説明

印刷装置、印刷装置に関する設定を行う設定方法

【課題】 走査に関する特性に起因する画質劣化を抑制することができるインタレース印刷技術を提供する。
【解決手段】 印刷ヘッドを駆動してラスタライン上のドットを形成する単位印刷と、印刷ヘッドを印刷媒体に対して相対的に移動させる走査とを繰り返して印刷を行う印刷装置の設定方法は、(a)走査に関する特性に関する特性情報を取得する工程と、(b)複数のラスタラインが走査の方向に印刷ヘッドのノズルピッチより小さいライン間隔で並ぶ解像度での印刷を行う際に用いられる印刷方式を、複数のラスタラインを印刷する順序が異なる複数種類の印刷方式の中から、特性情報に応じて設定する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インタレース印刷を行う印刷装置の画質劣化を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷媒体上にドットを形成して画像を印刷する印刷装置が広く使用されている。このような印刷装置において、互いに隣接する主走査ライン上に異なる主走査にてドットを形成するインタレース印刷が知られている。インタレース印刷では、副走査方向のドットピッチ(互いに隣接する主走査ラインのライン間隔)が副走査方向のノズルピッチより小さい解像度で印刷を行うことができる。また、同一の主走査ライン上のドットを複数回の主走査で形成することによって、バンディング等の画質劣化を抑制する技術(以下、シングリング印刷とも呼ぶ。)が知られている。
【0003】
特許文献1には、適切なシングリング印刷の方式を示す情報を記憶した記憶装置をロール紙の心材に搭載する技術が開示されている。印刷装置は、ロール紙にシングリング印刷を行う際に、記憶装置から情報を読み出して、そのロール紙に適したシングリング印刷の方式を認識する。この結果、印刷装置は、用紙種に応じて同一の主走査ライン上にドットを形成する主走査の回数を変更するなど、用紙種に適したシングリング印刷を実行することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−226002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術では、インタレース印刷については十分に考慮されていない。このために、インタレース印刷を行う場合には、用紙種の違い等による用紙の搬送特性に起因する画質劣化が生じる可能性があった。このような画質劣化は、用紙の搬送特性に限らず、印刷ヘッドを印刷媒体に対してラスタラインと交差する方向に相対的に移動させる走査の特性に起因して生じ得る問題であった。
【0006】
本発明の主な利点は、上記走査に関する特性に起因する画質劣化を抑制することができるインタレース印刷技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]印刷媒体にドットを形成することにより印刷を行う印刷装置であって、
第1の方向に沿って所定のノズルピッチで配置された複数のノズルであって同一色のドットを形成するための複数のノズルを有する印刷ヘッドと、前記印刷ヘッドを、前記印刷媒体に対して前記第1の方向に相対的に移動させる走査を行う走査部と、前記複数のノズルのうちの少なくとも一部を駆動して前記第1の方向と交差する第2の方向に沿ったラスタライン上のドットを形成させるヘッド駆動部と、前記各部を制御して、複数のラスタラインが第1の方向に前記ノズルピッチより小さいライン間隔で並ぶ解像度での印刷を行う印刷制御部であって、前記走査に関する特性に関する特性情報を取得する特性情報取得部と、複数のラスタラインを印刷する順序が異なる複数種類の印刷方式の中から、前記特性情報に応じて1つの印刷方式を選択する印刷方式選択部と、を有し、選択された前記印刷方式を用いて、前記解像度での印刷を行う、前記印刷制御部と、を備える印刷装置。
【0009】
上記構成によれば、第1の方向の解像度がノズルピッチより小さい印刷(いわゆるインタレース印刷)を行う際に、ラスタラインを印刷する順序が異なる複数種類の印刷方式の中から、走査に関する特性情報に応じて適切な印刷方式を選択することができる。この結果、走査に関する特性に起因して生じる画質劣化を抑制することができる。また、ラスタラインを印刷する順序を変更するだけであるので、印刷速度や解像度を犠牲にすることがない。
