説明

単結晶配位高分子金属錯体化合物およびその製造方法

【課題】ガス吸着性を高めた単結晶配位高分子金属錯体化合物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】1ユニットが〔M(C(C)〕・4HOで表わされる組成を有し、上記MはCu、Ni、Cdから選択される5配位の金属元素であり、該金属元素Mと2,3−ピラジンジカルボキシレートとから成る2次元構造同士がピラジンから成る支柱で相互に間隙を置いて接続された3次元構造を有する配位高分子金属錯体を骨格とし、上記間隙が上記支柱で区切られて成る細孔を有する配位高分子金属錯体化合物であって、バルクの単結晶を構成していることを特徴とする単結晶配位高分子金属錯体化合物。5配位の金属元素の塩とピラジンとの水溶液Aの上に水を供給して水の層を形成し、水の層上に2,3−ピラジンジカルボン酸水溶液Bを供給速度0.04〜0.4cm/秒で供給して水溶液Bの層を形成し、室温にて放置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス吸着性に優れた単結晶配位高分子金属錯体化合物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガス吸着性を有する配位高分子金属錯体化合物として、非特許文献1に、1ユニットが〔Cu(C(C)〕・2HOで表わされる組成を有し、該Cu元素とピラジン−2,3−ジカルボキシレートとから成る2次元構造同士がピラジンから成る支柱で相互に間隙を置いて接続された3次元構造を有する配位高分子金属錯体を骨格とし、上記間隙が上記支柱で区切られて成る細孔を有する配位高分子金属錯体化合物が示されている。しかし、この化合物は、これまで粉末としてのみ合成に成功しており、ガス吸着性の高いバルク状単結晶としては合成されていない。
【0003】
また特許文献1には、固体高分子燃料電池のプロトン交換膜として、配位高分子金属錯体RdtoaM(R:アルキル基、dtoa:ジチオオキサミド)の層間に水分子を吸蔵させて室温でプロトン伝導性を有する化合物が開示されている。更に、特許文献2には更に上記錯体に水素を吸蔵させて室温で電子伝導性を具備させることが示されている。しかしいずれも、ガス吸着性には何ら配慮されていない。
【0004】
【非特許文献1】Mitsuru Kondo et al., Angew.Chem.Int.Ed. 1999, 38, No. 1/2, pp. 140-143
【特許文献1】特開2004−31173号公報
【特許文献2】特開2004−31174号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ガス吸着性を高めた単結晶配位高分子金属錯体化合物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、第1発明によれば、1ユニットが〔M(C(C)〕・4HOで表わされる組成を有し、上記MはCu、Ni、Cdから選択される5配位の金属元素であり、該金属元素Mと2,3−ピラジンジカルボキシレートとから成る2次元構造同士がピラジンから成る支柱で相互に間隙を置いて接続された3次元構造を有する配位高分子金属錯体を骨格とし、上記間隙が上記支柱で区切られて成る細孔を有する配位高分子金属錯体化合物であって、バルクの単結晶を構成していることを特徴とする単結晶配位高分子金属錯体化合物が提供される。
【0007】
更に、第2発明によれば、第1発明の単結晶配位高分子金属錯体化合物の製造方法であって、
上記5配位の金属元素の塩とピラジンとの水溶液Aを作成する工程、
上記水溶液Aの上に水を供給して該溶液A上に該水の層を形成する工程、
上記水の層上に2,3−ピラジンジカルボン酸水溶液Bを供給速度0.04〜0.4cm/秒で供給して該水の層上に該水溶液Bの層を形成する工程、および
その後、室温にて放置し、上記バルクの単結晶を得る工程、
を含む重層法を行なうことを特徴とする単結晶配位高分子金属錯体化合物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
第1発明の単結晶配位高分子金属錯体化合物は、バルクの単結晶とすることで、配位高分子金属錯体化合物の細孔内の空間をガス吸着サイトとして十分に活用できるので、従来の粉末体と比べてガス吸着性能が大幅に向上する。
【0009】
第2発明の単結晶配位高分子金属錯体化合物の製造方法は、重層法を用い、反応溶液の供給速度を制御したことにより、配位高分子金属錯体化合物をバルクの単結晶として成長させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、「バルクの単結晶」とは、塊状あるいは粒状の1個の固体全体が単一の結晶から成るものを言う。一方、「粉末」とは、粉末粒子の個々が複数個の結晶から成るもの(単結晶である一次粒子が複数個不規則に合体して多結晶体となった二次粒子)を言う。
【0011】
本発明の配位高分子金属錯体化合物は、単結晶すなわち1個体全体が単一の結晶であるので、結晶の構成要素である細孔が規則的に整列しかつ細長い細孔が全長に亘って途中で閉塞することなく貫通している。そのため、一個体中に存在する細孔が極めて効率良く吸着サイトとして機能するので、高いガス吸着性を発揮することができる。
【0012】
従来の配位高分子金属錯体化合物は、粉末すなわち1個体が複数個の結晶の集合体であるので、1個体中において個々の結晶の細孔が隣接結晶との界面で閉塞される頻度が高いため、1個体中に存在する細孔のうち有効な吸着サイトとして機能するものが個数・容積ともに少ないので、高いガス吸着性を発揮することができない。
【0013】
