説明

医療用混合液

【課題】患部に容易に送達させることができ、患部に送達させることによりその患部に、イソシアネート基を含まないポリマーを定着させることのできる、ポリウレタン前駆体を含有する医療用混合液及び医療用混合液用ポリマー前駆体を提供すること。
【解決手段】ポリイソシアネート成分とポリエーテルポリオール成分とを必須成分とするイソシアネート基末端親水性ウレタンプレポリマーを主成分とするポリウレタン前駆体と体内注入用輸液とを含む医療用混合液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリマー前駆体を含有する医療用混合液に関する。この医療用混合液は目標とする患部に送達されて、その患部にその前駆体が反応してなるポリマーが定着される。また、本発明はその医療用混合液に用いるポリマー前駆体に関する。
【背景技術】
【0002】
人体に注入し、特定の部位に選択的に到達させることのできる物質としてケラチンの加水分解物が知られている。この物質を、薬物を担持させて投与するドラッグデリバリーシステムにおける担体として用いることにより薬物を腎臓等の特定の部位に選択的に送り込むことができることが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、この物質は目標の患部に到達させることはできてもその患部に定着されるものではない。また、物質により到達させる部位が定まるので、任意の目標部位すべてに適用できるものではない。
【0004】
一方、ドラッグデリバリーシステムにおける担体として用いられるポリマーとしては、ヒドロシキアルカノエート、ポリエーテルエステル(例えば、ポリエチレングリコールテレフタレート−ポリブチレンテレフタレート(PEGT/PBT))、ポリエチレングリコール、コラーゲンなどの天然ポリマー、ラクチド、グリコリド、ε−カプロラクトン、1,4−ジオキサン−2−オン、1,5−ジオキセパン−2−オン、トリメチレンカーボネート(1,3−ジオキサン−2−オン)及びその混合物からなる群から選択されるモノマーからなるポリマーまたはコポリマー、(メタ)アクリル(コ)ポリマー、ポリエステルウレタン、ポリエステルアミドなどが知られている(例えば、特許文献2参照)が、これらはいずれも目標の患部に注射などの物理的な到達手段により到達させることが不可能ではないにしても、その患部組織体に担体自身が強固に定着するものではない。
【0005】
他方、患部組織体に固着するポリウレタン前駆体からなる医療用接着剤が知られている。この医療用接着剤は、塗布やスプレイなどにより患部に送達され、患部の水分により硬化してポリマーとして定着し接着やコーティングの機能を発揮するものである。
【0006】
このような医療用接着剤としては、イソシアネート基末端親水性ウレタンプレポリマーを主成分とする外科用接着剤が開示されている(例えば、特許文献5参照)。この外科用接着剤はポリイソシアネート類と親水性ポリエーテルポリオール類からなるプレポリマーであり生体組織との結合性や生体の動きに追従可能な優れた柔軟性を有するといわれている。この外科用接着剤にあっては、ポリイソシアネート類として脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネートが用いられるとされているが、これらのポリイソシアネートが施療後も残留する可能性がないとはいえず、変異原性の活性が高いイソシアネート基を持つ物質が人体に影響を与えるおそれがある。
【0007】
このため、ポリイソシアネートとして変異原性活性の見られない含フッ素ポリイソシアネートの使用が開示されている(例えば、特許文献3,4参照)。しかし、含フッ素ポリイソシアネートは上記のフッ素を含まないイソシアネート類と比べて高価であり、フッ素を含まないイソシアネートを用いて、そのイソシアネートが施療後に残留するおそれのない療法やその療法に用いるものの開発が望まれている。
【0008】
さらに、ポリウレタン前駆体からなる医療用接着剤は水分との接触により硬化するので、患部に直接塗布、散布、滴下する以外にはその患部に有効に到達させることがむつかしい。例えば、未切開の人体の臓器などには制御された状態で到達させることがむつかしい。
【特許文献1】特開平6−293631号公報
【特許文献2】特表2007−521261号公報
【特許文献3】特開平1−227762号公報
