説明

医療用ハンガー

【課題】 多数個の輸液バッグなどを支持することができ、さらに小型のオートクレーブで滅菌処理が可能な医療用ハンガーを提供すること。
【解決手段】 滅菌布筒34を被せた支柱30の垂下部33を医療用ハンガー本体部10の円筒体19に挿入し、ストッパ26のねじ部を垂下部33のねじ孔にねじ込んで医療用ハンガー本体部10を規制部28で支持している。円筒体19と垂下部33との間にはあそびがあり、フック部27を手で回転させれば、支持アーム11、12、13、14、15、16、17及び18は回転軸が垂直になるように回転する。したがって、多数個の輸液バッグを支持できる上に、手術中は、フック部27を手で回転させて使用予定の輸液バッグを所定位置に順次移動できる。また、支柱30の先端部及びその近傍部分が垂下しているので、支柱30の背後に輸液バッグなどが隠れることがなく、輸液バッグなどの視認性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用ハンガーに関し、特に、輸液バッグなどの医療用容器や、医療用器具を多数個支持することができ、さらに滅菌処理が容易な構成を有する医療用ハンガーに関する。
【背景技術】
【0002】
輸液製剤や生理食塩水を封入したバッグを支持するハンガーは、手術又は外科的処置などにおいて使用するものであるが、手術又は外科的処置を迅速に行うために、複数のバッグを支持し、さらに各々のバッグのラベルなどを直接視認することを可能にするための様々な構造が提案されている。
【0003】
図13は、従来技術に係る医療用ハンガーの一例を示す斜視図である。図13において、50は補液バッグ用ハンガー、51aは立設部、51bは延設部、52、53、54、55及び56はフック、57、58及び59は補液バッグ、60は多用途透析装置である。
【0004】
図13は、特開2008−000318公報において開示されている補液バッグ用ハンガーである。補液バッグ用ハンガー50は、患者に対して補液の注入を可能としつつ血液浄化治療を施すための多用途透析装置60に設置されている。多用途透析装置60の所定部位から略鉛直方向に立設された立設部51aと、立設部51aの上端部から上方に傾斜しつつ略直線状に延設部51bが延設されている。延設部51bは、補液バッグ57、58及び59を保持するためのフック52、53、54、55及び56が長手方向に沿って所定間隔で配置されている。
【0005】
以上の構成によれば、延設部51bに補液バッグ57、58及び59を保持するためのフック52、53、54、55及び56が設けられているので、補液バッグ57、58及び59を吊して保持させる作業性を向上させることができ、補液の注入時において各補液バッグ57、58及び59の視認性を向上させることができる。また、1本の延設部51bで複数の補液バッグを支持するので、従来の円環状フレームのものに比べ、補液バッグ用ハンガー50の小型化を図って設置スペースの自由度を向上させることができるという利点もある。
【0006】
しかし、手術又は外科的処置によっては、例えば6個以上など多数の補液バッグを連続的に使用する場合もあるが、この構成では対応できない。また、1本の延設部51bに6個以上のフックを設けると、輸液バッグを吊して保持させるときに補液バッグ同士の感覚が狭まるので、医師や看護師から視認しにくく、かつ、吊り下げにくくなるという問題がある。延設部51bを長くすれば補液バッグ同士の間隔を確保できるが、補液バッグ用ハンガー50を大型化することになり、小型化するという発明の目的から逸脱する。さらに、手術室において使用する場合には、補液バッグ用ハンガー50を滅菌処理する必要があるが、立設部51aと延設部51bとからなる構成では小型のオートクレーブに収容できないという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−000318公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、多数個の輸液バッグなどを支持することができ、さらに小型のオートクレーブで滅菌処理が可能な医療用ハンガーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、医療用容器又は器具を支持可能な医療用ハンガーにおいて、 前記医療用容器又は器具を掛止可能な複数本の支持アームと、前記支持アームの基端部を回転軸が水平になるように回転可能に支持する軸受と、前記軸受を収納すると共に、各々の前記支持アームの前記基端部又はその近傍部分を挿通したスリットが形成されたケースとを備えていることを特徴とする医療用ハンガーである。