説明

印刷インキ用バインダー

【課題】 1液インキにおいてもボイル・レトルト適性、印刷適性に優れる印刷インキ用バインダー、とりわけグラビア印刷インキやフレキソ印刷インキのバインダーとして有用なポリウレタン樹脂を用いた印刷インキ用バインダー提供する。
【解決手段】 (A)数平均分子量5000〜10000の高分子ポリオール、(B)分子量1000未満の低分子量ポリオール、(C)有機ジイソシアネート、及び(D)鎖伸長剤を反応させて得られるポリウレタン樹脂であって、(A)と(B)の数平均分子量の加重平均値が4500〜8000である印刷インキ用バインダー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷インキ用バインダー、とりわけグラビア印刷インキやフレキソ印刷インキのバインダーとして有用なポリウレタン樹脂を主成分とする印刷インキ用バインダーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、包装用材料としてプラスチックフィルムは、様々な分野に用いられるようになっている。かかるプラスチックフィルムへの印刷は、グラビア印刷やフレキソ印刷により行なわれている。
そして、包装基材の多様化に伴い、装飾あるいは表面保護のために用いられる印刷インキやコーティング剤に求められる性能は益々高度になってきている。
例えば、プラスチックフィルム用印刷インキにおいては、多種多様なフィルムに対する優れた印刷適性、接着性、耐ブロッキング性、および光沢などを備えている必要がある。
さらに、食品包装容器の分野においては、インキが内容物と直接触れることがなく、衛生的なラミネート加工された包装容器が使用されている。
一般にラミネート加工としては、次にあげる2つの方法がある。すなわち、各種プラスチックフィルムを印刷基材としてインキを印刷し、印刷面にアンカーコート剤を介して溶融ポリオレフィンなどを積層する押出しラミネート加工法、および該印刷面に接着剤を介してプラスチックフィルムを積層するドライラミネート加工法である。
【0003】
したがって、ラミネート加工法において使用されるインキは、各種プラスチックフィルムなどの印刷基材に良好に接着し、積層されるプラスチックフィルムとの接着性、ラミネート強度が優れていなければならない。
さらに、内容物の殺菌処理を目的として、熱水中にラミネート加工された包装容器ごと浸漬するボイル、レトルト処理が施される場合には、処理中にラミネート浮きやしわの生じないボイル・レトルト適性が必要となる。
【0004】
以上のインキ性能のほとんどが、主にバインダー樹脂の性能に依存することから、それぞれ要求される性能に応じて、種々のバインダー樹脂が使用されている。
一般に、ラミネート用インキのバインダー樹脂としては、良好な接着性、ラミネート強度、耐ブロッキング性を得るために、分子内のウレタン結合濃度をできるだけ高くしたポリウレタン樹脂が使用されているが、ウレタン結合濃度が高くなると、インキのボイル・レトルト適性が不良となり易いうえ、メチルエチルケトンや酢酸エチル、イソプロピルアルコールなどの溶剤への溶解性が低下し、これら溶剤を用いた場合、版詰まりと言われる、版中にインキの固形分が堆積していく現象により、画線部の印刷不良が生じるという問題がある。
【0005】
そこでボイル・レトルト適性の不良を改善するため、ポリイソシアネート化合物を硬化剤として配合する2液型印刷インキが使用されているが、2液型印刷インキは印刷直前に硬化剤を配合しなければならないために取扱いが不便、ポットライフが短かいため作業性が悪いなど種々の問題を有していた。
【0006】
1液系のインキで優れたボイル・レトルト適性が得られる方法として、特許文献1では、ジオール成分として、分子量が500未満の低分子ジオールと、分子量が3500〜15000の高分子ポリエステルジオールの数平均分子量の加重平均値が500〜4000となる範囲で併用したポリウレタン樹脂の使用を提案している。また、特許文献2でさらに、ポリウレタン樹脂の合成成分として、分子量が3000〜10000の高分子ジオールと、分子量が200未満の低分子ポリオールの全体の平均分子量が1500〜2700の範囲で併用し、良好な耐ブロッキング性、接着性、ラミネート強度を有するインキのバインダー樹脂を提案している。
【0007】
