説明

医薬組成物及びゼリー状製剤

【課題】熱安定性が悪いアレルゲンを安定的に貯蔵及び伝達することのできる医薬組成物の提供。
【解決手段】pHが5.5〜8.5の範囲にあり、アレルゲンと、酢酸、リン酸若しくはホウ酸又はこれらの混合物、及び、炭酸ナトリウムなどのpH調節剤およびゲル化剤としてのゼラチンと、水を含有するゼリー状の減感作療法用医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレルギー症の予防又は治療剤として有用な医薬組成物に関し、特に、アレルゲンの安定性に優れ、貯蔵及び取り扱い等の利便性に優れた医薬組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
花粉アレルギー等のアレルギー性疾患に対する治療としては、現状、抗ヒスタミン剤を用いる対処療法がそのほとんどであるが、近年、アレルギー性疾患を根治可能な治療方法として減感作療法が注目を集めている。
減感作療法は、一般的に2〜3年程度の長期間投与が必要であり、当観点から介護者及び患者のQOL(quality of life)をより向上させるような剤型が必要であると考えられている。
【0003】
現在、特異的減感作療法用製剤は、皮下注射を目的とした注射剤がほとんどである。
しかしながら、皮下注射による特異的減感作療法では、アナフィラキシーショックの危険性、医療従事者による投与の必要性、長期間にわたる頻繁な通院の必要性、注射による痛み、冷蔵保管である等の問題点があった。
【0004】
これに対して、近年、欧米では舌下投与を目的とした液剤及び錠剤が市販され、その副作用の少なさと簡便さから注目を集めている。
しかしながら、液剤の舌下投与による特異的減感作療法では、投与量の不正確さ、冷蔵保管である等の問題があった。
また、錠剤の舌下投与による特異的減感作療法では、誤飲、投与量の調整が難しい、携帯性が悪い、残渣による口腔内への違和感等の問題があった。
【0005】
また、アレルゲンの製剤化においては、アレルゲンを安定に保存させること、すなわち、生物学的活性の損失を最小限に抑制することが必須である。
このようなアレルゲンの製剤化技術として、例えば、特許文献1には、安定化剤として、グルコース、マルツロース、イソ−マルツロース、ラクツロース、スクロース、マルトース、ラクトース、ソルビトール、イソ−マルトース、マルチトール、ラクチトール、パラチニット、トレハロース、ラフィノース、スタキオース、メレジトース及びデキストランからなる群より選択されるガラス形成ポリオールを含んだ生物学的サンプルを高い粘性を有する液体として保存できるように乾燥することが提案されている。また、例えば、特許文献1と同様の技術として、例えば、特許文献2には、スクロースまたはトレハロースを第一成分として含み、第二成分としてマンニトール、ラフィノース、ラクチトール、ソルビトール及びラクトビオン酸からなる群より選択されるこれら糖を含んだ生物学的サンプルの高粘度液体が提案されている。また、例えば、特許文献3には、タンパク質を安定化又は可溶化させるための方法として糖ポリマー誘導体を接触させることが提案されており、当該糖ポリマー誘導体として、エリトロース、トレオロース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タゴトース、キシルロース、リブロースが挙げられている。また、例えば、特許文献4には、タンパク質剤の安定化のための組成物として、界面活性剤、2種類のアミノ酸、2糖類及びエチレンジアミン4酢酸を含むものが提案されており、2糖類としてスクロース、トレハロース又はラクトースが挙げられている。また、例えば、特許文献5には、少なくとも1つのアミノ酸、少なくとも1つの糖及び少なくとも1つのポリアミンを含む安定剤組成物が提案されており、その糖として、グルコース、ラクトース、マルトール、トレハロース、ソルビトール、マンニトールが挙げられている。また、例えば、特許文献6には、液体ワクチンを安定化する方法としてトレハロースの添加が提案されている。また、例えば、特許文献7には、ゼラチン、デンプン及びマンニトールからなる群より選択されるマトリックスを含み、凍結乾燥品である速分散性固体アレルゲン剤形が提案されており、マトリックスを含有する溶液を固化する前に、アレルゲンの変性、沈殿を防ぎ、安定な生成物を確実にするためにpHを調製するのが好ましいことが提案されている。特許文献7において、溶液のpHは、好ましくは3.5〜10、より好ましくは4〜9、最も好ましくは6〜9であることが提案されている。
しかしながら、アレルゲンは熱安定性が悪く、従来のアレルゲンの製剤化技術では、アレルゲンを安定的に貯蔵及び伝達することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2006−504801号公報
【特許文献2】特表2007−535514号公報
【特許文献3】特表2008−501639号公報
【特許文献4】特表2006−528137号公報
【特許文献5】特表2008−532977号公報
【特許文献6】特表2002−540079号公報
【特許文献7】特表2006−513269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、熱安定性が悪いアレルゲンを安定的に貯蔵及び伝達することのできる医薬組成物、該医薬組成物を用いてなるゼリー状製剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、水溶液のpHを特定の範囲に調節することで、熱安定性の悪いアレルゲンであっても安定的に貯蔵及び伝達させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、pHが5.5〜8.5の範囲にあり、アレルゲンと、少なくとも1種のpH調節剤と、水とを含むことを特徴とする医薬組成物である。