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記ケースを上下方向に貫通すると共に、前記ケースに固定された筒状体と、先端部及びその近傍部分が垂下するように形成されると共に、前記筒状体に前記先端部及びその近傍部分を挿通させた状態において前記筒状体を回転可能な太さに形成された支柱とをさらに備えていることを特徴とする医療用ハンガーである。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記支柱の前記先端部に着脱可能であると共に、前記筒状体の脱落を規制するストッパをさらに備えていることを特徴とする医療用ハンガーである。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記ストッパから垂下するように設けられた掛止具をさらに備えていることを特徴とする医療用ハンガーである。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記支持アームは、先端部に上方に突出した抜け落ち防止部が形成されると共に、前記基端部の近傍部分と前記抜け落ち防止部との間の稜線が先端側に向かって下り勾配となるように形成されていることを特徴とする医療用ハンガーである。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の発明において、前記ケースは、前記支持アームの回転時に、前記支持アームの前記基端部又はその近傍部分が前記スリットの上縁部又は下縁部に当接することによって、前記支持アームの回転範囲を規制するようになされていることを特徴とする医療用ハンガーである。
【0015】
請求項7に記載の発明は、請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の発明において、前記支柱は、前記先端部にねじ孔が形成され、前記ストッパは、略円板状に形成されると共に前記筒状体の内径よりも径が大きい規制部と、前記規制部の上面から垂直に立ち上がるように設けられると共に前記ねじ孔にねじ込まれたねじ部とを有することを特徴とするである。
【0016】
請求項8に記載の発明は、請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の発明において、前記支持アームを4本以上備えると共に、それらの前記支持アームが前記ケースから放射状に延びるようになされていることを特徴とする医療用ハンガーである。
【0017】
請求項9に記載の発明は、請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の発明において、前記ケースは、各々の前記支持アームの前記基端部の下方の部位に開口部が形成されていることを特徴とする医療用ハンガーである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載の発明によれば、複数本の支持アームがケース内の軸受によって回転可能に支持されているので、複数本の支持アームの各々に輸液バッグなどを掛止状態で支持させることができる。また、支持アームを回転軸が水平になるように回転して支持アーム同士が平行またはこれに近い状態になるように、つまり、傘を閉じるように支持アームを回転させて折りたためば、小型のオートクレーブに収容することが可能となる。
【0019】
請求項2に記載の発明によれば、ケースを貫通する筒状体に垂下している支柱の先端部及びその近傍部分を挿通することによって、筒状体を中心として支持アームを回転させることができる。したがって、筒状体を中心として支持アームを回転させて、使用したい輸液バッグなどが医師や看護師から見て手前に配置することが簡単にでき、輸液バッグなどの視認性が向上する。また、支柱の先端部及びその近傍部分が垂下しているので、この先端部及びその近傍部分の背後に輸液バッグなどが隠れることがなく、輸液バッグなどの視認性が向上する。
【0020】
請求項3に記載の発明によれば、ストッパを支柱から着脱することによって、ケース、軸受、筒状部及び支持アームも着脱できるので、滅菌処理が容易にできる。
【0021】
請求項4に記載の発明によれば、ストッパに掛止具を設けているので、この掛止具に内視鏡を掛けたり、動物病院では動物の後肢を吊り下げたりすることが可能となる。
【0022】
請求項5に記載の発明によれば、基端部の近傍部分と抜け落ち防止部との間の稜線が先端側に向かって下り勾配なので、この稜線部分に掛けた輸液バッグなどに支持アームの先端側に滑り降りる力が加わった状態となるので、医療用ハンガーの移動中などに、輸液バッグなどが支持アームの基端部側に滑り動いて、医師や看護師の手が届きにくくなることを防止できる。また、支持アームの先端部に抜け落ち防止部を形成しているので、輸液バッグなどの落下を防止することができる。
【0023】
