説明

医療用開閉式鉗子

【課題】開閉片を操作するためのワイヤを開閉片側に向かって押すことなく開閉片を開閉操作可能な医療用開閉式鉗子を提供する。
【解決手段】一対の開閉片32、37と、第1牽引ワイヤと第2牽引ワイヤの一方を基端側に牽引すると同時に他方が先端側に引かれるのを許容する操作手段13、15と、第1牽引ワイヤ及び第2牽引ワイヤの先端部と一対の開閉片とを接続する、第1牽引ワイヤが基端側に牽引されたときに、第2牽引ワイヤを先端側に牽引すると共に両開閉片を閉方向に移動させ、かつ、第2牽引ワイヤが基端側に牽引されたときに、第1牽引ワイヤを先端側に牽引すると共に両開閉片を開方向に移動させる動力伝達機構18、29、36、41、W3と、備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先端に一対の開閉片を備える医療用開閉式鉗子に関する。
【背景技術】
【0002】
患部等を把持したり切断することが可能な医療用開閉式鉗子の従来例としては、例えば、特許文献1や特許文献2に記載されたものがある。
これらの開閉式鉗子は、先端に設けた一対の開閉片と、一対の開閉片に対して先端が直接又は間接的に連係した操作ワイヤと、操作ワイヤの基端が接続するスライド式の操作手段と、を具備している。
操作手段を基端側(後方)にスライドさせると操作ワイヤが後方に引かれることにより一対の開閉片が閉じ、操作手段を先端側(前方)にスライドさせると操作ワイヤが前方に押されることにより一対の開閉片が開く。そして、一対の開閉片を閉じることにより、患部を把持したり切断できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−194068号公報
【特許文献2】特開平05−031120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記公報の開閉式鉗子はいずれも、操作手段を先端側にスライドさせて操作ワイヤを前方に押すことにより一対の開閉片を開いている。
しかし、操作ワイヤは押されたときに座屈をおこし易いので、操作手段に加えた力が開閉片に確実に伝わらなかったり(遊びが生じたり)、開閉片の開くときの移動量が閉じるときの移動量より小さくなるおそれがある。特に全体が可撓性を有する開閉式鉗子を湾曲させた場合は操作ワイヤが湾曲するため、このような問題が生じる可能性が高い。
【0005】
本発明は、開閉片を操作するためのワイヤを開閉片側に向かって押すことなく開閉片を開閉操作可能な医療用開閉式鉗子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の医療用開閉式鉗子は、先端に設けた一対の開閉片と、第1牽引ワイヤ及び第2牽引ワイヤと、上記第1牽引ワイヤと第2牽引ワイヤの一方を基端側に牽引すると同時に他方が先端側に引かれるのを許容する操作手段と、上記第1牽引ワイヤ及び第2牽引ワイヤの先端部と上記一対の開閉片とを接続する、第1牽引ワイヤが基端側に牽引されたときに、第2牽引ワイヤを先端側に牽引すると共に両開閉片を閉方向に移動させ、かつ、第2牽引ワイヤが基端側に牽引されたときに、第1牽引ワイヤを先端側に牽引すると共に両開閉片を開方向に移動させる動力伝達機構と、備えることを特徴としている。
【0007】
上記動力伝達機構が、上記一対の開閉片にそれぞれ形成した第1ワイヤガイドと、上記第1牽引ワイヤの先端を固定した、上記開閉片と操作手段の間に位置し、開閉片に近づく方向と操作手段に近づく方向とに移動可能な第1移動部材と、上記第2牽引ワイヤの先端を固定した、上記開閉片と操作手段の間に位置し、開閉片に近づく方向と操作手段に近づく方向とに移動可能で第2ワイヤガイドを有する第2移動部材と、両端を上記第1移動部材に固定し、中央部を第2移動部材の上記第2ワイヤガイドに掛け回し、かつ、該中央部と両端部の間を一対の開閉片の上記第1ワイヤガイドにそれぞれ掛け回した開閉用ワイヤと、を備えていてもよい。
この場合、上記一対の開閉片の対向部に、互いに噛合する同一モジュールかつ同一歯数のギヤを形成するのが好ましい。
【0008】
また、上記動力伝達機構が、上記第1牽引ワイヤの先端部に対して同軸状態で回転する、一方の開閉片に回転可能に接続する第1リンク部材、及び、他方の開閉片に回転可能に接続する第2リンク部材と、上記第2牽引ワイヤの先端部に対して同軸状態で回転する、上記一方の開閉片に回転可能に接続する第3リンク部材、及び、上記他方の開閉片に回転可能に接続する第4リンク部材と、を備えていてもよい。
【0009】
また、上記第1牽引ワイヤと第2牽引ワイヤを結合した上で、上記上記動力伝達機構が、上記第1牽引ワイヤと第2牽引ワイヤの結合体が掛け回された回転可能なプーリと、該プーリと一緒に回転する第1回転ギヤと、一方の上記開閉片に固定した、該第1回転ギヤと噛合する第2回転ギヤと、他方の上記開閉片に固定した、該第2回転ギヤと噛合する第3回転ギヤと、を備えていてもよい。
この場合は、上記第2回転ギヤと第3回転ギヤが同一モジュールかつ同一歯数であるのが好ましい。
【0010】
また、上記第1牽引ワイヤと第2牽引ワイヤを結合した上で、上記上記動力伝達機構が、上記第1牽引ワイヤと第2牽引ワイヤの結合体が掛け回された回転可能なプーリと、該プーリと一緒に回転する第1回転ギヤと、該第1回転ギヤと噛合する第2回転ギヤと、該第2回転ギヤと噛合する第3回転ギヤと、一方の上記開閉片に固定した、上記第2回転ギヤと噛合する第4回転ギヤと、他方の上記開閉片に固定した、上記第3回転ギヤと噛合する第5回転ギヤと、を備えていてもよい。
この場合は、上記第2回転ギヤと第3回転ギヤが同一モジュールかつ同一歯数であり、かつ、上記第4回転ギヤと第5回転ギヤが同一モジュールかつ同一歯数であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、操作手段を操作すると第1牽引ワイヤと第2牽引ワイヤの一方が基端側に牽引されるのと同時に他方が先端側に引かれる。第1牽引ワイヤが操作手段によって基端側に牽引された場合は、動力伝達機構が第2牽引ワイヤを先端側に牽引すると共に両開閉片を閉方向に移動させる。一方、第2牽引ワイヤが操作手段によって基端側に牽引された場合は、動力伝達機構が第1牽引ワイヤを先端側に牽引すると共に両開閉片を開方向に移動させる。
