説明

医療用器具

【課題】処置部の状態を適切に制御することができる医療用器具を提供する。
【解決手段】操作ワイヤ440は、シース420の内部を進退可能に挿通されている。処置部12は、操作ワイヤ440の先端部に設けられ、操作ワイヤ440がシース420の遠位側に前進したとき動作状態となり、操作ワイヤ440がシース420の近位側に後退したとき非動作状態となる。操作本体部520は、シース420の近位側に設けられている。駆動部540は、操作本体部520に設けられ、操作ワイヤ440の基端部と連結している。また、駆動部540は、操作ワイヤ440の先端部を進退移動させることにより、処置部12を非動作状態または動作状態のいずれかに遷移させる操作を行う。さらに、操作本体部520には、仮規制部60が設けられている。この仮規制部60は、駆動部540が操作ワイヤ440を前進移動させる操作を解除可能に規制して、非動作状態の処置部12が動作状態となることを抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用器具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、内視鏡技術の発達に伴い、内視鏡による体腔内の観察とともに、患部に医療処置を行う医療用器具が多く提案されている。
【0003】
特許文献1(特開2006−198388号公報)には、以下のような結紮装置が記載されている。この結紮装置は、体腔内に導入されるシースと、クリップと、操作ワイヤと、を備えている。クリップは、体腔内の生体組織を結紮するクリップ爪と、押さえ部材とを有している。また、結紮装置のシース内には、クリップに接続された操作ワイヤが、進退可能に設けられている。クリップは、シース内に収容されており、その状態で体腔内に導入される。患部を処置するとき、クリップ爪をシースの先端から突き出し、押さえ部材をシースの先端に保持する。これにより、押さえ部材の移動を阻止することにより、クリップ爪の開閉動作を安定的に操作できるとされている。
【0004】
また、特許文献2(特開平06−254101号公報)には、以下のようなクリップ装置が記載されている。このクリップ装置は、導入管と、クリップと、駆動部材と、クリップ締付用リングと、を備えている。クリップは、挟持部を離間させる方向に腕部を拡開する開拡習性を有している。クリップ締付用リングは、駆動部材の先端に着脱可能に装着されており、クリップの腕部に被嵌して、クリップの挟持部を閉成する。これにより、クリップが外力によって外れにくいとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−198388号公報
【特許文献2】特開平06−254101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本発明者は、上記のような医療用器具を体腔内に導入したとき、医療用器具が不測に非動作状態から動作状態に遷移する問題が発生することを見出した。
【0007】
たとえば、クリップが操作ワイヤの先端に設けられている医療用器具は、クリップが閉じている状態で、内視鏡のチャネルに挿通される。ここで、クリップが閉じていた非動作状態から不測に開いた動作状態となった場合、内視鏡のチャネル等を傷つけてしまう可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、
長尺のシースと、
前記シースの内部を進退可能に挿通された操作ワイヤと、
前記操作ワイヤの先端部に設けられ、当該操作ワイヤが遠位側に前進したとき動作状態となり、当該操作ワイヤが近位側に後退したとき非動作状態となる処置部と、
前記シースの近位側に設けられた操作本体部と、
前記操作本体部に設けられ、前記操作ワイヤの基端部と連結して、前記操作ワイヤの先端部を進退移動させることにより、前記処置部を前記非動作状態または前記動作状態のいずれかに遷移させる操作を行うための駆動部と、
前記操作本体部に設けられ、前記駆動部が前記操作ワイヤを前進移動させる前記操作を解除可能に規制して前記非動作状態の前記処置部が前記動作状態となることを抑制する仮規制部と、
を備える医療用器具が提供される。
【0009】
本発明によれば、処置部は、操作ワイヤが遠位側に前進したとき動作状態となり、操作ワイヤが近位側に後退したとき非動作状態となる。駆動部は、操作ワイヤの基端部と連結して、操作ワイヤの先端部を進退移動させることにより、処置部を非動作状態または動作状態のいずれかに遷移させる操作を行う。また、操作本体部には、仮規制部が設けられている。当該仮規制部は、駆動部が操作ワイヤを前進移動させる操作を解除可能に規制して、非動作状態の処置部が動作状態となることを抑制する。これにより、医療用器具を体腔内に導入するとき、駆動部の操作を規制して、処置部が不測に非動作状態から動作状態に遷移することを未然に抑制することができる。したがって、処置部の状態を適切に制御することができる医療用器具を提供することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、処置部の状態を適切に制御することができる医療用器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1の実施形態に係る医療用器具の構成を示す全体図である。
【図2】第1の実施形態に係る仮規制部を示す模式図である。
【図3】第1の実施形態に係る仮規制部を示す模式図である。
【図4】第1の実施形態に係る医療用器具の先端部を示す平断面図(a)、側断面図(b)である。
【図5】第1の実施形態に係る医療用器具の先端部を示す平断面図(a)、側断面図(b)である。
【図6】第1の実施形態に係る医療用器具の先端部を示す平断面図(a)、側断面図(b)である。
【図7】第1の実施形態に係る比較例の模式図である。
【図8】第1の実施形態における仮規制部の機能を説明するための模式図である。
【図9】第2の実施形態に係る医療用器具の先端部を示す断面図である。
【図10】第3の実施形態に係る医療用器具の駆動部を示す断面図である。
【図11】第4の実施形態に係る医療用器具の駆動部を示す断面図である。
【図12】第5の実施形態に係る医療用器具の駆動部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0013】
(第1の実施形態)
図1〜図8を用いて、第1の実施形態に係る医療用器具10について説明する。医療用器具10は、長尺のシース420と、操作ワイヤ440と、処置部12と、操作本体部520と、駆動部540と、仮規制部60と、を備えている。操作ワイヤ440は、シース420の内部を進退可能に挿通されている。処置部12は、操作ワイヤ440の先端部に設けられ、操作ワイヤ440が遠位側に前進したとき動作状態となり、操作ワイヤ440が近位側に後退したとき非動作状態となる。操作本体部520は、シース420の近位側に設けられている。駆動部540は、操作本体部520に設けられ、操作ワイヤ440の基端部と連結している。また、駆動部540は、操作ワイヤ440の先端部を進退移動させることにより、処置部12を非動作状態または動作状態のいずれかに遷移させる操作を行う。さらに、操作本体部520には、仮規制部60が設けられている。この仮規制部60は、駆動部540が操作ワイヤ440を前進移動させる操作を解除可能に規制して、非動作状態の処置部12が動作状態となることを抑制する。以下、詳細を説明する。
