説明

半可塑性体の切断方法

【課題】 簡単な構成によって平滑な切断面を得ることが可能な半可塑性体の切断方法を提供する。
【解決手段】 ワイヤWをその長さ方向に往復動させながら半可塑性体Mに向けて相対的に移動させて該半可塑性体Mを切断する方法であって、往復動の周期に同期させてワイヤWに緊張を与える状態と緊張を解く状態とを交互に繰り返すことを特徴とする。例えば、ワイヤが長さ方向に移動している時はワイヤに緊張を与え、ワイヤWの往路の移動と復路の移動が切り替わる時はワイヤWの緊張を解くことを交互に繰り返したり、ワイヤWが一方向に移動している時はワイヤWに緊張を与え、それとは逆の方向に移動している時はワイヤWの緊張を解くことを交互に繰り返したりする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の外壁材などに用いられるALC(軽量気泡コンクリート)パネルの製造工程において使用される、ALCの半可塑性体を切断する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ALCパネルの製造では、従来から原料スラリーを所定の型枠内に流し込み、所定の硬さの半可塑状態に固まったところで型枠を外し、その半可塑状態のALC(以降、半可塑性体とも称する)をピアノ線等のワイヤにより所定の寸法に切断した後、オートクレーブで蒸気養生して所定の大きさ・形状のALCパネルを得る方法が一般的に行われてきた。
【0003】
ワイヤによる切断の際は切断装置を使用することが多く、特にワイヤ固定切断方式の切断装置が多く用いられてきた。ワイヤ固定切断方式とは、離間した2つの支持部にワイヤを緊張状態に架け渡し、当該ワイヤに向けて半可塑性体を相対移動させて切断する方式である。しかし、この方式でワイヤを半可塑性体に押し当てながら切断する方法は、半可塑性体の切断面にケバ立ちが生じやすくなり、平滑な切断面が得られにくいという問題が生じていた。なお、ワイヤに向けて半可塑性体を相対移動させるとは、床などに固定された支持部のワイヤに向けて半可塑性体を移動させるか、あるいは床などに固定された載置台上の半可塑性体に向けてワイヤを備えた支持部を移動させることをいう。
【0004】
切断面のケバ立ちは、蒸気養生後においてもALCパネル表面に残存してパネル自体の美観を損ねるだけでなく、パネルの保管時や移動時などの際に風が当たるか、ケバ立ち面が擦れるか、あるいはパネルに振動が加わるなどにより粉となって飛散することがあり、この飛散した粉がパネル置き場や施工現場などにおいて問題を生ずることがあった。また、ケバ立った状態のままALCパネル表面に塗装仕上げをすると、ケバ立ち部は塗装後のALCパネル表面に凹凸部となって残るため、多量の塗料を塗布してALCパネル表面の美観が損なわれないようにする必要があった。
【0005】
そこで、このようなケバ立ちを抑えるために、例えば特許文献1には、半可塑性体の進行経路の上下にそれぞれ支持部材を設け、これら両支持部材の間に切断線とならし線とで構成されるワイヤの対を複数対架け渡すとともに、両支持部材をそれぞれ上下に設けた駆動装置で上下方向に往復動させ、この往復動するワイヤに半可塑性体を押し当てて切断する方法が提案されている。この方法では、切断線で半可塑性体を切断した後に、往復動の位相をずらしたならし線で切断面をならすことができるため、ワイヤをその線方向に往復動させながら切断する際に生じやすい周期的なケバ立ちをならすことができると記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、半可塑性体と往復動するピアノ線との相対移動速度を周期的に変動させると共に、この変動の周期をピアノ線の往復動の周期にほぼ同期させて切断する方法が提案されている。この方法ではピアノ線の周期的な走行に合わせて半可塑性体とピアノ線の相対移動を行うので、ピアノ線の往復動速度と相対移動速度との比をほぼ一定にすることができ、よって周期的なケバ立ちを防ぐことができると記載されている。なお、同期させる方法としては、ピアノ線が取り付けられた枠体もしくは半可塑性体の相対移動のためのモーターをインバータで制御する方法や、枠体もしくは半可塑性体の相対移動とピアノ線の往復動とをリンク部材を介して接続する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−277233号公報
