説明

半可塑性体の切断装置

【課題】 エネルギー消費効率がよくて製造コストを低減できる半可塑性体の切断装置を提供する。
【解決手段】 半可塑性体MとワイヤWとを相対的に移動させて半可塑性体Mの切断を行う切断装置20であって、同心軸3上に設けられた1対の回転ドラム1、2と、1対の回転ドラム1、2にそれぞれ両端部を係着して巻回されたワイヤWと、1対の回転ドラム1、2のうちの一方の回転ドラムから引き出されたワイヤを他方の回転ドラムに向けて折り返す折り返しプーリー12と、引き出されたワイヤWを半可塑性体Mの切断が行われる切断領域に導く位置決めプーリー10、11と、引き出されたワイヤWに所定の張力を付与するテンションプーリー9などの張力付与機構とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の外壁材などに用いられるALC(軽量気泡コンクリート)パネルの製造工程において使用される、ALCの半可塑性体を切断する切断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ALCパネルの製造では、従来から原料スラリーを所定の型枠内に流し込み、所定の硬さの半可塑状態に固まったところで型枠を外し、その半可塑状態のALC(以降、半可塑性体とも称する)をピアノ線等のワイヤにより所定の寸法に切断した後、オートクレーブで蒸気養生して所定の大きさ・形状のALCパネルを得る方法が一般的に行われてきた。
【0003】
ワイヤによる切断の際は切断装置を使用することが多く、両支持部に緊張状態で架け渡されたワイヤと半可塑性体とを相対移動させながら切断する方式であるワイヤ固定切断方式の切断装置が特に多く用いられてきた。しかし、この方式で固定したワイヤを半可塑性体に押し当てながら切断するだけでは、半可塑性体の切断面にケバ立ちが生じやすくなり、平滑な切断面が得られにくいという不具合を生じることが多かった。なお、ワイヤと半可塑性体との相対移動とは、半可塑性体側を動かさないでワイヤ側を半可塑性体に向けて移動させるか、又はワイヤ側を動かさないで半可塑性体側をワイヤに向けて移動させることをいう。
【0004】
切断面のケバ立ちは、蒸気養生後においてもALCパネル表面に残存してパネル自体の美観を損ねるだけでなく、パネルの保管時や移動時などの際に風が当たるか、ケバ立ち面が擦れるか、あるいはパネルに振動が加わるなどにより粉となって飛散することがあり、パネル置き場や施工現場などにおいて問題となっていた。また、ケバ立った状態のままALCパネル表面に塗装仕上げをすると、ケバ立ち部は塗装後のALCパネル表面に凹凸部となって残るため、多量の塗料を塗布してALCパネル表面の美観が損なわれないようにする必要があった。
【0005】
そこで、このようなケバ立ちを抑えるために、例えば特許文献1、2のように、半可塑性体の切断が行われる切断領域を挟んで対向する位置にそれぞれ回転するドラムを設け、一方のドラムからワイヤを引き出しつつ他方のドラムに巻き取ることによりワイヤを走行させながら、この走行するワイヤと半可塑性体とを切断方向に相対移動させて半可塑性体を切断する方法が提案されている。
【0006】
また、特許文献3のように、半可塑性体の進行経路の上下にそれぞれ支持部材を設け、これら両支持部材の間に複数対のワイヤを架け渡すとともに、両支持部材をそれぞれ上下に設けた駆動装置で上下に往復動させ、この往復動するワイヤに半可塑性体を押し当てて切断する方法も提案されている。そして、この方法は、ワイヤをその線方向に往復動させながら切断する際に生じやすい周期的なケバ立ちをならすことができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭56−33295号公報
【特許文献2】特開2004−358597号公報
【特許文献3】特開2001−277233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1、2のように半可塑性体の切断領域を挟んで設けられた両ドラムを用いてワイヤを走行させる場合、一方のドラムの回転中心軸と他方のドラムの回転中心軸とは別々に設置することになるので、通常はそれらを駆動する原動機も別々に設置することになる。従って、これらドラムの回転駆動のためのエネルギー消費が非効率になって、製造コストが増加するという問題があった。
