説明

半導体材料、それを用いた太陽電池、およびそれらの製造方法

【課題】得られる半導体材料の電子密度を、広い電子密度範囲において所望の値となるように容易に制御することができる半導体材料の製造方法、およびこのようにして製造された半導体材料を用いた太陽電池を提供すること
【解決手段】As原子、Sb原子、Bi原子およびN原子からなる群から選択される少なくとも1種の不純物原子とBa原子とSi原子とを反応させることを特徴とする半導体材料の製造方法、ならびにこの半導体材料を備えることを特徴とする太陽電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリウムシリサイド系半導体、それを用いた太陽電池、およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の太陽電池の95%以上はSi素材の半導体が用いられている。しかしながら、Si半導体は禁制帯幅が1.1eVであり、従来の太陽電池では十分なエネルギー変換効率が得られていない。また、Si半導体は光吸収係数が小さいため、光を十分に吸収するには100μm以上の厚みが必要であり、太陽電池の薄型化には不向きであった。
【0003】
太陽電池のエネルギー変換効率を向上させるためにシリコンベースの半導体の禁制帯幅を拡げることが試みられている。特開2005−294810号公報(特許文献1)には、BaSiにSr原子、Ca原子、Mg原子などのアルカリ土類金属原子をドープした混晶半導体薄膜が開示されている。特に、アルカリ土類金属原子としてSr原子をドープした混晶半導体薄膜は光吸収係数が大きく、禁制帯幅が約1.4eVであることが開示されている。
【0004】
一方、半導体の電子密度は、不純物をドープすることにより増加することは知られているが、この電子密度を広い電子密度範囲において所望の値となるように制御することは容易ではなかった。
【特許文献1】特開2005−294810号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、得られる半導体材料の電子密度を、広い電子密度範囲において所望の値となるように容易に制御することができる半導体材料の製造方法、およびそれにより得られる半導体材料を提供することを目的とする。また、このようにして製造された半導体材料を用いた太陽電池、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、バリウムシリサイド系半導体のドーパントとしてAs原子、Sb原子、Bi原子およびN原子からなる群から選択される少なくとも1種の不純物原子を選択することによって、前記不純物原子の蒸着源の温度を制御すると、得られる半導体材料の電子密度を、広い電子密度範囲において所望の値となるように容易に制御することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の半導体材料は、As原子、Sb原子、Bi原子およびN原子からなる群から選択される少なくとも1種の不純物原子とBa原子とSi原子とを含有することを特徴とするものである。また、前記半導体材料は、Sr原子、Ca原子およびMg原子からなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属原子をさらに含むことが好ましい。
【0008】
本発明の半導体材料はn型であることが好ましく、厚みが0.01〜0.1μmであることが好ましい。
【0009】
本発明の太陽電池は、基板と、前記基板上に配置されている、Ba原子とSi原子とを含有するバリウムシリサイド層と、前記バリウムシリサイド層上に配置されているAs原子、Sb原子、Bi原子およびN原子からなる群から選択される少なくとも1種の不純物原子とBa原子とSi原子とを含有する不純物ドープバリウムシリサイド層と、前記不純物ドープバリウムシリサイド層上に配置されている上部電極と、前記基板上に配置されている下部電極と、を備えることを特徴とするものである。
【0010】
本発明の太陽電池は、前記バリウムシリサイド層と前記基板との間に、周期表9〜10族に属する少なくとも1種の金属原子とSi原子とを含有する金属シリサイド層をさらに備えることが好ましい。前記下部電極は前記金属シリサイド層の表面上に配置されていることが好ましい。
【0011】
前記バリウムシリサイド層および前記不純物ドープバリウムシリサイド層のうちの少なくとも1つはさらにSr原子、Ca原子およびMg原子からなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属原子を含むことが好ましい。また、前記バリウムシリサイド層はエピタキシャル層または高配向層であることが好ましい。
【0012】
本発明の半導体材料の製造方法は、As原子、Sb原子、Bi原子およびN原子からなる群から選択される少なくとも1種の不純物原子とBa原子とSi原子とを反応させることを特徴とする方法である。また、前記製造方法においては、Sr原子、Ca原子およびMg原子からなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属原子をさらに反応させることが好ましい。
【0013】
本発明の太陽電池の第一の製造方法は、基板上においてSi原子とBa原子とを反応させてバリウムシリサイド層を形成する工程と、前記バリウムシリサイド層の表面に、As原子、Sb原子、Bi原子およびN原子からなる群から選択される少なくとも1種の不純物原子とBa原子とSi原子とを反応させて不純物ドープバリウムシリサイド層を形成する工程と、前記基板上に下部電極を形成する工程と、前記不純物ドープバリウムシリサイド層の表面に上部電極を形成する工程と、を含むことを特徴とする方法である。
【0014】
この第一の製造方法では、前記基板の少なくとも一方の表面はSiからなり、前記バリウムシリサイド層を形成する工程において、前記基板のSi表面にBa原子を導入してSi原子とBa原子とを反応させることが好ましい。
【0015】
また、本発明の太陽電池の第二の製造方法は、基板上においてSi原子と周期表9〜10族に属する金属原子とを反応させて金属シリサイド層を形成する工程と、前記金属シリサイド層上においてBa原子とSi原子とを反応させてバリウムシリサイド層を形成する工程と、前記バリウムシリサイド層の表面に、As原子、Sb原子、Bi原子およびN原子からなる群から選択される少なくとも1種の不純物原子とBa原子とSi原子とを反応させて不純物ドープバリウムシリサイド層を形成する工程と、前記金属シリサイド層および前記基板のうちの少なくとも1つの上に下部電極を形成する工程と、前記不純物ドープバリウムシリサイド層の表面に上部電極を形成する工程と、を含むことを特徴とする方法である。
【0016】
この第二の製造方法では、前記バリウムシリサイド層を形成する工程において、前記金属シリサイド層の表面にSi極薄層を形成した後、前記Si極薄層にBa原子を導入してBa原子とSi原子とを反応させることが好ましい。
【0017】
