説明

印刷物の製造方法および印刷物

【課題】本発明が解決する第一の課題は凸版反転オフセット印刷法により印刷物を製造する際に支持体へのインキの供給方法を改善することで均一にインキを転写された印刷物を得ることである。また、本発明の第二の課題は、支持体上で積層材料表面がレベリングされ均一な膜となることで、その印刷特性を改善し平坦な薄膜を印刷によって付与された印刷物、特に発光ムラや画素欠陥のない有機EL素子を得ることである。
【解決手段】凸版反転オフセット印刷法により印刷物を印刷する際、ブランケットへのインキ供給手段としてアニロックス板もしくはアニロックスロールを使用する。さらに、ブランケットを構成するシリコーンゴムと、インキに含まれる溶剤との最適化を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凸版反転オフセット印刷法によって製造される印刷物にかかり、カラーフィルタ、バイオチップ、TFT基板、微細配線等、特に非常に薄い機能性薄膜の膜厚を均一に保って印刷するための方法に関するものである。なかでも情報表示端末などのディスプレイや面発光光源として幅広い用途が期待される有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子とする)の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報表示端末のディスプレイ用途として、大小の光学式表示装置が使用されるようになってきている。中でも、有機EL素子を用いた表示装置は、自発光型であるため応答速度が速く、消費電力が低いことから次世代のディスプレイとして注目されている。
有機EL素子は有機発光材料を含む発光層を、第一の電極と第二の電極で挟んだ単純な基本構造をしている。この電極間に電圧を印加し、一方の電極から注入されるホールと、他方の電極から注入される電子とが発光層内で再結合する際に生じる光を画像表示や光源として用いるというものである。
【0003】
効率よく発光させるには発光層の膜厚が重要であり、100〜1000nm程度の薄膜にする必要がある。さらに、これをディスプレイ化するには高精細にパターニングする必要がある。有機EL素子に用いられる有機発光材料には、低分子材料と高分子材料があり、一般に低分子材料は抵抗加熱蒸着法等により薄膜形成し、このときに微細パターンのマスクを用いてパターニングするが、この方法では基板が大型化すればするほどパターニング精度が出にくいという問題がある。
【0004】
最近では有機発光材料に高分子材料を用い、有機発光材料を溶媒に溶かして塗工液(インキ)にし、これをウェットコーティング法で薄膜形成する方法が試みられるようになってきている。薄膜形成するためのウェットコーティング法としては、スピンコート法、バーコート法、ディップコート法等があるが、高精細にパターニングしたりRGB3色に塗り分けしたりするにはこれらのウェットコーティング法では難しく、塗り分け、パターニングを得意とする印刷法による薄膜形成が最も有効であると考えられる。
【0005】
さらに、各種印刷法のなかでも、有機EL素子やカラーフィルタに代表される印刷物の場合は、被印刷基板としてガラス基板を用いることが多いため、ゴムブランケットを用いるオフセット印刷法や同じく弾性を有するゴム版や感光性樹脂版を用いる凸版印刷法が好適である。実際にこれらの印刷法による試みとして、オフセット印刷による方法(例えば特許文献1参照)、凸版印刷による方法(例えば特許文献2参照)などが提唱されている。
【0006】
オフセット印刷法には凹版オフセット印刷法や凸版反転オフセット印刷法と呼ばれるものがある。凹版オフセット印刷法と凸版反転オフセット印刷法はともに平滑なゴム層を印刷面に有するブランケットを用いてパターン化されたインキを被印刷基板上に転写するものであるが、インキをパターン化する工程が異なる。凹版オフセット印刷法はオフセット印刷法として広く知られているものであり、インキ供給手段から凹版にインキを供給し、凹版の凹部にインキを満たすことによりインキをパターン化する工程と、凹版の凹部にあるパターン化されたインキをブランケットに転写する工程と、ブランケットを被印刷基板に押圧し分離してブランケット上にあるインキパターンを被印刷基板に印刷する工程からなる。
【0007】
