説明

半導体歪センサー

【課題】 半導体歪ゲージを用いた半導体歪センサーにおいて、特性が長期間安定し、歪
センサーチップと熱膨張率が異なる測定対象物に取り付けた場合でも、熱膨張差に起因す
る熱歪の影響を小さくして、高精度の歪測定を可能にする。
【解決手段】 歪センサーチップをベース板に接合し、ベース板の歪センサーチップを挟
んだ両側2箇所の接続エリアでベース板を測定対象物に接続する。歪センサーチップの歪
検出部はp型シリコンの<110>方向、およびそれに垂直な方向を電流方向とするピエ
ゾ抵抗素子でブリッジ回路を構成し、<110>方向を、前記2箇所の接続エリアを結ぶ
方向(X方向)と一致させる。歪センサーチップとベース板の熱膨張差による熱歪をブリ
ッジ回路でキャンセルでき、ベース板に選択的に伝えられるX方向の歪に対して高い感度
で検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の歪や応力の測定に用いられる歪センサーで、特に半導体歪ゲージを
用いた半導体歪センサーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
構造物の歪や応力の計測には、ストレインゲージと称される歪ゲージが多く用いられて
いる。歪ゲージは、Cu−Ni系合金やNi−Cr系合金の金属薄膜の配線パターンを、
可撓性のあるポリイミドやエポキシ樹脂フィルムで覆った構造であり、歪ゲージを被測定
物に接着剤で接着して使用する。金属薄膜が歪を受けて変形した時の抵抗変化から、歪量
を算出することができる。
【0003】
検知部を金属薄膜ではなく、シリコンなどの半導体に不純物をドープして形成した半導
体ピエゾ抵抗を利用した半導体歪ゲージがある。半導体歪ゲージは、歪に対する抵抗変化
率が金属薄膜を用いた歪ゲージの数10倍と大きく、微小な歪を測定することが可能であ
る。また、金属薄膜の歪ゲージでは、抵抗変化が小さいため得られる電気信号を増幅する
必要があり、そのため外部のアンプが必要となる。半導体歪ゲージは抵抗変化が大きいた
め、得られた電気信号を外部のアンプを用いずに使用することもでき、また半導体歪ゲー
ジのチップにアンプ回路を作りこむことも可能であるため、歪センサーの用途や使用上の
利便性が大きく広がると期待される。本明細書では、歪センサーと歪ゲージを同義に使用
している。
【0004】
半導体歪ゲージは、従来の半導体製造技術を用いてシリコンウエハー上に不純物ドープ
や配線を形成した後、チップ化することで得られる。このチップ(以下歪センサーチップ
と呼ぶ)に測定対象物の歪が正しく伝わることが重要であり、歪センサーチップのモジュ
ール化と測定対象物への取り付けがポイントとなる。
【0005】
特許文献1には、半導体歪ゲージを実用的なモジュールにした構造が開示されている。
図19a)に、半導体歪ゲージの斜視図を示す。シリコンウエハー表面に半導体歪ゲージ
を形成した後、シリコンウエハーを数μmの厚さまでエッチングした後、チップ化し歪セ
ンサーチップ52を得る。配線53を形成しポリイミドフィルム54で挟んで半導体歪ゲ
ージ51を得ている。歪センサーチップ52と配線53をモジュール化しているので、従
来の歪ゲージのように半導体歪ゲージを扱えるものである。
【0006】
特許文献2には、歪センサーチップ52をガラス製の台座57に低融点ガラス58を用
いて接合した歪検出センサー56が開示されている。図19b)に、歪検出センサーの側
面図を示す。ガラス製の台座を測定対象物にボルト止めなどで固定する。歪センサーチッ
プ52とガラス製台座57間とガラス製台座57間と測定対象物間には、樹脂接着剤がな
いため、接着樹脂と歪検出センサー間の熱膨張係数の違いによって発生する温度ドリフト
を抑えることができる。
【0007】
【特許文献1】特開2001−264188号 公報
【特許文献2】特開2001−272287号 公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の半導体歪ゲージは、従来の金属薄膜を用いた歪ゲージと同様、樹脂接着剤
を用いて測定対象物に貼り付けて使用することができる。樹脂接着剤を用いるため、樹脂
接着剤が変質や劣化すると感度やゼロ点が変化し易くなる問題があった。これは、長期間
使用する時には特性の安定性の点で課題となるものである。高感度な半導体歪ゲージを用
いているので、特性変化の影響はより顕著に現れることになる。
【0009】
特許文献2の歪検出センサー56は樹脂接着剤を用いないため、特許文献1に比べれば
長期的安定性は良いと考えられる。しかし、測定対象物の材質によっては、温度変化に対
する熱歪が課題になる。図20に示すように、特許文献2の歪検出センサーをボルト24
で測定対象物6に取り付けた構造を考える。歪センサーチップとガラス製の台座は比較的
熱膨張係数の差が小さく、熱歪は小さいと考えられるが、測定対象物が例えばステンレス
やアルミのような金属の場合、測定対象物と台座との熱膨張差により台座に歪が加わり、
測定目的の歪と分離しにくい。符合59は歪検出部である。
【0010】
本願発明の目的は、高感度な半導体歪ゲージを用いた歪センサーで、特性が長期間安定
し、かつ歪センサーチップと熱膨張差が異なる測定対象物に対しても、熱歪の影響を小さ
くすることのできる半導体歪センサーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明の半導体歪センサーは、半導体基板にピエゾ抵抗素子を形成した歪センサーチ
ップと、ベース板と、前記歪センサーチップの電極から外部に配線を引き出す配線部とを
有し、歪センサーチップ裏面とベース板表面は歪センサーチップ接続部で接合され、歪セ
ンサーチップの側方に張り出したベース板に、測定対象物と固着する少なくとも2つ以上
の接続エリアを有する半導体歪センサーであって、前記歪センサーチップの歪検出部は、
複数のピエゾ抵抗素子を組み合わせたブリッジ回路で構成され、ピエゾ抵抗素子は、シリ
コンの<110>方向、およびそれに垂直な方向が電流方向となるように配置されたp型
拡散抵抗であることが好ましい。
【0012】
p型シリコンでは<110>方向とそれに垂直な方向は同じピエゾ抵抗係数を有するの
で、これらでブリッジ回路を構成することで、歪センサーチップに等方的に加わる歪に対
しては、全てのピエゾ抵抗素子の抵抗変化が同じになり出力は変化しない。そのため、歪
センサーチップとベース板の熱膨張差による熱歪はキャンセルすることができ、接続エリ