【特許文献4】特開2005−312935号公報
【特許文献5】特開2004−261590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、患部に容易に送達させることができ、その患部にポリマーを定着させることのできる、組成物(医療用混合液)を提供しようとすることである。
【0010】
本発明の目的は、患部に送達させることによりその患部に、イソシアネート基を含まないポリマーを定着させることのできる、ポリウレタン前駆体を含有する医療用混合液を提供しようとすることである。
【0011】
さらに、本発明の目的は、患部に送達させることによりその患部にポリマーを定着させることのできる医療用混合液用に、好適に使用される医療用混合液用ポリマー前駆体を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ポリイソシアネート成分とポリエーテルポリオール成分とを必須成分とするイソシアネート基末端親水性ウレタンプレポリマーを主成分とするポリウレタン前駆体と体内注入用輸液とを含む医療用混合液を提供することにより、上記目的を達成したものである。
前記ポリイソシアネート成分はトリレンジイソシアネート成分であり得る。
前記体内注入用輸液は造影剤であり得る。
前記医療用混合液には、さらに、薬学的に有用な活性成分が添加され得る。
前記薬学的に有用な活性成分は、抗癌剤、抗生物質または臓器再生促進(増殖)因子から選択され得る。
また、本発明は、前記医療用混合液に用いられるポリウレタン前駆体からなる医療用ポリマー前駆体であって、該ポリウレタン前駆体が、ポリイソシアネート成分とポリエーテルポリオール成分とを必須成分とするイソシアネート基末端親水性ウレタンプレポリマーを主成分とすることを特徴とする医療用ポリマー前駆体を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、患部に容易に送達させることができ、その患部にポリマーを定着させることのできる、ポリマー前駆体を含有する医療用混合液が提供される。
【0014】
本発明によると、患部に送達させることによりその患部にポリウレタン前駆体由来でイソシアネート基を含まないポリマーを定着させることのできる、ポリウレタン前駆体を含有する医療用混合液が提供される。このポリマーはイソシアネート基を含まないことにより変異原性活性が見られないので、医療用混合液は患部にポリマーを定着させる目的で医療用に使用が可能である。これにより、フッ素を含まないイソシアネートを用いたポリウレタン前駆体により、そのイソシアネートが施療後に残留するおそれのないポリマーを患部に定着させることができる。
【0015】
また、本発明によると、接着剤の機能以外に、患部へ定着させて血管塞栓物質として機能させたり、薬学的に有用な活性成分を含ませて患部へ定着させて、薬剤徐放物質として機能させたり、臓器再生促進(増殖)因子を含ませて損傷部再生を促進させたりすることができる医療用混合液が提供される。
【0016】
さらに、本発明によると、このような医療用混合液に好適に使用される前記ポリウレタン前駆体からなる医療用ポリマー前駆体が提供される。
【0017】
またさらに、本発明の医療用混合液は薬学的に有用な活性成分が添加された状態で使用することにより、人体の目標とする特定部位への薬剤の搬送、固定、徐放の機能を有するドラッグデリバリーシステムを構築できる。
【0018】
また、本発明による医療用ポリマー前駆体を用いて、人体の目標とする特定部位への薬剤の搬送、固定、徐放の機能を有するドラッグデリバリーシステムを構築できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の医療用混合液は、イソシアネート基末端親水性ウレタンプレポリマーを主成分とするポリウレタン前駆体と、体内注入用輸液とを含む混合液からなる組成物である。この医療用混合液は点滴やカテーテルや、注射などの送液手段により人体の患部に送達されて、その患部でそのポリウレタン前駆体の反応により生成されたウレタンポリマーが、患部に定着する。
【0020】
このポリウレタン前駆体は、ポリイソシアネート成分とポリエーテルポリオール成分とを必須成分とするイソシアネート基末端親水性ウレタンプレポリマーを主成分(通常50〜100重量%、好ましくは70〜100重量%)とするものであり、医療用ポリマー前駆体として体内注入用輸液と混合されて用いられる。
