説明

医薬物質の経皮輸送を制御するための調節加熱

【課題】 患者の変化する要求に迅速に応ずることができ,追加の薬剤用量を迅速に輸送することができ,患者が要求に応じて追加の薬剤の輸送を制御することを可能とする,経皮薬剤輸送システムを提供すること。
【解決手段】 本発明は,調節加熱を用いて経皮および調節放出を制御して,フェンタニル,他の鎮痛薬および他の物質を患者に迅速に輸送するための方法および装置に関する。本発明は,患者の皮膚の下の薬剤デポ中の薬剤を含む。加熱部材を薬剤デポ部位の近くに置き,薬剤デポ部位の中および近くで熱を発生させる。加熱部材に接続された調節部材を用いて加熱部材により発生される熱の大きさおよび持続時間を調節する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,選択的に加熱して,患者の皮膚の中または下の経皮輸送システムおよびデポ部位から,または注射されたもしくは移植された調節放出システムから医薬物質を放出させるための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
経皮薬剤輸送は,他の輸送方法および技術と比較して,ユーザおよび患者に明確な利点を与える。患者は,投与が容易であり,経皮薬剤が非侵襲的に輸送されるため,場合によっては経皮投与を好む。介護者もまた,投与が容易であること,および薬剤を長期間にわたって輸送しうることを高く評価する。経皮輸送は,多くの場合,薬剤の初期経路排除を回避する。このような利点のため,経皮薬剤輸送の人気は高まっており,経皮薬剤輸送の研究に対する興味が増大している。
【0003】
経皮薬剤輸送は,薬剤処方を患者の皮膚と接触させることにより生ずる。経皮薬剤輸送においては,薬剤の一部が皮膚を透過した後に皮膚および皮膚下組織中に貯蔵されることがしばしば生ずる。この効果は"デポ効果"と称され,以下,貯蔵部位を"デポ"または"デポ部位"と称する。血液がこれらの組織を通って循環するにつれて,薬剤は血流中に吸収され,全身循環中に輸送される。経皮的に輸送される薬剤の投与部位の上または近くに熱を与えることにより,熱が皮膚の透過性を増加させるのみならず,組織中の循環を非常に増加させ,薬剤をより迅速に全身循環に吸収させることを可能とする他の効果を有することが発見された。本発明者により,熱を用いて開始時間を増加させ,皮膚中に吸収される薬剤の量を増加させることが示唆されてきた。
【0004】
従来技術では,経皮薬剤輸送が患者の変化する要求に迅速に応じうることは全く教示されていない。薬剤が薬剤処方から皮膚に輸送され,皮膚および周囲組織中に吸収され,そこから全身循環に吸収され全身循環全体に輸送されるのに要する時間は,全身循環における薬剤循環の迅速な応答または調節の障壁であると見られていた。経皮薬剤輸送はこのように認知されていたため,患者調節麻酔(PCA)等の技術は経皮薬剤を用いることを試みてこなかった。患者調節麻酔は,患者がいつ特定の投与量を輸送するかを選択しうること,介護者が要求に応じて迅速に輸送すべき量を設定または処方しうること,および患者が過剰の自己投与を行うことを防止またはロックアウトしうることを必要とする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
薬剤を迅速に経皮的に輸送することについて認められている生理学的障壁に加えて,従来技術で教示されているような,経皮薬剤輸送と組み合わせて用いられる技術は,PCA等の精巧な輸送技術に用いることができない。現在のPCA治療は,精巧な医療機器および訓練された人材の両方を必要とする。現在の技術は侵襲性であり,注意深く較正されたポンプおよび他の装置を必要とし,これらはすべて高価でありうる。したがって,患者の変化する要求に迅速に応ずることができ,追加の薬剤用量を迅速に輸送することができ(以下,ボーラス薬剤と称する),患者が要求に応じて追加の薬剤の輸送を制御することを可能とし,介護者が,患者がどのような量の追加の薬剤を自己投与から得ることができるかを処方することを可能とし,介護者が"ロックアウト"時間を設定して患者が過剰の自己投与をすることを防止することを可能とする(ロックアウト時間とは,患者が自己投与メカニズムを誘発したとしても追加の薬剤が輸送されない期間である),経皮薬剤輸送システムを開発することは有益であろう。
【0006】
本発明はまた,薬剤の供給および電流の利用可能性によってのみ制限される,延長された薬剤輸送の持続時間を提供する。本発明はまた,追加の薬剤を輸送する間隔および薬剤を輸送する時間の長さを変化させることを可能とする。本発明はまた,介護者が"ロックアウト"時間を設定しうることを可能とする。これは,電気的加熱部材と組み合わせたマイクロプロセッサを使用することにより行うことができる。本発明は,患者の要求に迅速に応答し,要求に応じて患者に安全にかつ有効に薬剤を投与することを可能とする。本発明を本明細書に記載される方法において用いることにより,患者は麻酔(PCA)または適当な場合には他の薬剤を自己投与することができる。本発明は,ユーザがより広範囲の使用方法を用いて追加の信頼性を得ることを可能とする。例えば,領域の全体にわたって,加熱される温度および加熱される持続時間のいずれかをより精密に制御することができる。本発明は,種々の温度プロファイルを提供する。本発明は加熱要素の連続的な交換を必要としない。
【0007】
本発明に記載される方法および装置は,皮膚または皮膚下組織中に移植または注射された調節放出処方またはデバイスから追加の薬剤を提供しうることに注意すべきである。別の表現では,ユーザは薬剤を皮膚および皮膚下組織に移植または注射することにより,"デポ部位"を作成することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の簡単な概要
本発明を用いて,皮膚および前記組織中に薬剤のデポ部位(または"デポ")を確立するのに十分な時間皮膚上に置かれていた経皮薬剤輸送システムの下の皮膚下組織を加熱することにより,薬剤の追加のボーラスを患者の体内に輸送することができる。デポは,皮膚を越えて輸送された薬剤の一部が皮膚および/または皮膚下組織,例えば脂肪組織中に吸収され,ここに保存されるときに形成される。本発明を用いて,熱を用いて増加した血流等のメカニズムにより,薬剤をデポから全身循環に急速に送ることができる。
【0009】
本発明の別の利点は,以下の説明に記載されており,部分的には説明から明らかであるか,または本発明を実施することにより学習することができる。本発明の目的および利点は,特許請求の範囲に特に記載される装置および組み合わせにより理解し認識することができる。
【0010】
