単結晶基板の反り測定法および測定装置
【課題】より迅速にチップの反りを測定できる手法を提供する。
【解決手段】単結晶基板の反り測定方法であって、角度広がりを持つX線を発生させる発生ステップと、前記角度広がりを持つX線を単結晶基板に照射する照射ステップと、前記単結晶基板からの回折X線を検出して、前記単結晶基板の反りを測定する検出・測定ステップと、を含むようにする。
【解決手段】単結晶基板の反り測定方法であって、角度広がりを持つX線を発生させる発生ステップと、前記角度広がりを持つX線を単結晶基板に照射する照射ステップと、前記単結晶基板からの回折X線を検出して、前記単結晶基板の反りを測定する検出・測定ステップと、を含むようにする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は単結晶基板の反りを測定する方法に関し、特にパッケージ内に実装された半導体チップの反りを、パッケージを破壊することなくX線を用いて迅速に測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品の小型化、高機能化、高性能化といった要求に対し、LSIチップのさまざまな実装技術が開発されている。このような、いわゆる先端実装技術を実現するための要素技術には、「LSIチップに加わる機械的応力が大きくなる」と懸念される技術が多い。このため、実装されたLSIチップへの応力や歪を非破壊で測定する技術の重要度が増している。
【0003】
実装された半導体チップの応力や反りの評価は、従来、ラマン分光法や歪ゲージ法を用いて行われてきた。しかし、ラマン分光法はパッケージの断面において測定を行う破壊検査であり、断面作成の際に応力が緩和するため、測定結果が実際の半導体チップの応力を反映しない場合があるという懸念がある。また、歪ゲージ法は非破壊検査であるが、この方法で測定される歪はパッケージ表面の歪であり、半導体チップに加わる歪は、推定でしか求められない。非破壊かつ直接、半導体チップの反り応力を測定する方法が求められている。
【0004】
そこで、パッケージされた半導体チップの反りを、X線回折を用いて非破壊かつ直接測定する方法が特許文献1に記載されている。この方法では、まずパッケージ材料越しに半導体チップからの回折X線を取得し、ロッキング曲線の試料位置依存性を測定する。次に、その結果得られた回折ピーク位置の試料位置依存性から半導体チップの形状すなわち反りを求める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−203212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された方法による反り測定には、測定時間が長いという欠点がある。実際、チップ上の各測定点において測定するロッキング曲線は、一回の測定に2分から3分を要する。測定点の数はチップの大きさにも依存するが、30から50点程度が普通であるから、試料1個の測定には1〜2.5時間を要する。よって特許文献1に記載された方法は、例えば、多数の試料のチップ反りを比較したい場合や、試料温度を変えながら測定するなどの、いわゆる“その場”測定には適さない。これらの目的のためには、より迅速にチップの反りを測定できる手法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための第一の発明に係る単結晶基板の反り測定装置は、角度広がりを持つX線を発生させる発生手段と、前記角度広がりを持つX線を単結晶基板に照射する照射手段と、前記単結晶基板からの回折X線を検出して、前記単結晶基板の反りを測定する検出・測定手段と、を有することを特徴とする。
【0008】
第二の発明に係る単結晶基板の反り測定装置は、第一の発明に係る単結晶基板の反り測定装置であって、さらに、前記発生手段が、8keV以上のエネルギーを持つX線を発生させる手段であることを特徴とする。
【0009】
第三の発明に係る単結晶基板の反り測定装置は、第二の発明に係る単結晶基板の反り測定装置であって、さらに、前記8keV以上のエネルギーを持つX線が、Cu、Zn、Rh、Pd、Ag、Mo及びWのいずれかの特性X線であることを特徴とする。
【0010】
第四の発明に係る単結晶基板の反り測定装置は、第一乃至第三の発明に係る単結晶基板の反り測定装置であって、さらに、前記照射手段が、パッケージ材料で封止された単結晶基板に角度広がりを持つX線を照射する手段であることを特徴とする。
【0011】
第五の発明に係る単結晶基板の反り測定装置は、第一乃至第三の発明に係る単結晶基板の反り測定装置であって、前記照射手段が、複数枚積層され、かつ、パッケージ材料で封止された単結晶基板に角度広がりを持つX線を照射する手段であることを特徴とする。
【0012】
第六の発明に係る単結晶基板の反り測定装置は、第一乃至第六の発明に係る単結晶基板の反り測定装置であって、さらに、前記検出・測定手段が前記単結晶基板からのロッキング曲線を取得して前記単結晶基板からの回折X線を検出し、前記回折X線の面内強度分布を測定する手段であることを特徴とする。
【0013】
第七の発明に係る単結晶基板の反り測定方法は、角度広がりを持つX線を発生させる発生ステップと、前記角度広がりを持つX線を単結晶基板に照射する照射ステップと、前記単結晶基板からの回折X線を検出して、前記単結晶基板の反りを測定する検出・測定ステップと、を含むことを特徴とする。
【0014】
第八の発明に係る単結晶基板の反り測定方法は、第七の発明に係る単結晶基板の反り測定方法であって、さらに、前記発生ステップが8keV以上のエネルギーを持つX線を発生させるステップであることを特徴とする。
【0015】
第九の発明に係る単結晶基板の反り測定方法は、第八の発明に係る単結晶基板の反り測定方法であって、さらに、前記8keV以上のエネルギーを持つX線が、Cu、Zn、Rh、Pd、Ag、Mo及びWのいずれかの特性X線であることを特徴とする。
【0016】
第十の発明に係る単結晶基板の反り測定方法は、第七乃至第九の発明に係る単結晶基板の反り測定方法であって、さらに、前記照射ステップが、パッケージ材料で封止された単結晶基板に角度広がりを持つX線を照射するステップであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来1時間から2.5時間要していたX線回折を用いた半導体基板の反り測定を、10分程度に迅速化できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の単結晶基板の反り測定法の基本となるX線回折法で用いる手段とその構成およびX線光線図の概略を示す図である。
