単一のマイクロチャンバで核酸の濃縮および増幅を行う方法、ならびに該方法を行う装置
【課題】単一のマイクロチャンバで核酸の濃縮および増幅を行う方法、ならびに該方法を行う装置を提供する。
【解決手段】親水性内表面を有するマイクロチャンバに、核酸含有試料とコスモトロピック塩とを含む溶液を導入し、前記マイクロチャンバの内表面に核酸を結合させることにより、前記核酸を濃縮する段階と、前記マイクロチャンバにポリメラーゼ連鎖反応(PCR)混合物を添加してPCRを行う段階と、を含むことを特徴とする、核酸の濃縮および増幅を単一のマイクロチャンバで連続的に行う方法、ならびに該方法を行う装置である。
【解決手段】親水性内表面を有するマイクロチャンバに、核酸含有試料とコスモトロピック塩とを含む溶液を導入し、前記マイクロチャンバの内表面に核酸を結合させることにより、前記核酸を濃縮する段階と、前記マイクロチャンバにポリメラーゼ連鎖反応(PCR)混合物を添加してPCRを行う段階と、を含むことを特徴とする、核酸の濃縮および増幅を単一のマイクロチャンバで連続的に行う方法、ならびに該方法を行う装置である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単一のマイクロチャンバで核酸の濃縮および増幅を行う方法、ならびに該方法を行う装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高純度の二重鎖プラスミドDNA、単一鎖ファージDNA、染色体DNA、およびアガロースゲルから精製されたDNA断片の製造は、分子生物学において非常に重要である。DNAを精製する理想的な方法は、簡単であり、迅速であり、存在したとてしても、付加的な試料の操作をほとんど含まない。前記のような方法により得られたDNAは、直接、形質転換、制限酵素分析、ライゲーション、またはシークエンシングに用いられうる。前記のような方法は、研究および診断実験室で好まれるDNA試料製造の自動化において、非常に魅力的である。
【0003】
従来、固相物質を用いた核酸の精製方法が知られている。例えば、特許文献1には、核酸に結合する固相物質を用いた核酸の精製方法が開示されている。具体的には、前記方法は、出発物質、カオトロピック(すなわち、水の構造を壊す)物質、および核酸が結合した固相物質を混合する段階;前記核酸が結合した前記固相物質を液体から分離する段階;ならびに固相物質−核酸複合体を洗浄する段階を含む。しかし、この方法は、長時間かかり、複雑であり、ラボ・オン・チップ(Lab−On−a−Chip)の装置および応用には不適である。また、この方法は、必ずカオトロピック物質を使用しなければならないという問題点を有する。
【0004】
また、特許文献2には、固相マトリックスを用いた核酸の保存方法が開示されている。この方法は、核酸が固相マトリックスに非可逆的に結合するため、保管後の核酸−固相マトリックス複合体の後分析または繰り返し分析が可能であるという点において好都合である。しかしながら、この方法によれば、アルミナのような表面に正電荷を帯びる物質は、NaOHなどの塩基性物質の添加によって親水性化されなければならない。核酸は、親水性化されたアルミナに、非可逆的に結合するために、アルミナから分離することができない。したがって、DNAが非可逆的に結合した固相マトリックスでは、ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction:PCR)の収率が低いという問題がある。
【0005】
特許文献3は、固相物質に標的核酸を付着させるために疎水性の有機ポリマーの固相上に標的核酸を含む試料を導入する段階と、固相に非イオン性界面活性剤を添加し付着された標的核酸を除去する段階とを含む、試料から核酸を分離する方法を開示している。しかし、前記の特許は、疎水性の固相を用いて核酸を分離しているという点で、親水性表面の固体相、およびコスモトロピック塩を利用し、同じマイクロチャンバで核酸の濃縮及び増幅を連続的に行った本発明とは異なる。
【特許文献1】米国特許第5,234,809号明細書
【特許文献2】米国特許第6,291,166号明細書
【特許文献3】米国特許第6,383,783号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記の従来技術の問題点を解決するためのものであり、その目的は、核酸の濃縮および増幅を効率良く行う手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記のような従来技術の問題点に鑑み、鋭意研究を積み重ねた結果、内表面に親水性官能基を有するマイクロチャンバに、コスモトロピック塩を添加して核酸をマイクロチャンバにおいて濃縮し、濃縮された核酸を利用して同じマイクロチャンバでPCRを行えば、単一のマイクロチャンバで核酸の濃縮および増幅を連続的に行うことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、親水性内表面を有するマイクロチャンバに、核酸含有試料とコスモトロピック塩とを含む溶液を導入し、前記マイクロチャンバの内表面に前記核酸を結合させることにより、前記核酸を濃縮する段階と、前記マイクロチャンバにポリメラーゼ連鎖反応(PCR)混合物を添加してPCRを行う段階と、を含むことを特徴とする、核酸の濃縮および増幅を単一のマイクロチャンバで連続的に行う方法である。
【0009】
また、本発明は、内表面に親水性官能基を有するマイクロチャンバと、前記マイクロチャンバとマイクロチャンネルを介して相互接続され、前記マイクロチャンバに核酸含有試料を供給する核酸含有試料保管部と、前記マイクロチャンバとマイクロチャンネルを介して相互接続され、前記マイクロチャンバにコスモトロピック塩を供給するコスモトロピック塩溶液保管部と、前記マイクロチャンバとマイクロチャンネルを介して相互接続され、前記マイクロチャンバにPCR混合物を供給するPCR混合物保管部と、前記マイクロチャンバを加熱および冷却する加熱部および冷却部と、を備えることを特徴とする、核酸含有試料中の核酸の濃縮および増幅を連続的に行う装置である。
【0010】
さらに、本発明は、内表面に親水性基を有するマイクロチャンバを備えるチップと、前記チップを収容する核酸増幅部と、を備えることを特徴とする、核酸の濃縮および増幅を連続的に行う装置である。
【0011】
さらに、本発明は、前記の装置を備えることを特徴とする、ラボ・オン・チップである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、核酸の濃縮および増幅を効率良く行う手段が提供されうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の第1は、親水性内表面を有するマイクロチャンバに、核酸含有試料とコスモトロピック塩とを含む溶液を導入し、前記マイクロチャンバの内表面に前記核酸を結合させることにより、前記核酸を濃縮する段階と、前記マイクロチャンバにポリメラーゼ連鎖反応(PCR)混合物を添加してPCRを行う段階と、を含むことを特徴とする、核酸の濃縮および増幅を1つのマイクロチャンバで連続的に行う方法である。
【0014】
本発明は、核酸分析のための試料の調製とリアルタイムPCRとを単一マイクロチャンバで行う方法に関する。標的遺伝子の増幅および検出のためには、DNAは生物学的試料から単離および精製されなければならない。細胞溶解物に存在し、PCR反応を阻害する多様な不純物は、精製段階により除去される。従来のプロセスでは、特定遺伝子の精製、増幅、および検出が別々のマイクロチャンバで行われ、遺伝子分析の間、時間およびコストが余計にかかり、また、試料の交差汚染の可能性を著しく高くさせる。本発明では、核酸の精製および濃縮と核酸増幅とが統合されているため、分析のプロセスが単純化され、かつ、交差汚染の危険性が低減されている。
【0015】
図1は、核酸の濃縮および増幅を単一のマイクロチャンバでどのように行うかを示す模式図である。標的遺伝子は、単一のマイクロチャンバ20の内部で核酸を含む生物学的試料10から精製および濃縮され、精製および濃縮された標的遺伝子は、同じマイクロチャンバ20の内部で増幅され、リアルタイムで検出される(図1中の30参照)。しかしながら、これを行うためには、いくつかの条件が満足されなければならない。第一に、DNA精製および濃縮に用いられる試薬は、リアルタイムPCRに影響を与えてはならないため、カオトロピック塩およびエタノールなどのPCR阻害剤は使用できない。第二に、大きい表面積を有するSiO2チップでPCRが行われなければならないが、SiO2の表面は、PCR阻害剤として作用するため、PCR阻害を減少させるための添加剤が添加される必要がある。第三に、SiO2チップは、高いDNA結合効率を有さなければならない。
【0016】
これらの問題点を解決するために、核酸の精製に従来用いられているカオトロピック塩の代わりに、コスモトロピック塩が用いられる。カオトロピック塩が用いられる場合、マイクロチャンバの表面が脱水され、核酸が水素結合によりマイクロチャンバに直接結合するため、核酸の結合はpHに影響され、カオトロピック塩はPCR阻害剤として作用する。しかし、コスモトロピック塩が用いられる場合、コスモトロピック塩に曝されているマイクロチャンバの表面は水和され、マイクロチャンバの表面に安定化された水層が形成される。核酸は、水層に結合している水素によってマイクロチャンバの表面に吸着され、これは、親水性相互作用による塩析効果に起因する。図2は、コスモトロピック塩の存在下で、マイクロチャンバの親水性表面に核酸が結合する様子を表す模式図である。図2から分かるように、コスモトロピック塩の塩析効果により、シリカ基板210(図2の左側部分)は水素結合により水と結合し、形成された水層220(図2の中央部分)は、核酸230(図2の右側部分)とさらに水素結合を形成するので、核酸が安定化された水層を媒介として、マイクロチャンバに結合することとなる。したがって、マイクロチャンバと結合している核酸は、従来核酸結合に必要な酸性条件を必要とせず、マイクロチャンバの内表面がシリカに限定される必要もない。
【0017】
