説明

単球に特異的な粒子性送達媒体

【課題】単球細胞に指向性移入するための組成物の提供。
【解決手段】核酸成分、リソソーム回避成分、および貪食されうる粒子からなるベクター。
【効果】ベクターが単球細胞に特異的であることから、ベクター自体またはベクターで前処理した細胞は遺伝子医薬の適用すべてにおいて有用であり、ベクターはワクチンへの適用に特に適している。単球細胞が腫瘍を標的する能力を有するため、ベクターは、従来の遺伝子治療を含む抗腫瘍への適用にも適している。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
遺伝子医薬は、核酸分子がコードする治療的または予防的遺伝子産物を直接送達することに関する。必要な場合には、通常の細胞の転写機構および翻訳機構を利用し、インサイチューで遺伝子産物を生産する。患者の遺伝子補完を完全にするよう設計すれば、原理的には遺伝的欠陥は治癒可能である。さらに、ワクチン療法における抗原のような予防薬を送達するために使用すれば、量的にも質的にも優れた免疫応答が可能となる。
【0002】
しかしながらこれまで、遺伝子医薬は送達系に欠陥があった。合成系(例えば、リポソームに基づく)およびいわゆる「裸のDNA」系が利用可能であるが、周知のように効率が悪い。よって、最適な送達媒体は改変ウイルスとなる。しかし、これにもまた欠陥がある。この欠陥には、免疫応答の限界または感染性ウイルスの取得に関連した作製上の問題が含まれる。
【0003】
また、微粒子銃系も利用可能である。この系は一般的に、核酸で金属ビーズをコーティングすること、およびそのビーズを「遺伝子銃」で送達することを伴う。どのような細胞を対象にしようとも、遺伝子銃は物理的にその細胞にDNAを送達することができる。しかし、微粒子銃を用いるアプローチは非特異的である。よって特異的送達が求められている状況では、治療的および予防的方法に最適であるとは言えない。例えば癌治療の方法においては、癌細胞のみまたはすぐ周囲の細胞のみに遺伝子産物を送達することが望ましい。
【0004】
ワクチンに適用するには、産物は最良の抗原提示細胞に特異的に送達されることが望ましい。しかし、従来の送達法はこの点で不十分である。実際に、現在の遺伝子ワクチン法における抗原提示のほとんどは抗原提示可能な筋細胞を介して達成されると考えられており、これは単球系統のいわゆる「プロフェッショナル」抗原提示細胞と比較して非常に効率が悪い。
【0005】
単球細胞は、免疫応答において中心的役割を果たす。単球細胞は、体内の主要な抗原提示細胞、マクロファージ、および樹状細胞へと成熟する。さらに、腫瘍が成長するにつれ、血管新生過程の一環として、単球細胞を腫瘍に誘引するマクロファージ走化性因子(MAF)を産生する。したがって、単球細胞を特異的に標的にするのであれば、これを利用して治療遺伝子産物を腫瘍細胞に送達すること、またはその優れた抗原提示の性質を介して治療的もしくは予防的免疫応答を起こすことが可能となる。
【0006】
単球細胞は、通常、異物である非自己抗原、典型的には細菌を捜して体内を巡回している。単球細胞は細菌を貪食し、その細菌はリソソーム内でより小さな抗原部分へと消化される。その結果できた細菌抗原は表面に戻され、免疫系の体液性部門および細胞性部門に対して提示される。
【0007】
したがって、当技術分野においては、遺伝子医薬品のためのより特異的な送達系が必要である。適切な送達系は、微粒子銃法よりも優れた特異性を有し、既存の合成系よりも効率的であり、さらにウイルスに基づく送達系よりも不活性化に対する感受性が低いこととなる。
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、(i)抗原または治療タンパク質をコードする核酸、(ii)リソソーム回避成分、および(iii)貪欲されうる粒子を含む、単球細胞に指向性移入するための組成物を提供することにある。別の態様においては、核酸はDNAであっても、またはRNAであってもよい。いくつかの態様においては、核酸はCMVプロモーターのような核内プロモーターを含みうる発現ベクターにコードされていてもよい。他の態様においては、核酸はT7ベクター系のような細胞質内ベクターにコードされていてもよい。別の態様においては、リソソーム/ファゴソーム回避成分はウイルス、ウイルスの一部、またはタンパク質であってもよい。ウイルスはアデノウイルス、タンパク質はアデノウイルスペントンタンパク質でありうる。1つの態様において、本発明は、リソソーム破壊能を有する組換え非複製型ウイルスを含んだ、単球細胞に指向性移入するための組成物を提供するが、この場合ウイルスはアデノウイルスであり、抗原または治療遺伝子をコードする核酸を含む。いくつかの態様においては、本組成物は、プロタミン、ポリアルギニン、ポリリジン、ヒストン、ヒストン様タンパク質、合成ポリカチオンポリマー、またはRNA配列に含まれる形で適切なパッケージング配列を有するレトロウイルスのコアタンパク質、といった核酸保護成分をさらに含むこともある。この成分は、結合を可能にするいずれかの手段により粒子に結合しうる。いくつかの態様においては、核酸およびリソソーム回避成分は、抗体結合により粒子に結合している。他の態様においては、核酸およびリソソーム回避成分は、アビジンとビオチンと間の相互作用により粒子に結合している。その他の態様においては、核酸は多重結合媒体としての機能を果たす。本発明はまた、上記組成物を調製する方法を提供する。
【0009】
本発明の目的は、上記組成物を樹状細胞またはマクロファージ等の単球細胞
に接触させることを含む、生体物質を単球細胞に指向性送達する方法を提供することにある。本発明は、上記組成物をそれを必要とする人に投与することを含む遺伝子治療の方法を提供するが、この場合核酸は抗腫瘍タンパク質のような治療タンパク質をコードする。本発明は、上記組成物をそれを必要とする人に投与することを含む遺伝子ワクチン接種の方法を提供するが、この場合核酸は、アレルゲン、ウイルス抗原、細菌抗原、または寄生生物由来の抗原等の抗原をコードする。本発明はまた、上記組成物をそれを必要とする人に投与することを含む癌治療の方法を提供するが、この場合核酸は、抗血管新生因子、免疫調節物質、または抗炎症因子等の抗腫瘍遺伝子である。上記方法において、組成物は静脈内または皮下に投与することができる。
