説明

半導体検査装置用プローブピン及びその製造方法

【課題】導電性基材表面に導電性硬質皮膜を形成してなる半導体検査装置用プローブピンであって、プローブピンが金属端子部又ははんだと接触した際に、皮膜表面が摩耗しにくく耐久性に優れた半導体検査装置用プローブピンを提供することを目的とする。
【解決手段】導電性基材と、タングステン含有炭素皮膜とを含む半導体検査装置用プローブピンであって、前記タングステン含有炭素皮膜は、2θ−θモードでのX線回折分析において、角度2θで30°≦2θ≦50°の範囲において観測される回折ピークが、角度2θで37°≦2θ≦40°の範囲に1つだけ有することを特徴とする半導体検査装置用プローブピン。前記タングステン含有炭素皮膜におけるタングステンと炭素の原子数の総和に対するタングステンの原子数の割合が、40.0〜65.0原子%であることが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性基材とタングステン含有炭素皮膜とを含む半導体検査装置用プローブピン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体検査装置用プローブピンは、半導体検査において、プローブピンの相手側材料である金属端子部やはんだと繰り返し接触する。その際、プローブピンの膜表面が摩耗し、最終的には膜がなくなってしまい、安定して半導体検査ができなくなる場合がある。このため、膜の摩耗は、プローブピンとしての寿命を短くする原因となっているだけでなく、半導体の生産性を低下させる原因ともなっている。
【0003】
プローブピンの先端側の皮膜に着目した先行技術として、例えば、特許文献1では、導電性と耐アルミ凝着性の観点から、タングステン含有量を1重量%から50重量%(タングステン換算では0.06原子%から6原子%)とすることが開示されているが、皮膜の詳細な構造等については記載されていない。また、特許文献2では、基材の硬さをHRC40以上の鋼とすることでコンタクトプローブの寿命が延びることが開示されているが、表面の導電性皮膜については高寿命化の観点での記載はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−289874号公報
【特許文献2】特開平7−248337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
半導体検査装置用プローブピンを高寿命化する観点から、電気抵抗が低いことと、耐久性に優れている必要がある。しかしながら、これまでなされてきた提案では、満足のいくものは得られていない。
【0006】
特に、耐久性を向上させるためにはプローブピン表面の硬さを向上させて耐摩耗性を高める必要があるが、従来のプローブピンは表面の硬さが十分ではなかった。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、導電性基材表面に導電性硬質皮膜を形成してなる半導体検査装置用プローブピンであって、表面の硬さが向上した半導体検査装置用プローブピンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、半導体検査装置用プローブピン表面に形成した皮膜の表面性状と耐久性との関係について検討する過程において、導電性皮膜の性質が耐久性に与える影響に着目し、皮膜に使用する素材として特定の結晶構造を有するタングステン含有炭素を選択することにより硬さが向上することを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明の第一の主題は、導電性基材と、タングステン含有炭素皮膜とを含む半導体検査装置用プローブピンであって、前記タングステン含有炭素皮膜は、2θ−θモードでのX線回折分析において、角度2θで30°≦2θ≦50°の範囲において観測される回折ピークが、角度2θで37°≦2θ≦40°の範囲に1つであることを特徴とする半導体検査装置用プローブピンである。
【0010】
このような構成によれば、導電性基材表面に形成される導電性皮膜は、前記導電性皮膜の耐久性を著しく向上させることができ、これにより、半導体検査装置用プローブピンの不具合発生を低下させて高寿命化を図ることができ、プローブの交換頻度を下げることができる。
【0011】
前記前記タングステン含有炭素皮膜におけるタングステンと炭素の原子数の総和に対するタングステンの原子数の割合が、40.0〜65.0原子%であることが好適である。