アを介してベース板に伝わる測定対象物の歪のみを検出することができる。
【0013】
本願発明の半導体歪センサーの接続エリアは、歪センサーチップを挟んで両側に配置さ
れる第1接続エリアと第2接続エリアを含み、第1接続エリアと第2接続エリアを結ぶ方
向が、歪センサーチップの前記<110>方向と略一致していることが好ましい。
【0014】
歪センサーチップを挟んだ第1接続エリアと第2接続エリアで測定対象物に接続するこ
とにより、測定対象物に発生した歪は、第1接続エリアと第2接続エリアをつなぐ方向(
以降、X方向と称す)の歪がベース板に伝わり、それと垂直な方向(以降、Y方向と称す
)の歪はベース板に伝わり難くなるので、測定したい方向の歪を選択的に取り出すことが
できる。そのとき、歪センサーチップの前記<110>方向をX方向に合わせることで、
X方向の歪に対して感度を高くすることができる。逆に、<110>方向と45度の方向
(<100>方向)をX方向に合わせた場合は、X方向の歪に対してピエゾ抵抗素子の抵
抗変化が全て同じになってしまうため、X方向の歪に対する感度が得られなくなる。
【0015】
本願発明の半導体歪センサーの接続エリアは、第1の方向(X方向)に歪センサーチッ
プを挟んで両側に配置される第1接続エリアおよび第2接続エリアと、第1の方向と垂直
な第2の方向(Y方向)に歪センサーチップを挟んで両側に配置される第3接続エリアお
よび第4接続エリアを含むことが好ましい。
【0016】
第1から第4の接続エリアで測定対象物と接続することで、測定対象物の歪はほぼその
ままベース板に伝えられる。測定したい方向の歪を選択的に取り出すことはできないが、
測定対象物とベース板の熱膨張差により発生する熱歪もベース板に等方的に発生するので
、歪センサーチップのブリッジ回路によりキャンセルすることができる。
【0017】
本願発明の半導体歪センサーのベース板は、測定対象物と同じ材質、あるいは熱膨張係
数が略一致する材質であることが好ましい。
【0018】
第1および第2の接続エリアで測定対象物に接続し、X方向の歪を選択的に取り出して
測定する場合に、測定対象物とベース板の熱膨張差が大きいと、温度変化に対して熱歪が
発生する。この熱歪もX方向の歪が選択的に伝わるため、測定したい歪との分離が難しい
。測定対象物とベース板を同じ材質、または熱膨張係数の近い材質とすることで、温度変
化に対しても測定対象物とベース板の間で熱歪の発生を無くすか小さくすることができる
ので、熱歪に影響されず測定したい歪を検出できる。測定対象物が例えばステンレスやア
ルミのような金属の場合、シリコン製の歪センサーチップとは熱膨張係数が異なる。ベー
ス板も測定対象物と同じ金属で構成することで測定対象物との熱歪の発生を無くす事で、
ベース板と歪センサーチップとの間は熱歪が等方的に伝わるので、ブリッジ回路でキャン
セルすることができる。
【0019】
第1から第4の接続エリアで測定対象物に接続した場合は、測定対象物とベース板の間
の熱歪は等方的にベース板に伝わるが、接続の仕方によっては伝わり方に斑が発生するこ
とも考えられる。一方、歪センサーチップとベース板の間は、歪センサーチップの裏面を
全体的にベース板に接続できるので、歪の伝わり方に斑が発生し難い。ベース板の材質を
測定対象物に合わせて、熱歪はベース板と歪センサーチップとの間で発生させるようにす
ることで、熱歪の影響をキャンセルし易くできる。
【0020】
また、本願発明の半導体歪センサーのベース板は、歪センサーチップ接続面の裏面に、
接続エリアと歪センサーチップ接続部との間を分断するように溝が形成されていることが
好ましい。
【0021】
ベース板に歪センサーチップを接続した構造を断面で見ると、歪センサーチップ接続部
ではベース板の表裏の剛性が偏るため、図21に示すように例えばベース板が接続エリア
を介して引っ張られたとき、歪センサーチップ接続部に面外方向の曲げ変形が発生しやす
く、曲げの影響による歪が混在して測定に影響を与えやすい。ベース板裏面に上記の溝を
形成することにより、溝で挟まれた部分が突出した構造となり、この突出部が歪センサー
チップの裏面にあることで、断面構造が表裏対称に近くなる。そうして表裏の剛性バラン
スを改善できるので、歪センサーチップの曲げの影響を小さくできる。
【0022】
本願発明の半導体歪センサーの歪センサーチップ裏面とベース板表面は、金属はんだを
用いて接合されていることが好ましい。
【0023】
歪センサーチップは金属製のベース板に金属材料を用いて接合されるため、歪センサー
チップで発生した熱はセンサーチップ裏面を伝わりベース板に熱伝導し易くなる。また、
金属性のベース板は歪センサーチップより平面の面積も大きいため、熱の放散が効率良く
行われる。熱放散が良いので、歪センサーチップの温度上昇を防ぐことができるとともに
、ベース板と歪センサーチップの温度を均一に保ち易い。半導体歪センサーの温度を均一
化できることで、温度変化によるピエゾ抵抗係数の変化や、センサーチップとベース板と
の温度不均一による熱変形でピエゾ抵抗素子に加わる応力が変化するなどして起こる特性
変化を抑えることができる。また、歪センサーチップとベース板間は金属接合を用いてい
るので、クリープや劣化、変質を起こし難く特性の長期的安定性に優れている。
【0024】
歪センサーチップが測定対象物と接するベース板まで導電性の材料で構成しているため
、電気的ノイズに強い特徴もある。歪センサーチップと測定対象物の間に絶縁性の材料が
介在していると、測定対象物に電流が流れるなどして電位が変動した時に、歪センサーチ
ップの各部位と測定対象物との間に寄生容量を持つ。寄生容量が発生すると電位も変動し
てノイズが発生し易くなる。本願発明の半導体歪センサーでは、歪センサーチップのグラ
ンドを歪センサーチップ裏面を通して測定対象物に電気的に接続できるので、センサーチ
ップのグランドが測定対象物の電位と一致して揺らぐため、ノイズが発生し難くできる。
【0025】
本願発明の半導体歪センサーの配線部は、ベース板上に樹脂接着されたフレキシブル配
線板と、フレキシブル配線板の配線と歪センサーチップの電極の間を電気的に接続する金
属ワイヤーと、少なくとも歪センサーチップの電極と金属ワイヤーを覆う樹脂で構成され
ていることが好ましい。
【0026】
フレキシブル配線板と歪センサーチップ間は、被覆されていない金属ワイヤーを、超音
波溶接や半田付けすることで、導通を得ることができる。金属ワイヤーはФ10μmから
Ф200μm径の裸金線を用いることができる。金属ワイヤーとその接続部や電極を樹脂
