説明

印刷物の製造方法

【課題】 ポリエステル特有の質感を保持した模様を、下地の厚みを増すことなく、かつ下地との一体感を保ちつつ、下地にあしらうことを可能にする。
【解決手段】 転写シート21に分散染料23が印刷される。分散染料23は様々な模様、色合いを持ったものとして印刷することができる。次に、分散染料23が印刷された転写シート21が、ポリエステル11が印刷された木綿の下地1に重ね合わされ、熱を加えつつ押圧される。それにより、分散染料23が下地1のポリエステル11と選択的に反応することにより、ポリエステル11に転写される。分散染料23は木綿とは化学反応しないので、分散染料23は木綿の布地である下地1には転写されない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷物の製造方法に関し、特に、分散染料の熱転写技術を用いた印刷物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、木綿等の布地にポリエステル片を布糸で刺繍し、熱により昇華現象を生じるという分散染料の特性を利用して、刺繍された布地に分散染料を熱転写することにより、様々な色合い及び模様を有する刺繍を布地上にあしらう技術が、公用の技術として当業界において知られている。分散染料はポリエステル染色用に開発されたものであり、ポリエステルに対して選択的に反応する。この従来技術は、分散染料の選択性と昇華という特性とを利用したものであり、ポリエステル特有の質感を伴う模様を、一般の布地にあしらうことを可能にしている。
【0003】
しかし、この従来技術では、刺繍を要することから、布地の表面から刺繍の部分が浮き上がり、布地全体が分厚くなるという問題点があった。さらには、布地と模様のある刺繍の部分との一体感に欠けるという問題点があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、ポリエステル特有の質感を保持した模様を、下地表面から目立つほどに浮き上がることなく、かつ下地との一体感を保ちつつ、下地にあしらうことを可能にする印刷物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決し上記目的を達成するために、本発明のうち第1の態様に係るものは、印刷物の製造方法であって、分散染料に対して非反応性の下地を準備することと、ポリエステルを前記下地に印刷することと、ポリエステルが印刷された前記下地に分散染料を熱転写することと、を備えるものである。
【0006】
この構成によれば、下地は分散染料に対して非選択性であるから、ポリエステルが印刷された下地に分散染料を熱転写することにより、ポリエステルの部分のみが選択的に分散染料により染着される。ポリエステルは下地に印刷されたものであるから、下地表面から目立つほどに浮き上がることなく、しかもボリエステルの部分と下地との一体性も保たれる。すなわち、ポリエステル特有の質感を保持した模様を、下地表面から目立つほどに浮き上がることなく、かつ下地との一体感を保ちつつ、下地にあしらうことが可能となる。なお、下地は布地に限定されず、さらにはシート状のものにも限定されない。
【0007】
本発明のうち第2の態様に係るものは、第1の態様に係る印刷物の製造方法であって、前記ポリエステルを下地に印刷することが、ポリエステルフィルムの薄片をバインダーに混入したものを前記下地に印刷することを含むものである。
この構成によれば、安定した周知の印刷技術を利用することにより、ポリエステルを下地に印刷することができる。
【0008】
本発明のうち第3の態様に係るものは、第2の態様に係る印刷物の製造方法であって、前記ポリエステルフィルムの薄片が、金属が蒸着されたポリエステルフィルムの薄片であるものである。
この構成によれば、金属光沢のある模様を下地にあしらうことが可能となる。
【0009】
本発明のうち第4の態様に係るものは、第1ないし第3の何れかの態様に係る印刷物の製造方法であって、前記下地に分散染料を熱転写することは、転写シートに分散染料を印刷することと、前記転写シートを前記ポリエステルが印刷された前記下地に重ねた状態で、分散染料を熱圧着することと、を含むものである。