【0012】
このような構成によれば、前記導電性皮膜の耐久性をさらに向上させることができる。
【0013】
前記半導体検査装置用プローブピンにおいて、前記皮膜の膜厚が、0.05〜3.00μmであることが好適である。
【0014】
このような構成によれば、表面の粗さをより小さくさせることができ、前記導電性皮膜の耐久性をさらに向上させることができる。
【0015】
半導体検査装置用プローブピンを製造する方法であって、前記タングステン含有炭素皮膜は、超硬合金ターゲットを用いて、アルゴンガス中でスパッタリングを行うことにより導電性基材上に形成されることが好適である。
【0016】
このような製造方法によれば、前記導電性皮膜の耐久性を向上させることができ、耐久性に優れたアモルファス状態のタングステン含有炭素皮膜を、半導体検査装置用コンタクトプローブピンの基材上に効果的にかつ容易に形成することができる。
【0017】
前記製造方法において、前記スパッタリングが、アンバランストマグネトロンスパッタリングであることが好適である。
【0018】
このような構成によれば、タングステン含有炭素皮膜の表面性状が、平滑なタングステン含有炭素皮膜を基材上に形成することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、半導体検査装置用プローブピンの導電性基材表面に形成した導電性皮膜は、プローブピンがはんだと接触した際に、プローブピンの皮膜の耐久性を著しく向上させることができる。これにより、半導体検査装置用プローブピンの不具合発生を低下させて高寿命化を図ることができ、プローブの交換頻度を下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態にかかる半導体検査装置用プローブピンの模式図である。
【図2】本実施形態にかかる導電性皮膜を、スパッタ法により、基板表面の上に形成するためのチャンバ内の構造を示す模式図である。
【図3】各々の製造方法によって成膜された導電性皮膜のX線解析図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[半導体検査装置用プローブピン]
本発明の第一の主題は、導電性基材と、タングステン含有炭素皮膜とを含む半導体検査装置用プローブピンである。
【0022】
以下、本発明を一実施の形態により、図面を参照して説明する。
【0023】
図1は、半導体検査装置用プローブピンの模式図である。プローブピン10は、導電性基材11とタングステン含有炭素皮膜12を含む。プローブピンの先端部は、基板21に接続させたはんだ20と接触させることによって、半導体素子の動作確認を行う。
【0024】
導電性基材11はタングステン含有炭素皮膜12で被覆されている。
【0025】
はんだ20は、公知のはんだ材料であれば特に限定はされないが、一般にBGA(ボールグリッドアレイ)構成のはんだ材料などが使用される。
【0026】
(導電性基材)
導電性基材の材質としては、特に限定はされないが、基材は硬さの高いものの方が好ましく、基材表面にめっきを施す場合にも硬質めっきであることが好ましい。一般に、該金属として、材質が硬くて弾力性のあるベリリウム銅などの銅合金、タングステン、レニウムタングステン、鋼などが使用される。また、基材の表面にはめっきが施されていてもよい。めっきとしては、例えば、クロム、コバルト、ニッケル、ロジウム、パラジウム、金などからなる群から選択される1種の純金属または2種以上の合金を含むものを使用することができる。
【0027】
なお、図1ではプローブピンの先端部を単純なポイント型としているが、先端の形状は検査対象に応じて、王冠型、三角錐型、円錐型などへ任意に適用することができ、特に制限されるものではない。
【0028】
(タングステン含有炭素皮膜)
タングステン含有炭素皮膜は、2θ−θモードでのX線回折分析において、角度2θで30°≦2θ≦50°の範囲において観測される回折ピークが、角度2θで37°≦2θ≦40°の範囲に1つだけ有する。この場合、特にタングステン含有炭素皮膜の硬度が向上する。
【0029】
例えば、タングステン含有炭素皮膜におけるタングステンと炭素の原子数の総和に対するタングステンの原子数の割合がほぼ同一のものであっても、2θが36°付近と40°付近に2つのピークが重なって現れた場合には、硬度は低下する。これは、2θが36°付近と40°付近のピークがそれぞれβ―タングステン層からの回折線であることが考えられ、アモルファス構造中に軟質なタングステン層が析出することで硬さが低下するものと考えられるからである。一方で、2θが37°から40°にブロードなピークが一つだけ見られる構造では、WC1−x層のアモルファスあるいは超微細結晶構造を示すことから、硬さが向上するものと考えられる。
