説明

単一またはマルチ標的遺伝子を抑制するマルチ−シストロンshRNA発現カセット

本発明は、単一またはマルチ標的遺伝子を抑制するための1つのマルチ−シストロンshRNAに関し、より詳細には、マルチ−シストロンshRNA発現カセット、前記マルチ−シストロンshRNA発現カセットを含む発現ベクター、前記マルチ−シストロンshRNA発現ベクターで形質導入された細胞、前記発現ベクターと伝達体との複合体、様々な標的遺伝子などを抑制する方法、及び前記発現ベクターを含む標的遺伝子抑制用組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単一またはマルチ標的遺伝子を抑制するための1つのマルチ−シストロンshRNAに関し、より詳細には、マルチ−シストロンshRNA発現カセット、前記マルチ−シストロンshRNA発現カセットを含む発現ベクター、前記マルチ−シストロンshRNA発現ベクターで形質導入された細胞、前記発現ベクターと伝達体との複合体、様々な標的遺伝子などを抑制する方法、及び前記発現ベクターを含む標的遺伝子抑制用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
RNA干渉(RNA interference、 以下、“RNAi”という)は、標的遺伝子のmRNAと相同の配列を有するセンスRNAと、これと相補的な配列を有するアンチセンスRNAから構成される二本鎖RNA(double-stranded RNA,dsRNA)を細胞などに導入して選択的に標的遺伝子のmRNA分解を誘導して標的遺伝子の発現を抑制できる現象である。RNAiは、選択的に標的遺伝子の発現を抑制できるから、従来の非効率的な相同組換えによる遺伝子破壊法の代わりをする簡単な遺伝子ノックダウン(knock-down)方法または遺伝子治療の方法として相当な関心を集めており、遺伝子発現を抑制するために広く使われている。化学的に合成された短い干渉RNA(short interfering RNA、以下、“siRNA”という)及びプロモーター依存的に発現する短いヘアピンRNA(short hairpin RNA、以下、“shRNA”という)は、いずれも生体外(in vitro)及び生体内(in vivo)で強力な遺伝子抑制(silencing)活性を示す。しかし、化学的に合成したsiRNAと比較して見る時、プロモーター依存的shRNAは、細胞及び全体有機体内で安定した発現、構成または誘導性発現、及び細胞類型−特異的発現を含んで多くの面において使用上の利点を有している。shRNAは、次の2つの種類に分類することができる:第1世代及び第2世代のshRNA(図1)。第1世代のshRNAは、化学的に合成したsiRNAの単純模倣体(mimic)である一方、第2世代のshRNAは、多様な有機体から発現される自然上のマイクロRNA由来として、さらに優れた機能性を見せる。第2世代のshRNAの構造的な特徴(図1)は、プロモーター及び標的shRNA塩基配列の選択をさらに柔軟にできるようにしてくれる。
【0003】
siRNAの場合、1つの標的遺伝子を抑制する時、単一位置に作用する単独siRNAよりも多くの位置に作用するsiRNAを混合した混合siRNA形態でさらに頻繁に使われる。これは、多くの位置に作用する混合siRNAがより良い抑制活性を示し、多くの種類のsiRNAを化学的合成で容易に製造することができるからである。また、互いに異なるマルチ遺伝子などを標的にする場合にも多くの標的遺伝子に作用する混合siRNAを使用することによって、これらの多様な遺伝子を適切に抑制することができる。一方、プロモーター依存的shRNAは、基本的にモノ−シストロン(mono-cistron)として使われ、ただ1つの標的遺伝子を抑制できるのみである。結果的に、プロモーター依存的shRNAを用いて多様な標的遺伝子を抑制するためには、各標的遺伝子に対応するshRNA発現構造体(expression construct)を標的遺伝子数だけ使わなければならない。従って、ただ1つのshRNA発現構造体を使って多様な標的遺伝子を抑制できるならば、多様な発現構造体を使用することによって、引き起こされ得る等モル(equimolar)のshRNA発現をすることができない問題、同一のプロモーターが繰り返して使用されることによって、これらの繰り返し配列での高い組換え頻度のような問題、特に、遺伝子治療剤のような治療剤形態への開発におけるshRNA発現構造体の品質均質性問題などを画期的に改善することができるだろう。さらに、このような接近は、多様な標的遺伝子の機能分析を容易且つ早くすることができるようにする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、1つのshRNA発現構造体を用いて単一またはマルチ標的遺伝子を抑制する目的で第2世代のshRNAとして構造及びヌクレアーゼ(nuclease)切断部位の特徴がよく知られているRNAであるmir−30由来のshRNAに注目した。本発明者は、mir−30マイクロRNAの構造的な特徴、特にもっとも重要に前記マイクロRNAのリーダー塩基配列(leader sequence)と連関された構造的な柔軟性が多様なshRNAをコードするマルチ−シストロン(multi-cistron)転写体を発現することができるカセット(cassette)を生成できるようにするという仮説を立て、この仮説を立証するために鋭意努力を傾注した結果、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の目的は、プロモーター、及び前記プロモーターに作動可能に連結された標的遺伝子に特異的なshRNA(低分子ヘアピン型RNA;short hairpin RNA)をエンコードする2つ以上のポリヌクレオチド配列を含むマルチ−シストロンshRNA発現カセットを提供することである。
【0006】
本発明の他の目的は、前記発現カセットを含む発現ベクター、発現ベクターで形質導入された細胞、及び前記ベクターと伝達体との複合体を提供することである。
【0007】
