説明

半発酵茶飲料の製造法

【課題】飲用性が高められた容器詰烏龍茶飲料を提供する。
【解決手段】(1)発酵度の低い茶葉から抽出液(A)を得る工程1、半発酵茶又は発酵茶葉から抽出液を得、さらに重合カテキンの精製物(B)を得る工程2、抽出液(A)及び重合カテキンの精製物(B)とを混合する工程3を含む、茶飲料の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲用性(drinkability)が高められた半発酵茶飲料の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
烏龍茶は、フィンガーボウルに用いられるように、脂を流す作用があることが知られ、リパーゼ阻害活性などの生理機能を有する他、脂っぽい食事とともに飲用すると口中がさっぱりする、すっきりするという性質を有することから、食事と一緒に飲用されることが多い。近年、缶やペットボトル等の容器に充填された容器詰茶系飲料が多く開発、市販され、容器詰烏龍茶飲料も数多く開発されている。
容器詰烏龍茶飲料の製造法としては、例えば、カテキン含有量が高く、香味が高く後味の良好な半発酵茶抽出液の製造法として、半発酵茶葉の重量に対して5〜20倍量の80〜100℃の温水を用いて抽出し(A工程)、別途半発酵茶葉の重量に対して25〜60倍量の80〜100℃の温水を用いて抽出し(B工程)、A工程で得られた抽出液とB工程で得られた抽出液を混合重量比(A/B)1/1〜1/6で混合する、半発酵茶抽出液の製造法(特許文献1)や、烏龍茶葉から水を用いて抽出した烏龍茶抽出液のカフェイン含有量を低減させ、当該烏龍茶抽出物を水素型イオン交換樹脂に接触させる際、塩濃度及び電気伝導度を十分に低減させ、pHを弱酸性から中性程度にしてから通液させることにより、従来よりもカフェイン含有量が少ない烏龍茶烏龍茶抽出液を製造する方法(特許文献2)などが開示されている。また、味と香りのバランスの良い、旨みとボディ感にすぐれた烏龍茶飲料の製造法として、烏龍茶飲料の原料である半発酵茶葉の発酵を停止させるための加熱工程を行なっていない該半発酵茶葉を熱水抽出して得た加熱工程前烏龍茶エキスと、上記加熱工程を経た半発酵茶葉を熱水抽出して得た加熱工程後烏龍茶抽出液を配合し、それにより茶葉の旨みを保持することを可能にして製造することを特徴とする、烏龍茶飲料の製造法も開示されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−206455号公報
【特許文献2】特開2007−068465号公報
【特許文献3】特開2005−137265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
容器詰茶系飲料に対する消費者の嗜好は高まっており、最近は、飲用性が高められた茶系飲料が好まれる傾向にある。非重合カテキン含量が高められた飲料は、非重合カテキンの生理作用が期待できる飲料であるが、苦味や渋味が強く、一度に大量を飲用したい場合には適するものではない。飲用性を高めるには、非重合カテキン濃度を低く抑える必要があるが、この場合、飲料の呈味が薄くなり、水っぽくなるため、美味しさの点で満足できるものではない。
【0005】
本発明の目的は、飲用性が高められた容器詰烏龍茶飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、半発酵茶又は発酵茶より得られる重合カテキンの精製物が、非重合カテキンに起因する苦味や渋味を抑制する作用があり、特に、発酵度が低い茶葉の抽出液に、半発酵茶より得られる重合カテキンの精製物を混合することで、非重合カテキン及びカフェインに起因する苦かどを丸くすることができ、飲用性の高い烏龍茶飲料を製造することができることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下に関する。
(1)発酵度の低い茶葉から抽出液(A)を得る工程1、半発酵茶又は発酵茶葉から抽出液を得、さらに重合カテキンの精製物(B)を得る工程2、抽出液(A)及び重合カテキンの精製物(B)とを混合する工程3を含む、茶飲料の製造方法。
【0008】
(2)発酵度の低い茶葉の一部又は全部が黄金桂である、(1)に記載の茶飲料の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造法によると、特別な装置や煩雑な工程を必要とせずに、飲用性が高められた容器詰烏龍茶飲料が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、半発酵茶又は発酵茶由来の重合カテキンが、茶系飲料中の非重合カテキンやカフェインに起因する苦かどを丸くする作用があることを見出したことに基づく。ここで、苦かどとは、苦味の質の表現で、好ましくないと感じる苦味をいい、苦かどを丸くするとは、鋭い苦味を柔らかな苦味(効能感が感じられる適度な苦味、すっきり感)に変えることをいう。
