説明

半導体材料並びにそれを用いた光触媒体、光電極及び太陽電池

【課題】安価な材料を用いて光応答性、特に可視光応答性を有する材料を実現する。
【解決手段】ヘマタイト結晶相を含む酸化鉄の結晶中に窒素及び鉄以外の金属元素がドーピングされ、p型の半導体特性を示す半導体材料とする。鉄に対する窒素の原子数比(N/Fe換算)は0を超え0.05以下であり、かつ鉄に対する金属元素の原子数比(金属元素/Fe換算)は0を超え0.05以下とする。該半導体材料は、光電極、光触媒及び太陽電池を構成する材料として用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を照射することにより起電力又は光触媒作用を発生させることができる半導体材料並びにそれを用いた光触媒体、光電極及び太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛等の金属酸化物は紫外光を照射すると光励起により電子や正孔を生じ、強い還元力や酸化力を呈する光触媒体として作用することが知られている。このような光触媒体は、その作用を利用して有害物質の分解・浄化、脱臭、殺菌等に広く用いられている。
【0003】
また、酸化鉄(Fe23)に亜鉛(Zn)や銅(Cu)をドーピングすることによって、Pt電極に対して−0.25Vだけ負な電位を示し、波長600nm以下の可視光に応答性を有するp型半導体の性質を示すことが知られている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】W.B.Ingler Jr et al., "Photoresponse of p-Type Zinc-Doped Iron(III) Oxide Thin Films" J.AM.CHEM.SOC. 2004,126,10238-10239.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来技術では、酸化鉄(Fe23)をp型半導体とするために亜鉛(Zn)や銅(Cu)等の金属元素をドーピングしているが、p型としてさらに優れた半導体特性を発現させることが望まれている。また、安価な材料の組み合わせによって酸化鉄(Fe23)により優れたp型半導体特性を発現させることができれば、工業レベルの光触媒、太陽電池及び人工光合成を実現するうえで利点がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの態様は、ヘマタイト結晶相を含む酸化鉄の結晶中に鉄以外の金属元素と窒素がドーピングされ、p型の半導体特性を示すことを特徴とする半導体材料である。
【0007】
ここで、鉄に対する窒素の原子数比(N/Fe換算)が0を超え0.05以下であり、かつ鉄に対する前記金属元素の原子数比(金属元素/Fe換算)が0を超え0.05以下であることが好適である。
【0008】
また、上記半導体材料の表面に金属助触媒を坦持させることが好適である。また、上記半導体材料の表面に金属酸化物助触媒を坦持させることが好適である。また、上記半導体材料の表面に錯体助触媒を坦持させることが好適である。
【0009】
上記半導体材料は、光電極、光触媒体及び太陽電池を構成する材料として用いることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、安価な材料を用いて光応答性、特に可視光応答性を有する材料を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】比較例1に対する電圧−電流測定の結果を示す図である。
【図2】比較例2に対する電圧−電流測定の結果を示す図である。
【図3】比較例3に対する電圧−電流測定の結果を示す図である。
【図4】比較例4に対する電圧−電流測定の結果を示す図である。
【図5】実施例1に対する電圧−電流測定の結果を示す図である。