本発明以前は,当業者は,経皮薬剤輸送がゆっくりしたプロセスであって,ゆっくり開始し,ゆっくり終了し,比較的なめらかな輸送速度を有するものであると理解していた。しかし,本発明を用いる経皮フェンタニルパッチの最近の実験により,加熱後に血液薬剤濃度が急速かつ顕著に上昇しうることが明らかになった。これらの予備的な結果は,加熱の開始後に血清フェンタニル濃度が非常に急速に(5−10分以内に)かつ顕著に(>50%)上昇し,長時間高いレベルに維持されることを明らかにした。したがって,本発明を用いる血清フェンタニル濃度の増加(5−10分以内に50%以上)は非常に驚くべきことである。これらの結果は,デポ中に保存されているフェンタニルのかなりの部分が加熱により全身循環中に放出されることは迅速なプロセスであり,比較的軽い加熱で達成しうることを示す。
【0011】
最近の研究の結果は,皮膚下デポ中の薬剤の酸化加熱を用いる薬剤輸送において劇的な改良を示す。本発明は,精密に制御されたPCA環境中で皮膚下デポ中の薬剤を加熱するという原理を用いる。本発明は,追加の薬剤を患者に迅速に輸送して患者の必要性の変化に適応するための新規な方法および装置を提供する。ある薬剤については,血清薬剤濃度を有意に上昇させるためには比較的短い加熱時間のみが必要である。本発明を用いてそのような薬剤の輸送を容易にするために,種々の重要かつ有用な特徴を有する小型のバッテリー電源の加熱源/制御装置が提供される。デポからの薬剤放出は温度上昇に対して非常に感受性でありうるため,加熱によりボーラス薬剤を皮膚下組織から安全にかつ有効に輸送するためには,非常に正確な,信頼性のある,精密な制御装置が必要であろう。所望の量のボーラス薬剤を正確に輸送するためには,加熱の温度管理および加熱領域は非常に精密でなければならない。例えば,突破的(breakthrough)癌痛の典型的なエピソードを治療するためには,血清フェンタニルレベルの15−20パーセントの上昇で十分であると考えられている。はるかに高い上昇は不必要であるのみならず,危険でありうる。本発明は,加熱を用いて高度に精密な,制御可能な,かつ便利な仕方でボーラス薬剤を皮膚下デポ部位から輸送する新規な方法および装置を提供する。
【0012】
経皮薬剤輸送を操作するために発熱化学反応を用いる方法および装置は,発行された特許および係属中の特許出願に詳細に記載されている。類似の目的のために電気的に加熱したデバイスを用いる方法および装置もまた記載されている。しかし,これらの加熱方法は,本発明の敏感な加熱誘導性血清フェンタニル濃度上昇の有益な操作を促進するには適していないであろう。さらに,本発明は,精巧な電子的に制御された加熱デバイスを用いて,追加の薬剤の迅速な,選択的な,かつよく制御された輸送を達成することの実行可能性を企図しかつ劇的に増加させる。
【0013】
本発明は3つの必須の部分を含む:薬剤デポ部位(これは経皮輸送または注射または移植により作成することができる),薬剤デポ部位および/または周囲の組織を加熱するための熱を発生する加熱部材,およびデポ部位における加熱温度を制御するための調節部材。加熱部材は好ましくは電気加熱部材である。電気加熱部材および調節部材は電線により接続されている。本発明の方法は,患者の皮膚の下にデポ部位を形成し,制御された熱をデポ部位に選択的に適用して薬剤の一部をデポ部位から全身循環中に放出させる工程を含む。
【0014】
本発明はまた,薬剤パッチの開始時間を有意に短くするために,パッチ貼用の初期に加熱部材および調節部材を用いて薬剤パッチの下の皮膚を加熱して皮膚透過性を高めるための方法および装置に関する。パッチ貼用の初期にはデポがほとんど存在しないため,加熱の主な効果は,デポから薬剤を放出させることではなく,皮膚の透過性を増加させることである。
【0015】
好ましい態様においては,調節部材は,患者がデポおよび薬剤パッチから予め決定された量のボーラス薬剤の輸送を誘発することを可能とする機構を有していてもよい。例えば,調節部材上のボタン(例えばPCAボタン)が押されたとき,予めプログラムされた調節部材は予め決定された時間,予め決定された大きさの電流を電線を通じて加熱部材に送る。電流の大きさおよび持続時間は,予め決定された量の薬剤をデポから全身循環中に放出する持続時間の間,皮膚の温度を上昇させるようなものである。電流の大きさは,種々の加熱温度対時間のプロファイルを生成して,種々の要求に適応させるように設計することができる。例えば,ゆっくりと上昇し,その後定常状態となる加熱温度は,皮膚温度の突然の上昇に伴う不快を最小にすることができる。図1は,温度対時間のプロファイルのいくつかの例を示す。
【0016】
調節部材は,医師または介護者が,種々の量の追加の薬剤に対応したいくつかの予めプログラムした加熱温度プロファイルから選択することを可能とする機構を有していてもよい。例えば,医師は,穏和な突破痛のエピソードを有する患者を治療するために予め決定された温度で5分間加熱するプロファイルを選択し,より重症の突破痛のエピソードを常に有する別の患者のために同じ温度で15分間加熱するプロファイルを選択するすることができる。あるいは,医師は,前者の患者のためにパッチの温度を加熱されない温度から10分間で2℃上昇させるプロファイルを選択し,後者の患者のために10分間で4℃上昇させる別のプロファイルを選択することができる。
【0017】
より簡単な形の装置は,予め決定された電力および加熱時間の組み合わせに対応する調節部材の設定を有する。各設定は,種々の予め決定された量の加熱エネルギーを(種々の加熱温度および持続時間の形で)皮膚部位に送る。このより簡単な形の装置では,皮膚の温度はモニターしない。ただし,各設定における電力は,皮膚に安全であるように予め決定される。このより簡単な形は,温度センサー,モニタリング,およびフィードバックシステムを有さず,したがってコストがより低い。これは,ディスポーザブル加熱部材の実行可能性を増加させるであろう。
【0018】
調節部材はまた,医師が"ロックアウト"時間を設定することを可能とする機構を有していてもよい。これは,患者が追加の薬剤の輸送を起動しようと試みてもデバイスが熱を発生しない時間の長さである。"ロックアウト"の特徴は薬剤の過剰投与を防止するためにPCAデバイスにおいて一般に用いられている。これは,薬剤パッチの下の組織中の枯渇したデポに再充填するのに十分な時間を与える目的のためにも働く。
【0019】
調節部材は,皮膚または薬剤パッチの近くの温度センサーから温度シグナルを受け取り,これにしたがって加熱部材への電流を調節する機構を有していてもよい。
【0020】
好ましい態様においては,加熱部材は,電流が供給されたときに熱を発生することができる。これはまた,薬剤パッチまたは皮膚における温度を測定し,これを調節部材にフィードバックして加熱温度を調節することができる温度センサーを有していてもよい。加熱部材はまた,損失を最小にし,加熱していないときにも皮膚における温度をより安定に維持するために,薬剤パッチと接触しない側に熱絶縁物質の層を有していてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図面の簡単な説明