前記第一および第二の製造方法では、前記バリウムシリサイド層を形成する工程および前記不純物ドープバリウムシリサイド層を形成する工程のうちの少なくとも1つの工程において、さらにSr原子、Ca原子およびMg原子からなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属原子を反応させることが好ましい。また、前記バリウムシリサイド層をエピタキシー法により形成させることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、得られる半導体材料の電子密度を、広い電子密度範囲において所望の値となるように容易に制御することが可能となる。また、このようにして製造された半導体材料を用いた太陽電池を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0020】
先ず、本発明の半導体材料について説明する。本発明の半導体材料は、As原子、Sb原子、Bi原子およびN原子からなる群から選択される少なくとも1種の不純物原子とBa原子とSi原子とを含有することを特徴とするものである。前記半導体材料の伝導型は前記不純物原子の種類によって決定されるが、n型であることが好ましい。
【0021】
このような半導体材料は、As原子、Sb原子、Bi原子およびN原子からなる群から選択される少なくとも1種の不純物原子とBa原子とSi原子とを反応させることによって製造することができる。具体的には、基材や他の層(以下、これらをまとめて「基材など」という。)の表面に前記不純物原子とBa原子とSi原子とを蒸着させ、これらの原子を反応させる方法が挙げられる。Ba原子およびSi原子とともに前記不純物原子を反応させる、すなわち、バリウムシリサイドに前記不純物原子をドープすることによって、バリウムシリサイドに比べてより電子密度の高い半導体材料(不純物ドープバリウムシリサイド)が得られ、さらに、前記不純物原子の蒸着源の温度を制御することによって、得られる半導体材料の電子密度を、広い電子密度範囲において所望の値となるように容易に制御することができる。具体的には、前記蒸着源の温度を好ましくは300〜350℃、より好ましくは320〜350℃の範囲で変化させることによって半導体材料の電子密度を好ましくは1017〜1020cm−3、より好ましくは1019〜1020cm−3の範囲で緩やかに変化させることができる。また、この観点からSb原子をドープすることが特に好ましい。なお、各原子の蒸着速度比(Ba:Si:不純物)は1.0〜2.0nm/分:0.5〜1.0nm/分:0.00001〜0.01nm/分であることが好ましい。
【0022】
本発明にかかるバリウムシリサイドとしてはBaSiが挙げられるが、バリウムとケイ素の原子比(Ba:Si)が1:2のものに限定されるものではない。
【0023】
また、格子欠陥の少ない結晶を得ることができる点で、超高真空下(好ましくは0.001〜0.01mPa)で、400〜600℃に加熱した基材などにBa原子とSi原子と前記不純物原子とを直接、同時に照射して蒸着させ、Ba原子とSi原子と前記不純物原子とを反応させる方法がより好ましい。
【0024】
前記半導体材料中のSi原子1molに対する前記不純物原子の含有量は0.1〜3mmolであることが好ましく、1〜3mmolであることがより好ましい。不純物原子の含有量が上記下限未満になると電子密度が小さくなりすぎる傾向にある。他方、上記上限を超えると半導体材料の結晶品質が低下する傾向にある。前記半導体材料の厚みは0.01〜0.1μmであることが好ましい。
【0025】
また、前記半導体材料を製造する際、前記半導体材料にSr原子、Ca原子およびMg原子からなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属原子を含有させることが好ましい。前記半導体材料に前記アルカリ土類金属原子を含有させると半導体材料の禁制帯幅を拡大させることができる。
【0026】
また、前記半導体材料中のBa原子1molに対する前記アルカリ土類金属原子の含有量は約1molであることが好ましい。前記アルカリ土類金属原子の含有量が約1molになると禁制帯幅が所望の値(1.4eV)にまで拡大し、結晶品質が良好な半導体材料が得られる。
【0027】
前記半導体材料に前記アルカリ土類金属原子を含有させる方法としては、例えば、Ba原子、Si原子および前記不純物原子を蒸着させる際にこれらの原子に加えて前記アルカリ土類金属原子を同時に照射して蒸着させ、Ba原子とSi原子と前記不純物原子と前記アルカリ土類金属原子とを反応させる方法が挙げられる。各原子の蒸着速度比(Ba:Si:不純物:アルカリ土類金属)は1.0〜2.0nm/分:0.5〜1.0nm/分:0.0001〜0.001nm/分:1.0〜2.0nm/分であることが好ましい。
【0028】
次に、本発明の太陽電池について説明する。以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明および図面中、同一または相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0029】
本発明の太陽電池は、図1および図2に示すように、基板1(好ましくは、少なくとも一方の表面がSiからなる基板)と、前記基板1(好ましくは、そのSi表面)上に配置されている、Ba原子とSi原子とを含有するバリウムシリサイド層2と、前記バリウムシリサイド層2上に配置されているAs原子、Sb原子、Bi原子およびN原子からなる群から選択される少なくとも1種の不純物原子とBa原子とSi原子とを含有する不純物ドープバリウムシリサイド層3と、前記不純物ドープバリウムシリサイド層3上に配置されている上部電極6と、前記基板1(例えば、その表面)上に配置されている下部電極5と、を備えることを特徴とするものである。
【0030】
本発明の太陽電池においては、前記バリウムシリサイド層2はエピタキシャル層または高配向層であることが好ましい。バリウムシリサイド層2がエピタキシャル層または高配向層であると、よりエネルギー変換効率の高い太陽電池を得ることができる。
【0031】
また、前記下部電極5は、前記バリウムシリサイド層2と電気的に接続されるように前記基板1(例えば、その表面)上に配置されていれば、例えば、図1に示すように、前記基板1のバリウムシリサイド層2が配置されている面と反対側の表面上に配置されていてもよいし、図2に示すように、前記基板1のバリウムシリサイド層2が配置されている表面上に配置されていてもよい。また、基板1の両面に配置されていてもよい。
【0032】
また、本発明の太陽電池は、図3および図4に示すように、前記バリウムシリサイド層2と前記基板(好ましくは、そのSi表面)との間に、周期表9〜10族に属する少なくとも1種の金属原子とSi原子とを含有する金属シリサイド層4をさらに備えることが好ましい。前記バリウムシリサイド層2を前記金属シリサイド層4上に形成すると結晶品質のよいバリウムシリサイド層2が形成でき、金属シリサイドの仕事関数とバリウムシリサイドの電子親和力の差が大きいため、開放電圧が大きな太陽電池を得ることができる。