【0030】
また、後述する超硬合金ターゲットを使用し、タングステン含有炭素皮膜におけるタングステンと炭素の原子数の総和に対するタングステンの原子数の割合が40.0〜65.0原子%となるようなタングステン含有炭素皮膜とすることで、十分な硬さを有し、電気抵抗がより小さいものが得られる。なお、タングステンの割合が10.0原子%以下の電気抵抗値が高く、検査装置として適用できない。また、タングステンの原子数の割合が10.0原子%より大きく40.0原子%未満の場合には、抵抗値は減少するが、十分ではなく、かつ皮膜の硬さも十分ではないために満足する耐摩耗性が得られない傾向がある。一方、タングステン組成を増加させると硬さは組成に従い向上する傾向があるが、タングステンの原子数の割合が65.0原子%より多い場合、硬度が低下する傾向にある。これは超硬合金構造中に硬さの低い純タングステンが析出しやすくなるためであると考えられる。
【0031】
ここで、従来の半導体検査装置用プローブピンは、半導体検査の際に半導体素子に接続された金属やはんだとの接触の繰り返しにおいて、該プローブピンの膜表面が摩耗していた。このことにより、最終的に皮膜がなくなってしまい、安定して検査ができなくなることから、高頻度においてプローブ自体を交換する必要があり、これが問題となっていた。
【0032】
これらの問題に鑑み、本発明者らが、プローブピンの交換頻度を下げる目的で、高耐久であり低電気抵抗に優れる皮膜の検討を行った。その結果、上述したタングステン含有炭素皮膜であれば、硬度の高い皮膜が得られ、その結果、従来技術に比べて交換頻度の低いプローブピンを得られることを見出した。
【0033】
タングステン含有炭素皮膜は、準安定相であるアモルファス構造が得られやすいという観点から、気相成膜方法を用いることが好ましい。また、気相成膜方法は、真空蒸着法、アークイオンプレーティング法、スパッタ法などの方法が挙げられる。これらの方法によって作製されたタングステン含有炭素は、幅広い組成域で表面平滑な皮膜を得ることができる。
【0034】
本発明にかかる半導体検査装置用プローブピンにおいて、被覆するタングステン含有炭素皮膜の膜厚は、プローブピンの形状、導電性基材の種類等によっても異なるが、0.05〜3.00μmであり、0.10〜2.50μmであることが好ましい。前記膜厚が3.00μmより大きい場合には、プローブピンの表面の粗さが増加したり、膜厚の均一性に劣ることがある。また、0.01μmより小さい場合には、皮膜が薄いために耐久性が低下することがある。
【0035】
タングステン含有炭素皮膜は、たとえば後述する方法によって成膜されるが、タングステンと炭素成分以外にも超硬合金に含まれるその他元素成分、スパッタガスであるアルゴン成分等が含まれる。タングステンと炭素成分の総量が90原子%以上である場合には、これら他元素の影響が少ないことから、タングステンと炭素成分のみからタングステン組成が求められる。その他の成分として成膜中の炭化水素ガス由来の水素成分があるが、本発明では水素含有量が膜質に寄与しないことから、除くことができる。組成の分析には簡便性の観点からSEM−EDXを用いることが好ましい。
【0036】
(中間層)
なお、タングステン含有炭素皮膜は、コンタクトプローブピンの基材との間に中間層を介して、基材上に形成されていてもよい。中間層は、タングステン含有炭素皮膜の基材表面への密着性を強化する役割を有する。中間層は、タングステンおよび炭素を含み、炭素に対するタングステンの原子数の割合が、基材表面からタングステン含有炭素皮膜に向かう厚み方向において減少する傾斜組成を有していてもよい。
【0037】
また、中間層は、クロム、チタン、タングステン、アルミニウム等の純金属からなる層であってもよいし、純金属からなる層と傾斜組成を有する層とを組み合わせたものであってもよい。中間層の厚さは5〜5000nmであることが好ましく、500〜3000nmであることがさらに好ましい。
【0038】
また、基材が軟質の場合には基材の塑性変形を防ぐ目的で基材よりも硬さの高い中間層をつけることが好ましく、この場合の中間層の厚さは500〜5000nm以上であれば良い。5000nm以下とすることにより、電気抵抗値が増大することを防ぐことができる。
【0039】
