説明

印刷方法とそれに用いる溶剤吸収体

【課題】溶剤吸収体による溶剤吸収能を十分に発揮させてシリコーンブランケットの膨潤を抑制でき、印刷初期から長期間に亘って印刷の精度を高いレベルに維持し続けることができる印刷方法と、前記印刷方法に用いる溶剤吸収体とを提供する。
【解決手段】表面の、粗さ曲線の算術平均粗さRaが0.001μmを超え、1μm以下であるシリコーンブランケットと、少なくとも表面をシリコーンゴムまたはシリコーン樹脂によって形成した、タイプAデュロメータ硬さがA5/S以上、A50/S以下、前記表面の算術平均粗さRaが0.001μm以上、0.1μm以下で、かつ前記シリコーンブランケットの表面よりも前記算術平均粗さRaが小さい溶剤吸収体とを組み合わせて用いる印刷方法と、前記特性を満足する溶剤吸収体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンブランケットの表面に担持させたインキを被印刷体の表面に転写して前記表面に前記インキからなる所定のパターンを印刷するための印刷方法と、前記印刷方法において、前記インキ中に含まれ、前記シリコーンブランケットに含浸される溶剤を吸収して除去するために用いる溶剤吸収体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オフセット印刷方法は、インキパターンを簡易に、かつ少ない工程数で効率よく多量に、しかも安価に形成できる利点を有しており、また近年に至って印刷精度の向上が図られていることから、特にエレクトロニクス分野において利用が広まりつつある。
例えば電気配線のパターンや蛍光体のパターン、あるいはプラズマディスプレイパネル(PDP)や液晶ディスプレイパネル(LCD)の構成部品等における各種のパターンといった、微細でかつ高精度のパターンの形成が求められる分野において、従来のフォトリソグラフ法によるパターン形成に代えて、前記オフセット印刷方法が普及してきている。
【0003】
オフセット印刷方法では、版の表面にパターン形成したインキをブランケットの表面に転写させたのち、被印刷体としての基板の表面に再転写させることで、前記基板の表面に所定のパターンが印刷される。
ブランケットとしては、少なくともその表面を、インキに対する離型性に優れたシリコーンゴムまたはシリコーン樹脂によって形成したシリコーンブランケットが広く用いられる。
【0004】
シリコーンブランケットはインキと繰り返し接触することから、特に被印刷体がガラス基板等の溶剤を吸収しない材料からなるとき、印刷を繰り返すうちに前記インキ中に含まれる溶剤が含浸されて前記シリコーンブランケットが徐々に膨潤し、それに伴ってインキに対するシリコーンブランケットの表面の濡れ性が徐々に上昇する。そのため、印刷初期から長期間に亘って印刷の精度を高いレベルに維持し続けることは困難である。
【0005】
シリコーンゴムやシリコーン樹脂を殆ど膨潤しない濡れ性の低い溶剤を含むインキを使用すれば、印刷を繰り返しても前記濡れ性は殆ど変化しないため、安定した印刷を行うことができるように思われる。しかし濡れ性の低い溶剤を含むインキは、版の表面からシリコーンブランケットの表面への転写性が低いことから、特に細線のパターンにおいて断線を生じやすい。
【0006】
断線は最も回避すべき不良であり、それを防止するためには、シリコーンブランケットをある程度は膨潤しうる溶剤を使用しなければならない。ところが前記溶剤を含むインキを使用して印刷を繰り返すとシリコーンブランケットが徐々に膨潤して、インキに対する濡れ性が徐々に上昇する。そしてそれに伴ってインキが滲みやすくなって、特に細線のパターンの線幅が徐々に広くなったり、版表面の微小な汚れを転写するようになったり、シリコーンブランケットから基板へのインキの転写性が徐々に低下したりするようになって印刷の精度が徐々に低下する。
【0007】
例えば、シリコーンブランケットを加熱して膨潤した溶剤を除去することが考えられている。しかし、そのためにはシリコーンブランケットをおよそ40〜200℃程度まで加熱する必要があり、加熱直後の表面温度の高いシリコーンブランケットを版に接触させると、前記版が熱膨張して印刷の精度が低下するという問題がある。
シリコーンブランケットの表面に、溶剤を吸収する機能を有する溶剤吸収体を接触させて、前記シリコーンブランケット中に含浸された溶剤を溶剤吸収体へ移動させて除去することが提案されている(特許文献1〜6等参照)。前記溶剤吸収体を使用すれば、シリコーンブランケットを加熱せずに溶剤を除去できるため、印刷の精度を高いレベルに維持することができる。溶剤吸収体による溶剤の除去は、1回ないし数回の印刷ごとに実施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−329409号公報
【特許文献2】特開平8−156388号公報
【特許文献3】特開2006−188015号公報
【特許文献4】特開2006−35769号公報
【特許文献5】特開2009−119709号公報
【特許文献6】特開2009−119710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発明者の検討によると、シリコーンブランケットから溶剤吸収体への溶剤の移動は、両者の表面同士の接触状態に依存して大きく変動する。そして接触状態如何では、溶剤吸収体による十分な溶剤吸収能を発揮させることができず、先に説明したように溶剤吸収体による溶剤の除去を頻繁に繰り返したとしてもシリコーンブランケットの膨潤を十分に抑制できないため、印刷初期から長期間に亘って印刷の精度を高いレベルに維持し続けることができない場合があることが判明した。
【0010】