【図2】本発明の単結晶基板の反り測定法の基本となるX線回折法で用いる手段とその構成およびX線光線図の概略を示す図である。
【図3】反りの無い単結晶基板からの回折X線の強度分布(角度広がりが無い(小さい)入射X線を用いた場合)を表す図である。
【図4】本発明の単結晶基板の反り測定法の基本となるX線回折法で用いる手段とその構成およびX線光線図の概略を示す図である。
【図5】本発明の単結晶基板の反り測定法の基本となるX線回折法で用いる手段とその構成およびX線光線図の概略を示す図である。
【図6】上に凸に反った単結晶基板からの回折X線の強度分布(角度広がりが無い(小さい)入射X線を用いた場合)を表す図である。
【図7】本発明の単結晶基板の反り測定法の基本となるX線回折法で用いる手段とその構成およびX線光線図の概略を示す図である。
【図8】本発明の単結晶基板の反り測定法の基本となるX線回折法で用いる手段とその構成およびX線光線図の概略を示す図である。
【図9】本発明の単結晶基板の反り測定法の基本となるX線回折法で用いる手段とその構成およびX線光線図の概略を示す図である。
【図10】本発明の単結晶基板の反り測定法の基本となるX線回折法で用いる手段とその構成およびX線光線図の概略を示す図である。
【図11】上に凸に反った単結晶基板からの回折X線の強度分布(角度広がりがある入射X線を用いた場合)を表す図である。
【図12】反り測定の健勝に用いた単結晶基板の反り形状を示すグラフである。
【図13】回折X線の強度分布を反りの大きい試料と小さい試料とで比較したグラフである。
【図14】回折X線の強度分布の半値全幅と単結晶基板の反りの関係を示すグラフである。
【図15】測定に用いたパッケージ部品の断面模式図である。
【図16】CuKα1特性X線を用いて、パッケージ部品から回折X線の観測を試みた際のロッキング曲線である。
【図17】MoKα1特性X線を用いて、パッケージ部品から回折X線の観測を試みた際のロッキング曲線である。
【図18】測定に用いたパッケージ部品(3段積層SiP)の断面模式図である。
【図19】MoKα1特性X線を用いて、パッケージ部品(3段積層SiP)から回折X線の観測を試みた際のロッキング曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の半導体チップ反り測定法、測定装置の実施の形態に関して、添付図面を参照して説明する。
【0020】
本発明の単結晶基板の反りを測定する方法の原理について説明する。図1では比較のためにまず、角度広がりを持たない(角度広がりが十分小さい)X線を入射X線として用いたときのX線回折実験について述べる。また、この図は反り測定法の基本となるX線回折法で用いる手段とその構成、及びX線光線図の概略を示したものでもある。よって、図1は説明のために簡略化されており、実際の測定における手段とその構成、及びX線光線図と完全には一致しない場合もある。
【0021】
適切なX線源1で発生した角度広がりを持たない(角度広がりが十分小さい)、入射X線2を試料ステージ3に設置した反りの無い単結晶基板4上の照射領域5に照射する。続いて、X線検出器6を固定したまま、試料ステージ3の回転角ωを変化させると、ブラッグ条件が満たされるとき、すなわち照射領域5の表面法線7に対する入射X線1の入射角αがある特定の値αBをとるとき、照射領域5においてX線の結晶回折が生じ、X線検出器6で回折X線8が検出される。
【0022】
図2に示すように、X線検出器6と試料ステージ3の回転角ωを固定したまま、試料ステージ3をx軸方向へ平行移動させても、回折X線8は検出されるままである。これは単結晶基板4の表面法線7に対する入射X線2の入射角αが単結晶基板4の至る所でαBであることによる。この様子を横軸にx軸方向の座標、縦軸に回折X線強度をとりグラフに表すと、図3のようになる。回折強度の立上がり、立下りの点は単結晶基板4の端部の座標に相当する。
【0023】
次に上に凸に沿った単結晶基板9を試料ステージ3上に設置し同様な測定を行う(図4)。角度広がりを持たない(角度広がりが十分小さい)入射X線2を上に凸に反った単結晶基板9の照射領域10上に照射する。続いて、X線検出器6を固定したまま、試料ステージ3の回転角ωを変化させると、反りの無い単結晶基板の場合と同様に、照射領域10の表面に対する入射X線2の入射角αがある特定の値αBをとるとき、X線の結晶回折が生じる。
【0024】
X線検出器6と試料ステージ3の回転角ωを固定したまま、試料ステージ7をx軸方向へ平行移動させると(図5)、今度は、回折X線は検出されなくなる。これはチップ表面に対する入射X線5の入射角αが単結晶基板9の反りのため、照射領域10以外ではαBと異なるためであるである。この様子を横軸にx軸方向の座標、縦軸に回折X線強度をとりグラフに表すと、図6のようになる。
【0025】
図7および図8を参照して(図8は図7の照射領域13の表面付近を拡大した図である。)、角度広がりを持ったX線を用いて同様な測定を行う。まず、適切なX線源10で入射X線11を発生させる。入射X線11は角度広がりΔαを持ち、その典型的な値は、例えば0.1°である。入射X線11に含まれる波数ベクトルの平均を平均波数ベクトル12と表すと、入射X線11には、平均波数ベクトル12とのなす角の絶対値がΔα/2以下である波数ベクトルのX線が含まれる。
【0026】
入射X線11を上に凸に反った単結晶基板8の照射領域13に照射する。X線検出器6を固定したまま、試料ステージ3の回転角ωを変化させ結晶回折を起こす。入射X線11のうち平均波数ベクトル12で表される成分の入射角がαBに等しくなる位置で回転角ωを固定する。このとき入射X線11の入射角はαB−Δα/2からαB+Δα/2の間に連続的に分布する。
【0027】
X線検出器6を固定し、試料ステージ3をx軸方向へ平行移動させる。例えば、図7および図8(図8は図7の照射領域14の表面付近の拡大した図である。)のように領域13から領域14に入射X線11の照射領域が変わったとする。図8を参照して、照射領域14に対する入射X線11の入射角は単結晶基板8の反りのため、照射領域13での入射角からずれる。具体的には、反りによって生じる照射領域13と照射領域14の表面法線のなす角をΔθとすると、照射領域13でαであった入射角は、照射領域14においてα+Δθに変化する。よって、照射領域14における入射X線11の入射角は、(αB−Δα/2)+Δθから(αB+Δα/2)+Δθに連続的に分布することになる。照射領域14においても結晶回折が起こるには、入射X線11の入射角の分布の中にαBが含まれればよい。すなわち次の不等式が満たされればよい。