中間層をプローブピンの基材上に形成するための方法としては、スパッタリング法、特にアンバランストマグネトロンスパッタリング法を用いることが好ましい。その場合は、先に導電性基材上に中間層を形成し、その後に中間層の上にタングステン含有炭素皮膜を形成することができる。
【0040】
[製造方法]
本発明の第二の主題は、半導体検査装置用プローブピンの基材上にタングステン含有炭素皮膜を製造する方法であって、前記タングステン含有炭素皮膜は、ターゲットを用いて、アルゴンガス中あるいはアルゴンガスと炭化水素ガスの混合ガス中でスパッタリングを行うことにより基材上に形成されることを特徴とする半導体検査装置用プローブピンの製造方法である。
【0041】
前記スパッタリングは、例えば、図2に示すような成膜装置30で行うことができる。具体的には、まずガラス基板36をスパッタターゲットと平行に配置した基板ホルダー35に配置する。次に、真空チャンバ31内を排気した後、基板36表面に対し、所定の割合に調整したスパッタターゲット32を用いて被覆し成膜させる。基板ステージ35についてはスパッタターゲットと平行配置で固定したままでも良いし、回転(公転あるいは自転+公転)させながら成膜を行っても良い。
【0042】
また、本発明においては、スパッタターゲットとして超硬合金ターゲットを用いることが好ましい。超硬合金ターゲットについては1個だけで成膜しても良いし、生産性を向上させる観点から2個以上の超硬合金ターゲット(例えば、超硬合金ターゲット32と33)を用いて回転成膜(公転あるいは自公転)を行うことも可能である。かかる装置によって、タングステン含有炭素の被覆作業を行うことで、本発明のプローブピンを製造することができる。
【0043】
これらの手法の場合には、アルゴンガスと炭化水素ガスの混合ガスの量比を制御することでタングステン含有炭素皮膜のタングステン含有量を制御することが出来る。あるいは、超硬合金ターゲットのタングステン含有量を制御することでタングステン含有炭素皮膜のタングステン含有量を制御することができる。
【0044】
膜厚については、いずれの手法においても成膜時間やターゲットへの印加電力を制御することによって、任意の膜厚のタングステン含有炭素皮膜を形成できる。
【0045】
(ターゲット)
本発明にかかるスパッタリング法に用いるターゲットは、超硬合金ターゲットである。すなわち、超硬合金ターゲットを用いてスパッタリングを行うことにより、金属添加が容易に行え、かつ、所望の硬度を有する皮膜を形成させることができる。
【0046】
なお、タングステン含有炭素系皮膜の成膜方法として、固体炭素源を使用したスパッタ法が一般的であり、炭素ターゲット上に純タングステンチップを載せたり、純タングステンを埋め込んだりした複合ターゲットによる成膜が広く利用されているが、これら方法では高い硬さを有する皮膜が得られにくい。
【0047】
超硬合金ターゲットとしては、一般的な超硬合金を使用することができる。例えば、JIS H 5501−1996に規定された各種の超硬合金を使用することができる。特に、JIS H 5501−1996のG種およびD種は、Tiを実質的に含まず、アモルファスのタングステン含有炭素皮膜が好適に形成されるため、好ましい。なお、前記JIS H 5501−1996に規定された各種の超硬合金には、タングステン、コバルト、炭素以外のその他の元素を2原子%以下含有するものも含まれる。超硬合金ターゲットのターゲット含有量を制御することで、タングステン含有炭素皮膜のタングステン含有量を制御することも可能である。
【0048】
(プロセスガス)
本発明にかかるスパッタリング法においては、プロセスガスとして、アルゴンガスあるいはアルゴンガスと炭化水素ガスとの混合ガスを用いる。炭化水素ガスとしては、メタン、アセチレン、ベンゼン、トルエン等のガスを使用することが出来る。すなわち、アルゴンガスあるいはアルゴンガスと炭化水素ガスとの混合ガスを真空チャンバ内に導入して、所定の条件でスパッタリングを行うことにより、タングステン含有炭素皮膜を形成する。
【0049】
(スパッタリング)
本発明において、タングステン含有炭素皮膜は、超硬合金ターゲットを用いて、アルゴンガス中またはアルゴンガスと炭化水素の混合ガス中でスパッタリングを行うことにより、コンタクトプローブピンの基材上に形成される。
【0050】
スパッタリングとしては、タングステン含有炭素皮膜の表面性状を平滑にする観点からは、マグネトロンスパッタリングが好ましく、アンバランストマグネトロンスパッタリングがより好ましい。