で覆う事で、電気的な絶縁や外気からの絶縁を確保することができる。配線部だけでなく
歪センサーチップも樹脂で覆っても良いものである。フレキシブル配線板とそれを接着す
る接着剤の剛性が大きいと、フレキシブル配線板や接着剤のクリープや劣化、変質が半導
体歪センサー全体の剛性に影響する危険性がある。出来得る限りフレキシブル配線板や接
着剤の弾性率を小さくし体積も小さくすることが好ましい。
【0027】
本願発明の半導体歪センサーの配線部は、フレキシブル配線板の配線の一部が、歪セン
サーチップの電極に設けられた金属バンプに直接接続していることが好ましい。
【0028】
歪センサーチップの電極に金属バンプを設けることで、フレキシブル配線板を直接歪セ
ンサーチップの表面に接続でき、フレキシブル配線板をベース板に接着する必要がない。
そのため、歪センサーチップ側方に配する接続エリアの設計自由度を上げることができる
。フレキシブル配線板は出来得る限り薄くして、半導体歪センサーの剛性に影響与えない
ようにすることが好ましい。
【0029】
本願発明の半導体歪センサーの配線部は、ベース板上に絶縁膜を介して形成されたベー
ス板電極と、ベース板電極と歪センサーチップの電極の間を電気的に接続する金属ワイヤ
ーと、少なくともベース板電極と金属ワイヤー、歪センサーチップの電極を覆う樹脂で構
成されていることが好ましい。
【0030】
電極を有するベース板を用いることで、フレキシブル配線板を無くすことができる。ベ
ース板電極と歪センサーチップの電極間を金属ワイヤーで接続し、ベース板電極に被覆ワ
イヤーをはんだ付けすることで、歪センサーチップの電気信号をチップの外部に取り出す
ことができる。金属ワイヤーとその接続部や電極を樹脂で覆う事で、電気的な絶縁や外気
からの絶縁を確保することができる。
【0031】
本願発明の半導体歪センサーは、半導体歪センサーのベース板の裏面と測定対象部材が
対向し、半導体歪センサーはベース板の接続エリアの少なくとも一部の領域が測定対象部
材に固着されるように取り付けられることが好ましい。
【0032】
ベース板の接続エリアの少なくとも一部の領域が測定対象部材に固着されていることが
必要である。測定対象物に歪が発生すると、それに伴う力は固着部を介してベース板に伝
わるので、固着部の面積が小さいと、固着部に力が集中して塑性変形する危険性がある。
測定したい歪範囲で固着部が塑性変形しないように固着部の面積を確保すれば、接続エリ
アの全域を固着する必要はない。勿論、接続エリア全域が測定対象部材と固着されていて
も構わない。接続エリア以外のベース板と測定対象部材は固着していなくとも良く、間隙
を有していても良いものである。歪センサーチップから発生する熱を効率良く放散させる
には、間隙を持たず密接していることが好ましい。
【0033】
本願発明の半導体歪センサーの各接続エリアは、少なくとも一ヶ所以上の溶接部で固着
されるように取り付けられることが好ましい。
【0034】
溶接は、レーザー溶接や抵抗スポット溶接を用いることができる。測定対象部材が溶接
できるものに限られるが、溶接部にはクリープや劣化、変質が起こり難いため、長期的安
定性に優れる。溶接は接続エリアの材質と測定対象部の材質のみで行うこともできるが、
接続エリアと測定対象部の間にろう材のような金属を介することもできる。ハンディタイ
プのスポット溶接機を用いれば、既設の装置や構造物に対しても、本願発明の半導体歪セ
ンサーを容易に現場で取り付けることができる。また、取り付け時に歪センサーチップに
直接力を加えることがないので、歪センサーチップを破壊したり、不必要な歪を与えて歪
センサーチップ特性を変化させたりする危険性を低くすることができる。
【0035】
本願発明の半導体歪センサーの各接続エリアは、少なくとも一ヶ所以上のねじ部で固着
されるように取り付けられることが好ましい。
【0036】
測定対象物にネジ穴を形成する必要があるが、溶接ができない材質の測定対象物にも容
易に本願発明の半導体歪センサーを取り付けることができる。また、半導体歪センサーの
取り付けに、レーザー溶接機やスポット溶接機などの装置を必要としないため、狭い場所
や高い場所等での取り付けが容易となる。
【0037】
本願発明の半導体歪センサーの歪センサーチップのピエゾ抵抗素子は、シリコンの<1
00>方向、およびそれに垂直な方向が電流方向となるように配置されたn型拡散抵抗で
あることが好ましい。
【0038】
前述した<110>方向のp型拡散抵抗で構成した場合と同様に、歪センサーチップと
ベース板の熱膨張差による熱歪はキャンセルされ、接続エリアを介してベース板に伝わる
測定対象物の歪のみを検出することができる。また、前記<100>方向のn型拡散抵抗
を用いた歪センサーチップにおいては、ベース板を第1接続エリアと第2接続エリアで接
続した場合に、第1接続エリアと第2接続エリアを結ぶ方向(X方向)が、歪センサーチ
ップの前記<100>方向と略一致するように設置することで、X方向の感度を高くする
ことができる。
【0039】
本願発明の半導体歪センサーの歪センサーチップは、シリコンの<110>方向、およ
びそれに垂直な方向が電流方向となるように配置されたp型拡散抵抗のピエゾ抵抗素子で
構成される第1ブリッジ回路と、シリコンの<100>方向、およびそれに垂直な方向が
電流方向となるように配置されたn型拡散抵抗のピエゾ抵抗素子で構成される第2ブリッ
ジ回路とを有することが好ましい。
【0040】
第1ブリッジ回路は<110>方向に感度が高くて<100>方向には感度を持たず、
第2ブリッジ回路は<100>方向に感度が高くて<110>方向に感度を持たないため
、<110>方向の歪を第1ブリッジ回路で、<100>方向の歪を第2ブリッジ回路で
分離して同時に測定することができる。例えば回転軸を測定対象物とし、本構成の歪セン
サーチップを有する半導体歪センサーを、歪センサーチップの<110>方向を回転軸の
軸方向に合わせて接続することで、回転軸にかかる軸力とトルクを同時に測定することが
できる。
【0041】
本願発明の半導体歪センサーの歪センサーチップのピエゾ抵抗素子は、シリコンの<1
00>方向が電流方向となるように配置されたn型拡散抵抗およびp型拡散抵抗であるこ
とが好ましい。
【0042】
<100>方向のp型拡散抵抗は<100>方向のn型拡散抵抗に比べてピエゾ抵抗係
数が非常に小さいため、歪を検出したい方向(X方向)に<110>を合わせるように接
続することで、ブリッジ回路から電位差出力として感度が得られる。<100>とその垂