【0028】
【数1】
数1を変形すると次の不等式を得る。
【0029】
【数2】
すなわち、反りによる表面法線の角度変化Δθが入射X線の角度広がりの範囲内にあるとき、照射領域14においても結晶回折が生じることが分かる。
【0030】
試料移動の範囲を単結晶基板の2つの端部が含まれるように広げ、試料移動を行いながら、回折X線の検出を行うと、数2が満たされる領域からのみ回折X線が発生するので、横軸に照射領域のx座標、縦軸に回折X線強度をとると、図11のような分布が得られる。回折強度が0でない領域は、反りによる表面法線の角度変化の大きさがΔα/2より小さい領域を表しているので、回折強度が0でない領域の幅を試料間で比較することで、単結晶基板の反りの大小を比較することができる。
【0031】
上記の原理を利用して単結晶基板の反りを比較した例を以下で説明する。
【0032】
図12に示すように、様々な大きさで上に凸に反った単結晶基板を用意し、次のような実験を行った。単結晶基板を試料ステージに配置し、単結晶基板の中央に0.1°の角度広がりを持つ入射X線(CuKα1特性X線)が照射されるように配置した。まずこの位置で、ロッキング曲線を測定し、回折X線が観測される試料ステージの回転角ωBを見出した。次に試料ステージの回転角をωBに固定したまま、試料ステージを単結晶基板の両端部を含むようにx軸方向に平行移動させながら回折X線強度を測定した。
【0033】
このようにして得られた回折X線の強度分布を図13に示す。反りが小さい単結晶基板のほうが、回折X線強度が観測される領域の幅が大きいことが分かる。さらに、回折X線の強度分布の半値全幅を横軸にとり、反りを縦軸にとってプロットしたグラフが図14である。反りと半値全幅がほぼ反比例の関係にあることが分かる。以上から、回折X線強度が観測される領域の幅を比較することで、単結晶基板の反りを比較できることが確認された。
【0034】
上記の実験では、1つの試料について、ロッキング曲線の測定を1回(2−3分)、強度プロファイルの測定を1回(5分以下)行うだけでよい。従来の方法では、試料1個の測定に1〜2.5時間を要していたので、本発明により、半導体基板の反り測定の迅速化が図られる。
【0035】
パッケージ材料に封止された状態の半導体単結晶基板の反りを上述の方法で測定するには、パッケージ材料越しに回折X線を観測する必要がある。一般に、強度I0のX線が物質へ入射し、その物質中を進んだ時、X線は物質に吸収され、その強度はtに対し指数関数的に減衰する。距離tだけ物質中を進んだ後のX線強度I(t)は次の式で表される。
【0036】
【数3】
ここでρは物質の密度、μmはX線の質量吸収係数である。μmは物質を構成する元素や入射X線のエネルギーに依存する。すなわち、原子番号Zが大きい元素ほどμmは大きい傾向にあり、入射X線のエネルギーEが高いほどμmは小さい。これらの依存性は、吸収端近傍を除いて、近似的に以下のように表される。
【0037】
【数4】
ここで、kは比例係数である。よって、より高エネルギーのX線を用いることでパッケージ材料によるX線の吸収を小さくすることが可能であり、その結果パッケージ材料越しでのX線回折測定が可能となる。
【0038】
図15はパッケージ材料越しに回折X線の取得を試みた試料の模式図である。PCB基板上15にSi(001)基板から作成したSiチップ16が搭載され、これをモールド樹脂17で取り囲んである。このような試料から回折X線の取得を試みた。
【0039】
図16は比較的低エネルギーのX線(CuKα1特性X線、E=8.05keV)を用いた場合のロッキング曲線である。Siチップからの回折X線((004)反射)がモールド樹脂を透過し検出器に達していれば、ω=34.56°付近に回折ピークが観測されるはずである。しかし、モールド樹脂による吸収のため、回折ピークを観測することができなかった。
【0040】
図17は比較的高エネルギーのX線(MoKα特性X線、E=17.5keV)を用いて上記と同様の実験を行った場合のロッキング曲線である。今度はω=51.5°付近に回折ピークが観測された。この結果は、高エネルギーのX線を入射X線として用いることで、パッケージを破壊することなく上述の反り測定ができることを示している。
【0041】
上の例では入射X線としてMoKα特性X線を用いたが、モールド樹脂越しにSiチップからの回折を測定できる程度のエネルギーを持っているX線であれば、入射X線はMoKα特性X線でなくとも良い。実験室規模の回折装置を用いて実験する場合には、特性X線が線源として好適であるが、上の目的に適切かつ現実的なものとしては、エネルギーではおおむね10keVを上回るX線が好ましく、ZnKα特性X線、RhKα特性X線、PdKα特性X線、AgKα特性X線、MoKα特性X線や、WKα特性X線などが挙げられる。
【0042】
また、検出した回折X線は(004)反射であったが、他の格子面による回折X線でもかまわない。例えば、(008)、(0012)等の(004)反射の系統反射でも良いし、(113)反射などの非対称反射でも良い。
【0043】
チップのもととなる基板も(001)基板以外であってもかまわない。(011)基板、(111)基板あるいは他の面指数の格子面を表面に平行にした基板であっても、検出する回折X線を適切に選ぶことにより、同様の測定が可能である。
【0044】
さらに、測定試料はSiチップであったが、これまでの説明から明らかなように、単結晶基板であれば良く、GaAs等の化合物半導体であってもかまわないし半導体以外の単結晶基板でもよい。
【0045】
上の例では、モールド樹脂を透過させるために入射X線の高エネルギー化を図った。入射X線の高エネルギー化は、複数枚の半導体チップを積層したMCP(MultiChip Packaging)やSiP(System in Package)に対しては、これらの半導体チップからの回折X線を一度に検出できる可能性を生む。
【0046】
そこで、MoKα1特性X線を入射X線に用いて、図18に示すような3枚のSiチップ(18,19,20)を積層したSiPから、(モールド樹脂21越しに)回折スペクトルを取得することを試みた。図19にロッキング曲線を示す。明瞭に3本のピークが観測されている。また、下層に配置されたチップからの回折X線は上層に配置されたチップからの回折X線よりも減衰が大きいと考えられるので、強度の順番に、上から1、2、3枚目Siチップからの回折X線であると判断される。この結果は、高エネルギーのX線を入射X線として用いることで、上述の反り測定をパッケージ内に積層されたそれぞれのSiチップに対して行うことが可能であることを示している。
