説明

半導体または絶縁体組成物における有機粘土の使用による誘電損失の低減

有機粘土が半導体組成物に添加され、絶縁体へ移動し、望まれない高い誘電損失をもたらし得る化学種を半導体層が含む層状複合材の誘電損失の低減を提供する。本発明の半導体組成物は、電力ケーブル用途において改善された性能を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2007年11月2日に申請された米国特許仮出願第60/984,813号の利益を主張し、この出願は参照として完全に本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、一般に、誘電損失の低減、より具体的には、電力ケーブル用途などにおける改善された性能のための半導体または絶縁体組成物の調合物に関する。
【背景技術】
【0003】
小型機器用のものから屋外の発電所間電力ケーブルを含む典型的な電力ケーブルは、1つまたは複数の層に包囲されていてもよい心線内に1つまたは複数の導体をしばしば含む。これらの層は、第1のポリマーの半導体シールド層;ポリマーの絶縁層;第2のポリマーの半導体シールド層;ならびに場合によって、金属テープシールド;およびポリマーの被覆の1つまたは複数を含んでもいてもよい。
【0004】
半導体組成物は、絶縁組成物に用いられたときに高い誘電損失を示すと知られている樹脂成分を含むことがある。これが半導体組成物で問題にならないことがあるが、半導体層から隣接する絶縁体層中への化学種の移動は、層状複合材の誘電損失の増加をもたらすことがある。半導体層から絶縁体中へ拡散する化学種の移動の低減、または半導体層内のこの化学種の増強された可溶化は、層状複合材の改善された誘電特性を与えると期待される。これは電力ケーブルなどの電気用途に役立つ。
【0005】
半導体シールド調合物において用いられるいくつかのエラストマー成分は、絶縁体へ拡散する化学種を含んでいることがあり、それは、電力ケーブル(特にケーブルの90℃の通常の動作温度定格を超える温度で)において強い誘電損失をもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、そうでなければより短いエージング時間においてケーブルのはるかに高い誘電損失をもたらすケーブル設計の半導体組成物において、エラストマー材料の種類の使用を可能にする手段を提供する。
【問題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、低減された誘電損失を提供するための、半導体層および/または絶縁体層における特定の有機粘土の使用に関する。改善された誘電体性能は、半導体組成物または絶縁体において少量の有機粘土の添加によって示された。有機粘土を含有する半導体層に隣接している絶縁体の誘電損失の増加は、同程度の時間の熱エージングの後に著しく低減された。
【0008】
一実施形態において、本発明は、第1の高分子樹脂および導電性充填剤を含む第1の材料を含む半導体層、および第2の高分子樹脂を含む第2の材料を含む絶縁層を含む構造体であり、半導体層および絶縁層は少なくとも部分的に互いに物理的に接触しており、第1の材料および第2の材料の少なくとも1つは有機粘土を含み、第1の高分子樹脂および第2の高分子樹脂は同一であっても異なっていてもよい。
【0009】
別の実施形態において、本発明は、少なくとも1つの高分子樹脂および少なくとも1つの有機粘土を含む組成物を含む絶縁層を含む物品である。
【0010】
一実施形態において、本発明は、1つまたは複数の導体を含む心線、第1の高分子樹脂および導電性充填剤を含む第1の材料を含む半導体層、および第2の高分子樹脂を含む第2の材料を含み半導体膜に隣接している絶縁層を含むケーブルであり、半導体層および絶縁層は直接的または間接的に心線を包囲し、第1の材料および第2の材料の少なくとも1つは有機粘土を含み、第1の高分子樹脂および第2の高分子樹脂は同一であっても異なっていてもよい。
【0011】
一実施形態において、比較構造体と本構造体とのAC誘電損失の比は1.5を超える(比較構造体は、有機粘土を欠くという点を除いて、本構造体と同一である)。