【0033】
また、前記金属シリサイド層4を備える本発明の太陽電池においては、下部電極5は、前記バリウムシリサイド層2と電気的に接続されるように前記金属シリサイド層4および前記基板1のうちの少なくとも1つの上(例えば、その表面上)に配置される。例えば、下部電極5は、前記基板1の金属シリサイド層4が配置されている面と反対側の表面上に配置されていてもよいし(図3)、前記基板1の金属シリサイド層4が配置されている表面上に配置されていてもよい(図面なし)。また、前記金属シリサイド層4のバリウムシリサイド層2が配置されている表面上に配置されていてもよいし(図4)、前記金属シリサイド層4のバリウムシリサイド層2が配置されている面と反対側の表面上に配置されていてもよい(図面なし)。また、これらの組み合わせでもよい。これらのうち、電極との接触抵抗を含めた太陽電池の全体の直列抵抗の低減の観点から、下部電極5は前記金属シリサイド層4の一方の表面上に配置されていることが好ましい。
【0034】
本発明の太陽電池は例えば以下の方法により製造できる。図5A〜図5Dには下記製造方法の各工程終了時に得られる太陽電池材料または太陽電池の断面図を示す。
【0035】
本発明の太陽電池の第一の製造方法では、先ず、基板1(例えば、その表面)上おいてSi原子とBa原子とを反応させる。Si原子とBa原子との反応は、例えば、前記基板1として少なくとも一方の表面がSiからなる基板を用い、このSi表面のうちの1つの表面にBa原子を導入することによって実施することができるが、本発明においてはこれに限定されない。例えば、基板1(例えば、その表面)上にSi原子とBa原子とを導入することによってもSi原子とBa原子とを反応させることができる。
【0036】
少なくとも一方の表面がSiからなる前記基板は、全体がSiであってもよいが、経済的な観点からガラス基板などの安価な基材の表面にSi層を形成した基板が好ましい。また、前記Ba原子が導入されるSi表面は、結晶品質のよいバリウムシリサイド層2が形成できる点でSi(111)表面であることがより好ましい。ガラス基板などの基材の表面に(111)配向したSi層を形成する方法としては、Oliver Nast and Stuart R.Wenham,Journal of Applied Physics,Vol.88,124(2000)に記載の方法が挙げられる。導入されたBa原子は前記Si表面近傍のSi原子と反応してバリウムシリサイド極薄層を形成する。このバリウムシリサイド極薄層の厚みは通常10〜20nmである。
【0037】
Ba原子の導入方法としては、従来公知の原子導入方法を採用できるが、液相エピタキシー法、気相エピタキシー法、分子線エピタキシー法などの従来公知のエピタキシー法が好ましい。これらのうち、400〜600℃に加熱した基板1のSi表面にBa原子を超高真空下(好ましくは0.001〜0.01mPa)で蒸着させ、Ba原子とSi原子とを反応させてエピタキシャル成長させる方法(熱反応堆積エピタキシー法(RDE法))がより好ましい。この方法により格子欠陥の少ない結晶を得ることができる。Ba原子の蒸着速度は1〜2nm/分であることが好ましい。
【0038】
第一の製造方法では、前記バリウムシリサイド極薄層をそのままバリウムシリサイド層2として使用してもよいし、前記バリウムシリサイド極薄層上でSi原子とBa原子とを反応させてエピタキシャル成長により厚肉のバリウムシリサイド層2を形成してもよい。前記バリウムシリサイド層2の厚みは0.2〜1.0μmであることが好ましい。バリウムシリサイド層2の厚みが上記下限未満になると太陽光を十分に吸収できない傾向にある。他方、上記上限を超えるとバリウムシリサイド層に内蔵電場の無い中性領域が存在するため、光照射によって生じた電子・正孔対の大部分が再結合により消滅してしまう傾向にある。
【0039】
第一の製造方法では、前記バリウムシリサイド層2はエピタキシャル成長によりエピタキシャル層または高配向層として形成させることが好ましい。エピタキシャル成長させる方法としては、液相エピタキシー法、気相エピタキシー法、分子線エピタキシー法などの従来公知のエピタキシー法が挙げられる。これらのうち、超高真空下(好ましくは0.001〜0.01mPa)で、400〜600℃に加熱した前記バリウムシリサイド極薄層に直接Ba原子とSi原子とを同時に照射して蒸着させ、Ba原子とSi原子とを反応させる方法(分子線エピタキシー法(MBE法))が好ましい。この方法により格子欠陥の少ない結晶を得ることができる。各原子の蒸着速度比(Ba:Si)は1.0〜2.0nm/分:0.5〜1.0nm/分であることが好ましい。
【0040】
また、第一の製造方法では、前記バリウムシリサイド層2にSr原子、Ca原子およびMg原子からなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属原子を含有させることが好ましい。前記バリウムシリサイド層2に前記アルカリ土類金属原子を含有させるとバリウムシリサイド層2の禁制帯幅を拡大させることができ、エネルギー変換効率に優れた太陽電池を得ることができる。
【0041】
また、前記バリウムシリサイド層2中のBa原子1molに対する前記アルカリ土類金属原子の含有量は約1molであることが好ましい。前記アルカリ土類金属原子の含有量が約1molになると禁制帯幅が太陽電池としてふさわしい値(1.4eV)にまで拡大し、結晶品質が良好なバリウムシリサイド層2が得られる。
【0042】
前記バリウムシリサイド層2に前記アルカリ土類金属原子を含有させる方法としては、例えば、エピタキシャル成長させる際にBa原子およびSi原子に加えて前記アルカリ土類金属原子を同時に照射して蒸着させ、Ba原子とSi原子と前記アルカリ土類金属原子とを反応させてエピタキシャル成長させる方法が挙げられる。各原子の蒸着速度比(Ba:Si:アルカリ土類金属)は1.0〜2.0nm/分:0.5〜1.0nm/分:1.0〜2.0nm/分であることが好ましい。
【0043】
図5Aは、このようにして得られたバリウムシリサイド層2を基板1(例えば、その表面)上に備える太陽電池材料の断面図である。
【0044】
次に、このバリウムシリサイド層2の表面に本発明の半導体材料である不純物ドープバリウムシリサイド層3を形成する。これにより所望の高電子密度の不純物ドープバリウムシリサイド層3を容易に形成することができるとともに、電極と太陽電池の接触抵抗が小さいため、直列抵抗によるエネルギー変換効率の低下を抑制した太陽電池を容易に得ることができる。また、この観点からSb原子をドープすることが好ましい。
【0045】
前記不純物ドープバリウムシリサイド層3中のSi原子1molに対する前記不純物原子の含有量は0.1〜3mmolであることが好ましく、1〜3mmolであることがより好ましい。不純物原子の含有量が上記下限未満になると電極と太陽電池の接触抵抗が大きくなる傾向にある。他方、上記上限を超えると不純物ドープバリウムシリサイド層の結晶品質が低下する傾向にある。