本発明の目的は、溶剤吸収体による溶剤吸収能を十分に発揮させてシリコーンブランケットの膨潤を抑制でき、印刷初期から長期間に亘って印刷の精度を高いレベルに維持し続けることができる印刷方法と、前記印刷方法に用いる溶剤吸収体とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、少なくとも表面をシリコーンゴムまたはシリコーン樹脂によって形成したシリコーンブランケットの前記表面に担持させたインキを被印刷体の表面に転写させて、前記被印刷体の表面に前記インキからなるパターンを印刷する印刷方法であって、前記シリコーンブランケットの表面に溶剤吸収体を接触させることにより、前記インキ中に含まれ、前記シリコーンブランケットに含浸される溶剤を前記溶剤吸収体によって吸収して除去する工程を含み、前記シリコーンブランケットおよび溶剤吸収体として、
(1) 前記表面の、粗さ曲線の算術平均粗さRaが0.001μmを超え、1μm以下であるシリコーンブランケットと、
(2) 少なくとも表面をシリコーンゴムまたはシリコーン樹脂によって形成した、タイプAデュロメータ硬さがA5/S以上、A50/S以下、前記表面の算術平均粗さRaが0.001μm以上、0.1μm以下で、かつ前記シリコーンブランケットの表面よりも前記算術平均粗さRaが小さい溶剤吸収体と、
を組み合わせて用いることを特徴とする印刷方法である。
【0012】
本発明によれば、溶剤吸収体の少なくとも表面を、組み合わせるシリコーンブランケットの表面と同種のシリコーンゴムまたはシリコーン樹脂(以下「シリコーンゴム等」と総称する場合がある)によって形成するとともに、前記溶剤吸収体を、温度23±1℃、相対湿度55±1%の環境下、日本工業規格JIS K6253:2006「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−硬さの求め方」において規定された測定方法に基づいて測定されるタイプAデュロメータ硬さがA50/S以下という軟らかいものとすることで、前記表面の、シリコーンブランケットの表面への密着性を向上することができる。
【0013】
また前記溶剤吸収体の表面の、日本工業規格JIS B0601:1994「表面粗さ−定義及び表示」において規定された粗さ曲線の算術平均粗さRaを0.1μm以下で、かつシリコーンブランケットの表面の前記算術平均粗さRaよりも小さくすることで、前記溶剤吸収体の表面の、シリコーンブランケットの表面への密着性をさらに向上することができる。
【0014】
しかも、前記のように少なくとも表面がシリコーンゴム等からなり、タイプAデュロメータ硬さがA50/S以下である軟らかい溶剤吸収体は、一般的に、タイプAデュロメータ硬さが前記範囲を超える硬いものに比べて吸収できる溶剤量が多い。
そのため溶剤吸収の工程において前記溶剤吸収体の表面をシリコーンブランケットの表面にできるだけ隙間なく密着させて、前記溶剤吸収体による溶剤吸収能を十分に発揮させながら、シリコーンブランケットに含浸された溶剤を効率よく、しかも多量に溶剤吸収体に移動させて除去することができ、印刷初期から長期間に亘ってシリコーンブランケットの過剰な膨潤を抑制することができる。
【0015】
また、前記シリコーンゴム等の中には、その架橋反応時に生じる低分子量のポリシロキサンが含まれており、かかる低分子量のポリシロキサンが、同様にシリコーンブランケットの少なくとも表面を形成するシリコーンゴム等の中にも含まれているものの印刷を繰り返すうちに徐々に失われてゆく低分子量のポリシロキサンを補って、前記シリコーンブランケットの表面から被印刷体の表面へのインキの転写性を向上する離型剤として機能する。
【0016】
そのため前記離型剤としての低分子量のポリシロキサンの不足に伴う転写性の低下を抑制して、印刷初期から長期間に亘って、シリコーンブランケットの表面から被印刷体の表面へのインキの良好な転写性を維持することもできる。
またシリコーンブランケットとして、その表面の算術平均粗さRaが1μm以下であるものを用いることによって、前記表面でのインキの滲みによる線幅の増加等を抑制することもできる。
【0017】
したがって本発明によれば、前記溶剤吸収体とシリコーンブランケットとを組み合わせることによって、印刷初期から長期間に亘って印刷の精度を高いレベルに維持し続けることが可能となる。
また、前記のように少なくとも表面がシリコーンゴム等からなり、タイプAデュロメータ硬さがA50/S以下であって吸収できる溶剤量が多い溶剤吸収体を用いることで、印刷を停止して溶剤吸収体を交換したり、加熱等によって溶剤吸収体に吸収された溶剤を除去したりする操作をする頻度を少なくできる。
【0018】
また、タイプAデュロメータ硬さがA5/S以上であって適度な強度を有する溶剤吸収体を用いることで、印刷を繰り返した際に前記溶剤吸収体が破損するのを抑制して、破損した溶剤吸収体の交換のために印刷を停止したりする頻度を少なくできる。
そのため印刷のタクトタイム、つまり印刷機に被印刷体をセットし、先に説明した手順にしたがって前記被印刷体の表面にインキを印刷してパターン形成したのち印刷機に新たな非印刷体をセットするまでに要する平均の時間を短くして、印刷方法によって製造される製品の生産性を向上することもできる。
【0019】
なお本発明において、シリコーンブランケットの表面の算術平均粗さRaが0.001μmを超える範囲に限定されるとともに、溶剤吸収体の表面の算術平均粗さRaが0.001μm以上に限定されるのは、表面の算術平均粗さRaが前記範囲を下回る高い平滑性を有する表面を有するシリコーンブランケット、及び溶剤吸収体を製造するのが容易でないためである。
【0020】
また、表面の算術平均粗さRaがいずれか一方でも前記範囲を下回った場合にはシリコーンブランケットの表面と溶剤吸収体の表面との密着性が高くなりすぎて、前記両者を接触させて溶剤吸収の操作をした後に溶剤吸収体をシリコーンブランケットの表面から引き離す際に時間がかかり、前記タクトタイムが長くなって製品の生産性が低下するためでもある。