請求項6に記載の発明によれば、支持アームの回転範囲をケースによって規制するので、軸受によって回転を規制する必要がなく、軸受の構造を単純化することができる。ひいては、軸受の小型化が容易になるので、医療用ハンガーの小型化を図ることができる。
【0024】
請求項7に記載の発明によれば、ストッパを支柱の先端部にねじ止めするだけで固定できる。また、筒状部の落下を規制部によって規制することができるので、ケース、軸受、筒状部及び支持アームを非常に簡単な構成で支持することができる。
【0025】
請求項8に記載の発明によれば、支持アームを4本以上備えると共に、それらの支持アームがケースから放射状に延びるようになされているので、支持アームに掛けた輸液バッグ同士の間隔を確保し、輸液バッグのラベル等に対する視認性を確保することできる。
【0026】
請求項9に記載の発明によれば、ケースの支持アームの基端部の下方の部位に開口部が形成されているので、これらの開口部からブラシ等を挿入して軸受や支持アームの基端部を清掃することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態に係る医療用ハンガー本体部を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る医療用ハンガー本体部の支持アームを閉じた状態を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る医療用ハンガー本体部を示し、(a)は平面図、(b)は底面図である。
【図4】支持アームの回転を支持する構成を示す断面図である。
【図5】支持アーム、軸受及びケースの細部の構成を示す断面図である。
【図6】ストッパを示す斜視図である。
【図7】支柱を示す斜視図である。
【図8】支柱の使用方法を示す斜視図であり、(a)は滅菌布筒を被せつつある状態、(b)は滅菌布筒を被せ終わった状態である。
【図9】医療用ハンガーの全体構成を示す斜視図である。
【図10】医療用ハンガーの使用状態を示す斜視図である。
【図11】医療用ハンガーの滅菌方法を示し、(a)はオートクレーブ用保持筒に医療用ハンガーを挿入する前の状態(b)はオートクレーブ用保持筒に医療用ハンガーを挿入した後の状態である。
【図12】医療用ハンガーを医療器具支持ユニットに装着した状態を示す斜視図である。
【図13】従来技術に係る医療用ハンガーの一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に本発明の実施の形態に係る医療用ハンガーを図面に基づいて説明する。なお、以下の説明では、本発明の形態に係る医療用ハンガーを輸液バッグの支持に使用する場合について説明するが、本発明の形態に係る医療用ハンガーは内視鏡や、吸引チューブ、牽引用ワイヤなど容器以外の医療機器又は医療器具を支持することが可能である。また、輸液製剤や生理食塩水など医療用の液体を封入したバッグに対しては、『輸液バッグ』、『補液バッグ』、『溶液バッグ』、『透析液バッグ』、『ブドウ糖バッグ』、『製剤バッグ』、『生理食塩液バッグ』などという用語が用いられており、医療関係者の間では必ずしも用語の統一が図られていないが、以下の説明では、医療用の液体を封入したバッグを『輸液バッグ』という用語で説明する。なお、本発明の各実施の形態に係る医療用ハンガーは、動物医療において利用することも可能である。
【0029】
まず、本発明の実施の形態に係る医療用ハンガーの支持アームと支持アームの周辺構成について説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る医療用ハンガー本体部を示す斜視図である。図1において、10は医療用ハンガー本体部、11及び12は支持アーム、12aは掛止孔、12bは抜け落ち防止部、13は支持アーム、13aは掛止孔、13bは抜け落ち防止部、14は支持アーム、14aは掛止孔、14bは抜け落ち防止部、15及び16は支持アーム、16aは掛止孔、16bは抜け落ち防止部、17は支持アーム、17aは掛止孔、17bは抜け落ち防止部、18は支持アーム、18aは掛止孔、18bは抜け落ち防止部、19は円筒体、19aは中空部、20はケースである。また、図2は本発明の実施の形態に係る医療用ハンガー本体部の支持アームを閉じた状態を示す斜視図である。図2において用いた符号は、すべて図1と同じものを示す。また、図3は、本発明の実施の形態に係る医療用ハンガー本体部を示し、(a)は平面図、(b)は底面図である。図3において、21a、21b、21c、21d、21e、21f、21g及び21hは開口部であり、その他の符号は図1と同じものを示す。
【0030】