これらのバインダー樹脂を使用すれば、1液系でボイル・レトルト適性を有するラミネート用インキを得ることができるが、ウレタン結合濃度を低く抑えるにはまだ不充分であり、インキのボイル・レトルト適性が不良となり易いうえ、メチルエチルケトンや酢酸エチル、イソプロピルアルコールなどの溶剤への溶解性が低下し、印刷不良が生じるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平06−033008号公報
【特許文献2】特開平06−248051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、1液インキにおいてもボイル・レトルト適性、印刷適性に優れる印刷インキ用樹脂、とりわけグラビア印刷インキやフレキソ印刷インキのバインダーとして有用なポリウレタン樹脂を用いた印刷インキ用バインダー提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、(A)数平均分子量5000〜10000の高分子ポリオール、(B)分子量1000未満の低分子量ポリオール、(C)有機ジイソシアネート、及び(D)鎖伸長剤を反応させて得られるポリウレタン樹脂であって、(A)と(B)の数平均分子量の加重平均値が4500〜8000であることを特徴とする印刷インキ用バインダーを提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、1液インキにおいてもボイル・レトルト適性、印刷適性に優れる印刷インキ用樹脂、とりわけグラビア印刷インキやフレキソ印刷インキのバインダーとして有用なポリウレタン樹脂用いた印刷インキ用バインダーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いる(A)数平均分子量5000〜10000の高分子ポリオールとしては、ポリエステルポリオール類、ポリエチレングリコール類、ポリプロピレングリコール類、ポリオキシテトラメチレングリコール類、ポリカーボネートポリオール類、ポリエーテルカーボネートポリオール類、ポリブタジエンポリオール類、ポリカプロラクトンポリオール類などを単独または混合して使用することができる。
【0013】
本発明で用いる(A)高分子ポリオールのうち、ポリエステルポリオールを構成するジオール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリエチレングリコール、1−もしくは2−メチル−1,3−ブチレングリコール、1−もしくは2−メチル−1,4−ペンチレングリコール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、トリプロピレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオ−ル、1−、2−もしくは3−メチル−1,5−ペンタンジオ−ル、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、エチレンプロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイド付加物、ネオペンチルグリコール、ブチルエチルプロパンジオールなどが挙げられる。これらのうちで特に好ましいものは3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコールである。
【0014】
なお、前記ジオ−ル成分のうち、一部を以下の多官能ポリオ−ルを用いることができる。多官能ポリオールとしては、例えばグリセリン、トリメチロ−ルプロパン、トリメチロ−ルエタン、1,2,6−ヘキサントリオ−ル、1,2,4−ブタントリオ−ル、ソルビト−ル、ペンタエリスリト−ル等が挙げられる。
【0015】
ポリエステルポリオールを構成するジカルボン酸としては、アジピン酸、コハク酸、セバシン酸、アゼライン酸、フマル酸、マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等およびこれらの2種以上の混合物などが挙げられる。これらのうちで特に好ましいものはアジピン酸およびセバシン酸である。また、前記ジカルボン酸の無水物および炭素数1〜5の低級アルコールのエステル化物等も含まれる。
【0016】
本発明におけるポリエステルポリオールは、従来公知のポリエステル製造方法と同様の方法で得られる。例えば、前記ジオール成分と前記ジカルボン酸もしくは酸無水物を脱水縮合せしめてポリエステルポリオールが得られる。
【0017】
また、本発明で用いる(A)数平均分子量5000〜10000の高分子ポリオールとして、ポリエチレングリコール類、ポリプロピレングリコール類、ポリオキシテトラメチレングリコール類、ポリカーボネートポリオール類、ポリエーテルカーボネートポリオール類、ポリブタジエンポリオール類、ポリカプロラクトンポリオール類などを用いることができる。