【図6】実施例4に対する電圧−電流測定の結果を示す図である。
【図7】実施例10に対する電圧−電流測定の結果を示す図である。
【図8】本実施の形態における光触媒作用の測定について説明する図である。
【図9】本発明の実施の形態における半導体材料の作用を説明する図である。
【図10】本発明の実施の形態における半導体材料の作用を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態における半導体材料は、ヘマタイト結晶相を含む酸化鉄に窒素(N)と共に、鉄(Fe)以外の金属元素をドーピングすることによって形成される。
【0013】
本実施の形態における半導体材料は、窒素含有ガスのプラズマ中において酸化鉄ターゲットをスパッタリングして基板上に半導体材料の膜を形成し、その膜を熱処理して結晶化させることによって得ることができる。
【0014】
1つの製造方法の例では、窒素(N2)とアルゴン(Ar)の混合ガスのプラズマを発生させ、酸化鉄及び酸化亜鉛(ZnO)のターゲットをスパッタリングして基板上に膜を形成する。また、別の製造方法の例では、窒素(N2)とアルゴン(Ar)の混合ガスのプラズマを発生させ、酸化鉄及び銅(Cu)のターゲットをスパッタリングして基板上に膜を形成する。このとき、これに限定されるものではないが、RFマグネトロンスパッタリングを適用することが好適である。
【0015】
酸化鉄,酸化亜鉛(ZnO)及び銅(Cu)のターゲットは、例えば、純度4N及び直径4インチとする。また、プラズマへの投入電力は、例えば、直径4インチのターゲットに対して、酸化鉄では600W、酸化亜鉛(ZnO)では70W以下、銅(Cu)では60W以下とする。
【0016】
窒素(N2)とアルゴン(Ar)の混合ガスは、例えば、窒素(N2)分圧で0より大きく30%以下とし、総流量50sccm及び圧力0.5Paとする。
【0017】
基板は、これに限定されるものではないが、ガラス基板、ガラス上に透明導電膜(ATO:Sb−SnO2等)を形成した基板等とすることができる。透明導電膜(ATO)は、例えば、100nmの膜厚で堆積させる。
【0018】
酸素(O2)を流す加熱炉において、基板上に形成された窒素(N)及び鉄(Fe)以外の金属元素をドーピングした酸化鉄をポスト加熱処理する。ポスト加熱処理は、450℃〜600℃の温度範囲で行うことが好適である。
【0019】
上記スパッタリング処理及びポスト加熱処理によって基板上にp型半導体特性を有する酸化鉄(Fe23:N+金属元素)が形成される。
【0020】
[実施例及び比較例]
以下、本発明の実施の形態における実施例及び比較例について説明する。まず、実施例及び比較例における試料の作成について説明した後、実施例及び比較例のそれぞれの特性について説明する。
【0021】
<実施例1>
スパッタリング製膜時の酸化鉄(Fe23)のターゲットに対する投入電力を600W、酸化亜鉛(ZnO)のターゲットに対する投入電力45Wの条件で、窒素(N2)とアルゴン(Ar)の混合ガスの流量比7.5/42.5(窒素流量比15%)において、亜鉛(Zn)と窒素(N)をともにドープした酸化鉄(Fe23)を200nmの膜厚で製膜した。これを酸素(O2)のフロー中において550℃で2時間熱処理した。
【0022】
<実施例2>
酸化亜鉛(ZnO)のターゲットに対する投入電力を50Wとした以外は実施例1と同様に亜鉛(Zn)と窒素(N)をともにドープした酸化鉄(Fe23)を製膜し、その後熱処理を施した。
【0023】
<実施例3>
窒素(N2)とアルゴン(Ar)の混合ガスの流量比10/40(窒素流量比20%)とした以外は実施例1と同様に亜鉛(Zn)と窒素(N)をともにドープした酸化鉄(Fe23)を製膜し、その後熱処理を施した。
【0024】
<実施例4>