このように開閉片を閉じるときだけでなく開くときも、第1牽引ワイヤと第2牽引ワイヤは先端側に押されるのではなく基端側または先端側に引かれるので、操作手段を操作したときに第1牽引ワイヤと第2牽引ワイヤが座屈を起こすことはない。そのため、操作手段に加えた力は開閉片に確実に伝わる(遊びが生じない)ので、開閉片は確実に開閉する。さらに、開閉片の開くときの移動量が閉じるときの移動量より小さくなることもない。
【0012】
さらに、一対の開閉片の開閉動作に連動して噛合しながら回転する対をなすギヤを同一モジュールかつ同一歯数にすれば、一対の開閉片は対称をなすように開閉する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態の開閉式鉗子を、開閉片を閉じ、かつ、外皮チューブ及び先端ケースを仮想線で示す縦断側面図である。
【図2】開閉片を開いたときの図1と同様の縦断側面図である。
【図3】開閉片が閉じている開閉式鉗子の先端部を、外皮チューブを取り外して示す斜視図である。
【図4】開閉片が閉じている開閉式鉗子の先端部を、先端ケースを省略して示す斜視図である。
【図5】開閉片が閉じている開閉式鉗子の先端部を、外皮チューブ及び先端ケースを省略して示す底面図である。
【図6】開閉片が閉じている開閉式鉗子の先端部を、外皮チューブ及び先端ケースを省略して示す側面図である。
【図7】開閉片が開いたときの図5と同様の底面図である。
【図8】開閉片が開いたときの図6と同様の側面図である。
【図9】第1の実施形態の変形例の図1と同様の縦断側面図である。
【図10】本発明の第2の実施形態の開閉式鉗子の先端部を、開閉片を閉じ、かつ、外皮チューブを取り外して示す斜視図である。
【図11】開閉片を開いたときの図10と同様の斜視図である。
【図12】開閉片を閉じ、かつ、外皮チューブ及び先端ケースを省略して示す開閉式鉗子の先端部の斜視図である。
【図13】開閉片を開いたときの図12と同様の斜視図である。
【図14】開閉片を閉じ、かつ、外皮チューブ及び先端ケースを省略して示す開閉式鉗子の先端部の側面図である。
【図15】開閉片を開いたときの図14と同様の側面図である。
【図16】本発明の第3の実施形態の開閉式鉗子の先端部を、開閉片を閉じ、かつ、外皮チューブを取り外して示す斜視図である。
【図17】開閉片を開いたときの図16と同様の斜視図である。
【図18】開閉片を閉じ、かつ、外皮チューブ及び先端ケースを省略して示す開閉式鉗子の先端部の斜視図である。
【図19】開閉片を開いたときの図18と同様の斜視図である。
【図20】開閉片を閉じ、かつ、外皮チューブ及び先端ケースを省略して示す開閉式鉗子の先端部の右側面図である。
【図21】開閉片を開いたときの図20と同様の右側面図である。
【図22】開閉片を閉じ、かつ、外皮チューブ及び先端ケースを省略して示す開閉式鉗子の先端部の平面図である。
【図23】本発明の第4の実施形態の開閉式鉗子の先端部を、開閉片を閉じ、かつ、外皮チューブを取り外して示す斜視図である。
【図24】開閉片を開いたときの図23と同様の斜視図である。
【図25】開閉片を閉じ、かつ、外皮チューブ及び先端ケースを省略して示す開閉式鉗子の先端部の斜視図である。
【図26】開閉片を開いたときの図25と同様の斜視図である。
【図27】開閉片を閉じ、かつ、外皮チューブ及び先端ケースを省略して示す開閉式鉗子の先端部の右側面図である。
【図28】開閉片を開いたときの図27と同様の右側面図である。
【図29】開閉片を閉じ、かつ、外皮チューブ及び先端ケースを省略して示す開閉式鉗子の先端部の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図1〜図9を参照しながら本発明の第1の実施形態を説明する。なお、以下の説明中の前後、左右、上下の方向は図中に記した矢印方向を基準とする。
図1及び図2に示すように開閉式鉗子10は前後方向に延びる細長形状である。開閉式鉗子10の後端部は、硬質材料(合成樹脂、金属等)からなりかつ前端が開口する筒状部材である後部ケース11によって構成してある。後部ケース11の内部には後部ケース11の径方向(左右方向)に延びる回転支持軸12が固定してあり、後部ケース11の上面には前後方向に延びる長孔(図示略)が形成してある。回転支持軸12には、上端部に指掛け孔14を形成した操作レバー(操作手段)13の下端部が回転可能に支持してあり、操作レバー13の上端部は上記長孔を通って後部ケース11の上側(外側)に位置している。操作レバー13は図1に示す閉操作位置と図2に示す開操作位置との間を回転可能である。
【0015】
回転支持軸12には操作レバー13と一体化した(相対回転不能な)回動レバー(操作手段)15が回転可能に支持してあり、回動レバー15の両端部には共に略前後方向に延びかつ同じ長さである金属製の第1牽引ワイヤW1及び第2牽引ワイヤW2の後端がそれぞれ固定してある。第1牽引ワイヤW1の前端は円柱状の金属部材である第1移動部材18に固定してある。図示するように第1移動部材18には、その中心部から外れた位置に、第1移動部材18を前後方向に貫通する断面円形の案内支持孔19が形成してある。図3等に示すように、第1移動部材18の周囲は前後方向に延びる金属製かつ円筒形形状の先端ケース22によって覆ってあり、後部ケース11の前端部と先端ケース22の後端部には、ゴム等の可撓性材料からなり第1牽引ワイヤW1及び第2牽引ワイヤW2の周囲に位置する外皮チューブ21の前後両端がそれぞれ接続(固定)してある。先端ケース22の後部の左右に形成した一対の案内長孔23に、第1移動部材18に固定した左右一対の案内ピン20がそれぞれ嵌合しているので、第1移動部材18は先端ケース22に対して前後方向にスライド可能かつ先端ケース22の軸線周りに回転不能である。図4等に示すように第1移動部材18の案内支持孔19には、金属製の第2移動部材29の後部がスライド可能に嵌合しており、第2移動部材29の後端に第2牽引ワイヤW2の前端が固定してある。第2移動部材29の前端部には上下一対の案内ピン30が一体的に形成してあり、上下の案内ピン30が先端ケース22の上下に形成した一対の案内長孔24にそれぞれ嵌合しているので、第2移動部材29は先端ケース22に対して前後方向にスライド可能かつ先端ケース22の軸線周りに回転不能である。さらに下側の案内ピン30の周面には円周形状のワイヤガイド溝を有するワイヤガイド(第2ワイヤガイド)28が固定してある。