【0046】
前記不純物ドープバリウムシリサイド層3の厚みは0.01〜0.1μmであることが好ましい。不純物ドープバリウムシリサイド層3の厚みが上記下限未満になると電極と太陽電池の接触抵抗が大きくなる傾向にある。他方、上記上限を超えると太陽電池表面で太陽光が反射され、エネルギー変換効率が低下する傾向にある。
【0047】
また、第一の製造方法では、本発明の半導体材料の場合と同様に、前記不純物ドープバリウムシリサイド層3に前記アルカリ土類金属原子を含有させることが好ましい。前記不純物ドープバリウムシリサイド層3に前記アルカリ土類金属原子を含有させると不純物ドープバリウムシリサイド層3の禁制帯幅を拡大させることができ、エネルギー変換効率に優れた太陽電池を得ることができる。
【0048】
図5Bは、このようにして得られたバリウムシリサイド層2および不純物ドープバリウムシリサイド層3を基板1(例えば、その表面)上に備える太陽電池材料の断面図である。
【0049】
次に、この太陽電池材料に従来公知の方法により電極を形成する。具体的には、前記バリウムシリサイド層2と電気的に接続されるように前記太陽電池材料の基板1(例えば、その表面)上に下部電極5を形成し、前記不純物ドープバリウムシリサイド層3の表面に上部電極6を形成する。これらの電極はいずれの順序で形成してもよい。図5Cは、前記基板1のバリウムシリサイド層2が配置されている面と反対側の表面に下部電極5を備える太陽電池材料の断面図であり、図5Dは、前記基板1のバリウムシリサイド層2が配置されている面と反対側の表面に下部電極5を備える、本発明の太陽電池の断面図である。また、下部電極5は、図2に示すように、前記基板1のバリウムシリサイド層2が配置されている表面に形成してもよい。前記上部電極6および下部電極5としては、従来公知の太陽電池に用いられる銀電極などの金属電極が好ましい。
【0050】
また、本発明の太陽電池が、図3および図4に示すように、金属シリサイド層4を備える場合には例えば以下の方法によって製造できる。図6A〜図6Fには下記製造方法の各工程終了時に得られる太陽電池材料または太陽電池の断面図を示す。
【0051】
本発明の太陽電池の第二の製造方法では、先ず、基板1(例えば、その表面)上おいてSi原子と周期表9〜10族に属する金属原子とを反応させる。Si原子と前記金属原子との反応は、例えば、前記基板1として少なくとも一方の表面がSiからなる基板を用い、このSi表面のうちの少なくとも1つの表面に周期表9〜10族に属する金属原子を導入することによって実施することができるが、本発明においてはこれに限定されない。例えば、基板1(例えば、その表面)上にSi原子と周期表9〜10族に属する金属原子とを導入することによってもSi原子と周期表9〜10族に属する金属原子とを反応させることができる。
【0052】
少なくとも一方の表面がSiからなる前記基板は、全体がSiであってもよいが、経済的な観点からガラス基板などの安価な基材の表面にSi層を形成した基板が好ましい。また、前記金属原子が導入されるSi表面はSi(111)表面であることがより好ましい。Si(111)表面に前記金属原子を導入すると結晶品質のよい金属シリサイド層4が形成でき、さらに結晶品質のよいバリウムシリサイド層2が形成できる。導入された前記金属原子は前記Si表面近傍のSi原子と反応して金属シリサイド層4を形成する。
【0053】
このように基板1(好ましくは、そのSi表面)上に金属シリサイド層4を形成すると前記金属シリサイド層4上に形成されるバリウムシリサイド層2の結晶品質が良好となり、金属シリサイドの仕事関数とバリウムシリサイドの電子親和力の差が大きいため、開放電圧が大きな太陽電池を得ることができる。また、この観点から前記金属シリサイドのうち、バリウムシリサイドに近似の格子定数を有する金属シリサイドが好ましく、コバルトシリサイドおよびニッケルシリサイドがより好ましく、コバルトシリサイドが特に好ましい。なお、本発明にかかるコバルトシリサイドとしてはCoSiが挙げられるが、コバルトとケイ素の原子比(Co:Si)が1:2のものに限定されるものではない。また、ニッケルシリサイドとしてはNiSiが挙げられるが、ニッケルとケイ素の原子比(Ni:Si)が1:2のものに限定されるものではない。
【0054】
前記金属シリサイド層4の厚みは10〜40nmであることが好ましい。金属シリサイド層4の厚みが上記下限未満になると金属シリサイドの抵抗が大きくなり、太陽電池のエネルギー変換効率が低下する傾向にある。他方、上記上限を超えると金属シリサイドの結晶品質が低下し、その上のバリウムシリサイド層2の結晶品質の低下を招く傾向にある。
【0055】
前記金属原子の導入方法としては、従来公知の原子導入方法を採用できるが、液相エピタキシー法、気相エピタキシー法、分子線エピタキシー法などの従来公知のエピタキシー法が好ましい。これらのうち、室温で基板1のSi表面に前記金属原子を超高真空下(好ましくは0.001〜0.01mPa)で蒸着させ、例えば600〜700℃で5分間アニールすることにより前記金属原子とSi原子とを反応させてエピタキシャル成長させる方法(固相エピタキシー法(SPE法))がより好ましい。この方法により格子欠陥の少ない結晶を得ることができる。前記金属原子の蒸着速度は1〜2nm/分であることが好ましい。
【0056】
図6Aは、このようにして得られた金属シリサイド層4を基板1(例えば、その表面)上に備える太陽電池材料の断面図である。
【0057】
次に、この金属シリサイド層4上においてBa原子とSi原子とを反応させてバリウムシリサイド層2を形成させる。この場合、例えば、前記金属シリサイド層4の表面にSi極薄層2aを形成した後、このSi極薄層2aをテンプレートとして後述するバリウムシリサイド層を形成することにより結晶性のバリウムシリサイド層2を前記金属シリサイド層4上に形成することができるが、本発明においてはこれに限定されない。例えば、前記金属シリサイド層4の表面にBa原子とSi原子とを導入することによっても前記バリウムシリサイド層2を形成させることができる。これらのうち、容易にバリウムシリサイド層2を形成できる点で、Si極薄層2aを形成する前者の方法が好ましい。
【0058】
前記Si極薄層2aの厚みは10〜15nmであることが好ましい。Si極薄層2aの厚みが上記下限未満になると後述するバリウムシリサイド極薄層が薄くなる傾向にある。他方、上記上限を超えるとバリウムシリサイド極薄層が厚くなり、結晶品質が低下する傾向にある。
【0059】
Si極薄層2aの形成方法としては、従来公知のSi薄膜形成方法を採用できるが、液相エピタキシー法、気相エピタキシー法、分子線エピタキシー法などの従来公知のエピタキシー法が好ましい。これらのうち、超高真空下(好ましくは0.001〜0.01mPa)で、500〜600℃に加熱した前記金属シリサイド層4に直接Si原子を照射して蒸着させ、Si原子を堆積させる方法(分子線エピタキシー法(MBE法))がより好ましい。この方法により格子欠陥の少ない結晶を得ることができる。Si原子の蒸着速度は0.5〜1.0nm/分であることが好ましい。