【0021】
本発明は、前記印刷方法に用いる溶剤吸収体であって、フィルム状またはシート状の基材と、前記基材の少なくとも片面に形成した、シリコーンゴム等からなり、タイプAデュロメータ硬さがA5/S以上、A50/S以下、表面の算術平均粗さRaが0.001μm以上、0.1μm以下で、かつ、組み合わせて用いる、表面の算術平均粗さRaが0.001μm以上、1μm以下であるシリコーンブランケットよりも前記算術平均粗さRaが小さい吸収層とを備えることを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、前記フィルム状またはシート状の基材によって溶剤吸収体全体の強度を維持し、かつ良好な取扱性を確保しながら、前記基材の少なくとも片面に形成した前記各条件を満足する吸収層をシリコーンブランケットの表面にできるだけ隙間なく密着させることによって、前記シリコーンブランケットに含浸される溶剤を効率よくしかも多量に吸収できる。
【0023】
前記溶剤吸収体はベルト状(無端ベルト状を含む)に形成することにより、従来の、前記ベルト状等の溶剤吸収体を用いるオフセット印刷機にそのまま適用することができる。しかも前記溶剤吸収体の吸収層が前記のように溶剤を吸収する能力に優れているため、前記従来のオフセット印刷機を用いて本発明の印刷方法を実施することができ、印刷初期から長期間に亘って印刷の精度を高いレベルに維持し続けることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、溶剤吸収体による溶剤吸収能を十分に発揮させてシリコーンブランケットの膨潤を抑制でき、印刷初期から長期間に亘って印刷の精度を高いレベルに維持し続けることができる印刷方法と、前記印刷方法に用いる溶剤吸収体とを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、少なくとも表面をシリコーンゴム等によって形成したシリコーンブランケットの前記表面に担持させたインキを被印刷体の表面に転写させて、前記被印刷体の表面に前記インキからなるパターンを印刷する印刷方法であって、前記シリコーンブランケットの表面に溶剤吸収体を接触させることにより、前記インキ中に含まれ、前記シリコーンブランケットに含浸される溶剤を前記溶剤吸収体によって吸収して除去する工程を含み、前記シリコーンブランケットおよび溶剤吸収体として、
(1) 前記表面の、粗さ曲線の算術平均粗さRaが0.001μmを超え、1μm以下であるシリコーンブランケットと、
(2) 少なくとも表面をシリコーンゴム等によって形成した、タイプAデュロメータ硬さがA5/S以上、A50/S以下、前記表面の算術平均粗さRaが0.001μm以上、0.1μm以下で、かつ前記シリコーンブランケットの表面よりも前記算術平均粗さRaが小さい溶剤吸収体と、
を組み合わせて用いることを特徴とする。
【0026】
また前記本発明の印刷方法に用いる本発明の溶剤吸収体は、フィルム状またはシート状の基材と、前記基材の少なくとも片面に形成した、シリコーンゴム等からなり、タイプAデュロメータ硬さがA5/S以上、A50/S以下、表面の算術平均粗さRaが0.001μm以上、0.1μm以下で、かつ、組み合わせて用いる、表面の算術平均粗さRaが0.001μm以上、1μm以下であるシリコーンブランケットよりも前記算術平均粗さRaが小さい吸収層とを備えることを特徴とする。
【0027】
前記吸収層を形成するシリコーンゴム等としては、例えば未硬化時に液状ないしはペースト状を呈するものが好ましい。
前記液状ないしペースト状を呈するシリコーンゴム等を、例えばドクターナイフ、バーコータ、ロールコータ等を用いて所定の厚みとなるように基材上に塗布したのち硬化させることで吸収層が形成されて溶剤吸収体が製造される。この際、吸収層のもとになる塗膜の表面、つまり硬化後の吸収層の表面を、硬化時に液またはペーストのセルフレベリング効果によって平滑化するとともに、前記吸収層の厚みを均一化できる。
【0028】
なお溶剤吸収体は、前記液状ないしはペースト状を呈するシリコーンゴム等を、吸収層の表面形状に対応する賦形面を有し、基材をセットした金型内に注入して硬化させることによって製造してもよい。
吸収層を、組み合わせるシリコーンブランケットの表面と同種のシリコーンゴム等によって形成しているのは、前記吸収層の表面の、シリコーンブランケットの表面への密着性を向上するためである。また前記シリコーンゴム等の架橋反応時に生じて吸収層中に含まれる低分子量のポリシロキサンを、離型剤としてシリコーンブランケットの表面に供給するためでもある。吸収層を前記シリコーンゴ等以外のゴムや樹脂で形成してもこれらの効果は得られない。
【0029】
前記シリコーンゴム等としては、室温硬化型(RTV)であるものが好ましい。前記室温硬化型のシリコーンゴム等は、その名のとおり加熱しなくても室温(5〜35℃程度)で降下させることが可能であるため、溶剤吸収体の製造工程および製造のための設備を簡略化できる上、加熱による膨張と冷却時の収縮を経ないため、吸収層の厚みの精度を向上できる。
【0030】
また前記シリコーンゴム等としては、主剤と硬化剤の2成分からなり、前記両者を付加反応によって硬化させることができる二液付加反応型のものが好ましい。
前記二液付加反応型のシリコーンゴム等は、硬化反応に際して前記低分子量のポリシロキサン以外には低分子量の成分(副生成物、例えば脱水縮合反応による水等)を生じないため、吸収層の寸法精度を向上し、かつ前記副生成物に基づく気泡等を含まない均一な吸収層を形成できる。
【0031】
前記吸収層のタイプAデュロメータ硬さをA5/S以上、A50/S以下の範囲に限定しているのは、下記の理由による。