本発明の実施の形態に係る医療用ハンガー本体部10は、図1及び図3に示すように、8本の支持アーム11、12、13、14、15、16、17及び18がケース20を中心として放射状に延びるように、かつ、等間隔で設けられている。また、後述するように、これらのものを滅菌処理することによって、手術室でも使用できるように構成している。各々の支持アームは、ステンレス鋼のプレス加工等によって同じ形状及び大きさに形成されており、輸液バッグの掛止部を掛けることによって、1本の支持アームに3個までの輸液バッグを吊り下げることができる。また、図2に示すように、支持アーム11、12、13、14、15、16、17及び18は、回転軸が水平になるように回転する、つまり、先端側が上下方向に動くように回転するように設けられている。したがって、医療用ハンガー本体部10を滅菌処理するときには、傘をたたむように、支持アーム11、12、13、14、15、16、17及び18をたたんだ状態でオートクレーブに収容することができる。また、医療用ハンガー本体部10を保管するときにも、支持アーム11、12、13、14、15、16、17及び18をたたんで容器に入れることができる。
【0031】
なお、8本の支持アームは、等間隔ではなく、ケース20を基点として所定方向に偏在するように設けることができ、このように偏在させても本発明が課題とすることを解決することが可能であるが、医療用ハンガー本体部10が傾いて後述する円筒体と垂下部との摩擦力によって回転が妨げられることが考えられる。さらに、隣接する輸液バッグ同士の間隔を確保する観点からも等間隔とすることが望ましい。また、この実施の形態に係る医療用ハンガー本体部10では、支持アームを8本設けているが、2本以上設ければ6個以上の輸液バッグを吊り下げることができるので、2本以上であれば何本でもよい。ただし、例えば16本又はそれ以上の本数になると、隣り合う輸液バッグ同士の間隔を確保するために、図1に示した支持アームの2倍かそれ以上の長さにする必要があるが、このような長さにすると小型のオートクレーブに収容できなくなる。したがって、支持アームを16本又はそれ以上の本数にすることは好ましいことではなく、12本以下にすることが望ましい。また、支持アームを2本設ける場合には、2本の支持アームと直交する方向の空間が輸液バッグの吊り下げに全く活用されないことになるので、支持アームは4本以上設けることが望ましい。また、これらの支持アームは、ステンレス鋼のプレス加工以外の方法、例えばアルミ合金のパイプ又は棒材を適宜加工することによっても形成できるが、プレス加工であれば同じ形状及び大きさのものを大量に形成できるのでこの方法が好ましい。また、内視鏡を掛止するための支持アームなど異なる用途及び形状の支持アームを混在させてもよい。
【0032】
また、図1の支持アーム12、13、14、16、17及び18から分かるように、これらの先端部には、上方に突出した抜け落ち防止部12b、13b、14b、16b、17b及び18bが形成されている。なお、図1では、支持アーム11及び15の抜け落ち防止部が表われていないが、支持アーム11及び15にも同じ形状及び大きさの抜け落ち防止部が形成されている。これらの抜け落ち防止部は、手術や外科的処置をなどに輸液バッグなどが支持アームから脱落して医療行為に支障をきたすことを防止する役割を持つ。さらに、図1の支持アーム12、13、14、16、17及び18から分かるように、これらの基端側には、掛止孔12a、13a、14a、16a、17a及び18aが形成されている。なお、図1では、支持アーム11及び15の掛止孔が表われていないが、支持アーム11及び15にも同じ形状及び大きさの掛止孔が形成されている。これらの掛止孔は、S字状フックを掛けることによって、例えば4個目の輸液バッグや、吸引チューブを吊り下げることができるようにするものであり、同時に医療用ハンガー本体部10の軽量化も寄与するものでもある。
【0033】
ケース20は、後述するように、支持アーム11、12、13、14、15、16、17及び18の回転を支持する軸受が収納されており、また、支持アーム11、12、13、14、15、16、17及び18を回転可能とするためのスリットが形成されている。さらに、図3(b)に示すように、ケース20の下面側には、開口部21a、21b、21c、21d、21e、21f、21g及び21hが形成されている。開口部21a、21b、21c、21d、21e、21f、21g及び21hは、それぞれ支持アーム11、12、13、14、15、16、17及び18の基端部の位置に対応するように配置されており、ケース20の内部にあるこれらの支持アームの基端部及び軸受の清掃を容易に行えるようにしている。また、ケース20の中央には、円筒体19が上下方向に貫通するように設けられている。円筒体19は、その中空部19aに後述する支柱の垂下部を挿通させた状態で保持されている。また、円筒体19の内径は支柱の垂下部の径よりも大きくなるように形成されているので、円筒体19は回転軸が水平になるように方向に回転可能である。
【0034】