【0012】
一実施形態において、本発明は、少なくとも1つの高分子樹脂および少なくとも1つの有機粘土を含む組成物を含む絶縁層を含む物品であり、高分子樹脂は絶縁層のAC誘電損失より少なくとも1.5倍大きいAC誘電損失を有する。
【0013】
一実施形態において、本発明は高分子樹脂と有機粘土を含む絶縁体であり、高分子樹脂のAC誘電損失と絶縁体のAC誘電損失との比は、少なくとも1.5である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】絶縁体層の散逸率を示すグラフである。
【図2】様々な半導体組成物との接触から除去された絶縁体の散逸率を示すグラフである。
【図3】様々な組成物の半導体に接触してエージングした後の散逸率を示すグラフである。
【図4】EPDM樹脂の散逸率のグラフ表示である。
【図5】様々な組成物の散逸率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、そうでなければより短いエージング時間においてはるかに高いケーブル誘電損失をもたらすケーブル設計の半導体組成物において、エラストマー材料の種類の使用を可能にする。半導体組成物から隣接する絶縁層中への化学種の移動を低減するために、有機粘土が、半導体組成物の調製においてまたは絶縁体コンパウンドにおいて用いられてきたが、有機粘土を用いなければ層状複合材の誘電損失が著しく増加するであろう。その結果、絶縁体へ移動することができ、望まれない高い誘電損失をもたらす化学種を半導体層が含んでいる、層状複合材の誘電損失が低減する。同様に、有機粘土の使用はまた、隣接する半導体層を必要としなくてもよい絶縁体において有利であり得る。この場合、損失を起こす誘電性の化学種は絶縁体内に生得のものであり得、有機粘土の使用は、絶縁体の損失を起こす性質を緩和するのを助ける。
【0016】
本明細書に使用される用語「絶縁物」または「絶縁体」は、材料を通る電気の流れに抵抗または妨害する任意の材料を意味する。下記に述べられるように、本発明の絶縁体は、通常、高分子樹脂またはコンパウンドを含む。通常、そのような高分子樹脂には固有の絶縁特性がある。
【0017】
本明細書に使用される用語「半導体」または「半導体の」は、電気伝導率が導体と絶縁体との中間の、ホールと電子によって伝導が起こる、任意の材料または特性をそれぞれ意味する。下記に述べられるように、本発明の半導体は、通常、導電性充填剤を含む高分子材料の組成物である。
【0018】
種々様々の高分子材料が、電力ケーブル用および他の多数の用途の電気絶縁および半導体シールド材として利用されてきた。長期性能が望まれまたは必要とされる場合に、使用または生成物において利用されるために、そのような高分子材料は、適切な誘電特性を有していることに加えて、耐久性もなければならず、使用される何年にもわたって、効果的で安全な性能についての初期特性を実質的に保持しなければならない。例えば、建造物ワイヤー、電気モーターまたは機械用電力ワイヤー、地下電力伝送ケーブル、光ファイバー通信ケーブルにおいて、および小規模な電気器具においてさえ、使用されるポリマーの絶縁体は、安全のためだけでなく経済的必要性と実用性からも耐久性がなければならない。建造物電線または地下伝送ケーブルの耐久性のないポリマー絶縁体は、そのようなワイヤーまたはケーブルを頻繁に取り換えなければならないことに帰結し得る。
【0019】
電気デバイスで使用される一般的なポリマー組成物は、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンホモポリマーおよびコポリマー、エチレン/酢酸ビニル(EVA)コポリマーまたはエチレン−プロピレンエラストマー(さもなければエチレンプロピレンゴム(EPR)として知られている)から製造される。これらのポリマーの組成物の各々はしばしば1つまたは複数の理由で望ましくない。例えば、PVCの使用および処分は、しばしば環境上の理由で極度に規制され、電気絶縁で使用するには適切な代替材料が望ましいだろう。
【0020】