【0021】
本発明に用いられるイソシアネート基末端親水性ウレタンプレポリマーとしては、ポリイソシアネートと親水性ポリエーテルポリオールとを含むプレポリマーが挙げられる。これは2種以上混合して用いてもよい。
【0022】
ポリイソシアネート成分を構成するポリイソシアネートとしては、ポリエーテルポリオールと反応してポリマーを形成するものであればとくに限定されないが、芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、脂環族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート及びこれらの誘導体が挙げられる。これらは2種以上混合して用いてもよい。
【0023】
芳香族ポリイソシアネートの好ましい例としては、2,4−又は2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、2,4’−又は4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,3−又は1,4−フェニレンジイソシアネート(PDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート、4,4’,4’’−トリフェニルメタントリイソシアネート、m−又はp−イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネートが挙げられる。なかでも、トリレンジイソシアネートが、硬化後のポリマーの組織への定着機能のうえで特に好ましい。
【0024】
脂肪族ポリイソシアネートの好ましい例としては、メチレンジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ドデカメチレンジイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6−ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2−イソシアナトエチル)フマレート、ビス(2−イソシアナトエチル)カーボネート、2−イソシアナトエチル−2,6−ジイソシアナトヘキサノエートが挙げられる。
【0025】
脂環族ポリイソシアネートの好ましい例としては、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(HMDI)が挙げられる。
【0026】
芳香脂肪族ポリイソシアネートの好ましい例としては、m−又はp−キシリレンジイソシアネート(XDI)、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)が挙げられる。
【0027】
本発明において用いるポリイソシアネートには、含フッソ系のポリイソシアネートが含まれていてもよい。含フッソ系のポリイソシアネートとしては、例えば、特開平1−227762号公報、特開2005−312935号公報に記載の含フッソ系のポリイソシアネートが挙げられる。
【0028】
本発明に用いられる親水性ポリエーテルポリオールの好ましい例としては、下記一般式(I)、
R〔(OR1 )n OH〕p (I)
(式中、Rは多価アルコール残基、(OR1 )n は炭素数3〜4のアルキレン基を有するオキシアルキレン基とオキシエチレン基とを有するポリオキシアルキレン鎖、但し、オキシエチレン基の割合はポリオキシアルキレン鎖全分子量の50〜90重量%を占める。nはオキシアルキレン鎖の重合度を示す数で水酸基当量が500〜4000となるに相当する数、pは2〜8の整数を表わす。)で示される化合物が挙げられる。
【0029】
上記一般式(I)中のRに対応する多価アルコールの好ましい例としては、脂肪族二価アルコール(例:エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール)、三価アルコール(例:グリセリン、トリオキシイソブタン、1,2,3−ブタントリオール、1,2,3−ペンタントリオール、2−メチル−1,2,3−プロパントリオール、2−メチル−2,3,4−ブタントリオール、2−エチル−1,2,3−ブタントリオール、2,3,4−ペンタントリオール、2,3,4−ヘキサントリオール、4−プロピル−3,4,5−ヘプタントリオール、2,4−ジメチル−2,3,4−ペンタントリオール、ペンタメチルグリセリン、ペンタグリセリン、1,2,4−ブタントリオール、1,2,4−ペンタントリオール、トリメチロールプロパン等)、四価アルコール(例:エリトリット、ペンタエリトリット、1,2,3,4−ペンタンテトロール、2,3,4,5−ヘキサンテトロール、1,2,3,5−ペンタンテトロール、1,3,4,5−ヘキサンテトロール等)、五価アルコール(例:アドニット、アラビット、キシリット等)、六価アルコール(例:ソルビット、マンニット、イジット等)等が挙げられる。