上述および本発明の特徴は,付随する図面を考慮して,以下の記載および特許請求の範囲からさらに明らかとなるであろう。これらの図面は本発明の典型的な態様のみを示しており,したがって,本発明の範囲を限定するものではないことが理解される。添付の図面を用いて本発明をさらに特定的にかつ詳細に記載し説明する。
図1は,温度対時間のプロファイルのいくつかの例を示す。
図2は,貼付手段を有する加熱部材である。
図3は,薬剤パッチの領域の異なる部分をカバーする加熱領域を有する発熱酸化加熱パッチの形状の加熱部材である。
図4は,副加熱要素を有する電気的加熱装置に適応したフェンタニルパッチ副加熱要素を示す。
図5は,加熱により引き起こされる血清フェンタニル濃度の変化のグラフを示す。
【0022】
好ましい態様の詳細な説明
図面に一般に記載され描写されている本発明の部材は,広範な種類の異なる構成で配置し設計しうることが容易に理解されるであろう。すなわち,以下の本発明のシステムおよび方法の態様のより詳細な説明および図1−5に表される態様は,特許請求の範囲に示される本発明の範囲を限定することを意図するものではなく,本発明の現在好ましい態様の代表例にすぎない。
【0023】
本発明の現在好ましい態様は,図面を参照することにより最もよく理解されるであろう。図面においては,全体を通して同様の部分には同様の番号が付されている。
【実施例】
【0024】
実施例1
皮膚フェンタニルパッチおよびパッチの下の組織中の薬剤デポからの,フェンタニルの制御加熱誘導性ボーラス輸送の実験において,制御加熱誘導性フェンタニルボーラス輸送の驚くべき結果が観察された。
【0025】
実験は2部からなるものであった(アーム#1,アーム#2)。第1部においては,25mcg/時間のDuragesicフェンタニル皮膚パッチをヒト被験者の胸部皮膚に時間t=0に適用した。t=24時間において,皮膚温度を約40−42℃に約1時間上昇させることができる加熱パッチをDuragesicパッチの上に置いた。Duragesicおよび加熱パッチを両方ともt=30時間において取り除いた。加熱パッチは約40cm2の加熱面積を有していた。血液試料を,t=0の前,およびその後1時間ごとに36時間まで採取した。追加の血液試料を,24時間5分,24時間10分,24時間15分,24時間20分,24時間30分,24時間40分,24時間50分,および25時間30分に採取した。血清試料は血液試料から遠心分離により得た。血清試料中のフェンタニルの濃度は,ラジオイムノアッセイ法により決定した。
【0026】
実験の第2部においては,被験者に第1部と同様の処置を行ったが,ただし,皮膚温度を約40−42℃に約4時間加熱することができる加熱パッチを時間t=0においてDuragesicパッチ上に置いた。加熱パッチは,約40cm2の加熱面積を有していた。
【0027】
両腕を完了した5人の被験者および一部のみ完了した1人の被験者の血清フェンタニル濃度が表1に示される。
【0028】
結果は,Duragesicパッチを皮膚に24時間置いた後に加熱を開始して5−10分以内に,被験者の平均血清フェンタニル濃度は少なくとも60パーセント上昇したことを示した。
【0029】
この結果はまた,初期加熱を行った場合にはこれを行わなかった場合よりはるかに速く血清フェンタニルレベルが定常状態に達したことを示す。
【0030】
加熱パッチは,底壁(プラスチックテープ製,上壁と反対側に向いた接着側面を有する),上壁(プラスチックテープ製,底壁に向いた接着側面を有する),および薄い薄葉バッグ中の熱発生媒体を有していた。上壁の端を底壁の端に接着させて,壁の間に密封空間を形成した。薄葉バッグをこの空間に置いた。上壁は予め決定されたサイズを有する予め決定された数の穴を有していた。熱発生媒体は,活性炭,鉄粉,木細粉,塩,および水から構成された。加熱パッチは製造後直ちに気密パウチ中に保存した。使用の直前に,加熱パッチをパウチから取り出した。周囲空気中の酸素は上壁中の穴を通って熱発生媒体中に流れ,熱を発生する酸化反応を引き起こす。加熱温度および持続時間は,上壁中の穴のサイズおよび数,ならびに熱発生媒体の量および組成により決定される。例えば,約4時間持続する加熱パッチは,約1時間持続するパッチより多くの熱発生媒体を有する。
【0031】
当業者には一般に,経皮薬剤輸送がゆっくりしたプロセスであって,ゆっくり開始し,ゆっくり終了し,比較的なめらかな輸送速度を有することが知られている。したがって,血清フェンタニル濃度が5−10分間以内に60パーセントまたはそれ以上に上昇したことは非常に驚くべきことである。これらの結果は,デポ部位を加熱することによりデポ中に貯蔵されたフェンタニルのかなりの部分を全身循環中に迅速に輸送しうることを示唆する。このことは,パッチおよびパッチ下組織を短いが正確に加熱することにより,精密な量のボーラス薬剤を全身循環中に輸送しうることを示唆する。
【0032】
驚くべきことに,この実験は,熱誘導性血清フェンタニル濃度の上昇は,追加の鎮痛薬を輸送する一般的な方法である筋肉内注射および経口腔粘膜輸送より速いことを示す。これらの驚くべき知見は,経皮薬剤輸送パッチを施した患者の血中薬剤濃度を加熱により迅速に変化させうることを支持する。この実験においては精巧な電気的加熱部材を用いなかったが,これらの結果は,血清フェンタニル濃度の変化は加熱に迅速に応答することができることを示唆しており,これはPCAには必要である。
【0033】
実施例2
別の実施例においては,被験者は実施例1の第2部と同様の処置を受けるが,ただし,皮膚温度を約40−42℃に約4時間加熱しうる加熱パッチを時間t=0においてDuragesicパッチ上に置く。加熱パッチは,実施例1に記載される加熱面積の約半分の加熱面積を有する。
【0034】
結果は,Duragesicパッチを皮膚上に24時間置いた後に加熱を開始して5−10分間以内に,被験者の平均血清フェンタニル濃度は少なくとも30パーセント,または実施例1に示される増加の約半分増加したことを示す。
【0035】
実施例3
本発明の装置は,加熱部材および調節部材を含む。2つの部材は電線により接続されている。任意に,2つの部材は脱着可能なコネクタにより接続されていてもよい。
【0036】
加熱部材は,電気を供給したときに熱を発生することができる,実質的に二次元の抵抗加熱要素を含む。加熱要素の大きさおよび形状は様々でありうる。加熱要素を経皮薬剤輸送パッチに取り付ける場合,加熱部材の領域は,必要に応じて,薬剤パッチの領域より小さくてもよく,同じでもよく,大きくてもよい。例えば,薬剤をデポから放出する最大速度が望ましい場合,薬剤パッチの周囲の組織も暖めるために薬剤パッチより大きい加熱部材が必要であろう。