ポリエチレンは、一般に、電気絶縁材料として充填剤なしでニートで用いられる。従来技術で、長期の電気的安定性を有するポリエチレン系ポリマーを製造する試みがあった。例えば、ポリエチレンは、高温で改善された物理的性能を兼ね備え、かつ、ツリー形成として知られている方法であって、ポリマー中の電荷の伝搬の阻害剤として過酸化物残渣を作用させるために過酸化ジクミルで架橋されている。あいにく、これらの残渣は電力ケーブル使用にさらされるほとんどの温度おいてしばしば分解される。
【0021】
ポリエチレンとは対照的に、EPRは、一般に、高レベル充填剤(通常、約20から50重量パーセント)と組み合わせて電気絶縁体として用いられる。あいにく、通常、EPRと充填剤のこの組合せは貧弱な誘電特性を与える。
【0022】
本発明のデバイスの半導体組成物は、通常、組成物を半導体にするために、ポリマーまたはポリマーブレンド、および導電充填剤を含む。半導体組成物のための最も一般的な充填剤はカーボンブラックとグラファイトである。充填剤の量は充填剤および他の成分のタイプに依存して変わる。一般に、充填剤は、充填された半導電性組成物の約10から約55重量パーセントを含む。好ましくは、充填剤は、充填された半導体組成物の約20から約45、より好ましくは約30から約40重量パーセントを含む。所望の場合、通常銅で製造されている複数のニュートラルワイヤーを、絶縁シールド半導体の層に埋設しても、同層のまわりに、絶縁したケーブルのまわりの同心状の螺旋の形態に巻き付けてもよい。
【0023】
本明細書で使用する、有機粘土(有機親和性のある粘土としても知られている)は一般に有機多ケイ酸塩である。有機粘土は、イオン交換メカニズムによって、天然粘土を有機陽イオンと反応させることによって製造される。有機陽イオンは、天然粘土と同様の層状組織を維持しながら、粘土の天然中間層の陽イオンと交換し、有機親和性の界面を生成する。通常、有機陽イオンは第四アンモニウム化合物である。有機粘土の一般的な例は、有機構造体が化学的に結合した、カオリンまたはモンモリロナイトなどの粘土を含む。本発明において用いられる有機粘土は過剰の第四アンモニウム化合物を含んでもよい。有機粘土を製造するさらなる詳細は、例えば米国特許第5,780,376号に見出すことができる。有機粘土はまた、Southern Clay Products,Inc.から入手可能な第四級アンモニウム塩で修飾された天然モンモリロナイト粘土のCLOISITE(登録商標)系列など、市販もされている。有機粘土は、通常、コンパウンド中の高分子樹脂の全重量に対して最大約3wt%のレベルで加えられる。いくつかの実施形態において、有機粘土の量はコンパウンド中の樹脂剤の全重量に対して約1wt%から約3wt%の範囲である。
【0024】
有機粘土は適切な分配および混合を提供する任意の方法によって、絶縁体または半導体組成物に組み込むことができる。通常、有機粘土は、溶融混合機、押出機または類似装置で樹脂と溶融混合される。すべてのタイプの添加剤を含むポリマーを溶融混合する技術は、当業界で知られていて、本発明の実施において通常用いることができる。通常、本発明の実施に役立つ溶融混合操作において、高分子樹脂はポリマー溶融物を形成するに十分な温度に加熱され、押出機、バンバリ混合機、ブラベンダー混合機または連続混合機などの適切な混合機内で所望の量の有機粘土と混ぜ合わせられる。複合材は、ポリマーの融点以上の温度で、溶融したポリマーおよび有機粘土を剪断することにより調製することができる。機械的な剪断法は、押出機、射出成形機、バンバリタイプ混合機、またはブラベンダー型混合機などで用いられる。剪断は、ポリマー溶融物を押出機(単軸または二軸スクリュー)の端部の1つから導入し、押出機の他の端部から剪断加工ポリマーを受け取ることにより達成することができる。溶融物の温度、押出機中の溶融物の滞在時間、および押出機の設計(単軸スクリュー、二軸スクリュー、単位長当たりのフライト数、溝深さ、フライトの間隔、混合領域)は、適用すべき剪断量を制御するいくつかの変数である。
【0025】
代替として、ポリマーは粒状化され、有機粘土とともにドライ混合されてもよく、その後、高分子樹脂が溶融されて流動性の混合物を形成するまで、混合機内で加熱される。次いで、この流動性の混合物は、混合機内で、所望の複合材を形成するのに十分な剪断を与えることができる。ポリマーは、有機粘土の添加に先立って、流動性の混合物を形成するために、混合機内で加熱されてもよい。次いで、有機粘土と高分子樹脂は所望の複合材を形成するのに十分な剪断が与えられる。
【0026】
本発明は、絶縁層に隣接している半導体層を有する構造体、特にワイヤーおよびケーブルにおいて、長期的な誘電損失を阻止するのに役立つ。
【実施例】
【0027】
絶縁体の一方の層および半導体の組成物の他方の層から調製された「サンドイッチ」を、熱エージングし(140℃で1週間)、次いで、絶縁層のみの誘電解析用に層を分離する実験室法を開発した。それによって、絶縁体層の誘電損失の違いは、絶縁体層がエージング処理中に接触していた半導体の調合物の違いに帰結させることができる。損失は、半導体層への露出なしで熱エージングした絶縁体層、エージングなしで半導体組成物から除去された絶縁体層、および半導体組成物がエラストマーを含んでいなかった半導体から、エージング後除去された絶縁体層とも比較する。誘電損失において観察される増加は、ツリー遅延剤絶縁体調合物、またはその調合物と半導体組成物の要素との特異的な相互作用と関係はないということを示すために、2つの異なる絶縁体調合物を使用する。試験調合物は表1に示され、テスト結果は表2Aおよび2B、図1および2に示される。
【0028】
【表A】

【0029】
(比較例1〜12および実施例13)
比較例1は、140℃でエージング1週間後の絶縁体誘電特性の基準線の特性評価を表す。比較例1の絶縁体は半導体組成物と接触していなかった。60Hzの散逸率は室温から90℃の間であまり変化せず、約1e−4である。温度が低密度ポリエチレン絶縁体の融点を超えて上昇するにつれて、散逸率は増加し、室温測定値と比較して約1桁の増加が130℃で観察される。
【0030】
比較例2において、絶縁体を半導体調合物に接触させて成型する。層を熱エージングの前に分離する。結果として生じる絶縁体の誘電特性は比較例1と同様である。比較例3において、絶縁体半導体複合材を層の分離に先立ってエージングする。絶縁体の誘電特性は室温で実質的に変わらないが、より高温度では損失は著しく高い。90℃以上の温度で、比較例3の絶縁体は、比較例2のエージングしていない絶縁体または比較例1の半導体への接触のない絶縁体より約20倍高い散逸率を示す。この結果は、この方法が、組成物SC−1のエラストマー含有半導体を用いるケーブル構造で、熱エージング後に高い誘電損失の経験をもたらしたメカニズムを十分に再現することを明白に示す。この結果はまた、増加した誘電損失をもたらすメカニズムが、半導体材料から絶縁体層中への損失を起こす化学種の拡散と関係することを示す。
【0031】
比較例4から8において、HFDB−4202のツリー遅延剤絶縁体調合物を使用する。これは熱エージング後に高い誘電損失を示したケーブルに用いられたのと同一の絶縁体である。
【0032】
比較例8は、半導体組成物との接触のない絶縁体の熱エージング後の誘電損失を示す。温度の関数としての散逸率は、130℃で2e−4から3e−4の範囲の値の、比較例1のHFDE−4201絶縁体によって示されたものと同程度である。
【0033】
比較例4および6については、異なるエラストマーを含有する半導体組成物に接触して成型された絶縁体の散逸率を、いかなる熱エージングにも先立って測定した。結果として生じる散逸値は、比較例8の想像された絶縁体と同程度である。
【0034】
比較例5および7において、絶縁体半導体サンドイッチを絶縁体層の誘電特性の測定に先立って熱エージングした。比較例3でのHFDE−4201と同様の実験作業で観察されたように、散逸率値は、HFDB−4202絶縁体がエラストマーを含有する半導体組成物に接触してエージングされた比較例5および7の絶縁体については、90℃およびその上の温度で劇的に増加する。130℃で経験した散逸率は非常に高かったので、散逸率測定が困難であった(したがって、値は「読み取り不可」として報告される)。しかしながら、110℃での散逸率値が、同一の絶縁体を半導体組成物との接触を伴わないで熱エージングした比較例8のそれの約100倍だったことは分かる。
【0035】
比較例5から比較例7の比較は、SC−2およびSC−3において用いられるエラストマーのレベルの違いが、高温散逸率において顕著な違いを生じるほど、顕著でなかったことを示す。
【0036】
比較例4から8の結果は、この試験方法が、熱エージングしたケーブルにおいて増加した誘電損失をもたらすメカニズムの影響を調査するのに適切であり、メカニズムが、半導体の組成物から絶縁体層中への損失を起こす化学種の拡散と関係することを確証する。
【0037】
比較例9は、半導体組成物SC−4に接触して熱エージングしたHFDE−4201を使用する。しかし、SC−4はプロピレン−エチレンエラストマーの存在を伴うことなく調合した。絶縁体の誘電測定の結果は、半導体組成物と接触させなかったエージングした絶縁体である比較例1のそれと同程度である。
【0038】
このことは、エラストマーが、絶縁体へ拡散し高い誘電損失を与える化学種の起源であることを明白に実証する。
【0039】
比較例10から12および実施例13では、半導体組成物に接触して熱エージングするときに結果として生じる絶縁体の誘電性能に影響を与えようとして、半導体組成物中の様々な充填剤の使用を検討する。比較例10および11では、炭酸カルシウムまたはタルクを含む半導体組成物SC−5およびSC−6を使用する。これらの無機充填剤は、移動する化学種の拡散速度を低減する潜在能力を有しており、誘電性能に負の影響を与え得る酸性化学種を中和することができる。しかし、比較例10および11において結果として生じる絶縁体の誘電性能は、比較例3において絶縁体で経験された高い損失と比較して改善されなかった。
【0040】
比較例12では、天然モンモリロナイト粘土を組み込んだ半導体組成物SC−7を使用する。このような粘土は(拡散を低減する)障壁特性を改善するために用いた。しかし、比較例12において絶縁体から結果として生じる誘電特性は、比較例3で経験した高い損失と比較して改善されない。
【0041】
本発明は、半導体組成物SC−8が過剰の第四級アンモニウムで処理した有機粘土を含む実施例13で例証される。SC−8に接触する熱エージング後の絶縁体の散逸率は、半導体組成物SC−1が有機粘土を含んでいなかった比較例3のそれと比較して、90℃以上の温度で実質的に改善される(より低い)。SC−8の調合物における有機粘土の使用は、半導体への接触のないエージングした絶縁体の散逸率性能をもたらすのには十分ではない。このことは、半導体調合物から損失を起こす化学種の移動が低減されたが、完全には阻止されなかったことを示す。しかし、同一の充填レベルの充填剤の使用が損失を起こす化学種の拡散を遅らせるのに効果的ではなかったことは重要な意義を持つ。
【0042】
組成物に有機粘土の剥脱が予期されないことは留意されるべきである。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2A】


【0045】
【表2B】


【0046】
(実施例15〜18)
表3に示すように半導体組成物を調製した。
【0047】
【表3】


【0048】
実施例15〜18の誘電測定は表4に示される。
【0049】
【表4】


【0050】
実施例13と比較して論じられたように、半導体組成物に有機粘土を使用すると、絶縁体および半導体材料を密着させて熱エージングした後、結果として生じる絶縁体散逸率が劇的に低減した。これは、実施例15における同一の有機粘土でも明白である。しかし、実施例15の散逸率値は実施例13において経験したものより低く、実施例15で報告された非常に低い誘電率は、架橋がより高い試験温度に対して適切に均衡させられなかったことを示唆し得る。
【0051】
しかし、実施例16で見ることができるように、半導体組成物中の有機粘土含量が増加するにつれて散逸率低減効果はより明白になる。実施例17および18において、代替の有機粘土を、再び1重量%および3重量%で組成物に用いる。この有機粘土の効果は実施例15および16のそれと同程度である。
【0052】
その結果、有機粘土の約3%の使用が拡散関連の散逸率増加をほとんど解消することができることを示す。1%の有機粘土充填で示されたdf増加は、有機粘土の存在による拡散速度の純然たる減少を示唆した。しかし、拡散のさらなる減少が予想される3%で、エラストマーが使用されなかった系で経験した値にdf値が減少したことは、140℃での拡散の時間の尺度が1週間のエージング時間よりはるかに長いことか、または、散逸する化学種と有機粘土の間に形成する物理的結合があり得るかのどちらかを示唆する。
【0053】
異なるレベルの第四級アンモニウム処理した有機粘土で調製された組成物の影響を比較すると、散逸率の減少が過剰な処理の存在と直接関係がないことを示す。
【0054】
(比較例19および22、ならびに実施例20、21、23〜26)
損失を起こすエラストマーの成分をも含んでいる半導体シールド組成物に有機粘土の少量の添加することによって改善された(低減された)ケーブル誘電損失の作用は、前の実施例において示された。ここで、有機粘土が損失を起こす絶縁体層内で同様の効果を提供することができるかどうか(それは化学種の移動の減少ではなく、損失を起こす化学種のトラッピングを示すだろう)さらに決定するために、調査に踏み込んだ。
【0055】
この検討にエチレン−プロピレン−ジエンエラストマーを選んだ。このポリマーを、有機粘土のいくつかの異なる層、および異なるレベルの第四級アンモニウムで処理した有機粘土のCLOISITE(登録商標)等級で配合する。その調合物は表4に示される。この結果は表5および6に示され、対応する図4および5にグラフ表示されている。
【0056】
この結果は、有機粘土が100℃より上の温度でEPDM樹脂の誘電損失を劇的に低減する手段を提供することを示す。より低い温度での誘電損失は幾分かの折衷である。しかし、低レベルの有機粘土の添加に対する誘電損失の大きさは、調べた温度領域全体にわたる使用温度を経験する電力ケーブル絶縁体などの用途に、有機粘土を含まないEPDMで示された性能に対して、著しい改善を示す。
【0057】
EPDM中に有機粘土を使用する恩恵は、絶縁組成物または半導体組成物いずれかにおける効果が、有機粘土とエラストマー成分中の損失を起こす化学種との間の相互作用によるものであり、損失を起こす化学種の移動の低減よりも大きいことを実証する。
【0058】
【表5】


【0059】
【表6】


【0060】
本発明は前の明細書によって相当詳細に記述されたが、この詳細は例証のためであり、以下の添付された特許請求の範囲の限定として理解すべきではない。米国特許、認められた米国特許出願および米国特許出願刊行物はすべて、参照によって本明細書に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の高分子樹脂および導電性充填剤を含む第1の材料を含む半導体層;および
第2の高分子樹脂を含む第2の材料を含む絶縁層を含む、構造体であって、
半導体層および絶縁層は少なくとも部分的に互いに物理的に接触しており、
第1の材料および第2の材料の少なくとも1つは有機粘土を含み、第1の高分子樹脂および第2の高分子樹脂は同一であっても異なっていてもよく、
有機粘土を欠くという点を除いて前記構造体と同一である比較構造体と前記構造体とのAC誘電損失の比が1.5を超える、構造体。
【請求項2】
有機粘土が、第1の材料および/または第2の材料中のいずれかに、前記材料中の高分子樹脂の全重量に対して最大約1重量%の量で存在する、請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
有機粘土が、第1の材料および/または第2の材料中のいずれかに、前記材料中の高分子樹脂の全重量に対して最大約3重量%の量で存在する、請求項1に記載の構造体。
【請求項4】
有機粘土が、第四級アンモニウム化合物で改質された天然モンモリロナイトである、請求項1に記載の構造体。
【請求項5】
第1の高分子樹脂が、少なくとも1つの熱可塑性樹脂を含む、請求項1に記載の構造体。
【請求項6】
第1の高分子樹脂が、少なくとも1つの熱硬化性樹脂を含む、請求項1に記載の構造体。
【請求項7】
熱可塑性樹脂が少なくとも1つのエチレンホモポリマーおよび/またはエチレンコポリマーを含む、請求項5に記載の構造体。
【請求項8】
エチレンコポリマーが、α−オレフィンまたは酢酸ビニルコモノマーとのエチレンのコポリマーである、請求項7に記載の構造体。