【特許文献2】特開昭59−103711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の方法は、切断線による切断の際に周期的なケバ立ちが生じることは避けられず、ならし線でならすことによってこの周期的なケバ立ちをある程度目立たなくすることはできるものの、完全に消すことは困難であった。
【0009】
また、特許文献2の方法は、設備が大掛かりになるので実用的ではなかった。すなわち、ワイヤで切断する前の半可塑性体は、一般的に長さ7m、幅1.5m、深さ0.7m程度と大型である上、その比重は配合によるものの概ね1.0程度であり、内部鉄筋を含むと型枠から取り出される半可塑性体は7トン以上となる。また、ワイヤを支持する枠体も往復動のための機構が含まれるため、通常は数トンの重量になる。
【0010】
従って、半可塑性体及び枠体の内のどちらを速度制御するにせよ、このような慣性力の大きな重量物に対してワイヤの往復動に同期させて走行と停止とを繰り返すのは設備が大掛かりになって実用的ではなかった。切断速度を遅くすることによって動力を小さくし、設備が大掛かりにならないようにすることも考えられるが、この場合は生産性が低下するので実用的な対応策とはいえなかった。
【0011】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、既存の設備への導入も容易な簡単な構成によって平滑な切断面を得ることが可能な半可塑性体の切断方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明の半可塑性体の切断方法は、ワイヤをその長さ方向に往復動させながら半可塑性体に向けて相対的に移動させて該半可塑性体を切断する方法であって、前記往復動の周期に同期させてワイヤに緊張を与える状態と緊張を解く状態とを交互に繰り返すことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば大掛かりな設備が不要となる上、半可塑性体の切断面の周期的なケバ立ちをなくすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の切断方法の第1の実施形態に好適に使用される切断装置を示す正面図である。
【図2】図1に示す切断装置に含まれる枠体及び駆動装置をII−II線から見たときの側面図である。
【図3】本発明の切断方法の第2の実施形態に好適に使用される切断装置を示す側面図である。
【図4】図3に示す切断装置の部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
先ず本発明による半可塑性体の切断方法の第1の実施形態を、図1及び図2を参照しながら説明する。図1及び図2には、本発明の切断方法の第1の実施形態に好適に使用される切断装置10が示されている。この切断装置10は、複数のエアシリンダー12を備えた略四角形状の枠体11と、これら複数のエアシリンダー12によってそれぞれ張力が付与される複数のワイヤWと、枠体11を往復動自在に支持する支持架台13と、枠体11を往復動させる駆動装置14とによって構成されている。
【0016】
各々具体的に説明すると、枠体11は、互いに平行な上部横棒11a及び下部横棒11bと、それらの端部同士をつなぐ2本の縦棒11cとからなり、その枠内が半可塑性体Mを通過させて切断する切断領域となっている。上部横棒11aには、その長手方向に沿って複数のエアシリンダー12(図1には16個のエアシリンダー12が例示されている)が等間隔に配設されている。各エアシリンダー12は、そのピストンロッド12aの先端が真下を向いている。このピストンロッド12aの先端部に、図示しないフックや凹部などの係着手段が設けられており、ここにワイヤWの一端部が取り付けられている。