本発明の単結晶配位高分子金属錯体化合物の製造方法は、重層法を用い、反応溶液の供給速度を適正な範囲内に限定したことにより、安定してバルクの単結晶を成長させることができる。すなわち、5配位の金属元素の塩とピラジンとの水溶液A上に形成した水の層上への2,3−ピラジンジカルボン酸水溶液Bの供給速度を0.04〜0.4cm/秒に制限する。
【0014】
水溶液Bの供給速度が0.04cm/秒未満であると、本来の結晶以外の不純物結晶が混在してしまう。例えば、5配位の金属元素としてCuを用いた場合、本来の青色結晶の他に緑色粒が混在した生成物となってしまう。これはピラジン支柱と結合すべきCuイオンが他の部分に結合してしまうためであると推測される。
【0015】
逆に、水溶液Bの供給速度が0.4cm/秒を超えると、液層同士の界面が乱れて適正な重層法を行なうことができない。
【実施例】
【0016】
本発明により重層法を用いて単結晶配位高分子金属錯体化合物を合成した。5配位の金属元素としてCuを用いた。合成の条件および手順は下記のとおりであった。図1(1)に、用いた装置を模式的に示す。反応溶液を滴下装置により反応容器内へ滴下する構造である。図1(2)は、重層法により形成した3層構造を示す。
【0017】
(1)図1の反応容器内で、過塩素酸銅(II)六水和物とピラジンを水300cmに溶解させて、青色の水溶液Aを得る。すなわち図1(2)に示した第1層を形成する。
【0018】
(2)重層法により、上記水溶液Aの上に水300cmを滴下速度0.08cm/秒で重ね、青色の水溶液上に無色の水の層を形成する。すなわち図1(2)に示した第2層を形成する。
【0019】
(3)更に、水の層の上に2,3−ピラジンジカルボン酸水溶液(無色)を重ね、三層積層状態とする。すなわち図1(2)に示した第3層を形成する。
【0020】
(4)この状態で室温にて1日放置し、青色結晶を得る。図2(1)に顕微鏡写真を示す。視野内に棒状の単結晶が5本認められる。
【0021】
得られた青色結晶について単結晶X線構造解析を行った結果、銅と2,3−ピラジンジカルボキシレートが形成する2次元構造がピラジンによって連結されて多孔性物質となっていることがわかった。
【0022】
次に、従来例として、上記と同じ溶液Aと溶液Bとを直接混合して攪拌した。これにより青色の粉末が生成した。図2(2)に顕微鏡写真を示す。無数の微細な粒子が凝集した状態である。
【0023】
本発明においては、重層法を用い、2つの反応溶液A、Bの間に反応溶媒である水を介在させたことにより、反応溶液A/B間での反応物質の拡散が遅くなり、配位高分子金属錯体化合物がゆっくりと生成し、その結果として、反応生成物が単結晶に成長すると考えられる。
【0024】
これに対して、従来法では2つの反応溶液A、Bを直接混合して攪拌するため、瞬時に配位高分子金属錯体化合物が生成する。このような高速の反応では、反応生成物が単結晶に成長することができず、多結晶微粒子から成る粉末状になる。
【0025】
上記の本発明による重層法で得られた単結晶試料と、従来の直接混合法により得られた粉末試料について、下記条件にて水素の吸着量を測定した。
【0026】
<水素吸着試験条件>
測定装置:PCT評価装置
測定法:流量法
測定圧力:20MPa、30MPa(2水準)
測定温度:室温
測定結果を図3に示す。測定圧力20MPa、30MPaでの水素ガス吸着量は、従来例の粉末試料が0.08mass%、0.15mass%であったのに対して、本発明例の単結晶試料は0.13mass%、0.21mass%と顕著に向上していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明によれば、ガス吸着性を高めた単結晶配位高分子金属錯体化合物およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】重層法により本発明の単結晶配位高分子Cu錯体化合物を合成するための(1)装置の配置および(2)反応容器内の液層構成を示す模式図である。
【図2】(1)本発明の重層法により合成した単結晶配位高分子Cu錯体化合物および(2)従来の直接混合法により合成した粉末状の配位高分子Cu錯体化合物の顕微鏡写真である。
【図3】(1)本発明の単結晶配位高分子金属錯体化合物および(2)従来の粉末状配位高分子金属錯体化合物について水素ガス吸着量と測定圧力との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1ユニットが〔M(C(C)〕・4HOで表わされる組成を有し、上記MはCu、Ni、Cdから選択される5配位の金属元素であり、該金属元素Mと2,3−ピラジンジカルボキシレートとから成る2次元構造同士がピラジンから成る支柱で相互に間隙を置いて接続された3次元構造を有する配位高分子金属錯体を骨格とし、上記間隙が上記支柱で区切られて成る細孔を有する配位高分子金属錯体化合物であって、バルクの単結晶を構成していることを特徴とする単結晶配位高分子金属錯体化合物。
【請求項2】
請求項1記載の単結晶配位高分子金属錯体化合物の製造方法であって、
上記5配位の金属元素の塩とピラジンとの水溶液Aを作成する工程、
上記水溶液Aの上に水を供給して該溶液A上に該水の層を形成する工程、
上記水の層上に2,3−ピラジンジカルボン酸水溶液Bを供給速度0.04〜0.4cm/秒で供給して該水の層上に該水溶液Bの層を形成する工程、および
その後、室温にて放置し、上記バルクの単結晶を得る工程
を含む重層法を行なうことを特徴とする単結晶配位高分子金属錯体化合物の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−184533(P2008−184533A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−19122(P2007−19122)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】