説明

単純ヘルペスウイルスワクチン

本発明は、陰部ヘルペスに対して患者を免疫するためのワクチンにおいて使用され得る単純ヘルペスウイルス2型に関する。一実施形態において、本発明は、複製欠損性ドミナントネガティブ単純ヘルペスウイルス2(HSV−2)組換えウイルスを提供し、このウイルスは、そのゲノム内に、a)第1のHSV−2糖タンパク質D(gD2)をコードする第1の配列であって、ここで該配列は、第1のプロモーターに作動可能に連結され、該第1のプロモーターは、第1のテトラサイクリンオペレーター(Tet−O)配列に作動可能に連結されている、第1の配列などを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
この出願は、2009年12月21日に出願された米国仮出願第61/288,836号に対する優先権およびその利益を主張する。この先の出願は、その全体が参考として本明細書に援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、主に、慢性陰部潰瘍と関連した単純ヘルペスウイルス2型(HSV−2)感染に対して患者を免疫するために使用され得るワクチンに関する。上記ワクチンは、高レベルのHSV−2糖タンパク質D抗原(gD2)を発現するように操作された複製欠損性HSV−2ウイルスを利用する。好ましい実施形態において、上記HSV−2ウイルスはまた、1個以上の免疫調節遺伝子(例えば、IL15および/またはHSV−1もしくはHSV−2の主要抗原(例えば、gBもしくはgC))を発現する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
(単純ヘルペスウイルス(HSV)およびHSV感染)
単純ヘルペスウイルス2(HSV−2)は、陰部潰瘍疾患の主要原因である。HSV−2は、急性の増殖性感染および予測できない周期的再発によって特徴付けられる長期潜伏性の感染の両方を引き起こし得る(66、非特許文献1)。一生の、再発性の陰部潰瘍を引き起こすことに加えて、HSV感染は、AIDS患者において大きな懸念事項である。性器HSV−2感染は、性行為によるHIV感染(sexually acquiring HIV infection)のリスクを3倍にし(20、非特許文献2)、アフリカでは、このリスク増加は、付帯的なHIV感染のうちの25〜35%の一因となり得る(1)ことが実証された。
【0004】
最も症候性であるHSV一次感染(primary infection)の重篤度および持続期間は、アシクロビル、バラシクロビル、もしくはファムシクロビルでの経口処置もしくは静脈内処置によって減少させられ得るが、抗ウイルス治療は、一次感染からの潜伏感染の確立を妨げもせず、その後の再発を低下させもしない(66、非特許文献1)。過去20年間にわたって米国で陰部ヘルペスが継続して拡大していること(19)および近年の抗ウイルス薬物療法に耐性のHSVの発生率が増大しつつあることから、HSV感染に対する安全かつ効果的なワクチンが必要であることが示唆される(31,60)。さらに、HSV抑制治療が、HSV−2およびHIVの両方に感染した女性の性器粘膜および血漿におけるHIVのレベルの顕著な低下をもたらすという知見(52)は、有効なHSVワクチンがまた、HIV感染の制御において大きな影響を有し得ることを示唆する(1,31)。
【0005】
(HSV−2糖タンパク質D(gD2))
HSV糖タンパク質D(gD)は、感染細胞の表面に(21)およびウイルスエンベロープ(24)に発現される最も優勢なウイルス抗原のうちの1つである。gDは、ウイルスが細胞へ入るのに必須であり、HSV感染に対する中和抗体の主要な標的である(12,49,53)。さらに、gDは、HSV感染のヒトおよびマウスモデルにおいて、CD4 T細胞(CD4 T細胞細胞傷害性を含む)およびCD8 T細胞の優勢なウイルス標的である(27,28,30,34,47,65,75)。これら理由から、gDは、HSVサブユニットワクチン開発の主な焦点であった(32,60)。
【0006】
フェーズ3臨床試験において、Stanberryらは、アジュバントAS04と組み合わせた、HSV−2由来の組換えgD(gD2)でのワクチン接種が、HSV−セロネガティブの女性における陰部ヘルペス疾患の発生に対する保護において73〜74%の効力を提供することを示した(62)。しかし、男性において、およびHSV−1に対してセロポジティブであった被験体においては、顕著な効力は認められなかった。gD2特異的液性応答およびCD4+ T細胞応答は、上記免疫された宿主において検出されたが、gD2/AS04がCD8+ T細胞応答を惹起することにおいて有効であったか否かは、明らかでない(31,32)。この研究から、gD2および他のHSVウイルス抗原の両方に対する、より広い液性応答、ならびにCD4 T細胞応答およびCD8 T細胞応答を惹起するHSVワクチンが必要であることが示唆される(29,31,32)。
【0007】
(ウイルスワクチン)
上記宿主において免疫原をデノボ合成する能力がある生ウイルスワクチンは、ペプチドもしくはタンパク質のみからなるワクチンより、広くかつ持続性の免疫応答を誘導することが十分に実証されている。複製欠損性HSVおよび神経系弱毒化(neuroattenuated)された複製能のある変異体の種々の形態が開発されてきており、HSV感染に対するワクチンにおける可能性として試験されてきた(特許文献1;(18))。
【0008】
複製欠損性ウイルスおよび神経系弱毒化変異体の両方が、野生型ウイルスとともに同時に複製し得るか、または野生型ウイルスの状況において複製能のある状態になり得るので、ヒトにおけるそれらのワクチンとしての使用は、特に、潜伏性HSV感染を有する個体において安全上の懸念事項を提起する(33)。複製欠損性HSV−1変異体が、齧歯類の脳において上記潜伏性HSV−1最初期プロモーターを再活性化させ得るという観察は、このような組換え体(recombinant)が潜伏性に感染した個体における増殖性ウイルス感染の大発生を誘発する可能性についてさらなる安全上の懸念事項を惹起した(63)。従って、望ましい複製欠損性組換えHSVワクチンは、ウイルスによってコードされた抗原の広いスペクトルを発現する能力を有すべきだけでなく、同じ細胞内で遭遇した場合に、野生型HSVの溶解感染(lytic infection)を妨げ得る特有の機能もまたコードすべきである。このような安全上の機構は、上記ワクチンベクターの、上記宿主において野生型ウイルスとの組換えによって引き起こされる、上記ワクチンウイルスの潜在的な大発生を最小限にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第7,223,411号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Whitleyら、Clin Infect Dis(1998)26:541〜53;quiz 554〜5
【非特許文献2】Freemanら、Aids(2006)20:73〜83
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
一般に、本発明は、HSV−2感染に対する安全かつ有効な組換えウイルスワクチンを開発するための、テトラサイクリン遺伝子−スイッチ技術(T−REx,Invitrogen)(73)および上記HSV−1 UL9ポリペプチドのドミナントネガティブ変異体形態(例えば、UL9−C535C)の使用に基づく。
【0012】
その第1の局面において、本発明は、複製欠損性ドミナントネガティブ単純ヘルペスウイルス2(HSV−2)組換えウイルスに関する。上記ウイルスのゲノムは、少なくとも、第1のHSV−2糖タンパク質D(gD2)をコードする第1の配列(これは、第1のプロモーターに作動可能に連結されている)、および好ましくは、第2のHSV−2 gD2をコードする第2の配列(これは、第2のプロモーターに作動可能に連結されている)を有する。上記プロモーターは、それぞれ、第1のテトラサイクリンオペレーター(tet−O)配列および第2のtet−O配列に作動可能に連結されており、これらの各々は、tetリプレッサーがない場合に転写を進行させるが、リプレッサーによって結合される場合に転写をブロックする。上記ゲノムはまた、少なくとも、上記HSV−1もしくはHSV−2のUL9タンパク質の第1のドミナントネガティブ変異体形態をコードする第3の配列(これは、第3のプロモーターに連結されている)、および好ましくは、上記HSV−1もしくはHSV−2のUL9タンパク質の第2のドミナントネガティブ形態をコードする第4の配列(これは、第4のプロモーターに連結されている)を含む。上記第1のおよび第2のプロモーターと同様に、上記第3のおよび第4のプロモーターは、tet−O配列に各々作動可能に連結されており、これらは、tetリプレッサーによって結合される場合、転写をブロックする。さらに、上記ウイルスのゲノムは、機能的ICP0タンパク質をコードする配列の非存在によって特徴付けられる。その抗原性を増強させるために、上記ゲノムはまた、好ましくは、免疫調節遺伝子(例えば、IL12もしくはIL15および/またはHSV−1もしくはHSV−2の主要抗原(例えば、gBもしくはgC)を発現すべきである。
【0013】
