説明

単一分子核酸配列決定のための材料および方法

ヌクレオチド蛍光半導体ナノ結晶を結合したヌクレオチドプライマーを用いた、短いヌクレオチド配列のリアルタイムでの単一分子配列決定のための方法および組成物が、本明細書において提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、一般にリアルタイムでの単一分子配列決定に関連する。より具体的には、本発明は、ポリヌクレオチドの合成時に検出可能な配列情報を提供するための半導体ナノ結晶の使用に関連する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2007年2月21日に提出された米国特許出願番号第60/890,976号に対する優先権を主張するものである。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
従来、DNA塩基配列決定は、配列決定する大量の標的DNA分子を用い、資源・時間集約的プロセスを使用して実施されてきた。従来のマクサム・ギルバート(Maxam-Gilbert)配列決定には、DNAの末端標識断片の化学開裂が関与する。次に結果的に得られる断片はゲル電気泳動によりサイズ分別され、ゲルによって生成された断片のパターンを分析することにより、原型の末端標識断片の配列が決定される。このアプローチを用いた読取り長さは、一般的に約500ヌクレオチドに制限される。
【0004】
より効率的な配列決定方法の一つである、サンガー・ジデオキシ配列決定には、連鎖停止型ジデオキシヌクレオチドを四つの別個のDNAポリメラーゼ反応に無作為に組み込むことによる、末端標識ヌクレオチドプライマーの伸長が関与する。マクサム・ギルバート法で化学的に切断したDNA断片と同様、伸長生成物は、ゲル電気泳動によりサイズ分別する必要があり、ヌクレオチド配列はゲル内の断片パターンの分析により判断しうる。元来は放射性ヌクレオチド標識プライマーを用いて実施されていたものが、今日四つの異なる蛍光標識ジデオキシヌクレオチドを使用することにより、配列決定反応のサイズ分別が単一のゲルレーン内で可能となり、自動的な配列決定が促進されている。このアプローチを用いた読取り長さは、約1000ヌクレオチドに制限され、またプロセスの実施には数時間〜半日かかることがある。
【0005】
米国特許第6,982,146号B1(2006年1月3日発行)(特許文献1)には、ドナーのフルオロフォアを有するポリメラーゼと、それぞれ識別可能なアクセプターのフルオロフォアを有するヌクレオチドの混合物が関与するDNA配列決定方法が記載されている。ポリメラーゼが個々の核酸分子を相補鎖に組み込む際、レーザーによって連続的にドナーフルオロフォアが照射される。ポリメラーゼからの発光によって、どのアクセプターフルオロフォアを刺激することも可能である。
【0006】
今日までになされてきた改善にもかかわらず、未だにDNA塩基配列決定には比較的大量のDNA基質を必要とする。どの方法にも、複雑な液体の取扱い手順の必要性、短い読取り長さ、および全体的に複雑な生化学など、顕著な制限がある。さらに、これらのアプローチは、核酸分子の迅速な配列決定にはあまり適していない。こうして、例えば、少量の標的分子、例えば単一の核酸分子からの、リアルタイムでの配列決定など、迅速な核酸配列決定のための方法および組成物は当技術分野において必要性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6,982,146号B1(2006年1月3日発行)
【発明の概要】
【0008】
FRETに基づく方法を、単一分子のDNAの配列決定について開示している。半導体ナノ結晶とフルオロフォアとの間のドナー-アクセプター相互作用により、それらが合成ポリヌクレオチド鎖に組み込まれるとき単一の塩基の検出および識別が可能である。より具体的には、本明細書では単一の標的核酸分子の遺伝子型同定または配列決定の方法を提供しており、前記方法は、(a)標的核酸配列を固体担体に固定化して、それぞれただ一つの単一の個々の標的核酸配列分子を有する複数の部位または位置を備える固体担体を形成する工程、(b)固体担体を、ポリメラーゼ、少なくとも一つの半導体ナノ結晶に機能的に連結されたプライマー、および少なくとも一つの蛍光末端標識ヌクレオチドポリリン酸に接触させる工程、(c)蛍光標識ヌクレオチドポリリン酸が、伸長中のヌクレオチド鎖に、標的核酸と相補的な活性部位において組み込まれる時間系列(time sequence)を、半導体ナノ結晶と蛍光末端標識ヌクレオチドポリリン酸との間の蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)信号を検出することにより、光学的に検出する工程(ここで、各蛍光末端標識ヌクレオチドの同一性が、その蛍光標識により決定され、続いて蛍光標識が、伸長中の鎖に組み込まれた時点でヌクレオチドから切断される)、および(d)重合反応中に検出されたFRET信号の配列を核酸配列に変換することにより、前記の単一標的核酸を遺伝子型同定または配列決定する工程を含む。
【0009】
その他の態様において、開示では、(a)核酸分子にアニールしたプライマーを含む反応混合物を提供する工程(ここで量子ドットはプライマーに機能的に連結している)、(b)反応混合物を、ヌクレオチドポリリン酸およびヌクレオチドポリメラーゼに接触させる工程(ここで標識はヌクレオチドポリリン酸に機能的に連結している)、(c)反応混合物を照射する工程、および(d)量子ドットと、ヌクレオチドポリリン酸に機能的に連結された標識との間のFRETにより発光を検出する工程を含む核酸分子の配列決定の方法を提供している。また開示では、(a)核酸分子を含む反応混合物を提供する工程、(b)反応混合物を、核酸分子に相補的なプライマーに接触させる工程(ここで量子ドットは、プライマーに機能的に連結している)、(c)反応混合物を照射する工程、(d)反応混合物を、ヌクレオチドポリリン酸およびヌクレオチドポリメラーゼに接触させる工程(ここでヌクレオチドポリリン酸は標識を含む)、(e)プライマーをヌクレオチドポリリン酸で伸長させる工程、ならびに(f)量子ドットと標識との間のFRETにより標識からの信号を検出する工程を含む、核酸分子の配列決定の方法も提供している。別の態様には、(a)ドナーフルオロフォアからアクセプターフルオロフォアに非放射性のエネルギー移動を行う工程(ここで、ドナーフルオロフォアは、ヌクレオチドプライマーに機能的に連結し、アクセプターフルオロフォアはヌクレオチドポリリン酸に付着している)、(b)アクセプターフルオロフォアから発光させる工程、ならびに(c)フルオロフォアからの発光を検出する工程を含む、核酸の配列決定の方法が含まれる。
【0010】
核酸はDNAであってよく、かつポリメラーゼはDNAポリメラーゼまたはRNAポリメラーゼである。その他の態様において、核酸はRNAであり、ポリメラーゼは逆転写酵素である。ポリメラーゼは、DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメント(Klenow fragment)、大腸菌(E. coli)DNAポリメラーゼI、T7 DNAポリメラーゼ、T4 DNAポリメラーゼ、サームス・エクアティカス(Thermus acquaticus)DNAポリメラーゼ、またはサーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)DNAポリメラーゼでありうる。プライマーは、多数個のヌクレオチドの分だけ伸長しうる。一部の態様において、プライマーは、50個未満のヌクレオチドの分だけ伸長しうる。プライマーは、少なくとも10ヌクレオチド、少なくとも20ヌクレオチド、少なくとも30ヌクレオチド、および時には少なくとも40ヌクレオチドを含みうる。
【0011】