【0018】
本発明で用いる(A)高分子ポリオールは、数平均分子量5000〜10000であり、数平均分子量5000未満では、分子内のウレタン結合濃度が高くなり、インキのボイル・レトルト適性が不良となり易いうえ、メチルエチルケトンや酢酸エチル、イソプロピルアルコールなどの溶剤への溶解性が低下し易くなる。一方、数平均分子量が10000を超えると分子内のウレタン結合濃度が低くなり、接着性、ラミネート強度、及び耐ブロッキング性が低下し易くなる。(A)高分子ポリオールの数平均分子量は、好ましくは、5000〜8000であり、さらに好ましくは、5000〜7000である。
なお、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる(標準ポリスチレンによる換算)。
【0019】
本発明で用いる(B)分子量1000未満の低分子量ポリオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリエチレングリコール、1−もしくは2−メチル−1,3−ブチレングリコール、1−もしくは2−メチル−1,4−ペンチレングリコール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、トリプロピレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオ−ル、1−、2−もしくは3−メチル−1,5−ペンタンジオ−ル、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、ブチルエチルプロパンジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、エチレンプロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイド付加物、メチルジエタノールアミン、メチルジイソプロパノールアミン、フェニルジイソプロパノールアミン、4−メチルフェニルジイソプロパノールアミン、4−メチルフェニルジエタノールアミン等の3級アミン構造を有するジオール類、あるいは(A)数平均分子量5000〜10000の高分子ポリオールと同様にして得られる数平均分子量が1000未満の低分子ポリオールが挙げられる。
本発明では、(B)分子量1000未満の低分子量ポリオールは、エチレングリコールのように構造が一義的に決められる場合は、その分子量(MW)を、また、重合、縮合などにより複数の分子量から構成されるポリオールの場合は、数平均分子量(Mn)を用いる。
【0020】
本発明で用いる(C)有機ジイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香脂肪族ジイソシアネート、またこれらの有機ジイソシアネートの変性体が挙げられる。これらのポリイソシアネート化合物は単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。これらのうちで好ましいものは、脂環式ジイソシアネートであり、特に好ましいものはイソホロンジイソシアネートである。
【0021】
本発明で用いる(D)鎖伸長剤としては、各種公知のものを使用することができる。例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジアミン、ダイマージアミンなどが挙げられる。その他には、2−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2−ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ−2−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ−2−ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2−ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジ−2−ヒドロキシプロピルエチレンジアミン等の分子内に水酸基を有するジアミン類、ネオペンチルグリコール、ブチルエチルプロパンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリエチレングリコール、1−もしくは2−メチル−1,3−ブチレングリコール