説明

印刷方法および印刷装置

【課題】立体的な構造を有する印刷媒体の表面に所定の膜厚のインク塗膜を、より短い時間で形成すること。
【解決手段】複数回の走査工程を包含し、ヘッド正対領域(10a、10c)には、1回の走査工程において印刷ヘッド110に正対した状態でインク80を吐出し、非ヘッド正対領域(10b)には、2回以上の走査工程において印刷ヘッド110に正対しない状態で、形成されるインク塗膜(11、12)の合計膜厚が、予め定められた膜厚Tとなるように、インク80を吐出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷技術に関するものであり、特に、立体的な構造を有する印刷媒体に対し、インクジェット印刷を行う技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
段差、凹凸、角、曲面等を有する印刷媒体(例えば、多面体、曲面体)に対して、インクジェット印刷を行う場合の技術として、特許文献1には、斜面や曲面等における傾斜の度合いが大きい区間では吐出インク量を増加してこのインクにより形成されるドット間にすき間を生じないようにすることが記載されている。また、特許文献2には、印刷媒体を傾けて印刷を行う技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−193368号公報(1997年7月29日公開)
【特許文献2】特開2006−335019号公報(2006年12月14日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来技術では、立体的な構造を有する印刷媒体の表面に所定の膜厚のインク塗膜を形成する場合、時間がかかるという問題がある。例えば、印刷媒体において、斜面や曲面等における傾斜の度合いが大きい区間において、塗膜厚が薄くなることを避けるために、特許文献1に記載の技術のように解像度を向上し、着弾間隔を狭くすると、印刷速度が低下してしまう。また、特許文献2のように、印刷媒体を傾けて印刷面が常に印刷ヘッドに正対するようにして印刷すれば、傾斜の度合いが大きい区間においても塗膜厚が薄くならないが、印刷媒体の回転および停止(印刷ヘッドと印刷媒体との間の位置決め動作)のために多くの時間が必要となる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、立体的な構造を有する印刷媒体の表面に所定の膜厚のインク塗膜を、より短い時間で形成するための技術を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る印刷方法は、上記課題を解決するために、インクジェット印刷用の印刷ヘッドを走査して、該印刷ヘッドから印刷媒体に対してインクを吐出する走査工程を複数回含み、各回の該走査工程において、該印刷ヘッドに正対した状態で該インクが吐出されるヘッド正対領域を互いに異ならせ、何れかの回の該走査工程において、該印刷ヘッドに正対しない状態で該インクが吐出される非ヘッド正対領域に対しては、他の1回以上の該走査工程でも、該印刷ヘッドに正対させずに該インクを吐出し、該非ヘッド正対領域上に形成される該インクの塗膜の合計膜厚が、予め定められた膜厚となるように、少なくとも1回の該走査工程において該非ヘッド正対領域に吐出する該インクの量を調整することを特徴としている。
【0007】
上記の構成によれば、何れかの回の走査工程において非ヘッド正対領域となる領域に対しては、それぞれ、2回以上の走査工程においてインクが吐出されるようになっている。そのため、非ヘッド正対領域において形成されるインク塗膜の膜厚が、ヘッド正対領域に比べて薄くなることを避けることができる。
【0008】
そして、上記の構成によれば、印刷媒体の表面の全てを印刷ヘッドに正対させて印刷するわけではないため、該印刷ヘッドに正対する領域を各回の走査工程において異ならせるための動作(印刷ヘッドと印刷媒体との間の位置決め動作)を、印刷媒体の表面の全てを印刷ヘッドに正対させて印刷する場合に比べて少なくすることができ、印刷時間を短くすることができる。
【0009】
また、上記の構成では、特許文献1の技術とは異なり、解像度の向上またはインク吐出量の増大のための特別な機構(例えば、高精度なヘッド走査機構等)が必要ない。
【0010】
以上のように、上記の構成によれば、立体的な構造を有する印刷媒体の表面に所定の膜厚のインク塗膜を、より短い時間で形成することができる。
【0011】
上記印刷方法では、上記少なくとも1回の走査工程では、上記非ヘッド正対領域上に形成される上記インクの塗膜の合計膜厚が、上記ヘッド正対領域上に形成される上記インクの塗膜の膜厚と同じになるように上記非ヘッド正対領域に吐出する上記インクの量を調整することが好ましい。
【0012】
上記の構成によれば、非ヘッド正対領域に対しても、ヘッド正対領域と同じ膜厚のインク塗膜を形成することができる。
【0013】
上記印刷方法では、少なくとも1回の上記走査工程では、上記非ヘッド正対領域に吐出する上記インクの量を、上記ヘッド正対領域に吐出する上記インクの量よりも少なくすることが好ましい。
【0014】
上記の構成によれば、少なくとも1回の走査工程において、非ヘッド正対領域に吐出するインクの量を、ヘッド正対領域に吐出するインクの量よりも少なくするとともに、当該非ヘッド正対領域に対して、2回以上の走査工程においてインクを吐出することにより、当該非ヘッド正対領域に所定の膜厚のインク塗膜を首尾よく形成することができる。
【0015】
上記印刷方法では、n回(nは2以上の整数)の上記走査工程において、上記非ヘッド正対領域の一地点に対して上記インクを吐出するとき、下記式(1)
【0016】
【数1】

【0017】
(ただし、θは、90°未満の角度であって、n回の上記走査工程のうちのi回目の上記走査工程における上記インクの吐出方向と、該地点における上記印刷媒体の法線方向とがなす角を表す。)
を満たすように設定された調整係数kを用いて、i回目の上記走査工程における該地点に吐出する上記インクの量Dを、下記式(2)
= k × D ・・・ (2)
(ただし、Dは、各走査工程において上記ヘッド正対領域の一地点に吐出する上記インクの量を表す。)
を満たすように設定することが好ましい。
【0018】
上記の構成によれば、上記非ヘッド正対領域の一地点に形成されるインク塗膜の膜厚が、ヘッド正対領域に形成されるインク塗膜の膜厚と同じになるように、当該非ヘッド正対領域の一地点に対するインクの吐出量を好適に調整することができるため、印刷媒体表面に所定の膜厚のインク塗膜を首尾よく形成することができる。
【0019】
上記印刷方法では、少なくとも1回の上記走査工程において、上記ヘッド正対領域および上記非ヘッド正対領域を横断するように上記印刷ヘッドを走査することが好ましい。
【0020】
上記の構成によれば、ヘッド正対領域および非ヘッド正対領域を横断するように印刷ヘッドを走査するため、印刷ヘッドと印刷媒体との間の位置決め動作を行うことなく、1回の走査工程において、ヘッド正対領域および非ヘッド正対領域の両方を走査することができる。これにより、当該位置決め動作の回数を低減して、印刷時間を短くすることができる。
【0021】
例えば、多角柱の印刷媒体の側面に対して、全ての面を印刷ヘッドに正対させて印刷すると、印刷ヘッドと印刷媒体との間の位置決め動作が多くなり、印刷時間も長くなるが、上記の構成によれば、例えば、当該側面に対して一つおきに印刷ヘッドに正対させ、間の面については非ヘッド正対領域として印刷すればよいので、印刷ヘッドと印刷媒体との間の位置決め動作を少なくして、印刷時間を短くすることができる。
【0022】
また、例えば、円柱の印刷媒体の側面に対して、全面的に印刷ヘッドに正対させて印刷すると、印刷ヘッドと印刷媒体との間の位置決め動作が非常に多くなり、印刷時間も長くなるが、上記の構成によれば、例えば、当該側面を円周方向に複数に分割し、各分割面それぞれを2以上の走査工程において印刷するようにすればよいので、印刷ヘッドと印刷媒体との間の位置決め動作を少なくして、印刷時間を短くすることができる。
【0023】
