説明

単一細胞クローニングの改良法

本発明は、無血清細胞培地による細胞集団の培養方法であって、該細胞集団が100細胞/ml未満の細胞濃度を有し、組換えアルブミンと組換えトランスフェリンとを含む無血清細胞培地を使用する、上記方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無血清細胞培地による細胞集団の培養方法であって、該細胞集団が100細胞/ml未満の細胞濃度を有し、組換えアルブミンと組換えトランスフェリンとを含む無血清細胞培地を使用する、上記方法に関する。また本発明は、100細胞/ml未満の細胞濃度を有する細胞集団を培養するための、組換えアルブミンと組換えトランスフェリンとを含む無血清細胞培地の使用にも関する。また本発明は、組換えアルブミンと組換えトランスフェリンとを含む無血清細胞培地中で培養される、100細胞/ml未満の細胞濃度を有する細胞集団にも関する。
【背景技術】
【0002】
典型的な細胞培地には、ウシ胎仔血清(FBS)のような未定の添加剤が添加されることが多い。このような添加剤は、易動性の担体または不水溶性成分を供給し、成長因子を供給し、細胞を物理的ストレスから保護する。他方、血清の使用には幾つかの欠点がある。血清は、ロット間で変動し得る未同定の物質の混合物である。しかし、動物またはヒト由来の血清または他の添加剤の主な不利益は、外来性剤(例えばマイコプラズマ、プリオンおよびウイルス)の混入のリスクである。
【0003】
血清に付随する病原体混入リスクを克服するため、これまでに無血清培地が開発されてきた。無血清培地には、成長因子、サイトカイン、アルブミン、インスリンおよびトランスフェリンなどの血清代替物が添加される場合が多い。これらのタンパク質は、通常は動物源から単離されるため、培地への病原体の混入の潜在的なリスクは依然として存在する。例えば、細胞培養は、動物源またはヒト源から単離されたウシ血清アルブミン(BSA)、ヒト血清アルブミン(HSA)またはトランスフェリンを用いて促進することができた(US6733746)。この方法は依然として、HSAに由来するHIV、クロイツフェルト・ヤコブ病の病原体または肝炎ウイルスなどの外来性病原体を細胞培養物に導入するリスクを冒す。これらの病原体は、動物治療剤およびヒト治療剤の製造における培地の利用に悪影響を与える。組換え生産されたタンパク質のみを含むため病原体混入のリスクを低減する培地が報告されている。組換えアルブミンを付加的な動物由来成分と共に含む公表された培地(WO2008009642)および組換えアルブミンと組換えインスリンとを含む培地(US20060115901)がある。
【0004】
無血清培地に日常的に添加される一般的な添加剤は、トランスフェリンである。トランスフェリンは、通常は動物源またはヒト源から単離され、細胞に鉄を供給するために無血清培地に添加される。哺乳動物細胞による鉄取り込み機構は、Qian, Z.M.およびTang, P.L.により、1995, Biochim. Biophys. Acta, 1269: 205-214で概説されている。トランスフェリンが細胞増殖を補助する成長因子である可能性を有することを示すさらなる刊行物が存在する。他方、トランスフェリン受容体欠損細胞は野生型細胞に匹敵する速度で増殖し得ることが示され、この受容体が成長因子受容体ファミリーに属さないことを示唆している(Chan, R.ら, 1992, Experimental cell research 202:326-336)。トランスフェリン受容体欠損の場合、細胞は、非特異的な受容体非依存機構を通じて鉄を取り込むことができる。通常、細胞が鉄を取り込むことができる3つの機構がある。1. トランスフェリンから受容体依存経路を通じて、2. トランスフェリンから受容体非依存機構(非特異的)を通じて、3. 無機鉄塩、例えばFeSO4から(Chan, R.ら, 1992, Experimental cell research 202:326-336)。後者の鉄取り込み経路は、培地に添加される多くの無機鉄キレートのバックグラウンドであり、細胞に鉄を供給し、他のトランスフェリンの影響を無視する(EP1210410)。細胞は無機鉄塩から非特異的に鉄を取り込むため、多数の、タンパク質を全く含まない細胞培地が開発されてきた。興味深いことに、細胞は、無タンパク質培地中で極めて良く増殖するため、現在は、最先端の培地はタンパク質を全く含まない。要約すると、既報のデータはトランスフェリンが哺乳動物細胞中で鉄取り込みを媒介し得ることを示す。しかし、細胞は無機鉄キレートからも鉄を取り込むことができるため、トランスフェリンは鉄分補給剤として必ずしも必要ではない。現在、トランスフェリンが、その鉄供給体としての任務に加えて、細胞にさらなる成長因子様効果を与えるか否かは不明である。
【0005】
動物細胞培養を用いた治療用タンパク質の生産中、産生細胞株のクロナリティーを示すことが重要である。このことは、遺伝子組み換え産生細胞株が、培養皿において1ウェルにつき1つの細胞のみを播種することによってクローン化された単一細胞である単一前駆細胞に由来するものでなければならないことを意味する。単一細胞状態の細胞は、pH変化、温度変化、または蓄積された酸化培地生成物の悪影響などの急速に変化する環境条件に曝される。対照的に、細胞集団中で共培養された細胞は、隣接細胞由来のサイトカインのような増殖補助成分および生存補助成分を受け取る。単一細胞培養中にこの補助がない場合、多くのクローンは、上昇する培養ストレス中で生存することができない。単一クローンが96ウェルプレートのような培養皿に播種される場合、このクローンは隣接細胞から刺激補助を受け取らない。これは多くの場合、細胞死または非増殖挙動をもたらす。これらの問題を回避するため、単一細胞クローニングは、培地中のウシ胎仔血清(FBS)の存在下で行うのが一般的である。このため、血清が上記のような不利益を有することから、無血清単一細胞クローニング培地の開発に関心が集まっている。
【0006】
CHO細胞を、無血清培地中で極めて低い細胞密度で培養する方法が開発されている。この培地は特に組換えアルブミンと組換えインスリンとを含む(US20060115901)。馴化培地を無血清単一細胞クローニング培地に加えるのが一般的である。馴化培地は同一の細胞集団によって産生されるサイトカインを含むため、単一細胞のクローン増殖を促進するはずである(WO2005014799)。しかし、馴化培地中のサイトカイン濃度は低く、馴化培地は増殖抑制細胞毒性代謝物も含むため、かかる培地の増殖促進効果は限られる。
【0007】
別の方法は、実際の生産クローンと親細胞との共培養である。いわゆるフィーダー細胞には、この細胞から増殖能を奪うために放射することができる。非増殖フィーダー細胞は、生産クローンの分裂を刺激する成長因子を放出するであろう(EP1176194、US2005/0059146)。フィーダー細胞を利用した培養の欠点は、生産クローンをフィーダー細胞から分離することの困難性である。フィーダー細胞が生産クローンに付着していないことを明らかにしなければならない。
【0008】
要約すると、既報のデータは、無血清培地による細胞の単一細胞クローニングのための新しく且つ簡単な方法が必要とされていることを示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】US6733746
【特許文献2】WO2008009642
【特許文献3】US20060115901
【特許文献4】EP1210410
【特許文献5】WO2005014799
【特許文献6】EP1176194
【特許文献7】US2005/0059146
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Qian, Z.M.ら、Biochim. Biophys. Acta, 1995, 1269: 205-214
【非特許文献2】Chan, R.ら、Experimental cell research, 1992, 202:326-336
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の根底にある技術的課題は、最先端技術の不利益を克服する方法および細胞培地を提供することである。
【0012】
本発明の根底にある他の技術的課題は、特に無血清培地による細胞の単一細胞クローニングのためのより簡単な方法を提供することである。
【0013】
本発明の根底にあるさらなる技術的課題は、培地、特に無血清培地による低細胞濃度での細胞集団の培養のためのより簡単な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、独立請求項の教示の提供により、上記の課題を解決する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、馴化培地中のクローニング効率と、組換えヒト血清アルブミン(rHSA)中のクローニング効率との比較を示す。
【図2】図2は、組換えヒトトランスフェリン(rHTR)を添加した組換えヒト血清アルブミンを用いたクローニング効率と、組換えヒトトランスフェリンを添加していない組換えヒト血清アルブミンを用いたクローニング効率との比較を示す。
【図3】図3は、rHSAとrHTRとを別々に用いたクローニング効率と、rHSAとrHTRとを組み合わせて用いたクローニング効率との比較を示す。
【図4】図4は、組換えヒト血清アルブミンを添加した組換えヒトトランスフェリンと、組換えヒト血清アルブミンを添加していない組換えヒトトランスフェリンの滴定、および結果として得られるクローニング効率を示す。
【図5】図5は、FACSによって沈着される単一細胞の細胞増殖を促進するためのrHSAとrHTRの複合添加の効果を示す。さらに、これらの結果は、様々なCHO細胞株に対するこの培地処方の有効性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
特に本発明は、無血清細胞培地による細胞集団の培養方法であって、該細胞集団が100細胞/ml未満の細胞濃度を有し、以下のステップ:a) 第1の無血清細胞培地中で、約100細胞/mlを上回る、特に100細胞/mlを上回る細胞濃度で細胞集団を培養するステップ、b) 細胞濃度を約100細胞/ml未満、特に100細胞/ml未満まで低下させるステップ、およびc) 第2の無血清細胞培地中で細胞を培養するステップであって、該第2の無血清細胞培地が組換えアルブミンと組換えトランスフェリンを含む前記ステップを含んでなる、上記方法を提供する。
【0017】
特に本発明は、無血清細胞培地による細胞集団の培養方法であって、該細胞集団が100細胞/ml未満の細胞濃度を有し、以下のステップ:a) 第1の無血清細胞培地中で、約100細胞/mlを上回る、特に100細胞/mlを上回る細胞濃度で細胞集団を培養するステップ、b) 細胞濃度を約100細胞/ml未満、特に100細胞/ml未満まで低下させるステップ、およびc) 該細胞を第2の無血清細胞培地と接触させるステップであって、該第2の無血清細胞培地が組換えアルブミンと組換えトランスフェリンを含む前記ステップを含んでなる、上記方法を提供する。
【0018】
本発明の好ましい実施形態において、ステップa)の細胞濃度は200細胞を上回る。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)の細胞濃度は約200細胞を上回る。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)の細胞濃度は500細胞を上回る。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)の細胞濃度は約1000細胞を上回る。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)の細胞濃度は1000細胞を上回る。本発明の好ましい実施形態において、細胞濃度はステップb)で50細胞/ml未満まで低下する。本発明の好ましい実施形態において、細胞濃度はステップb)で10細胞/ml未満まで低下する。本発明の好ましい実施形態において、細胞濃度はステップb)で1細胞/mlまで低下する。
【0019】
本発明の好ましい実施形態において、細胞集団は、ステップb)で1細胞まで減少する。従って、本発明の好ましい実施形態において、細胞集団は、ステップc)の開始時に1細胞を含む。
【0020】
本発明の好ましい実施形態において、細胞集団は、ステップb)で培養皿当たり1細胞まで減少する。従って、本発明の好ましい実施形態において、細胞集団は、ステップc)の開始時に培養皿当たり1細胞を含む。
【0021】
本発明の好ましい実施形態において、細胞集団は、ステップb)で培養ウェル当たり1細胞まで減少する。従って、本発明の好ましい実施形態において、細胞集団は、ステップc)の開始時に培養ウェル当たり1細胞を含む。当業者は、細胞を培養するのに適した、特に細胞集団を培養するのに適した幾つかの培養皿および培養ウェルについて理解している。当業者は、100細胞/ml未満の細胞濃度を有する細胞集団を培養するのに適した幾つかの培養皿および培養ウェルについても理解している。また当業者は、全部で100細胞未満の細胞濃度を有する細胞集団、特に1つの単一細胞のみからなる細胞集団を培養するのに適した幾つかの培養皿および培養ウェルについても理解している。
【0022】
さらに本発明は、無血清細胞培地による単一細胞の培養方法であって、以下のステップ:a) 第1の無血清細胞培地中で、約100細胞/mlを上回る、特に100細胞/mlを上回る細胞濃度で細胞集団を培養するステップ;b) 該細胞集団から単一細胞を単離するステップ;およびc) 第2の無血清細胞培地中で単一細胞を培養するステップであって、該第2の細胞培地が組換えアルブミンと組換えトランスフェリンを含む前記ステップを含んでなる、上記方法を提供する。
【0023】
さらに本発明は、無血清細胞培地による単一細胞の培養方法であって、以下のステップ:a) 第1の無血清細胞培地中で、約103細胞/mlを上回る、特に103細胞/mlを上回る細胞濃度で細胞集団を培養するステップ、b) 該細胞集団から単一細胞を単離するステップ、およびc) 該単一細胞を第2の無血清細胞培地と接触させるステップであって、該第2の細胞培地が組換えアルブミンと組換えトランスフェリンを含む前記ステップを含んでなる、上記方法を提供する。
【0024】
本発明の好ましい実施形態において、ステップa)の細胞濃度は100細胞を上回る。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)の細胞濃度は約200細胞を上回る。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)の細胞濃度は500細胞を上回る。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)の細胞濃度は約1000細胞を上回る。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)の細胞濃度は10000細胞を上回る。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)の細胞濃度は約100000細胞を上回る。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)の細胞濃度は1000000細胞を上回る。
【0025】
本発明の好ましい実施形態において、ステップa)の細胞濃度は100細胞/mlを上回る。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)の細胞濃度は約200細胞/mlを上回る。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)の細胞濃度は500細胞/mlを上回る。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)の細胞濃度は約1000細胞/mlを上回る。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)の細胞濃度は10000細胞/mlを上回る。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)の細胞濃度は約100000細胞/mlを上回る。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)の細胞濃度は1000000細胞/mlを上回る。
【0026】
本発明の好ましい実施形態において、細胞が約100細胞/mlを上回る細胞濃度で培養される場合、細胞集団の細胞は、増殖のための組換えトランスフェリンおよび/または組換えアルブミンを必要としない。本発明の好ましい実施形態において、細胞が100細胞/mlを上回る細胞濃度で培養される場合、細胞集団の細胞は、増殖のための組換えトランスフェリンおよび/または組換えアルブミンを必要としない。本発明の好ましい実施形態において、細胞が約200細胞/mlを上回る細胞濃度で培養される場合、細胞集団の細胞は、増殖のための組換えトランスフェリンおよび/または組換えアルブミンを必要としない。本発明の好ましい実施形態において、細胞が200細胞/mlを上回る細胞濃度で培養される場合、細胞集団の細胞は、増殖のための組換えトランスフェリンおよび/または組換えアルブミンを必要としない。本発明の好ましい実施形態において、細胞が約500細胞/mlを上回る細胞濃度で培養される場合、細胞集団の細胞は、増殖のための組換えトランスフェリンおよび/または組換えアルブミンを必要としない。本発明の好ましい実施形態において、細胞が500細胞/mlを上回る細胞濃度で培養される場合、細胞集団の細胞は、増殖のための組換えトランスフェリンおよび/または組換えアルブミンを必要としない。本発明の好ましい実施形態において、細胞が約103細胞/mlを上回る細胞濃度で培養される場合、細胞集団の細胞は、増殖のための組換えトランスフェリンおよび/または組換えアルブミンを必要としない。本発明の好ましい実施形態において、細胞が103細胞/mlを上回る細胞濃度で培養される場合、細胞集団の細胞は、増殖のための組換えトランスフェリンおよび/または組換えアルブミンを必要としない。本発明の好ましい実施形態において、細胞が約104細胞/mlを上回る細胞濃度で培養される場合、細胞集団の細胞は、増殖のための組換えトランスフェリンおよび/または組換えアルブミンを必要としない。本発明の好ましい実施形態において、細胞が105細胞/mlを上回る細胞濃度で培養される場合、細胞集団の細胞は、増殖のための組換えトランスフェリンおよび/または組換えアルブミンを必要としない。本発明の好ましい実施形態において、細胞が約106細胞/mlを上回る細胞濃度で培養される場合、細胞集団の細胞は、増殖のための組換えトランスフェリンおよび/または組換えアルブミンを必要としない。
【0027】
本発明の好ましい実施形態において、細胞が約100細胞/mlを上回る細胞濃度で培養される場合、細胞集団の細胞は、増殖のための組換えトランスフェリンを必要としない。本発明の好ましい実施形態において、細胞が約100細胞/mlを上回る細胞濃度で培養される場合、細胞集団の細胞は、増殖のための組換えアルブミンを必要としない。本発明の好ましい実施形態において、細胞が100細胞/mlを上回る細胞濃度で培養される場合、細胞集団の細胞は、増殖のための組換えトランスフェリンを必要としない。本発明の好ましい実施形態において、細胞が100細胞/mlを上回る細胞濃度で培養される場合、細胞集団の細胞は、増殖のための組換えアルブミンを必要としない。本発明の好ましい実施形態において、細胞集団の細胞は、細胞が約1000細胞/mlを上回る細胞濃度で培養される場合、増殖のための組換えトランスフェリンを必要としない。本発明の好ましい実施形態において、細胞が約1000細胞/mlを上回る細胞濃度で培養される場合、細胞集団の細胞は、増殖のための組換えアルブミンを必要としない。本発明の好ましい実施形態において、細胞が1000細胞/mlを上回る細胞濃度で培養される場合、細胞集団の細胞は、増殖のための組換えトランスフェリンを必要としない。本発明の好ましい実施形態において、細胞が1000細胞/mlを上回る細胞濃度で培養される場合、細胞集団の細胞は、増殖のための組換えアルブミンを必要としない。
【0028】
本発明の好ましい実施形態において、細胞集団の細胞は、無血清培地中で増殖することができる細胞である。本発明の好ましい実施形態において、細胞集団の細胞は、無血清培地中での増殖に適応した細胞である。
【0029】
本発明の好ましい実施形態において、細胞集団の細胞は、無動物成分培地中で増殖することができる細胞である。本発明の好ましい実施形態において、細胞集団の細胞は、無動物成分培地中での増殖に適応した細胞である。本発明の好ましい実施形態において、細胞集団の細胞は、無動物成分培地中で100細胞/ml未満の濃度で増殖することができる細胞である。本発明の好ましい実施形態において、細胞集団の細胞は、無動物成分培地中で100細胞/ml未満の濃度で増殖するのに適した細胞である。
【0030】
本発明の好ましい実施形態において、上記の方法は、ステップa)の前に、細胞集団の細胞が無動物成分培地中での増殖に適応しているさらなるステップを含んでなる。本発明の代替的実施形態において、細胞集団の細胞は、ステップa)における無動物成分培地中での増殖に適応している。
【0031】
また、例えばステップa)において市販の細胞を使用することにより、無動物成分培地中での増殖に適応した細胞を提供することもできる。
【0032】
細胞を無動物成分培地中での増殖に適応させるため(すなわち、無動物成分培地中での増殖に適応した細胞を得るため)の好適な方法は、先端技術において周知である。
【0033】
本発明の好ましい実施形態において、無動物成分培地は無タンパク質培地である。
【0034】
本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される第1の無血清培地は、アルブミンを0.1重量%未満の濃度で含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される第1の無血清培地は、アルブミンを最大0.09重量%の濃度で含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される第1の無血清培地は、アルブミンを最大0.05重量%の濃度で含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される第1の無血清培地は、アルブミンを最大0.01重量%の濃度で含む。
【0035】
本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される第1の無血清培地は、組換えアルブミンを0.1重量%未満の濃度で含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される第1の無血清培地は、組換えアルブミンを最大0.09重量%の濃度で含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される第1の無血清培地は、組換えアルブミンを最大0.05重量%の濃度で含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される第1の無血清培地は、組換えアルブミンを最大0,01重量%の濃度で含む。
【0036】
本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される第1の無血清培地は、トランスフェリンを5μg/ml未満の濃度で含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される第1の無血清培地は、トランスフェリンを最大4.9μg/mlの濃度で含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される第1の無血清培地は、トランスフェリンを最大4μg/mlの濃度で含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される第1の無血清培地は、トランスフェリンを最大1μg/mlの濃度で含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される第1の無血清培地は、トランスフェリンを最大0.5μg/mlの濃度で含む。
【0037】
本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される第1の無血清培地は、組換えトランスフェリンを5μg/ml未満の濃度で含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される第1の無血清培地は、組換えトランスフェリンを最大4.9μg/mlの濃度で含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される第1の無血清培地は、組換えトランスフェリンを最大4μg/mlの濃度で含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される第1の無血清培地は、組換えトランスフェリンを最大1μg/mlの濃度で含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される第1の無血清培地は、組換えトランスフェリンを最大0.5μg/mlの濃度で含む。
【0038】
本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される第1の無血清培地は組換えアルブミンを含まない。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される第1の無血清培地は組換えトランスフェリンを含まない。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される第1の無血清培地は、組換えアルブミンも組換えトランスフェリンも含まない。
【0039】
本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される第1の無血清培地は、アルブミンもトランスフェリンも含まない。
【0040】
本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は、2g/lを超える組換えアルブミンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は、少なくとも2.1g/lの組換えアルブミンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は、少なくとも2.5g/lの組換えアルブミンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は、少なくとも3g/lの組換えアルブミンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は、少なくとも5g/lの組換えアルブミンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は、少なくとも10g/lの組換えアルブミンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は、少なくとも20g/lの組換えアルブミンを含む。
【0041】
本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は、10mg/lを超える組換えトランスフェリンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は、少なくとも10.1mg/lの組換えトランスフェリンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は、少なくとも11mg/lの組換えトランスフェリンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は、少なくとも20mg/lの組換えトランスフェリンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は、少なくとも50mg/lの組換えトランスフェリンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は、少なくとも100mg/lの組換えトランスフェリンを含む。
【0042】
本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される細胞培地は2g/l未満の組換えアルブミンを含み、且つステップc)で使用される細胞培地は2g/lを超える組換えアルブミンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される細胞培地は1g/l未満の組換えアルブミンを含み、且つステップc)で使用される細胞培地は1g/lを超える組換えアルブミンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される細胞培地は2g/l未満の組換えアルブミンを含み、ステップc)で使用される細胞培地は1g/lを超える組換えアルブミンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される細胞培地は1g/l未満の組換えアルブミンを含み、且つステップc)で使用される細胞培地は2g/lを超える組換えアルブミンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される細胞培地は最大0.5g/lの組換えアルブミンを含み、且つステップc)で使用される細胞培地は少なくとも2.5g/lの組換えアルブミンを含む。
【0043】
本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される細胞培地は5μg/ml未満の組換えトランスフェリンを含み、且つステップc)で使用される細胞培地は5μg/mlを超える組換えトランスフェリンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される細胞培地は10μg/ml未満の組換えトランスフェリンを含み、且つステップc)で使用される細胞培地は10μg/mlを超える組換えトランスフェリンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される細胞培地は5μg/ml未満の組換えトランスフェリンを含み、且つステップc)で使用される細胞培地は10μg/mlを超える組換えトランスフェリンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される細胞培地は10μg/ml未満の組換えトランスフェリンを含み、且つステップc)で使用される細胞培地は5μg/mlを超える組換えトランスフェリンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される細胞培地は最大4μg/mlの組換えトランスフェリンを含み、且つステップc)で使用される細胞培地は少なくとも6μg/mlの組換えトランスフェリンを含む。
【0044】
本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される細胞培地は2g/l未満の組換えアルブミンと5μg/ml未満の組換えトランスフェリンを含み、且つステップc)で使用される細胞培地は2g/lを超える組換えアルブミンと5μg/mlを超える組換えトランスフェリンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される細胞培地は1g/l未満の組換えアルブミンと10μg/ml未満の組換えトランスフェリンを含み、且つステップc)で使用される細胞培地は1g/lを超える組換えアルブミンと10μg/mlを超える組換えトランスフェリンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される細胞培地は1g/l未満の組換えアルブミンと5μg/ml未満の組換えトランスフェリンを含み、且つステップc)で使用される細胞培地は2g/lを超える組換えアルブミンと10μg/mを超える組換えトランスフェリンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される細胞培地は最大0.5g/lの組換えアルブミンと最大4μg/mlの組換えトランスフェリンを含み、且つステップc)で使用される細胞培地は少なくとも3g/lの組換えアルブミンと少なくとも15μg/mlの組換えトランスフェリンを含む。
【0045】
本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される細胞培地は、ステップc)で使用される細胞培地より少ない組換えアルブミン、特にアルブミンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される細胞培地は、ステップc)で使用される細胞培地より少ない組換えトランスフェリン、特にトランスフェリンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される細胞培地は、ステップc)で使用される細胞培地より少ない組換えアルブミン、特にアルブミンと、より少ない組換えトランスフェリン、特にトランスフェリンとを含む。
【0046】
本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される細胞培地は無動物成分培地、より好ましくは無タンパク質培地である。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は無動物成分培地である。
【0047】
本発明の好ましい実施形態において、本方法はさらに、ステップc)の細胞培地よりも低濃度の組換えトランスフェリンおよび/または組換えアルブミンを含む第3の無血清細胞培地中で細胞を培養するステップd)を含む。本発明の好ましい実施形態において、本方法はさらに、ステップc)の細胞培地より低濃度の組換えトランスフェリンおよび組換えアルブミンを含む第3の無血清細胞培地中で細胞を培養するステップd)を含む。本発明の好ましい実施形態において、本方法はさらに、ステップc)の細胞培地より低濃度の組換えトランスフェリンを含む第3の無血清細胞培地中で細胞を培養するステップd)を含む。本発明の好ましい実施形態において、本方法はさらに、ステップc)の細胞培地より低濃度の組換えアルブミンを含む第3の無血清細胞培地中で細胞を培養するステップd)を含む。
【0048】
本発明の好ましい実施形態において、本方法はさらに、ステップc)の細胞培地中の組換えトランスフェリン濃度および組換えアルブミン濃度の80%以下、好ましくは50%以下の組換えトランスフェリン濃度および組換えアルブミン濃度を有する第3の無血清細胞培地中で細胞を培養するステップd)を含む。
【0049】
本発明の好ましい実施形態において、本方法はさらに、ステップc)の細胞培地より少なくとも2倍低い組換えトランスフェリン濃度および少なくとも2倍低い組換えアルブミン濃度を有する第3の無血清細胞培地中で細胞を培養するステップd)を含む。
【0050】
好ましい実施形態によれば、ステップd)はステップc)に続く。
【0051】
本発明の好ましい実施形態において、ステップd)の細胞培地は組換えトランスフェリンおよび組換えアルブミンを含まない。
【0052】
本発明の好ましい実施形態において、無血清細胞培地は無動物成分細胞培地である。本発明の好ましい実施形態において、無血清細胞培地は無タンパク質細胞培地である。
【0053】
本発明の好ましい実施形態において、ステップa)の無血清細胞培地は無動物成分細胞培地である。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)の無血清細胞培地は無タンパク質細胞培地である。
【0054】
本発明の好ましい実施形態において、ステップc)の無血清細胞培地は無動物成分細胞培地である。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)の無血清細胞培地は無タンパク質細胞培地である。
【0055】
本発明の好ましい実施形態において、ステップd)の無血清細胞培地は無動物成分細胞培地である。本発明の好ましい実施形態において、ステップd)の無血清細胞培地は無タンパク質細胞培地である。
【0056】
本発明の好ましい実施形態において、ステップc)の細胞培地は、280〜320mOsmol/kg H2Oの浸透圧を有する。
【0057】
本発明の好ましい実施形態において、ステップc)の細胞培地は、280〜300mOsmol/kg H2Oの浸透圧を有する。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)の細胞培地は、6.0〜8.0のpHを有する。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)の細胞培地は、6.8〜7.1のpHを有する。
【0058】
本発明の好ましい実施形態において、ステップc)の細胞培地は、280〜320mOsmol/kg H2Oの浸透圧および6.8〜7.1のpHを有する。
【0059】
本発明の好ましい実施形態において、ステップc)の細胞培地は、280〜300mOsmol/kg H2Oの浸透圧および6.8〜7.0のpHを有する。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)および/もしくはc)、ならびに/またはd)で使用される細胞培地はL-グルタミンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)および/もしくはc)、ならびに/またはd)で使用される細胞培地は、L-グルタミンを6mMより低い濃度で含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)および/もしくはc)、ならびに/またはd)で使用される細胞培地は、L-グルタミンを4mMより低い濃度で含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)および/もしくはc)、ならびに/またはd)で使用される細胞培地は、L-グルタミンを2mMより低い濃度で含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)および/もしくはc)、ならびに/またはd)で使用される細胞培地はL-グルタミンを含まない。
【0060】
本発明の好ましい実施形態において、細胞培地はL-グルタミンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地はL-グルタミンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップd)で使用される細胞培地はL-グルタミンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)およびc)で使用される細胞培地はL-グルタミンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)、c)およびd)で使用される細胞培地はL-グルタミンを含む.
本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される細胞培地は、L-グルタミンを50mMより低い濃度で含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は、L-グルタミンを50mMより低い濃度で含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップd)で使用される細胞培地は、L-グルタミンを50mMより低い濃度で含む。
【0061】
本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される細胞培地は、L-グルタミンを6mMより低い濃度で含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は、L-グルタミンを6mMより低い濃度で含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップd)で使用される細胞培地は、L-グルタミンを6mMより低い濃度で含む。
【0062】
本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される細胞培地は、L-グルタミンを4mMより低い濃度で含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は、L-グルタミンを4mMより低い濃度で含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップd)で使用される細胞培地は、L-グルタミンを4mMより低い濃度で含む。
【0063】
本発明の好ましい実施形態において、ステップa)およびc)で使用される細胞培地は、L-グルタミンを50mMより低い濃度で含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)およびc)で使用される細胞培地は、L-グルタミンを6mMより低い濃度で含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)およびc)で使用される細胞培地は、L-グルタミンを4mMより低い濃度で含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)、c)およびd)で使用される細胞培地は、L-グルタミンを4mMより低い濃度で含む。
【0064】
本発明の好ましい実施形態において、使用される全ての細胞培地は、L-グルタミンを同じ濃度で含む。本発明の好ましい実施形態において、使用される全ての細胞培地は、L-グルタミンを50mMより低い濃度で含む。本発明の好ましい実施形態において、使用される全ての細胞培地は、L-グルタミンを20mMより低い濃度で含む。本発明の好ましい実施形態において、使用される全ての細胞培地は、L-グルタミンを6mMより低い濃度で含む。本発明の好ましい実施形態において、使用される全ての細胞培地は、L-グルタミンを4mMより低い濃度で含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)および/またはc)で使用される細胞培地は鉄を含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)および/もしくはc)ならびに/またはd)で使用される細胞培地は鉄を含む。
【0065】
本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される細胞培地は鉄を含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は鉄を含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップd)で使用される細胞培地は鉄を含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)およびc)で使用される細胞培地は鉄を含む。
【0066】
本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される細胞培地は非トランスフェリン結合鉄を含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は非トランスフェリン結合鉄を含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップd)で使用される細胞培地は非トランスフェリン結合鉄を含む。
【0067】
本発明の好ましい実施形態において、ステップa)および/またはc)で使用される細胞培地は非トランスフェリン結合鉄を含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)および/もしくはc)ならびに/またはd)で使用される細胞培地は非トランスフェリン結合鉄を含む。
【0068】
本発明の好ましい実施形態において、ステップa)およびc)で使用される細胞培地は非トランスフェリン結合鉄を含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)、c)およびd)で使用される細胞培地は非トランスフェリン結合鉄を含む。
【0069】
本発明の好ましい実施形態において、細胞は、ステップa)で継代せずに少なくとも1日間培養される。本発明の好ましい実施形態において、細胞は、ステップa)で継代せずに少なくとも2日間培養される。本発明の好ましい実施形態において、細胞は、ステップa)で継代せずに少なくとも3日間培養される。
【0070】
本発明の好ましい実施形態において、細胞は、ステップc)で少なくとも5日間培養される。本発明の好ましい実施形態において、細胞は、ステップc)で少なくとも10日間培養される。本発明の好ましい実施形態において、細胞は、ステップc)で継代せずに少なくとも5日間培養される。本発明の好ましい実施形態において、細胞は、ステップc)で継代せずに少なくとも10日間培養される。
【0071】
本発明の好ましい実施形態において、細胞は、ステップd)で少なくとも3日間培養される。本発明の好ましい実施形態において、細胞は、ステップd)で少なくとも6日間培養される。
【0072】
本発明の好ましい実施形態において、細胞は、ステップd)で継代せずに少なくとも3日間培養される。本発明の好ましい実施形態において、細胞は、ステップd)で継代せずに少なくとも6日間培養される。
【0073】
本発明の好ましい実施形態において、細胞は、ステップc)およびd)を通じて少なくとも3日間培養される。本発明の好ましい実施形態において、細胞は、ステップc)およびd)を通じて少なくとも6日間培養される。
【0074】
本発明の好ましい実施形態において、細胞は、ステップc)およびd)を通じて継代せずに少なくとも3日間培養される。本発明の好ましい実施形態において、細胞は、ステップc)およびd)を通じて継代せずに少なくとも6日間培養される。
【0075】
本発明の好ましい実施形態において、ステップa)の培養液量は0.1ml、より好ましくは0.5ml、より好ましくは3ml、より好ましくは15ml、より好ましくは100mlである。
【0076】
本発明の好ましい実施形態において、ステップa)の培養液量は、少なくとも0.1mlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)の培養液量は、少なくとも0.5mlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)の培養液量は、少なくとも3mlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)の培養液量は、約3mlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)の培養液量は、少なくとも15mlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)の培養液量は、約15mlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)の培養液量は、少なくとも100mlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)の培養液量は、約100mlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)の培養液量は、最大1lである。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)の培養液量は、最大0.5lである。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)の培養液量は、最大約5mlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)の培養液量は、最大2mlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)の培養液量は、最大約2mlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)の培養液量は、最大約1mlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)の培養液量は、最大450μlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)の培養液量は、最大150μlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)の培養液量は、最大100μlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)の培養液量は、最大約100μlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)の培養液量は30μlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)の培養液量は、最大10μlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)の培養液量は、最大約10μlである。
【0077】
本発明の好ましい実施形態において、ステップc)の培養液量は、少なくとも1μlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)の培養液量は、少なくとも5μlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)の培養液量は、少なくとも約5μlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)の培養液量は、少なくとも約10μlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)の培養液量は、少なくとも100μlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)の培養液量は、少なくとも約100μlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)の培養液量は、少なくとも約0.5mlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)の培養液量は、少なくとも0.5mlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)の培養液量は、少なくとも約1mlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップd)の培養液量は、最大20μlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップd)の培養液量は、最大60μlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップd)の培養液量は、最大200μlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップd)の培養液量は、最大600μlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップd)の培養液量は、1.8mlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップd)の培養液量は、最大5mlである。
【0078】
本発明の好ましい実施形態において、ステップd)の培養液量は、少なくとも1μlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップd)の培養液量は、少なくとも約1μlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップd)の培養液量は、少なくとも10μlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップd)の培養液量は、少なくとも約10μlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップd)の培養液量は、少なくとも50μlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップd)の培養液量は、少なくとも100μlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップd)の培養液量は、少なくとも300μlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップd)の培養液量は、少なくとも約1.5mlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップd)の培養液量は、少なくとも約3mlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップd)の培養液量は、少なくとも3mlである。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は、少なくとも50mg/lの組換えアルブミンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は、少なくとも200mg/lの組換えアルブミンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は、少なくとも1000mg/lの組換えアルブミンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は、少なくとも2000mg/lの組換えアルブミンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は、少なくとも5000mg/lの組換えアルブミンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は、最大50000mg/lの組換えアルブミンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は、少なくとも0.1mg/lの組換えトランスフェリンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は、少なくとも1mg/lの組換えトランスフェリンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は、少なくとも5mg/lの組換えトランスフェリンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は、少なくとも50mg/lの組換えトランスフェリンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は、少なくとも250mg/lの組換えトランスフェリンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は、最大2500mg/lの組換えトランスフェリンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は、少なくとも50mg/lの組換えアルブミンと少なくとも0.1mg/lの組換えトランスフェリンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は、少なくとも1000mg/lの組換えアルブミンと少なくとも1mg/lの組換えトランスフェリンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は、少なくとも2000mg/lの組換えアルブミンと少なくとも5mg/lの組換えトランスフェリンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は、少なくとも5000mg/lの組換えアルブミンと少なくとも50mg/lの組換えトランスフェリンを含む。
【0079】
本発明の好ましい実施形態において、ステップd)で使用される細胞培地は、5000mg/l未満の組換えアルブミンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップd)で使用される細胞培地は、50mg/l未満の組換えトランスフェリンを含む。
【0080】
本発明の好ましい実施形態において、ステップd)で使用される細胞培地は、5000mg/l未満の組換えアルブミンと50mg/l未満の組換えトランスフェリンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップd)で使用される細胞培地は、2000mg/l未満の組換えアルブミンと5mg/l未満の組換えトランスフェリンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップd)で使用される細胞培地は、50mg/l未満の組換えアルブミンと0.1mg/l未満の組換えトランスフェリンを含む。本発明の好ましい実施形態において、ステップd)で使用される細胞培地は組換えアルブミンを含まず、組換えトランスフェリンも含まない。
【0081】
本発明の好ましい実施形態において、ステップa)で使用される細胞培地は無動物成分培地である。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)で使用される細胞培地は無動物成分培地である。本発明の好ましい実施形態において、ステップd)で使用される細胞培地は無動物成分培地である。
【0082】
本発明の好ましい実施形態において、ステップa)およびc)で使用される細胞培地は無動物成分培地である。本発明の好ましい実施形態において、ステップc)およびd)で使用される細胞培地は無動物成分培地である。本発明の好ましい実施形態において、ステップa)、c)およびd)で使用される細胞培地は無動物成分培地である。
【0083】
本発明の好ましい実施形態において、使用される全ての細胞培地は無動物成分細胞培地である。本発明の好ましい実施形態において、ステップb)で、自動セルソーティングシステムによって細胞集団が減少する。
【0084】
本発明の好ましい実施形態において、ステップb)で、自動セルソーティングシステムによって単一細胞が単離される。本発明の好ましい実施形態において、ステップb)で、FACSによって単一細胞が単離される。
【0085】
本発明の好ましい実施形態において、細胞集団の細胞は、フィーダー細胞を含まない。
【0086】
本発明の好ましい実施形態において、細胞集団の細胞は真核細胞である。本発明の好ましい実施形態において、細胞集団の細胞は哺乳動物細胞である。本発明の好ましい実施形態において、細胞集団の細胞はヒト細胞である。本発明の好ましい実施形態において、細胞集団の細胞は動物細胞である。本発明の好ましい実施形態において、細胞集団の細胞はヒト胚性幹細胞ではない。
【0087】
本発明の好ましい実施形態において、細胞集団は細胞株である。本発明の好ましい実施形態において、細胞集団は、CHO細胞株、NS0細胞株、Per.C6細胞株、HEK293細胞株またはBHK細胞株である。本発明の好ましい実施形態において、細胞集団はCHO細胞株である。本発明の好ましい実施形態において、細胞集団は細胞株である。本発明の好ましい実施形態において、細胞集団はNS0細胞株である。本発明の好ましい実施形態において、細胞集団は細胞株である。本発明の好ましい実施形態において、細胞集団はPer.C6細胞株である。本発明の好ましい実施形態において、細胞集団は細胞株である。本発明の好ましい実施形態において、細胞集団はHEK293細胞株である。本発明の好ましい実施形態において、細胞集団は細胞株である。本発明の好ましい実施形態において、細胞集団はBHK細胞株である。本発明の好ましい実施形態において、細胞集団の細胞は原核細胞である。
【0088】
また本発明は、好ましい実施形態において、約100細胞/ml未満の細胞濃度を有する細胞集団の培養のための、組換えアルブミンと組換えトランスフェリンを含む無血清細胞培地の使用にも関する。また本発明は、好ましい実施形態において、100細胞/ml未満の細胞濃度を有する細胞集団の培養のための、組換えアルブミンと組換えトランスフェリンを含む無血清細胞培地の使用にも関する。
【0089】
また本発明は、好ましい実施形態において、単一細胞の培養のための組換えアルブミンと組換えトランスフェリンを含む無血清細胞培地の使用にも関する。
【0090】
本発明による方法に関する好ましい実施形態は、本発明による使用のための好ましい実施形態でもある。
【0091】
また本発明は、好ましい実施形態において、組換えアルブミンと組換えトランスフェリンを含む無血清細胞培地中で培養される、約100細胞/ml未満の細胞濃度を有する細胞集団にも関する。
【0092】
また本発明は、好ましい実施形態において、組換えアルブミンと組換えトランスフェリンを含む無血清細胞培地中で培養される、100細胞/ml未満の細胞濃度を有する細胞集団にも関する。
【0093】
また本発明は、好ましい実施形態において、組換えアルブミンと組換えトランスフェリンを含む無血清細胞培地中で培養される単一細胞にも関する。本発明による方法に関する好ましい実施形態は、本発明による組換えアルブミンと組換えトランスフェリンを含む無血清細胞培地中の細胞集団のための好ましい実施形態でもある。
【0094】
ここに示される発明は、組換えアルブミンと組換えトランスフェリンを含む単一細胞クローニング用無血清培地である。実験は、血清、成長因子、タンパク質、およびペプトン類を含まない培地中での増殖にあらかじめ適応させたCHO細胞株を用いて行った。この培地は無機鉄源を含む。この培地中で、細胞株は、フェッドバッチ工程で3x107細胞/mlまでの細胞濃度に達する。このことは、血清添加剤およびタンパク質添加剤とは無関係の極めて良好な増殖を示している。しかし、同じ培地中で、同細胞の単一細胞状態でのクローン増殖の効率は極めて低い。
【0095】
驚くべきことに、本発明者らは、組換えタンパク質の添加によって、細胞株のクローン増殖を有意に増強することができることを見出した。細胞株は、単一細胞状態で増殖する場合、細胞集団での増殖と比較して、培地に対して異なる要求を有することが分かった。当業者は、血清およびタンパク質とは無関係に増殖する細胞株が、血清およびタンパク質のない環境中でクローン的にも増殖するはずであると考えるだろう。本発明者らは、同じ細胞株が、単一細胞状態で培養される場合と、細胞集団で培養される場合とで培地に対して異なる要求を有することを発見して驚いた。
【0096】
このため、驚くべきことに、ステップc)では、組換えアルブミンおよび/または組換えトランスフェリンが存在すればよい。細胞は、ステップc)の前後では、組換えアルブミンおよび/または組換えトランスフェリンを少なくとも高濃度では必要としない。
【0097】
本発明者らの発明によれば、クローン細胞増殖が必要とされる場合、細胞株を、組換えアルブミンと組換えトランスフェリンを含む培地と接触させる。組換えアルブミンと組換えトランスフェリンは細胞に対して相乗効果を有するようである。両タンパク質を別々にも試験した。これらのタンパク質は、細胞増殖を各々低いレベルで促進した。両タンパク質を組み合わせた場合、単一細胞の細胞増殖と生存率は、ほぼ血清含有対照培地のレベルか、または血清含有対照培地よりさらに高いレベルで有意に増加する。
【0098】
本発明者らは、培地の付加的なパラメータが、クローン増殖を改善する役割を果たすかどうかについてさらに検証した。驚いたことに、本発明者らは、単一細胞が、培地浸透圧および培地pHに関しても異なる要求を有することを見出した。クローン増殖は、培地の浸透圧を低下させると、さらにより改善することができる。培地の好ましい浸透圧は260〜360mOsmol/kg H2O、より好ましくは270〜340、より好ましくは280〜320、より好ましくは290〜300mOsmol/kg H2Oである。クローン増殖は、培地のpHを通常の培地中のpHより低くすると、さらにより改善することができる。好ましい培地pHは、6.7〜7.3、より好ましくは6.8〜7.2、より好ましくは6.8〜7.0である。
【0099】
培地添加剤としての組換えタンパク質は高価である。このため、培地に組換えタンパク質を含めないようにすることは興味深い。本発明の好ましい実施形態によれば、クローン増殖を促進する簡単でコスト効率の高い方法では、第1ステップにおいて、低濃度の組換えアルブミンと組換えトランスフェリンを含む培地中で細胞を培養し、または組換えアルブミンも組換えトランスフェリンも含まない培地中で細胞を培養する。第2ステップでは、細胞を、第1ステップで用いた濃度より高い濃度で組換えアルブミンと組換えトランスフェリンを含む培地と接触させる。第3ステップでは、細胞を、より低濃度の組換えアルブミンと組換えトランスフェリンを含む培地中で培養してもよいし、または組換えアルブミンと組換えトランスフェリンを培地に全く含めなくてもよい。実際には、この手順を通して、組換えアルブミンと組換えトランスフェリンは、低減した細胞濃度でのみ用いてもよく、または、単一細胞クローニングステップおよび他の全ての細胞培養ステップにおいて、高価な組換えタンパク質を含めないようにしてもよく、単一細胞クローニング用に、コスト効率が高く簡単な方法を確立することができる。
【0100】
本発明による方法の別の主な利点は、全てのステップを通して無動物成分培地中で細胞を培養することができることであり、このことは、治療用タンパク質の製造による規制当局にとって非常に有利である。
【0101】
「組換えタンパク質」という用語は、宿主細胞中に導入される核酸によってコードされるタンパク質を指す。宿主細胞はこの核酸を発現する。本明細書中で用いられる「タンパク質」とは、広く重合アミノ酸(例えばペプチド、ポリペプチド、タンパク質、リポタンパク質、糖タンパク質等)を指す。
【0102】
「無血清培地」または「無血清細胞培地」という用語は、いずれかの生物に由来する血清(例えば、ウシ胎仔血清(FBS)、ウシ血清、ウマ血清、ヤギ血清、ヒト血清等)を含まない培地である。
【0103】
「細胞培養」または「培養」という用語は、人工的なin vitoro環境における細胞の維持を意味するが、「細胞培養」という用語は総称であり、個々の細胞または単一細胞のみもしくは細胞集団のみの培養だけでなく、組織または器官の培養も包含するように使用することが可能であり、組織または器官の培養については、「組織培養」または「器官培養」という用語は、「細胞培養」という用語と互換的に使用し得ることもあることを理解されたい。
【0104】
「接触させる」という用語は、細胞を培養するための培地を含む培養容器中への、in vitroで培養される細胞の配置を指す。「接触させる」という用語は、細胞を培地と混合するステップ、培地を培養容器中の細胞にピペッティングするステップ、および細胞を培地に浸すステップを包含する。
【0105】
「アルブミン」という用語は、血漿中に豊富に含まれるタンパク質であるタンパク質を指す。このタンパク質は、血中の浸透圧の維持に寄与し、恐らく栄養物に結合してこれらの物質を細胞に輸送する。様々な種類のアルブミンが存在し、例えば、限定するものではないが、ヒト血清アルブミン(HSA)、ウシ血清アルブミン(BSA)、HSAの断片または一部、BSAの断片または一部がある。アルブミンはさらに、培地の浸透圧調節の点で、また栄養物結合もしくは細胞への栄養物輸送の点で細胞増殖、細胞生存、または細胞生産性について実質的に類似の結果を与える任意のタンパク質またはポリペプチドである可能性がある。好ましくは、アルブミンはヒト由来である。最も好ましくは、アルブミンはヒト血清アルブミンである。さらにより好ましくは、アルブミンは組換え生産されたヒト血清アルブミン(「組換えHSA」)である。組換えHSAは、原核細胞または真核細胞(例えば、細菌、植物または酵母等)のような多様な生物中で生産することができる。当技術分野では、多くの宿主(例えば、大腸菌(EP73646)および真菌細胞(WO0044772))における組換えアルブミンの生産が知られている。例えば、限定するものではないが、本組換えアルブミンは、Sigmaによって提示されるヒト組換えアルブミン(A7223)である。
【0106】
「トランスフェリン」という用語は、鉄結合能または鉄キレート能を有する任意の生体化合物を指す。トランスフェリンの例として、限定するものではないが、鉄に対する親和性(例えば鉄結合能または鉄キレート能)を有する任意のタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドが挙げられる。トランスフェリンの他の例として、限定するものではないが、細胞トランスフェリン受容体に対する任意の親和性を有するタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドが挙げられる。このようなタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドは、細胞トランスフェリン受容体を認識し、細胞トランスフェリン受容体と部分的に結合し、または完全に結合することができる。トランスフェリンは鉄で飽和していてもよいし、または飽和していなくてもよい。トランスフェリンが鉄で飽和していない場合、培地は無機鉄を含んでいてもよい。トランスフェリンが鉄で飽和している場合、培地は無機鉄を含んでいなくてもよく、または培地は付加的に無機鉄を含んでいてもよい。好ましくは、トランスフェリンは鉄で飽和している。より好ましくは、トランスフェリンは鉄飽和ヒトトランスフェリンである。
【0107】
「組換えトランスフェリン」という用語は、任意の生物中で組換え生産されたトランスフェリンである。組換えトランスフェリンは、原核細胞または真核細胞のような多様な生物中で生産することができる。組換えトランスフェリンは、細菌、植物、真菌または酵母中で生産することができる。組換え生産されたヒトトランスフェリンが好ましい。例えば、限定するものではないが、組換えヒトトランスフェリンは、Millipore社製の、製品仕様書に記載される組換えヒトトランスフェリン(9701-10))である。
【0108】
本発明は、特に好ましい実施形態において、組換えアルブミンが、少なくとも好ましくは0.1g/lを超える、少なくとも好ましくは0.2g/lを超える、少なくとも好ましくは0.5g/lを超える、少なくとも好ましくは1.0 g/lを超える、少なくとも好ましくは2g/lを超える、または特に好ましい実施形態において、少なくとも好ましくは3g/lを超える、またはさらに特に好ましい実施形態において、少なくとも好ましくは5g/lを超える濃度で含まれている培地に関する。他の好ましい実施形態において、本発明は、組換えトランスフェリンの濃度が、少なくとも好ましくは0.1mg/lを超える、少なくとも好ましくは1mg/lを超える、少なくとも好ましくは2mg/lを超える、少なくとも好ましくは4mg/lを超える、少なくとも好ましくは6mg/lを超える、少なくとも好ましくは8mg/lを超える、少なくとも好ましくは10mg/lを超える、少なくとも好ましくは20mg/lを超える、少なくとも好ましくは50mg/lを超える、少なくとも好ましくは200mg/lを超える、または特に好ましい実施形態において、少なくとも好ましくは1000mg/lを超える、上記の培地を提供する。
【0109】
「無動物成分」という用語は、動物由来のまたはヒト由来の成分が使用されない培地または細胞培養工程を指す。
【0110】
「単一細胞の増殖を補助するのに十分な」という用語は、その培地が単一細胞の増殖を補助することができるが、単一細胞の増殖を補助するために実際に用いられることを必要としないことを意味する。培地は、100細胞/mlより低い濃度の単一細胞の増殖または細胞集団の増殖のため、または100細胞/mlより高い細胞濃度の細胞集団の増殖のために用いることができる。本発明の培地は、クローン増殖(すなわち、約100細胞/ml未満の密度(単一細胞を含む)などの極めて低い細胞密度での増殖)を持続させ得る増殖条件下で細胞集団と接触する。
【0111】
「細胞培地(cell culture medium)」、「組織培地(tissue culture medium)」、「培地(culture medium)」、「ストック培地(stock culture medium)」、「クローニング培地(cloning medium)」(いずれの場合も複数形は"media")という用語は、細胞または組織を培養するための栄養液を指し、互換的に使用することができる。培地とは、1つの細胞または数個の細胞の培養に適した、またはインキュベーションに適した媒体である。かかる培地は、細胞統合性または細胞生存または細胞増殖または細胞生産性を保つための栄養物を含み得る。液体培地が好ましい。特に好ましい培地はWO 2007/036291に記載されており、本発明に用いることができる。特に好ましい培地は、細胞増殖、細胞生存および細胞生産性に必要な物質を全て含む。好ましい培地は特に、例えば、限定するものではないが、グルコース、アミノ酸、塩、微量元素および脂肪酸を含み得る。
【0112】
哺乳動物細胞の細胞培養は、現在では、科学的な教科書および取扱説明書中で十分に説明される日常的な操作である。これは、例えば、R. lan Fresney, Culture of Animal cells, a manual, 第4版, Wiley-Liss/N.Y., 2000で詳細に取り扱われている。例えば、本発明の培養添加剤と組み合わせて使用する、哺乳動物細胞株用の培地および培養法は、当技術分野においてそれ自体周知である。このような培地は、好ましくは、水などの溶媒、炭素源、窒素源、アミノ酸、pH調整剤、微量元素、脂肪酸、ヌクレオチドで構成される。本発明のための好ましい培地は、特定の細胞種のニーズにも適応し得る標準的な細胞培地であり、例えば、限定するものではないが、Roswell Park Memorial Institute(RPMI) 1640培地、L-15培地、ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco's modified Eagle's medium(DMEM))、イーグル最小必須培地(Eagle's minimal essential medium(MEM))、ハムF12培地またはイスコーブ(Iscoves')改変DMEMが挙げられる。他の好ましい培地は、例えば、CHO細胞培養用に特に設計されたハムF10培地またはF12培地である。本発明のための他の好ましい培地は、CHO細胞培養に特に適しており、例えば、EP 0 481 791に記載されている。本発明のための好ましい培地は市販の培地であってもよく、例えば、限定するものではないが、CD CHO(Gibco, 10743)、ProCHO5(BioWhittaker, BE12-766Q)、HyQSFM4CHO(HyClone, SH30548.02)がある。
【0113】
本発明の他の好ましい実施形態において、培地はL-グルタミンを含んでいてもよく、グルタミンは、グルタミン代替物(例えばGLUTAMAX(GIBCOカタログ番号:35050-061))で完全にまたは部分的に置換されていてもよい。本発明の他の好ましい実施形態において、培地は低濃度のL-グルタミンを含んでいてもよい。このL-グルタミン濃度は、最大900mg/l、好ましくは600mg/l、より好ましくは300mg/l、より好ましくは100mg/l、より好ましくは50mg/l、より好ましくは20mg/lであってよい。培地はL-グルタミンを含んでいなくてもよい。培地がL-グルタミンを含んでいない場合、グルタミン合成酵素選択遺伝子でトランスフェクトされた細胞を利用することが特に好適である。
【0114】
本発明の他の好ましい実施形態において、培地は、少なくとも1種の炭水化物源を含む。濃度0〜10g/lのグルコースを利用することが好ましい。このグルコースは、例えば、限定するものではないが、フルクトース、マンノース、ガラクトースなどの他の炭水化物で完全にまたは部分的に置換されていてよい。
【0115】
本発明の他の好ましい実施形態において、培地は、無機鉄源を全く含んでいなくてもよく、および/または鉄キレート化合物を全く含んでいなくてもよい。
【0116】
本発明の好ましい培地は、1つの実施形態において、代替的に、動物源由来、植物源由来または酵母由来の加水分解物を含んでいてもよい。植物源由来の加水分解物(例えばダイズペプトン)または酵母加水分解物が好ましい。
【0117】
特に好ましい実施形態において、本発明の培地は血清を含まない。特に好ましい実施形態において、本発明の培地は、動物源から直接的または間接的に単離された生成物を含まない。本発明の特に好ましい実施形態において、培地は動物成分を含まない。本発明の特に好ましい実施形態において、培地は加水分解物を含まない。
【0118】
本発明の他の好ましい実施形態において、培地は無機鉄を含んでいてよい。
【0119】
本発明の他の好ましい実施形態において、培地は1種以上の鉄キレート化合物を含んでいてよい。
【0120】
「鉄」という用語は、原子量55,845を有する遷移金属Feを同定することを意味する。用語「鉄」は、1つ以上の鉄イオン(例えばFe3+イオンおよび/またはFe2+イオン)を含む全ての分子を包含する総称である。Fe3+イオンおよび/またはFe2+イオンは、鉄塩の形態で生じ得る。鉄塩は、水和鉄塩であってもよく、または無水鉄塩であってもよい。特に好ましい実施形態において、鉄源は、Fe(II)イオンおよび/またはFe(III)イオンを含む。特に好ましい実施形態において、本発明で使用する鉄源は、リン酸鉄(III)、ピロリン酸鉄(III)、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(II)、塩化鉄(III)、乳酸鉄(II)、クエン酸鉄(III)、クエン酸アンモニウム鉄(III)、鉄デキストランおよびエチレンジアミンテトラ酢酸鉄ナトリウム塩またはこれらの水和形態もしくは無水形態からなる群から選択される。
【0121】
また鉄は、別の分子(例えば担体またはキレート剤)と錯体を形成することもできる。キレート剤と錯体を形成した鉄の幾つかの特に好ましい例には、限定するものではないが、乳酸鉄(II)水和物、クエン酸鉄(III)、クエン酸アンモニウム鉄(III)、鉄デキストランおよびエチレンジアミンテトラ酢酸鉄ナトリウム塩がある。別法として、鉄を、米国特許第6,048,728号に記載されるような以下の付加的な分子(すなわち、ピリドキシルイソニコチノイルヒドラゾン、クエン酸塩、アセチルアセトネート)、ならびに様々な他の有機酸(例えば、リンゴ酸、コハク酸、フマル酸およびαケトグルタル酸)と錯体を形成させてもよい。本発明において使用する他の鉄キレート剤は、WO 2001/016294に記載されている。
【0122】
本発明は、いかなる種類の細胞にも限定されるものではない。細胞種の例としては、哺乳動物細胞、昆虫細胞、細菌細胞、および酵母細胞が挙げられる。細胞は、初代細胞または幹細胞であってもよい。細胞は、形質転換またはトランスフェクトされていない天然の細胞であってよい。細胞は、1つ以上の組換え遺伝子発現用ベクターでトランスフェクトまたは形質転換された組換え細胞であってもよい。細胞は、任意の生成物(例えばウイルス生成物)を産生するためのウイルスで形質転換されていてよい。細胞は、ハムスター、マウス、ヒトまたは任意の他の動物に由来するものであってよい。細胞は、細胞株であってもよく、例えば、限定するものではないが、CHO細胞、CHO K1細胞、CHO DUKX細胞、CHO DG44細胞、NS0細胞、Per.C6細胞、BHK細胞、SP2/0細胞、HEK293細胞であってよい。
【0123】
本発明の他の好ましい実施形態は、下位請求項の主題である。
【0124】
以下の実施例および添付図面は、本発明をより詳しく説明する。
【実施例】
【0125】
実施例
細胞
全ての実験について、以下の3種類のCHO細胞株を使用した:
1) DHFR(ジヒドロ葉酸還元酵素)欠損CHO DG44宿主細胞株(UrlaubおよびChasin, Proc. Natl. Acad. Sci., 1980, 77:4216)。
【0126】
2) 1)に記載の細胞株から作製されたが、DHFRおよび組換えモノクローナル抗体を発現する、トランスフェクトされたCHO DG44サブクローン(クローン23と名付けられた)。このクローンは、CHO DG44宿主細胞株を、DHFR遺伝子とIgG抗体遺伝子とを含むベクターでトランスフェクションすることによって作製した。トランスフェクタントは、培地中のMTXを使用して増幅した。
【0127】
3) CHO K1宿主細胞株(Puck TTら, J. Exp. Med., 1958, 108: 945-956)。本発明で利用した細胞は全て、増殖および生存のための培地中タンパク質を全く必要としない。細胞株は全て、血清、タンパク質、成長因子、加水分解物、アルブミンおよびトランスフェリンとは無関係に増殖する。
【0128】
細胞培養条件
単一細胞クローニングに使用したストック培養細胞を、振盪フラスコまたはスピナーフラスコ中に保存した。細胞を、3x105細胞/mlの細胞濃度で振盪フラスコ中に播種し、バッチにおける2〜4日の増殖期の後、これらの細胞は、5x105細胞/ml〜100x105細胞/mlの細胞濃度に達する。このストック培養物を、2〜4日毎に新鮮な培地中に分割した。これは、播種材料として少量の細胞培養物を使用し、新たなフラスコに移して新鮮な培地を添加したことを意味している。細胞が高濃度に達しなかった場合、細胞分裂中にこれらを遠心分離した。細胞を、インキュベータ中で、37℃にて7.5% CO2雰囲気下で培養した。このような方法で細胞を数代培養した。一代の培養期間は2〜4日とする。単一細胞クローニング実験用の細胞は、これらのストック培養物から、対数増殖期に採取した。
【0129】
培地
ストック培地
実験中、2種類の異なるストック培地を使用した。第1の培地は、処方が不明の市販のストック培地(CD CHO、Gibco、10743)であり、第2の培地は、以下の特性を有する専用ストック培地である。専用ストック培地は、細胞増殖、細胞生存および細胞生産性に必要な物質(例えば、限定するものではないが、グルコース、アミノ酸、塩、微量元素および脂肪酸)を全て含む。専用ストック培地は、血清、タンパク質、成長因子およびペプトンを含まない。専用ストック培地は動物成分を含まない。専用ストック培地は、細胞に鉄を供給するための無機鉄源を含む。専用ストック培地は組換えアルブミンを含まず、組換えトランスフェリンも含まない。専用ストック培地には、使用前に6mMのL-グルタミンを添加する。この専用培地は、330 mOsmol/kg H2Oの浸透圧および7.2のpHを有する。
【0130】
クローン細胞増殖は、利用されるストック培地とは無関係にクローニング培地において促進され、ストック培地処方がクローン細胞増殖に貢献していないことを示している。
【0131】
クローニング培地
2種類の異なるクローニング培地を利用した。第1の培地は、処方が不明の市販のストック培地(CD CHO、Gibco、10743)であり、第2の培地は、以下の特性を有する専用クローニング培地である。専用クローニング培地は、細胞増殖、細胞生存および細胞生産性に必要な物質(例えば、限定するものではないが、グルコース、アミノ酸、塩、微量元素および脂肪酸)を全て含む。専用クローニング培地は、血清、タンパク質、成長因子およびペプトンを含まない。専用クローニング培地は動物成分を含まない。専用クローニング培地は、無機鉄源として、濃度2mg/lのリン酸鉄(III)(Sigma, F1523)を含む。専用クローニング培地は組換えアルブミンを含まず、組換えトランスフェリンも含まない。専用クローニング培地には、使用前に2mMのL-グルタミンを添加する。この専用クローニング培地は、290 mOsmol/kg H2Oの浸透圧および6.9のpHを有する。
【0132】
クローン細胞増殖はいずれのクローニング培地においても促進され、ストック培地処方がクローン細胞増殖に貢献していないことを示している。しかし、クローン細胞増殖のために重要なのは、以下に記載される本発明のステップ(例えば、クローニング培地への組換えタンパク質の補充)であった。
【0133】
限界希釈による単一細胞クローニング
ストック培養物の細胞懸濁液を、3x105細胞/mlより高い細胞密度から4細胞/ml(=0.6細胞/150μl)の細胞密度まで手動で希釈することにより限界希釈(LD)を行った。細胞を、クローニング培地中で1:10段階で希釈し、各々の添加されたクローニング培地中の最終希釈段階は1:20であった。1ウェル当たり0.6個の細胞を、1ウェル当たり150μlの培地を含む96ウェルU底プレート(Nunc社)中にピペッティングした。0.6細胞/ウェルという数字は、統計的な播種細胞密度である。実際は、播種後に顕微鏡でプレートを観察すると、一部のウェルは細胞を含まず、一部のウェルは2個以上の細胞を含んでいた。
【0134】
FACSによる単一細胞クローニング
FACS(蛍光活性化細胞ソーティング)による単一細胞クローニング(SCC)は、96ウェルU底プレート(Nunc社)へ、1ウェル当たり1細胞に直接ソートすることによって行った。プレートには、1ウェル当たり150μlのクローニング培地をあらかじめ入れておいた。細胞ソーティングの前に、培地を入れたプレートをインキュベータ中でインキュベートした。FACSソーティングは、自動細胞沈着ユニット(automated cell deposition unit(ACDU))を備えたFACSAria(BD Biosciences)を用いて単一細胞ソートモードで行った。
【0135】
インキュベーションおよび評価
SCCを行った後、プレートを直ぐにインキュベータ(37℃、7.5% CO2)に移した。首尾よく増殖したクローンの数を、目測で、また顕微鏡によって、単一細胞の播種の14日後に評価した。結果は、%クローニング効率として示される。各実験において、100%クローニング効率は、並行して行う10% FBS(Gibco社、加熱不活性化)を添加した陽性対照中で増殖したコロニーの数とした。細胞は、SCCに使用するときに、必ずしも同じ増殖期にあるとは限らないため、異なる実験間でクローニング効率の変動が生じた。しかし、このアッセイ間変動は、本研究を通じて得られた観察結果全体は歪めなかった。
【0136】
実施例1:単一細胞増殖を促進するための培地添加剤としての、馴化培地とrHSAの比較
この実験の目的は、培地の添加剤としての馴化培地または組換えヒト血清アルブミンが、細胞培養物を極めて低い細胞濃度で(例えば単一細胞状態で)播種した場合に、細胞増殖を促進することができるか否かを評価することであった。
【0137】
材料および方法の項に記載したとおり、CHOクローン23細胞は、限界希釈によって手動でクローン化した単一細胞であった。全ての培地の組み合わせについて、2枚の96ウェルプレートをプレーティングアウトした。実験は以下のとおりに行った:
陽性対照(FBS):クローニング培地に、Gibco社製の10%加熱不活性化認定ウシ胎仔血清(FBS)(10100-147)を添加した。これは、40mlのクローニング培地に、4mlのFBS(100%ストック溶液)を添加したことを意味している。
【0138】
馴化培地 K1:CHO-K1培養物から馴化培地を作製した。CHO-K1細胞を、振盪フラスコ中でバッチ培養した。2回の遠心分離ステップによりCHO-K1細胞から馴化培地を分離した。最初に、細胞懸濁液を190xgで3分間、室温にて遠心分離した。次いで上清を新たな容器に移し、3000xgで10分間、室温にて再度遠心分離した。その後、培地を、0.2μmフィルター(Acrodisc社、PALL)を通して濾過した。このように作製された50%の馴化培地で、新鮮なクローニング培地を希釈した。これは、20mlの新鮮なクローニング培地を、20mlの馴化培地と混合したことを意味している。
【0139】
組換えヒト血清アルブミン(rHSA)の添加:クローニング培地に、組換えヒト血清アルブミン(rHSA)ストック溶液を、最終濃度2g/lとなるよう添加した。これは、40mlの新鮮なクローニング培地に、1.6mlのrHSAの50g/lストック溶液(Sigma社、A7223)を添加したことを意味している。
【0140】
材料および方法の項に記載したとおりにプレートをインキュベートし、生じたコロニーを計数した。
【0141】
結果(図1)は、馴化培地が、クローン増殖を補助するのに十分ではないことを示す。rHSAはクローン増殖を補助するが、対照と比較した場合、クローニング効率は十分ではない。
【0142】
実施例2:組換えヒトトランスフェリンを添加した組換えヒト血清アルブミンと、組換えヒトトランスフェリンを添加していない組換えヒト血清アルブミンの試験
この実験の目的は、組換えヒトトランスフェリンを添加することによってクローニング効率を増加させることがが可能か否かを評価することであった。
【0143】
材料および方法の項に記載したとおり、CHOクローン23細胞は、限界希釈によって手動でクローン化した単一細胞であった。全ての培地の組み合わせについて、2枚の96ウェルプレートをプレーティングアウトした。実験は以下のとおりに行った:
陽性対照(FBS):クローニング培地に、Gibco社製の10%加熱不活性化認定ウシ胎仔血清(FBS)(10100-147)を添加した。これは、40mlのクローニング培地に、4mlのFBS(100%ストック溶液)を添加したことを意味している。
【0144】
陰性対照(添加剤なし): 40mlの純粋なクローニング培地を、さらなる補充を全く行わずに使用した。
【0145】
組換えヒト血清アルブミン(rHSA)の添加:新鮮なクローニング培地に、組換えヒト血清アルブミン(rHSA)を、最終濃度2g/lとなるよう添加した。これは、40mlの新鮮なクローニング培地に、1.6mlのrHSAの50g/lストック溶液(Sigma社、A7223)を添加したことを意味している。
【0146】
組換えヒト血清アルブミンと組換えヒトトランスフェリン(rHSA + rHTR)の添加:新鮮なクローニング培地に、組換えヒト血清アルブミン(rHSA)を、最終濃度2g/lとなるよう添加し、さらに組換えヒトトランスフェリン(rHTR)を最終濃度5mg/lとなるよう添加した。これは、40mlの新鮮なクローニング培地に、1.6mlのrHSAの50g/lストック溶液と、10μlのrHTRの20g/lストック溶液(Millipore社、(9701-10))を添加したことを意味している。
【0147】
材料および方法の項に記載したとおりにプレートをインキュベートし、生じたコロニーを計数した。
【0148】
結果(図2)は、添加剤を全く加えない場合(陰性対照)、コロニーが見えないことを示す。新鮮なクローニング培地に、2g/lのrHSAを最終濃度まで添加した場合、対照の約20%のコロニーが増殖する。驚くべきことに、クローニング培地にrHSAとrHTRを添加すると、増殖するコロニーの数は陽性対照の80%まで増加する。この実験で使用したCHOクローン23細胞株が、ストック培養中にタンパク質を全く含まない培地中で培養されたことは興味深い。このストック培地は無機鉄源を含み、ストック培養中の優れた増殖は、細胞がタンパク質から独立していることの証拠である。このデータは、これらの細胞が、細胞集団としてはrHSAおよびrHTRを必要としないにも関わらず、単一細胞状態ではより優れた増殖のためにこれらの組換えタンパク質を必要とすることを示す。これらの結果は、高いコロニー増殖が、rHTRの添加のみによるものである可能性があることを示す。このため、rHSAが関与しないrHTRの単独添加がどんな影響を及ぼすのかを観察することは、興味深いものであった(実験3参照)。
【0149】
実施例3:rHSAおよびrHTRの別々の影響の評価
この実験の目的は、組換えヒト血清アルブミン(rHSA)と組換えヒトトランスフェリン(rHTR)の各タンパク質の影響を別々に見るため、これらのタンパク質を別々に、また組み合わせて試験することであった。さらなる目的は、両タンパク質に相乗効果があるか否かを評価することであった。
【0150】
材料および方法の項に記載したとおり、CHOクローン23細胞は、限界希釈によって手動でクローン化した単一細胞であった。全ての培地の組み合わせについて、2枚の96ウェルプレートをプレーティングアウトした。実験は以下のとおりに行った:
陽性対照(FBS):クローニング培地に、Gibco社製の10%加熱不活性化認定ウシ胎仔血清(FBS)(10100-147)を添加した。これは、40mlのクローニング培地に、4mlのFBS(100%ストック溶液)を添加したことを意味している。
【0151】
組換えヒト血清アルブミン(rHSA)の添加:新鮮なクローニング培地に、rHSAを、最終濃度2g/lとなるよう添加した。これは、40mlの新鮮なクローニング培地に、1.6mlのrHSAの50g/lストック溶液(Sigma社、A7223)を添加したことを意味している。
【0152】
組換えヒトトランスフェリン(rHTR)の添加:新鮮なクローニング培地に、5mg/lの組換えヒトトランスフェリン(rHTR)を最終濃度まで添加した。これは、40mlの新鮮なクローニング培地に、10μlのrHTRの20g/lストック溶液(Millipore社、(9701-10))を添加したことを意味している。
【0153】
組換えヒト血清アルブミンと組換えヒトトランスフェリン(rHSA + rHTR)の添加:新鮮なクローニング培地に、組換えヒト血清アルブミン(rHSA)を最終濃度2g/lとなるよう添加し、さらに組換えヒトトランスフェリン(rHTR)を最終濃度5mg/lとなるよう添加した。これは、40mlの新鮮なクローニング培地に、1.6mlのrHSAの50g/lストック溶液と、10μlのrHTRの20g/lストック溶液(Millipore社、(9701-10))を添加したことを意味している。
【0154】
材料および方法の項に記載したとおりにプレートをインキュベートし、生じたコロニーを計数した。
【0155】
この結果(図3)は、rHSAとrHTRは、これらが別々に適用される場合、クローニング効率を全く改善しないか、またはクローニング効率をほんの少ししか改善しないことを示す。驚くべきことに、両タンパク質を同じ培地中で組み合わせると、クローニング効率は、FBS含有培地の90%まで著しく増加する。
【0156】
実施例4:組換えヒト血清アルブミンを添加した組換えヒトトランスフェリンと、組換えヒト血清アルブミンを添加していない組換えヒトトランスフェリンの滴定
この実験の目的は、両タンパク質の増殖促進効果が濃度依存的であるか否かであった。
【0157】
材料および方法の項に記載したとおり、クローン23細胞は、限界希釈によって手動でクローン化した単一細胞であった。全ての培地の組み合わせについて、2枚の96ウェルプレートをプレーティングアウトした。実験は以下のとおりに行った:
陽性対照(FBS):クローニング培地に、Gibco社製の10%加熱不活性化認定ウシ胎仔血清(FBS)(10100-147)を添加した。これは、40mlのクローニング培地に、4mlのFBS(100%ストック溶液)を添加したことを意味している。
【0158】
組換えヒトトランスフェリン(rHTR)の添加:新鮮なクローニング培地に、増加濃度の組換えヒトトランスフェリン(rHTR)を添加した。rHTRの20g/lストック溶液(Millipore社、(9701-10))を新鮮なクローニング培地に添加することにより、以下の最終濃度(5mg/l、50mg/l、100mg/lおよび200mg/l)のrHTRを調整した。
【0159】
組換えヒトトランスフェリンと組換えヒト血清アルブミン(rHTR + rHSA)の添加:新鮮なクローニング培地に、組換えヒト血清アルブミン(rHSA)を最終濃度2g/lとなるよう添加した。この実験全てにおいて、rHSAの濃度を一定に保った。rHSAを添加した培地にさらに、様々な量の組換えヒトトランスフェリン(rHTR)を添加した。rHTRの20g/lストック溶液(Millipore社、(9701-10))を新鮮なクローニング培地に添加することにより、以下の最終濃度のrHTRを調整した:
2g/l rHSA + 5mg/l rHTR
2g/l rHSA + 50mg/l rHTR
2g/l rHSA + 100mg/l rHTR
2g/l rHSA + 200mg/l rHTR
材料および方法の項に記載したとおりにプレートをインキュベートし、生じたコロニーを計数した。
【0160】
この結果(図4)は、明らかに両タンパク質の相乗効果を示す。rHTR単独では細胞増殖を促進することができない。前の実験では、rHSAのみでは、対照の約20%まで細胞増殖を促進することが示された。最良の細胞増殖促進効果は、両タンパク質の組み合わせによって見ることができる。興味深いことに、対照培養物の90%までの細胞増殖を達成するには、極めて低濃度(5mg/l)のrHTRで十分である。
【0161】
実施例5:自動細胞沈着ユニット(automatic cell deposition unit)を備えたFACSによる、様々なCHO細胞株を用いた単一細胞クローニング実験
この実験の目的は、上記の組換えヒト血清アルブミン(rHSA)と組換えヒトトランスフェリン(rHTR)を、様々なCHO細胞株と組み合わせて試験することであった。さらなる目的は、さらなる目的は、この培地処方が、これらの細胞を、FACSによってクローン化され、ロボットユニットによって沈着された単一細胞である場合に首尾よく増殖させるか否かを評価することであった。
【0162】
材料および方法の項に記載したとおり、CHOクローン23、CHO K1、およびCHO DG44細胞は、FACSによって自動的にクローン化した単一細胞であった。全ての培地の組み合わせについて、2枚の96ウェルプレートをプレーティングした。実験は以下のとおりに行った:
陽性対照(FBS):クローニング培地に、Gibco社製の10%加熱不活性化認定ウシ胎仔血清(FBS)(10100-147)を添加した。これは、40mlのクローニング培地に、4mlのFBS(100%ストック溶液)を添加したことを意味している。
【0163】
組換えヒト血清アルブミンと組換えヒトトランスフェリン(rHSA + rHTR)の添加:新鮮なクローニング培地に、組換えヒト血清アルブミン(rHSA)を最終濃度2g/lとなるよう添加し、さらに組換えヒトトランスフェリン(rHTR)を最終濃度5mg/lとなるよう添加した。これは、40mlの新鮮なクローニング培地に、1.6mlのrHSAの50g/lストック溶液と、10μlのrHTRの20g/lストック溶液(Millipore社、(9701-10))を添加したことを意味している。
【0164】
材料および方法の項に記載したとおりにプレートをインキュベートし、生じたコロニーを計数した。
【0165】
この結果は、FACSによって沈着された単一細胞の細胞増殖を促進する、rHSAとrHTRの複合添加の効果を示す(図5)。さらにこれらの結果は、この培地処方の、様々なCHO細胞株に対する有効性を示す。CHO K1細胞は活発に増殖するため、この細胞に対するrHSAとrHTRの効果は、CHOクローン23またはCHO DG44細胞に対する効果と比べるとそれほど顕著ではない。注目すべきことに、FACSによって細胞を播種した場合、これらの細胞は、rHSAとrHTRを添加した培地中で、限界希釈によって手動で播種して増殖させた細胞よりもさらに良好に増殖する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無血清細胞培地による細胞集団の培養方法であって、該細胞集団が100細胞/ml未満の細胞濃度を有し、以下のステップ:
a) 第1の無血清細胞培地中で、100細胞/mlを上回る細胞濃度で細胞集団を培養するステップ;
b) 細胞濃度を100細胞/ml未満まで低下させるステップ;および
c) 第2の無血清細胞培地中で細胞を培養するステップであって、該第2の無血清細胞培地が組換えアルブミンと組換えトランスフェリンを含む前記ステップ
を含んでなる、前記方法。
【請求項2】
無血清細胞培地による単一細胞の培養方法であって、以下のステップ:
a) 第1の無血清細胞培地中で、100細胞/mlを上回る細胞濃度で細胞集団を培養するステップ;
b) 該細胞集団から単一細胞を単離するステップ;および
c) 第2の無血清細胞培地中で単一細胞を培養するステップであって、該第2の細胞培地が組換えアルブミンと組換えトランスフェリンを含む前記ステップ
を含んでなる、前記方法。
【請求項3】
細胞が100細胞/mlを上回る細胞濃度で培養される場合、細胞集団の細胞が、増殖のための組換えトランスフェリンおよび/または組換えアルブミンを必要としない、請求項1または2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
細胞集団の細胞が、無動物成分培地中で増殖することができる細胞である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
細胞集団の細胞が、無動物成分培地中での増殖に適応した細胞である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
無動物成分培地が無タンパク質培地である、請求項4または請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ステップa)で使用される細胞培地が、ステップc)で使用される細胞培地よりも少ない組換えアルブミンおよび少ない組換えトランスフェリンを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ステップa)および/またはステップc)で使用される細胞培地が無動物成分培地である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
さらに以下のステップ:
d) ステップc)の細胞培地よりも低濃度の組換えトランスフェリンおよび/または組換えアルブミンを含む第3の無血清細胞培地中で細胞を培養するステップ
を含んでなる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ステップd)の細胞培地が組換えトランスフェリンおよび組換えアルブミンを含まない、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ステップc)の細胞培地が、280〜320mOsmol/kg H2Oの浸透圧および6.8〜7.1のpHを有する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
ステップa)およびc)で使用される細胞培地が、L-グルタミンを4mMより低い濃度で含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
ステップa)およびc)で使用される細胞培地が、非トランスフェリン結合鉄を含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
細胞が、ステップc)において少なくとも6日間培養される、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
細胞が、ステップc)において少なくとも6日間インキュベートされる、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
ステップc)において、培養液量が最大1mlである、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
ステップc)で使用される細胞培地が、少なくとも100mg/lの組換えアルブミンおよび少なくとも0.5mg/lの組換えトランスフェリン、好ましくは少なくとも2000mg/lの組換えアルブミンおよび少なくとも5mg/lの組換えトランスフェリンを含む、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
ステップb)において、単一細胞が、自動セルソーティングシステムによって単離される、請求項2〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
細胞集団がCHO細胞株である、請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
100細胞/ml未満の細胞濃度を有する細胞集団を培養するための、組換えアルブミンと組換えトランスフェリンとを含む無血清細胞培地の使用。
【請求項21】
組換えアルブミンと組換えトランスフェリンとを含む無血清細胞培地中で培養される、100細胞/ml未満の細胞濃度を有する細胞集団。
【請求項22】
組換えアルブミンと組換えトランスフェリンとを含む無血清細胞培地中で培養され、そこから細胞が増殖する、100細胞/ml未満の細胞濃度を有する細胞集団。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公表番号】特表2012−523222(P2012−523222A)
【公表日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503925(P2012−503925)
【出願日】平成22年4月9日(2010.4.9)
【国際出願番号】PCT/EP2010/002217
【国際公開番号】WO2010/115634
【国際公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(508092602)セルカ ゲーエムベーハー (3)
【Fターム(参考)】