すなわち吸収層のタイプAデュロメータ硬さをA5/S以上とすることで溶剤吸収体に適度な強度を付与して、印刷を繰り返した際に前記溶剤吸収体が破損するのを抑制して、破損した溶剤吸収体の交換のために印刷を停止したりする頻度を少なくでき、印刷のタクトタイムを短くして、印刷方法によって製造される製品の生産性を向上できる。
【0032】
また吸収層のタイプAデュロメータ硬さをA50/S以下として前記吸収層を適度に軟らかくすることで、前記吸収層の表面の、シリコーンブランケットの表面への密着性を向上できるとともに、前記吸収層によって吸収できる溶剤量を多くできる。
そのため溶剤吸収の工程において吸収層の表面をシリコーンブランケットの表面にできるだけ隙間なく密着させて、前記吸収層による溶剤吸収能を十分に発揮させながら、シリコーンブランケットに含浸された溶剤を効率よく、しかも多量に吸収層に移動させて除去でき、印刷初期から長期間に亘ってシリコーンブランケットの過剰な膨潤を抑制できる。
【0033】
また、印刷を停止して溶剤吸収体を交換したり、加熱等によって溶剤吸収体に吸収された溶剤を除去したりする操作をする頻度を少なくでき、印刷のタクトタイムを短くして、印刷方法によって製造される製品の生産性を向上できる。
なおこれらの効果をさらに向上するため、吸収層のタイプAデュロメータ硬さは、前記範囲内でもA10/S以上であるのが好ましく、A30/S以下であるのが好ましい。
【0034】
前記吸収層のタイプAデュロメータ硬さを前記範囲内の任意の値に調整するためには、例えば吸収層を形成するシリコーンゴム等として前記二液付加反応型のものを用いる場合に、前記主剤と硬化剤の組み合わせを選択したり、両者の配合割合を調整したりすることが考えられる。
また吸収層のもとになるシリコーンゴム等に、例えばシリカ、炭酸カルシウム等の充填剤を添加することも考えられ、前記充填剤の種類と量を調整することで、吸収層のタイプAデュロメータ硬さを前記範囲内の任意の値に調整できる。ただし充填剤は、吸収層の表面粗さに影響を及ぼさないために、その種類や粒径を選択したり、配合割合を設定したりするのが好ましい。
【0035】
前記吸収層の表面の算術平均粗さRaを0.001μm以上、0.1μm以下で、かつ、組み合わせて用いるシリコーンブランケットの表面の前記算術平均粗さRaよりも小さい範囲に限定しているのは、下記の理由による。
すなわち吸収層の表面の算術平均粗さRaを0.1μm以下で、かつシリコーンブランケットの表面の前記算術平均粗さRaよりも小さくすることで、前記吸収層の表面の、シリコーンブランケットの表面への密着性を向上できる。
【0036】
そのため溶剤吸収の工程において吸収層の表面をシリコーンブランケットの表面にできるだけ隙間なく密着させて、前記吸収層による溶剤吸収能を十分に発揮させながら、シリコーンブランケットに含浸された溶剤を効率よく、しかも多量に吸収層に移動させて除去でき、印刷初期から長期間に亘ってシリコーンブランケットの過剰な膨潤を抑制できる。
ただし、表面の算術平均粗さRaが0.001μm未満という高い平滑性を有する吸収層を備えた溶剤吸収体を製造するのは容易でない。
【0037】
また製造できたとしても、吸収層の表面の、シリコーンブランケットの表面に対する密着性が高くなりすぎて、溶剤吸収の工程後に溶剤吸収体をシリコーンブランケットの表面から引き離すのに時間がかかり、前記タクトタイムが長くなって製品の生産性が低下してしまう。
なお、前記生産性の問題やタクトタイムの問題等が生じるのをできるだけ抑制しながら、吸収層の表面の、シリコーンブランケットの表面への密着性をさらに向上することを考慮すると、吸収層の表面の算術平均粗さRaは、前記範囲内でも0.005μm以上であるのが好ましく、0.05μm以下であるのが好ましい。
【0038】
吸収層の表面の算術平均粗さRaを前記範囲内の任意の値に調整するためには、例えば前記セルフレベリングによる吸収層の形成に用いる液状またはペースト状のシリコーンゴム等の粘度や塗布厚みを調整したり、金型の賦形面の表面粗さを調整したりすればよい。また所定の表面粗さを有する下地上に前記液状またはペースト状のシリコーンゴム等を塗布して硬化させたのち前記下地から剥離し、基材と貼り合わせて溶剤吸収体を構成してもよい。さらに、前記いずれかの製造工程を経て製造された溶剤吸収体の、吸収層の表面を研磨等して算術平均粗さRaを調整してもよい。
【0039】
前記吸収層の厚みは0.1mm以上、特に0.2mm以上であるのが好ましく、1mm以下、特に0.5mm以下であるのが好ましい。
厚みが前記範囲未満である薄い吸収層には十分な量の溶剤を吸収させることができないため、溶剤吸収体を交換したり、過熱等によって溶剤を除去したりする操作をする頻度が多くなり、その分だけ印刷のタクトタイムが長くなって製品の生産性が低下するおそれがある。
【0040】
また厚みが前記範囲を超える場合には、吸収層の柔軟性と、それに伴うシリコーンブランケットの表面への追従性が低下して、例えばブランケット胴の外周に捲回する等した状態で使用されるシリコーンブランケットの表面に、前記吸収層をできるだけ隙間なく密着させた状態で溶剤を吸収させることができないおそれがある。
また吸収層の重量が増加して、前記のようにシリコーンブランケットの表面に接触させる際の取扱性が低下したり、前記取り扱い時に基材が折れたりシワになったりしやすくなるおそれもある。
【0041】
基材としては、種々の樹脂のフィルムまたはシートや、金属の薄板等が挙げられる。このうち樹脂のフィルムまたはシートとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンおよびその共重合物、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、フッ素樹脂、ポリカーボネート、セルロースアセテート、ポリアミド、ポリイミド、変性ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンサルファイド、TPXポリマ、およびポリパラキシレン等の樹脂からなるフィルムまたはシートが挙げられる。
【0042】
また金属の薄板としては銅またはその合金、アルミニウムまたはその合金、ステンレス鋼、ニッケル等の金属からなる薄板が好ましい。
特に任意の厚み、および表面粗さを有するフィルム状またはシート状に加工しやすい上、寸法安定性に優れたPETのフィルムまたはシートを基材として用いるのが好ましい。
基材の厚みは0.05mm以上、特に0.1mm以上であるのが好ましく、0.35mm以下、特に0.25mm以下であるのが好ましい。
【0043】
厚みが前記範囲未満では、前記基材による、吸収層の支持体として溶剤吸収体全体の強度を維持し、かつ良好な取扱性を確保する効果が十分に得られず、取り扱い時に基材が折れたりシワになったりしやすくなるおそれもある。
また厚みが前記範囲を超える場合には、溶剤吸収体全体としての柔軟性と、それに伴うシリコーンブランケットの表面への追従性が低下して、例えばブランケット胴の外周に捲回される等した状態で使用されるシリコーンブランケットの表面に、前記吸収層をできるだけ隙間なく接触させた状態で溶剤を吸収させることができないおそれがある。
【0044】
吸収層を形成する前の基材の表面には、前記吸収層の密着性を高めるために、例えばプラズマ処理、フレーム処理等の前処理を施したり、任意の下地層を形成したりしてもよい。
吸収層は、基材の片面に形成してもよいし、両面に形成してもよい。両面に吸収層を形成した溶剤吸収体は、片面の吸収層を溶剤の吸収に使用した後、裏返して反対面の吸収層を溶剤の吸収に使用できる。
【0045】
前記溶剤吸収体は、印刷方法を実施する印刷機の構造等に応じて任意の形状に形成でき、特にベルト状(無端ベルト状を含む)に形成するのが好ましい。これにより、従来の、前記ベルト状等の溶剤吸収体を用いるオフセット印刷機にそのまま適用することができる。
例えば溶剤吸収体を長尺のベルト状に形成してロール状に捲回しておき、前記ロールから繰り出した溶剤吸収体の所定長の領域をシリコーンブランケットの表面に接触させて溶剤を吸収させる操作を、同じ領域を用いて1回ないし数回行うとともに、前記所定回の操作を行なうごとに、前記ロールから溶剤吸収体の新たな領域を繰り出して、同様に溶剤吸収に使用することができる。
【0046】
また溶剤吸収体を無端ベルト状に形成し、前記溶剤吸収体を回転させながらシリコーンブランケットの表面に接触させて溶剤を吸収させる操作を1回ないし数回行なうごとに、溶剤吸収体を加熱する等して吸収した溶剤を除去しながら、前記溶剤吸収体を溶剤吸収に繰り返し使用することができる。
しかもこのいずれの場合においても、溶剤吸収体の吸収層が前記のようにシリコーンブランケットの表面への良好な密着性を有し、溶剤を吸収する能力に優れているため、前記従来のオフセット印刷機を用いて本発明の印刷方法を実施した際にも印刷初期から長期間に亘って印刷の精度を高いレベルに維持し続けることが可能となる。
【0047】
本発明の印刷方法は、例えば
(1) 凹版、平版等の版の表面にパターン形成したインキをシリコーンブランケットの表面に転写したのち、被印刷体としての基板の表面に再転写させるオフセット印刷方法、
(2) シリコーンブランケットの表面の全面にインキを塗布したのち凹版と接触させることで、前記凹版の凹部以外の領域と接触したインキを選択的にシリコーンブランケットの表面から除去して前記表面のインキ層をパターン形成したのち、前記基板の表面に転写する反転印刷方法、
(3) シリコーンブランケットの表面に直接にインキパターンを描画したのち、前記基板の表面に転写する印刷方法、
等の、シリコーンブランケットを用いる種々の印刷方法に適用できる。
【0048】
前記各種の印刷方法において、印刷の合間に、シリコーンブランケットの表面に溶剤吸収体を接触させることで、前記シリコーンブランケットに含浸される溶剤を前記溶剤吸収体によって吸収して除去する工程を、前記溶剤吸収体を用いて実施できる。これにより、印刷初期から長期間に亘って印刷の精度を高いレベルに維持し続けることが可能となる。
シリコーンブランケットとしては、少なくともその表面がシリコーンゴム等によって形成されるとともに、前記表面の、粗さ曲線の算術平均粗さRaが0.001μmを超え、1μm以下であるものが選択して使用される。具体的には、例えばフィルム状またはシート状の基材と、前記基材の片面に形成した、少なくともシリコーンゴム等を含む組成物からなる表面ゴム層とを備えたシリコーンブランケットが好ましい。
【0049】
前記表面ゴム層を構成するシリコーンゴム等としては、未硬化時に液状ないしペースト状を呈する液状のシリコーンゴムまたはシリコーン樹脂が好ましい。前記液状のシリコーンゴム等は、例えばドクターナイフ、バーコータ、ロールコータ等を用いて所定の厚みとなるように基材上に塗布し、硬化させて表面ゴム層を形成する際に、前記表面ゴム層の表面を前記セルフレベリング効果によって平滑化するとともに、表面ゴム層の厚みを均一化できる。そのため被印刷体としての基板の表面に微細でかつ高精度のパターンを形成するのに適した表面平滑性に優れた表面ゴム層を有するシリコーンブランケットを、研磨等の工程を経ることなく生産性よく製造できる。なお必要に応じて表面ゴム層の表面を研磨してもよいことはいうまでもない。
【0050】
またシリコーンブランケットは、前記液状ないしはペースト状を呈するシリコーンゴム等を、表面ゴム層の表面形状に対応する賦形面を有し、基材をセットした金型内に注入して硬化させることによって製造してもよい。
