説明

医療用ポンプシステム及び医療用ポンプ装着ラック

【課題】ラックに複数の医療用ポンプを装着して用いた際に、警報発生中の医療用ポンプを使用者が直ちに且つ容易に特定できるようにする。
【解決手段】複数の医療用ポンプ201がラック101に装着された医療用ポンプシステムであって、ラック101は、装着されている複数の医療用ポンプ201と通信するための通信部を介してそれら医療用ポンプ201の一つから設定操作の開始を示す開始通知または設定操作の終了を示す終了通知が受信されたか否かを判定する。一つの医療用ポンプ201から開始通知を受信した場合は、他の医療用ポンプ201の全てに、ユーザ操作の受付を禁止する禁止指示を通信部を介して送信する。また、一つの医療用ポンプ201から終了通知を受信した場合、禁止指示による禁止の状態を解除させる解除指示を他の医療用ポンプ201の全てに送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の医療用ポンプをラックに搭載した医療用ポンプシステムおよび医療用ポンプ装着ラックに関する。
【背景技術】
【0002】
病院等において、薬液等を患者の体内へ送液するためには、輸液バッグ中の液体を制御された輸液速度で輸液チューブを介して患者に注入する輸液ポンプや、シリンジの内容物を制御された輸液速度で患者に送液するシリンジポンプが用いられる。一般に、これら輸液ポンプやシリンジポンプ(本明細書では、これらを総称して医療用ポンプと称する)は、1種類の薬液を送液するのに一つの医療用ポンプが必要である。そのため、手術室や集中治療室などにおいて複数の薬液を同時に患者に投与しようとする場合には、薬液の数に応じた複数の医療用ポンプが必要となる。複数の医療用ポンプを机上に並べたり、床に置いたりすると、場所がとられてしまう上に、それらを移動するのも容易ではないため、複数の医療用ポンプを並べて装着するためのラックが用いられる。
【0003】
複数の医療用ポンプをラックに装着して用いる場合、医療用ポンプを個別に操作して各種の設定を行ったり、監視したりする作業は煩雑である。そこで、ラックに装着されたそれぞれの医療用ポンプと通信する中央制御装置を設け、中央制御装置において医療用ポンプの接続形態や各医療用ポンプの輸液状態を監視できるようにした構成が特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−347118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、患者の容態に応じて医療用ポンプの設定を個別に変更したい場合などは、設定変更が必要な医療用ポンプを使用者が直接操作することで設定変更が行われる。この操作は、特許文献1のように中央制御装置を用いた場合であっても同様である。医療現場では、一つの医療用ポンプに対して一連の設定操作を行っている最中に、別の医療用ポンプの様子を確認したり、別の作業を行ったりするために、設定操作の一時的な中断を余儀なくされることがある。ラックには類似した医療用ポンプが複数台装着されているため、そのような中断の後に使用者が設定作業を再開しようとするときに、操作対象を誤って別の医療用ポンプを操作してしまう可能性があった。特に、最近は、ラックにおける医療用ポンプの装着密度が向上しており、上記のような誤操作がより発生しやすい状況にある。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、ラックに複数の医療用ポンプを装着して用いた際に、一つの医療用ポンプに対してユーザが操作を行っている間に、誤って他の医療用ポンプを操作してしまうことを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための本発明の一態様による医療用ポンプシステムは以下の構成を備える。すなわち、
複数の医療用ポンプがラックに装着された医療用ポンプシステムであって、
前記ラックは、
装着されている複数の医療用ポンプと通信するための通信手段と、
前記複数の医療用ポンプの一つから前記通信手段を介して、設定操作の開始を示す開始通知または設定操作の終了を示す終了通知が受信されたか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段により前記一つの医療用ポンプから前記開始通知を受信したと判定された場合、当該一つの医療用ポンプ以外の他の医療用ポンプの全てに、ユーザ操作の受付を禁止する禁止指示を前記通信手段を介して送信する第1送信手段と、
前記判定手段により前記一つの医療用ポンプから前記終了通知を受信したと判定された場合、前記禁止指示による前記禁止の状態を解除させる解除指示を前記他の医療用ポンプの全てに送信する第2送信手段とを備え、