これに対して、凸版反転オフセット印刷法はインキ供給手段から支持体であるブランケットの有効面全面にインキを塗工して積層する工程と、凸部を非画線部とした凸刷版(除去版)の凸部とブランケット上の積層材料を接触・密着させたのち分離することで、ブランケット上の積層材料の不要部を除去しブランケット上に画線部を形成する工程と、ブランケットを被印刷基板(被転写体)に押圧し分離してブランケット上にある積層材料パターンを被印刷機板に転移することで印刷する工程からなる(特許文献3)。この凸版反転オフセット印刷法は、インキの塗布状態とインキの転移状態とを独立して制御できるため、インキ膜厚の均一性がよいこと、糸引き現象が発生しない良好な転移を低印圧で実現できることから、高精細で歪みの少ない画像を形成する上で有利な方法である。なお、凸版反転オフセット印刷法に用いられるブランケットの印刷面の用いられるゴム材料は印刷適性等を考慮するとシリコーンゴムが好適であり、シリコーンゴム層が最表層であるシリコーンブランケットが一般的である。
【0008】
この凸版反転オフセット印刷法によって有機発光層を形成する際に、インキ供給手段からシリコーンブランケットが具備するシリコーンゴム層上にインキ状の積層材料が供給されると、シリコーンゴム層によってインキ中の溶剤が吸収され積層材料は半乾燥状態となる。ここで溶剤が素早く吸収されることによってブランケット上でのインキハジキが抑制され、均一なインキ塗膜形成が達成される。
【0009】
有機EL素子が具備する有機発光媒体層、特に有機発光層においては、膜厚が非常に薄く(30nm〜100nm)、膜厚のばらつきが素子の発光の際に輝度ムラとして現れることから、シリコーンブランケット上に膜厚が均一で高平滑なインキ塗膜を形成する必要がある。そのインキ供給手段としてグラビアロールやキャップコーターが提案されている(特許文献4)
【特許文献1】特開2001−93668号公報
【特許文献2】特開2001−155858号公報
【特許文献3】特開2003−17248号公報
【特許文献4】特開2004−178915号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、キャップコータ法ではインキの供給速度を上げようとするとインキ塗布中にインキがとぎれたり、ブランケット上で筋状のムラが発生するために高速印刷には不適である。また、グラビアロールを用いただけではシリコーンブランケットへのインキ溶媒の吸収によりインキ塗膜のレベリングが起こらず、グラビアロールのセル形状がシリコーンブランケット上に残ってしまう。また、シリコーンブランケットへの吸収が遅い溶媒を用いた場合、インキハジキが起きやすく均一なインキ塗膜形成が達成できないという問題があった。
【0011】
したがって、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、本発明が解決する第一の課題は凸版反転オフセット印刷法により印刷物を製造する際に支持体へのインキの供給方法を改善することで均一にインキを転写された印刷物を得ることである。また、本発明の第二の課題は、支持体上で積層材料表面がレベリングされ均一な膜となることで、その印刷特性を改善し平坦な薄膜を印刷によって付与された印刷物、特に発光ムラや画素欠陥のない有機EL素子を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
課題を解決するための第一の発明は、1)支持体上にインキ状の積層材料を積層し、2)前記支持体上に積層材料を備えた転写体と、前記積層材料の不要部に対応する凸部を備えた凸刷版とを、前記積層材料と前記凸刷版の凸部とが対面するように接触させ、これを密着させて、前記転写体から、前記積層材料の不要部を除去することによって積層材料のパターニングを行い、3)前記支持体上にパターニング済みの積層材料を備えた転写体と、被転写体とを、前記積層材料と前記被転写体とが対面するように接触させ、これを密着させて、前記転写体から、前記パターニング済みの積層材料を前記被転写体上に転写する凸版反転オフセット印刷法によって製造される印刷物であって、前記支持体上にインキ状の積層材料を積層する手段はアニロックス板もしくはアニロックスロールを用いて行われることを特徴とする印刷物の製造方法である。
【0013】
課題を解決するための第二の課題は、前記インキ状の積層材料はその溶剤として、前記支持体に対し支持体材料浸漬試験後に試験片の重量増加率が70%以下となる低膨潤溶剤を1質量%以上50質量%以下含むものを用いることを特徴とする印刷物の製造方法である。
【0014】
課題を解決するための第三の発明は、前記インキ状の積層材料は有機発光材料または発光補助材料であることを特徴とする印刷物の製造方法である。
【0015】