本発明の他の目的は、前記発現カセットを用いて抑制しようとする多様な標的遺伝子を抑制する方法を提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、前記発現ベクターを含む標的遺伝子抑制用組成物を提供することである。
【発明の効果】
【0009】
安定的に発現するマルチ−シストロンshRNA発現構造体は、多様な標的遺伝子を抑制し、また、これは多様な標的遺伝子を抑制することによって出た結果を分析する強力なツールになり得る。マルチ−シストロンshRNAを発現させる細胞類型−特異的なプロモーターは、1つのまたは多様な標的遺伝子の細胞類型−特異的な抑制効果分析を容易にすることができ、治療的観点からマルチ−シストロンshRNA発現構造体は、多様な標的遺伝子抑制を必要とするテーラーメード(tailored)治療用途として使用され得る。それゆえに、本発明のマルチ−シストロンshRNA発現構造体は、多様な適用分野において多用途のツールを提供する効果を奏すると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、siRNA、第1世代のshRNA及び第2世代のshRNAの構造を比較したものである。化学的に合成したsiRNA及び2つの異なるshRNAの比較を図式化したものであり、ボックスで表示した部分と色が反転されたボックスで表示した部分のヌクレオチド鎖は、それぞれ標的遺伝子のセンス及びアンチセンス塩基配列を示す。第2世代のshRNAにおいて、丸で表現されたものは相応する転写体センス鎖の一番目のヌクレオチドである。ヌクレアーゼ切断部位は、ドローシャ(Drosha)で表示した線及びダイサー(Dicer)で表示した線で示した。
【図2】図2は、個別的なshRNA発現構造体の機能を調査したものである。A.mir−30由来shRNA鋳型塩基配列を示す。ボックスで表示した部分及び色が反転されたボックスで表示した部分を除いた前記塩基配列は、すべてのshRNA発現構造体の製造のための鋳型として通常的に使われる。B.ヒトXIAP、Akt及びBcl−2を抑制するために考案されたshRNA塩基配列を示す。ボックスで表示した部分及び色が反転されたボックスで表示した部分のヌクレオチド鎖は、それぞれ標的遺伝子のセンス及びアンチセンス塩基配列を示す。C.アデノウイルス製造のためにシャトルベクターにクローニングする同族(cognate)のshRNAに相応する挿入DNA塩基配列を図式化したものである。D.アデノウイルスの製造を図式化したものであって、shRNA発現アデノウイルスをCre−lox組換えによって製造した。E.モノ−シストロンshRNAを発現するアデノウイルスの抑制活性を調査したものである。HCT116細胞を対照群であるAd−emptyウイルスまたはそれぞれのAd−shRNAで感染させた72時間後に溶解した後、ウエスタンブロッティング分析を行った。β−アクチン(β-actin)のタンパク質水準を対照群として使用した。
【図3】図3は、マルチ−シストロンshRNA発現ベクターによる遺伝子抑制を図式化したものである。A.多様なshRNAを含むpAdlox(K)シャトルベクターを図式化したものである。B.マルチ−シストロンshRNA発現アデノウイルスの製造を図式化したものである。Ad−multi_shRNAをCre−lox組換えで製造した。C.マルチ−シストロンshRNAを発現するアデノウイルスの抑制活性を調査したものである。HCT116細胞を対照群であるAd−emptyウイルスまたはAd−multi_shRNAで感染させた72時間後に溶解した後、ウエスタンブロッティング分析を行った。β−アクチンのタンパク質水準を対照群として使用した。
【図4】図4は、1つのマルチ−シストロン転写体においてそれぞれの互いに異なるshRNAが生成される過程に対するモデルを図式化したものである。転写及びshRNAプロセシング(processing)が結合して起き、1つの転写体内に存在するそれぞれのshRNA単位体が順次にプロセシングされる。一番目のshRNAが転写されると、独特の構造を形成し、前記shRNAが主に核内に存在するヌクレアーゼであるドローシャによって切断される。このようにドローシャによって切断されたshRNAは細胞質に放出され、細胞質内のヌクレアーゼであるダイサーによって更に切断される。前記1つの完全なサイクルが連続的に繰り返して行われてマルチ−シストロン転写体にコードされているすべてのshRNAが生成される。
【図5】図5は、単一標的遺伝子を抑制するためのマルチ−シストロンshRNA発現ベクターを構成することを図式化したものである。A.マルチ−シストロンshRNA発現構造体内のshRNAそれぞれが標的遺伝子の互いに異なる位置を作用点としていることを図式化したものである。B.マルチ−シストロンshRNA発現ベクター内のshRNAそれぞれが標的遺伝子の互いに異なる位置を作用点としているもの(ABC型)、または、同じ位置を作用点としているもの(AAA、BBB、CCC型)を図式化したものである。
【図6】図6は、単一標的遺伝子に対してマルチ−シストロンshRNAを構成することを図式化したものであって、マルチ−シストロンマウスFas(mFas)shRNA発現ベクターによる遺伝子抑制を図式化したものである。A.mFasを抑制するために考案された各shRNA塩基配列を示す。ボックスで表示した部分及び色が反転されたボックスで表示した部分のヌクレオチド鎖は、それぞれ標的遺伝子のセンス及びアンチセンス塩基配列を示す。B.マルチ−シストロンmFas shRNA発現アデノウイルスの製造を図式化したものである。Ad−multi_shRNA(O、M、Q、R型)をCre−lox組換えで製造した。C.マルチ−シストロンshRNAを発現するアデノウイルスの抑制活性を調査したものである。Hepa1−6細胞を対照群であるAd−emptyウイルスまたはAd−multi_shRNA(O:mFas#1−#2−#3)またはAd−multi_shRNA(M:mFas#1−#1−#1)またはAd−multi_shRNA(Q:mFas#2−#2−#2)またはAd−multi_shRNA(R:mFas#3−#3−#3)で感染させた72時間後に溶解した後、ウエスタンブロッティング分析を行った。β−アクチンのタンパク質水準を対照群として使用した。D.モノ−シストロンshRNAを発現するアデノウイルスとマルチ−シストロンshRNAを発現するアデノウイルスとの抑制活性を比較したものである。Hepa1−6細胞を対照群であるAd−mFas #1ウイルスまたはAd−multi_shRNA(O:mFas#1−#2−#3)またはAd−multi_shRNA(M:mFas#1−#1−#1)で感染させた72時間後に溶解した後、ウエスタンブロッティング分析を行った。β−アクチンのタンパク質水準を対照群として使用した。