前記複数の医療用ポンプの各々は、
前記開始指示を受信してから前記解除指示を受信するまでの間は、ユーザ操作の受付を禁止する制御手段を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ラックに複数の医療用ポンプを装着して用いた際に、一つの医療用ポンプに対してユーザが操作を行っている間に、誤って他の医療用ポンプを操作してしまうことを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】(a)は、第1実施形態による、医療用ポンプシステムの全体構成例を示す図、(b)は第1実施形態による医療用ポンプ装着ラックを説明する図である。
【図2】第1実施形態による医療用ポンプ装着ラックと医療用ポンプの制御構成を示すブロック図である。
【図3】第1実施形態の医療用ポンプにおける制御手順を示すフローチャートである。
【図4】第1実施形態の医療用ポンプ装着ラックによる制御手順を示すフローチャートである。
【図5】第1実施形態の医療用ポンプシステムにおける、操作中の医療用ポンプを含む場合の動作例を示す図である。
【図6】(a),(b)は、第1実施形態の医療用ポンプシステムにおける、操作中の医療用ポンプを含む場合の動作例を示す図である。
【図7】操作中の医療用ポンプの装着位置を他の医療用ポンプの表示部によって指し示す表示を行わせるための処理を説明するフローチャートである。
【図8】(a),(b)は、第2実施形態の医療用ポンプシステムの全体構成例を示す図である。
【図9】第2実施形態による医療用ポンプ装着ラックの制御構成を説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付の図面を参照して本発明の好適な実施形態を例示する。
【0011】
[第1実施形態]
図1(a)は、第1実施形態による医療用ポンプシステムの外観構成の一例を示す図である。図1(a)に示されるように、本実施形態では、複数の医療用ポンプ(本例では6台としている)が専用のラックに装着された構成の医療用ポンプシステムを説明する。図1(a)において、101は医療用ポンプ装着ラック(以下、ラック101という)であり、本例では6台までの医療用ポンプ201を縦方向に一列に装着可能な構成となっている。また、図示の例では、医療用ポンプ201の例として輸液ポンプが示されており、各ポンプには薬液を輸送するためのチューブ211が装着された様子が示されている。但し、医療用ポンプの装着台数はこれに限られるものではないし、医療用ポンプも輸液ポンプに限られるものではなく、シリンジポンプなど各種の医療用のポンプを装着可能である。212は医療用ポンプ201における流量設定など、各種設定を行うためのスイッチを含む操作部である。
【0012】
図1(b)は、医療用ポンプ201が未装着な状態のラック101を正面から見た図である。ラック101には、複数のポンプ装着位置に対応して複数の(本例では6個の)ポート102が配置されている。複数のポート102の各々は、医療用ポンプ201と接続可能なコネクタにより形成されており、医療用ポンプ201はポート102を介してラック101と通信する。なお、ポート102は、縦に配列されたポンプ装着位置の上から順に#1、#2、…、#6という番号が割り当てられている。
【0013】
図2は、第1実施形態によるラック101と医療用ポンプ201の制御構成例を示すブロック図である。ラック101の6つのポート102は、それぞれ通信モジュール111に接続されている。通信モジュール111は、ポート102を介して医療用ポンプ201からの信号(データ)を受信すると、その受信したデータと受信したポートの番号(#1〜#6のいずれかのポート番号)を制御部121に通知する。また、制御部121から、ポート番号とデータ(コマンド等)の対を受信すると、当該ポート番号に対応するポート102に対して制御部121から受信したデータを出力する。こうして、ラック101の制御部121は、装着されている複数の医療用ポンプ201のそれぞれと個別に通信することが可能となっている。なお、制御部121は、マイクロコンピュータなどのCPU(不図示)とCPUにより実行される装置全体の制御プログラムや各種データを記憶するROM(不図示)とワークエリアとして測定データや各種データを一時的に記憶するRAM(不図示)などを備え、図4のフローチャートで示した判定(判断)、処理を含む各種処理を実行する。
【0014】