【0060】
図6Bは、このようにして得られたSi極薄層2aおよび金属シリサイド層4を基板1(例えば、その表面)上に備える太陽電池材料の断面図である。
【0061】
次に、このSi極薄層2aにBa原子を導入する。導入されたBa原子は前記Si極薄層2a中のSi原子と反応してバリウムシリサイド極薄層を形成する。このバリウムシリサイド極薄層の厚みは10〜20nmであることが好ましい。Ba原子の導入方法としては前記第一の製造方法と同様の方法が好ましく、格子欠陥の少ない結晶を得ることができる点で熱反応堆積エピタキシー法(RDE法)がより好ましい。
【0062】
第二の製造方法においても前記第一の製造方法の場合と同様に、前記バリウムシリサイド極薄層をそのままバリウムシリサイド層2として使用してもよいし、前記バリウムシリサイド極薄層上でSi原子とBa原子とを反応させてエピタキシャル成長により厚肉のバリウムシリサイド層2を形成してもよい。また、第二の製造方法においても、前記バリウムシリサイド層2はエピタキシャル成長によりエピタキシャル層または高配向層として形成させることが好ましい。前記バリウムシリサイド層2における厚み、エピタキシャル成長方法、アルカリ土類金属原子の含有についても前記第一の製造方法の場合と同様である。
【0063】
図6Cは、このようにして得られた金属シリサイド層4およびバリウムシリサイド層2を基板1(例えば、その表面)上に備える太陽電池材料の断面図である。
【0064】
次に、前記第一の製造方法の場合と同様の観点から、前記バリウムシリサイド層2の表面に本発明の半導体材料である不純物ドープバリウムシリサイド層3を形成する。また、前記不純物ドープバリウムシリサイド層3における不純物原子の含有量、厚み、前記不純物原子のドープ方法、アルカリ土類金属原子の含有についても前記第一の製造方法の場合と同様である。
【0065】
図6Dは、このようにして得られた金属シリサイド層4、バリウムシリサイド層2および不純物ドープバリウムシリサイド層3を基板1(例えば、その表面)上に備える太陽電池材料の断面図である。
【0066】
その後、前記第一の製造方法の場合と同様に、この太陽電池材料に電極を形成する。上部電極6は前記不純物ドープバリウムシリサイド層3の表面に形成し、下部電極5は、前記金属シリサイド層4と電気的に接続されるように前記金属シリサイド層4および前記基板1のうちの少なくとも1つの上(例えば、その表面上)に形成する。これらの電極はいずれの順序で形成してもよい。図6Eは、前記基板1の金属シリサイド層4が配置されている面と反対側の表面に下部電極5を備える太陽電池材料の断面図であり、図6Fは、前記基板1の金属シリサイド層4が配置されている面と反対側の表面に下部電極5を備える、本発明の太陽電池の断面図である。また、下部電極5は、前記基板1の金属シリサイド層4が配置されている表面に形成してもよいし(図面なし)、前記金属シリサイド層4のバリウムシリサイド層2が配置されている表面に形成してもよいし(図4)、前記金属シリサイド層4のバリウムシリサイド層2が配置されている面と反対側の表面に形成してもよい(図面なし)。前記上部電極6および下部電極5としては、従来公知の太陽電池に用いられる銀電極などの金属電極が好ましい。
【0067】
本発明の太陽電池の製造方法によると、不純物ドープバリウムシリサイド層の電子密度を、広い電子密度範囲において所望の値となるように容易に制御することができ、また、得られた本発明の太陽電池は、高電子密度の不純物ドープバリウムシリサイド層3がバリウムシリサイド層2上に形成されているため、電極との接触抵抗が小さく、直列抵抗によるエネルギー変換効率の低下を抑制することができる。また、バリウムシリサイドの光吸収係数が大きい(Siの100倍)ことからバリウムシリサイド層2および不純物ドープバリウムシリサイド層3の厚みを薄くしても十分に太陽光を吸収することができ、また、薄くすることによりSiの量を低減でき、さらに光吸収領域全域にわたって大きな内蔵電位を印加できる。さらに、バリウムシリサイド層2の結晶品質が高く、格子欠陥の密度が低いため、基板1(好ましくは、そのSi表面)または金属シリサイド層4とバリウムシリサイド層2との間で形成されるショットキー接合において大きな内蔵電位を得ることができる。これらにより本発明の太陽電池はエネルギー変換効率に優れたものとなる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、得られた太陽電池材料の特性は以下の方法により評価した。
【0069】
(1)X線回折(XRD)
太陽電池材料の結晶構造をX線回折装置((株)リガク製RINT2000シリーズ)により観察した。
【0070】
(2)伝導型、キャリア密度および抵抗率
伝導型、キャリア密度および抵抗率をHall測定により評価した。電流源として(株)アドバンテスト製R6240Aを用い、電圧計として(株)アドバンテスト製R6441Dを用い、磁場発生源として電子磁気工業(株)製の直流電源装置を用い、室温で測定した。
【0071】
(3)電流−電圧特性(暗電流特性)
得られた太陽電池の不純物ドープバリウムシリサイド層に対して基板または金属シリサイド層にカーブトレーサー装置(菊水電子社製、型番:5802)を用いて、電圧を−9Vから+9Vまで室温で印加し、流れた電流量を前記カーブトレーサー装置を用いて測定した。
【0072】
(実施例1)
先ず、分子線エピタキシー結晶成長装置(RIBER社製、型番:MBE−2300)の超高真空チャンバー内(0.0001mPa)でp型のSi(111)基板(抵抗率1000Ω・cm以上、厚さ525μm)を850℃で30分間加熱して基板表面の酸化膜を除去し、Si(111)清浄表面を得た。
【0073】
次に、前記Si基板を550℃で加熱しながらBa原子を蒸着速度1.5nm/分で前記Si(111)清浄表面に蒸着させ、Ba原子とSi原子とを反応させて前記Si(111)清浄表面上に20nm厚のバリウムシリサイド層を形成した。
【0074】
次に、Sb蒸着源を300℃〜350℃の温度で加熱し、表面がバリウムシリサイド層である前記Si基板を600℃で加熱しながらBa原子(蒸着速度1.5nm/分)とSi原子(蒸着速度0.8nm/分)とSb原子(蒸着速度1.5×10−5nm/分(300℃)〜1.5×10−2nm/分(350℃))とを同時に前記バリウムシリサイド層の表面に蒸着させ、Ba原子とSi原子とSb原子とを反応させて前記バリウムシリサイド層上に本発明の半導体材料である200nm厚のSbドープバリウムシリサイド層を形成した。このSbドープバリウムシリサイド層のX線回折パターンを図7に示す。
【0075】