さらに、支持アームの細部の形状と回転支持構造について説明する。図4は、支持アームの回転を支持する構成を示す断面図である。図4において、11aは掛止孔。11bは抜け落ち防止部、11cは掛止領域、11dは軸受用開口部であり、その他の符号は図1と同じものを示す。図5は、支持アーム、軸受及びケースの細部の構成を示す断面図である。図5において、22は環状軸受、23aはスリット、23aaは上縁部、23abは下縁部、24は下端部、25は段差部であり、その他の符号は図1と同じものを示す。なお、図4及び図5は、支持アーム11のみを図示しているが、支持アーム12、13、14、15、16、17及び18の細部の形状と回転支持構造はすべて同じものに形成している。
【0035】
図4に示すように、支持アーム11は、全体を細長の略帯状になされ、先端部は上方に湾曲しながら突出した抜け落ち防止部11bとして形成されている。また、抜け落ち防止部11bから全長の約3分の2の範囲において、上端部の稜線が凹状となるように形成されている。この部分は、輸液バッグなどを掛止して支持するための掛止領域11cである。すなわち、凹状の掛止領域11cを形成することによって、医療用ハンガー本体部10を動かしているときに、輸液バッグなどが円筒体19側に移動して医師や看護師の手が届きにくくなることを防止している。さらに、支持アーム11は、先端側に向かってわずかに下り勾配になるようになされており、掛止領域11cも先端側に向かってわずかに下り勾配になっている。掛止領域11cのこの下り勾配も輸液バッグなどが円筒体19側に移動することを防止するよう作用する。なお、支持アーム11全体を先端側に向かって下り勾配となるようにするのではなく、掛止領域11cのみ下り勾配となるようにしてもよい。凹状の掛止領域11cよりも基端側には掛止孔11aを設けている。掛止孔11aは、前述のように、S字状フックを掛けることによって、例えば4個目の輸液バッグや、吸引チューブを吊り下げることができるようにするものであり、掛止領域11cと掛止孔11aとの距離はこれを考慮して設定している。
【0036】
また、図5に示すように、支持アーム11の基端部には軸受用開口部11dが形成されている。軸受用開口部11dには環状軸受22が挿通しており、支持アーム11は環状軸受22を中心に回転する。図5には図示していないが、支持アーム12、13、14、15、16、17及び18の軸受用開口部にも環状軸受22が挿通しており、すべての支持アームが環状軸受22によって回転軸が水平になるように回転可能に支持されている。環状軸受22は、ケース20の内部に収納されているが、ケース20に対して固定されてはいない。これは、環状軸受22がケース20に対して固定されていると、支持アームの基端部及び軸受の清掃を行うときにブラシや綿棒が入り込まない領域ができて、衛生管理上好ましくない。そこで、環状軸受22がケース20の内部で若干動く状態にすることによって清掃を容易にしている。
【0037】
ケース20は、アライメントを容易にするために、円筒体19の段差部25に下端部24が当接する位置で固定するようにしている。また、前述のように、ケース20は、支持アーム11に対応する位置にスリット23aが形成されている。スリット23aは、プレス加工によって形成され、支持アーム11の回転を可能にすると共に、回転角度を設定する役割を持つ。すなわち、支持アーム11の先端部が上方に向かうように回転すると、支持アーム11の基端部の近傍部分がスリット23aの上縁部23aaに当接したところで回転が規制される。また、支持アーム11の先端部が下方に向かうように回転すると、支持アーム11の基端部の近傍部分がスリット23aの下縁部23abに当接したところで回転が規制される。このように構成したことによって、軸受に回転を規制するための複雑な構造を設ける必要がない上に、スリット23aの上縁部23aa及び下縁部23abの位置はプレス加工に適宜設定できる利点がある。
【0038】
さらに、ストッパについて説明する。図6は、ストッパを示す斜視図である。図6において、26はストッパ、27はフック部、28は規制部、29はねじ部である。ストッパ26は、医療用ハンガー本体部10が支柱の垂下部から落下することを阻止することを主な目的とするものである。ストッパ26は、この主な目的を果たすものである規制部28と、規制部28の上面から突出するように設けられたねじ部29と、規制部28の下面から垂下するように設けられたフック部27とを有している。また、小型のオートクレーブに収容できる大きさに形成してある。
【0039】