医療用ポンプ201において、表示部202は、たとえば液晶パネルを有し、マイクロコンピュータなどのCPU(不図示)とCPUにより実行される装置全体の制御プログラムや各種データを記憶するROM(不図示)とワークエリアとして測定データや各種データを一時的に記憶するRAM(不図示)などを備え、各種判定(判断)・処理を実行するポンプ制御部205の制御下で各種表示を行う。コネクタ203はポート102と接続し、医療用ポンプ201との電気的な接続(通信)を実現する。なお、コネクタ203とポート102との間はケーブルを介して接続されるものとする。或いは、コネクタ203とポート102が直接に接続される(たとえば、医療用ポンプ201をラック101に装着することでコネクタ203とポート102が接続される)ようにしてもよい。ポンプ制御部205は、送液機構206を制御して、送液量を制御する。医療用ポンプ201が輸液ポンプの場合、送液機構206はたとえば送液用の複数のフィンガーを具備し、複数のフィンガーが順次に輸液チューブを押すことによりチューブ内の薬液を送出する。また、医療用ポンプ201がシリンジポンプであれば、送液機構206はシリンジを装着してその押し子を押圧する構成となる。操作部212は流量設定など、ユーザによる各種設定操作を受け付ける。
【0015】
以上のような構成の医療用ポンプ201において、ポンプ制御部205は、操作部212を介してユーザからの操作入力を受け付けると、操作開始の旨の通知(開始通知という)を、通信モジュール204、コネクタ203を介してラック101に送信する。また、操作部212を介した一連の操作の終了を検出すると、ポンプ制御部205は、操作終了の旨を表す通知(終了通知という)を、通信モジュール204、コネクタ203を介してラック101に送信する。また、ポンプ制御部205は、コネクタ203、通信モジュール204を介してラック101から禁止指示を受け取ると、操作部212からのユーザ操作を受け付け禁止にするとともに、表示部202の表示輝度を低下させる。更に、ポンプ制御部205は、コネクタ203、通信モジュール204を介してラック101から解除指示を受け取ると、禁止指示による上記禁止状態を解除する。すなわち、ポンプ制御部205は、操作部212からのユーザ操作の受け付けを再開(許可)するとともに、表示部202の表示輝度をもとに戻す。以下、この動作について図3のフローチャートを参照して説明する。
【0016】
図3は医療用ポンプ201の動作を説明するフローチャートである。ステップS301において、ポンプ制御部205は、操作部212へのユーザによる操作を検出し、ステップS302において、流量設定等の設定操作の開始が検出されたか否かを判定する。設定操作の開始としては、たとえば、設定項目が選択された場合や、設定項目が選択された後に設定値の入力が行われた場合などが挙げられる。操作部212を用いた設定操作が開始されたと判定された場合には、処理はステップS302からステップS303へ進む。ステップS303において、ポンプ制御部205は、設定操作の開始を示す開始通知をラック101に対して送信する。その後、ステップS304において、ポンプ制御部205は、一連の設定操作が終了するのを待つ。
【0017】
設定操作の終了が検出されると、処理はステップS304からステップS305へ進む。ステップS305において、ポンプ制御部205は、操作の終了を示す終了通知をラック101に対して送信する。なお、ここで、設定操作の終了とは、たとえば、以下のようなケースが挙げられる。
・設定値に対する確定操作があった場合(変更された設定値が当該医療用ポンプに設定される)。
・所定時間継続してユーザ操作がなかった場合(変更途中の設定値はもとの設定値に戻される)。
【0018】
他方、ステップS302で設定操作が検出されなかった場合、処理はステップS306へ進む。ステップS306において、ポンプ制御部205はラック101から禁止指示を受け取ったか否かを判定する。ラック101による禁止指示や、解除指示の発行については、図4のフローチャートを参照して後述する。ラック101から禁止指示を受信した場合、ポンプ制御部205は、ステップS307において、操作部212を介したユーザからの設定操作の受付を禁止する。このとき、ポンプ制御部205は、表示部202の表示輝度を下げ、設定操作が禁止された状態であることを明示する。一方、ポンプ制御部205がラック101から解除指示を受信した場合は、処理はステップS308からステップS309へ進む。ステップS309において、ポンプ制御部205は、ステップS307でユーザ操作の受付が禁止されている場合には、当該禁止状態を解除し、ユーザによる設定操作の受付を再開する。また、ステップS307で表示部202の表示輝度を低下させている場合は、ステップS309で表示部を通常の表示輝度に復帰させる。なお、警報発生時等、緊急な操作を要する場合には、当該警報に対応した操作の受付、表示の変更が、上記処理に対して優先して行われる。
【0019】
次に、本実施形態のラック101による制御について説明する。本実施形態では、ラック101は、装着された医療用ポンプ201から開始通知を受けた場合に、他の医療用ポンプに対して操作の受け付け禁止する禁止指示を送信する。図4は、本実施形態のラック101による処理を説明するフローチャートである。また、図5は、#3の医療用ポンプにおいて設定操作が行われている場合の、他の医療用ポンプにおける表示状態を説明する図である。以下、図4と図5を参照してラック101の動作を詳細に説明する。
【0020】
ステップS401において、制御部121は、通信モジュール111及び#1〜#6の各ポート102を介して、医療用ポンプ201から開始通知が受信されているポートを確認する。上述したように、通信モジュール111はポート番号と警報通知を対にして制御部121に通知するので、制御部121は#1〜#6のどのポートに接続された医療用ポンプで設定操作が行われているのかを知ることができる。一つの医療用ポンプから開始通知が受信されると、処理はステップS402からステップS403に進む。開始通知が受信されない場合は、ステップS401が繰り返される。
【0021】
ステップS403において、制御部121は、開始通知を受信したポート番号を変数Qにセットする。そして、ステップS404において、制御部121は処理対象のポート番号として先頭のポート番号(本例では一番上に位置するポートの番号)である「1」を変数Pにセットする。以下、変数Pが最大ポート数(本例では6)になるまでステップS405〜S418の処理を繰り返すことで、全てのポート(本例では、#1〜#6のポート)について処理が行われることになる。以下、ポート番号がPのポートをポートP、ポート番号がQのポートをポートQと称する場合もある。
【0022】
まず、ステップS405において、制御部121は、P=Qを判定することにより、ポートPが開始通知を受信しているポートであるか否かを判定する。P=Qでなければ、ポートPに接続された医療用ポンプは開始通知を行っていない医療用ポンプ(他の医療用ポンプという)である。したがって、ステップS406において、制御部121は、当該医療用ポンプにおける設定操作を禁止するためにポートPに禁止指示を送信する。そして処理をステップS407に進める。他方、P=Qでなければ、処理はステップS405からステップS407へ直接進み、操作中であるポートQの医療用ポンプには禁止指示は送信されない。
【0023】
ステップS407において、制御部121は、変数Pが最大ポート番号(本例では6)になった否かにより、全てのポートについて上記処理を行ったかを判定する。変数Pが最大ポート番号でなければ、ステップS408でPを1つインクリメントして処理をステップS405に戻し、次のポートについて上記ステップS405〜S408の処理を行う。一方、変数Pが最大ポート番号に達した場合は、操作通知を行った医療用ポンプ以外の全ての医療用ポンプに対して禁止指示の送信を終えたことになり、処理はステップS409に進む。
【0024】
ステップS409、S410では、制御部121は、開始通知を受信したポートQから終了通知が受信されるのを待つ。すなわち、ステップS409において、制御部121は、開始通知を行った医療用ポンプ(ポートQに接続されている医療用ポンプ)から終了通知が受信されたか否かを確認する。終了通知が受信されていなければ、処理はステップS410からステップS409に戻り、受信されていればステップS410からステップS411に進む。ステップS411において、制御部121は、全てのポートに対して、医療用ポンプにおける操作の禁止状態を解除させるための解除指示を送信する。なお、ポートQ以外の全てのポートに対して解除指示を送るように構成しても良い。
【0025】
以上のような処理により、本実施形態の医療用ポンプシステムでは、設定操作が行われた医療用ポンプが存在する場合に、他の医療用ポンプにおける操作を不許可とすることができるので、操作対象医療用ポンプを間違えるといった誤操作を防止できる。また、図5に示すように、他の医療用ポンプ(#1,2,4〜6)の表示部202における表示輝度を低下させることで、使用者は操作中の医療用ポンプを直ちに認識できるようになる。
【0026】
なお、上記では、禁止指示を受け取った医療用ポンプが自身の制御により表示部202の表示輝度を下げたり、復帰したりする構成としたがこれに限られるものではない。たとえば、ラック101が禁止指示と表示輝度を下げる旨の指示を行い、医療用ポンプはこれらの指示にしたがって操作禁止状態になるとともに、表示部202の表示輝度を下げるようにしてもよい。その場合、ステップS411において、制御部121は、全ポート(またはポートQを除く全てのポート)に対して、表示輝度を復帰させる指示を送信する。また、操作中の医療用ポンプを使用者が特定しやすくするために、設定操作が禁止された医療用ポンプの表示輝度を低下させたが、これに限られるものではなく、表示の色を変えてもよい。また、図1に示したように医療用ポンプが縦一列に並ぶ構成を説明したが、これに限られるものではない。たとえば、横一列に医療用ポンプが並ぶようなラックを用いた医療用ポンプシステムとしてもよいし、縦横に複数列の2次元的に医療用ポンプを配置できるような構成としてもよいことは明らかである。また、ラックに医療用ポンプが全て装着されていない場合でもよい。
【0027】
[第2実施形態]
第2実施形態では、他の医療用ポンプにおいて、表示部の表示輝度を低下させることに代えて或いはそれに加えて、方向の属性を持つ図形(たとえば矢印)を表示させることにより操作中の医療用ポンプをより明示的に指し示す表示を行う構成を説明する。また、第2実施形態では、図6(a)に示すような縦一列の構成と、図6(b)に示すような、縦横に複数列の2次元的に医療用ポンプを配置した構成にも言及する。
【0028】
図6(a)に示すような縦一列の配置の場合、ポート番号を上から順に大きくなるように割り当てれば、各ポート番号の相対的な位置関係は把握され得る。図6(b)に示すような二次元的な配置の場合は、どの列の何番目のポートであるかを特定可能とするために、ポート番号を2桁とし、上位桁が列を、下位桁が何番目かを示すようにする。たとえば、図6(b)では右側の列を1、左側の列を2とし、#11〜#16が右側の列の6個のポート番号、#21〜#26が左側の列の6個のポート番号としている。このようにすれば、警報ポートと他のポートの相対的な2次元の位置関係を判定することができる。
【0029】
図7は、第2実施形態における矢印表示の指示のための制御を説明するフローチャートである。図7に示す処理は、制御部121により実行されるものであり、図4のステップS406を置き換えるものである。まずステップS701において、制御部121は、当該医療用ポンプにおける設定操作を禁止するために当該ポート(番号Pのポート)に禁止指示を送信する(ステップS406と同じ)。
【0030】
次に、ステップS702において、制御部121は、注目しているポートPと操作の開始通知を受信したポートQとのラック101における位置関係を特定する。たとえば、ラック101が図6(a)のように縦一列であり、上から順に増加するようにポート番号が割り当てられている場合は、PとQとの大小関係により、以下のように上下位置関係を特定できる。
(a-1):P<Qであれば、ポートPはポートQよりも上にある。
(a-2):P>Qであれば、ポートPはポートQよりも下にある。
【0031】
また、図6(b)のようにポート番号が割り当てられている場合でも、以下の関係からポートPとポートQの位置関係を特定できる。
(b-1):Pの上位桁=Qの上位桁であれば、ポートPはポートQと同列にある。
(b-2):Pの上位桁<Qの上位桁であれば、ポートPはポートQの左側の列にある。
(b-3):Pの上位桁>Qの上位桁であれば、ポートPはポートQの右側の列にある。
(b-4):Pの下位桁<Qの下位桁であれば、ポートPはポートQよりも上にある。
(b-5):Pの下位桁>Qの下位桁であれば、ポートPはポートQよりも下にある。
(b-6):Pの下位桁=Qの下位桁であれば、ポートPはポートQの真横方向にある。
【0032】
次に、ステップS703において、制御部121は、ステップS702で特定したポートPとポートQとの位置関係から、ポートPに接続された医療用ポンプに表示させるべき矢印の方向を選択する。図6(a)のようにラック101が縦一列に医療用ポンプを装着する構成の場合、PとQの位置関係に応じて上向きの矢印と下向きの矢印のいずれかを選択する。図6の(a)では、ポートQよりも上に位置するポートPに対しては下向きの矢印が選択され、ポートQよりも下に位置するポートPに対しては上向きの矢印が選択される。また、図6(b)のようにラック101が二次元的なポートの配列を有する場合は、例えば上下左右斜めの8方向から一つの方向が選択される。たとえば、図6(b)において#12のポートでは、P=12、Q=23であることから(b-2)と(b-4)を満足するため、制御部121は#12のポートに関して右斜め下の方向の矢印を選択する。
【0033】