上記印刷方法では、上記印刷媒体上の一部である第一領域に対し、2回以上の上記走査工程において上記印刷ヘッドに正対させずに上記インクを吐出し、該2回以上の走査工程は、1回の第一種走査工程と1回以上の第二種走査工程とからなり、第一種走査工程では、第一領域に対して、上記ヘッド正対領域に対して吐出する量と同量の上記インクを吐出し、第二種走査工程では、第一領域に対して、上記ヘッド正対領域に対して吐出する量よりも少ない量の上記インクを吐出するようにしてもよい。
【0024】
上記の構成によれば、第一種走査工程では、ヘッド正対領域および第一領域に対して同量のインクを吐出するため、第一種走査工程において第一領域に形成されるインク塗膜の膜厚は、ヘッド正対領域に形成されるインク塗膜の膜厚よりも薄くなる。しかし、第二種走査工程において、第一領域に対してさらにインクを塗布するため、第一領域に対しても所定の膜厚のインク塗膜を形成することができる。
【0025】
ここで、印刷媒体が、主に、第一種走査工程におけるヘッド正対領域を正面として観察されるような場合、上記の構成によれば、第一領域に吐出されたインクのうち、当該ヘッド正対領域と同じ走査工程において吐出されたインクの割合が大きくなるため、当該正面から観察したときの第一領域における印刷画質を向上させることができる。
【0026】
上記印刷方法では、上記印刷媒体上の一部である第二領域に対し、2回以上の上記走査工程において上記印刷ヘッドに正対させずに上記インクを吐出し、該2回以上の走査工程は、2回以上の第三種走査工程からなり、各回の第三種走査工程では、第二領域に互いに同じ膜厚の上記インクの塗膜が形成されるように上記インクを吐出するようにしてもよい。
【0027】
上記の構成によれば、2回以上の第三種走査工程において、それぞれの工程において第二領域に形成されるインク塗膜の膜厚が等しく、形成される合計膜厚が所定の膜厚となるように、第二領域に対してインクを吐出することにより、印刷媒体表面に所定の膜厚のインク塗膜を形成することができる。
【0028】
ここで、印刷媒体が、様々な方向から観察されるような場合、上記の構成によれば、第二領域に対して、各第三走査工程において形成されるインク塗膜の膜厚が均一であるので、ある方向から観察したときに第二領域の印刷画質が劣化することを抑制することができる。
【0029】
上記印刷方法では、上記印刷媒体上の一部である第三領域に対し、2回以上の上記走査工程において上記印刷ヘッドに正対させずに上記インクを吐出し、該2回以上の走査工程は、2回以上の第四種走査工程からなり、各回の第四種走査工程では、第三領域および上記ヘッド正対領域を横断するように上記印刷ヘッドを走査し、第三領域と上記ヘッド正対領域との境界に対して、上記ヘッド正対領域に対して吐出する量と同量の上記インクを吐出し、該境界から第三領域に亘って、吐出する上記インクの量を連続的に変化させるようにしてもよい。
【0030】
上記の構成によれば、第四種走査工程では、連続して印刷するヘッド正対領域と第三領域との境界に対して、当該ヘッド正対領域と同量のインクを吐出することにより、当該ヘッド正対領域と第三領域との間における印刷の連続性を確保して、印刷画質を向上させることができる。
【0031】
ここで、複数の第四種走査工程の間で、第三領域においてヘッド正対領域と同量のインクを吐出する領域が重なると、第三領域に形成されるインク塗膜の合計膜厚が所定の膜厚を超えてしまう可能性がある。しかし、各第四種走査工程においてヘッド正対領域は互いに異なるため、ヘッド正対領域と第三領域との境界も異なることになる。そして、上記境界から第三領域に亘って、吐出するインクの量を連続的に変化させるため、各第四種走査工程においてヘッド正対領域と同量のインクを吐出する部分は重ならず、第三領域に所定の合計膜厚のインク塗膜が形成されるように、インクの吐出量を調整することができる。
【0032】
また、ヘッド正対領域の方が、非ヘッド正対領域よりも印刷ヘッドに近い。そのため、上記のように、第三領域において、ヘッド正対領域との境界におけるインク吐出量を多くすることにより、より印刷ヘッドに近い状態で多くのインクを吐出することになり、第三領域における画質を向上させることができる。
【0033】
なお、インク吐出量を変化させる部分は、第三領域の全体に亘っていてもよいし、印刷する図柄等に応じて第三領域の一部に限定させてもよい。
【0034】
上記印刷方法では、上記印刷媒体上の一部である第四領域に対し、2回以上の上記走査工程において上記印刷ヘッドに正対させずに上記インクを吐出し、該2回以上の走査工程は、2回以上の第五種走査工程からなり、各回の第五種走査工程では、第四領域および上記ヘッド正対領域を横断するように上記印刷ヘッドを走査し、第四領域と上記ヘッド正対領域との境界に対して、上記ヘッド正対領域に対して吐出する量と同量の上記インクを吐出し、該境界から第四領域に亘って、吐出する上記インクの量を不均一に変化させるようにしてもよい。
【0035】
上記の構成によれば、第五種走査工程では、連続して印刷するヘッド正対領域と第四領域との境界に対して、当該ヘッド正対領域と同量のインクを吐出することにより、当該ヘッド正対領域と第四領域との間における印刷の連続性を確保して、印刷画質を向上させることができる。
【0036】
ここで、複数の第五種走査工程の間で、第四領域においてヘッド正対領域と同量のインクを吐出する領域が重なると、第四領域に形成されるインク塗膜の合計膜厚が所定の膜厚を超えてしまう可能性がある。しかし、各第五種走査工程においてヘッド正対領域は互いに異なるため、ヘッド正対領域と第四領域との境界も異なることになる。そして、上記境界から第四領域に亘って、吐出するインクの量を不均一に変化させるため、各第五種走査工程においてヘッド正対領域と同量のインクを吐出する部分は重ならず、第四領域に所定の合計膜厚のインク塗膜が形成されるように、インクの吐出量を調整することができる。
【0037】
さらに、上記の構成によれば、上記境界から第四領域に亘って、吐出するインクの量を不均一に変化させることにより、複数回の印刷を重ねる際に生じ得るムラの発生を好適に抑制することができる。なお、インク吐出量を不均一に変化させる方法としては、例えば、変位幅を設定し、当該変位幅内で変動するようにしてもよい。
【0038】
また、ヘッド正対領域の方が、非ヘッド正対領域よりも印刷ヘッドに近い。そのため、上記のように、第四領域において、ヘッド正対領域との境界におけるインク吐出量を多くすることにより、より印刷ヘッドに近い状態で多くのインクを吐出することになり、第四領域における画質を向上させることができる。
【0039】
上記印刷方法では、上記走査工程において、上記ヘッド正対領域と上記非ヘッド正対領域とを横断するように上記印刷ヘッドを走査し、上記印刷媒体に吐出する上記インクの量を、上記非ヘッド正対領域と上記ヘッド正対領域との間で変化させるときに、当該インクの量を変化させる位置に、ばらつきを持たせるようにしてもよい。
【0040】
上記の構成によれば、ヘッド正対領域と非ヘッド正対領域との間で、インクの吐出量が変化する位置にばらつきがあるため、ヘッド正対領域と非ヘッド正対領域とのつなぎ目をぼかし、違和感を解消することができる。
【0041】
本発明に係る印刷装置は、インクジェット印刷用の印刷ヘッドと、該印刷ヘッドを制御して、該印刷ヘッドを走査させながら、該印刷ヘッドから印刷媒体に対してインクを吐出させる走査工程を複数回実行する走査制御手段と、各回の該走査工程において、該印刷ヘッドに正対した状態で該インクが吐出されるヘッド正対領域を互いに異ならせるヘッド正対領域変更手段とを備えており、該走査制御手段は、何れかの回の該走査工程において、該印刷ヘッドに正対しない状態で該インクが吐出される非ヘッド正対領域に対しては、他の1回以上の該走査工程でも、該印刷ヘッドに正対させずに該インクを吐出するように該印刷ヘッドを制御するとともに、該非ヘッド正対領域上に形成される該インクの塗膜の合計膜厚が、該ヘッド正対領域上に形成される該インクの塗膜の膜厚と同じになるように、少なくとも1回の該走査工程において該非ヘッド正対領域に吐出する該インクの量を調整することを特徴としている。
【0042】