課題を解決するための第四の発明は、請求項1乃至3記載の方法によって製造されたことを特徴とする印刷物である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、凸版反転オフセット印刷法により印刷物を製造する際に支持体へのインキの供給方法をアニロックス板もしくはアニロックスロールを用いたことで均一にインキを転写された印刷物を得ることができた。また、インキ状の積層材料を含む溶剤を凸版反転オフセット印刷法に用いる支持体に対し最適な範囲で選択することで、支持体上でのレベリングが進行し、平坦な薄膜を印刷によって付与された印刷物を得ることができた。本発明によれば膜厚が薄く、高精細なパターンであっても精度良く印刷することができた。また、印刷物が有機EL素子である場合には、発光ムラや画素欠陥のない有機EL素子を製造することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の製造方法で提供される印刷物は少なくとも被転写体となる基板(被印刷基板)上に凸版反転オフセット印刷法によって積層材料の薄膜がパターン状に積層されている。このような印刷物としては有機EL素子、カラーフィルタ、バイオチップ、薄膜トランジスタ(TFT)基板、プリント配線板に代表される微細配線基板が挙げられるが、ここでは有機EL素子を例に挙げて説明する。
【0018】
本発明の印刷物を代表する有機EL素子は、基板と、基板に支持されたパターン状の第一電極と、第一電極の上方に配置された有機発光媒体層と、有機発光媒体層の上方に配置された第二電極とを具備し、前記有機発光媒体層は少なくとも有機発光層を備え、さらに発光補助層を備えていてもよい。
【0019】
有機EL素子とはこの第一電極と第二電極に挟まれた有機発光層に直流電流を流すことで、一方から正孔(ホール)を、他方から電子を供給し、有機発光層での再結合によって生じる発光を画像表示や照明として利用する発光素子である。正孔や電子(電荷)の移動を補助する発光補助材料を含む層は発光補助層であり、発光補助層はその機能に応じて正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層等の名で呼ばれる。
【0020】
本発明では有機発光材料、発光補助材料等の積層材料をインキとして加工し、これを凸版反転オフセット印刷法により積層して有機発光層、発光補助層等を形成するものであり、特に支持体であるブランケットにインキを供給する手段としてアニロックス板もしくはアニロックスロールを使用することによって、ブランケットに均一にすばやくインキを供給できることから、均一にインキを転写された印刷物である有機EL素子等を高効率で得ることができる。
【0021】
また、積層材料をインキとして調整する際にシリコーンゴム浸漬試験後に試験片重量増加が70%以下でとなる低膨潤溶剤を1質量%以上50質量%以下用いたことで、支持体であるブランケットに適度に溶剤が吸収されインキハジキが抑制されるとともに、適度に吸収されずに残った溶剤の存在によって支持体上でインキ塗膜がレベリングされるため、これを転写することで膜厚が一定でインキ供給手段に由来する凹凸の残らない薄膜を印刷された印刷物となる。
【0022】
従って、印刷物全体で均一にインキを転写されているのでムラが無く、また膜厚が均一であるためパターン欠けやパターン不良によるムラや画素欠陥のない印刷物を効率よく得ることができる。これが有機EL素子である場合は、全体的・局所的な膜厚不均一による発光ムラやショートによる画素欠陥のない、高精細な有機EL素子を得ることができる。
【0023】
本発明による有機EL素子の一例を図1に基づいて説明する。
本発明における基板1としては、第一電極、有機発光媒体層、第二電極及び封止体を支持できる程度の強度がある基板であれば制限はなく、具体的にはガラス基板やプラスチック製のフィルムまたはシートを用いることができる。0.2mmから1mmの薄いガラス基板を用いれば、バリア性が非常に高い薄型の有機EL素子を作製することができる。
【0024】
また、可撓性のあるプラスチック製のフィルムを用いれば、巻き取りにより有機EL素子の製造が可能であり、安価に素子を提供することができる。プラスチックフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート等を用いることができる。また、第一電極2を積層しない側にセラミック蒸着フィルムやポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体鹸化物等の他のガスバリア性フィルムを積層すれば、よりバリア性が向上し、寿命の長い有機EL素子とすることができる。第一電極側から有機発光を取り出すいわゆるボトムエミッション型の有機EL素子とする場合には、透光性のある基板を選択することが好ましい。基板上に薄膜トランジスタと平坦化膜を積層し、コンタクトホールを介して上方の第一電極(画素電極)と導通を図れるようにしたアクティブマトリクス駆動対応のTFT基板を用いることもできる。
【0025】