用語「作動可能に連結される」とは、通常の機能を遂行させる様式で、一緒に結合される遺伝的エレメントに言及する。例えば、遺伝子は、その転写が、プロモーターの制御下にありかつこの転写が、上記遺伝子によって通常コードされる生成物の生成を生じる場合に、上記プロモーターに作動可能に連結されている。tetオペレーター配列は、上記オペレーターが、結合したtetリプレッサーの存在下で上記プロモーターからの転写をブロックするが、上記リプレッサーの非存在下で転写を可能にする場合に、プロモーターに作動可能に連結されている。用語「組換え」とは、ときおり、核酸配列および配列エレメントの組換え、およびこれら組換わった配列の、上記ウイルスへのもしくは祖先ウイルスへの導入によって形成された核酸配列を有するウイルスに言及する。
【0014】
好ましくは、上記使用されるプロモーターは、TATAエレメントを有するものであり、上記プロモーターに連結された上記tetオペレーター配列は、2〜20個の間の連結するヌクレオチドによって一緒に繋げられた2個のop2リプレッサー結合部位を有する。上記オペレーター配列の配置は、上記プロモーターを超えて有効な制御を達成するために重要である。具体的には、上記オペレーター配列における第1のヌクレオチドは、上記TATAエレメントにおける最後のヌクレオチドに対して6〜24ヌクレオチド、3’側に配置されなければならない。例えば、gDもしくはUL9のドミナントネガティブ変異体ポリペプチドをコードする構造配列は、上記オペレーターに対して3’側にある。具体的に好ましいプロモーターの中には、上記hCMV最初期プロモーターおよびHSV−1もしくはHSV−2の最初期プロモーターがある。特に好ましいのは、HSV−1もしくはHSV−2のICP4プロモーターである。
【0015】
別の局面において、本発明は、HSV発現に対して予防的にもしくは治療的に使用され得、単位用量形態において上記の組換えウイルスのうちの1種以上を含むワクチンに関する。用語「単位用量形態」とは、単一の薬物投与実体(例えば、錠剤もしくはカプセル剤)に言及する。好ましくは、上記「単位用量形態」は、選択された容積(単位用量)が注射によって患者に投与される場合に治療的効果もしくは予防的効果を提供する濃度で薬物が溶解される溶液であり、注射バイアル内で見いだされる。マウスにおいて使用される有効用量(2×10 PFU)に基づくと、ヒトにおける最小有効用量は、約1×10 pfuであるはずだと考えられる。従って、単位用量は、少なくともこの量のウイルスを有するはずであり、1×10〜1×10 pfuが代表的である。ワクチンは、凍結乾燥形態で貯蔵され得、投与前に薬学的に受容可能なキャリア中で再構成され得る。あるいは、調製物は、ビヒクル自体の中に貯蔵され得る。上記ワクチンの単一用量の容積は変動するが、一般に、約0.1ml〜10mlの間、およびより代表的には、約0.2ml〜5mlの間であるべきである。
【0016】
本発明はまた、HSV−1感染もしくはHSV−2感染およびこのような感染から生じる状態(例えば、陰部ヘルペス潰瘍)に対して患者を免疫する方法を包含し、上記方法は、上記のワクチンを上記患者に投与することによる。上記ワクチンはまた、上記ウイルスの大発生を予防もしくは低下させるために、感染した患者に与えられ得る。ウイルスの破壊を生じない患者にワクチンを投与するための任意の方法は、本発明と適合する。一般に、投与は、非経口的手段による(例えば、筋肉内注射もしくは静脈内注射による)。ワクチンの投与および投与の予定作成は、当該分野で慣用的な方法を使用して決定され得る。上記調製物は、1回もしくは複数回いずれかの注射において投与され得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1Aは、ドミナントネガティブおよび複製欠損性HSV−2組換え体N2−C535CおよびCJ2−gD2の構築のために使用されるプラスミドの模式図を示す。プラスミドpHSV−2/ICP0は、上記HSV−2 ICP0オープンリーディングフレーム(灰色のボックス)の268bp上流からICP0コード配列のポリAシグナルの40bp下流を網羅する上記HSV−2 ICP0配列を含むプラスミドである。Xho I-ICP0 DNAフラグメントを含む配列をXho Iを含むマルチクローニング配列(MCS)で置換することによって、pHSV2.ICP0−Vを構築した。LacZ遺伝子(斜線が入ったボックス)をpHSV2.ICP0−VのMCS領域に挿入することによって、pHSV2.ICP0−lacZを作製した。pHSV2.ICP0−lacZの示されたlacZを含むフラグメントを、上記tetOを含むhCMV主要最初期プロモーター(縦線が入ったボックス,CMVTO)の制御下にあるUL9−C535C(黒塗りのボックス)をコードするDNA配列で置換することによって、p02lacZ−TOC535Cを構築した。p02lacZTO−C535Cの示されたSnaB I/Pst Iフラグメントを、上記tetOを含むHSV−1最初期ICP4プロモーター(白抜きのボックス,ICP4TO)の制御下にあるgD2遺伝子(グラデーションを付けたボックス)をコードするDNA配列で置換することによって、p02lacZTO−gD2.C535Cを構築した。図1Bは、野生型HSV−2、HSV−2 ICP0ヌル変異体(N2−lacZ)、N2−C535CおよびCJ2−gD2のゲノムの模式図を示す。ULおよびUSは、それぞれ、上記HSV−2ゲノムの特有の長い領域および特有の短い領域を表し、これらには、それらの対応する逆方向反復領域(白抜きのボックス)が隣接している。上記ICP0コード配列の両方のコピーの、N2−lacZにおける上記lacZ遺伝子で、ならびに(1)N2−C535Cにおける上記tetOを有するhCMV主要最初期プロモーターの制御下にあるUL9−C535CをコードするDNA配列、および(2)反対の配向にある示されたtetOを有するプロモーターの下にあるUL9−C535CおよびgD2の両方をコードするDNA配列での置換は、上記HSV−2ゲノムの拡がったICP0コード配列の下に示される。
【図2】図2Aおよび2Bは、Vero細胞のCJ2−gD2感染後のgD2およびUL9−C535Cの高レベル発現を示す。図2Aにおいて、二連のVero細胞に、模擬感染(mock−infect)させたか、または10 PFU/細胞のMOIにおいて野生型HSV−2、N2−lacZ、N2−C535C、もしくはCJ2−gD2のいずれかを感染させた。感染細胞の抽出物を、感染後9時間で調製した。図2Bにおいて、Vero細胞に、10 PFU/細胞のMOIで、野生型HSV−1株 KOS、CJ9−gD、野生型HSV−2、もしくはCJ2−gD2を感染させた。感染細胞の抽出物を、感染後9時間で調製した。感染細胞抽出物中のタンパク質は、SDS−PAGEで分離され、続いて、HSV−1 gDに対するポリクローナル抗体(R45)、UL9に対するポリクローナル抗体、またはICP27およびgBに対して特異的なモノクローナル抗体(Santa Cruz)でイムノブロットした。
【図3】図3は、CJ2−gD2感染VCEP4R−28細胞におけるtetRによるgD2発現およびUL9−C535C発現の調節を示す。VCEP4R−28細胞を、60−mmディッシュあたり5×10細胞で播種した。播種後40時間で、二連の細胞に、テトラサイクリンの存在下もしくは非存在下のいずれかで、模擬感染させたか、または野生型HSV−2もしくはCJ2−gD2を、10 PFU/細胞のMOIにおいて感染させた。感染細胞の抽出物を、感染後9時間において調製し、続いて、HSV gDおよびUL9に対するポリクローナル抗体、およびICP27に対して特異的なモノクローナル抗体でイムノブロットした。
【図4】図4Aおよび図4Bは、野生型HSV−2の複製に対するCJ2−gD2のトランス−ドミナントネガティブ効果を示す。図4Aにおいて、三連のVero細胞に、2 PFU/細胞のMOIにおいて野生型HSV−2株186、2 PFU/細胞のMOIにおいて186および5 PFU/細胞のMOIにおいてCJ2−gD2、または2 PFU/細胞のMOIにおいて186および5 PFU/細胞のMOIにおいてN2−lacZ、のいずれかを感染させた。図4Bにおいて、Vero細胞に、5 PFU/細胞のMOIにおいて野生型HSV−2で単一に感染させるか、両方のウイルスに関して5 PFU/細胞のMOIにおいて186およびCJ2−gD2で同時に感染させるか、または15 PFU/細胞のMOIにおいて186で単一に感染させ、そして15 PFU/細胞のMOIにおいて186で、かつ5 PFU/細胞のMOIにおいてCJ2−gD2で同時に感染させた。感染細胞を感染後18時間で採取し、ウイルス力価を、Vero細胞単層に対して決定した。ウイルス力価を、平均±SDとして表す。上記グラフの上の数字は、単一の感染と同時感染との間の野生型ウイルス収量における倍数での低減(fold reduction)を示す。
【図5】図5Aおよび図5Bは、脳内接種後のBALB/cマウスにおける野生型HSV−2、株186、N2−lacZ、N2−C535C、およびCJ2−gD2の神経毒性を示す。雌性BALB/cマウス(4〜6週齢)を、5群(各々8匹)に無作為に割り当てた。マウスをペントバルビタールナトリウムで麻酔し、DMEM、25 PFU/マウスの野生型HSV−2株186、1×10 PFU/マウスのN2−lacZ、2.5×10 PFU/マウスのCJ2−gD2もしくはN2−C535Cのいずれかを、深さ4mmにおいて容積20μlで脳の左前頭葉に脳内注射を介して接種した。マウスを、接種後35日間にわたって疾患の徴候および症状について試験した。図5Aは、注射後の種々の日数での疾患スコアを示し、図5Bは、マウス生存のパーセンテージを示す。