【0016】
先端ケース22の前部には、左右一対のスリット25と、左端部に設けた上下一対の回転支持孔26と、右端部に設けた上下一対の回転支持孔27と、が形成してある。先端ケース22の前部内には対をなす共に金属製の第1開閉片32と第2開閉片37の後端部が位置している。第1開閉片32と第2開閉片37は略左右対称形状であるが、第1開閉片32の前半部の上半部全体が凹部33になっているのに対して、第2開閉片37の前半部の上半部には右方(第1開閉片32側)に向かって延びる刃部38が突設してある。第1開閉片32の後端部には上下一対の回転軸34が突設してあり、第2開閉片37の後端部には案内ピン30及び回転軸34と平行な上下一対の回転軸39が突設してある。上下の回転軸34は先端ケース22の上下の回転支持孔27に回転可能に嵌合しており、上下の回転軸39は先端ケース22の上下の回転支持孔26に回転可能に嵌合しているので、第1開閉片32と第2開閉片37は、前半部の下半部の対向面どうしが接触すると共に刃部38が凹部33の上面に位置する全閉位置(図1、図3〜図6の位置)と、互いに左右方向に離間する全開位置(図2、図7、図8の位置)と、の間を回転可能である。さらに、図5及び図7等に示すように、第1開閉片32の上側の回転軸34及び第2開閉片37の上側の回転軸39には、モジュールと歯数と転位係数がいずれも同一であり、かつ適切なバックラッシ量が設定された状態で互いに噛合する、共に金属製のギヤ35とギヤ40が固定してあるので、第1開閉片32と第2開閉片37は平面視において回転軸34と回転軸39の中間位置を前後方向に通る基準直線(図示略)に対して常に左右対称に回転する。また、第1開閉片32と第2開閉片37の下面には、回転軸34の直前に位置する円柱形状のワイヤガイド(第1ワイヤガイド)36とワイヤガイド(第1ワイヤガイド)41が突設してある。
さらに、第1移動部材18の前面の左右両側部には開閉用ワイヤW3(例えば、金属製)の両端部が固定してある。開閉用ワイヤW3は図示の態様でワイヤガイド36と回転軸34、及び、ワイヤガイド41と回転軸39に掛け回してあり、かつ、開閉用ワイヤW3の中央部は第2移動部材29と一体化したワイヤガイド28の後部に掛け回してある。図示するように、開閉用ワイヤW3は上記基準直線に対して左右対称となっている。
以上説明した構成のうち第1移動部材18、第2移動部材29、ワイヤガイド36、ワイヤガイド41、及び、開閉用ワイヤW3が動力伝達機構の構成要素である。
【0017】
続いて開閉式鉗子10の動作について説明する。
開閉式鉗子10は、例えば患者の口から体腔内に挿入して使用するものである。この際、患者の口から体腔内に可撓性を有するチューブを挿入するか、あるいは内視鏡を挿入する。チューブを挿入する場合は、チューブ内に開閉式鉗子10の先端側を挿入して第1開閉片32及び第2開閉片37をチューブの先端開口から体腔内に突出させ、後部ケース11を患者の体外に位置させる。一方、内視鏡を挿入する場合は、内視鏡の操作部近傍に形成した処置具挿入用開口から開閉式鉗子10の先端側を内視鏡の内部管路に挿入し、内視鏡の挿入部の先端面に形成した該内部管路の出口開口から第1開閉片32及び第2開閉片37を体腔内に突出し、後部ケース11を上記処置具挿入用開口の外部(患者の外部)に位置させる。
【0018】
例えば、操作レバー13が後部ケース11に対して図1に示す閉操作位置に位置するとき、第1移動部材18、第2移動部材29、第1開閉片32、及び第2開閉片37は先端ケース22に対して図1、図3〜図6に示す位置に位置するので、第1開閉片32及び第2開閉片37は全閉位置に位置する。
この状態で術者が後部ケース11を把持しながら指を操作レバー13の指掛け孔14に入れ、操作レバー13を図2の開操作位置側に回転させると、図2に示すように第2牽引ワイヤW2が後方(基端側)に牽引される。すると、第2移動部材29(案内ピン30)が先端ケース22(案内長孔24)に対して後方にスライドするので、開閉用ワイヤW3の中央部がワイヤガイド28によって回転軸34及び回転軸39に対して後方に引かれる。すると開閉用ワイヤW3に図5及び図7に示すT2方向の力が掛かるので、第1開閉片32及び第2開閉片37が互いに離れる方向に回転し、かつ、開閉用ワイヤW3の牽引力によって第1移動部材18が先端ケース22(案内長孔24)に対して第2移動部材29の後方への移動距離と同じだけ前方にスライドする。そして、操作レバー13が図2の開操作位置に達したときに、第1移動部材18及び第2移動部材29は図7及び図8に示す位置に達し、かつ開閉用ワイヤW3が図7及び図8に示す形状になるので、第1開閉片32及び第2開閉片37が図7及び図8に示す全開位置まで移動する。このように操作レバー13を全開位置側に回転させると、第1移動部材18が前方にスライドすることにより第1牽引ワイヤW1が前方に引かれるが、操作レバー13の回転に伴って回動レバー15が図1の位置から図2の位置まで回転するので、(操作レバー13及び回動レバー15によって)第1牽引ワイヤW1の前方への移動は許容される。
【0019】