【0037】
加熱部材は,温度センサーが温度を測定し,これを電線を介して調節部材にフィードバックして,加熱要素への電流または電圧出力を調節することにより温度を制御することができるように,薬剤パッチと接触している温度センサーを有していてもよい。
【0038】
加熱部材は,種々の手段,例えば,フックおよびループ連結装置,接着剤およびパウチを用いて薬剤パッチに取り付けることができる。薬剤パッチを皮膚から取り除くことなくこれを薬剤パッチからはずす手段もまた提供される。
【0039】
加熱部材は,薬剤パッチと接触しない側に絶縁材料(すなわち,泡タイプ)の層を有していてもよい(任意)。絶縁層は,外部環境による温度の変動を最小にし,所望の加熱温度に達するために必要な電力を最小にすることができる。
【0040】
加熱要素要素はディスポーザブルでも再利用可能でもよい。
【0041】
調節部材は,異なるボーラス薬剤量に対応して異なる加熱温度/持続時間で輸送するための機構を提供する。
【0042】
この機構は,多位置ダイアルスイッチの形でありうる。ダイアルスイッチの各位置は,予め決定された加熱温度および持続時間を有する,予めプログラムした加熱温度−時間プロファイルに対応する。熱は,予め決定された量の薬剤を薬剤パッチの下のデポから放出させることができる。
【0043】
調節部材はまた,温度センサーからの信号に基づいて加熱温度を制御する機構を任意に含むことができる。温度センサーは,加熱前に皮膚温度を測定し,および/またはパッチ温度を測定してもよい。次に,調節部材は適当な電流または電圧を加熱要素に送り(時間の関数として),予めプログラムした温度増加対時間のプロファイルを生成する。加熱温度プロファイルのいくつかの例が図1に示される。
【0044】
センサーは,加熱の工程の間温度を測定しつづけて,これを調節部材にフィードバックして,実際の温度が予め決定された範囲内にあることを確実にすることができる。
【0045】
デポからのボーラス放出の量は,絶対的皮膚温度よりも,加熱されていない温度から加熱された温度への皮膚温度の変化および加熱持続時間に対してより関連性が高いであろうことが理解される。
【0046】
このことが実験的に証明されれば,温度フィードバックシステムは必要なく,ダイアルスイッチ中の位置は種々の予め決定された量の加熱エネルギー(予め決定された異なる大きさの電流または電圧および/または電流または電圧の持続時間の形で)に対応していることのみが必要であろう。もちろん,ダイアルスイッチの各位置により表される電流または電圧は,皮膚を過剰に加熱することを回避するために,予め決定されなければならない。温度センサーは温度センサーにより危険なほど高い温度が感知されたときに自動的に電流または電圧を切断する機構においても用いることができる。これは重要な安全上の特徴であろう。
【0047】
調節部材は輸送ボタンを有する。ボタンが押されたとき,調節部材はダイアルスイッチの設定にしたがって(上述),1エピソード分の電流または電圧を加熱部材に送る。設定は,医師または介護者が予め決定するか選択することができる。次に,加熱部材は薬剤パッチ,皮膚および/またはデポ部位を予め決定された時間,予め決定された温度プロファイルで加熱する。すなわち,輸送ボタンが押された後,予め決定された量のボーラス薬剤が輸送される。
【0048】
調節部材はまた,輸送ボタンが押されても調節部材が加熱要素に電流を送らない期間を医師が選択することを可能とするロックアウト機構を有する。
【0049】
これは,いくつかの位置,例えば,5,10,15,20,30,45,60分間を有するダイアルスイッチの形でありうる。例えば,ダイアルスイッチを10分間に設定すると,装置は,最後のボーラス投与後10分間は輸送ボタンが押されても電流を発生しない。これは,過剰投与のリスクを最小にし,最後のボーラス投与の後に薬剤パッチの下の組織中の薬剤デポを再充填するのに十分な時間を与えるために必要である。
【0050】
実施例4
デバイスは実施例3と同様であるが,ただし,図3および4に示されるように,加熱部材はいくつかの独立した副加熱要素を有し,そのそれぞれは薬剤パッチの領域の一部分(副領域)をカバーする。薬剤パッチは経皮フェンタニル輸送パッチである。調節部材はまた,一度に1またはそれ以上の副加熱要素を作動させ,このことにより1またはそれ以上の副領域を選択的に加熱することができる。例えば,加熱部材は4個の副加熱要素を有する。調節部材は,輸送ボタン(PCAボタン)を最初に押したときに,第1の副加熱要素のみが作動してフェンタニルパッチ領域の約25パーセント(第1の副領域)を予め決定された温度まで予め決定された時間加熱するよう設計する。次に,加熱されている領域の下の組織中のデポ中のフェンタニルは急速に全身循環中に放出されて,突破痛を治療する。2回目にPCAボタンを押したとき,調節部材は第2の副加熱要素を作動させ,以下同様である。PCAボタンを5回押した場合には,第1の副加熱要素が再び作動する。このときまでに,第1の副加熱要素の下のデポを再充填する。この設計においては,全体のフェンタニルデポの一部のみが一度に全身循環中に放出される。このことにより,過剰投与のリスクを最小にし,各副デポを涸渇後に再充填させることができる。
【0051】
突破痛を効果的に治療するためには,血清フェンタニル濃度の15−20パーセントの上昇が必要でありかつ十分であると見積もられている。本発明を用いて,全体のパッチおよび対応するデポ領域および周囲の皮膚領域を加熱することにより10分以内に血清フェンタニル濃度が70パーセント上昇する。したがって,フェンタニルパッチの一部および対応するデポ部位のみを加熱して突破痛を治療するのに十分な追加のフェンタニルを提供することが可能であり,それが必要であろう。
【0052】
実施例5
この実施例においては,実施例3または5におけるものと同様のデバイスを用いるが,このデバイスはさらに,加熱部材が薬剤パッチ全体の一部であるという特徴を含む。加熱部材からの電線のすべて(副加熱要素,温度センサー等のそれぞれからの電線)を,適合するコネクタを調節部材からの電線に適応させることができるコネクタ中に一体化する。ボーラス輸送の必要がないときには,患者は加熱部材−薬剤パッチの組み合わせを身につけ,加熱部材からの断熱の利益を享受することができる。ボーラス投与を得る必要があるときには,患者は加熱部材をコネクタにより調節部材に取り付け,調節部材上の輸送ボタンを押す。ボーラス投与の後,患者は調節部材を加熱部材から取り外してもよい。
【0053】
実施例6