【0009】
また、ワイヤをその線方向に往復動させながら半可塑性体を切断する特許文献3の方法は、複数対のワイヤを支持する支持部材ごと上下方向に往復動させる必要があるため、装置が大掛かりになる。さらに、より平滑な切断面を得るには、ワイヤの往復走行のサイクルは速いほど良く、往復走行のストロークは長いほど良い。しかしながら、特許文献3の方法は、このようなワイヤの往復走行のサイクルの高速化やストローク長の増大化にともなって往復動させる支持部材がますます大掛かりになり、製造コストの点において実際的で無い。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、平滑な切断面が得られると共に、エネルギー消費効率に優れた半可塑性体の切断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の半可塑性体の切断装置は、半可塑性体とワイヤとを相対的に移動させて半可塑性体の切断を行う切断装置であって、同心軸上に設けられた1対の回転ドラムと、1対の回転ドラムにそれぞれ両端部を係着して巻回されたワイヤと、1対の回転ドラムのうちの一方の回転ドラムから引き出されたワイヤを他方の回転ドラムに向けて折り返す折り返しプーリーと、引き出されたワイヤを半可塑性体の切断が行われる切断領域に導く位置決めプーリーと、引き出されたワイヤに所定の張力を付与する張力付与機構とを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ワイヤが引き出される回転ドラムとワイヤが巻き取られる回転ドラムとが互いに同心軸上に配置されているので、これら両回転ドラムを軸支する回転中心軸を別々に設ける必要がなくなる上、これら両回転ドラムを回転させる駆動機構も1台でよくなる。その結果、駆動のためのエネルギー消費を効率化させることができ、製造コストを低減することができる。
【0013】
また、走行するワイヤに働く張力が両回転ドラムに与える回転力の回転方向が、ワイヤが引き出される回転ドラム側とワイヤが巻き取られる回転ドラム側とで逆方向となる。すなわち、これら両回転ドラムの同心軸に関して上記張力による回転モーメントは互いにほぼ打ち消される。よって、ワイヤを走行させるためのエネルギー消費をより効率化できる上、駆動機構の原動機の動力も小さいものでよくなる。また、原動機の動作は基本的には正転及び逆転のみでよいので、原動機の制御系を簡素化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る半可塑性体の切断装置が1つの枠体に8台搭載されている様子を示す正面図である。
【図2】図1に示す一点鎖線A−Aから切断装置を見たときの側面図である。
【図3】図1に示す8台の切断装置のうちの任意の1台の切断装置の概略の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明による半可塑性体の切断装置の一実施形態について、図面に沿って説明する。尚、図1には、本発明の一実施形態に係る半可塑性体の切断装置20が、正面視略長方形形状を有する1つの枠体30に8台並列して搭載されている場合が例示されているが、これら8台の切断装置20は全てほぼ同様の構造を有しているので、以降の説明においては、これら8台の切断装置20のうちの1台をとり上げて説明する。
【0016】
切断装置20は、同心軸上に設けられた1対の回転ドラム1、2と、1対の回転ドラム1、2にそれぞれ両端部を係着して巻回されたワイヤWと、1対の回転ドラム1、2のうちの一方の回転ドラムから引き出されたワイヤWを他方の回転ドラムに向けて折り返す折り返しプーリー12と、引き出されたワイヤWを半可塑性体の切断が行われる切断領域に導く位置決めプーリー10、11と、引き出されたワイヤWに所定の張力を付与するテンションプーリー9などの張力付与機構とを備えている。
【0017】
1対の回転ドラム1、2及び折り返しプーリー12は、枠体30の上部横棒30a及び下部横棒30bにそれぞれ回転可能に軸支されているため、上部横棒30aと下部横棒30bとの間に画定される半可塑性体Mの切断領域に、折り返しプーリー12で折り返される前のワイヤWと折り返した後のワイヤWとを互いに平行且つ逆向きに走行させることができる。この状態で、半可塑性体Mを当該切断領域に通過させて半可塑性体Mに走行するワイヤWを押し当てることによって、半可塑性体Mを所定の寸法に切断することができる。