【図7】図7は、単一またはマルチ標的遺伝子を抑制するためにマルチ−シストロンshRNA発現ベクターを構成することを図式化したものである。A.単一標的遺伝子を抑制するためにマルチ−シストロンshRNA発現ベクターを構成することを図式化したものである。標的遺伝子上でshRNAの作用点位置は2箇所以上(A(N)で表示)であり、各作用点に相応するshRNAは同一のもので2つ以上である(a1、a2などで表示)。B.マルチ標的遺伝子を同時に抑制するためにマルチ−シストロンshRNA発現ベクターを構成することを図式化したものである。各標的遺伝子(Target(1)、Target(2)などで表示)上でshRNAの作用点位置は2箇所以上(A(N)、B(N)などで表示)であり、各作用点に相応するshRNAは同一のもので2つ以上である(a1、a2などで表示)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
前記目的を達成するための1つの態様として、本発明は、プロモーター、及び前記プロモーターに作動可能に連結された標的遺伝子に特異的なshRNA(short hairpin RNA)をエンコードする2つ以上のポリヌクレオチド配列を含むマルチ−シストロンshRNA発現カセットに関する。
【0012】
本発明における用語“プロモーター”とは、RNA重合酵素に対する結合部位を含み、プロモーターダウンストリーム(downstream)遺伝子のmRNAへの転写開始活性を有する、暗号化領域の上位(upstream)の非翻訳された核酸配列をいう。本発明の発現カセットにおいて、前記プロモーターはshRNAの発現を開始できるどんなプロモーターも可能である。具体的に、本発明のプロモーターとしては、すべての時間帯に常時的に目的遺伝子の発現を誘導するプロモーター(constitutive promoter)または特定の位置、時期に目的遺伝子の発現を誘導するプロモーター(inducible promoter)を使うことができ、その例としては、U6プロモーター、H1プロモーター、CMV(cytomegalovirus)プロモーター、SV40プロモーター、CAGプロモーター(Hitoshi Niwa et al.,Gene,108:193-199,1991)、CaMV35Sプロモーター(Odell et al.,Nature 313:810-812,1985)、Rsyn7プロモーター(米国特許出願第08/991,601号)、ライスアクチン(rice actin)プロモーター(McElroy et al.,Plant Cell 2:163-171,1990)、ユビキチンプロモーター(Christensen et al.,Plant Mol. Biol.12:619-632,1989)、ALSプロモーター(米国特許出願第08/409,297)などがある。その他にも米国特許第5,608,149号;第5,608,144号、第5,604,121号、第5,569,597号、第5,466,785号、第5,399,680号、第5,268,463号及び第5,608,142号などに開示されたプロモーターなど当業者に自明な公知のすべてのプロモーターを使うことができ、これに制限されるのではない。好ましくは、本発明のプロモーターはU6プロモーター、HIプロモーター、CMVプロモーターであることができ、本発明の好ましい1つの具現例によれば、CMVプロモーターを使うことができる。
【0013】
本発明における用語“標的遺伝子”とは、抑制しようとする遺伝子を意味し、標的遺伝子に特異的なshRNAを発現させ、その標的遺伝子を抑制することができる。本発明における標的遺伝子は、shRNAを介してその機能を抑制できるすべての遺伝子を含むが、好ましくはXIAP(X-chromosme-linked inhibitor of apoptosis protein)、Akt、Bcl−2またはFasが利用され得る。
【0014】
本発明における用語“shRNA”とは、50〜100ヌクレオチドの長さを有する単一鎖のRNAが細胞内でステム−ループ(stem-loop)構造をなし、5〜30ヌクレオチドのループ(loop)部位両方へ相補的に15〜50ヌクレオチドの長いRNAが塩基対をなして二本鎖のステム(stem)を形成し、ステム形成鎖のそれぞれの以前と以後に1〜500ヌクレオチドを更に含む全体長さのRNAをいう。shRNAは、一般に細胞内でRNA重合酵素によって転写されて合成され、以後shRNAは核内のドローシャによって切断され、このように切断されたshRNAは核から細胞質に放出され、細胞質内でダイサーによって更にループが切断され、siRNAのように標的mRNAに塩基配列特異的に結合して標的mRNAを切って破壊することによって、標的mRNAの発現を抑制する作用をする。本発明のshRNAをエンコードするポリヌクレオチドは、マイクロRNA由来の配列から製造することができ、このようなマイクロRNAは種類に制限無く使うことができるが、好ましくはマイクロRNAの一種類であるmir−30由来の配列を使うことができる。具体的に、本発明のshRNAをエンコードするポリヌクレオチドは、mir−30由来のリーダー配列に抑制しようとする標的遺伝子のセンス鎖を連結して製造することができる。好ましくは、本発明のXIAPの発現抑制のためのshRNAは配列番号2のセンス鎖を有することができ、Aktの発現抑制のためのshRNAは配列番号3のセンス鎖を有することができ、Bcl−2の発現抑制のためのshRNAは配列番号4のセンス鎖を有することができ、mFasの発現抑制のためのshRNAは配列番号5、6または7のセンス鎖を有することができる。本発明のマルチ−シストロンshRNAによるXIAP、Akt、Bcl−2の多重的及び同時的発現抑制は、実施例3の図3Cで確認した。また、本発明のマルチ−シストロンshRNAによるmFasの多重的及び同時的発現抑制は、実施例3の図6C及び6Dで確認した。
【0015】
前記結果でノックダウンさせるために使用したマルチ−シストロンshRNA発現構造体内の各shRNAは、相応する標的遺伝子のmRNAに作用する。
【0016】
本発明における前記標的遺伝子のmRNAに作用するshRNAの作用点位置は、1つの標的遺伝子の場合には、単一部位または互いに異なる部位であることができ、互いに異なる2つ以上の標的遺伝子の場合には、各標的遺伝子上で単一部位または互いに異なる部位であるかも知れない。本発明のマルチ−シストロンshRNA発現カセットを用いて標的遺伝子を効率的に抑制するためには、好ましくは、単一標的遺伝子の場合、shRNAの作用位置が互いに異なり、その数は2つ以上であり、各作用位置に相応するshRNAは、単一種類で2つ以上であればあるほど効率的である。互いに異なる2つ以上の(マルチ)標的遺伝子の場合にも単一標的遺伝子に対して適用したことを各標的遺伝子に同一に適用すれば、効率的に抑制することができる。
【0017】
本発明における用語“作動可能に連結された(operablylinked)”は、1つの核酸断片が他の核酸断片と結合されると、通常的にこれらそれぞれの機能または発現が他の核酸断片の影響を受けるが、これらの核酸断片の多くの可能な結合組合せのうちで各断片がその機能を行うのにあって検出するほどの影響がない状態の結合を意味する。合わせて、本発明の発現カセットは、転写を調節するための任意の転写開始調節配列及び転写終結調節配列を更に含むことができる。作動可能な連結は、当該技術の分野におけるよく知られた遺伝子組換え技術を用いて製造することができ、部位−特異的DNA切断及び連結は、当該技術の分野における一般に知られた酵素などを使用することができる。
【0018】
本発明における用語“マルチ−シストロン(multi-cistronic)”は、1つのプロモーターに多重のシストロン、すなわち、単位遺伝子または単位shRNA発現体が複数個連結されたことを意味する。
【0019】
本発明における用語“発現カセット”とは、プロモーターとマイクロRNAとのリーダー塩基配列に標的遺伝子のセンス鎖(sense strand)と、アンチセンス鎖(anti-sense strand)とを含んでおり、その間にループを形成できる配列を含んでいるから、shRNAを発現させ得る単位カセットを意味する。また、本発明における発現カセットは、発現構造体と混用され得る。好ましくは、shRNAを発現させ得るカセットのバックボーン(backbone)は、マイクロRNAであるmir−30由来の配列番号1のshRNAを鋳型にすることができる。
【0020】
本発明の単一のマルチ−シストロンshRNA発現カセットを製作するために、本発明者は具体的な実施例において、先ず、それぞれのshRNAの機能を調査した。本発明者は、配列番号1で定義されたmir−30由来の塩基配列(図2A)を選択し、それからPCRを介してヒトXIAP(X-chromosome-linked inhibitor of apoptosis protein)、Akt、またはBcl−2遺伝子を標的とするshRNAのDNA塩基配列を製造した(図2B)。本発明者は、これらのそれぞれの前記DNA塩基配列をCMVプロモーター駆動のシャトルベクター(shuttle vector)にクローニングした後(図2C)、それぞれAd−shXIAP、Ad−shAkt及びAd−shBcl−2と命名した相応するアデノウイルスを製造した(図2D)。本発明者は、前記の製造したアデノウイルスでHCT116細胞を感染させ、XIAP、Akt、及びBcl−2タンパク質の発現水準を観察して前記アデノウイルスの抑制活性を評価した(図2E)。その結果、Ad−shXIAP、Ad−shAkt及びAd−shBcl−2は、相応するタンパク質の発現を抑制したが、対照群であるAd−emptyは抑制できなかったし、これを介してそれぞれのshRNA塩基配列が標的遺伝子の抑制に適切に行動したことを確認した。Ad−shXIAP、Ad−shAkt及びAd−shBcl−2の抑制活性を評価するために使われた他の細胞(U−373MG)においても類似した結果を得ることができた(データは提示せず)。
【0021】
機能的に検証された前記DNA塩基配列を用いて、本発明者はマルチ−シストロンshRNA発現構造体を製造した(図3A)。本発明者は、再びAd−multi_shRNAと命名したアデノウイルスを製造し(図3B)、相応する標的遺伝子の抑制活性を評価した。Ad−multi_shRNAは、効果的ながらまた同時に関連標的遺伝子の発現を抑制した(図3C)。一方、対照群であるAd−emptyはそうではなかった。このような結果に基づいて、マルチ−シストロンshRNAをコードする1つの発現カセットの伝達が多様な標的遺伝子を抑制させるのに十分であるということが分かった。
【0022】
前記の結果に基づいて、1つのマルチ−シストロン転写体の発現によって多様な標的遺伝子の抑制のための新しいツールとして、本発明はマルチ−シストロンshRNA発現カセットを提供する。配列番号1で定義されたmir−30由来shRNAの切断部位及びこれらの部位に作用して実際的な切断作用をすると知られているドローシャ及びダイサーヌクレアーゼの細胞内位置である構造的な特徴に基づいて、本発明者は1つのマルチ−シストロン転写体から作られる互いに異なるshRNAを製造することができる過程に対するモデルを完成した(図4)。本発明のモデルが提示することは、RNA重合酵素が一番目のshRNA(shXIAP)部位を転写して構造的にそれに相当するshRNAを生成し、二番目のshRNAが転写される間に、前記一番目のshRNAが核内のドローシャによって切断されることである。ドローシャによって切断されたshRNAは、細胞質に放出され、細胞質内でダイサーによって更に切断される。このようなサイクルは、最後のshRNA(shBcl−2)に至るまで繰り返し的に行われる。このように連続的で秩序あるようにドローシャ及びダイサーヌクレアーゼによって切断されることによって、マルチ−シストロンshRNAを含む転写体は、縒れなく順次にshRNAを作り出し得るようになる。本発明者の前記モデルによるshRNA発現カセットは、理論的には無制限的なshRNA単位体を含むことができる。好ましくは、2つ以上のshRNA単位体であり、より好ましくは、4つ以上のshRNA単位体であり、最大発現shRNA単位体の数は、発現ベクターが安定的に発現をさせ得る最大容量及びサイズに相当する数だけである。
【0023】
一般に、かなり多い遺伝子が個体間の差による遺伝子変異形態(polymorphism)で存在する。特に、癌細胞では突然変異を抑制し、再び突然変異が発生した時に治癒できる能力が深刻に弱化されて遺伝子の突然変異が頻発するように観察される。標的遺伝子の塩基配列にこのような変異が生じる場合は、ノックダウンのために使用されたshRNAがその抑制機能を喪失することができる。このようなshRNAの機能喪失を克服するためには、1つの標的遺伝子に対してshRNAの作用点として単一部位のみを対象にするよりも多重部位を対象にするのが必要である(図5A)。このような場合、標的遺伝子の突然変異によってマルチ−シストロンshRNA発現構造体内のどんなshRNAがその機能を行うことができない場合、同一発現構造体から発現されて他の部位に作用するshRNAによってその標的遺伝子は効果的に抑制され得る。また、1つの標的遺伝子をマルチ−シストロンshRNAで抑制する場合、各shRNAがどのように構成されるかということも非常に重要であり得る。たとえ、1つの標的遺伝子を抑制する目的でその標的遺伝子に対して3つのshRNA(A、B、C、以下、“ABC”という)でマルチ−シストロンshRNA発現構造体を構成した場合(図5B)、Aによって分解されて抑制される標的遺伝子のmRNAは、BとCによっても同時に分解されて抑制され得るから実際的にはAAAまたはBBBまたはCCC型が抑制効率側面でABC型よりも良いかも知れない。これを証明する目的で本発明者は、配列番号1で定義されたmir−30由来の塩基配列(図2A)を選択し、PCRを介して配列番号5、配列番号6、配列番号7を含むマウスFas(mFas)を標的とするshRNAのDNA塩基配列を製造した(図6A)。本発明者は、これらのそれぞれの前記DNA塩基配列をCMVプロモーター駆動のシャトルベクター(shuttle vector)にクローニングした後、それぞれAd−mFas#1、Ad−mFas#2及びAd−mFas#3と命名した相応するアデノウイルスを製造し、これらのアデノウイルスでHepa1−6細胞を感染させた後、mFasタンパク質の発現水準を観察して前記アデノウイルスの抑制活性を評価した。その結果、Ad−mFas#1、Ad−mFas#2及びAd−mFas#3は、相応するタンパク質の発現を抑制したが、対照群であるAd−emptyは抑制できなかったし、これを介してそれぞれのshRNA塩基配列が標的遺伝子の抑制に適切に行動したことを確認した(データは提示せず)。以後、機能的に検証された前記mFasDNA塩基配列をCMVプロモーター駆動のシャトルベクターにクローニングした後(図6B)、Ad−multi_shRNAであるO、M、Q、Rと命名した相応するアデノウイルスを再び製造して(図6B)Hepa1−6細胞を感染させ、mFasタンパク質の発現水準を観察して前記アデノウイルスの抑制活性を評価した(図6C)。その結果、M、Q、Rは、Oに比べて相応するタンパク質の発現をさらによく抑制した。この結果は、1つの標的遺伝子をマルチ−シストロンshRNAで抑制する場合、ABC型を利用することよりもAAAまたはBBBまたはCCC型(図5)を利用するのがより良い抑制効果を得る可能性があることを明確に見せてくれる。さらに、Ad−mFas#1、Ad−mFas#2、Ad−mFas#3は、そのいずれもAd−multi_shRNAであるO、M、Q、Rと命名した相応するアデノウイルスのmFasタンパク質発現抑制力を凌駕することができなかった(図6D)。この結果は、単一標的遺伝子に対して1つのshRNAよりも作用点が互いに異なるshRNAで構成されたマルチ−シストロンshRNAを使用するのがより良い抑制効果を得ることができることを見せてくれる。
【0024】
このような結果を全部総合した結果として、本発明者はマルチ−シストロンshRNAを用いて標的遺伝子発現を抑制するための最適の好ましい条件を見出すことができた。すなわち、単一標的遺伝子の場合(図7A)は、shRNAの作用位置が互いに異なり(A(1)、A(2)……A(N))、その数は2つ以上であるべきで、各作用位置に相応するshRNAは、単一種類(a1、a2……aN)であってその数が2つ以上でなければならない。すなわち、各作用位置に相応するshRNAは、単一種類であって同一の配列であり得る。互いに異なるマルチ標的遺伝子の場合(図7B)には、前記単一標的遺伝子に対して適用したものを各標的遺伝子にそのまま適用すれば良い。
【0025】
プロモーター駆動のshRNAは、細胞及び全体有機体内で安定的に発現され得る。単一標的遺伝子を抑制するという場合、単一標的遺伝子のそれぞれ異なる位置を各位置に多重的に作用する(図7A)マルチ−シストロンshRNAの安定した発現は、モノ−シストロンshRNAよりその標的遺伝子をはるかに強力に抑制すると期待される。従って、1つの標的遺伝子を抑制するように考案されたマルチ−シストロンshRNAの全体有機体内での安定した発現は、機能的に遺伝子ノックアウト(knock-out)に比肩する価値はあるだろう。マルチ標的遺伝子を抑制する場合、マルチ−シストロンshRNAは、安定的に発現してこれらのマルチ標的遺伝子を抑制し、また、これは多様な遺伝子を抑制することによって出てきた結果を分析する強力なツールになり得る。マルチ−シストロンshRNAを発現させる細胞類型−特異的なプロモーターは、1つのまたは多様な標的遺伝子に対する細胞類型−特異的抑制効果分析を容易にするだろう。治療的観点から、マルチ−シストロンshRNAは、多様な標的遺伝子を抑制させることが必要なテーラーメード治療用途として使用され得るだろう。従って、本発明のマルチ−シストロンshRNAは、多様な適用の分野において、多用途のツールを提供する。
【0026】
また1つの態様として、本発明は、プロモーター、及び前記プロモーターに作動可能に連結された標的遺伝子に特異的なshRNAをエンコードする2つ以上のポリヌクレオチド配列を含むマルチ−シストロンshRNA発現カセットを含む発現ベクターに関する。マルチ−シストロンshRNA発現カセットは、前記で説明した通りである。
【0027】
前記マルチ−シストロンshRNA発現構造体は細胞内に導入され得るが、このために前記マルチ−シストロンshRNA発現構造体は細胞内への効率的な導入を可能にする伝達体内に含まれた形態であり得る。前記伝達体は、好ましくはベクターであり、ベクターはウイルスベクターまたは非ウイルスベクターのいずれも使用可能である。ウイルスベクター (viral vector)として、例えば、レンチウイルス(lentivirus)、レトロウイルス(retrovirus)、アデノウイルス(adenovirus)、アデノウイルス−関連ウイルス(adeno-associated virus)、ヘルペスウイルス(herpes virus)またはトリポックスウイルス(avipox virus)ベクターなどを使うことができ、好ましくはアデノウイルスであるが、これに制限されるものではない。非ウイルスベクターとして、例えば、プラスミド形態を挙げることができる。本発明の好ましい1つの具現例によれば、シャトルベクターであるpAdlox(K)を使用した。
【0028】
前記マルチ−シストロンshRNA発現構造体は、またPEG(polyethylene glycol)、PEI(polyethyleneimine)、キトサン、PEG−キトサン、DEAE−デキストラン、核蛋白質、脂質、ペプチドなどと多様な複合体形態で細胞内へ導入され得るが、このために前記マルチ−シストロンshRNA発現構造体は、細胞内への効率的な導入を可能にするこれらの複合体の主要構成成分である伝達体内に含まれた形態であり得る。
【0029】
また、前記ベクターは、選別マーカーを更に含むのが好ましい。本発明における用語“選別マーカー(selection marker)”とは、マルチ−シストロンshRNA発現構造体が導入されて形質転換された細胞の選別を容易にするためのものである。本発明のベクターで使用できる選別マーカーとしては、ベクターの導入可否を容易に検出または測定できる遺伝子ならば、特に限定されないが、代表的に薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性または表面タンパク質の発現のような選択可能表現型を付与するマーカーなど、例えば、GFP(緑色蛍光タンパク質)、ピューロマイシン(puromycin)、ネオマイシン(Neomycin:Neo)、ハイグロマイシン(hygromycin:Hyg)、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ(histidinoldehydrogenase gene:hisD)またはグアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(guanine phosphosribosyltransferase:Gpt)などがあり、好ましくは、GFP(緑色蛍光タンパク質)、ネオマイシンまたはピューロマイシンマーカーを使うことができる。
【0030】
また1つの態様として、本発明は、前記発現ベクターで形質導入された細胞に関する。
【0031】
本発明における用語“導入”は、形質感染(transfection)または形質導入(transduction)によって外来DNAを細胞に流入させることを意味する。形質感染は、リン酸カルシウム−DNA共沈殿法、DEAE−デキストラン−媒介形質感染法、ポリブレン−媒介形質感染法、電気衝撃法、微細注射法、リポソーム融合法、リポフェクタミン及び原形質体融合法などの当分野に公知された多くの方法によって行われることができる。また、形質導入は、感染(infection)を手段としてウイルス粒子を使用して目的物を細胞内へ伝達させることを意味する。好ましくは、形質導入はPEG、キトサン、PEG−キトサン、DEAE−デキストラン、核蛋白質、脂質またはペプチドとの複合体からなる伝達体を介して行われることができる。
【0032】
前記発現ベクターを細胞内に導入させて形質導入された細胞は、治療的観点からは、抑制させようとする遺伝子を選択的に抑制させるマルチ−シストロンshRNA発現構造体を導入させて個人別テーラーメード治療療法として使用し得るようになる。
【0033】
また、細胞類型−特異的なプロモーターを選択する場合、1つまたは多様な標的遺伝子の細胞類型−特異的な抑制効果分析を容易にして、前記形質導入された細胞を細胞−類型特異的な抑制効果分析モデルとして利用することができる。
【0034】
また1つの態様として、本発明は、前記ベクターを細胞内に導入するためのPEG、PEI、キトサン、PEG−キトサン、DEAE−デキストラン、核蛋白質、脂質及びペプチドからなる群から選択されたこれらの伝達体との複合体に関する。
【0035】
また1つの態様として、本発明は、(a)前記マルチ−シストロンshRNA発現カセットを含む発現ベクターを製造する段階;及び(b)前記製造されたベクターを細胞に導入する段階を含む多様な標的遺伝子などを抑制する方法に関する。
【0036】
また1つの態様として、本発明は、前記で説明したプロモーター、及び前記プロモーターに作動可能に連結された2つ以上のポリヌクレオチド配列を含むマルチ−シストロンshRNA発現ベクターを含む標的遺伝子抑制用組成物に関する。
【0037】
前記標的遺伝子抑制用組成物は、薬学的に許容可能な担体を更に含むことができ、担体と共に製剤化され得る。本発明における用語、“薬学的に許容可能な担体”とは、生物体を刺激せず投与化合物の生物学的活性及び特性を阻害しない担体または希釈剤をいう。液状溶液で製剤化される組成物において、許容される薬剤学的担体としては、滅菌及び生体に適合したものであって、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、アルブミン注射溶液、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール及びこれらの成分のうち、1成分以上を混合して使うことができ、必要に応じて抗酸化剤、緩衝液、静菌剤など他の通常の添加剤を添加することができる。また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤及び滑剤を付加的に添加して水溶液、懸濁液、乳濁液などのような注射用剤形、丸薬、カプセル、顆粒または錠剤に製剤化することができる。
【0038】
本発明の前記発現ベクター及び薬学的に許容可能な担体を含む標的遺伝子抑制用組成物は、これを有効成分として含むいかなる剤形でも適用可能であり、経口用または非経口用剤形で製造することができる。本発明の薬学的剤形は、口腔(oral)、直腸(rectal)、鼻腔(nasal)、局所(topical;頬及び舌下を含む)、皮下、腟(vaginal)または非経口(parenteral;筋肉内、皮下及び静脈内を含む)投与に適当なものまたは吸入(inhalation)または注入(insufflation)による投与に適当な形態を含む。
【0039】
本発明の組成物を有効成分として含む経口投与用剤形としては、例えば、錠剤、トローチ剤、ロゼンジ、水溶性または油性懸濁液、調剤粉末または顆粒、エマルジョン、ハードまたはソフトカプセル、シロップまたはエリキシル剤に製剤化することができる。錠剤及びカプセルなどの剤形に製剤化するために、ラクトース、サッカロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アミロペクチン、セルロースまたはゼラチンのような結合剤、リン酸二カルシウムのような賦形剤、トウモロコシ澱粉またはサツマイモ澱粉のような崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリルフマル酸ナトリウムまたはポリエチレングリコールワックスのような潤滑油を含むことができ、カプセル剤形の場合、前記言及した物質の他にも脂肪油のような液体担体を更に含むことができる。
【0040】
本発明の組成物を有効成分として含む非経口投与用剤形としては、皮下注射、静脈注射または筋肉内注射などの注射用形態、坐剤注入方式または呼吸器を介して吸入ができるようにするエアロゾル剤などスプレー用に製剤化することができる。注射用剤形に製剤化するためには、本発明の組成物を安定剤または緩衝剤とともに水で混合して溶液または懸濁液に製造し、これをアンプルまたはバイアルの単位投与用に製剤化することができる。坐剤に注入するためには、カカオバターまたは他のグリセリドなど通常の坐薬ベースを含む坐薬または体療浣腸剤のような直腸投与用組成物に製剤化することができる。エアロゾル剤などのスプレー用に剤型化する場合、水分散された濃縮物または湿潤粉末が分散されるように推進剤などが添加剤とともに配合され得る。
【0041】
本発明の標的遺伝子抑制用組成物、すなわち、マルチ−シストロンshRNA発現ベクターは、前記発現ベクターを発現する細胞であり得る。前記細胞は、前記標的遺伝子抑制用マルチ−シストロンshRNA発現ベクターを一時的(transient)または安定的に(stable)発現するものであり得る。
【0042】
以下、実施例を介して本発明をより詳細に説明するようにする。これらの実施例は単に本発明を例示するためのものであって、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されると解釈されはしない。
【実施例】
【0043】
実施例1:shRNA発現構造体の製造及びこれに相応するアデノウイルスの製造
ヒトXIAP、Akt、Bcl−2及びマウスFas(mFas)に対するshRNAにそれぞれ相応するDNA塩基配列をオーバーラッピング−PCR(overlapping-PCR)で製造した。センスまたはアンチセンスshRNA塩基配列を含むDNA鋳型を化学的に合成し、他の制限酵素部位を含む通常のプライマーセットを用いてPCRで増幅した。PCR生成物を制限酵素で切断し、アデノウイルス生産のためのシャトルベクターであるpAdlox(K)の相応する部位にクローニングをした。挿入した塩基配列はヌクレオチド配列分析で確認した。
【0044】
E1/E3−重複欠失複製−不全のアデノウイルス(E1/E3-doubly deleted replication-incompetent adenovirus)を Jeong,M.et al.PLoS ONE 4,E4545(2009)に開示された方法によってCre−lox組換えで製造した。アデノウイルスをアデノウイルス精製キットであるAd Ez−Prep(Genememed,Seoul,Korea)を用いて精製した。
【0045】
その結果、配列番号1のmir−30由来の塩基配列(図2A)を基にしたヒトXIAP、Akt、Bcl−2(図2B)またはmFas遺伝子を抑制するshRNAのDNA塩基配列を製造した(図6A)。本発明者は、これらのそれぞれの前記DNA塩基配列をCMVプロモーター駆動のシャトルベクター (shuttle vector)にクローニングした後(XIAP、Akt、Bcl−2の場合:図2C、mFasの場合はデータ提示せず)、それぞれAd−shXIAP、Ad−shAkt及びAd−shBcl−2と命名した相応するアデノウイルスを製造した(図2D)。
【0046】
また、機能的に検証された前記DNA塩基配列を用いてマルチ−シストロンshRNA発現構造体を製造した(図3A、図6A)。これを用いて本発明者は再びAd−multi_shRNAと命名したアデノウイルスを製造した(図3B、図6B)。
【0047】
実施例2:細胞培養
HCT116、U373−MGまたはHepa1−6細胞をATCC(American Type Culture Collection)(Rockville,MD)で購買してそれぞれMcCoy’s5A(HCT116)及びDMEM(U373−MG及びHepa1−6)培地を用いて培養した。
【0048】
実施例3:ウエスタンブロッティング分析及び標的遺伝子抑制確認
それぞれのshRNA及びマルチ−シストロンshRNA発現構造体の発現抑制能を確認するために、本発明者はHCT116、U373−MGまたはHepa1−6細胞を前記実施例1で製造したアデノウイルスで感染させた後、それぞれの標的遺伝子発現様相を観察した。
【0049】
HCT116、U373−MGまたはHepa1−6細胞をアデノウイルスとともに4時間培養した。新鮮な培養培地に交替した後、細胞を72時間さらに培養した。細胞などを修得してRIPA緩衝溶液で溶解させた後、ウエスタンブロッティングを行った。このためにXIAP検出用抗体(#2045,Cell signallingTechnology)、Akt検出用抗体(LF−PA0166,Ab Frontier)、Bcl−2検出用抗体(sc−492,Santa Cruz Biotechnology)、mFas検出用抗体(610197,BD Pharmingen)及びβ−アクチン検出用抗体(LF−PA0066,Ab Frontier)を使用した。
【0050】
その結果、Ad−shXIAP、Ad−shAkt、Ad−shBcl−2、Ad−mFas#1、Ad−mFas#2及びAd−mFas#3は、相応するタンパク質の発現を抑制したが(図2E、Ad−mFasはデータを提示せず)、対照群であるAd−emptyは抑制できなかったし、これを介してそれぞれのshRNA塩基配列が標的遺伝子の抑制に適切に行動したことを確認した。
【0051】
また、Ad−multi_shRNAは、効果的ながらまた同時に相応する標的遺伝子の発現を抑制した(図3C、図6C)。一方、対照群であるAd−emptyはそうではなかった。本発明者らの前記結果などは、明白にマルチ−シストロンshRNAをコードする1つの発現カセットの伝達が多様な標的遺伝子を抑制させるのに十分であるということを立証する。
【0052】
合わせて、単一標的遺伝子を抑制するように製作されたmFas抑制用Ad−multi_shRNAの場合、前記標的遺伝子内の互いに異なる部位を抑制するように製作したAd−multi_shRNA(O:mFas#1−#2−#3)の場合より、同一部位を抑制する同一配列が3つ含まれたAd−multi_shRNA(M:mFas#1−#1−#1)、Ad−multi_shRNA(Q:mFas#2−#2−#2)及びAd−multi_shRNA(R:mFas#3−#3−#3)の場合、mFasをさらに効率的に抑制する結果を示し(図6C)、Ad−mFas#1と比較する時、さらに明らかな抑制能を示した(図6D)。
【0053】
前記のような結果は、1つのマルチ−シストロンshRNA内に同一部位に作用する同一配列を有するshRNAを複数個含む本発明の方法を使用する場合、はるかに効果的に標的遺伝子発現を抑制できることを立証する結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロモーター、及び前記プロモーターに作動可能に連結された標的遺伝子に特異的なshRNA(低分子ヘアピン型RNA;short hairpin RNA)をエンコードする2つ以上のポリヌクレオチド配列を含む、マルチ−シストロンshRNA発現カセット。
【請求項2】
前記2つ以上のポリヌクレオチドは、1つの標的遺伝子の単一部位または互いに異なる部位に特異的なshRNAをエンコードするポリヌクレオチドである、請求項1に記載のマルチ−シストロンshRNA発現カセット。
【請求項3】
前記2つ以上のポリヌクレオチドは、標的遺伝子が互いに異なる2つ以上の場合、各標的遺伝子で単一部位または互いに異なる部位に特異的なshRNAをエンコードするポリヌクレオチドである、請求項1に記載のマルチ−シストロンshRNA発現カセット。
【請求項4】
前記2つ以上のポリヌクレオチドは、同一配列である、請求項1に記載のマルチ−シストロンshRNA発現カセット。
【請求項5】
前記プロモーターは、U6プロモーター、H1プロモーター及びCMVプロモーターからなる群から選択される、請求項1に記載のマルチ−シストロンshRNA発現カセット。
【請求項6】
前記標的遺伝子は、XIAP、Akt、Bcl−2及びFasからなる群から選択されたものである、請求項1に記載のマルチ−シストロンshRNA発現カセット。
【請求項7】
前記shRNAは、配列番号1のマイクロRNAmir−30由来である、請求項1に記載のマルチ−シストロンshRNA発現カセット。
【請求項8】
請求項1〜7のうち、いずれか1項に記載のマルチ−シストロンshRNA発現カセットを含む、発現ベクター。
【請求項9】
前記発現ベクターは、プラスミドである、請求項8に記載の発現ベクター。
【請求項10】
前記発現ベクターは、レンチウイルス(lentivirus)、レトロウイルス(retrovirus)、アデノウイルス(adenovirus)、アデノウイルス−関連ウイルス(adeno-associated virus)、ヘルペスウイルス(herpes virus)及びトリポックスウイルス(avipox virus)ベクターからなる群から選択された、請求項8に記載の発現ベクター。
【請求項11】
請求項8の発現ベクターで形質導入された細胞。
【請求項12】
請求項8のベクターが細胞に導入されるために、前記ベクター、及びPEG(polyethylene glycol)、PEI(polyethyleneimine)、キトサン、PEG−キトサン、DEAE−デキストラン、核蛋白質、脂質及びペプチドからなる群から選択されたこれらの伝達体との複合体。
【請求項13】
(a)請求項8の発現ベクターを製造する段階;及び
(b)前記製造されたベクターを細胞に導入する段階を含む、前記細胞で多様な標的遺伝子を抑制する方法。
【請求項14】
請求項8の発現ベクターを含む、標的遺伝子抑制用組成物。

【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−528588(P2012−528588A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513876(P2012−513876)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【国際出願番号】PCT/KR2010/003599
【国際公開番号】WO2010/140862
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(511293489)
【Fターム(参考)】