基板1上に有機EL素子の画素に対応して第一電極2を形成する。有機EL素子がアクティブマトリクス駆動型である場合は画素毎に画素電極として、パッシブマトリクス駆動型である場合には画素に沿ってストライプ状に形成する。第一電極を構成する材料は導電性物質であればよく、具体的にはインジウムと錫の複合酸化物(以下ITOという)を好ましく用いることができる。前記基板1上に蒸着またはスパッタリング法により製膜することができる。また、オクチル酸インジウムやアセトンインジウムなどの前駆体を基板上に塗布後、熱分解により酸化物を形成する塗布熱分解法等により形成することもできる。あるいは、アルミニウム、金、銀等の金属が半透明状に蒸着されたものを用いることができる。あるいはポリアニリン等の有機半導体や導電性高分子を使用することもでき、フォトリソや印刷法によってパターニングすることができる。ボトムエミッションタイプである場合には透光性のある材料を選択する必要がある。また、第一電極を陽極として用いる場合には、正孔注入効率のよい、仕事関数の大きい材料を選択することが好ましい。なお、ここでは第一電極が陽極である場合について説明する。
【0026】
上記、第一電極2は、必要に応じてエッチングによりパターニングを行ったり、UV処理、プラズマ処理などにより表面の活性化を行ってもよい。
【0027】
本発明における有機発光媒体層3は、少なくとも有機発光層を備え、さらに発光補助層を備えていてもよい。発光補助層には正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層、正孔ブロック層、電子輸送層および電子注入層等が挙げられ、これらを複数組み合わせて、あるいは複数の機能を有する層を形成してもよい。各層の厚みは任意であるが好ましくは一層あたり10nm〜100nm、有機発光媒体層3全体としては100nm〜1000nmであることが好ましい。
【0028】
正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層とは、正孔輸送性及び/若しくは電子ブロック性を有する材料を有する層であり、陽極と有機発光層との間に設けられる。それぞれ陽極から有機発光層への正孔注入の障壁を下げる、陽極から注入された正孔を陰極の方向へ進める、正孔を通しながらも電子が陽極の方向へ進行するのを妨げる役割を担う層である。
これらの層に用いられる材料としては、一般に正孔輸送材料として用いられているものであれば良く、銅フタロシアニンやその誘導体、1,1―ビス(4―ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン、N,N’―ジフェニル―N,N’−ビス(3−メチルフェニル)―1,1’―ビフェニルー4,4’―ジアミン、N,N’―ジ(1―ナフチル)―N,N’―ジフェニルー1,1’―ビフェニルー4,4’―ジアミン等の芳香族アミン系などの低分子も用いることができるが、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、PVK誘導体、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との混合物等の高分子材料が成膜性の点から好ましい。また、ポリパラフェニレン(PPP)等のポリアリーレン系、ポリフェニレンビニレン(PPV)等のポリアリーレンビニレン系等の導電性高分子若しくはポリスチレン(PS)等の高分子に、アリールアミン類、カルバゾール誘導体、アリールスルフィド類、チオフェン誘導体、フタロシアニン誘導体等の低分子の正孔輸送性、電子ブロック性を示す材料を混合した物を用いても良い。
【0029】
有機発光層とは、発光性を有する材料を有する層である。有機発光層に用いる発光体としては、クマリン系、ペリレン系、ピラン系、アンスロン系、ポルフィレン系、キナクリドン系、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系、ナフタルイミド系、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系、イリジウム錯体系、白金錯体系、ユーロピウム錯体系等の低分子発光性色素を、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の高分子中に溶解させたものや、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系やポリフルオレン系等の高分子発光体を用いることができる。
【0030】
電子輸送層、正孔ブロック層とは電子輸送性及び/若しくは正孔ブロック性を有する材料を有する層であり、有機発光層と陰極との間に設けられる。それぞれ陰極から注入された電子を陽極の方向へ進める、電子を通しながらも正孔が陰極の方向へ進行するのを妨げる役割を担う層である。