【0051】
この方法によれば、プラズマ空間を基板付近まで広げることができるため、基材へArイオンを照射することが可能となる。Arイオンの照射によってArイオンの運動エネルギーは、基板へ到達したスパッタ粒子の熱エネルギー向上へ寄与する。スパッタ粒子の熱エネルギーが向上することで、基板上での粒子の移動が容易になり、膜が緻密化し平滑な膜が得られる。これらの効果をさらに増大させるために、基板へバイアスを印加することでArイオンのエネルギーを制御でき、硬度をさらに高めることができる。
【0052】
(タングステン含有炭素皮膜の形成)
本発明の製造方法を用いると、コンタクトプローブピンの基材上に硬度の高いタングステン含有炭素皮膜を付与させることができる。その結果、プローブピンの交換頻度を著しく下げることができる。
【実施例】
【0053】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0054】
(導電性皮膜の形成)
神戸製鋼社製アンバランストマグネトロンスパッタ(UBMS202)装置を用いて成膜を行った。
【0055】
成膜の種類としては、(A)炭素ターゲット上に純タングステンワイヤーを載せてワイヤーの数を調整し、アルゴンガス中で成膜することでタングステン含有量を制御した複合成膜、(B)タングステンターゲット(純度99.9%)を用いてアルゴンガスと炭化水素ガスの流量を調整することでタングステン含有量を調整した成膜、あるいは(C)超硬合金ターゲット(株式会社アライドマテリアル製;バインダーとしてコバルトを使用)を用いてアルゴンガスと炭化水素ガスの流量を調整することでタングステン含有量を調整する成膜、の3種を実施した。
【0056】
基板はターゲットと平行になるように設置した。基材はガラス基板を用いて実施した。
【0057】
基材を装置内に導入後1×10−3Pa以下に排気した後に成膜を実施した。プロセスガスはアルゴンガスと炭化水素ガス(CH)を用い、アルゴンガスと炭化水素ガスの混合ガス、あるいはアルゴンガスだけをチャンバー内に導入した。
【0058】
成膜時のガス圧は0.6Pa、成膜時の基板印加バイアスは−100Vで一定とした。成膜時の混合ガス比を変化させることで皮膜中のタングステン含有量を制御した。カーボン複合ターゲット、タングステンターゲットあるいは超硬合金ターゲットへの投入電力を2.0kWとし、膜厚は200nm程度で一定となるように成膜時間の調整を行った。
【0059】
表1に、上述の成膜方法(A)〜(C)によって各々異なるタングステン割合に成膜した試料(試料番号1〜10)について、下記に示す各試料のタングステン割合、比抵抗、硬さ、X線測定による測定結果を記した。
【0060】
なお、上記皮膜についてはタングステンと炭素成分以外の元素も検出されたが、タングステンと炭素の総量が90原子%以上であったため、タングステンとカーボンの2元素で100%となるように算出した値を用いた。
【0061】
(タングステン割合)
皮膜中のタングステン割合は、エネルギー分散型X線分析装置付き走査電子顕微鏡SEM−EDXによる分析によって求めた。
【0062】
(比抵抗の測定)
比抵抗の測定は、4探針法による電気抵抗測定により行った。
【0063】
なお、比抵抗の算出には、タングステン含有炭素皮膜の膜厚が必要である。この膜厚測定は、成膜前に基板上に修正液を塗布しておき、成膜後修正液を除去することで修正液塗布部の基材を露出させ、皮膜と基材の段差を測定して求めた膜厚を用いた。
【0064】
(硬さの測定)
硬さの測定にはAFM装置(SII社製SPI4000)へ組み込んだ、Hysitron社製ナノインデンター装置で測定を行った。測定荷重は100μNから2000μNまでの範囲で10点測定を行い、その平均値を求めた。
【0065】
(X線回折測定)
X線回折にはRigaku製RINT ULTIMA−PC装置を用いて2θ−θ測定を実施した。
【0066】
図1には組成が60.0原子%付近の製法が異なる膜のX線回折図形を示す。
【0067】
図1中の(a)は炭素ターゲット上に純タングステンワイヤーを載せて複合成膜を行ったものであり、(b)は純タングステンターゲットをメタンガス中で成膜したものであり、(c)は超硬合金ターゲットをアルゴンガスで成膜したものである。それぞれのタングステン含有量は(a)60.2原子%、(b)58.1原子%、(c)59.6原子%であった。図1の(a),(b)では2θが37°付近と41°付近に2つのピークが見られ、これらはβ―タングステン層からの回折線であることが考えられ、アモルファス構造中に軟質なタングステン層が析出しているものと考えられる。一方で、図1(c)では2θが39°付近に単一のブロードなピークが見られ、WC1−x構造のアモルファスあるいは微結晶に起因するピークであるものと考えられる。