【請求項9】
前記熱可塑性樹脂が、少なくとも1つのプロピレンホモポリマーおよび/またはプロピレンコポリマーを含む、請求項5に記載の構造体。
【請求項10】
プロピレンコポリマーが、α−オレフィンまたは酢酸ビニルコモノマーとのプロピレンのコポリマーである、請求項7に記載の構造体。
【請求項11】
導電性充填剤が、少なくとも1つのカーボンブラック化合物を含む、請求項1に記載の構造体。
【請求項12】
有機粘土が、第1の材料中に存在し、熱エージング後に誘電損失比が決定される、請求項1に記載の構造体。
【請求項13】
少なくとも1つの高分子樹脂および少なくとも1つの有機粘土を含む組成物を含む半導体層を含み、高分子樹脂が組成物のAC誘電損失より少なくとも1.5倍大きいAC誘電損失を有する物品。
【請求項14】
誘電損失比が、熱エージング後に決定される、請求項13に記載の物品。
【請求項15】
有機粘土が、高分子樹脂の全重量に対して少なくとも1重量%の量で存在する、請求項13に記載の物品。
【請求項16】
有機粘土が、全組成物に対して少なくとも約3重量%の量で存在する、請求項13に記載の物品。
【請求項17】
有機粘土が、第四級アンモニウム化合物で改質された天然モンモリロナイトである、請求項13に記載の物品。
【請求項18】
組成物が、少なくとも1つの熱可塑性樹脂、少なくとも1つの有機粘土および少なくとも1つの導電性充填剤を含む、請求項13に記載の物品。
【請求項19】
熱可塑性樹脂が、少なくとも1つのエチレンホモポリマーおよび/またはエチレンコポリマーを含む、請求項13に記載の物品。
【請求項20】
エチレンコポリマーが、α−オレフィンまたは酢酸ビニルコモノマーとのエチレンのコポリマーである、請求項13に記載の物品。
【請求項21】
導電性充填剤が、少なくとも1つのカーボンブラック化合物を含む、請求項13に記載の物品。
【請求項22】
半導体層に隣接して少なくとも1つの絶縁層をさらに含む、請求項13に記載の物品。
【請求項23】
少なくとも1つの高分子樹脂および少なくとも1つの有機粘土を含む組成物を含む絶縁層を含む物品であって、高分子樹脂が組成物のAC誘電損失より少なくとも1.5倍大きいAC誘電損失を有する物品。
【請求項24】
有機粘土が高分子樹脂の全重量に対して少なくとも1重量%の量で存在する、請求項23に記載の物品。
【請求項25】
有機粘土が、全組成物に対して少なくとも約3重量%の量で存在する、請求項23に記載の物品。
【請求項26】
有機粘土が、第四級アンモニウム化合物で改質された天然モンモリロナイトである、請求項23に記載の物品。
【請求項27】
組成物が、少なくとも1つの熱可塑性樹脂、少なくとも1つの有機粘土および少なくとも1つの有機または無機充填剤を含む、請求項23に記載の物品。
【請求項28】
熱可塑性樹脂が、少なくとも1つのエチレンホモポリマーおよび/またはエチレンコポリマーを含む、請求項23に記載の物品。
【請求項29】
エチレンコポリマーが、α−オレフィンまたは酢酸ビニルコモノマーとのエチレンのコポリマーである、請求項23に記載の物品。
【請求項30】
熱可塑性樹脂が、少なくとも1つのプロピレンホモポリマーおよび/またはプロピレンコポリマーを含む、請求項23に記載の物品。
【請求項31】
プロピレンコポリマーが、α−オレフィンまたは酢酸ビニルコモノマーとのプロピレンのコポリマーである、請求項23に記載の物品。
【請求項32】
導電性充填剤が、少なくとも1つのカーボンブラック化合物を含む、請求項23に記載の物品。
【請求項33】
絶縁体層に隣接して少なくとも1つの半導体層をさらに含む、請求項23に記載の物品。
【請求項34】
1つまたは複数の導体を含む心線;
第1の高分子樹脂および導電性充填剤を含む第1の材料を含む半導体層;および、
第2の高分子樹脂を含む第2の材料を含む絶縁層を半導体層に隣接して含む、ケーブルであって、
半導体層および絶縁層は直接的または間接的に心線を包囲し、
第1の材料および第2の材料の少なくとも1つが、有機粘土を含む材料の高分子樹脂と有機粘土を含む各々の高分子樹脂とのAC誘電損失の比が1.5を超えるように、有機粘土を含み、