これらの層に用いられる材料としては7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)誘導体の電荷移動錯体、シロール誘導体、アリールボロン誘導体、ビスフェナントロリン等のピリジン誘導体、パーフルオロ化されたオリゴフェニレン誘導体、オキサジアゾール誘導体等の低分子系のものを用いても良いが、成膜性の点から、電子輸送性ポリシラン、ポリシロール、含ボロンポリマー等の電子輸送性を有するものが好ましい。また、PPP等のポリアリーレン系、PPV等のポリアリーレンビニレン系等の導電性高分子若しくはポリスチレン等の高分子に、前述の電子輸送性若しくは正孔ブロック性を有する材料を混合した物を用いても良い。
【0031】
電子注入層とは電子注入性を有する材料を有する層であり、やはり有機発光層と陰極との間に設けられる。陰極から有機発光層への電子の注入障壁を下げる役割を担う層である。
この層に用いられる材料としては前述の電子輸送層に用いられるのと同様な材料の他に、フッ化リチウムや酸化リチウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属の塩や酸化物をPS等の高分子材料に混合した物を用いても良い。
【0032】
これら有機発光媒体層を構成する層は、材料に応じて、蒸着やコーティング法により基板及び基板に支持された第一電極の上方に積層することができる。例えば、これらの層に用いられる材料を溶解若しくは分散させるための溶剤としては、トルエン、キシレン、メシチレン等のベンゼン環に置換基を導入したものや、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチル、水等が挙げられる。これらの溶液には必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤等を添加してもよい。これらの層の形成には、スピンコート法、カーテンコート法、バーコート法、ワイヤーコート法、スリットコート法、凸版印刷法、凹版印刷法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法などのコーティング法若しくは印刷法により塗布できる。
【0033】
有機EL素子はその有機発光層または発光補助層を本発明の印刷物の製造方法に従って凸版反転オフセット印刷法により形成することができる。特に有機発光層はその膜厚にムラがあると発光ムラや画素欠陥により有機EL素子全体が不良品となってしまうため本発明の製造方法で印刷を行うことが好ましい。
凸版反転オフセット印刷法により形成する場合、積層材料となる有機発光材料または正孔輸送材料等の発光補助材料を、溶剤に分散・溶解してインキ状に調製して用いる。主溶剤としてはトルエン、キシレン、メシチレン等が、添加溶剤としてはアニソール、アセトン、シクロペンタノン、3,3’ージメチルビフェニル、1,3,5−トリイソプロピルベンゼン、1−フェニルナフタレン等を好ましく用いることができる。
【0034】
凸版反転オフセット印刷法では被転写体上に形成される積層材料の膜厚を均一に形成するために、支持体へのインキ供給方法を工夫するだけでなく、供給されたインキが支持体上で適度な濃度を保ちレベリングが行われる状態とすることが好ましい。本発明では、支持体であるブランケットの表面を形成するシリコーンブランケットゴムとインキに含まれる溶剤との関係を最適化することで、この状態を達成することができた。
【0035】
これには、シリコーンブランケットゴムの硬度と、インキに含まれる溶剤のhildebrandの溶解度パラメータを調整すればよく、支持体に対して好ましい溶剤を選定する具体的な方法としては下に示す支持体材料浸漬試験による。試験片としてJIS A硬度35のシリコーンゴム(GE東芝シリコーン社製、製品名TSE3032)を用いた場合の主要な溶剤に対する評価結果を表1に示す。
【0036】
なお、Hildebrandの溶解度パラメータは一般的に用いられている溶解度パラメータの一つで、例えばAllan F. Barton, Ph.D., ‘CRC HANDBOOK of SOLUBILITY PARAMETERS and OTHER COHESION PARAMETERS second edition’, CRC Press, 1991.に記載されている(ISBN 0−8493−0176−9)。主要な溶剤の溶解度パラメータも表1に示す。
【0037】
【表1】

※1 一部概算値
※2 TSE3032(GE東芝シリコーン社製)を各種溶媒に24時間浸漬した際の重量増加率
【0038】
<支持体材料浸漬試験>
まず、支持体表面を構成する材料と同じ材料を用い、50mm×50mm×2mmの試験片を10個用意し、各重量を測定する。
次いで、この試験片を試験対象となる溶剤中に浸漬し、25℃で24時間静置した。試験後の重量増加を100分率で評価し、重量増加率とした。
この試験により、重量増加率が70%以上であった溶剤をその試験片(支持体材料)に対しての高膨潤溶剤、70%未満であった溶剤を低膨潤溶剤と呼ぶ。