【0014】
以下の説明において、「遠位側」とは、特に断りのない限り、医療用器具10のうち、ユーザーが操作する側から遠い側をいう。具体的には、「遠位側」とは、処置部12の先端部がある側をいう。また、「近位側」とは、特に断りのない限り、医療用器具10のうち、ユーザーが操作する側に近い側をいう。具体的には、「近位側」とは、操作部50の指かけリング580の基端部がある側をいう。
【0015】
はじめに、図1を用い、医療用器具10の全体像から説明する。図1は、第1の実施形態に係る医療用器具10の構成を示す全体図である。本発明における「医療用器具10」とは、たとえば、内視鏡(不図示)のチャネル(不図示)内に挿通させて、チャネルの先端部から処置部12を突出させることにより、体腔内の生体組織に医療処置を行うための長尺の医療用器具のことである。
【0016】
図1のように、医療用器具10は、たとえば、処置部12、長尺のシース420、操作ワイヤ440および操作部50を備えている。
【0017】
処置部12は、操作ワイヤ440の先端部に設けられている。本発明における処置部12は、体腔内の生体組織に医療処置を行うためのものである。具体的には、処置部12は、たとえば、生体組織を採取するための鉗子もしくはナイフ、ポリープを切除するための高周波スネア、薬剤を投与するための注射針、または生体組織を結紮して止血などをするためのクリップなどである。
【0018】
処置部12は、操作ワイヤ440が遠位側に前進したとき、動作状態となる。一方、処置部12は、操作ワイヤ440が近位側に後退したとき、非動作状態となる。ここでいう「動作状態」とは、処置部12が医療処置を行うことが可能な状態のことをいう。具体的には、処置部12がクリップ20を有する場合、クリップ20がシース420の外部に出されており、且つ、クリップ20が開いている状態のことである。一方、ここでいう「非動作状態」とは、処置部12が医療処置を行わない状態のこという。具体的には、処置部12がクリップ20を有する場合、クリップ20が閉じている状態のことである。さらに処置部12がシース420の内部に収容されている状態であってもよい。たとえば、医療用器具10を内視鏡(不図示)のチャネル(不図示)内に挿通させるとき、処置部12は、この「非動作状態」であることが好ましい。処置部12がクリップ20を有する場合について、詳細を後述する。
【0019】
シース420は、長尺で可撓性の管状部材である。シース420は、金属ワイヤを長尺に巻回したコイル層(不図示)からなる。コイル層の内周面には、フッ素系ポリマーからなる内層(不図示)が設けられていてもよい。
【0020】
シース420の内径は、少なくとも操作ワイヤ440を摺動可能な大きさである。シース420の内径は、処置部12が収容可能な大きさであってもよい。具体的には、シース420の内径は、たとえば、100μm以上2.4mm以下である。また、シース420の厚さは、たとえば、100μm以上350μm以下である。これにより、シース420の屈曲性をよくすることができる。
【0021】
操作ワイヤ440は、シース420の内部を進退可能に挿通されている。先に述べたように、操作ワイヤ440は、駆動部540を操作することにより、シース420の延伸方向に進退する。操作ワイヤ440は、たとえば、剛性の強い金属材料により形成されている。具体的には、操作ワイヤ440の金属材料は、たとえば、ステンレス鋼、耐腐食性被覆された鋼鉄線、チタンまたはチタン合金などである。このように操作ワイヤ440が剛性の強い材料で形成されていることにより、駆動部540を牽引して、操作ワイヤ440に引張り応力が印加されても、操作ワイヤ440が破断することがない。
【0022】
操作部50は、操作本体部520と、駆動部540と、指かけリング580とを備えている。操作本体部520は、シース420の近位側に設けられている。操作本体部520の近位側には、指かけリング580が設けられている。ユーザーは、指かけリング580に指をかけて固定するとともに、操作本体部520全体を軸周りに回転させる。これにより、操作ワイヤ440および処置部12を回転させることができる。
【0023】
駆動部540は、操作本体部520に設けられている。駆動部540は、操作ワイヤ440の基端部と連結している。駆動部540は、操作部50側で、処置部12の操作を行うために設けられている。ここでいう「操作」とは、操作ワイヤ440を進退移動させることにより、処置部12を非動作状態または動作状態のいずれかに遷移させることをいう。具体的には、駆動部540は、たとえば、ホイール式、レバー式、またはスライド式などである。ここでいう「ホイール式」とは、周囲に操作ワイヤ440を巻回した円盤状のホイールを回転させることにより、操作ワイヤ440を進退させる方法である。また、ここでいう「レバー式」とは、一端が操作ワイヤ440に接続したレバーを前後させることにより、操作ワイヤ440を進退させる方法である。また、ここでいう「スライド式」とは、操作ワイヤ440に接続したスライダなどを、操作ワイヤ440の挿通方向に進退させる方法である。以下では、駆動部540が管状のスライド式である場合を説明する。
【0024】
駆動部540は、たとえば、操作本体部520に外嵌されている。駆動部540は、操作本体部520の長手方向に対して、遠位側または近位側の方向に摺動する。操作本体部520の内部には、操作ワイヤ440が挿通している。駆動部540は、操作本体部520の内部で、操作ワイヤ440の基端部と連結している。ユーザーは、この駆動部540を前後にスライドさせることにより、操作ワイヤ440の先端部の進退移動させることができる。
【0025】
さらに、駆動部540は、たとえば、操作本体部520の長手方向の前後に鍔部を有していてもよい。これにより、ユーザーは、鍔部に指をかけて、駆動部540を容易に操作することができる。
【0026】
操作本体部520には、スリット状の開口560が設けられている。開口560は、操作本体部520の長手方向に平行に設けられている。また、開口560は、たとえば、操作本体部520のうち、一方の側面から他方の側面に向けて貫通して設けられている。先述の操作ワイヤ440と連結している係止部(542)は、この開口560の内部を当該開口560の長手方向に摺動する。これにより、駆動部540は、操作ワイヤ440を進退移動させることができる。
【0027】
次に、図2および図3を用い、仮規制部60について説明する。図2および図3は、第1の実施形態に係る仮規制部60を示す模式図である。
【0028】
図2(a)のように、操作本体部520には、仮規制部60が設けられている。仮規制部60は、駆動部540の操作を一時的に規制するために設けられている。ここでいう「規制」とは、処置部12が非動作状態にあるとき、処置部12を動作状態に遷移させる駆動部540の操作を抑制することをいう。具体的には、たとえば、駆動部540がスライド式である場合、仮規制部60は、駆動部540が遠位側に前進することを規制する。一方で、仮規制部60は、当該「規制」を解除することができる。ここでいう「解除」とは、駆動部540の操作が規制された状態から、駆動部540の操作を行うことが可能な状態にすることをいう。ユーザーは、医療用器具10を内視鏡(不図示)のチャネル(不図示)内に挿通させるとき、仮規制部60により駆動部540の操作を規制する。また、ユーザーは、処置部12が体腔内に到達したとき、仮規制部60の規制を解除する。これにより、ユーザーは、適切な場所で処置部12を動作状態にすることができる。