【0030】
また、上記多価アルコールとして更に好ましいのは二〜四価のアルコールであり、特にプロピレングリコール、グリセリン等が好ましい。
【0031】
上記一般式(I)で示されるポリエーテルポリオールは、かかる多価アルコールに、常法により炭素数3〜4のアルキレンオキシドとエチレンオキシドとを、所望の分子量となるように且つオキシエチレン基含量が所望の含量となるように付加せしめることによって製造することができる。炭素数3〜4のアルキレンオキシドと、エチレンオキシドとはランダム状又はブロック状に付加せしめることができるが、本発明においてはランダム状に付加せしめたポリエーテルポリオールを使用するのが好ましい。炭素数3〜4のアルキレンオキシドとしては、例えば、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドが挙げられるが、特にプロピレンオキシドを使用するのが好ましい。
【0032】
上記ポリオキシアルキレン鎖全分子量に対するオキシエチレン基の割合は50〜90重量%の範囲が好ましく、90重量%を超えるとイソシアネートを反応せしめて得られるイソシアネート基含有プレポリマーが常温で結晶化するため作業性が悪くなり、他方50重量%未満の場合には本発明の効果が発揮されなくなる。
【0033】
かかるオキシエチレン基の割合は、ランダム状のポリオキシアルキレン鎖が構成される場合には特に50〜90重量%とし、ブロック状のポリオキシアルキレン鎖が構成される場合には特に70〜90重量%とするのが好ましい。
【0034】
本発明においては、上記ポリエーテルポリオールは分子量が1000〜10000のものを使用するのが好ましく、3官能以上の多価アルコールをベースとして得られる3官能以上のポリエーテルとしては、分子量が2000〜10000のものを使用するのが好ましい。
【0035】
上記一般式(I)で示されるポリエーテルポリオールの好ましい例としては、下記一般式(I−1)、
Ra〔(OR1a )n OH〕2 (I−1)
(式中、Raは二価アルコール残基、(OR1a )n はオキシプロピレン基とオキシエチレン基とを有するポリオキシアルキレン鎖、但し、オキシエチレン基の割合は分子量に対して50〜90重量%を占める。nはオキシアルキレン基の重合度を示す数で、水酸基当量が500〜4000となるに相当する数である。)で示される2官能のポリエーテルが挙げられる。
【0036】
かかる2官能ポリエーテルとしては、体内注入用輸液との反応性と患部への定着性の点から、プロピレングリコールに常法によりエチレンオキシドとプロピレンオキシドとをランダム或はブロック状に付加せしめて得られる水酸基当量500〜4000でオキシエチレン基含量が50〜90重量%のポリエーテルが好ましい。
【0037】
また、上記一般式(I)で示されるポリエーテルポリオールの他の好ましい例としては、下記一般式(I−2)、
Rb〔(OR1b )n OH〕3 (I−2)
(式中、Rbは三価アルコール残基、(OR1b )n はオキシプロピレン基とオキシエチレン基とを有するポリオキシアルキレン鎖、但し、オキシエチレン基の割合は分子量に対して50〜90重量%を占める。nはオキシアルキレン基の重合度を示す数で水酸基当量が500〜4000となるに相当する数である。)で示される3官能のポリエーテルが挙げられる。
【0038】
かかる3官能ポリエーテルとしては、体内注入用輸液との反応性と患部への定着性の点から、グリセリンに常法によりエチレンオキシドとプロピレンオキシドとをランダム或はブロック状に付加せしめて得られる水酸基当量500〜4000でオキシエチレン基含量が50〜90重量%のポリエーテルが好ましい。
【0039】