この実施例においては,デバイスは実施例3または4と類似するが,加熱部材が薬剤パッチの全体の一部ではなく電線により調節部材に接続されている特徴をさらに含む。デバイスは,加熱部材を脱着可能なように薬剤パッチに貼付する手段を含む。例えば,加熱部材および薬剤パッチは,適合したループとフックの留め具またはパウチ連結装置を有する領域を有することができる。このようにして,患者は,ボーラス投与が必要ないときに薬剤パッチのみを身につける。ボーラス投与の必要が生じたとき,患者は加熱部材を薬剤パッチ上に置き,放出可能なように貼付する手段により加熱部材を薬剤パッチ上に保持する。次に患者は調節部材上の輸送ボタンを押して,追加の薬剤を得る。ボーラスを輸送した後,患者は薬剤パッチを取り除くことなく加熱部材を薬剤パッチから取り除くことができる。
【0054】
加熱部材上に貼付する手段および薬剤パッチは,加熱部材を薬剤パッチに貼付する手段が1つしかないように,設計することができる。これを行うことにより,実施例3に記載される,副領域を順番に加熱する特徴を用いることができる。そのような手段のいくつかが図2および4に示される。
【0055】
加熱部材を薬剤パッチに貼付する他の手段には,限定されないが,適切な粘着性および再利用性を有する接着剤が含まれる。
【0056】
実施例7
この実施例においては,加熱部材は化学反応,例えば鉄粉末の酸化により熱を発生する。加熱部材および薬剤パッチは,加熱部材を薬剤パッチ上に貼付する方法が1つしかないように設計する。パッチの形状の加熱部材はいくつかの異なるデザインで提供され,そのそれぞれは図3に示されるように,薬剤パッチ領域の異なる部分をカバーする加熱領域を有する。加熱パッチは,ユーザが予め配列された順番にしたがってのみ加熱部材を得ることができるディスペンサ中に入れる。例えば,ユーザが最上部のパッチを取り出した後にしか次のパッチを取り出せないように,ディスペンサ中に加熱パッチを積み重ねる。予め配列された順番は,薬剤パッチの加熱すべき領域の部分が順番に並ぶようなものである。このようにして,ユーザは順番にデポ領域の一部を作動させる。実施例3において説明したように,パッチおよびデポ部位の一部を選択的に加熱する利点は,発熱性の酸化加熱要素を用いることにより得ることができる。
【0057】
図4に示されるものと類似する加熱部材の組み合わせの設計もまた本発明において利用することができる。加熱部材(ディスクの形状)は4個の異なるデザインを有し,それぞれは薬剤パッチ領域の異なる部分をカバーすることができる加熱領域を有する。加熱ディスクは,広い側と狭い側とを有し,薬剤パッチの裏側のパウチは,加熱ディスクが狭い側を先にしてスライドすることのみを可能とするように3つの閉じた側および1つの開いた側を有する。加熱ディスクは,上述したように,ディスペンサ中に保存する。薬剤パッチ領域の異なる部分を順番に加熱することは,上述したものと同様の方法により行うことができる。
【0058】
実施例8
この実施例においては,実施例3のデバイスと類似するいくつかの副加熱要素を含む加熱デバイスは,パッチの下の皮膚下の領域を所望の順番で加熱することができるように,フェンタニルパッチに1つの方向でのみ配置することができる加熱部材を有する。
【0059】
図4は,パウチ中にディスクを1つの方向のみで挿入することができる,フェンタニルパッチの裏側のパウチと加熱ディスクとの組み合わせを表す。ディスクはより広い側とより狭い側とを有する。パウチは三方で閉じられており,1つの開口部を有する(点線)。狭い側を先にしてディスクをパウチに挿入するよう,ディスクの広い側はパウチの開口部より広い。患者が,皮膚下領域1を加熱した後に加熱ディスクをパウチから取り除き,次に再び加熱ディスクをパウチ中に置いて皮膚下領域2を加熱して突破痛の第2のエピソードを治療するとき,この構成は,皮膚下領域2を加熱することを保証するであろう。
【0060】
同様の方法/装置を用いて,化学加熱を用いて正しい皮膚下領域の加熱を保証することもできる。
【0061】
フェンタニルパッチの下の組織中の薬剤デポの1/4を作動させるために,フェンタニルパッチの全体の領域の1/4を加熱することは必要ない。その理由は,副加熱要素の下の熱は副加熱要素の周囲の領域に拡散しうるからである。したがって,副加熱要素によりカバーされているフェンタニルパッチの領域は,100パーセントより少なくてもよい。図4はこの概念を反映している。副加熱要素の所望の領域は実験により決定する必要がある。
【0062】
上では経皮フェンタニルパッチについてのみこのパウチ加熱ディスクの組み合わせを説明してきたが,他の経皮薬剤パッチについても同様の方法/装置を用いることができることに注意すべきである。
【0063】
本発明のシステムにおいては多くの薬剤を用いることができる。これらには以下のものが含まれる:鎮痛薬,麻酔薬,抗関節炎剤,抗炎症剤,抗片頭痛薬,心臓血管作動性薬剤,禁煙用薬剤,ホルモン。他の潜在的な薬剤には,限定されないが,以下のものが含まれる:アンドロゲン,エストロゲン,非ステロイド抗炎症剤,抗高血圧剤,鎮痛薬,抗鬱病薬,抗生物質,抗癌剤,局所麻酔剤,制吐剤,抗感染剤,避妊薬,抗糖尿病薬,ステロイド,抗アレルギー剤,抗偏頭痛剤,禁煙剤,および抗肥満剤。特定の薬剤には,限定されないが,以下のものが含まれる:ニコチン,テストステロン,エストラジオール,ニトログリセリン,クロニジン,デキサメタゾン,ウィンターグリーンオイル,テトラカイン,リドカイン,フェンタニル,スフェンタニル,アルフェンタニルおよび他の潜在的mu−レセプターアゴニスト,プロゲステロン,インスリン,ビタミンA,ビタミンC,ビタミンE,プリロカイン,ブピバカイン,スマトリプタン,スコポラミンおよびジヒドロエルゴタミン。
【0064】
実施例9
本発明はまた,外科手術後の痛みを治療するための非侵襲性PCAフェンタニル輸送システムおよびこれを用いる方法を含む。
【0065】
このシステムは,3つの部材を有する:経皮フェンタニルパッチ(好ましくは加熱部材を適合させるための手段,図4に示されるものと類似するものを有する),調節部材,および加熱部材。調節部材および加熱部材は,導電性の電線で接続されている。フェンタニルパッチはフェンタニルを受動的経皮透過により輸送することができる。加熱ユニットおよび調節部材は実施例4,5,6および8と同様である。さらに,デバイスには,AC電源または蓄電池(バッテリー)のいずれによっても動力を供給することができる。医師は,外科手術の間またはその後の時点でフェンタニルパッチを患者の皮膚上に置き,加熱部材のすべての副加熱要素がその下の皮膚を約40−42℃で3.5時間加熱するように,調節部材の設定を選択する。加熱により,血清フェンタニルレベルは約3−4時間以内に定常状態に達する。したがって,フェンタニルパッチの加熱を開始する時間は,パッチからのフェンタニルが外科手術からの麻酔が切れる前に十分な麻酔を提供するように選択される。調節部材はPCAボタンおよび1組のダイアルスイッチ(ボーラスダイアル)を有し,ボーラスダイアルのそれぞれの位置は予め決定されたボーラス用量に対応する。