【0029】
また、仮規制部60は、駆動部540が遠位側に前進する力に対して、逆方向に反発する弾性力を生じさせることにより、駆動部540の操作を規制する。これにより、仮規制部60は、駆動部540が遠位側に前進する力を吸収して、駆動部540の操作を過剰に規制することない。また、処置部12が動作状態になろうとする力に応じて、駆動部540の操作を規制する力を強くすることができる。ここでいう「処置部12が動作状態になろうとする力」とは、たとえば、処置部12がクリップ20を有する場合、クリップ20の自己拡開力などのことをいう。処置部12は、当該自己拡開力により、動作状態になろうとする。したがって、仮規制部60が弾性力を生じさせることにより、処置部12の自己拡開力によって動作状態に遷移することを抑制することができる。
【0030】
駆動部540がホイール式またはレバー式である場合、仮規制部60は、たとえば、駆動部540に係止し、解除可能なバネ部である。また、本実施形態のように、駆動部540がスライド式である場合、仮規制部60は、たとえば、以下のような構成を備えている。
【0031】
図2(a)のように、仮規制部60は、たとえば、回転軸部610および阻止部620を備えている。操作本体部520のうち、回転軸部610よりも近位側には、少なくとも阻止部620が出入り可能な大きさの開口560が設けられている。本実施形態では、この阻止部620が出入りする開口560と、先に述べた駆動部540が摺動する開口560とは、一体として操作本体部520に設けられている。なお、阻止部620が出入りする開口560は、駆動部540が摺動する開口560とは、操作本体部520の別の側面に設けられていてもよい。
【0032】
仮規制部60の回転軸部610は、操作本体部520のうち、駆動部540よりも遠位側に連結されている。また、回転軸部610は、シース420の延伸方向と垂直の方向を回転軸としている。
【0033】
阻止部620は、たとえば、柱状である。また、阻止部620は、たとえば、当接部622、バネ部624および本体部626を備えている。阻止部620の本体部626の基端部には、回転軸部610が貫通している。これにより、阻止部620は、回転軸部610を回転軸として回転することができる。
【0034】
阻止部620の当接部622は、駆動部540に当接するように設けられている。当接部622は、たとえば、遠位側から近位側に向けて駆動部540に当接して、駆動部540の操作を規制する。
【0035】
阻止部620のバネ部624は、たとえば、本体部626の内部に設けられている。バネ部624は、本体部626の内部で、当接部622の基端と連結している。
【0036】
図2(b)のように、仮規制部60の阻止部620は、回転軸部610を回転軸として、開口560から操作本体部520の内部に挿入されることにより、仮規制部60は、駆動部540の操作を規制する。なお、このとき、仮規制部60のうち、回転軸部610から操作本体部520の外部に向けて突出するように、指かけ部612が設けられていてもよい。これにより、駆動部540の規制を解除するとき、仮規制部60を開口560から取り出しやすくすることができる。
【0037】
また、仮規制部60が駆動部540の操作を規制するとき、仮規制部60は、操作ワイヤ440の進退を干渉しないように設けられている。具体的には、図2(b)のように、仮規制部60は、側面視で操作本体部520の半分まで挿入される。仮規制部60は、操作ワイヤ440に接触していない。また、側面から見たとき、仮規制部60は、操作ワイヤ440が挿通する操作本体部520の中心軸と重ならないように設けられている。
【0038】
挿入された仮規制部60のうち、当接部622は、駆動部540の先端面に当接する。これにより、駆動部540が遠位側へ前進することを規制することができる。
【0039】
このとき、当接部622の当接面は、処置部12が動作状態から非動作状態に遷移するときの駆動部540の先端面の位置、または当該位置よりも近位側に配置されている。これにより、仮規制部60が駆動部540の操作を規制するとき、確実に処置部12を非動作状態に維持することができる。
【0040】
図3は、駆動部540の規制を解除する時を示している。なお、図3(a)は、平面図、図3(b)は側面図を示している。
【0041】
図3(b)のように、仮規制部60の阻止部620は、回転軸部610を回転軸として、開口560から操作本体部520の外部に取り出されることにより、仮規制部60は、駆動部540の規制を解除する。このとき、ユーザーは、指かけ部612に指をかけて、阻止部620を回転させる。
【0042】
図3(a)のように、阻止部620が取り出された開口560には、仮規制部60が駆動部540を規制していたとき、阻止部620が挿入されていた長さに相当する空間が開けられている。これにより、駆動部540は前進可能となり、再度、処置部12を動作状態とすることができる。
【0043】
次に、図4〜図7を用い、処置部12の具体的な動作について説明する。図4〜図6は、第1の実施形態に係る医療用器具の先端部を示す平断面図(a)、側断面図(b)である。また、図7は、第1の実施形態に係る操作ワイヤ440と駆動部540との動作を説明するための模式図である。
【0044】
ここで、先に述べたように、処置部12は、たとえば、クリップ20を有している。クリップ20は、生体組織を結紮するものである。この結紮により、止血処置、縫縮およびマーキングなどの処置をすることができる。また、縫縮としては、EMR(内視鏡的粘膜切除術)あるいはESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)後の粘膜欠損部の縫縮や、穿孔閉鎖などが挙げられる。また、マーキングとは、クリップ20を様々な目印として用いることをいう。
【0045】
まず、図4を用い、処置部12の構成について説明する。なお、図4は、処置部12が動作状態であるときを示している。具体的には、クリップ20が開いている状態である。
【0046】
図4(a)および(b)のように、処置部12は、クリップ20および連結部30を備えている。上述のように、クリップ20は、体腔内の生体組織を結紮する。また、クリップ20は、連結部30から分離され、体腔内で結紮した状態で、体腔内に留置される。留置されたクリップ20は、患部の回復とともに体外へ排泄される。
【0047】
クリップ20は、たとえば、耐食性のある金属により形成されている。具体的には、クリップ20は、ステンレス鋼、チタンまたはチタン合金などにより形成されている。
【0048】
連結部30は、操作ワイヤ440の先端部に設けられている。また、連結部30は、クリップ20と操作ワイヤ440の先端部とを相互に連結している。なお、連結部30は、クリップ20を解除することが可能である。これにより、クリップ20を分離させ、クリップ20を体腔内に留置することができる。