一方、この状態で術者が操作レバー13を図1の閉操作位置側に回転させると、図1に示すように第1牽引ワイヤW1が後方(基端側)に牽引されるので、第1移動部材18が先端ケース22(案内長孔23)に対して後方にスライドする。すると、開閉用ワイヤW3の両端部が第1移動部材18によって後方に牽引されるので、開閉用ワイヤW3には図5及び図7に示すT1方向の力が掛かる。そのため、第1開閉片32及び第2開閉片37が互いに近づく方向に回転し、かつ、開閉用ワイヤW3の中央部によって前方に引かれた第2移動部材29(ワイヤガイド28)が前方にスライドする。そして、操作レバー13が図1の閉操作位置に達したときに、第1移動部材18及び第2移動部材29は図3〜図6に示す位置に達し、かつ開閉用ワイヤW3が図3〜図6に示す形状になるので、第1開閉片32及び第2開閉片37が図3〜図6に示す全閉位置まで移動する。第1開閉片32と第2開閉片37の間に体腔内の患部等を位置させた状態で第1開閉片32及び第2開閉片37を全閉位置まで回転させれば、第2開閉片37の刃部38と第1開閉片32の間で当該患部等が切除される。また、このように操作レバー13を全閉位置側に回転させると、第2移動部材29が前方にスライドすることにより第2牽引ワイヤW2が前方に引かれるが、操作レバー13の回転に伴って回動レバー15が図2の位置から図1の位置まで回転するので(操作レバー13及び回動レバー15によって)第2牽引ワイヤW2の前方への移動が許容される。
【0020】
以上説明したように本実施形態の開閉式鉗子10は、操作レバー13を閉操作位置側に操作するときだけでなく開操作位置側に操作するときも、第1牽引ワイヤW1と第2牽引ワイヤW2の一方が後方(基端側)に牽引されるのと同時に他方が前方(先端側)に引かれ、第1牽引ワイヤW1と第2牽引ワイヤW2が回動レバー15によって前方に押圧されることがない。そのため、操作レバー13を操作したときに第1牽引ワイヤW1及び第2牽引ワイヤW2が座屈を起こすことはなく、操作レバー13に加えた力を第1開閉片32及び第2開閉片37に確実に伝えることができるので(遊びが生じないので)、第1開閉片32及び第2開閉片37を確実に開閉させることが可能である。さらに、第1開閉片32及び第2開閉片37の開くときの移動量と閉じるときの移動量が同じになる。
【0021】
なお、図9に示すように、後部ケース11に操作レバー13(及び上記長孔)を設ける代わりに電力式の駆動装置(操作手段)を設けてもよい。
図9では図示を省略してあるが、図9の開閉式鉗子10’の後部ケース11内部に設けた回転支持軸12には第1牽引ワイヤW1及び第2牽引ワイヤW2の後端を固定した回動レバー15が回転可能に支持してあり、後部ケース11の内部には回動レバー15を正逆両方向に回転させるためのモータ45と、モータ45と接続する制御装置46と、モータ45に電力を供給するための電源(図示略)と、が設けてあり、後部ケース11の表面には制御装置46と接続する操作入力手段47(例えばボタン等)が設けてある。
従って、操作入力手段47を操作することにより制御装置46からモータ45に信号を送りモータ45を正方向に回転させれば、開閉式鉗子10’の回動レバー15、第1牽引ワイヤW1、及び第2牽引ワイヤW2が図2と同じ状態になるので、第1開閉片32及び第2開閉片37が全開位置側に回転する。一方、操作入力手段47を操作することによりモータ45を逆方向に回転させれば、開閉式鉗子10’の回動レバー15、第1牽引ワイヤW1、及び第2牽引ワイヤW2が図1と同じ状態になるので、第1開閉片32及び第2開閉片37が全閉位置側に回転する。なお、操作入力手段47を操作している間モータ45は正方向または逆方向に回転し続けるが、第1開閉片32及び第2開閉片37が全開位置または全閉位置に到達すると、電源からモータ45への電力の供給が自動的に遮断される。また、第1開閉片32及び第2開閉片37が全開位置と全閉位置の間に位置するときに操作入力手段47を操作してモータ45への電力の供給を遮断すれば、第1開閉片32及び第2開閉片37は当該位置(操作入力手段47を操作した時の位置)に保持される。
【0022】
続いて、図10〜図15を参照しながら本発明の第2の実施形態を説明する。なお、第1の実施形態と同じ部材には同じ符号を付すに止めて、その詳細な説明は省略する。
本実施形態の開閉式鉗子50も後端部に後部ケース11(図1、図2の態様でも、図9の態様でもよい)を具備しており、後部ケース11には外皮チューブ21の後端部が固定してある。ただし、本実施形態では第1牽引ワイヤW1と第2牽引ワイヤW2の上下位置が逆である。即ち、第1牽引ワイヤW1は回動レバー15の上端部に固定してあり、第2牽引ワイヤW2は回動レバー15の下端部に固定してある。外皮チューブ21の前端部は金属からなる略円柱形状の先端ケース51の後端部に固定してある。先端ケース51には共に先端ケース51を前後方向に貫通する2つの貫通支持孔が形成してあり、先端ケース51の前面には金属製の支持アーム52が左右一対として固定してある。
第1牽引ワイヤW1と第2牽引ワイヤW2の前端部には合成樹脂等の硬質材料からなる円筒形状のスライド部材53とスライド部材54がそれぞれ固定状態で被せてあり、スライド部材53とスライド部材54は先端ケース51に形成した上記2つの貫通支持孔にスライド可能にそれぞれ挿入してある。スライド部材53とスライド部材54の前端には先端ケース51の上記貫通支持孔より断面形状が大きい支持部材55と支持部材57が固定してある。支持部材55の下面には後ろ斜め上方に向かって延びる凹部56が凹設してあり、支持部材57の上面には後ろ斜め下方に向かって延びる凹部58が凹設してある。
対をなす第1開閉片60と第2開閉片65は共に金属製であり、内面(対向面)にはそれぞれ刃部が形成してある。第1開閉片60には接続片61と接続片62が一体的に形成してあり、第2開閉片65には接続片66と接続片67が一体的に形成してある。第1開閉片60(接続片61及び接続片62を含む)と第2開閉片65(接続片66及び接続片67を含む)は互いに同じ形状である(第2開閉片65は第1開閉片60を180°反転させたものである)。第1開閉片60及び第2開閉片65の後端部は互いに左右方向に重ねてあり、この重なった部分を左右方向に相対回転可能として貫通する回転軸63の両端部が、左右の支持アーム52の前端部の内面にそれぞれ固定してある。従って、第1開閉片60と第2開閉片65は左右の支持アーム52に対して回転軸63まわりに回転可能である。