本発明の医薬組成物において、上記pH調節剤は、酢酸、リン酸若しくはホウ酸又はこれらの混合物、及び、炭酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
本発明の医薬組成物は、皮下注射用であることが好ましい。
また、本発明の医薬組成物は、経口投与用であることが好ましい。
また、本発明の医薬組成物は、減感作療法用であることが好ましい。
また、本発明の医薬組成物は、経口投与用の液剤であることが好ましい。
また、本発明は、pHが5.5〜8.5の範囲にあり、アレルゲンと、少なくとも1種のpH調節剤と、ゲル化剤としてのゼラチンと、水とを含有することを特徴とするゼリー状製剤でもある。
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明の医薬組成物は、アレルゲンと、少なくとも1種のpH調節剤と、水とを含むものである。
上記pH調節剤としては、本発明の医薬組成物のpHを後述する範囲とできるものであれば特に限定されないが、経口投与の使用実績のあるものが好ましい。このようなpH調節剤としては、例えば、医薬品添加剤として実績がある、アジピン酸、アンモニア水、塩酸、炭酸ナトリウム、希塩酸、クエン酸水和物、グリシン、グルコノ−δ−ラクトン、グルコン酸、結晶リン酸二水素ナトリウム、コハク酸、酢酸、酢酸アンモニウム、酢酸ナトリウム水和物、ジイソプロパノールアミン、酒石酸、D−酒石酸、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム水和物、トリイソプロパノールアミン、トリエタノールアミン、二酸化炭素、乳酸、乳酸ナトリウム液、氷酢酸、フマル酸一ナトリウム、フマル酸、プロピオン酸ナトリウム、ホウ酸、ホウ酸アンモニウム、ホウ砂、マレイン酸、無水クエン酸、無水リン酸一水素ナトリウム、無水リン酸二水素ナトリウム、メグルミン、メタンスルホン酸、モノエタノールアミン、硫酸、硫酸アルミニウムカリウム水和物、DL−リンゴ酸、リン酸、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム等が挙げられる。これらのpH調節剤は、単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0011】
また、上記pH調節剤は、本発明の医薬組成物の製造上の観点から、少量でpHの調節が可能なものが好ましい。このようなpH調節剤としては、例えば、塩酸、炭酸ナトリウム及び水酸化ナトリウム等が挙げられる。
また、上記pH調節剤は、タンパク質の変性や凝集を抑制する効果のある有機酸及び有機酸塩も好適である。このようなpH調節剤としては、例えば、クエン酸水和物、グリシン、グルコノ−δ−ラクトン、グルコン酸、コハク酸、酢酸、酢酸ナトリウム水和物、酒石酸、乳酸、氷酢酸、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、マレイン酸、無水クエン酸、リンゴ酸等が挙げられる。
更に、本発明の医薬組成物においては、上記pH調節剤は、緩衝能が後述するpHの範囲内で最大となる緩衝液や、タンパク質の変性や凝集を抑制する効果のある有機酸若しくは有機酸塩を含む緩衝溶液が好ましい。
具体的には、例えば、クエン酸緩衝液(クエン酸及びクエン酸ナトリウムからなる混合物)、酢酸緩衝液(酢酸及び酢酸ナトリウムからなる混合物)、クエン酸−リン酸緩衝液(クエン酸及びリン酸水素二ナトリウムからなる混合物)、リン酸緩衝液(リン酸二水素ナトリウム及びリン酸水素ニナトリウムならなる混合物)等が挙げられる。
また、後述するpHの範囲内であれば広域緩衝液であるBritton−Robinson緩衝液を上記pH調節剤として使用することもできる。
上記Britton−Robinson緩衝液としては、本発明の医薬組成物が後述するpHの範囲内となるものであれば特に限定されないが、例えば、酢酸:リン酸:ホウ酸=1:1:1(重量比)の混合物が好適に用いられる。
【0012】
なかでも、本発明の医薬組成物においては、酢酸、リン酸若しくはホウ酸又はこれらの混合物、及び、炭酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含むpH調節剤が好適に用いられる。
また、本発明では、上記pH調節剤として、例えば、有機酸と、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化カリウム等との組み合わせのように、医薬組成物中で上記pH調節剤として例示した有機酸塩と同等の有機酸塩となる組み合わせが用いられてもよい。
【0013】
上記pH調節剤の含有量としては特に限定されず、本発明の医薬組成物のpHが、後述する範囲内となるよう適宜調整される。
【0014】
本発明で用いられるアレルゲンとは、アレルギー疾患を持っている人の抗体として特異的に反応する抗原を意味し、典型的にはタンパク質である。