【0047】
この例においては3枚のSiチップを積層したSiPに対してMoKα特性X線を用いて測定したが、チップの材質はSi以外でもよく、単結晶基板であればよい。また、入射X線はMoKα特性X線以外でも、対象の単結晶基板を所望の枚数だけ透過し回折X線が検出されるのに十分なエネルギーを持っているものであれば良い。例としてはすでに述べた、ZnKα特性X線、RhKα特性X線、PdKα特性X線、AgKα特性X線、MoKα特性X線や、WKα特性X線が挙げられる。適切なX線源は、対象の単結晶基板の種類、透過すべき基板の枚数等を考慮し選ばれるべきである。
【0048】
上記の実施形態の一部または全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下に限られない。
【0049】
(付記1)角度広がりを持つX線を発生させる発生手段と、前記角度広がりを持つX線を単結晶基板に照射する照射手段と、前記単結晶基板からの回折X線を検出して、前記単結晶基板の反りを測定する検出・測定手段と、を含むことを特徴とする単結晶基板の反り測定装置。
【0050】
(付記2)前記発生手段は、8keV以上のエネルギーを持つX線を発生させる手段であることを特徴とする付記2に記載の単結晶基板の反り測定装置。
【0051】
(付記3)前記8keV以上のエネルギーを持つX線は、Cu、Zn、Rh、Pd、Ag、Mo及びWのいずれかの特性X線であることを特徴とする請求項3に記載の単結晶基板の反り測定装置。
【0052】
(付記4)前記照射手段は、パッケージ材料で封止された単結晶基板に角度広がりを持つX線を照射する手段であることを特徴とする付記1乃至付記3のいずれかに記載の単結晶基板の反り測定装置。
【0053】
(付記5)前記照射手段は、複数枚積層され、かつ、パッケージ材料で封止された単結晶基板に角度広がりを持つX線を照射する手段であることを特徴とする付記1乃至付記3のいずれかに記載の単結晶基板の反り測定装置。
【0054】
(付記6)前記検出・測定手段は前記単結晶基板からのロッキング曲線を取得して前記単結晶基板からの回折X線を検出し、前記回折X線の面内強度分布を測定する手段であることを特徴とする付記1乃至付記5のいずれかに記載の単結晶基板の反り測定装置。
【0055】
(付記7)角度広がりを持つX線を発生させる発生ステップと、前記角度広がりを持つX線を単結晶基板に照射する照射ステップと、前記単結晶基板からの回折X線を検出して、前記単結晶基板の反りを測定する検出・測定ステップと、を含むことを特徴とする単結晶基板の反り測定方法。
【0056】
(付記8)前記発生ステップは、8keV以上のエネルギーを持つX線を発生させるステップであることを特徴とする付記7に記載の単結晶基板の反り測定方法。
【0057】
(付記9)前記8keV以上のエネルギーを持つX線は、Cu、Zn、Rh、Pd、Ag、Mo及びWのいずれかの特性X線であることを特徴とする付記8に記載の単結晶基板の反り測定方法。
【0058】
(付記10)前記照射ステップは、パッケージ材料で封止された単結晶基板に角度広がりを持つX線を照射するステップであることを特徴とする付記7乃至付記9のいずれかに記載の単結晶基板の反り測定方法。
【0059】
(付記11)前記照射ステップは、複数枚積層され、かつ、パッケージ材料で封止された単結晶基板に角度広がりを持つX線を照射するステップであることを特徴とする付記7乃至付記9のいずれかに記載の単結晶基板の反り測定方法。
【0060】
(付記12)前記検出・測定ステップは前記単結晶基板からのロッキング曲線を取得して前記単結晶基板からの回折X線を検出し、前記回折X線の面内強度分布を測定するステップであることを特徴とする付記7乃至付記11のいずれかに記載の単結晶基板の反り測定方法。
【符号の説明】
【0061】
1,10 X線源
2,11 入射X線
3 試料ステージ
4,9 単結晶基板
5,13,14 照射領域
6 X線検出器
7 表面法線
8 回折X線
12 平均波数ベクトル
15 PCB基板
16、18、19、20 Siチップ
17、21 モールド樹脂
【技術分野】
【0001】
本発明は単結晶基板の反りを測定する方法に関し、特にパッケージ内に実装された半導体チップの反りを、パッケージを破壊することなくX線を用いて迅速に測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品の小型化、高機能化、高性能化といった要求に対し、LSIチップのさまざまな実装技術が開発されている。このような、いわゆる先端実装技術を実現するための要素技術には、「LSIチップに加わる機械的応力が大きくなる」と懸念される技術が多い。このため、実装されたLSIチップへの応力や歪を非破壊で測定する技術の重要度が増している。
【0003】
実装された半導体チップの応力や反りの評価は、従来、ラマン分光法や歪ゲージ法を用いて行われてきた。しかし、ラマン分光法はパッケージの断面において測定を行う破壊検査であり、断面作成の際に応力が緩和するため、測定結果が実際の半導体チップの応力を反映しない場合があるという懸念がある。また、歪ゲージ法は非破壊検査であるが、この方法で測定される歪はパッケージ表面の歪であり、半導体チップに加わる歪は、推定でしか求められない。非破壊かつ直接、半導体チップの反り応力を測定する方法が求められている。
【0004】
そこで、パッケージされた半導体チップの反りを、X線回折を用いて非破壊かつ直接測定する方法が特許文献1に記載されている。この方法では、まずパッケージ材料越しに半導体チップからの回折X線を取得し、ロッキング曲線の試料位置依存性を測定する。次に、その結果得られた回折ピーク位置の試料位置依存性から半導体チップの形状すなわち反りを求める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−203212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された方法による反り測定には、測定時間が長いという欠点がある。実際、チップ上の各測定点において測定するロッキング曲線は、一回の測定に2分から3分を要する。測定点の数はチップの大きさにも依存するが、30から50点程度が普通であるから、試料1個の測定には1〜2.5時間を要する。よって特許文献1に記載された方法は、例えば、多数の試料のチップ反りを比較したい場合や、試料温度を変えながら測定するなどの、いわゆる“その場”測定には適さない。これらの目的のためには、より迅速にチップの反りを測定できる手法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための第一の発明に係る単結晶基板の反り測定装置は、角度広がりを持つX線を発生させる発生手段と、前記角度広がりを持つX線を単結晶基板に照射する照射手段と、前記単結晶基板からの回折X線を検出して、前記単結晶基板の反りを測定する検出・測定手段と、を有することを特徴とする。