上記の構成によれば、本発明に係る印刷方法と同等の効果を奏する。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、立体的な構造を有する印刷媒体の表面に所定の膜厚のインク塗膜を、より短い時間で形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の一実施形態に係る印刷方法のいくつかの工程を模式的に示す図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る印刷方法における非ヘッド正対領域に対するインク塗布量の例を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る印刷方法のいくつかの工程を模式的に示す図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る印刷方法の一例を説明するための図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る印刷装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
(印刷装置の概要)
図5は、本発明の一実施形態に係る印刷装置100の概略構成を示す機能ブロック図である。図5に示すように、印刷装置100は、印刷ヘッド110、媒体角度調整部(ヘッド正対領域変更手段)120、主制御部130およびデータ入力部180を備えている。主制御部130は、吐出制御部(走査制御手段)131、走査制御部(走査制御手段)132、媒体角度制御部(ヘッド正対領域変更手段)133、印刷データ記憶部134および印刷媒体データ記憶部135を備えている。
【0046】
印刷ヘッド110は、インクジェット印刷用の印刷ヘッドであり、所定方向に直線走査が可能なように構成されている。印刷ヘッド110からのインク80の吐出方向は、印刷ヘッド110の走査方向に対して垂直となるように設定されている。よって、印刷ヘッド110に正対した面に対して、印刷ヘッド110から吐出したインク80は、当該面へ垂直に着弾することになる。なお、本明細書において、ある面が「印刷ヘッドに正対する」とは、当該面の法線方向と印刷ヘッドからのインクの吐出方向が一致することを指す。印刷ヘッド110が吐出するインク80としては、インクジェット印刷用のインクを適宜使用することができる。
【0047】
媒体角度調整部120は、例えば、物理的または電磁気的な機構(例えば、把持機構、マグネット等)により印刷対象となる印刷媒体を保持するとともに、汎用のアクチュエータ等の機構により印刷媒体の向き(角度)を調整する(例えば、印刷媒体を回転させる)ものである。媒体角度調整部120は、印刷媒体の向きを調整することにより、印刷媒体上の印刷ヘッド110に正対する領域(ヘッド正対領域)を変更することができるようになっている。なお、媒体角度調整部120は、印刷ヘッド110と印刷媒体との相対的な位置関係を調整し得るものであればよく、例えば、印刷ヘッド110の位置を調整することにより、印刷媒体上の印刷ヘッド110に正対する領域(ヘッド正対領域)を変更するものであってもよい。
【0048】
主制御部130は、集積回路(ICチップ)上に形成された論理回路によってハードウェア的に実現することもできるし、CPU(Central Processing Unit)を用いてソフトウェア的に実現することもできる。主制御部130は、また、データを記憶するための記憶手段を適宜備えている。
【0049】
吐出制御部131は、印刷ヘッド110からのインク80の吐出量を制御する。走査制御部132は、印刷ヘッド110の走査を制御する。印刷装置100では、吐出制御部131および走査制御部132が協働して、印刷ヘッド110を制御して、印刷ヘッド110を走査させながら、印刷ヘッド110から印刷媒体に対してインク80を吐出させる走査工程を複数回実行する。
【0050】
媒体角度制御部133は、媒体角度調整部120による印刷媒体の向きの調整を制御して、各回の走査工程において、印刷ヘッド110に正対した状態でインク80が吐出されるヘッド正対領域を互いに異ならせる。例えば、媒体角度制御部133は、連続する2回の走査工程の間に、印刷媒体の向きを変更するヘッド正対領域変更工程を実行する。
【0051】
印刷データ記憶部134は、印刷媒体に印刷する画像等を表すデータを記憶する。印刷媒体データ記憶部135は、印刷媒体の形状を表すデータまたは印刷媒体の形状から算出された各走査工程および各ヘッド正対領域変更工程において使用するパラメータを記憶する。これらのデータは、データ入力部180から各記憶部に入力される。
【0052】
(印刷方法の概要)
図1は、本発明の一実施形態における印刷方法のいくつかの工程を模式的に示す図である。図1に示すように、本実施形態では、多面体の印刷媒体10に印刷する場合について説明する。
【0053】
本実施形態では、多面体に対し、一面おきに印刷ヘッド110に正対させて印刷を行う。例えば、印刷媒体10の面10a、10bおよび10cに対して印刷を行う場合、面10aを印刷ヘッド110に正対させて走査を行う走査工程aと、面10cを印刷ヘッド110に正対させて走査を行う走査工程bとによって、面10a、10bおよび10c上にそれぞれ所定の膜厚Tのインク塗膜を形成する。これにより、全ての面に対して、印刷ヘッド110に正対させて印刷を行う場合に比べ、印刷時間を短縮することができる。なお、本実施形態に係る印刷方法は、少なくとも一つの面を印刷ヘッド110に正対させずに印刷することにより、印刷時間を短縮し得るものであればよく、必ずしも一面おきに印刷ヘッド110に正対させて印刷を行うものでなくともよい。また、より広い範囲に亘って画質を向上させるために、印刷媒体10において、印刷ヘッド110に正対させた状態で印刷を行う面としては、印刷媒体10上においてより大きな面積を有する面を選択することが好ましい。
【0054】
なお、本実施形態では、印刷媒体10が図1に底面が描かれた多角柱であり、印刷ヘッド110は、図1における紙面奥行き方向および紙面水平方向に走査する場合について説明する。
【0055】
図1(a)は、走査工程aを模式的に示す図である。図1(a)に示すように、走査工程aでは、吐出制御部131および走査制御部132は、印刷ヘッド110を制御して、面10aに対して、面10aに垂直な方向Aからインク80を吐出させ、面10bに対して、方向Bからインク80を吐出させることにより、面10aおよび面10b上にインク塗膜11を形成する。
【0056】
なお、各回の走査工程において、走査制御部132は、印刷媒体データ記憶部135に記憶された印刷媒体10の形状を表すデータに基づいて、走査範囲を決定してもよい。また、吐出制御部131は、印刷データ記憶部134に記憶されている印刷すべき画像等を表すデータの他、後述するように、印刷媒体データ記憶部135に記憶されている印刷媒体10の形状を表すデータに基づいてインク80の吐出量を調整する。
【0057】
図1(a)において、方向Bは、方向Aと平行であり、面10bの法線方向Cに対してθの角度で交わっている。すなわち、走査工程aにおいて、面10aは、印刷ヘッド110に正対した状態でインク80が吐出されるヘッド正対領域であり、面10bは、印刷ヘッド110に正対しない状態でインク80が吐出される非ヘッド正対領域である。
【0058】
図1(b)は、走査工程bを模式的に示す図である。図1(b)に示すように、走査工程bでは、吐出制御部131および走査制御部132は、印刷ヘッド110を制御して、面10cに対して、面10cに垂直な方向Fからインク80を吐出させ、面10bに対して、方向Eからインク80を吐出させることにより、面10cおよび面10b上にインク塗膜12を形成する。
【0059】
図1(b)において、方向Eは、方向Fと平行であり、面10bの法線方向Dに対してθの角度で交わっている。すなわち、走査工程bにおいて、面10cは、印刷ヘッド110に正対した状態でインク80が吐出されるヘッド正対領域であり、面10bは、印刷ヘッド110に正対しない状態でインク80が吐出される非ヘッド正対領域である。
【0060】
このように、走査工程aおよび走査工程bでは、印刷媒体10上のヘッド正対領域が異なっている。すなわち、本実施形態に係る印刷方法では、各回の走査工程において、ヘッド正対領域を互いに異ならせる。これは、例えば、連続する2回の走査工程の間に、媒体角度制御部133が、印刷媒体データ記憶部135に記憶されている印刷媒体10の形状を表すデータに基づき媒体角度調整部120を制御して、印刷媒体10を回転させること(ヘッド正対領域変更工程)によって実現してもよい。例えば、走査工程aと走査工程bとの間であれば、媒体角度制御部133は、媒体角度調整部120を制御して、印刷媒体10を図1上反時計回りに90°回転させればよい。