具体的には、樹木類の花粉に由来するアレルゲン(アカシア、ハンノキ、ビロードアオダイモ、セイヨウブナ、白樺、カエデ、山スギ、赤スギ、ハコヤナギ、ヒノキ、アメリカニレ、アキニレ、トガサワラ、ゴムの木、ユーカリの木、エノキ、ヒッコリー、アメリカシナノキ、サトウカエデ、メスキート、カジノキ、コナラ属、オリーブ、ペカン、コショウ、マツ、イボタツキ、ロシアオリーブ、アメリカスズカケ、ニワウルシ、クロクルミ、クロヤナギ等)、草木類の花粉に由来するアレルゲン(ワタ、ギョウギシバ、ナガハグサ、スズメノチャヒキ、トウモロコシ、ヒロハウシノケグサ、セイバンモロコシ、カラスムギ、カモガヤ、コヌカグサ、ホソムギ、コメ、ハルガヤ、オオアワガエリ、ヒユ、アカザ、オナモミ、ギシギシ、セイタカアワダチソウ、イソホウキ、シロザ、キンセンカ、イラクサ、アオビエ、ヘラオオバコ、オオブタクサ、ブタクサ、ブタクサモドキ、ノハラヒジキ、ヤマヨモギ、エニシダ、ヒメスイバ等)、虫由来のアレルゲン(カイコ、ダニ、ミツバチ、スズメバチ、アリ、ゴキブリ等)、菌由来のアレルゲン(アルテルナリア、アスペルギルス、ボツリヌス、カンジダ、セファロスポリウム、カーブラリア属、エピコッカム菌、表皮菌、フザリウム属、ヘルミントスポリウム属、連鎖クラドスポリウム、ケカビ、ペニシュリウム、ファーマ属、プルラリアプルランス、クモノスカビ等)、動物の体毛由来のアレルゲン(犬、猫、鳥等)、ハウスダスト由来のアレルゲン、食物由来のアレルゲン等が挙げられ、アレルギー疾患を持っている人の抗体と特異的に反応する抗原であれば特に限定されない。
【0015】
ここで、現在、患者の多いスギ花粉アレルギー症の減感作療法が望まれている。このため、本発明の医薬組成物において、上記アレルゲンとしては、スギ花粉アレルゲンタンパク質であることが好ましい。
上記スギ花粉アレルゲンタンパク質とは、スギ花粉より抽出されたアレルギー疾患を持っている人の抗体と特異的に反応する抗原性を有するタンパク質、該タンパク質とアミノ酸レベルで相同性の高いタンパク質を有効成分としてなる群より選ばれる1種類以上を含むものが挙げられる。
【0016】
上記スギ花粉より抽出された抗原性を有するタンパク質としては、スギ花粉特異的IgE抗体の産生を誘導できるような、スギ花粉中に含まれるタンパク質が挙げられる。このスギ花粉中に含まれるタンパク質は、メジャースギ花粉アレルゲンタンパク質とマイナースギ花粉アレルゲンタンパク質とからなる。
なお、花粉に含まれるいくつかのスギ花粉エキスの内で、大多数の患者が強く感作されている成分をメジャースギ花粉アレルゲンタンパク質といい、一部の患者のみが感作されている成分をマイナースギ花粉アレルゲンタンパク質という。
【0017】
上記スギ花粉アレルゲンタンパク質は、それらを含む液状であってもよく、固体であってもよい。ここで、液状のもの(水を含むもの)をスギ花粉エキスと呼び、液状のスギ花粉エキスの場合、上述したようにpHを調節し、本発明の医薬組成物をそのまま注射剤又は経口液剤として使用してもよく、本発明の医薬組成物にゲル化剤を更に加え、固形化して経口固形製剤としてもよい。
またスギ花粉エキスと上述したpH調節剤とを混合した後に、凍結乾燥等の操作をすることにより、本発明の医薬組成物を経口固形製剤としてもよい。
【0018】
上記スギ花粉エキスとしては、なかでも、メジャースギ花粉アレルゲンタンパク質であるCryj1及びCryj2及びそれらの混合物が好ましい。また、本発明では、上記Cryj1及びCryj2のみならずマイナースギ花粉アレルゲンタンパク質も含んだスギ花粉抽出液であるスギ花粉エキスそのまま、若しくは、希釈したもの、又は、凍結乾燥させた固形のものも好ましい。なお、実際に医薬品として鳥居薬品株式会社より上記スギ花粉エキスに相当する治療用標準化アレルゲンエキス皮下注「トリイ」スギ花粉200JAU/mL、及び、治療用標準化アレルゲンエキス皮下注「トリイ」スギ花粉2000JAU/mLが販売されており、当該医薬品を用いてもよい。なお、これら医薬品のpHは4.0〜5.5である。
ここで、上記「JAU」は、「Japanese Allergy Units」の略であり、メジャーアレルゲンタンパク質であるCryj1により標準化させたスギ花粉アレルゲンタンパク質の力価を意味する。
【0019】
上記アレルゲンの配合量としては、その性質などによっても異なるが、本発明の医薬組成物の全量に対して、通常1×10−10〜60重量%であることが好ましい。1×10−10重量%未満であると、減感作療法に適さないものとなることがあり、60重量%を超えると、本発明の医薬組成物をフィルム状の製剤としたときに、フィルム強度が著しく低下し、フィルムの保型性に問題が生じる可能性がある。
【0020】
本発明の医薬組成物において、上記アレルゲンを含む溶液のpHは、5.5〜8.5の範囲である。pHが5.5未満又は8.5より大きい範囲では、アレルゲンの物理化学的安定性が顕著に減少し、安全性上問題となる。なお、上記治療用標準化アレルゲンエキスの規格は、pH4〜5に設定されている。
【0021】
本発明の医薬組成物は、更に水を含有する。
上記水を更に含有することで、本発明の医薬組成物を後述するゼリー状製剤として好適に用いることができる。なお、この理由については後述する。
【0022】
また、本発明の医薬組成物は、ゼラチンを含有することが好ましい。
上記ゼラチンは、ゲル化剤又は安定化剤として機能するものであり、動物の皮や骨に含まれるタンパク質を酵素によって分解抽出したものが挙げられ、例えば、豚、牛及び魚由来のものを酸処理又はアルカリ処理したいずれのものでも使用できる。上述したアレルゲンの保管時安定性の観点から、上記ゼラチンとしては、アルカリ処理ゼラチンが好ましいが、その溶解性の観点からは水溶性ゼラチンが好ましい。
また、近年のBSE問題の観点から、上記ゼラチンとしては、魚由来及び豚由来のゼラチンが望ましい。
【0023】
また、上記ゼラチンが安定化剤として添加される場合、その添加量は、多ければ多いほど好ましいが、求める最終剤型に依存すると考えられる。
例えば、本発明の医薬組成物を注射剤として用いる場合、上記ゼラチンの添加量としては、1〜3重量%であることが好ましい。1重量%未満であると、アレルゲンへの安定化の効果が弱く、3重量%を超えると、その粘性のために実用上問題となる可能性がある。