本発明の一実施形態による核酸を濃縮および増幅する方法において、核酸含有試料およびコスモトロピック塩を含む溶液が、マイクロチャンバの内部に導入されると、コスモトロピック塩の塩析効果により、親水性官能基を有するマイクロチャンバの内表面に水が水素結合を形成し、形成された水層は、核酸とさらに水素結合を形成し、結果として核酸は前記マイクロチャンバの内表面に結合される。核酸を前記マイクロチャンバの内表面に結合させた後、前記マイクロチャンバの内表面に結合されていない、核酸含有試料の核酸以外の他の成分を洗浄することにより、結合された核酸は、さらに純粋な形態で濃縮されうる(すなわち、精製される)。それゆえ、洗浄液は、結合されていない核酸含有試料のいかなるものでも除去するために、核酸を有するマイクロチャンバの内表面を通りながら、マイクロチャンバを通過する。前記洗浄液は、核酸が前記マイクロチャンバの内表面に結合する際に用いられたコスモトロピック塩溶液よりも低い、コスモトロピック塩の濃度を有する。
【0018】
本発明の一実施形態による核酸の増幅方法において、核酸が濃縮されたマイクロチャンバにPCR混合物が添加され、前記マイクロチャンバの内表面に結合しているか、または前記マイクロチャンバの内表面から分離された標的核酸を用いてPCRが行われる。前記PCR混合物の組成および濃度は、導入されるポリメラーゼによって変わりうるということは、当業者に理解されるであろう。また、PCRの条件は、増幅しようとするPCR産物の長さ、テンプレートとプライマーとの配列相同性、プライマー長などによって適切に選択されうる。
【0019】
本発明の一実施形態による核酸を濃縮および増幅する方法において、ポリエチレングリコール(PEG)およびウシ血清アルブミン(BSA)が、PCRの実施段階で添加されうる。大きい表面積を有するマイクロチャンバで、マイクロチャンバのSiO2内表面は、PCR阻害剤として作用するため、阻害作用を減らすために適当な添加剤が添加されうる。よって、本発明では、ポリエチレングリコール(PEG)およびウシ血清アルブミン(BSA)を添加することによって、PCR増幅効率が向上される。前記ポリエチレングリコールの濃度は、PCR混合物の全質量に対して1〜10質量%であることが好ましい。前記ウシ血清アルブミン(BSA)の濃度は、PCR混合物の全量に対して0.1〜10mg/mlであることが好ましい。前記の濃度範囲を外れると、PCR増幅効率が低下する場合がある。
【0020】
本発明の一実施形態による核酸を濃縮および増幅する方法において、前記マイクロチャンバの内表面は、複数個のピラーを有することが好ましい。核酸含有試料とマイクロチャンバとの接触機会を増加させるために、前記マイクロチャンバの内表面は、平面構造よりも広い表面積を有するピラー構造を有することがより好ましい。前記ピラーは、正方形、長方形、菱形、円筒形、円錘形、六角形、八角形などの多様な形を有することができる。前記ピラー間の間隔は8〜50μmであることが好ましい。前記ピラー間の間隔が前記範囲を外れると、核酸の結合効率および増幅効率が低下する場合がある。
【0021】
本発明の一実施形態による核酸を濃縮および増幅する方法において、前記マイクロチャンバは内表面に親水性官能基を有する。前記親水性官能基は、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、ポリカルボキシル基、およびシラノール基からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましいが、これらに限定されず、いかなる親水性基であってもよい。
【0022】
本発明の一実施形態による核酸を濃縮および増幅する方法において、前記コスモトロピック塩の具体的な例としては、例えば、硫酸塩、リン酸塩、水酸化物、フッ化物、ギ酸塩、酢酸塩などが好ましく挙げられるが、これらに限定されるものではない。前記コスモトロピック塩は、ホフマイスターシリーズ(Hofmeister Series)により、蛋白質の結晶化を誘発し、疎水性粒子に対する塩析イオンとしての役割を果たし、水構造を形成する。
【0023】
本発明の一実施形態による核酸を濃縮および増幅する方法において、前記核酸含有試料および前記コスモトロピック塩を含む溶液のpHは、3〜10であることが好ましい。前記核酸含有試料および前記コスモトロピック塩を含む溶液のpHが前記範囲を外れれば、DNAが物理的および化学的に変性され、次の段階に悪影響を与える場合がある。
【0024】
本発明の一実施形態による核酸を濃縮および増幅する方法において、前記コスモトロピック塩の濃度は、前記核酸含有試料および前記コスモトロピック塩を含む溶液の全量に対して100〜2,000mMであることが好ましい。前記コスモトロピック塩の濃度が100mM未満の場合、マイクロチャンバに結合する核酸の結合効率が低下する場合がある。前記コスモトロピック塩の濃度が2,000mMを超える場合、緩衝液の溶解性の制限および過剰な緩衝液の濃度により、有用な溶液を調製することが困難となる場合がある。
【0025】
本発明の一実施形態による核酸を濃縮および増幅する方法において、前記核酸含有試料は、血液、血清、小便、唾液、または細胞培養液に存在するバクテリアもしくはウイルスの細胞溶解物であることが好ましいが、これらに制限されるものではない。本発明に用いられる核酸含有試料は、哺乳動物、植物、バクテリア、または酵母由来であることが好ましい。前記核酸含有試料は、単一細胞形態であってもまたは組織形態であってもよく、細胞または組織は、試験管内培養物由来でありうる。
【0026】
本発明の第2は、内表面に親水性官能基を有するマイクロチャンバと、前記マイクロチャンバとマイクロチャンネルを介して相互接続され、前記マイクロチャンバに核酸含有試料を供給する核酸含有試料保管部と、前記マイクロチャンバとマイクロチャンネルを介して相互接続され、前記マイクロチャンバにコスモトロピック塩を供給するコスモトロピック塩溶液保管部と、前記マイクロチャンバとマイクロチャンネルを介して相互接続され、前記マイクロチャンバにPCR混合物を供給するPCR混合物保管部と、前記マイクロチャンバを加熱および冷却する加熱部および冷却部と、を備えることを特徴とする、拡散含有試料中の核酸の濃縮および増幅を連続的に行う装置である。
【0027】
本発明の一実施形態による核酸の濃縮および増幅を行う装置は、内表面に親水性官能基を有するマイクロチャンバ、核酸含有試料保管部、コスモトロピック塩溶液保管部、PCR混合物保管部、加熱部、および冷却部を含む。本発明の一実施形態による核酸の濃縮および増幅を行う装置において、前記マイクロチャンバは、チップ内に1つのチャンバを含み、内表面に水と水素結合を形成して安定な水層を形成する親水性官能基を含む。形成された安定な水層は、核酸と結合する。前記親水性官能基は、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、ポリカルボキシル基、およびシラノール基からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましいが、これらに限定されず、いかなる親水性基であってもよい。
【0028】
前記核酸含有試料保管部は、マイクロチャンバに核酸含有試料を供給する部分であり、マイクロチャンバと第1のマイクロチャンネルを介して相互連結されている。
【0029】
前記コスモトロピック塩溶液保管部は、マイクロチャンバにコスモトロピック塩を供給する部分であって、マイクロチャンバと第2のマイクロチャンネルを介して相互接続されている。分離しようとする核酸含有試料が第1マイクロチャンネルを通して装置に導入されると、前記コスモトロピック塩溶液保管部は、コスモトロピック塩を、第2マイクロチャンネルを通してマイクロチャンバに供給し、マイクロチャンバ内で核酸含有試料とコスモトロピック塩とが混合され、コスモトロピック塩の塩析効果により、核酸がマイクロチャンバに結合される。
【0030】
前記PCR混合物保管部は、マイクロチャンバにPCR混合物を供給する部分であって、マイクロチャンバと第3のマイクロチャンネルを介して相互接続されている。核酸がマイクロチャンバに濃縮された後、前記PCR混合物保管部はPCR混合物を第3のマイクロチャンネルを通してマイクロチャンバ内に注入し、PCRを行う。
【0031】
前記加熱部および前記冷却部は、前記マイクロチャンバを加熱および冷却する部分であり、PCR混合物がマイクロチャンバ内に導入されると、PCRの条件により、加熱部および冷却部は、加熱および冷却によりマイクロチャンバの温度を調節する。
【0032】
本発明の一実施形態による核酸の濃縮および増幅を行う装置において、前記マイクロチャンバの内表面は、複数個のピラーを有することが好ましい。核酸含有試料とマイクロチャンバとの接触機会を増加させるために、前記マイクロチャンバの内表面は、平面構造よりも広い表面積を有するピラー構造を有することがより好ましい。前記ピラーは、正方形、長方形、菱形、円筒形、円錘形、六角形、八角形などの多様な形を有することができる。前記ピラー間の間隔は8〜50μmであることが好ましい。前記ピラー間の間隔が前記範囲を外れると、核酸の結合効率および増幅効率が低下する場合がある。
【0033】
本発明の一実施形態による核酸の濃縮および増幅を行う装置において、前記核酸含有試料は、血液、血清、小便、唾液、または細胞培養液に存在するバクテリアもしくはウイルスの細胞溶解物であることが好ましいが、これらに制限されるものではない。本発明に用いられる核酸含有試料は、哺乳動物、植物、バクテリア、または酵母由来であることが好ましい。前記拡散含有試料は、単一細胞形態であってもまたは組織形態であってもよく、前記単一細胞または前記組織は、試験管内培養物由来でありうる。
【0034】
本発明の第3は、内表面に親水性官能基を有するマイクロチャンバを備えるチップと、前記チップを収容する核酸増幅部と、を備えることを特徴とする、核酸の濃縮および増幅を連続的に行う装置である。本発明の装置は、チップおよび核酸増幅部を含み、前記チップは、内表面に親水性官能基を有するマイクロチャンバを備え、前記チップは1つのチャンバを含む。前記マイクロチャンバは、内表面に親水性官能基を有しているため、ここに核酸含有試料およびコスモトロピック塩を含む溶液を導入すると、核酸がマイクロチャンバの内表面に結合されて核酸が濃縮される。前記核酸増幅部は、前記チップを含み、前記チップの前記マイクロチャンバ内で濃縮された核酸を増幅する。核酸が濃縮されたマイクロチャンバを備えるチップは、前記核酸増幅部に配置されて、マイクロチャンバ内にPCR混合物が導入され、濃縮された核酸を増幅させるためにPCRが行われる。