本発明に使用するポリウレタン前駆体としては、硬化後の伸びと強度の点から、プロピレングリコール等の二価アルコールをベースとして得られる一般式(I−1)で示される如き2官能ポリエーテルと、例えば、グリセリン等の三価アルコールをベースとして得られる一般式(I−2)で示される如き3官能ポリエーテルとの混合物を、ポリイソシアネートと反応せしめて得られるイソシアネート基末端親水性ウレタンプレポリマーを使用するのが好ましい。
【0040】
この場合に2官能ポリエーテルと3官能ポリエーテルとの混合割合は、硬化後の伸びと強度の点から、9:1〜5:5(重量比)とすることが好ましく、8:2〜6:4(重量比)とすることがより好ましい。
【0041】
本発明に使用するポリウレタン前駆体は、これらのポリエーテルポリオールとポリイソシアネートとを、末端NCO基含量が1.5〜10重量%、好ましくは1.5〜5重量%、となる如くに、通常のポリエーテルとポリイソシアネートとの反応と同様にして、例えば80〜90℃で2〜3時間加熱し反応せしめて得ることができる。この場合、ポリエーテルポリオールとポリイソシアネートとの比率は、両者の反応性の点から、ポリエーテルポリオール由来の水酸基等の活性水素含有基1当量に対するポリイソシアネート由来のイソシアネート基当量が1.0〜1.2が好ましく、1.0〜1.1がより好ましい。
【0042】
本発明に使用するポリウレタン前駆体には、前記イソシアネート基末端親水性ウレタンプレポリマーの他に、必要に応じて希釈剤などを配合することもできる。
【0043】
上記ポリウレタン前駆体の含有量は、硬化性の点から、本発明の医療用混合液中、20〜80重量%が好ましく、30〜70重量%がより好ましい。
【0044】
本発明の医療用混合液における、ポリウレタン前駆体と体内注入用輸液との比率は、1:2〜2:1(容量比)であることが注入の操作性が良好で好ましい。
【0045】
本発明の医療用混合液は、親水性ウレタンプレポリマーを主成分とするポリウレタン前駆体が生理食塩水や造影剤のような体内注入用輸液に混合されてなる。親水性ウレタンプレポリマーを主成分とするポリウレタン前駆体が体内注入用輸液と混合されると、親水性ウレタンプレポリマーが体内注入用輸液中の水分により反応し液状態からゲル状化状態に移行する。このゲル状化物はある時間(例えば、1〜30分の間のある時間)が経過すると親水性ウレタンプレポリマーが反応により硬化して、硬化したウレタンポリマーとなる。
【0046】
この医療用混合液は、液状態あるいはゲル状化状態を維持している間に、カテーテルにより体内の目標の患部に液送して患部に放出させることにより注入することができる。あるいは、注射により、体内の目標の患部に注入することができる。さらには、塗布や滴下やスプレイ等により患部に付着させることができる。
【0047】
このようにして患部に放出、注入あるいは付着して移送された医療用混合液中のポリウレタン前駆体は、上記の反応により硬化し、硬化したウレタンポリマーが患部に定着することとなる。すなわち、この医療用混合液を用いることにより、体内の任意の目標の患部に、未切開の部位であっても、硬化したウレタンポリマーを容易な操作で確実に定着することができる。また、この反応時に医療用混合液が発泡し体積が増加するので、目標の患部にくまなく充填することができる。
【0048】
体内注入用輸液は、注射、カテーテルによる液送などの液送手段により体内に注入して患部に到達させることのできる液である。体内注入用輸液としては、造影剤、生理食塩水、血液、血液製剤溶解液、点滴用液、注射用蒸留水等が挙げられる。
【0049】
造影剤としては、血管造影、尿管造影、硬膜外腔造影、間接腔造影、造影X線CT,子宮卵管造影等に用いられるものであればとくに限定されず、目的に応じ適宜選択して用いることができるが、水溶性ヨード造影剤や油性ヨード造影剤が挙げられる。水溶性ヨード造影剤としては、非イオン性ダイマー型造影剤、非イオン性水溶性ヨード造影剤、低浸透圧水溶性ヨード造影剤などが挙げられる。
【0050】
上記体内注入用輸液の含有量は、硬化性の点から、本発明の医療用混合液中、20〜80重量%が好ましく、30〜70重量%がより好ましい。
【0051】
体内注入用輸液には、目的に応じて、栄養剤、抗癌剤、抗生物質、臓器再生促進(増殖)因子、抗炎症剤、免疫抑制剤、抗ウイルス剤、抗血栓剤、血管新生抑制剤、抗菌剤、抗真菌剤、抗酸化剤等の薬学的に有用な活性成分からなる添加物質が添加されてもよい。
【0052】