また、本発明の医薬組成物を経口液剤として用いる場合、上記ゼラチンの添加量としては、1〜10重量%であることが好ましい。1重量%未満であると、アレルゲンへの安定化の効果が弱く、10重量%を超えると、その粘性のために実用上問題となる可能性がある。
また、本発明の医薬組成物を経口固形製剤として用いる場合、上記ゼラチンの添加量としては、1〜80重量%であることが好ましい。1重量%未満であると、アレルゲンへの安定化の効果が弱く、80重量%を超えると、経口投与時のアレルゲンの放出性が低くなり、充分に効果を発揮しない可能性が示唆される。
【0024】
このように、本発明の医薬組成物は、注射剤、経口液剤、経口固形製剤を調製することが可能であるが、これらの剤型として用いる場合、上述した材料以外に、所望により、賦形剤、結合剤、香料、矯味剤、甘味剤、着色剤、防腐剤、抗酸化剤、上述したpH調節剤やゼラチン以外の安定化剤、界面活性剤等を適宜使用してもよい。これらの材料としては特に限定されず、従来公知のものが使用できる。
すなわち、本発明の医薬組成物は、皮下注射用、経口投与用、又は、経口投与用の液剤であることが好ましい。
【0025】
なお、上記経口固形製剤には、錠剤、コーティング錠、散剤、顆粒剤、細粒剤、口腔内崩壊錠、口腔内貼付剤、ゼリー剤、フィルム剤が含まれ、経口、舌下、口腔に投与する固形状のものであれば特に限定されない。
【0026】
また、本発明の医薬組成物は、減感作療法用であることが好ましい。
上記減感作療法用である本発明の医薬組成物は、ゼリー状製剤であることが好ましい。
上記ゼリー状製剤としては、上述した本発明の医薬組成物に、水と、ゲル化剤としてのゼラチンとを含有するものが挙げられる。
上記ゼリー状製剤は、感作時間の制御が必要な口腔内減感作療法用に好適に用いることができ、特に舌下減感作療法に適したものである。また、上記ゼリー状製剤は、ゼラチンと、特定の安定化剤とを含有するため、アレルゲン、特にタンパク質やペプチドを安定に維持することができる。
このような本発明の医薬組成物に、水と、ゲル化剤としてのゼラチンとを含有するゼリー状製剤もまた、本発明の一つである。
【0027】
本発明のゼリー状製剤の厚みとしては特に限定されないが、30〜5000μmであることが好ましい。30μm未満であると、シート強度及び製品の取り扱い性の観点から問題となる可能性があり、5000μmを超えると、口腔内、特に舌下への投与した場合、違和感を覚える恐れがある。
【0028】
また、本発明のゼリー状製剤のサイズとしては特に限定されないが、平面面積が0.5〜6.0cmの範囲内にあることが好ましい。0.5cm未満であると、ゼリー状製剤を摘まんで投与する際に取り扱いが難しくなる恐れがあり、6.0cmを超えると口腔内、特に舌下へ完全に入れることができない恐れがある。
【0029】
また、本発明のゼリー状製剤の平面形状は特に限定されず、例えば、長方形、正方形等の矩形、5角形等の多角形、円形、楕円形等、任意の形状が挙げられる。ここにいう多角形は、完全な多角形のほか、若干、角部にRを有する形状も含む。
【0030】
本発明のゼリー状製剤は、ゲル化剤としてのゼラチンを含有するものである。
上記ゼラチンは、本発明のゼリー状製剤の基材を構成する材料であり、フィルム形状形成能及び可食性を有するものである。
【0031】
このようなゼラチンを含むことで、本発明のゼリー状製剤は、常温ではゲル化し、口腔内の体温程度の温度で容易に溶解させることができる。また、ゼラチンは、熱可逆性ゲル化剤の中では最も低温でゲル化を起こすことが可能であり、常温〜40℃付近の温度で製剤を製造することができるため、熱安定性が低い薬物の製造時の安定性を確保することができる。
なお、本明細書において、「可食性」とは、経口的に投与可能であり、製剤学的に許容されるものであることを意味する。
【0032】
上記ゼラチンとしては、常温の水に溶解可能な水溶性ゼラチンと呼ばれるグレードのものが好ましい。上記水溶性ゼラチンを用いることで、常温付近での本発明のゼリー状製剤の製造を可能とし、後述する薬物の製造時の安定性を確保することができる。
なお、本明細書にいう「水溶性ゼラチン」とは、1gのゼラチンが20mLの常温(30℃)の水に溶解するゼラチンを指す。
【0033】
また、上記ゼラチンは、10重量%濃度の水溶液としたときに35℃でゲル化せず、5℃付近ではゲル化する特性を持つことが好ましい。このような特性を持つゼラチンである場合、上記水溶性ゼラチンでなくとも、分子量及びゼラチン中のヒドロキシプロリン含有量によっては、本発明の効果を充分に奏するグレードも存在するからである。
【0034】
本発明のゼリー状製剤において用いられるゼラチンとしては、動物の皮や骨に含まれるタンパク質を酵素によって分解抽出したものが挙げられ、例えば、豚、牛及び魚由来のものを酸処理又はアルカリ処理した、いずれのものでも使用できる。
なかでも、上記ゼラチンとしては、製造時に常温で調製可能であり、熱に弱い薬物の製造時における安定性の観点から、魚又は豚由来のゼラチンが好ましい。
かかる観点から、上記ゼラチンは、平均分子量が9万を超えるものであれば、アミノ酸組成中のヒドロキシプロリン量が5.2〜9.2モル%のものであればよい。このようなゼラチンとしては、例えば、サケ由来ゼラチン(アミノ酸組成中のヒドロキシプロリン量:5.4モル%)、コイ由来ゼラチン(アミノ酸組成中のヒドロキシプロリン量:7.6モル%)、ティラピア由来ゼラチン(アミノ酸組成中のヒドロキシプロリン量:8.0モル%)等の魚由来のゼラチンが挙げられ、なかでも、ティラピア由来ゼラチンが特に好ましい。
【0035】
ここで、上記アミノ酸組成は、ゼラチンを加水分解した後にイオン交換クロマトグラフ法により分離し、ニンヒドリンにより検出する分析により得られる。