【0008】
第二の発明に係る単結晶基板の反り測定装置は、第一の発明に係る単結晶基板の反り測定装置であって、さらに、前記発生手段が、8keV以上のエネルギーを持つX線を発生させる手段であることを特徴とする。
【0009】
第三の発明に係る単結晶基板の反り測定装置は、第二の発明に係る単結晶基板の反り測定装置であって、さらに、前記8keV以上のエネルギーを持つX線が、Cu、Zn、Rh、Pd、Ag、Mo及びWのいずれかの特性X線であることを特徴とする。
【0010】
第四の発明に係る単結晶基板の反り測定装置は、第一乃至第三の発明に係る単結晶基板の反り測定装置であって、さらに、前記照射手段が、パッケージ材料で封止された単結晶基板に角度広がりを持つX線を照射する手段であることを特徴とする。
【0011】
第五の発明に係る単結晶基板の反り測定装置は、第一乃至第三の発明に係る単結晶基板の反り測定装置であって、前記照射手段が、複数枚積層され、かつ、パッケージ材料で封止された単結晶基板に角度広がりを持つX線を照射する手段であることを特徴とする。
【0012】
第六の発明に係る単結晶基板の反り測定装置は、第一乃至第六の発明に係る単結晶基板の反り測定装置であって、さらに、前記検出・測定手段が前記単結晶基板からのロッキング曲線を取得して前記単結晶基板からの回折X線を検出し、前記回折X線の面内強度分布を測定する手段であることを特徴とする。
【0013】
第七の発明に係る単結晶基板の反り測定方法は、角度広がりを持つX線を発生させる発生ステップと、前記角度広がりを持つX線を単結晶基板に照射する照射ステップと、前記単結晶基板からの回折X線を検出して、前記単結晶基板の反りを測定する検出・測定ステップと、を含むことを特徴とする。
【0014】
第八の発明に係る単結晶基板の反り測定方法は、第七の発明に係る単結晶基板の反り測定方法であって、さらに、前記発生ステップが8keV以上のエネルギーを持つX線を発生させるステップであることを特徴とする。
【0015】
第九の発明に係る単結晶基板の反り測定方法は、第八の発明に係る単結晶基板の反り測定方法であって、さらに、前記8keV以上のエネルギーを持つX線が、Cu、Zn、Rh、Pd、Ag、Mo及びWのいずれかの特性X線であることを特徴とする。
【0016】
第十の発明に係る単結晶基板の反り測定方法は、第七乃至第九の発明に係る単結晶基板の反り測定方法であって、さらに、前記照射ステップが、パッケージ材料で封止された単結晶基板に角度広がりを持つX線を照射するステップであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来1時間から2.5時間要していたX線回折を用いた半導体基板の反り測定を、10分程度に迅速化できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の単結晶基板の反り測定法の基本となるX線回折法で用いる手段とその構成およびX線光線図の概略を示す図である。
【図2】本発明の単結晶基板の反り測定法の基本となるX線回折法で用いる手段とその構成およびX線光線図の概略を示す図である。
【図3】反りの無い単結晶基板からの回折X線の強度分布(角度広がりが無い(小さい)入射X線を用いた場合)を表す図である。
【図4】本発明の単結晶基板の反り測定法の基本となるX線回折法で用いる手段とその構成およびX線光線図の概略を示す図である。
【図5】本発明の単結晶基板の反り測定法の基本となるX線回折法で用いる手段とその構成およびX線光線図の概略を示す図である。
【図6】上に凸に反った単結晶基板からの回折X線の強度分布(角度広がりが無い(小さい)入射X線を用いた場合)を表す図である。
【図7】本発明の単結晶基板の反り測定法の基本となるX線回折法で用いる手段とその構成およびX線光線図の概略を示す図である。
【図8】本発明の単結晶基板の反り測定法の基本となるX線回折法で用いる手段とその構成およびX線光線図の概略を示す図である。
【図9】本発明の単結晶基板の反り測定法の基本となるX線回折法で用いる手段とその構成およびX線光線図の概略を示す図である。
【図10】本発明の単結晶基板の反り測定法の基本となるX線回折法で用いる手段とその構成およびX線光線図の概略を示す図である。
【図11】上に凸に反った単結晶基板からの回折X線の強度分布(角度広がりがある入射X線を用いた場合)を表す図である。
【図12】反り測定の健勝に用いた単結晶基板の反り形状を示すグラフである。
【図13】回折X線の強度分布を反りの大きい試料と小さい試料とで比較したグラフである。
【図14】回折X線の強度分布の半値全幅と単結晶基板の反りの関係を示すグラフである。
【図15】測定に用いたパッケージ部品の断面模式図である。
【図16】CuKα1特性X線を用いて、パッケージ部品から回折X線の観測を試みた際のロッキング曲線である。
【図17】MoKα1特性X線を用いて、パッケージ部品から回折X線の観測を試みた際のロッキング曲線である。
【図18】測定に用いたパッケージ部品(3段積層SiP)の断面模式図である。
【図19】MoKα1特性X線を用いて、パッケージ部品(3段積層SiP)から回折X線の観測を試みた際のロッキング曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の半導体チップ反り測定法、測定装置の実施の形態に関して、添付図面を参照して説明する。
【0020】
本発明の単結晶基板の反りを測定する方法の原理について説明する。図1では比較のためにまず、角度広がりを持たない(角度広がりが十分小さい)X線を入射X線として用いたときのX線回折実験について述べる。また、この図は反り測定法の基本となるX線回折法で用いる手段とその構成、及びX線光線図の概略を示したものでもある。よって、図1は説明のために簡略化されており、実際の測定における手段とその構成、及びX線光線図と完全には一致しない場合もある。
【0021】
適切なX線源1で発生した角度広がりを持たない(角度広がりが十分小さい)、入射X線2を試料ステージ3に設置した反りの無い単結晶基板4上の照射領域5に照射する。続いて、X線検出器6を固定したまま、試料ステージ3の回転角ωを変化させると、ブラッグ条件が満たされるとき、すなわち照射領域5の表面法線7に対する入射X線1の入射角αがある特定の値αBをとるとき、照射領域5においてX線の結晶回折が生じ、X線検出器6で回折X線8が検出される。