得られたSbドープバリウムシリサイド層の伝導型、キャリア密度および抵抗率を前記(2)に記載の方法により測定した。このSbドープバリウムシリサイド層の伝導型はn型であった。また、Sb蒸着源の温度と前記Sbドープバリウムシリサイド層の電子密度および抵抗率との関係を図8に示す。なお、Hall測定における電流方向が面方向であり、使用したSi基板の抵抗率が大きく、伝導型がバリウムシリサイド層やSbドープバリウムシリサイド層のものと異なるため、Si基板には電流が流れず、これらの層にのみ電流が流れる。従って、Hall測定によりSbドープバリウムシリサイド層の電子密度および抵抗率を測定することが可能となる。
【0076】
(比較例1)
Sb原子の代わりにGa原子をドープし、Ga蒸着源の加熱温度を700〜850℃の温度に設定した以外は、実施例1と同様にしてGaドープバリウムシリサイド層を形成した。このGaドープバリウムシリサイド層のX線回折パターンを図9に示す。
【0077】
得られたGaドープバリウムシリサイド層の伝導型、キャリア密度および抵抗率を前記(2)に記載の方法により測定した。このGaドープバリウムシリサイド層の伝導型はn型であった。また、Ga蒸着源の温度と前記Gaドープバリウムシリサイド層の電子密度および抵抗率との関係を図10に示す。なお、この場合も実施例1と同様の理由によりGaドープバリウムシリサイド層の電子密度および抵抗率を測定することが可能となる。
【0078】
(比較例2)
Sb原子の代わりにCu原子をドープし、Cu蒸着源の加熱温度を550〜700℃の温度に設定した以外は、実施例1と同様にしてCuドープバリウムシリサイド層を形成した。このCuドープバリウムシリサイド層のX線回折パターンを図11に示す。
【0079】
得られたCuドープバリウムシリサイド層の伝導型、キャリア密度および抵抗率を前記(2)に記載の方法により測定した。このCuドープバリウムシリサイド層の伝導型はp型であった。また、Cu蒸着源の温度と前記Cuドープバリウムシリサイド層の正孔密度および抵抗率との関係を図12に示す。なお、この場合には、Si基板の伝導型がCuドープバリウムシリサイド層のものと同じであるが、Siとバリウムシリサイドの禁制帯幅および電子親和力の違いから、バリウムシリサイド中の正孔に対してSiの価電子帯には約0.5eVのバンド不連続があるため、バリウムシリサイドを流れる正孔電流はSiを流れず、Cuドープバリウムシリサイド層の正孔密度および抵抗率を測定することが可能となる。
【0080】
図7、図9、図11に示した結果から明らかなように、Sb原子、Ga原子、Cu原子のいずれの不純物原子をドープした場合にも、蒸着源の加熱温度が高くなるにつれて不純物ドープバリウムシリサイド層は、a軸配向が乱れ、多結晶となることが確認された。
【0081】
図8に示した結果から明らかなように、本発明の半導体材料であるSbドープバリウムシリサイド層の場合(実施例1)は、蒸着源の加熱温度を制御することによって抵抗率および電子密度を広範囲にわたって緩やかに変化させることでき、所望の電子密度および抵抗率を有する半導体材料を広範囲にわたって容易に得られることが確認された。一方、図10に示した結果から明らかなように、Gaドープバリウムシリサイド層の場合(比較例1)には、蒸着源の加熱温度800℃を境として電子密度および抵抗率が急激に大幅に変化した。このため、所望の電子密度および抵抗率を有する半導体材料を広範囲にわたって容易に得ることはできなかった。また、図12に示した結果から明らかなように、Cuドープバリウムシリサイド層の場合(比較例2)には、蒸着源の加熱温度550〜600℃の範囲で正孔密度が急激に大幅に変化したため、所望の正孔密度を有する半導体材料を広範囲にわたって容易に得ることはできなかった。
【0082】
(実施例2)
図13に示すメサ構造(バリウムシリサイド層12およびSbドープバリウムシリサイド層13の面積1mm)を有し、電子密度が5×1019cm−3の半導体材料を備えるダイオード(太陽電池)を作製した。先ず、基板としてn型のSi(111)基板11(抵抗率1000Ω・cm以上、厚さ525μm)を用い、実施例1と同様にしてSi(111)清浄表面を得た。次に、前記Si基板11を550℃で加熱しながらBa原子を蒸着速度1.5nm/分で前記Si(111)清浄表面に蒸着させ、Ba原子とSi原子とを反応させて前記Si(111)清浄表面上に20nm厚のバリウムシリサイド極薄層を形成した。
【0083】
次に、前記バリウムシリサイド極薄層をテンプレートとしてバリウムシリサイド層を成長させた。具体的には、バリウムシリサイド極薄層を形成した前記太陽電池材料を600℃で加熱しながらBa原子(蒸着速度1.5nm/分)とSi原子(蒸着速度0.8nm/分)とを同時に前記バリウムシリサイド極薄層の表面に蒸着させ、Ba原子とSi原子とを反応させて前記Si(111)清浄表面上に200nm厚のバリウムシリサイド層12を形成した。
【0084】
次に、前記電子密度の半導体材料を形成するために図8に従ってSb蒸着源の加熱温度を340℃に設定した。バリウムシリサイド層12を形成した前記太陽電池材料を600℃で加熱しながらBa原子(蒸着速度1.5nm/分)とSi原子(蒸着速度0.8nm/分)とSb原子(蒸着速度0.001nm/分)とを同時に前記バリウムシリサイド層12の表面に蒸着させ、Ba原子とSi原子とSb原子とを反応させて前記バリウムシリサイド層12上に本発明の半導体材料である20nm厚のSbドープバリウムシリサイド層13を形成した。このSbドープバリウムシリサイド層13の伝導型および電子密度をHall測定により確認したところ、電子密度が5×1019cm−3のn型であった。
【0085】
その後、図13に示すように、Sbドープバリウムシリサイド層13形成後の太陽電池材料の基板11表面上およびSbドープバリウムシリサイド層13表面上に銀ペーストにより下部電極15およびを上部電極16形成してダイオード(太陽電池)を得た。このダイオードの暗電流特性を室温で測定した。その結果を図15に示す。なお、この暗電流特性の測定においては、電流方向がSi基板11の厚み方向であるため、Si基板11の厚み方向の抵抗は小さく、測定範囲内ではSi基板11による電圧降下は無視できるものであった。
【0086】
(実施例3)
図14に示すメサ構造(バリウムシリサイド層12およびSbドープバリウムシリサイド層13の面積1mm)を有し、電子密度が5×1019cm−3の半導体材料を備えるダイオード(太陽電池)を作製した。先ず、基板としてp型のSi(111)基板11(抵抗率1000Ω・cm以上、厚さ525μm)を用い、実施例1と同様にしてSi(111)清浄表面を得た。次いで、室温でCo分子を蒸着速度2nm/分で前記Si(111)清浄表面に蒸着させ、前記Si基板11上に7nm厚のCo層を形成した。この基板を700℃で5分間アニール処理してCo原子とSi原子とを反応させ、前記Si基板11上に20nm厚のコバルトシリサイド層14を形成した。
【0087】
次に、コバルトシリサイド層14を形成した前記太陽電池材料を590℃で加熱しながらSi原子を蒸着速度1nm/分で前記コバルトシリサイド層14の表面に蒸着させ、前記コバルトシリサイド層14上に10nm厚のSi極薄層を形成した。
【0088】