【0010】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、印刷装置の制御装置、印刷装置に関する設定を行う装置、システム、印刷方法、これらの方法、装置、システムの機能を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体、等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】複合機200および設定システム1000の構成を示すブロック図である。
【図2】プリンタ部250の概略構成を示す図である。
【図3】4パスの印刷方式について説明する図である。
【図4】8パスの印刷方式について説明する図である。
【図5】8パスの印刷方式について説明する図である。
【図6】印刷方式の設定処理の処理ステップを示すフローチャートである。
【図7】副走査特性の取得について説明する図である。
【図8】ライン間隔の最大値をシミュレートした結果を示すグラフである。
【図9】複合機200の印刷処理の処理ステップを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
A.第1実施例:
A−1.印刷装置の構成:
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づき説明する。図1は、第1実施例における複合機200および複合機200に関する設定を行う設定システム1000の構成を示すブロック図である。
【0013】
複合機200は、CPU210と、インクジェット式のプリンタ部250と、フラットベッド式のスキャナ部260と、パーソナルコンピュータなどの計算機あるいはUSBメモリなどの外部記憶装置と接続するためのインタフェースを含む通信部270と、操作パネルや各種のボタンを含む操作部280と、RAM、ROM、ハードディスクなどの記憶装置290を備えている。通信部270は、通信部270のインタフェースに接続された計算機や外部記憶装置との間でデータ通信を行う。
【0014】
記憶装置290には、制御プログラム291と、設定情報292とが格納されている。CPU210は、制御プログラム291を実行することにより、複合機200の制御部として機能する。図1では、複合機200の制御部としての機能部のうち、説明に必要な機能部を選択的に図示している。具体的には、CPU210は、プリンタ部250を制御して印刷を実行する印刷制御部M20として機能する。印刷制御部M20は、設定情報取得部M21と、印刷方式選択部M22とを備えている。設定情報取得部M21は、設定情報292(設定情報1(図1))を記憶装置290から取得する。印刷方式選択部M22は、設定情報292を参照して、インタレース印刷に用いる印刷方式を選択する。印刷制御部M20は、選択されたインタレース印刷を用いて印刷を実行する。
【0015】
さらに、印刷制御部M20は、図1に破線で示すように、媒体情報取得部M23と、設定処理部M24とを備えても良い。媒体情報取得部M23が行う処理については、第2実施例で、設定処理部M24が行う処理については、変形例で、それぞれ説明する。
【0016】
プリンタ部250は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の各インクを吐出して印刷を行う。プリンタ部250は、インク吐出機構220と主走査機構230と搬送機構240とを備えている。搬送機構240は、搬送モータ242と、該搬送モータ242を駆動する搬送モータ駆動部241と、ロータリエンコーダ243とを備え、搬送モータ242の動力で印刷媒体を搬送する。インク吐出機構220は、複数のノズル(後述)を有する印刷ヘッド222と、複数のノズルのうちの少なくとも一部を駆動するヘッド駆動部221とを備え、搬送機構240によって搬送される印刷媒体上にノズルからインクを吐出して画像を形成する。主走査機構230は、主走査モータ232と、該主走査モータ232を駆動する主走査モータ駆動部231とを備え、主走査モータ232の動力で印刷ヘッド222を主走査方向に往復動(主走査)させる。
【0017】