【0035】
本発明の第4は、前記核酸の濃縮および増幅を行う装置を備えるラボ・オン・チップである。本発明の核酸の濃縮および増幅を行う装置において、それぞれの機能的な構成要素は、公知のマイクロ流体技術およびMEMS素子を用いてプロセス・オン・チップ(Process−On−a−Chip)によって具現されうるだけではなく、ラボ・オン・チップでも具現されうる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明について、実施例を通してさらに具体的に説明する。しかし、下記の実施例は、本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれら実施例に限定されるものではない。
【0037】
(実施例1:チップの表面積の増大に対するPCRの効率の違い)
チップの表面積の増大に対するPCRの効率の違いを調べた。PCRは、TMC1000(Samsung社製)機器を用いて行った。TMC1000は、シリコンチップ上で定量PCRを行う装置である。別途に記載した場合を除き、すべての実験に用いられたテンプレートDNAは、大腸菌(E.coli)BL21ゲノムDNAであり、反応当たり1.4×105コピーが用いられた。1コピーのゲノムDNAは、7個の標的核酸(16s−rRNA遺伝子)を有しているので、反応当たり総数で106コピーの標的遺伝子が含まれている。PCRプライマーとして、フォワードプライマー(YCCAKACTCCTACGGGAGGC:配列番号1)およびリバースプライマー(GTATTACCGCRRCTGCTGGCAC:配列番号2)が用いられた。
【0038】
別途に記載した場合を除き、PCR混合物は、1×PCR緩衝液(Solgent社製)、5.0mMのMgCl2、200μMのdNTP、0.2μMであるプライマー、0.1mg/mlのBSA、0.1U/μlのTaqDNAポリメラーゼを含む。PCR温度条件は、次の通りである。Eppendorf PCRチューブでのPCRは、94℃5分間で1サイクル、ならびに94℃で30秒間、62℃で30秒間、および72℃で30秒間を30サイクル行った後、生成されたPCR産物を、Bioanalyzer(Agilent社製)を用いて定量化した。チップでのPCRは、94℃1分間で1サイクル、ならびに94℃で5秒間、62℃で5秒間、ならびに72℃で20秒間を40サイクル行い、生成されたPCR産物は、TMC1000(Samsung社製)を用いてリアルタイムで測定した。
【0039】
図3は、チップの表面積の増大に対するPCRの効率の違いを示すグラフである。図3から分かるように、体積に対するチップの表面積の比が増加するほど、生成されたPCR産物の量が少なくなり、生成されたPCR産物の量が、体積に対するチップの表面積の比と密接に関連しているということが分かる。したがって、大きい表面積を有するチップを用いてPCRを行うためには、PCR阻害を低減させる他の添加剤が加えられる必要がある。
【0040】
(実施例2:PEGの濃度の違いに対するPCRの効率の違い)
大きな表面積を有するチップに関し、ポリエチレングリコール(PEG)濃度の違いに対するPCRの効率の違いを調べた。PCR混合物の総質量に対してPEGを0.31質量%、1.25質量%、2.5質量%、5質量%、および10質量%の濃度でそれぞれ添加した5サンプルを調製したことを除いては、実施例1と同様にPCRを行った。図4は、PEGの濃度の違いに対するPCRの効率の違いを示すグラフである。図4で左側のグラフはRn値を示し、右側のグラフはCt値を示す。蛍光測定値であるCtは、スレショルド・サイクル(Threshold Cycle)としてリアルタイムで増幅される蛍光量を測定することにより表される。同じ試料が用いられれば、Ct値が低いほどPCRの効率が高い。Ct値は、1サイクルの差は、2倍かまたは半分のDNA濃度であるということを示す単位である。Rnは、PCR産物の濃度と関連し、Rn値が大きいほどPCR産物の濃度が高いということを意味する。図4から分かるように、5質量%のPEGを添加した場合に、Rn値が最も大きく、Ct値が最も小さいので、PCRの効率が最も高いということが分かる。
【0041】
(実施例3:BSAの濃度の違いに対するPCRの効率の違い)
大きな表面積を有するチップに関し、ウシ血清アルブミン(BSA)濃度の違いによるPCRの効率の違いを調べた。PCR混合物の総質量に対してPEG5質量%を添加し、そこにBSAを、PCR混合物全量に対して0.62mg/ml、1.25mg/ml、2.5mg/ml、5mg/ml、および10mg/mlの濃度でそれぞれ添加した5サンプルを調製したことを除いては、実施例1と同様にPCRを行った。図5は、BSAの濃度の違いに対するPCRの効率の違いを示すグラフである。図5で、左側のグラフはRn値を表し、右側のグラフはCt値を表す。図5から分かるように、0.62mg/mlのBSAを添加した場合に、Rn値が最も大きく、Ct値が最も小さいので、PCRの効率が最も高いということが分かる。
【0042】
(実施例4:様々な表面積を有するチップに対するPCRの効率の違い)
様々な表面積を有するチップに対するPCRの効率の違いを調べるために、6種類のチップを調製した。シリコンチップ(Si/SiO2)の調製工程は下記の通りである。
【0043】
(1)ウェハ洗浄
ピラニア溶液(H2SO4:H2O2=3:1体積比、120℃)で15分間処理し、流水で洗浄後に乾燥した。
【0044】
(2)ヘキサメチルジシラザン(HMDS)コーティング
洗浄されたウェハ上に、スピンコーターを用いてヘキサメチルジシラザン(HMDS)5mlを滴下した後、500rpmで5秒および4,000rpmで40秒コーティングを行い、120℃で2分間、ホットプレートでベーキングした。
【0045】
(3)フォトレジスト(PR)コーティング
ベーキングされたウェハ上に、フォトレジスト(GXR601、AZ Electronic Materials社から入手可能)を5ml滴下した後、500rpmで5秒および4,000rpmで40秒コーティングを行った。
【0046】
(4)ソフトベーキング
フォトレジストがコートされたウェハを、ホットプレートを用いて95℃で2分間ベーキングを行った。
【0047】
(5)UV露光
UV aligner(i線)にピラー作製用マスクを装着した後、フォトレジストがコートされたウェハに対して、365nmの波長の光を250mJ/cm2の照射量で照射した。
【0048】
(6)現像
MIF 300(AZ Electronic Materials社製)現像機を用いて現像を行った。
【0049】
(7)ハードベーキング
現像されたウェハに対して、115℃で2分間ハードベーキングを行った。
【0050】
(8)Deep RIE
STS ICP−RIE機器を用いて、100μmのSiエッチングを行った。
【0051】
(9)除去
アッシング装置を用い、エッチングされたウェハからフォトレジストを除去した。
【0052】
(10)PRストリップ
残存するフォトレジストの除去および洗浄するために、アッシングされたウェハをピラニア溶液で15分間処理し、洗浄および乾燥を行った。
【0053】
(11)フッ化水素(HF)処理
前記(10)で得られたウェハを、希釈したHFで1分間処理し、自然酸化物を除去した。
【0054】
(12)Si酸化
SiO2の成長のために、水蒸気を用いた湿式酸化を行い、SiO2を3,000Aの厚さに成長させた。
【0055】
(13)ウェハ洗浄
ウェハをピラニア溶液で15分間処理し、洗浄および乾燥を行った。
【0056】
(14)陽極接合
前記(13)で洗浄されたウェハの上にガラス基板を置き、400℃の熱と1,000Vの電圧とを印加して接合させ、マイクロチップを完成させた。
【0057】
図6は、様々な表面積を有する6種類のチップを示す写真である。各チップのピラーのサイズ、ピラー間の間隔、ピラー高、総表面積、試料を導入できる体積、および体積に対する表面積の比は、下記表1の通りである。
【0058】
【表1】
【0059】
調製されたチップに関して、DNA結合効率およびPCR効率を調べた。DNA結合効率を測定するために使用した緩衝液は、次の通りである。結合緩衝液として、1M硫酸ナトリウム(pH3.0)および1M酢酸ナトリウム(pH3.0)の混合物を用い、洗浄緩衝液として、0.01M硫酸ナトリウム(pH3.0)および0.01M酢酸ナトリウム(pH3.0)の混合物を用いた。まず、DNAを含む試料を、結合緩衝液と1:1体積比で混合した後チップに注入し、次に、洗浄緩衝液をチップに加えて洗浄を行った。チップから出てきた結合緩衝液および洗浄緩衝液に含まれているDNA量をPicogreen(登録商標)(Invitrogen社/Molecular Probes社製)を用いて定量し、このように測定したDNA量と、もともと試料に入っていたDNA量との差によって、チップに結合されたDNA量を予測した。
【0060】
PCRは、それぞれのチップで用いられているPCR混合物に、PEG 5質量%およびBSA 0.62mg/mlをそれぞれ添加したことを除いては、実施例1と同様にPCRを行った。図7は、様々な表面積を有するチップに対するDNA結合の効率およびPCRの効率を示すグラフである。図7から分かるように、ピラーのサイズが25μmであり、ピラー間の間隔が17μmである2番のチップの場合に、Ct値が最も小さく、DNA結合効率が高いということが分かる(図7中、矢印で表示している)。この結果から、DNA結合効率は、チップの表面積に概して比例し、表面積が大きいほど、DNA結合効率も高くなるということが分かる。しかし、チップの表面積が大きいほどCt値は上昇し、PCRの効率は低下する。
【0061】
(実施例5:精製されたDNAを用いた核酸濃縮および増幅の効率)
精製された大腸菌(E.coli)BL21 gDNA 0.012ng/μl(16700標的遺伝子コピー/μl)を用いて、核酸の濃縮および増幅の効率を調べた。DNAの濃縮において、結合緩衝液として、1M硫酸ナトリウム(pH3.0)および1M酢酸ナトリウム(pH3.0)の混合物を用い、洗浄緩衝液として、0.01M硫酸ナトリウム(pH3.0)および0.01M酢酸ナトリウム(pH3.0)の混合物を用いた。PCRは、実施例4と同様に行った。図8は、核酸の濃縮に対するPCRの効率を示すグラフである。図8で、曲線Aは、核酸を濃縮する前の、初期のDNA溶液からの核酸のPCRの結果であり、曲線Bは、本発明の方法を用いて濃縮したDNAを用いたPCRの結果である。図8から分かるように、濃縮前と比較して、濃縮したDNAを用いた場合は、著しく低いCt値および高いRn値を表す。したがって、本発明の核酸の濃縮および増幅の方法を利用すれば、DNAは効率良くマイクロチャンバの内表面に結合され、それによりチップ内で濃縮されるということが分かる。
【0062】
本発明の方法を用いた核酸の濃縮の効率を定量的に評価するために、テンプレートとして大腸菌BL21のgDNAコピー数によるCt値を測定した。結果は下記表2の通りである。
【0063】
【表2】
【0064】
前記表2に記載されたデータを用い、大腸菌BL21 gDNAの標的遺伝子コピー数によるCt値を表す標準曲線を作成した。図9は、大腸菌BL21 gDNAの標的遺伝子コピー数に対するCt値を示す標準曲線である。図9で、右側の点線は、理論的に大腸菌BL21 gDNAのすべてが損失なく40倍濃縮される場合(1.00×106コピー)に対応するCt値を表し、左側の点線は、濃縮前の初期のBL21 gDNA溶液(16700コピー/μl)に対応するCt値を表す。図9から分かるように、ピラー構造を有さない6番のチップの場合、DNAの濃縮効率が低くCt値が相対的に高いが、2番のチップの場合、DNAの濃縮効率が非常に高くCt値が非常に低い。2番のチップの場合、1.00×106コピーの35%に該当するCt値を示す。よって、40倍の濃縮の工程で65%の損失が生じたが、DNAのかなりの量が濃縮されたということを表している。
【0065】
(実施例6:細胞溶解物を利用した核酸濃縮および増幅効率)
1.3×105細胞/μlの濃度を有する大腸菌(E.coli)BL21の溶解物を用い、核酸の濃縮および増幅の効率を調べた。DNAの濃縮において、結合緩衝液として、1M硫酸ナトリウム(pH3.0)および1M酢酸ナトリウム(pH3.0)の混合物を用い、洗浄緩衝液として、0.01M硫酸ナトリウム(pH3.0)および0.01M酢酸ナトリウム(pH3.0)の混合物を用いた。PCRは、実施例4と同様に行った。図10は、核酸の濃縮に対するPCR効率の違いを示すグラフである。図10で、曲線Aは、核酸を濃縮する前の、初期のDNA溶液からの核酸のPCRの結果であり、曲線Bは、本発明の方法を用いて濃縮したDNAを用いたPCRの結果である。図10から分かるように、濃縮前のDNAを用いたCt値は25.5であったが、核酸濃縮後のCt値は15.37と顕著に低くなっている。すなわち、本発明の方法を用いると、PCR阻害剤が多量に存在する細胞溶解物でも、核酸が効率よく濃縮、精製、および増幅されるということが分かる。
【0066】
本発明の方法を用いた核酸の濃縮の効率を定量的に評価するために、テンプレートである大腸菌BL21細胞数に対するCt値を測定した。結果は下記表3の通りである。
【0067】
【表3】
【0068】
前記表3に記載されたデータを用い、大腸菌BL21細胞数に対するCt値の標準曲線を作成した。図11は、大腸菌BL21細胞数に対するCt値を示す標準曲線である。図11で、右側の点線は理論的に大腸菌BL21細胞を50倍濃縮する場合(1×107細胞/μl)に対応するCt値(19.69)を表し、左側の点線は、濃縮前の初期の大腸菌BL21細胞数(1.3×105細胞/μl)に対応するCt値を表す。図11から分かるように、2番のチップの場合、Ct値は19.69よりも著しく低いということが分かる。2番のチップに対応するCt値を細胞数に換算すれば、初期の細胞が約500倍以上濃縮されたことになる。これは、核酸濃縮の過程で、細胞溶解物中に存在するPCR阻害剤が除去されて、核酸がさらに純粋な形態で得られたためである。
【0069】
したがって、本発明の方法を用いれば、PCR阻害剤が含まれる細胞溶解物が効率よく精製、濃縮および増幅されうる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の、単一のマイクロチャンバで核酸の濃縮および増幅を行う方法、ならびに該方法を行う装置は、例えば、DNA試料関連の技術分野に効果的に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の、単一のマイクロチャンバで核酸の濃縮および増幅を行う方法を示す模式図である。
【図2】コスモトロピック塩の存在下で、マイクロチャンバの親水性内表面に核酸が結合されることを示す模式図である。
【図3】チップの表面積の増大に対するPCR効率の違いを示すグラフである。
【図4】PEGの濃度の違いに対するPCR効率の違いを示すグラフである。
【図5】BSAの濃度に対するPCR効率の違いを示すグラフである。
【図6】様々な表面積を有する6種類のチップを示す写真である。
【図7】様々な表面積を有するチップに対するDNA結合効率の違いおよびPCR効率の違いを示すグラフである。
【図8】核酸濃縮によるPCR効率の上昇を示すグラフである。
【図9】大腸菌BL21 gDNAの標的遺伝子コピー数に対するCt値を示す標準曲線である。
【図10】細胞溶解物において、核酸の濃縮および精製によるPCR効率の上昇を示すグラフである。
【図11】大腸菌BL21細胞数に対するCt値を示す標準曲線である。
【符号の説明】
【0072】
10 核酸を含む生物学的試料、
20 マイクロチャンバ、
30 リアルタイム検出、
210 シリコン基板、
220 水層、
230 核酸。
【技術分野】
【0001】
本発明は、単一のマイクロチャンバで核酸の濃縮および増幅を行う方法、ならびに該方法を行う装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高純度の二重鎖プラスミドDNA、単一鎖ファージDNA、染色体DNA、およびアガロースゲルから精製されたDNA断片の製造は、分子生物学において非常に重要である。DNAを精製する理想的な方法は、簡単であり、迅速であり、存在したとてしても、付加的な試料の操作をほとんど含まない。前記のような方法により得られたDNAは、直接、形質転換、制限酵素分析、ライゲーション、またはシークエンシングに用いられうる。前記のような方法は、研究および診断実験室で好まれるDNA試料製造の自動化において、非常に魅力的である。
【0003】
従来、固相物質を用いた核酸の精製方法が知られている。例えば、特許文献1には、核酸に結合する固相物質を用いた核酸の精製方法が開示されている。具体的には、前記方法は、出発物質、カオトロピック(すなわち、水の構造を壊す)物質、および核酸が結合した固相物質を混合する段階;前記核酸が結合した前記固相物質を液体から分離する段階;ならびに固相物質−核酸複合体を洗浄する段階を含む。しかし、この方法は、長時間かかり、複雑であり、ラボ・オン・チップ(Lab−On−a−Chip)の装置および応用には不適である。また、この方法は、必ずカオトロピック物質を使用しなければならないという問題点を有する。
【0004】
また、特許文献2には、固相マトリックスを用いた核酸の保存方法が開示されている。この方法は、核酸が固相マトリックスに非可逆的に結合するため、保管後の核酸−固相マトリックス複合体の後分析または繰り返し分析が可能であるという点において好都合である。しかしながら、この方法によれば、アルミナのような表面に正電荷を帯びる物質は、NaOHなどの塩基性物質の添加によって親水性化されなければならない。核酸は、親水性化されたアルミナに、非可逆的に結合するために、アルミナから分離することができない。したがって、DNAが非可逆的に結合した固相マトリックスでは、ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction:PCR)の収率が低いという問題がある。
【0005】
特許文献3は、固相物質に標的核酸を付着させるために疎水性の有機ポリマーの固相上に標的核酸を含む試料を導入する段階と、固相に非イオン性界面活性剤を添加し付着された標的核酸を除去する段階とを含む、試料から核酸を分離する方法を開示している。しかし、前記の特許は、疎水性の固相を用いて核酸を分離しているという点で、親水性表面の固体相、およびコスモトロピック塩を利用し、同じマイクロチャンバで核酸の濃縮及び増幅を連続的に行った本発明とは異なる。
【特許文献1】米国特許第5,234,809号明細書
【特許文献2】米国特許第6,291,166号明細書
【特許文献3】米国特許第6,383,783号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記の従来技術の問題点を解決するためのものであり、その目的は、核酸の濃縮および増幅を効率良く行う手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記のような従来技術の問題点に鑑み、鋭意研究を積み重ねた結果、内表面に親水性官能基を有するマイクロチャンバに、コスモトロピック塩を添加して核酸をマイクロチャンバにおいて濃縮し、濃縮された核酸を利用して同じマイクロチャンバでPCRを行えば、単一のマイクロチャンバで核酸の濃縮および増幅を連続的に行うことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、親水性内表面を有するマイクロチャンバに、核酸含有試料とコスモトロピック塩とを含む溶液を導入し、前記マイクロチャンバの内表面に前記核酸を結合させることにより、前記核酸を濃縮する段階と、前記マイクロチャンバにポリメラーゼ連鎖反応(PCR)混合物を添加してPCRを行う段階と、を含むことを特徴とする、核酸の濃縮および増幅を単一のマイクロチャンバで連続的に行う方法である。
【0009】
また、本発明は、内表面に親水性官能基を有するマイクロチャンバと、前記マイクロチャンバとマイクロチャンネルを介して相互接続され、前記マイクロチャンバに核酸含有試料を供給する核酸含有試料保管部と、前記マイクロチャンバとマイクロチャンネルを介して相互接続され、前記マイクロチャンバにコスモトロピック塩を供給するコスモトロピック塩溶液保管部と、前記マイクロチャンバとマイクロチャンネルを介して相互接続され、前記マイクロチャンバにPCR混合物を供給するPCR混合物保管部と、前記マイクロチャンバを加熱および冷却する加熱部および冷却部と、を備えることを特徴とする、核酸含有試料中の核酸の濃縮および増幅を連続的に行う装置である。
【0010】
さらに、本発明は、内表面に親水性基を有するマイクロチャンバを備えるチップと、前記チップを収容する核酸増幅部と、を備えることを特徴とする、核酸の濃縮および増幅を連続的に行う装置である。
【0011】
さらに、本発明は、前記の装置を備えることを特徴とする、ラボ・オン・チップである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、核酸の濃縮および増幅を効率良く行う手段が提供されうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の第1は、親水性内表面を有するマイクロチャンバに、核酸含有試料とコスモトロピック塩とを含む溶液を導入し、前記マイクロチャンバの内表面に前記核酸を結合させることにより、前記核酸を濃縮する段階と、前記マイクロチャンバにポリメラーゼ連鎖反応(PCR)混合物を添加してPCRを行う段階と、を含むことを特徴とする、核酸の濃縮および増幅を1つのマイクロチャンバで連続的に行う方法である。
【0014】
本発明は、核酸分析のための試料の調製とリアルタイムPCRとを単一マイクロチャンバで行う方法に関する。標的遺伝子の増幅および検出のためには、DNAは生物学的試料から単離および精製されなければならない。細胞溶解物に存在し、PCR反応を阻害する多様な不純物は、精製段階により除去される。従来のプロセスでは、特定遺伝子の精製、増幅、および検出が別々のマイクロチャンバで行われ、遺伝子分析の間、時間およびコストが余計にかかり、また、試料の交差汚染の可能性を著しく高くさせる。本発明では、核酸の精製および濃縮と核酸増幅とが統合されているため、分析のプロセスが単純化され、かつ、交差汚染の危険性が低減されている。
【0015】
図1は、核酸の濃縮および増幅を単一のマイクロチャンバでどのように行うかを示す模式図である。標的遺伝子は、単一のマイクロチャンバ20の内部で核酸を含む生物学的試料10から精製および濃縮され、精製および濃縮された標的遺伝子は、同じマイクロチャンバ20の内部で増幅され、リアルタイムで検出される(図1中の30参照)。しかしながら、これを行うためには、いくつかの条件が満足されなければならない。第一に、DNA精製および濃縮に用いられる試薬は、リアルタイムPCRに影響を与えてはならないため、カオトロピック塩およびエタノールなどのPCR阻害剤は使用できない。第二に、大きい表面積を有するSiO2チップでPCRが行われなければならないが、SiO2の表面は、PCR阻害剤として作用するため、PCR阻害を減少させるための添加剤が添加される必要がある。第三に、SiO2チップは、高いDNA結合効率を有さなければならない。
【0016】
これらの問題点を解決するために、核酸の精製に従来用いられているカオトロピック塩の代わりに、コスモトロピック塩が用いられる。カオトロピック塩が用いられる場合、マイクロチャンバの表面が脱水され、核酸が水素結合によりマイクロチャンバに直接結合するため、核酸の結合はpHに影響され、カオトロピック塩はPCR阻害剤として作用する。しかし、コスモトロピック塩が用いられる場合、コスモトロピック塩に曝されているマイクロチャンバの表面は水和され、マイクロチャンバの表面に安定化された水層が形成される。核酸は、水層に結合している水素によってマイクロチャンバの表面に吸着され、これは、親水性相互作用による塩析効果に起因する。図2は、コスモトロピック塩の存在下で、マイクロチャンバの親水性表面に核酸が結合する様子を表す模式図である。図2から分かるように、コスモトロピック塩の塩析効果により、シリカ基板210(図2の左側部分)は水素結合により水と結合し、形成された水層220(図2の中央部分)は、核酸230(図2の右側部分)とさらに水素結合を形成するので、核酸が安定化された水層を媒介として、マイクロチャンバに結合することとなる。したがって、マイクロチャンバと結合している核酸は、従来核酸結合に必要な酸性条件を必要とせず、マイクロチャンバの内表面がシリカに限定される必要もない。
【0017】
本発明の一実施形態による核酸を濃縮および増幅する方法において、核酸含有試料およびコスモトロピック塩を含む溶液が、マイクロチャンバの内部に導入されると、コスモトロピック塩の塩析効果により、親水性官能基を有するマイクロチャンバの内表面に水が水素結合を形成し、形成された水層は、核酸とさらに水素結合を形成し、結果として核酸は前記マイクロチャンバの内表面に結合される。核酸を前記マイクロチャンバの内表面に結合させた後、前記マイクロチャンバの内表面に結合されていない、核酸含有試料の核酸以外の他の成分を洗浄することにより、結合された核酸は、さらに純粋な形態で濃縮されうる(すなわち、精製される)。それゆえ、洗浄液は、結合されていない核酸含有試料のいかなるものでも除去するために、核酸を有するマイクロチャンバの内表面を通りながら、マイクロチャンバを通過する。前記洗浄液は、核酸が前記マイクロチャンバの内表面に結合する際に用いられたコスモトロピック塩溶液よりも低い、コスモトロピック塩の濃度を有する。
【0018】
本発明の一実施形態による核酸の増幅方法において、核酸が濃縮されたマイクロチャンバにPCR混合物が添加され、前記マイクロチャンバの内表面に結合しているか、または前記マイクロチャンバの内表面から分離された標的核酸を用いてPCRが行われる。前記PCR混合物の組成および濃度は、導入されるポリメラーゼによって変わりうるということは、当業者に理解されるであろう。また、PCRの条件は、増幅しようとするPCR産物の長さ、テンプレートとプライマーとの配列相同性、プライマー長などによって適切に選択されうる。
【0019】
本発明の一実施形態による核酸を濃縮および増幅する方法において、ポリエチレングリコール(PEG)およびウシ血清アルブミン(BSA)が、PCRの実施段階で添加されうる。大きい表面積を有するマイクロチャンバで、マイクロチャンバのSiO2内表面は、PCR阻害剤として作用するため、阻害作用を減らすために適当な添加剤が添加されうる。よって、本発明では、ポリエチレングリコール(PEG)およびウシ血清アルブミン(BSA)を添加することによって、PCR増幅効率が向上される。前記ポリエチレングリコールの濃度は、PCR混合物の全質量に対して1〜10質量%であることが好ましい。前記ウシ血清アルブミン(BSA)の濃度は、PCR混合物の全量に対して0.1〜10mg/mlであることが好ましい。前記の濃度範囲を外れると、PCR増幅効率が低下する場合がある。
【0020】
本発明の一実施形態による核酸を濃縮および増幅する方法において、前記マイクロチャンバの内表面は、複数個のピラーを有することが好ましい。核酸含有試料とマイクロチャンバとの接触機会を増加させるために、前記マイクロチャンバの内表面は、平面構造よりも広い表面積を有するピラー構造を有することがより好ましい。前記ピラーは、正方形、長方形、菱形、円筒形、円錘形、六角形、八角形などの多様な形を有することができる。前記ピラー間の間隔は8〜50μmであることが好ましい。前記ピラー間の間隔が前記範囲を外れると、核酸の結合効率および増幅効率が低下する場合がある。
【0021】
本発明の一実施形態による核酸を濃縮および増幅する方法において、前記マイクロチャンバは内表面に親水性官能基を有する。前記親水性官能基は、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、ポリカルボキシル基、およびシラノール基からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましいが、これらに限定されず、いかなる親水性基であってもよい。
【0022】
本発明の一実施形態による核酸を濃縮および増幅する方法において、前記コスモトロピック塩の具体的な例としては、例えば、硫酸塩、リン酸塩、水酸化物、フッ化物、ギ酸塩、酢酸塩などが好ましく挙げられるが、これらに限定されるものではない。前記コスモトロピック塩は、ホフマイスターシリーズ(Hofmeister Series)により、蛋白質の結晶化を誘発し、疎水性粒子に対する塩析イオンとしての役割を果たし、水構造を形成する。
【0023】
本発明の一実施形態による核酸を濃縮および増幅する方法において、前記核酸含有試料および前記コスモトロピック塩を含む溶液のpHは、3〜10であることが好ましい。前記核酸含有試料および前記コスモトロピック塩を含む溶液のpHが前記範囲を外れれば、DNAが物理的および化学的に変性され、次の段階に悪影響を与える場合がある。
【0024】
本発明の一実施形態による核酸を濃縮および増幅する方法において、前記コスモトロピック塩の濃度は、前記核酸含有試料および前記コスモトロピック塩を含む溶液の全量に対して100〜2,000mMであることが好ましい。前記コスモトロピック塩の濃度が100mM未満の場合、マイクロチャンバに結合する核酸の結合効率が低下する場合がある。前記コスモトロピック塩の濃度が2,000mMを超える場合、緩衝液の溶解性の制限および過剰な緩衝液の濃度により、有用な溶液を調製することが困難となる場合がある。
【0025】
本発明の一実施形態による核酸を濃縮および増幅する方法において、前記核酸含有試料は、血液、血清、小便、唾液、または細胞培養液に存在するバクテリアもしくはウイルスの細胞溶解物であることが好ましいが、これらに制限されるものではない。本発明に用いられる核酸含有試料は、哺乳動物、植物、バクテリア、または酵母由来であることが好ましい。前記核酸含有試料は、単一細胞形態であってもまたは組織形態であってもよく、細胞または組織は、試験管内培養物由来でありうる。
【0026】
本発明の第2は、内表面に親水性官能基を有するマイクロチャンバと、前記マイクロチャンバとマイクロチャンネルを介して相互接続され、前記マイクロチャンバに核酸含有試料を供給する核酸含有試料保管部と、前記マイクロチャンバとマイクロチャンネルを介して相互接続され、前記マイクロチャンバにコスモトロピック塩を供給するコスモトロピック塩溶液保管部と、前記マイクロチャンバとマイクロチャンネルを介して相互接続され、前記マイクロチャンバにPCR混合物を供給するPCR混合物保管部と、前記マイクロチャンバを加熱および冷却する加熱部および冷却部と、を備えることを特徴とする、拡散含有試料中の核酸の濃縮および増幅を連続的に行う装置である。
【0027】
本発明の一実施形態による核酸の濃縮および増幅を行う装置は、内表面に親水性官能基を有するマイクロチャンバ、核酸含有試料保管部、コスモトロピック塩溶液保管部、PCR混合物保管部、加熱部、および冷却部を含む。本発明の一実施形態による核酸の濃縮および増幅を行う装置において、前記マイクロチャンバは、チップ内に1つのチャンバを含み、内表面に水と水素結合を形成して安定な水層を形成する親水性官能基を含む。形成された安定な水層は、核酸と結合する。前記親水性官能基は、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、ポリカルボキシル基、およびシラノール基からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましいが、これらに限定されず、いかなる親水性基であってもよい。
【0028】
前記核酸含有試料保管部は、マイクロチャンバに核酸含有試料を供給する部分であり、マイクロチャンバと第1のマイクロチャンネルを介して相互連結されている。
【0029】
前記コスモトロピック塩溶液保管部は、マイクロチャンバにコスモトロピック塩を供給する部分であって、マイクロチャンバと第2のマイクロチャンネルを介して相互接続されている。分離しようとする核酸含有試料が第1マイクロチャンネルを通して装置に導入されると、前記コスモトロピック塩溶液保管部は、コスモトロピック塩を、第2マイクロチャンネルを通してマイクロチャンバに供給し、マイクロチャンバ内で核酸含有試料とコスモトロピック塩とが混合され、コスモトロピック塩の塩析効果により、核酸がマイクロチャンバに結合される。
【0030】
前記PCR混合物保管部は、マイクロチャンバにPCR混合物を供給する部分であって、マイクロチャンバと第3のマイクロチャンネルを介して相互接続されている。核酸がマイクロチャンバに濃縮された後、前記PCR混合物保管部はPCR混合物を第3のマイクロチャンネルを通してマイクロチャンバ内に注入し、PCRを行う。
【0031】
前記加熱部および前記冷却部は、前記マイクロチャンバを加熱および冷却する部分であり、PCR混合物がマイクロチャンバ内に導入されると、PCRの条件により、加熱部および冷却部は、加熱および冷却によりマイクロチャンバの温度を調節する。
【0032】
本発明の一実施形態による核酸の濃縮および増幅を行う装置において、前記マイクロチャンバの内表面は、複数個のピラーを有することが好ましい。核酸含有試料とマイクロチャンバとの接触機会を増加させるために、前記マイクロチャンバの内表面は、平面構造よりも広い表面積を有するピラー構造を有することがより好ましい。前記ピラーは、正方形、長方形、菱形、円筒形、円錘形、六角形、八角形などの多様な形を有することができる。前記ピラー間の間隔は8〜50μmであることが好ましい。前記ピラー間の間隔が前記範囲を外れると、核酸の結合効率および増幅効率が低下する場合がある。
【0033】
本発明の一実施形態による核酸の濃縮および増幅を行う装置において、前記核酸含有試料は、血液、血清、小便、唾液、または細胞培養液に存在するバクテリアもしくはウイルスの細胞溶解物であることが好ましいが、これらに制限されるものではない。本発明に用いられる核酸含有試料は、哺乳動物、植物、バクテリア、または酵母由来であることが好ましい。前記拡散含有試料は、単一細胞形態であってもまたは組織形態であってもよく、前記単一細胞または前記組織は、試験管内培養物由来でありうる。
【0034】
本発明の第3は、内表面に親水性官能基を有するマイクロチャンバを備えるチップと、前記チップを収容する核酸増幅部と、を備えることを特徴とする、核酸の濃縮および増幅を連続的に行う装置である。本発明の装置は、チップおよび核酸増幅部を含み、前記チップは、内表面に親水性官能基を有するマイクロチャンバを備え、前記チップは1つのチャンバを含む。前記マイクロチャンバは、内表面に親水性官能基を有しているため、ここに核酸含有試料およびコスモトロピック塩を含む溶液を導入すると、核酸がマイクロチャンバの内表面に結合されて核酸が濃縮される。前記核酸増幅部は、前記チップを含み、前記チップの前記マイクロチャンバ内で濃縮された核酸を増幅する。核酸が濃縮されたマイクロチャンバを備えるチップは、前記核酸増幅部に配置されて、マイクロチャンバ内にPCR混合物が導入され、濃縮された核酸を増幅させるためにPCRが行われる。
【0035】
本発明の第4は、前記核酸の濃縮および増幅を行う装置を備えるラボ・オン・チップである。本発明の核酸の濃縮および増幅を行う装置において、それぞれの機能的な構成要素は、公知のマイクロ流体技術およびMEMS素子を用いてプロセス・オン・チップ(Process−On−a−Chip)によって具現されうるだけではなく、ラボ・オン・チップでも具現されうる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明について、実施例を通してさらに具体的に説明する。しかし、下記の実施例は、本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれら実施例に限定されるものではない。
【0037】
(実施例1:チップの表面積の増大に対するPCRの効率の違い)
チップの表面積の増大に対するPCRの効率の違いを調べた。PCRは、TMC1000(Samsung社製)機器を用いて行った。TMC1000は、シリコンチップ上で定量PCRを行う装置である。別途に記載した場合を除き、すべての実験に用いられたテンプレートDNAは、大腸菌(E.coli)BL21ゲノムDNAであり、反応当たり1.4×105コピーが用いられた。1コピーのゲノムDNAは、7個の標的核酸(16s−rRNA遺伝子)を有しているので、反応当たり総数で106コピーの標的遺伝子が含まれている。PCRプライマーとして、フォワードプライマー(YCCAKACTCCTACGGGAGGC:配列番号1)およびリバースプライマー(GTATTACCGCRRCTGCTGGCAC:配列番号2)が用いられた。
【0038】
別途に記載した場合を除き、PCR混合物は、1×PCR緩衝液(Solgent社製)、5.0mMのMgCl2、200μMのdNTP、0.2μMであるプライマー、0.1mg/mlのBSA、0.1U/μlのTaqDNAポリメラーゼを含む。PCR温度条件は、次の通りである。Eppendorf PCRチューブでのPCRは、94℃5分間で1サイクル、ならびに94℃で30秒間、62℃で30秒間、および72℃で30秒間を30サイクル行った後、生成されたPCR産物を、Bioanalyzer(Agilent社製)を用いて定量化した。チップでのPCRは、94℃1分間で1サイクル、ならびに94℃で5秒間、62℃で5秒間、ならびに72℃で20秒間を40サイクル行い、生成されたPCR産物は、TMC1000(Samsung社製)を用いてリアルタイムで測定した。
【0039】
図3は、チップの表面積の増大に対するPCRの効率の違いを示すグラフである。図3から分かるように、体積に対するチップの表面積の比が増加するほど、生成されたPCR産物の量が少なくなり、生成されたPCR産物の量が、体積に対するチップの表面積の比と密接に関連しているということが分かる。したがって、大きい表面積を有するチップを用いてPCRを行うためには、PCR阻害を低減させる他の添加剤が加えられる必要がある。
【0040】
(実施例2:PEGの濃度の違いに対するPCRの効率の違い)
大きな表面積を有するチップに関し、ポリエチレングリコール(PEG)濃度の違いに対するPCRの効率の違いを調べた。PCR混合物の総質量に対してPEGを0.31質量%、1.25質量%、2.5質量%、5質量%、および10質量%の濃度でそれぞれ添加した5サンプルを調製したことを除いては、実施例1と同様にPCRを行った。図4は、PEGの濃度の違いに対するPCRの効率の違いを示すグラフである。図4で左側のグラフはRn値を示し、右側のグラフはCt値を示す。蛍光測定値であるCtは、スレショルド・サイクル(Threshold Cycle)としてリアルタイムで増幅される蛍光量を測定することにより表される。同じ試料が用いられれば、Ct値が低いほどPCRの効率が高い。Ct値は、1サイクルの差は、2倍かまたは半分のDNA濃度であるということを示す単位である。Rnは、PCR産物の濃度と関連し、Rn値が大きいほどPCR産物の濃度が高いということを意味する。図4から分かるように、5質量%のPEGを添加した場合に、Rn値が最も大きく、Ct値が最も小さいので、PCRの効率が最も高いということが分かる。
【0041】
(実施例3:BSAの濃度の違いに対するPCRの効率の違い)
大きな表面積を有するチップに関し、ウシ血清アルブミン(BSA)濃度の違いによるPCRの効率の違いを調べた。PCR混合物の総質量に対してPEG5質量%を添加し、そこにBSAを、PCR混合物全量に対して0.62mg/ml、1.25mg/ml、2.5mg/ml、5mg/ml、および10mg/mlの濃度でそれぞれ添加した5サンプルを調製したことを除いては、実施例1と同様にPCRを行った。図5は、BSAの濃度の違いに対するPCRの効率の違いを示すグラフである。図5で、左側のグラフはRn値を表し、右側のグラフはCt値を表す。図5から分かるように、0.62mg/mlのBSAを添加した場合に、Rn値が最も大きく、Ct値が最も小さいので、PCRの効率が最も高いということが分かる。
【0042】
(実施例4:様々な表面積を有するチップに対するPCRの効率の違い)
様々な表面積を有するチップに対するPCRの効率の違いを調べるために、6種類のチップを調製した。シリコンチップ(Si/SiO2)の調製工程は下記の通りである。
【0043】
(1)ウェハ洗浄
ピラニア溶液(H2SO4:H2O2=3:1体積比、120℃)で15分間処理し、流水で洗浄後に乾燥した。
【0044】
(2)ヘキサメチルジシラザン(HMDS)コーティング