なお、上記方法により得られるアミノ酸組成中のヒドロキシプロリン量(モル%)の具体例としては、例えば、以下のとおりである。
ニワトリ:10.8%
ダチョウ:10.4%
マウス:8.7%
ブタ:9.4%
ウシ:9.5%
【0036】
また、上記ゼラチンとしては、平均分子量が5万〜9万のものであれば、アミノ酸組成中のヒドロキシプロリン量に関わらず好ましいものである。
ここで、本明細書において「平均分子量」とは、重量平均分子量を意味し、ゲル濾過クロマトグラフ分析により測定される。
更に、ここにいう平均分子量は、ゼラチンのポリペプチド鎖3量体の分子量ではなく、それぞれのポリペプチド鎖単量体の分子量を意味する。
【0037】
本発明のゼリー状製剤において、上記ゼラチンの含有量は、本発明のゼリー状製剤の全重量に基づいて、好ましくは2〜40重量%、より好ましくは3〜30重量%である。2重量%未満であると、常温ではゲル化しない可能性があり、一方、40重量%を超えると、本発明のゼリー状製剤の口腔内での溶解性が極めて遅くなり、使用上問題となる恐れがある。
【0038】
本発明のゼリー状製剤は、上記可食性高分子であるゼラチンに加えて、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、水にのみ可溶である可食性高分子又は水にも有機溶媒にも溶解しない可食性高分子(以下、これらをまとめて、その他の可食性高分子ともいう)を適量組み合わせて用いることもできる。
上記その他の可食性高分子の配合量は、本発明のゼリー状製剤の全重量基準で、好ましくは0.1〜10重量%である。
【0039】
本発明のゼリー状製剤は、水を含有するものである。
上記水は、本発明のゼリー状製剤の溶解を補助する作用を有する材料である。
また、本発明のゼリー状製剤内の水分含有量を制御することで、ゼリー状製剤の溶解時間を容易に制御することができる。したがって、本発明のゼリー状製剤は、口腔内で溶解し服用する場合にも、口腔内、特に舌下においてゆっくりと溶解させ薬物を除放させる場合の双方において適したものである。
本発明では、ゼリー状製剤の全重量に基づいて、水の含有量は、好ましくは1〜60重量%、より好ましくは5〜50重量%である。1重量%未満であると、口腔内での溶解性が極めて悪くなり使用上問題となる可能性があり、一方、60重量%を超えると、常温での物性面の保管安定性が悪くなる恐れがある。
【0040】
また、本発明のゼリー状製剤は、pHが5.5〜8.5の範囲である。pHが5.5未満又は8.5より大きい範囲では、アレルゲンの物理化学的安定性が顕著に減少し、安全性上問題となる。
なお、本明細書において、「pH」とは、次の方法で測定される値を意味する。
測定対象が液剤の場合、pH測定器(例えば、堀場製作所社製、pHメーター)を用いて、液剤のpHを25±2℃の温度下で直接測定する。
また、測定対象が固形製剤(ゼリー状製剤を含む)場合、まず、1gの固形製剤を、10mLメスフラスコにとり、蒸留水でメスアップする。固形製剤が完全に溶解するまで30〜35℃の恒温下で撹拌しサンプル溶液を得る。pH測定器(例えば、堀場製作所社製、pHメーター)を用いて、得られたサンプル溶液のpHを25±2℃の温度下で測定する。
【0041】
また、本発明のゼリー状製剤は、物性及び溶解性を向上させる添加剤、例えば、糖、糖アルコール、及び、糖脂肪酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を更に含むことが好ましい。
上記糖としては、例えば、以下に示すような単糖、二糖、三〜六糖が挙げられる。
単糖類としては、例えば、エリスロース、スレオース等のアルドテトロース、リボース、リキソース、キシロース、アラビノース等のアルドペントース、アロース、タロース、グロース、グルコース、アルトロース、マンノース、ガラクトース、イドース等のアルドヘキソース、エリスルロース等のケトテトロース、キシルロース、リブロース等のケトペントース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース等のケトヘキソース等が挙げられる。二糖類としては、例えば、トレハロース、コージビオース、ニゲロース、マルトース、イソマルトース等のα−ジグルコシド、イソトレハロース、ソホロース、ラミナリビオース、セロビオース、ゲンチオビオース糖のβ−ジグルコシド、ネオトレハロース等のα,β−ジグルコシドの他、ラクトース、スクロース、イソマルツロース(パラチノース)等が挙げられる。三糖類としては、例えば、ラフィノース等が挙げられる。三糖〜六糖のオリゴ糖としては、例えば、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、キチンオリゴ糖、キトサンオリゴ糖、オリゴグルコサミン、デキストリン、シクロデキストリン等の環状オリゴ糖等が挙げられる。
【0042】
また、単糖のアルコールとしては、例えば、エリスリトール、D−スレイトール、L−スレイトール等のテトリトール、D−アラビニトール、キシリトール等のペンチトール、D−イジトール、ガラクチトール(ダルシトール)、D−グルシトール(ソルビトール)、マンニトール等のヘキシトール、イノシトール等のシクリトール等が挙げられる。また、二糖のアルコールとしては、例えば、マルチトール、ラクチトール、還元パラチノース(イソマルト)等が挙げられ、オリゴ糖のアルコールとしては、ペンタエリスリトール、還元麦芽糖水飴等が挙げられる。
本発明のゼリー状製剤において、上記糖又は糖アルコールは、置換されていてもよく、また、1種で又は2種以上混合して用いることもできる。
【0043】
上記糖又は糖アルコールは、本発明のゼリー状製剤が口腔内で容易に溶解する観点、また製造工程において大きく溶液の粘性を変化させないという観点から、単糖類〜三糖類又はこれらの糖アルコールであることが好ましい。