抗癌剤としては、例えば、塩酸ゲムシタビン、シクロホスファミド、イホスファミド、塩酸ナイトロジェンマスタード−N−オキシド、塩酸ニムスチン、ラニムスチン、メルファラン、ダカルバジン、塩酸プロカルバジン、シタラビン、フルオロウラシル、ドキシフルリジン、テガフール、ヒドロキシカルバミド、硫酸ビンクリスチン、硫酸ビンブラスチン、エトポシド、塩酸ダウノルビシン、塩酸ドキソルビシン、塩酸エピルビシン、塩酸ミトキサントロン、マイトマイシンC、デキストラン硫酸ナトリウム、酢酸オクトレオチド、シスプラチン、カルボプラチン、酢酸ゴセレリン、酢酸リュープロレリン、塩酸イリノテカンなどが挙げられる。
【0053】
抗生物質としては、例えば、ベンジルペニシリンカリウム、塩酸バカンピシリン、シクラシリン、アモキシシリン、アスポキシシリン、スルベニシリンナトリウム、チカルシリンナトリウム、ピペラシリンナトリウム、セファロチンナトリウム、セファゾリンナトリウム、セファレキシン、セフロキサジン、セファクロル、塩酸セフォチアム、セフメタゾールナトリウム、セフミノクスナトリウム、セフスロジンナトリウム、セフォタキシムナトリウム、セフォペラゾンナトリウム、セフチゾキシムナトリウム、セフタジジム、硫酸セフピロム、ラタモキセフナトリウム、フロモキセフナトリウム、アズトレオナム、カルモナムナトリウム、硫酸カナマイシン、硫酸アミカシン、硫酸ゲンタマイシン、硫酸ジベカシン、トブラマイシン、硫酸シソマイシン、硫酸イセパマイシン、硫酸アルベカシン、塩酸テトラサイクリン、塩酸オキシテトラサイクリン、塩酸ドキシサイクリン、塩酸ミノサイクリン、クロラムフェニコール、チアンフェニコール、塩酸バンコマイシン、塩酸リンコマイシン、クリンダマイシンなどが挙げられる。
【0054】
臓器再生促進(増殖)因子とは、細胞に細胞分裂を促進させ再生医療に役立つ臓器再生をする作用を持つ物質である。
臓器再生促進(増殖)因子としては、例えば、インターロイキン、リンホカイン、モノカイン、ケモカイン、インターフェロン、造血因子(コロニー刺激因子、顆粒球コロニー刺激因子、エリスロポイエチン)、細胞増殖因子(上皮成長(増殖)因子、線維芽細胞成長(増殖)因子、血小板由来成長(増殖)因子、肝細胞成長(増殖)因子、トランスフォーミング成長(増殖)因子)、細胞障害因子(腫瘍壊死因子、リンフォトキシン)、アディポカイン、神経栄養因子(神経成長因子)など数百種類が存在する。
【0055】
これらの薬学的に有用な活性成分の添加量は、目的に応じ適宜選択されるものであり、特に制限されるものではないが、本発明の医療用混合液中、0.05〜20重量%が好ましく、0.1〜10重量%がより好ましい。
【0056】
体内注入用輸液にこれらの添加物質が添加されていると、患部に定着したウレタンポリマー中にこれらの添加物質が混在することとなり、このウレタンポリマーから添加物質が徐放され、患部に対する添加物質の効果が持続する。すなわち、本発明の医療用混合液の使用により、人体の目標とする特定部位への薬剤の搬送、固定、徐放の機能を有するドラッグデリバリーシステムを構築できる。また硬化したウレタンポリマーは柔軟性に富むこともあって生体への適合性が良好である。また、薬学的に有用な活性成分に関して適度の徐放性を有する。
【0057】
例えば、消化器穿孔や血管の損傷部に臓器再生促進(増殖)因子を添加した医療用混合液を使用すると、その損傷部に臓器再生促進(増殖)因子を含んだウレタンポリマーを定着することができ、損傷部の再生に有効である。
【0058】
また、本発明により患部に定着させたウレタンポリマーは、骨、乳腺、その他各種臓器の再生の足場としての機能を発揮させることができる。
【0059】
さらに、このウレタンポリマーは短期的(数時間〜1ヶ月程度)には体液に不溶であり所定時間(数時間〜数週間)体内に滞留させることができる。加えて、例えば、ポリ乳酸などの生分解性ポリマーを組成物として加えるなどして生体吸収性を容易に付与することができる。
【0060】
この添加物質は体内注入用輸液に添加されてもよい。ポリウレタン前駆体に添加されてもよい。3者が同時に混合されてもよい。
【0061】
本発明においては、医療用混合液中のポリウレタン前駆体に含まれるイソシアネート基が、ポリウレタン前駆体と体内注入用輸液との混合により反応が進んで、消滅する。このように、患部に医療用混合液を移送された医療用混合液中のポリウレタン前駆体に含まれるイソシアネート基は経時により消滅するので、本発明の医療用混合液は、変異原性の活性が生体中で発揮される危険性が少ない。このことは、以下の実験例で明らかにされる。