直方向のn型拡散抵抗で構成した場合と比べて、p型拡散抵抗の感度が小さいためX方向
に対する感度は低下するが、Y方向の歪がベース板に部分的に伝わってしまった場合でも
、p型拡散抵抗はY方向に対する感度も小さいのでY方向歪の影響によるノイズを小さく
することができる。
【発明の効果】
【0043】
高感度な半導体歪ゲージを用いた歪センサーで、測定対象物が歪センサーチップと熱膨
張係数が異なる材質でも、温度変化に対する熱歪の影響を小さくして、測定したい歪を正
しく検出できる半導体歪センサーを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0044】
以下本発明を図面を参照しながら実施例に基づいて詳細に説明する。説明を判り易くす
るため、同一の部品、部位には同じ符号を用いている。
【実施例1】
【0045】
本願発明の第一実施例の半導体歪センサーの構造および製作方法について、図1と図2
を用いて以下説明する。図1は第一実施例の歪センサーを測定対象物に取り付けた状態の
平面図で、図2は図1のk−k’断面図である。ピエゾ抵抗素子(図示せず)が形成され
た半導体歪ゲージとして機能するシリコン製の歪センサーチップ2を、金属製のベース板
3の略中央位置に金属接合材の金属はんだ4で固着した。ベース板3は図1のX方向に長
い長方形状とした。第1接続エリア11と第2接続エリア12の歪センサーチップ接続部
15側の溝30が形成される部位を、便宜上第1溝エリア31と第2溝エリア32と呼称
する。X方向には歪センサーチップ2側から見ると、第1接続エリア11、第1溝エリア
31、歪センサーチップ接続部15、第2溝エリア32、第2接続エリア12と並んでい
る。裏面から見ると、第1接続エリア11、溝30、突出部35、溝30、第2接続エリ
ア12と並んでいる。歪センサーチップ接続部15の表面に、歪センサーチップ2を金属
はんだ4で固着している。
【0046】
歪センサーチップ2に近い側の溝30の壁と歪センサーチップの側辺の位置を略一致さ
せているので、突出部のX方向の長さと歪センサーチップ接続部15のX方向の長さ、歪
センサーチップ2のX方向の長さは略同じ値である。概略の寸法は次の通りである。ベー
ス板3はY方向6mm、X方向14mmで、X方向の第1接続エリア11が5.75mm
で内第1溝エリア31が0.3mm、歪センサーチップ接続部15が2.5mm、第2接
続エリア12が5.75mmで内第2溝エリア32が0.3mmである。裏面の溝30は
0.3mm、突出部35が2.5mmである。溝30の深さtsは、0.13mmとした
。歪センサーチップ2は2.5mm角×0.16mm厚である。ベース板3はステンレス
製とし、厚みは0.3mmとした。
【0047】
歪センサーチップ2とベース板3の固着には金属はんだ接合を用いた。歪センサーチッ
プ2のベース板対向側面にTi−Pt−Auの3層メタライズをスパッターにより形成し
、その上にSn系の金属はんだ材料を蒸着により形成した。ベース板3の歪センサーチッ
プ対向側面にも、Ti−Pt−Auの3層メタライズをスパッターにより形成した。歪セ
ンサーチップ接続部15の略中央部に歪センサーチップ2を位置合わせした後、金属はん
だを加熱溶融してベース板3に歪センサーチップ2を固着した。ベース板側の3層メタラ
イズは歪センサーチップが固着される部位だけで良いが、マスクスパッター等の手間を省
くためベース板全面に形成してもよい。
【0048】
歪センサーチップ2の電極16からの配線引き出しには、フレキシブル配線板5を用い
た。フレキシブル配線板5の先端の配線が露出している面と反対の面を、ベース板上のセ
ンサーチップ接合部のY方向に隣接した位置にエポキシ系樹脂接着剤を用いて接着した。
フレキシブル配線板5の配線20と歪センサーチップの電極16間は、Ф20μmの裸A
uワイヤー17を超音波溶接で接続した。歪センサーチップの電極16とAuワイヤー1
7、フレキシブル配線板5の配線を覆うようにカバー樹脂18を塗布した。カバー樹脂1
8は熱硬化型樹脂を用いた。塗布する樹脂接着剤の弾性率が高い場合や、塗布厚を厚くせ
ざるを得ない場合は、樹脂による応力の不均一を無くすため、配線部だけではなく少なく
とも配線部の対称位置にも接着材を塗布することが良い。歪センサーチップ全体を覆う様
に樹脂を塗布することもできる。また、歪センサーのピエゾ抵抗素子は光の影響を受ける
ので、光の影響を抑制したいときには歪センサーチップ全体を有色の樹脂で覆うのが望ま
しい。
【0049】
ベース板3上に歪センサーチップ2を金属はんだ4で接合し、配線を行った半導体歪セ
ンサー1を測定対象物6に取り付けた。半導体歪センサー1を測定対象物6の所望の位置
に設置した後、第1接続エリア11と第2接続エリア12に、各10点のスポット溶接を
行い、半導体歪センサー1を測定対象物6に固着した。10点のスポット溶接は2列5行
で、溶接点19はY方向に5点等間隔で3点目の溶接点がベース板のY方向の中心線上に
なる様にしている。
【0050】
歪センサーチップ2の歪検出方法の詳細を図3の平面図を用いて説明する。歪センサー
チップ2には、4つのピエゾ抵抗素子7(図3中のR1〜R4)によりブリッジ回路が構
成されている。ピエゾ抵抗素子7は、(100)を表面とするシリコン基板上に不純物を
ドープしたp型拡散抵抗で構成されており、R1とR4は電流方向がシリコン結晶軸の<
110>方向になるように形成され、R2とR3はそれと垂直な方向になるように形成さ
れている。歪センサーチップ2に歪が加わると、応力によりピエゾ抵抗素子7の抵抗が変
化して、中点電位の差として歪に比例した電位差出力を出力1と出力2から取り出すこと
ができる。歪センサーチップ2にはアンプ回路8を作りこみ、センサー出力を増幅できる
ようにした。
【0051】
ブリッジ回路の出力感度は、概略以下のように計算できる。p型シリコン<110>方
向およびそれに垂直な方向のピエゾ抵抗素子は抵抗変化率であるピエゾ抵抗係数が等しく
、電流方向の応力に対する抵抗変化率を縦ピエゾ抵抗係数πl、電流方向と垂直な方向の
応力に対する抵抗変化率を横ピエゾ抵抗係数πtとする。歪センサーチップ2に発生する
応力がブリッジ回路形成領域で均一であるとして、X方向(<100>方向)応力をσx
、Y方向応力をσyとすると、各ピエゾ抵抗素子R1〜R4の抵抗変化率d1〜d4は下
記で計算される。式ではd1をd、σxをσの様に下付けで記載している。

ただし、剪断応力、およびZ方向応力の影響は小さいので無視した。