【0061】
ここで、走査工程aにおいて非ヘッド正対領域としてインク80が吐出された面10bは、走査工程bにおいても非ヘッド正対領域としてインク80が吐出される。このように、本実施形態に係る印刷方法では、何れかの回の走査工程において、印刷ヘッド110に正対しない状態でインク80が吐出される非ヘッド正対領域に対しては、他の1回以上の走査工程でも、印刷ヘッド110に正対させずにインク80を吐出するようにする。すなわち、本実施形態に係る印刷方法では、何れかの走査工程において非ヘッド正対領域となる領域(以下、単に、非ヘッド正対領域とも記載する。)に対しては、2回以上の走査工程においてインクを吐出するようにする。
【0062】
これにより、非ヘッド正対領域についても、所定の膜厚Tのインク塗膜を首尾よく形成することができる。例えば、図1に示すように、面10b上に形成されたインク塗膜11および12の合計膜厚は、面10a上に形成されたインク塗膜11の膜厚および面10c上に形成されたインク塗膜12の膜厚と同じにすることができる。これは、以下の理由による。
【0063】
まず、同じ量のインク80を吐出したとき、非ヘッド正対領域に形成されるインク塗膜の膜厚は、ヘッド正対領域に形成されるインク塗膜の膜厚よりも薄くなる。なぜなら、非ヘッド正対領域は、インク80の吐出方向に対して斜めになっているため、ヘッド正対領域に比べて、インク80が着弾する面積がより広くなるからである。ここで、上記の構成によれば、非ヘッド正対領域に対しては、2回以上の走査工程においてインクを吐出するため、当該領域に形成されるインク塗膜の膜厚が薄くなることを避け、ヘッド正対領域と同じく所定の膜厚Tのインク塗膜を首尾よく形成することができる。
【0064】
ここで、非ヘッド正対領域に対して、単に、2回以上の走査工程においてインクを吐出するだけでは、逆に、当該非ヘッド正対領域に形成されるインク塗膜の膜厚が所定の膜厚Tを超えることもあり得る。そこで、吐出制御部131は、非ヘッド正対領域上に形成されるインク塗膜の合計膜厚が、ヘッド正対領域上に形成されるインク塗膜の膜厚と同じになるように、少なくとも1回の走査工程において非ヘッド正対領域に吐出するインク80の量を調整することが好ましい。
【0065】
一実施形態において、吐出制御部131は、以下のようにインク80の吐出量を設定する。すなわち、n回(nは2以上の整数)の走査工程において、非ヘッド正対領域の一地点に対してインク80を吐出するとき、下記式(1)
【0066】
【数2】

【0067】
(ただし、θは、90°未満の角度であって、n回の走査工程のうちのi回目の上記走査工程におけるインク80の吐出方向と、該地点における印刷媒体10の法線方向とがなす角を表す。)
を満たすように設定された調整係数kを用いて、i回目の走査工程における該地点に吐出するインク80の量Dを、下記式(2)
= k × D ・・・ (2)
(ただし、Dは、各走査工程においてヘッド正対領域の一地点に吐出するインク80の量を表す。)
を満たすように設定する。これにより、非ヘッド正対領域上に形成されるインク塗膜の合計膜厚を、ヘッド正対領域上に形成されるインク塗膜の膜厚と同じく所定の膜厚Tとすることができる。
【0068】
なお、吐出制御部131は、上記n回の走査工程のうち、必ずしも全ての走査工程においてインク吐出量の調整を行う必要はない。すなわち、何れかの走査工程では無調整(非ヘッド正対領域に対する吐出量が、ヘッド正対領域に対する吐出量と同じ)としてもよい。その場合、当該走査工程における調整係数kを1に設定すればよい。
【0069】
また、吐出制御部131は、上述したθを、印刷媒体データ記憶部135から取得した印刷媒体10の形状を表すデータから算出してもよいし、印刷媒体データ記憶部135から直接θを取得してもよい。
【0070】
なお、本実施形態に係る印刷方法では、2回以上の走査工程において非ヘッド正対領域にインク80を吐出するため、少なくとも1回の上記走査工程では、非ヘッド正対領域に吐出するインク80の量を、ヘッド正対領域に吐出するインク80の量よりも少なくすることができる。特に、全ての走査工程において、非ヘッド正対領域に吐出するインク80の量を、ヘッド正対領域に吐出するインク80の量以下とすることにより、印刷ヘッド110から吐出するインク80を増大させることなく、非ヘッド正対領域に、所定の膜厚Tのインク塗膜を形成することができる。
【0071】
なお、本実施形態に係る印刷方法では、少なくとも1回の走査工程では、走査工程aおよび走査工程bのように、ヘッド正対領域および非ヘッド正対領域を横断するように印刷ヘッド110を走査することが好ましい。これにより、ヘッド正対領域および非ヘッド正対領域を一つの走査工程において印刷することができるため、印刷時間を短縮することができる。
【0072】
ここで、吐出制御部131による非ヘッド正対領域へのインク80の吐出量の調整の詳細について説明する。図2は、非ヘッド正対領域に対するインク塗布量の例を示す図である。図2(a)〜(h)に示すように、非ヘッド正対領域へのインク80の吐出量の調整は、様々な態様で行うことができる。なお、非ヘッド正対領域へのインク80の吐出量の調整は、上述した条件を満たすものであれば、図2に例示した態様に限定されない。また、全ての非ヘッド正対領域に対して同様の調整を行ってもよいし、それぞれ異なる態様の調整を行ってもよい。
【0073】
図2(a)に示す例では、走査工程a(第一種走査工程)において、面10a(ヘッド正対領域)と面10b(非ヘッド正対領域、第一領域)とに同量のインク80を吐出するようにし、走査工程b(第二種走査工程)において、面10b上に形成されるインク塗膜11および12の合計膜厚が所定の膜厚Tとなるように、面10b(非ヘッド正対領域)に対して、面10c(ヘッド正対領域)よりも少ない量のインク80を吐出するようにしている。
【0074】
この場合、走査工程aにおいて、面10a上に形成されるインク塗膜11よりも、面10b上に形成されるインク塗膜11は薄くなる。面10bが、印刷ヘッド110に正対していない状態で印刷されるために、インク80滴に対する印刷面積が、印刷ヘッド110に正対している状態で印刷される面10aに比べて広くなるためである。そこで、走査工程bにおいて、さらに、インク塗膜12を面10b上に形成することにより、面10b上に形成されるインク塗膜11および12の合計膜厚を所定の膜厚Tとすることができる。
【0075】
なお、走査工程bにおいて面10b上に吐出するインク量Dは、例えば、上記式(1)および式(2)にn=2、k=1を代入して、
= (1 − cosθ) / cosθ × D ・・・ (3)
と求めることができる。
【0076】
ここで、印刷媒体10が、主に、面10aを正面として観察されるような場合、面10bに吐出されたインク80のうち、走査工程aにおいて当該正面から吐出されたインク80の割合が大きくなるため、当該正面から観察したときの面10bの印刷画質を向上させることができる。
【0077】
なお、走査工程bにおいて、面10cと面10bとに同量のインク80を吐出し、走査工程aにおいて、面10bに吐出するインク80の量を調整してもよい。これは、特に、印刷媒体10が、面10cを正面として観察される場合に好適である。
【0078】
図2(b)に示す例では、走査工程aおよび走査工程b(第三種走査工程)において面10b上に形成されるインク塗膜11および12の膜厚がそれぞれ等しく、面10b上に形成されるインク塗膜11および12の合計膜厚が所定の膜厚Tとなるように、走査工程aおよび走査工程b(第三種走査工程)において、面10b(第二領域)に吐出するインク80の量を調整している。
【0079】
なお、走査工程aおよび走査工程bにおいて面10b上に吐出するインク量DおよびDは、例えば、上記式(1)および式(2)にn=2、kcosθ=kcosθを代入して、
= D / 2cosθ ・・・ (4)
= D / 2cosθ ・・・ (5)
と求めることができる。
【0080】
ここで、印刷媒体10が、様々な方向(例えば、面10a、面10cに正対する方向)から観察されるような場合、各走査工程において面10bに形成されるインク塗膜の膜厚が均一であるので、ある方向から観察したときに面10bの印刷画質が劣化することを抑制することができる。
【0081】