【0066】
PCAボタンを押したとき,調節部材は加熱部材の特定の副加熱要素に電流または電圧を送る。電流または電圧の大きさおよび持続時間,ならびにいずれの副加熱要素を作動させるかは,ボーラスダイアルの設定により決定される。調節部材は,最後のボーラス投与からのロックアウト時間内にPCAボタンが押されたときは,電流または電圧を加熱部材に送らない。ロックアウト時間は,別のダイアルスイッチ(ロックアウト時間ダイアル)を用いて選択する。
【0067】
定常状態の血液フェンタニル濃度に達した後,医師は,患者がベースライン輸送より多くの鎮痛薬を得る必要を感じるときに輸送ボタン(PCAボタン)を押してパッチの受動透過により提供されるボーラス投与を得ることができるように,調節部材を設定する。この時期の運転を以後PCAモードと称する。調節部材は,医師が適切なボーラス用量および適切なロックアウト時間を選択することを可能とする。
【0068】
調節部材は,ボーラスダイアルの設定を予め決定された異なるボーラス用量に関連づけるためのいくつかの可能な態様を有することができる。1つの態様においては,ボーラスダイアルの各位置を,作動させるべき副加熱要素の数に対応させることができる。加熱部材は20個の副加熱要素を有することができ,これらの1つを予め決定された温度に予め決定された持続時間加熱すると,デポ中の1ユニットの薬剤が全身循環中に輸送される。したがって,PCAボタンを押したときにボーラスダイアルのスイッチの位置が"1ユニット"であれば,1つの副加熱要素に予め選択された電流または電圧が予め決定された持続時間供給される。PCAボタンを押したときにスイッチ位置が"2ユニット"であれば,2つの加熱要素に電流または電圧が供給され,以下同様である。PCAボタンを複数回押す場合には,作動させるべき副加熱要素は予め決定された順番に並べる(詳細および原理については実施例4および8を参照)。
【0069】
別の態様においては,ボーラスダイアルの各位置は異なる加熱時間に対応する。例えば,"1ユニット"の位置は5個の副加熱要素を1分間加熱し,"3ユニット"の位置は,5個の副加熱要素を3分間加熱し,以下同様である。しかし,加熱の初期にデポ中により多くの薬剤が存在する場合,単位加熱時間あたりより多くの薬剤がデポから放出されるため,ボーラスの量は,加熱の持続時間と直線的に比例しないかもしれない。したがって,3ユニットボーラスは1ユニットボーラスより3倍多い加熱時間を必要とするかもしれない。各ボーラス用量についての実際の加熱持続時間は実験により決定する必要がある。
【0070】
別の態様においては,上述の加熱の組み合わせを作成する。
【0071】
制御ユニットは,最初の3−4時間の加熱の後に自動的にPCAモードに設定されるようにプログラムしてもよい。
【0072】
各患者は外科手術の後の日々には異なるベースラインのフェンタニル輸送速度を必要とするかもしれないため,制御ユニットは,外科手術後の日々の一部または全体にわたって,ある数の副加熱要素を選択的に連続的に加熱する機構を有していてもよい。この機構は制御ユニット上の別の組のダイアルスイッチ(ベースライン速度ダイアル)の形であることができ,ここで,ベースライン速度ダイアルの各位置は,選択された数の副加熱要素を連続的に加熱することに対応する。例えば,皮膚を約42℃に加熱すると,経皮フェンタニル輸送速度は約4倍増加する。ある患者は,加熱せずに(開始時間を短くするために初期加熱した後),システムにより,その外科手術後の痛みを管理するのに満足しうる麻酔を与えられるかもしれない。別の患者は,外科手術後の痛みを管理するために,初期加熱の後に60%多いフェンタニルを必要とするかもしれない。後者の患者については,医師は,20個の副加熱要素の4個を連続加熱させるベースライン速度ダイアルの位置を選択することができる。すなわち,4個の要素(すべての要素の20%)は,加熱していないパッチの薬剤入力速度の4x20%=80%を生成し,残りの薬剤パッチ領域もまた,加熱していないパッチの速度の80%を輸送する。その結果,患者は,加熱していないパッチの輸送速度の160%を得る。医師はまた,初期設定が高すぎるか低すぎる場合,または患者の必要性が変化した場合に,ベースライン速度ダイアルの設定を変更して,連続加熱する副加熱要素の数を変化させることができる。したがって,この設計は,医師が各患者についてベースライン薬剤輸送速度を精密に制御し,必要な場合には調節することを可能とする。
【0073】
上述の装置および方法は,従来技術と比較していくつかの重要な利点を有する。現在の受動性経皮フェンタニルパッチ,例えばDuragesicパッチは,開始時間が長い(12−18時間)こと,および医師と患者のいずれもフェンタニル輸送速度を調節することができないこと等のいくつかの理由により,手術後の痛みの管理には適していない。これらはまた,PCA投与およびロックアウト時間などの重要な特徴を有していない。上述の装置は,外科手術からの麻酔が切れる前に治療的レベルの血液フェンタニルを達成することができるように,開始時間を著しく短くすることができる。このシステムは,医師が特定の患者に対して適切なPCAボーラス投与を選択することを可能とし,かつ患者がPCAボタンを押すことによりPCA投与を受けることを可能とする。装置はフェンタニルをベースライン速度で輸送し,医師が各患者について適切な時にベースライン輸送速度を調節し,必要性の変化に対応することを可能とする。このシステムは,最新のPCAポンプの重要な特徴のほとんど(ベースライン輸送,調節可能なベースライン輸送速度,調節可能なボーラス投与量,ロックアウト時間)を有するが,さらに非侵襲性であるという追加の利点を有する。
【0074】
上述のシステムは,鎮痛薬としてフェンタニルを用いることに限定されないことに注意すべきである。上述のシステムにおいては経皮的に輸送して十分な鎮痛作用を与えることができる任意の薬剤を用いることができる。これらの薬剤には,スフェンタニル,アルフェンタニル,および他の強力なmu−レセプターアゴニストが含まれる。
【0075】
実施例10
方法および装置は,実施例3−8に記載されるものと類似するが,ただし,薬剤パッチは禁煙用経皮ニコチンパッチである。ユーザの喫煙の欲求が高まったとき,ユーザは装置を用いてパッチ下デポから追加のニコチンを放出させることができる。
【0076】
実施例11