各ピエゾ抵抗素子の初期抵抗は均一にR0であるとして、ブリッジ回路の差動出力の電
圧変化率△V/Vcc(以降、感度と呼ぶ)は下記で示される。

(1) 式を(2)式に代入し、出力感度は次の(3)式となる。

【0052】
(3)式より、σx=σyのとき感度はゼロになることが分かる。すなわち、歪センサ
ーチップに加えられる等方的な歪に対しては出力が変化しない。このように、前記のブリ
ッジ回路を有する歪センサーチップをベース板に接合した本発明の半導体歪センサーでは
、歪センサーチップ2とベース板3で熱膨張率が異なる場合でも、熱膨張差に起因する熱
歪の影響をキャンセルすることができ、高精度の測定が可能となる。
【0053】
p型シリコンの<110>方向のピエゾ抵抗係数は、不純物ドープ濃度によっても異な
るが、例えばπl=7.18×10−5/MPa、πt=−6.63×10−5/MPa
という値が知られており、πlは正の値、πtは負の値である。(3)式より出力比は(
π−π)に比例するため、縦ピエゾ抵抗係数と横ピエゾ抵抗係数の絶対値の和になっ
ており、感度を高くできる。
【0054】
本実施例では、歪センサーチップ2をX方向に挟む第1接続エリア11と第2接続エリ
ア12で測定対象物6に接続しているため、測定対象物6のX方向の歪はそのままベース
板3に伝わるが、Y方向の歪は伝わり難いので、測定対象物6のX方向の歪を選択的に取
り出して検出することができる。このことから、測定対象物6の歪を検出したい方向にベ
ース板3のX方向を合わせるように取り付けるのが好ましい。
【0055】
X方向の歪を測定するため、歪センサーチップ2はX方向に感度が高いように取り付け
るのが好ましく、本実施例のように歪センサーチップ2の<110>方向をベース板3の
X方向に合わせることで実現できる。測定対象物6に歪が発生すると、ベース板3はX方
向にのみ力を受けるので、面外(Z方向)の曲げなどの影響がなければ、歪センサーチッ
プ2のY方向の応力はσy=0である。(3)式でσx−σy=σxとなり、σxに比例
した感度が得られる。歪センサーチップ2の向きをずらしていくと、ベース板3のX方向
にかかる力がσxとσyに分解されるためσx−σyは小さくなっていき、45度回転し
た<100>方向をベース板3のX方向に合わせて配置した場合にはσx−σy=0にな
ってしまうため感度が得られない。
【0056】
本実施例のベース板3の材質をステンレスとしているので、同じステンレス製の測定対
象物の測定に適している。温度が変化しても、測定対象物6とベース板3の間には熱膨張
差がないため熱歪の影響がない。測定対象物とベース板が異なる材質でも、熱膨張係数が
近い材質を選定する事で熱歪の影響が小さい測定が可能である。
【0057】
本願発明の第一実施例の半導体歪センサーは、ベース板3に溝30、30’を形成した
ため、半導体歪センサーの表裏の剛性バランスがよく、測定対象物6のXY平面方向の変
形に対して半導体歪センサー2が面外(Z方向)に曲げ変形してしまうのを防ぐことがで
きる。そのため、曲げ変形により発生する応力の影響を小さくでき、測定したい歪を正し
く測定できる。
【0058】
溝エリアで溝形成により薄くなったベース板の部分をリンク部37と呼称する。歪セン
サーチップ接続部15では、歪センサーチップが固着されている反対面側に突出部35が
配置されているので、リンク部37のZ方向中心線からみて上下の剛性バランスがとれて
いる。例えば、測定対象物6が引っ張られて歪が発生したとき、溶接点19を介してベー
ス板3に力が伝えられ、さらにリンク部37を介して歪センサーチップ接続部15に伝わ
る。本実施例の半導体歪センサー1では、歪センサーチップ接続部2のZ方向の剛性バラ
ンスがリンク部37に対して取れているので、リンク部37に伝えられたX方向の力に対
して歪センサーチップ接続部15がZ方向に曲げ変形するのを防ぐことができる。これに
より、曲げ変形によってベース板3と測定対象物6の接触状態が変化したりすることがな
く、測定対象物6の歪に対する歪センサーチップ2の歪の変換係数が一定な半導体歪セン
サーが実現できた。
【0059】
歪センサーチップ2に対して、ベース板裏面の突出部35で剛性バランスをとるには、
突出部の端部が歪センサーチップと一致していることが望ましいものである。歪センサー
チップに近い側の溝30の壁と歪センサーチップ2の側辺の位置を一致させて、金属はん
だ4で固着を行った。
【0060】
また、歪センサーチップ2とベース板の突出部35の剛性が等しいことが望ましいので
、ヤング率とZ方向厚さの積を概略一致させた。歪センサーチップ2のヤング率をEd、
厚さをtd、ベース板3のヤング率をEs、突出部35の高さ(溝30、31’の深さ)
をtsとした時、Ed×td=Es×tsとした。歪センサーチップ2はシリコンでEd
=169GPa、ベース板3はステンレスでEs=206GPaであるので、歪センサー
チップ厚さtd=0.16mm、ts=0.13mmとして、上記の関係をほぼ満たした

【0061】
なお、歪センサーチップ2の厚さがベース板3の厚さに比べて十分薄く、曲げ変形の影
響が問題にならない場合は、溝を形成しなくてもよい。
【0062】
本実施例の半導体歪センサー1は、測定対象物6への取り付けのし易さも充分考慮して
いる。歪測定の目的は様々であり、また測定対象物の形状や大きさも様々である。測定対
象物が狭い場所や高い場所にあったり、設置場所から移動できないものなどもある。直接
、歪センサーチップの裏面を測定対象物6に金属接合できれば金属製のベース板を設ける
必要はない。直接測定対象物に金属接合するには、測定対象物表面にメタライズ形成する
ことや、はんだ材料の加熱溶融が必要である。設置場所から移動できないような測定対象
物にメタライズ形成やはんだ材料の加熱溶融を行うのは非常に困難である。本願発明の半
導体歪センサーは、歪センサーチップが予めベース板に金属接合されており、フレキシブ
ル回路板配線も接続されたモジュールとなっている。本願発明の半導体歪センサーの接続
エリアを測定対象物に溶接するだけで、歪量の測定が可能となる。持ち運び可能なスポッ
ト抵抗溶接機も市販されているので、動かせない測定対象物に対しても、現場にスポット
抵抗溶接機を持ち込んで取り付けが可能である。また、スポット抵抗溶接に限らず、レー
ザー溶接やシーム溶接なども用いることができる。ベース板を介して測定対象物に歪セン
サーチップを取り付けるため、取り付け作業時に歪センサーチップを破損したり、不必要
な歪を与えて特性を変化させてしまう危険性を低くできた。
【0063】