【0011】
本発明の重合カテキンとは、非重合カテキン((+)−カテキン、(−)−エピカテキン、(+)−ガロカテキン、(−)−エピガロカテキン、(−)−カテキンガレート、(−)−エピカテキンガレート、(−)−ガロカテキンガレート、(−)−エピガロカテキンガレート)が茶由来酵素、酵素、光等により複数個連結した構造を持つものをいい、具体的には、以下のHPLCにより分析される成分であり、テアフラビン(栗田リサーチセンター製)と同じ溶出時間(参考溶出時間:24分)のピークとなる成分をいう。
・カラム: TSK-gel ODS-80TsQA(4.6mmφx150mm、東ソー株式会社)
・移動相: A:水:アセトニトリル:トリフルオロ酢酸=900:100:0.5
B:水:アセトニトリル:トリフルオロ酢酸=200:800:0.5
・流速: 1.0ml/min
・カラム温度: 40℃
・グラジエント条件: 分析開始から5分後まではB液0%、
5分から11分まででB液8%、
11分から21分まででB液10%、
21分から22分まででB液100%、
22分から30分まで100%保持、
30分から31分までで0%
・検出: A280nm (データ採取時間は30分)、ピーク面積で定量。
・注入量: 10μL
重合カテキンの量は、標準物質としてOHBF−Bを用い、検量線を作成することにより求められる。なお、標準物質であるOHBF−Bは、例えば、Chem. Pharm. Bull 37(12), 3255-3563(1989) に記載の方法や、特開2005−336117号公報(実施例3)に記載の方法に従って合成したもの(好ましくは純度98%以上の純度まで精製したもの) 、茶葉より単離したものなどを用いることができる。
【0012】
本発明の重合カテキンの精製物とは、半発酵茶である烏龍茶又は発酵茶である紅茶を原料茶葉として用い、水または熱水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、酢酸エチルから選択される1以上の溶媒で抽出された抽出物を濃縮又は精製したもので、茶葉の溶媒抽出物から重合カテキン以外の成分(非重合カテキン、カフェインなど)を選択的に除去して、重合カテキンの含有率を高めたものをいい、WO2005/077384号公報に記載の非重合カテキンの4倍以上の濃度で重合カテキンを含有するもの等が例示される。
【0013】
本発明は、発酵度の低い茶葉の抽出液(A)に、重合カテキンの精製物(B)を混合して烏龍茶飲料を製造することを特徴とする。本明細書では、茶葉の発酵度を便宜的に、茶葉10gを30倍量の水(90℃)で4分間抽出したときの抽出液の非重合カテキンの含量(i)及び重合カテキンの含量(ii)を用いて表される値((i)/((i)+(ii)))をいい、本明細書でいう「発酵度の低い茶葉」とは、(i)/((i)+(ii))>0.6となる茶葉を表すものとする。発酵度の低い茶葉としては黄金桂が例示され、好ましくは抽出液(A)の原料茶葉全量に対して45重量%以上黄金桂を配合する態様が例示される。
【0014】
本発明の好適な態様について詳述する。まず、工程1では、発酵度の低い茶葉、好ましくは黄金桂45重量%以上を含む茶葉を20〜30倍量の溶媒で抽出処理を行って抽出液(A)を得る。好ましい溶媒は水であり、その温度は75〜98℃、好ましくは80〜95℃程度である。抽出時間は所望の風味により適宜設定すればよいが、通常、1〜10分程度である。
【0015】
工程2では、まず発酵茶葉(ダージリン、アッサム、スリランカなど)又は半発酵茶葉(鉄観音、色種、黄金桂、武夷岩茶など)に10〜30倍量の溶媒で抽出処理を行って抽出液(B’)を得る。呈味の観点から、抽出液(B’)の好ましい原料茶葉は半発酵茶葉である。好ましい抽出溶媒は水であり、その温度は70〜98℃、好ましくは75〜95℃程度である。用いる茶葉の種類や量により抽出時間は適宜設定されるが、通常、1〜30分程度である。次いで、抽出液(B’)を50℃以上、好ましくは55℃以上、より好ましくは60℃以上の液温で吸着剤と接触させ、非重合カテキン及びカフェインを選択的に除去して重合カテキンの精製物(B)を得る。
【0016】
工程3では、上記抽出液(A)と重合カテキンの精製物(B)とを混合する。抽出液(A)に対する重合カテキンの精製物(B)の混合割合は、重合カテキンの精製物(B)のBrix10換算で、1:0.0008〜0.27、好ましくは1:0.008〜0.08である。ここで、重合カテキンの精製物(B)のBrix10換算とは、対象となる重合カテキンの精製物(B)が乾燥物又はBrix10以下の濃縮液の場合、Brix10となるように希釈して得られる希釈液の割合をいい、対象となる重合カテキンの精製物(B)がBrix10以下の濃縮液を超える濃縮液の場合、Brix10となるように水分を除去して得られる濃縮液の割合をいう。
【0017】
本発明者らは、烏龍茶飲料において、非重合カテキン及び重合カテキン含量が低いとゴクゴクと大量に飲める高い飲用性を有し、かつ、カフェインを比較的高い割合で含有させることにより、飲み応えとキレの良い後味を両立させた烏龍茶飲料となることを確認している。ここで本明細書における「飲用性」とは、1回の飲用時で飲み干される飲料の容量を意味し、飲用性が高められた飲料とは、喉の渇きを癒すため一気に大量をゴクゴク飲むことができる、すなわち茶系飲料を大量に飲んでも飲み飽きずにまだ美味しく飲める性質のことをいう。ここでいう大量とは、具体的には、成人男性1回当たりの飲用量が350mL〜100mL、好ましくは500mL〜1000mLをいう。また、本明細書における「飲み応え」とは、飲用時に知覚される水っぽくない口当たりを有すること、いわゆる「こく」味のあることをいい、「キレの良い後味」とは、飲用後に知覚される苦味等の後引きがなく後味が極めてすっきりしている味わいをいう。
【0018】
本発明の製造法によると、この非重合カテキン及び重合カテキン含量が低く、カフェインを比較的高濃度で含有する、飲用性の高い烏龍茶飲料を容易に製造することができる。すなわち、本発明の製造法では、(a)非重合カテキン、(b)重合カテキン、及び(c)カフェインを含有し、それらの含有重量が飲料100mL当たり、
(イ)(a)+(b)=10〜50mg
(ロ)(c)=6.5〜29mg
(ハ)(c)/((A1)+(B))=0.5〜1.3
となる飲料で、その容量が350mL〜2000mL、好ましくは500mL〜1000mLの飲用性の高い容器詰烏龍茶飲料を製造するのに適した製造法である。
【0019】
容器詰飲料の容器としては、PETボトル、缶、紙、レトルトパウチ、瓶等が挙げられる。この容器詰飲料は、希釈せずに飲用するものがよい。なお、混合液の加熱殺菌は、金属缶のように容器に充填後、加熱殺菌できる場合にあっては食品衛生法に定められた殺菌条件で製造される。PETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては、あらかじめ上記と同等の殺菌条件、例えばプレート式熱交換器で高温短時間殺菌後、一定の温度迄冷却して容器に充填する等の方法が採用される。
【実施例】
【0020】
[実施例1] 茶系飲料の製造(1)
(1)重合カテキン精製物の製造
温水(95℃)に0.15重量%の重曹を添加した7800kgの重曹液を用いて、600kgの烏龍茶葉に抽出処理を施し、烏龍茶抽出液約7000kgを得た。この抽出液の液温を60-65℃に保持しながら、400kgの粒状活性炭(クラレ社製GW-H32/60)に通液して非重合カテキン、カフェインを除去した。この通過液(活性炭処理後の液)を減圧濃縮し、Brix 11の重合カテキン含有烏龍茶濃縮液(以下、精製物B)約900kgを得た。得られた精製物Bをフィルター(0.45μm)でろ過し、重合カテキン、非重合カテキン及びカフェイン濃度を、HPLCで測定した。HPLCの分析条件は以下のとおりである。その結果、重量基準として重合カテキン12000ppm、非重合カテキン800ppm、カフェイン20ppmであった。
HPLC条件:
・移動相:A: 水:アセトニトリル:トリフルオロ酢酸=900:100:0.5
B: 水:アセトニトリル:トリフルオロ酢酸=200:800:0.5
・流速: 1.0ml/min
・カラム温度: 40℃
・グラジエント条件; 分析開始から5分後まではB液0%、
5分から11分まででB液8%、
11分から21分まででB液10%、
21分から22分まででB液100%、
22分から30分まで100%保持、
30分から31分までで0%
・検出: A280nm
(2)烏龍茶飲料の製造
低発酵の茶葉として黄金桂を45重量%以上含む混合茶葉を用意し、30倍量の水(90℃)で4分間抽出して、抽出液1を得た。これに、上記(1)で得た重合カテキンの精製物(精製物B)を抽出液A:精製物B=840:1の割合で混合し、酸化防止剤(アスコルビン酸)及びpH調整剤(重層)を添加してpHを6.1に調整した(本発明品1)。対象として、精製物Bを添加せず、抽出液AのみでpHを6.1に調整した茶飲料を製造した(対象品)。
【0021】
専門パネラー4名により、対象品と本発明品1の官能評価を行ったところ、パネラー全員が本発明品1の苦味が丸くなっており、飲用性の高い烏龍茶飲料であると評価した。なお、本発明品1の成分分析を行ったところ、非重合カテキン200ppm、重合カテキン95ppm、カフェイン115ppmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵度の低い茶葉から抽出液(A)を得る工程1、半発酵茶又は発酵茶葉から抽出液を得、さらに重合カテキンの精製物(B)を得る工程2、抽出液(A)及び重合カテキンの精製物(B)とを混合する工程3を含む、茶飲料の製造方法。
【請求項2】
発酵度の低い茶葉の一部又は全部が黄金桂である、請求項1に記載の茶飲料の製造方法。