酸化亜鉛(ZnO)のターゲットに対する投入電力を50Wとし、窒素(N2)とアルゴン(Ar)の混合ガスの流量比10/40(窒素流量比20%)とした以外は実施例1と同様に亜鉛(Zn)と窒素(N)をともにドープした酸化鉄(Fe23)を製膜し、その後熱処理を施した。
【0025】
<実施例5>
酸化亜鉛(ZnO)のターゲットに対する投入電力を55Wとし、窒素(N2)とアルゴン(Ar)の混合ガスの流量比10/40(窒素流量比20%)とした以外は実施例1と同様に亜鉛(Zn)と窒素(N)をともにドープした酸化鉄(Fe23)を製膜し、その後熱処理を施した。
【0026】
<実施例6>
酸化亜鉛(ZnO)の代りに銅(Cu)のターゲットとし、投入電力を45Wとした以外は実施例1と同様に酸化鉄(Fe23)を製膜し、その後、酸素(O2)のフロー中において500℃で2時間熱処理した。
【0027】
<実施例7>
銅(Cu)のターゲットに対する投入電力を50Wとした以外は実施例6と同様に銅(Cu)と窒素(N)をともにドープした酸化鉄(Fe23)を製膜し、その後熱処理を施した。
【0028】
<実施例8>
銅(Cu)のターゲットに対する投入電力を55Wとした以外は実施例6と同様に銅(Cu)と窒素(N)をともにドープした酸化鉄(Fe23)を製膜し、その後熱処理を施した。
【0029】
<実施例9>
銅(Cu)のターゲットに対する投入電力を50Wとし、窒素(N2)とアルゴン(Ar)の混合ガスの流量比10/40(窒素流量比20%)とした以外は実施例6と同様に銅(Cu)と窒素(N)をともにドープした酸化鉄(Fe23)を製膜し、その後熱処理を施した。
【0030】
<実施例10>
銅(Cu)のターゲットに対する投入電力を55Wとした以外は実施例9と同様に銅(Cu)と窒素(N)をともにドープした酸化鉄(Fe23)を製膜し、その後熱処理を施した。
【0031】
<実施例11>
銅(Cu)のターゲットに対する投入電力を50Wとし、窒素(N2)とアルゴン(Ar)の混合ガスの流量比12.5/37.5(窒素流量比25%)とした以外は実施例6と同様に銅(Cu)と窒素(N)をともにドープした酸化鉄(Fe23)を製膜し、その後熱処理を施した。
【0032】
<比較例1>
スパッタリング製膜時の酸化鉄(Fe23)のターゲットに対する投入電力を600W、酸化亜鉛(ZnO)及び銅(Cu)のターゲットに対する投入電力は0の条件で、窒素(N2)を含まないアルゴン(Ar)ガスの流量を50sccmとして、亜鉛(Zn)、銅(Cu)及び窒素(N)がドープされていない酸化鉄(Fe23)を200nmの膜厚で製膜した。これを酸素(O2)のフロー中において500℃で2時間熱処理した。以降、図中において比較例1についてN0%と示す。
【0033】
<比較例2>
スパッタリング製膜時の酸化鉄(Fe23)のターゲットに対する投入電力を600W、酸化亜鉛(ZnO)のターゲットに対する投入電力を35Wとし、窒素(N2)を含まないアルゴン(Ar)ガスの流量を50sccmとして、亜鉛(Zn)のみがドープされた酸化鉄(Fe23)を200nmの膜厚で製膜した。これを酸素(O2)のフロー中において500℃で2時間熱処理した。以降、図中において比較例2についてZnO−35Wと示す。
【0034】
<比較例3>
スパッタリング製膜時の酸化鉄(Fe23)のターゲットに対する投入電力を600W、酸化亜鉛(ZnO)及び銅(Cu)のターゲットに対する投入電力を0とし、窒素(N2)とアルゴン(Ar)の混合ガスの流量比10/40(窒素流量比20%)として、窒素(N)のみがドープされた酸化鉄(Fe23)を200nmの膜厚で製膜した。これを酸素(O2)のフロー中において500℃で2時間熱処理した。以降、図中において比較例3についてN20%と示す。
【0035】
<比較例4>