図2は、プリンタ部250の概略構成を示す図である。図2(a)は、プリンタ部250の全体構成の概略を示し、図2(b)は、図2(a)における下側から見た印刷ヘッド222の構成を示している。プリンタ部250は、さらに、印刷媒体としての用紙Pを収容するための用紙トレイ20a、20bと、印刷後の用紙Pが排出される排紙トレイ21と、印刷ヘッド222のインクを吐出する面と対向して配置されたプラテン40と、を備えている(図2(a))。
【0018】
搬送機構240は、用紙トレイ20a、20bから、プラテン40上を通り、排紙トレイ21に至る搬送経路に沿って、用紙Pを搬送する。矢印ARは、プラテン40上における用紙Pの搬送方向(図2(a)+X方向)を示している。以下、プラテン40上における用紙Pの搬送方向を、「搬送方向AR」と呼ぶ。用紙Pがプラテン40上を搬送方向ARに搬送されることにより、印刷ヘッド222は、用紙Pに対して搬送方向ARの反対方向に相対的に移動する。搬送方向ARの反対方向を、副走査方向とも呼び、印刷ヘッドを、用紙Pになどの印刷媒体に対して副走査方向に相対的に移動させることを、副走査とも呼ぶ。また、所定の方向の反対方向側を、当該方向の上流側とも呼び、所定の方向側を、当該方向の下流側とも呼ぶ。
【0019】
搬送機構240は、さらに、プラテン40から見て搬送方向ARの上流側に配置された上流側挟持部244と、プラテン40から見て搬送方向ARの下流側に配置された下流側挟持部245と、用紙トレイ20a、20bから上流側挟持部244に至る上流搬送経路248(図2(a):破線)上に用紙Pを搬送する上流搬送部(図示せず)とを備えている。上流側挟持部244は、搬送モータ242によって回転駆動される上流側搬送ローラ244aと、上流側従動ローラ244bと、を備え、これらのローラによって用紙Pを挟持して搬送方向ARに用紙Pを搬送する。下流側挟持部245は、搬送モータ242の動力によって回転駆動される下流側搬送ローラ245aと、下流側従動ローラ245bと、を備え、これらのローラによって用紙Pを挟持して搬送方向ARに用紙Pを搬送する。なお、各従動ローラ244b、245bに代えて、板部材を採用しても良い。
【0020】
上述したロータリエンコーダ243(図1)は、上流側搬送ローラ244aの回転量に応じてパルスを出力する回転量センサである。上述した搬送モータ駆動部241(図1)は、ロータリエンコーダ243が出力するパルスに基づいて、搬送モータ242を回転駆動することによって、用紙Pの搬送量を制御する。したがって、用紙Pの搬送量の精度は、ロータリエンコーダ243の分解能に依存する。
【0021】
主走査機構230は、さらに、印刷ヘッド222を搭載するキャリッジ233と、キャリッジ233を主走査方向(図2:Y軸方向)に沿って往復動可能に保持する摺動軸234と、を備えている。主走査機構230は、主走査モータ232の動力を用いて、キャリッジ233を摺動軸234に沿って往復動させる主走査を実行する。
【0022】
図2(b)に示すように、印刷ヘッド222のプラテン40と対向する面には、上述したC、M、Y、Kの各インクを吐出するノズル列NC、NM、NY、NKが形成されている。各ノズル列は、同一色のインクを吐出して用紙P上にドットを形成する複数のノズル(例えば、210個のノズル)をそれぞれ有している。各ノズルには、各ノズルを駆動してインクを吐出させるための駆動素子としてのピエゾ素子(図示せず)が設けられている。図2(b)に示すように、1つのノズル列に含まれる複数のノズルは、副走査方向にノズルピッチNで並んでいる。なお、複数のノズルは、図2(b)に示すように、直線状に並んでいる必要はなく、例えば、千鳥状に並んでいても良い。
【0023】
A−2:印刷方式:
次に、印刷制御部M20(図1)が実行可能な印刷方式について説明する。印刷制御部M20は、インク吐出機構220と、主走査機構230と、搬送機構240とを制御して、単位印刷と単位副走査とを交互に繰り返し実行することにより印刷を行う。単位印刷は、用紙Pをプラテン40上に停止した状態で、主走査を行いつつ、印刷ヘッド222のノズルを駆動することによって行われる印刷である。1回の単位印刷に対応する1回の主走査をパスとも呼ぶ。単位副走査は、所定の単位送り量Lだけ用紙Pを搬送方向ARに搬送することによって行われる。
【0024】