なお、ゴム硬度と溶剤に対する膨潤度合いとは関連があり、試験片としてはゴム硬度が同じであれば近い結果が得られる。表2に溶剤としてトルエンを用いて主要なシリコーンゴムについて評価を行った結果を示す。
【0039】
【表2】

※1 トルエンに24時間浸漬した際の重量増加率
【0040】
次に、印刷物を形成する際の凸版反転オフセット印刷法について示す。
図2に有機機能性薄膜の形成に用いることができる凸版反転オフセット印刷装置の一例を模式的に示した。凸版反転オフセット印刷装置は積層材料の支持体であるブランケットと、ブランケットにインキ状の積層材料を供給するインキ供給機構と、支持体上の積層材料から不要部を除去するための凸刷版とを備える。また、被転写体(被印刷基板)は転写体の下方のステージ上に配置され、印刷の進行に応じて送り出される。
【0041】
ブランケットはブランケット胴21とブランケット胴に巻きつけられ表面を構成するシリコーンブランケット22から構成されている。
インキ供給機構はインキタンク26とインキチャンバー27と支持体表面を構成するシリコーンブランケットにインキを渡すアニロックスロール28とで構成されている。アニロックスロールに渡されたインキは図示しないドクターブレードによって平坦にされる。
インキ供給機構からブランケット胴に設置したシリコーンブランケットの有効面にインキ状の積層材料23を塗布、乾燥させ塗膜を形成する(図2(a))。
【0042】
次いで、ブランケット胴21を回転させ、インキのネガパターン(非画線部)が形成された凸刷版24とシリコーンブランケット52を圧着させ、凸刷版を固定したステージをブランケット胴の回転に合わせ移動させる。このとき凸刷版の凸部24aに圧着した積層材料23bはブランケットから除去され凸刷版の凸部に転移し、ブランケット上には所望の積層材料のパターン23aが形成される(図2(b))。
【0043】
次に、ブランケット胴21を回転させ、被印刷基板25とシリコーンブランケット22を圧着させ、被印刷基板を固定したステージをブランケット胴の回転に合わせて移動させる。このとき、シリコーンブランケット上にあるパターニング済みの積層材料23aは被印刷基板に印刷される(図2(c))。
【0044】
ここではシリコーンブランケットにインキを供給する手段としてアニロックスロールを用いた例を示したが、平板状のアニロックス板であってもよい。アニロックス板およびアニロックスロールとしては、凸版印刷の一種であるフレキソ印刷を行う際に、フレキソ版にインキを供給するのに使用するアニロックス板もしくはアニロックスロールを使用することができる。
アニロックス板もしくはアニロックスロールを介して支持体上にインキ状の積層材料を供給することで、支持体上にまんべんなく均一にインキを供給することができる。従ってこれをパターニングし、被印刷基板上に積層することで、印刷物全体での厚みが均一な印刷物を得ることができる。
【0045】
ブランケットとしては、高い剥離性を有するものが良く、シリコーンゴムを最表層に有するものが好ましい。インキ状となった積層材料はシリコーンブランケットの最表面上でレベリングされるため、支持体浸漬試験によりインキに使用されている溶剤との最適化を図ることが好ましい。支持体浸漬試験の結果は試験片であるシリコーンゴムのゴム硬度にも大きく影響を受ける。
支持体上でのレベリングは、インキの主溶媒である高膨潤溶剤と添加溶媒である低膨潤溶媒との、支持体最表面に対する膨潤させ易さと支持体(ブランケット)への浸透し易さ(あるいは吸収され易さ)が適度につりあったときに達成されるため、支持体となるシリコーンゴムブランケットは膨潤しすぎても、しなさすぎても、あるいは溶剤を浸透し易すぎても、しなさ過ぎてもどちらかに極端に振れてしまいそれぞれの溶剤の性質の違いが発揮できない。そのため、支持体のゴム硬度はJIS Aにて20〜80°で有ることが好ましい。高膨潤溶剤と低膨潤溶剤との性質の違いが効果として現れるには20°〜50°の範囲が最も好ましい。あまりにゴム硬度が高い(90°以上)では、膨潤時のゆがみによる応力に耐え切れず割れが発生してしまう。
【0046】
有機発光媒体層形成後その上方に第二電極4を形成する。第二電極としては導電性を有する材料であればよいが、陰極として用いる場合にはMg、Al、Yb等の金属単体を用いたり、有機発光媒体層と接する界面にLiやLiF等の化合物を1nm程度はさんで、安定性・導電性の高いAlやCuを積層して用いる。または、電子注入効率と安定性を両立させるため、仕事関数の低い金属と安定な金属との合金系、例えばMgAg、AlLi、CuLi等の合金が使用できる。第二電極の形成方法は材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム法、スパッタリング法を用いることができる。第二電極の厚さは、10nmから1000nm程度が望ましい。第二電極側から光を取り出す、いわゆるトップエミッション構造とする場合には透光性を有する材料を選択することが好ましい。この場合、仕事関数が低いLi,Caを薄く設けた後に、ITO(インジウムスズ複合酸化物)やインジウム亜鉛複合酸化物、亜鉛アルミニウム複合酸化物などの金属複合酸化物を積層してもよく、前記有機発光媒体層4に、仕事関数が低いLi,Caなどの金属を少量ドーピングして、ITOなどの金属酸化物を積層してもよい。