【0018】
上記構成を有する切断装置20について、以下に詳細に説明する。ワイヤWの引き出し及び巻き取りがそれぞれ行われる1対の回転ドラム1、2は、互いに同心軸上で回転するように、同心軸3の一端部に取り付けられている。同心軸3は、その回転中心線が図1の紙面に垂直な方向を向くように枠体30の上部横棒30aに回転可能に軸支されている。
【0019】
1対の回転ドラム1、2は、同心軸3に着脱可能に取り付けられていることが好ましい。これにより、一方の回転ドラムにワイヤWが全て巻回された状態の1対の回転ドラム1、2を予備として準備しておけば、1対の回転ドラム1、2を切断装置20に取り付けた後すぐに切断作業を開始することができる。特に、図1に示すように複数台の切断装置20が1つの枠体30に搭載されている場合は、切断装置20のワイヤWの交換が必要となったときは、回転ドラムの交換だけを行えばよいので、ワイヤWの交換作業時間を大幅に短縮することができる。
【0020】
回転ドラムを着脱可能とするための構造は特に限定するものではなく、例えば同心軸3において、一端部から回転ドラムが取り付けられる位置までの軸表面に軸方向に延在する少なくとも1本の溝部を設けると共に、この溝部に嵌合する突起部を、同心軸3が挿通される回転ドラムの中心孔の内面に設ければよい。なお、同心軸3の一端部には、該一端部に螺合するキャップ状のストッパを取り付けたり、直径方向に貫通する孔を同心軸3の上記一端部に穿孔してそこに割りピン等を取り付けるなどにより、稼動時に回転ドラムが同心軸3から外れないようにしておくことがより好ましい。
【0021】
1対の回転ドラム1、2の近傍には、回転ドラム1、2の回転駆動の動力源となるモーター等の原動機4が設けられている。この原動機4のスピンドルにはベルトプーリー4aが嵌着されており、このベルトプーリー4aと、同心軸3の端部に嵌着されているベルトプーリー3aとが駆動ベルト5により連結されている。これにより、原動機4の動力を駆動ベルト5を介して同心軸3に回転駆動力として伝えることができ、その結果、1対の回転ドラム1、2を所定の回転速度で互いに連動して回転させることができる。すなわち、ベルトプーリー3a、原動機4、ベルトプーリー4a、及び駆動ベルト5によって、1対の回転ドラム1、2を回転させる駆動機構が構成されている。
【0022】
尚、図1では、隣接する2対の回転ドラムから等距離となるようにそれらの斜め上部に1台の原動機4を配置し、この1台の原動機4で2つの切断装置20の駆動を行う構成になっているが、かかる構成に限定されるものではなく、1対の回転ドラム1、2に対して1台の原動機4を設けてもよいし、隣接する3対以上の回転ドラム1、2に対して1台の原動機4を設けてもよい。また、駆動力の伝達方式は上記の駆動ベルトに限定されるものではなく、ギヤ方式やダイレクト駆動方式などを採用してもよい。
【0023】
さらに、1対の回転ドラム1、2の内の少なくとも一方は、ワンウェイクラッチを介して同心軸3に取り付けられているのが好ましい。このワンウェイクラッチは、同心軸3に相対して回転ドラムがワイヤWを巻き取る方向に回転することを許容するものであり、例えば、回転ドラム1にワンウェイクラッチを取り付ける場合は、回転ドラム1が同心軸3に対してワイヤWを巻き取る方向(すなわち、図1では反時計回り)に回転することが可能となる。これにより、準備段階においてワイヤWを回転ドラム1、2に巻きつける際に生じやすい初期のワイヤ弛みを効率的に除くことができ、切断装置20の起動前の準備作業を迅速且つ効率的に行うことが可能となる。
【0024】
上記1対の回転ドラム1、2には、1本のワイヤWの両端部がそれぞれ係着して巻回されている。具体的には、1本のワイヤWの一端部が回転ドラム1に係着されており、他端部は回転ドラム2に係着されている。そして、回転ドラム1では図1に示すように、正面から見てドラムの右側から下方に延出するようにワイヤWが巻回されており、回転ドラム2では逆にドラムの左側から下方に延出するようにワイヤWが巻回されている。
【0025】