第1の高分子樹脂および第2の高分子樹脂は同一であっても異なっていてもよい、ケーブル。
【請求項35】
有機粘土が、第1の材料および/または第2の材料中のいずれかに、前記材料中の高分子樹脂の全重量に対して最大約1重量%の量で存在する、請求項34に記載のケーブル。
【請求項36】
有機粘土が、第1の材料および/または第2の材料中のいずれかに、前記材料中の高分子樹脂の全重量に対して最大約3重量%の量で存在する、請求項34に記載のケーブル。
【請求項37】
有機粘土が、第四級アンモニウム化合物で改質された天然モンモリロナイトである、請求項34に記載のケーブル。
【請求項38】
第1の高分子樹脂が、少なくとも1つの熱可塑性樹脂を含む、請求項34に記載のケーブル。
【請求項39】
熱可塑性樹脂が、少なくとも1つのエチレンホモポリマーおよび/またはエチレンコポリマーを含む、請求項38に記載のケーブル。
【請求項40】
エチレンコポリマーが、α−オレフィンまたは酢酸ビニルコモノマーとのエチレンのコポリマーである、請求項39に記載のケーブル。
【請求項41】
第1の高分子樹脂が、少なくとも1つの熱硬化性樹脂を含む、請求項34に記載のケーブル。
【請求項42】
熱硬化性樹脂が、少なくとも1つのエチレンホモポリマーおよび/またはエチレンコポリマーを含む、請求項38に記載のケーブル。
【請求項43】
熱可塑性樹脂が、少なくとも1つのプロピレンホモポリマーおよび/またはプロピレンコポリマーを含む、請求項34に記載のケーブル。
【請求項44】
プロピレンコポリマーが、α−オレフィンまたは酢酸ビニルコモノマーとのプロピレンのコポリマーである、請求項39に記載のケーブル。
【請求項45】
導電性充填剤が、少なくとも1つのカーボンブラック化合物を含む、請求項34に記載のケーブル。
【請求項46】
高分子樹脂のAC誘電損失と絶縁体のAC誘電損失との比が少なくとも1.5である、高分子樹脂および有機粘土を含む絶縁体。
【請求項47】
有機粘土が、第1の材料および/または第2の材料中のいずれかに、前記材料中の高分子樹脂の全重量に対して最大約1重量%の量で存在する、請求項46に記載の絶縁体。
【請求項48】
有機粘土が、第1の材料および/または第2の材料中のいずれかに、前記材料中の高分子樹脂の全重量に対して最大約3重量%の量で存在する、請求項46に記載の絶縁体。
【請求項49】
有機粘土が、第四級アンモニウム化合物で改質された天然モンモリロナイトである、請求項46に記載の絶縁体。
【請求項50】
高分子樹脂が、少なくとも1つの加熱可塑性樹脂を含む、請求項46に記載の絶縁体。
【請求項51】
熱可塑性樹脂が、少なくとも1つのエチレンホモポリマーおよび/またはエチレンコポリマーを含む、請求項46に記載の絶縁体。
【請求項52】
エチレンコポリマーが、α−オレフィンまたは酢酸ビニルコモノマーとのエチレンのコポリマーである、請求項46に記載の絶縁体。
【請求項53】
高分子樹脂が、少なくとも1つの熱硬化性樹脂を含む、請求項46に記載の絶縁体。
【請求項54】
熱硬化性樹脂が、少なくとも1つのエチレンホモポリマーおよび/またはエチレンコポリマーを含む、請求項53に記載の絶縁体。
【請求項55】
エチレンコポリマーが、α−オレフィンまたは酢酸ビニルコモノマーとのエチレンのコポリマーである、請求項54に記載の絶縁体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−503784(P2011−503784A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−532120(P2010−532120)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【国際出願番号】PCT/US2008/079915
【国際公開番号】WO2009/058560
【国際公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(591123001)ユニオン カーバイド ケミカルズ アンド プラスティックス テクノロジー エルエルシー (85)
【Fターム(参考)】