スパッタリング製膜時の酸化鉄(Fe23)のターゲットに対する投入電力を600W、銅(Cu)のターゲットに対する投入電力を50Wとし、窒素(N2)を含まないアルゴン(Ar)ガスの流量を50sccmとして、銅(Cu)のみがドープされた酸化鉄(Fe23)を200nmの膜厚で製膜した。これを酸素(O2)のフロー中において500℃で2時間熱処理した。以降、図中において比較例4についてCu−50Wと示す。
【0036】
[測定結果]
以下、上記実施例及び比較例の試料について各種測定を行った結果を示す。
【0037】
<X線回折測定>
実施例1〜11及び比較例1〜4の試料についてX線回折測定を行った。X線回折測定は、Cu(Kα)線を用いたθ−2θ法を適用した。
【0038】
いずれの試料もα―酸化鉄(Fe23:ヘマタイト)の(110)回折線と、非常に弱い(104)回折線を示した。また、亜鉛(Zn)、酸化亜鉛(ZnO)、銅(Cu)、酸化銅(Cu2O,CuO)、亜鉛(Zn)の窒化物及び銅(Cu)の窒化物に由来する回折線は観察されなかった。
【0039】
<光吸収特性>
実施例1〜11について紫外―可視光線領域における光吸収スペクトルを計測した。その結果、いずれの試料においても光の吸収端はすべて、ごくわずかに短波長側にシフトしている傾向を示すが、ドープなしのα―酸化鉄(Fe23:ヘマタイト)と同じく光の吸収端が波長600nm以下であった。このことから、バンドギャップは約2.1eVであることが明らかとなった。
【0040】
<光応答電圧−電流測定>
実施例1〜11及び比較例1〜4の試料について伝導特性を調べるために、作製した試料の光電気化学的な光応答電圧−電流測定を、ポテンショスタットを使用して測定した。ポテンショスタットを用いて濃度0.2モル(M)の硫酸カリウム(K2SO4)水溶液中で参照電極に対するバイアス電位を変化させながら光応答電圧−電流特性を測定した。参照電極には銀/塩化銀(Ag/AgCl)を、対電極には白金(Pt)を使用した。照射光源には500Wキセノンランプ(ウシオ電機製)を使用した。またキセノンランプの直接照射による紫外線+可視光線条件下の実験だけではなく、照射光を短波長カットフィルタ(シグマ光機製、型番42L)に透過させ、波長410nm以上(短波長側のカット率99.99%)の可視光のみの照射実験もあわせて実施した。
【0041】
図1〜図4に比較例1〜4の光電流プロファイル及び図5〜図7に実施例1,4及び10の光電流プロファイルを示す。硫酸カリウム(K2SO4)水溶液中に酸素(O2)ガスでバブリングを行った条件下で計測を行っており、主として溶存酸素に電子を渡す電流(O2+e-→O2-)を検出している。光照射は、キセノンランプ全波長域の光を、チョッパで連続的にオン/オフを繰り返して電位を挿引しながら電気化学測定を行った。測定された材料は、いずれもターゲットへの投入電力、スパッタ時の窒素(N2)分圧や熱処理温度は、それらの材料系で最も高い光電流を示すときの作製条件である。
【0042】
<比較例1>
比較例1(N0%と記載)では、光のオン/オフに応答しないカソード的(cathodic)電流が観察された。一方、それよりも正の電位においては、光のオン/オフに伴いスパイク状の電流とともに、オン時は正の電流が、オフ時には負の電流が生じたが、それらの成分を伴い光照射で正の電位側でアノード的(anodic)電流の生じるn型半導体であった。
【0043】
<比較例2>
比較例2(ZnO−35Wと記載)では、ドープなし酸化鉄(Fe23)の場合と同様に負の電位位置において光照射しない暗条件下においてもカソード的電流が生じた。ただし、その開始位置は、ドープなし酸化鉄(Fe23)の場合と比べてより負側にシフトしており、その値はおよそ−0.4V(対銀/塩化銀(Ag/AgCl))であった。光照射した場合、+0.9V(対銀/塩化銀(Ag/AgCl))付近から負の電位領域において、光照射に応答した負電流すなわちカソード的電流が流れ、また光照射時の電流はバイアス電位が負に大きくなるのに伴いそのカソード的電流値が大きくなる。このことから、本発明のように酸化鉄(Fe23)へ亜鉛(Zn)をドープすることによりp型半導体となり、光応答するカソード的電流が発現したと考えられる。このとき0.0V(対銀/塩化銀(Ag/AgCl))におけるカソード的電流の値は平均で−51.9μAであった。