この構成によれば、ポリエステル繊維に分散染料を熱転写するためのものとして確立された印刷技術を用いることにより、下地に模様を容易に熱転写することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように本発明によれば、ポリエステル特有の質感を保持した模様を、下地表面から目立つほどに浮き上がることなく、かつ下地との一体感を保ちつつ、下地にあしらうことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施の形態による印刷物の製造方法の一工程として、印刷の対象とされる下地を準備する工程を例示する斜視図である。
【図2】本発明の一実施の形態による印刷物の製造方法の一工程として、下地にポリエステルを印刷する工程を例示する工程図である。
【図3】本発明の一実施の形態による印刷物の製造方法の一工程として、ポリエステルが印刷された下地に分散染料を熱転写する工程を例示する工程図である。
【図4】下地としての貼着シールに印刷が施された例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1〜図3は、本発明の一実施の形態による印刷物の製造方法の工程を例示する工程図である。この実施の形態の方法では、図1に示すように、印刷を施す対象としての下地1が準備される。本実施の形態では一例として、下地1は木綿の布地であるものとする。木綿の布地である下地1は、例えば、衣服を制作するのに十分な大きさのものである。あるいは、下地1は、衣服として縫製が完了したものであっても良い。
【0013】
次に、図2に示すように、下地1にポリエステルが印刷される。それには、まず図2(a)に示すように、ポリエステルフィルム3が準備される。続いて、図2(b)に示すように、ポリエステルフィルム3が微細な薄片5に切り出される。薄片5は、例えば0.001mmから3mmの範囲の大きさである。ポリエステルフィルム3には、アルミニウムなどの金属が蒸着されていても良い。この場合には、ポリエステルフィルム3に金属光沢が加わる。金属が蒸着された薄片5は、「グリッター」の名称で市販されている。
【0014】
次に、図2(c)に示すように、薄片5が容器9に収容され、バインダーと称される溶媒と混ぜ合わされる。バインダーは、例えば、ウレタン樹脂、水、ターペン(白灯油)などの混合物である。薄片5とバインダーとが混合されたものは、コロイド7となる。コロイド7を準備するための図2(a)〜図2(c)の工程は、図1の下地1を準備する工程の前、同時、後のいずれの時期に行われても良い。かかるコロイド7を得る方法それ自体は、従来周知であるため、その詳細な説明を略する。
【0015】
次に、図2(d)に示すように、薄片5を含むコロイド7を、下地1に印刷する。その結果、下地1の上にポリエステル11が、所望のパターンをもって印刷される。コロイド7を印刷するには、例えば、周知のシルクスクリーン印刷技術を用いることができる。
【0016】
次に、図3に示すように、ポリエステル11が印刷された下地1に分散染料が熱転写される。それには、まず図3(a)に示すように、転写シート21に分散染料23が印刷される。分散染料23は様々な模様、色合いを持ったものとして印刷することができる。転写シート21は、例えば転写紙と称される紙製のものである。転写シート21として、耐熱フィルム製のものを使用しても良い。転写シート21に分散染料23を印刷する技術そのものは、ポリエステル繊維を染めるための一工程として、従来周知であるので、その詳細な説明は略する。
【0017】
次に、分散染料23が印刷された転写シート21と、ポリエステル11が印刷された下地1とが重ね合わされ、熱を加えつつ押圧される。すなわち、熱圧着が行われる。熱圧着そのものも、ポリエステル繊維を染めるための一工程として、従来周知であるので、その詳細な説明は略する。重ね合わせは、転写シート21の分散染料23が印刷された面と、下地1のポリエステル11が印刷された面とが向き合い、接触するように行われる。熱圧着により、分散染料23は、下地1のポリエステル11と選択的に反応することにより、当該ポリエステル11に転写される。分散染料23は木綿とは化学反応しないので、分散染料23は木綿の布地である下地1には転写されない。
【0018】