規制部28は、円筒体19の中空部19aを通り抜けて医療用ハンガー本体部10が落下しないように、円筒体19の内径よりも径が大きくなるように形成されている。前述のように、円筒体19の内径は支柱の垂下部の径よりも大きくなるように形成され、円筒体19は回転軸が水平になるように方向に回転可能であるが、回転中に円筒体19に当接しつつ医療用ハンガー本体部10を支持するのは規制部28である。また、ねじ部29は、支柱の垂下部に設けたねじ孔にねじ込むものである。したがって、別途ねじを用意してストッパ26をねじ止めする構成よりも、ストッパ26の装着が簡単できるという利点がある。フック部27は、例えば、手術において内視鏡を掛止したり、手術後に患者の腕を吊したり、動物の後肢を吊したりするために使用するものである。さらに、手術中に、医師がフック部27を把持して医療用ハンガー本体部10を回転したり、支柱の垂下部を移動したりすることにも使用できる。なお、フック部27を省略する、又は、フック部27に代えて把持用のハンドルを設けることも可能である。
【0040】
続けて、支柱について説明する。図7は、支柱を示す斜視図である。図7において、30は支柱、31は基体部、32は水平部、33は垂下部、33aはねじ孔である。また、図8は、支柱の使用方法を示す斜視図であり、(a)は滅菌布筒を被せつつある状態、(b)は滅菌布筒を被せ終わった状態である。図8において、34は滅菌布筒であり、その他の符号は図7と同じものを示す。
【0041】
支柱30は、図7の垂下部33に示すように、先端部及びその近傍部分を垂下させていることが最大の特徴である。一般的な支柱のようにその全体が直立又はほぼ直立していると、医療用ハンガー本体部10を先端部及びその近傍部分に装着して使用するときに、先端部及びその近傍部分の背後に輸液バッグなどが隠れてしまい、輸液バッグなどの視認性が悪くなる。垂下部33のように先端部及びその近傍部分を垂下させると、この先端部及びその近傍部分の背後に輸液バッグなどが隠れることがなく、輸液バッグなどの視認性が向上する。さらに、輸液バッグの交換作業なども容易になる。なお、医療用ハンガー本体部10の装着は、前述のように、垂下部33を医療用ハンガー本体部10の円筒体19に挿入し、さらに垂下部33のねじ孔33aにストッパ26にねじ部29をねじ込むことによって行う。水平部32は、例えばS字状フックなどを掛止し、さらに吸引チューブなどをこのS字状フックに掛止できるようにするために形成している。なお、S字状フックが水平部32から滑り落ちることを防止するために、水平部32の両端部又は一方の端部近傍の部分から上方に突出する滑り落ち防止突起を設けてもよい。また、医療用ハンガーの用途によっては、水平に形成せずに逆U字状などに形成してもよい。
【0042】
基体部31は、医療用ハンガー本体部10やストッパ26などを所定の高さで保持するための基幹部である。図7では、基体部31の下方の部分を省略しているが、この下方の部分はキャスタ付きの脚部に固定してもよく、後述するように、医療機器を搭載して移動又は支持する医療器具支持ユニットに固定してもよい。また、基体部31を水平部32の端部から上方に延びるように形成し、手術室の天井などに固定してもよい。さらに、水平部32がそのまま水平に手術室の壁面などにまで延びるように形成し、壁面において固定するようにしてもよい。このような場合、水平部を伸縮可能に構成してもよい。くわえて、透析機器などの所定の医療機器の筐体に固定してもよい。いずれにせよ、支柱30は、先端部及びその近傍部分が垂下していれば、これ以外の部分の構成は図7で示したもの以外の様々な構成にすることが可能であり、多様な医療用機器の使用を医療用ハンガーによって補助し、医療機器の利便性を高めることができる。
【0043】
ところで、支柱30は、その大きさからオートクレーブに収容できない。そこで、手術室において使用する場合には、滅菌布筒を被せた上で使用する。すなわち、図8(a)に示すように、予め滅菌処理してある滅菌布筒34に垂下部33を挿入し、さらに水平部32から基体部31まで挿入して行く。そして、図8(b)に示すように、支柱30の全体が滅菌布筒34で覆われるようにする。
【0044】
以上に説明した医療用ハンガーの全体構成について説明する。図9は、医療用ハンガーの全体構成を示す斜視図である。図9において用いた符号は、すべて図1及び図7と同じものを示す。また、図10は、医療用ハンガーの使用状態を示す斜視図である。図10において、35a及び35bは輸液バッグであり、その他に符号は図1及び図7と同じものを示す。
【0045】
本発明の実施の形態に係る医療用ハンガーは、図9に示すように、滅菌布筒34を被せた支柱30の上方から垂下している垂下部33を医療用ハンガー本体部10の円筒体19に挿入した上でストッパ26のねじ部29をねじ孔33aにねじ込んで、医療用ハンガー本体部10を規制部28によって支持させている。円筒体19と垂下部33との間にはあそびがあるので、フック部27を手で回転させれば、支持アーム11、12、13、14、15、16、17及び18は回転軸が垂直になるように回転する。なお、医療用ハンガーを手術室以外、例えば病室などで使用する場合には、滅菌布筒34は勿論必要ない。