【0044】
また、上記糖脂肪酸としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。
上記ソルビタン脂肪酸エステルとしては、例えば、モノオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、ヤシ油脂肪酸ソルビタン、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
また、上記ショ糖脂肪酸エステルとしては、例えば、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖ベヘニン酸エステル、ショ糖エルカ酸エステル、ショ糖混合脂肪酸エステル等が挙げられる。
これらの糖脂肪酸は、タンパク質やペプチドの安定化剤としての効果以外に、消泡剤としても役立つため、大変都合がよい。
【0045】
本発明のゼリー状製剤において、上述した添加剤の量は、本発明のゼリー状製剤の全重量に基づき、好ましくは1〜80重量%、より好ましくは5〜70重量%である。1重量%未満であると、使用上充分な物性を担保できない可能性があり、一方、80重量%を超えると、添加した添加剤によりゼリー状製剤の物性の制御が困難になる恐れがある。
【0046】
更に、本発明のゼリー状製剤は、基材を構成する成分として、上述した材料以外に、所望により香料、嬌味剤、甘味剤、着色剤、防腐剤、抗酸化剤、他の安定化剤、界面活性剤等を適宜使用してもよい。これらの材料としては特に限定されず、従来公知のものが使用できる。
【0047】
本発明のゼリー状製剤は、上述のように、ゼラチンを含むものであるため、常温ではゲル化し、口腔内の体温程度の温度で容易に溶解させることができ、また、ゼラチンと特定の添加剤とを含有することで、有意に使用上の物性を向上させることが可能である。また、アレルゲンタンパク質を、特にスギ花粉アレルゲンタンパク質を安定に維持することができる。
また、本発明のゼリー状製剤は、その水分含有量を制御することで、その溶解時間を容易に制御することができるため、感作時間の制御が必要な口腔内、特に舌下減感作療法に適している。
本発明のゼリー状製剤は、もちろんそのままの状態で嚥下してもよいし、口腔内で即座に溶解させて嚥下してもよい。更に、口腔内での溶解時間を制御し、口腔粘膜や舌下粘膜からの吸収を期待することも可能である。体温程度の温度で全て溶解させることができるため、残渣感がないという観点、また、その形がシート状であり、その表面積が錠剤等と比較して大きく、患者及び介護者も指で持ちやすいという観点から、患者及び介護者のQOLを大幅に向上させることができる。
【0048】
上述した本発明のゼリー状製剤は、例えば、水と、ゼラチンと、少なくとも1種のpH調節剤と、アレルゲンとを混合して混合溶液を調製する工程と、上記混合溶液を用いて薄膜を形成する工程とを有し、上記混合工程において上記pH調節剤の添加量を調整して、得られるゼリー状組成物のpHが5.5〜8.5となるようにし、更に、上記混合溶液を調製する工程において添加水分量を調節するか、又は、上記薄膜を形成する工程の後、上記薄膜を乾燥させて、得られるゼリー状組成物に含有される水の量を調節する方法により製造することができる。
【0049】
上記混合溶液を調製する工程では、例えば、まず、所定量の水にゼラチン、少なくとも1種のpH調節剤を、更に、必要によりその他添加剤を常温又は加熱により溶解させ、また、溶解しない添加剤に関しては均一に分散させる。上記アレルゲンが熱に安定なものの場合、該アレルゲンは、上記ゼラチン等と併せて添加し混合溶液を調製する。一方、熱に不安定なアレルゲンの場合には、上記ゼラチン等を溶解させてゼラチン溶液を調製した後、該ゼラチン溶液を常温〜35℃付近まで冷やした後にアレルゲンを添加し、攪拌混合して混合溶液を調製する。なお、上記アレルゲンは、後述する混合溶液を分注又は展延する際に添加してもよい。
なお、上記混合溶液の調製時に泡が発生した場合は、一夜放置や真空又は減圧脱泡を行うとよい。
【0050】
また、上記薄膜を形成する工程では、例えば、上記混合溶液の所定量を28〜35℃の温度下で希望するサイズのプラスチック製ブリスターケース内に分注し、分注後即座に冷却固化させて薄膜を形成する。当該分注方式の代わりに、上記混合溶液を剥離フィルム上に適当量展延し、冷却固化することにより薄膜を形成し、希望するサイズに裁断してもよい。
本工程で形成する薄膜は、上述した本発明の医薬組成物と同等のサイズを有することが好ましい。
【0051】
本発明のゼリー状製剤の製造方法では、上記混合溶液を調製する工程において添加水分量を調節するか、又は、上記薄膜を形成する工程の後、上記薄膜を乾燥させて、得られるゼリー状製剤に含有される水の量を調節する。
すなわち、上記水の量の調節を、混合溶液を調製する工程において添加水分量を調節することで行う場合、上記薄膜を形成することで本発明のゼリー状製剤を製造できる。
一方、上記水の量の調節を、上記薄膜を形成する工程の後、上記薄膜を乾燥させて行う場合、上記薄膜を乾燥させることで本発明のゼリー状製剤を製造することができる。
上記薄膜を乾燥させる方法としては、例えば、冷風乾燥工程又は冷却減圧乾燥工程を行う方法が挙げられる。
【0052】
本発明のゼリー状製剤の製造方法は、少なくとも1種のpH調節剤を工程中で添加することで、特に熱安定性の低いアレルゲンタンパク質であっても、高温で調製可能という点が非常に有用である。
また、得られた医薬組成物は、必要により密封包装し、製品とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0053】