【0010】
発明の詳細な説明
序論
本発明は、単球細胞への指向性移入のための固相基質に基づく組成物(以降、「ビーズベクター」と称する)を提供する。本発明による基本的なビーズベクターは、通常、核酸成分、リソソーム回避成分、および単球細胞に貪食されうる粒子からなる。ビーズベクターは、樹状細胞およびマクロファージを含む単球のような食細胞に対して非常に特異的である。ビーズベクターは、このように単球細胞に対して高い選択性を有するため、単球系統の細胞への遺伝子の導入および発現を必要とする、遺伝子ワクチン接種、遺伝子治療、および癌治療等の遺伝子医薬の方法に極めて有用である。
【0011】
単球は、細菌のような大きな抗原を貪食して提示する、食作用を有した免疫細胞である。本発明ではこの特性を、培養基においてベクターが細菌のように「見える」といった点で利用している。したがって、ビーズベクター粒子の大きさが、ビーズベクターの単球細胞に対する特異度を高めると考えられる。ビーズベクター粒子の好ましい大きさは、単球細胞が通常貪食する細菌抗原の大きさにほぼ等しい。一般に、ベクター粒子は約0.5〜約2.5ミクロン、より好ましくは約0.5〜約1ミクロンである。取り込みの観点から見ると、範囲の中でもより小さい数値の方が細菌の大きさにより近いので好ましい。これに反して、製造の面から見ると、やや大きいビーズの方が互いに付着し合う可能性が低く、そのため結合した成分から遊離の成分を洗浄するのがより簡便となるため、やや大きめのビーズの方が好ましい。
【0012】
もちろん、ビーズベクターは形状または材質によって限定されない。つまり、ビーズベクター粒子は、単球細胞に貪食させるいかなる形状、大きさ、または材質であってもよい。製造上の利便性から、好ましい基質構造は、高分子膜で被われた強磁性中心を有する。好ましい強磁性粒子は、Dynabeads(商標)(Dynal Biotech)である。Dynabeads(商標)は単一処理した(monodisposed)ポリスチレン微粒子であり、様々な大きさのものおよび様々な材質でコーティングされているものが入手可能である(http://www.dynalbiotech.com/を参照のこと)。好ましい強磁性粒子には、他にマイクロビーズがある。このようなビーズが好ましいのは、加工の過程で磁気選別によってビーズに結合した成分から遊離の成分を分離できるからである。
【0013】
核酸成分
本発明の基本的なビーズベクター粒子には、通常、核酸成分が結合している。核酸成分は、典型的な例では、治療または抗原の核酸またはタンパク質をコードする。核酸成分は、DNA、RNA、またはDNAとRNAの両方からなる。この成分は、典型的な例では、転写および/または翻訳に必要なシグナルを含む(すなわち、この成分は結局のところタンパク質またはRNA産物をコードする)。
【0014】
当業者は、本ベクター系に利用されうる数多くの治療タンパク質を直ちに理解するであろう。典型的には、そのタンパク質は抗腫瘍タンパク質である。治療タンパク質は腫瘍のごく周辺に主に局在させるので、ある程度非特異的であってもよいが、好ましくは腫瘍特異的である。適切な治療タンパク質の例には、抗血管新生因子およびインターロイキンが含まれる。
【0015】
ワクチンへの適用に有用である代表的な抗原には、アレルゲン、ウイルス抗原、細菌抗原、および寄生生物由来の抗原が含まれる。
【0016】
好ましい抗原には、当業者がよく知るであろう腫瘍関連抗原が含まれる(例えば、癌胎児性抗原、前立腺特異的膜抗原、メラノーマ抗原、腺癌抗原、白血病抗原、リンパ腫抗原、肉腫抗原、MAGE-1、MAGE-2、MART-1、Melan-A、p53、gp100、結腸癌関連抗原、乳癌関連抗原、Muc1、Trp-2、テロメラーゼ、PSA、および腎癌関連抗原)。ウイルス抗原も同様に好ましい抗原である。適したウイルス抗原には、HIV、EBV、およびヘルペスウイルスが含まれる。1つの態様においては、核酸は線状gp41エピトープ挿入(LLELDKWASL)をコードするが、これはHIV-1 Env免疫原性を改善するのに有用な構造として同定されたものである(Liangら、Vaccine, 16;17(22):2862-72, 1999 Jul)。
【0017】
核酸成分は、この核酸成分のRNAおよび/またはタンパク質産物を発現する能力を有する発現ベクターに都合よくコードされる。ベクターは、典型的な例では、例えばコード配列に機能的に結合しているプロモーターを含む制御配列をさらに含む。さらに、例えばインビトロ細菌培養系または細胞培養系で増殖させるための選択マーカー配列も含みうる。好ましい発現ベクターは、複製起点、適切なプロモーターおよびエンハンサー、ならびに任意の必要なリボソーム結合部位、ポリアデニル化部位、スプライス供与部位および受容部位、転写終結部位、ならびに5'隣接非翻訳配列を含む。SV40またはサイトメガロウイルス(CMV)のウイルスゲノム由来のDNA配列、例えば、SV40複製起点、初期プロモーター、エンハンサー、スプライスおよびポリアデニル化部位を用いて、必須の非翻訳遺伝子成分を提供してもよい。
【0018】
挿入した標的遺伝子コード配列の効率的な翻訳には、特異的な開始シグナルも必要となりうる。これらのシグナルは、ATG開始コドンおよび近接配列を含む。核酸成分が独自の開始コドンおよび近接配列を含み、適切な発現ベクターに挿入される場合は、さらなる翻訳調節シグナルは必要ではないであろう。しかし、読み枠(ORF)の部分のみを用いる場合には、おそらくはATG開始コドンを含む外来の翻訳調節シグナルを提供しなくてならない。さらに、開始コドンを所望のコード配列の読み枠と合わせ、標的遺伝子全体の転写を確実にしなければならない。
【0019】
これらの外来性翻訳調節シグナルおよび開始コドンは、天然および合成の様々な起源のものでよい。発現効率は、適切な転写エンハンサーエレメント、転写ターミネーター等を含むことによって増強されうる(Bittnerら、Methods in Enzymol. 153:516-544 (1987)を参照のこと)。いくつかの適切な発現ベクターは、SambrookらによりMolecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor, New York (1989)に記載されており、その開示内容は参照として本明細書に組み入れられる。必要に応じて、発現を増強し適切なタンパク質の折りたたみを促進するためには、Hatfieldらの米国特許第5,082,767号で説明されるように、配列のコドン使用頻度およびコドンの組み合わせを最適化してもよい。
【0020】
プロモーターには、CMV前初期、HSVチミジンキナーゼ、初期および後期SV40、レトロウイルスのLTR、ならびにマウスメタロチオネインIが含まれる。好ましいプロモーターはCMVである。代表的なベクターには、pWLneo、pSV2cat、pOG44、pXT1、pSG(Stratagene、pSVK3、pBPV、pMSG、およびpSVL(Pharmacia)が含まれる。選択マーカーには、CAT(クロラムフェニコールトランスフェラーゼ)が含まれる。好ましいベクターには、T7ベクター系のような細胞質内ベクターも同様に含まれる。Wagnerら、米国特許第5,591,601号(1997年1月7日)を参照のこと。
【0021】
リソソーム回避成分
本発明の基本的なビーズベクター粒子には、通常、核酸成分に加えてリソソーム回避成分が結合している。ビーズベクターに対するリソソーム回避成分の役割は、ベクターがリソソームの厳しい環境を免れるのを補助することにある。当業者は、本明細書の開示内容の他にも、この分子の多くの例を理解するであろう。
【0022】
単球細胞が大きな抗原を貪食する際には、その抗原を貪食する食胞(ファゴソーム)が形成される。次に、単球細胞に含まれる特殊化したリソソームが、新しく形成されたファゴソームと融合する。融合すると、貪食された大きな抗原は、いくつかの高反応性分子および高濃度のリソソーム加水分解酵素混合物に曝される。これらの高反応性分子およびリソソーム加水分解酵素は、ファゴソームの内容物を消化する。したがって、粒子にリソソーム回避成分を結合することにより、粒子に同様に結合している核酸がリソソーム内の物質で消化されるのを免れ、単球の細胞質にそのまま入る。以前の系はこの大切な機構の重要性を認識していなかったため、本発明に比べて非常に低い発現レベルしか得られなかった。Faloらの国際公開公報第97/11605号(1997年)を参照のこと。「リソソーム回避成分」という用語には、融合した上記のリソソーム/ファゴソームが包含される点に注意すべきである。
【0023】
リソソーム回避成分とは、リソソームを回避または破壊する能力のある任意の成分のことである。例えば、リソソーム回避成分には、タンパク質、炭水化物、脂質、脂肪酸、生物模倣型ポリマー、微生物、およびこれらの組み合わせが含まれる。「タンパク質」という用語は、任意の数のアミノ酸を含んだ重合体分子を包含する点に注意すべきである。したがって当業者は、「タンパク質」が一般に「短い」タンパク質として理解されるペプチドを包含することを理解するはずである。好ましいリソソーム回避成分には、タンパク質、ウイルス、またはウイルスの一部が含まれる。例えば、アデノウイルスペントンタンパク質は、ウイルスがリソソーム/ファゴソームを回避/破壊できるようにする、周知の複合体である。したがって、完全なアデノウイルスもしくは単離したペントンタンパク質のいずれか、またはその一部分(例えば、Balら、Eur J Biochem 267:6074-81 (2000)を参照のこと)を、リソソーム回避成分として利用することが可能である。インフルエンザウイルス赤血球凝集素サブユニットHA-2のN末配列由来の膜融合ペプチドも、リソソーム回避成分として使用することが可能である(Wagnerら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:7934-7938, 1992)。
【0024】
他の好ましいリソソーム回避成分には、対象プラスミドを含む複合体のエンドソーム放出が増強されたことにより、細胞のトランスフェクション効率を増強することが示されたポリ(2-プロピルアクリル酸)(PPAAc)のような生物模倣型ポリマーも含まれる(Lackeyら、Abstracts of Scientific Presentations: The Third Annual Meeting of the American Society of Gene Therapy, Abstract No.33、2000年5月31日〜2000年6月4日、コロラド州デンバーを参照のこと)。本発明で想定するリソソーム回避成分の他の例は、Staytonら、J. Control Release, 1;65(1-2):203-20, 2000により考察される。
【0025】
核酸保護成分
基本的なビーズベクター粒子に通常結合している上記成分に加えて、他の成分も、直接的にもしくは相互の結合を介して(例えば、核酸をコードする組換えアデノウイルス)、粒子または粒子に結合している成分に結合することができる。例えば、特に核酸成分がウイルスまたはその一部分に結合していない場合、DNA保護成分を上記の基本的なビーズベクターに任意で付加することができる。通常は、DNA保護成分は直接ビーズに結合させない。核酸保護成分は、リソソーム破壊の前もしくはその過程で溶解酵素に短時間曝される間、ビーズに結合するDNAまたはRNAを消化から保護しうる任意の成分を含む。好ましい核酸保護成分には、プロタミン、ポリアルギニン、ポリリジン、ヒストン、ヒストン様タンパク質、合成ポリカチオンポリマー、およびRNA配列に含まれる形で適切なパッケージング配列を有するレトロウイルスのコアタンパク質が含まれる。
【0026】
本発明の1つの態様において、ビーズベクターは、(1)抗原または治療遺伝子をコードする核酸を含む、組換え型であり選択的に非複製型および/または非感染型のウイルス、ならびに(2)貪食されうる粒子を含む。ウイルスはレトロウイルスのようなRNAウイルス、またはアデノウイルスのようなDNAウイルスでもよい。この態様においては、好ましくはウイルス自体がリソソームを破壊できる。すなわち、核酸成分およびリソソーム回避成分がともにウイルスの一部分である。または、ウイルスがリソソームを破壊できないこともある。このような場合には、もちろん、別のリソソーム回避成分を加えるべきである。好ましいウイルスには、HIV、アデノウイルス、シンドビスウイルス、ならびにそれらの雑種および組換え体が含まれる。特に好ましいウイルスはHIV-アデノウイルス雑種であり、これは基本的にHIV抗原を発現するように操作した組換えアデノウイルスである。ウイルスは、従来法によりビーズに直接結合することができる。Hammondら、Virology 254:37-49 (1999)を参照のこと。
【0027】
本発明においてはヌクレオチド成分が単球細胞の細胞質に到達するのにウイルス感染を必須とはしないため、ウイルスは複製/感染欠損であってもよい。本発明の想定する複製/感染欠損ウイルスを産生する1つの方法は、ウイルス繊維タンパク質の改変である。例えば、繊維タンパク質が抗体には結合できるが同属の細胞の受容体には結合できないように、特異的変異により操作したウイルスを本発明に用いることが可能である。
【0028】
本発明の想定する複製/感染欠損ウイルスを産生するもう1つの方法は、感染力を担うウイルス成分の変性を意図的に起こすことである。例えばアデノウイルスの場合には、ウイルスの調製時に繊維タンパク質を破壊することができ、HIVの場合にはこれはエンベロープ(env)タンパク質である。本発明の想定する複製/感染欠損レトロウイルスを産生する方法は、レトロウイルスのコア粒子のみが残るように外膜を除去することを伴う。上記のように調製した複製/感染欠損ウイルスをビーズベクター粒子に結合すれば、上記のようなRNA保護成分もまた粒子に結合できる。
【0029】
いくつかの治療的態様においては、ベクターが標的細胞の染色体に安定に組み込まれるのが都合がよい。例えば、安定的な組み込みを達成する1つの形態は、アデノウイルス雑種の使用によるものである。そのようなアデノウイルス雑種には、例えば、治療もしくは抗原核酸またはタンパク質、およびレトロウイルスインテグラーゼ遺伝子をコードするDNA成分に近接する形でレトロウイルスの5'および3'末端反復配列(LTR)を有するアデノウイルスベクターが含まれる(Zhengら、Nature Biotechnology, 18:176-180, 2000を参照のこと)。他の態様においては、一過性発現が好ましく、シンドビスウイルスのような細胞質内ウイルスが利用可能である。そのような場合、リソソーム回避成分がウイルスに自然に存在しなければ、その成分を付加する。シンドビスウイルスまたは他のそのようなウイルスを用いる場合には、例えばこの目的のためにアデノウイルスペントンタンパク質の全部または一部を発現するように操作することが可能である。
【0030】
成分を粒子に結合する方法
上記成分のビーズベクター粒子への結合は、任意の手段により達成する。上記に示したように、様々な「成分」には核酸、リソソーム回避成分が含まれ、これらはともにウイルス内に存在していてもよい。好ましい結合方法には、抗体結合、ビオチン-アビジン相互作用、および化学的架橋が含まれる。ビーズベクター粒子は、抗体、アビジン、または他に選んだ結合部位を化学的に結合して調製しうる。
【0031】
抗体結合は、任意の抗体相互作用を介して起こりうる。抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)、ヒト化またはキメラ抗体、一本鎖Fv(scFv)断片を含む一本鎖抗体、Fab断片、F(ab')2断片、Fab発現ライブラリーにより産生される断片、抗イディオタイプ(抗Id)抗体、エピトープ結合断片、および上記いずれかのヒト化型が含まれるがこれらに限定されない。
【0032】
一般に、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体、ならびに所望の抗体を産生しうるハイブリドーマの作製技法は、当技術分野において周知である(Campbell, A. M., Monoclonal Antibody Technology: Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology, Elsevier Science Publishers、Amsterdam, The Netherlands (1984);St. Groth ら、J. Immunol. Methods 35:1-21 (1980);KohlerおよびMilstein, Nature 256:495-497 (1975))、トリオーマ技法、ヒトB細胞ハイブリドーマ技法(Kozborら、Immunology Today 4:72 (1983);ColeらのMonoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss, Inc. (1985), pp. 77-96)。
【0033】
本発明の包含する抗体結合の一例には、ビーズベクター粒子に化学的に付加される単一の抗体が含まれる。この抗体は、粒子に結合すべき成分に特異的である。または、2つの抗体を使用することも可能である。この場合、ビーズに結合させる1つ目の抗体は2次抗体に対して特異的である。2次抗体は、ビーズに結合すべき成分に特異的である。したがって、成分特異的抗体が成分に結合し、次にはビーズに結合している抗体がその抗体に結合する。例えば、ヤギまたはウサギ抗マウス抗体をビーズに結合し、マウスモノクローナル抗体を用いて特異的成分を結合してもよい。
【0034】
抗体結合の他の例では、プロテインA、または抗体に対する親和性を有する任意の同様の分子を利用する。この例では、プロテインAでビーズをコーティングし、このプロテインAが抗体に結合し、次にビーズに結合すべき成分がこの抗体に結合する。
【0035】
ビオチン-アビジン相互作用を介する結合は、例えば、アビジンをビーズベクター粒子に結合し、結合すべき成分にビオチンを結合することにより達成されうる。化学的架橋は、当業者に周知の従来の手段により達成されうる。
【0036】
別の結合機構は、多重結合媒体としての機能を果たす核酸によって生じる。合成グリッパー(gripper)タンパク質核酸(PNA)オリゴヌクレオチドを、他の核酸配列に特異的に結合するように設計する。PNAは、デオキシリボースリン酸骨格ではなくペプチド骨格を有するポリ核酸類似体である。これらはビーズに直接結合することが可能であり、または簡便に結合できるよう誘導体化することが可能であり、これによって核酸を結合する配列特異的手段を提供する。それぞれのグリッパーオリゴヌクレオチドは誘導体化するかまたは別のリガンドもしくは分子に結合させ、別の核酸配列に結合するように設計することができる。PNAはフーグスティーン型塩基対相互作用を介してDNAと相互作用し、安定なPNA-DNA-PNA三重クランプを形成すると考えられている(Zelphatiら、BioTechniques, 28:304-316, 2000)。
【0037】
したがって、1つの態様においては、1つのグリッパーを利用して核酸成分をビーズに結合し、もう1つのグリッパーを用いてリソソーム回避成分を核酸成分に結合する。そのような多くの相互作用が可能である。例えば、ビオチンを含む「グリッパー」は、核酸の一部位に配列特異的に結合されうる。アビジンをコーティングした粒子への結合は、ビオチン-アビジン相互作用を介して行う。核酸の別の部位では、リソソーム/ファゴソーム回避成分を伴う別の「グリッパー」が配列特異的に結合されうる。状況に応じて、DNA保護成分を伴う「グリッパー」が核酸のさらに別の部位に配列特異的に結合されうる。代表的なグリッパーオリゴヌクレオチドは、http://www.genetherapysystems.com/02pgenegrip.htmおよびhttp://www.genetherapysystems.com/02pna0.htmに記載されている。
【0038】
ウイルスをビーズに結合する場合には、その結合は、あるタンパク質を表面に発現するようにウイルスを操作することによっても達成されうる。例えば、HIV envタンパク質をアデノウイルスのペントンタンパク質またはその一部と置換することが可能である。次に、例えば別の抗体またはプロテインAを媒介としてビーズに結合している抗ペントン抗体を介して、ウイルスをビーズに結合することが可能である。本態様においては、ペントンタンパク質は、リソソーム回避成分としての機能も果たす。
【0039】
製剤
ビーズベクターは、例えば静脈内注射、筋肉内注射、または皮下注射による非経口投与用の製剤であってもよい。注射用製剤は、例えば状況に応じて別の保存剤を伴ったアンプルまたは多容量型容器のような、単位容量形態であってよい。組成物は、油性もしくは水溶性溶媒を用いた懸濁液、溶液、またはエマルジョンのような形態でよく、懸濁化剤、分解防止剤、および/または分散剤のような処方剤を含むことも可能である。ビーズベクターは、薬学的に許容される賦形剤を用いて処方することも可能である。そのような賦形剤は当技術分野で周知であるが、通常は生理的に容認できる水溶液である。生理的に容認できる溶液とは、基本的に無毒性の溶液のことである。好ましい賦形剤は、不活性であるか促進するかのいずれかである。
【0040】
治療法
本発明のビーズベクターは、単球細胞のような細胞に極めて選択的である。したがって、このベクターは、核酸成分の単球細胞への選択的導入に関するいかなる適用にも有用であり、これには遺伝子ワクチン接種、癌治療、および遺伝子治療が含まれる。典型的な方法は、単球細胞をビーズベクターに接触させることを伴う。
【0041】
ビーズベクターは、インビボまたはインビトロのいずれかで単球細胞に接触させることができる。したがって、インビボおよびエクスビボのどちらの方法についても検討する。インビボの方法では、一般にビーズベクターは非経口的に投与し、通常は静脈内、筋肉内、皮下、または皮内に投与する。例えば、ボーラス投与または連続注入により投与することも可能である。エクスビボの方法では、単球細胞を体外でビーズと接触させ、次にこの接触させた細胞を患者に投与する。細胞は同様に非経口的に投与し、一般には注入により投与する。
【0042】
ワクチン接種の分野では、樹状細胞およびマクロファージを含む単球細胞は「プロフェッショナル」抗原提示細胞(APC)と見なされており、よって遺伝子ワクチンを発現させる理想的な部位である。抗原をAPC内で発現させるのは、他のいかなる細胞種内で発現させるよりも、強力な細胞性免疫応答の誘発にはるかに効果的であることが周知である。したがって、本発明のビーズベクターがワクチン抗原の発現を「プロフェッショナル」抗原提示細胞(単球細胞)に指示できる能力により、遺伝子ワクチンの有効性が格段に増強される。
【0043】
ビーズベクターは患者に直接投与することが可能であり、さらにそのベクターは抗原を身体の最良の抗原提示細胞、すなわちマクロファージや樹状細胞のような単球由来の細胞に直接送達できることから、本発明は先行技術の実質的な改善を提供する。これらの細胞を標的にする先行法は主として患者の単離した単球細胞を基に行うものであり、インビトロで細胞を操作してそれを患者に戻す。そのような計画も本発明内のものとして考えるが、実質的な改善はこの段階が行われる必要がないところにある。すなわち、ビーズベクターを従来のワクチンのように投与することが可能であり、これによって必要な技術レベルが縮小し、実質的にコストが削減される。さらに、投与経路を変更することにより標的とする単球細胞を変更できると考えられる。例えば、静脈内注射をする場合にはマクロファージを標的にすべきであり、皮下注射を行う場合には樹状細胞を標的にすべきである。
【0044】
本発明のビーズベクターに関する遺伝子ワクチン接種の典型的な方法は、抗原をコードする核酸を含むビーズベクターを患者に、一般には皮下または静脈内に投与することを含む。または、単球細胞をエクスビボでベクターと接触させ、次にその細胞を患者に非経口的に投与する。さらに、このエクスビボの方法は単離したTリンパ球によって一部変更することが可能であり、接触させた単球細胞を用いてエクスビボで抗原特異的な細胞障害性T細胞を産生させ、それを患者に投与する。当業者は、このような戦略に精通している。
【0045】
本発明のビーズベクターを用いた単球細胞系統への標的遺伝子発現は、改良したワクチン接種戦略に加え、癌治療にも有効である。本発明の包含する癌治療の一つの様式は、治療遺伝子を腫瘍に標的することに関する。原発腫瘍も転移も腫瘍が直径2、3ミリメートルを超えて増殖し、酸素不足になるにつれ、シグナルタンパク質を分泌して腫瘍の生存のために必要ないくつかの事象を誘発することが知られている。これらの事象には、血管新生を誘導するシグナルの分泌が含まれる。血管新生誘導機構の一環として、低酸素状態の腫瘍は、単球を腫瘍に誘引する機能を有した情報伝達ケモカインを分泌する。このようにして増殖する腫瘍部位に単球が誘引され、マクロファージとなり、腫瘍の血管新生誘導を補助する。したがって、治療遺伝子を腫瘍に標的する効果的な方法は、抗腫瘍遺伝子を含む有効量のビーズベクターを直接、またはエクスビボで接触させた細胞を介して癌患者に投与することを含む。貪食したビーズベクターを含む単球細胞は腫瘍発生部位に誘引されるべきであり、治療的な腫瘍遺伝子を腫瘍に選択的に送達すべきである。
【0046】
1つの態様において、抗腫瘍遺伝子はエンドスタチンまたはアンジオスタチンのような抗血管新生因子である。通常腫瘍に血管新生促進因子を送達する単球を抗血管新生因子の送達媒体として利用することから、このような治療は極めて効果的であることが想定される。
【0047】
もう1つの態様においては、抗腫瘍遺伝子は免疫調節物質または抗炎症因子であってもよい。IL-2およびIL-12のような免疫調節物質が想定される。さらに、抗炎症因子は腫瘍の治療に有用であるだけでなく、関節炎のような慢性炎症疾患の治療にも有効である。本発明の抗炎症効果は、抗腫瘍効果のように、単球細胞が特定の組織に向かう能力に依存する。単球は、関節炎罹患部位のような炎症反応を起こす部位に誘引されることが周知である。他の代表的な免疫調節物質および抗炎症因子には、GM-CSFおよび可溶性TNFα受容体が含まれる。
【0048】
本発明の包含するビーズベクターの他の利用法は、従来の遺伝子治療への利用である。本発明のビーズベクターに関する遺伝子治療の典型的な方法は、治療遺伝子をコードする核酸を含むビーズベクターを患者に投与するか、またはそのベクターを含む細胞を患者に投与することを含む。核酸は、任意の治療遺伝子をコードする。
【0049】
以下の非限定的な実施例は、説明の目的にのみ提供するものであり、本発明を限定するものと見なすべきではない。本発明の範囲内には、数多くの明らかな変法が存在する。
【0050】
実施例1
本実施例では、典型的なビーズベクターの構造を示す。
【0051】
代表的なビーズベクターは、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子を含むように操作したアデノウイルスを、ダイナビーズに結合した形(Ad-GFP-ビーズ)で含む。Ad-GFP-ビーズを作製するため、まず、ダイナビーズ(Dynal、製品番号115.19)を十分に再懸濁し、マグネット装置に適したチューブに所望量のビーズを移した。マグネット効果を利用して、1〜2 mlの緩衝液(1% FCSを含むRPMI)でビーズを3回洗浄し、元の緩衝液容量に再懸濁した。次に、抗アデノウイルス繊維タンパク質抗体AB-4(Neomarker、カタログ番号MS-1027)でビーズをコーティングするため、ビーズ107個当たりマウスIgG 2マイクログラムを添加した。ビーズ/抗体混合液を室温で30分間回転させた後、マグネット効果を利用して、緩衝液(1% BSAを添加したPBS)でビーズを3回洗浄した。続いて、コーティングしたビーズを元の容量の緩衝液(1% BSAを添加したPBS)に再懸濁した。アデノウイルス粒子(Quantum、Ad5.CMV5-GFP)をビーズに結合させるため、0.5 x 108ウイルス粒子/107を加えた。混合液を4℃にて30分間回転させた後、マグネット効果を利用して、緩衝液(1% BSAを添加したPBS)でビーズを3〜4回洗浄した。最終的に、インビトロまたはインビボで使用できるように、ビーズを適当量の緩衝液(1% BSAを添加したPBS、pH 7.4)に再懸濁した。
【0052】
実施例2
本実施例では、単球細胞が本発明のビーズベクターをインビトロで特異的に取り込むことを示す。本実験では、実施例1のAd-GFPベクターを、単球を含む混合培養液と共にインキュベートした。顕微鏡観察により調べた結果、単球細胞のみに高レベルのGFP発現があることが明らかとなった。
【0053】
本実施例では、ヒト供与者から50〜100 mlの血液を採取し、これをヘパリンナトリウムチューブに入れた。血液を1 x PBSで1:1に希釈し、そのうち8 mlを、15 mlの遠心管に入れた室温のFicoll-Paque Plus 4ml上に重層した。次に、この遠心管を400gにて室温で30分間遠心分離した。パスツールピペットを用いてフィコール勾配からPMBC層を慎重に回収し、15 mlまたは50 mlの新たな遠心管に移した。4倍量の1 x PBSを遠心管に加え、反転させて混合した。続いて、この遠心管を100gにて室温で10分間遠心分離した。1 x PBS 10 mlを遠心管に加え、反転させて細胞を混合し、100gにて室温で10分間遠心分離した。AKC溶解は室温で5分間行い、細胞をペレット化して1 x PBSで洗浄した。完全樹状細胞培地(RPMI1640 + 10% FBS + 800 U/ml GM-CSF + 1000 U/ml IL-4)5mlにこのPBMCを懸濁した。次に、実施例1に記載したのと同様に調製したAD-GFP-ビーズを、細胞とビーズの比率を様々に変えて培養液に添加した。プレートを回旋し、培養液中にベクターが均一に行きわたるようにした。GFPの発現は、蛍光顕微鏡下で毎日モニターした。培地は一日置きに交換した。PBMCの樹状細胞への分化は、樹状細胞の独特の形態を観察することによりモニターした。
【0054】
1 x PBS 3 mlをマウス腹腔に注入し、腹腔マクロファージを調製した。やさしくマッサージした後、注入した溶液を回収して細胞を培養プレートに移した。1時間インキュベートした後、非付着細胞を除去し、付着細胞を残して10% FBSを加えたDMEMで培養した。次にこの細胞を6ウェルプレートに播いた。続いて、実施例1に記載したのと同様に調製したAD-GFP-ビーズを、細胞とビーズの比率を様々に変えて培養液に添加した。プレートを回旋し、培養液中にベクターが均一に行きわたるようにした。GFPの発現は、蛍光顕微鏡下で毎日モニターした。培地は一日置きに交換した。PBMCの樹状細胞への分化は、樹状細胞の独特の形態を観察することによりモニターした。プレートを回旋し、培養液中にベクターが均一に行きわたるようにした。
【0055】
実施例3
本実施例では、単球細胞が本発明のビーズベクターをインビボで特異的に取り込むこと、およびベクターを取り込んだ細胞がリンパ節に遊走し、正常な免疫応答を模倣することを示す。これは、単球細胞がベクターを貪食すると積極的にリンパ系に遊走し、そこで免疫応答が起こるという原理の証明である。実施例1のベクターを、正中線の位置でマウスに腹腔内注射した。24時間後、腋窩リンパ節を回収し、顕微鏡で調べた。その結果、GFPを高レベルで発現する単球が観察された。
【0056】
実施例4
本実施例では、本発明のビーズベクターが特異的な免疫応答を誘発することを示す。本実施例においては、本発明のビーズベクターを遺伝子ワクチン接種に使用する。ビーズをワクチン接種することにより、非常に強い免疫応答が生じることが観察される。2匹のC57B16成体雄マウスに、AD5,CMV5-GFPでコーティングした2.5ミクロンのマイクロビーズ、250μl中に5 x 108個を、1日目、7日目、および14日目に皮下注射することによりワクチン接種した。21日目にマウスを屠殺して脾臓を回収し、脾臓からリンパ球を調製した。次に、これらのリンパ球および非免疫のC57B16マウスのリンパ球を、マイクロタイタープレートの別々のウェルで、CMV-GFP遺伝子を予めトランスフェクションしGFPを発現するB16細胞(C57B16由来)とおよそ1:1の比率で7日間共培養した。その後、標準的なCTLアッセイにおいて、エフェクター細胞(共培養したリンパ球)と標的細胞の比率を1000:1として、これら共培養した細胞を使用した。
【0057】
CTLアッセイには、まずGFPを発現する新たなB16細胞を、放射標識したクロム酸ナトリウム(51Cr)中インキュベートし、洗浄して標的細胞として使用した。次にこれらの標的細胞を、ワクチン接種した2匹のマウス由来であり刺激を受けたリンパ球(実験群)、2匹の非免疫マウス由来であり刺激を受けたリンパ球(対照群)、RPMI培地のみ(自発的放出群)、およびそれに2% トリトンX 100を加えた培地(最大放出群)と共に4時間インキュベートした。インキュベートした各培養液を軽く遠心分離した後、一定分量の上清中の放射能をカウントし、各培養液中の細胞から放出される内部51Crの放射能(細胞溶解の尺度)を測定した。最大放出群からの平均カウントは5160.5 CPMであり、自発的放出群では2941.5 CPM、対照群では3015.5 CPM、実験群では5175.5 CPMであった。これらの結果から、ビーズをワクチン接種したマウスは、ワクチン接種に応答して強力な細胞障害性Tリンパ球(CTL)を産生し、CTLアッセイにおいて標的細胞を100 %溶解したことが明らかに示された。
【0058】
本実験を繰り返すが、リンパ球とGFP発現細胞との一週間の共培養を省き、最後のCTLアッセイに使用するリンパ球をワクチン接種したマウスの脾臓から直接回収したリンパ球とする以外は上記と全く同様に行った場合、これらの未刺激のリンパ球はエフェクター細胞と標的細胞との比率をたった100:1にしても標的細胞を34%溶解することがCTLアッセイにより示された。共培養による前刺激を省いてこのようなCTL活性を示すことは非常に稀であり、ビーズのワクチン接種によって極めて強力な免疫応答が起こることが示唆される。
【0059】
実施例5
本実施例では、この系からリソソーム回避成分を省くと、低レベルの発現しか得られないことを示す。
【0060】
本実施例に用いるビーズベクターを作製するため、ジーンセラピーシステム(Gene Therapy System)のGeneGrip部位二本鎖オリゴヌクレオチドをT7T7/T7GFPベクターにクローニングした。続いて、ビオチンpGeneGrip PNAラベルを用いて上述のT7ベクターを標識し、T7T7/T7GFPベクター/pGeneGrip PNA構築物を形成した。次に、適当な比率でストレプトアビジンをコーティングしたダイナビーズをT7T7/T7GFPベクター/ pGeneGrip PNA構築物と接触させた。十分に洗浄した後、このビーズをT7 RNAポリメラーゼと混合して氷上で30分間インキュベートし、T7T7/T7GFPベクター/pGeneGrip PNAビーズベクターを作製した。
【0061】
実施例2に記載したのと同様に、マクロファージ細胞を調製した。細胞とビーズの比率を様々に変えて、T7T7/T7GFPベクター/pGeneGrip PNAビーズベクターを培養液に添加した。プレートを回旋し、培養液中にベクターが均一に行きわたるようにした。GFPの発現は、蛍光顕微鏡下で毎日モニターした。培地は一日置きに交換した。かすかにGFPを発現していると思われる細胞が、ほんの2、3検出されるのみであった。顕微鏡下でかすかな緑色蛍光が見られたが、顕微鏡写真で見るにも、または顕微鏡写真でこの発現レベルをバックグラウンドの蛍光と識別するにも困難であるか不可能であった。免疫細胞化学染色も行い、抗GFP抗体を用いてGFPの発現レベルを判定した。GFPの発現レベルは検出可能であったが、非常に低かった。
【0062】
実施例6
本実施例では、ヒトの単球細胞が本発明のビーズベクターをインビトロで特異的に取り込むことを示す。細胞は樹状細胞に分化した後も、GFPを高レベルで発現し続ける。したがって、ビーズベクターは単球細胞に貪食されることが可能であり、これにより樹状細胞への成熟が妨げられることはない。
【0063】
本実施例では、ヒトの末梢血単球を実施例1のAd-GFPベクターと接触させた。続いて、この混合液をRPMI 1640、10% FBS、1000 U/ml IL4、および800 U/ml GMCSF中で7日間培養した。7日後、50%の細胞がGFPを高レベルで発現していた。分化した細胞は、特徴的な樹状細胞の形態を有していた。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】処理した培養マウス単球細胞の写真である。
【図2】AD-GFPビーズで処理し、RPMI 1640、10% FBS、100 U/ml IL4、および800 U/ml GMCSF中で7日間培養したヒト末梢血単球の写真である。細胞の縁が樹状細胞の特徴であるギザギザの指状をしていることから明らかなように、AD-GFPビーズの貪食は細胞の樹状細胞への成熟に変化を及ぼさない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)抗原または治療タンパク質をコードする核酸、(ii)リソソーム回避成分、および(iii)貪食されうる粒子を含む、単球細胞に指向性移入するための組成物。
【請求項2】
核酸が、DNAおよびRNAからなる群より選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
核酸が発現ベクターにコードされる、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
発現ベクターが核内プロモーターを含む、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
プロモーターがCMVプロモーターである、請求項4記載の組成物。
【請求項6】
核酸が細胞質内ベクターにコードされる、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
細胞質内ベクターがT7ベクター系である、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
リソソーム/ファゴソーム回避成分がウイルスである、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
リソソーム/ファゴソーム回避成分がウイルスの一部である、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
ウイルスがアデノウイルスである、請求項8または9記載の組成物。
【請求項11】
リソソーム/ファゴソーム回避成分がタンパク質である、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
核酸保護成分をさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項13】
核酸保護成分が、プロタミン、ポリアルギニン、ポリリジン、ヒストン、ヒストン様タンパク質、合成ポリカチオンポリマー、およびRNA配列に含まれる形で適切なパッケージング配列を有するレトロウイルスのコアタンパク質からなる群より選択される、請求項12記載の組成物。
【請求項14】
核酸およびリソソーム回避成分が抗体結合により粒子に結合している、請求項1記載の組成物。
【請求項15】
核酸およびリソソーム回避成分がアビジンとビオチンと間の相互作用により粒子に結合している、請求項1記載の組成物。
【請求項16】
核酸が多重結合媒体としての機能を果たす、請求項1記載の組成物。
【請求項17】
リソソーム回避成分がアデノウイルスペントンタンパク質である、請求項1記載の組成物。
【請求項18】
請求項1記載の組成物を単球細胞に接触させる段階を含む、生体物質を単球細胞に指向性送達する方法。
【請求項19】
単球細胞が樹状細胞またはマクロファージである、請求項18記載の方法。
【請求項20】
核酸に治療タンパク質をコードする請求項1記載の組成物を、それを必要とする人に投与する段階を含む、遺伝子治療の方法。
【請求項21】
治療タンパク質が抗腫瘍タンパク質である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
核酸に抗原をコードする請求項1記載の組成物を、それを必要とする人に投与する段階を含む、遺伝子ワクチン接種の方法。
【請求項23】
抗原が、アレルゲン、ウイルス抗原、細菌抗原、および寄生生物由来の抗原からなる群より選択される、請求項22記載の方法。
【請求項24】
核酸が抗腫瘍遺伝子である請求項1記載の組成物を、それを必要とする人に投与する段階を含む、癌治療の方法。
【請求項25】
抗腫瘍遺伝子が、抗血管新生因子、免疫調節物質、および抗炎症因子からなる群より選択される、請求項24記載の方法。
【請求項26】
組成物を静脈内または皮下に投与する、請求項20、22、または24記載の方法。
【請求項27】
(i)貪食されうる粒子を抗アデノウイルス繊維タンパク質抗体AB-4でコーティングする段階と、(ii)アデノウイルス粒子をビーズに結合する段階とを含む、請求項14記載の組成物を調製する方法。
【請求項28】
リソソーム破壊能を有する組換え非複製型ウイルスを含み、該ウイルスが抗原または治療遺伝子をコードする核酸を含む、単球細胞に指向性移入するための組成物。
【請求項29】
ウイルスがアデノウイルスである、請求項28記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−31020(P2010−31020A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221799(P2009−221799)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【分割の表示】特願2002−576998(P2002−576998)の分割
【原出願日】平成14年4月1日(2002.4.1)
【出願人】(509163330)ジーエイチシー リサーチ ディベロップメント コーポレイション (1)
【Fターム(参考)】