【0068】
(結果)
結果を表1に示した。図1における(a),(b),(c)は、それぞれ表1の試料2,4,10に相当するものである。
【0069】
【表1】

【0070】
表1の結果から、全ての膜で比抵抗は1×10−3Ω・cm以下の値を示した。硬さについては、炭素ターゲット上にタングステンワイヤーをセットした複合成膜(A)によって得られた試料1,2や、タングステンを炭化水素ガス中で成膜した場合(B)によって得られた試料3〜5は、23GPa程度を上限としてそれ以上の硬度は達成できなかった。
【0071】
一方で、超硬合金ターゲットを使用して炭化水素ガスとアルゴンガスとの複合ガス中あるいはアルゴンガスのみで成膜した場合(C)によって得られた試料8〜10は、タングステン含有量が40原子%以上とすると、硬さは25GPaを超える値が得られた。特に、アルゴンガスのみで成膜した試料10は、硬さが30GPaを超える値を示した。
【0072】
また、X線回折結果から得られたピーク位置(ピーク位置についてはVoigt関数によるフィッティングを行い、2つのピークが重なっているものについてはピークフィッティングで分離した結果から求めた。)は、超硬合金ターゲットで成膜した場合以外は全て、図1の(a),(b)のように2つのピークが現れた。これら結果からも、硬さの低いタングステン層が析出することで硬度が低下することが示唆された。表1にはこのようにして得られたピーク位置を記載した。超硬合金成膜(C)ではいずれのタングステン組成でも単一のピークしか得られず、組成が40.0原子%以下のものではピーク位置が37°以下にシフトした。
【0073】
一方で、炭化水素ガス中のタングステンターゲットを用いて成膜した皮膜や、炭素ターゲット上にタングステンワイヤーを配置した複合ターゲットで成膜された皮膜では、すべての皮膜でピークは2つ現れた。特に、試料5の純タングステン膜では、ピークが2つ現れると共に硬さの低下が認められたことからも、タングステン相が析出したことで硬さが低下することが示唆された。
【符号の説明】
【0074】
10 プローブピン
11 導電性基材
12 タングステン含有炭素皮膜
20 はんだ
21 基板
30 成膜装置
31 真空チャンバ
32 スパッタターゲット
33 スパッタターゲット
34 基材ステージ
35 基材ホルダー
36 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基材と、タングステン含有炭素皮膜とを含む半導体検査装置用プローブピンであって、
前記タングステン含有炭素皮膜は、2θ−θモードでのX線回折分析において、角度2θで30°≦2θ≦50°の範囲において観測される回折ピークが、角度2θで37°≦2θ≦40°の範囲に1つであることを特徴とする半導体検査装置用プローブピン。
【請求項2】
前記タングステン含有炭素皮膜におけるタングステンと炭素の原子数の総和に対するタングステンの原子数の割合が、40.0〜65.0原子%であることを特徴とする請求項1に記載の半導体検査装置用プローブピン。
【請求項3】
前記タングステン含有炭素皮膜の膜厚が、0.05〜3.00μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体検査装置用プローブピン。
【請求項4】
請求項1に記載の半導体検査装置用プローブピンを製造する方法であって、
前記タングステン含有炭素皮膜は、超硬合金ターゲットを用いて、アルゴンガス中又はアルゴンガスと炭化水素ガスの混合ガス中でスパッタリングを行うことにより導電性基材上に形成されることを特徴とする半導体検査装置用プローブピンの製造方法。
【請求項5】
前記スパッタリングが、アンバランストマグネトロンスパッタリングである請求項4に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−247287(P2012−247287A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118793(P2011−118793)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】