【0023】
支持部材55の凹部56には互いに同一仕様である第1リンク部材68Aと第2リンク部材68Bの後端部が左右に重ねた状態で位置しており、第1リンク部材68Aと第2リンク部材68Bの後端部を左右方向に相対回転可能として貫通する回転支持軸の両端部が凹部56の内面(左右両側面)にそれぞれ固定してある。第1リンク部材68Aの前端部は接続片62に左右方向の軸まわりに回転可能に接続しており、第2リンク部材68Bの前端部は接続片66に左右方向の軸まわりに回転可能に接続している。
一方、支持部材57の凹部58には第1リンク部材68A及び第2リンク部材68Bと同一仕様である第3リンク部材69A及び第4リンク部材69Bの後端部が左右に重ねた状態で位置しており、第3リンク部材69Aと第4リンク部材69Bの後端部を左右方向に相対回転可能として貫通する回転支持軸の両端部が凹部58の内面(左右両側面)にそれぞれ固定してある。第3リンク部材69Aの前端部は接続片61に左右方向の軸まわりに回転可能に接続しており、第4リンク部材69Bの前端部は接続片67に左右方向の軸まわりに回転可能に接続している。
第1リンク部材68Aの凹部56に対する接続位置から接続片62に対する接続位置までの直線距離、第2リンク部材68Bの凹部56に対する接続位置から接続片66に対する接続位置までの直線距離、第3リンク部材69Aの凹部58に対する接続位置から接続片61に対する接続位置までの直線距離、及び、第4リンク部材69Bの凹部58に対する接続位置から接続片67に対する接続位置までの直線距離、はすべて同一である。
以上説明した構成のうち第1リンク部材68A、第2リンク部材68B、第3リンク部材69A、及び、第4リンク部材69Bが動力伝達機構の構成要素である。
【0024】
続いて開閉式鉗子50の動作について説明する。
例えば、操作レバー13が閉操作位置(本実施形態では図2の位置)に位置するとき、第1開閉片60及び第2開閉片65は図10、12、14に示す全閉位置に位置する。
この状態で術者が操作レバー13を開操作位置(本実施形態では図1の位置)側に回転させると、第2牽引ワイヤW2及びスライド部材54が後方(基端側)に牽引されるので、支持部材57に支持されている第3リンク部材69A及び第4リンク部材69Bが後方に移動する。すると、第3リンク部材69Aと接続している接続片61が後方に引かれるので第1開閉片60が回転軸63まわりに図10〜図13の時計方向に回転し、第4リンク部材69Bと接続している接続片67が後方に引かれるので第2開閉片65が回転軸63まわりに図10〜図13の反時計方向に回転する。そして、操作レバー13が図1の開操作位置に達したときに、第3リンク部材69A及び第4リンク部材69Bが図11、13、15に示す位置に達するので、第1開閉片60及び第2開閉片65が図11、13、15に示す全開位置まで移動する。このように第1開閉片60及び第2開閉片65が全開位置まで移動すると、第1開閉片60の接続片62と接続している第1リンク部材68A、及び、第2開閉片65の接続片66と接続している第2リンク部材68Bが前方に引かれるので、第1リンク部材68Aと第2リンク部材68Bの後端部に接続している支持部材55が前方に引かれ、さらに第1牽引ワイヤW1が前方に引かれる。しかし、操作レバー13の回転に伴って回動レバー15が図2の位置から図1の位置まで回転するので、(操作レバー13及び回動レバー15によって)第1牽引ワイヤW1の前方への移動は許容される。
【0025】
一方、この状態で術者が操作レバー13を図2の閉操作位置側に回転させると、第1牽引ワイヤW1及びスライド部材53が後方(基端側)に牽引されるので、支持部材55に支持されている第1リンク部材68A及び第2リンク部材68Bが後方に移動する。すると、第1リンク部材68Aと接続している接続片62が後方に引かれるので第1開閉片60が回転軸63まわりに図10〜図13の反時計方向に回転し、第2リンク部材68Bと接続している接続片66が後方に引かれるので第2開閉片65が回転軸63まわりに図10〜図13の時計方向に回転する。そして、操作レバー13が図2の閉操作位置に達したときに、第1リンク部材68A及び第2リンク部材68Bが図10、12、14に示す位置に達するので、第1開閉片60及び第2開閉片65が図10、12、14に示す全閉位置まで移動する。このように第1開閉片60及び第2開閉片65が全閉位置まで移動すると、第1開閉片60の接続片61と接続している第3リンク部材69A、及び、第2開閉片65の接続片67と接続している第4リンク部材69Bが前方に引かれるので、第3リンク部材69Aと第4リンク部材69Bの後端部に接続している支持部材57が前方に引かれ、さらに第2牽引ワイヤW2が前方に引かれる。しかし、操作レバー13の回転に伴って回動レバー15が図1の位置から図2の位置まで回転するので、(操作レバー13及び回動レバー15によって)第2牽引ワイヤW2の前方への移動は許容される。
なお、第1リンク部材68Aと第2リンク部材68Bは常に上下対称に回転し、かつ、第3リンク部材69Aと第4リンク部材69Bも常に上下対称に回転するので、第1開閉片60と第2開閉片65は開方向と閉方向のいずれに回転するときも上下対称に回転する。
【0026】
以上説明したように本実施形態の開閉式鉗子50も、操作レバー13を閉操作位置側に操作するときだけでなく開操作位置側に操作するときも、第1牽引ワイヤW1と第2牽引ワイヤW2の一方が後方(基端側)に牽引されるのと同時に他方が前方(先端側)に引かれ、第1牽引ワイヤW1と第2牽引ワイヤW2が前方に押圧されることがない。そのため、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0027】
続いて、図16〜図22を参照しながら本発明の第3の実施形態を説明する。なお、従前の実施形態と同じ部材には同じ符号を付すに止めて、その詳細な説明は省略する。