フェンタニルおよび調節放出ハイドロゲルを含む調節放出処方を患者の皮膚下組織に注射して,外科手術後の痛みを管理する。調節放出処方は,皮膚の加熱が処方における温度を上昇させることができるように,皮膚表面から0.5cm以内に注射する。加熱は処方の周囲の血液循環を増加させ,および/または処方の浸食速度を増加させるため,加熱によりフェンタニル放出速度が増加する。この調節放出システムは,平均的な患者のベースラインの痛みを治療するのに十分なフェンタニル輸送速度を提供する。特定の患者がその痛みを管理するためにより多くの鎮痛薬を必要とする場合に,医師は,実施例9(調節部材および加熱要素,ただし経皮パッチを含まない)におけるものと類似するデバイスの加熱部材を,その下に処方が存在する患者の皮膚上に置き,適切な数の副加熱要素を作動させて,輸送速度を適切なパーセントだけ増加させることができる。
【0077】
実施例12
実施例11と同様であるが,ただし,この場合には癌の痛みを管理するために調節放出処方を用い,薬剤はスフェンタニルである。調節放出処方は,スフェンタニルを癌のベースラインの痛みを少なくとも数ヶ月治療するのに十分な速度で輸送するよう設計する。患者が癌の突破痛を治療するために追加のスフェンタニルを必要とするとき,患者は実施例9および11の装置と類似の装置を用いてボーラス投与量を得る。
【0078】
本発明は,本発明の精神または必須の特徴から逸脱することなく,他の特定の形態で具体化することができる。記載される態様および存在する場合には添付書類に開示される態様は,あらゆる意味において例示的であり限定的なものではないと考えるべきである。したがって,本発明の範囲は,前述の記載ではなく添付の特許請求の範囲により示される。特許請求の範囲の意味および均等の範囲内に含まれるすべての変更は,その範囲内に含有される。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1a−d】図1a−dは,温度対時間のプロファイルのいくつかの例を示す。
【図1e−g】図1e−gは,温度対時間のプロファイルのいくつかの例を示す。
【図2】図2は,貼付手段を有する加熱部材である。
【図3】図3は,薬剤パッチの領域の異なる部分をカバーする加熱領域を有する発熱酸化加熱パッチの形状の加熱部材である。
【図4】図4は,副加熱要素を有する電気的加熱装置に適応したフェンタニルパッチ副加熱要素を示す。
【図5】図5は,加熱により引き起こされる血清フェンタニル濃度の変化のグラフを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者に薬剤を迅速に輸送するための装置であって,
皮下の薬剤デポ部位を形成しうる薬剤輸送システム;
薬剤デポ部位を加熱するための熱を発生する加熱部材;および
加熱部材により発生する熱の量および時間を制御しうる制御部材
を含み,
ここで,該装置は,加熱部材が薬剤デポ部位を加熱する前に薬剤輸送システムが薬剤デポを形成するような形状であることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記薬剤が制御放出処方中にある,請求項1に記載の装置。
【請求項3】
薬剤が皮膚組織内に配置される,請求項1に記載の装置。
【請求項4】
薬剤が皮膚下組織内に配置される,請求項1に記載の装置。
【請求項5】
薬剤デポ部位中の薬剤が皮膚に注入される,請求項1に記載の装置。
【請求項6】
薬剤デポ部位中の薬剤が皮膚内に移植される,請求項1に記載の装置。
【請求項7】
薬剤デポ部位が全身輸送される追加の薬剤のボーラスを含む,請求項1に記載の装置。
【請求項8】
薬剤デポ部位中の薬剤が経皮的に皮膚内に吸収される,請求項1に記載の装置。
【請求項9】
薬剤輸送システムおよび加熱部材が,熱を薬剤デポ部位に適用するために組み合わされる2つの別々の部材である,請求項1に記載の装置。
【請求項10】
加熱部材が,電流が供給されるときに熱を発生しうる,請求項1に記載の装置。
【請求項11】
制御部材が皮膚に近接した温度センサーからの温度信号を受けとる,請求項10に記載の装置。
【請求項12】
制御部材が温度センサーに応じて加熱部材への電流を調節する,請求項11に記載の装置。
【請求項13】
制御部材が予め決められた電力と加熱時間の組合せに対応する設定を有する,請求項10に記載の装置。
【請求項14】
制御部材が薬剤投与の間装置が熱を発生しないある長さの時間をロックアウトするメカニズムをも有する,請求項10に記載の装置。
【請求項15】
制御部材がデポ部位から予め決められた量のボーラス薬剤の輸送を患者が開始しうるメカニズムである,請求項10に記載の装置。
【請求項16】
制御部材がボタンを用いることによって稼動する,請求項10に記載の装置。
【請求項17】
制御部材が予め決められた長さの間電線を通して加熱部材に予め決められた大きさの電流を送るようプログラムされている,請求項10に記載の装置。
【請求項18】
電流の量および予め決められた時間の長さが,デポ部位から予め決められた量の薬剤を放出させる予め決められた長さの時間皮膚の温度上昇をもたらす,請求項17に記載の装置。
【請求項19】
電流の量が異なるニーズに対応するためのいくつかの加熱温度対時間のプロファイルを生ずるよう設計されている,請求項17に記載の装置。
【請求項20】
制御装置が熱によって皮膚下組織からボーラス薬剤を安全かつ効率よく輸送する,請求項1に記載の装置。
【請求項21】
加熱部材が電気加熱部材である,請求項1に記載の装置。
【請求項22】
電気加熱部材と組み合わせられたマイクロプロセッサーをさらに含む,請求項21に記載の装置。
【請求項23】
電気加熱部材と制御部材が電線で結ばれている,請求項1に記載の装置。
【請求項24】
加熱部材が,加熱温度を制御するために薬剤輸送システムの温度を測定し測定温度を制御部材に伝達する温度センサーを有する,請求項1に記載の装置。
【請求項25】
加熱部材が熱損失を最小化するために薬剤輸送システムに接触していない側において断熱材の層を有する,請求項1に記載の装置。
【請求項26】
制御部材が熱を制御するための複数の設定を有しており,各設定は異なる量の熱エネルギを薬剤デポ部位に近接した皮膚部位に伝搬する,請求項1に記載の装置。
【請求項27】
各設定に伴う電力が予め決められている,請求項1に記載の装置。
【請求項28】
薬剤デポ部位の薬剤が経皮薬剤パッチから皮膚に輸送される,請求項1に記載の装置。
【請求項29】
薬剤パッチが鎮痛剤パッチである,請求項28に記載の装置。
【請求項30】
前記パッチが患者の皮膚上に予め決められた時間適用されてデポ部位を形成する,請求項28に記載の装置。
【請求項31】
加熱部材を薬剤パッチに取り外し可能なように貼付するための手段をさらに有する,請求項28に記載の装置。
【請求項32】
加熱部材および薬剤パッチが対応するループとフックを有するファスナーを有する領域を有する,請求項31に記載の装置。