【0049】
また、クリップ20は、本体22および締付部24を備えている。本体22は、近位側から遠位側に向けて、自己拡開力により互いに開く一対の腕部260を有している。ここでいう「自己拡開力」とは、閉じようとする外力に対して反発し、自ら開こうとする力のことをいう。また、本体22の基端部210は、連結部30と連結している。
【0050】
図4(b)のように、クリップ20の本体22は、一対の腕部260を有している。一対の腕部260は、互いに上下に対称に設けられている。本体22は、たとえば、一対の腕部260が形成された一枚の板状部材を中央で折り曲げることにより形成されている。すなわち、一対の腕部260は、クリップ20の近位側で繋がっており、一体として形成されている。このクリップ20の近位側で繋がっている基端部210は、連結部30と連結している。
【0051】
このように形成された本体22は、締付受け部26よりも近位側に、板バネ状に構成された板バネ部220を有している。板バネ部220の遠位側は、互いに遠ざかるように弓なりに反っている。これにより、板バネ部220は、弾性力を生じさせる。この板バネ部220の弾性力により、クリップ20の本体22は、先端部262どうしを近づける方向に作用する外力に対して、上記した「自己拡開力」を生じさせる。以上のようにして、クリップ20の本体22は、締付部24によって締め付けられていない場合、常に自己拡開力により拡開しようとする。
【0052】
また、一対の腕部260の先端部262は、近位側から遠位側に向けて、鋭利になるように形成されている。一対の腕部260が閉じるとき、先端部262は互いに噛合して、生体組織を結紮する。
【0053】
締付部24は、本体22に外装して設けられている。本実施形態では、締付部24は、たとえば、筒状であり、その内部に本体22が挿通されている。締付部24のうち、遠位側の内面には、凸部280が設けられている。これにより、締付部24の凸部280は、後述するクリップ20の締付受け部26のうち、凹部244と嵌合することができる。
【0054】
また、締付部24は、クリップ20とともに体腔内に留置される。そのため、締付部24は、クリップ20と同様に耐食性のある金属により形成されていることが好ましい。
【0055】
また、締付部24は、操作ワイヤ440が近位側に後退するとき、シース420の先端部に係止される。本実施形態では、締付部24は、たとえば、シース420の先端部に係合された縮径チューブ360によって係止される。また、このとき、締付部24は、相対的に本体22の遠位側に移動される。これにより、締付部24は、一対の腕部260を締め付けて閉じることができることができる。
【0056】
また、シース420の先端部には、筒状の先端リング380が固定されている。先端リング380は、その内側で縮径チューブ360と係合し、縮径チューブ360を固定している。
【0057】
縮径チューブ360は、両端が開口した筒状形状に形成されている。縮径チューブ360の遠位側の開口は、開口内に締付部24が入り込むことができない寸法で形成されている。縮径チューブ360の外側には、先端リング380が係合している。
【0058】
クリップ20の本体22のうち、腕部260の外側には、締付受け部26が設けられている。本実施形態では、締付受け部26の外周形状は、たとえば、他方の腕部260に対して逆向きの凸曲面を形成している。
【0059】
締付受け部26は、第1区間230と、第2区間242と、凹部244とを、近位側から遠位側へこの順で有している。締付受け部26のうち、第1区間230は、近位側から遠位側へ向けて、互いの腕部260に対して離間している。本実施形態において、第1区間230の凸曲面は、たとえば、近位側から遠位側へ向けて拡径している。言い換えれば、円錐を中心軸と平行に分割した側面のうち、円錐の底面側を第1区間230の遠位側とした形状となっている。
【0060】
また、第1区間230の遠位側には、第2区間242が設けられている。締付受け部26のうち、第2区間242は、腕部260が閉じた状態で固定され、かつ、腕部260の自己拡開力によって締付部24が第1区間230に移動しないように形成されている。本実施形態において、腕部260が閉じており、かつ、締付部24が締付受け部26の第2区間242にあるとき、たとえば、締付受け部26のうち、第2区間242の外径は、締付部24の内径以上の大きさである。これにより、腕部260の自己拡開力によって、締付部24が第2区間242から第1区間230に移動しないようにすることができる。
【0061】
さらに、締付受け部26は、第1区間230と第2区間242との境界に、段差部232を有している。段差部232は、第1区間230側よりも第2区間242側の方が、互いの腕部260に対して離間して設けられている。これにより、締付部24に一定以上の前進する力が印加されなければ、締付部24は第2区間242に外嵌されないようにすることができる。また、この段差部232があることにより、ユーザーが駆動部540を操作する感触で、締付受け部26が第1区間230にあるのか第2区間242にあるのかを判別することができる。また、不測にクリップ20が不可逆に閉じた状態(本結紮状態)となることを抑制することができる。
【0062】
さらに、第2区間242の遠位側には、凹部244が設けられている。この締付受け部26の凹部244は、上記した締付部24の凸部280と嵌合する。これにより、腕部260を不可逆に締め付けることができる。
【0063】
図4(b)のように、締付部24が締付受け部26の第1区間230よりも近位側に位置しているとき、クリップ20の腕部260は、自己拡開力により開いた状態となる。すなわち、処置部12は、動作状態となる。
【0064】
ここで、駆動部540を近位側から遠位側に移動させたとき、連結部30も遠位側に移動する。このとき、連結部30の当接面がクリップ20の基端部210に当接し、クリップ20を遠位側に前進させる。これにより、クリップ20の腕部260は、自己拡開力により開いた状態となる。このようにして、駆動部540は、処置部12を動作状態に遷移させる操作を行うことができる。
【0065】
一方で、駆動部540を固定していない状態であっても、クリップ20の腕部260は、自己拡開力により開こうとする。このとき、クリップ20の自己拡開力によって、操作ワイヤ440には、遠位側に前進させる力が印加されている。このように、処置部12は不測に非動作状態から動作状態に遷移する場合がある。この場合、仮規制部60が駆動部540の操作を規制することにより、処置部12が不測に非動作状態から動作状態に遷移することを抑制することができる。
【0066】
図5は、処置部12が非動作状態であるときを示している。具体的には、クリップ20が解除可能に閉じている状態である。
【0067】
図5(a)のように、操作ワイヤ440が駆動部540によって近位側に後退することにより、締付部24は、締付受け部26の第1区間230に位置している。また、締付部24の遠位側は、第2区間242の近位側と接している。
【0068】