本実施形態の開閉式鉗子70も後端部に後部ケース11を具備しており、後部ケース11には外皮チューブ21の後端部が固定してある。本実施形態における第1牽引ワイヤW1と第2牽引ワイヤW2の上下位置は第2の実施形態と同じであり、第1牽引ワイヤW1は回動レバー15の上端部に固定してあり、第2牽引ワイヤW2は回動レバー15の下端部に固定してある。外皮チューブ21の前端部は金属からなる略円筒形状の先端ケース71の後端部に固定してある。先端ケース71の上下部にはスリット72が形成してあり、先端ケース71には左右一対の回転支持孔73、74、75が形成してある。
先端ケース71の左右の回転支持孔73には左右方向に延びる回転軸76の両端部が回転可能に嵌合してあり、回転軸76にはプーリ77と金属製のギヤ(第1回転ギヤ)78が左右に重ねて固定してある。第1牽引ワイヤW1と第2牽引ワイヤW2の前端どうしは互いに固定してあり、かつプーリ77に掛け回してある。さらに、本実施形態では第1牽引ワイヤW1と第2牽引ワイヤW2の周囲にカバーコイル79がそれぞれ相対移動可能に被せてある。
第1開閉片32及び第2開閉片37の後端部は先端ケース71の内部に位置しており、第1開閉片32と第2開閉片37の後端部にそれぞれ固定した左右一対の回転軸80と回転軸81が左右の回転支持孔74と回転支持孔75にそれぞれ回転可能に嵌合している。さらに、第1開閉片32の右面の後端部と第2開閉片37の後端部には、共に金属製であるギヤ(第2回転ギヤ)82とギヤ(第3回転ギヤ)83がそれぞれ一体的に形成してある。図示するようにギヤ82はギヤ78より肉厚であり、ギヤ82の右半部がギヤ78と噛合している。ギヤ83はギヤ82より薄肉であり、ギヤ82の左半部と噛合している。さらに、ギヤ78とギヤ83の左右位置は互いにずれているので、ギヤ78とギヤ83は噛合していない。ギヤ82とギヤ83の肉厚は互いに異なるものの、両者の断面形状(側面形状)におけるモジュールと歯数と転位係数はいずれも同一であり、かつ適切なバックラッシ量が設定されている。
以上説明した構成のうちプーリ77、ギヤ78、ギヤ82、及び、ギヤ83が動力伝達機構の構成要素である。
【0028】
続いて開閉式鉗子70の動作について説明する。
例えば、操作レバー13が図2の閉操作位置に位置するとき、第1開閉片32及び第2開閉片37は図16、18、20、22に示す全閉位置に位置する。
この状態で術者が操作レバー13を図1の開操作位置側に回転させると第2牽引ワイヤW2が後方に牽引されると共に第1牽引ワイヤW1が前方に牽引されるので、プーリ77及びギヤ78が回転軸76を中心に図20及び図21において反時計方向に回転する。すると、ギヤ82が図20及び図21において時計方向に回転し、かつ、ギヤ83が図20及び図21において反時計方向に回転するので、第1開閉片32及び第2開閉片37が互いに離れる方向に回転する。そして、操作レバー13が図1の開操作位置に達したときに、第1開閉片32及び第2開閉片37が図19及び図21に示す全開位置まで移動する。このように操作レバー13を全開位置側に回転させると第1牽引ワイヤW1が前方に引かれるが、操作レバー13の回転に伴って回動レバー15が図2の位置から図1の位置まで回転するので、(操作レバー13及び回動レバー15によって)第1牽引ワイヤW1の前方への移動は許容される。
【0029】
一方、この状態で術者が操作レバー13を図2の閉操作位置側に回転させると、第1牽引ワイヤW1が後方(基端側)に牽引されると共に第2牽引ワイヤW2が前方(先端側)に牽引されるので、プーリ77及びギヤ78が回転軸76を中心に図20及び図21において時計方向に回転する。すると、ギヤ82が図20及び図21において反時計方向に回転し、かつ、ギヤ83が図20及び図21において時計方向に回転するので、第1開閉片32及び第2開閉片37が互いに近づく方向に回転する。そして、操作レバー13が図2の閉操作位置に達したときに、第1開閉片32及び第2開閉片37が図16、18、20、22に示す全閉位置まで移動する。このように操作レバー13を全閉位置側に回転させると第2牽引ワイヤW2が前方に引かれるが、操作レバー13の回転に伴って回動レバー15が図1の位置から図2の位置まで回転するので、(操作レバー13及び回動レバー15によって)第2牽引ワイヤW2の前方への移動は許容される。
なお、ギヤ82とギヤ83はモジュールと歯数と転位係数はいずれも同一であり、かつ適切なバックラッシ量が設定されているので、第1開閉片32と第2開閉片37は開方向と閉方向のいずれに回転するときも上下対称に回転する。
【0030】
以上説明したように本実施形態の開閉式鉗子70も、操作レバー13を閉操作位置側に操作するときだけでなく開操作位置側に操作するときも、第1牽引ワイヤW1と第2牽引ワイヤW2の一方が後方(基端側)に牽引されるのと同時に他方が前方(先端側)に引かれ、第1牽引ワイヤW1と第2牽引ワイヤW2が前方に押圧されることがない。そのため、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
さらに、第1及び第2の実施形態に比べて動力伝達機構が簡単なので、低コストで製造可能である。
【0031】
最後に、図23〜図29を参照しながら本発明の第4の実施形態を説明する。なお、従前の実施形態と同じ部材には同じ符号を付すに止めて、その詳細な説明は省略する。
本実施形態の開閉式鉗子90も後端部に後部ケース11を具備しており、後部ケース11には外皮チューブ21の後端部が固定してある。本実施形態における第1牽引ワイヤW1と第2牽引ワイヤW2の上下位置は第2の実施形態と同じであり、第1牽引ワイヤW1は回動レバー15の上端部に固定してあり、第2牽引ワイヤW2は回動レバー15の下端部に固定してある。外皮チューブ21の前端部は金属からなる略円筒形状の先端ケース91の後端部に固定してある。先端ケース91の前半部の上下にはスリット92が形成してあり、先端ケース91には左右一対の回転支持孔73、93、94、95、96が形成してある。