次に、Si極薄層を形成した前記太陽電池材料を550℃で加熱しながらBa原子を蒸着速度1.5nm/分で前記Si極薄層の表面に蒸着させ、Ba原子とSi原子とを反応させて前記コバルトシリサイド層14上に20nm厚のバリウムシリサイド極薄層を形成した。
【0089】
次に、前記バリウムシリサイド極薄層をテンプレートとしてバリウムシリサイド層を成長させた。具体的には、バリウムシリサイド極薄層を形成した前記太陽電池材料を600℃で加熱しながらBa原子(蒸着速度1.5nm/分)とSi原子(蒸着速度0.8nm/分)とを同時に前記バリウムシリサイド極薄層の表面に蒸着させ、Ba原子とSi原子とを反応させて前記コバルトシリサイド層14上に200nm厚のバリウムシリサイド層12を形成した。
【0090】
次に、このバリウムシリサイド層12を形成した太陽電池材料を用いた以外は実施例2と同様にして前記バリウムシリサイド層12上に本発明の半導体材料である20nm厚のSbドープバリウムシリサイド層13を形成した。なお、実施例2と同様に、前記電子密度の半導体材料を形成するために図8に従ってSb蒸着源の加熱温度は340℃に設定した。前記Sbドープバリウムシリサイド層13の伝導型および電子密度をHall測定により確認したところ、電子密度が5×1019cm−3のn型であった。
【0091】
その後、図14に示すように、Sbドープバリウムシリサイド層13形成後の太陽電池材料のコバルトシリサイド層14表面上およびSbドープバリウムシリサイド層13表面上に銀ペーストにより下部電極15および上部電極16を形成してダイオード(太陽電池)を得た。このダイオードの暗電流特性を室温で測定した。その結果を図15に示す。なお、この暗電流特性の測定においては、コバルトシリサイド層14表面上に下部電極15が形成されているため、Si基板11の抵抗は影響しない。
【0092】
図15に示した結果から明らかなように、本発明の半導体材料を備えるダイオード(実施例2〜3)は、Sbドープバリウムシリサイド層に対してSi基板またはコバルトシリサイド層に正電圧を印加する順方向バイアス下で電流が大きく、逆方向バイアス下では電流が少ない明瞭な整流性を示し、太陽電池として有用であることが確認された。
【0093】
また、同じ順方向の電圧を印加した場合、コバルトシリサイド層を備えるダイオード(実施例3)は、コバルトシリサイド層のないダイオード(実施例2)に比べて電流量が極めて少なかった。これは、n型Si中の電子に対する前記バリウムシリサイド層の障壁高さに比べてコバルトシリサイド層中の電子に対する前記バリウムシリサイド層の障壁高さが非常に大きいことを意味している。この障壁の高さは太陽電池における開放電圧の最大値の相当し、コバルトシリサイド層を備える前記ダイオードは、より大きな開放電圧を有する太陽電池として有用であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0094】
以上説明したように、本発明によれば、バリウムシリサイド系半導体のドーパントとしてAs原子、Sb原子およびBi原子からなる群から選択される少なくとも1種の不純物原子を選択することによって、前記不純物原子の蒸着源の温度を制御すると、得られる半導体材料の電子密度を、広い電子密度範囲において所望の値となるように容易に制御することができる。
【0095】
したがって、本発明の半導体材料の製造方法は、電子密度が異なるバリウムシリサイド系半導体材料を効率的に製造できる方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明の太陽電池の好適な一実施態様を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の太陽電池の好適な他の実施態様を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の太陽電池の好適なさらに他の実施態様を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の太陽電池の好適なさらに他の実施態様を模式的に示す断面図である。
【図5A】本発明の太陽電池の第一の製造方法において、バリウムシリサイド層形成後に得られる太陽電池材料の好適な一実施態様を模式的に示す断面図である。
【図5B】本発明の太陽電池の第一の製造方法において、不純物ドープバリウムシリサイド層形成後に得られる太陽電池材料の好適な一実施態様を模式的に示す断面図である。
【図5C】本発明の太陽電池の第一の製造方法において、下部電極形成後に得られる太陽電池材料の好適な一実施態様を模式的に示す断面図である。
【図5D】本発明の太陽電池の第一の製造方法において、上部電極形成後に得られる太陽電池の好適な一実施態様を模式的に示す断面図である。
【図6A】本発明の太陽電池の第二の製造方法において、金属シリサイド層形成後に得られる太陽電池材料の好適な一実施態様を模式的に示す断面図である。
【図6B】本発明の太陽電池の第二の製造方法において、Si極薄層形成後に得られる太陽電池材料の好適な一実施態様を模式的に示す断面図である。
【図6C】本発明の太陽電池の第二の製造方法において、バリウムシリサイド層形成後に得られる太陽電池材料の好適な一実施態様を模式的に示す断面図である。
【図6D】本発明の太陽電池の第二の製造方法において、不純物ドープバリウムシリサイド層形成後に得られる太陽電池材料の好適な一実施態様を模式的に示す断面図である。
【図6E】本発明の太陽電池の第二の製造方法において、下部電極形成後に得られる太陽電池材料の好適な一実施態様を模式的に示す断面図である。
【図6F】本発明の太陽電池の第二の製造方法において、上部電極形成後に得られる太陽電池の好適な一実施態様を模式的に示す断面図である。
【図7】実施例1において得られたSbドープバリウムシリサイド層のX線回折パターンを示すグラフである。
【図8】実施例1において得られたSbドープバリウムシリサイド層の電子密度および抵抗率とSb蒸着源の温度との関係を示すグラフである。
【図9】比較例1において得られたGaドープバリウムシリサイド層のX線回折パターンを示すグラフである。
【図10】比較例1において得られたGaドープバリウムシリサイド層の電子密度および抵抗率とGa蒸着源の温度との関係を示すグラフである。
【図11】比較例2において得られたCuドープバリウムシリサイド層のX線回折パターンを示すグラフである。
【図12】比較例2において得られたCuドープバリウムシリサイド層の正孔密度および抵抗率とCu蒸着源の温度との関係を示すグラフである。
【図13】実施例2において作製したダイオード(太陽電池)の断面図である。
【図14】実施例3において作製したダイオード(太陽電池)の断面図である。
【図15】実施例2〜3において作製したダイオード(太陽電池)の暗電流特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0097】
1、11…基板;2、12…バリウムシリサイド層;2a…Si極薄層;3、13…不純物ドープバリウムシリサイド層;4、14…金属シリサイド層;5、15…下部電極;6、16…上部電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
