説明

印刷方法、転写材、およびインクジェット吐出装置

【課題】工程の高速化が可能で、高精細な転写画像を得ることが可能な印刷方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る印刷方法は、基材4に転写層6が設けられた転写材3の該転写層6上、もしくは被転写媒体2上に、転写したい図柄で接着剤をインクジェット噴射する印刷によって接着層7を形成し、前記転写材3と前記被転写媒体2とで前記接着層7を挟むように重ねて圧着して、転写したい図柄で前記転写層6を前記被転写媒体2に転写する印刷方法において、前記接着層7を形成する際に、前記接着剤の噴射量を少なくとも二段階以上に切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷方法、転写材、およびインクジェット吐出装置に関し、さらに詳細には、転写による印刷方法、ならびに当該印刷方法に用いられる転写材およびインクジェット吐出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種製品表面に直接に絵柄や文字等を印刷する方法のひとつとして、基材フィルム表面にあらかじめ印刷しておいた絵柄を製品表面に転写する転写印刷方法がある。
【0003】
ここで、転写印刷方法の従来例として、接着剤を転写材もしくは被転写媒体の何れか一方に転写したい図柄でインクジェット噴射によって塗布し、転写材と被転写媒体とを圧着して、転写材の転写層を被転写媒体に転写印刷する印刷方法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2005−501761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に例示される印刷方法において、例えば、インクジェット印刷等の印刷手段によって転写材もしくは被転写媒体に転写したい図柄で接着剤を噴射して接着層を形成する際に、当該図柄の周縁部では転写層と接着層との接触が不安定となり、転写層を基材から意図通りに剥離できないため、精密な図柄の再現が困難になるという課題が生じ得る。
【0006】
これについて、本願発明者は、相対的に大きな噴射液滴の集合体で形成される接着層は、相対的に小さな噴射液滴の集合体で形成される場合と比べて、図9に示すように、転写材103の接着層107の周縁部107aにおける境界面107bの斜度αが緩くなるために、当該周縁部107aにおける転写層106と接着層107との接触が不安定になり、高精細な転写画像を得ることが困難になることを突き止めた。なお、同図9中の転写層106上において、インクジェット液滴として噴射される個々の液滴(接着剤107A)の外形・噴射位置を一点鎖線で示し、インクジェット液滴として噴射された接着剤107Aが集合体として定着することによって形成される接着層107の外形を実線で示す。
【0007】
一方、上記の課題を解決すべく、相対的に小さな噴射液滴の集合体で接着層を形成しようとすると、インクジェット液滴の噴射量を少なくして印刷しなければならないため、高速に印刷することができないという課題が生じ得る。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、工程の高速化が可能で、高精細な転写画像を得ることが可能な印刷方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施形態として、以下に開示するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0010】
開示の印刷方法は、基材に転写層が設けられた転写材の該転写層上、もしくは被転写媒体上に、転写したい図柄で接着剤をインクジェット噴射する印刷によって接着層を形成し、前記転写材と前記被転写媒体とで前記接着層を挟むように重ねて圧着して、転写したい図柄で前記転写層を前記被転写媒体に転写する印刷方法において、前記接着層を形成する際に、前記接着剤の噴射量を少なくとも二段階以上に切り替えることを特徴とする。これによれば、接着剤の噴射量を切り替えることで、広範囲に接着剤を塗布する際には、相対的に大きな液滴で印刷(噴射)を行い、それ以外(特に周縁部)には相対的に小さな液滴で印刷(噴射)を行うことができる。したがって、接着層を高速に形成でき、且つ、高精細な転写画像を得ることが可能となる。さらに、接着層の膜厚が薄くなってしまう領域に接着剤を追加する際にも、膜厚の制御を容易に行うことができる。
【0011】