図5(b)のように、クリップ20の腕部260は閉じている状態である。この状態において、腕部260の先端部262は噛合して、生体組織を結紮することができる。ただし、締付部24は、第1区間230を締め付けている状態では、上述のように、完全に固定されていない。すなわち、駆動部540を固定する力、または駆動部540を近位側に牽引する力を解除すれば、クリップ20の自己拡開力により、再度、動作状態に戻ることができる。このように、可逆的に結紮されている状態を、以下では「仮結紮状態」と呼ぶ。実際に、ユーザーが医療処置を行っている際には、最適な結紮状態が確認できるまで、クリップ20の仮結紮状態と、動作状態とを繰り返す。
【0069】
ここで、仮規制部60が駆動部540の操作を規制しているとき、締付部24が本体22を締め付けることによって、処置部12は、たとえば、仮結紮状態として非動作状態となる。一方、当該規制が解除されているとき、締付部24の締付が解除され、処置部12は再度開いた状態、すなわち動作状態に遷移可能である。このようにして、クリップ20を有する処置部12の状態を適切に制御することができる。
【0070】
また、仮規制部60が駆動部540の操作を規制しているとき、クリップ20は、自己拡開力により開いていかないことが好ましい。すなわち、仮規制部60は、クリップ20の自己拡開力によって、駆動部540を前進させないように規制する。したがって、仮規制部60のバネ部624の弾性力は、クリップ20の自己拡開力よりも強いことが好ましい。これにより、仮規制部60は、確実に処置部12を非動作状態に維持することができる。
【0071】
図6は、処置部12が不可逆に非動作状態となったときを示している。仮結紮状態から最終的な結紮状態とするために、一対の腕部260をさらに締め付ける操作を行う。具体的には、駆動部540を近位側に牽引することにより、操作ワイヤ440を近位側にさらに後退させる。
【0072】
図6(a)のように、操作ワイヤ440が駆動部540によって近位側にさらに後退することにより、締付部24の凸部280は、締付受け部26の凹部244に嵌合している。
【0073】
図6(b)のように、クリップ20の腕部260は完全に閉じている状態である。上述のように、締付部24の凸部280は、締付受け部26の凹部244に嵌合しているため、締付部24は、この状態で固定され、解除されることがない。したがって、クリップ20は、生体組織を結紮した状態で維持される。このように、不可逆的に結紮されている状態を、以下では「本結紮状態」と呼ぶ。実際の医療行為を行っている際には、まず、クリップ20の仮結紮状態と動作状態とを繰り返して行い、結紮する位置などを最適化する。その最適化後、クリップ20を本結紮状態にする。
【0074】
図7および図8を用い、本実施形態の仮規制部60の機能について説明する。図7は、第1の実施形態に係る比較例の模式図である。また、図8は、第1の実施形態における仮規制部60の機能を説明するための模式図である。なお、図7または図8において、簡略化のため、連結部30等は省略している。また、図7における点線は、シース420の軸中心を示している。
【0075】
図7は、本実施形態の仮規制部60が設けられていない比較例を示している。図7(a)は、シース420および操作ワイヤ440がともに屈曲せずに、処置部12が非動作状態である場合を示している。たとえば、駆動部540を固定しているとき、処置部12は非動作状態を維持する。医療用器具10を体外から体腔内へ挿通しているときなど、内視鏡のチャネル等を傷つけることがないように、処置部12は、この非動作状態を維持していることが好ましい。
【0076】
図7(b)は、比較例において、医療用器具10を屈曲させた場合の一例を示している。この場合では、シース420は、細かく屈曲している。これに対して、操作ワイヤ440はシース420の軸中心から外れ、最短経路を通っている。このため、シース420と操作ワイヤ440との経路長の差が生じている。したがって、操作ワイヤ440の先端部は、シース420の先端部よりも突出してしまっている。また、このような経路長の問題だけでなく、クリップ20の有する自己拡開力によって、操作ワイヤ440が前進する可能性もある。
【0077】
処置部12がクリップ20を有する場合、上述のように、クリップ20の有する自己拡開力により、腕部260は開いた状態となる。このように、操作ワイヤ440がシース420に対して相対的に前進した場合、処置部12は、ユーザーが意図しないところで動作状態となってしまう可能性がある。この場合、動作状態となった処置部12は、内視鏡のチャネル等を傷つけてしまう可能性がある。
【0078】
次に、図8を用い、本実施形態の仮規制部60の機能について説明する。
【0079】
図8(a)は、本実施形態において、処置部12が無い状態で、仮規制部60が操作本体部520内に設けられている状態を示している。このとき、駆動部540には、仮規制部60の弾性力が印加されていない。
【0080】
図8(b)は、本実施形態において、処置部12がある状態で、仮規制部60が駆動部540の操作を規制している状態を示している。たとえば、仮規制部60は、クリップ20が解除可能な非動作状態(仮結紮状態)を維持するように、駆動部540の操作を規制する。このとき、仮規制部60の阻止部620は、遠位側に押し込まれている。これにより、仮規制部60は、駆動部540に対して弾性力を与えている。したがって、仮規制部60は、クリップ20が自己拡開力によって開いていかないように、駆動部540を近位側に牽引している。ユーザーは、この状態で、医療用器具10を内視鏡のチャネル内に挿通させる。
【0081】
ここで、本実施形態において、図7(b)のように操作ワイヤ440の先端部が、シース420に対して前進しようとした場合を考える。このとき、駆動部540は、操作ワイヤ440に引っ張られ、遠位側に前進しようとする。また、仮規制部60の阻止部620は、さらに遠位側に押し込まれる。これにより、バネ部624の変位量がさらに大きくなり、仮規制部60の弾性力が大きくなる。したがって、仮規制部60は、駆動部540を近位側に押し戻す。このようにして、クリップ20は開いた状態となることなく、非動作状態を維持することができる。
【0082】
図8(c)のように、駆動部540の規制を解除するとき、駆動部540は前進可能となり、再度、処置部12を動作状態とすることができる。
【0083】
以上のように、仮規制部60が駆動部540を規制した状態で、たとえば、医療用器具10を、内視鏡のチャネル内に導入していく。これにより、意図しないところでクリップ20を動作状態とすることなく、非動作状態を維持することができる。
【0084】
次に、第1の実施形態の効果について説明する。
【0085】
第1の実施形態によれば、処置部12は、操作ワイヤ440がシース420の遠位側に前進したとき動作状態となり、操作ワイヤ440がシース420の近位側に後退したとき非動作状態となる。駆動部540は、操作ワイヤ440の基端部と連結して、操作ワイヤ440の先端部を進退移動させることにより、処置部12を非動作状態または動作状態のいずれかに遷移させる操作を行う。また、操作本体部520には、仮規制部60が設けられている。当該仮規制部60は、駆動部540が操作ワイヤ440を前進移動させる操作を解除可能に規制して、非動作状態の処置部12が動作状態となることを抑制する。これにより、医療用器具10を体腔内に導入するとき、駆動部540の操作を規制して、処置部12が不測に非動作状態から動作状態に遷移することを未然に抑制することができる。