【0044】
<比較例3>
比較例3(N20%と記載)では、その光電流挙動は亜鉛(Zn)をドープした酸化鉄(Fe23)と同様であった。光照射した場合、+0.9V(対銀/塩化銀(Ag/AgCl))付近から負の電位領域において、光照射に応答した負電流すなわちカソード的電流が流れ、また光照射時の電流はバイアス電位が負に大きくなるのに伴いそのカソード的電流の値が大きくなった。このことから、本発明のように酸化鉄(Fe23)に窒素(N)をドープすることによりp型半導体となり、光応答するカソード的電流が発現したと考えられる。このとき0.0V(対銀/塩化銀(Ag/AgCl))におけるカソード的電流の値は平均で−20.5μAであった。
【0045】
<比較例4>
比較例4(Cu−50Wと記載)では、その光電流挙動は亜鉛(Zn)ドープした酸化鉄(Fe23)と同様である。光照射しない暗条件下においてもカソード的電流が生じた。ただし、その開始位置は、亜鉛(Zn)をドープした酸化鉄(Fe23)あるいは窒素(N)をドープした酸化鉄(Fe23)の場合と比べてより正側にシフトしており、その値はおよそ−0.3V(対銀/塩化銀(Ag/AgCl))であった。光照射した場合、+0.6V(対銀/塩化銀(Ag/AgCl))付近から負の電位領域において、光照射に応答した負電流すなわちカソード的電流が流れ、また光照射時の電流はバイアス電位が負に大きくなるのに伴いそのカソード的電流の値が大きくなった。このことから、本発明のように酸化鉄(Fe23)へ銅(Cu)をドープすることによりp型半導体となり、光応答するカソード電流が発現したと考えられる。このとき、0.0V(対銀/塩化銀(Ag/AgCl))におけるカソード的電流の値は平均で−45.3μAであった。
【0046】
<実施例1,4及び10>
図5に実施例1、図6に実施例4及び図7に実施例10の光電圧−電流特性を示す。いずれも、負のバイアス電圧領域で負のカソード電流を示し、p型半導体であった。また、光照射しない暗条件下におけるカソード的電流の開始位置は、亜鉛(Zn)、銅(Cu)や窒素(N)を単独でドープした酸化鉄(Fe23)の場合と比べてより負側にシフトしており、その値はおよそ−0.7V(対銀/塩化銀(Ag/AgCl))であった。
【0047】
表1に、窒素(N)と亜鉛(Zn)をドープした酸化鉄(Fe23)の光電流を示す。実施例1〜5はすべて、比較例1〜3のドープなし、あるいは亜鉛(Zn)又は窒素(N)を単独でドープした酸化鉄(Fe23)よりも高い光カソード電流を示し、ヘマタイト結晶相を有する酸化鉄(Fe23)の結晶中に窒素(N)とともに亜鉛(Zn)がドーピングされることによるより優れたp型半導体特性が得られた。
【表1】

【0048】
表2に、窒素(N)と銅(Cu)をドープした酸化鉄(Fe23)の光電流を示す。実施例6〜11はすべて、比較例1,3,4のドープなし、あるいは窒素(N)又は銅(Cu)を単独でドープした酸化鉄(Fe23)よりも高い光カソード電流を示し、ヘマタイト結晶相を有する酸化鉄(Fe23)の結晶中に窒素(N)とともに銅(Cu)がドーピングされることによるより優れたp型半導体特性が得られた。
【表2】

【0049】
このように、亜鉛(Zn)又は銅(Cu)を窒素(N)とともに酸化鉄(Fe23)中にドープすることにより、亜鉛(Zn)、銅(Cu)又は窒素(N)を単独でドープする場合よりも大きな光電流が得られる。このときの亜鉛(Zn)および窒素(N)の組成比の例を表3に示す。
【表3】

【0050】