これにより、1対の回転ドラム1、2の一方から引き出されて他方に巻き取られるまでの走行経路を走行するワイヤWに働く張力が1対の回転ドラム1、2に与える回転力の回転方向を、ワイヤが引き出される一方の回転ドラム側とワイヤが巻き取られる他方の回転ドラム側とで逆方向にすることができる。よって、これら1対の回転ドラム1、2の同心軸に関して張力による回転モーメントを互いにほぼ打ち消すことが可能となる。つまり、図1の紙面において回転ドラム1には時計回りの張力がかかり、回転ドラム2には反時計回りの張力がかかる。
【0026】
ワイヤWには、好適にはピアノ線等の鋼線や高強度繊維等が用いられるため、かかるワイヤWを1対の回転ドラム1、2に係着させる方法としては、例えばワイヤWの端部に止め具を嵌めて、これをかしめ治具等で圧着処理した後、回転ドラムに予め設けたスリットや凹部に当該止め具を係合させる方法や、頭部に貫通孔が設けられたネジの当該貫通孔にワイヤWの端部を挿通して繋着した後、このネジを回転ドラムのネジ孔にねじ込んで固定する方法などを挙げることができる。
【0027】
ワイヤWの長さは、所定の時間連続して半可塑性体Mの切断を行えるだけの長さがあればよく、例えば、一方の回転ドラムから他方の回転ドラムに向けてワイヤWを一方向にだけ走行させて半可塑性体Mの切断を行う場合は、走行経路分を除いてワイヤWのほぼ全部が巻回されている一方の回転ドラムからワイヤWが全て引き出される前に、所定の大きさを有する半可塑性体Mの端から端までの切断を行い得る長さをワイヤWが有していることが望ましい。
【0028】
次に、回転ドラム1から折り返しプーリー12までの第1の走行経路を画定する各プーリーについて説明する。回転ドラム1の下方にはガイドプーリー6が設けられている。このガイドプーリー6の回転軸は、上記した同心軸3と略平行となるように枠体30の中部横棒30cに回転可能に軸支されており、回転ドラム1から延出するワイヤWの走行をガイドしている。
【0029】
ガイドプーリー6の下方には整合プーリー7が設けられている。整合プーリー7の回転中心軸は、水平且つ同心軸3に直交するように、中部横棒30cに取り付けられている支持部30dに回転可能に軸支されている。これにより、同心軸3方向に前後して設けられている回転ドラム1、2からそれぞれ延出するワイヤWの同心軸3方向のずれを整合して、この第1の走行経路における半可塑性体Mの切断領域と後述する第2の走行経路における半可塑性体Mの切断領域とをともに図1の紙面に平行な面上に配置することが可能となる。
【0030】
この整合プーリー7の下方で且つ整合プーリー7よりも図1の紙面手前側に、整合プーリー7から送られてきたワイヤWを後述するテンションプーリー9に向けて転向せしめる転向プーリー8と、半可塑性体Mの切断領域を画定する第1及び第2位置決めプーリー10、11とがこの順で鉛直線上の上から下に向けて配置されている。これら転向プーリー8、第1及び第2位置決めプーリー10、11の回転中心軸は整合プーリー7の回転中心軸と略平行であり、転向プーリー8及び第1位置決めプーリー10は支持部30dに、第2位置決めプーリー11は下部横棒30bにそれぞれ回転可能に軸支されている。
【0031】
テンションプーリー9は、転向プーリー8及び第1位置決めプーリー10に比べて図1の紙面奥側に位置しており、ワイヤWに張力を付与できるようになっている。具体的には、テンションプーリー9は、ワイヤWを図1の紙面奥側に向けて引っ張るように支持部30dに配置されているエアシリンダー9aのピストンロッド先端に回転可能に取り付けられている。これにより、エアシリンダー9aの空気圧を適宜調整することによってワイヤWに所望の張力を付与することができる。すなわち、テンションプーリー9とエアシリンダー9aとによって張力付与機構が構成される。尚、張力付与機構の構成には、上記したエアシリンダー9a以外に、ばねなどの弾性体を構成部材とするものを採用してもよい。
【0032】
前述したように、第1位置決めプーリー10及び第2位置決めプーリー11は、それぞれ支持部30d及び下部横棒30bに軸支されており、これら鉛直方向の上下で対向する2つの位置決めプーリーの間に半可塑性体Mの切断が行われる切断領域が画定される。すなわち、半可塑性体Mを下部横棒30bと支持部30dが取り付けられている中部横棒30cとの間に通過させることによって、走行するワイヤWが半可塑性体Mに押し当てられ、これにより半可塑性体Mの切断を行うことができる。