【0086】
したがって、第1の実施形態によれば、処置部12の状態を適切に制御することができる医療用器具10を提供することができる。
【0087】
(第2の実施形態)
図9は、第2の実施形態に係る医療用器具10の先端部を示す断面図である。第2の実施形態は、シース420の内部にガイド部460を備えている点を除いて、第1の実施形態と同様である。以下、詳細を説明する。
【0088】
図9(a)のように、シース420の内部には、ガイド部460が設けられている。ガイド部460は、断面視でシース420の軸中心と重なる位置に、操作ワイヤ440を挿通している。これにより、操作ワイヤ440をシース420の軸中心に案内することができる。
【0089】
ガイド部460は、たとえば、処置部12の近位側に設けられている。ここでは、ガイド部460は、処置部12の近位側に接して固定されている。または、ガイド部460は、操作ワイヤ440に固定されていてもよい。これにより、ガイド部460は、処置部12とともにシース420の内部を挿通する。
【0090】
図9(b)のように、操作ワイヤ440は、ガイド部460の中心に接続されている。また、ガイド部460のうち、少なくとも一方向の直径は、操作ワイヤ440よりも大きい。また、ガイド部460のうち、当該直径は、シース420の内径よりも小さい。これにより、ガイド部460をシース420内に摺動させるとともに、操作ワイヤ440をシース420の軸中心に案内することができる。
【0091】
次に、第2の実施形態の効果について説明する。
【0092】
図9(b)のように、操作ワイヤ440が、シース420に対して相対的に前進する場合、処置部12が不測に動作状態となる可能性がある。このような現象は、操作ワイヤ440がシース420の中心軸からずれて摺動することに起因している。
【0093】
第2の実施形態によれば、ガイド部460は、断面視でシース420の軸中心と重なる位置に、操作ワイヤ440を挿通している。これにより、操作ワイヤ440をシース420の軸中心に案内することができる。したがって、操作ワイヤ440が、シース420に対して相対的に前進することを抑制することができる。
【0094】
以上、第2の実施形態において、ガイド部460が処置部12に固定されている場合を説明したが、操作ワイヤ440に対して移動可能に設けられていてもよい。また、ガイド部460は一つだけ設けられている場合を説明したが、ガイド部460は複数であってもよい。
【0095】
(第3の実施形態)
図10は、第3の実施形態に係る医療用器具10の駆動部540を示す模式図である。第3の実施形態は、仮規制部60の構成が異なる点を除いて、第1の実施形態と同様である。以下、詳細を説明する。
【0096】
図10(a)は、駆動部540のうち、側断面図を示している。駆動部540は、上述のように、係止部542を備えている。係止部542は、操作本体部520の内部で、操作ワイヤ440の近位側に連結している。また、係止部542には、操作本体部520の内壁に向かって突出する凸部544が設けられている。
【0097】
一方、仮規制部60の当接部660は、操作本体部520の内壁から中心軸に向けて突出するように設けられている。仮規制部60のバネ部650は、たとえば、操作本体部520の側壁の内部において、当接部660に対して遠位側と近位側の両方に設けられている。当接部660は、操作本体部520の側壁の内部において、バネ部650と連結している。これにより、仮規制部60は、駆動部540がシース420の遠位側に前進する力に対して、逆方向に反発する弾性力を生じさせることができる。
【0098】
当接部660の当接面は、処置部12が動作状態から非動作状態に遷移するときの凸部544の頂点の位置よりも近位側に配置されている。これにより、仮規制部60が駆動部540の操作を規制するとき、確実に処置部12を非動作状態に維持することができる。
【0099】
図10(b)は、操作本体部520の断面のうち、駆動部540の近位側から遠位側を見た図である。図10(b)のように、当接部660は、断面視で係止部542の凸部544と重なる位置に設けられている。これにより、仮規制部60が駆動部540の操作を規制するとき、当接部660は、凸部544に当接することができる。
【0100】
また、当接部660のうち、操作本体部520の内壁からの高さは、係止部542の凸部544以外の上面と接する高さ未満である。これにより、通常、駆動部540が摺動する際に、当接部660が弊害とならないようにすることができる。
【0101】
また、凸部544のうち、係止部542の上面からの高さは、当接部660の頂部と接する高さ以上、操作本体部520の内壁と接する高さ未満である。これにより、通常、駆動部540が摺動する際に、凸部544が弊害とならないようにすることができる。
【0102】
また、第3の実施形態の仮規制部60の当接部660は、たとえば、ポリカーボネイトやポリフェニルスルホンなどにより形成されている。
【0103】
なお、ユーザーは、一定以上の力を駆動部540に印加することにより、駆動部540の凸部544は、仮規制部60の当接部660を乗り越えることが可能である。すなわち、仮規制部60の規制を解除することが可能である。このとき、駆動部540の係止部542は、操作本体部520の軸中心からずれて、当接部660を乗り越える。
【0104】
第3の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を創出することができる。さらに第3の実施形態によれば、仮規制部60が操作本体部520の外部に取り出されることがない。これにより、ユーザーが駆動部540の操作をする際に、仮規制部60が妨げになることがない。
【0105】
(第4の実施形態)
図11は、第4の実施形態に係る医療用器具10の駆動部540を示す模式図である。第4の実施形態は、仮規制部60の構成が異なる点を除いて、第1の実施形態と同様である。以下、詳細を説明する。
【0106】
図11のように、仮規制部60は、ストッパ部720および付勢部740を備えている。ストッパ部720は、操作本体部520に設けられている。ここでは、たとえば、ストッパ部720は、操作本体部520の外側に設けられている。また、ストッパ部720は、たとえば、駆動部540よりも遠位側に配置されている。ストッパ部720は、たとえば、操作本体部520の開口560を挟んで対向するように、操作本体部520の両側に一対で設けられている。または、ストッパ部720は、たとえば、ボールベアリングのように、管状であり、操作本体部520に外嵌されていてもよい。
【0107】
また、付勢部740は、ストッパ部720を操作本体部520の径方向に弾性的に付勢することにより、解除可能に係止している。ここでは、ストッパ部720には、たとえば、ネジ穴が設けられている。このネジ穴には、たとえば、付勢部740がねじ込まれている。付勢部740は、内部に設けられたバネ(符号不図示)と、先端から一部が突出したボール(符号不図示)とを備えている。具体的には、付勢部740は、たとえば、ボールプランジャである。また、操作本体部520のうち、付勢部740が当接する部分には、掘り込み部(符号不図示)が設けられていてもよい。これにより、掘り込み部および付勢部740によって、ストッパ部720を確実に係止することができる。