組成の測定は、p型半導体特性と判定された実施例の酸化鉄(Fe23)膜に対してX線光電子分光測定(XPS)による窒素(N)及び亜鉛(Zn)の含有量の測定を行った。装置は、ULVAC PHI社製「Quantera SXM」を、X線源にはAl Kαを使用した。また、試料表面の汚染の影響を避けるため、Arイオンで1分間、加速電圧3kVでエッチングしてから測定を行った。この結果、いずれのサンプルも399.5eV付近にピークを示し、また一部のサンプルでは403.5eV付近にもピークを示した。p型半導体に特徴的な光カソード電流を示す実施例のみ、396.5eV±0.5Vの位置にもピークを示した。これらのN1s殻スペクトルを計算によりピーク分離し、本発明のp型半導体となる実施例のみにおいて特徴的にみられる396.5eVピークの窒素(N)の組成比を算出した。また、亜鉛(Zn)については、1021.5eV付近のピークから組成比を算出した。
【0051】
比較例2である亜鉛(Zn)をドープした酸化鉄(Fe23)における亜鉛/鉄(Zn/Fe)比は0.131、また比較例3の窒素(N)をドープした酸化鉄(Fe23)における窒素/鉄(N/Fe)比は0.021であった。これに対して、光電流のより大きな実施例1における亜鉛/鉄(Zn/Fe)比および窒素/鉄(N/Fe)比は各々0.002及び0.013であった。また実施例4における亜鉛/鉄(Zn/Fe)比および窒素/鉄(N/Fe)比は各々0.003及び0.015であった。
【0052】
以上の結果から、本発明でドープされた亜鉛(Zn)と窒素(N)の量は、それぞれが単独でドープされ最適なp型特性を発現させる時のドープ量よりも少ない量でより高い光電流値を発現することが明らかである。窒素(N)ともに亜鉛(Zn)がドープされた場合、それらが相補してさらに高い光電流を発現するものと考えられる。このときのドープ量は亜鉛/鉄(Zn/Fe)比が0を超え0.050以下、かつ窒素/鉄(N/Fe)比が0を超え0.050以下が好ましい。より好ましくは亜鉛(Zn)のドープ量は亜鉛/鉄(Zn/Fe)比が0.001を超え0.010以下、かつ窒素/鉄(N/Fe)比が0.005を超え0.025以下である。この傾向は、窒素(N)とともに銅(Cu)がドープされた酸化鉄(Fe23)においても同様であった。
【0053】
これらの窒素(N)と亜鉛(Zn)又は窒素(N)と銅(Cu)を共にドープした酸化鉄(Fe23)10を図8に示すように酸素(O2)の代りにアルゴン(Ar)を硫酸カリウム(K2SO4)水溶液12中にバブリングした水素生成系反応に用いた場合、その表面に白金(Pt)助触媒を担持すると光電流が増大することから、水溶液中のプロトンを還元し水素を生成する速度が向上した。またその表面に[Ru(bpy)2(CO)22+や[Ru(C3−pyroyl−bpy)2(CO)2Cl2](ここでbpyはbipyridine)などの錯体触媒を担持すると、二酸化炭素(CO2)を光還元する能力が大きく向上した。
【0054】
なお、上述した熱処理温度のうち、本発明の対象となるp型半導体に特有の光カソード電流の値が最も大きくなる値は、窒素(N)と銅(Cu)を共にドープした酸化鉄(Fe23)では500℃、一方窒素(N)と亜鉛(Zn)を共にドープした酸化鉄(Fe23)では550℃であった。
【0055】
また、本発明において窒素(N)とともに酸化鉄にドープする金属の種類については、実施例に挙げた亜鉛(Zn)又は銅(Cu)に限られず、Fe3+に対してイオン価数の少ないニッケル(Ni)やマグネシウム(Mg)など、それらが単独でドーピングされても酸化鉄にp型特性を発現させる金属であればよい。また表面に担持する助触媒についても、上述された金属や錯体に限られず、反応を促進するものであればよい。
【0056】
[効果]