先端ケース91の左右の回転支持孔73には回転軸76の左右両端部が回転可能に嵌合している。また、左右の回転支持孔93には金属製のギヤ(第3回転ギヤ)99と一体化した左右方向に延びる回転軸98の左右両端部が回転可能に嵌合しており、左右の回転支持孔94には金属製のギヤ(第2回転ギヤ)101と一体化した左右方向に延びる回転軸100の左右両端部が回転可能に嵌合している。図示するようにギヤ101はギヤ78より肉厚であり、ギヤ101の右半部がギヤ78と噛合している。ギヤ99はギヤ101より薄肉であり、ギヤ101の左半部と噛合している。さらに、ギヤ78とギヤ99の左右位置は互いにずれているので、ギヤ78とギヤ99は噛合していない。ギヤ99とギヤ101の肉厚は互いに異なるものの、両者の断面形状(側面形状)におけるモジュールと歯数と転位係数はいずれも同一であり、かつ適切なバックラッシ量が設定されている。
先端ケース91の左右の回転支持孔95には第1開閉片32に設けた回転軸80の左右両端部が回転可能に嵌合しており、左右の回転支持孔96には第2開閉片37に設けた回転軸81の左右両端部が回転可能に嵌合している。さらに、第1開閉片32の左側面の後端部にはギヤ99と噛合する金属製のギヤ(第5回転ギヤ)103が一体的に形成してあり、第2開閉片37の左側面の後端部にはギヤ101と噛合する金属製のギヤ(第4回転ギヤ)104が一体的に形成してある。図示するようにギヤ103とギヤ104は歯数が異なるものの、両者の断面形状(側面形状)におけるモジュールと歯数と転位係数はいずれも同一であり、かつ適切なバックラッシ量が設定されている。
以上説明した構成のうちプーリ77、ギヤ78、ギヤ99、ギヤ101、ギヤ103、及び、ギヤ104が動力伝達機構の構成要素である。
【0032】
続いて開閉式鉗子90の動作について説明する。
例えば、操作レバー13が図2の閉操作位置に位置するとき、第1開閉片32及び第2開閉片37は図23、25、27、29に示す全閉位置に位置する。
この状態で術者が操作レバー13を図1の開操作位置側に回転させると、本実施形態では第2牽引ワイヤW2が後方(基端側)に牽引されると共に第1牽引ワイヤW1が前方(先端側)に牽引されるので、プーリ77及びギヤ78が回転軸76を中心に図27及び図28において反時計方向に回転する。すると、ギヤ101が図27及び図28において時計方向に回転し、かつ、ギヤ99が図27及び図28において反時計方向に回転する。従って、ギヤ101と噛合しているギヤ104が反時計方向に回転し、かつ、ギヤ99と噛合しているギヤ103が時計方向に回転するので、第1開閉片32及び第2開閉片37が互いに離れる方向に回転する。そして、操作レバー13が開操作位置に達したときに、第1開閉片32及び第2開閉片37が図24、26、28に示す全開位置まで移動する。このように操作レバー13を全開位置側に回転させると第1牽引ワイヤW1が前方に引かれるが、操作レバー13の回転に伴って回動レバー15が図2の位置から図1の位置まで回転するので、(操作レバー13及び回動レバー15によって)第1牽引ワイヤW1の前方への移動は許容される。
【0033】
一方、この状態で術者が操作レバー13を図2の閉操作位置側に回転させると、第1牽引ワイヤW1が後方(基端側)に牽引されると共に第2牽引ワイヤW2が前方(先端側)に牽引されるので、プーリ77及びギヤ78が回転軸76を中心に図27及び図28において時計方向に回転する。すると、ギヤ101が図27及び図28において反時計方向に回転し、かつ、ギヤ99が図27及び図28において時計方向に回転する。従って、ギヤ101と噛合しているギヤ104が時計方向に回転し、かつ、ギヤ99と噛合しているギヤ103が反時計方向に回転するので、第1開閉片32及び第2開閉片37が互いに近づく方向に回転する。そして、操作レバー13が図2の閉操作位置に達したときに、第1開閉片32及び第2開閉片37が図23、25、27、29に示す全閉位置まで移動する。このように操作レバー13を全閉位置側に回転させると第2牽引ワイヤW2が前方に引かれるが、操作レバー13の回転に伴って回動レバー15が図1の位置から図2の位置まで回転するので、(操作レバー13及び回動レバー15によって)第2牽引ワイヤW2の前方への移動は許容される。
なお、ギヤ99とギヤ101はモジュールと歯数と転位係数はいずれも同一で適切なバックラッシ量が設定されており、かつ、ギヤ103とギヤ104はモジュールと歯数と転位係数はいずれも同一で適切なバックラッシ量が設定されているので、第1開閉片32と第2開閉片37は開方向と閉方向のいずれに回転するときも上下対称に回転する。
【0034】
以上説明したように本実施形態の開閉式鉗子90も、操作レバー13を閉操作位置側に操作するときだけでなく開操作位置側に操作するときも、第1牽引ワイヤW1と第2牽引ワイヤW2の一方が後方(基端側)に牽引されるのと同時に他方が前方(先端側)に引かれ、第1牽引ワイヤW1と第2牽引ワイヤW2が前方に押圧されることがない。そのため、第1の実施形態と同様の効果が得られる。
さらに、ギヤ103、ギヤ104とギヤ78との間にギヤ99とギヤ101を介在させているので、ギヤ99とギヤ101の歯数を調整することにより第1開閉片32及び第2開閉片37のトルクを精度よく調整できる。また、ギヤ78とギヤ103、104との間に配置するギヤの数を増やして減速比を調整すれば、第1牽引ワイヤW1と第2牽引ワイヤW2の牽引ストローク量を調整したり、第1開閉片32と第2開閉片37に伝わる力を調整できる。
【0035】
以上、上記実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は様々な変更を施しながら実施可能である。
例えば、第1開閉片32、第2開閉片37、第1開閉片60、第2開閉片65の代わりに、刃部を具備しない第1開閉片と第2開閉片を具備していてもよい。このような構造にすれば、第1開閉片と第2開閉片を閉じることにより体腔内の患部等を切断することなく把持できる。
【符号の説明】
【0036】
10 10’ 開閉式鉗子
11 後部ケース
12 回転支持軸
13 操作レバー(操作手段)
14 指掛け孔
15 回動レバー(操作手段)
18 第1移動部材(動力伝達機構)
19 案内支持孔
20 案内ピン