、1−もしくは2−メチル−1,4−ペンチレングリコール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール、トリプロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオ−ル、1−、2−もしくは3−メチル−1,5−ペンタンジオ−ル、2−メチル−1,3−プロパンジオールなどのジオール類、ビスフェノールAのエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、エチレンプロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイド付加物、およびそれ以外のジオール等が挙げられる。これらのうちで特に好ましいものは、イソホロンジアミンである。
【0022】
上記以外の(D)鎖伸長剤としては、メチルジエタノールアミン、メチルジイソプロパノールアミン、フェニルジイソプロパノールアミン、4−メチルフェニルジイソプロパノールアミン、4−メチルフェニルジエタノールアミン等の3級アミン構造を有するジオール類、およびこれらの2種類以上の混合物が挙げられる。
【0023】
さらに、本発明においては鎖伸長停止剤を必要に応じて用いることもできる。鎖伸長停止剤としては、モノアルコール(メタノール、プロパノール、ブタノール、2−エチルヘキサノールなど)、モノアミン[炭素数2〜8のモノもしくはジアルキルアミン(ブチルアミン、ジブチルアミンなど)、炭素数2〜6のモノもしくはジアルカノールアミン(モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、プロパノールアミン、イソプロパノールアミンなど)]などが挙げられる。
【0024】
本発明において、(A)、(B)、(C)、(D)成分を反応させてポリウレタン樹脂を製造する方法としては、(A)高分子ポリオール、(B)分子量1000未満の低分子量ポリオール、および(C)有機ジイソシアネート化合物をイソシアネート基過剰条件下で反応させ、イソシアネート基を有するプレポリマーを調製し、次いでこれを適当な溶媒中で(D)鎖伸長剤および必要により鎖長停止剤と反応させる2段法、ならびに各成分を一度に反応させる1段法の2つの方法が代表的なものとして挙げられるが、これらの変法または組み合わせもまた可能である。
【0025】
本発明に用いられるポリウレタン樹脂を2段法で製造する場合、(A)高分子ポリオール、(B)分子量1000未満の低分子量ポリオール、および(C)有機ジイソシアネートとを反応させる際の条件として、(A)と(B)の数平均分子量の加重平均値が4500〜8000の範囲になるように反応させる。(A)と(B)の数平均分子量の加重平均値が4500未満では、充分なボイル・レトルト適性が得られず、8000を超えると良好な接着性、ラミネート強度、耐ブロッキング性が得られない可能性がある。
ここで、加重平均は、重みつき平均ともいわれ、変量のとる値をx1,x2,‥‥,xN、それに対応する重み(ウェイトweight)をそれぞれw1,w2,‥‥,wNで表すとき、次の式で計算される平均のことである。
【0026】
【数1】

【0027】
また、活性水素基/イソシアネート基の当量比は、イソシアネート過剰になるようにするほか制限されないが、活性水素基/イソシアネート基が、当量比で1/1.5〜1/3の範囲になるように反応させるのが好ましい。また、得られたプレポリマーと(D)鎖伸長剤および必要に応じて鎖長停止剤とを反応させる際の条件は、プレポリマーの末端に有するイソシアネート基1当量当り、(D)鎖伸長剤および鎖長停止剤中のイソシアネート基と反応しうる活性水素の合計当量が1.0〜2.0当量の範囲内とするのが好ましく、特に活性水素がアミノ基の場合には、1.0〜1.5当量の範囲内であるのがよい。前記活性水素が1.0当量未満の場合、接着性、耐ブロッキング性が十分でなく、前記活性水素が2.0当量を超えて過剰になった場合には、(D)鎖伸長剤が未反応のまま残存し、印刷後に臭気が残りやすくなる。
【0028】
上記反応に際して、反応を促進させるため、必要により通常のウレタン反応において使用される触媒を用いることができる。かかる触媒の例としては、トリエチルアミン、N−エチルモルホリン、トリエチレンジアミン等のアミン触媒、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、オクチル酸錫等の錫系触媒、テトラブチルチタネート等のチタン系触媒などが挙げられる。