ヘマタイト結晶相を有する酸化鉄は、紫外線及び波長600nm以下の可視光を吸収して光励起電子を生じる。また、本発明のp型半導体は、伝導帯の最下部のポテンシャルが−0.6V(対NHE(標準水素電極電位))となり、通常のn型酸化鉄よりも約0.8Vだけ卑な電位位置(あるいは真空準位に近い位置)に存在することから、光励起された電子を他の物質に渡す能力が高い。従って、本発明の材料を光触媒として用いた場合には、物質を効率よく還元することができる。また本発明の材料を太陽電池のp型層として用いた場合には、解放電圧が大きくなる利点がある。
【0057】
[原理]
窒素(N)及び鉄以外の金属元素をドーピングすることによってヘマタイト構造を有する酸化鉄がp型半導体特性を向上させる理由については明確ではないが、これまで報告されている酸化物半導体へのドーピングによるp型半導体特性の発現の事例から以下のように推測される。
【0058】
図9に示すとおり、酸化鉄の価電子帯は酸素のO2p軌道などによって形成される。そのためドープした窒素(N)がN3-である場合には、酸素のO2p軌道などから形成される価電子帯の最上端部よりやや卑な位置(真空準位に近い位置)にアクセプタ準位を形成するためにp型半導体となる。ここに亜鉛(Zn)や銅(Cu)がZn2+やCu2+として共にドープされた場合、これらも窒素(N)と同様に酸化鉄をp型半導体にする効果があるため、その相乗効果があると考えられる。
【0059】
またこの結果、酸化鉄のバンドポテンシャルが全体に卑な電位方向にシフトする結果、図10に示すように伝導帯の最下部のポテンシャルECBMがn型の酸化鉄の場合の+0.2V(対NHE(標準水素電極電位))から、NHEに対して卑の位置である−0.7V(対NHE)にまでシフトする。従って、電気的なバイアス無しでも光照射のみによって光励起電子をプロトン(H+)に渡し、光触媒的な水素発生が可能となる。またその上、ポテンシャルECBMが−0.6V(対NHE)であることから、二酸化炭素(CO2)を還元するのに適した助触媒との組合せによって、二酸化炭素(CO2)へ電子を渡して多電子還元し有用物質に変換する能力を発揮できる。
【符号の説明】
【0060】
10 半導体材料(酸化鉄)、12 硫酸カリウム(K2SO4)水溶液。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘマタイト結晶相を含む酸化鉄の結晶中に窒素及び鉄以外の金属元素がドーピングされ、p型の半導体特性を示すことを特徴とする半導体材料。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体材料であって、
鉄に対する窒素の原子数比(N/Fe換算)が0を超え0.05以下であり、かつ鉄に対する前記金属元素の原子数比(金属元素/Fe換算)が0を超え0.05以下であることを特徴とする半導体材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の半導体材料の表面に金属助触媒を坦持させたことを特徴とする光触媒体。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の半導体材料の表面に金属酸化物助触媒を坦持させたことを特徴とする光触媒体。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の半導体材料の表面に錯体助触媒を坦持させたことを特徴とする光触媒体。
【請求項6】
請求項2に記載の半導体材料を含むことを特徴とする光電極。
【請求項7】
請求項2に記載の半導体材料を含むことを特徴とする光触媒体。
【請求項8】
請求項2に記載の半導体材料を含むことを特徴とする太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−250860(P2012−250860A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122317(P2011−122317)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】