21 外皮チューブ
22 先端ケース
23 24 案内長孔
25 スリット
26 27 回転支持孔
28 ワイヤガイド(第2ワイヤガイド)
29 第2移動部材(動力伝達機構)
30 案内ピン
32 第1開閉片
33 凹部
34 回転軸
35 ギヤ
36 ワイヤガイド(第1ワイヤガイド)(動力伝達機構)
37 第2開閉片
38 刃部
39 回転軸
40 ギヤ
41 ワイヤガイド(第1ワイヤガイド)(動力伝達機構)
45 モータ(アクチュエータ)
46 制御装置
47 操作入力手段
50 開閉式鉗子
51 先端ケース
52 支持アーム
53 54 スライド部材
55 支持部材
56 凹部
57 支持部材
58 凹部
60 第1開閉片
61 62 接続片
63 回転軸
65 第2開閉片
66 67 接続片
68A 第1リンク部材(動力伝達機構)
68B 第2リンク部材(動力伝達機構)
69A 第3リンク部材(動力伝達機構)
69B 第4リンク部材(動力伝達機構)
70 開閉式鉗子
71 先端ケース
72 スリット
73 74 75 回転支持孔
76 回転軸
77 プーリ(動力伝達機構)
78 ギヤ(第1回転ギヤ)(動力伝達機構)
79 カバーコイル
80 81 回転軸
82 ギヤ(第2回転ギヤ)(動力伝達機構)
83 ギヤ(第3回転ギヤ)(動力伝達機構)
90 開閉式鉗子
91 先端ケース
92 スリット
93 94 95 96 回転支持孔
98 回転軸
99 ギヤ(第3回転ギヤ)(動力伝達機構)
100 回転軸
101 ギヤ(第2回転ギヤ)(動力伝達機構)
103 ギヤ(第5回転ギヤ)(動力伝達機構)
104 ギヤ(第4回転ギヤ)(動力伝達機構)
W1 第1牽引ワイヤ
W2 第2牽引ワイヤ
W3 開閉用ワイヤ(動力伝達機構)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に設けた一対の開閉片と、
第1牽引ワイヤ及び第2牽引ワイヤと、
上記第1牽引ワイヤと第2牽引ワイヤの一方を基端側に牽引すると同時に他方が先端側に引かれるのを許容する操作手段と、
上記第1牽引ワイヤ及び第2牽引ワイヤの先端部と上記一対の開閉片とを接続する、第1牽引ワイヤが基端側に牽引されたときに、第2牽引ワイヤを先端側に牽引すると共に両開閉片を閉方向に移動させ、かつ、第2牽引ワイヤが基端側に牽引されたときに、第1牽引ワイヤを先端側に牽引すると共に両開閉片を開方向に移動させる動力伝達機構と、
を備えることを特徴とする医療用開閉式鉗子。
【請求項2】
請求項1記載の医療用開閉式鉗子において、
上記動力伝達機構が、
上記一対の開閉片にそれぞれ形成した第1ワイヤガイドと、
上記第1牽引ワイヤの先端を固定した、上記開閉片と操作手段の間に位置し、開閉片に近づく方向と操作手段に近づく方向とに移動可能な第1移動部材と、
上記第2牽引ワイヤの先端を固定した、上記開閉片と操作手段の間に位置し、開閉片に近づく方向と操作手段に近づく方向とに移動可能で第2ワイヤガイドを有する第2移動部材と、
両端を上記第1移動部材に固定し、中央部を第2移動部材の上記第2ワイヤガイドに掛け回し、かつ、該中央部と両端部の間を一対の開閉片の上記第1ワイヤガイドにそれぞれ掛け回した開閉用ワイヤと、
を備える医療用開閉式鉗子。
【請求項3】
請求項2記載の医療用開閉式鉗子において、
上記一対の開閉片の対向部に、互いに噛合する同一モジュールかつ同一歯数のギヤを形成した医療用開閉式鉗子。
【請求項4】
請求項1記載の医療用開閉式鉗子において、
上記動力伝達機構が、
上記第1牽引ワイヤの先端部に対して同軸状態で回転する、一方の開閉片に回転可能に接続する第1リンク部材、及び、他方の開閉片に回転可能に接続する第2リンク部材と、
上記第2牽引ワイヤの先端部に対して同軸状態で回転する、上記一方の開閉片に回転可能に接続する第3リンク部材、及び、上記他方の開閉片に回転可能に接続する第4リンク部材と、
を備える医療用開閉式鉗子。
【請求項5】
請求項1記載の医療用開閉式鉗子において、
上記第1牽引ワイヤと第2牽引ワイヤを結合し、
上記上記動力伝達機構が、
上記第1牽引ワイヤと第2牽引ワイヤの結合体が掛け回された回転可能なプーリと、
該プーリと一緒に回転する第1回転ギヤと、
一方の上記開閉片に固定した、該第1回転ギヤと噛合する第2回転ギヤと、
他方の上記開閉片に固定した、該第2回転ギヤと噛合する第3回転ギヤと、
を備える医療用開閉式鉗子医療用開閉式鉗子。
【請求項6】
請求項5記載の医療用開閉式鉗子において、
上記第2回転ギヤと第3回転ギヤが同一モジュールかつ同一歯数である医療用開閉式鉗子。
【請求項7】
請求項1記載の医療用開閉式鉗子において、
上記第1牽引ワイヤと第2牽引ワイヤを結合し、
上記上記動力伝達機構が、
上記第1牽引ワイヤと第2牽引ワイヤの結合体が掛け回された回転可能なプーリと、
該プーリと一緒に回転する第1回転ギヤと、
該第1回転ギヤと噛合する第2回転ギヤと、
該第2回転ギヤと噛合する第3回転ギヤと、
一方の上記開閉片に固定した、上記第2回転ギヤと噛合する第4回転ギヤと、
他方の上記開閉片に固定した、上記第3回転ギヤと噛合する第5回転ギヤと、
を備える医療用開閉式鉗子医療用開閉式鉗子。
【請求項8】
請求項7記載の医療用開閉式鉗子において、
上記第2回転ギヤと第3回転ギヤが同一モジュールかつ同一歯数であり、かつ、上記第4回転ギヤと第5回転ギヤが同一モジュールかつ同一歯数である医療用開閉式鉗子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2011−83476(P2011−83476A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239338(P2009−239338)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【出願人】(510097747)独立行政法人国立がん研究センター (35)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】