【0022】
図2に示すように、X線検出器6と試料ステージ3の回転角ωを固定したまま、試料ステージ3をx軸方向へ平行移動させても、回折X線8は検出されるままである。これは単結晶基板4の表面法線7に対する入射X線2の入射角αが単結晶基板4の至る所でαBであることによる。この様子を横軸にx軸方向の座標、縦軸に回折X線強度をとりグラフに表すと、図3のようになる。回折強度の立上がり、立下りの点は単結晶基板4の端部の座標に相当する。
【0023】
次に上に凸に沿った単結晶基板9を試料ステージ3上に設置し同様な測定を行う(図4)。角度広がりを持たない(角度広がりが十分小さい)入射X線2を上に凸に反った単結晶基板9の照射領域10上に照射する。続いて、X線検出器6を固定したまま、試料ステージ3の回転角ωを変化させると、反りの無い単結晶基板の場合と同様に、照射領域10の表面に対する入射X線2の入射角αがある特定の値αBをとるとき、X線の結晶回折が生じる。
【0024】
X線検出器6と試料ステージ3の回転角ωを固定したまま、試料ステージ7をx軸方向へ平行移動させると(図5)、今度は、回折X線は検出されなくなる。これはチップ表面に対する入射X線5の入射角αが単結晶基板9の反りのため、照射領域10以外ではαBと異なるためであるである。この様子を横軸にx軸方向の座標、縦軸に回折X線強度をとりグラフに表すと、図6のようになる。
【0025】
図7および図8を参照して(図8は図7の照射領域13の表面付近を拡大した図である。)、角度広がりを持ったX線を用いて同様な測定を行う。まず、適切なX線源10で入射X線11を発生させる。入射X線11は角度広がりΔαを持ち、その典型的な値は、例えば0.1°である。入射X線11に含まれる波数ベクトルの平均を平均波数ベクトル12と表すと、入射X線11には、平均波数ベクトル12とのなす角の絶対値がΔα/2以下である波数ベクトルのX線が含まれる。
【0026】
入射X線11を上に凸に反った単結晶基板8の照射領域13に照射する。X線検出器6を固定したまま、試料ステージ3の回転角ωを変化させ結晶回折を起こす。入射X線11のうち平均波数ベクトル12で表される成分の入射角がαBに等しくなる位置で回転角ωを固定する。このとき入射X線11の入射角はαB−Δα/2からαB+Δα/2の間に連続的に分布する。
【0027】
X線検出器6を固定し、試料ステージ3をx軸方向へ平行移動させる。例えば、図7および図8(図8は図7の照射領域14の表面付近の拡大した図である。)のように領域13から領域14に入射X線11の照射領域が変わったとする。図8を参照して、照射領域14に対する入射X線11の入射角は単結晶基板8の反りのため、照射領域13での入射角からずれる。具体的には、反りによって生じる照射領域13と照射領域14の表面法線のなす角をΔθとすると、照射領域13でαであった入射角は、照射領域14においてα+Δθに変化する。よって、照射領域14における入射X線11の入射角は、(αB−Δα/2)+Δθから(αB+Δα/2)+Δθに連続的に分布することになる。照射領域14においても結晶回折が起こるには、入射X線11の入射角の分布の中にαBが含まれればよい。すなわち次の不等式が満たされればよい。
【0028】
【数1】
数1を変形すると次の不等式を得る。
【0029】
【数2】
すなわち、反りによる表面法線の角度変化Δθが入射X線の角度広がりの範囲内にあるとき、照射領域14においても結晶回折が生じることが分かる。
【0030】
試料移動の範囲を単結晶基板の2つの端部が含まれるように広げ、試料移動を行いながら、回折X線の検出を行うと、数2が満たされる領域からのみ回折X線が発生するので、横軸に照射領域のx座標、縦軸に回折X線強度をとると、図11のような分布が得られる。回折強度が0でない領域は、反りによる表面法線の角度変化の大きさがΔα/2より小さい領域を表しているので、回折強度が0でない領域の幅を試料間で比較することで、単結晶基板の反りの大小を比較することができる。
【0031】
上記の原理を利用して単結晶基板の反りを比較した例を以下で説明する。
【0032】
図12に示すように、様々な大きさで上に凸に反った単結晶基板を用意し、次のような実験を行った。単結晶基板を試料ステージに配置し、単結晶基板の中央に0.1°の角度広がりを持つ入射X線(CuKα1特性X線)が照射されるように配置した。まずこの位置で、ロッキング曲線を測定し、回折X線が観測される試料ステージの回転角ωBを見出した。次に試料ステージの回転角をωBに固定したまま、試料ステージを単結晶基板の両端部を含むようにx軸方向に平行移動させながら回折X線強度を測定した。
【0033】
このようにして得られた回折X線の強度分布を図13に示す。反りが小さい単結晶基板のほうが、回折X線強度が観測される領域の幅が大きいことが分かる。さらに、回折X線の強度分布の半値全幅を横軸にとり、反りを縦軸にとってプロットしたグラフが図14である。反りと半値全幅がほぼ反比例の関係にあることが分かる。以上から、回折X線強度が観測される領域の幅を比較することで、単結晶基板の反りを比較できることが確認された。
【0034】
上記の実験では、1つの試料について、ロッキング曲線の測定を1回(2−3分)、強度プロファイルの測定を1回(5分以下)行うだけでよい。従来の方法では、試料1個の測定に1〜2.5時間を要していたので、本発明により、半導体基板の反り測定の迅速化が図られる。
【0035】
パッケージ材料に封止された状態の半導体単結晶基板の反りを上述の方法で測定するには、パッケージ材料越しに回折X線を観測する必要がある。一般に、強度I0のX線が物質へ入射し、その物質中を進んだ時、X線は物質に吸収され、その強度はtに対し指数関数的に減衰する。距離tだけ物質中を進んだ後のX線強度I(t)は次の式で表される。
【0036】
【数3】
ここでρは物質の密度、μmはX線の質量吸収係数である。μmは物質を構成する元素や入射X線のエネルギーに依存する。すなわち、原子番号Zが大きい元素ほどμmは大きい傾向にあり、入射X線のエネルギーEが高いほどμmは小さい。これらの依存性は、吸収端近傍を除いて、近似的に以下のように表される。
【0037】
【数4】
ここで、kは比例係数である。よって、より高エネルギーのX線を用いることでパッケージ材料によるX線の吸収を小さくすることが可能であり、その結果パッケージ材料越しでのX線回折測定が可能となる。
【0038】