以上のようにして、木綿の布地である下地1のうち、ポリエステル11が印刷された部分に、選択的に分散染料23が熱転写される。ポリエステル11は下地1に印刷されたものであるから、下地1の表面から目立つほどに浮き上がらない。このため下地1は、ポリエステル11によって分厚くならない。しかもポリエステルの刺繍を下地1にあしらったものとは異なり、ボリエステル11の部分と下地1とが一体的である。すなわち、ポリエステル特有の質感を保持した模様を、下地1の厚みを目立つほどに増すことなく、しかも下地1との一体感を保ちつつ、下地1にあしらうことができるのである。特に、ポリエステルフィルム3として、金属が蒸着されたものを用いることにより、ポリエステル11に金属光沢を加えることができる。
【0019】
(その他の実施の形態)
(1) 上記の実施の形態では、下地1は木綿の布地であったが、下地1は一般に木綿に限定されず、布地にも限定されない。例えば、下地1は紙、木材、金属、あるいは分散染料23と非反応性のプラスチックであっても良い。図4はその一例を示している。図4に示す下地31は紙であり、貼着シール33が下地31の上に貼付されている。貼着シール33は下地31から簡単にはがして、他のもの、例えば、衣服やバッグ、家屋の壁などに貼着することができるように、裏に接着剤が塗布されている。下地31の表面は、接着剤が塗布された貼着シール33が容易にはがれるような加工が施されている。図1〜図3に示した工程において、下地31を下地1として用いることにより、貼着シール33に、ポリエステル11を印刷し、さらに分散染料23を熱転写することができる。それにより、従来にない質感を伴う貼着シール33が得られる。貼着シール33は、分散染料23と非反応性のプラスチックシートであっても良い。
【0020】
(2) 上記の実施の形態では、下地1及び下地31は、いずれもシート状のものであった。これに対して、下地1として、携帯電話機の筐体、電気製品一般の筐体、自動車の外装・内装など、シート状のもの以外のものを選択することも可能である。
【0021】
(3) 上記の実施の形態では、分散染料23を下地1に印刷されたポリエステル11に熱転写するのに、転写シート21が用いられた。それにより、従来周知の容易な工程により、熱転写を行うことができた。これに対して、転写シート21を用いずに、分散染料23をポリエステル11に印刷することも可能である。例えば、インクジェット技術を用いることにより、分散染料23を、ポリエステル11が印刷された下地1に吹きつけ、その後にポリエステル11が印刷された下地1に熱を加えることにより、熱転写を行っても良い。
【0022】
(4) 上記の実施の形態では、ポリエステル11を下地1に印刷するのに、ポリエステルの薄片5がバインダーに混合されてなるコロイド7が用いられた。すなわち、従来周知の安定した技術が利用された。これに対して、ポリエステルの薄片5を用いることなく、ポリエステル11を下地1に印刷しても良い。例えば、ポリエステルの薄片5の代わりに、ポリエステル繊維を電着植毛(フロッキー加工)することにより、ポリエステル11を下地1に印刷しても良い。
【符号の説明】
【0023】
1、31 下地
3 ポリエステルフィルム
5 薄片
7 コロイド
9 容器
11 ポリエステル
21 転写シート
23 分散染料
33 貼着シール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散染料に対して非反応性の下地を準備することと、
ポリエステルを前記下地に印刷することと、
ポリエステルが印刷された前記下地に分散染料を熱転写することと、を備える印刷物の製造方法。
【請求項2】
前記ポリエステルを下地に印刷することは、ポリエステルフィルムの薄片をバインダーに混入したものを前記下地に印刷することを含む、請求項1に記載の印刷物の製造方法。
【請求項3】
前記ポリエステルフィルムの薄片は、金属が蒸着されたポリエステルフィルムの薄片である、請求項2に記載の印刷物の製造方法。
【請求項4】
前記下地に分散染料を熱転写することは、転写シートに分散染料を印刷することと、前記転写シートを前記ポリエステルが印刷された前記下地に重ねた状態で、分散染料を熱圧着することと、を含む請求項1ないし3の何れかに記載の印刷物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−23775(P2013−23775A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157254(P2011−157254)
【出願日】平成23年7月16日(2011.7.16)
【出願人】(511174845)株式会社ダイセン (1)
【Fターム(参考)】