【請求項33】
加熱部材を薬剤パッチに貼付する手段が指定される方向にのみ貼付されることができる,請求項31に記載の装置。
【請求項34】
加熱部材を貼付する手段が適度の粘着性および再利用性を有する接着剤を含む,請求項31に記載の装置。
【請求項35】
前記加熱部材が発熱酸化加熱パッチである,請求項1に記載の装置。
【請求項36】
発熱酸化加熱パッチが薬剤パッチ領域の一部を覆う加熱領域を含む,請求項35に記載の装置。
【請求項37】
加熱部材が使い捨て加熱部材である,請求項35に記載の装置。
【請求項38】
薬剤が,鎮痛薬,麻酔薬,抗関節炎剤,抗炎症剤,抗片頭痛薬,心臓血管作動性薬剤,禁煙用薬剤,ホルモン,アンドロゲン,エストロゲン,非ステロイド抗炎症剤,抗高血圧剤,鎮痛薬,抗鬱病薬,抗生物質,抗癌剤,局所麻酔剤,制吐剤,抗感染剤,避妊薬,抗糖尿病薬,ステロイド,抗アレルギー剤,抗片頭痛剤,禁煙剤,抗肥満剤,ニコチン,テストステロン,エストラジオール,ニトログリセリン,クロニジン,デキサメタゾン,ウィンターグリーンオイル,テトラカイン,リドカイン,フェンタニル,スフェンタニル,アルフェンタニルおよび効力を有する他のmu−レセプターアゴニスト,プロゲステロン,インスリン,ビタミンA,ビタミンC,ビタミンE,プリロカイン,ブピバカイン,スマトリプタン,スコポラミンおよびジヒドロエルゴタミンからなる群より選択される,請求項1に記載の装置。
【請求項39】
患者に薬剤を迅速に供給するための装置であって,
皮下の薬剤デポ部位を形成しうる薬剤輸送システム;
薬剤デポ部位が形成された後に薬剤デポ部位を加熱するための熱を発生するよう形成された加熱部材であって,化学反応により熱を発生する加熱部材;および
加熱部材により発生する熱の量を制御しうる制御部材
を含む装置。
【請求項40】
加熱部材が鉄粉の酸化により熱を発生しうる加熱パッチである,請求項39に記載の装置。
【請求項41】
加熱部材が,経皮パッチ上に配置されたときに,皮膚温度を約40−42℃に約1時間上昇させることができる加熱パッチである,請求項40に記載の装置。
【請求項42】
加熱パッチが40cm2の加熱領域を有する,請求項40に記載の装置。
【請求項43】
加熱部材と薬剤パッチが,加熱部材を薬剤パッチに貼付する方法が1つしかないように設計されている,請求項40に記載の装置。
【請求項44】
加熱部材が複数のパッチであり,各パッチは薬剤パッチ領域の異なる部分を覆って直接加熱する,請求項40に記載の装置。
【請求項45】
加熱部材が予め配列された順番にしたがってパッチ上に配置されている複数のパッチである,請求項40に記載の装置。
【請求項46】
加熱部材が,ユーザが予め配列された順番にしたがってしか加熱パッチを得ることができないようにディスペンサ中で提供される複数の加熱パッチである,請求項40に記載の装置。
【請求項47】
複数の加熱パッチが,ユーザが最上部のパッチを取り出した後にしか次のパッチを取り出せないようにディスペンサ中に積み重ねられている,請求項46に記載の装置。
【請求項48】
複数の加熱パッチが予め配列された順番にしたがって用いられ,予め決められた順番で加熱される,請求項46に記載の装置。
【請求項49】
ユーザーが加熱部材を順番に作動させて,デポ部位の一部を選択的に加熱する,請求項40に記載の装置。
【請求項50】
薬剤輸送システムおよび加熱部材が,熱を薬剤デポ部位に適用するために組み合わされる2つの別々の部材である,請求項40記載の装置。
【請求項51】
患者に薬を輸送するための装置であって,
皮下の薬剤デポ部位を形成しうる薬剤輸送システム;
複数の副加熱要素を含み,デポ部位を加熱するための熱を発生する加熱部材;および
加熱部材により発生する熱の量を制御しうる制御部材
を含み,
ここで,装置は,加熱部材による熱の発生の前に薬剤輸送システムが薬剤デポを形成するような形状であることを特徴とする装置。
【請求項52】
加熱部材がディスクの形状である,請求項51に記載の装置。
【請求項53】
加熱ディスクが広い側と狭い側とを有し,薬剤パッチが薬剤パッチの裏側にパウチを有し,パウチは加熱ディスクを狭い側を先にして滑り込ませることのみを可能とするように少なくとも2つの閉じた側および1つの開いた側を有する,請求項52に記載の装置。
【請求項54】
パウチが少なくとも2つの側で閉じられており,少なくとも1つの側で開いている,請求項53に記載の装置。
【請求項55】
ディスクの広い側がパウチの開口部より広い,請求項53に記載の装置。
【請求項56】
制御部材が各副加熱要素の加熱温度と時間を独立して制御することができ,望ましい時間のために適切な設定を選択することによりいくつかのあるいはすべての副加熱要素を加熱することができる,請求項51に記載の装置。
【請求項57】
ディスクが狭い側を先にしてのみパウチに挿入されることができる,請求項53に記載の装置。
【請求項58】
副加熱要素により加熱される薬剤輸送システムの領域が100%未満である,請求項51に記載の加熱装置。
【請求項59】
薬剤輸送システムが,鎮痛薬,麻酔薬,抗関節炎剤,抗炎症剤,抗片頭痛薬,心臓血管作動性薬剤,禁煙用薬剤,ホルモン,アンドロゲン,エストロゲン,非ステロイド抗炎症剤,抗高血圧剤,鎮痛薬,抗鬱病薬,抗生物質,抗癌剤,局所麻酔剤,制吐剤,抗感染剤,避妊薬,抗糖尿病薬,ステロイド,抗アレルギー剤,抗片頭痛剤,禁煙剤,抗肥満剤,ニコチン,テストステロン,エストラジオール,ニトログリセリン,クロニジン,デキサメタゾン,ウィンターグリーンオイル,テトラカイン,リドカイン,フェンタニル,スフェンタニル,アルフェンタニルおよび効力を有する他のmu−レセプターアゴニスト,プロゲステロン,インスリン,ビタミンA,ビタミンC,ビタミンE,プリロカイン,ブピバカイン,スマトリプタン,スコポラミンおよびジヒドロエルゴタミンからなる群より選択される薬剤を輸送する,請求項51に記載の加熱装置。


【図1a−d】
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【図1e−g】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−326337(P2006−326337A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−234988(P2006−234988)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【分割の表示】特願2001−563051(P2001−563051)の分割
【原出願日】平成13年2月28日(2001.2.28)
【出願人】(502110322)ザーズ インコーポレーテッド (4)
【Fターム(参考)】