【0046】
そして、図10の輸液バッグ35a及び35bに示す輸液バッグを支持アーム11、12、13、14、15、16、17及び18に必要個数、例えば16個を吊り下げておく。そして、支持アーム11、12、13、14、15、16、17及び18が医師や看護師などの動作を妨げず、かつ、使用しやすい位置に配置しておく。手術中には、医師などがフック部27を手で回転させて、その時点において使用予定の輸液バッグを手前、または、左右側方などの所定位置に順次移動させる。
【0047】
次に、医療用ハンガー本体部の滅菌方法について説明する。図11は、医療用ハンガーの滅菌方法を示し、(a)はオートクレーブ用保持筒に医療用ハンガーを挿入する前の状態(b)はオートクレーブ用保持筒に医療用ハンガーを挿入した後の状態である。図11において、36はオートクレーブ用保持筒、37a及び37bは開口部、38は通気孔であり、その他の符号は図1と同じものを示す。
【0048】
医療用ハンガー本体部10の滅菌処理は、図11(a)に示すように、支持アーム11、12、13、14、15、16、17及び18をたたんでから、周側面に通気孔38を多数形成したオートクレーブ用保持筒36の上下の開口部37a又は37bのいずれかに医療用ハンガー本体部10を挿入し、図11(b)に示した状態にして、オートクレーブ用保持筒36ごとオートクレーブに収容する。なお、ストッパ26は、支持アーム11、12、13、14、15、16、17及び18の間に挿入して、医療用ハンガー本体部10と同時に滅菌処理してもよいし、ストッパ26単独で滅菌処理してもよい。
【0049】
さらに、医療機器を搭載して移動又は支持する医療器具支持ユニットに医療用ハンガーを装着した状態について説明する。図12は、医療用ハンガーを医療器具支持ユニットに装着した状態を示す斜視図である。図12において、40は医療器具支持ユニット、41、42及び43は脚部材、44は上部支柱材、45は下部支柱材、46は支柱、47は載置部、48aはクランプ、48bはつまみ、49は支持孔であり、その他の符号は図10と同じものを示す。
【0050】
医療器具支持ユニット40は、キャスタを設けた脚部材42と脚部材43とを連結する脚部材41に略角柱状の下部支柱材45を設けている。また、脚部材41は、医療機器を載置するトレーを置くことができる。下部支柱材45は、大部分が上部支柱材44に挿入可能であり、伸縮可能な支柱46を構成している。なお、上部支柱材44の周側面を締め付け可能なクランプを設けたアームを上部支柱材44に固定し、このアームに医療機器を載置するトレーを置けば、医療機器を上下2段に配置することができる。また、上部支柱材44の上端部に略板状の載置部47を設け、さらに載置部47を上下に貫通する支持孔49を設けている。くわえて、支持孔49の下側の開口部の周囲にクランプ48aを設けており、クランプ48aはつまみ48bによって締め付け可能である。このような医療器具支持ユニット40において、支柱30の基体部31を支持孔49に挿入してクランプ48aで締め付け、例えば、吸引機器を脚部材41の上のトレーに置き、吸引チューブをいずれかの支持アームに適宜掛止しながら使用する、あるいは、上部支柱材44に固定したアームにレーザ発信器を置き、レーザメスのケーブル(導光路)をいずれかの支持アームに適宜掛止しながら使用するなどの様々な使い方が可能である。また、支柱46が伸縮可能であるので、医療用ハンガー本体部10の昇降も可能となる。
【0051】
なお、本発明は、以上に説明した各実施の形態の説明内容に限定されるものではなく、例えば、垂下部を上下2本の構成とし、それぞれに医療用ハンガー本体部を装着してもよい。すなわち下段の垂下部にストッパの規制部の機能を持たせて、上下2段の医療用ハンガー本体部を回転可能な状態で使用することも可能である。また、支持アームの一部又は全部を着脱可能、例えば、支持アーム11の基端部において、4の軸受用開口部11dを形成する代わりに左右に円筒状に突出する突起部を設けると共に、ケース内部にはこれらの突起部を受ける略U字状の軸受を設けておき、さらにケースのスリットにおいて略U字状の軸受の上方の部位にこれらの突起部を挿通できる幅広の部分を形成しておけば、支持アーム11の突起部をスリットの幅広の部分を挿通させて軸受に装着することによって、抜き取る又は差し込むことを可能としてもよい。さらに、支柱30の垂下部33の上端部にねじを設けると共に、水平部32の下端部にねじ孔を形成して、水平部32に対して垂下部33を着脱可能とし、医療用ハンガー本体部10を垂下部33と一体の状態のまま取り外して滅菌処理可能としてもよい。このように、各請求項に記載した範囲を逸脱しない限りにおいて種々の変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0052】