【0047】
第二電極の上方に有機発光媒体層を外部環境から保護するために封止体を形成する。封止体は外部からの酸素や水分の浸入を防ぐ役目と、物理的な衝撃あるいは圧力から防ぐ役目とがある。例えば接着材を介してガラスや金属などのキャップで封止をしてもよいし、基板1が可とう性を有する場合、可とう性を保持するためにバリアフィルムを用いてもよい。封止体を用いる封止の代わりにあるいは併用して、例えばパッシベーション膜として、CVD法を用いて、窒化珪素膜を150nm成膜するなど、無機薄膜による封止を行うことができる。トップエミッション構造を取る場合には、封止体は透光性のものを選択する必要があることが言うまでもない。
以下、実施例により本発明を具体的に述べるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0048】
<支持体の形成>
TSE3032(A)(GE東芝シリコーン製2液型シリコーンゴム主剤)100重量部と、TSE3032(B)(GE東芝シリコーン製2液型シリコーンゴム硬化剤)10重量部とを混合し、シリコーンゴム組成物を得た。この組成物をPET基材上にナイフコーターを用い塗布し、70℃で2時間加熱し硬化反応をさせた。これにより、厚さ0.5mmのシリコーンゴム層を有するシリコーンブランケットを得た。
【0049】
<支持体材料浸漬試験>
試験片として50mm×50mm×2mm、JISA硬度35のシリコーンゴム(GE東芝シリコーン社製、製品名TSE3032)を10個用意した。平均重量は5.1gであった。
このシリコーンゴム試験片を試験対象となる溶剤中に浸漬し、25℃で24時間静置した。試験後の重量増加を100分率で評価し、重量増加率として表1に示した。
【0050】
<被印刷基板>
一方、ITO付きガラス基板を用意し、そのITOを所定のパターンにエッチングして透明な第一電極を備えた透光性の基板とした。次いで、エッチングした第一電極上に、正孔注入機能を有する発光補助材料としてポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との混合物をスピンコート法によりパターン上に印刷して厚さ50nmの発光補助層を設けた。このようにして、基板と第一電極と発光補助層とを有する被印刷基板を得た。
【0051】
<インキ状の積層材料の調整>
有機発光材料としてポリアリーレンビニレン系高分子発光体であるポリ(2−メトキシ−5−(2’−エチルヘキシロキシ)−1,4−フェニレンビニレン)を、トルエン80%とアニソール20%の混合溶剤に溶解し、インキ状積層材料である有機発光インキを得た。なお、支持体浸漬試験においてトルエンは高膨潤溶剤、アニソールは低膨潤溶剤であった。
【0052】
<印刷物の製造>
次に、支持体の形成で作製したシリコーンブランケットを直径5cmの円筒状のブランケット胴に巻き付けて支持体とし、コーティング速度100mm/secにて前述の有機発光インキをアニロックス板にて塗布した。
【0053】
コーティング速度を200mm/secまで上昇させたが、均一な有機発光インキ塗膜が形成された。
【0054】
支持体上の有機発光インキ塗膜を非画線部(不要部)が凸部になるようパターン形成されたガラス製の凸刷版の除去版の凸部側と対面させ、ブランケット胴ごとシリコーンブランケットを除去版に回転させながら圧着させた。除去版と支持体を引き離すと、凸部に密着していた有機発光インキ塗膜が除去版側に転移し、支持体上には画線部のみが残ることでパターニングが完了した。
【0055】
除去版に転移した有機発光インキ塗膜であるポリ(2−メトキシ−5−(2’−エチルヘキシロキシ)−1,4−フェニレンビニレン)をトルエンにより洗浄し回収した。
【0056】
支持体上に残った有機発光インキ塗膜パターンと被印刷基板とのアライメントを行い、支持体であるブランケット胴ごとシリコーンブランケット及びその表面の有機発光インキ塗膜パターンを被印刷基板と密着させ、圧力を加えた。その後ブランケットと被印刷基板を引き離すことでブランケット上の有機発光インキ塗膜パターンは被印刷基板の所定の位置に転写された。ブランケット胴を回転させることで被印刷基板に対し圧着と剥離を連続的に行った。こうして基板と第一電極と発光補助層とを有する被印刷基板上に有機発光層を形成し、加熱及び真空乾燥を行い、発光補助層と合わせて有機発光媒体層とした。