図15はパッケージ材料越しに回折X線の取得を試みた試料の模式図である。PCB基板上15にSi(001)基板から作成したSiチップ16が搭載され、これをモールド樹脂17で取り囲んである。このような試料から回折X線の取得を試みた。
【0039】
図16は比較的低エネルギーのX線(CuKα1特性X線、E=8.05keV)を用いた場合のロッキング曲線である。Siチップからの回折X線((004)反射)がモールド樹脂を透過し検出器に達していれば、ω=34.56°付近に回折ピークが観測されるはずである。しかし、モールド樹脂による吸収のため、回折ピークを観測することができなかった。
【0040】
図17は比較的高エネルギーのX線(MoKα特性X線、E=17.5keV)を用いて上記と同様の実験を行った場合のロッキング曲線である。今度はω=51.5°付近に回折ピークが観測された。この結果は、高エネルギーのX線を入射X線として用いることで、パッケージを破壊することなく上述の反り測定ができることを示している。
【0041】
上の例では入射X線としてMoKα特性X線を用いたが、モールド樹脂越しにSiチップからの回折を測定できる程度のエネルギーを持っているX線であれば、入射X線はMoKα特性X線でなくとも良い。実験室規模の回折装置を用いて実験する場合には、特性X線が線源として好適であるが、上の目的に適切かつ現実的なものとしては、エネルギーではおおむね10keVを上回るX線が好ましく、ZnKα特性X線、RhKα特性X線、PdKα特性X線、AgKα特性X線、MoKα特性X線や、WKα特性X線などが挙げられる。
【0042】
また、検出した回折X線は(004)反射であったが、他の格子面による回折X線でもかまわない。例えば、(008)、(0012)等の(004)反射の系統反射でも良いし、(113)反射などの非対称反射でも良い。
【0043】
チップのもととなる基板も(001)基板以外であってもかまわない。(011)基板、(111)基板あるいは他の面指数の格子面を表面に平行にした基板であっても、検出する回折X線を適切に選ぶことにより、同様の測定が可能である。
【0044】
さらに、測定試料はSiチップであったが、これまでの説明から明らかなように、単結晶基板であれば良く、GaAs等の化合物半導体であってもかまわないし半導体以外の単結晶基板でもよい。
【0045】
上の例では、モールド樹脂を透過させるために入射X線の高エネルギー化を図った。入射X線の高エネルギー化は、複数枚の半導体チップを積層したMCP(MultiChip Packaging)やSiP(System in Package)に対しては、これらの半導体チップからの回折X線を一度に検出できる可能性を生む。
【0046】
そこで、MoKα1特性X線を入射X線に用いて、図18に示すような3枚のSiチップ(18,19,20)を積層したSiPから、(モールド樹脂21越しに)回折スペクトルを取得することを試みた。図19にロッキング曲線を示す。明瞭に3本のピークが観測されている。また、下層に配置されたチップからの回折X線は上層に配置されたチップからの回折X線よりも減衰が大きいと考えられるので、強度の順番に、上から1、2、3枚目Siチップからの回折X線であると判断される。この結果は、高エネルギーのX線を入射X線として用いることで、上述の反り測定をパッケージ内に積層されたそれぞれのSiチップに対して行うことが可能であることを示している。
【0047】
この例においては3枚のSiチップを積層したSiPに対してMoKα特性X線を用いて測定したが、チップの材質はSi以外でもよく、単結晶基板であればよい。また、入射X線はMoKα特性X線以外でも、対象の単結晶基板を所望の枚数だけ透過し回折X線が検出されるのに十分なエネルギーを持っているものであれば良い。例としてはすでに述べた、ZnKα特性X線、RhKα特性X線、PdKα特性X線、AgKα特性X線、MoKα特性X線や、WKα特性X線が挙げられる。適切なX線源は、対象の単結晶基板の種類、透過すべき基板の枚数等を考慮し選ばれるべきである。
【0048】
上記の実施形態の一部または全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下に限られない。
【0049】
(付記1)角度広がりを持つX線を発生させる発生手段と、前記角度広がりを持つX線を単結晶基板に照射する照射手段と、前記単結晶基板からの回折X線を検出して、前記単結晶基板の反りを測定する検出・測定手段と、を含むことを特徴とする単結晶基板の反り測定装置。
【0050】
(付記2)前記発生手段は、8keV以上のエネルギーを持つX線を発生させる手段であることを特徴とする付記2に記載の単結晶基板の反り測定装置。
【0051】
(付記3)前記8keV以上のエネルギーを持つX線は、Cu、Zn、Rh、Pd、Ag、Mo及びWのいずれかの特性X線であることを特徴とする請求項3に記載の単結晶基板の反り測定装置。
【0052】
(付記4)前記照射手段は、パッケージ材料で封止された単結晶基板に角度広がりを持つX線を照射する手段であることを特徴とする付記1乃至付記3のいずれかに記載の単結晶基板の反り測定装置。
【0053】
(付記5)前記照射手段は、複数枚積層され、かつ、パッケージ材料で封止された単結晶基板に角度広がりを持つX線を照射する手段であることを特徴とする付記1乃至付記3のいずれかに記載の単結晶基板の反り測定装置。
【0054】
(付記6)前記検出・測定手段は前記単結晶基板からのロッキング曲線を取得して前記単結晶基板からの回折X線を検出し、前記回折X線の面内強度分布を測定する手段であることを特徴とする付記1乃至付記5のいずれかに記載の単結晶基板の反り測定装置。
【0055】
(付記7)角度広がりを持つX線を発生させる発生ステップと、前記角度広がりを持つX線を単結晶基板に照射する照射ステップと、前記単結晶基板からの回折X線を検出して、前記単結晶基板の反りを測定する検出・測定ステップと、を含むことを特徴とする単結晶基板の反り測定方法。
【0056】
(付記8)前記発生ステップは、8keV以上のエネルギーを持つX線を発生させるステップであることを特徴とする付記7に記載の単結晶基板の反り測定方法。
【0057】
(付記9)前記8keV以上のエネルギーを持つX線は、Cu、Zn、Rh、Pd、Ag、Mo及びWのいずれかの特性X線であることを特徴とする付記8に記載の単結晶基板の反り測定方法。
【0058】
(付記10)前記照射ステップは、パッケージ材料で封止された単結晶基板に角度広がりを持つX線を照射するステップであることを特徴とする付記7乃至付記9のいずれかに記載の単結晶基板の反り測定方法。
【0059】