印刷制御部M20は、4パスについて2種類、8パスについて4種類の印刷方式を用いて、インタレース印刷を実行することができる。図3は、4パスの印刷方式について説明する図である。図3(a)は、4n+1の印刷方式を示し、図3(b)は、4n−1の印刷方式を示す。図4、5は、8パスの印刷方式について説明する図である。図4(a)、(b)は、それぞれ、8n+1、8n−1の印刷方式を示す。図5(a)、(b)は、それぞれ、8n+3、8n−3の印刷方式を示す。
【0025】
インタレース印刷によって、複数のラスタラインRLが副走査方向にノズルピッチNより小さなライン間隔(副走査方向のドットピッチ)Dで並ぶ解像度での印刷を行うことができる。ここで、ラスタラインRLは、主走査方向に並んだドットDTによって形成されるラインである。印刷画像は、副走査方向に並んだ複数のラスタラインRLによって形成される。ラスタ番号RNは、印刷画像を形成する各ラスタラインに、副走査方向の上流側から下流側に順次に付された番号である。以下では、ラスタ番号j(jは、自然数)のラスタラインRLをラスタラインRL(j)とも記述する。
【0026】
各図には、各パスにおけるノズルの副走査方向の位置が示されている。ここで、パス数kは、ノズルピッチN/ライン間隔Dで表される。すなわち、4パスは、使用するノズルのノズルピッチNの1/4のライン間隔Dで、8パスは、ノズルピッチNの1/8のライン間隔Dで、それぞれ印刷する印刷方式である。すなわち、8パスの印刷方式では、4パスの印刷方式と比べて、副走査方向の解像度を2倍にすることができる。また、個々のパスを特定するために、符号P(m)を用いる。ここで、mは、各パスが実行される順番を表すパス順である。各図に示す各ラスタライン上のドットDTに付された番号は、当該ラスタラインRL上のドットDTを形成するパスのパス順である。例えば、図3(a)に示すラスタラインRL(1)、RL(5)上のドットDTは、パスP(1)において形成され、ラスタラインRL(2)、RL(6)、RL(10)上のドットDTは、パスP(2)において形成される。
【0027】
各図には印刷可能範囲を示す水平線が図示されている。この水平線より副走査方向の上流側(各図の上側)では、全てのラスタラインRLを印刷することができないため、印刷は行われない。
【0028】
印刷方式の名称は、「kn+b」(nは、使用するノズル数に応じて定まる自然数、kは、k=N/Dで表される3以上のパス数、bは、−(1/2)k<b<(1/2)kである0を除く整数)で表されている。これは、使用するノズル数が(kn+b)個であり、単位送り量Lが、D×(k×n+b)である印刷方式であることを表している。例えば、図3(a)に示す4n+1の印刷方式は、4パスの印刷方式であり、例えば、201個のノズルを用いてライン間隔Dの201倍の単位送り量L(n=50の場合)で印刷を行う印刷方式である。また、図5(a)に示す8n+3の印刷方式は、8パスの印刷方式(従って、ライン間隔Dは、4パスの場合のライン間隔Dの半分である)であり、例えば、203個のノズルを用いてライン間隔Dの203倍の単位送り量L(n=25の場合)で印刷を行う印刷方式である。各図では、図の煩雑を避けるため、n=1の場合を図示している。ここで言う単位送り量Lは、印刷される全てのラスタラインのライン間隔を等しくする理想的な送り量であり、目標単位送り量Lとも呼ぶ。実際の単位送り量は、目標単位送り量Lに誤差ΔLを加えた値(L+ΔL)となる。また、ここでいうライン間隔Dは、目標単位送り量Lによって実現される理想的なライン間隔Dであり、目標ライン間隔Dとも呼ぶ。実際のライン間隔は、目標ライン間隔Dに誤差ΔDを加えた値(D+ΔD)となる。
【0029】
4n+1(図3(a))と、4n−1(図3(b))の印刷方式は、4パスの印刷方式である点で共通するが、印刷画像を構成する複数のラスタラインの印刷順序が互いに異なっている。具体的に、印刷画像の副走査方向の両端部を除いた領域を印刷するパスP(m)について説明する。インタレース印刷では、パスP(m)は、既に前回のパスP(m−1)で一部のラスタラインが印刷されている一部印刷済み領域において、ラスタラインを印刷すると共に、一部印刷済み領域より副走査方向下流側の領域において、ラスタラインを印刷する。4n+1では、パスP(m)は、一部印刷済み領域において、前回のパスP(m−1)にて印刷されたラスタラインの副走査方向下流側に隣接するラスタラインを印刷する。4n−1では、パスP(m)は、一部印刷済み領域において、前回のパスP(m−1)にて印刷されたラスタラインの副走査方向上流側に隣接するラスタラインを印刷する。