一部の態様において、半導体ナノ結晶は、ドナーフルオロフォアとして作用することができ、かつヌクレオチドポリリン酸の蛍光標識は、アクセプターフルオロフォアとして作用する。蛍光標識またはフルオロフォアは、フルオレセイン、シアニン、ローダミン、クマリン、アクリジン、テキサスレッド染料、BODIPY、ALEXA、およびそれらのいずれかの誘導体または改変体から成る群より選択しうる。一定の態様において、標識はヌクレオチドに機能的に連結しているか付着しており、一定の態様では、消光剤でもよい。各ヌクレオチドは、FRET反応に参加させる際に、スペクトル放射、強度およびそれに類するものによる区別によってその他の塩基対とは識別されうる標識に、付着させることができる。
【0012】
蛍光標識またはフルオロフォアは、ヌクレオチドのγ-ホスフェートに付着させることが望ましい。一部の態様において、蛍光末端標識ヌクレオチドポリリン酸は、三つ以上のホスフェートを有する。その他の態様において、蛍光末端標識ヌクレオチドポリリン酸は、四つ以上のホスフェートを有する。一部の態様において、ヌクレオチドポリリン酸は、末端標識されているのではなく、内部ホスフェート、例えば、α-ホスフェート、β-ホスフェート、またはその他の内部ホスフェートにおいて標識されている。
【0013】
新たなヌクレオチドポリリン酸およびそれらの塩基識別の検出は、リアルタイムまたはほぼリアルタイムで行われる。一部の態様において、方法は、第一の核酸の配列決定と平行して、請求項1記載の方法に従って第二の核酸を配列決定することをさらに含む。
【0014】
一定の態様において、量子ドットまたはナノ結晶は、固体担体に付着される。その他の態様において、プライマーまたは配列決定される核酸は、固体担体に付着されうる。所望の任意の数の標的分子は、固体担体に付着させるのと同時に配列決定できる。一部の態様において、個々の分子の位置は担体内でのアドレス指定が可能である。適切なあらゆる固体担体を採用しうる。一部の態様において、固体担体は、ガラス、プラスチック、表面改質したガラス、ケイ素、金属、半導体、屈折率の高い誘電体、ナイロン、ニトロセルロース、PVDF、結晶、ゲル、およびポリマーである。固体担体は、プレート、マイクロアレイ、シート、フィルター、またはビーズを含めた任意の形式としうるが、これらに限定されない。
【0015】
本開示では、核酸分子の配列決定に有用な組成物をも提供している。こうした一組成物は、(a)プライマー(ここで、量子ドットがプライマーに機能的に連結している)、(b)ヌクレオチドポリメラーゼ、および(c)ヌクレオチドポリリン酸(ここで、標識がヌクレオチドポリリン酸に機能的に連結している)を含む、反応混合物である。他の態様は、(a)標的核酸分子にアニールしたプライマー(ここで、量子ドットがプライマーに機能的に連結している)、(b)核酸分子と接触するヌクレオチドポリメラーゼ、および(c)ヌクレオチドポリメラーゼと接触するヌクレオチドポリリン酸(ここで、標識がヌクレオチドポリリン酸に機能的に連結している)を含む、組成物である。
【0016】
本発明のその他の目的、特徴および利点は、下記の詳細な説明から明らかとなる。ただし、詳細な説明および実施例は、発明の具体的な態様を示すものの、例示する方法としてのみ提供されていることが理解されるべきである。さらに、本発明の精神および範囲内での改変および変更は、特許請求の範囲および明細書から当業者にとって明らかであることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、および本発明の局面をさらに例示するために含められたものである。本発明は、これらの図面の一つ以上を、本明細書で提示された具体的な態様の詳細な説明と共に参照することで、さらによく理解されうる。
【図1】図1は、ナノ結晶標識プライマー配列決定反応の図式を示す。
【図2】図2AおよびBは、γ標識ヌクレオチド合成の図式を示す。
【図3】図3は、代表的なイメージフロー解析を示す。
【図4】図4は、模範的な時系列および相関分析を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の詳細な説明
FRETに基づく方法により、ポリヌクレオチドの配列決定において著しい優位が提供される。これらの方法の感度および精度により、単一分子配列決定が可能となり、プロセスの処理手順の数が低減される。固定化されたプライマーに機能的に連結された半導体ナノ結晶を使用して、小規模なポリヌクレオチドについて、microRNA分析、離散領域の遺伝子型同定、SNP分析、およびこれに類するものなどの配列データがリアルタイムまたはほぼリアルタイムで生成できる。
【0019】
本開示は、例えば量子ドットといったコロイド状半導体ナノ結晶で標識された核酸プライマーを利用する対象核酸分子の迅速な配列決定を行うための組成物および方法を提供する。プライマーが、標的核酸分子にアニールし、続いてプライマーの3’末端からの重合により、標的核酸分子と相補的な一つ以上の標識されたヌクレオチドが組み込まれる。プライマー上の量子ドットと、相補鎖に組み込まれる新たなヌクレオチドの標識との間の蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)により、組み込まれた各ヌクレオチドの識別が決定できるような検出可能な信号が提供される。この検出プロセスは、リアルタイムまたはほぼリアルタイムで行うことができ、単一の核酸分子レベルで正確かつ迅速な配列決定を行うために使用できる。
【0020】
「一つ(a)」または「一つ(an)」という用語の使用は、特許請求の範囲または明細書で「含むこと(comprising)」という用語と共に使用するとき、「一つ」を意味することもあるが、「一つ以上」、「少なくとも一つ」、および「一つまたは複数」の意味を有することもある。
【0021】
特許請求の範囲および明細書で使用するとき、「含むこと(comprising)」(および、「含む(comprise)」や「含む(comprises)」など「含むこと(comprising)」の任意の形態)、「有すること(having)」(および、「有する(have)」や「有する(has)」など「有すること(having)」の任意の形態)、「含むこと(including)」(および、「含む(includes)」および「含む(include)」など「含むこと(including)」の任意の形態)、または「含むこと(containing)」(および、「含む(contains)」や「含む(contain)」など「含むこと(containing)」の任意の形態)といった用語は、包括的なものであるか、あるいは制限するものではなく、列挙されていない追加的な要素や方法の手順を除外するものではない。
【0022】
本開示の実施では、別途指示のない限り、当技術分野の範囲内である分子生物学、微生物学および組換えDNA技術の従来的な技術が採用される。こうした技術については、文献に詳細に説明されている。例えば、Sambrook JおよびRussell DW著, 2001年『Molecular Cloning: A Laboratory Manual』, Third Edition、Ausubel FM et al., eds., 2002年『Short Protocols In Molecular Biology』, Fifth Editionを参照。上記および下記の両方について、本明細書で言及した全ての特許、特許出願、および公報は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0023】
本明細書で使用するとき、「機能的に連結する(operably link)」という用語は、化学的融合もしくは結合、または例えば限定はされないものの、リンカーと、官能性をもたせたナノ結晶との間、リンカーとヌクレオチドとの間、およびそれに類するものなど異なる分子の組み合わせ間で利用されるヌクレオチド配列決定の方法で発生する状態に耐える十分な安定性との関連を意味する。例えば、官能性をもたせたナノ結晶標識プライマーテンプレートは、結果的な標識プライマーがポリメラーゼによる重合反応を開始する役目をすぐに果たせるような方法で機能する。反応性官能性(reactive functionality)は、二官能性試薬/リンカー分子、遊離化学基(例えば、チオール、またはカルボキシル、ヒドロキシル、アミノ、アミン、スルホなど)、反応性化学基(遊離化学基による反応性)、およびその組み合わせを含む。模範的態様には、米国特許第6,326,144号に記載のあるものが含まれるがこれに限定されない。
【0024】
「リンカー」という用語は、二つの異なる分子を機能的に連結させる分子架橋としての役割を果たす化合物または部分を意味し、ここでリンカーの一つの部分は、官能性をもたせたナノ結晶に結合し、またここでリンカーの別の部分はプライマーテンプレート内のヌクレオチドに結合する。二つの異なる分子は、手順を追った方法でリンカーに連結させることもできる。ストランド合成での使用に適した分子架橋としての目的を達成しうる限り、リンカーには特定のサイズや内容物の制限はない。リンカーには、限定はされないものの、化学的鎖、化学物質(試薬など)、およびこれに類するものが含まれることが当業者には知られている。リンカーには、限定はされないものの、ホモ二官能性リンカーおよびヘテロ二官能性リンカーが含まれうる。ヘテロ二官能性リンカーは、当業者にとってよく知られているが、第一の分子に特異的に連結する第一の反応性官能性を有する一方の端と、第二の分子に特異的に連結する第二の反応性官能性を有する反対側の端が含まれる。
【0025】
リンカーの反応性官能性は、アミノ反応性基およびチオール反応性基から成る群より選択される。つまり、リンカーは、官能性をもたせたナノ結晶および連結されるヌクレオチドのいずれかまたは両方に存在する遊離チオール基または遊離アミノ基のいずれかとの相互作用により機能的に連結するよう機能することができるべきである。連結される分子の要因、およびストランド合成を実施する方法の条件に応じて、リンカーの長さおよび組成は、安定性、一定の化学薬剤および/または温度パラメーターに対する耐性などの性質を最適化する目的で、ならびに結果として生じる標識されたヌクレオチドが重合反応の開始のためのテンプレートとしての役目を果たすように、標識をヌクレオチドに機能的に連結させるのに十分な立体選択性または寸法などの性質を最適化する目的で、異なることがある。こうしたリンカーは、標準的な化学技術を用いて採用できる。こうしたリンカーには、当業者にとって、限定はされないものの、ヌクレオチドに対して標識を付着させるためのアミンリンカー(米国特許第5,151,507号などを参照)、標識をヌクレオチドに機能的に連結させるためのできれば一級アミンまたは二級アミンを含むリンカー、およびヌクレオチド塩基に追加される強固な炭化水素アーム(Science 282:1020-21, 1998などを参照)が含まれることが知られている。
【0026】
開示した方法では適切な任意の半導体ナノ結晶を使用できる。米国特許第6,326,144号、第5,990,479号、第6,207,392号、第6,306,610号、および第6,221,602号などを参照。一態様において、半導体ナノ結晶は量子ドット(QD)である。特定の態様において、QDはQ605である。量子ドットは、サイズに依存した光学的および電子的な性質を有する半導体ナノ結晶である。特に、量子ドットのバンドギャップエネルギーは、結晶の直径とともに変化する。有用な量子ドットには、(a)水溶性となるように、そして(b)さらにそれと機能的に連結しているヌクレオチドを含むように、官能性をもたせたものが含まれる。基本的な量子ドットそれ自体の望ましい特徴には、結果的に検出可能な高量子収率の蛍光発光をもたらす単一の励起光源(例えば、従来的な蛍光色素の分子より1ログ以上大きいこともある蛍光強度を有する単一の量子ドット)により、また分散的な蛍光性ピークにより励起されうる量子ドットのクラスが含まれる。量子ドットには、一般に200オングストローム未満の実質的に一様なサイズを有するべきで、また約5nmから約20nmのサイズの範囲の実質的に一様なサイズを有することが望ましい。
【0027】
一部の態様において、量子ドットは、CdXのコアを持ち、ここでXはSeまたはTeまたはSである。CdX量子ドットは、それに対して一様に蒸着された上層(「シェル」)の皮膜で保護できる。模範的な保護用のシェルは、YZを含み、ここでYはCdまたはZnで、ZはSまたはSeである。特許請求の方法で有用な量子ドットは、水溶性ナノ結晶となるよう官能性をもたせている。本明細書では「水溶性」は、当業者に知られている配列決定などの一つ以上プロセスで使用される、限定はされないものの、水、水ベースの溶液、緩衝液などを含め、水溶性ベースの溶液中でナノ結晶が十分に溶解または懸濁が可能であることを意味するものとして使用している。一部の態様において、CdXコア/YZシェルの量子ドットは、最も一般的に使用されるものがブチルおよびオクチルであるアルキル基を有するトリアルキルホスフィンオキシドでオーバーコートされる。
【0028】
生物系での蛍光画像処理に適した量子ドットを合成する方法は、よく知られている。例えば、Murray et al., 1993年, J. Am. Chem. Soc. 115:8706-8715、Hines et al., 1996年, J. Phys. Chem. 100:468-71、Peng et al., 1997年, J. Am. Chem. Soc. 119:7019-29、米国特許第6,821,337号を参照。別の方法として、量子ドットは、Invitrogen(Carlsbad、CA)製のQDOT(登録商標)ナノ結晶など、商業製造業者からも入手できる。
【0029】
開示された方法で使用するために、半導体ナノ結晶は、所定の生体分子、つまり、プライマー配列へのナノ結晶または量子ドットの付着が許容される適切な任意の界面化学を有しうる。例えば、カルボキシル誘導体化両親媒性被覆を有する量子ドットは、EDAC媒介の反応を用いて、アミン、ヒドラジン、またはヒドロキシルアミンと結合できる。アミノ誘導体化された皮膜により、イソチオシアネート、スクシンイミジルエステルおよびその他の活性エステルなどのアミン反応性の基との架橋結合が許容される。最後に、共有結合的に結合したストレプトアビジンまたはPEGで被覆した量子ドットにより、ビオチン化分子への連結が可能となる。例えば、米国特許第6,251,303号、第6,274,323号、および第6,306,610号を参照。これらの界面化学の全てを有する量子ドットは、広範囲な放射波長で、Invitrogen(Carlsbad、CA)およびその他の商業製造業者から入手できる。
【0030】
フェルスター共鳴エネルギー移動としても知られているFRETは、研究者が二つの蛍光標識された分子または部分が互いに接近しているときに区別できる蛍光画像処理技術である。FRETは、ドナーと呼ばれる第一の励起されたフルオロフォアが、アクセプターと呼ばれる第二のフルオロフォアに非放射的にエネルギーを移動するときに発生し、これがこの後で光子を放射することがある。
【0031】
重要なことに、FRETはドナーおよびアクセプターが互いに十分に接近しているときにのみ発生し、またFRET効率は、距離とともに急激に減少する(1/r6、ここでr = 距離)。FRET効率が50%となる距離はR0と呼ばれ(フェルスター距離としても知られる)、それぞれのドナー-アクセプターの組み合わせで固有である。R0の距離5〜10nmは、ほとんどのドナー-アクセプターの組み合わせにとって一般的である。1/r6効率曲線の急勾配さを考えると、R0より小さい距離ではFRET効率は最大に近く、またR0より大きな距離ではFRET効率はゼロに近い。したがって、ほとんどの生物学的用途で、ドナーおよびアクセプターが互いにほぼR0距離以内であるときを示すFRETにより二進のオン・オフタイプの信号が効果的に得られる。
【0032】
ドナー-アクセプターの対は、ドナーの発光スペクトルと、アクセプターの励起スペクトルとの間の重なりがあるように選択する必要がある。ドナーからアクセプターへのエネルギー移動には、光の放射は関与しないが、ドナーの励起によりエネルギーがその発光スペクトルで生成され、それが次に、アクセプターによりその励起スペクトルで捕らえられ、アクセプターからその発光スペクトルでの光の放射につながるという観点から考えることができる。実際に、ドナーの励起は連鎖反応を引き起こし、この二つが互いに十分に近接しているとき、アクセプターからの発光につながる。
【0033】
ドナーとアクセプターとの間のスペクトルの重なりに加えて、FRET効率に影響するその他の要因には、ドナーの量子収量およびアクセプターの消光係数が含まれる。FRET信号は、二つの間の考えられるスペクトルの最良の重なりとともに、最大になる高い収量のドナーと高い吸収度のアクセプターとを選択することで、最大化することができる。
【0034】
FRET検出システムの設計時には、ドナーの非FRET信号も考慮する必要がある。FRETを起こさない励起したドナーフルオロフォアは蛍光を発するため、また非FRET信号が組み込みのイベントに対応したFRET信号と干渉しないように配慮する必要がある。こうしたクロストークは、主に二つの方法で発生しうる。まず、ドナー蛍光性が、アクセプターを励起することがあり、ドナーおよびアクセプターが互いにR0内にないときでさえも、これがアクセプターの蛍光性につながる。第二に、ドナー蛍光性は、アクセプターフルオロフォア用の検出チャネルにリークして、FRET信号を圧倒し(swamp)、検出が困難になることがある。ドナーフルオロフォアの数がアクセプターの数を大きく上回るようにドナー:アクセプター比が歪むと、これらの問題は悪化する。FRETシステムには、1:1のドナー:アクセプター比を有することが望ましいと考えられるが、こうした比は一定の検出システムでは実際的ではないことがある。
【0035】
FRET効率および信号検出に影響を及ぼすFRETおよびパラメーターについての追加情報は、Piston DWおよびKremers GJ, 2007, Trends Biochem. Sci. 32:407に記載されており、この全文は本明細書に組み入れられる。
【0036】
量子ドットは、生物システムでのFRET検出用に効率よく使用されてきた。例えば、Willard et al., 2001, Nano. Lett. 1:469; Patolsky F et al., 2003年, J. Am. Chem. Soc. 125:13918、Medintz IL et al., 2003, Nat. Mater. 2:630、Zhang CY, et al., 2005年, Nat. Matter. 4:826を参照。量子ドットは、幾つかの理由から、特に適切なFRETドナーである。例えば、量子ドット発光は、特定のどんなアクセプターフルオロフォアについても、サイズを調整して、スペクトルの重なりを改善することができ、また量子ドットは、より大きな量子収量を有するようにもなり、従来のFRETドナーに比べて光退色に対する影響を受けなくなる。同時に、これらの特性により、より大きなFRETの効率が可能となり、FRET相互作用についての連続的なモニタリング(リアルタイムのモニタリングなど)が可能となる。
【0037】
量子ドットは、従来の有機蛍光色素よりも大きいため、ドナー-アクセプターの対のR0に対するドットのサイズを考慮すべきである。可視光のスペクトルで発光するようにドットのサイズを調整する場合、ドットのエネルギー移動コアからその表面までの半径は、一般に2〜5nmの範囲である。典型的なR0距離を5〜10nmとすると、これはアクセプターフルオロフォアは、一般的ドナー-アクセプターの対の間で効率的なFRETについて、量子ドット表面から数ナノメートル以内である必要があることを意味する。より大きい量子ドットは、ドット自体のシェル内に含まれるR0距離を有することがあり、効率的なFRETが除外される。これらの空間的制約は、量子ドットが、量子ドット表面と結合したタンパク質、核酸、またはその他幾つかの分子とアクセプター分子との間の相互作用を監視するために使用されるとき、特に重要である。検出に十分なFRETを許容するためには、結合分子とアクセプターとの間の相互作用によって、アクセプターフルオロフォアが量子ドットに十分に近い位置に配置される必要がある。
【0038】
本開示の配列決定のための方法および組成物では、一つ以上の量子ドットで標識された核酸プライマー、例えば、一本鎖のヌクレオチドプライマーが利用されている。プライマーからの伸長により、標的核酸分子と相補的な標識ヌクレオチドが組み込まれる。プライマーに付着した半導体ナノ結晶(ドナー)と、相補配列に組み込まれたヌクレオチド上の標識(アクセプター)との間のFRETにより、結果的に、組み込まれた各ヌクレオチドを識別する検出可能な信号が発生する。組み込みによって、標識をヌクレオチドから放出でき、それによってドナーとアクセプターとの間のFRET信号が除去される。その他の態様において、組み込まれたヌクレオチドからのアクセプター信号は、消光される。
【0039】
適切な任意の核酸分子の配列は、開示した方法を使用して決定できる。こうした配列には、一本鎖のDNA、二本鎖DNA、一本鎖のDNAヘアピン、DNA/RNAハイブリッド、適切なポリメラーゼ認識部位を有するRNA、およびRNAヘアピンが含まれるが、これに限定されない。
【0040】
核酸プライマーは、任意の適切な長さとしうる。長さは、一般に相補的なテンプレートを結合するために望ましい特異性により、また採用されるアニールおよびリアニールの条件の厳密性により決定される。プライマーは、リボヌクレオチド、デオキシヌクレオチド、ヌクレオチド類似体またはそれらの組み合わせを含みうる。例えば、核酸プライマーは、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、修飾リボヌクレオチド、修飾デオキシリボヌクレオチド、ペプチド核酸、修飾ペプチド核酸、修飾ホスフェート-糖骨格オリゴヌクレオチド、およびその他のヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチド類似体を含みうる。本明細書で使用するとき、「ヌクレオチド」という用語には、上記に列挙したもののほか、その他のヌクレオチド類似体も含まれる。ナノ結晶標識プライマーは、合成的なもの、プライマーゼ、RNAポリメラーゼ、またはその他のオリゴヌクレオチド合成酵素により天然に生成されたもののいずれでもよい。プライマーは、長さが少なくとも5ヌクレオチド、5〜10、15、20、25、50、75、100ヌクレオチドまたはそれより長いものを含め、適切な任意の長さでありうる。半導体ナノ結晶または量子ドットは、核酸配列決定反応に対応する適切な連鎖を形成する多様な化学反応によりヌクレオチドプライマーと結合またはそれに付着しうる。例えば、米国特許第6,221,602号を参照。一般に、半導体ナノ結晶は、プライマーの3’端に結合されるが、ナノ結晶は、プライマーのどの位置にも機能的に連結できる。一つ以上の半導体ナノ結晶を、プライマーに機能的に連結しうる。
【0041】
一部の態様において、核酸プライマーおよび/または標的核酸分子を、基質に付着させることもできる。標的核酸は、半導体ナノ結晶標識プライマーまたは一本鎖もしくは二本鎖の標的核酸分子を固定化することにより、担体に付着させうる。一本鎖の標的核酸分子を採用する場合には、これは、固体担体を付着しているナノ結晶標識プライマーとハイブリダイズする。二本鎖の分子を採用するときは、半導体ナノ結晶標識がプライマー配列の3’端に付着される。ナノ結晶標識プライマーが、固定化された標的核酸分子とハイブリダイズして、重合反応の開始に適切な、刺激を受けた(primed)標的核酸分子複合体が形成されるか、ポリメラーゼの認識部位が二本鎖テンプレート上に生成される(例えば、プライマーゼなどのアクセサリータンパク質との相互作用による)かのいずれかである。ポリメラーゼは、活性部位におけるプライマーに対して、活性部位における標的核酸のヌクレオチドと相補的な蛍光標識ヌクレオチドを追加することで、ナノ結晶標識されたプライマーを伸長する。伸長手順の結果としてオリゴヌクレオチドプライマーに追加されたヌクレオチド類似体は、FRET信号の光学的検出および特性決定により識別される。一般に、プライマーは、少なくとも5ヌクレオチド、少なくとも10ヌクレオチド、少なくとも20ヌクレオチド、少なくとも30ヌクレオチド、少なくとも40ヌクレオチド、少なくとも50ヌクレオチド、少なくとも55ヌクレオチド、少なくとも60ヌクレオチド、少なくとも70ヌクレオチド、少なくとも80ヌクレオチド、少なくとも90ヌクレオチドまたは少なくとも100ヌクレオチド伸長される。プライマーは、一本鎖分子およびヘアピンなど、適切な任意の形態をとりうる。
【0042】
固体担体には、適切な任意の材料を使用しうる。模範的な物質としては、ガラス、プラスチック、表面改質したガラス、ケイ素、金属、半導体、屈折率の高い誘電体、ナイロン、ニトロセルロース、PVDF、結晶、ゲル、およびポリマーが含まれるが、これに限定されない。固体担体は、プレート、マイクロアレイ、シート、フィルター、およびビーズを含めた任意の形式としうる。標的核酸分子および/またはプライマーを基質に結合するための技術は、採用する材料により判断される。例えば、ストレプトアビジンなどの結合パートナーは、ビオチン化されたテンプレートやプライマーと共に採用しうる。担体とナノ結晶標識プライマーもしくは標的核酸配列のいずれかとの間の可逆的または非可逆的な結合は、適切な任意の共有結合または非共有結合の対の成分によって達成しうる。固定化のためのこうしたその他の適切な固定化アプローチには、抗体(または抗体の断片)と抗原との結合対および光活性化した結合分子などがある。一般的に、適切な固定化は、従来的な化学的技術およびフォトリソグラフィー技術により担体に適用できるが、これは当技術分野でよく知られており、固体担体の標準的な化学的表面改質および差別的な温度や媒質を用いた担体のインキュベーションが含まれる。
【0043】
熱安定性のポリメラーゼまたは熱的に分解可能なポリメラーゼを含め、当技術分野で知られている適切な任意のヌクレオチドポリメラーゼを使用することができる。模範的なポリメラーゼには、サームス・エクアティカス(Thermus aquaticus)、サームス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)、パイロコッカス・ウォーセイ(Pyrococcus woesei)、パイロコッカス・フリオサス(Pyrococcus furiosus)、サーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)、サーモトガ・マリティマ(Thermotoga maritima)から単離したポリメラーゼ、大腸菌(E. coli)DNAポリメラーゼ、大腸菌DNAポリメラーゼのクレノウフラグメント、T4 DNAポリメラーゼ、T7 DNAポリメラーゼ、大腸菌T7、T3、SP6 RNAポリメラーゼおよびAMV、M-MLVおよびHIV逆転写酵素などが含まれるが、これに限定されない。一例において、DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメントの反応条件には一般的に、10mM MgCl2および50mM NaClを含む、pH8.0で室温で37℃にインキュベートした緩衝液が含まれる。その他のヌクレオチドポリメラーゼの反応条件は、当技術分野でよく知られており、Sambrook JおよびRussell DW, 2001年, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Third EditionまたはAusubel FM et al., eds., 2002年, Short Protocols In Molecular Biology, Fifth Editionなどの適切な分子生物学手順書で利用可能で、これは参照により本明細書に組み入れられる。
【0044】
蛍光標識またはフルオロフォアは、新たなヌクレオチドに適切な任意の結合化学反応を用いて付着しうる。こうした付着には、リンカーのヌクレオチドへの架橋が含まれる。一般に、蛍光標識は、ヌクレオチドの末端ホスフェートに付着される。ヌクレオチドは、三つ以上のホスフェートを持ちうる。例えば、米国特許第7,041,812号を参照。一部の態様において、単一の蛍光標識は、末端ホスフェートに結合される。新たな蛍光標識ヌクレオチドが組み込まれると、ホスフェートは、α-ホスフェートとβ-ホスフェートとの間で切断され、γ結合標識ホスフェートが放出される。半導体ナノ結晶用のアクセプターとして関与しうる適切な任意のフルオロフォアを採用してもよい。一定の態様において、標識は蛍光標識である。蛍光標識は、フルオレセイン、シアニン、ローダミン、クマリン、アクリジン、テキサスレッド染料、BODIPY、Alexa Fluor(アレクサ・フルーア)、およびそれらのいずれかの誘導体または改変体などとしうる。Molecular Probes(Eugene、OR)製のAlexa Fluor染料は、可視および赤外スペクトルの範囲の放射波長で入手できる。その他の態様において、標識は消光剤としうる。消光剤は、ドナーフルオロフォアからの蛍光性の減少または不在によって信号が生成されるため、FRET用途でのアクセプターとして有用である。従来的な蛍光標識と同様、消光剤は、吸収スペクトルおよび大きな消光係数を有するが、消光剤の量子収量は、励起時に消光剤が極少量を発するか全く光を発しなくなるほど極度に低下する。FRET検出システムでは、ドナーフルオロフォアの照射によりドナーが励起されるが、適切なアクセプターがドナーと十分な近接位置にない場合には、ドナーは光を発する。この光信号は、FRETがドナーと適切な消光剤アクセプターとの間に発生したときに、低下するか消滅し、その結果、消光剤からは極少量が発光するか全く発光しなくなる。こうして、ドナーと消光剤-アクセプターとの間の相互作用または近接さは、ドナー発光の減少または不在により検出しうる。FRETシステムで消光剤をアクセプターとして、量子ドットドナーと共に使用する一例については、Medintz, IL et al. (2003) Nat. Mater. 2:630を参照のこと。消光剤の例としては、Molecular Probes(Eugene、OR)から入手できるQSY染料がある。
【0045】
配列決定反応は、適切なポリメラーゼおよび標識ヌクレオチドを追加することで、開始される。適切な温度および二価金属イオンなどその他の成分の追加は、標的核酸配列に基づき決定しうる。反応部位の照射により、ヌクレオチドの組み込みをマークするFRET反応の観察が可能となる。ヌクレオチドポリメラーゼによるプライマーの重合により、反応混合物からのヌクレオチドが、伸長中のプライマー鎖に組み込まれる。ポリメラーゼ触媒による伸長により、新たなヌクレオチドがプライマーの遊離3’-OH端に追加され、鎖は5’から3’の方向全体に成長する。新たなヌクレオチドの追加により、その結果、3’-OHと新たなヌクレオチドのα-ホスフェートとの間にリン酸ジエステル結合が生成され、残りのPisがヌクレオチドから切断され放出される。
【0046】
新たなヌクレオチドの同一性は、一般にWatson-Crick塩基対合によりテンプレート鎖上で次の不対のヌクレオチドを用いて指定され、窒素塩基アデニン(A)を含むヌクレオチドは、窒素塩基チミン(T)を含むヌクレオチドと塩基対合をなし、窒素塩基グアニン(G)を含むヌクレオチドは、窒素塩基シトシン(C)を含むヌクレオチドと塩基対合をなすといった具合である。伸長中のヌクレオチド鎖がリボ核酸(RNA)鎖であるとき、窒素塩基ウラシル(U)を含むヌクレオチドがTと置換される。ヌクレオチドポリメラーゼ媒介の伸長が何回も繰り返される結果、テンプレート鎖に対して相補的な配列の核酸鎖が合成される。こうして、Watson-Crick塩基対合の規則を適用することで、プライマー鎖に組み込まれたヌクレオチドの同一性から、テンプレート鎖--配列決定される核酸--の配列が決定されうる。
【0047】
組み込まれたヌクレオチドの同一性は、相補鎖に組み込まれる際の、プライマーに付着している半導体ナノ結晶または量子ドット(つまり、ドナー)と、新たなヌクレオチドに付着している標識(つまり、アクセプター)との間のFRET相互作用により、迅速に、プライマー鎖の伸長の発生時に例えばリアルタイムまたはほぼリアルタイムで決定しうる。本開示でプライマーの伸長に使用されるヌクレオチドは、蛍光標識、消光剤、またはその何らかの組み合わせのいずれかにより標識される。一部の態様において、標識は、ホスフェート、例えば、ヌクレオチドのβ-ホスフェート、γ-ホスフェート、または末端ホスフェートなどに付着され、この標識は、核酸ポリメラーゼによるプライマー鎖への組み込み時にヌクレオチドと分離される。その他の態様において、標識は、ヌクレオチドのα-ホスフェート、窒素塩基、または糖に付着され、消光剤と共に使用される。
【0048】
後述するように、新たなヌクレオチドの窒素塩基の同一性を識別するために、多数の標識化および検出方法が利用できる。これら全ての方法は、プライマーに付着している半導体ドナーと、新たなヌクレオチドに付着している蛍光標識および/または消光剤のアクセプターとの間のFRETに依存する。本開示において、量子ドットドナーは、量子ドットの励起スペクトルにより要求される適切な励起波長の光の照射により励起される。量子ドットの異例の光安定性を考慮すると、光退色のない連続的な励起が可能である。ヌクレオチドポリメラーゼが標的核酸分子に対して相補的な新たなヌクレオチドをプライマー鎖に組み込む際、ヌクレオチドに付着している標識が量子ドットの近接位置にもたらされる。量子ドットと標識との間の距離が約1.0〜1.5×R0以下に減少すると、FRET効率は、標識からの発光、または量子ドットの発光の消光のいずれかにより、量子ドットと標識との間の検出可能なFRETを誘発するのに十分なだけ増加する。
【0049】
多様なヌクレオチド信号間の識別が可能となるFRET信号およびスペクトル分解の検出は、スペクトル波長解析、相関/反相関分析、蛍光寿命測定、およびフルオロフォア識別などを含めた適切な任意の方法を用いて達成できる。発光を検出する適切な技術には、共焦点レーザー走査顕微鏡法、全反射照明蛍光(TIRF)およびその他の形態の蛍光顕微鏡検査法などが含まれる。
【0050】
一定の態様において、標識は、相補配列に組み込まれる際にポリメラーゼによってヌクレオチドから切断されるホスフェート、例えば、新たなヌクレオチドのβ-ホスフェート、γ-ホスフェート、または末端ホスフェートなどに付着している。新たなヌクレオチドの組み込みの際の、ホスフェートの切断および標識の放出により、量子ドットと標識との間のFRET信号は、ヌクレオチドが組み込まれた後に消滅し、標識は拡散してしまう。こうして、これらの態様では、FRET信号は、それぞれの新たなヌクレオチドが、標的核酸分子中の相補的な核酸とハイブリダイズするときに発生し、かつヌクレオチドが、伸長中のプライマー鎖に組み込まれると、標識は放出され、FRET信号は終了する。組み込み時に標識を放出することにより、それ以前に相補鎖に組み込まれたヌクレオチドからの干渉なしに、連続的な伸長のそれぞれが検出できる。
【0051】
ヌクレオチドポリメラーゼが、引き続き伸長中のプライマー鎖にヌクレオチドを組み込み続けると、量子ドットとそのヌクレオチド組み込み部位との間の距離は増加する。ヌクレオチド組み込み部位が、量子ドットドナーから約1.0〜1.5×R0を越えて離れると、量子ドットと標識との間のFRETは見込みがなくなり、追加的なヌクレオチド組み込みの事象は、システムの検出能力を越えることになる。フェルスター距離(R0)は、部分的に、使用するFRETのドナーおよびアクセプターの特定の組み合わせに依存する。こうして、このアプローチを用いて配列決定しうるヌクレオチドの数は、使用するドナーおよびアクセプターの組み合わせに依存し、特定のドナー-アクセプターの対についてフェルスター距離が大きい程、この配列決定アプローチの読取り長さが長くなる。一部の態様において、本明細書で開示した方法および組成物を使用して、最高約10、20、30、40、50、75または100ヌクレオチドの配列決定ができる。
【0052】
FRET技術を用いた塩基識別について多数の標識化および検出の方法が利用できる。例えば、反応混合物中の各ヌクレオチド(伸長反応に存在する各タイプのヌクレオチド)について、蛍光標識から発光される光の波長および/または強度に基づく異なる標識間の識別と共に、異なる蛍光標識を使用することができる。
【0053】
第二の方法には、蛍光標識および消光剤の使用が関与する。この方法では、反応混合物中の一定のヌクレオチドが、蛍光標識で標識され、一方、残りのヌクレオチドは、一つ以上の消光剤で標識される。別の方法として、反応混合物中の各ヌクレオチドは、一つ以上の消光剤で標識される。ヌクレオチド塩基の識別は、FRETアクセプターから発せられる光の波長および/または強度に基づくだけでなく、FRETドナーから発せられる光の強度にも基づく。FRETアクセプターからの信号が全く検出されない場合には、それに対応するFRETドナーからの発光の減少が、消光剤で標識されたヌクレオチドの組み込みを示す。強度減少の程度は、異なる消光剤間の区別に使用することもできる。
【0054】
第三の方法には、量子ドットドナーと蛍光標識もしくは消光剤アクセプターとの距離を変化させることによるFRET効率の調節が関与する。この方法では、同じタイプの蛍光標識または消光剤を使用できるが、量子ドットと標識との間の距離は識別する各ヌクレオチドによって異なり、その結果、FRET効率が調節されることになる。距離は、ヌクレオチドそれ自体の構造、ヌクレオチド上での蛍光標識または消光剤の位置、あるいは蛍光標識または消光剤をヌクレオチドに付着させる際のスペーサーまたはリンカーの使用によって、変化させることができる。FRET効率の調節は、結果として発光強度または消光の検出可能な調節となる。
【0055】
別の方法で、FRET効率は、それぞれの新たなヌクレオチドに付着させた蛍光標識または消光剤の数を変化させることで調節できる。この方法では、異なる数の同じ蛍光標識または消光剤が各ヌクレオチドに付着される。例えば、一つの蛍光標識をAに、二つをTに、三つをGに、および四つをCに付着させることができる。量子ドットドナーに対するアクセプターの数が増えると、FRET効率および量子収量が増大し、塩基の識別がアクセプターの発光強度または量子ドットドナーからの発光の減少に基づき実施できる。
【0056】
同じ配列決定反応で、上記の標識化および検出の方法の任意の組み合わせをまとめて採用しうる。上記の方法のいずれかで使用される識別可能な蛍光標識および消光剤の数に応じて、単一の配列決定反応で一つ、二つ、または四つのヌクレオチドの同一性を決定しうる。こうして、複数の配列決定反応を実行でき、各反応で決定されたヌクレオチドの同一性を回転(rotate)させて、残りのヌクレオチドの同一性が決定される。一部の態様において、これらの反応は、同時に並行して実行でき、完全な配列決定が短時間で可能となる。
【0057】
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を例証するために含まれているものである。実施例で開示される技術は、発明者により発見された発明の実施において適切に機能する代表的な技術に従うものであり、それゆえに、その実施の好ましい様態となると考えられることは、当業者により認識されるべきである。ところが、当業者であれば、本開示に照らして、発明の精神および範囲を逸脱することなく、開示された具体的な態様には数多くの変更をなしうること、またなおも同様もしくは類似した結果が得られることは理解すべきである。
【0058】
実施例
実施例1: γ-ホスフェート標識TTPの準備
Alexa Fluor 647染料で標識されたTTPを、Alexa Fluor 647ヒドラジド(Invitrogen Corp.; Carlsbad、CA)と未標識TTPとの間でのカルボジイミド縮合反応を使用して合成した。反応は、EDC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロリド)およびMES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)の存在下、pH5.5で実施した。このpH値で、大半のヒドラジド基は、脱プロトン化され、そのため活性カルボジイミドに対する高い反応性となった。生成物をC18逆相カラムを使用し、HPLCを用いて精製したところ、260nmおよび598nmで検出された。
【0059】
TTPの100mM溶液40マイクロリットルを、8.3mM Alexa Fluor 647ヒドラジド60マイクロリットルと混合した。500mM MES 85マイクロリットル(pH5.5)を混合物に追加した。最後に、固体EDC 5.6mgを混合物に追加した。アリコットをHPLC(逆相C18カラム、酢酸トリエチルアンモニウムpH7.0中のアセトニトリルの勾配を使用)で解析した。約8.9分で溶出がピークとなった生成物の外観を時間経過とともに監視し、2回の連続した注入で追加的な生成物の蓄積が全く示されなかった時点(約85分)で、同じカラムおよび修正した溶出勾配を使用して混合物全体をHPLC精製した。生成物に対応したピークを回収し、溶液をSpeed Vacで濃縮し、および生成物を70%アセトニトリルで事前平衡化し、水で洗ったC18逆相カートリッジで脱塩した。有色の反応生成物がカラム上に保持されたが、カラムを水で十分に洗い、生成物を70%アセトニトリル水溶液で溶出した。アセトニトリルを真空内で除去し、生成物の濃度がその吸光度650nmおよび分析的HPLCの実行によるその純度評価により決定された。生成物を-20℃で貯蔵した。
【0060】
γ標識dCTPが、Alexa Fluor 647ヒドラジドを使用した上記のものと類似した方法で準備された。
【0061】
実施例2: ナノ結晶標識ヘアピンを使用したポリメラーゼ伸長反応のFRET検出
自己相補的ヘアピンループのオリゴヌクレオチド(

; ここでXはアミノ修飾因子C6 dC; SEQ ID NO:1)を、SMCCに基づく結合を使用して、PEGアミン修飾したQdotナノ結晶(Invitrogen Corp.; Carlsbad、CA)の表面に共有結合的に付着させた。SEQ ID NO:1の3’端は、TTPと、それに続くdCTPの酵素による組み込みを決定する。dCTPの組み込みは、TTPの挿入後にのみ可能となる。
【0062】
結果的に生じたナノ結晶結合物を、標識dCTPまたは標識TTPなどの、異なるAlexa Fluor染料で標識されたdNTPの溶液と混合した。染料は、トリホスフェートの複素環式塩基に付着し、ナノ結晶上の酵素による伸長生成物の永久的な部分となった。
【0063】
クレノウポリメラーゼの追加により重合を開始させ、溶液の蛍光発光を、励起波長450nmにセットしたプレートリーダー(Molecular Devices Corp.; Sunnyvale、CA)を使用してリアルタイムで記録した。Qdotナノ結晶の発光とAlexa Fluorフルオロフォアの発光に対応する二つの波長で発光が検出された。全ての反応を三回実施した。
【0064】
標識されたdCTPのみを追加したものは、発光された蛍光性の増加につながらず、伸長は示されなかった(期待通り)。Alexa Fluor 647標識TTPのみを追加したものは、100秒以内にRFUの約25から45〜50への増加につながった。その時点以降はRFUの安定が保たれた。
【0065】
標識TTPを当初標識dCTPのみが含まれていた試料に追加すると、RFUの増加によりプライマー伸長が示された。標識されていない「非標識の(cold)」TTPを当初標識dCTPのみが含まれていた試料に追加したところ、これと同一の結果が得られた。この場合には、観測されたFRETは、標識されたdCTPの組み込みによるものとなる。
【0066】
実施例3: ナノ結晶標識プライマーを使用したFRET検出
プライマーオリゴヌクレオチドとQ605ナノ結晶の結合
この量子ドット-オリゴ結合は、2段階の手順の処置で準備した。まず、ナノ結晶をアジピン酸ヒドラジドおよびEDC(水溶性カルボジイミド)と反応させた。第二の段階では、これらの修飾されたナノ結晶をアルデヒド修飾ヘアピンタイプのオリゴヌクレオチドと反応させた。例えば図1を参照。
【0067】
段階1:300mMアジピン酸ヒドラジド170μLおよび500mM MES pH5.5緩衝液240μLを8μM Qdot 605 PEG 2000アミンドット100μLに追加した。次に、固体EDC 2.8mgを追加し、混合物を攪拌し、室温で2時間静置した。生成物を、250mM MES pH5.5緩衝液を用いた適切な限外濾過装置による数回にわたる限外濾過により単離した。
【0068】
段階2:段階1でのアジピン酸ヒドラジド由来の量子ドットを、10〜15倍モル過剰のアルデヒド修飾ヘアピンオリゴ(162)と混合した。混合物を室温で12時間保持した後、限外濾過により約25μLに濃縮した。リン酸緩衝食塩水緩衝液pH7.4で平衡化したSuperdex 200(GE Healthcare)でのサイズ排除クロマトグラフィーにより過剰な遊離・非結合のオリゴから、望ましいQdot-オリゴ結合体が精製された。
【0069】
AF647-γ-デオキシグアノシン-四リン酸の合成
単一-AF647標識dG四リン酸の合成経路は、図式1(図2A)および2(図2B)に図示している。
【0070】
化合物2の合成
化合物1(678mg、2mmol)を、リン酸トリメチル(5mL)中で懸濁させ、0℃に冷却した。POCl3(280μL)を攪拌した混合物にアルゴン雰囲気下で加えた。混合物を温め、室温で夜通し攪拌した。TEAB緩衝液(1M)4mLを0℃で徐々に加えて、反応物を急冷した。トリエチルアミンを加え、pHをpH7.0に調節した。溶剤を蒸発させて、残留物をカラムクロマトグラフィーによりシリカゲル上で精製し、10% H2O/CH3CNで溶出した。溶剤を蒸発させた後、固体を水に溶かした。溶液のpH値をTEAB緩衝液(1M)でpH7に調節した後、メタノールで同時蒸発させた。収量:400mgの化合物2。
【0071】
化合物3の合成
トリエチルアンモニウム樹脂を通過させ、高真空で乾燥させることにより、dGTPのナトリウム塩(20mg)をそのトリエチルアンモニウム塩に転換させた。化合物2(42mg)を乾燥DMF 2mLに溶かした。カルボニルジイミダゾール(CDI)(65mg)を追加し、その溶液を室温で4時間攪拌した後、無水メタノール(18μL)を追加し、さらに1時間攪拌した。乾燥したdGTPトリエチルアンモニウム塩を乾燥DMF(2mL)に溶かし、この溶液に準備した2のホスホイノシチド溶液をアルゴン雰囲気下で加えた。混合物をアルゴン雰囲気下で夜通し攪拌した。トリエチルアミン(1mL)を追加して、4時間攪拌した。溶剤を蒸発させて、CHCl3で洗い、水に溶かして、sephadex A-25 DEAEイオン交換クロマトグラフィーにより精製し、線形勾配0.05M〜0.6MのTEAB緩衝液で溶出させた。メタノールによる同時蒸発および凍結乾燥の後、約5mgの化合物3が得られた。
【0072】
AF647-dGP4合成
AF647 SE(2mg)、化合物3(1mg)およびEt3N(5μL)のDMF(300μL)溶液に150μLのH2Oを加えた。溶液を室温で反応が完了するまで(約1時間)攪拌した。生成物をsephadex LH-20でカラムクロマトグラフィーにより精製し、水で溶出させた。望ましい一部分を約500μLに濃縮し、-20℃で貯蔵した。
【0073】
ライブによる単一分子テンプレートによる重合試験法
伸長反応は、3mm厚みのアクリルプラスチック、3Mテープ、および20×60×0.17mmの表面改質したカバーガラス(PEG/PEG-ビオチン修飾、MicroSurfaces, Inc.、Minneapolis、MN)で作成した8レーンのフローセル内で実施した。フローセルレーンは、まずストレプトアビジン(200μg/mL in 1%(w/v)BSAをリン酸緩衝食塩水(4mM ホスフェートpH7.2、150mM NaCl)に溶かしたもので30〜60分間塗膜した後、200μL PBST(PBS + 0.1%(v/v)Tween-20)をレーンにピペットで通して、レーン当たり合計5回繰り返して洗浄した。ビオチン化-Q605-テンプレートを1% BSA/PBS中1〜10pMに希釈し、フローセルレーンにピペットで移し、ストレプトアビジン修飾表面と30〜60分間結合させた後、5回PBST洗浄をした。フローセルレーンをExtension Buffer(50mM トリス pH8.0、50mM NaCl、10mM MgCl2)で平衡化した後、フローセルにその後の流体の供給用に入口および出口の管を供給し、TIRF顕微鏡システムに載せた。
【0074】
ビオチン化-Q605-テンプレートをTIRF面に結像させ、重合反応成分(5μM [AF647]-γ-デオキシグアノシン四リン酸および0.02 U/μL exo- クレノウフラグメントをExtension Bufferに溶かしたもの)を入口の管からフローセルレーンに注入し、その間、ライブビデオを〜30フレーム/秒で5〜10分間撮影した。
【0075】
単一分子蛍光性検出のためのTIRF顕微鏡システム
Olympus IX71倒立型フレームシリーズを使用したTIRFシステムを採用した。405nmレーザー、60X PLAN APO対物レンズ、1.45 N.A.、タレット内のダイクロイックミラーは、SEMROCK FF510で510nm以下の波長を反射する。Olympus USIP画像スプリッターをSEMROCK製の発光フィルターと併用した。カメラは浜松C9100-13 EMCCDカメラである。この測定は、30フレーム/秒、ゲイン255で実施した。
【0076】
画像解析
データ解析を以下の通り実施した(図3参照)。顕微鏡スライドのx軸、顕微鏡スライドのy軸、605nm +/- 15nm、670nm +/- 30nm、および時間に対する蛍光性の5次元データセットを以下の通り解析した。(1)まず、量子ドットナノ結晶ドナー信号のx座標およびy座標の位置を求めた(605nmで)。それによって対応するアクセプター-染料蛍光性x、y、位置を、5次元データセットのy軸に沿って換算した256ピクセルに設定した(この計器で使用されている二重表示の二色画像スプリッターにより確立された関係)。それにより時系列データを5次元データセットから抽出し、ドナーおよびアクセプターのカラーチャネルでの相関した信号の変化を調べた(図3参照)。ドナーとアクセプターの信号間の時間に依存した相関は、ドナー-アクセプター時系列の数学的内積として直接計算しうる。この正規化した内積(-1(負の相関)〜+1(正の相関)の範囲の値)は、元の時系列データに重ね合わせてプロットできる。標準信頼区間の計算は、正および負の相関の信頼限界の設定に利用できる(このデータセットについては信頼限界99.99%を設定した)。塩基挿入の事象については、以下の配列の相関性において、反相関に続く無相関の信号(当初の染料-dNTP結合事象、ドナー信号が減少しアクセプター信号が増加する)の後、正の相関(染料-dNTPのDNAポリメラーゼ結合時)となった後、ポリメラーゼの染料-ホスフェート分散のため反相関(ドナー信号が増加し、アクセプター信号がベースラインまで減少)といった一連の変化が見られることが予想される。こうしたパターンが、これらの時系列で実際にみられた(図4)。
【0077】
本明細書で開示および特許請求する全ての組成物および方法は、本開示に照らして、過度の実験をすることなく、作成および実施ができる。本発明の組成物および方法を、好ましい態様という点で説明してきたが、発明の概念、精神および範囲を逸脱することなく、本明細書で説明した組成物および/または方法、ならびに方法の手順もしくは一連の手順に変形を適用しうることは、当業者にとって明らかとなる。さらに具体的に言えば、化学的および生理学的の両面で関連した一定の薬剤を、本明細書で説明した薬剤と置換することができ、同一または類似した結果が達成されることは明らかである。当業者にとって明らかなこれら全ての類似した置換および変更は、添付の特許請求の範囲で定義した発明の精神、範囲および概念に含まれるものとみなされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、単一の標的核酸分子を遺伝子型同定または配列決定するための方法:
(a) 標的核酸分子を固体担体に固定化して、個々の標的核酸配列分子をそれぞれただ一つ有する複数の部位または位置を備える固体担体を形成する工程;
(b) 固体担体を、ポリメラーゼ、少なくとも一つの半導体ナノ結晶に機能的に連結されたプライマー、および少なくとも一つの蛍光標識ヌクレオチドポリリン酸に接触させる工程;
(c) 蛍光標識ヌクレオチドポリリン酸が、伸長中のヌクレオチド鎖に、標的核酸分子と相補的な活性部位において組み込まれる時間系列(time sequence)を、半導体ナノ結晶と蛍光標識ヌクレオチドポリリン酸との間の蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)信号を検出することにより、光学的に検出する工程であって、
各蛍光標識ヌクレオチドの同一性が、その蛍光標識により決定され、
続いて蛍光標識が、伸長中の鎖に組み込まれた時点でヌクレオチドから切断される、
工程;ならびに
(d) 重合反応中に検出されたFRET信号の配列を核酸配列に変換することにより、前記単一の標的核酸分子を遺伝子型同定または配列決定する工程。
【請求項2】
標的核酸分子がDNAであり、かつポリメラーゼがDNAポリメラーゼまたはRNAポリメラーゼである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
標的核酸分子がRNAであり、かつポリメラーゼが逆転写酵素である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
ポリメラーゼが、DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメント、大腸菌(E. coli)DNAポリメラーゼI、T7 DNAポリメラーゼ、T4 DNAポリメラーゼ、サームス・エクアティカス(Thermus acquaticus)DNAポリメラーゼ、またはサーモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)DNAポリメラーゼである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
半導体ナノ結晶が、ドナーフルオロフォアとして作用し、かつヌクレオチドポリリン酸の蛍光標識が、アクセプターフルオロフォアとして作用する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
蛍光標識が、フルオレセイン、シアニン、ローダミン、クマリン、アクリジン、テキサスレッド染料、BODIPY、ALEXA、およびそれらのいずれかの誘導体または改変体から成る群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
蛍光標識がヌクレオチドポリリン酸のγ-ホスフェートに付着している、請求項1記載の方法。
【請求項8】
検出がリアルタイムまたはほぼリアルタイムで行われる、請求項1記載の方法。
【請求項9】
第一の核酸の配列決定と平行して、請求項1記載の方法に従って第二の核酸を配列決定することをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
固体担体がガラスまたはプラスチックである、請求項1記載の方法。
【請求項11】
プライマーが多数個のヌクレオチドの分だけ伸長される、請求項4記載の方法。
【請求項12】
プライマーが50個未満のヌクレオチドの分だけ伸長される、請求項5記載の方法。
【請求項13】
プライマーが少なくとも10個のヌクレオチドを含む、請求項1記載の方法。
【請求項14】
プライマーが少なくとも20個のヌクレオチドを含む、請求項1記載の方法。
【請求項15】
蛍光標識ヌクレオチドポリリン酸が三つ以上のホスフェートを有する、請求項1記載の方法。
【請求項16】
蛍光標識ヌクレオチドポリリン酸が四つ以上のホスフェートを有する、請求項1記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−518862(P2010−518862A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−551015(P2009−551015)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際出願番号】PCT/US2008/054612
【国際公開番号】WO2008/103848
【国際公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(502221282)ライフ テクノロジーズ コーポレーション (113)
【Fターム(参考)】