【0033】
第2の位置決めプーリー11の斜め下方には、第2の位置決めプーリー11から送り出されたワイヤWを第2の走行経路に向けて折り返す折り返しプーリー12が設けられている。この折り返しプーリー12の回転中心線は回転軸3に平行で且つ鉛直方向下側となるように下部横棒30bに回転可能に軸支されている。これにより、折り返しプーリー12で折り返される前のワイヤWと折り返した後のワイヤWとを略180度方向転換できるようになっている。
【0034】
折り返しプーリー12で折り返されたワイヤWは、次に整合プーリー7を除いて前述した第1の走行経路を画定するプーリー群と同様のプーリー群を経て回転ドラム2に至る。すなわち、ガイドプーリー6、転向プーリー8、テンションプーリー9、第1の位置決めプーリー10及び第2の位置決めプーリー11によって画定される第2の走行経路は、1対の回転ドラム1、2の回転軸3と折り返しプーリー12の回転中心線とを通る面に関して回転ドラム1から転向プーリー8までの走行経路を除いた第1の走行経路とほぼ対称になっている。
【0035】
かかる構成により、折り返しプーリー12で折り返される前のワイヤWと折り返された後のワイヤWとを、半可塑性体Mの切断が行われる切断領域において、半可塑性体MとワイヤWとの相対的な進行方向から見て互いに平行且つ離間して走行させることができる。その結果、相対移動する半可塑性体Mに対して1本のワイヤWで一度に2箇所を切断することが可能となり、切断作業の効率を高めることができる。
【0036】
次に、上記した一実施形態の切断装置20の動作について、ワイヤWを回転ドラム1から引き出して回転ドラム2に巻き取る場合を例にとって説明する。先ず、両端がそれぞれ1対の回転ドラム1、2に係着されているワイヤWのほぼ全部を、回転ドラム1に巻き付けられている状態にする。このとき、ワイヤWは、第1及び第2の走行経路を画定するプーリー群に架けられているようにする。この状態でエアシリンダー9aを起動し、テンションプーリー9を介してワイヤWに所定の張力がかかるようにする。続いて原動機4を起動し、1対の回転ドラム1、2を図1の紙面において時計回りに回転させる。
【0037】
1対の回転ドラム1、2の回転に伴い、回転ドラム1に巻き取られていたワイヤWは送り出され、ガイドプーリー6、整合プーリー7、転向プーリー8、テンションプーリー9、第1の位置決めプーリー10及び第2の位置決めプーリー11の順で第1の走行経路を走行してから折り返しプーリー12で折り返され、次に第2の位置決めプーリー11、第1の位置決めプーリー10、テンションプーリー9、転向プーリー8及びガイドプーリー6の順で第2の走行経路を走行してから巻き取り側ドラムである回転ドラム2に巻き取られる。
【0038】
同時に、図2の鎖線で示す半可塑性体Mを矢印の方向に枠体30に向けて送り込むか、あるいは半可塑性体Mに向けて枠体30を送り込む。かかる半可塑性体Mと枠体30との相対移動により、走行するワイヤWを半可塑性体Mに押し当てて半可塑性体Mをその移動方向における全長に亘って切断する。静止状態にある枠体30に向けて半可塑性体Mを送り込む場合は、例えば、図2の矢印方向に移動可能な台車等の移動手段に半可塑性体Mを載せて所定の速度で矢印方向に移動させればよい。
【0039】
これとは逆に、静止状態にある半可塑性体Mに向けて枠体30を送り込む場合は、固定した支持台に半可塑性体Mを載置し、その切断部分に向けて図2の矢印とは反対方向に移動できる台車等の移動手段の上に枠体30を搭載して所定の速度で矢印とは反対の方向に移動させればよい。いずれの場合においても、半可塑性体Mの載置部は、走行するワイヤWが接触しないように例えば櫛状に切り欠いておくのが好ましい。
【0040】
尚、ワイヤWの走行速度は、半可塑性体MとワイヤWの相対移動速度と同等か、もしくはそれ以上で10倍以下とするのが望ましい。ワイヤWの走行速度が半可塑性体MとワイヤWとの相対移動速度よりも遅くなると、切断面を平滑化する効果が少なくなる。一方、10倍よりも速くすれば、必要とされるワイヤWの長さが長くなりすぎて実用的でなくなる。
【0041】