【0030】
8n+1(図4(a))と、8n−1(図4(b))と、8n+3(図5(a))と、8n−3(図5(b))の印刷方式は、8パスの印刷方式である点で共通するが、印刷画像を構成する複数のラスタラインの印刷順序が互いに異なっている。具体的には、8n+1では、パスP(m)は、一部印刷済み領域において、前回のパスP(m−1)にて印刷されたラスタラインの副走査方向下流側に隣接するラスタラインを印刷する。8n−1では、パスP(m)は、一部印刷済み領域において、前回のパスP(m−1)にて印刷されたラスタラインの副走査方向上流側に隣接するラスタラインを印刷する。8n+3では、パスP(m)は、一部印刷済み領域において、前回のパスP(m−1)にて印刷されたラスタラインから見て、3本だけ副走査方向下流側に位置するラスタラインを印刷する。8n−3では、パスP(m)は、一部印刷済み領域において、前回のパスP(m−1)にて印刷されたラスタラインから見て、3本だけ副走査方向上流側に位置するラスタラインを印刷する。
【0031】
A−3:設定装置および設定処理:
図1に示す設定システム1000は、設定装置300と、光学測定機400とを備えている。設定装置300は、CPU310と記憶装置320を備えた周知のコンピュータであり、複合機200および光学測定機400と接続されて用いられる。記憶装置320には、設定処理プログラム321が格納されている。CPU310は、設定処理プログラム321を実行することによって、設定処理部M30として機能する。設定処理部M30は、計測チャート印刷部M31と、チャート計測部M32と、統計処理部M33と、印刷方式決定部M34とを備えている。
【0032】
光学測定機400は、測定対象を拡大鏡を介してカメラで撮影して、撮影画像を解析することによって、測定対象、および、その構成物の寸法等を、高精度(例えば、0.1μm〜数μm単位の精度)で測定することができる測定機である(具体例として、ニコン社製:NEXIV VMR-H3030など)。
【0033】
図6は、印刷方式の設定処理の処理ステップを示すフローチャートである。図6において破線で囲まれたステップS100、S114は、第1実施例では省略される。この設定処理は、作業者の操作に応じて設定装置300の設定処理部M30が、複合機200に対して、プリンタ部250が用いる印刷方式を設定する処理である。この設定処理は、例えば、複合機200の製造工程において、複合機200を1台ずつ対象にして実行される。
【0034】
ステップS101〜ステップS103では、複合機200の副走査特性を表す特性情報の取得が行われる。図7は、副走査特性の取得について説明する図である。
【0035】
ステップS101では、計測チャート印刷部M31は、基準送り量Laを狙い値として、複合機200のプリンタ部250を用いて計測チャートを印刷する。具体的には、計測チャート印刷部M31は、計測チャートを印刷させる印刷データを、複合機200に供給する。この印刷データは、プリンタ部250に、印刷ヘッド222の複数のノズルのうちの1つを用いて、1回のパスで一本のラスタラインRLを印刷する単位印刷と、基準送り量Laの単位副走査と、を繰り返し行わせるデータである。基準送り量Laは、例えば、上述した6種類の印刷方式の目標単位送り量Lに近い送り量に設定される。本実施例では、上述した6種類の印刷方式の単位送り量Lが、ノズルピッチNの200倍程度であるので、例えば、基準送り量Laは、200×Nに設定される。
【0036】
図7(a)には、計測チャートの印刷結果が示されている。計測チャート500は、用紙P上に印刷された複数のラスタラインRLを含む。これらのラスタラインRLは、副走査方向に並んで印刷される。
【0037】
ステップS102では、チャート計測部M32は、光学測定機400を用いて、計測チャートの複数のラスタラインRLのライン間隔Dm(図7)を全て測定する。図7(b)〜(e)には、測定されたライン間隔Dmを、用紙P上の位置に対してプロットしたグラフの一例が示されている。このライン間隔Dmは、計測チャートを印刷した際に実行された単位副走査の実際の送り量に相当する。以下では、ライン間隔Dmの測定結果を、測定送り量Lmとも呼ぶ。