前記シリコーンゴム等としては、やはり室温硬化型(RTV)であるものが好ましい。前記室温硬化型のシリコーンゴム等は加熱しなくても室温で硬化させることが可能であるため、シリコーンブランケットの製造工程および製造のための設備を簡略化できる上、加熱による膨張と冷却時の収縮を経ないため、表面ゴム層の厚みの精度を向上できる。
【0051】
また前記シリコーンゴム等としては、主剤と硬化剤の2成分からなり、前記両者を付加反応によって硬化させることができる二液付加反応型のものが好ましい。
前記二液付加反応型のシリコーンゴム等は、硬化反応に際して前記低分子量のポリシロキサン以外には低分子量の成分(副生成物、例えば脱水縮合反応による水等)を生じないため、表面ゴム層の寸法精度を向上し、かつ前記副生成物に基づく気泡等を含まない均一な表面ゴム層を形成できる。
【0052】
前記表面ゴム層の表面の算術平均粗さRaを0.001μmを超え、1μm以下の範囲に限定しているのは、下記の理由による。
すなわち表面ゴム層の表面の算術平均粗さRaを1μmとすることにより、前記表面でのインキの滲みによる線幅の増加等を抑制できる。そのため、かかる表面ゴム層を備えたシリコーンブランケットを前記溶剤吸収体と組み合わせることで、印刷初期から長期間に亘って印刷の精度を高いレベルに維持し続けることが可能となる。
【0053】
ただし、表面の算術平均粗さRaが0.001μm以下という高い平滑性を有する表面ゴム層を備えた溶剤吸収体を製造するのは容易でない。
また製造できたとしても、表面ゴム層の表面の、溶剤吸収体の表面(吸収層の表面)に対する密着性が高くなりすぎて、溶剤吸収の工程後に溶剤吸収体をシリコーンブランケットの表面から引き離すのに時間がかかり、前記タクトタイムが長くなって製品の生産性が低下してしまう。
【0054】
なお、前記生産性の問題やタクトタイムの問題等が生じるのをできるだけ抑制しながら、インキのにじみによる線幅の増加等を抑制して、印刷初期から長期間に亘って精度の高い良好な印刷をしつづけることを考慮すると、表面ゴム層の表面の算術平均粗さRaは、前記範囲内でも0.005μm以上であるのが好ましく、0.1μm以下であるのが好ましい。
【0055】
表面ゴム層の表面の算術平均粗さRaを前記範囲内の任意の値に調整するには、溶剤吸収体の吸収層と同様にすればよい。例えば前記セルフレベリングによる表面ゴム層の形成に用いる液状またはペースト状のシリコーンゴム等の粘度や塗布厚みを調整したり、金型の賦形面の表面粗さを調整したりすればよい。また所定の表面粗さを有する下地上に前記液状またはペースト状のシリコーンゴム等を塗布して硬化させたのち前記下地から剥離し、基材と貼り合わせてシリコーンブランケットを構成してもよい。さらに、前記いずれかの製造工程を経て製造されたシリコーンブランケットの、表面ゴム層の表面を研磨等して算術平均粗さRaを調整してもよい。
【0056】
先に説明したPDPやLCDの構成部品等の高い印刷精度が要求される精密印刷用の場合、前記表面ゴム層は、タイプAデュロメータ硬さがA20/S以上、特にA30/S以上であるのが好ましく、A70/S以下、特にA60/S以下であるのが好ましい。
また表面ゴム層の厚みは0.1mm以上、特に0.3mm以上であるのが好ましく、1mm以下、特に0.7mm以下であるのが好ましい。
【0057】
基材としては、先に説明した溶剤吸収体において使用したのと同様の種々の樹脂のフィルムまたはシートまた、金属の薄板等が挙げられ、特に任意の厚み、および表面粗さを有するフィルム状またはシート状に加工しやすい上、寸法安定性に優れたPETのフィルムまたはシートが好ましい。
基材の厚みは、前記精密印刷用のシリコーンブランケットの場合は0.1mm以上、特に0.2mm以上であるのが好ましく、0.7mm以下、特に0.5mm以下であるのが好ましい。
【0058】
表面ゴム層を形成する前の基材の表面には、前記表面ゴム層の密着性を高めるために、例えばプラズマ処理、フレーム処理等の前処理を施したり、任意の下地層を形成したりしてもよい。
【実施例】
【0059】
以下のシリコーンブランケットおよび溶剤吸収体の作製、ゴム硬さおよび表面粗さの測定、ならびに実施例、比較例、従来例における印刷とその評価を、特記した以外は温度23±1℃、相対湿度55±1%の環境下で実施した。なおシリコーンブランケットの表面ゴム層、および溶剤吸収体の吸収層のタイプAデュロメータ硬さは、それぞれ前記環境下、高分子計器(株)製のアスカーゴム硬度計A型を用いて測定した。また前記表面ゴム層、および吸収層の表面の算術平均粗さRaは、前記環境下、(株)キーエンス製のレーザー顕微鏡VK−9000を用いて測定した。
【0060】
〈シリコーンブランケット(a)〉
厚み0.35mmのPETフィルムの片面に、表面の算術平均粗さRaが0.002μm、タイプAデュロメータ硬さがA40/Sで、かつ厚みが0.55mmである表面ゴム層を積層してシリコーンブランケット(a)を作製した。
〈シリコーンブランケット(b)〜(g)〉
表面ゴム層の表面の算術平均粗さRaを0.05μm(シリコーンブランケット(b))、0.1μm(シリコーンブランケット(c))、0.11μm(シリコーンブランケット(d))、0.5μm(シリコーンブランケット(e))、1.0μm(シリコーンブランケット(f))、および1.2μm(シリコーンブランケット(g))としたこと以外はシリコーンブランケット(a)と同様にして前記各シリコーンブランケットを作製した。
【0061】
各シリコーンブランケットを構成するPETフィルムおよび表面ゴム層の厚み、ならびに表面ゴム層のタイプAデュロメータ硬さは、いずれもシリコーンブランケット(a)と同じとした。
〈溶剤吸収体(1)〉