【0017】
枠体11の下部横棒11bには、これら複数のエアシリンダー12にそれぞれ上下方向で対向する複数のワイヤ係着部15(図1には16個のワイヤ係着部15が例示されている)が配設されている。そして、これら複数のワイヤ係着部15に、それぞれ前述したワイヤWの他端部が取り付けられている。かかる構成により、複数のワイヤWの各々を上下方向に延在させて枠体11に張設することが可能となる。
【0018】
この枠体11を左右から挟むように、2本の支持棒13bとそれらを支える基部13aとからなる略コの字形の支持架台13が設けられている。これら2つの支持棒13bの各々には、枠体11に対向する側の上部と下部に同形状のガイド部材13cが取り付けられている。これらガイド部材13cには、上下方向に貫通する貫通孔が設けられており、ここに枠体11の縦棒11cが挿通している。かかる構造により、支持架台13に対して枠体11を上下方向に往復動させることが可能となる。なお、貫通孔の内壁にはベアリングが設けられているのが好ましく、これによりガイド部材13cに対する縦棒11cの往復動がより円滑になる。
【0019】
枠体11を上下方向に往復動させる構造は、上記のようなガイド部材13cに枠体11の一部を挿通させる構造に限定されるものではなく、これ以外に例えば枠体11の左右に車輪を取り付けると共にこれら車輪が走行する軌道を支持架台に鉛直方向に敷設し、この軌道に沿って枠体11を往復動させるような構造でもよい。また、枠体11をバネなどの弾性部材を介して支持架台に支持させてもよい。
【0020】
支持架台13の上部には枠体11を上下方向に往復動させる駆動装置14が取り付けられている。この駆動装置14は、モータなどの原動機14aと、この原動機14aのスピンドル端部に一端部が取り付けられたクランク材14bと、クランク材14bの他端部に回転自在に取り付けられた連結材14cとからなるクランク機構によって構成されている。この連結材14cの先端部は、枠体11の上部横棒11aから水平方向に突出する突起部11dに回動自在に取り付けられている。
【0021】
かかる構成により、原動機14aが起動してクランク材14bが回転すると、この回転運動が連結材14cを介して枠体11に伝達して枠体11の上下方向の往復動となる。そして、枠体11を上下方向に往復動させながら半可塑性体Mを切断装置10に向けて相対的に移動させ、前述した枠体11の枠内の切断領域に通過させることによって半可塑性体Mを切断することができる。
【0022】
この相対的な移動は、動かないように床などに据え付けられている切断装置10に向けて図2の矢印Aの向きに半可塑性体Mを動かしてもよいし、あるいは動かないように床などに据え付けられている載置台上の半可塑性体Mに向けて矢印Aとは反対の向きに切断装置10を動かしてもよい。
【0023】
いずれの場合においても、相対的な移動を行う場合は、例えば、図2の矢印Aの方向に延在するレールを敷設し、このレール上を走行する車両に半可塑性体Mの載置台又は切断装置10を搭載して当該車両を移動させるのが好ましい。なお、半可塑性体Mを載置する載置台は上下方向に往復動するワイヤWが接触しないように、例えば櫛状に切り欠いておくのが好ましい。
【0024】
本発明の第1の実施形態の切断方法では、上記した枠体11の往復動すなわちワイヤWの長さ方向の往復動を行いながら半可塑性体Mを切断する際に、枠体11の往復動の周期すなわちワイヤWの長さ方向の往復動の周期に同期させてエアシリンダー12の推力を変動させる制御を行い、ワイヤWに緊張を与える状態と緊張を解く状態とを交互に繰り返すことを行っている。これにより、ワイヤWがその長さ方向に移動している時にワイヤWに緊張を与え、ワイヤWの往復動における往路の移動と復路の移動が切り替わる時にワイヤWの緊張を解くことが可能となる。
【0025】