【図6】図6Aおよび図6Bは、gD2特異的抗体およびHSV−2中和応答の誘導と関連する。雌性の4〜6週齢のBALB/cマウスに、DMEMで偽免疫したか(n=7,6,8,8)、またはCJ2−gD2(n=7,6,8,8)、N2−C535C(n=7,8,6)、もしくはCJ9−gD(n=6,8,6)を2×10 PFU/マウスの用量のいずれかで免疫し、2週間後に追加免疫した。初回免疫の4〜5週間後に、マウスの尾静脈から血液を採取した。図6Aにおいて、マウスの個々の群からの血清を、プールし、熱不活化した。HSV−2特異的中和抗体力価を決定した。結果は、平均力価±SEMを表す。図6Bにおいて、偽免疫マウス、CJ2−gD2免疫マウス、N2−C535C免疫マウス、もしくはCJ9−gD免疫マウスに由来する血清を、gD2発現プラスミドp02.4TO−gD2でトランスフェクトしたU2OS細胞から調製した細胞抽出物とともにインキュベートした。gD/マウスIgG特異的複合体を、プロテインAで沈殿させ、SDS−PAGEで分離し、gD特異的ポリクローナル抗体R45でプローブした。
【図7】図7A〜7Dは、CJ2−gD2免疫マウスにおけるHSV−2特異的CD4 およびCD8 T細胞応答の誘導に関する。雌性BALB/cマウスは、偽免疫したか、もしくは2週間間隔で2×10 PFU/マウスにおいてCJ2−gD2を2回免疫したかのいずれかであった。図7Aおよび図7Bにおいて、偽免疫したマウスおよび免疫したマウスは、追加免疫後9〜10週間において、模擬感染させたか、または野生型HSV−2を1×10 PFU/マウスの用量において皮下感染させたかのいずれかであった(n=3)。上記CD4 およびCD8 T細胞応答を、DynalマウスCD4−およびCD8−ネガティブキットを使用して、マウス脾臓から単離した、個々に精製したCD4 およびCD8 T細胞でのIFN−γ ELISPOTアッセイによって、抗原投与(challenge)後5日目に分析した。図7Cおよび図7Dにおいて、偽免疫したマウスおよびCJ2−gD2免疫したマウスを、追加免疫後5〜6週間において、模擬感染させたか、または野生型HSV−2に感染させ、続いて、IFN−γ ELISPOTアッセイを感染後4日目に行った(n=3)。IFN−γスポット形成細胞(SFC)の数を、平均±SEM/百万個のCD4 もしくはCD8 T細胞として表した。
【図8】図8は、CJ2−gD2で免疫したマウスにおける抗原投与したHSV−2の膣での複製の低下を示す。雌性の4〜6週齢BALB/cマウスを、4群(各10匹のマウス)に無作為に割り当てた。マウスは、DMEMで偽免疫したか、または2×10 PFU/マウスの用量でCJ2−gD2、N2−C535C、もしくはCJ9−gDで免疫したかのいずれかであった。マウスを2週間後に追加免疫した。5週間目に、マウスをメドロキシプロゲステロンで予備処置し、5×10 PFUのHSV−2株Gで膣内抗原投与した。膣スワブを、抗原投与後1日目、2日目、3日目、5日目、および7日目に採取した。スワブ材料における感染性ウイルスを、Vero細胞単層に対する標準的プラークアッセイによって評価した。ウイルス力価を、個々の膣スワブにおける平均±SEMとして表す。
【図9】図9Aおよび図9Bは、CJ2−gD2で免疫したマウスにおけるHSV−2疾患の予防を示す。野生型HSV−2での抗原投与後、図8の凡例に記載される個々のマウスを、性器HSV−2疾患および播種性のHSV−2疾患の発生率(図9A)および生存(図9B)について、以下のスケールを使用して、21日間の追跡期間の間に観察した:0=徴候なし、1=わずかに性器の紅斑および浮腫、2=中程度の性器炎症、3=化膿した性器病変および/もしくは全身の疾患、4=後肢麻痺、5=死亡。
【図10】図10は、HSV−1 UL9−C535Cコード配列(配列番号2)を示す。UL9−C535Cは、UL9アミノ酸1〜10、Thr−Met−Glyトリペプチド、およびUL9のアミノ酸535〜851からなる(Yaoら,(69)を参照のこと)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(発明の詳細な説明)
本発明は、複製欠損性であり、野生型HSV感染を阻害し得る(ドミナントネガティブ)HSV組換えウイルスを開発するために、テトラサイクリン遺伝子−スイッチ技術およびHSV−1 UL9のドミナントネガティブ変異体ポリペプチドを使用するという概念に基づく。CJ9−gDは、プロトタイプのドミナントネガティブで複製欠損性のHSV−1組換えウイルスであり、HSVウイルスDNA複製とは無関係に高レベルのHSV−1主要抗原である糖タンパク質D(gD)を発現する(7)。その最も好ましい形態において、本発明は、上記tetOを有するHSV−1主要最初期ICP4プロモーターによって駆動される、上記HSV−2 gD(gD2)遺伝子の2コピーをコードするドミナントネガティブおよび複製欠損性のHSV−2組換え(CJ2−gD2)を使用する。CJ2−gD2は、野生型HSV−2と同程度に効率的にgD2を発現し、同時感染細胞における野生型HSV−2の複製に対して強力なトランス阻害効果を発揮し得る。CJ2−gD2での免疫は、有効なHSV−2特異的中和抗体およびT細胞応答を誘発し、マウスにおける野生型HSV−2による膣内感染に対して完全な保護を提供する。
【0019】
CJ2−gD2は、野生型HSV−2性器感染および疾患に対する防御において、CJ9−gDより有効なワクチンである。さらに、CJ2−gD2の高用量の脳内注射は、マウスにおいて死亡状態も病的状態も引き起こさない。まとめると、これら観察から、CJ2−gD2は、ヒトにおけるHSV−2性器感染および疾患に対する防御において、伝統的な複製欠損性ウイルスワクチンおよびHSV−2サブユニットワクチンを超える利点を有することが示唆される。
【0020】
(Tetオペレーター/リプレッサースイッチおよび組換えDNA)
本発明は、とりわけ、上記テトラサイクリンオペレーターおよびリプレッサータンパク質によって発現が調節される遺伝子を有するウイルスに関する。これらエレメントおよびDNA配列を含む組換えDNA分子を作製するために使用され得る方法は、以前に記載されており(米国特許第6,444,871号;同第6,251,640号;および同第5,972,650号を参照のこと)、上記テトラサイクリン誘導性転写スイッチを含むプラスミドは、市販されている(T−RExTM,Invitrogen,CA)。
【0021】
本発明のDNAの本質的特徴は、プロモーター(好ましくは、TATAエレメントを有する)に作動可能に連結された遺伝子の存在である。tetオペレーター配列は、上記プロモーターの上記TATAエレメントにおける最後のヌクレオチドに対して3’側および上記遺伝子に対して5’側の6〜24ヌクレオチドの間に位置する。ウイルスは、遺伝子転写をブロックし、ウイルス複製を可能にするために、上記tetリプレッサーを発現する細胞において増殖させられ得る。上記tetリプレッサーが上記オペレーター配列に結合される強度は、2〜20個、好ましくは、1〜3個もしくは10〜13個のヌクレオチドの配列によって連結された2個のop2リプレッサー結合部位(各々のこのような部位は、ヌクレオチド配列:TCCCTATCAGTGATAGAGA(配列番号1)を有する)を含むオペレーターの形態を使用することによって増強される。リプレッサーがこのオペレーターに結合される場合、その会合した遺伝子の転写は、ほとんどもしくは全く起こらない。これら特徴を有するDNAが、上記テトラサイクリンリプレッサーをも発現する細胞に存在する場合、ウイルス感染を予防し得る遺伝子の転写は、上記オペレーターに結合する上記リプレッサーによってブロックされ、上記ウイルスの複製が起こる。
【0022】
(プロモーターおよび遺伝子の選択)
増殖性感染の間に、HSV遺伝子発現は、発現の時間的順序に基づいて、3つの主要なクラスに分かれる:最初期(α)、初期(β)、および後期(γ)。後期遺伝子は、2つのグループ、γ1およびγ2にさらに分けられる。最初期遺伝子の発現は、デノボウイルスタンパク質合成を必要とせず、上記ウイルスDNAが核に入る場合に、細胞転写因子と一緒にビリオン会合タンパク質VP16によって、活性化される。上記最初期遺伝子のタンパク質生成物は、感染細胞ポリペプチド(nfected ell olypeptides)、ICP0、ICP4、ICP22、ICP27、およびICP47と称され、それは、好ましくは、本明細書で考察される組換え遺伝子の発現を指向することにおいて使用されるこれら遺伝子のプロモーターである。
【0023】
ICP0は、潜伏期からのHSVの再活性化を増強することにおいて主要な役割を果たし、低い感染多重度で上記ウイルスに対して顕著な増殖の利点を付与する。ICP4は、HSV−1の主要な転写調節タンパク質であり、これは、ウイルス初期遺伝子および後期遺伝子の発現を活性化する。ICP27は、増殖性ウイルス感染に必須であり、効率的なウイルスDNA複製、ならびにウイルスγ遺伝子およびウイルスβ遺伝子のサブセットの最適な発現に必要とされる。HSV感染の間のICP47の機能は、感染細胞の表面上で主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスIの発現をダウンレギュレートすることであるようである。
【0024】
上記HSV−1 UL9−C535Cのコード領域のHSV−1ゲノム配列の全長配列は、図10に示される(配列番号2)。組換えウイルスにおいて使用するために記載される他の配列は、すべて当該分野で周知である。例えば、HSV−1の全長ゲノム配列は、GenBank配列 X14112として見いだされ得る。上記HSV−1 ICP4配列は、GenBank番号 X06461として見いだされ得る;HSV−1 糖タンパク質Dは、GenBank配列J02217として見いだされ得る;HSV−2 糖タンパク質Dは、GenBank番号K01408として見いだされ得る;そして上記HSV−1 UL 9遺伝子は、GenBank配列M19120として見いだされ得る(これらはすべて、その全体が本明細書に参考として援用される)。
【0025】
(Tetリプレッサーの含有およびウイルスの作製)
上記HSV ICP0プロモーターおよびICP4プロモーターの配列、ならびにその調節が内因的に制御される遺伝子の配列は、当該分野で周知であり(43,44,56)、これらエレメントを含むウイルスベクターを作製するための手順は、以前に記載されてきた(米国出願公開2005−0266564を参照のこと)。これらプロモーターは、遺伝子発現を促進することにおいて非常に活性であるだけでなく、それらはまた、VP16(HSV−1もしくはHSV−2が細胞に感染する場合に放出されるトランスアクチベーター)によって特異的に誘導される。
【0026】
いったん適切なDNA構築物が生成されると、それらは、当該分野で周知の方法を使用して、HSV−2ウイルスに組み込まれ得る(一般に、Yaoら(68)を参照のこと)。
【0027】
(免疫方法)
本明細書に記載されるウイルスは、代表的には、ワクチンとしての注射によって、個体および/もしくは患者を免疫するために使用される。上記ワクチンは、HSV−1もしくはHSV−2の感染を予防するために予防的に、または既に起こったHSV−1感染もしくはHSV−2感染の重篤度を低下させるために治療的に、の両方のために、使用され得る。ワクチンを作製するために、上記ウイルスは、任意の薬学的に受容可能な溶液(滅菌等張性生理食塩水、水、リン酸緩衝化生理食塩水、1,2−プロピレングリコール、水と混合したポリグリコール、リンゲル溶液などが挙げられる)中で懸濁され得る。投与されるべきウイルスの正確な数は、本発明にとって重要ではないが、「有効量」(すなわち、HSV感染を阻害するに十分強い免疫学的応答を誘発するために十分な量)であるべきである。一般に、最初に投与されるウイルスの数(PFU)は、1×10〜1×1010の間であると予測される。
【0028】
投与量の有効性、および全体的な処置の有効性は、HSVを攻撃することにおいて有効な抗体の存在について試験するために、標準的な免疫学的方法を使用して評価され得る。免疫学的注射は、所望される程度の回数、反復され得る。
【実施例】
【0029】
本実施例は、HSV−2組換えウイルスの作製、およびその免疫学的効果を決定するための試験を記載する。
【0030】
(I.材料および方法)
(細胞)
アフリカミドリザル腎臓(Vero)細胞および骨肉腫株U2OS細胞を増殖させ、100U/ml ペニシリンGおよび100μg/ml 硫酸ストレプトマイシン(GIBCO,Carlsbad,CA)の存在下で、10% ウシ胎仔血清(FBS)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;Sigma Aldrich)中で維持した(71)。U2OS細胞は、上記HSV−1 ICP0欠失を機能的に補完し得る(71)。U2CEP4R11細胞は、DMEM+10% FBSおよびハイグロマイシンB(50μg/ml)中で維持したtetR発現U2OS細胞である(73)。VCEP4R−28細胞は、DMEM+10% FBSおよびハイグロマイシンB(50μg/ml)中で維持したtetR発現Vero細胞である(73)。
【0031】
(プラスミド)
プラスミドpHSV2/ICP0は、上記HSV−2 ICP0オープンリーディングフレーム(ORF)の268bp上流からICP0コード配列のポリAシグナルの40bp下流まで網羅するPCR増幅したHSV−2 ICP0配列をコードするpUC19由来プラスミドである。pHSV2.ICP0−Vは、ICP0の開始コドンの25bp上流からICP0 ORFの終止コドンの397bp上流までの配列を含むXho I-ICP0 DNA配列を、Xho I含有マルチクローニング配列(MCS)で置換することによって、プラスミドpHSV−2/ICP0に由来するHSV−2 ICP0クローニングプラスミドである。プラスミドpHSV2.ICP0−lacZを、pcDNA3−lacZのHindIII−Not I−LacZ遺伝子含有フラグメントをpHSV2.ICP0−Vに、Hind III−Not I部位で挿入することによって作製した。pcmvtetO−UL9C535Cは、上記tetO含有hCMV最初期プロモーターの制御下でUL9−C535Cをコードするプラスミドである(68)。p02lacZ−TOC535C(上記tetO含有hCMV主要最初期プロモーターによって駆動されるUL9−C535Cを発現する(図1A))を、pHSV2.ICP0−lacZの上記EcoR I/Age I−lacZ含有フラグメントをpcmvtetOUL9−C535Cの上記EcoR I/Hind III−hcmvtetO−UL9C535C含有フラグメントで置換することによって、構築した(69)。
【0032】
pAzgD−HSV−2は、Patricia Spear博士(Northwestern University)が提供してくれたHSV−2 gD2コードプラスミドである。pICP4TO−hEGFは、上記tetOを有するHSV−1最初期ICP4プロモーターの制御下でヒト上皮増殖因子を発現する。上記プロモーターは、ICP4遺伝子の転写開始部位に対して−377bp〜−19bpまでのHSV−1 ICP4プロモーター配列からなる。プラスミドpcmvtetO−hEGFにおける上記tetOを有するhCMV主要最初期プロモーター(73)に類似して、上記tetO含有ICP4プロモーターは、上記ICP4 TATAエレメント(TATATGA)の10bp下流においてtetオペレーターの2コピーをタンデムで含む。従って、pcmvtetO−hEGFと同様に、pICP4TO−hEGFからのhEGF発現は、tetRの存在下でテトラサイクリンによって厳密に調節され得、上記tetOの挿入は、tetRの非存在下で上記ICP4プロモーター活性に対して何ら影響を有さない。pICP4TO−hEGFにおいて上記tetOを有するICP4プロモーターと関連したさらなる特有の特徴は、上記野生型ICP4プロモーターにおいてICP4遺伝子の転写開始部位にまたがる(51)上記ICP4 DNA結合配列 ATCGTCCACACGGAG(配列番号3)がないことである。従って、ICP4による自己調節を受けやすい上記野生型ICP4プロモーター(16,57)とは異なって、pICP4TO−hEGFにおける上記tetOを有するICP4プロモーターは、上記HSV−1主要調節タンパク質ICP4によって抑制されない。
【0033】
gD2を、上記tetO含有ICP4プロモーターの制御下でクローニングするために、本発明者らは、pICP4TO−hEGFにおけるSma I−Bam HI tetO含有ICP4プロモーターを、pHSV2.ICP0−Vの中へ、上記ベクターのMCSの中にクローニングすることによって、プラスミドp02ICP4−TOを最初に構築した。p02.4TO−gD2は、上記tetOを有するICP4プロモーターの制御下にあるpAzgD−HSV−2のgD2遺伝子をコードするp02ICP4−TO由来プラスミドである。
【0034】
p02lacZTO−gD2.C535C(上記hCMVプロモーターの−236bpにおいて5’短縮を有する上記tetOを有するhCMV最初期プロモーターの制御下でUL9−C535Cを、かつ上記tetO−ICP4プロモーターの制御下にある上記gD2遺伝子をコードするプラスミド(図1A))を、p02lacZTO−C535CのSnaB I/Pst Iフラグメントをp02.4TO−gD2のHind III/Pst I−gD2含有フラグメントで置換することによって作った。p02lacZTO−gD2.C535Cにおいて、UL9−C535C遺伝子およびgD2遺伝子の転写は、反対の配向にある。
【0035】
(ウイルス)
野生型HSV−2(株186および株G)を増殖させ、Vero細胞上でプラークアッセイした。N2−lacZは、HSV−2 ICP0プロモーターの制御下にあるLac Z遺伝子をコードするHSV−2 ICP0ヌル変異体である。この中で上記ICP0遺伝子の両方のコピーは、Nhe Iで直線状にしたpHSV2.ICP0−lacZでU2OS細胞をトランスフェクトし、続いて、以前に記載される(74)ようにHSV−2を重感染することによる相同組み換えを介して、pHSV2.ICP0−lacZにおける上記Lac Z遺伝子によって置換されている。上記ICP0遺伝子の、上記ICP0遺伝子座における上記Lac Z遺伝子での置換を、上記ICP0遺伝子に隣接するプライマーおよび上記Lac Z遺伝子に対して特異的なプライマーを用いる、N2−lacZウイルスDNAのPCR分析によって確認した(41,74)。
【0036】
N2−C535Cは、N2−lacZの誘導体である。この中で、上記Lac Z遺伝子の両方のコピーは、プラスミドp02lacZ−TOC535Cにおける上記tetO含有hCMV プロモーターの制御下でUL9−C535CをコードするDNA配列で置換されている(図1B)。簡潔には、U2CEP4R11細胞を、上記直線状にしたp02lacZ−TOC535Cおよび感染性N2−lacZウイルスDNAで、Lipofectamine 2000によって同時トランスフェクトした。上記トランスフェクションの子孫を、標準的なプラークアッセイによって、N2−lacZの上記Lac Z遺伝子の、上記cmvtetOUL9−C535Cを含むDNA配列での組換え置換についてスクリーニングした。プラークを、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−b−D−ガラクトピラノシド(X−Gal)で、感染後96時間で染色した。白いプラーク(これは、上記UL 9−C535C DNAコード配列による上記Lac Z遺伝子の両方のコピーの置換を反映する)を単離した。上記単離物のうちの1つを、N2−C535Cと称し、これは、4回のプラーク精製の後に、均質に白いプラークを得た。
【0037】
N2−lacZの中のICP0遺伝子座における上記Lac Z遺伝子の両方のコピーを、上記tetOを有するhCMV主要最初期プロモーターの制御下にあるUL9−C535Cおよび上記tetO含有HSV−1 ICP4プロモーター(これは、ICP4遺伝子の転写開始部位に対して−377bpから−19bpまでのHSV−1 ICP4プロモーター配列からなる(71))の制御下にあるgD2をコードするDNA配列で置換することによって、CJ2−gD2を構築する(図1B)。
【0038】
(SDS−PAGEおよびウェスタンブロット分析)
60mmディッシュ中に、7.5×10 細胞/ディッシュで播種したVero細胞に、模擬感染させたか、または10 PFU/細胞のMOIで示されたウイルスを感染させた。細胞抽出物を、感染後9時間もしくは16時間で調製した(72)。上記細胞抽出物中のタンパク質を、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)(9% アクリルアミド)によって分離し、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)膜に移し、HSV−1 gDに対するポリクローナル抗体(R45(Gary H.Cohen博士およびRoselyn J Eisenberg博士から贈与))、UL9(Mark Challbergから贈与)、もしくはICP27およびgBに対して特異的なモノクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,CA)のいずれかでプローブした。
【0039】
(マウス)
雌性BALB/cマウス(4〜6週齢)を、Charles River Laboratories(Wilmington, MA)から購入した。マウスを、1ケージあたり4匹で金属製ケージの中に収容し、12時間明暗サイクルで維持した。マウスを、実験前に1週間にわたって上記収容条件に順応させた。すべての動物実験は、Harvard Medical Area Standing Committee on AnimalsおよびAmerican Veterinary Medical Associationによって承認されたプロトコルに従って行った。
【0040】
(免疫および抗原投与)
BALB/cマウスを、いくつかの群に無作為に分け、彼らの左背側脇腹部(left rear flank)を剃毛した。マウスは、27ゲージ針を取り付けた1mlシリンジを使用して、左背側脇腹部に、2×10 PFU/マウスのCJ2−gD2、N2−C535C、CJ9−gDをワクチン接種したか、もしくは容積30μlにおいてDMEMを皮下に模擬ワクチン接種したかのいずれかであった。2週間後に、マウスを追加免疫し、野生型HSV−2株Gを2回目の免疫の3週間後に抗原投与した。抗原投与の5日前、マウスに、メドロキシプロゲステロン(SICOR Pharmaceuticals,Inc.,Irvine,CA)を20μlの容積中3mg/マウスで頚部のひだ襟に皮下注射した(7,50)。膣内抗原投与については、すべての群のマウスを麻酔し、アルギン酸カルシウムスワブ(滅菌泌尿生殖器アルギン酸カルシウムが先端についたアプリケーター(urethro−genital calcium alginate tipped applicator),Puritan Medical Products company LLC,Guilford,Maine USA)で予めぬぐい、HSV−2株Gの5×10 PFU(50 LD50)を含む20μlの培養培地を膣内接種した(50)。動物を、感染後30〜45分間にわたって麻酔の影響下で、彼らの下半身(rear part)を持ち上げた状態で背中を保持し続けた。
【0041】
(急性感染アッセイおよび臨床的観察)
抗原投与後1日目、2日目、3日目、5日目、および7日目に、膣粘膜を、アルギン酸カルシウムでぬぐった(7)。スワブ材料中の感染性ウイルスを、Vero細胞単層に対する標準的プラークアッセイによって評価した。野生型HSV−2での抗原投与後、マウスを、性器病変および全身の疾患の徴候について21日の追跡期間の間に毎日評価した。疾患の重篤度を、以下のとおりスコア付けした:0=ヘルペス感染の徴候なし、1=わずかな性器紅斑および浮腫、2=中程度の性器炎症、3=化膿した性器病変および/もしくは全身の疾患、4=後肢麻痺、および5=死亡(8,50)。
【0042】
(HSV−2特異的中和抗体の検出)
初回免疫の4週間後に、免疫したマウスおよび模擬免疫したマウスの尾静脈から血液を採取した。中和血清抗体力価を、補体(5−7)と250 PFUの野生型HSV−2株186の存在下で先に記載されるように決定した。上記中和抗体力価を、培地+補体単独で得られた上記HSV PFUに対して、HSV PFUにおける50%低下を達成するために必要とされる最終血清希釈度として表した。
【0043】
(免疫沈降)
7.5×10 細胞/100−mmディッシュにおいて播種したU2OS細胞を、模擬トランスフェクトしたか、または播種後24時間において10μgのp02.4TO−gDでリポフェクタミン2000によってトランスフェクトした。細胞抽出物を、トランスフェクション後48時間において調製した(72)。免疫沈降を、模擬免疫したマウスおよび上記で調製した70μlの細胞抽出物で免疫したマウスから採取した10μlのプールされた血清を混合することによって行った。上記gD/マウスIgG特異的複合体を、プロテインA(Pierce Classic IP kit,Pierce Biotechnology,Rockford, IL)で沈降させ、SDS−PAGEで分離し、ウサギ抗gD特異的ポリクローナル抗体R45でプローブし、続いて、HRP結合体化ヤギ抗ウサギIgG(Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,CA)と反応させた。
【0044】
(IFN−γ ELISPOTアッセイ)
雌性BALB/cマウスを、DMEMで偽免疫したか、またはCJ2−gD2で用量2×10 PFU/マウスで、2週間間隔で2回免疫した。2回目の免疫後5〜10週間において、偽免疫したマウスおよびCJ2−gD2免疫したマウスを、模擬抗原投与したか、または野生型HSV−2株186を皮下で用量1×10 PFU/マウスにおいて抗原投与した。脾細胞を、抗原投与後4日目もしくは5日目にマウスの個々の群(n=3)から単離した。上記CD4 およびCD8 T細胞ELISPOTアッセイを、先に記載されたように行った(42)。簡潔には、CD4 およびCD8 T細胞を、DynalマウスCD4陰性単離キットもしくはCD8陰性単離キットを使用して脾細胞から単離し、抗マウスIFN−γ特異的モノクローナル抗体(AN18)で予めコーティングした96ウェル濾過プレート中、7.5×10もしくは1.5×10 細胞/ウェルにおいて四連で播種した。37℃で20時間にわたるインキュベーション後、ウェルを洗浄し、ビオチン化IFN−γ特異的モノクローナル抗体(R4−6A2,Mabtech)で室温において反応させ、ストレプトアビジン−アルカリホスファターゼ(Mabtech)とともにインキュベートした。上記IFN−γスポット形成細胞を、BCIP/NBT基質の添加によって検出した。スポットを解剖顕微鏡で計数し、IFN−γスポット形成細胞(SFC)の数を、平均±SEM/100万 CD4 もしくはCD8 T細胞として表した。
【0045】
(定量的リアルタイムPCR)
脊髄および後根神経節を含む脊柱の下部腰椎(lower lumbar)および仙骨部を、追加免疫の16日後、もしくは5×10 PFUのHSV−2株Gでの膣内抗原投与の21日後に、CJ2−gD2もしくはCJ9−gDのいずれかで免疫した9匹もしくは10匹のマウスから回収した。上記脊柱を4つの小片に切断し、各小片を、0.5mlの通常の増殖培地中で別個に保持し、−80℃においてさらに加工処理するために貯蔵した。総DNAを、DNeasy組織キット(Qiagen,Santa Clarita,CA)を使用して各後根神経節から単離し、400μl AE緩衝液中で懸濁した。HSV−2 DNAの存在を、先に記載されるように(8)、100ngの神経節DNAおよび上記HSV DNAポリメラーゼに特異的なプライマー(順方向: 5’ GCT CGA GTG CGA AAA AAC GTT C (配列番号4)、逆方向: 5’ CGG GGC GCT CGG CTA AC (配列番号5))を用いて、リアルタイムPCR(Applied Biosystems 7300 Real−Time PCR System)によって定量した。確実に検出され得るHSV−2ウイルスDNAの最小限のコピーは、反応あたり1コピーであった。
【0046】
(統計分析)
統計分析のために、片側スチューデントt検定を行った。結果は、P値が0.05未満である場合に統計的に有意であるとみなされる。
【0047】
(II.結果)
(CJ2−gD2の構築)
gD2発現ドミナントネガティブおよびUL9−C535C発現ドミナントネガティブかつ複製欠損性HSV−2組換えウイルスの生成における第1の工程として、本発明者らは、HSV−2 ICP0欠失変異体、N2−lacZを構築した。この中でHSV−2株186におけるICP0遺伝子の両方のコピーが、上記HSV−2 ICP0プロモーターの制御下にある上記Lac Z遺伝子によって置換されている(図1B)。本発明者らは、上記HSV−1 ICP0ヌル変異体7314(11)と同様に、ヒト骨肉腫株U2OS細胞に対するN2−lacZの上記プラーク形成効率は、Vero細胞におけるものの425倍であることを示し、このことは、U2OS細胞における細胞活性が、HSV−2 ICP0を機能的に代替し得ることを示す。野生型HSV−2と比較して、Vero細胞におけるN2−lacZの複製効率は、0.1 PFU/細胞のMOIにおいて600分の1未満に低下する。この知見と一致して、1×10 および5×10 PFU/マウスにおけるN2−lacZの膣内接種は、局所的な疾患も全身的な疾患ももたらさかった一方で、1×10 PFU/マウスの野生型HSV−2で感染させたマウスは、重篤な陰部ヘルペスを発症し、感染後11日目までにすべて死亡した。さらに、N2−lacZは、用量5×10 PFU/マウスでの膣内感染後に、再活性化可能な潜伏感染を確立できない。これら結果は、HSV−1 ICP0(10,11,37,64)と同様に、HSV−2 ICP0の欠失は、上記ウイルスが急性感染および再活性化可能な潜伏感染をインビボで開始する能力を有意に減弱することを示す。
【0048】
ドミナントネガティブおよび複製欠損性HSV−2ウイルス組換え体によるgD2発現のレベルを最大にする目的で、本発明者らは、N2−lacZにおける上記Lac Z遺伝子の両方のコピーを、上記tetOを有するHSV−1主要最初期ICP4プロモーターにより駆動されるgD2遺伝子およびhCMV最初期プロモーターの全長の−236bpにおいて短縮を有する上記tetO含有hCMV主要最初期プロモーターの制御下にあるUL9−C535CをコードするDNA配列(図1B)で置換することによって、ドミナントネガティブおよび複製欠損性HSV−2組換え体(CJ2−gD2)を構築した。従って、HSV−1 UL9遺伝子座における上記tetO含有hCMVプロモーターによって駆動される挿入されたHSV−1 gD遺伝子の単一のコピーをコードする(41)CJ9−gDとは異なって、CJ2−gD2は、上記tetOを有するHSV−1最初期ICP4プロモーター(これは、ICP4遺伝子の転写開始部位に対して−377bpから−19bpまでのHSV−1 ICP4プロモーター配列からなる)によって制御されるgD2遺伝子の2コピーを含む。N2−C535Cは、N2−lacZにおける上記Lac Z遺伝子の両方のコピーが上記全長tetOを有するhCMV最初期プロモーターの制御下にあるUL9−C535Cによって置換されるHSV−2組換え体である。
【0049】
(CJ2−gD2は、感染したVero細胞において高レベルのgD2およびUL9−C535Cを発現する)
それぞれ、上記tetOを有するHSV−1最初期ICP4プロモーターおよびhCMV最初期プロモーターからのgD2およびUL9−C535Cの発現を試験するために、Vero細胞に、10 PFU/細胞のMOIにおいて、野生型HSV−2、N2−lacZ、N2−C535C、およびCJ2−gD2を感染させ、感染後9時間に採取した。感染細胞タンパク質を、HSV−1/2 ICP27モノクローナル抗体、UL9ポリクローナル抗体、およびgD1ポリクローナル抗体(R45)でのウェスタンブロットアッセイによって分析した。gD2と同様に、gB2が中和抗体およびT細胞応答の主要な標的であり、γ1生成物であると仮定すると、感染細胞タンパク質をまた、gB特異的モノクローナル抗体でプローブした。図2Aは、CJ2−gD2およびN2−C535Cが、野生型HSV−2およびN2−lacZによって発現されるものに類似のレベルのHSV−2最初期タンパク質ICP27を発現することを示す。有意な量のUL9−C535Cが、CJ2−gD2感染細胞およびN2−C535C感染細胞において検出された一方で、gD2もgB2も、N2−C535C感染細胞においてほとんど検出されなかった。しかし、N2−C535C感染とは対照的に、CJ2−gD2でのVero細胞の感染は、野生型HSV−2が感染した細胞におけるものに類似のレベルで、gD2の高レベル発現をもたらし、gD2発現は、gB2発現に対して何ら影響を与えない。上記結果はまた、上記HSV−1 ICP0ヌル変異体7134(71)と同様に、N2−lacZにおけるHSV−2 ICP0の欠失は、gD2発現を大いに低下させることを示す。その真正のHSV初期プロモーターからのUL9の非常に低いレベルの発現(68)に起因して、野生型UL9は、これら4種の異なるウイルスが感染した細胞の中では検出されなかった。さらに、本発明者らは、CJ2−gD2感染細胞において発現されたUL9−C535Cのレベルが、N2−C535Cが感染した細胞より一貫して高いことを観察する。このことは、上記HSV−1 ICP4プロモーターに存在する上記HSV VP16応答性エレメントTAATGARAT(71)が、上記記載されたハイブリッドICP4/hCMVプロモーターシステムのhCMV−最初期プロモーターからのUL9−C535Cの増強された発現をもたらし得ることを示唆する。
【0050】
図2Bで示された上記gD1ポリクローナル抗体(R45)でのウェスタンブロット分析から、遙かにより高いレベルのgDが野生型HSV−2に感染した細胞より野生型HSV−1感染細胞において検出された一方で、CJ9−gD感染細胞において検出されたgDのレベルは、CJ2−gD2が感染した細胞より顕著に低かったことが示される。この知見は、CJ2−gD2がCJ9−gDによって発現されたgD1より効率的にgD2を発現することを示す。
【0051】
CJ2−gD2感染Vero細胞において発現された上記UL9−C535CおよびgD2が、実際に、上記tetOを有するプロモーターの制御下にあることを実証するために、本発明者らは、次に、安定なtetR発現Vero細胞株であるVCEP4R−28細胞に、野生型HSV−2およびCJ2−gD2を、10 PFU/細胞のMOIにおいて、テトラサイクリンの非存在下および存在下で感染させた。感染細胞由来のタンパク質を、感染後9時間において採取し、ウェスタンブロットによって分析した。認められ得るように(図3)、類似のレベルのICP27が、テトラサイクリンの非存在下および存在下の両方で、野生型HSV−2感染VCEP4R−28細胞およびCJ2−gD2感染VCEP4R−28細胞において検出されたが、UL9−C535Cは、テトラサイクリンが存在したときにのみ、CJ2−gD2感染VCEP4R−28細胞において検出され、顕著により高いレベルのgD2が、テトラサイクリンの非存在下よりテトラサイクリンの存在下で検出された。
【0052】
(CJ2−gD2はVero細胞において複製できない)
ICP0の欠如および上記tetOを有するhCMV主要最初期プロモーターからのUL9−C535Cの高レベル発現が原因で、CJ2−gD2は、上記tetR発現ICP0補完U2OS細胞株U2CEP4R11において構築され、増殖されなければならなかった(68)。本発明者らは、Vero細胞単層上で6.65×10PFUのCJ2−gD2をプラークアッセイし、感染性ウイルスを検出しなかった。このことは、Vero細胞におけるCJ2−gD2のプラーク形成効率が、その補完U2CEP4R11細胞と比較して、少なくとも6.65×10分の1になったことを示す。
【0053】
(CJ2−gD2による野生型HSV−2複製の阻害)
本発明者らは、次に、同時感染アッセイによって野生型HSV−2ウイルス複製の、複製に対するCJ2−gD2による高レベルUL9−C535C発現のドミナントネガティブ効果を試験した(図4)。図4Aは、5 PFU/細胞のMOIでのCJ2−gD2および2 PFU/細胞のMOIでの野生型HSV−2によるVero細胞の同時感染は、上記ウイルス力価が、Vero細胞においてもしくはU2CEP4R11細胞において決定されたか否かにかかわらず、同じMOIでの野生型HSV−2によって単一で感染させた細胞と比較して、野生型HSV−2生成においてほぼ500分の1になったことを示す。野生型ウイルス収量のわずかな低下が、類似の同時感染実験がN2−lacZで行われた場合に検出された。
【0054】
野生型HSV−2の複製を阻害することにおいてCJ2−gD2の有効性をさらに試験するために、本発明者らは、それぞれ、1:1および3:1のMOI比において、野生型HSV−2およびCJ2−gD2での同時感染実験を行った。図4Bの結果は、CJ2−gD2が、野生型HSV−2感染を両方の条件下で妨げることにおいて有効である(それぞれ、5 PFU/細胞および15 PFU/細胞のMOIにおいて、野生型HSV−2に単一に感染させた細胞と比較して、示された同時感染比において、野生型ウイルス合成の約151分の1および約94分の1の低下をもたらす)ことを示す。
【0055】
(CJ2−gD2は、マウスにおける脳内注射後に無毒性である)
神経毒性は、HSV感染の顕著な特徴のうちの1つである。CJ2−gD2およびN2−C535CがCNSにおいて複製する能力を決定するために、雌性BALB/cマウス(5〜6週齢)を、5群(各々8匹のマウス)に無作為に割り当てた。CJ2−gD2およびN2−C535Cを、深さ4mmで28ゲージインスリン針を用いて、20μl容積中2.5×10 PFU/マウスにおいて各マウスの脳の左前頭葉に直接接種した(74)。罹病率および死亡率を、35日間にわたってモニターした。野生型HSV−2株186のLD50が、硝子体内注射後に雌性BALB/cマウスにおいて約10 PFUであると仮定して(38)、マウスの1群に、25 PFU/マウスにおいて野生型HSV−2もまた接種した。さらなるコントロールとして、第5群のマウスに、1×10 PFU/マウスにおいてN2−lacZを接種した。図5は、DMEMを接種したマウスと同様に、CJ2−gD2およびN2−C535Cを用量2.5×10 PFUにおいて脳内接種したマウスが、35日間の追跡の間に神経毒性の徴候を示さなかった一方で、用量25 PFU/マウス(CJ2−gD2を接種したマウスに与えられた用量の100,000分の1の用量)において野生型HSV−2を接種したすべてのマウスは、接種後10日目までに死亡したことを示す。そしてすべての接種したマウスは、HSV−2感染と一般に関連したCNS疾患の徴候(粗くなった毛並み、猫背、失調、および食欲不振が挙げられる)を示した。N2−lacZを接種したマウスのうちの100%が生き残ったが、すべてのマウスは、脳炎の徴候を示した。
【0056】
(CJ2−gD2で免疫したマウスにおけるHSV−2特異的中和抗体およびgD2特異的抗体応答の誘導)
CJ2−gD2が抗HSV−2特異的中和抗体を誘発する能力を、用量2×10PFUにおいてCJ2−gD2で免疫したマウスで決定した。コントロールとして、マウスの群にも、N2−C535CもしくはCJ9−gDを同じ用量で免疫した。示されるように(図6A)、CJ2−gD2で免疫したマウスにおける上記HSV−2特異的中和抗体力価の平均は、平均500であり、これは、N2−C535Cで免疫したマウスのものの3倍であり(p=0.015)、CJ9−gD免疫マウスにおいて誘導された中和抗体力価に匹敵する(p=0.28)。HSV−2に対する特異的抗体力価は、1:10希釈で模擬ワクチン接種したマウスにおいては検出されなかった。
【0057】
図6Bは、gD特異的抗体応答の類似のレベルが、CJ2−gD2で免疫したマウスとCJ9−gDで免疫したマウスとの間で、それぞれの免疫沈降させたgD2複合体を抗gD1抗体R45でプローブした場合に検出された一方で、CJ2−gD2で免疫したマウスにおける抗gD特異的抗体のレベルは、N2−C535Cで免疫したマウスおよび模擬免疫したコントロールより有意に高かったことを示す。まとめると、図6に示された結果は、CJ2−gD2によるgD2の高レベル発現が、N2−C535Cと比較して、抗gD2抗体および抗HSV−2特異的中和抗体応答を誘発することにおいて増大した効力をもたらすことを示す。
【0058】
(CJ2−gD2で免疫したマウスにおけるHSV−2特異的T細胞応答の誘導)
HSV−2特異的T細胞応答を誘発することにおいてCJ2−gD2免疫の有効性を評価するために、本発明者らは、野生型HSV−2で抗原投与した後の免疫したマウスにおいて記憶T細胞応答を試験するために再現実験(recall experiment)を行った。第1に、偽ワクチン接種したマウスおよびCJ2−gD2ワクチン接種したマウスを、模擬抗原投与したか、または追加免疫後9〜10週間において野生型HSV−2で抗原投与し、続いて、抗原投与後5日目に個々のマウス群の脾臓から単離したCD4 およびCD8 T細胞でのIFN−γ ELISPOTアッセイ(n=3)を行った(図7A)。野生型HSV−2で抗原投与したCJ2−gD2ワクチン接種したマウスは、上記模擬感染したCJ2−gD2免疫マウスと比較して、IFN−γ−陽性CD4 T細胞の4.8倍の増大を有した(p<0.0001)。より有意なことには、以前にCJ2−gD2でワクチン接種したHSV−2感染マウスにおいて検出されたIFN−γ分泌CD4 T細胞の数は、HSV−2感染した偽ワクチン接種マウスより18倍多かった(p<0.0001)。IFN−γ−陽性CD4 T細胞は、同一条件下で、偽ワクチン接種した模擬感染コントロールマウスにおいて検出されなかった。これら知見は、CJ2−gD2での免疫は、強力な記憶CD4 T細胞応答を誘発することを示す。
【0059】
上記偽ワクチン接種コントロールと比較して、CJ2−gD2ワクチン接種したマウスにおいてIFN−γ分泌CD8 T細胞の2倍超の増加が存在した一方で、IFN−γ分泌CD8 T細胞の類似の数が、HSV−2感染させた偽ワクチン接種マウスおよびHSV−2感染させたCJ2−gD2ワクチン接種マウスの脾臓において検出された(図7B)。本発明者らは、従って、再現実験の第2のセットを行った。ここで偽ワクチン接種したマウスおよびCJ2−gD2ワクチン接種したマウスを、模擬抗原投与したか、または2回目のワクチン接種後5〜6週間において、野生型HSV−2で抗原投与した(n=3)。CD4 およびCD8 ELISPOTアッセイを、感染後4日目に行った(図7Cおよび図7D)。それぞれ、IFN−γ分泌CD4 およびCD8 T細胞における8.6倍および5.7倍の増加は、模擬感染させたCJ2−gD2免疫マウスと比較して、HSV−2感染後のCJ2−gD2免疫マウスにおいて検出された(CD4 T細胞:p=0.035;CD8 T細胞:p=0.01)。さらに、HSV−2での抗原投与後に、IFN−γ分泌CD4 およびCD8 T細胞は、偽ワクチン接種マウスと比較して、CJ2−gD2ワクチン接種マウスにおいてそれぞれ、8倍および9.5倍高かった(CD4 T細胞:p=0.036;CD8 T細胞:p=0.01)。まとめると、これら研究から、CJ2−gD2での免疫が、確固としたHSV−2特異的記憶CD4 およびCD8 T細胞応答を誘発し得、これは、HSV−2感染の間に効率的に再現され得ることが示される。
【0060】
(免疫したマウスにおけるHSV−2性器感染および疾患に対する防御)
初回免疫の5〜6週間後に、マウスを、50 LD50(5×10 PFU/マウス)においてHSV−2株Gで膣内に抗原投与した。膣スワブを、抗原投与後1日目、2日目、3日目、5日目、および7日目に採取した。性器HSV−2疾患および播種性のHSV−2疾患の発生率について、21日の追跡期間の間にマウスを観察した。図8Aに示されるように、抗原投与するウイルスの収量は、模擬免疫したコントロール(n=10)のものと比較して、CJ2−gD2で免疫したマウス(n=9)において、1日目に200分の1未満に(p<0.001)、および2日目に130分の1未満に(p<0.0001)低下した。CJ2−gD2で免疫したマウス群とN2−C535Cで免疫したマウス群との間で(n=10)、抗原投与後1日目、2日目、および3日目の抗原投与ウイルス排出の低下において有意差はなかったが、CJ2−gD2での免疫は、1日目(p=0.03)、2日目(p=0.025)および3日目(p<0.007)に抗原投与ウイルス排出の低下において、CJ9−gDより有効であった。抗原投与後5日目に、CJ2−gD2、N2−C535C、もしくはCJ9−gDで免疫したマウスにおいて抗原投与ウイルスは、ほとんどもしくは全く検出されなかったのに対して、すべての模擬ワクチン接種したマウスは、5×10 PFU/mlより多くの平均収量で、ウイルスを排出し続けた。マウスの3つの免疫群において、抗原投与後7日目に、集められた膣スワブ材料中に抗原投与ウイルスは存在しなかった。別個に実験において、本発明者らは、抗原投与後5日目に、CJ2−gD2免疫マウスにおいてウイルス排出は認められなかった一方で、野生型HSV−2の存在は、7匹のN2−C535C免疫したマウスのうちの5匹において、および7匹のCJ9−gD免疫したマウスのうちの4匹において検出されたことを観察した。
【0061】
図9における結果は、CJ2−gD2で免疫したマウスは、局所的な性器病変の発生から完全に保護され、野生型HSV−2での抗原投与後に全身的な疾患の徴候を示さなかったことを示す(図9A)。すべての模擬免疫したマウスは、重篤な性器病変を発生させ、抗原投与後11日目までには、上記野生型HSV−2感染で死亡した(図9B)。N2−C535CおよびCJ9−gDでの免疫は、野生型HSV−2での致死的抗原投与に対してマウスを防御したが、マウスのうちの20%および30%は、それぞれ、N2−C535C免疫マウスおよびCJ9−gD免疫マウスにおいて、局所的な性器疾患の一時的な低い程度(スコア1)を経験した(表1)。類似の実験において(表1)、CJ9−gDで免疫したマウス(n=7)の中で、2匹のマウスは、局所的な性器疾患の低い程度を経験したことが観察され、1匹のマウスは、全身的な疾患の徴候を示し、抗原投与後14日目に死亡した。7匹のN2−C535C免疫マウスのうちの3匹(43%)は、局所的な性器疾患の低い程度(スコア=1)を示した。繰り返すと、CJ2−gD2免疫したマウス(n=7)において、局所的および全身的なヘルペス疾患の徴候は何ら認められなかった。まとめると、これら研究から、CJ2−gD2は、野生型HSV−2での膣内抗原投与後の性器疾患に対するマウスの保護において、N2−C535CおよびCJ9−gDより有効なワクチンであることが示される。
【0062】
【表1】

【0063】
【化1】

【0064】
【化2】

【0065】
【化3】

【0066】
【化4】

本明細書で引用されるすべての参考文献は、完全に参考として援用される。本発明はここで十分に記載されたが、本発明が、本発明もしくはその任意の実施形態の趣旨もしくは範囲に影響を及ぼすことなく、条件、パラメーターなどの広いおよび等価な範囲内で実施され得ることは、当業者によって理解される。
【図1A】

【図1B】

【図2A】

【図2B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複製欠損性ドミナントネガティブ単純ヘルペスウイルス2(HSV−2)組換えウイルスであって、該ウイルスは、そのゲノム内に:
a)第1のHSV−2糖タンパク質D(gD2)をコードする第1の配列であって、ここで該配列は、第1のプロモーターに作動可能に連結され、該第1のプロモーターは、第1のテトラサイクリンオペレーター(Tet−O)配列に作動可能に連結されている、第1の配列;
b)第2のHSV−2 gD2をコードする第2の配列であって、ここで該第2の配列は、第2のプロモーターに作動可能に連結され、該第2のプロモーターは、第2のtet−O配列に作動可能に連結されており、ここで、該第2の配列は必要に応じたものである、第2の配列;
c)HSV−1もしくはHSV−2のUL9タンパク質の第1のドミナントネガティブ変異体形態をコードする第3の配列であって、ここで該第3の配列は、第3のプロモーターに作動可能に連結され、該第3のプロモーターは、第3のテトラサイクリンオペレーター(Tet−O)配列に作動可能に連結されている、第3の配列;
d)HSV−1もしくはHSV−2のUL9タンパク質の第2のドミナントネガティブ変異体形態をコードする第4の配列であって、ここで該第4の配列は、第4のプロモーターに作動可能に連結され、該第4のプロモーターは、第4のテトラサイクリンオペレーター(Tet−O)配列に作動可能に連結されており、ここで、該第4の配列は必要に応じたものである、第4の配列;
を含み、そしてここで該ゲノムは、機能的ICP0タンパク質をコードする配列を含まない、組換えウイルス。
【請求項2】
前記組換えウイルスは、そのゲノム内に、第2のHSV−2 gD2をコードする前記第2の配列を含み、ここで該第2の配列は、第2のプロモーターに作動可能に連結され、該第2のプロモーターは、第2のtet−O配列に作動可能に連結されている、請求項1に記載の組換えウイルス。
【請求項3】
前記組換えウイルスは、そのゲノム内に、HSV−1もしくはHSV−2のUL9タンパク質の第2のドミナントネガティブ変異体形態をコードする前記第4の配列を含み、該第4の配列は、第4のプロモーターに作動可能に連結され、該第4のプロモーターは、第4のテトラサイクリンオペレーター(Tet−O)配列に作動可能に連結されている、請求項2に記載の組換えウイルス。
【請求項4】
前記第1のプロモーター、前記第2のプロモーター、前記第3のプロモーターおよび前記第4のプロモーターのうちの1つ以上は、hCMV最初期プロモーターである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組換えウイルス。
【請求項5】
前記第1のプロモーター、前記第2のプロモーター、前記第3のプロモーターおよび前記第4のプロモーターのうちの1つ以上は、HSV−1もしくはHSV−2の最初期プロモーターである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組換えウイルス。
【請求項6】
前記HSV−1もしくはHSV−2の最初期プロモーターは、ICP4である、請求項5に記載の組換えウイルス。
【請求項7】
前記第1のプロモーター、前記第2のプロモーター、前記第3のプロモーターおよび前記第4のプロモーターは、すべてHSV−1もしくはHSV−2の最初期プロモーターである、請求項5に記載の組換えウイルス。
【請求項8】
前記第1のプロモーター、前記第2のプロモーター、前記第3のプロモーターおよび前記第4のプロモーターは、ICP4プロモーターである、請求項5に記載の組換えウイルス。
【請求項9】
a)前記第1のプロモーター、前記第2のプロモーター、前記第3のプロモーターおよび前記第4のプロモーターは、各々TATAエレメントを有し;
b)前記第1のTet−O配列、前記第2のTet−O配列、前記第3のTet−O配列および前記第4のTet−O配列の各々は、2〜20個連結するヌクレオチドによってつながれた2個のop2リプレッサー結合部位を含み、ここで該tetオペレーターにおける最初のヌクレオチドは、該TATAエレメントにおける最後のヌクレオチドに対して6〜24ヌクレオチド、3’側にあり;
c)HSV−2 gD2をコードする前記配列およびHSV−2 gD2をコードする前記第2の配列は、該第1のtet−O配列および該第2のtet−O配列に対して3’側にあり、該第1のプロモーターおよび該第2のプロモーターに作動可能に連結されており、
d)HSV−1もしくはHSV−2のUL9タンパク質の前記第1のドミナントネガティブ変異体形態をコードする前記配列は、該第3のTet−O配列に対して3’側にあり、該第3のプロモーターに作動可能に連結されており;
e)HSV−1もしくはHSV−2のUL9タンパク質の前記第2のドミナントネガティブ変異体形態をコードする前記配列は、該第4のTet−O配列に対して3’側にあり、該第4のプロモーターに作動可能に連結されている、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の組換えウイルス。
【請求項10】
UL9タンパク質の前記変異体形態は、UL9−C535Cである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の組換えウイルス。
【請求項11】
前記組換えウイルスはまた、1個以上の組換え免疫調節遺伝子を発現する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の組換えウイルス。
【請求項12】
前記組換えウイルスは、IL12を発現する、請求項11に記載の組換えウイルス。
【請求項13】
前記組換えウイルスは、IL15を発現する、請求項11に記載の組換えウイルス。
【請求項14】
前記組換えウイルスはまた、前記tetOを有するHSV最初期プロモーターもしくはhCMV最初期プロモーターの制御下で、HSV−2 gBを発現する、請求項1〜13のいずれか1項に記載の組換えウイルス。
【請求項15】
前記組換えウイルスはまた、前記tetOを有するHSV最初期プロモーターもしくはhCMV最初期プロモーターの制御下で、HSV−2 gCを発現する、請求項1〜14のいずれか1項に記載の組換えウイルス。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか1項に記載の組換えウイルスを単位用量形態で含む、ワクチン。
【請求項17】
前記組換えウイルスは、1×10 pfu/単位用量の最小限の量で存在する、請求項16に記載のワクチン。
【請求項18】
前記組換えウイルスは、1×10〜1×10 pfu/単位用量において存在する、請求項16に記載のワクチン。
【請求項19】
HSV−1感染もしくはHSV−2感染に対して患者を免疫する方法であって、該方法は、請求項16〜18のいずれか1項に記載のワクチンを該患者に投与する工程を包含する、方法。
【請求項20】
前記患者は、HSV−1に対してセロポジティブである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記患者は、HSV−2に対してセロポジティブである、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記患者は、HSV−1およびHSV−2の両方に対してセロポジティブである、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記個体は、HSV−1感染およびHSV−2感染に対してセロネガティブである、請求項19に記載の方法。

【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図3】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−514784(P2013−514784A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−544943(P2012−544943)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【国際出願番号】PCT/US2010/061320
【国際公開番号】WO2011/079073
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(503146324)ザ ブリガム アンド ウィメンズ ホスピタル インコーポレイテッド (24)
【氏名又は名称原語表記】The Brigham and Women’s Hospital, Inc.
【Fターム(参考)】