【0029】
使用する溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、メトキシプロパノール等のアルコール系溶剤、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤が挙げられ、これらは単独または2種以上の混合物として用いる。
【0030】
本発明において、合成し得られるポリウレタン樹脂の数平均分子量は、通常8000〜100000の範囲とするのが好ましい。数平均分子量が8000未満では、これをバインダーとして用いた印刷インキのラミネート強度、ボイル・レトルト適性が低下しやすくなり、一方、100000を超える場合にはポリウレタン樹脂の粘度が上昇し、印刷インキの光沢が低下しやすくなる。また、ポリウレタン樹脂の樹脂固形分濃度は特に制限はされないが、インキ製造時の作業性等を考慮して適宜決定すればよく、通常は15〜60質量%、粘度は50〜100000mPa・s(25℃)の範囲に調整するのが実用上望ましい。
【0031】
以上のようにして得られた本発明の印刷インキ用バインダーに、着色剤、溶剤、さらに必要に応じてインキ流動性およびインキ表面皮膜を改良するための界面活性剤、ワックス、その他添加剤を適宜配合しボ−ルミル、アトライタ−、サンドミル等の通常のインキ製造装置を用いて混練することにより印刷インキを製造することができる。なお、印刷インキ中の本発明のバインダーの配合量は印刷インキ中、その樹脂固形分で3〜20質量%になるように配合するのが好ましい。
【実施例】
【0032】
以下に、実施例および比較例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。なお、部および%は質量基準である。
【0033】
製造例1(ポリウレタン樹脂Aの合成)
撹拌機、温度計および窒素ガス導入管を備えた丸底フラスコに、(A)成分として数平均分子量6000のポリエステルポリオール(3−メチル−1,5−ペンタンジオールおよびネオペンチルグリコール(80/20質量比)のアジペート)399.2部、(B)成分としてエチレングリコール0.8部、および(C)成分としてイソホロンジイソシアネート35.2部を仕込み、窒素気流下、105℃で6時間反応させ、イソシアネート基含量1.53%のプレポリマーを製造した後、メチルエチルケトン290部を加えてウレタンプレポリマーの均一溶液とした。続いて(D)成分としてイソホロンジアミン15.6部、メチルエチルケトン446部および鎖伸長停止剤としてイソプロピルアルコール316部からなる混合物に前記ウレタンプレポリマー溶液725部を加え、次いで60℃で3時間反応させた。こうして得られたポリウレタン樹脂(以下、ポリウレタン樹脂A)は、樹脂固形分濃度が30.4質量%、粘度が990mPa・s(25℃)、アミン価が0.8mgKOH/gであった。
【0034】
製造例2(ポリウレタン樹脂Bの合成)
撹拌機、温度計および窒素ガス導入管を備えた丸底フラスコに、数平均分子量6000のポリエステルポリオール(3−メチル−1,5−ペンタンジオールおよびネオペンチルグリコール(80/20質量比)のアジペート)398.8部、1,4−ブタンジオール1.2部、およびイソホロンジイソシアネート35.6部を仕込み、窒素気流下、105℃で6時間反応させ、イソシアネート基含量1.54%のプレポリマーを製造した後、メチルエチルケトン290部を加えてウレタンプレポリマーの均一溶液とした。続いてイソホロンジアミン16部、メチルエチルケトン447部およびイソプロピルアルコール316部からなる混合物に前記ウレタンプレポリマー溶液726部を加え、次いで60℃で3時間反応させた。こうして得られたポリウレタン樹脂(以下、ポリウレタン樹脂B)は、樹脂固形分濃度が30.2質量%、粘度が980mPa・s(25℃)、アミン価が1.1mgKOH/gであった。
【0035】
製造例3(ポリウレタン樹脂Cの合成)
撹拌機、温度計および窒素ガス導入管を備えた丸底フラスコに、数平均分子量6000のポリエステルポリオール(3−メチル−1,5−ペンタンジオールおよびネオペンチルグリコール(80/20質量比)のアジペート)398.4部、1,6−ヘキサンジオール1.6部、およびイソホロンジイソシアネート35.6部を仕込み、窒素気流下、105℃で6時間反応させ、イソシアネート基含量1.54%のプレポリマーを製造した後、メチルエチルケトン290部を加えてウレタンプレポリマーの均一溶液とした。続いてイソホロンジアミン16部、メチルエチルケトン447部およびイソプロピルアルコール320部からなる混合物に前記ウレタンプレポリマー溶液725部を加え、次いで60℃で3時間反応させた。こうして得られたポリウレタン樹脂(以下、ポリウレタン樹脂C)は、樹脂固形分濃度が30.2質量%、粘度が980mPa・s(25℃)、アミン価が0.9mgKOH/gであった。