次に、図2(c)および(d)に示す例について説明する。本例では、走査工程a(第四種走査工程)において、吐出制御部131は、面10a(ヘッド正対領域)と面10b(第三領域)との境界に吐出するインク80の量を、面10aに吐出するインク80の量と同量とし、当該境界から面10bに亘って、インク80の吐出量を連続的に変化させている。より詳しくは、吐出制御部131は、上記境界から面10bに亘って、インク80の吐出量を、当該境界に遠いほど少なくなるように連続的に変化させている。
【0082】
このように、面10aと面10bとの境界に対して面10aと同量のインク80を吐出することにより、面10aと面10bとの間における印刷の連続性を確保して、印刷画質を向上させることができる。
【0083】
同様に、走査工程b(第四種走査工程)において、吐出制御部131は、面10c(ヘッド正対領域)と面10b(第三領域)との境界に吐出するインク80の量を、面10cに吐出するインク80の量と同量とし、当該境界から面10bに亘って、インク80の吐出量を連続的に変化させている。より詳しくは、吐出制御部131は、上記境界から面10bに亘って、インク80の吐出量を、当該境界に遠いほど少なくなるように連続的に変化させている。これにより、同様に、面10cと面10bとの間における印刷の連続性を確保して、印刷画質を向上させることができる。
【0084】
また、走査工程aおよび走査工程bでは、上記境界から面10bに亘って、インク80の吐出量を連続的に変化させているので、ヘッド正対領域(面10a、10c)と同量のインク80を吐出する部分は重ならず、面10bに所定の合計膜厚Tのインク塗膜が形成されるように、インク80の吐出量を調整することができる。特に、上記境界から面10bに亘って、インク80の吐出量を、当該境界に遠いほど少なくなるように連続的に変化させることが好ましい。
【0085】
また、ヘッド正対領域の方が、非ヘッド正対領域よりも印刷ヘッドに近い。そのため、上記のように、面10bにおいて、ヘッド正対領域との境界におけるインク吐出量を多くすることにより、より印刷ヘッド110に近い状態で多くのインク80を吐出することになり、面10bにおける画質を向上させることができる。
【0086】
なお、インク吐出量を変化させる部分は、図2(c)に示すように、面10bの全体に亘っていてもよいし、図2(d)に示すように、印刷する図柄等に応じて面10bの一部に限定させてもよい。また、インク吐出量の変化態様は、各走査工程において互いに対応するように変化させることが好ましい。
【0087】
次に、図2(e)〜(g)に示す例について説明する。本例では、走査工程a(第五種走査工程)において、吐出制御部131は、面10a(ヘッド正対領域)と面10b(第四領域)との境界に吐出するインク80の量を、面10aに吐出するインク80の量と同量とし、当該境界から面10bに亘って、インク80の吐出量を不均一に変化させている。より詳しくは、吐出制御部131は、上記境界から面10bに亘って、インク80の吐出量を、図2(e)および(g)において、Mで示す範囲内において変動するように、変化させている(例えば、図2(f)に示すように変動させている)。
【0088】
このように、面10aと面10bとの境界に対して面10aと同量のインク80を吐出することにより、面10aと面10bとの間における印刷の連続性を確保して、印刷画質を向上させることができる。
【0089】
同様に、走査工程b(第五種走査工程)において、吐出制御部131は、面10c(ヘッド正対領域)と面10b(第四領域)との境界に吐出するインク80の量を、面10cに吐出するインク80の量と同量とし、当該境界から面10bに亘って、インク80の吐出量を、走査工程aと対応するように不均一に変化させている。これにより、同様に、面10cと面10bとの間における印刷の連続性を確保して、印刷画質を向上させることができる。
【0090】
ここで、上記のように、上記境界から面10bに亘って、吐出するインク80の量を不均一に変化させることにより、複数回の印刷を重ねる際に生じ得るムラの発生を好適に抑制することができる。
【0091】
なお、インク吐出量を不均一に変化させる方法としては、例えば、図2(e)および(g)においてMで示す範囲のような変位幅を設定し、当該変位幅内で変動するようにノイズ付加する方法などを用いることができる。
【0092】
また、図2(c)、(d)に示す例と同様、本例でも、ヘッド正対領域(面10a、10c)と同量のインク80を吐出する部分は重ならず、面10bに所定の合計膜厚Tのインク塗膜が形成されるように、インク80の吐出量を調整することができる。また、図2(c)、(d)に示す例と同様、本例でも、面10bにおいて、ヘッド正対領域との境界におけるインク吐出量を多くすることにより、面10bにおける画質を向上させることができる。また、図2(c)、(d)に示す例と同様、本例でも、インク吐出量を変化させる部分は、図2(c)に示すように、面10bの全体に亘っていてもよいし、図2(d)に示すように、印刷する図柄等に応じて面10bの一部に限定させてもよい。
【0093】
また、各走査工程において、ヘッド正対領域と非ヘッド正対領域とを横断して走査し、その際、印刷媒体10に吐出するインク80の量を、非ヘッド正対領域とヘッド正対領域との間で変化させるとき(例えば、図2(a)、(b)に示す例)に、当該インク80の吐出量を変化させる位置に、ばらつきを持たせてもよい。
【0094】
すなわち、図2(h)のNに示すように、走査工程aにおける面10aと面10bとの間でのインク吐出量の変化位置、および、走査工程bにおける面10cと面10bとの間でのインク吐出量の変化位置に、ばらつきを持たせることにより、面10aと面10bとのつなぎ目および面10cと面10bとの間のつなぎ目をぼかし、当該つなぎ目を目立たなくして、違和感を解消することができる。
【0095】
なお、インク吐出量の変化位置に、ばらつきを持たせる手法としては、例えば、組織ディザ法、ランダムディザ法等のディザ法、誤差拡散、ノイズ付加等の公知の画像処理技術を適用することができる。
【0096】
(他の実施形態)
また、印刷媒体は曲面体であってもよい。図3は、本発明の他の実施形態における印刷方法のいくつかの工程を模式的に示す図である。図3に示すように、本実施形態では、局面体の印刷媒体20に印刷する場合について説明する。
【0097】
本実施形態では、曲面体の曲面を分割し、各分割面を2以上の方向から印刷する。例えば、印刷媒体20に対して印刷を行う場合、印刷媒体20の側面を領域20a〜20dに分割し、領域20aと領域20bとの境界を印刷ヘッド110に正対させ、領域20aおよび領域20bを非ヘッド正対領域として印刷する走査工程aと、領域20bと領域20cとの境界を印刷ヘッド110に正対させ、領域20bおよび領域20cを非ヘッド正対領域として印刷する走査工程bと、領域20cと領域20dとの境界を印刷ヘッド110に正対させ、領域20cおよび領域20dを非ヘッド正対領域として印刷する走査工程cとによって、これらの領域に所定の膜厚Tのインク塗膜を形成する。これにより、例えば、印刷媒体20を回転させながら側面の全面を印刷ヘッド110に正対させて印刷を行う場合に比べ、印刷時間を短縮することができる。
【0098】
なお、本実施形態では、印刷媒体20が図3に底面が描かれた円柱であり、印刷ヘッド110は、図3における紙面奥行き方向および紙面水平方向に走査する場合について説明する。印刷媒体20の側面は、中心角45°毎に、領域20a〜20dを含む8つの領域に分割されている。
【0099】
図3(a)〜(c)は、走査工程a〜走査工程cを模式的に示す図である。図3(a)〜(C)に示すように、吐出制御部131および走査制御部132は、印刷ヘッド110を制御して、隣り合う領域の境界が印刷ヘッド110に正対した状態で、当該隣り合う領域に対してインク80を吐出して、インク塗膜21〜23を形成する。また、連続する2回の走査工程の間に、媒体角度制御部133は、媒体角度調整部120を制御して、印刷媒体20を図3上反時計回りに45°回転させる。以上を、印刷媒体20が一回転するまで行うことよって、領域20a〜20dを含む印刷媒体20上の全ての領域について、2回の走査工程においてインクを吐出して、合計膜厚が所定の膜厚Tのインク塗膜を形成することができる。
【0100】