また、本発明において、前記接着層を形成する際に、該接着層の周縁部を、該周縁部以外よりも少ない噴射量で、該周縁部以外よりも狭い噴射間隔で印刷することが好ましい。これによれば、周縁部の噴射間隔を狭くして解像度を高くすることで、高精細な接着層を高速に形成することができる。なお、周縁部のインクジェット液滴(接着剤)は重ねても良く、重ねなくても良い。
【0012】
また、本発明において、前記接着層を形成する際に、該接着層の周縁部では該接着層を複数回に分けて印刷し、二回目以降の印刷を初回に印刷した領域に重ねて行うことが好ましい。これによれば、転写したい図柄の周縁部では、初回の印刷に重ねて二回目以降の印刷を行うことで、接着層境界面の膜厚が大きくなり、接着層境界でも安定した転写を実現できる。
【0013】
また、本発明において、前記接着層を形成する際に、該接着層の周縁部では該接着層を複数回に分けて印刷し、二回目以降の印刷を初回より少ない接着剤噴射量で、初回に印刷した領域に重ねて行うことが好ましい。これによれば、転写したい図柄の周縁部では、初回の印刷を相対的に大きな液滴で印刷(噴射)し、相対的に小さな液滴すなわち初回の印刷よりも小さな液滴で印刷(噴射)することで、接着層境界面の斜度が大きくなり、接着層境界でも安定した転写を実現できる。
【0014】
また、本発明において、前記接着層を形成する際に、フィラーが添加された接着剤を用いることが好ましい。これによれば、フィラーが添加された接着層を形成することができる。したがって、転写時における接着層の変形が防止され、高精細な転写画像を得ることができる。
【0015】
開示の転写材は、前記の印刷方法に用いられる転写材であって、前記接着層は、前記転写層上に設けられると共に、少なくとも二段階以上に切り替えて噴射された前記接着剤によって形成されていることを特徴とする。これによれば、接着層境界でも安定した転写を実現でき、高精細な転写画像を得ることが可能となる。
【0016】
開示のインクジェット吐出装置は、前記の印刷方法に用いられるインクジェット吐出装置であって、前記接着剤をインクジェット液滴として噴射するインクジェットヘッドと、該インクジェットヘッドの動作を制御する制御部を備え、前記制御部は、前記接着層を形成する際に、前記接着剤の噴射量を少なくとも二段階以上に切り替えることを特徴とする。これによれば、接着層を形成する際に、接着剤の噴射量を少なくとも二段階以上に切り替えることができるため、接着層を高速に形成でき、且つ、高精細な転写画像を得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
開示の印刷方法によれば、工程の高速化が可能で、且つ、高精細な転写画像を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係るインクジェット吐出装置の例を示す平面図(概略図)である。
【図2】図1のインクジェット吐出装置の側面図(概略図)である。
【図3】本発明の実施形態に係る印刷方法を説明するための説明図である。
【図4】本発明の実施形態に係る印刷方法を説明するための説明図である。
【図5】本発明の実施形態に係る印刷方法を説明するための説明図である。
【図6】本発明の実施形態に係る印刷方法を説明するための説明図である。
【図7】図4の部分拡大図(第一の実施形態)である。
【図8】図4の部分拡大図(第二の実施形態)である。
【図9】従来の実施形態に係る印刷方法における課題を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳しく説明する。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0020】
本実施形態に係る印刷方法は、転写材の転写層上もしくは被転写媒体上において、転写したい図柄で(すなわち転写したい領域に)接着剤をインクジェット噴射する印刷によって接着層を形成し、次いで、転写材と被転写媒体とで接着層を挟むように重ねて圧着して、転写したい図柄で(すなわち転写したい領域の)転写層を被転写媒体に転写する印刷方法である。
【0021】
(転写材)
先ず、本実施形態に係る転写材3について説明する。この転写材3は、基材4上に転写層6が設けられている(図3、4等参照)。なお、本実施形態では、基材4と転写層6との間に剥離層5を設ける構成としているが、当該剥離層5を省略する構成も考えられる。
【0022】
また、本実施形態では、転写材3の転写層6上に転写したい図柄で接着剤(後述のインクジェット液滴)をインクジェット噴射する印刷によって接着層7を設ける場合を例に挙げて説明する。なお、被転写媒体2(後述)上に、転写したい図柄で接着剤(後述のインクジェット液滴)をインクジェット噴射する印刷によって接着層を設ける構成としてもよい(不図示)。
【0023】
基材4は、可撓性を有する樹脂フィルム等を用いて構成される。構成材料は特に限定されないが、一例として、ポリエチレン系フィルム、ポリエステル系フィルム、オレフィン系フィルム、ポリプロピレン系フィルム、ポリカーボネートフィルム等のフィルム状樹脂材料や紙が用いられる。
【0024】
また、剥離層5は、完全けん化ポリビニルアルコール、フッ素系樹脂、シリコン系樹脂等の離型性を有する材料を用いて、塗布等の方法により積層形成されている。例えば、シリコン樹脂を溶剤で希釈して基材4上にコーティングすることで剥離層5を形成する。
【0025】
また、転写層6は、金属箔、金属蒸着膜、ホログラム膜、パール調膜、虹色膜、白/黒膜、カラー膜、クリア膜等で構成される。一例として、金属材料の蒸着、スパッタリング、あるいは、顔料や染料インクの塗布等によって基材4上に積層形成される(本実施形態では剥離層5を介して基材4上に積層形成される)。なお、転写層6の金属箔あるいは金属蒸着膜等の層は、強度を増すために単独ではなくプラスチックフィルムとの複合層として構成してもよい(不図示)。またインクの塗布による形成方法として、転写層6の上にインク受容層(不図示)を設けて、当該インク受容層に着色(インクの塗布)を行ってもよい。
【0026】
なお、変形例として剥離層5と転写層6との間に保護層(不図示)を設ける構成とすることが考えられる。これによれば、転写後の転写層6が当該保護層によって保護されるため、表面に傷が付き難く、指紋、水、アルコール、紫外線等への耐久性を高めることができる。特に、当該保護層として、紫外線吸収材を添加したクリア膜を使用すれば、従来の紫外線硬化型インクでは難しかった高対光性を持つクリアコートが実現できる。
【0027】
ここで、接着層7の形成に用いられる接着剤として、例えば、インクを用いることができる(詳細は後述)。これによれば、接着剤(すなわちインク)をインクジェット噴射する印刷によって接着層7を形成することが可能となる。当該接着層7は、加熱圧着されることによって被転写媒体2に接着する作用を生じる。
【0028】
なお、変形例として、保護層(不図示)上に転写層6を介して接着層7を積層する構成とすることが考えられる。これによれば、転写層6の着色箇所を当該保護層によって保護することができる。
【0029】
(被転写媒体)
次に、本実施形態に係る被転写媒体2について説明する。被転写媒体2は、例えば、各種プラスチック成型物(フィルム、板等を含む)、金属、ガラス、石、布等である。このように、被転写媒体2としては、可撓性を有するもの、有しないもの双方を使用し得る。なお、被転写媒体2もしくは転写材3の少なくとも一方が可撓性を有することが好適である。それにより、転写時の密着性が高まるためである。
【0030】
前述の転写材3を用いて、被転写媒体2に転写印刷を行うことによって、従来、不可能あるいは困難であった以下の印刷を好適に行うことが可能となる。具体的には、プラスチック成型物、金属、ガラス、石、布等への加飾が可能となる。また、高光沢メタリック、パール、虹、燐光、蓄光、回帰反射プリント等、インクジェット印刷用のインク化が困難である色を用いた印刷が可能となる。また、銅箔を用いてプリント配線やアンテナの形成を行うことが可能となる。
【0031】
なお、本実施形態においては、前述の通り、転写材3の転写層6上に接着剤7Aを印刷して接着層7を設ける場合を例に挙げているが、当該被転写媒体2上に接着剤を印刷して接着層を設ける構成とすることも考えられる(不図示)。被転写媒体2上に接着層を設ける場合には、転写材3上に接着層を設ける場合と比べて、転写材3と被転写媒体2とを厳密に位置合せする必要がなくなるため、工程を簡単にできる効果が得られる。
【0032】
(インクジェット吐出装置)
次に、転写材3の接着層7を形成する際に用いられるインクジェット吐出装置1について説明する。図1は、本実施形態に係るインクジェット吐出装置1の例を示す平面図(概略図)であり、図2は、その側面図(概略図)である。
【0033】
本発明のインクジェット吐出装置1は、被吐出媒体(ここでは転写材3)を支持するプラテン(支持体)12と、X方向に移動しがなら転写材3の表面(ここでは転写層6の表面)にインクを複数の吐出口から噴射してインクジェット液滴を着弾させるインクジェットヘッド13と、各部の動作を制御する制御部(不図示)とを備えている。
【0034】
ここで、インクジェットヘッド13は、その下面に並んで配されたノズル(不図示)からピエゾ方式等によりインクジェット液滴を噴射させる構造を有しており、ユニット架台14に固定され、走行手段(不図示)により、ガイドレール15上をX方向に走行可能となっている。なお、走行手段は、電動モータおよび電子回路等から構成されている。ただし、上記の構成に限定されるものではない。
【0035】
また、図中の符号16は、必要に応じて使用されるインク滴硬化手段であり、インクジェット液滴を硬化することができる。例えば、赤外線ヒータ、温風ヒータ、紫外線照射手段や電子線照射手段などのエネルギー線放射装置を用いて構成される。
【0036】
また、図中の符号17は、転写材3の表面に着弾されたインクジェット液滴を転写材3の裏面側から加熱するプリントヒーターである。プリントヒーター17としては、電熱式ヒーター、赤外線ヒーター、電磁誘導(IH)ヒーターを用いることができる。
【0037】
プリントヒーター17は、プラテン12の内部であって、転写材3の裏面側に配置される。ただし、この配置に限定されず、転写材3の表面側(接着層7の上面側)あるいは両側に配置してもよい(不図示)。
一方、転写材3の表面側にプリントヒーターを設ける場合、プリントヒーターは、インクジェットヘッド13と同じガイドレール15上、あるいはY方向(プラテン搬送方向)前方にガイドレール15とは分離独立した状態で固設された位置とすることができる。
【0038】
なお、プリントヒーターをインクジェットヘッド13と同じガイドレール上に設ける場合であって、片方向印刷する場合は、インクジェットヘッド13の走行方向後方にプリントヒーターを設置する(不図示)。より詳しくは、インクジェットヘッド13をX方向右側に走行させながらインクを吐出する場合は、インクジェットヘッド13の左側に設置し、X方向左側に走行させながらインクを吐出する場合は、インクジェットヘッド13の右側に設置する。さらに、双方向印刷する場合は、インクジェットヘッド13の走行方向前方および後方、すなわちインクジェットヘッド13の左右両側に設置する。
【0039】
インクジェット吐出装置1の動作例として、転写材3(ここでは基材4上に剥離層5、転写層6が積層された状態)は、プラテン12により支持されるとともに、搬送ローラ18、18によって挟まれ、インクジェットヘッド13がインクジェット液滴(ここでは接着剤)を噴射しながら転写材3のX方向の一端から他端まで走行し終わると同時に、搬送ローラ18、18が回転することによりY方向へ搬送される。この場合、転写材3の基材4には、ポリエチレン系フィルム等の可撓性を有する樹脂材料が好適に用いられる。
【0040】
以上のように、本実施形態に係るインクジェット吐出装置1によれば、接着剤をインクジェット液滴としてインクジェット噴射する印刷によって接着層7を形成することが可能となる。より具体的には、先ず、プラテン(支持体)12上に支持された転写材3(ここでは基材4上に剥離層5、転写層6が積層された状態)の表面に、インクジェット液滴(接着剤)をインクジェットヘッド13から噴射する。次に、転写材3表面に着弾したインクジェット液滴(接着剤)を、必要に応じて当該転写材3の裏面側に位置するプリントヒーター17によって加熱して、当該インクジェット液滴を硬化させて転写層6上に接着層7として定着させる。このようにして、所望の転写したい図柄で接着層7が設けられた転写材3を形成することができる。このインクジェット吐出装置1の使用によって、接着層7を高速に形成することが可能である。すなわち、所望の転写前画像を有する転写材3を形成する工程の高速化が可能である(詳細は後述)。なお、前述の通り、被転写媒体2上に接着剤を印刷して接着層を設けることもできる。
【0041】
(インク)
次に、転写材3の接着層7を形成する接着剤の一例として用いられるインクについて説明する。当該インクとしては、転写材3(もしくは被転写媒体2)へのインクジェット印刷が可能であって、且つ、転写材3(もしくは被転写媒体2)へ噴射による塗布(印刷)を行って定着させた後、転写のための加熱圧着時にも所定の粘度を保持するものが好適である。例えば、天然ゴムラテックスもしくは合成ゴムラテックスが使用されたラテックスインクや熱硬化性樹脂や乾燥硬化性樹脂あるいは紫外線や電子線等の放射エネルギー線で硬化する樹脂あるいは、これらの樹脂をエマルジョン化したインク等が好適である。ただし、これに限定されるものではない。
【0042】
なお、接着剤にフィラー(不図示)を混入する構成とすることも考えられる。これによれば、転写のための加熱圧着時において、接着層7の変形を抑制する効果が得られる。特に、接着層7の周縁部7a(後述)の変形が抑制されることによって、当該周縁部7aにおける転写層6と接着層7との接触が安定し、高精細な転写画像を得ることが可能となる。ここで、当該フィラーとしては、熱的な影響を受けにくく、インクジェット印刷が可能な、例えば直径1.0[μm]程度以下の粒径を有する粉末を用いることが好適である。具体的には、酸化チタン、酸化亜鉛、中空シリカ、中空ガラス、タルク、シリカ、アルミナ、ゼオライト、カオリナイト等の粉末を用いる構成が考えられる。
【0043】
(第一の実施形態に係る印刷方法)
次に、本発明の第一の実施形態に係る印刷方法について説明する。
先ず、転写材3を用意する。図3に示すように、この工程では、転写材3として、基材4上に剥離層5、転写層6が積層された状態のものを用いる。なお、各層の材料、形成方法等については前述の通りであり、繰り返しの説明を省略する。
【0044】
次いで、図4に示すように、転写したい図柄で、すなわち転写材3における転写したい領域の転写層6上に接着層7をインクジェット印刷により形成する。当該インクジェット印刷は前述のインクジェット吐出装置1を用いて行われる。なお、インクジェット吐出装置1を用いて転写材3(ここでは転写層6)上に接着層7を形成する動作については前述の通りであり、繰り返しの説明を省略する。
【0045】
次いで、図5に示すように、転写材3を接着層7側から被転写媒体2に圧着させ、且つ加熱を行う。なお、加熱温度、圧着力、圧着時間等の諸条件は転写材3の構成等に応じて、適宜、設定される。一例として、加熱温度は、80〜300[℃]程度である。
【0046】
次いで、図6に示すように、被転写媒体2と転写材3とを分離させる。このとき、接着層7が設けられている領域(転写したい領域)のみが被転写媒体2に接着し、当該領域における転写層6と剥離層5との境界が剥離する。すなわち、転写したい領域の転写層6が転写されて、所望の図柄(転写したい図柄)が印刷(転写)された被転写媒体2が得られる。
【0047】
特に、本実施形態に係る印刷方法は、図4に示される接着層7の形成工程において特徴的な構成を備える。より具体的には、接着層7を形成する際に、接着剤(インクジェット液滴)の噴射量を少なくとも二段階以上に切り替える構成を備える。一例として、接着層7の周縁部7aでは複数回に分けて接着剤の印刷を行う。
【0048】
本実施形態の場合、接着層7の形成工程を示す図4の部分拡大図は、図7(a)のようになる。ここで、図7(b)は、図7(a)における接着剤噴射量および噴射位置を平面方向から視た説明図であり、図7(b)におけるX−X断面が図7(a)に対応する。
【0049】
図7(a)、7(b)に示すように、先ず、初回に接着剤7Aを噴射して印刷を行う。次いで、周縁部7aにおいて、接着剤7Bを噴射して二回目の印刷を行う。ここで、同図7(a)、7(b)中の転写層6上において、インクジェット液滴として噴射される個々の液滴(接着剤7A)の外形・噴射位置を二点鎖線で示し、インクジェット液滴として噴射された接着剤7Aが集合体として定着することによって形成される接着層7の外形を実線で示す。なお、同図7(a)中における破線は、従来の印刷方法(図9参照)により形成される境界線107bおよび斜度αであり、本実施形態に係る印刷方法と比較するために記載している。
【0050】
このとき、接着剤7Bは、初回に噴射した接着剤7Aの噴射量よりも相対的に少ない噴射量に設定する。また、同図7(a)、7(b)のように、周縁部7aにおいて、二回目の印刷を初回の印刷領域に重ねて行う。
【0051】
ここで、上記「噴射量」とは一箇所当り(1ドット当り)の噴射量を指す。例えば、二回目の接着剤7Bを、初回の接着剤7Aの噴射量よりも相対的に少ない噴射量に設定する方法としては、図7(a)、7(b)に示すように、周縁部7a以外の印刷を行う接着剤7Aについてインクジェット液滴の噴射量を大きく(例えば24[pl]等)設定し、周縁部7aの印刷を行う接着剤7Bについてインクジェット液滴の噴射量を小さく(例えば6[pl]等)設定する方法等が考えられる。
【0052】
また、このとき、図7(b)に示すように、周縁部7aの印刷を行う接着剤7B、を、周縁部7a以外の印刷を行う接着剤7Aよりも狭い噴射間隔で印刷(噴射)することが好適である。噴射間隔を狭くして解像度を高くすることで、高精細な接着層7が形成できるためである。
【0053】
以上によれば、図7(a)に示すように、接着層7の所定の周縁部7aにおける境界面7bの斜度βを、従来の印刷方法により形成される斜度αと比べて大きく(すなわち、転写層6の表面に対して直角に近く)形成することが可能となる。その結果、従来の課題、すなわち、周縁部における境界面の斜度が緩くなるために、当該周縁部における転写層と接着層との接触が不安定になり、高精細な転写画像を得ることが困難になるという課題の解決が可能となる。より具体的には、周縁部7aにおける境界面7bの斜度βが転写層6の表面に対して直角に近くなるため、転写層6と接着層7との接触が安定し、転写層6を基材4から意図通りに剥離でき、精密な図柄の再現が可能となる。これと共に、接着層7の所定の周縁部7aにおいては、印刷速度すなわちインクジェット液滴(接着剤7B)の噴射による接着層7の形成速度が相対的に低下するが、当該周縁部7a以外の領域においては通常の印刷速度でインクジェット液滴(接着剤7A)の噴射による接着層7の形成を行うことができるため、前述の課題、すなわち相対的に小さな噴射液滴の集合体で接着層を形成しようとすると、インクジェット液滴の噴射量を少なくして印刷しなければならないため、高速に印刷することができないという課題の解決が可能となる。
【0054】
なお、変形例として、接着層7の周縁部7aでは当該接着層7を複数回に分けて印刷し、二回目以降の印刷を初回に印刷した領域に重ねて行う際に、初回の印刷を二回目以降より少ない接着剤噴射量とする方法も考えられる。例えば、図7における相対的に噴射液の少ない接着剤7Bを先に噴射(印刷)し、次いで、相対的に噴射液の多い接着剤7Aを噴射(印刷)する方法である。このようにしても、前記同様の効果が得らえる。
【0055】
また、「複数回」として「二回」の場合を例に挙げて説明したが、「二回」に限定されるものではなく、「三回」以上としてもよい。その場合には、例えば、上記の二回目の工程を繰り返せばよい。
【0056】
以上説明した本実施形態に係る印刷方法によれば、特に、接着層7を高速に形成でき、且つ、高精細な転写画像を得ることが可能となる。さらに、従来実現不可能もしくは困難であった次のような印刷(転写印刷)が可能となる。具体的には、高光沢メタリックプリント、ホログラムプリント、パール・虹・燐光・蓄光・回帰反射膜プリント、超耐光クリアコートプリント、印刷によるプリント基板の高精度電極形成等の実現が可能となる。
【0057】
(第二の実施形態に係る印刷方法)
次に、本発明の第二の実施形態に係る印刷方法について説明する。
第二の実施形態に係る印刷方法は、前述の第一の実施形態に係る印刷方法と基本的な構成は同様であるが、特に接着層7の形成工程において相違点を有する。以下、当該相違点を中心に本実施形態について説明する。
【0058】
本実施形態の場合、接着層7の形成工程を示す図4の部分拡大図は、図8(a)のようになる。ここで、図8(b)は、図8(a)における接着剤噴射量および噴射位置を平面方向から視た説明図であり、図8(b)におけるY−Y断面が図8(a)に対応する。
【0059】
本実施形態においては、図8(a)、8(b)に示すように、先ず、初回に接着剤7Aを噴射して印刷を行う。次いで、周縁部7aにおいて、初回の印刷領域に重ねて接着剤7Bを噴射して二回目の印刷を行う。さらに、周縁部7aにおいて、二回目の印刷領域に重ねて接着剤7Cを噴射して三回目の印刷を行う。ここで、同図8(a)、8(b)中の転写層6上において、インクジェット液滴として噴射される個々の液滴(接着剤7A)の外形・噴射位置を三点鎖線で示し、インクジェット液滴として噴射された接着剤7Aが集合体として定着することによって形成される接着層7の外形を実線で示す。なお、同図8(a)中における破線は、従来の印刷方法(図9参照)により形成される境界線107bおよび斜度αであり、本実施形態に係る印刷方法と比較するために記載している。
【0060】
このとき、接着剤7B、7Cは、初回に噴射した接着剤7Aの噴射量よりも相対的に少ない噴射量に設定する。また、同図8(a)、8(b)のように、周縁部7aにおいて、二回目、三回目の印刷を初回の印刷領域に重ねて行う。
【0061】
一例として、二回目の印刷を行う接着剤7Bと三回目の印刷を行う接着剤7Cとは、同一の噴射量に設定している。例えば、同一ドットの打ち増しとしてインクジェット吐出装置1の印刷制御を行うことができる。具体的に、周縁部7a以外の印刷を行う接着剤7Aをインクジェット液滴の噴射量を大きく(例えば24[pl]等)設定し、周縁部7aの印刷を行う接着剤7B、および7Cをインクジェット液滴の噴射量を小さく(例えば6[pl]等)設定する構成が考えられる。
【0062】
また、このとき、図8(b)に示すように、周縁部7aの印刷を行う接着剤7B、および7Cを、周縁部7a以外の印刷を行う接着剤7Aよりも狭い噴射間隔で印刷(噴射)することが好適である。噴射間隔を狭くして解像度を高くすることで、高精細な接着層7が形成できるためである。
【0063】
以上によれば、例えば、図8(a)に示すように、接着層7の所定の周縁部7aが盛り上がった形状に形成することができる。その結果、特に周縁部7aにおいて、接着層7と転写層6とを確実に接触させることができ、転写層6を剥離させるのに十分な接着力を確保することができる。ただし、接着層7の形状は、所定の周縁部7aが盛り上がった形状に限定されるものではなく、前述の第一の実施形態と同様に周縁部7aが盛り上がっていない形状(図7(a)参照)に形成することも可能である。
なお、周縁部7aが盛り上がった形状もしくは盛り上がっていない形状のいずれの形状とする場合にも、前述の第一の実施形態と同様に、接着層7の所定の周縁部7aにおける境界面7bの斜度βを、従来の印刷方法により形成される斜度αと比べて大きく(すなわち、転写層6の表面に対して直角に近く)形成することが可能となる。
【0064】
本実施形態に係る印刷方法によって得られるその他の作用効果は、前述の第一の実施形態に係る印刷方法によって得られる作用効果と基本的に同様であり、繰り返しの説明を省略する。
【0065】
なお、「複数回」として「三回」の場合を例に挙げて説明したが、「三回」に限定されるものではなく、「二回」もしくは「四回」以上としてもよい。例えば、「四回」以上の場合には、上記の二回目もしくは三回目の工程を繰り返せばよい。
【0066】
以上説明した通り、開示の印刷方法によれば、従来の印刷方法と比べて工程の高速化(特に、接着層形成工程の高速化)が可能で、特に転写領域の周縁部(境界部)が鮮明で高精細な転写画像を得ることが可能となる。さらに、従来、不可能あるいは困難であった以下の印刷を好適に行うことが可能となる。すなわち、プラスチック成型物、金属、ガラス、石、布等への加飾が可能となる。また、高光沢メタリック、パール、虹、燐光、蓄光、回帰反射プリント等、インクジェット印刷用のインク化が困難である色を用いた印刷が可能となる。また、銅箔を用いて微細プリント配線・アンテナの形成を高精度に行うことが可能となる。
【0067】
また、特に、本実施形態によって以下の特徴的な作用効果が奏される。
【0068】
この印刷方法は、基材4に転写層6が設けられた転写材3の当該転写層6上、もしくは被転写媒体2上に、転写したい図柄で接着剤をインクジェット噴射する印刷によって接着層7を形成し、転写材3と被転写媒体2とで接着層7を挟むように重ねて圧着して、転写したい図柄で転写層6を被転写媒体2に転写する印刷方法において、接着層7を形成する際に、接着剤の噴射量を少なくとも二段階以上に切り替える。これによれば、接着剤の噴射量を切り替えることで、広範囲に接着剤を塗布する際には、相対的に大きな液滴で印刷(噴射)を行い、それ以外(特に周縁部)には相対的に小さな液滴で印刷(噴射)を行うことができる。したがって、接着層7を高速に形成でき、且つ、高精細な転写画像を得ることが可能となる。さらに、接着層7の膜厚が薄くなってしまう領域に接着剤を追加する際にも、膜厚の制御を容易に行うことができる。
【0069】
また、接着層7を形成する際に、接着層7の周縁部7aを、当該周縁部7a以外よりも少ない噴射量で、当該周縁部7a以外よりも狭い噴射間隔で印刷することが好ましい。これによれば、周縁部7aの噴射間隔を狭くして解像度を高くすることで、高精細な接着層7を高速に形成することができる。なお、周縁部7aのインクジェット液滴(接着剤)は重ねても良く、重ねなくても良い。
【0070】
また、接着層7を形成する際に、接着層7の周縁部7aでは当該接着層7を複数回に分けて印刷し、二回目以降の印刷を初回に印刷した領域に重ねて行う。これによれば、転写したい図柄の周縁部では、初回の印刷に重ねて二回目以降の印刷を行うことで、接着層7の周縁部7a(特に、境界面7b)における膜厚が大きくなり、接着層7の境界部分においても安定した転写を実現できる。
【0071】
また、接着層7を形成する際に、接着層7の周縁部7aでは当該接着層7を複数回に分けて印刷し、二回目以降の印刷を初回より少ない接着剤噴射量で、初回に印刷した領域に重ねて行う。これによれば、転写したい図柄の周縁部では、初回の印刷を相対的に大きな液滴で印刷(噴射)し、相対的に小さな液滴すなわち初回の印刷よりも小さな液滴で印刷(噴射)することで、接着層7の境界面7bの斜度が大きくなり、接着層7の境界部分においても安定した転写を実現できる。
【0072】
また、接着層7を形成する際に、フィラーが添加された接着剤を用いることが好ましい。その理由として、フィラーが添加された接着層7を形成することによって、転写時における接着層7の変形が防止され、高精細な転写画像を得ることができるからである。
【0073】
この転写材3は、印刷方法に用いられる転写材3であって、接着層7は、転写層6上に設けられると共に、少なくとも二段階以上に切り替えて噴射された接着剤によって形成されていることを特徴とする。これによれば、接着層7の境界部分においても安定した転写を実現でき、高精細な転写画像を得ることが可能となる。
【0074】
このインクジェット吐出装置1は、前記の印刷方法に用いられるインクジェット吐出装置であって、接着剤をインクジェット液滴として噴射するインクジェットヘッド13と、インクジェットヘッド13の動作を制御する制御部を備え、制御部は、接着層7を形成する際に、接着剤の噴射量を少なくとも二段階以上に切り替える。これによれば、接着層7を形成する際に、接着剤の噴射量を少なくとも二段階以上に切り替えることができるため、接着層7を高速に形成でき、且つ、高精細な転写画像を得ることが可能となる。
【0075】
なお、本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、本発明を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0076】
1 インクジェット吐出装置
2 被転写媒体
3 転写材
4 基材
5 剥離層
6 転写層
7 接着層
7A、7B、7C 接着剤
12 プラテン
13 インクジェットヘッド
14 ユニット架台
15 ガイドレール
16 インク滴硬化手段
17 プリントヒーター
18 搬送ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に転写層が設けられた転写材の該転写層上、もしくは被転写媒体上に、転写したい図柄で接着剤をインクジェット噴射する印刷によって接着層を形成し、前記転写材と前記被転写媒体とで前記接着層を挟むように重ねて圧着して、転写したい図柄で前記転写層を前記被転写媒体に転写する印刷方法において、
前記接着層を形成する際に、前記接着剤の噴射量または噴射間隔の少なくとも一方を、少なくとも二段階以上に切り替えること
を特徴とする印刷方法。
【請求項2】
前記接着層を形成する際に、該接着層の周縁部を、該周縁部以外よりも少ない噴射量で、該周縁部以外よりも狭い噴射間隔で印刷すること
を特徴とする請求項1記載の印刷方法。
【請求項3】
前記接着層を形成する際に、該接着層の周縁部では該接着層を複数回に分けて印刷し、二回目以降の印刷を初回に印刷した領域に重ねて行うこと
を特徴とする請求項1または2記載の印刷方法。
【請求項4】
前記接着層を形成する際に、該接着層の周縁部では該接着層を複数回に分けて印刷し、二回目以降の印刷を初回より少ない接着剤噴射量で、初回に印刷した領域に重ねて行うこと
を特徴とする請求項3記載の印刷方法。
【請求項5】
前記接着層を形成する際に、フィラーが添加された接着剤を用いること
を特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の印刷方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の印刷方法に用いられる転写材であって、
前記接着層は、前記転写層上に設けられると共に、少なくとも二段階以上に切り替えて噴射された前記接着剤によって形成されていること
を特徴とする転写材。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の印刷方法に用いられるインクジェット吐出装置であって、
前記接着剤をインクジェット液滴として噴射するインクジェットヘッドと、該インクジェットヘッドの動作を制御する制御部を備え、
前記制御部は、前記接着層を形成する際に、前記接着剤の噴射量を少なくとも二段階以上に切り替えること
を特徴とするインクジェット吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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