【0036】
製造例4(ポリウレタン樹脂Dの合成)
製造例1と同様の丸底フラスコに、数平均分子量6000のポリエステルポリオール(3−メチル−1,5−ペンタンジオールおよびネオペンチルグリコール(80/20質量比)のアジペート)398.4部、メチルジエタノールアミン1.6部、およびイソホロンジイソシアネート35.6部を仕込み、窒素気流下、105℃で6時間反応させ、イソシアネート基含量1.54%のプレポリマーを製造した後、メチルエチルケトン290部を加えてウレタンプレポリマーの均一溶液とした。続いてイソホロンジアミン16部、メチルエチルケトン447部およびイソプロピルアルコール320部からなる混合物に前記ウレタンプレポリマー溶液725部を加え、次いで60℃で3時間反応させた。こうして得られたポリウレタン樹脂(以下、ポリウレタン樹脂D)は、樹脂固形分濃度が30.5質量%、粘度が1000mPa・s(25℃)、アミン価が0.8mgKOH/gであった。
【0037】
製造例5(ポリウレタン樹脂Eの合成)
製造例1と同様の丸底フラスコに、数平均分子量6000のポリエステルポリオール(3−メチル−1,5−ペンタンジオールおよびネオペンチルグリコール(80/20質量比)のアジペート)388部、分子量720のポリプロピレングリコール12部、およびイソホロンジイソシアネート36部を仕込み、窒素気流下、105℃で6時間反応させ、イソシアネート基含量1.57%のプレポリマーを製造した後、メチルエチルケトン291部を加えてウレタンプレポリマーの均一溶液とした。続いてイソホロンジアミン16部、メチルエチルケトン448部およびイソプロピルアルコール322部からなる混合物に前記ウレタンプレポリマー溶液727部を加え、次いで60℃で3時間反応させた。こうして得られたポリウレタン樹脂(以下、ポリウレタン樹脂E)は、樹脂固形分濃度が30.3質量%、粘度が1100mPa・s(25℃)、アミン価が0.9mgKOH/gであった。
【0038】
製造例6(ポリウレタン樹脂Fの合成)
製造例1と同様の丸底フラスコに、数平均分子量6000のポリエステルポリオール(3−メチル−1,5−ペンタンジオールおよびネオペンチルグリコール(80/20質量比)のアジペート)388部、数平均分子量800のポリエステルポリオール(1,4−ブタンジオールのアジペート)12部、およびイソホロンジイソシアネート35.2部を仕込み、窒素気流下、105℃で6時間反応させ、イソシアネート基含量1.54%のプレポリマーを製造した後、メチルエチルケトン290部を加えてウレタンプレポリマーの均一溶液とした。続いてイソホロンジアミン16部、メチルエチルケトン447部およびイソプロピルアルコール321部からなる混合物に前記ウレタンプレポリマー溶液725部を加え、次いで60℃で3時間反応させた。こうして得られたポリウレタン樹脂(以下、ポリウレタン樹脂F)は、樹脂固形分濃度が30.4質量%、粘度が990mPa・s(25℃)、アミン価が1.1mgKOH/gであった。
【0039】
製造例7(ポリウレタン樹脂Gの合成)
製造例1と同様の丸底フラスコに、数平均分子量8000のポリエステルポリオール(3−メチル−1,5−ペンタンジオールおよびネオペンチルグリコール(80/20質量比)のアジペート)398部、エチレングリコール2部、およびイソホロンジイソシアネート36.4部を仕込み、窒素気流下、105℃で6時間反応させ、イソシアネート基含量1.58%のプレポリマーを製造した後、メチルエチルケトン291部を加えてウレタンプレポリマーの均一溶液とした。続いてイソホロンジアミン16.4部、メチルエチルケトン448部およびイソプロピルアルコール313部からなる混合物に前記ウレタンプレポリマー溶液725部を加え、次いで60℃で3時間反応させた。こうして得られたポリウレタン樹脂(以下、ポリウレタン樹脂G)は、樹脂固形分濃度が30.3質量%、粘度が990mPa・s(25℃)、アミン価が1.1mgKOH/gであった。
【0040】
製造例8(ポリウレタン樹脂Hの合成)
