるように、製品1が出荷されたことにより、トレーサビリティシステムの流通ステージに入る。流通ステージにおいて、製品1が運搬車両、倉庫、販売代理店、小売店22などの場所を移動するたびに、運搬担当者、倉庫管理者、販売担当者などが記録用機器を用いて製品用ICタグ6に移動先場所と日時を記録する。この間、図3のシステムでは、通信ネットワーク31を介して管理装置32が全ての製品1の現在保管場所を把握できていることになるので、ユーザ23への納品の効率化を図ることができる。なお、出荷以降は、多数のオペレータが記録用機器を使用するので、オペレータのID、パスワード、権限範囲を記録用機器に入力したときに記録用機器が認証して記録を許可したり、記録のたびにオペレータのIDを併せて記録するようにして、不正の防止を図るようにするのが好ましい。
【0051】
製品1が流通ステージを経て、ユーザ23である医療機関に納品されると、消費者ステージに入る。ユーザ23への納品時、販売担当者が記録用機器を用いて製品用ICタグ6に納品記録として日時を記録する。その後は、定期的に製品にメンテナンスを施したときに、メンテナンス担当者が記録用機器を用いてメンテナンス記録として処理内容や日時を製品用ICタグ6に記録する。もちろん、故障などで臨時に修理・部品交換を施したときには、修理記録として修理箇所、日時、あるいは部品交換記録として交換部品名、日時を記録する。
【0052】
以後、この製品1が当該医療機関で継続して使用又は保管されている間、つまり消費者ステージでは、同様のことが繰り返される。
【0053】
リサイクルステージにおいて、製品1を再販業者や他の医療機関に譲渡するときには、譲渡記録として譲渡先、日時を製品用ICタグ6に記録する。なお、再販業者や他の医療機関への譲渡の場合は、流通ステージあるいは消費者ステージに戻ると考えてよい。製品1を廃棄するときは、廃棄記録として適正廃棄証明と日時を製品用ICタグ6に記録すると共にこの製品用ICタグ6を取り外して工場21に回収する。解体業者24に製品1を移動させたときも譲渡記録を記録するとよい。
【0054】
解体業者24が製品1を解体するときは解体記録を製品用ICタグ6に記録すると共にこの製品用ICタグ6を取り外して工場21に回収する。
【0055】
工場21では、廃棄及び解体により回収した製品用ICタグ6の全記録内容を読み取って管理機器8に転送する。製品用ICタグ6の記録内容は、当該製品1が工場21を出荷されてから廃棄及び解体までのライフサイクルにおける全イベントを表しているので、その情報を分析することによって、次期製品開発やメンテナンスサービスの向上に役立てることができる。一方、残った製品用ICタグ6を内容消去して他の製品に再利用する。よって、資源が節約できると共に産業廃棄物が減量できる。
【0056】
また、工場などで製品1を在庫管理する在庫管理システムにおいて、工場内用ICタグ5から得た記録内容を在庫入り記録とし、該製品1が製品用ICタグ6を付けて出荷される際の出荷記録と上記在庫入り記録との整合性を確認するようにすることで、不適切な製品の出荷を防止すると共に、出荷業務の効率化を図ることができる。
【0057】
以上説明したように、本発明の医療機器履歴トレースシステムでは、工場内では工場内用ICタグ5を用い、出荷される製品には製品用ICタグ6を用いる。よって、工場での内部情報がICタグに残って外部へ流れるのを防ぐことができる。その際、ICタグの違いが明瞭であるため、工場内用ICタグ5が誤って出荷されるのを防止することができる。また、工場内では、製品の製造作業を妨げないようなICタグの大きさ/形状、種類、添付方法、添付位置が選べ、製品には、意匠上の要請に適うICタグの大きさ/形状、種類、添付方法、添付位置が選べる。また、工場内用ICタグ5には耐久性の低いICタグを採用してコストを抑え、製品用ICタグ6には長期信頼性の高いICタグを採用することができる。
【0058】
図2のシステムでは、製品用ICタグ6のみに記録が蓄積され、通信ネットワークには一切のデータが流れないので、情報セキュリティは非常に強化される。また、図3のシステムにおいては、管理装置32に全てのデータが集中管理されるが、その一方で、製品1とその記録が蓄積されている製品用ICタグ6とが物理的に一体化しているので、通信ネットワーク31が接続不能のとき、あるいは管理装置32のデータベースがダウンしているとき、もしくは病院等の電波使用制限のある環境においても、記録用機器をスタンドアローンで使用して当該製品1の過去の履歴を全て確認することができる。
【0059】
本発明の医療機器履歴トレースシステムでは、廃棄及び解体までトレース範囲が及んでいるので、 仮に不法投棄があった場合にも、製品用ICタグ6を読み取ることで、その直前までの履歴を直ぐに知ることができる。さらに、図3のシステムのように、製品用ICタグ6への記録時に管理装置32へも同じ記録を収集しておけば、管理装置32への記録追加が長期間行われない製品1について、不法投棄された可能性を疑うことができる。
【0060】
図3のシステムのように、製品用ICタグ6への記録時に管理装置32へも同じ記録を収集しておけば、万一、製品用ICタグ6が破損しても管理装置32にバックアップされていることになり、パソコン等からの手入力での記録追加が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施形態を示す医療機器履歴トレースシステムの一部を構成する工程検査管理システムの概念図である。
【図2】本発明の一実施形態を示す医療機器履歴トレースシステムの一部を構成するトレーサビリティシステムの概念図である。
【図3】本発明の他の実施形態を示す医療機器履歴トレースシステムの一部を構成するトレーサビリティシステムの概念図である。
【符号の説明】
【0062】
1 製品
5 工場内用ICタグ
6 製品用ICタグ
7 記録用機器
8 管理機器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療機器を組み立てる工場で、組み立て中の製品ごとに管理機器が発行した工場内識別番号を記録した工場内用ICタグを添付し、この製品に組み込まれる検査済みのアセンブリ品の検査記録と、組み立て後に行われたこの製品の検査の検査記録とを上記工場内用ICタグに記録し、
この製品を梱包する前に、上記工場内用ICタグの全記録内容を上記管理機器に転送すると共にその工場内用ICタグを製品から取り外し、その製品に上記管理機器が発行した製品識別番号を記録した製品用ICタグを添付し、この製品用ICタグに出荷記録と上記工場内用ICタグから上記管理機器に転送された記録内容の一部を記録し、上記取り外した工場内用ICタグを他の製品に再利用することを特徴とする医療機器履歴トレースシステム。
【請求項2】
上記工場内用ICタグは読み書き距離が短いICタグであり、上記製品用ICタグは読み書き距離が長いICタグであることを特徴とする請求項1記載の医療機器履歴トレースシステム。
【請求項3】
医療機器を組み立てる工場で、組み立て中の製品ごとに管理機器が発行した工場内識別番号を記録した工場内用ICタグを添付し、この製品に組み込まれる検査済みのアセンブリ品の検査記録と、組み立て後に行われたこの製品の検査の検査記録とを上記工場内用ICタグに記録し、
この製品を梱包する前に、上記工場内用ICタグの記録内容を上記管理機器に転送した後、その工場内用ICタグの記録内容を消去し、この工場内用ICタグを上記管理機器が発行した製品識別番号を記録した製品用ICタグとし、この製品用ICタグに出荷記録と上記工場内用ICタグから上記管理機器に転送された記録内容の一部を記録することを特徴とする医療機器履歴トレースシステム。
【請求項4】
出荷された上記製品が医療機関に納品された後は、製品にメンテナンスを施したときにメンテナンス記録を上記製品用ICタグに記録し、この製品が再販業者や他の医療機関に譲渡されたときに譲渡記録を上記製品用ICタグに記録し、この製品が廃棄されるときに廃棄記録を上記製品用ICタグに記録すると共に該製品用ICタグを取り外して上記工場に回収し、この製品が解体されるときに解体記録を上記製品用ICタグに記録すると共に該製品用ICタグを取り外して上記工場に回収し、
上記工場で、回収した上記製品用ICタグの全記録内容を上記管理機器に転送すると共に、該製品用ICタグを他の製品に再利用することを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の医療機器履歴トレースシステム。
【請求項5】
上記製品用ICタグに記録を行うときに、その記録を行う記録用機器固有の番号を記録することを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の医療機器履歴トレースシステム。
【請求項6】
上記製品用ICタグに記録を行うときに、その製品用ICタグの全記録内容をインターネット上の管理機器に複写転送することを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の医療機器履歴トレースシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−206818(P2007−206818A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22632(P2006−22632)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【Fターム(参考)】