説明

半導体回路設計方法、マスクデータ変換方法、及び半導体マスクデータ作成方法

【課題】本発明の課題は、タイミング検証結果と関連付けてOPC精度を変更することを目的とする。
【解決手段】本発明の課題は、半導体回路設計をシミュレーションする半導体回路設計方法であって、コンピュータが、レイアウトデータを参照してパス毎に遅延余裕度を算出する遅延余裕度算出手順と、前記遅延余裕度が光近接効果補正の精度を落とせる範囲内である場合に、該当するセル毎に高精度の光近接効果補正が不要であることを示す高精度不要情報を生成する高精度不要情報生成手順とを実行することにより達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイミング検証結果と関連付けてOPC精度を変更する半導体回路設計方法、マスクデータ変換方法、及び半導体マスクデータ作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体プロセスの微細化に伴い、マスクデータ作成段階でレイアウトパターンを補正するOPC(Optical Proximity Correction)処理の効率化及び高精度化がなされている。
【0003】
例えば、半導体回路の回路パターン形成工程において使用するマスクパターンに対して、補正対象となるパターンに露光プロセスをモデル化したモデルベースOPCを行うと共に、モデルベースOPCによる補正量が十分でない領域に対して更に補正ルールに基づくルールベースOPCを行うことが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、リソグラフィーシミュレータを用いて、マスクパターンの形成領域のうちOPCを必要とする領域を抽出してOPCを施すことが提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
更に、リソグラフィールールによって抽出された危険箇所を、OPC不良ルールを用いて、OPC不良危険箇所と解析対象危険箇所とに分類し、解析対象危険箇所についてだけ転写イメージを得る詳細なシミュレーションを実行することが提案されている(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2004−302263号公報
【特許文献2】特開2005−49403号公報
【特許文献3】特開2005−156606号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光学シミュレーション(OPC処理工程)では、一般に、SRAMのように繰り返し多量に回路部品が搭載される厳しいパターンに対してはモデルベースOPCが適用され、ロジック回路のパターンに対してはルールベースOPCが適用され、上述したような技術によってOPC処理の効率化及び高精度化がなされている。
【0007】
しかしながら、上記従来技術が適用される光学シミュレーションは、露光時の光学的影響をレイアウトパターンから判断して補正パターンを付加する技術であり、近年の半導体の高性能化の要求による高精度を満たすためにはOPCルールが複雑化し、結果としてOPC処理工数が増大される状況において、チップ全体を検証可能なほど単純な処理ではないと言った問題がある。
【0008】
よって、本発明の目的は、タイミング検証結果と関連付けてOPC精度を変更する半導体回路設計方法、マスクデータ変換方法、及び半導体マスクデータ作成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る半導体回路設計方法は、半導体回路設計をシミュレーションする半導体回路設計方法であって、コンピュータが、レイアウトデータを参照してパス毎に遅延余裕度を算出する遅延余裕度算出手順と、前記遅延余裕度が光近接効果補正の精度を落とせる範囲内である場合に、該当するセル毎に高精度の光近接効果補正が不要であることを示す高精度不要情報を生成する高精度不要情報生成手順とを実行することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るマスクデータ変換方法は、レイアウトデータを用いて露光強度を示すマスクデータへ変換するマスクデータ変換方法であって、コンピュータが、セル毎に光近接効果補正の精度を低くすることを示す1つ以上の高精度不要情報に相当するレイアウトデータに対して低い精度で光近接効果補正を実行し、該レイアウトデータから露光強度を示すマスクデータへと変換する光近接効果補正手順を実行することを特徴とする。
【0011】
更に、本発明に係る半導体マスクデータ作成方法は、半導体設計処理による処理結果を用いて光近接効果補正を実行してマスクデータを作成する半導体マスクデータ作成方法であって、レイアウトデータを用いてセル毎のタイミング検証を行うタイミング検証手順と、前記タイミング検証手順によって計算された計算遅延値が所定基準を満たす場合に、パス毎に遅延余裕度を算出する遅延余裕度算出手順と、前記遅延余裕度算出手順が算出した遅延余裕度が光近接効果補正の精度を落とせる範囲内である場合に、該精度を落として光近接効果補正を行う光近接効果補正手順とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本願発明は、タイミング検証において、高精度モデルによる厳しい制限でスペックを満足したセルに対して、OPC精度を不要とするセルを抽出しておくことによって、要求されるスペックを満足しつつ、OPC処理を効率的に行うことができ、OPCの処理時間を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
本発明に係る半導体マスクデータ作成方法では、発明者が着目した光近接効果補正処理(OPC処理)におけるOPC精度に対するOPC処理時間(OPC−TAT(Turn Around Time))及びトランジスタのバラツキの関係に基づいて、OPC処理前にOPC精度を予め落としたレイアウトデータを用意し、効率的にOPCを実行する。
【0015】
図1は、OPC精度に対する関係を示す図である。図1において、OPC精度が上がれば、トランジスタのバラツキが小さく、OPC処理時間(OPC−TAT)が増大する。逆に、OPC精度を落とせば、OPC処理時間(OPC−TAT)が短くなるが、トランジスタのバラツキは大きくなる。
【0016】
言い換えると、トランジスタのバラツキ量を規定すればOPC精度が決まるため、タイミング検証(STA:Static Timing Analysis)のコーナー条件を緩和して通れば、そのバラツキ量に相当するOPC精度まで落として処理して問題ないことになる。
【0017】
このような着眼点に基づく本発明に係るLSI設計処理について図2で説明する。図2は、OPC精度を落とす判断を含むLSI設計処理を説明するためのフローチャート図である。
【0018】
図2に示すLSI設計処理では、LSIを構成するセル間の接続を示すネット情報及びセル配置に係るレイアウトデータを用いて、セルの配置配線及び論理最適化を行い(ステップS1)、高精度モデルを用いてセル毎のタイミング検証(STA)を実行する(ステップS2)。タイミング検証結果がスペックを満足するか否かを判断し(ステップS3)、スペックを満足しない場合には、ステップS1から再処理を行い、満足する場合には、ステップS4へと進む。これらステップS1からS3までは、標準的な設計処理のフローであり、必要に応じてネット情報及びレイアウトデータは更新される。
【0019】
次に、レイアウトデータを参照して配線されたセル間のパス毎の遅延余裕度を算出して(ステップS4)、算出した遅延余裕度がOPC精度を落とせる範囲内であるか否かを判断する(ステップS5)。つまり、セルのタイプ毎にOPC精度を落とせる範囲が予め設定されたテーブルを参照して、配置配線された各パスの遅延余裕度がOPC精度を落とせる範囲内であるか否かを判断する。OPC精度を落とせる範囲とは、トランジスタのバラツキを緩和した場合の遅延時間変動率の程度を示す。バラツキが大きいほど遅延時間が長くなるため、許容範囲の遅延時間を示すことになる。
【0020】
OPC精度を落とせる範囲内でない場合、高精度モデルの基準のままとして、このLSI設計処理を終了する。一方、OPC精度を落とせる範囲内である場合、該当するセルに関するネット情報とインスタンスセル情報とを抽出して、OPC精度を不要とするセルに関するOPC精度不要情報としてインスタンスセルDB1aに出力して(ステップS6)、このLSI設計処理を終了する。OPC精度不要情報は、セルを識別するためのセル識別情報とセルの配置に係る配置情報とを含む。
【0021】
上述ステップS4及びS5について図3を用いて説明する。図3は、図2のステップS4及びS5を説明するための回路構成例を示す図である。図3に示す回路構成では、FF(フリップフロップ)3aがクロックCLKに同期しつつ、端子Dから信号を入力して端子Qからロジック回路3cへ出力し、ロジック回路3cは、所定処理後に信号をFF3bの端子Dへ出力する。
【0022】
標準的なタイミング検証(ステップS3)では、FF3bの端子Dに対して期待値と計算遅延値の差が計算され、スラック値として出力される。本発明では、更に、ステップS4にて、ステップS3で算出された計算遅延値を所定の遅延期待値で除算した値を遅延余裕度とし(遅延余裕度=計算遅延値/遅延期待値)、ステップS5にて、上述したOPC精度を落とせる範囲内でるか否かが判断される。このようにして、OPC精度を落とすことが可能であるかを、OPC処理の前段階のLSI設計処理で判断することができる。
【0023】
次に、LSI設計処理にて生成されたOPC精度不要情報を格納したインスタンスセルDB1aを用いたOPC処理について図4及び図5説明する。
【0024】
図4は、OPC精度不要情報を用いたOPC処理の一例を示す図である。図4に示すOPC処理では、例えばGDSIIフォーマットによって入図されたレイアウトデータ4aと、インスタンスセルDB1aとを読み込んで、OPCは階層処理であることから、レイアウトデータ4aのうちインスタンスセルDB1aに格納されているOPC精度不要情報の階層に処理が至ったときに、精度不要のOPCルール6aを適用し、レイアウトデータ4aのうちインスタンスセルDB1aに格納されているOPC精度不要情報の階層以外について所定高精度によるOPCルールを適用する(ステップS6)。
【0025】
そして、その結果を、例えばMEBESフォーマットに変換してEB(Electron Beam)データ4bを出力する。
【0026】
次に、図2のステップS6で生成されたインスタンスセルDB1aから予めEBデータを作成しておくことも考えられる。精度不要のOPCルールを不要とするため、OPC処理での負荷を軽減させることができる。
【0027】
図5は、精度不要のセルに係るEBデータを用いたOPC処理のその他の例を示す図である。図5に示すOPC処理では、例えばGDSIIフォーマットによって入図されたレイアウトデータ4aと、インスタンスセルDB1aとを読み込んで、OPCは階層処理であることから、レイアウトデータ4aのうちインスタンスセルDB1aに格納されているOPC精度不要情報の階層に処理が至った場合、その階層に対して処理を行なわず、レイアウトデータ4aのうちインスタンスセルDB1aに格納されているOPC精度不要情報の階層以外について所定高精度によるOPCルールを適用してOPC処理を実行して、その結果をMEBESフォーマットに変換してEBデータを出力する(ステップS7)。
【0028】
そして、マスク露光配置時には、ステップS7で出力されたEBデータと、予め準備されたMEBESフォーマットのOPC精度不要によるEBデータ5bとを参照することによってセルを配置して、全階層のEBデータ5cを出力する(ステップS8)。OPC精度不要によるEBデータ5bには、セルを識別するセル識別情報毎に例えばMEBESフォーマットによるEBデータの値が格納されている。
【0029】
上述された図2のLSI設計処理、図4及び図5のOPC処理は、少なくともCPU(中央処理装置)と、主記憶装置と、補助記憶装置とを備えたコンピュータ装置がコンピュータプログラムを読み取って実行することによって実現される。インスタンスセルDB1a、EBデータ4b、レアウトデータ5a、OPC精度不要によるEBデータ5b、全EBデータ5cは、コンピュータ装置の主記憶装置、補助記憶装置などのハードウェア資源に格納され、必要に応じてCPUによって読み出され処理が施される。
【0030】
コンピュータ装置が外部記憶装置とのインタフェースを備えることによって、上述した本発明に係るLSI設計処理及びOPC処理を実行するためのコンピュータプログラムが記憶されたCD−ROM、メモリスティック、SDカードなどの記憶媒体から装置内の補助記憶装置へとロードしてもよい。
【0031】
また、本発明に係るLSI設計処理及びOPC処理毎に別のコンピュータ装置で実行するようにしても良い。
【0032】
本発明によれば、タイミング検証において、高精度モデルによる厳しい制限でスペックを満足したセルに対して、OPC精度を不要とするセルを抽出しておくことによって、要求されるスペックを満足しつつ、OPC処理を効率的に行ってマスクデータを作成することができる。また、OPCの処理時間(OPC−TAT)を改善することができる。
【0033】
本発明において、セルのタイプや遅延余裕度の程度に応じて複数のインスタンスセルDB1a、OPCルール6a、EBデータ5bを備えるようにしてもよい。
【0034】
以上の説明に関し、更に以下の項を開示する。
(付記1)
半導体回路設計をシミュレーションする半導体回路設計方法であって、コンピュータが、
レイアウトデータを参照してパス毎に遅延余裕度を算出する遅延余裕度算出手順と、
前記遅延余裕度が光近接効果補正の精度を落とせる範囲内である場合に、該当するセル毎に高精度の光近接効果補正が不要であることを示す高精度不要情報を生成する高精度不要情報生成手順とを実行することを特徴とする半導体回路設計方法。
(付記2)
前記高精度不要情報生成手順は、前記高精度不要情報から露光強度を示すマスクデータへ変換することを特徴とする付記1記載の半導体回路設計方法。
(付記3)
レイアウトデータを用いて露光強度を示すマスクデータへ変換するマスクデータ変換方法であって、コンピュータが、
セル毎に光近接効果補正の精度を低くすることを示す1つ以上の高精度不要情報に相当するレイアウトデータに対して低い精度で光近接効果補正を実行し、該レイアウトデータから露光強度を示すマスクデータへと変換する光近接効果補正手順を実行することを特徴とするマスクデータ変換方法。
(付記4)
前記光近接効果補正手順は、前記高精度不要情報に相当するレイアウトデータに対して高精度不要OPCルールを適用することを特徴とする付記3記載のマスクデータ変換方法。
(付記5)
前記コンピュータが、
前記光近接効果補正手順によって変換された前記マスクデータと、前記高精度の光近接効果補正が不要であるセルに対して予め準備された露光強度を示す部分マスクデータとを用いてマスク露光配置を行うマスク露光配置手順を更に実行することを特徴とする付記3記載のマスクデータ変換方法。
(付記6)
前記光近接効果補正手順は、前記高精度不要情報に相当するレイアウトデータに対して光近接効果補正を実行しないことを特徴とする付記5記載のマスクデータ変換方法。
(付記7)
半導体設計処理による処理結果を用いて光近接効果補正を実行してマスクデータを作成する半導体マスクデータ作成方法であって、
レイアウトデータを用いてセル毎のタイミング検証を行うタイミング検証手順と、
前記タイミング検証手順によって計算された計算遅延値が所定基準を満たす場合に、パス毎に遅延余裕度を算出する遅延余裕度算出手順と、
前記遅延余裕度算出手順が算出した遅延余裕度が光近接効果補正の精度を落とせる範囲内である場合に、該精度を落として光近接効果補正を行う光近接効果補正手順とを有することを特徴とする半導体マスクデータ作成方法。
【0035】
本発明は、具体的に開示された実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】OPC精度に対する関係を示す図である。
【図2】OPC精度を落とす判断を含むLSI設計処理を説明するためのフローチャート図である。
【図3】図2のステップS4及びS5を説明するための回路構成例を示す図である。
【図4】OPC精度不要情報を用いたOPC処理の一例を示す図である。
【図5】精度不要のセルに係るEBデータを用いたOPC処理のその他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
1a インスタンスセルDB
3a FF(フリップフロップ)
3b FF(フリップフロップ)
3c ロジック回路
4a レイアウトデータ
4b EBデータ
5a レイアウトデータ
5b OPC精度不要によるEBデータ
5c 全EBデータ
6a 精度不要OPCルール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体回路設計をシミュレーションする半導体回路設計方法であって、コンピュータが、
レイアウトデータを参照してパス毎に遅延余裕度を算出する遅延余裕度算出手順と、
前記遅延余裕度が光近接効果補正の精度を落とせる範囲内である場合に、該当するセル毎に高精度の光近接効果補正が不要であることを示す高精度不要情報を生成する高精度不要情報生成手順とを実行することを特徴とする半導体回路設計方法。
【請求項2】
前記高精度不要情報生成手順は、前記高精度不要情報から露光強度を示すマスクデータへ変換することを特徴とする請求項1記載の半導体回路設計方法。
【請求項3】
レイアウトデータを用いて露光強度を示すマスクデータへ変換するマスクデータ変換方法であって、コンピュータが、
セル毎に光近接効果補正の精度を低くすることを示す1つ以上の高精度不要情報に相当するレイアウトデータに対して低い精度で光近接効果補正を実行し、該レイアウトデータから露光強度を示すマスクデータへと変換する光近接効果補正手順を実行することを特徴とするマスクデータ変換方法。
【請求項4】
前記コンピュータが、
前記光近接効果補正手順によって変換された前記マスクデータと、前記高精度の光近接効果補正が不要であるセルに対して予め準備された露光強度を示す部分マスクデータとを用いてマスク露光配置を行うマスク露光配置手順を更に実行することを特徴とする請求項3記載のマスクデータ変換方法。
【請求項5】
半導体設計処理による処理結果を用いて光近接効果補正を実行してマスクデータを作成する半導体マスクデータ作成方法であって、
レイアウトデータを用いてセル毎のタイミング検証を行うタイミング検証手順と、
前記タイミング検証手順によって計算された計算遅延値が所定基準を満たす場合に、パス毎に遅延余裕度を算出する遅延余裕度算出手順と、
前記遅延余裕度算出手順が算出した遅延余裕度が光近接効果補正の精度を落とせる範囲内である場合に、該精度を落として光近接効果補正を行う光近接効果補正手順とを有することを特徴とする半導体マスクデータ作成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−304609(P2008−304609A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−150306(P2007−150306)
【出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【出願人】(308014341)富士通マイクロエレクトロニクス株式会社 (2,507)
【Fターム(参考)】