製造例1と同様の丸底フラスコに、数平均分子量8000のポリエステルポリオール(3−メチル−1,5−ペンタンジオールおよびネオペンチルグリコール(80/20質量比)のアジペート)380部、数平均分子量800のポリエステルポリオール(1,4−ブタンジオールのアジペート)20部、およびイソホロンジイソシアネート32部を仕込み、窒素気流下、105℃で6時間反応させ、イソシアネート基含量1.41%のプレポリマーを製造した後、メチルエチルケトン288部を加えてウレタンプレポリマーの均一溶液とした。続いてイソホロンジアミン14.4部、メチルエチルケトン442部およびイソプロピルアルコール310部からなる混合物に前記ウレタンプレポリマー溶液720部を加え、次いで60℃で3時間反応させた。こうして得られたポリウレタン樹脂(以下、ポリウレタン樹脂H)は、樹脂固形分濃度が30.1質量%、粘度が1050mPa・s(25℃)、アミン価が0.8mgKOH/gであった。
【0041】
製造例9(ポリウレタン樹脂Iの合成)
撹拌機、温度計および窒素ガス導入管を備えた丸底フラスコに、数平均分子量3000のポリエステルポリオール(3−メチル−1,5−ペンタンジオールおよびネオペンチルグリコール(80/20質量比)のアジペート)400部、およびイソホロンジイソシアネート59.2部を仕込み、窒素気流下、105℃で6時間反応させ、イソシアネート基含量2.44%のプレポリマーを製造した後、メチルエチルケトン306部を加えてウレタンプレポリマーの均一溶液とした。続いてイソホロンジアミン25.2部、メチルエチルケトン485部およびイソプロピルアルコール339部からなる混合物に前記ウレタンプレポリマー溶液765部を加え、次いで60℃で3時間反応させた。こうして得られたポリウレタン樹脂(以下、ポリウレタン樹脂I)は、樹脂固形分濃度が30.7質量%、粘度が1080mPa・s(25℃)、アミン価が1.1mgKOH/gであった。
【0042】
製造例10(ポリウレタン樹脂Jの合成)
撹拌機、温度計および窒素ガス導入管を備えた丸底フラスコに、数平均分子量5000のポリエステルポリオール(3−メチル−1,5−ペンタンジオールおよびネオペンチルグリコール(80/20質量比)のアジペート)400部、およびイソホロンジイソシアネート35.6部を仕込み、窒素気流下、105℃で6時間反応させ、イソシアネート基含量1.54%のプレポリマーを製造した後、メチルエチルケトン290部を加えてウレタンプレポリマーの均一溶液とした。続いてイソホロンジアミン16部、メチルエチルケトン447部およびイソプロピルアルコール316部からなる混合物に前記ウレタンプレポリマー溶液725部を加え、次いで60℃で3時間反応させた。こうして得られたポリウレタン樹脂(以下、ポリウレタン樹脂J)は、樹脂固形分濃度が30.6質量%、粘度が980mPa・s(25℃)、アミン価が0.9mgKOH/gであった。
【0043】
製造例11(ポリウレタン樹脂Kの合成)
撹拌機、温度計および窒素ガス導入管を備えた丸底フラスコに、数平均分子量6000のポリエステルポリオール(3−メチル−1,5−ペンタンジオールおよびネオペンチルグリコール(80/20質量比)のアジペート)400部、およびイソホロンジイソシアネート29.6部を仕込み、窒素気流下、105℃で6時間反応させ、イソシアネート基含量1.3%のプレポリマーを製造した後、メチルエチルケトン286部を加えてウレタンプレポリマーの均一溶液とした。続いてイソホロンジアミン13.6部、メチルエチルケトン438部およびイソプロピルアルコール310部からなる混合物に前記ウレタンプレポリマー溶液715部を加え、次いで60℃で3時間反応させた。こうして得られたポリウレタン樹脂(以下、ポリウレタン樹脂J)は、樹脂固形分濃度が30.1質量%、粘度が960mPa・s(25℃)、アミン価が0.7mgKOH/gであった。
【0044】
以上の製造例1〜10の配合を纏めて表1に示した。
【0045】
【表1】

【0046】
実施例1〜9および比較例1〜3
(1)色顔料分散性については、製造例1〜11の各バインダー樹脂33部、シアニンブルー10部、混合溶剤メチルエチルケトン/イソプロピルアルコール=7/3(質量比)57部からなる組成の混合物を、顔料分散機(ペイントシェイカー)を用いて3時間分散した後、混合溶剤を用いてザーンカップNo.3で15秒となるよう粘度調整し、色顔料分散性の評価を行った。また、製造例1〜10の各バインダー樹脂40部、チタン白35部、混合溶剤メチルエチルケトン/イソプロピルアルコール=7/3(質量比)25部からなる組成の混合物を、顔料分散機(ペイントシェイカー)を用いて1時間分散し、上記混合溶剤を用いてザーンカップNo.3で15秒となるように上記溶剤を用いて粘度調整を行い、下記(2)、(3)、(4)、(5)の評価検討を行った。以上の結果を表2に纏めて示した。
【0047】
本発明における各種性能評価の方法について説明する。
【0048】
(1)色顔料分散性
ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルムと略す)に上記に記載のインキ(シアニンブルー)を用いて印刷を施し、印刷フィルムを作製し、印刷物の塗膜の状態を目視観察で判定した。評価基準は以下の通り。
「○」…塗膜に色むらがなく、顔料分散が良好なもの。
「△」…塗膜に一部色むらがあり、顔料分散が若干劣るもの。
「×」…塗膜に色むらが生じており、顔料分散が劣るもの。
【0049】
(2)再溶解性
上記に記載のインキ(チタン白)を用いてPETフィルムに印刷を施し、印刷フィルムを作製し、上記フィルムをメチルエチルケトン/イソプロピルアルコール=7/3(質量比)の混合溶剤に浸漬して印刷面の再溶解性を観察した。
「○」…浸漬面積の70%以上が再溶解する。
「△」…浸漬面積の20%以上〜70%未満が再溶解する。
「×」…浸漬面積の0%以上〜20%未満が再溶解する。
【0050】
(3)印刷適性
上記に記載のインキ(チタン白)により小型グラビア印刷試験機を用いてPETフィルム印刷した印刷パターンの状態、すなわち、版のドクター切れの状態、およびセル詰りに関連する印刷パターンの欠落を目視観察で判定した。評価基準は以下の通り。
「○」…印刷適性が良好なもの。
「△」…印刷適性が不十分なもの。
「×」…印刷適性が極めて劣るもの。
【0051】
(4)ボイル適性試験
上記に記載のインキ(チタン白)をPETフィルム、ナイロンフィルム(NYフィルムと略す)に印刷した印刷物のインキ面に、イソシアネート系接着剤を2.0g/mの塗布量で塗布した後、ドライラミネート機によって60μmの無延伸ポリエチレンフィルムを積層し、ラミネート加工物を得た。このラミネート加工物を製袋し、内部に水/油の混合物を入れて密封後、95℃の熱水中で30分間加熱し、ラミネート加工物の浮き状態を観察してボイル適性を評価した。
「○」:ラミネート加工物に全く浮きのないもの。
「△」:ラミネート加工物に部分的に浮きが生じたもの。
「×」:ラミネート加工物の全面で浮きが生じたもの。
【0052】
(5)レトルト適性試験
上記に記載のインキ(チタン白)をPETフィルム、NYフィルムに印刷した印刷物のインキ面に、イソシアネート系接着剤を2.0g/mの塗布量で塗布した後、ドライラミネート機によって60μmの無延伸ポリプロピレンフィルムを積層し、ラミネート加工物を得た。このラミネート加工物を製袋し、内部に水/油の混合物を入れて密封後、120℃の加圧熱水中で30分間加熱し、ラミネート加工物の浮き状態を観察してレトルト適性を評価した。
「○」:ラミネート加工物に全く浮きのないもの。
「△」:ラミネート加工物に部分的に浮きが生じたもの。
「×」:ラミネート加工物の全面で浮きが生じたもの。
【0053】
【表2】

【0054】
(B)分子量1000未満の低分子量ポリオールを用いない比較例1〜3は、再溶解性、印刷適正、ボイル適正、レトルト適正にいずれも劣る。これに対し、(B)分子量1000未満の低分子量ポリオールを用い、(A)、(C)、(D)と反応させ、(A)と(B)の数平均分子量の加重平均値を4500〜8000として得られたウレタン樹脂をバインダーとした実施例1〜8は、再溶解性が良好で、溶剤への溶解性に優れるため版詰まりを抑制し、画線部の印刷不良が生じる問題を解決する。また、印刷適正に優れ、さらに、ボイル、レトルト適正にも優れるため、食品包装容器等に使用する印刷インキ用のバインダーとして極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)数平均分子量5000〜10000の高分子ポリオール、(B)分子量1000未満の低分子量ポリオール、(C)有機ジイソシアネート、及び(D)鎖伸長剤を反応させて得られるポリウレタン樹脂であって、(A)と(B)の数平均分子量の加重平均値が4500〜8000であることを特徴とする印刷インキ用バインダー。

【公開番号】特開2010−270215(P2010−270215A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123015(P2009−123015)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【出願人】(000233170)日立化成ポリマー株式会社 (75)
【Fターム(参考)】