【0062】
[実験例1]
ポリウレタン前駆体としてA1液:イソシアネート基末端親水性ウレタンプレポリマー (株式会社ADEKA製:C−50(グリセリンにプロピレンキシドとエチレンオキシドとをランダムに付加して得られた分子量7000、オキシエチレン基含有量80重量%の3官能ポリエーテル20重量部と、プロピレングリコールにプロピレンオキシドとエチレンオキシドとをランダムに付加せしめて得られた分子量5000、オキシエチレン基含有量70重量%の2官能ポリエーテル80重量部とを混合し、この混合物にトリレンジイソシアネート8.0重量部を加えて常法により90℃で3時間反応せしめて得られた、NCO含量1.8重量%のイソシアネート基末端親水性ウレタンプレポリマー))を用い、体内注入用輸液としてB1液:造影剤(バイエル薬品株式会社製:イオパミロン370(水溶性ヨード造影剤))を用いた。
医療用混合液としてA1液とB1液の配合を変えた4種類の試料を作成した。作成後試料が硬化するまでの時間と、経時による、試料中のイソシアネート基の残存の様子を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
[実験例2]
ポリウレタン前駆体としてA2液:イソシアネート基末端親水性ウレタンプレポリマー(グリセリンにプロピレンキシドとエチレンオキシドとをランダムに付加して得られた分子量7000、オキシエチレン基含有量80重量%の3官能ポリエーテル20重量部と、プロピレングリコールにプロピレンオキシドとエチレンオキシドとをランダムに付加せしめて得られた分子量5000、オキシエチレン基含有量70重量%の2官能ポリエーテル80重量部とを混合し、この混合物にヘキサメチレンジイソシアネートを7.7重量部加えて常法により90℃で4時間反応せしめて得た、NCO含量1.8重量%のイソシアネート基末端親水性ウレタンプレポリマー)を用い、体内注入用輸液としては上記B1液を用いた。
医療用混合液としてA2液とB1液の配合を変えた4種類の試料を作成した。作成後試料が硬化するまでの時間と、経時による、試料中のイソシアネート基の残存の様子を表2に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
[実験例3]
ポリウレタン前駆体としてA3液:イソシアネート基末端親水性ウレタンプレポリマー(グリセリンにプロピレンキシドとエチレンオキシドとをランダムに付加して得られた分子量7000、オキシエチレン基含有量80重量%の3官能ポリエーテル20重量部と、プロピレングリコールにプロピレンオキシドとエチレンオキシドとをランダムに付加せしめて得られた分子量5000、オキシエチレン基含有量70重量%の2官能ポリエーテル80重量部とを混合し、この混合物にイソホロンジイソシアネートを10.2重量部加えて常法により90℃で5時間反応せしめて得られた、NCO含量1.8重量%のイソシアネート基末端親水性ウレタンプレポリマー)を用い、体内注入用輸液としては上記B1液を用いた。
医療用混合液としてA3液とB1液の配合を変えた4種類の試料を作成した。作成後試料が硬化するまでの時間と、経時による、試料中のイソシアネート基の残存の様子を表3に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
[実験例4]
ポリウレタン前駆体として上記A1液を用い、体内注入用輸液としてB2液:生理食塩水(大塚製薬株式会社製:大塚生食注)を用いた。
医療用混合液としてA1液とB2液の配合を変えた4種類の試料を作成した。作成後試料が硬化するまでの時間と、経時による、試料中のイソシアネート基の残存の様子を表4に示す。
【0069】
【表4】

【0070】
ポリウレタン前駆体として上記A1液を用い、体内注入用輸液としてB3液:生理食塩水(大塚製薬株式会社製:大塚生食注)に抗癌剤(日本イーライリリー製:ジェムザール(塩酸ゲムシタビン))を4%濃度で溶解したものを用いた。
医療用混合液としてA1液とB3液の配合を変えた4種類の試料を作成した。作成後試
料が硬化するまでの時間と、経時による、試料中のイソシアネート基の残存の様子を表5に示す。
【0071】
【表5】

【0072】