本発明の医薬組成物は、アレルゲンと少なくとも1種のpH調節剤とを含有し、pHを所定の範囲に調節したものであるため、アレルゲン、特に、非常に熱安定性が悪いことが知られているスギ花粉アレルゲンタンパク質であっても、安定的に貯蔵及び伝達が可能である。
また、本発明の医薬組成物は、注射剤及び経口液剤、双方への応用が可能であり、これら溶液状の製剤だけでなく、ゲル化剤としてゼラチンを添加することで、より安定な経口固形製剤の調製が可能である。
また、ゼラチンを含有させることで、本発明の医薬品組成物は、ゼリー状製剤とすることができ、患者が自己投与可能であり、注射による痛みもなく、分割することで投与量の調整も可能であり、携帯性にも優れ、残渣感もなく、錠剤との剤形差別化による誤飲防止にも優れ、介護者が投与し易い等、患者及び介護者のQOLを大幅に向上させる事が可能となる。
さらに、本発明のゼリー状製剤は、少なくとも1種のpH調節剤を添加することにより、熱安定性が悪いことが知られているアレルゲンを、その製造工程中で安定的に維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下の実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
(実施例1〜3)
治療用標準化アレルゲンエキス皮下注「トリイ」スギ花粉200JAU/mL(鳥居薬品社製)1.0mLに、炭酸ナトリウム(和光純薬工業社製)を表1に示した量(mg)で加えて攪拌混合し医薬組成物を得た。この医薬組成物を40±2℃で2週間保管し、保管後の残存Cryj1アレルゲン活性を後述する方法で測定した。
【0056】
(比較例1)
治療用標準化アレルゲンエキス皮下注「トリイ」スギ花粉200JAU/mL(鳥居薬品社製)1.0mLを医療用組成物とし、40±2℃で2週間保管し、保管後の残存Cryj1アレルゲン活性を後述する方法で測定した。
【0057】
(比較例2〜3)
治療用標準化アレルゲンエキス皮下注「トリイ」スギ花粉200JAU/mL(鳥居薬品社製)1.0mLに炭酸ナトリウム(和光純薬工業社製)を表1に示した量(mg)で加えて攪拌混合し医薬組成物を得た。この医薬組成物を40±2℃で2週間保管し、保管後の残存Cryj1アレルゲン活性を後述する方法で測定した。
【0058】
【表1】

【0059】
(実施例4〜6)
治療用標準化アレルゲンエキス皮下注「トリイ」スギ花粉2000JAU/mL(鳥居薬品社製)1.0mLに炭酸ナトリウム(和光純薬工業社製)を表2に示した量(mg)で加えて攪拌混合し医薬組成物を得た。この医薬組成物を40±2℃で2週間保管し、保管後の残存Cryj1アレルゲン活性を後述する方法で測定した。
【0060】
(比較例4)
治療用標準化アレルゲンエキス皮下注「トリイ」スギ花粉2000JAU/mL(鳥居薬品社製)1.0mLを医療用組成物とし、40±2℃で2週間保管し、保管後の残存Cryj1アレルゲン活性を後述する方法で測定した。
【0061】
(比較例5〜7)
治療用標準化アレルゲンエキス皮下注「トリイ」スギ花粉2000JAU/mL(鳥居薬品社製)1.0mLに炭酸ナトリウム(和光純薬工業社製)を表2に示した量(mg)で加えて攪拌混合し医薬組成物を得た。この医薬組成物を40±2℃で2週間保管し、保管後の残存Cryj1アレルゲン活性を後述する方法で測定した。
【0062】
【表2】

【0063】
(実施例7〜11、比較例8、9)
酢酸、リン酸及びホウ酸(いずれも和光純薬工業社製)を用いて80mM Britton−Robinson緩衝溶液(BR Buffer)を調製した。水酸化ナトリウム溶液(和光純薬工業社製)を用いて、調製したBR BufferのpHを、表3に示した値に調節した。
次に、スギ花粉抽出物の凍結乾燥粉末(スギ花粉抽出物−Cj、LSL社製)2mgに、精製水2.9mLを加え、充分に溶解させてアレルゲン溶液を得た。なお、得られたアレルゲン溶液は5mMホウ酸緩衝溶液(pH=8.0)となることが添付文書に記載されている。このアレルゲン溶液125.0重量部に、グリセリン250.0重量部を加え、撹拌混合した。ここに表3に示したpHに調節したBR Bufferの125.0重量部をそれぞれ加え、充分に撹拌混合し医薬組成物を得た。この医薬組成物を40±2℃で2週間保管し、保管後の残存Cryj1アレルゲン活性を後述する方法で測定した。
【0064】
【表3】

【0065】
(実施例12〜15、比較例10〜13)
表4に示した配合量の精製水に、消泡剤としてポリソルベート80及び中鎖脂肪酸トリグリセリド(CCTG)0.1重量部、防腐剤としてp−ヒドロキシ安息香酸メチル(メチルパラベン)0.1重量部を加えて超音波溶解及び分散を行った。ここに、炭酸ナトリウムを表3に示した配合量で加えて溶解させた。
次に、水溶性魚ゼラチン(CSF、ニッピ社製)10重量部を加え、30〜40℃の温度で溶解させ、28〜32℃の恒温下でシェーカーにかけゼラチン溶液とした。別途、スギ花粉アレルゲンエキス原液2000JAU/mLを50重量部取り、D−ソルビトール10重量部を2〜8℃下で溶解させ、25〜30℃の温度になるように加温した後、前もって用意しておいたゼラチン溶液に全量加え、28〜32℃下で速やかに混合し、5cmプラスチック製ブリスターケース(クリオモルド(角型)3号、サクラファインテック社製)に1gずつ分注し、2〜8℃下で1昼夜冷却固化させてゼリー状製剤を得た。このゼリー状製剤を25±2℃で2カ月間保管し、保管後の残存Cryj1アレルゲン活性を後述する方法で測定した。
【0066】
【表4】

【0067】
(比較例14)
治療用標準化アレルゲンエキス皮下注「トリイ」スギ花粉2000JAU/mL(鳥居薬品社製)50.0重量部を医薬組成物とし、25±2℃で2カ月間保管し、保管後の残存Cryj1アレルゲン活性を後述する方法で測定した。
【0068】
(実施例16〜19、比較例15、16)
表5に示した組成とした以外は実施例12と同様の手順でゼリー状製剤を得た。得られたゼリー状製剤を25±2℃で2カ月間保管し、保管後の残存Cryj1アレルゲン活性を後述する方法で測定した。
なお、実施例16〜19、比較例15、16では豚ゼラチン(AEP、ニッピ社製)を用いた。
【0069】
【表5】

【0070】
(試験方法)
実施例及び比較例で調製した医薬組成物又はゼリー状製剤のpHを測定した。
また、スギ花粉のアレルゲンタンパクであるCryj1のアレルゲン活性を測定することにより、各種医薬組成物がCryj1タンパクの安定性(特に熱安定性)に関して寄与するかどうかを評価した。それぞれの試験方法を以下に示し、結果を表6〜10に示す。
【0071】
(pH測定方法)
pH測定器(堀場製作所社製、pHメーター)を用いて、調製した医薬組成物(実施例1〜11及び比較例1〜9)のpHを25±2℃の温度下で測定した。
また、ゼリー状製剤(実施例12〜19及び比較例10〜13、15〜16)1g若しくは医薬組成物(比較例14)0.5mLを、10mLメスフラスコにとり、蒸留水で希釈した。ゼリー状製剤の場合、該製剤が完全に溶解するまで30〜35℃の恒温下で撹拌し、サンプル溶液をそれぞれ調製した。そして、pH測定器(堀場製作所社製、pHメーター)を用いて、得られたサンプル溶液のpHを25±2℃の温度下で測定した。
【0072】
(アレルゲン活性評価方法)
スギ花粉抗原ELISA「Cryj1」(生化学バイオビジネス社製)を用い、スギ花粉の主要アレルゲンの1つであるCryj1のアレルゲン活性を測定した。当該測定キットは、日本スギ(Cryptomeria japonica)花粉抗原の1つであるCryj1に特異的なモノクロナール抗体(013、053)を利用したサンドイッチELISA法を原理としており、Cryj1を特異的に測定することが可能である。キット付属の反応緩衝液100μLに標準溶液又はサンプル20μLを添加し、常温で60分間一時反応を行った後、HRP標識抗体溶液100μLを加え60分間二次反応を行った。ここに酵素基質溶液100μLを加え、常温遮光下で30分間反応を行い、最後に反応停止溶液100μLを加えた。その後、450nmの紫外吸収強度を測定した。各Cryj1濃度の標準溶液における吸収強度を元に検量線を求め、これに従い各サンプルのCryj1アレルゲン活性(ng/mL)を測定した。
各サンプルへのCryj1添加量の初期値を100%とし、当該初期値に対する1日後、7日後及び14日後のCryj1アレルゲン活性(%)を求めた。当該Cryj1アレルゲン活性(%)を下記の通りスコア化することにより評価を行った。
5:90%以上、105%未満
4:75%以上、90%未満
3:60%以上、75%未満
2:45%以上、60%未満
1:30%以上、45%未満
0:30%未満
【0073】
【表6】

【0074】
【表7】

【0075】
【表8】

【0076】
表6〜8に示したように、実施例に係る医薬組成物は、pHを5.5〜8.5の範囲に調節することで、調整後14日経過しても、アレルゲン活性の評価で3以上を確保することができた。
一方、pHが5.5〜8.5の範囲を外れる比較例に係る医薬組成物は、実施例に係る医薬組成物と比較してアレルゲン活性の評価に劣るものであった。
【0077】
【表9】

【0078】
【表10】

【0079】
表9、10に示したように、実施例に係るゼリー状製剤は、pHを5.5〜8.5の範囲に調節することで、アレルゲン活性の評価がいずれも5と極めて優れており、医薬組成物に係る実施例と比較してもさらに安定化させることができた。
一方、pHが5.5〜8.5の範囲を外れる比較例に係るゼリー状製剤は、いずれも実施例に係るゼリー状製剤と比較してアレルゲン活性の評価に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の医薬組成物は、アレルギー症の予防又は治療剤として有用で、特に、熱安定性が悪いアレルゲンの安定性に優れ、貯蔵及び伝達のために有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pHが5.5〜8.5の範囲にあり、アレルゲンと、少なくとも1種のpH調節剤と、水とを含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
pH調節剤は、酢酸、リン酸若しくはホウ酸又はこれらの混合物、及び、炭酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種を含む請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
皮下注射用である請求項1又は2記載の医薬組成物。
【請求項4】
経口投与用である請求項1又は2記載の医薬組成物。
【請求項5】
減感作療法用である請求項1又は2記載の医薬組成物。
【請求項6】
経口投与用の液剤である請求項1又は2記載の医薬組成物。
【請求項7】
pHが5.5〜8.5の範囲にあり、アレルゲンと、少なくとも1種のpH調節剤と、ゲル化剤としてのゼラチンと、水とを含有することを特徴とするゼリー状製剤。

【公開番号】特開2012−240978(P2012−240978A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114045(P2011−114045)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】