ステップS704において、制御部121は、以上のようにして選択した方向の矢印をポートPの医療用ポンプに表示させるべく表示指示を出力する。医療用ポンプは、ステップS701で送信された禁止指示を受信して輝度を低下するとともに、ステップS704で送信された表示指示にしたがって矢印を表示する。以上のような処理により、図6(a)や(b)に示したような表示が実現される。操作中でない医療用ポンプの表示部は、表示輝度を低下するとともに操作中の医療用ポンプの装着位置を示す矢印を表示するため、使用者は複数の医療用ポンプが装着されたラックを見ると直ちに操作中の医療用ポンプを認識することができる。
【0034】
なお、第2実施形態では、操作中でない医療用ポンプにおいて、操作禁止、表示輝度の低下および矢印表示を行ったが、表示輝度の低下を省略してもよい。また、上記第1及び第2実施形態では、操作を禁止する禁止指示を受信した医療用ポンプが表示部の輝度を低下させたがこれに限られるものではない。たとえば、禁止指示と、輝度低下指示をラック101から医療用ポンプに対して送信するようにして、医療用ポンプはこれら2つの指示にしたがって操作禁止と表示部の表示輝度の低下を行うようにしても良い。また、第2実施形態で説明したような表示制御は、3列以上の場合にも適用でき、各医療ポンプにおいて表示すべき矢印を決定できる。なお、矢印の細かさは、上述した8方向のものに限られるものではない。また、ラック101から矢印の方向を角度で指示するようにし、医療用ポンプ201において指示された角度の矢印を描画、表示するようにしても良い。但し、表示する図形は、方向を示すものであれば何でもよく、矢印に限られるものではない。また、ラックに医療用ポンプが全て装着されていない場合でもよい。
【0035】
[第3実施形態]
第1、第2実施形態では単独のラック101に複数の医療用ポンプ201を装着する構成を説明した。第2実施形態では、それぞれが複数の医療用ポンプ201を装着可能な複数のラックを連結して医療用ポンプシステムを形成可能とし、柔軟にシステム構築を行える実施形態を説明する。図8(a),(b)は第3実施形態による医療用ポンプシステムの外観の一例を示す図である。図8(a)では主ラック801に2台の従属ラック901が縦方向に接続されて、医療用ポンプが縦方向に1列にならぶ構成が示されている。主ラック801、従属ラック901はそれぞれ3台の医療用ポンプ201を装着可能であり、図8(a)では9台の医療用ポンプが縦一列に並んだ様子が示されている。また、図8(b)では、主ラック801と2台の従属ラック901が横方向に並び、9台の医療用ポンプが、二次元的に配列された様子(縦横3×3に配列された様子)が示されている。また、図8(a),(b)では、各装着位置の周囲を囲むように発光部831,931が設けられており、操作中の医療用ポンプの装着位置を囲む発光部を選択的に点灯させることにより、操作中の医療用ポンプをより明瞭に使用者に示すようにしている。図8では、#12の装着位置の周囲の発光部が点灯状態となっており、操作中の医療用ポンプの装着位置(#12)を使用者に明示している様子が示されている。
【0036】
図9は、図8(a),(b)に示すラック構成における制御機能を説明するブロック図である。主ラック801は、第1実施形態のラック101と同様に、複数のポート802、制御部821、及び通信モジュール811を有する。主ラック801は、更に、従属ラック901を接続するためのコネクタ803,804,805を有する。発光駆動部830は制御部821からの指示により、複数の発光部831を選択的に駆動して、特定の装着位置をユーザに明示する。
【0037】
従属ラック901は、医療用ポンプと通信接続するための複数のポート902、主ラック801のコネクタ803〜806のいずれかと接続するためのコネクタ903を有する。従属ラック901において、複数のポート902の各々の信号線は一つのコネクタ903に接続されている。また、従属ラック901の発光駆動部930は、コネクタ803〜805のいずれかとコネクタ903とを介して制御部821と接続され、制御部821からの指示にしたがって複数の発光部931を選択的に駆動して、特定の装着位置をユーザに明示する。
【0038】