表1〜5に示すように、A液とB液とを混合することにより数分乃至十数分以内にイソシアネート基が殆どあるいは完全に消滅することが分光光度計による赤外線吸収スペクトルの計測により確認された。ここでイソシアネート基の存在は赤外線吸収スペクトルの2250−2275cm-1のピークにより確認した。
【0073】
なお、A液とB液とを混合すると、混合後約30秒後までは液状であり、その後発泡が始まり、体積が増加した。
【実施例】
【0074】
ポリウレタン前駆体として上記イソシアネート基末端親水性ウレタンプレポリマー(株式会社ADEKA製:C−50)1mlを用い、体内注入用輸液として上記造影剤(バイエル薬品株式会社製:イオパミロン370)2mlを用いた。この両液を混合し医療用混合液を得た。
【0075】
ウサギの頸動脈からカテーテル(4Fr)を挿入して、左腸骨動脈にカテーテル先端を持って行ってそこからこの医療用混合液を注入して塞栓した。2−3分後に造影をして塞栓を確認した。血管造影フィルムを図1に図示する。注入後15分経過後に動脈を取り出して病理で観察した。この病理像を図3に図示する。また、同様にしてさらに飼育を続けたウサギにつき1週間後に血管を取り出して病理で観察した。この病理像を図4に図示する。1週間の間ウサギは元気に生きていた。尚、参考用として、正常な血管の血管壁の病理像を図2に図示する。
【0076】
血管造影所見は、2−3分後で血管は完全に塞栓されていた。1週間後も同じであった。また、病理では、直後血管壁は、比較的厚かったが、1週間後血管壁はかなり薄くなっていた。これは、ウレタンポリマーが膨張することで血管壁が伸展した状態で保たれるからであると思われる。なお、血管自体の炎症性変化は認められなかった。
【0077】
その他、本発明は、主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々なる改良、修正、変更を加えた態様で実施できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の医療用混合液を注入して塞栓した血管の血管造影フィルム像(×1.1倍)である。
【図2】正常な血管の血管壁の病理像(写真:×100倍)である。
【図3】本発明の医療用混合液を注入して塞栓した直後(1時間後)の血管の血管壁の病理像(写真:×100倍)である。
【図4】本発明の医療用混合液を注入して塞栓した1週間経過後の血管の血管壁の病理像(写真:×100倍)である。
【符号の説明】
【0079】
1.血管閉塞箇所
2.内膜
3.中膜
4.外膜
5.血管壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイソシアネート成分とポリエーテルポリオール成分とを必須成分とするイソシアネート基末端親水性ウレタンプレポリマーを主成分とするポリウレタン前駆体と体内注入用輸液とを含む医療用混合液。
【請求項2】
前記ポリイソシアネート成分がトリレンジイソシアネートである請求項1に記載の医療用混合液。
【請求項3】
前記体内注入用輸液が造影剤である請求項1または2に記載の医療用混合液。
【請求項4】
さらに、薬学的に有用な活性成分が添加された請求項1から3のいずれかに記載の医療用混合液。
【請求項5】
前記薬学的に有用な活性成分が、抗癌剤、抗生物質または臓器再生促進(増殖)因子から選択される請求項4に記載の医療用混合液。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の医療用混合液に用いられるポリウレタン前駆体からなる医療用ポリマー前駆体であって、該ポリウレタン前駆体が、ポリイソシアネート成分とポリエーテルポリオール成分とを必須成分とするイソシアネート基末端親水性ウレタンプレポリマーを主成分とすることを特徴とする医療用ポリマー前駆体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−196897(P2009−196897A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−36906(P2008−36906)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(508051861)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】