説明

医療用補綴材

【課題】補強、空気漏れ防止、止血等の優れた機能を有し、かつ、挿入の際に折り畳まれ又は圧縮されたのを、手術する部位において容易に広げて元の形状にすることができる手術作業性に優れた生体内分解吸収性の医療用補綴材を提供する。
【解決手段】生体内分解吸収性素材からなる不織布積層体、及び、補強材を有し、上記補強材が、上記不織布積層体の周縁部及び/又は上記不織布積層体の面方向において、対称的な形状に配置された医療用補綴材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肺、気管、気管支吻合等の胸部外科手術、消化器外科手術における組織の補強、空気漏れ防止、及び、止血を目的とする医療用補綴材に関する。
【背景技術】
【0002】
気管、気管支外科等の呼吸器系の手術や、消化器等の実質臓器の手術において、縫合した吻合部に強い力が加わったり、組織が軟弱であったり、張力をかけて縫合したりすることによって、組織が破裂したり、出血したりするのを防ぐための医療用補綴材が用いられる。
【0003】
例えば、特許文献1には、医療用補綴材が開示されている。特許文献1の医療用補綴材は、生体分解吸収性素材からなることから、医療用補綴材としての役割を果たした後には、治癒後に体内に異物として残存せず、また、これによって、肉芽、瘢痕、瘻孔を発生させないものである。
【0004】
ところで、近年、内視鏡による手術が頻繁に行われるようになっている。内視鏡による手術は、手術創が従来の開腹・開胸手術等に比べ小さく、術後の臥床期間を短縮することができる。このため、内視鏡による手術は、患者への侵襲性が低いという点で、近年多くの手術で普及している。
【0005】
内視鏡による手術において、上記医療用補綴材を使用する場合、細い鏡筒を通して体内に挿入するため、該補綴材を一旦折り畳むか又は圧縮して小さくする必要がある。そして、手術する部位において使用する際に、折り畳まれた又は圧縮された補綴材を広げて、元の形状に戻す必要がある。
【0006】
しかしながら、従来の医療用補綴材では、手術する部位において使用する場合に、折り畳まれた又は圧縮させた補綴材を、充分に広げて元の形状にすることは容易ではなく、手術作業性が不充分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−76586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、補強、空気漏れ防止、止血等の優れた機能を有し、かつ、挿入の際に折り畳まれ又は圧縮されたのを、手術する部位において容易に広げて元の形状にすることができる手術作業性に優れた生体内分解吸収性の医療用補綴材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、生体内分解吸収性素材からなる不織布積層体、及び、補強材を有し、上記補強材が、上記不織布積層体の面方向において、対称的な形状に配置されたことを特徴とする医療用補綴材に関する。
以下に本発明について、詳細に説明する。
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、不織布積層体に、補強材を特定の形状に配置することにより、不織布積層体に弾性を与え、挿入の際に折り畳まれた又は圧縮させた不織布積層体を、手術部位において容易に広げて元の形状にすることができることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明の医療用補綴材は、不織布積層体に、その周縁部あるいは上記不織布積層体の面方向において、対称的な形状となる位置に補強材を備えることにより、コシのある不織布積層体とし、手術作業性を向上させることができたものである。
【0011】
本発明の医療用補綴材は、生体内分解吸収性素材からなる不織布積層体、及び、補強材を有し、上記補強材が、上記不織布積層体の周縁部及び/又は上記不織布積層体の面方向において、対称的な形状に配置されたものである。
上記対称的な形状とは、上記不織布積層体の周縁部及び/又は上記不織布積層体の面方向において、上記繊維状、テープ状又はリボン状の補強材が、不織布積層体の面の中心に対して対称に配置された形状をいい、例えば、図1に示す補強材の配置形状を挙げることができる。