10 医療用ハンガー本体部
11 支持アーム
11a 掛止孔
11b 抜け落ち防止部
11c 掛止領域
11d 軸受用開口部
12 支持アーム
12a 掛止孔
12b 抜け落ち防止部
13 支持アーム
13a 掛止孔
13b 抜け落ち防止部
14 支持アーム
14a 掛止孔
14b 抜け落ち防止部
15 支持アーム
16 支持アーム
16a 掛止孔
16b 抜け落ち防止部
17 支持アーム
17a 掛止孔
17b 抜け落ち防止部
18 支持アーム
18a 掛止孔
18b 抜け落ち防止部
19 円筒体
19a 中空部
20 ケース
21a 開口部
21b 開口部
21c 開口部
21d 開口部
21e 開口部
21f 開口部
21g 開口部
21h 開口部
22 環状軸受
23a スリット
23aa 上縁部
23ab 下縁部
24 下端部
25 段差部
26 ストッパ
27 フック部
28 規制部
29 ねじ部
30 支柱
31 基体部
32 水平部
33 垂下部
33a ねじ孔
34 滅菌布筒
35a 輸液バッグ
35b 輸液バッグ
36 オートクレーブ用保持筒
37 開口部
38 通気孔
40 医療器具支持ユニット
41 脚部材
42 脚部材
43 脚部材
44 上部支柱材
45 下部支柱材
46 支柱
47 載置部
48a クランプ
48b つまみ
49 支持孔
50 補液バッグ用ハンガー
51a 立設部
51b 延設部
52 フック
53 フック
54 フック
55 フック
56 フック
57 補液バッグ
58 補液バッグ
59 補液バッグ
60 多用途透析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用容器又は器具を支持可能な医療用ハンガーにおいて、
前記医療用容器又は器具を掛止可能な複数本の支持アームと、
前記支持アームの基端部を回転軸が水平になるように回転可能に支持する軸受と、
前記軸受を収納すると共に、各々の前記支持アームの前記基端部又はその近傍部分を挿通したスリットが形成されたケースとを備えていることを特徴とする医療用ハンガー。
【請求項2】
前記ケースを上下方向に貫通すると共に、前記ケースに固定された筒状体と、
先端部及びその近傍部分が垂下するように形成されると共に、前記筒状体に前記先端部及びその近傍部分を挿通させた状態において前記筒状体を回転可能な太さに形成された支柱とをさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載の医療用ハンガー。
【請求項3】
前記支柱の前記先端部に着脱可能であると共に、前記筒状体の脱落を規制するストッパをさらに備えていることを特徴とする請求項2に記載の医療用ハンガー。
【請求項4】
前記ストッパから垂下するように設けられた掛止具をさらに備えていることを特徴とする請求項3に記載の医療用ハンガー。
【請求項5】
前記支持アームは、先端部に上方に突出した抜け落ち防止部が形成されると共に、前記基端部の近傍部分と前記抜け落ち防止部との間の稜線が先端側に向かって下り勾配となるように形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の医療用ハンガー。
【請求項6】
前記ケースは、前記支持アームの回転時に、前記支持アームの前記基端部又はその近傍部分が前記スリットの上縁部又は下縁部に当接することによって、前記支持アームの回転範囲を規制するようになされていることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の医療用ハンガー。
【請求項7】
前記支柱は、前記先端部にねじ孔が形成され、
前記ストッパは、略円板状に形成されると共に前記筒状体の内径よりも径が大きい規制部と、前記規制部の上面から垂直に立ち上がるように設けられると共に前記ねじ孔にねじ込まれたねじ部とを有することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の医療用ハンガー。
【請求項8】
前記支持アームを4本以上備えると共に、それらの前記支持アームが前記ケースから放射状に延びるようになされていることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の医療用ハンガー。
【請求項9】
前記ケースは、各々の前記支持アームの前記基端部の下方の部位に開口部が形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の医療用ハンガー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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