説明

半導体発光装置の製造方法およびプラズマを利用したクリーニング方法

【課題】半導体発光装置の製造において、電極に付着したダイボンディングペーストに由来するオルガノポリシロキサン等の汚染物を効果的に除去する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】少なくとも一つの電極を表面に有する半導体発光素子を、シリコーンを含むダイボンディングペーストにより、表面に少なくとも一つの電極回路を備えるマウント基板上に固定する工程と、半導体発光素子を実装したマウント基板を加熱することにより、ダイボンディングペーストを硬化させる工程と、ダイボンディングペーストを硬化させた後、半導体発光素子を固定したマウント基板を、アルゴンおよびフルオロカーボンを含む混合ガスのプラズマによってクリーニングするプラズマ処理を行う工程と、プラズマ処理後、少なくとも一つの電極と電極回路とをワイヤボンディングにより接続する工程と、を備える半導体発光装置の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子の電極表面等に付着する、シリコーンを含むダイボンディングペーストに由来するオルガノポリシロキサン等の汚染物を効果的に除去できるプラズマ処理工程を有する半導体発光装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体発光装置の製造においては、半導体発光素子をダイボンディングペーストにより実装基板上に固定し、ダイボンディングペーストを熱硬化させた後、半導体発光素子の表面に設けられた電極を、実装基板上の電極回路に接続する。半導体発光素子の表面に設けられた電極を実装基板上の電極回路に接続する方法としては、例えば、電極と電極回路とを金線などの金属細線で接続するワイヤボンディングが広く用いられている。
【0003】
半導体発光装置の発光効率を向上させるためには、高い放熱性が求められる。従来、ダイボンディングペーストとしては、エポキシ樹脂を主成分とするエポキシダイボンディングペーストが広く用いられていた。しかし、近年、放熱性改善の要求から、エポキシダイボンディングペーストよりも放熱性に優れるシリコーンダイボンディングペーストの使用が主流になっている。
【0004】
シリコーンダイボンディングペーストは放熱性に優れているが、次のような技術的課題を有するという側面がある。すなわち、シリコーンダイボンディングペーストを硬化させる際に加熱した時、シリコーン樹脂の一部またはその分解物が気化して、半導体発光素子の電極の表面や実装基板上の電極回路の表面に付着して、オルガノポリシロキサン等の汚染物を生成する。このような汚染物は、電極間をワイヤボンディングにより接続する際に、接続強度を低下させたり、また、電気抵抗になったりすることから、除去されることが好ましい。
【0005】
ところで、半導体発光素子の電極の表面には、電極に含有される金属の酸化物膜が形成されている。このような金属酸化物膜は、金属細線を用いたワイヤボンディングによる接続強度を低下させることが知られている。そこで、特許文献1は、このような金属酸化物膜を除去するために、ワイヤボンディングを行う前に、電極表面をアルゴンプラズマで処理することを提案している。これにより、電極表面に形成された金属酸化物膜を除去することが可能である。
【0006】
また、従来、基材の表面に撥水性や潤滑性を付与する目的で、意図的にオルガノポリシロキサンの膜を形成させる技術が広く知られている。このような膜は、例えば、成膜装置のチャンバ内に基材を収容し、ガス導入管からオルガノシロキサンの単量体をチャンバ内に導入した後、プラズマ化し、基材の表面に付着させる等の方法により形成される。このような方法においては、基材の表面だけではなく、チャンバ内にもオルガノポリシロキサンの膜が形成され、チャンバを汚染するという問題がある。そこで、チャンバを汚染したオルガノポリシロキサンの膜を除去する方法として、特許文献2は、チャンバ内に付着したオルガノポリシロキサン膜を、酸素のプラズマで酸化させた後、CF4、C26、C48等のフッ素系ガスをチャンバ内に導入し、フッ素系ガスをプラズマ化することを提案している。これにより、予め酸化されたオルガノポリシロキサンが効率よく除去される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−204828号公報
