説明

印刷可能な艶消し面を有する熱可塑性物品

本発明は、印刷可能艶消し面を有する熱可塑性物品に関する。該印刷可能艶消し面は、平均粒径2〜30ミクロン及び狭い粒径分布を有する無機粒子、特にシリカ粒子を、熱可塑性材料中に15〜30重量%混合することによって実現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2004年5月28日付け出願の米国仮出願60/575,618号のU.S.C.§119(e)下の利益を主張する。
【0002】
本発明は、印刷可能な艶消し面を有する熱可塑性物品に関する。特に、該印刷可能な艶消し面は、特定の粒径及び粒径分布を有する無機粒子、特にシリカ粒子を熱可塑性材料中に混合することにより実現される。
【背景技術】
【0003】
熱可塑性材料は、これらが種々の形状に容易に成形され得るので、多くの物品の製造に有益である。これらは、堅くて丈夫な物品を形成し、設計及び製作に競争力のあるコストでの優れた柔軟性がある。
【0004】
高分子物品の光沢(艶)レベルを制御することは、多くの用途にとって重要である。アクリル等のいくつかの高分子材料では、高光沢物品が容易に入手され得るが、低光沢又は艶消し(無光沢)物品にして、その後の処理(例えば熱成形)時にそれらの光沢レベルを保持するものは、入手がより難しい。しばしば、他の特性、例えば表面粗さ及び機械的靭性は、艶消しプロセスにより著しく変えられる。
【0005】
艶消し熱可塑性物品を得るための一つの方法は、サンドブラスティング又は表面パターン製作等による物品上へのあるパターンの機械的エンボス加工を含む。このアプローチによって製造される物品は、低光沢面を有し得るが、一般に、例えば熱成形又は表面上へのラミネーション等、その後の処理時に、それらの光沢レベルを維持しない。
【0006】
艶消し仕上げを得るための別のアプローチは、物品上へのコーティングの堆積又は印刷を含む。コーティング調合物中の艶消し剤は、物品に低光沢面を与える。しかしながら、このアプローチは、コーティングを硬化及び乾燥させる必要があるため、コスト効率が良くない。
【0007】
更に別のアプローチは、適切な大きさ及び屈折率の無機又は有機粒子の付加による熱可塑性樹脂の改質に頼る。有機粒子は、欧州特許EP1022115号、米国特許第5,346,954号、及びJP2001081266号に記述されるように、熱可塑性材料の表面の光沢を低減するために用いられている。有機高分子粒子の使用は、艶消し仕上げを作り出すが、これらの製造は難しく、従って高コストとなり得る。更には、有機高分子の微粉の取扱いは、いくらかのシリカ粉末を扱う場合に比べ、粉塵爆発の条件を作り出す可能性が高い。
【0008】
無機充填剤もまた、熱可塑性物品に艶消し仕上げを組み込むために使用されている。あいにく、これらの無機粒子、例えば、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、二酸化チタン、シリカ等では、通常、ポリマー(高分子/重合体)マトリクス材中に該無機粒子を均等に分散させることは難しい。これらはまた、該ポリマーの光透過率を大幅に下げる傾向があり、また、所望の表面テクスチャーをもたらさない。加えて、該充填剤粒子は、該ポリマーの物理的性質を低下させる傾向がある。
【0009】
乳化重合法によって製造されるコポリマー(共重合体)の微粒子(すなわち15マイクロメートル未満)が、ディスプレイ及び光パネル用途のための光拡散効果を発生させるために、プラスチックマトリクス中に時々加えられる(例えば米国特許第5,346,954号)。しかしながら、この種の製品は、ポリマーマトリクスを軟化させる傾向にあり、エンドユーザーが非常に多くの場合に好むテクスチャード(感触)面を作り出すことはできない。
【0010】
米国特許第4,906,676号は、オプティカル効果のために熱可塑性材料中にシリカ粒子又はガラス粒子を用いることを記述している。該粒子は、表面を疎水性にし、これにより熱可塑性マトリクス中の粒子の分散性を高めるため、シラン化合物で表面処理される。
【0011】
熱可塑性物質の艶消し表面を作り出す現在のアプローチの不利な点には、機械的性質(例えば靭性)の全体的喪失と表面粗さの導入とが含まれる。ある用途、例えば物品への書込み又は印刷において、粗さは、画像転写に有害であり得る。平均径<10ミクロンの粒子を選ぶことにより、これら二つの問題は最小化され得る。米国特許第6,524,694号及び特許出願第20030175499号は、押出熱可塑性物質中における窒化ホウ素及びケイ酸塩等の無機粒子の使用を記述している。しかしながら、良好な分散性を得るため、分散剤が要求され、0.01〜15重量%で低装填される。分散剤の存在は、該熱可塑性物質の機械的性質を低減し得る。
【0012】
微粉化シリカ等の直径<1ミクロンの無機粒子は、堆積物の蓄積による溶融加工設備の付着物をしばしばもたらす。そのため、低光沢で十分に低い粗さを得るため、平均粒径の最適範囲が存在する。
【特許文献1】欧州特許EP1022115号
【特許文献2】米国特許第5,346,954号
【特許文献3】JP2001081266号
【特許文献4】米国特許第4,906,676号
【特許文献5】米国特許第6,524,694号
【特許文献6】特許出願第20030175499号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
費用を高め、また、熱可塑性物質の機械的性質に悪影響を与え得る分散剤又は粒子表面コーティングを加える必要なく、低光沢、印刷適性、及び低マイグレーションすなわち低「プレートアウト」の有利なバランスを与える方法が望まれている。現在、ワンステッププロセスで使用可能で、サンドブラストされるガラス材料に取って代わるために必要な性質及び外観を提供可能な、この市場で奏功するプラスチック製品は存在しない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
驚いたことに、粒径が2〜20ミクロンで、狭い粒径分布を有する無機アルカリアルミナシリカ粒子の付加が、表面粗さの無い艶消し仕上げを作り出すことが分かった。そのような材料の溶融加工又は成形(押出し、ラミネーション、熱成形)は、低光沢外観の印刷可能物品(フィルム、シート、ラミネート)をもたらす。本発明の粒径及び粒径分布を有するシリカ粒子の使用は、表面処理又は分散剤の添加を必要とすることなく、より高い粒子の装填を許容する。
【0015】
本発明の目的は、熱可塑性物品に、高表面粗さを伴うことなく、艶消し仕上げ又は低光沢仕上げを与えることである。
【0016】
本発明の更なる目的は、熱可塑性物品に印刷可能面を与えることである。
【0017】
本発明の別の目的は、熱可塑性材料から形成される熱可塑性物品に印刷適性及び低光沢艶消し面を付加するための効率的なワンステップ方法を提供することである。
【0018】
本発明の上記目的は、本発明の好ましい実施形態の原理に従い、15〜30重量%の無機粒子を含む、艶消し印刷可能面を有する熱可塑性物品によって実現される。該粒子は、好ましくは、2〜20ミクロンの平均粒径を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、印刷可能な艶消し面を有する熱可塑性物品に関する。該印刷可能な艶消し面は、特定の粒径及び粒径分布を有する無機シリカ粒子を熱可塑性材料中に混合することにより実現される。
【0020】
熱可塑性マトリクスは、任意の熱可塑性材料であり得、ABSターポリマー、ASAコポリマー、ポリカーボネート、ポリエステル、PETG、MBSコポリマー、HIPS、アクリロニトリル/アクリラートコポリマー、ポリスチレン、SAN、MMA/S、アクリロニトリル/メチルメタクリレートコポリマー、衝撃改質ポリオレフィン、PVC、衝撃改質PVC、イミド化アクリルポリマー、フルオロポリマー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、PVDF−アクリルポリマーブレンド、アクリルポリマー又は衝撃改質アクリルポリマーを含むが、これらには限定されない。好ましい熱可塑性材料は、衝撃改質アクリル及びアクリルコポリマーを含む。ポリメタクリル酸メチルポリマー及びコポリマーが特に好ましい。
【0021】
本発明に有用な無機粒子は、2〜12ミクロン、好ましくは2〜12ミクロン、最も好ましくは3〜8ミクロンの粒径中央値を有する。20ミクロンを超える粒径は、印刷を困難にするような非常に粗い表面を作り出すことが分かった。艶消し剤粒子の粒径分布は、異なる径の粒子に分留(分別)し、各分留を計量することによって評価され得る。第95百分位数粒径は、粒子の95重量%が未満(以下)である大きさである。表面粗さを最小にするため、艶消し剤は、40ミクロン未満、好ましくは30ミクロン未満、最も好ましくは15ミクロン未満である第95百分位数粒径を有するべきである。
【0022】
有益な無機粒子は、硫酸カルシウム、タルク、ケイ酸塩、シリカ、雲母、チタン酸塩、金属硫酸塩、金属炭酸塩、金属酸化物、ホウ化物、窒化ホウ素、セラミック、及びこれらの混合物を含むが、これらに限定されない。好ましい無機粒子は、シリカ、アルミナ、タルク、金属炭酸塩、又はこれらの混合物を含む。好ましい無機粒子は、アルカルアルミナシリカである。一実施形態において、アルカリアルミナシリカ粒子は、粒径分布の第95百分位数が13ミクロンで、平均直径4ミクロンを有するものであった。
【0023】
無機粒子は、熱可塑性物品中に15〜30重量%で存在する。より好ましくは、無機粒子は16〜23重量%で存在する。粒子が15重量%を下回る場合、熱可塑性材料は高すぎる光沢レベルを有していた。
【0024】
熱可塑性物品は、当業界に知られている手段、例えば、成形、ブロー成形、押出し、共押出し、溶融キャスト押出し、ラミネーション、熱成形等によって形成される。該物品は、シート、フィルム、ラミネート、ロッド、円錐、又は他の形状の熱可塑性材料であり得る。
【0025】
粒子は、当業界に知られている方法によって熱可塑性材料に加えられ得る。これは、押出し又は成形ラインにおける供給口のいずれかで該粒子を添加することを含む。押出しプロセス中の無機粒子の添加は、柔軟で低コストなプロセスを与える。これはまた、一の製品から別の製品への低コストな移行も与える。該粒子は、該プロセスの乱れにより、熱可塑性材料中に均一態様で混合される。あるいは、該粒子は、重合プロセスの最後付近で又は重合プロセスの後に熱可塑性材料と混合され得る。該粒子及び熱可塑性材料は、次いで、押出し又は成形プロセスにおいて原材料として使用されるペレットに形成される。該粒子は、技術的に要求される分散剤を必要とすることなく、熱可塑性材料に加えられる。均等性は、押出しプロセスにおける混合及びせん断応力の適切な分布によって得られる。
【0026】
熱可塑性材料及び無機粒子に加えて、押出し及び/又は成形前又はその間、他の典型的な添加剤が熱可塑性組成物に加えられ得る。これらは、離型剤、衝撃改質剤、染料及び着色剤を含む。熱可塑性材料の加工を改善するために加えられる離型剤及び潤滑脂が分散剤としての役割を果たすが、該離型剤及び潤滑脂は、無機粒子の良好な混合及び分散性を保証するためには必要ない。
【0027】
本発明の熱可塑性物質は、低光沢、低表面粗さ、優れた光透過性及び優れた加工性を有する。このような熱可塑性物質の使用は、フィルム、シート、共押出しシート、成形品等の物品の製造を含む。これらの物品は、印刷、装飾、エンボス、ラミネート等のその後のプロセスにかけられ得る。
【0028】
我々の発明の好ましい実施形態は、次の実施例によって例示される。当業者は、ここに述べた実施形態外の小さな変化は、この発明の精神及び範囲から逸脱しないことを理解するであろう。
【実施例】
【0029】
ポリマー樹脂が表1に記述した成分及び割合を用いて調製された。該実施例に用いた艶消し剤は、表2に記述されるように、中央値粒径がわずかに変化し、粒径分布がより大きく変わる。成分は、均等混合物を得る条件を用いて溶融押出しによって混合された。結果として生じた樹脂は、磨き上げた一又は複数のロール上への溶融押出しにより、厚さ=0.003インチ(0.0762mm)のフィルムに変形された。該フィルムサンプルは、光沢値及び表面粗さが計測された。光沢値は、BYKガードナーGardner Micro-Haze Plus光沢計を用いて測定された。
【0030】
上記文献は、平均粒径範囲1〜10ミクロンの艶消し剤が低い粗さを得るために好ましいと主張するが、典型的な艶消し剤は広い粒径分布を有する。従って、粒子のかなりの割合(>5重量%)は15ミクロンより大きい。例1〜5のフィルムは、表3に要約されるように、光沢及び粗さ挙動の範囲を示す。フィルム上への印刷等の用途では、低粗さ及び低表面光沢が望ましい(好ましくは、60-degree-geometryで光沢値<23)。狭い粒径分布(アルカリアルミナシリカ#1)の艶消し剤の使用は、低粗さ及び低光沢のフィルムをもたらす。
【0031】
【表1】

【0032】
【表2】

【0033】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
15〜30重量%の無機粒子を含む、艶消し印刷可能面を有する熱可塑性物品。
【請求項2】
前記熱可塑性物品の熱可塑性材料が、ABSターポリマー、ASAコポリマー、ポリカーボネート、ポリエステル、PETG、MBSコポリマー、HIPS、アクリロニトリル/アクリラートコポリマー、ポリスチレン、SAN、MMA/S、アクリロニトリル/メチルメタクリレートコポリマー、衝撃改質ポリオレフィン、PVC、衝撃改質PVC、イミド化アクリルポリマー、フルオロポリマー、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、PVDF−アクリルポリマーブレンド、アクリルポリマー、又は衝撃改質アクリルポリマーから成る群から選択される請求項1の熱可塑性物品。
【請求項3】
前記熱可塑性材料は、ポリメタクリル酸メチルホモポリマー又はコポリマーである請求項2の熱可塑性物品。
【請求項4】
前記無機粒子は、シリカ、タルク、アルミナ、金属炭酸塩又はこれらの混合物から成る群から選択される請求項1の熱可塑性物品。
【請求項5】
前記無機粒子は、アルカリアルミナシリカである請求項1の熱可塑性物品。
【請求項6】
前記無機粒子は、2〜20ミクロンの平均粒径を有する請求項1の熱可塑性物品。
【請求項7】
前記無機粒子は、2〜12ミクロンの平均粒径を有する請求項1の熱可塑性物品。
【請求項8】
前記無機粒子は、3〜8ミクロンの平均粒径を有する請求項1の熱可塑性物品。

【公表番号】特表2008−501062(P2008−501062A)
【公表日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−515179(P2007−515179)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【国際出願番号】PCT/US2005/017402
【国際公開番号】WO2005/118305
【国際公開日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【出願人】(505005522)アーケマ・フランス (335)
【Fターム(参考)】