厚み0.188mmのPETフィルムの片面に、室温硬化型で、かつ二液付加反応型の液状シリコーンゴム〔信越化学工業(株)製のKE1603〕の主剤と硬化剤とを質量比1:1で配合したものを塗布したのち24時間静置して硬化させて、表面の算術平均粗さRaが0.001μm、タイプAデュロメータ硬さがA28/Sで、かつ厚みが0.35mmである吸収層を形成して溶剤吸収体(1)を作製した。
【0062】
〈溶剤吸収体(2)〉
吸収層の表面の算術平均粗さRaを0.01μm、前記吸収層のタイプAデュロメータ硬さをA3/Sとしたこと以外は溶剤吸収体(1)と同様にして溶剤吸収体(2)を作製した。
〈溶剤吸収体(3)〉
吸収層の表面の算術平均粗さRaを0.01μm、前記吸収層のタイプAデュロメータ硬さをA20/Sとしたこと以外は溶剤吸収体(1)と同様にして溶剤吸収体(3)を作製した。
【0063】
〈溶剤吸収体(4)〉
吸収層の表面の算術平均粗さRaを0.01μm、前記吸収層のタイプAデュロメータ硬さをA28/Sとしたこと以外は溶剤吸収体(1)と同様にして溶剤吸収体(4)を作製した。
〈溶剤吸収体(5)〉
吸収層の表面の算術平均粗さRaを0.03μm、前記吸収層のタイプAデュロメータ硬さをA8/Sとしたこと以外は溶剤吸収体(1)と同様にして溶剤吸収体(5)を作製した。
【0064】
〈溶剤吸収体(6)〉
吸収層の表面の算術平均粗さRaを0.03μm、前記吸収層のタイプAデュロメータ硬さをA28/Sとしたこと以外は溶剤吸収体(1)と同様にして溶剤吸収体(6)を作製した。
〈溶剤吸収体(7)〉
吸収層の表面の算術平均粗さRaを0.03μm、前記吸収層のタイプAデュロメータ硬さをA45/Sとしたこと以外は溶剤吸収体(1)と同様にして溶剤吸収体(7)を作製した。
【0065】
〈溶剤吸収体(8)〉
吸収層の表面の算術平均粗さRaを0.03μm、前記吸収層のタイプAデュロメータ硬さをA50/Sとしたこと以外は溶剤吸収体(1)と同様にして溶剤吸収体(8)を作製した。
〈溶剤吸収体(9)〉
吸収層の表面の算術平均粗さRaを0.03μm、前記吸収層のタイプAデュロメータ硬さをA55/Sとしたこと以外は溶剤吸収体(1)と同様にして溶剤吸収体(9)を作製した。
【0066】
〈溶剤吸収体(10)〉
吸収層の表面の算術平均粗さRaを0.08μm、前記吸収層のタイプAデュロメータ硬さをA28/Sとしたこと以外は溶剤吸収体(1)と同様にして溶剤吸収体(10)を作製した。
〈溶剤吸収体(11)〉
吸収層の表面の算術平均粗さRaを0.1μm、前記吸収層のタイプAデュロメータ硬さをA28/Sとしたこと以外は溶剤吸収体(1)と同様にして溶剤吸収体(11)を作製した。
【0067】
〈溶剤吸収体(12)〉
吸収層の表面の算術平均粗さRaを0.1μm、前記吸収層のタイプAデュロメータ硬さをA50/Sとしたこと以外は溶剤吸収体(1)と同様にして溶剤吸収体(12)を作製した。
〈溶剤吸収体(13)〉
吸収層の表面の算術平均粗さRaを0.12μm、前記吸収層のタイプAデュロメータ硬さをA28/Sとしたこと以外は溶剤吸収体(1)と同様にして溶剤吸収体(13)を作製した。
【0068】
〈溶剤吸収体(14)〉
吸収層をウレタン樹脂〔日立化成工業(株)製のKU7002〕によって形成するとともに、前記吸収層の表面の算術平均粗さRaを0.03μm、タイプAデュロメータ硬さをA28/Sとしたこと以外は溶剤吸収体(1)と同様にして溶剤吸収体(14)を作製した。
なお溶剤吸収体(2)〜(14)を構成するPETフィルムおよび吸収層の厚みは、いずれも溶剤吸収体(1)と同じとした。
【0069】
〈実施例1〉
凹版オフセット印刷機〔ナカン(株)製、300mm×400mm対応の平板型精密印刷機〕のブランケット胴の外周に、前記シリコーンブランケット(b)を捲回して固定した。また凹版としては、ガラス基板の片面に線幅20μm、ピッチ300μm、深さ7.5μmの凹部をパターン形成したものを用いた。
【0070】
インキとしては、ポリエステル樹脂100質量部、銀粉末900質量部、ガラスフリット25質量部、およびブチルカルビトール80質量部を、3本ロールを用いて混練して調製したものを用いた。さらに被印刷体としては、厚み2.8mmのガラス基板〔旭硝子(株)製のPD200〕を用いた。
また前記溶剤吸収体(5)を、両端をつなぎ合わせて無端ベルト状として、前記ブランケット胴の外周に巻きつけたシリコーンブランケット(b)と同期回転させながら互いに接触させて溶剤吸収の工程を実施できるようにセットした。同期回転時の無端ベルトの送り速度は40mm/sに設定した。溶剤吸収の工程は、印刷を1回行うごとに実施した。
【0071】
印刷の条件は、凹版からシリコーンブランケットの表面へのインキの転写速度を70mm/s、シリコーンブランケットの表面からガラス基板の表面へのインキの転写速度を150mm/sに設定して、前記ガラス基板を交換しながら200回の連続印刷をした。
〈実施例2〜12、比較例1〜6〉
表1に示すシリコーンブランケットと溶剤吸収体とを組み合わせて用いたこと以外は実施例1と同様にして200回の連続印刷をした。
【0072】
〈従来例1〉
溶剤吸収体を組み込まず、したがって溶剤吸収の工程を実施しなかったこと以外は実施例1と同様にして200回の連続印刷をした。
〈印刷特性の評価〉
前記各実施例、比較例、従来例において印刷を10回行うごとに、ガラス基板の表面に印刷されたパターン上の所定の5箇所の位置で前記パターンの線幅を測定して、200回の連続印刷の間に線幅の変動が±2μmを超えたものを不良(×)、前記変動が±2μm以内であったものを良好(○)、±1μm以内であったものを優良(◎)と評価した。
【0073】
また印刷を10回行うごとに、インキをガラス基板の表面に転写後のシリコーンブランケットの表面を観察して、前記表面にインキが残っていたものをパイリングあり、不良(×)、インキが残っていなかったものをパイリングなし、良好(○)と評価した。