【特許文献2】特開2005−272902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1が提案するように、電極表面をアルゴンプラズマで処理する方法によって、電極に付着したダイボンディングペーストに由来するオルガノポリシロキサンは除去され得る。しかし、アルゴンプラズマによる処理は、プラズマ化により発生するイオン等を電極表面に衝突させる物理的なエッチング処理である。そのため、低いプラズマパワーで処理した場合には、オルガノポリシロキサンが、より蒸気圧の低い分子に分解するため、汚染物を除去しにくくなる。一方、高いプラズマパワーで処理した場合には、例えば、電極を形成する金属までエッチングされ、その金属が実装基板や半導体発光素子に付着してしまうという問題がある。
【0009】
半導体発光装置の性能向上の一つの目標は、より高い輝度を得ることである。そのために、実装基板の表面は、半導体発光素子からの出射光をより多く外部に取り出せるように、高反射性を有するように設計されている。このような場合において、電極を形成する金属がエッチングされ、高反射性を持たせた実装基板の表面に付着すると、その反射性が低下して、光取出し効率が低下してしまう。従って、電極表面をアルゴンプラズマで処理する場合には、通常、低いプラズマパワーで処理することになる。しかし、その場合には、電極表面のオルガノポリシロキサンが蒸気圧の低い分子に分解されるため、充分に除去することが困難になる。
【0010】
また、特許文献2が開示するように、CF4、C26、C48等のフッ素系ガスをプラズマ化した雰囲気でも、オルガノポリシロキサンは除去され得る。しかし、フッ素系ガスのプラズマは、化学的なエッチング処理であり、物理的な衝突エネルギーが小さいため、オルガノポリシロキサンの分解生成物としてケイ素酸化物が析出しやすいという問題がある。また、フッ素系ガスに由来して、フッ素を含有する汚染物が製品に残留する場合があり、製品の信頼性が低下する懸念がある。さらに、予め酸素プラズマでの処理が必要となるが、酸素プラズマは電極等を酸化させるため、半導体発光装置の製造工程では使用できない。
【0011】
上記状況に鑑み、本発明は、半導体発光装置の製造において、電極に付着したダイボンディングペーストに由来するオルガノポリシロキサン等の汚染物を効果的に除去する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一局面は、少なくとも一つの電極を表面に有する半導体発光素子を、シリコーンを含むダイボンディングペーストにより、表面に少なくとも一つの電極回路を備えるマウント基板上に固定する工程と、前記半導体発光素子を実装したマウント基板を加熱することにより、前記ダイボンディングペーストを硬化させる工程と、前記ダイボンディングペーストを硬化させた後、前記半導体発光素子を固定したマウント基板を、アルゴンおよびフルオロカーボンを含む混合ガスのプラズマによってクリーニングするプラズマ処理を行う工程と、前記プラズマ処理後、前記少なくとも一つの電極と前記電極回路とをワイヤボンディングにより接続する工程と、を備える半導体発光装置の製造方法に関する。
【0013】
本発明の別の局面は、オルガノシロキサンが付着した基材に、アルゴンおよびフルオロカーボンを含む混合ガスのプラズマ中のイオンを衝突させるとともに、前記プラズマ中のラジカルを前記オルガノシロキサン由来の物質と反応させることにより、前記オルガノシロキサンの少なくとも一部を前記基材から除去する、プラズマを利用したクリーニング方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、アルゴンプラズマ処理を行う場合のように電極がエッチングされることを抑制できるため、オルガノポリシロキサン等の汚染物を選択的に除去することができる。その結果、アルゴンプラズマで処理したときのようにマウント基板の表面を汚染することが無く、半導体発光素子の電極表面に付着した汚染物を効果的に除去することができる。また、フルオロカーボンから生成されるラジカルの化学反応と、アルゴンイオンの衝突による物理的エッチングとの相乗作用により、低いプラズマパワー条件でも、汚染物を効率良く除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る半導体発光装置の製造方法の各工程を説明する模式説明図である。
【図2】プラズマ処理を実施するためのプラズマクリーニング装置の構造を示す模式図である。
【図3】CF4ガスとArガスとの流量比と、Auまたはフォトレジスト(Photo Resist)樹脂に対するエッチングレートとの関係を示すグラフである。
【図4】本発明の一実施形態に係る半導体発光装置の上面図である。
【図5】本発明の効果を確認するための模擬的試験で用いる試料の作製工程を示す図である。
【図6】シェア強度評価で用いるバンプを形成した試料の断面図である。
【図7】模擬的試験で製造されたサンプルの電極表面の元素分析の結果を示すグラフある。
【図8】模擬的試験で製造されたサンプルのボンディングワイヤのシェア強度の結果を示すグラフある。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
本実施形態の半導体発光装置10の製造方法においては、図1(a)に示すように、はじめに、素子電極1a,1bを表面に有する半導体発光素子2を、シリコーンを含むダイボンディングペースト3により、マウント基板6の表面に固定する。マウント基板6の表面は、半導体発光素子2が配置される実装領域5aと、電極回路とを備えている。電極回路は、互いに絶縁された基板電極4a,4bを具備し、これらは素子電極1a,1bとそれぞれ接続される。
【0017】
半導体発光素子2の種類は、特に限定されないが、具体的には、例えば、可視光、赤外光等の波長領域の光を発する半導体発光素子が特に限定なく用いられる。これらは、例えばGaNなどの半導体材料から作製することができる。
【0018】
電極回路を備えるマウント基板は、リードフレーム4と樹脂成型によって形成された樹脂部5から構成されている。リードフレーム4は基板電極4a,4bとなる部材である。樹脂部5はリードフレーム4を上下に挟むように形成されており、その上部には実装領域5aに固定された半導体発光素子2を取り囲むように形成された反射面(reflector)5bを備える。この反射面の表面には銀メッキが施されている。従って、半導体発光素子2から出射した光は基板電極4a,4b表面と反射面5bとによって上方へ反射される。
【0019】
マウント基板の構造としては、上記のような金属製のリードフレームと樹脂部を主体とするものに限定されず、プリプレグと銅箔との積層板や、窒化アルミニウム基板のようなセラミクス基板等を用いることができる。また、反射面5bとしては、特に限定されないが、光沢のある金属メッキ以外にポリフェニルフタルアミド(PPA)等の白色樹脂の表面をそのまま反射面として利用する構造でもよい。
【0020】
電極回路としての基板電極4a,4bを形成する金属としては、光沢のある銀または銀を主成分とする銀合金が好ましく用いられる。電極回路は、基板電極4aと4bとを絶縁する領域を除き、反射面で囲まれた領域の全体に形成することが高輝度を得る観点から好ましい。さらに高輝度を得る観点から、基板電極4aと4bの表面に銀メッキを施すことが好ましい。
【0021】
本実施形態においては、例えば、図1(a)に示すように、マウント基板6の所定の位置に、シリコーンを含むダイボンディングペースト3を塗布した後、半導体発光素子2を固定する。ダイボンディングペースト3は、例えば、ディスペンサーを用いて、マウント基板の所定の実装位置に塗布される。
【0022】
シリコーンを含むダイボンディングペーストとしては、シリコーンを含む熱硬化性のダイボンディングペーストであれば、特に限定なく用いることができる。シリコーンとは、ポリシロキサン構造を有し、かつ有機基を含むポリマーの総称である。このようなダイボンディングペーストは、例えば、東レ・ダウコーニング(株)や信越化学工業(株)から販売されており、商業的に入手可能である。
【0023】
次に、半導体発光素子2が固定されたマウント基板6を加熱することにより、ダイボンディングペースト3を硬化させる。加熱温度は、ダイボンディングペーストの種類により適切に選択されるが、具体的には、例えば150〜160℃程度であることが好ましい。加熱手段は特に限定されないが、例えば、バッチ式もしくはインライン式のキュア装置が用いられる。このとき、電極回路等が酸化されないように、加熱の雰囲気には、窒素、アルゴンなどの不活性ガスが導入される。電極回路が銀や銀合金を具備する場合、これが酸化されると黒色に変化するため、半導体発光装置の発光効率が低下してしまう。
【0024】
上記のように、ダイボンディングペースト3が硬化されることにより、半導体発光素子2がマウント基板6に固定される。このとき、ダイボンディングペーストに含まれるシリコーンの未反応物等が、分解したりすることにより気化する。そして、半導体発光素子2の表面に形成された素子電極1a,1bや、マウント基板6の表面に形成された電極回路と接触し、その場で凝縮又は反応し、その結果オルガノポリシロキサン等の汚染物が生成していると考えられる。
【0025】
次に、図1(b)に示すように、半導体発光素子2を固定したマウント基板6に対し、アルゴンおよびフルオロカーボンを含む混合ガスのプラズマによってプラズマ処理(プラズマクリーニング)を行う。プラズマ処理は、高周波電源に接続されたアノードとカソードを具備する処理空間内で行われる。処理空間は、減圧ポンプで減圧されるとともに、所定の流量でプラズマ化される混合ガスが導入される。
【0026】
プラズマ中には、アルゴンイオン(Ar+)やフルオロカーボン由来のラジカルが生成している。プラス電荷を有するアルゴンイオンは、図1(b)に示すように、マイナスに帯電したカソード12に電気的に引き寄せられ、半導体発光素子2やマウント基板6に衝突する。ラジカルはオルガノポリシロキサン等の汚染物に接触すると反応し、蒸気圧の高いガスを生成する。蒸気圧の高いガスは、減圧ポンプの作用により外部に排気される。この工程により、電極表面等に形成されたオルガノポリシロキサン等の汚染物が除去される。このように、アルゴンイオンによる物理的なエッチングと、フルオロカーボン由来の活性種(ラジカル)による化学的なエッチングが協働的に作用する。これにより、アルゴンだけを用いる場合のように電極がエッチングされることは抑制される。なお、汚染物が除去される際のより詳しいメカニズムについては後述する。
【0027】
フルオロカーボンは、炭化水素の少なくとも一つの水素をフッ素に置き換えた化合物でれば、特に限定なく用い得るが、その具体例としては、例えば、CF4、C26、C38、CHF3、CH22等が挙げられる。
【0028】
ここで、プラズマ処理に用いる装置について、図2を参照して詳しく説明する。
図2は、プラズマクリーニング装置20の構造を示す模式図である。プラズマクリーニング装置20は、プラズマを発生させる空間を提供する処理チャンバ11を具備し、処理チャンバ11内部の下方および上方には、カソードを兼ねた支持台12およびアノード13が対向配置して設けられている。処理チャンバ11の内部は、ガス導入口14を介してアルゴンやフルオロカーボンを含んだ混合ガスを供給するガス供給部19と接続されている。一方、処理チャンバ11の内部は、ガス排気口15を介して減圧ポンプ16と接続されている。減圧ポンプ16を稼動させることにより、処理チャンバ11の内部が減圧される。処理チャンバ11の内部にガスが導入された状態で、高周波電源17によりアノード12とカソード13との間に高周波電圧を印加すると、導入されたガスがプラズマ化される。ガス流量および減圧ポンプ16の出力の調整は制御部18により制御される。
【0029】
以下、プラズマ処理の手順について説明する。
プラズマ処理においては、はじめに、処理チャンバ11の内部に配設された支持台12に、図略の密閉扉から、被処理物である半導体発光素子2が固定されたマウント基板6を載置し、密閉扉を閉める。そして、減圧ポンプ16を稼動させ、ガス排気口15から処理チャンバ11の内部の空気を排気しながら、ガス導入口14からガスを導入する。本実施形態においては、導入されるガスとして、アルゴンおよびフルオロカーボン(例えばCF4)を含んだ混合ガスを導入する。
【0030】
ガス供給装置19からは、予め、所定の流量に調整されたアルゴンとフルオロカーボンとを混合し、混合ガスとしてガス導入口14から導入してもよく、アルゴンとフルオロカーボンを、複数の導入口から、それぞれの流量を制御しながら個別に導入してもよい。いずれにしても、アルゴンとフルオロカーボンは、処理チャンバ11の内部で混合される。
【0031】
処理チャンバ11に供給するフルオロカーボンのアルゴンに対する流量比(モル流量比)は、アルゴンを100%とした場合、10〜40%であることが好ましく、20〜40%であることがより好ましい。アルゴンの比率が高くなるほど、物理的エッチングの影響が大きくなるため、電極がエッチングされやすくなる場合がある。一方、アルゴンの比率が低くなるほど、物理的エッチングの影響が小さくなるため、オルガノポリシロキサン等の汚染物が除去されにくくなったり、酸化ケイ素が析出したりする場合がある。
【0032】
図3は、CF4とアルゴンとの流量比と、Auまたはフォトレジスト樹脂(PR)に対するエッチングレートとの関係を示すグラフである。Auエッチングレートが高いほど、物理的エッチングの影響が大きく、PRエッチングレートが高いほど、化学的エッチングの影響が大きいことを示している。アルゴンを100%とした場合、フルオロカーボンの流量比が10〜40%の範囲で、物理的エッチングと化学的エッチングの影響がバランスよく得られることが理解できる。
【0033】
次に、処理チャンバ11の内圧を適度な圧力に制御しながら、高周波電源17により、アノード12とカソード13との間に高周波電圧を印加して、導入されたアルゴンおよびフルオロカーボンをプラズマ化する。例えばプラズマクリーニング装置として、パナソニックファクトリーソリューションズ(株)製の「プラズマクリーナーPSX307」を用いる場合、処理チャンバ11の内圧は、例えば5〜20Pa程度であることが好ましい。また、高周波電源のパワーは100〜200W程度であることが好ましい。
【0034】
そして、プラズマ雰囲気に半導体発光素子が固定されたマウント基板を暴露させた状態で、所定時間経過させることにより、プラズマ処理が終了する。プラズマ処理時間としては、例えば5〜20秒間が好ましい。
【0035】
次に、汚染物が除去される際のメカニズムについて考察する。
オルガノポリシロキサン等の汚染物の除去は、次のようなメカニズムによるものと考えられる。ここでは、フルオロカーボンとしてCF4を用いる場合を例にとって説明する。
【0036】
導入されたアルゴン(Ar)は、高周波電圧によりプラズマ化され、その際電子(e-)、およびArイオンを生成する。また、CF4も高周波電圧によりプラズマ化され、CF*(*はラジカルを示す。以下同様)、CF2*、CF3*、CF4*等を生成する。そして、ArイオンはCF*等とともに、反応性イオンエッチング(RIE(Reactive Ion Etching))の原理により、オルガノポリシロキサンのSi−O間の結合を切断する。このメカニズムは、ArイオンアシストによるRIEであり、アルゴンプラズマによる単純な物理的エッチングとは異なっている。ここでは、フルオロカーボンから生成されるラジカルとオルガノポリシロキサン由来の物質との化学反応とアルゴンイオンの衝突による物理的エッチングとの相乗作用が得られる。このようなメカニズムにより、オルガノポリシロキサンは分解され、SiF4のような蒸気圧の高い物質となって除去される。シロキサン結合の酸素はCO2等のガスとなって除去されると考えられる。
【0037】
次に、図1(c)に示すように、プラズマ処理された、半導体発光素子2を固定したマウント基板6において、素子電極1a,1bと基板電極4a,4bとを、それぞれ金線8a,8bで接続する。本実施形態においては、素子電極1a,1bと基板電極4a,4bとを接続する方法として、金線で接続するワイヤボンディング法を採用している。このようにして、半導体発光素子2とマウント基板6とが電気的に接続される。
【0038】
そして、上記のように形成された接続部は、図1(d)に示すように、通常、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂等の透明樹脂9で封止されて保護される。なお、透明樹脂には、必要に応じて、波長変換により、半導体発光素子2の発光色を変換するための蛍光体を含んでもよい。完成した半導体発光装置の上面図を図4に示す。
【0039】
上述したように、アルゴンおよびフルオロカーボンの混合ガスをプラズマ化した雰囲気で、各電極表面がクリーニングされているため、素子電極1a,1bまたは基板電極4a,4bと金線との接続強度は充分に高くなり、半導体発光装置の信頼性も高いものとなる。従って、透明樹脂による封止工程においても、金線が切断されることが無く、生産の歩留まりも高くなる。
【0040】
なお、プラズマ処理においては、上記のように、半導体発光素子を固定したマウント基板を、アルゴンおよびフルオロカーボンの混合ガスのプラズマによってクリーニングする処理(第一処理)を行った後、さらに、アルゴンプラズマによってクリーニングする処理(第二処理)を行ってもよい。このような第二処理を行うことにより、フルオロカーボンやフッ素を含有する汚染物が、半導体発光素子やマウント基板に残留することを防止することができる。
【0041】
具体的には、第一処理を終えた後、フルオロカーボンの処理チャンバ内部への導入を停止し、アルゴンの導入と減圧ポンプによる排気を継続する。そして、電極がエッチングされないように高周波電源のパワーを調整しながら、アルゴンをプラズマ化する。第二処理の際の処理チャンバ11の内圧は、例えば5〜10Pa程度であることが好ましい。また、高周波電源のパワーは50〜100W程度であることが好ましい。また、アルゴンプラズマによる処理時間としては、例えば1〜5秒間が好ましい。
【0042】
次に、本発明の効果を確認するために以下のような模擬的実験を行った。具体的には、プラズマ処理の時間と、オルガノポリシロキサンによる汚染物量やボンディング性能との関係を評価した。なお、以下の実験は何ら本発明を限定するものではない。
【0043】
《実験例1》
まず、図5(a)に示すように、プリント基板(FR4)に金メッキ30aを施した評価用基板30を準備した。次に、図5(b)に示すように、ホットプレート31の上方において、金メッキ30aがホットプレート側に向くように基板30を固定し、ホットプレート31の中央付近2箇所にシリコーンダイボンディングペースト32(信越シリコーン(株)製のKER−3000−M2)を、ディスペンサーを用いてそれぞれ1mgずつポッティングした。その後、基板30とともにホットプレート31をドーム33で覆い、ホットプレート31の温度を160℃に設定し、シリコーンダイボンディングペースト32を2時間加熱した。このような工程により、密閉された空間内で、意図的に、所定量のオルガノポリシロキサンを汚染物として基板30の金メッキ30aに付着させた。
【0044】
そして、汚染物が付着した基板30の金メッキ30aに対し、アルゴンおよびフルオロカーボンを含む混合ガスのプラズマによるプラズマ処理を施した。ここでも、図2に示すようなプラズマクリーニング装置20(パナソニックファクトリーソリューションズ(株)製の「プラズマクリーナーPSX307」)を用いた。具体的には、容量6Lの処理チャンバ11の内部に設けられたカソードを兼ねた支持台12に、密閉扉18を介して、基板30を載置した。そして、密閉扉18を閉めて、減圧ポンプ16を動作させ、ガス排気口15から処理チャンバ11の内部の空気を排気しながら、ガス導入口14からアルゴンおよびCF4ガスを導入した。
【0045】
なお、アルゴンの流量は10mL/分、CF4の流量は3mL/分に設定した。また、処理チャンバ11の内部の内圧は10Paであった。
そして、処理チャンバ11の内圧を制御しながら、高周波電源17により、カソード12とアノード13との間に高周波電圧を印加して、導入されたアルゴンおよびフルオロカーボンを含む混合ガスをプラズマ化させた。高周波電源のパワーは150Wであった。また、プラズマ処理時間は、5種類のサンプルを得る観点から、5秒、10秒、20秒、30秒および60秒間とした。
【0046】
そして、プラズマ処理された、基板30を処理チャンバ11から取り出した。次に、図6に示すように、プラズマ処理された基板30の金メッキ面に、ボンディングマシーンを用いて、直径約25μmのボンディングワイヤ(金線)からバンプ34(直径約73μm、高さ約23μm)を形成した。
上記のサンプル製造を3回繰り返し、合計15種類のサンプルを得た。
次に、得られたサンプルについて、以下の評価を行った。
【0047】
[元素分析]
X線光電子分光法(XPS)により、金メッキ表面の金(Au)の濃度に対するケイ素(Si)の濃度比(Si/Au)を求めた。結果をグラフとして図7に示す。なお、グラフ中、「CF/Ar(n)」の表示は、n回目の製造で得られたサンプルの分析結果であることを示している。1〜3回目のいずれの製造で得られたサンプルにおいても、10秒程度のプラズマ処理により、ケイ素を含む不純物が除去されていることが理解できる。また、不純物除去の効果の再現性が高いことがわかる。
【0048】
[バンプのシェア強度評価]
基板30上の金メッキ30aの表面に形成されたバンプ34に対して、(株)レスカ(RHESCA)製のPTR50を用いてシェア強度評価を行った。結果をグラフとして図8に示す。10秒程度のプラズマ処理を行うことで、高いシェア強度が得られている。これは、金メッキ30aの表面の不純物が充分に除去されたためと考えられる。
【0049】
《比較実験例1》
プラズマ処理の際に、ガス導入口14からアルゴンだけを導入し、CF4ガスを導入しなかったこと以外、実験例1と同様の操作を行ってサンプルを製造した。なお、アルゴンの流量は5mL/分に設定した。また、処理チャンバ11の内部の内圧は7Paであった。高周波電源のパワーは150Wとした。
上記のサンプル製造を3回繰り返し、合計15種類の比較実験例1のサンプルを得た。次に、得られたサンプルについて実験例1と同様に評価した。結果を図7、8に示す。グラフ中、「Ar(n)」の表示は、n回目の製造で得られたサンプルの分析結果であることを示している。
【0050】
比較実験例1では、実験例1と異なり、60秒のプラズマ処理を行っても、ケイ素を含む不純物が充分に除去されず、かつ効果の再現性も極めて低いことがわかる。また、比較実験例1のバンプのシェア強度も実験例1に比べて大きく低下している。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、シリコーンを含むダイボンディングペーストによるダイボンディングの工程を備える半導体発光装置の製造に適用できる。
【符号の説明】
【0052】
1a,1b:素子電極、2:半導体発光素子、3:シリコーンを含むダイボンディングペースト、4:リードフレーム、4a,4b:基板電極、5:樹脂部、5a:実装領域、5b:反射面、6:マウント基板、7:プラズマ雰囲気、8a,8b:金線(ボンディングワイヤ)、9:透明樹脂(封止樹脂)、10:半導体発光装置、11:処理チャンバ、12:カノード、13:アノード、14:ガス導入口、15:排気口、16:減圧ポンプ、17:高周波電源、18:制御部、19:ガス供給部、20:プラズマクリーニング装置、30:基板(FR4)、31:ホットプレート、32:シリコーンを含むダイボンディングペースト、33:ドーム、34:バンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの電極を表面に有する半導体発光素子を、シリコーンを含むダイボンディングペーストにより、表面に少なくとも一つの電極回路を備えるマウント基板上に固定する工程と、
前記半導体発光素子を実装したマウント基板を加熱することにより、前記ダイボンディングペーストを硬化させる工程と、
前記ダイボンディングペーストを硬化させた後、前記半導体発光素子を固定したマウント基板を、アルゴンおよびフルオロカーボンを含む混合ガスのプラズマによってクリーニングするプラズマ処理を行う工程と、
前記プラズマ処理後、前記少なくとも一つの電極と前記電極回路とをワイヤボンディングにより接続する工程と、を備える、半導体発光装置の製造方法。
【請求項2】
前記混合ガスにおいて、アルゴンに対するフルオロカーボンの流量比が、10〜40%である、請求項1記載の半導体発光装置の製造方法。
【請求項3】
前記プラズマ処理が、前記半導体発光素子を固定したマウント基板を、前記混合ガスのプラズマによってクリーニングする第一処理と、前記第一処理後に、アルゴンのプラズマによってクリーニングする第二処理とを有する、請求項1または2記載の半導体発光装置の製造方法。
【請求項4】
前記電極回路が、銀または銀を主成分とする銀合金を備える、請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体発光装置の製造方法。
【請求項5】
前記マウント基板は、前記半導体発光素子を囲むように形成された、前記半導体発光素子からの出射光を反射する反射面を備える、請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体発光装置の製造方法。
【請求項6】
オルガノシロキサンが付着した基材に、アルゴンおよびフルオロカーボンを含む混合ガスのプラズマ中のイオンを衝突させるとともに、前記プラズマ中のラジカルを前記オルガノシロキサン由来の物質と反応させることにより、前記オルガノシロキサンの少なくとも一部を前記基材から除去する、プラズマを利用したクリーニング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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