半可塑性体Mの切断が完了して回転ドラム1から引き出されたワイヤWのほとんどが回転ドラム2に巻き取られた後は、1対の回転ドラム1、2を図1の紙面において反時計回りに回転させ、回転ドラム2に巻回されているワイヤWを回転ドラム2から回転ドラム1に向けて走行させながら半可塑性体Mの切断を行うことができる。これにより、タクトタイムを短縮することが可能となる。なお、回転ドラム2に巻き取られたワイヤWを一旦回転ドラム1に巻き戻してから、再度同じ条件で半可塑性体Mを切断するようにしてもよい。
【0042】
以上説明したように、本発明の一実施形態の切断装置20では、ワイヤWの送り出し及び巻き取りをそれぞれ行う回転ドラム1、2を同心軸3上に配置することにより、これら回転ドラム1、2を回転させるための回転軸を別々に配置する必要がなくなり、よって回転機構が簡素化するとともに原動機の設置台数が少なくなってエネルギー消費効率が向上し、製造コストを低減することができる。
【0043】
また、ワイヤWに働く張力が回転ドラム1、2に与える回転力の回転方向を、送り出されるワイヤW側と巻き取られるワイヤW側とで逆にすることができる。よって、回転ドラム1、2の同心軸3に関してこれら張力による回転モーメントを互いにほぼ打ち消すことができる。その結果、ワイヤWを走行させるためのエネルギー消費効率をより一層向上させることができる上、動力の小さい原動機4で回転ドラム1、2を回転駆動させることができる。さらに、動作制御は基本的に原動機4の正転及び逆転のみでよいので、原動機の制御系を簡素化することができる。
【0044】
また、図1に示すように、複数の切断装置20を用いて複数のワイヤWで一度に半可塑性体Mを切断する場合であっても、各ワイヤWに均等に張力を付与することが可能であり、ワイヤWの張力の相違に起因するワイヤWの破断や半可塑性体Mの切断面の外観体裁が損なわれる問題などを防止することができる。また、各ワイヤWに個別に張力を付与することが可能であり、各ワイヤWの緊張状態の調整を容易に行うことができる。
【0045】
また、ワイヤWを一方向に走行させた状態でワイヤWと半可塑性体Mとを相対的に移動させながらワイヤWを半可塑性体Mに押し当てて切断することにより、半可塑性体Mの切断部分には常に一定の速度のワイヤWが押し当てられることになるので、ワイヤWを往復移動させながら切断する場合に必然的に起こるワイヤWの一時停止時によって生じ得るケバ立ちや凹凸模様、切断面の周期的なワイヤ跡などを確実に防止することができる。
【0046】
本発明は、上記した一実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で上記した一実施形態の構成要素を部分的に変更したものや、他の構成要素を付加したもの、あるいは構成要素の一部を同じ作用効果が得られる範囲で上位概念化したものも含まれる。例えば、下記に示す変形例も本発明に包含される。
【0047】
すなわち、上記した一実施形態では、ワイヤWを1対の回転ドラム1、2のうちの一方のドラムから他方のドラムに向けて一方向に走行させながらワイヤWと半可塑性体Mとを相対的に移動させて切断する構成であったが、1対の回転ドラム1、2の同心軸3の回転方向を交互に連続的に切り替えて、ワイヤWをその走行経路に沿って往復走行させながらワイヤWと半可塑性体Mとを相対的に移動させて切断してもよい。
【0048】
ワイヤWに往復走行をさせる部分は重量の大きな切断装置本体部分ではなく、基本的には前述したように1対の回転ドラム1、2を同心軸3上に設けることによって簡素化すなわち軽量化された回転ドラム1、2を含むプーリー群だけなので、回転方向を交互に切り替える場合であっても簡易な機構で行うことができる。また、これらプーリー群を搭載する枠体30を特に強化する必要はなく、巻回されるワイヤWの長さも短くてよいので装置全体を簡素化することができる。すなわち、既存の製造ラインや建屋の大幅な改造を要することなく導入することが可能となる。
【0049】
また、装置の可動部分が小型軽量なので、装置を大掛かりにすることなくワイヤの往復走行のサイクルを簡単に速くすることができる上、各サイクルにおける回転ドラム1、2の回転角度を増やすだけで簡単にワイヤの往復走行のストロークを長くすることができる。従って、より一層平滑な切断面を簡単に得ることが可能となる。
【0050】