通信モジュール811は、主ラック801のコネクタ803〜805と接続された従属ラック901から信号を受信すると、従属ラック901におけるポート番号に所定数を加算した値をポート番号とし、これを当該信号とともに制御部821に提供する。加算される所定数は、コネクタ803〜805の各々に対して予め設定されており、たとえば、コネクタ803に10、コネクタ804に20、コネクタ805に30が設定されている。従属ラック901を増設する際には、主ラック801の直下または右隣に配置される従属ラック901をコネクタ803と接続し、さらにその従属ラックの下または右隣に配置される従属ラック901をコネクタ804に接続するというようにする。たとえば、通信モジュール811は、コネクタ803に接続された従属ラック901の#2のポートから開始通知/終了通知を受信すると、所定数である10を加算して、#12のポートから通知を受信したものとして制御部821にこれを通知する。同様に、コネクタ804に接続された従属ラック901の#3のポートから開始通知/終了通知を受信すると、通信モジュール811は、コネクタ804に設定された所定数である20を加算して、#23のポートから通知を受信したものとして制御部821にこれを通知する。
【0039】
以上のような構成によれば、制御部821は、各ラックに接続された医療用ポンプのポート番号を、図8(a),(b)に示すように#01、#02、…#23として扱うこととなる。その結果、第1及び第2実施形態で説明した処理を適用して、操作中となった医療用ポンプ以外の他の医療用ポンプの操作を禁止するとともに、操作中となった医療用ポンプを他の医療用ポンプの表示部によって指し示すように構成することができる。なお、図8(a),(b)では、#12のポートの医療用ポンプから操作の開始通知が送信された場合に、他の医療用ポンプにおいて表示部の表示輝度を低下するとともに方向表示を行った様子が示されている。
【0040】
更に、第3実施形態では、制御部821が、発光部831,931のうち、ポートQに対応する装着位置(操作の開始通知を送信した医療用ポンプの装着位置)の周囲を囲む発光部831,931を選択的に駆動する。これにより、使用者に操作中のポンプの位置をより明瞭に示している。図8(a),(b)の例では、#12のポートの装着位置の周囲の発光部831,931を選択的に駆動している。なお、上述した各表示部における表示制御(第1、第2実施形態で説明したような表示輝度の低下や、矢印表示)を省略して、ラックに設けた発光部のみで操作中の医療用ポンプを明示するようにしても良い。
【0041】
なお、コネクタ803〜805のそれぞれに割り当てる所定数を、使用者が設定できるように構成してもよい。これは、たとえば、コネクタ803〜805の各々の近傍にデジスイッチを設けて、ユーザが設定できるようにすることで実現できる。また、主ラック801自身のポート番号に対する加算値を設定できるようにしても良い。このようにすれば、主ラック801と従属ラック901のポート番号への加算値の設定により、主ラック801と従属ラック901との並び順を変更することが可能となる。たとえば、図8(a)において主ラック801を一番下に配置したり、図8(b)において主ラック801を中央の列に配置したりすることが可能となる。
【0042】
また、各ラックのポンプの装着数は3台までとしたが、これに限られるものではない。また、ラックに医療用ポンプが全て装着されていない場合でもよい。但し、コネクタ803〜805に割り当てられる加算値を上述のように10、20、30とすると、各従属ラックにおけるポンプ装着数は最大10までとなる。
【0043】
また、上記第3実施形態では、主ラック801と制御部等を持たない従属ラック901を接続する構成としたがこれに限られるものではない。主ラック801において主/従を切換可能にすれば、主ラック801を複数連携させることができる。たとえば、主ラック801に主/従切換スイッチを設け、主が選択されていれば上述した主ラックとして、従が選択されたら上述した従属ラックとして機能するように制御部821が通信モジュール811を制御すればよい。なお、従属ラックとして機能する場合は、たとえば、コネクタ803をコネクタ903の代わりとして利用するように予め決めておく。このようすれば、インテリジェントな主ラック801を主、従として機能させることができるので、医療ポンプシステムを更に柔軟に変更できる。
【0044】
以上説明したように、第3実施形態によれば、第1、第2実施形態と同様に、操作中の医療用ポンプ以外の他の医療用ポンプにおける操作が禁止され、誤操作が防止される。また、操作中の装着位置が他の医療用ポンプの表示部或いはラックに設けられた発光部により明示されるため、使用者は操作中の医療用ポンプを容易に特定できる。
【0045】
なお、上記第1〜第3実施形態では、ラックのすべての装着位置に医療用ポンプが装着された様子を示したが、ポンプがラックに歯抜けのような状態でセットされている場合でも問題なく動作することは明らかである。
【符号の説明】
【0046】