以上の結果を表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
表の従来例1の結果から、溶剤吸収体を用いた溶剤吸収の工程を実施しない場合には、シリコーンブランケットの膨潤とそれに伴うインキの滲みによる線幅の変動(増加方向への変動、線幅が太くなる)が大きくなるとともに、離型剤としての低分子量のポリシロキサンの不足によるパイリングが発生することが判った。しかも従来例1では、最初の印刷10回目の測定および観察においてこれらの問題が発生していることが確認された。
【0076】
比較例1の結果から、溶剤吸収体の吸収層のタイプAデュロメータ硬さがA5/S未満ではシリコーンブランケットとの密着性が高くなりすぎて、前記シリコーンブランケット中の溶剤を過剰に吸収してしまうため、所定の線幅を維持できずに線幅の変動(減少方向への変動、線幅が細くなる)が大きくなることが判った。
比較例2の結果から、前記吸収層のタイプAデュロメータ硬さがA50/Sを超える場合には、溶剤吸収体の柔軟性が不十分で、前記吸収層の表面をシリコーンブランケットの表面に隙間なく密着できないため、また吸収層自体の溶剤吸収量が少ないため、印刷を繰り返した際に、前記シリコーンブランケットの膨潤とそれに伴うインキの滲みにより線幅の増加方向への変動が大きくなることが判った。
【0077】
比較例3の結果から、シリコーンブランケットの表面より吸収層の表面の算術平均粗さRaが大きい場合には、溶剤吸収体の柔軟性が不十分で、前記吸収層の表面をシリコーンブランケットの表面に隙間なく密着できないため、印刷を繰り返した際に、前記シリコーンブランケットの膨潤とそれに伴うインキの滲みにより線幅の増加方向への変動が大きくなることが判った。
【0078】
比較例4の結果から、吸収層をシリコーンゴムまたはシリコーン樹脂以外の樹脂によって形成した場合には、離型剤としての低分子量のポリシロキサンの不足によるパイリングが発生することが判った。
比較例5の結果から、吸収層の表面の算術平均粗さRaが0.1μmを超える場合には、前記吸収層の表面をシリコーンブランケットの表面に隙間なく密着できないため、印刷を繰り返した際に、前記シリコーンブランケットの膨潤とそれに伴うインキの滲みにより線幅の増加方向への変動が大きくなることが判った。
【0079】
さらに比較例6の結果から、シリコーンゴムの表面の算術平均粗さRaが1μmを超える場合には、インキの滲みによる線幅の増加方向への変動が大きくなることが判った。
これに対し、実施例1〜12の結果から、シリコーンブランケットの表面の算術平均粗さRaを0.001μmを超え、1μm以下の範囲内、吸収層のタイプAデュロメータ硬さをA5/S以上、A50/S以下の範囲内、前記吸収層の表面の算術平均粗さRaを0.001μm以上、0.1μm以下の範囲内とし、かつ前記シリコーンブランケットの表面より吸収層の表面の算術平均粗さRaを小さくした場合には、印刷を繰り返しても、シリコーンブランケットの膨潤とそれに伴うインキの滲みや、離型剤の不足によるパイリング等を生じることなく、印刷初期から長期間に亘って印刷の精度を高いレベルに維持できることが判った。
【0080】
また実施例1〜12の結果から、シリコーンブランケットの表面の算術平均粗さRaは、前記範囲内でも0.005μm以上、0.1μm以下であるのが好ましく、吸収層のタイプAデュロメータ硬さは、前記範囲内でもA10/S以上、A30/S以下であるのが好ましく、前記吸収層の表面の算術平均粗さRaは、前記範囲内でも0.005μm以上、0.05μm以下であるのが好ましいことが判った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面をシリコーンゴムまたはシリコーン樹脂によって形成したシリコーンブランケットの前記表面に担持させたインキを被印刷体の表面に転写させて、前記被印刷体の表面に前記インキからなるパターンを印刷する印刷方法であって、前記シリコーンブランケットの表面に溶剤吸収体を接触させることにより、前記インキ中に含まれ、前記シリコーンブランケットに含浸される溶剤を前記溶剤吸収体によって吸収して除去する工程を含み、前記シリコーンブランケットおよび溶剤吸収体として、
(1) 前記表面の、粗さ曲線の算術平均粗さRaが0.001μmを超え、1μm以下であるシリコーンブランケットと、
(2) 少なくとも表面をシリコーンゴムまたはシリコーン樹脂によって形成した、タイプAデュロメータ硬さがA5/S以上、A50/S以下、前記表面の算術平均粗さRaが0.001μm以上、0.1μm以下で、かつ前記シリコーンブランケットの表面よりも前記算術平均粗さRaが小さい溶剤吸収体と、
を組み合わせて用いることを特徴とする印刷方法。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷方法に用いる溶剤吸収体であって、フィルム状またはシート状の基材と、前記基材の少なくとも片面に形成した、シリコーンゴムまたはシリコーン樹脂からなり、タイプAデュロメータ硬さがA5/S以上、A50/S以下、表面の算術平均粗さRaが0.001μm以上、0.1μm以下で、かつ、組み合わせて用いる、表面の算術平均粗さRaが0.001μm以上、1μm以下であるシリコーンブランケットよりも前記算術平均粗さRaが小さい吸収層とを備えることを特徴とする溶剤吸収体。
【請求項3】
ベルト状に形成されている請求項2に記載の溶剤吸収体。

【公開番号】特開2011−37020(P2011−37020A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183662(P2009−183662)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】