尚、ワイヤWに適した走行速度や往復走行のストロークは、半可塑性体Mと枠体30との相対速度によってある程度異なる。往復走行のサイクルは速ければ速いほど良いが、一般的には半可塑性体Mと枠体30との相対移動距離2mm〜10mmに対して1サイクル程度にすることが望ましい。往復走行のストロークは装置構成に応じて適宜設定されるが、一般的には長いほど好ましく、平滑効果を得るために10mm以上であることがより好ましい。
【0051】
また、上記一実施形態では、折り返しプーリー12で折り返される前と後のワイヤWが、半可塑性体MとワイヤWとの相対的な移動方向から見て互いに離間する位置関係となるようにプーリー群を配置したが、折り返しプーリー12で折り返される前のワイヤWと後のワイヤWとが、半可塑性体MとワイヤWとの相対的な移動方向から見て同一線上に位置するようにプーリー群を配置してもよい。これにより、ワイヤWによって切断された両切断面の間に、当該切断を行ったワイヤWとは逆方向に走行するワイヤWを通過させることが可能となるので、より平滑な切断面を得ることができる。
【0052】
折り返し前後の両ワイヤWを同一線上に位置させるには、回転ドラム1、2及び折り返しプーリー12を含む第1及び第2の走行経路を画定するプーリー群を全体的に上記一実施形態の位置から水平方向に90度回転させればよい。すなわち、回転ドラム1、2の同心軸3と折り返しプーリー12の回転軸とを含む面に、走行するワイヤWと半可塑性体Mとの相対的な進行方向が直交する構成にすればよい。
【0053】
このとき、ワイヤWを1対の回転ドラム1、2のうちの一方のドラムから他方のドラムに向けて一方向に走行させてもよいし、1対の回転ドラム1、2の同心軸3の回転方向を交互に連続的に切り替えてワイヤWを往復移動させてもよい。また、ワイヤWの張力は、折り返し前の第1の走行経路及び折り返し後の第2の走行経路のそれぞれについてテンションプーリー9等で個別に付与する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0054】
1、2 1対の回転ドラム
3 同心軸
4 原動機
5 駆動ベルト
6 ガイドプーリー
7 整合プーリー
8 転向プーリー
9 テンションプーリー
9a エアシリンダー
10 第1の位置決めプーリー
11 第2の位置決めプーリー
12 折り返しプーリー
20 切断装置
30 枠体
W ワイヤ
M 半可塑性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半可塑性体とワイヤとを相対的に移動させて半可塑性体の切断を行う切断装置であって、同心軸上に設けられた1対の回転ドラムと、1対の回転ドラムにそれぞれ両端部を係着して巻回されたワイヤと、1対の回転ドラムのうちの一方の回転ドラムから引き出されたワイヤを他方の回転ドラムに向けて折り返す折り返しプーリーと、引き出されたワイヤを半可塑性体の切断が行われる切断領域に導く位置決めプーリーと、引き出されたワイヤに所定の張力を付与する張力付与機構とを備えることを特徴とする半可塑性体の切断装置。
【請求項2】
前記折り返しプーリーで折り返される前のワイヤと後のワイヤとが、前記半可塑性体とワイヤとの相対的な移動方向から見て互いに離間していることを特徴とする、請求項1に記載の半可塑性体の切断装置。
【請求項3】
一方向に回転する前記1対の回転ドラムにより前記ワイヤを一定方向に走行させながら半可塑性体の切断が行われることを特徴とする、請求項1又は2に記載の半可塑性体の切断装置。
【請求項4】
回転方向が交互に切り替わる前記1対の回転ドラムにより前記ワイヤを往復走行させながら半可塑性体の切断が行われることを特徴とする、請求項1又は2に記載の半可塑性体の切断装置。
【請求項5】
前記折り返しプーリーで折り返される前のワイヤと後のワイヤとが、前記半可塑性体とワイヤとの相対的な移動方向から見て同一線上に位置していることを特徴とする、請求項1に記載の半可塑性体の切断装置。
【請求項6】
前記1対の回転ドラムのうちの少なくとも一方が、前記ワイヤを引き出し且つ巻き取る方向への回転力を伝達するワンウエイクラッチを介して軸支されていることを特徴とする、請求項3に記載の半可塑性体の切断装置。
【請求項7】
前記1対の回転ドラムが着脱可能に前記同心軸に軸支されていることを特徴とする、請求項1〜6の何れかに記載の半可塑性体の切断装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate