説明

半導体膜、及び半導体膜の作製方法、並びに蓄電装置

【課題】高密度に集積化されたシリコンの微小構造物を有する半導体膜、及びその作製方法を提供する。また、密度が制御されたシリコンの微小構造物を有する半導体膜、及びその作製方法を提供する。また、充放電容量が向上した蓄電装置を提供する。
【解決手段】金属からなる一表面を有する基板上にシリコン構造物を含むシリコン層を有する半導体膜の作製方法を適用する。金属とシリコンとが反応して形成されるシリサイド層の厚さを制御することにより、シリサイド層とシリコン層との界面に形成されるシリサイド粒の粒径を制御し、シリコン構造物の形状を制御すればよい。また、このような半導体膜を蓄電装置の電極に適用すればよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体膜及び半導体膜の作製方法に関する。本発明は蓄電装置に関する。
【0002】
なお、蓄電装置とは、蓄電機能を有する素子及び装置全般を指すものである。
【背景技術】
【0003】
近年、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、及び空気電池など、高性能な蓄電装置の開発が進められている。
【0004】
蓄電装置用の電極は、集電体の一表面に活物質を形成することにより作製される。活物質としては、例えば炭素またはシリコンなどの、キャリアとなるイオンの貯蔵及び放出が可能な材料が用いられる。例えば、シリコンまたはリンがドープされたシリコンは、炭素に比べ理論容量が大きく、蓄電装置の大容量化という点において優れている(例えば特許文献1)。
【0005】
一方、微小な針状の構造物が知られており、その外形的な特徴から、イオン移動型二次電池(リチウムイオン電池等)を含む蓄電装置へ応用することが期待されている。
【0006】
シリコンの微小針状構造物としては、VLS(Vapor−Liquid−Solid)成長法を用いたシリコンナノニードルが知られている(特許文献2参照)。シリコンナノニードルは単結晶基板から得られる単結晶の針状構造物であり、一例として、先端部の直径は〜300nm、長さは〜90μm程度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−210315号公報
【特許文献2】特開2003−246700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
針状の構造物を蓄電装置の活物質に用いることにより、表面積を大きくすることが出来るため充放電容量の増大や充放電特性の向上などの効果が期待される。またシリコンの微小構造物を蓄電装置の負極活物質に用いる場合、これを高密度に集積するほど、充放電容量の増大が期待される。しかしながら、従来のVLS成長法を用いたシリコンナノニードルの作製方法では、この高密度高集積化が困難であった。
【0009】
本発明は、このような技術的背景のもとでなされたものである。したがって、その目的は、高密度に集積化されたシリコンの微小構造物を有する半導体膜、及びその作製方法を提供することを課題の一とする。
また、本発明の目的は、密度が制御されたシリコンの微小構造物を有する半導体膜、及びその作製方法を提供することを課題の一とする。
また、本発明の目的は、充放電容量が向上した蓄電装置を提供することを課題の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は金属表面上に形成されるシリコンの微小構造物に着眼した。シリコンの微小構造物は、金属表面に対してLPCVD(Low Pressure Chemical Vapor Deposition)法、PECVD(Plasma Enhanced Chemical Vapor Deposition)法などの堆積法を用いてシリコン膜を成膜することにより形成される。
【0011】
本発明者らは、当該シリコン構造物の生成メカニズムについて鋭意研究を重ねた結果、金属のシリサイド反応における体積膨張によって生じる圧縮応力に起因して、シリサイド層表面近傍には凹凸形状が生じ、その凸部から分離したシリサイド粒の粒径と、シリコン構造物の形状とが密接に関わっていることを見出した。
【0012】
そして、シリコン構造物の成長の核となるシリサイド粒の粒径を制御することにより形成される、さまざまな形状のシリコン構造物を有する半導体膜の発明に想到した。
【0013】
例えば、針状のシリコンウィスカを形成する場合は、シリサイド反応を表面近傍のみで微小なシリサイド粒を生じさせ、当該シリサイド粒を成長の核として、シリコン構造物を形成すればよい。シリサイド反応を表面近傍のみで生じさせると、当該シリサイド反応に伴う体積膨張による圧縮応力はシリサイド層表面の向きに集中し、シリサイド層表面の凹凸形状の起伏が激しく、且つ周期が短くなる。その結果、シリサイド層表面の凸部から分離したシリサイド粒は極めて微小なものとなり、この微小なシリサイド粒が起点となって成長したシリコン構造物は、針状のシリコンウィスカとなりやすい。このような方法によって形成された針状のシリコンウィスカを有する半導体膜は、シリコン層とシリサイド層との界面付近に微小なシリサイド粒を有する。シリサイド粒の粒径は1nm以上50nm未満である。
【0014】
一方、大きなシリサイド粒を形成する場合は、シリサイド反応が膜厚方向に(金属層に向かって)深く進めばよい。シリサイド反応が膜厚方向に(金属層に向かって)深く進むと、当該シリサイド反応に伴う体積膨張によって生じる圧縮応力は膜厚方向に緩和される。その結果シリサイド層表面の凹凸形状の起伏が緩やかに、且つ周期が長くなり、その凸部から分離したシリサイド粒の粒径は大きくなる。このようにして得られた大きなシリサイド粒が起点となって成長したシリコン構造物の形状は、針状ではなく半球状(ドーム状)のシリコン構造物となりやすい。このような方法によって作製された半球状(ドーム状)のシリコン構造物を有する半導体膜は、シリコン層とシリサイド層との界面付近に大きなシリサイド粒を有する。シリサイド粒の粒径は50nm以上である。
【0015】
また、上記金属層を構成する金属には、シリコンと反応し、シリサイドを形成する金属を用いる。シリサイドを形成する金属としては、例えばチタン(Ti)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)等が挙げられる。特に、比較的シリコンに対する拡散係数の小さいチタンを用いると、シリサイド層の膜厚の制御性を高めることが出来るため好ましい。
【0016】
また、上記シリサイド層上にシリサイド粒が多数存在することは、シリサイド層表面の表面粗さ(ラフネス)が大きいとも言い換えることができる。これによりシリサイド層とシリコン層との間にアンカー効果を奏することにより密着性を向上させることが出来る。
【0017】
すなわち、本発明の一態様は、金属を含むシリサイド層と、シリサイド層上にシリサイド粒と、シリサイド層及びシリサイド粒に接するシリコン層と、を有し、シリコン層が針状のシリコン構造物を含み、シリサイド層の膜厚は、1nm以上100nm未満であり、シリサイド粒の粒径は、1nm以上50nm未満である、半導体膜である。
【0018】
また、本発明の一態様は、金属を含むシリサイド層と、シリサイド層上にシリサイド粒と、シリサイド層及びシリサイド粒に接するシリコン層と、を有し、シリコン層がドーム状のシリコン構造物を含み、シリサイド層の膜厚は、100nm以上であり、シリサイド粒の粒径は、50nm以上である、半導体膜である。
【0019】
また、本発明の一態様は、同一基板上に、上記に記載したいずれかの半導体膜を有する第1の領域と、上記金属を含む金属層と、当該金属層上に絶縁層と、当該絶縁層上に第2のシリコン層とを有する第2の領域とを有し、第1の領域の有するシリコン層と、第2のシリコン層とは連続する、半導体膜である。
【0020】
金属層を覆う絶縁層を形成し、当該絶縁層を金属層が露出するように選択的に開口し、当該開口部にのみシリコン構造物を有するシリコン層を形成することができる。このように、選択的にシリコン構造物を形成することにより、基板面内における当該シリコン構造物の密度を任意に制御することが出来る。このように密度が制御されたシリコン構造物を蓄電装置の電極の活物質に用いることにより、充放電の際の体積膨張によるシリコン構造物同士の干渉や接触による破壊を抑制し、信頼性の高い蓄電装置とすることが出来る。
【0021】
また、本発明の一態様は、上記に示す各々の半導体膜において、シリサイド層及びシリサイド粒はチタンを含む。
【0022】
また、本発明の一態様は、金属膜の表面に、当該金属を含むシリサイド層を形成すると共に、シリサイド層の一部をシリサイド粒に変成し、シリサイド層上にシリコン構造物を含むシリコン層を形成する。また、シリサイド層の厚みにより、シリコン構造物の形状が制御される、半導体膜の作製方法である。
【0023】
また、本発明の一態様は、金属膜の表面に、当該金属を含むシリサイド層を形成すると共に、シリサイド層の一部をシリサイド粒に変成し、シリサイド層上に、針状のシリコン構造物を含むシリコン層を形成する。また当該シリサイド層の厚みは、1nm以上100nm未満とし、シリサイド粒の粒径は、1nm以上50nm未満とする、半導体膜の作製方法である。
【0024】
また、本発明の一態様は、金属膜の表面に、当該金属を含むシリサイド層を形成すると共に、シリサイド層の一部をシリサイド粒に変成し、シリサイド層上に、ドーム状のシリコン構造物を含むシリコン層を形成する。また当該シリサイド層の厚みは、100nm以上とし、シリサイド粒の粒径は、50nm以上とする、半導体膜の作製方法である。
【0025】
また、本発明の一態様は、上記に示す各々の半導体膜の作製方法において、シリサイド層及びシリサイド粒はチタンを含む。
【0026】
また、本発明の一態様は、上記半導体膜を有する、蓄電装置である。
【0027】
本発明の微小構造物を有する半導体膜を蓄電装置に適用することにより、充放電容量が向上した蓄電装置とすることが出来る。
【0028】
なお、本明細書等において半導体膜とは、半導体としての性質を有する膜、及び半導体としての性質を有する膜を含む積層膜のことを言う。例えば、半導体の性質を有する膜に、金属膜や絶縁膜が積層された積層膜であっても半導体膜と表記する。
【0029】
なお、本明細書等において粒の粒径とは、当該粒のあらゆる断面に対し、最も長くなる2点間の距離と定義する。
【0030】
なお、本明細書等において、シリコンからなる微小構造物のうち、針状(棒状、枝状のものもを含む)の形状を示すものについては、針状のシリコン構造物、針状のシリコンウィスカ、またはシリコンウィスカと表記する。一方、ドーム状(半球状、先端が半球状である柱状のものも含む)の形状を示すものについては、ドーム状のシリコン構造物と表記する。なお、これらをまとめてシリコン構造物と表記する場合もある。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、高密度に集積化されたシリコンの微小構造物を有する半導体膜、及びその作製方法を提供できる。また、密度が制御されたシリコンの微小構造物を有する半導体膜、及びその作製方法を提供できる。また、充放電容量が向上した蓄電装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施の形態に係る半導体膜を説明する図。
【図2】実施の形態に係る半導体膜の作製方法を説明する図。
【図3】実施の形態に係る半導体膜の作製方法を説明する図。
【図4】実施の形態に係る半導体膜を説明する図。
【図5】実施の形態に係る半導体膜の作製方法を説明する図。
【図6】実施の形態に係る蓄電装置を説明する図。
【図7】実施の形態に係る電動自転車を説明する図。
【図8】実施の形態に係る電気自動車を説明する図。
【図9】実施例1に係る半導体膜のSEM観察像。
【図10】実施例1に係る半導体膜のSTEM観察像。
【図11】実施例2に係る半導体膜のSTEM観察像。
【図12】実施例2に係る半導体膜の電子線回折像。
【発明を実施するための形態】
【0033】
実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。但し、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、以下に説明する発明の構成において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、その繰り返しの説明は省略する。
【0034】
なお、本明細書で説明する各図において、各構成の大きさ、層の厚さ、または領域は、明瞭化のために誇張されている場合がある。よって、必ずしもそのスケールに限定されない。
【0035】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様であるシリコン構造物を有する半導体膜と、その作製方法について図1乃至図4を用いて説明する。
【0036】
≪半導体膜の構成例≫
図1(A)は、本実施の形態で例示する、針状のシリコンウィスカを有する半導体膜の断面概略図である。
【0037】
本発明の一態様である半導体膜は、基板101上に形成され、シリサイド層103と、シリサイド層103上に微小なシリサイド粒105と、シリサイド層103及びシリサイド粒105に接し、且つこれらを覆うシリコン層107とを有する。シリコン層107は針状のシリコンウィスカ111及び113を有する。
【0038】
シリサイド層103は、後に説明する金属層109を構成する金属とシリコンとが反応したシリサイドで構成される。また、シリサイド粒105も同様の構成元素から構成される。なお、シリサイド層103と、シリサイド粒105とは、構成元素は同じであるが、それぞれ異なる組成や結晶構造を有していても良い。
【0039】
図1(A)には、針状のシリコンウィスカ111の長軸方向に沿った断面と、針状のシリコンウィスカ113の長軸方向に概略垂直方向に沿った断面を示している。なお、シリコン層107と、シリコンウィスカ111及び113との境界は明瞭でないため、図中には明示していない。
【0040】
シリコン層107、並びに針状のシリコンウィスカ111及び113は結晶性を有する。また、針状のシリコンウィスカ111及び113は、長軸方向に一軸配向性を有していてもよい。
【0041】
ここで、図1(A)中の破線で囲ったシリコン層107とシリサイド層103との境界付近における、シリサイド粒105を含む領域について、拡大した図を図1(B)に示す。
【0042】
シリサイド層103の表面は凹凸形状を有し、当該表面近傍に、若しくは表面に近接して、多数のシリサイド粒105が存在する。
【0043】
シリサイド層103の膜厚は、1nm以上100nm未満、好ましくは1nm以上50nm未満である。
【0044】
また、シリサイド粒105の形状は粒状であれば特に限定されず、球状、楕円体などを含む。また、その粒径は、1nm以上50nm未満である。ここで、本明細書等においてシリサイド粒の粒径とは、シリサイド粒のあらゆる断面に対し、最も長くなる2点間の距離である。
【0045】
ここで、シリサイド層103及びシリサイド粒105の組成について触れておく。これらを構成するシリサイドは、シリサイド層103、またはシリサイド粒105の内部に渡って均一な組成を必ずしも有していない。シリサイド層103では、シリコン層107との界面に近いほど、含まれるシリコンの割合が高くなる傾向がある。また、シリサイド粒105の組成は、シリサイド層103のシリコン層107との界面に近い領域の組成と同様、シリコンの割合の高い(シリコンリッチな)シリサイドから構成される。一方、シリサイド層103において膜厚方向に深い箇所では、シリコンの割合の低いシリサイドで構成されており、作製条件によってはシリサイド化されていない金属が残留している場合がある。
【0046】
≪半導体膜の作製方法≫
次に、針状のシリコンウィスカを有する半導体膜の作製方法について、図2を用いて説明する。
【0047】
まず、基板101上に金属層109を形成する。
【0048】
基板101には、後の工程の処理温度に耐えうる基板を用いる。例えばガラス基板、石英基板、セラミック基板、半導体基板、若しくは金属からなる基板を用いることができる。蓄電装置の電極として用いる場合は、金属からなる基板を用いることが好ましい。また、基板101は箔状、板状、網状の形状を有していても良い。
【0049】
金属層109には、シリコンと反応し、シリサイドを形成する金属を用いる。シリサイドを形成する金属としては、例えばチタン(Ti)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)等が挙げられる。特に比較的シリコンに対する拡散係数の小さいチタンを用いると、シリサイド層の膜厚の制御性を高めることが出来るため好ましい。本実施の形態では、金属層109に用いる金属としてチタンを用いる。
【0050】
金属層109の形成は、印刷法、ゾルゲル法、塗布法、インクジェット法、スパッタリング法、蒸着法等を適宜用いて形成することができる。
【0051】
金属層109は、後にシリコンと反応してシリサイド層を形成する。金属層109の膜厚は、金属層109が全てシリコンと反応した後のシリサイド層の膜厚が1nm以上100nm未満、好ましくは1nm以上50nm未満となるように、適宜設定する。
【0052】
本実施の形態では、金属層109として、膜厚10nmのチタン膜をスパッタリング法により形成する(図2(A)参照)。
【0053】
続いて、金属層109を構成する金属元素とシリコンとが反応し、シリサイド層が形成されるように、シリコンを成膜する。当該成膜方法はLPCVD法、PECVD法などの各種堆積方法を適宜用いることができる。例えばPECVD法を用いる場合は、13.56MHz乃至2.45GHzの範囲のRF電源周波数を用いて、金属層109を構成する金属元素とシリコンとが反応し、所望のシリサイド膜厚が形成されるよう、基板温度、圧力、ガス流量、RF電源電力等を適宜調整すればよい。
【0054】
本実施の形態では、LPCVD法を用いてシリコンを成膜する。成膜はシリコンを含む堆積性ガスを含む原料ガスを供給し、500℃より高い温度で且つ装置および基板101が耐えうる温度以下、好ましくは580℃以上650℃未満の温度で行えばよい。また圧力は原料ガスを流して保持できる下限以上(例えば5Pa以上)1000Pa以下、好ましくは5Pa以上200Pa以下とする。
【0055】
上記シリコンを含む堆積性ガスとしては、水素化珪素ガス、フッ化珪素ガス、または塩化珪素ガスがあり、代表的にはSiH、Si、SiF、SiCl、SiCl等がある。なお、上記ガスに水素を導入しても良い。また、原料ガスにヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン等の希ガス、または窒素を混合しても良い。
【0056】
また、原料ガスにリン、ボロンなどのシリコンに一導電型を付与する不純物元素を含むガスを混合しても良い。リン、ボロンなどの一導電型を付与する不純物元素が添加されたシリコンをシリコン層、及びシリコン構造物に用いることにより、これらの導電性を高めることが出来る。これを蓄電装置の電極の活物質に用いることにより充放電特性をさらに高めることが出来る。
【0057】
なお、LPCVD法の温度、圧力、時間、ガス流量等は、金属層109を構成する金属とシリコンとが反応し、シリサイドを形成するよう適宜調整する。本実施の形態では、原料ガスにSiHと窒素の混合ガスを用い、20Pa、600℃で1時間保持するよう成膜を行う。
【0058】
LPCVD法により、金属層109を構成する金属とシリコンとが反応し、シリサイド層103が形成される。本実施の形態では、金属層109を構成する金属がほぼ全層に渡ってシリサイド反応し、シリサイド層103になる。ここで、条件によってはシリサイド層103の下部にシリサイド化していない金属層が残る場合もある。
【0059】
シリサイド層103の表面には凹凸形状が形成され、さらにシリサイド層103の表面近傍、又は表面に近接して複数のシリサイド粒105が形成される。シリサイド粒105の粒径はシリサイド層103の膜厚に応じて大きくなるが、1nm以上100nm未満、好ましくは1nm以上50nm未満である。
【0060】
金属層109を構成する金属がシリサイド化する際、その体積膨張により圧縮応力が発生する。この圧縮応力は形成されるシリサイドの膜厚が薄い場合、膜厚方向に緩和させることが出来ずにシリサイド層表面に向かって集中する。その結果、シリサイド層表面の凹凸形状の起伏が激しくなる。したがって、シリサイド層表面の凸部から分離したシリサイド粒は極めて微小なものとすることができる。
【0061】
また、このようにして形成されたシリサイド粒は、1μm当たり十個乃至数百個程度とすることが出来る。シリコンの成膜条件にもよるが、針状のシリコンウィスカの断面積はおおよそ数百nm乃至数百μm程度であることを考慮すると、針状のシリコンウィスカの成長核となるシリサイド粒は極めて高密度に分布する。従って、針状のシリコンウィスカを極めて高密度に形成することが可能となる。
【0062】
また、シリサイド層103及び複数のシリサイド粒105に接して覆う、シリコン層107、及び複数の針状のシリコンウィスカ(シリコンウィスカ115、117及び119)が形成される(図2(B))。
【0063】
針状のシリコンウィスカは、シリサイド粒105を核として成長する。シリサイド粒105の径が小さいほど、シリコンウィスカの形状は針状になりやすい。また、シリコン層107の表面には針状のシリコンウィスカのほかに、凸部が混在して形成されることがある。
【0064】
以上の工程により、基板101上に極めて高密度に針状のシリコンウィスカを有する半導体膜を形成することができる。またこのような工程を経て形成された半導体膜は、シリサイド層103の表面近傍、又は表面に近接してシリサイド粒105を有し、シリサイド層103の膜厚が1nm以上100nm未満、好ましくは1nm以上50nm未満であり、シリサイド粒105の粒径が1nm以上50nm未満であることを特徴としている。
【0065】
以上のように、本発明の作製方法によれば、極めて高密度に針状のシリコンウィスカを有する半導体膜を形成することができる。また、このような極めて高密度な針状のシリコンウィスカを有する半導体膜を、蓄電装置の電極の活物質として用いることにより、充放電容量が向上した蓄電装置とすることが可能となる。
【0066】
≪変形例1≫
次に、上記とは異なる構成の、針状のシリコンウィスカを有する半導体膜とその作製方法について、図3を用いて説明する。
【0067】
図3(B)に示す針状のシリコンウィスカを有する半導体膜は、金属からなる基板121の表面近傍がシリサイド化されたシリサイド層123を有し、シリサイド層123の表面近傍、又は表面に近接して多数のシリサイド粒125を有する。さらにシリサイド層123及び多数のシリサイド粒125に接して覆う、複数の針状のシリコンウィスカ(シリコンウィスカ131、133、及び135)を有するシリコン層127を有する。
【0068】
図3(B)に示す針状のシリコンウィスカを有する半導体膜の構成は、金属からなる基板121の表面近傍がシリサイド化されたシリサイド層123を有する点で、上記の構成と異なる。なお、ここでは上記と異なる点について詳細を説明するが、共通する部分については詳細な説明は省略する。
【0069】
基板121には、シリコンと反応し、シリサイドを形成する金属を用いる。シリサイドを形成する金属としては、上記金属層109に用いる金属と同様なものを用いることができる。本実施の形態では基板121を構成する金属としてチタンを用いる。
【0070】
基板121の表面近傍は、基板121を構成する金属とシリコンとが反応したシリサイド層123が形成されている。シリサイド層123の膜厚は、上記シリサイド層103と同様、1nm以上100nm未満、好ましくは1nm以上50nm未満である。
【0071】
また、シリサイド層123の表面近傍、または表面に近接して多数のシリサイド粒125を有する。シリサイド粒125は上記シリサイド粒105と同様の特徴を有している。
【0072】
なお、シリサイド層123及びシリサイド粒125の組成は、上記と同様、必ずしも均一な組成を有しておらず、シリコン層127との界面に近いほど、シリコンリッチな組成を示す。
【0073】
作製方法としては、まず金属からなる基板121を準備する(図3(A))。続いて基板121に対して直接、シリコンの成膜を行えばよい。その際、基板121の表面に形成されるシリサイド層123の膜厚が1nm以上100nm未満、好ましくは1nm以上50nm未満となるような条件で成膜を行うことにより、図3(B)に示したような、シリコン層127及び複数の針状のシリコンウィスカ(シリコンウィスカ131、133及び135)を形成することができる。
【0074】
≪変形例2≫
上記で示した針状のシリコンウィスカの作製方法に対し、シリコンと反応して形成されるシリサイド層の膜厚が100nm以上の厚膜となるよう形成し、シリサイド粒の粒径を50nm以上とすることにより、針状のシリコンウィスカとは異なる形状のシリコン微小構造物を作製することが出来る。
【0075】
図4に本発明の一態様である、基板101上に形成されたシリコン構造物を有する半導体膜の断面概略図を示す。
【0076】
図4に示すドーム状のシリコン構造物を有する半導体膜は、基板101上に金属層149と、金属層149の表面近傍がシリサイド化されたシリサイド層143を有し、シリサイド層143の表面近傍、又は表面に近接して多数のシリサイド粒145を有する。さらにシリサイド層143及び多数のシリサイド粒145に接して覆う、複数のドーム状のシリコン構造物(シリコン構造物151乃至154)を有するシリコン層147を有する。
【0077】
複数のシリコン構造物151乃至154はドーム状(半球状、先端が半球状の柱状を含む)の形状を有し、結晶性を有する、シリコンからなる微小構造物である。シリコン構造物151乃至154は、上記針状のシリコンウィスカと同様、シリコン層147とは明瞭な境界はみられない。
【0078】
シリサイド層143は100nm以上の膜厚を有し、その表面近傍に、又は近接して、多数のシリサイド粒145を有する。シリサイド粒145の粒径は50nm以上である。
【0079】
なお、シリサイド層143及びシリサイド粒145の組成は、上記と同様、必ずしも均一な組成を有しておらず、シリコン層147との界面に近いほど、シリコンリッチな組成を示す。
【0080】
また、図4には、基板101とシリサイド層143との間に、シリコンとは反応せずに残留している金属層149を示している。金属層149は、シリコンの成膜工程を経る前の成膜膜厚や、シリコンの成膜条件などによって全てシリサイド層143となる場合もある。
【0081】
このようなドーム状の形状を有するシリコン構造物151乃至154を形成するには、実施の形態1で示した工程において、まず基板上に形成する金属層の膜厚を、シリサイド反応した後のシリサイド層の膜厚が100nm以上になる膜厚として成膜を行う。その後、シリサイド層の膜厚が100nm以上となるように、シリコン層147を成膜することにより、シリコン構造物151乃至154を形成することができる。
【0082】
シリコンの成膜時、シリサイド反応が膜厚方向に(金属層に向かって)深く進むと、体積膨張によって生じる圧縮応力は膜厚方向に緩和される。その結果シリサイド層表面の凹凸形状の起伏が緩やかになり、凸部から分離したシリサイド粒の粒径が大きくなる。大きなシリサイド粒が起点となって成長したシリコン構造物の形状は、針状ではなくドーム状(半球状)となりやすい。このような方法によって作製されたドーム状(半球状)のシリコン構造物を有する半導体膜は、シリコン層とシリサイド層との界面付近に大きなシリサイド粒を有する。シリサイド粒の粒径は50nm以上である。
【0083】
また、上記変形例1と同様に、シリサイドを形成する金属からなる基板上に、ドーム状のシリコン構造物を形成することもできる。
【0084】
このようなドーム状の形状のシリコン構造物を有する半導体膜は、通常のシリコン膜に比べて表面積の大きい半導体膜とすることが出来る。また、針状のシリコンウィスカに比べて、膜厚方向の高さが低い特徴から、これを例えば蓄電装置の電極の活物質に用いた場合でも、電極とセパレータとの距離を小さくできるため、極めて薄く、且つ充放電特性が改善された蓄電装置とすることが出来る。
【0085】
なお、本実施の形態は、本明細書中に示す他の実施の形態及び実施例と、適宜組み合わせて実施することが出来る。
【0086】
(実施の形態2)
実施の形態1で示したように、本発明の一態様の、針状のシリコンウィスカを有する半導体膜の作製方法を用いると極めて高密度に針状のシリコンウィスカを形成することができる。しかし、このような極めて高密度に形成された針状のシリコンウィスカを、蓄電装置の電極の活物質に用いると不具合が生じる場合がある。例えば、リチウムイオン蓄電装置の場合、充放電の際に活物質にリチウムイオンが取り込まれる際に、活物質は体積膨張を起こす。本発明の一態様である、極めて高密度に形成された針状のシリコンウィスカを活物質に用いると、この体積膨張によって針状のシリコンウィスカ同士が干渉、接触し、折れてしまう危険性が生じる。
したがって本実施の形態では、密度が制御された、針状のシリコンウィスカを有する半導体膜とその作製方法について説明する。
【0087】
図5(C)に、本実施の形態で例示する、選択的に形成された針状のシリコンウィスカを有する半導体膜の断面概略図を示す。
【0088】
本実施の形態で例示する半導体膜は、基板101上に金属層171を有し、金属層171上に接し、開口部を有する絶縁層175を有する。絶縁層175の開口部には、金属層171を構成する金属元素とシリコンとが反応したシリサイドからなるシリサイド層163を有し、シリサイド層163の表面近傍に、又は表面に近接して多数のシリサイド粒165を有する。さらに絶縁層175並びにシリサイド層163及びシリサイド粒165に接して覆う、複数の針状のシリコンウィスカ177及び178を有するシリコン層167を有する。シリコンウィスカ177及び178は、絶縁層175の開口部及びシリサイド層163と重畳して形成され、シリコン層167の絶縁層175と重畳する領域にはシリコンウィスカは形成されない。
【0089】
基板101は、実施の形態1で示した基板を用いることができる。また、金属層171を構成する金属元素としても同様に、実施の形態1で示した金属を用いることができる。
【0090】
シリサイド層163は、金属層171を構成する金属元素と、シリコンとが反応したシリサイドからなる。また、シリサイド層163の表面近傍、または表面に近接して、多数のシリサイド粒165が散在している。シリサイド層163、及びシリサイド粒165は、実施の形態1で示したものと同様の特徴を有する。ここで、シリサイド層163の、外周部付近を除く領域での膜厚は1nm以上100nm未満であり、シリサイド粒165の粒径は1nm以上50nm未満である。
【0091】
なお図5(C)に示すように、シリサイド層163は、絶縁層175の開口部の外周部において、膜厚の厚い部分を有していていも良い。これは、シリサイド反応時の体積膨張における圧縮応力が、絶縁層175の開口部の外周部に集中することにより、形成されるシリサイドがこの部分で上部に向けて盛り上がる、またはシリサイド反応が膜厚方向に深く進行することに起因する。また、シリサイド層163は、開口部の外周部において絶縁層175の下部にも形成されていてもよい。
【0092】
シリコン層167は、絶縁層175、及びその開口部を覆うように形成されるが、針状のシリコンウィスカ177及び178は、絶縁層175の開口部にのみ形成される。したがって、針状のシリコンウィスカを形成する箇所にのみ、絶縁層175の開口部を設けることにより、選択的に針状のシリコンウィスカを形成することができ、基板面内における針状のシリコンウィスカの密度を任意に制御することが可能となる。
【0093】
次に、上記針状のシリコンウィスカの作製方法について、図5(A)乃至図5(C)を用いて説明する。
【0094】
まず、基板101上に、金属層169及び絶縁層173を形成する。金属層169は、実施の形態1で示したものと同様の材料、方法を用いて形成することができる。
【0095】
絶縁層173には、例えば酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜、窒化酸化シリコン膜、酸化アルミニウム膜、窒化アルミニウム膜、酸化窒化アルミニウム膜、窒化酸化アルミニウム膜、酸化ハフニウム膜、酸化タンタル膜、または酸化ガリウム膜など、後の工程の熱に耐えうる絶縁膜を用いる。絶縁層173は、プラズマCVD法、スパッタリング法など、通常の半導体の作製工程に用いられる方法により形成することができる。なお、後の熱処理に対する耐熱性を有するのであれば、無機絶縁膜に限られず、有機絶縁膜も用いることができる。
【0096】
本実施の形態では、ガラス基板上に金属層169として厚さ300nmのチタン膜を用い、絶縁層173として、厚さ450nmの酸化窒化シリコン膜を用い、両者共にスパッタリング法により形成する(図5(A))。
【0097】
その後、公知のフォトリソグラフィ法を用いて絶縁層173を選択的にエッチングし、開口部を有する絶縁層175を形成する(図5(B))。
【0098】
絶縁層173に開口部を形成する方法は任意だが、フォトリソグラフィ法を用いることにより、微細な開口パターンを形成することができる。具体的には、開口部のサイズと、隣接する開口部との距離とを、針状のシリコンウィスカの直径と同等のサイズにまで縮小することが出来る。ここで、開口パターンが大きい、すなわち開口部のサイズ及び開口部間の距離が大きいと、基板面内において、針状のシリコンウィスカが高密度に密集した開口部の領域と、針状のシリコンウィスカが全く形成されない領域とが、それぞれ形成される。これを蓄電装置の電極の活物質に用いた場合、針状のシリコンウィスカが密な領域では、上記のように充放電の際の体積膨張により、互いに干渉、接触し折れてしまう危険性がある。しかし、フォトリソグラフィ法を用いて針状のシリコンウィスカの直径と同等の微細なパターンを用いることにより、1つの開口部に形成されるシリコンウィスカの数を低減し、且つその開口部間の距離をシリコンウィスカ同士が干渉、接触しない程度の近い距離とすることができ、基板面内で、針状のシリコンウィスカの密度を最適な密度に均一にすることが可能となるため好ましい。
【0099】
その後、絶縁層175、及び絶縁層175の開口部に露出した金属層169上に、シリコン層167、及び針状のシリコンウィスカ177及び178を形成する。シリコンの成膜は、実施の形態1で示したものと同様の方法を適用することが出来る。
【0100】
シリコン層167の形成時、絶縁層175の開口部において、金属層169を構成する金属元素とシリコンとが反応したシリサイドからなるシリサイド層163と、この表面近傍、または表面に近接する多数のシリサイド粒165とが形成され、その下層には未反応の金属層171が残る。
【0101】
針状のシリコンウィスカの成長の核となるシリサイド粒165が、絶縁層175の開口部のみに形成されるため、針状のシリコンウィスカは当該開口部に重畳した領域にのみ選択的に形成され、絶縁層175を有する領域には針状のシリコンウィスカは形成されない。
【0102】
以上のようにして、基板上に選択的に針状のシリコンウィスカを形成することができる。このようにして針状のシリコンウィスカを選択的に形成することにより、基板面内での針状のシリコンウィスカの密度を適宜制御することが出来る。このように密度が制御された針状のシリコンウィスカを蓄電装置の電極の活物質に用いることにより、充放電容量が向上し、且つ信頼性の高い蓄電装置とすることが出来る。
【0103】
なお、本実施の形態では、基板101を用いる構成としたが、上記実施の形態1内の変形例1で示したように、シリコンと反応してシリサイドを形成する金属からなる基板を用いて、当該基板上に開口部を有する絶縁層を形成し、針状のシリコンウィスカを選択的に形成してもよい。
【0104】
また、基板上に金属層を形成し、シリコン構造物を形成する所望の領域を残して当該金属層をエッチングした後、当該領域上に選択的にシリコン構造物を形成することもできる。このような形成方法を用いることで、工程を簡略化することが出来る。
【0105】
また、本実施の形態と、実施の形態1内の変形例2で示したドーム状のシリコン構造物の作製方法とを組み合わせて、選択的にドーム状のシリコン構造物を形成することもできる。
【0106】
なお、本実施の形態は、本明細書中に例示する他の実施の形態及び実施例と適宜組み合わせて実施することが出来る。
【0107】
(実施の形態3)
実施の形態1及び実施の形態2で説明したシリコン構造物は、蓄電装置の電極として用いることができる。少なくとも一対の電極、電解質およびセパレータを用いることで、二次電池または、キャパシタとすることができる。
【0108】
本実施の形態は、上記蓄電装置の例として、一対の電極の一方を実施の形態1及び実施の形態2で説明したシリコン構造物を用いて、もう一方を、LiCoO等のリチウム含有金属酸化物を用いたリチウムイオン二次電池と、その作製方法について、図6を用いて説明する。
【0109】
図6(A)は、蓄電装置951の平面図であり、図6(A)の一点鎖線A−Bの断面図を図6(B)に示す。
【0110】
図6(A)に示す蓄電装置951は、外装部材953の内部に蓄電セル955を有する。また、蓄電セル955に接続する端子部957、959を有する。外装部材953は、ラミネートフィルム、高分子フィルム、金属フィルム、金属ケース、プラスチックケース等を用いることができる。
【0111】
図6(B)に示すように、蓄電装置951は、負極963と、正極965と、負極963及び正極965の間に設けられるセパレータ967と、外装部材953中に満たされる電解質969とで構成される。ここで図に示すように、負極963、正極965、及びセパレータ967を含む構成がひとつの蓄電セル955となる。
【0112】
負極963は、負極集電体971及び負極活物質層973で構成される。負極として、実施の形態1及び実施の形態2に示す金属からなる基板を電極に用いることができる。
【0113】
負極活物質層973は、実施の形態1及び実施の形態2に示すシリコン構造物を有する半導体膜を備える活物質層を用いることができる。なお、シリコン構造物層にリチウムをプリドープしてもよい。また、LPCVD装置において、負極集電体971を枠状のサセプターで保持しながら結晶性シリコン層で形成される負極活物質層973を形成することで、負極集電体971の両面に同時に負極活物質層973を形成することが可能であるため、工程数を削減することができる。
【0114】
正極965は、正極集電体975及び正極活物質層977で構成される。
【0115】
負極活物質層973は、負極集電体971の一方又は両方の面に形成される。正極活物質層977は、正極集電体975の両方の面に形成される。
【0116】
また、負極集電体971は、端子部959と接続する。また、正極集電体975は、端子部957と接続する。また、端子部957、端子部959は、それぞれ一部が外装部材953の外側に導出されている。
【0117】
なお、本実施の形態では、蓄電装置951として、パウチ加工された薄型蓄電装置を示したが、ボタン型蓄電装置、円筒型蓄電装置、角型蓄電装置等様々な形状の蓄電装置を用いることができる。また、本実施の形態では、正極、負極、及びセパレータが積層された構造を示したが、正極、負極、及びセパレータが捲回された構造であってもよい。
【0118】
正極集電体975は、アルミニウム、ステンレス等を用いる。正極集電体975は、箔状、板状、網状等の形状を適宜用いることができる。
【0119】
正極活物質層977は、LiFeO、LiCoO、LiNiO、LiMn、LiFePO、LiCoPO、LiNiPO、LiMnPO、V、Cr、MnO、その他のリチウム化合物を材料として用いることができる。なお、キャリアイオンが、リチウム以外のアルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンの場合、正極活物質層977として、上記リチウム化合物においてリチウムの代わりに、アルカリ金属(例えば、ナトリウムやカリウム等)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等)、ベリリウム、マグネシウムを用いることもできる。
【0120】
電解質969の溶質は、キャリアイオンであるリチウムイオンを移送可能で、且つリチウムイオンが安定に存在する材料を用いる。電解質の溶質の代表例としては、LiClO、LiAsF、LiBF、LiPF、Li(CSON等のリチウム塩がある。なお、キャリアイオンが、リチウム以外のアルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンの場合、電解質969の溶質として、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩、ベリリウム塩、マグネシウム塩等を適宜用いることができる。
【0121】
また、電解質969の溶媒としては、リチウムイオンの移送が可能な材料を用いる。電解質969の溶媒としては、非プロトン性有機溶媒が好ましい。非プロトン性有機溶媒の代表例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γーブチロラクトン、アセトニトリル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等があり、これらの一つまたは複数を用いることができる。また、電解質969の溶媒としてゲル化される高分子材料を用いることで、漏液性を含めた安全性が高まる。また、蓄電装置951の薄型化及び軽量化が可能である。ゲル化される高分子材料の代表例としては、シリコンゲル、アクリルゲル、アクリロニトリルゲル、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、フッ素系ポリマー等がある。
【0122】
また、電解質969として、LiPO等の固体電解質を用いることができる。
【0123】
セパレータ967は、絶縁性の多孔体を用いる。セパレータ967の代表例としては、セルロース(紙)、ポリエチレン、ポリプロピレン等がある。
【0124】
リチウムイオン電池は、メモリー効果が小さく、エネルギー密度が高く、放電容量が大きい。また、動作電圧が高い。これらのため、小型化及び軽量化が可能である。また、充放電の繰り返しによる劣化が少なく、長期間の使用が可能であり、コスト削減が可能である。
【0125】
次に、蓄電装置として、キャパシタについて、説明する。キャパシタの代表例としては、二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等がある。
【0126】
キャパシタの場合は、図6(A)に示す二次電池の正極活物質層977の代わりに、リチウムイオン及び/またはアニオンを可逆的に吸蔵または吸着できる材料を用いればよい。当該材料の代表例としては、活性炭、導電性高分子、ポリアセン有機半導体(PAS)がある。
【0127】
リチウムイオンキャパシタは、充放電の効率が高く、急速充放電が可能であり、繰り返し利用による寿命も長い。
【0128】
負極963に実施の形態1及び実施の形態2に示すシリコン構造物を有する負極を用いることで、放電容量が高く、繰り返し充放電による電極の劣化を低減した蓄電装置を作製することができる。
【0129】
また、蓄電装置の一形態である空気電池の負極に実施の形態1及び実施の形態2に示すシリコン構造物を有する集電体及び活物質層を用いることで、放電容量が高く、繰り返し充放電による電極の劣化を低減した蓄電装置を作製することができる。
【0130】
なお、本実施の形態は、本明細書中に例示する他の実施の形態及び実施例と適宜組み合わせて実施することが出来る。
【0131】
(実施の形態4)
実施の形態1及び実施の形態2で説明した針状のシリコンウィスカは、その形状を活かし、次のような用途にも用いることができる。例えば、測定機器に用いられている探針(プローブ)、電子銃、またはMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)にも用いることができる。
【0132】
さらに、本実施の形態では、実施の形態3で説明した蓄電装置の応用形態について図7および図8を用いて説明する。
【0133】
実施の形態3で説明した蓄電装置は、デジタルカメラやビデオカメラ等のカメラ、デジタルフォトフレーム、携帯電話機(携帯電話、携帯電話装置ともいう)、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、音響再生装置等の電子機器に用いることができる。また、電気自動車、ハイブリッド自動車、鉄道用電気車両、作業車、カート、車椅子等の電気推進車両に用いることができる。ここでは、電気推進車両の代表例として、電動自転車と電気自動車を用いて説明する。
【0134】
図7は電動自転車(電動アシスト自転車ともいう。)の斜視図である。電動自転車1001は、使用者が座るサドル1002、ペダル1003、フレーム1004、2つの車輪1005、車輪1005の一方を操舵するハンドル1006、フレーム1004に装着された駆動部1007、ハンドル1006付近に設置された表示装置1008を有している。
【0135】
駆動部1007は、モーター、バッテリー、コントローラなどを有している。コントローラは、バッテリーの状況(電流、電圧、バッテリー温度など)を検出し、走行時にはバッテリーからの放電量を調整することでモーターを制御し、充電時には充電量の制御を行う。また、駆動部1007に、使用者がペダル1003を踏む力や、走行速度などを検知するセンサーを設け、センサーからの情報に応じてモーターを制御してもよい。なお、図7では、駆動部1007をフレーム1004に取り付ける構成を示しているが、駆動部1007の取り付け位置はこれに限定されない。
【0136】
表示装置1008には表示部、切り換えボタンなどが設けられている。表示部においてバッテリー残量や走行速度などを表示する。また、切り換えボタンによって、モーターの制御や、表示部の表示の切り換えを行う。なお、図7では、表示装置1008をハンドル1006の周辺に取り付ける構成を示しているが、表示装置1008の配置はこれに限定されない。
【0137】
実施の形態3で説明した蓄電装置を、駆動部1007のバッテリーに用いることができる。駆動部1007のバッテリーは、プラグイン技術や非接触給電による外部からの電力供給により、充電をすることができる。また、実施の形態3で説明した蓄電装置を、表示装置1008に用いてもよい。
【0138】
図8(A)は電気自動車1101の斜視図である。図8(B)は、図8(A)で示した電気自動車1101の透視図である。電気自動車1101は、モーター1103に電流を流すことによって、動力を得るものである。電気自動車1101は、モーター1103に電流を流すための電力を供給するバッテリー1105、および電力制御部1107を有する。なお、図8では、バッテリーを充電する為の手段として、特に図示しないが、別途発電機等を設けて、充電する構成としてもよい。
【0139】
実施の形態3で説明した蓄電装置をバッテリー1105に用いることができる。バッテリー1105は、プラグイン技術や非接触給電による外部からの電力供給により充電をすることができる。なお、電気推進車両が鉄道用電気車両の場合、架線や導電軌条からの電力供給により充電をすることができる。
【0140】
なお、本実施の形態は、本明細書中に例示する他の実施の形態及び実施例と適宜組み合わせて実施することが出来る。
【実施例1】
【0141】
本実施例では、実施の形態1で示した方法により、針状のシリコンウィスカを有する半導体膜と、ドーム状のシリコン構造物を有する半導体膜とを作製し、それぞれの半導体膜について観察を行った。
【0142】
以降、針状のシリコンウィスカを有する半導体膜を形成した試料を試料1、ドーム状のシリコン構造物を有する半導体膜を形成した試料を試料2とする。
【0143】
まずガラス基板上にスパッタリング法を用いてチタン膜を形成した。試料1ではチタンの膜厚を10nmとし、試料2ではチタンの膜厚を300nmとした。
【0144】
続いて、両者に対してLPCVD法を用いてシリコン膜の成膜を行った。成膜は、SiHとNとを混合比1:1の割合で混合した成膜ガスを流しながら、圧力20Pa、温度600℃で1時間保持するよう成膜を行い、シリコン構造物が形成された試料1及び試料2を得た。
【0145】
続いて、試料1及び試料2についてSEM(Scanning Electron Microscopy)法による観察を行った。図9(A)に試料1の、図9(B)に試料2の観察結果をそれぞれ示す。
【0146】
試料1では、針状のシリコンウィスカが極めて高密度に形成されていることが確認できた。また、試料2では、ドーム状(半球状)のシリコン構造物が極めて高密度に形成されていることが確認できた。
【0147】
続いて、試料1及び試料2に対して、シリサイド層近傍の断面観察を、STEM(Scanning Transmission Electron Microscopy)法を用いて行った。図10(A)に試料1の、図10(B)に試料2の観察結果をそれぞれ示す。
【0148】
試料1では、ガラス基板上に膜厚約11nmのシリサイド層上に平均粒径約18nmのシリサイド粒が複数観測され、これらを覆うようにシリコン層を有していた。
【0149】
一方、試料2ではガラス基板上に膜厚約50nmのチタン層と、チタン層上に膜厚約410nmのチタンシリサイド層と、チタンシリサイド層上に平均粒径約64nmのシリサイド粒が複数観測され、これらを覆うようにシリコン層を有していた。また、チタンシリサイド層は、組成の大きく異なる2層に分かれており、下部はシリコン濃度が低く、上部はシリコン濃度の高いシリサイドで構成されていることが確認された。
【0150】
なお、本実施例は、本明細書中に例示する他の実施例及び実施の形態と適宜組み合わせて実施することが出来る。
【実施例2】
【0151】
本実施例では、実施の形態1で例示した方法により、ドーム状のシリコン構造物を形成し、シリコン層との界面近傍における、シリサイド層及びシリサイド粒の結晶構造の同定を、電子線回折測定法を用いて試みた。
【0152】
まず、ガラス基板上に厚さ100nmのチタン膜をスパッタリング法により成膜した。次いで、LPCVD法を用いてシリコン膜の成膜を行った。成膜は、SiHとNとを混合比1:1の割合で混合した成膜ガスを流しながら、圧力20Pa、温度600℃で1時間保持するよう成膜を行い、ドーム状のシリコン構造物が形成された試料3を得た。
【0153】
続いて、試料3に対してシリサイド層近傍の断面観察を、STEM法を用いて行った。図11に断面観察結果を示す。
【0154】
断面観察の結果から、シリコン層との界面近傍ではシリサイド層は多数のグレインを含む多結晶層であることが確認された。また、シリサイド層上には多数のシリサイド粒を有することが確認された。
【0155】
続いて、シリサイド粒及びシリサイド層について、電子線回折測定法により回折像を観察し、結晶構造の同定を試みた。測定は、図11内に示すシリサイド粒における領域1、及びシリサイド層における領域2について行った。
【0156】
図12(A)及び図12(B)に、それぞれ領域1、領域2における電子線回折像を示す。測定された回折スポット群から結晶構造の同定を行った。図12(A)及び図12(B)には、いくつかの回折スポットに対応する面指数を示している。
【0157】
図12(A)に示す回折像から、領域1における結晶構造は、C54相のTiSiであり、図12(A)に示す回折像は[130]入射の回折像であることが確認された。
【0158】
一方、図12(B)に示す回折像から、領域2における結晶構造は、C49相のTiSiであり、図12(B)に示す回折像は[101]入射の回折像であることが確認された。
【0159】
以上の結果から、シリコン層との界面近傍におけるシリサイド層は、シリコンリッチな結晶性のシリサイドから構成されていることが確認できた。また、シリサイド粒も同様に、シリコンリッチな結晶性のシリサイドから構成されていることが分かった。
【0160】
さらに、シリサイド層を構成するチタンシリサイドと、シリサイド粒を構成するチタンシリサイドとは、異なる結晶構造を有していることが確認できた。
【0161】
なお、本実施例は、本明細書中に記載する他の実施例及び実施の形態と適宜組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0162】
101 基板
103 シリサイド層
105 シリサイド粒
107 シリコン層
109 金属層
111 シリコンウィスカ
113 シリコンウィスカ
115 シリコンウィスカ
117 シリコンウィスカ
119 シリコンウィスカ
121 基板
123 シリサイド層
125 シリサイド粒
127 シリコン層
131 シリコンウィスカ
133 シリコンウィスカ
135 シリコンウィスカ
143 シリサイド層
145 シリサイド粒
147 シリコン層
149 金属層
151 シリコン構造物
152 シリコン構造物
153 シリコン構造物
154 シリコン構造物
163 シリサイド層
165 シリサイド粒
167 シリコン層
169 金属層
171 金属層
173 絶縁層
175 絶縁層
177 シリコンウィスカ
178 シリコンウィスカ
951 蓄電装置
953 外装部材
955 蓄電セル
957 端子部
959 端子部
963 負極
965 正極
967 セパレータ
969 電解質
971 負極集電体
973 負極活物質層
975 正極集電体
977 正極活物質層
1001 電動自転車
1002 サドル
1003 ペダル
1004 フレーム
1005 車輪
1006 ハンドル
1007 駆動部
1008 表示装置
1101 電気自動車
1103 モーター
1105 バッテリー
1107 電力制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属を含むシリサイド層と、
前記シリサイド層上にシリサイド粒と、
前記シリサイド層、及び前記シリサイド粒に接するシリコン層と、を有し、
前記シリコン層が針状のシリコン構造物を含み、
前記シリサイド層の膜厚は、1nm以上100nm未満であり、
前記シリサイド粒の粒径は、1nm以上50nm未満である、半導体膜。
【請求項2】
金属を含むシリサイド層と、
前記シリサイド層上にシリサイド粒と、
前記シリサイド層、及び前記シリサイド粒に接するシリコン層と、を有し、
前記シリコン層がドーム状のシリコン構造物を含み、
前記シリサイド層の膜厚は、100nm以上であり、
前記シリサイド粒の粒径は、50nm以上である、半導体膜。
【請求項3】
同一基板上に、
請求項1又は請求項2に記載の半導体膜を有する第1の領域と、
前記金属を含む金属層と、前記金属層上に絶縁層と、前記絶縁層上に第2のシリコン層とを有する第2の領域と、を有し、
前記第1の領域の有するシリコン層と、前記第2のシリコン層とは連続する、半導体膜。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一において、
前記シリサイド層及び前記シリサイド粒はチタンを含む、半導体膜。
【請求項5】
金属膜の表面に、前記金属を含むシリサイド層を形成すると共に、前記シリサイド層の一部をシリサイド粒に変成し、
前記シリサイド層上にシリコン構造物を含むシリコン層を形成し、
前記シリサイド層の厚みにより、前記シリコン構造物の形状が制御される、半導体膜の作製方法。
【請求項6】
金属膜の表面に、前記金属を含むシリサイド層を形成すると共に、前記シリサイド層の一部をシリサイド粒に変成し、
前記シリサイド層上に、針状のシリコン構造物を含むシリコン層を形成し、
前記シリサイド層の厚みは、1nm以上100nm未満とし、
前記シリサイド粒の粒径は、1nm以上50nm未満とする、半導体膜の作製方法。
【請求項7】
金属膜の表面に、前記金属を含むシリサイド層を形成すると共に、前記シリサイド層の一部をシリサイド粒に変成し、
前記シリサイド層上に、ドーム状のシリコン構造物を含むシリコン層を形成し、
前記シリサイド層の厚みは、100nm以上とし、
前記シリサイド粒の粒径は、50nm以上とする、半導体膜の作製方法。
【請求項8】
請求項5乃至請求項7のいずれか一において、
前記シリサイド層及び前記シリサイド粒はチタンを含む、半導体膜の作製方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項4のいずれか一に記載の半導体膜を有する、蓄電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−129200(P2012−129200A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253924(P2011−253924)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】