なかでも、上記対称的な形状としては、不織布積層体に弾力を与え、手術作業性を向上させることができる点で、図1の(c)、(d)、(e)及び(f)に示すような、繊維状、テープ状又はリボン状の補強材が、不織布積層体の面の中心を通り、放射状に配置された形状であることがより好ましい。
【0012】
上記生体内分解吸収性素材からなる不織布積層体としては、医療用分野において使用され得る公知のものであれば、特に限定されないが、生体内分解吸収性素材にて編成された編地を、その編方向、すなわち、編地のウエール方向とコース方向を逆になるように積層し、ニードルパンチして不織布化したものが好ましい。
このような構成を有することにより、方向に関係なく、全体的に厚さ、密度、強度、伸びが均一化される。
【0013】
なお、上述の編地のウエール方向とは、編成された編地において、形成された編目(ループ)のタテの筋の編方向をいい、コース方向とは、ヨコの筋の編方向をいう。
上述の好ましい不織布積層体としては、編成された編地を重ね合わせて一体化するに際し、かかるコース乃至はウエールの方向が一致するように重ね合わせるのではなく、方向が逆になるよう、例えば、直交して重ね合わせ、一体化したものが挙げられる。
【0014】
上記生体内分解吸収性素材としては、長繊維化及び短繊維化されたグリコール酸、乳酸、パラジオキサノン、カプロラクトン等のホモポリマー又はこれらの共重合体からなる合成高分子、あるいは、コラーゲン、キチン等の天然材料を例示できるが、これらはそれぞれ生体内での分解挙動が異なるため、目的、用途に適したものを適宜選択するとよい。
なかでも、不織布作成後の処理条件により、強度や加水分解速度のコントロールが可能である等の点から、ポリグリコール酸、グリコール酸と乳酸の共重合体が好適である。
【0015】
上記素材の編成は、各種編機を用い、平編、ゴム編、タテ編等の任意の組織に編成すればよい。なかでも、編成作業、編密度調整の容易性、コスト等の面から筒状に編成される平編地が好適である。上記筒状に編成された編地は、扁平にすればそのまま二重生地となり、積層作業が容易となる。
【0016】
上記ニードルパンチによる不織布化は、編方向が異なるよう、すなわち、編地のウエール方向とコース方向が1ピース毎に交互になるよう積層するか、或いは、複数枚積層された状態で互い違いになるよう積層してパンチングして行うとよい。上記不織布化は、上述のように予めパンチングされた単数又は複数の編地を、上述のように更に積層して再度パンチングして行ってもよい。
ニードルパンチ方式は、従来より公知の不織布製造のための手段であり、これによって積層生地は一体化され、密度、厚さ、強度、伸びの均一化がはかられる。尚、かかる積層枚数は、使用される素材、糸の太さ、編密度によって異なるが適用用途に応じて任意に選択するものである。
通常、本発明の目的とする用途においては、上記不織布積層体は、密度10〜300g/mm、厚さ0.05〜0.60mm、引張り強力0.2〜12N、及び、引張り破断伸度20〜50%の範囲にあることが望ましい。かかる構成とするために、例えば、30〜35デニールの12フィラメント糸を、その目付が35〜50g/mとなるよう平編組織に筒状に編成し、これを編方向が異なるように2〜4枚重ね、特に、適用時、適用箇所への刺激を避けるためソフト性を重視してニードルパンチして構成する。
【0017】
上記不織布化に際しては、予め最終の使用サイズを想定した編地を使用してもよいし、又は、一体化された不織布を適当なサイズに切断したものを用いてもよい。必要な場合、上記編地や不織布に、針を通すための貫通孔を設け、補綴材の一例を構成させてもよい。
【0018】
また、上記不織布積層体は、縫合の際の縫合針、縫合糸の通過性を良くするために、各種の処理剤により処理されたものであってもよい。
上記処理剤としては、例えば、ワックス、シリコン、ミツロウ、ポリオキシエチレンブロックとポリオキシプロピレンブロックとを包含する潤滑性共重合体、又は、脂肪酸がステリン酸、パルミチン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸であり、エステルがモノエステル、ジエステル、ポリエステルである、ショ糖脂肪酸エステル等を挙げることができる。これらは、単独で、又は、混合して使用してもよい。
上記処理としては、浸漬、コーティング等の任意の方法により、上記不織布積層体等に上記処理剤を付着させるとよい。
上記処理は、糸の段階、編地の段階、不織布の段階等任意の段階で行えばよい。