接続エリアにおける溶接点19は、歪センサーチップ2になるべく近い位置とするほど
、力を受けるベース板3の領域を短くできるので、ベース板3が曲げ変形を起こし難くす
ることができる。一方で、測定対象物6のY方向の歪が歪センサーチップ2に伝わりやす
くなるので、Y方向の歪をなるべく伝えたくない場合には、溶接点をあまり近づけない方
がよい。
【0064】
図4は、本実施例のベース板を歪センサーチップが固着される面の反対面の斜視図であ
る。第1溝エリア31の溝30と第2溝エリア32の溝30は、ベース板30のY方向を
横断するように形成した。溝30の形成は化学エッチングで行った。金属の機械切削加工
やプレス加工、ドライエッチング等を用いて形成することもできる。
【0065】
図5に示すように、第1溝エリア31の溝30と第2溝エリア32の溝30をX方向に
つなぐ溝30’を形成することができる。溝30’の歪センサーチップに近い側の端部は
、歪センサーチップ2のY方向の側辺と一致するように形成した。歪センサーチップ接続
部で歪センサーチップからY方向に張り出したベース板の張出部27では、歪センサーチ
ップが無いため表裏の剛性バランスが取れないため、張出部27では曲げ変形が発生し易
い。溝30に直交する溝30’を形成することにより、張出部27の曲げ変形が歪センサ
ーチップに伝わり難くなるので、歪センサーチップ2の曲げ変形を起こし難くすることが
できた。
【0066】
歪センサーチップ2から測定対象物6までの積層間に樹脂接着剤などの有機材料が介在
した場合、歪がかかった状態で長時間経過すると有機材料がクリープを起こして、歪検出
のゼロ点が変化してしまう問題があった。更に、有機材料の劣化や変質により歪の伝達が
阻害され、歪検出感度が変化してしまう問題もあった。本実施例の半導体歪センサーでは
、歪センサーチップとベース板の固着に金属はんだを用い、ベース板と測定対象物の取り
付けに溶接を用いることで、有機材料に起因する前述のような特性変化を防止でき、セン
サー特性の長期安定性に優れた歪センサーが得られた。固着に用いた金属材料に於いても
微小なクリープが発生する可能性があるが、樹脂接着剤を用いた場合に比較して格段の差
が有るので、長期安定性に対しては充分な効果がある。製品において長期安定性をそれほ
ど必要としない場合は、歪センサーチップのベース板への固着に樹脂接着材を用いてもよ
い。金属はんだで固着する場合と比べて、メタライズが不要など工程を簡略化できる。
【0067】
本願発明の第一実施例の半導体歪センサーは、歪センサーチップ2が金属製のベース板
3に金属材料を用いて固着されているので、歪センサーチップ2で発生した熱はベース板
に伝導して放熱され易い。ピエゾ抵抗素子は電気抵抗が高いため発熱し易く、また歪セン
サーチップ内にアンプ回路を形成した場合にはアンプ回路からも発熱する。本実施例の半
導体歪センサーは、前述のようにベース板3に熱を伝導して放熱し易いので、歪センサー
チップ2の温度上昇を最小限に抑えることができるだけでなく、ベース板と歪センサーチ
ップの温度を均一に保ち易い。これにより、温度変化によるピエゾ抵抗係数の変化や、歪
センサーチップとベース板との温度不均一による熱変形でピエゾ抵抗素子の応力が変化す
るなどして起こる特性変化を抑えることができた。
【実施例2】
【0068】
本願発明の第二実施例の半導体歪センサーについて説明する。第一実施例と異なるのは
、測定対象物への取り付け方法である。図6は第二実施例の歪センサーを測定対象物に取
り付けた状態の平面図で、図7は図6のm―m’断面図である。ベース板3の第1接続エ
リア11と第2接続エリア12にボルト孔23を形成し、半導体歪センサー1を測定対象
物6にボルト24で固着した。測定対象物6にはボルト24用のねじ穴25を形成する必
要があるが、第一実施例の測定対象物は溶接ができる材料に限られていたが、本実施例で
はねじ穴が形成できれば溶接ができないセラミック等にも適用できるものである。逆に、
測定対象物にボルトを取り付けて、接続エリアのボルト孔23に通してナットで固着する
こともできる。
【実施例3】
【0069】
本願発明の第三実施例の半導体歪センサーについて説明する。配線引出し方法が第一実
施例と異なる。図8は、第三実施例の半導体歪センサーの平面図である。ベース板3上に
絶縁膜45を介してベース板電極46を形成した。ベース板電極46と歪センサーチップ
2の電極16間をAuワイヤー17で接続し、またベース板電極46に被服配線47の被
服を剥がした先端部をはんだ付けした。配線部を含め歪センサーチップ2を覆うようにカ
バー樹脂18を塗布した。樹脂による応力が大きい場合は、カバー樹脂の塗布を配線部の
み、もしくは配線部と配線部の対称位置とすることもできる。本実施例によれば、予めベ
ース板電極46を形成したベース板3を用いることで、フレキシブル配線板が不要になり
、フレキシブル配線板のベース板への接着など組立の工程が省ける。引出し配線数が少な
い場合に適した配線引き出し構造である。
【実施例4】
【0070】
本願発明の第四実施例の半導体歪センサーについて説明する。接続エリアの配置と配線
引き出し方法、溝が第一実施例と異なる。図9は半導体歪センサー2を測定対象物に取り
付けた状態の平面図で、図10は図9のn−n’断面図である。図9に示すように、X方
向にセンサーチップ接続部15を挟む第1接続エリア11と第2接続エリア12に加えて
、Y方向にセンサーチップ接続部15を挟む様に、第3接続エリア13と第4接続エリア
14を配置した。また、センサーチップ接続部15と各接続エリア間を分断するように溝
30,30’を形成した。第1接続エリア11から第4接続エリア14を、測定対象物に
スポット溶接を行い半導体歪センサー1を測定対象物6に固着した。測定対象物6のX方
向に加わる歪は第1接続エリア11と第2接続エリア12を介して歪センサーチップ2に
歪が伝達し、Y方向に加わる歪は第3接続エリア13と第4接続エリア14を介して歪セ
ンサーチップ2に歪が伝達する。すなわち、測定対象物の歪をそのままベース板6および
歪センサーチップ2に伝達することができるが、一方で、X方向の歪のみ選択的に伝達す
ることはできない。
【0071】
本実施例の半導体歪センサーにおいては、測定対象物6とベース板3の熱膨張率に差が
ある場合でも、熱膨張差による熱歪はベース板3に等方的に伝わるため、歪センサーチッ
プのブリッジ回路の効果により、熱歪をキャンセルすることができる。
【0072】
本実施例の半導体歪センサーにおいては、測定対象物の歪を測定したい方向に、歪セン
サーチップの<110>方向を合わせることが望ましい。本実施例のように、歪センサー
チップの<110>方向をベース板のX方向に合わせて接合した場合、ベース板のX方向
を測定したい方向に合わせて測定対象物に取り付ける。
【0073】
本実施例に用いたベース板を歪センサーチップの固着面の反対面側の斜視図を図11に
示す。ベース板3は略正方形とし、第1接続エリア11および第2接続エリア12と歪セ
ンサーチップ接続部15との間に溝30をY方向に横断するように形成した。Y方向の歪
検出に対応して第3接続エリア13および第4接続エリア14と歪センサーチップ接続部
15との間に溝30’をX方向に横断するように形成した。4本の溝の歪センサーチップ
に近い側の溝壁面で囲まれた突出部35の外形を、歪センサーチップ2の外形と同じとし
、突出部35の形成位置に合わせて歪センサーチップ2を反対面側に金属はんだで固着し
た。
【0074】
配線引き出し方法は、フレキシブル配線板5をベース板6上に接着剤22で貼り付けた
。本実施例のベース板6には、歪センサーチップ2の全周を取り囲むように第1接続エリ
ア11から第4接続エリア14が配置されているので、各接続エリアのスポット溶接に必
要な領域と、歪センサーチップ接続部15でベース板6が露出されるように、開口部を形
成した形状のフレキシブル配線板5を用いた。歪センサーチップの電極16とフレキシブ
ル配線基板の配線20をAuワイヤー17で接続し、配線20は溶接点19の隙間から外
部に引き出され、フレキシブル配線板の電極パッド21に接続する。電極パッド21に被
服配線をはんだ付けするなどして配線を引き出した。図示していないが、歪センサーチッ
プの電極16とAuワイヤー17を覆うようにカバー樹脂を塗布した。
【実施例5】
【0075】
本願発明の第五実施例の半導体歪センサーについて説明する。第四実施例の構成で、配
線引き出し方法が異なる。図12は半導体歪センサーを測定対象物に取り付けた状態の断
面図である。本実施例では、接続エリアにスポット溶接できる領域を開口するため、フレ
キシブル配線板5を歪センサーチップ2上に配置した。歪センサーチップの電極に金属バ
ンプ26を形成し、フレキシブル配線板5を接続した。フレキシブル配線板の応力の影響
を低減するため、歪センサーチップ2の片側にフレキシブル配線板を設けるのではなく、
歪センサーチップ2を覆うようにフレキシブル配線板5を配した。フレキシブル配線板5
と歪センサーチップ2間の隙間にはカバー樹脂18を塗布した。カバー樹脂18はエポキ
シ樹脂を用いた。カバー樹脂18は配線部の電気的絶縁と外気との絶縁だけでなく、フレ
キシブル配線板と歪センサーチップ間の接合力増強の働きも果たすものである。フレキシ
ブル配線板を歪センサーチップ上に配置したので、第1接続エリア11から第4接続エリ
ア14と測定対象物6の溶接の際、フレキシブル配線板5が溶接作業の邪魔になるような
ことはなかった。
【実施例6】
【0076】
本願発明の第六実施例の半導体歪センサーについて説明する。表裏の剛性バランスをさ
らに向上させたベース板の構造が第一実施例と異なる。図13は本実施例の半導体歪セン
サー1を測定対象物に取り付けた状態の平面図で、図14は図13のk−k’断面図であ
る。図15にベース板3の表と裏側の斜視図を示す。図15a)に、測定対象物6と対向
する面(裏面)の斜視図を示す。第一実施例では、歪センサーチップが固着された部分で
は、半導体歪センサーの表裏の剛性バランスが一致するが、歪センサーチップにY方向に
張り出した部分や接続エリアでは、リンク部の中心線に対して表裏の剛性がバランスして
いない。バランスしていない部分で曲げが発生して、歪センサーチップの変形にも少なか
らず影響を及ぼす。本実施例では、歪センサーチップが固着された部分と溝エリア以外の
部分でも表裏の剛性バランスをとるため、ベース板表面側に、裏面の溝と歪センサーチッ
プ接続部を含む領域と略一致した形状で、裏面の溝と同じ深さの凹部を設け、凹部の底面
に歪センサーチップ裏面を金属はんだで接合した。図14の半導体歪センサー1の厚み方
向の中心線p−p’に対し、線対称の形状としている。金属はんだ4の厚みは歪センサー
チップ2の厚みtdに比べ極薄いため、金属はんだの厚みは歪センサーチップに厚みtd
に含めている。
【0077】
図15a)に、測定対象物6と対向する面(裏面)の斜視図を示す。ベース板3のY方
向に横断する2本の溝30と、2本の溝30を繋ぐようにX方向に2本の溝30’が形成
されている。溝で囲まれた領域が突出部35となる。図15b)は、歪センサーチップが
固着される面(表面)の斜視図である。裏面と同じ位置に溝30と溝30’が形成され、
溝で囲まれた部分は除去され凹部39を形成する。形成された凹部39の深さは、凹部を
囲む溝の深さと同じである。
【0078】
凹部39の底面の破線で囲んだ箇所に、突出部35の形成位置に合わせ、歪センサーチ
ップを金属はんだで固着した。凹部39の底面に歪センサーチップを固着することで、ベ
ース板全体の表裏の剛性バランスを等しくすることができた。ベース板全体に渡り、表裏
の剛性バランスを等しくできたので、ベース板3の曲げ変形が防止でき、測定対象物の歪
を歪センサーチップ表面に正しく再現できた。しかし、ベース板の表裏に溝を加工するた
め加工の工数が増え製造コストが上がってしまう。また、歪センサーチップの厚み分ベー
ス板が厚くなり剛性が増加するため、測定対象物の歪そのものに与える影響が増加する問
題がある。第一実施例の構成で十分な特性が得られる場合は、第一実施例のベース板形状
用いることが好ましい。
【0079】
本願発明の歪センサーの配線手段については、第一から第六実施例に示した構成に限ら
れたものではなく、例えばベース板上に絶縁膜を介して形成したベース板電極に対し、フ
レキシブル配線板の配線の一部を異方性導電接着剤を用いて電気的に接続する方法など、
様々な方法を用いることができる。
【実施例7】
【0080】
本願発明の歪センサーチップのピエゾ抵抗素子で校正されるブリッジ回路には、別の構
成も適用できる。本願発明の第七実施例の歪センサーに用いた歪センサーチップの平面模
式図を図16に示す。(100)を表面とするシリコン基板上に不純物をドープしたn型
拡散抵抗で構成し、R1とR4は電流方向がシリコン結晶軸の<100>方向になるよう
に形成し、R2とR3はそれと垂直な方向になるように形成した。n型シリコンの<11
0>方向のピエゾ抵抗係数は、ドープ濃度によっても異なるが、例えばπl=−102.