洗浄されたウェハ上に、スピンコーターを用いてヘキサメチルジシラザン(HMDS)5mlを滴下した後、500rpmで5秒および4,000rpmで40秒コーティングを行い、120℃で2分間、ホットプレートでベーキングした。
【0045】
(3)フォトレジスト(PR)コーティング
ベーキングされたウェハ上に、フォトレジスト(GXR601、AZ Electronic Materials社から入手可能)を5ml滴下した後、500rpmで5秒および4,000rpmで40秒コーティングを行った。
【0046】
(4)ソフトベーキング
フォトレジストがコートされたウェハを、ホットプレートを用いて95℃で2分間ベーキングを行った。
【0047】
(5)UV露光
UV aligner(i線)にピラー作製用マスクを装着した後、フォトレジストがコートされたウェハに対して、365nmの波長の光を250mJ/cm2の照射量で照射した。
【0048】
(6)現像
MIF 300(AZ Electronic Materials社製)現像機を用いて現像を行った。
【0049】
(7)ハードベーキング
現像されたウェハに対して、115℃で2分間ハードベーキングを行った。
【0050】
(8)Deep RIE
STS ICP−RIE機器を用いて、100μmのSiエッチングを行った。
【0051】
(9)除去
アッシング装置を用い、エッチングされたウェハからフォトレジストを除去した。
【0052】
(10)PRストリップ
残存するフォトレジストの除去および洗浄するために、アッシングされたウェハをピラニア溶液で15分間処理し、洗浄および乾燥を行った。
【0053】
(11)フッ化水素(HF)処理
前記(10)で得られたウェハを、希釈したHFで1分間処理し、自然酸化物を除去した。
【0054】
(12)Si酸化
SiO2の成長のために、水蒸気を用いた湿式酸化を行い、SiO2を3,000Aの厚さに成長させた。
【0055】
(13)ウェハ洗浄
ウェハをピラニア溶液で15分間処理し、洗浄および乾燥を行った。
【0056】
(14)陽極接合
前記(13)で洗浄されたウェハの上にガラス基板を置き、400℃の熱と1,000Vの電圧とを印加して接合させ、マイクロチップを完成させた。
【0057】
図6は、様々な表面積を有する6種類のチップを示す写真である。各チップのピラーのサイズ、ピラー間の間隔、ピラー高、総表面積、試料を導入できる体積、および体積に対する表面積の比は、下記表1の通りである。
【0058】
【表1】
【0059】
調製されたチップに関して、DNA結合効率およびPCR効率を調べた。DNA結合効率を測定するために使用した緩衝液は、次の通りである。結合緩衝液として、1M硫酸ナトリウム(pH3.0)および1M酢酸ナトリウム(pH3.0)の混合物を用い、洗浄緩衝液として、0.01M硫酸ナトリウム(pH3.0)および0.01M酢酸ナトリウム(pH3.0)の混合物を用いた。まず、DNAを含む試料を、結合緩衝液と1:1体積比で混合した後チップに注入し、次に、洗浄緩衝液をチップに加えて洗浄を行った。チップから出てきた結合緩衝液および洗浄緩衝液に含まれているDNA量をPicogreen(登録商標)(Invitrogen社/Molecular Probes社製)を用いて定量し、このように測定したDNA量と、もともと試料に入っていたDNA量との差によって、チップに結合されたDNA量を予測した。
【0060】
PCRは、それぞれのチップで用いられているPCR混合物に、PEG 5質量%およびBSA 0.62mg/mlをそれぞれ添加したことを除いては、実施例1と同様にPCRを行った。図7は、様々な表面積を有するチップに対するDNA結合の効率およびPCRの効率を示すグラフである。図7から分かるように、ピラーのサイズが25μmであり、ピラー間の間隔が17μmである2番のチップの場合に、Ct値が最も小さく、DNA結合効率が高いということが分かる(図7中、矢印で表示している)。この結果から、DNA結合効率は、チップの表面積に概して比例し、表面積が大きいほど、DNA結合効率も高くなるということが分かる。しかし、チップの表面積が大きいほどCt値は上昇し、PCRの効率は低下する。
【0061】
(実施例5:精製されたDNAを用いた核酸濃縮および増幅の効率)
精製された大腸菌(E.coli)BL21 gDNA 0.012ng/μl(16700標的遺伝子コピー/μl)を用いて、核酸の濃縮および増幅の効率を調べた。DNAの濃縮において、結合緩衝液として、1M硫酸ナトリウム(pH3.0)および1M酢酸ナトリウム(pH3.0)の混合物を用い、洗浄緩衝液として、0.01M硫酸ナトリウム(pH3.0)および0.01M酢酸ナトリウム(pH3.0)の混合物を用いた。PCRは、実施例4と同様に行った。図8は、核酸の濃縮に対するPCRの効率を示すグラフである。図8で、曲線Aは、核酸を濃縮する前の、初期のDNA溶液からの核酸のPCRの結果であり、曲線Bは、本発明の方法を用いて濃縮したDNAを用いたPCRの結果である。図8から分かるように、濃縮前と比較して、濃縮したDNAを用いた場合は、著しく低いCt値および高いRn値を表す。したがって、本発明の核酸の濃縮および増幅の方法を利用すれば、DNAは効率良くマイクロチャンバの内表面に結合され、それによりチップ内で濃縮されるということが分かる。
【0062】
本発明の方法を用いた核酸の濃縮の効率を定量的に評価するために、テンプレートとして大腸菌BL21のgDNAコピー数によるCt値を測定した。結果は下記表2の通りである。
【0063】
【表2】
【0064】
前記表2に記載されたデータを用い、大腸菌BL21 gDNAの標的遺伝子コピー数によるCt値を表す標準曲線を作成した。図9は、大腸菌BL21 gDNAの標的遺伝子コピー数に対するCt値を示す標準曲線である。図9で、右側の点線は、理論的に大腸菌BL21 gDNAのすべてが損失なく40倍濃縮される場合(1.00×106コピー)に対応するCt値を表し、左側の点線は、濃縮前の初期のBL21 gDNA溶液(16700コピー/μl)に対応するCt値を表す。図9から分かるように、ピラー構造を有さない6番のチップの場合、DNAの濃縮効率が低くCt値が相対的に高いが、2番のチップの場合、DNAの濃縮効率が非常に高くCt値が非常に低い。2番のチップの場合、1.00×106コピーの35%に該当するCt値を示す。よって、40倍の濃縮の工程で65%の損失が生じたが、DNAのかなりの量が濃縮されたということを表している。
【0065】
(実施例6:細胞溶解物を利用した核酸濃縮および増幅効率)
1.3×105細胞/μlの濃度を有する大腸菌(E.coli)BL21の溶解物を用い、核酸の濃縮および増幅の効率を調べた。DNAの濃縮において、結合緩衝液として、1M硫酸ナトリウム(pH3.0)および1M酢酸ナトリウム(pH3.0)の混合物を用い、洗浄緩衝液として、0.01M硫酸ナトリウム(pH3.0)および0.01M酢酸ナトリウム(pH3.0)の混合物を用いた。PCRは、実施例4と同様に行った。図10は、核酸の濃縮に対するPCR効率の違いを示すグラフである。図10で、曲線Aは、核酸を濃縮する前の、初期のDNA溶液からの核酸のPCRの結果であり、曲線Bは、本発明の方法を用いて濃縮したDNAを用いたPCRの結果である。図10から分かるように、濃縮前のDNAを用いたCt値は25.5であったが、核酸濃縮後のCt値は15.37と顕著に低くなっている。すなわち、本発明の方法を用いると、PCR阻害剤が多量に存在する細胞溶解物でも、核酸が効率よく濃縮、精製、および増幅されるということが分かる。
【0066】
本発明の方法を用いた核酸の濃縮の効率を定量的に評価するために、テンプレートである大腸菌BL21細胞数に対するCt値を測定した。結果は下記表3の通りである。
【0067】
【表3】
【0068】
前記表3に記載されたデータを用い、大腸菌BL21細胞数に対するCt値の標準曲線を作成した。図11は、大腸菌BL21細胞数に対するCt値を示す標準曲線である。図11で、右側の点線は理論的に大腸菌BL21細胞を50倍濃縮する場合(1×107細胞/μl)に対応するCt値(19.69)を表し、左側の点線は、濃縮前の初期の大腸菌BL21細胞数(1.3×105細胞/μl)に対応するCt値を表す。図11から分かるように、2番のチップの場合、Ct値は19.69よりも著しく低いということが分かる。2番のチップに対応するCt値を細胞数に換算すれば、初期の細胞が約500倍以上濃縮されたことになる。これは、核酸濃縮の過程で、細胞溶解物中に存在するPCR阻害剤が除去されて、核酸がさらに純粋な形態で得られたためである。
【0069】
したがって、本発明の方法を用いれば、PCR阻害剤が含まれる細胞溶解物が効率よく精製、濃縮および増幅されうる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の、単一のマイクロチャンバで核酸の濃縮および増幅を行う方法、ならびに該方法を行う装置は、例えば、DNA試料関連の技術分野に効果的に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の、単一のマイクロチャンバで核酸の濃縮および増幅を行う方法を示す模式図である。
【図2】コスモトロピック塩の存在下で、マイクロチャンバの親水性内表面に核酸が結合されることを示す模式図である。
【図3】チップの表面積の増大に対するPCR効率の違いを示すグラフである。
【図4】PEGの濃度の違いに対するPCR効率の違いを示すグラフである。
【図5】BSAの濃度に対するPCR効率の違いを示すグラフである。
【図6】様々な表面積を有する6種類のチップを示す写真である。
【図7】様々な表面積を有するチップに対するDNA結合効率の違いおよびPCR効率の違いを示すグラフである。
【図8】核酸濃縮によるPCR効率の上昇を示すグラフである。
【図9】大腸菌BL21 gDNAの標的遺伝子コピー数に対するCt値を示す標準曲線である。
【図10】細胞溶解物において、核酸の濃縮および精製によるPCR効率の上昇を示すグラフである。
【図11】大腸菌BL21細胞数に対するCt値を示す標準曲線である。
【符号の説明】
【0072】
10 核酸を含む生物学的試料、
20 マイクロチャンバ、
30 リアルタイム検出、
210 シリコン基板、
220 水層、
230 核酸。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性内表面を有するマイクロチャンバに、核酸含有試料とコスモトロピック塩とを含む溶液を導入し、前記マイクロチャンバの内表面に前記核酸を結合させることにより、前記核酸を濃縮する段階と、
前記マイクロチャンバにポリメラーゼ連鎖反応(PCR)混合物を添加してPCRを行う段階と、
を含むことを特徴とする、核酸の濃縮および増幅を単一のマイクロチャンバで連続的に行う方法。
【請求項2】
前記核酸を濃縮する段階が、前記マイクロチャンバの内表面に結合されていない核酸を含む試料を洗浄する段階をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリメラーゼ連鎖反応を行う段階は、ポリエチレングリコールおよびウシ血清アルブミンを添加する段階を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリエチレングリコールの濃度は、PCR混合物の総質量に対して1〜10質量%であり、前記ウシ血清アルブミンの濃度は、PCR混合物の全量に対して0.1〜10mg/mlであることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記マイクロチャンバの内表面は、複数個のピラーを有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ピラー間の間隔は、8〜50μmであることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記親水性内表面は、ヒドロキシル基、アミン基、カルボン酸基、ポリカルボン酸基、およびシラノール基からなる群より選択される少なくとも1種の親水性官能基を有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記コスモトロピック塩は、硫酸塩、リン酸塩、水酸化物、フッ化物、ギ酸塩、および酢酸塩からなる群より選択されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記核酸含有試料と前記コスモトロピック塩とを含む前記溶液は、pHが3〜10であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記コスモトロピック塩の濃度は、前記核酸含有試料と前記コスモトロピック塩とを含む前記溶液の全量に対して100〜2,000mMであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記核酸含有試料は、血液、血清、小便、唾液、または細胞培養液に存在するバクテリアもしくはウイルスの細胞溶解物であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
内表面に親水性官能基を有するマイクロチャンバと、
前記マイクロチャンバとマイクロチャンネルを介して相互接続され、前記マイクロチャンバに核酸含有試料を供給する核酸含有試料保管部と、
前記マイクロチャンバとマイクロチャンネルを介して相互接続され、前記マイクロチャンバにコスモトロピック塩を供給するコスモトロピック塩溶液保管部と、
前記マイクロチャンバとマイクロチャンネルを介して相互接続され、前記マイクロチャンバにPCR混合物を供給するPCR混合物保管部と、
前記マイクロチャンバを加熱および冷却する加熱部および冷却部と、
を備えることを特徴とする、核酸含有試料中の核酸の濃縮および増幅を連続的に行う装置。
【請求項13】
前記マイクロチャンバの内表面は、複数個のピラーを有することを特徴とする、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記ピラー間の間隔は8〜50μmであることを特徴とする、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記親水性官能基は、ヒドロキシル基、アミン基、カルボキシル基、ポリカルボキシル基、およびシラノール基からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項12〜14のいずれか1項に記載の装置。
【請求項16】
前記核酸含有試料は、血液、血清、小便、唾液、または細胞培養液に存在するバクテリアもしくはウイルスの細胞溶解物であることを特徴とする、請求項12〜15のいずれか1項に記載の装置。
【請求項17】
内表面に親水性官能基を有するマイクロチャンバを備えるチップと、
前記チップを含む核酸増幅部と、
を備えることを特徴とする、核酸の濃縮および増幅を連続的に行う装置。
【請求項18】
請求項12〜17のいずれか1項に記載の装置を備えることを特徴とする、ラボ・オン・チップ。
【請求項1】
親水性内表面を有するマイクロチャンバに、核酸含有試料とコスモトロピック塩とを含む溶液を導入し、前記マイクロチャンバの内表面に前記核酸を結合させることにより、前記核酸を濃縮する段階と、
前記マイクロチャンバにポリメラーゼ連鎖反応(PCR)混合物を添加してPCRを行う段階と、
を含むことを特徴とする、核酸の濃縮および増幅を単一のマイクロチャンバで連続的に行う方法。
【請求項2】
前記核酸を濃縮する段階が、前記マイクロチャンバの内表面に結合されていない核酸を含む試料を洗浄する段階をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリメラーゼ連鎖反応を行う段階は、ポリエチレングリコールおよびウシ血清アルブミンを添加する段階を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリエチレングリコールの濃度は、PCR混合物の総質量に対して1〜10質量%であり、前記ウシ血清アルブミンの濃度は、PCR混合物の全量に対して0.1〜10mg/mlであることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記マイクロチャンバの内表面は、複数個のピラーを有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ピラー間の間隔は、8〜50μmであることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記親水性内表面は、ヒドロキシル基、アミン基、カルボン酸基、ポリカルボン酸基、およびシラノール基からなる群より選択される少なくとも1種の親水性官能基を有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記コスモトロピック塩は、硫酸塩、リン酸塩、水酸化物、フッ化物、ギ酸塩、および酢酸塩からなる群より選択されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記核酸含有試料と前記コスモトロピック塩とを含む前記溶液は、pHが3〜10であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記コスモトロピック塩の濃度は、前記核酸含有試料と前記コスモトロピック塩とを含む前記溶液の全量に対して100〜2,000mMであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記核酸含有試料は、血液、血清、小便、唾液、または細胞培養液に存在するバクテリアもしくはウイルスの細胞溶解物であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
内表面に親水性官能基を有するマイクロチャンバと、
前記マイクロチャンバとマイクロチャンネルを介して相互接続され、前記マイクロチャンバに核酸含有試料を供給する核酸含有試料保管部と、
前記マイクロチャンバとマイクロチャンネルを介して相互接続され、前記マイクロチャンバにコスモトロピック塩を供給するコスモトロピック塩溶液保管部と、
前記マイクロチャンバとマイクロチャンネルを介して相互接続され、前記マイクロチャンバにPCR混合物を供給するPCR混合物保管部と、
前記マイクロチャンバを加熱および冷却する加熱部および冷却部と、
を備えることを特徴とする、核酸含有試料中の核酸の濃縮および増幅を連続的に行う装置。
【請求項13】
前記マイクロチャンバの内表面は、複数個のピラーを有することを特徴とする、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記ピラー間の間隔は8〜50μmであることを特徴とする、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記親水性官能基は、ヒドロキシル基、アミン基、カルボキシル基、ポリカルボキシル基、およびシラノール基からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする、請求項12〜14のいずれか1項に記載の装置。
【請求項16】
前記核酸含有試料は、血液、血清、小便、唾液、または細胞培養液に存在するバクテリアもしくはウイルスの細胞溶解物であることを特徴とする、請求項12〜15のいずれか1項に記載の装置。
【請求項17】
内表面に親水性官能基を有するマイクロチャンバを備えるチップと、
前記チップを含む核酸増幅部と、
を備えることを特徴とする、核酸の濃縮および増幅を連続的に行う装置。
【請求項18】
請求項12〜17のいずれか1項に記載の装置を備えることを特徴とする、ラボ・オン・チップ。
【図2】
【図3】
【図1】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図3】
【図1】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−306914(P2007−306914A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−85582(P2007−85582)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】Samsung Electronics Co.,Ltd.
【Fターム(参考)】
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