101:医療用ポンプ装着ラック、102〜107:ポート、201:医療用ポンプ、202:表示部、111,204:通信モジュール、121:制御部、203:コネクタ、205:ポンプ制御部、206:送液機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の医療用ポンプがラックに装着された医療用ポンプシステムであって、
前記ラックは、
装着されている複数の医療用ポンプと通信するための通信手段と、
前記複数の医療用ポンプの一つから前記通信手段を介して、設定操作の開始を示す開始通知または設定操作の終了を示す終了通知が受信されたか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段により前記一つの医療用ポンプから前記開始通知を受信したと判定された場合、当該一つの医療用ポンプ以外の他の医療用ポンプの全てに、ユーザ操作の受付を禁止する禁止指示を前記通信手段を介して送信する第1送信手段と、
前記判定手段により前記一つの医療用ポンプから前記終了通知を受信したと判定された場合、前記禁止指示による前記禁止の状態を解除させる解除指示を前記他の医療用ポンプの全てに送信する第2送信手段とを備え、
前記複数の医療用ポンプの各々は、
前記禁止指示を受信してから前記解除指示を受信するまでの間は、ユーザ操作の受付を禁止する制御手段を備える、ことを特徴とする医療用ポンプシステム。
【請求項2】
前記第1送信手段は、前記禁止指示を送信するとともに、医療用ポンプの表示部における表示輝度を低下させる表示指示を送信し、
前記第2送信手段は、前記解除指示を送信するとともに前記表示部における表示輝度を復帰させる表示指示を送信することを特徴とする請求項1に記載の医療用ポンプシステム。
【請求項3】
前記開始通知を送信した前記一つの医療用ポンプの前記ラックにおける装着位置を特定する特定手段と、
前記開始通知を送信した医療用ポンプ以外の他の医療用ポンプのそれぞれから前記特定手段で特定した前記装着位置を指し示すように、前記他の医療用ポンプのそれぞれに表示させる方向表示を決定する決定手段とを更に備え、
前記第1送信手段は、前記禁止指示を送信するとともに、前記決定手段で決定された方向表示を医療用ポンプの表示部に行わせるための表示指示を送信することを特徴とする請求項1または2に記載の医療用ポンプシステム。
【請求項4】
前記医療用ポンプが備える前記制御手段は、前記表示指示に応じて当該医療用ポンプが備える表示部における表示状態を変更することを特徴とする請求項2または3のいずれか1項に記載の医療用ポンプシステム。
【請求項5】
前記医療用ポンプが備える前記制御手段は、前記禁止指示によりユーザ操作の受付を禁止している間、当該医療用ポンプが備える表示部における表示輝度を低下させることを特徴とする請求項1に記載の医療用ポンプシステム。
【請求項6】
前記ラックは、医療用ポンプを装着するための複数の装着位置の各々に対応して設けられた発光部と、
前記判定手段により前記開始通知が受信されたと判定されてから前記終了通知が受信されたと判定されるまでの間、前記一つの医療用ポンプが装着された位置を明示するように前記発光部を選択的に駆動する駆動手段とを更に備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の医療用ポンプシステム。
【請求項7】
複数の医療用のポンプを装着可能な医療用ポンプ装着ラックであって、
装着されている複数の医療用ポンプと通信するための通信手段と、
前記複数の医療用ポンプの一つから前記通信手段を介して、設定操作の開始を示す開始通知または設定操作の終了を示す終了通知が受信されたか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段により前記一つの医療用ポンプから前記開始通知を受信したと判定された場合、当該一つの医療用ポンプ以外の他の医療用ポンプの全てに、ユーザ操作の受付を禁止する禁止指示を前記通信手段を介して送信する第1送信手段と、
前記判定手段により前記一つの医療用ポンプから前記終了通知を受信したと判定された場合、前記禁止指示による前記禁止の状態を解除させる解除指示を前記他の医療用ポンプの全てに送信する第2送信手段とを備えることを特徴とする医療用ポンプ装着ラック。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−161531(P2012−161531A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25318(P2011−25318)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】