As原子、Sb原子、Bi原子およびN原子からなる群から選択される少なくとも1種の不純物原子とBa原子とSi原子とを含有することを特徴とする半導体材料。
【請求項2】
Sr原子、Ca原子およびMg原子からなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属原子をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の半導体材料。
【請求項3】
n型であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体材料。
【請求項4】
厚みが0.01〜0.1μmであることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の半導体材料。
【請求項5】
基板と、
前記基板上に配置されている、Ba原子とSi原子とを含有するバリウムシリサイド層と、
前記バリウムシリサイド層上に配置されているAs原子、Sb原子、Bi原子およびN原子からなる群から選択される少なくとも1種の不純物原子とBa原子とSi原子とを含有する不純物ドープバリウムシリサイド層と、
前記不純物ドープバリウムシリサイド層上に配置されている上部電極と、
前記基板上に配置されている下部電極と、
を備えることを特徴とする太陽電池。
【請求項6】
前記バリウムシリサイド層と前記基板との間に、周期表9〜10族に属する少なくとも1種の金属原子とSi原子とを含有する金属シリサイド層をさらに備えることを特徴とする請求項5に記載の太陽電池。
【請求項7】
前記下部電極が前記金属シリサイド層の表面上に配置されていることを特徴とする請求項6に記載の太陽電池。
【請求項8】
前記バリウムシリサイド層および前記不純物ドープバリウムシリサイド層のうちの少なくとも1つがさらにSr原子、Ca原子およびMg原子からなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属原子を含むことを特徴とする請求項5〜7のうちのいずれか一項に記載の太陽電池。
【請求項9】
前記バリウムシリサイド層がエピタキシャル層または高配向層であることを特徴とする請求項5〜8のうちのいずれか一項に記載の太陽電池。
【請求項10】
As原子、Sb原子、Bi原子およびN原子からなる群から選択される少なくとも1種の不純物原子とBa原子とSi原子とを反応させることを特徴とする半導体材料の製造方法。
【請求項11】
Sr原子、Ca原子およびMg原子からなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属原子をさらに反応させることを特徴とする請求項10に記載の半導体材料の製造方法。
【請求項12】
基板上においてSi原子とBa原子とを反応させてバリウムシリサイド層を形成する工程と、
前記バリウムシリサイド層の表面に、As原子、Sb原子、Bi原子およびN原子からなる群から選択される少なくとも1種の不純物原子とBa原子とSi原子とを反応させて不純物ドープバリウムシリサイド層を形成する工程と、
前記基板上に下部電極を形成する工程と、
前記不純物ドープバリウムシリサイド層の表面に上部電極を形成する工程と、
を含むことを特徴とする太陽電池の製造方法。
【請求項13】
前記基板の少なくとも一方の表面がSiからなり、
前記バリウムシリサイド層を形成する工程において、前記基板のSi表面にBa原子を導入してSi原子とBa原子とを反応させることを特徴とする請求項12に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項14】
前記バリウムシリサイド層を形成する工程および前記不純物ドープバリウムシリサイド層を形成する工程のうちの少なくとも1つの工程において、さらにSr原子、Ca原子およびMg原子からなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属原子を反応させることを特徴とする請求項12または13に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項15】
前記バリウムシリサイド層をエピタキシー法により形成させることを特徴とする請求項12〜14のうちのいずれか一項に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項16】
基板上においてSi原子と周期表9〜10族に属する金属原子とを反応させて金属シリサイド層を形成する工程と、
前記金属シリサイド層上においてBa原子とSi原子とを反応させてバリウムシリサイド層を形成する工程と、
前記バリウムシリサイド層の表面に、As原子、Sb原子、Bi原子およびN原子からなる群から選択される少なくとも1種の不純物原子とBa原子とSi原子とを反応させて不純物ドープバリウムシリサイド層を形成する工程と、
前記金属シリサイド層および前記基板のうちの少なくとも1つの上に下部電極を形成する工程と、
前記不純物ドープバリウムシリサイド層の表面に上部電極を形成する工程と、
を含むことを特徴とする太陽電池の製造方法。
【請求項17】
前記バリウムシリサイド層を形成する工程において、前記金属シリサイド層の表面にSi極薄層を形成した後、前記Si極薄層にBa原子を導入してBa原子とSi原子とを反応させることを特徴とする請求項16に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項18】
前記バリウムシリサイド層を形成する工程および前記不純物ドープバリウムシリサイド層を形成する工程のうちの少なくとも1つの工程において、さらにSr原子、Ca原子およびMg原子からなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ土類金属原子を反応させることを特徴とする請求項16または17に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項19】
前記バリウムシリサイド層をエピタキシー法により形成させることを特徴とする請求項16〜18のうちのいずれか一項に記載の太陽電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図6F】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−76895(P2009−76895A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−218688(P2008−218688)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、科学技術振興機構(文部科学省)委託研究(戦略的創造研究推進事業)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】