各走査工程において、非ヘッド正対領域に対するインク80の吐出量は、上述したように、合計膜厚が所定の膜厚Tとなるように調整する。詳細に述べれば、図3(a)における、領域20bの線H上の位置する地点に対して、吐出制御部131は、例えば、以下のようにインク80の吐出量を調整する。
【0101】
まず、図3(a)に示す走査工程aにおいて、上記地点に形成されるインク塗膜21の膜厚Nrabは、以下のように求められる。
【0102】
rab = Ncosθ ・・・ (6)
(ただし、Nは、領域20aと領域20bとの境界(ヘッド正対領域)上に形成されたインク塗膜21の膜厚を表し、θは、インク80の吐出方向Gと線Hとのなす角度を表す。)
また、図3(b)に示す走査工程bでは、上記地点は、45°回転しているため、インク80の吐出方向Iとのなす角度が45°−θとなる線J上に位置し、上記地点に形成されるインク塗膜22の膜厚Nrbcは、以下のように求められる。
【0103】
rbc = Ncos(45°−θ) ・・・ (7)
それゆえ、上記地点の合計膜厚が、ヘッド正対領域上に形成される膜厚と同じとなるためには、
rab + krbc = N ・・・ (8)
すなわち、
cos(45° − θ) + kcosθ = N ・・・ (9)
を満たすように調整係数k1、k2を設定すればよい。なお、Nは、所定の膜厚Tとなるようにすることが好ましい。また、調整係数kとインク吐出量Dとの関係は、式(2)に示したとおりである。
【0104】
なお、他の実施形態において、円柱の各分割面に対してn(n>2)方向から印刷してもよい。一地点に対して、n回の走査工程においてインク80を吐出し、i回目の走査工程におけるインク80の吐出方向と、当該一地点における印刷媒体20の法線方向との間の角度をθとすると、
cosθ+kcosθ+・・・+kcosθ=N (10)
を満たすように調整係数k、k、・・・、kを設定すればよい。
【0105】
なお、本実施形態においても、図2(a)〜(h)に示すように、非ヘッド正対領域へのインク80の吐出量の調整は、様々な態様で行うことができる。
【0106】
(更に他の実施形態)
図4は、本発明の一実施形態に係る印刷方法を用いて、角が丸められた四角柱である印刷媒体30を印刷する場合を説明するための図である。図4に示すように、本実施形態に係る印刷方法では、方向Oから領域30aにインク80を吐出する走査工程a、方向Pから領域30bにインク80を吐出する走査工程b、および、方向Qから領域30cにインク80を吐出する走査工程cを含んでいる。
【0107】
このように、四角柱の角の端面に対しても、印刷ヘッド110を正対させて印刷を行ってもよい。本実施形態に係る印刷方法は、角の端面が、2方向(方向OおよびQ)から印刷するには長過ぎる場合に好適であり、インク滴の着弾不良の発生を防止して画質を向上させることができる。着弾不良は、インク滴サイズが小さい程、短い距離で発生するため、印刷ヘッド110の性能、走査速度、インク80の特性(例えば、質量)等に応じて本実施形態に係る印刷方法を適用すればよい。また、端面が更に大きくなった場合には、端面部分をさらに複数に分割して印刷を行ってもよい。
【0108】
<付記事項>
以上のように、本発明の一実施形態に係る印刷方法は、インクジェット印刷用の印刷ヘッド110を走査して、印刷ヘッド110から印刷媒体(例えば、印刷媒体10、印刷媒体20等)に対してインク80を吐出する走査工程を複数回含み、各回の走査工程において、印刷ヘッド110に正対した状態でインク80が吐出されるヘッド正対領域(例えば、図1(a)における面10a、図1(b)における面10c、図3(a)における領域20aと領域20bとの境界、図3(b)における領域20bと領域20cとの境界、図3(c)における領域20cと領域20dとの境界等)を互いに異ならせ、何れかの回の走査工程において、印刷ヘッド110に正対しない状態でインク80が吐出される非ヘッド正対領域(例えば、図1(a)における面10b、図1(b)における面10b、図3(a)における領域20aおよび領域20b(境界除く)、図3(b)における領域20bおよび領域20c(境界除く)、図3(c)における領域20cおよび領域20d(境界除く)等)に対しては、他の1回以上の走査工程でも、印刷ヘッド110に正対させずにインク80を吐出し、非ヘッド正対領域上に形成されるインク80の塗膜(例えば、インク塗膜11、12、21〜23等)の合計膜厚が、所定の膜厚Tとなるように、少なくとも1回の走査工程において非ヘッド正対領域に吐出するインク80の量を調整する。
【0109】
上記の構成によれば、何れかの回の走査工程において非ヘッド正対領域となる領域に対しては、それぞれ、2回以上の走査工程においてインク80が吐出されるようになっている。そのため、非ヘッド正対領域において形成されるインク塗膜の膜厚が、ヘッド正対領域に比べて薄くなることを避けることができる。
【0110】
そして、上記の構成によれば、印刷媒体の表面の全てを印刷ヘッド110に正対させて印刷するわけではないため、印刷ヘッド110に正対する領域を各回の走査工程において異ならせるための動作(印刷ヘッド110と印刷媒体との間の位置決め動作)を、印刷媒体の表面の全てを印刷ヘッド110に正対させて印刷する場合に比べて少なくすることができ、印刷時間を短くすることができる。
【0111】
また、上記の構成では、特許文献1の技術とは異なり、解像度の向上またはインク吐出量の増大のための特別な機構(例えば、高精度なヘッド走査機構等)が必要ない。
【0112】
以上のように、上記の構成によれば、立体的な構造を有する印刷媒体の表面に所定の膜厚Tのインク塗膜を、より短い時間で形成することができる。
【0113】
また、上記少なくとも1回の走査工程では、非ヘッド正対領域上に形成されるインク80の塗膜の合計膜厚が、ヘッド正対領域上に形成されるインク80の塗膜の膜厚と同じになるように非ヘッド正対領域に吐出するインク80の量を調整する。
【0114】
これにより、非ヘッド正対領域に対しても、ヘッド正対領域と同じ膜厚のインク塗膜を形成することができる。
【0115】
また、少なくとも1回の走査工程では、非ヘッド正対領域に吐出するインク80の量を、ヘッド正対領域に吐出するインク80の量よりも少なくする。
【0116】
上記の構成によれば、少なくとも1回の走査工程において、非ヘッド正対領域に吐出するインク80の量を、ヘッド正対領域に吐出するインク80の量よりも少なくするとともに、当該非ヘッド正対領域に対して、2回以上の走査工程においてインク80を吐出することにより、当該非ヘッド正対領域に所定の膜厚Tのインク塗膜を首尾よく形成することができる。
【0117】
また、n回(nは2以上の整数)の走査工程において、非ヘッド正対領域の一地点に対してインク80を吐出するとき、下記式(1)
【0118】
【数3】

【0119】
(ただし、θは、90°未満の角度であって、n回の走査工程のうちのi回目の走査工程におけるインク80の吐出方向と、該地点における印刷媒体の法線方向とがなす角を表す。)
を満たすように設定された調整係数kを用いて、i回目の走査工程における該地点に吐出する上記インクの量Dを、下記式(2)
= k × D ・・・ (2)
(ただし、Dは、各走査工程においてヘッド正対領域の一地点に吐出するインク80の量を表す。)
を満たすように設定する。
【0120】
上記の構成によれば、非ヘッド正対領域の一地点に形成されるインク塗膜の膜厚が、ヘッド正対領域に形成されるインク塗膜の膜厚と同じになるように、当該非ヘッド正対領域の一地点に対するインク80の吐出量を好適に調整することができるため、印刷媒体表面に所定の膜厚Tのインク塗膜を首尾よく形成することができる。
【0121】
また、少なくとも1回の走査工程において、ヘッド正対領域および非ヘッド正対領域を横断するように印刷ヘッド110を走査する。
【0122】
上記の構成によれば、ヘッド正対領域および非ヘッド正対領域を横断するように印刷ヘッド110を走査するため、印刷ヘッド110と印刷媒体との間の位置決め動作を行うことなく、1回の走査工程において、ヘッド正対領域および非ヘッド正対領域の両方を走査することができる。これにより、当該位置決め動作の回数を低減して、印刷時間を短くすることができる。
【0123】
例えば、図1に示すような多角柱の印刷媒体10の側面10a〜10cに対して、全ての面を印刷ヘッド110に正対させて印刷すると、印刷ヘッド110と印刷媒体10との間の位置決め動作が多くなり、印刷時間も長くなるが、上記の構成によれば、例えば、当該側面に対して一つおき(10aおよび10c)に印刷ヘッド110に正対させ、間の面10bについては非ヘッド正対領域として印刷すればよいので、印刷ヘッド110と印刷媒体10との間の位置決め動作を少なくして、印刷時間を短くすることができる。
【0124】
また、例えば、図3に示すような円柱の印刷媒体20の側面に対して、印刷ヘッド110に正対させて印刷すると、印刷ヘッド110と印刷媒体20との間の位置決め動作が非常に多くなり、印刷時間も長くなるが、上記の構成によれば、例えば、当該側面を円周方向に複数に分割し、各分割面それぞれを2以上の走査工程において印刷するようにすればよいので、印刷ヘッド110と印刷媒体20との間の位置決め動作を少なくして、印刷時間を短くすることができる。
【0125】
また、印刷媒体上の一部である第一領域に対し、2回以上の走査工程において印刷ヘッド110に正対させずにインク80を吐出し、該2回以上の走査工程は、1回の第一種走査工程と1回以上の第二種走査工程とからなり、第一種走査工程では、第一領域に対して、ヘッド正対領域に対して吐出する量と同量のインク80を吐出し、第二種走査工程では、第一領域に対して、ヘッド正対領域に対して吐出する量よりも少ない量のインク80を吐出するようにしてもよい。
【0126】
上記の構成によれば、第一種走査工程では、ヘッド正対領域および第一領域に対して同量のインク80を吐出するため、第一種走査工程において第一領域に形成されるインク塗膜の膜厚は、ヘッド正対領域に形成されるインク塗膜の膜厚よりも薄くなる。しかし、第二種走査工程において、第一領域に対してさらにインク80を塗布するため、第一領域に対しても所定の膜厚Tのインク塗膜を形成することができる。
【0127】
ここで、印刷媒体が、主に、第一種走査工程におけるヘッド正対領域を正面として観察されるような場合、上記の構成によれば、第一領域に吐出されたインク80のうち、当該ヘッド正対領域と同じ走査工程において吐出されたインク80の割合が大きくなるため、当該正面から観察したときの第一領域における印刷画質を向上させることができる。
【0128】
また、印刷媒体上の一部である第二領域に対し、2回以上の走査工程において印刷ヘッド110に正対させずにインク80を吐出し、該2回以上の走査工程は、2回以上の第三種走査工程からなり、各回の第三種走査工程では、第二領域に互いに同じ膜厚のインク塗膜が形成されるようにインク80を吐出するようにしてもよい。
【0129】
上記の構成によれば、2回以上の第三種走査工程において、それぞれの工程において第二領域に形成されるインク塗膜の膜厚が等しく、形成される合計膜厚が所定の膜厚Tとなるように、第二領域に対してインク80を吐出することにより、印刷媒体表面に所定の膜厚Tのインク塗膜を形成することができる。
【0130】
ここで、印刷媒体が、様々な方向から観察されるような場合、上記の構成によれば、第二領域に対して、各第三走査工程において形成されるインク塗膜の膜厚が均一であるので、ある方向から観察したときに第二領域の印刷画質が劣化することを抑制することができる。
【0131】
また、印刷媒体上の一部である第三領域に対し、2回以上の走査工程において印刷ヘッド110に正対させずにインク80を吐出し、該2回以上の走査工程は、2回以上の第四種走査工程からなり、各回の第四種走査工程では、第三領域およびヘッド正対領域を横断するように印刷ヘッド110を走査し、第三領域とヘッド正対領域との境界に対して、ヘッド正対領域に対して吐出する量と同量のインク80を吐出し、該境界から第三領域に亘って、吐出するインク80の量を連続的に変化させるようにしてもよい。
【0132】
上記の構成によれば、第四種走査工程では、連続して印刷するヘッド正対領域と第三領域との境界に対して、当該ヘッド正対領域と同量のインク80を吐出することにより、当該ヘッド正対領域と第三領域との間における印刷の連続性を確保して、印刷画質を向上させることができる。
【0133】
ここで、複数の第四種走査工程の間で、第三領域においてヘッド正対領域と同量のインク80を吐出する領域が重なると、第三領域に形成されるインク塗膜の合計膜厚が所定の膜厚Tを超えてしまう可能性がある。しかし、各第四種走査工程においてヘッド正対領域は互いに異なるため、ヘッド正対領域と第三領域との境界も異なることになる。そして、上記境界から第三領域に亘って、吐出するインク80の量を連続的に変化させるため、各第四種走査工程においてヘッド正対領域と同量のインク80を吐出する部分は重ならず、第三領域に所定の合計膜厚Tのインク塗膜が形成されるように、インク80の吐出量を調整することができる。
【0134】
また、ヘッド正対領域の方が、非ヘッド正対領域よりも印刷ヘッド110に近い。そのため、上記のように、第三領域において、ヘッド正対領域との境界におけるインク吐出量を多くすることにより、より印刷ヘッド110に近い状態で多くのインク80を吐出することになり、第三領域における画質を向上させることができる。
【0135】
なお、インク吐出量を変化させる部分は、第三領域の全体に亘っていてもよいし、印刷する図柄等に応じて第三領域の一部に限定させてもよい。
【0136】
また、印刷媒体上の一部である第四領域に対し、2回以上の走査工程において印刷ヘッド110に正対させずにインク80を吐出し、該2回以上の走査工程は、2回以上の第五種走査工程からなり、各回の第五種走査工程では、第四領域およびヘッド正対領域を横断するように印刷ヘッド110を走査し、第四領域とヘッド正対領域との境界に対して、ヘッド正対領域に対して吐出する量と同量のインク80を吐出し、該境界から第四領域に亘って、吐出するインク80の量を不均一に変化させるようにしてもよい。
【0137】
上記の構成によれば、第五種走査工程では、連続して印刷するヘッド正対領域と第四領域との境界に対して、当該ヘッド正対領域と同量のインク80を吐出することにより、当該ヘッド正対領域と第四領域との間における印刷の連続性を確保して、印刷画質を向上させることができる。
【0138】
ここで、複数の第五種走査工程の間で、第四領域においてヘッド正対領域と同量のインク80を吐出する領域が重なると、第四領域に形成されるインク塗膜の合計膜厚が所定の膜厚Tを超えてしまう可能性がある。しかし、各第五種走査工程においてヘッド正対領域は互いに異なるため、ヘッド正対領域と第四領域との境界も異なることになる。そして、上記境界から第四領域に亘って、吐出するインク80の量を不均一に変化させるため、各第五種走査工程においてヘッド正対領域と同量のインク80を吐出する部分は重ならず、第四領域に所定の合計膜厚Tのインク塗膜が形成されるように、インク80の吐出量を調整することができる。
【0139】
さらに、上記の構成によれば、上記境界から第四領域に亘って、吐出するインク80の量を不均一に変化させることにより、複数回の印刷を重ねる際に生じ得るムラの発生を好適に抑制することができる。なお、インク吐出量を不均一に変化させる方法としては、例えば、変位幅を設定し、当該変位幅内で変動するようにしてもよい。
【0140】
また、ヘッド正対領域の方が、非ヘッド正対領域よりも印刷ヘッド110に近い。そのため、上記のように、第四領域において、ヘッド正対領域との境界におけるインク吐出量を多くすることにより、より印刷ヘッド110に近い状態で多くのインク80を吐出することになり、第四領域における画質を向上させることができる。
【0141】
また、走査工程において、ヘッド正対領域と非ヘッド正対領域とを横断するように印刷ヘッド110を走査し、印刷媒体に吐出するインク80の量を、非ヘッド正対領域とヘッド正対領域との間で変化させるときに、当該インク80の量を変化させる位置に、ばらつきを持たせるようにしてもよい。
【0142】
上記の構成によれば、ヘッド正対領域と非ヘッド正対領域との間で、インク80の吐出量が変化する位置にばらつきがあるため、ヘッド正対領域と非ヘッド正対領域とのつなぎ目をぼかし、違和感を解消することができる。
【0143】
また、本発明の一実施形態に係る印刷装置100は、インクジェット印刷用の印刷ヘッド110と、印刷ヘッド110を制御して、印刷ヘッド110を走査させながら、印刷ヘッド110から印刷媒体に対してインク80を吐出させる走査工程を複数回実行する吐出制御部131および走査制御部132と、各回の走査工程において、印刷ヘッド110に正対した状態でインク80が吐出されるヘッド正対領域を互いに異ならせる媒体角度調整部120および媒体角度制御部133とを備えており、吐出制御部131および走査制御部132は、何れかの回の走査工程において、印刷ヘッド110に正対しない状態でインク80が吐出される非ヘッド正対領域に対しては、他の1回以上の走査工程でも、印刷ヘッド110に正対させずにインク80を吐出するように印刷ヘッド110を制御するとともに、非ヘッド正対領域上に形成されるインク80の塗膜の合計膜厚が、ヘッド正対領域上に形成されるインク80の塗膜の膜厚Tと同じになるように、少なくとも1回の走査工程において非ヘッド正対領域に吐出するインク80の量を調整する。
【0144】
上記の構成によれば、本発明に係る印刷方法と同等の効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0145】
本発明は、様々な物品に対する印刷処理分野、および、印刷装置の製造分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0146】
10、20、30 印刷媒体
10a〜10c 面
20a〜20d、30a〜30c 領域
11、12、21〜23 インク塗膜
80 インク
100 印刷装置
110 印刷ヘッド
120 媒体角度調整部(ヘッド正対領域変更手段)
130 主制御部
131 吐出制御部(走査制御手段)
132 走査制御部(走査制御手段)
133 媒体角度制御部(ヘッド正対領域変更手段)
134 印刷データ記憶部
135 印刷媒体データ記憶部
180 データ入力部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット印刷用の印刷ヘッドを走査して、該印刷ヘッドから印刷媒体に対してインクを吐出する走査工程を複数回含み、
各回の該走査工程において、該印刷ヘッドに正対した状態で該インクが吐出されるヘッド正対領域を互いに異ならせ、
何れかの回の該走査工程において、該印刷ヘッドに正対しない状態で該インクが吐出される非ヘッド正対領域に対しては、他の1回以上の該走査工程でも、該印刷ヘッドに正対させずに該インクを吐出し、
該非ヘッド正対領域上に形成される該インクの塗膜の合計膜厚が、予め定められた膜厚となるように、少なくとも1回の該走査工程において該非ヘッド正対領域に吐出する該インクの量を調整することを特徴とする印刷方法。
【請求項2】
上記少なくとも1回の走査工程では、上記非ヘッド正対領域上に形成される上記インクの塗膜の合計膜厚が、上記ヘッド正対領域上に形成される上記インクの塗膜の膜厚と同じになるように上記非ヘッド正対領域に吐出する上記インクの量を調整することを特徴とする請求項1に記載の印刷方法。
【請求項3】
少なくとも1回の上記走査工程では、上記非ヘッド正対領域に吐出する上記インクの量を、上記ヘッド正対領域に吐出する上記インクの量よりも少なくすることを特徴とする請求項1または2に記載の印刷方法。
【請求項4】
n回(nは2以上の整数)の上記走査工程において、上記非ヘッド正対領域の一地点に対して上記インクを吐出するとき、下記式(1)
【数1】

(ただし、θは、90°未満の角度であって、n回の上記走査工程のうちのi回目の上記走査工程における上記インクの吐出方向と、該地点における上記印刷媒体の法線方向とがなす角を表す。)
を満たすように設定された調整係数kを用いて、i回目の上記走査工程における該地点に吐出する上記インクの量Dを、下記式(2)
= k × D ・・・ (2)
(ただし、Dは、各走査工程において上記ヘッド正対領域の一地点に吐出する上記インクの量を表す。)
を満たすように設定することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の印刷方法。
【請求項5】
少なくとも1回の上記走査工程において、上記ヘッド正対領域および上記非ヘッド正対領域を横断するように上記印刷ヘッドを走査することを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の印刷方法。
【請求項6】
上記印刷媒体上の一部である第一領域に対し、2回以上の上記走査工程において上記印刷ヘッドに正対させずに上記インクを吐出し、
該2回以上の走査工程は、1回の第一種走査工程と1回以上の第二種走査工程とからなり、
第一種走査工程では、第一領域に対して、上記ヘッド正対領域に対して吐出する量と同量の上記インクを吐出し、
第二種走査工程では、第一領域に対して、上記ヘッド正対領域に対して吐出する量よりも少ない量の上記インクを吐出することを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の印刷方法。
【請求項7】
上記印刷媒体上の一部である第二領域に対し、2回以上の上記走査工程において上記印刷ヘッドに正対させずに上記インクを吐出し、
該2回以上の走査工程は、2回以上の第三種走査工程からなり、
各回の第三種走査工程では、第二領域に互いに同じ膜厚の上記インクの塗膜が形成されるように上記インクを吐出することを特徴とする請求項1〜6の何れか1項に記載の印刷方法。
【請求項8】
上記印刷媒体上の一部である第三領域に対し、2回以上の上記走査工程において上記印刷ヘッドに正対させずに上記インクを吐出し、
該2回以上の走査工程は、2回以上の第四種走査工程からなり、
各回の第四種走査工程では、第三領域および上記ヘッド正対領域を横断するように上記印刷ヘッドを走査し、第三領域と上記ヘッド正対領域との境界に対して、上記ヘッド正対領域に対して吐出する量と同量の上記インクを吐出し、該境界から第三領域に亘って、吐出する上記インクの量を連続的に変化させることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の印刷方法。
【請求項9】
上記印刷媒体上の一部である第四領域に対し、2回以上の上記走査工程において上記印刷ヘッドに正対させずに上記インクを吐出し、
該2回以上の走査工程は、2回以上の第五種走査工程からなり、
各回の第五種走査工程では、第四領域および上記ヘッド正対領域を横断するように上記印刷ヘッドを走査し、第四領域と上記ヘッド正対領域との境界に対して、上記ヘッド正対領域に対して吐出する量と同量の上記インクを吐出し、該境界から第四領域に亘って、吐出する上記インクの量を不均一に変化させることを特徴とする請求項1〜8の何れか1項に記載の印刷方法。
【請求項10】
上記走査工程において、上記ヘッド正対領域と上記非ヘッド正対領域とを横断するように上記印刷ヘッドを走査し、上記印刷媒体に吐出する上記インクの量を、上記非ヘッド正対領域と上記ヘッド正対領域との間で変化させるときに、当該インクの量を変化させる位置に、ばらつきを持たせることを特徴とする請求項1〜7の何れか1項に記載の印刷方法。
【請求項11】
インクジェット印刷用の印刷ヘッドと、
該印刷ヘッドを制御して、該印刷ヘッドを走査させながら、該印刷ヘッドから印刷媒体に対してインクを吐出させる走査工程を複数回実行する走査制御手段と、
各回の該走査工程において、該印刷ヘッドに正対した状態で該インクが吐出されるヘッド正対領域を互いに異ならせるヘッド正対領域変更手段とを備えており、
該走査制御手段は、何れかの回の該走査工程において、該印刷ヘッドに正対しない状態で該インクが吐出される非ヘッド正対領域に対しては、他の1回以上の該走査工程でも、該印刷ヘッドに正対させずに該インクを吐出するように該印刷ヘッドを制御するとともに、該非ヘッド正対領域上に形成される該インクの塗膜の合計膜厚が、該ヘッド正対領域上に形成される該インクの塗膜の膜厚と同じになるように、少なくとも1回の該走査工程において該非ヘッド正対領域に吐出する該インクの量を調整することを特徴とする印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−22768(P2013−22768A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157107(P2011−157107)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000137823)株式会社ミマキエンジニアリング (437)
【Fターム(参考)】