2×10−5/MPa、πt=53.4×10−5/MPaという値が知られており、(
π−π)の絶対値を大きくできるので感度を高くできる。
【0081】
上記構成の歪センサーチップを、本願発明の第一実施例で示した歪センサーの構成に適
用することができる。その場合、測定対象物のX方向の歪を測定するように取り付けたベ
ース板3に対して、歪センサーチップ2の<100>方向をベース板3のX方向に合わせ
ることで、X方向応力σxに比例した感度が得られ感度を高くできる。また、p型シリコ
ンと異なり横ピエゾ抵抗係数が縦ピエゾ抵抗係数よりも小さいので、Y方向の歪が歪セン
サーチップ2に部分的に伝わってしまった場合でも、Y方向の歪感度が小さく、X方向歪
測定に対するノイズを小さくできる効果もある。また、ベース板3から伝わる引張歪は主
に<100>方向に加わるため、シリコンのへき開面である(110)方向が引張方向と
45度の角度をなすので、過大な力がかかってもシリコン結晶が割れにくい効果もある。
【0082】
本実施例においても、ベース板3の材質と測定対象物6の熱膨張係数が同じ、あるいは
近い材質とすることで熱歪の影響が小さい測定が可能である。
【実施例8】
【0083】
本願発明の第八実施例の歪センサーに用いた歪センサーチップの平面模式図を図17に
示す。2つのセンサーブリッジを有しており、例えば回転軸に取り付け、軸力とトルクを
同時に測定することができる。歪センサーチップ2は、(100)を表面とするシリコン
基板上に不純物をドープしたピエゾ抵抗素子で構成される第1ブリッジ回路48と第2ブ
リッジ回路49を有する。第1ブリッジ回路48は4つのp型拡散抵抗のピエゾ抵抗R1
〜R4を、電流方向が<110>方向およびそれに垂直な方向になるように形成し、第2
のブリッジ回路は4つのn型拡散抵抗R1’〜R4’を、電流方向が<100>方向およ
びそれに垂直な方向になるように形成した。この様な構成とすることで、第1ブリッジ回
路は<110>方向に高い感度を持ち、<100>方向は感度を持たない。一方、第2ブ
リッジ回路49は<100>方向に高い感度を持ち、<110>方向に感度を持たない。
よって、<110>方向と45度回転した<100>方向の歪を別々に一つの歪センサー
チップで検出できる。本実施例の歪センサーチップ2を第四実施例の歪センサーのように
、ベース板の周囲4箇所の接続エリアで測定対象物に接続することで、測定対象物の歪は
ベース板、および歪センサーチップにそのまま伝えられ、歪センサーチップ2によって各
方向の歪を検出できる。本歪センサーを、例えば回転軸に、歪センサーチップ2の<11
0>方向を回転軸の軸方向に合わせて取り付けることで、第1ブリッジ回路48で軸力を
、第2ブリッジ回路49でトルクを同時に測定することができる。
【実施例9】
【0084】
本願発明の第九実施例の歪センサーに用いた歪センサーチップの平面模式図を図18に
示す。4つのピエゾ抵抗素子7を、電流方向がシリコンの<100>方向になるように形
成した2つのp型ピエゾ抵抗7a(R2とR3)と2つのn型ピエゾ抵抗7b(R1とR
4)で構成した。p型シリコンの<100>方向のピエゾ抵抗係数は、ープ濃度によって
も異なるが、例えばπl=6.6×10−5/MPa、πt=−1.1×10−5/MP
aという値が知られており、<100>方向のn型シリコンに比べて非常に小さい。<1
00>方向の歪に対してn型ピエゾ抵抗のみが感度を持つので、ブリッジ回路から電位差
出力が得られる。
【0085】
本実施例の歪センサーチップも、七実施例の歪センサーチップと同様に、第一実施例で
示した歪センサーの構成に適用することができる。測定対象物のX方向の歪を測定するよ
うに取り付けたベース板3に対して、歪センサーチップ2の<100>方向をベース板3
のX方向に合わせて接続する。X方向応力σxに対して、p型ピエゾ抵抗7aは感度が小
さく、n型ピエゾ抵抗7bのみが感度を持つので、ブリッジ回路の電位差出力として感度
が得られる。n型ピエゾ抵抗のみで構成した第七実施例の歪センサーチップと比べて、p
型ピエゾ抵抗の感度が小さいので感度は小さくなるが、p型ピエゾ抵抗はY方向の応力に
対しても感度が小さいので、歪センサーチップ2に伝わったY方向の歪の影響をさらに小
さくすることができる。なお、p型ピエゾ抵抗は、n型ピエゾ抵抗と垂直の方向に配置し
ても同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】第一実施例の半導体歪センサーの実装状態の平面図である。
【図2】第一実施例の半導体歪センサーの実装状態の断面図である。
【図3】第一実施例に用いた歪センサーチップの平面図である。
【図4】第一実施例に用いたベース板の斜視図である。
【図5】第一実施例に用いたベース板の変形例の斜視図である。
【図6】第二実施例の半導体歪センサーの実装状態の平面図である。
【図7】第二実施例の半導体歪センサーの実装状態の断面図である。
【図8】第三実施例の半導体歪センサーの実装状態の平面図である。
【図9】第四実施例の半導体歪センサーの実装状態の平面図である。
【図10】第四実施例の半導体歪センサーの実装状態の断面図である。
【図11】第四実施例に用いたベース板の斜視図である。
【図12】第五実施例の半導体歪センサーの実装状態の断面図である。
【図13】第六実施例の半導体歪センサーの実装状態の平面図である。
【図14】第六実施例の半導体歪センサーの実装状態の断面図である。
【図15】第六実施例に用いたベース板の斜視図である。
【図16】第七実施例の歪センサーチップの平面図である。
【図17】第八実施例の歪センサーチップの平面図である。
【図18】第九実施例の歪センサーチップの平面図である。
【図19】従来品の歪センサーの外観を示す図である。
【図20】従来品の歪センサーを測定対象物に取り付けた状態の断面図である。
【図21】従来品の歪センサーの曲げ変形の課題を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0087】
1 半導体歪センサー、
2 歪センサーチップ、
3 ベース板、
4 金属はんだ、
5 フレキシブル配線板、
6 測定対象物、
7 ピエゾ抵抗素子、
7a p型ピエゾ抵抗、
7b n型ピエゾ抵抗、
8 アンプ回路
11 第1接続エリア、
12 第2接続エリア、
13 第3接続エリア、
14 第4接続エリア、
15 歪センサーチップ接続部、
16 電極、
17 ワイヤー、
18 カバー樹脂、
19 溶接点、
20 配線、
21 電極パッド
22 接着剤、
23 ボルト孔、
24 ボルト、
25 ねじ穴、
26 金属バンプ、
27 張出部、
30,30’ 溝、
31 第一溝エリア、
32 第二溝エリア、
33 第三溝エリア、
34 第四溝エリア、
35 突出部、
37 リンク部、
39 凹部、
45 絶縁膜、
46 ベース板電極、
47 被覆電線、
48 第1ブリッジ回路、
49 第2ブリッジ回路、
51 半導体歪ゲージ、
52 歪センサーチップ、
53 配線、
54 ポリイミドフィルム、
56 歪検出センサー、
57 台座、
58 低融点ガラス、
59 歪検出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板にピエゾ抵抗素子を形成した歪センサーチップと、ベース板と、前記歪セン
サーチップの電極から外部に配線を引き出す配線部とを有し、歪センサーチップ裏面とベ
ース板表面は歪センサーチップ接続部で接合され、歪センサーチップの側方に張り出した
ベース板に、測定対象物と固着する少なくとも2つ以上の接続エリアを有する半導体歪セ
ンサーであって、前記歪センサーチップの歪検出部は、複数のピエゾ抵抗素子を組み合わ
せたブリッジ回路で構成されており、ピエゾ抵抗素子はシリコンの<110>方向、およ
びそれに垂直な方向が電流方向となるように配置されたp型拡散抵抗であることを特徴と
する半導体歪センサー。
【請求項2】
接続エリアは歪センサーチップを挟んで両側に配置される第1接続エリアと第2接続エ
リアを含み、第一接続エリアと第二接続エリアを結ぶ方向が、歪センサーチップの前記<
110>方向と略一致していることを特徴とする請求項1に記載の半導体歪センサー。
【請求項3】
接続エリアは第一の方向に歪センサーチップを挟んで両側に配置される第1接続エリア
および第2接続エリアと、第一の方向と垂直な第二の方向に歪センサーチップを挟んで両
側に配置される第3接続エリアおよび第4接続エリアを含むことを特徴とする請求項1に
記載の半導体歪センサー。
【請求項4】
ベース板が、測定対象物と同じ材質、あるいは熱膨張係数が略一致する材質であること
を特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の半導体歪センサー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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