【0108】
ここで、駆動部540を規制するとき、付勢部740はネジ穴にねじ込まれ、弾性的にストッパ部720を固定する。一方、当該規制を解除するとき、ユーザーがストッパ部720を遠位側に前進させることにより、駆動部540の規制を解除することができる。または、ユーザーがストッパ部720の付勢部740をネジ穴から緩めることにより、駆動部540の規制を解除してもよい。これにより、ストッパ部720は、操作本体部520の延伸方向に移動可能となる。このように、ストッパ部720および付勢部740によって、駆動部540の操作を解除可能に規制することができる。
【0109】
なお、ネジ穴および付勢部740は、複数設けられていてもよい。ネジ穴および付勢部740は、操作本体部520を挟んで対称に配置されていることが好ましい。これにより、安定的にストッパ部720を係止することができる。また、付勢部740は、全ネジボルトであってもよい。
【0110】
また、仮規制部60は、バネ部780をさらに備えている。バネ部780は、駆動部540の操作を規制するときに、一端がストッパ部720の近位側に接するとともに他端が駆動部540に当接することにより、弾性力を生じさせる。当該バネ部780は、駆動部540が遠位側に前進する力に対して、逆方向に反発する弾性力を生じさせる。これにより、当該バネ部780は、当該弾性力によって駆動部540の操作を規制することができる。
【0111】
また、支柱部760は、ストッパ部720の近位側から駆動部540に向けて設けられている。支柱部760は、駆動部540の進退方向と平行に設けられている。また、支柱部760は、たとえば、駆動部540が処置部12を操作するために必要な距離と同じ長さを有している。また、駆動部540の遠位側の鍔部(符号不図示)には、支柱部760が挿入可能な径の貫通した開口546が設けられている。支柱部760は、鍔部に設けられた開口546に挿通している。
【0112】
バネ部780は、駆動部540よりも遠位側に配置され、支柱部760に外装されている。駆動部540の操作を規制するとき、バネ部780の一端は、ストッパ部720の近位側に接する。このとき、バネ部780の他端は、駆動部540の遠位側に当接する。これにより、駆動部540が遠位側に前進する力に対して、逆方向に反発する弾性力を生じさせることができる。また、バネ部780が支柱部760に外装されていることにより、バネ部780が安定して駆動部540に対して当接することができる。
【0113】
なお、支柱部760およびバネ部780は、複数設けられていてもよい。支柱部760およびバネ部780は、操作本体部520を挟んで対称に配置されていることが好ましい。これにより、駆動部540を傾かせることなく、安定的に駆動部540の操作を規制することができる。
【0114】
第4の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を創出することができる。さらに第4の実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。駆動部540は、操作本体部520の外周に対して、微小な空隙を介して外嵌されている。このため、シース420などの湾曲によっては、駆動部540は、操作本体部520に対して捻じれてしまう可能性がある。一方、第4の実施形態では、操作本体部520のうち、円周方向の任意の場所に、仮規制部60のストッパ部720を配置することができる。これにより、駆動部540が操作本体部520に対して捻じれている方向に応じて、当該駆動部540の操作を規制する方向を調整することができる。したがって、安定的に駆動部540の操作を規制することができる。さらに、第4の実施形態では、バネ部780が設けられていることにより、駆動部540を前進させる操作を弾性的に規制することができる。
【0115】
以上、第1から第4の実施形態において、仮規制部60がバネ部624(またはバネ部650、バネ部780)を有する場合を説明したが、仮規制部60はバネ部624を有していなくてもよい。処置部12が、たとえば注射針である場合、自己拡開力などを有していないため、処置部12が操作ワイヤ440を遠位側に前進させる力を生じさせることがない。したがって、処置部12が注射針である場合、仮規制部60を、処置部12が動作状態から非動作状態に遷移しないように配置しておけばよい。
【0116】
(第5の実施形態)
図12は、第5の実施形態に係る医療用器具10の駆動部540を示す模式図である。第5の実施形態は、第2バネ部784を備えている点を除いて、第4の実施形態と同様である。以下、詳細を説明する。
【0117】
図12のように、仮規制部60は、第4の実施形態と同様に、ストッパ部720および付勢部740を備えている。ストッパ部720および付勢部740によって、駆動部540の操作を解除可能に規制することができる。
【0118】
仮規制部60は、第4の実施形態のバネ部780に相当する第1バネ部782を備えている。第1バネ部782は、駆動部540が遠位側に前進する力に対して、逆方向に反発する弾性力を生じさせる。
【0119】
支柱部760は、ストッパ部720の近位側から駆動部540に向けて設けられている。支柱部760は、たとえば、駆動部540に設けられた開口546に挿通している。さらに、支柱部760は、遠位側の端部に近位側より拡径したバネ当接部762を備えている。ここでは、たとえば、支柱部760はボルトであり、またバネ当接部762はワッシャである。また、バネ当接部762は、たとえば、開口546よりも近位側に位置している。
【0120】
第5の実施形態では、仮規制部60は、さらに、第2バネ部784を備えている。第2バネ部784は、駆動部540の操作を規制するときに、一端が駆動部540に対して近位側から遠位側に向けて接するとともに他端がバネ当接部762に対して遠位側から近位側に向けて当接することにより、弾性力を生じさせる。ここでは、第2バネ部784の遠位側は、たとえば、駆動部540の鍔部のうち、開口546の外側に当接している。第2バネ部784は、駆動部540が遠位側に後退する力に対して、逆方向に反発する弾性力を生じさせる。これにより、第2バネ部784は、当該弾性力によって駆動部540の操作を規制することができる。
【0121】
その他、駆動部540には、指かけ部548が設けられていてもよい。これにより、当該駆動部540を容易に前後に操作することができる。また、ユーザーが指かけ部548を支柱部760の近位側に当接させて前進させることにより、ストッパ部720を前進させることができる。すなわち、駆動部540の規制を解除することができる。
【0122】
第5の実施形態によれば、第4の実施形態と同様の効果を創出することができる。さらに第5の実施形態によれば、第2バネ部784が設けられている。これにより、弾性的に駆動部540を後退させる操作を弾性的に規制することができる。
【0123】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0124】
10 医療用器具
12 処置部
20 クリップ
22 本体
24 締付部
26 締付受け部
30 連結部
50 操作部
60 仮規制部
210 基端部
220 板バネ部
230 第1区間
232 段差部
242 第2区間
244 凹部
260 腕部
262 先端部
280 凸部
360 縮径チューブ
380 先端リング
420 シース
440 操作ワイヤ
460 ガイド部
520 操作本体部
540 駆動部
542 係止部
544 凸部
546 貫通開口
548 指かけ部
560 開口
580 指かけリング
610 回転軸部
612 指かけ部
620 阻止部
622 当接部
624 バネ部
626 本体部
650 バネ部
660 当接部
720 ストッパ部
740 付勢部
760 支柱部
762 バネ当接部
780 バネ部
782 第1バネ部
784 第2バネ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺のシースと、
前記シースの内部を進退可能に挿通された操作ワイヤと、
前記操作ワイヤの先端部に設けられ、当該操作ワイヤが遠位側に前進したとき動作状態となり、当該操作ワイヤが近位側に後退したとき非動作状態となる処置部と、
前記シースの近位側に設けられた操作本体部と、
前記操作本体部に設けられ、前記操作ワイヤの基端部と連結して、前記操作ワイヤの先端部を進退移動させることにより、前記処置部を前記非動作状態または前記動作状態のいずれかに遷移させる操作を行うための駆動部と、
前記操作本体部に設けられ、前記駆動部が前記操作ワイヤを前進移動させる前記操作を解除可能に規制して前記非動作状態の前記処置部が前記動作状態となることを抑制する仮規制部と、
を備える医療用器具。
【請求項2】
請求項1に記載の医療用器具において、
前記駆動部は、前記操作本体部に対して、遠位側または近位側の方向に摺動する医療用器具。
【請求項3】
請求項2に記載の医療用器具において、
前記仮規制部は、前記駆動部が遠位側に前進する力に対して、逆方向に反発する弾性力を生じさせることにより、前記駆動部の前記操作を規制する医療用器具。
【請求項4】
請求項3に記載の医療用器具において、
前記仮規制部は、
前記駆動部の前記操作を規制するとき前記駆動部に当接する当接部と、
前記当接部と連結し、前記弾性力を生じさせるバネ部と、
を備える医療用器具。
【請求項5】
請求項4に記載の医療用器具において、
前記仮規制部は、
前記操作本体部のうち、前記駆動部よりも遠位側に連結され、前記シースの延伸方向と垂直の方向を回転軸とした回転軸部と、
前記当接部および前記バネ部を有し、前記回転軸部を軸中心として回転する阻止部と、
をさらに備え、
前記操作本体部は、前記回転軸部よりも近位側に、少なくとも前記阻止部が出入り可能な大きさの開口を有し、
前記阻止部は、
前記開口から前記操作本体部の内部に挿入されることにより、前記駆動部の前記操作を規制し、前記開口から前記操作本体部の外部に取り出されることにより、前記規制を解除する医療用器具。
【請求項6】
請求項4に記載の医療用器具において、
前記駆動部は、前記操作本体部の内部で前記操作ワイヤの近位側に連結する係止部を備え、
当該係止部は、前記操作本体部の内壁に向かって突出する凸部を備え、
前記仮規制部の前記当接部は、前記操作本体部の内壁から中心軸に向けて突出するように設けられ、断面視で前記凸部と重なる位置に設けられている医療用器具。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の医療用器具において、
前記仮規制部は、
前記操作本体部に設けられたストッパ部と、
前記ストッパ部に設けられ、当該ストッパ部を前記操作本体部の径方向に弾性的に付勢することにより、前記ストッパ部を前記操作本体部に対して解除可能に係止する付勢部と、
を備える医療用器具。
【請求項8】
請求項7に記載の医療用器具において、
前記仮規制部は、
前記駆動部の前記操作を規制するときに、一端が前記ストッパ部の近位側に接するとともに他端が前記駆動部に当接するバネ部と、
をさらに備え、
当該バネ部は、前記駆動部が遠位側に前進する力に対して、逆方向に反発する弾性力を生じさせることにより、前記駆動部の前記操作を規制する医療用器具。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の医療用器具において、
前記シースの内部に設けられ、少なくとも一方向の直径が前記操作ワイヤより大きく、且つ、前記シースの内径よりも小さく、断面視で前記シースの軸中心と重なる位置に前記操作ワイヤを挿通することにより、前記操作ワイヤを前記シースの軸中心に案内するガイド部をさらに備える医療用器具。
【請求項10】
請求項9に記載の医療用器具において、
前記ガイド部は、前記処置部の近位側に設けられ、当該処置部とともに前記シースの内部を挿通する医療用器具。
【請求項11】
請求項1〜10に記載の医療用器具において、
前記処置部は、
体腔内の生体組織を結紮するクリップと、
前記操作ワイヤの先端部に設けられ、前記クリップと前記操作ワイヤの先端部とを相互に連結し、且つ、前記クリップを解除可能である連結部と、
を備え、
前記クリップは、
近位側から遠位側に向けて、自己拡開力により互いに開く一対の腕部を有し、近位側で前記連結部と連結する本体と、
前記本体に外装して設けられ、前記操作ワイヤの先端部が後退するとき前記シースの先端部に係止され、相対的に前記本体の先端側に移動されることにより前記一対の腕部を締め付けて閉じる締付部と、
を備え、
前記駆動部の前記操作が規制されているとき前記締付部が前記本体を締め付けることによって、前記処置部は前記非動作状態となり、前記規制が解除されているとき前記締付部の前記締め付けが解除され、前記処置部は前記動作状態に遷移可能である医療用器具。
【請求項12】
請求項11に記載の医療用器具において、
前記仮規制部は、
前記駆動部の前記操作を規制するとき、前記駆動部が遠位側に前進する力に対して、逆方向に反発する弾性力を生じさせ、
前記弾性力は、前記クリップの前記自己拡開力よりも強い医療用器具。
【請求項13】
請求項11または12に記載の医療用器具において、
前記クリップの前記本体は、
前記腕部の外側に設けられ、前記締付部により締め付けられる締付け受け部をさらに備え、
当該締付受け部は、
近位側から遠位側へ向けて、互いの前記腕部に対して離間している第1区間と、
前記腕部が閉じた状態で固定され、かつ、前記腕部の前記自己拡開力によって前記締付部が前記第1区間に移動しないように形成された第2区間と、
を、近位側から遠位側へ向けてこの順で有する医療用器具。
【請求項14】
請求項13に記載の医療用器具において、
前記締付受け部は、前記第1区間と前記第2区間との境界に、前記第1区間側よりも前記第2区間側の方が、互いの前記腕部に対して離間するように設けられた段差部をさらに備える医療用器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−85859(P2013−85859A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231355(P2011−231355)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】