より具体的には、前述したクランク機構が上死点及び下死点となる時、すなわち枠体11及びこれに張設されているワイヤWの往復動の往路の移動と復路の移動が切り替わる時は、エアシリンダー12のピストンロッド12aが後述する退避位置に比べて突出した位置に来るように制御してワイヤWの緊張を解き、それ以外の時であるワイヤWがその長さ方向に移動している時はピストンロッド12aを退避位置に保持してワイヤWを緊張させる。
【0026】
その結果、ワイヤWがその長さ方向に移動している時は、ワイヤWは緊張状態にあるので、半可塑性体Mを効率よく切断することができる。一方、ワイヤWの往復動の向きが切り替わる時は、ワイヤWの緊張が解かれるので、半可塑性体Mの切断に必要な力よりもワイヤWと半可塑性体Mとの間の摩擦抵抗力が大きくなって半可塑性体Mを切断することができなくなる。つまり、ワイヤWがその長さ方向に移動している時だけ半可塑性体Mの切断が行われ、ワイヤWの往復動の向きの切り替わりによりワイヤWの長さ方向の移動が一時的に停止する時は半可塑性体Mの切断が行われなくなり、周期的なケバ立ちをなくすことができる。
【0027】
次に、本発明による半可塑性体の切断方法の第2の実施形態について、図3及び図4を参照しながら説明する。図3及び図4に示すように、本発明の第2の実施形態の切断装置20は、同心軸上に設けられた1対の回転ドラム21、22と、これら1対の回転ドラム21、22にそれぞれ両端部を係着して巻回されたワイヤWと、ワイヤWの走行経路を画定する一連のプーリー群と、ワイヤWの張力を制御する2つのエアシリンダー30と、1対の回転ドラム21、22を駆動する駆動装置31と、これらを支持する支持架台32とによって構成されている。
【0028】
1対の回転ドラム21、22の同心軸は支持架台32の上部横棒32aに回動自在に支持されている。この1対の回転ドラム21、22から延出されるワイヤWの走行経路は、正面から見て回転ドラム21の右側から下方に向かった後、後述する最下部の折返しプーリー29で180°折り返して回転ドラム22の左側に戻るようになっている。そして、この走行経路は、後述する整合プーリー24の前後を除いて、回転ドラム21、22の同心軸と折返しプーリー29の回転軸とを含む面に関して略対称になっている。
【0029】
具体的には、回転ドラム21から折返しプーリー29までに画定される正面から見て右側の走行経路には、回転ドラム21から延出するワイヤWの走行をガイドするガイドプーリー23と、回転ドラム21から延出するワイヤWの同心軸方向のずれを整合する整合プーリー24と、ワイヤWに張力を付与するためその走行方向を略90°転向させる転向プーリー25と、ワイヤWに張力を付与するテンションプーリー26と、ワイヤWを半可塑性体Mの切断が行われる切断領域に導く位置決めプーリー27、28とがこの順に配置されている。正面から見て左側の走行経路は、整合プーリー24がない点を除いて上記右側の走行経路と同様である。
【0030】
これらプーリー群の内、位置決めプーリー27、28は、支持架台32の中間部横棒32b及び下部横棒32cにそれぞれ回転可能に軸支されており、中間部横棒32bと下部横棒32cとの間が半可塑性体Mの切断領域になっている。これにより、折返しプーリー29で折り返される前の切断領域におけるワイヤWと折り返した後の切断領域におけるワイヤWとは互いに平行且つ逆向きに走行するようになっている。
【0031】
2つのエアシリンダー30は、中間部横棒32bの延出部32dに、ピストンロッドが水平方向を向くように取り付けられており、このピストンロッドの先端にテンションプーリー26が回転可能に取り付けられている。2つのエアシリンダー30の内の一方は、回転ドラム21から折返しプーリー29までの右側の走行経路を走行するワイヤWに張力を付与しており、もう一方は回転ドラム22から折返しプーリー29までの左側の走行経路を走行するワイヤWに張力を付与している。すなわち、右側の走行経路を走行するワイヤWの張力と左側の走行経路を走行するワイヤWの張力は別々に調整することができる。
【0032】
駆動装置31は1対の回転ドラム21、22を回転させる装置であり、モーター等の原動機31aと、この原動機31aのスピンドル端部に取り付けられている第1ベルトプーリー31bと、回転ドラム21、22の同心軸の端部に取り付けられている第2ベルトプーリー31cと、これら第1、第2ベルトプーリー31b、31bを連結する駆動ベルト31dとによって構成されている。
【0033】
この原動機31aは図示しない制御装置によって回転方向が交互に切り替わるように制御されており、これによりワイヤWをその走行経路において往復走行させること(すなわち、ワイヤWをその長さ方向に沿って往復動させること)が可能となる。そして、ワイヤWを往復走行させながら半可塑性体Mを切断装置20に向けて相対的に移動させて切断領域を通過させることによって、半可塑性体Mの切断が可能となる。この相対的な移動は、前述した第1の実施形態と同様に、動かないように据え付けられている切断装置20に向けて図3の矢印Aの向きに半可塑性体Mの載置台を移動してもよいし、あるいは動かないように据え付けられている載置台上の半可塑性体Mに向けて矢印Aとは反対の向きに切断装置20を移動してもよい。
【0034】
本発明の第2の実施形態の切断方法では、上記した1対の回転ドラム21、22の回転方向を交互に切り替えながら半可塑性体Mを切断する際に、その切り替えの周期すなわちワイヤWの往復走行(往復動)の周期に同期させてエアシリンダー30の推力を変動させる制御を行っている。これにより、ワイヤWがその走行経路を往復走行している時(すなわち、ワイヤWがその長さ方向に往復動している時)にワイヤWに緊張を与え、ワイヤWの走行の向きが切り替わる時にワイヤWの緊張を解くことが可能となる。
【0035】
より具体的には、ワイヤWの走行経路における往路及び復路の走行ではエアシリンダー30のピストンロッドを退避位置に保持してワイヤWに緊張を与え、復路の走行と復路の走行が切り替わる時はエアシリンダー30のピストンロッドを上記退避位置に比べて突出した位置に保持してワイヤWの緊張を解いている。
【0036】
その結果、ワイヤWがその経路を走行している時は、ワイヤWは緊張状態にあるので、半可塑性体Mを効率よく切断することができる。一方、ワイヤWの走行の向きが切り替わる時は、ワイヤWの緊張が解かれるので、半可塑性体Mの切断に必要な力よりもワイヤWと半可塑性体Mとの間の摩擦抵抗力が大きくなって半可塑性体Mを切断することができなくなる。つまり、ワイヤWがその経路を走行している時だけ半可塑性体Mの切断が行われ、ワイヤWの走行の向きの切り替わりによりワイヤWの走行が一時的に停止する時は半可塑性体Mの切断が行われなくなり、周期的なケバ立ちをなくすことができる。
【0037】
ところで、本発明の第2の実施形態の切断装置20では、1往復の走行の内、回転ドラム21からワイヤWを送り出して回転ドラム22で巻き取る往路の走行を考慮したとき、回転ドラム21から折返しプーリー29までの正面から見て右側の走行経路(ドラムからワイヤを送り出す側)では回転ドラム21によるワイヤWの送り出しの動作がワイヤWの張力を弱める方向に作用する。一方、折返しプーリー29から回転ドラム22までの正面から見て左側の走行経路(ドラムにワイヤを巻き取る側)では回転ドラム22によるワイヤWの巻き取りの動作が張力を強める方向に作用する。
【0038】
同様に、回転ドラム22からワイヤWを送り出して回転ドラム21で巻き取る復路の走行を考慮したとき、回転ドラム22から折返しプーリー29までの左側の走行経路(ドラムからワイヤを送り出す側)では回転ドラム22によるワイヤWの送り出しの動作がワイヤWの張力を弱める方向に作用し、折返しプーリー29から回転ドラム21までの右側の走行経路(ドラムにワイヤを巻き取る側)では回転ドラム21によるワイヤWの巻き取りの動作が張力を強める方向に作用する。このように、1対の回転ドラム21、22の回転方向の回転方向が切り替わる度に前述した張力を弱める作用と強める作用が右側の走行経路と左側の走行経路で交互に繰り返される。
【0039】
この作用を積極的に利用して、例えば、送り出し側のドラムから折返しプーリー29までの走行経路のワイヤの緊張を解き(緊張が緩んでいる側をさらに弱める)、折返しプーリー29から巻き取り側のドラムまでの走行経路のワイヤには緊張を加える(緊張されている側をさらに強める)ようにエアシリンダー30の推力を制御する。これにより、ワイヤが巻き取られる側の経路のみを確実に緊張することが出来る。その結果、切断方向を一方向に限定することが可能となり、より綺麗で平滑な切断面が得られる。なお、上記制御に加えて、前述した走行の向きが切り替わる時にワイヤWの緊張を解く制御を行ってもよい。
【0040】
このように、ワイヤWが一方向に移動している時はワイヤWに緊張を与え、それとは逆の方向に移動している時はワイヤWの緊張を解くようにエアシリンダー30の推力を制御することによって、半可塑性体Mの切断方向を一方向だけに限定することが出来る。すなわち、上記した第2の実施形態の例でいえば、半可塑性体Mに対してワイヤWが下から上に走行する時だけ半可塑性体Mを切断することが可能となる。その結果、周期的なケバ立ちをより一層目立たなくすることが可能となる。また、このようにワイヤWの張力を制御することにより、ワイヤWに無理な力を与える機会が少なくなるので、ワイヤWの寿命を延ばすことも可能となる。
【0041】
上記第1の実施形態及び第2の実施形態で用いたエアシリンダーの推力を制御する方法としては、例えば原動機の回転をエンコーダなどで検知し、これに基づいてエアシリンダーの空気系に設けられているソレノイドバルブの作動を制御すればよい。あるいは、リミットスイッチやモーションセンサを用いて枠体の往路の動作と復路の動作が切り替わるタイミングを検出し、このタイミングに基づいて上記ソレノイドバルブの作動を制御してもよい。
【0042】
なお、上記第1の実施形態及び第2の実施形態ではワイヤWに緊張を付与したり緊張を解いたりする機構としてエアシリンダーを例にとって説明したが、かかる機構に限定するものではなく、緩衝効果のあるバネなどの弾性体を利用してもよい。例えば上記第1の実施形態の切断装置10に使用したエアシリンダーに代えてバネを用いる場合は、バネと枠体11との接続部にクランク機構やリンク機構を配置して、ワイヤWに与える緊張力の大小を制御することで同様の効果を得ることが出来る。
【0043】
ワイヤWの往復動に適した走行速度(移動速度)や往復走行(往復動)のストローク(振幅)は、半可塑性体Mに向けて相対移動させるワイヤWの当該相対移動方向の相対速度に応じて適宜調整するのが好ましい。往復走行(往復動)のサイクルは速ければ速いほど良いが、一般的には上記半可塑性体MとワイヤWとの相対移動方向の相対移動距離2mm〜10mmに対して1サイクル程度にすることが望ましい。往復走行(往復動)のストロークは装置構成に応じて適宜設定されるが、一般的には長ければ長いほど好ましく、優れた平滑効果を得るためには10mm以上であることがより好ましい。
【0044】
つまり、より平滑な切断面を得るためには、往復走行(往復動)のサイクルを早くすると共に、ストロークを長くすれば良い。しかしながら、図1及び図2に示す構成においては、往復動のサイクルを早くする場合はワイヤWへの緊張力制御をより的確に行なわなければ、ワイヤWの往復動の向きの切り替わりのタイミングとワイヤWの緊張と弛緩の切り替わりのタイミングを合わせることが難しくなる。
【0045】
これに対して図3及び図4に示す構成の場合は、より高速に往復動が切り替わる場合であってもそのタイミングにワイヤWの緊張と弛緩の切り替わりのタイミングを合わせ易く、よって極めて平滑な切断面を得ることができる。
【実施例】
【0046】
[実施例1]
図1及び図2に示す切断装置10を用いて半可塑性体Mの切断を行った。切断用のワイヤWには、直径0.8mmのピアノ線を使用し、切断装置10と半可塑性体Mの相対速度、ワイヤWの往復動の周波数と振幅、及びワイヤWの緊張の制御はそれぞれ下記表1に示す条件にした。なお、図1及び図2の構成においては、ワイヤWの往復動のストローク(振幅)は、その枠体の往復動のストローク(振幅)に等しい。また、表1の周波数(Hz)は、単位時間当たりのワイヤWの往復動の数(すなわち、サイクル毎秒)を示している。切断後の半可塑性体Mの切断面を確認したところ、周期的な模様を目視で確認することは出来なかった。
【0047】
[実施例2]
図3及び図4に示す切断装置20を用いて半可塑性体Mの切断を行った。切断用のワイヤWには直径0.8mmのピアノ線を使用し、切断装置20と半可塑性体Mの相対速度、ワイヤWの往復動の周波数と振幅、及びワイヤWの緊張の制御はそれぞれ下記表1に示す条件にした。
【0048】
この条件は、送り出し側の回転ドラムから折返しプーリー29までの送り出し側走行経路においてワイヤWの緊張を解くと共に、折返しプーリー29から巻き取り側の回転ドラムまでの巻き取り側走行経路においてはワイヤWに緊張を付与し、ワイヤWの走行が停止する前から後者の巻き取り側の走行経路の緊張を緩めるようにした。そして、回転ドラムの回転方向が切り替わって、送り出し側となった走行経路ではワイヤWの緊張を解くと共に、巻き取り側となった走行経路ではワイヤWに緊張を付与した。以降、同様にしてワイヤWの緊張を解く制御と緊張を付与する制御を交互に繰り返した。このような制御は、図3及び図4に示す構成での実施がより適している。切断後の半可塑性体Mの切断面を確認したところ、周期的な模様を目視で確認することは出来なかった。
【0049】
[実施例3]
下記表1に示すように、ワイヤWの往復動の周波数を高めに設定した以外は上記実施例2と同様にして半可塑性体Mの切断を行った。切断後の半可塑性体Mの切断面を確認したところ、周期的な模様を目視で確認することは出来なかった。さらに、実施例1及び2に比べて、より平滑で滑らかな切断面が得られた。このことから、図3及び図4の切断装置20の場合は、周波数を高く設定することによって、切断速度を速めても実施例2と同程度の綺麗な切断面が得られることが分かる。つまり、周波数を高く設定することによって、生産効率を向上することができる。
【0050】
[比較例1]
比較のため、下記表1に示すようにワイヤWを常時緊張状態にしたこと以外は実施例1と同様にして半可塑性体Mの切断を行った。切断後の半可塑性体Mの切断面を確認したところ、切断面に目視で確認可能な周期的な模様が発生していた。
【0051】
【表1】

【符号の説明】
【0052】
10 切断装置
11 枠体
12 エアシリンダー
13 支持架台
14 駆動装置
15 ワイヤ係着部
20 切断装置
21、22 1対の回転ドラム
23 ガイドプーリー
24 整合プーリー
25 転向プーリー
26 テンションプーリー
27、28 位置決めプーリー
29 折返しプーリー
30 エアシリンダー
31 駆動装置
32 支持架台
W ワイヤ
M 半可塑性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤをその長さ方向に往復動させながら半可塑性体に向けて相対的に移動させて該半可塑性体を切断する方法であって、前記往復動の周期に同期させてワイヤに緊張を与える状態と緊張を解く状態とを交互に繰り返すことを特徴とする半可塑性体の切断方法。
【請求項2】
前記ワイヤが長さ方向に移動している時はワイヤに緊張を与え、ワイヤの往路の移動と復路の移動が切り替わる時はワイヤの緊張を解くことを特徴とする、請求項1に記載の半可塑性体の切断方法。
【請求項3】
前記ワイヤが一方向に移動している時はワイヤに緊張を与え、それとは逆の方向に移動している時はワイヤの緊張を解くことを特徴とする、請求項1又は2に記載の半可塑性体の切断方法。
【請求項4】
前記ワイヤの往復動のため、同心軸上に回動自在に設けられた1対のドラムと、これら1対のドラムの内の一方から送り出されて他方で巻き取られるワイヤが走行する経路の折り返しを担うプーリーとを使用し、送り出し側のドラムからプーリーまでの経路ではワイヤの緊張を解くと共に、プーリーから巻き取り側のドラムまでの経路ではワイヤに緊張を与えることを特徴とする、請求項3に記載の半可塑性体の切断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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