【0057】
こうして形成された有機発光媒体層の上に、リチウムおよびアルミニウムを真空蒸着によりそれぞれ0.5nm、200nm設けて、有機EL素子を得た。得られたEL素子に8Vの電圧を印可したところ、100cd/mのパターン化された発光を示した。
また、同様にして30枚の被印刷基板を用意し、同様に凸版反転オフセット印刷法により有機発光層の印刷を行ったが、同様の輝度が得られ、また素子全体でのムラや、ムラや抜けなどの画素の欠陥は見られなかった。
【実施例2】
【0058】
実施例1において、ブランケット胴のサイズを直径5cmから30cmにしたことおよびインキ供給手段がアニロックス板に替えてアニロックスロールとしたこと以外は、実施例1と同様の条件で、有機EL素子を作製した。
【0059】
シリコーンブランケットを直径30cmの円筒状のブランケット胴に巻き付け、コーティング速度100mm/secにて実施例1と同じ有機発光インキをアニロックスロールにて塗布した。
【0060】
コーティング速度を200mm/secまで上昇させたが、均一なインキ塗膜が形成された。
【0061】
得られたEL素子に8Vの電圧を印可したところ、100cd/mのパターン化された発光を示した。また、実施例1と同様30枚の被印刷基板を用意し、同様に凸版反転オフセット印刷法により有機発光層の印刷を行ったが、同様の輝度が得られ、また素子全体でのムラや、ムラや抜けなどの画素の欠陥は見られなかった。
【0062】
[比較例1]
実施例1において、有機発光インキの溶剤組成がトルエン100%であること以外は、実施例1と同様の条件で、印刷を行った。
【0063】
その結果、コーティング速度を3〜200mm/secの範囲内で変更しても、シリコーンブランケット上にアニロックス板のセル形状が残ってしまった。また、得られた有機EL素子に8Vの電圧を印可したところ、100cd/mのパターン化された発光を示したが、セル形状由来の菱形の発光ムラが観測された。
【0064】
[比較例2]
実施例1において、支持体へのインキ供給手段がキャップコーターであること以外は、実施例1と同様の条件で、印刷を行った。
【0065】
その結果、コーティング速度を50mm/sec以上にすると、シリコーンブランケット上に筋状のムラが発生し、所々に供給インキ量不足由来と考えられるインキとぎれが観測された。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明によって製造される印刷物の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の印刷物の製造工程を示す説明図である。
【符号の説明】
【0067】
1:基板 2:第一電極 3:有機発光媒体層 3a:発光補助層 3b:有機発光層
4:第二電極 5:封止体 10:有機EL素子 21:ブランケット胴 22:シリコーンブランケット 23:積層材料 23a:積層材料 23b:積層材料 23c:有機機能性薄膜 24:凸刷版 24a:凸部 25:被印刷基板 26:インキタンク 27:インキチャンバー 28:アニロックスロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)支持体上にインキ状の積層材料を積層し、
2)前記支持体上に積層材料を備えた転写体と、前記積層材料の不要部に対応する凸部を備えた凸刷版とを、前記積層材料と前記凸刷版の凸部とが対面するように接触させ、これを密着させて、前記転写体から、前記積層材料の不要部を除去することによって積層材料のパターニングを行い、
3)前記支持体上にパターニング済みの積層材料を備えた転写体と、被転写体とを、前記積層材料と前記被転写体とが対面するように接触させ、これを密着させて、前記転写体から、前記パターニング済みの積層材料を前記被転写体上に転写する凸版反転オフセット印刷法によって製造される印刷物であって、
前記支持体上にインキ状の積層材料を積層する手段はアニロックス板もしくはアニロックスロールを用いて行われることを特徴とする印刷物の製造方法。
【請求項2】
前記インキ状の積層材料はその溶剤として、前記支持体に対し支持体材料浸漬試験後に試験片の重量増加率が70%以下となる低膨潤溶剤を1質量%以上50質量%以下含むものを用いることを特徴とする印刷物の製造方法。
【請求項3】
前記インキ状の積層材料は有機発光材料または発光補助材料であることを特徴とする印刷物の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3記載の方法によって製造されたことを特徴とする印刷物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate