説明

印刷導体

【課題】 新規な印刷導体を提供する。
【解決手段】 紙又はプラスチックフィルムのような基質を、インクジェット印刷法を用い、被覆のない電導性の構造でコーティングする。水分散性のポリアルキレンジオキシチオフェンから製造したポリマー溶液を印刷に用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙又はプラスチックフィルムのような基質を、インクジェット印刷法又はX−Yプロッタを用い、被覆のない電導性の構造でコーティングする方法によって得られる印刷導体に関する。水分散性のポリアルキレンジオキシチオフェンから製造するポリマー溶液を印刷工程に用いる。
【背景技術】
【0002】
電気回路用に用いられるプリント回路板は、よく知られた電導性構造を含む基質である。プリント回路板は、銅から製造する導体回路を着けた、剛性または可撓性のプラスチック基質によって構成される。銅の回路は写真焼付け又はスクリーン印刷によって着ける。
【0003】
ポジティブ法による写真焼付けにおいては、第一段階は基質全面に銅を着けることである。この全面を覆った銅の上にフォトレジストを施す。フォトレジストは、マスクを通して導体回路が存在すべき箇所に光照射を受け、照射されたフォトレジストは硬化する。続いて現像処理を行い、未硬化のフォトレジストの部分を除去する。これによって露出した銅を次のエッチング工程において除去する。硬化したフォトレジストを除去(ストリップ)すると、いまや残るのは望まれる銅の導体回路のみである。
【0004】
スクリーン印刷工程においては、望まれる導体構造の像を、全面を銅で覆った基質上にエッチレジストとして印刷する。続くエッチング工程において、望まれる導体回路の間の銅をエッチングによって除去し、次いでエッチレジストを除去する。
【0005】
金属堆積物を非電導性基質上に直接コーティングする場合、金属と基質との接着に問題が生じる可能性がある。この場合は、電導性ポリマーを基材とするペーストをスクリーン印刷することによって、基質とそれに重ねる上層の間によい接着を得ることができる。ポリマーから製造する導体回路構造は例えば、スクリーン印刷を用いて、非電導性基質上に印刷し、次いで化学的に銅を着ける(特許文献1及び特許文献2)。
【0006】
基質に着ける電導性構造として電導性ポリマーを使用することは又、ポリマーを基材とするエレクトロルミネセンス表示装置との関連で知られている(非特許文献1)。電導性のポリマーを着けるためには、ポリマーの溶液をインクジェットプリンターのカートリッジに装入し、プリンターにより基質上に印刷する。この方法における一つの大きな問題は、ポリマー用の有機溶媒、通常ハロゲン化炭化水素又はテトラヒドロフランが、溶媒和又は膨潤によってプリンターのカートリッジのプラスチックを腐食させることであった。
【0007】
この欠点を解消するため、Y.Yang及びJ.Bharathan(非特許文献2)は、ポリチオフェン系の化合物に由来する水溶性のポリマーを用いた。これらの水溶性ポリマーはプリンターのカートリッジを腐食しなかった。水溶性ポリマーの構造は大気中の水分によっても変わるので、焼鈍工程で水が除去された以降はもはや水と接触しない場合に限り、これらのポリマーは使用に適する。ポリマーを基材とするエレクトロルミネセンス表示装置の場合は、水を除去し、更にその他の必要な作業を行った後に、電導性構造は水を完全に除いた不活性条件下で密封されるため、上記の条件は障害とならない。しかしながら、水溶性ポリチオフェンは被覆のない、すなわち大気に曝される導体回路構造には不適当である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】DE 3625587号
【特許文献2】DE 3627256号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Science,17 October 1997,p.383
【非特許文献2】Science,Vol.279,20 February 1998
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、被覆のない電導性構造を基質上に製造するための、公知の銅導体回路を用いる構成法よりも単純でより速やかに実施でき、通常の条件下で安定した導体回路構造を与える方法を発見することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の目的は、適当なポリアニオンを対イオンとして含むポリアルキレンジオキシチオフェンの水分散体をカートリッジに入れた、インクジェットプリンター又はX−Yプロッタを用いて、基質上に導体構造を印刷することによって達成される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
用いる基質は紙又はプラスチックフィルムでもよい。
【0013】
ポリアルキレンジオキシチオフェンは、カチオン電荷を与えられ、かつ式(I)の構造単位から構成され、
【0014】
【化1】

【0015】
式中
ポリアニオンの存在下、
1及びA2は、相互に独立に、置換基を持つか又は持たないC1〜C4アルキルを示すか、或いは合わせて置換基を持つか又は持たないC1〜C4アルキレン基を形成し、そして
nは、2〜10,000、好ましくは5〜5,000の整数を示す。
【0016】
好ましいカチオン性ポリアルキレンジオキシチオフェンは、式(Ia)又は(Ib)の構造単位から構成され、
【0017】
【化2】

【0018】
式中
1及びR2は、相互に独立に、水素,置換基を持つか又は持たないC1〜C18アルキル、好ましくはC1〜C10アルキル、特にC1〜C6アルキル、C2〜C12アルケニル、好ましくはC2〜C8アルケニル、C3〜C7シクロアルキル、好ましくはシクロペンチル又はシクロヘキシル、C7〜C15アラルキル、好ましくはフェニル−C1〜C4アルキル、C6〜C10アリール、好ましくはフェニル又はナフチル、C1〜C18アルコキシル、好ましくは、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ又はイソプロポキシのような、C1〜C10アルコキシル、又はC2〜C18アルコキシエステルを示し、そして
3及びR4は、相互に独立に、水素(但し双方が同時には水素ではなく)、又は少なくとも一つのスルフォン酸塩置換基を持つC1〜C18アルキル、好ましくはC1〜C10アルキル、特にC1〜C6アルキル、C2〜C12アルケニル、好ましくはC2〜C8アルケニル、C3〜C7シクロアルキル、好ましくはシクロペンチル又はシクロヘキシル、C7〜C15アラルキル、好ましくはフェニル−C1〜C4アルキル、C6〜C10アリール、好ましくはフェニル又はナフチル、C1〜C18アルコキシル、好ましくは、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ又はイソプロポキシのような、C1〜C10アルコキシル、又はC2〜C18アルコキシエステルを示し、そして
nは、2〜10,000、好ましくは5〜5,000の数を示す。
【0019】
特に好ましいのは、式(Ia−1)及び/又は(Ib−1)のカチオン性又は中性のポリアルキレンジオキシチオフェンであり、
【0020】
【化3】

【0021】
式中
3は、上記で定義され、そして
nは、2〜10,000、好ましくは5〜5,000の整数を示す。
【0022】
ポリアニオンは、カルボン酸の重合体、例えばポリアクリル酸、ポリメタクリル酸又はポリマレイン酸、及び、ポリスチレンスルフォン酸及びポリビニルスルフォン酸のようなスルフォン酸の重合体のアニオンを含む。これらのポリカルボン酸及びポリスルフォン酸は又、ビニルカルボン酸およびビニルスルフォン酸と、アクリレート及びスチレンのような、他の重合可能なモノマーとの共重合体でもよい。
【0023】
対イオンは、特に好ましくはポリスチレンスルフォン酸(PSA)のアニオンを含む。
【0024】
ポリアニオンを供給するポリ酸の分子量は、好ましくは1000〜2,000,000、特に好ましくは2000〜500,000である。ポリ酸又はそのアルカリ金属塩は市販されており(例えばポリスチレンスルフォン酸及びポリアクリル酸)又は別途公知の工程で製造することが可能である(例えばHouben Weyl, Methoden der organischen Chemie 「有機化学の方法」、Vol. E 20 Makromolekulare Stoffe, Part 2,(1987), pp.1141 et seq.参照)。
【0025】
ポリアルキレンジオキシチオフェン及びポリアニオンの分散体を生成するのに必要なフリーのポリ酸の代わりに、ポリ酸のアルカリ金属塩と適当な量のモノ酸の混合物を用いることも又可能である。
【0026】
式(Ib−1)の場合は、ポリアルキレンジオキシチオフェンは構造単位中に陽電荷及び陰電荷を持つ。
【0027】
ポリアルキレンジオキシチオフェンの製造は、例えば、EP−A 0440957号(=US−A 5300575号)に述べられている。ポリアルキレンジオキシチオフェンは酸化的重合によって製造される。これによりポリアルキレンジオキシチオフェンは電荷を与えられるが、その数と位置を疑いの余地なく特定することはできないので、式には示されていない。
【0028】
この新規の方法の長所は、公知の銅導体回路に匹敵する品質の、被覆のない電導構造を、実施が容易なかつ数少ない工程で、プリント回路板上に製造することができる点である
。製造のために必要なものは、適当に準備したプリンターカートリッジを備えたインクジェットプリンター及びプリンターを制御するコンピューターのみである。望まれる導体回路構造はコンピューターのスクリーン上で設計し、直ちに適当な基質上に印刷することができる。
【0029】
水分散性のポリアルキレンジオキシチオフェンは水溶性ではなく、通常条件下においてさえ長期安定性のある電導性構造を生成する。
【実施例】
【0030】
実施例1
3,4−ポリアルキレンジオキシチオフェン分散体の製造
20gのフリーのポリスチレンスルフォン酸(Mn 約40,000)、21.4gのペルオキソ二硫酸カリウム及び50mgの硫酸鉄(III)を2000mlの水中で攪拌した。8.0gの3,4−エチレンジオキシチオフェンを攪拌しながら加えた。この分散体を24時間室温で攪拌した。100gのアニオン交換樹脂(市販品 バイエル社製レバチット MP62)及び100gのカチオン交換樹脂(市販品 バイエル社製レバチット
S100)を、双方とも湿った状態で加え、その後8時間攪拌した。
【0031】
イオン交換樹脂を孔径50μmのポリアクリロニトリルの布でろ過して除いた。これによって、固形物含量が約1.2重量%の、対イオン(II参照)としてポリスチレンスルフォン酸塩(PSS)を含む、3,4−ポリアルキレンジオキシチオフェン(PEDT)の、そのまま使用可能な分散体が得られた。
【0032】
この分散体は0.45μmのフィルターで容易にろ過が可能であり、ろ過後インクジェットプリンター用のインクを調製するために用いた。
【0033】
【化4】

【0034】
実施例2
実施例1の式(II)に示すPEDT/PSSの水性分散体を、HP−Desk−Je
t PLUS(Hewlett−Packard)インクジェットプリンター用の空のカートリッジに装入した。カートリッジはあらかじめ切り開いて内部を完全に清浄にし、(II)に示すPEDT/PSS分散体を装入した後に、Henkel社製ポリエチレンホットメルト接着剤を用いて再び密封した。このようにして準備したインクジェットプリンター用カートリッジを、HP−Desk−Jet PLUSインクジェットプリンターに装着し、コンピューター制御によりプリンターを用いてPEDT/PSS分散体を印刷する場合の印刷液の受器として利用した。印刷すべきパターンは、従来のソフトウエアプログラムを用いて、コンピューターで設計した。三つのバイエル社の十字型商標を縦に並べた像(図1)を選んだ。この像をコンピューター制御によって紙に印刷した。結果は縦に並べた三つのバイエル社の十字型商標を、電導性のPEDT/PSSで構成して紙に印刷したものであり、固有の青色を帯びていた。
【0035】
実施例3
紙の代わりに厚さ0.1mmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いた以外は、実施例2と同様の手順で、バイエルの十字型商標を印刷した。
【0036】
実施例4
パターンが、EAGLEレイアウトソフトウエアを用いて設計したプリント回路板の一部分(図2)であった以外は、実施例2と同様の手順で印刷した。
【0037】
この導体回路パターンは、実施例3で行ったようにPEDT/PSSを用いて紙に印刷した。
【0038】
実施例5
実施例4で行ったのと同様に、図3の導体回路系を厚さ0.1mmのPETフィルムに印刷した。印刷された導体回路の電気伝導度を導通テスターを用いて実証した。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】バイエル社の十字型商標を、ポリ−(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDT)及びポリスチレンスルフォン酸塩(PSS)を用いて紙に印刷したもの。
【図2】導体回路系をPEDT/PSSを用いて紙に印刷したもの。
【図3】導体回路系をPEDT/PSSを用いてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに印刷したもの。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
適当なポリアニオンを対イオンとして含むポリアルキレンジオキシチオフェンの水分散体をカートリッジに入れた、インクジェットプリンター又はX−Yプロッタを用いて、電導性構造を基質上に印刷したものであることを特徴とする、被覆のない電導性構造を基質上に有する印刷導体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−68909(P2011−68909A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275906(P2010−275906)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【分割の表示】特願2000−571008(P2000−571008)の分割
【原出願日】平成11年8月31日(1999.8.31)
【出願人】(591007228)エイチ・シー・スタルク クレビュース ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシュレンクテル・ハフツング (20)
【氏名又は名称原語表記】H.C.Starck Gmbh
【Fターム(参考)】