(付記11)前記照射ステップは、複数枚積層され、かつ、パッケージ材料で封止された単結晶基板に角度広がりを持つX線を照射するステップであることを特徴とする付記7乃至付記9のいずれかに記載の単結晶基板の反り測定方法。
【0060】
(付記12)前記検出・測定ステップは前記単結晶基板からのロッキング曲線を取得して前記単結晶基板からの回折X線を検出し、前記回折X線の面内強度分布を測定するステップであることを特徴とする付記7乃至付記11のいずれかに記載の単結晶基板の反り測定方法。
【符号の説明】
【0061】
1,10 X線源
2,11 入射X線
3 試料ステージ
4,9 単結晶基板
5,13,14 照射領域
6 X線検出器
7 表面法線
8 回折X線
12 平均波数ベクトル
15 PCB基板
16、18、19、20 Siチップ
17、21 モールド樹脂
【特許請求の範囲】
【請求項1】
角度広がりを持つX線を発生させる発生手段と、
前記角度広がりを持つX線を単結晶基板に照射する照射手段と、
前記単結晶基板からの回折X線を検出して、前記単結晶基板の反りを測定する検出・測定手段と、
を含むことを特徴とする単結晶基板の反り測定装置。
【請求項2】
前記発生手段は、8keV以上のエネルギーを持つX線を発生させる手段であることを特徴とする請求項2に記載の単結晶基板の反り測定装置。
【請求項3】
前記8keV以上のエネルギーを持つX線は、Cu、Zn、Rh、Pd、Ag、Mo及びWのいずれかの特性X線であることを特徴とする請求項2に記載の単結晶基板の反り測定装置。
【請求項4】
前記照射手段は、パッケージ材料で封止された単結晶基板に角度広がりを持つX線を照射する手段であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の単結晶基板の反り測定装置。
【請求項5】
前記照射手段は、複数枚積層され、かつ、パッケージ材料で封止された単結晶基板に角度広がりを持つX線を照射する手段であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の単結晶基板の反り測定装置。
【請求項6】
前記検出・測定手段は前記単結晶基板からのロッキング曲線を取得して前記単結晶基板からの回折X線を検出し、前記回折X線の面内強度分布を測定する手段であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の単結晶基板の反り測定装置。
【請求項7】
角度広がりを持つX線を発生させる発生ステップと、
前記角度広がりを持つX線を単結晶基板に照射する照射ステップと、
前記単結晶基板からの回折X線を検出して、前記単結晶基板の反りを測定する検出・測定ステップと、
を含むことを特徴とする単結晶基板の反り測定方法。
【請求項8】
前記発生ステップは、8keV以上のエネルギーを持つX線を発生させるステップであることを特徴とする請求項7に記載の単結晶基板の反り測定方法。
【請求項9】
前記8keV以上のエネルギーを持つX線は、Cu、Zn、Rh、Pd、Ag、Mo及びWのいずれかの特性X線であることを特徴とする請求項8に記載の単結晶基板の反り測定方法。
【請求項10】
前記照射ステップは、パッケージ材料で封止された単結晶基板に角度広がりを持つX線を照射するステップであることを特徴とする請求項7乃至請求項9のいずれかに記載の単結晶基板の反り測定方法。
【請求項1】
角度広がりを持つX線を発生させる発生手段と、
前記角度広がりを持つX線を単結晶基板に照射する照射手段と、
前記単結晶基板からの回折X線を検出して、前記単結晶基板の反りを測定する検出・測定手段と、
を含むことを特徴とする単結晶基板の反り測定装置。
【請求項2】
前記発生手段は、8keV以上のエネルギーを持つX線を発生させる手段であることを特徴とする請求項2に記載の単結晶基板の反り測定装置。
【請求項3】
前記8keV以上のエネルギーを持つX線は、Cu、Zn、Rh、Pd、Ag、Mo及びWのいずれかの特性X線であることを特徴とする請求項2に記載の単結晶基板の反り測定装置。
【請求項4】
前記照射手段は、パッケージ材料で封止された単結晶基板に角度広がりを持つX線を照射する手段であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の単結晶基板の反り測定装置。
【請求項5】
前記照射手段は、複数枚積層され、かつ、パッケージ材料で封止された単結晶基板に角度広がりを持つX線を照射する手段であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の単結晶基板の反り測定装置。
【請求項6】
前記検出・測定手段は前記単結晶基板からのロッキング曲線を取得して前記単結晶基板からの回折X線を検出し、前記回折X線の面内強度分布を測定する手段であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の単結晶基板の反り測定装置。
【請求項7】
角度広がりを持つX線を発生させる発生ステップと、
前記角度広がりを持つX線を単結晶基板に照射する照射ステップと、
前記単結晶基板からの回折X線を検出して、前記単結晶基板の反りを測定する検出・測定ステップと、
を含むことを特徴とする単結晶基板の反り測定方法。
【請求項8】
前記発生ステップは、8keV以上のエネルギーを持つX線を発生させるステップであることを特徴とする請求項7に記載の単結晶基板の反り測定方法。
【請求項9】
前記8keV以上のエネルギーを持つX線は、Cu、Zn、Rh、Pd、Ag、Mo及びWのいずれかの特性X線であることを特徴とする請求項8に記載の単結晶基板の反り測定方法。
【請求項10】
前記照射ステップは、パッケージ材料で封止された単結晶基板に角度広がりを持つX線を照射するステップであることを特徴とする請求項7乃至請求項9のいずれかに記載の単結晶基板の反り測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17】
【図19】
【図15】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図17】
【図19】
【図15】
【図18】
【公開番号】特開2011−215092(P2011−215092A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85726(P2010−85726)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】
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