【0019】
上記補強材は、上記不織布積層体より高い弾性を有するものであることが好ましい。
上記不織布積層体に、上記不織布積層体に比べて少なくとも弾性を有する補強材を備えることにより、本発明の医療用補綴材に全体として弾力を与えることができる。
そして、更に、上述した特定の形状に補強材を配置することにより、挿入の際に折り畳まれた又は圧縮させた不織布積層体を、手術部位において容易に広げて元の形状にすることができるのである。
【0020】
上記補強材は、生体内分解吸収性素材からなることが好ましい。上記生体内分解吸収性素材としては、上述した不織布積層体に使用できるものと同様のものを挙げることができる。
上記補強材は、上記不織布積層体より高い弾性を有するものであれば繊維状であってもよいし、テープ状又はリボン状であってもよい。
上記補強材が繊維状の場合、高い弾性を有するものであればよく、編糸構造、組糸構造、撚り糸構造など、一般的な繊維の構造であればよい。
特にモノフィラメントである場合には高い弾性が得られやすく、不織布積層体との複合化も容易であることから好ましい。このようなモノフィラメントとしては、直径が0.01mm以上0.6mm以下であることが好ましい。0.01mm未満であると目的とする弾性が得られにくく、一方で0.6mmを超えると不織布積層体との複合化が困難になるおそれがある。
【0021】
上記補強材は、テープ状又はリボン状であることがより好ましい。上記補強材がテープ状又はリボン状の場合、その編成は、高い弾性を有するものであれば、特に限定されるものではないが、織物、編物、不織布などが例示できる。具体的には、高密度に作製した織物、編物、不織布である。
【0022】
上記補強材がテープ状又はリボン状である場合、幅は3mm〜300mmの範囲、厚みは0.05mm〜0.6mmの範囲であることが好ましい。
上記補強材の幅が300mmを超えると、補綴材全体が厚くなってしまい、取り扱い性が低下するおそれがある。一方、幅が3mm未満であると、弾性がなくなってしまうおそれがある。
上記補強材の厚みが0.6mmを超えると、上述のように補綴材全体が厚くなり、取り扱い性が低下するおそれがある。また、厚みが0.05mm未満であると、弾性がなくなってしまうおそれがある。
上記補強材は、密度が10g/m〜300g/mであり、引張り強さが0.2N〜12Nであることが好ましい。
【0023】
上記補強材は、上記不織布積層体の周縁部及び/又は不織布積層体の面方向に、上述した対称的な形状となるよう配置される。
上記補強材は、上記不織布積層体の表面に配置されてもよいし、上記不織布積層体の不織布の間に配置されていてもよい。
上記繊維状の補強材を上記不織布積層体に配置する方法として、上記不織布積層体に縫い込む方法や接着剤を用いて貼り付ける方法が例示できる。また、テープ状又はリボン状の補強材の場合には、テープ又はリボン状、撚り糸の補強材を上記不織布積層体の間に配し、全体をニードルパンチすることによって一体化させる方法や接着剤で接着させる方法などが挙げられる。
【0024】
以上により構成された本発明の医療用補綴材は、外科手術における体組織の断裂を防止するため縫合補強用の当布として、体組織補強用補綴材として、又は、体組織の間に介在させて使用する、例えば、癒着防止膜のような当て布として、好適に用いることができるものである。また、本発明の医療用補綴材は、手術作業性に優れ、特に、内視鏡による手術においても、好適に使用することができるものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明の医療用補綴材は、上述の構成からなるものであるため、補強、空気漏れ防止、止血等の優れた機能を有し、かつ、手術部位において、折り畳んだ又は圧縮させた不織布積層体を、容易に広げて元の形状にすることができるといった手術作業性に優れたものである。このため、本発明の医療用補綴材は、内視鏡による、胸部外科手術や消化器外科手術等においても、組織の補強、空気漏れ防止及び止血を好適に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】不織布積層体に補強材を配置した本発明の医療用補綴材の一例の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」及び「部」は、それぞれ「質量%」及び「質量部」を意味するものとする。
【0028】
(実施例)
1.不織布
フェノール10に対し、トリクロロフェノール7の質量割合で混合した溶媒中にて溶解し、これを190℃で3分間加熱した後、30℃まで冷却して測定した時の粘度(ηsp/c)が1.5であるポリグリコール酸チップを、245℃で溶融紡糸し、1.8倍に延伸して12フィラメント、33デニールのポリグリコール酸糸を得た。これを18ゲージの丸編機を用い、45g/mの目付で編成して筒状の丸編地を得た。かかる丸編地に対し、ウエール方向に軽くニードルパンチを施した後、22×22cmの正方形、あるいは直径20cmの円形にカットした。このような構成の不織布を複数枚準備した。
【0029】
2.補強材
フェノール10に対し、トリクロロフェノール7の質量割合で混合した溶媒中にて溶解し、これを190℃で3分間加熱した後、30℃まで冷却して測定した時の粘度(ηsp/c)が1.5であるポリグリコール酸チップを245℃で溶融紡糸し、1.8倍に延伸して12フィラメント、33デニールのポリグリコール酸糸を得た。これを18ゲージの丸編機を用い、45g/mの目付で編成して筒状の丸編地を得た。かかる丸編地に対し、ウエール方向に軽くニードルパンチを施した後、22×22cmの大きさにカットした。このような構成の不織布を複数枚準備し、各1枚ずつ積み重ね、ニードルパンチして4PLYの一体化した不織布を得た。得られた不織布に対し、更に100℃、180kg/cmの条件下で10分間熱プレスし、幅5mmのテープ状に裁断し、補強材とした。
【0030】
3.補綴材の作製
上述の方法で作製した2枚の不織布の間に、上述の補強材を図1(a)〜(f)に示すように配置して積み重ねた後に、ニードルパンチして、補強材を間に有する2PLYの一体化した不織布を作製した。得られた補強材を間に有する不織布に対し、更に100℃、180kg/cmの条件下で10分間熱プレスし、本発明の補綴材(a、b、c、d、e、fの6種類)とした。
【0031】
(比較例)
実施例で用いたのと同じ不織布を2枚重ね、ニードルパンチして2PLYの一体化した不織布を作製した。得られた不織布に対し、更に100℃、180kg/cmの条件下で10分間熱プレスし、比較例とした。
(評価)
実施例及び比較例で作製した補綴材を四つ折りにした後に、1つの片を軸にして丸めた。丸めた補綴材を、内視鏡手術で使用される筒を想定した内径5mm、長さ300mmのステンレス製の筒の中を通し、反対側で広がるかどうかを目視で評価した。元の形状に広がった場合を◎とし、完全ではないがほぼ元の形状に広がった場合を○とし、四つ折りの状態のままであった場合を×とし、結果を表1に記載した。
【0032】
【表1】

【0033】
表1より、補強材を有しない補綴材では、小さく折りたたんでしまうと元の形状に広がらないが、補強材を有する補綴材(図1(a)〜(f))は、いずれもほぼ元の形状に広がり、平面状の補綴材として用いることが可能であることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の医療用補綴材は、内視鏡による、胸部外科手術や消化器外科手術等においても、組織の補強、空気漏れ防止及び止血に好適に適用することができる。
【符号の説明】
【0035】
1 不織布積層体
2 補強材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内分解吸収性素材からなる不織布積層体、及び、補強材を有し、
前記補強材が、前記不織布積層体の周縁部及び/又は前記不織布積層体の面方向において、対称的な形状に配置された
ことを特徴とする医療用補綴材。
【請求項2】
補強材が、不織布積層体の面の中心を通り、放射状に配置された請求項1記載の医療用補綴材。
【請求項3】
補強材は、繊維状、テープ状又はリボン状である請求項1又は2記載の医療用補綴材。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−100912(P2012−100912A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252591(P2010−252591)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000001339)グンゼ株式会社 (919)
【Fターム(参考)】