【0038】
ステップS103では、統計処理部M33は、測定されたライン間隔Dmに基づいて、測定送り量の平均値(平均測定送り量)Lmaveを算出する。ステップS104では、統計処理部M33は、測定されたライン間隔Dmに基づいて、信頼率95%の予測区間(下側値Lb<Lm<上側値Lu)を算出する。測定送り量Lmのサンプル数をNとし、分散をVとし、t分布(スチューデント分布)をt(自由度、危険率)とすると、下側値Lbおよび上側値Luは、それぞれ、以下の式(1)、(2)で表される。
【数1】

なお、平均測定送り量Lmaveおよび予測区間を算出する際には、測定されたライン間隔Dmのうち、用紙Pが上流側挟持部244および下流側挟持部245の両方で挟持された状態(両持ち状態)で印刷されたラスタラインRLについてのライン間隔Dmのみが用いられる。すなわち、測定されたライン間隔Dmのうち、用紙Pが上流側挟持部244および下流側挟持部245のいずれか一方で挟持された状態(片持ち状態)で印刷されたラスタラインRLについてのライン間隔Dmは除外される。具体的には、図7(a)、(b)に示す用紙上の所定位置Tfと所定位置Trの間に印刷されたラスタラインRLについてのライン間隔Dmのみが用いられる。この結果、印刷時の大半を占める両持ち状態における副走査特性を精度良く取得することができる。
【0039】
予測区間は、測定したデータに基づいて、新たに測定するデータがどの範囲の値となるかを予測した区間である。予測区間を算出することによって、基準送り量Laを狙い値として印刷を行う場合に、実際の送り量が収まる範囲を予測することができる。
【0040】
ステップS105では、印刷方式決定部M34は、平均測定送り量Lmaveが基準送り量Laより大きいか否かを判断する。印刷方式決定部M34は、平均測定送り量Lmaveが基準送り量Laより大きい場合には(ステップS105:YES)、4パスの印刷方式を、4n+1に決定する(ステップS106)。印刷方式決定部M34は、平均測定送り量Lmaveが基準送り量La以下である場合には(ステップS105:NO)、4パスの印刷方式を、4n−1に決定する(ステップS107)。
【0041】
ステップS108では、印刷方式決定部M34は、予測区間の下側値Lbが基準送り量Laより大きいか否かを判断する。印刷方式決定部M34は、予測区間の下側値Lbが基準送り量Laより大きい場合には(ステップS108:YES)、8パスの印刷方式を、8n+1に決定する(ステップS109)。印刷方式決定部M34は、予測区間の下側値Lbが基準送り量La以下である場合には(ステップS108:NO)、8パスの印刷方式を、8n+3に決定する(ステップS110)。
【0042】
ステップS111では、印刷方式決定部M34は、予測区間の上側値Luが基準送り量Laより小さいか否かを判断する。印刷方式決定部M34は、予測区間の上側値Luが基準送り量Laより小さい場合には(ステップS111:YES)、8パスの印刷方式を、8n−1に決定する(ステップS112)。印刷方式決定部M34は、予測区間の上側値Luが基準送り量La以上である場合には(ステップS111:NO)、8パスの印刷方式を、8n−3に決定する(ステップS113)。
【0043】
ステップS115では、設定処理部M30は、決定された印刷方式を記述した設定情報292(図1)を作成して、複合機200の記憶装置290に格納する。ステップS114が終了すると、印刷方式の設定処理は終了される。第1実施例の設定処理において生成・格納される設定情報は、例えば、4パス、8パスのそれぞれについて、決定された印刷方式が記述された情報となる(図1:設定情報1)。
【0044】
図7(b)には、平均測定送り量Lmaveが基準送り量Laより大きく、かつ、予測区間の下側値Lbが基準送り量La以下である場合の副走査特性の例を示している。このような副走査特性の場合に、目標単位送り量Lを狙い値として印刷を実行すると、実際の単位送り量は、平均的に見れば目標単位送り量Lより大きい傾向にあるが、バラツキによって目標単位送り量Lより小さくなる場合もあると考えられる。このような副走査特性の場合には、上述した設定処理において、4パスの印刷方式は4n+1に決定され、8パスの印刷方式は8n+3に決定される。
【0045】
図7(c)には、予測区間の下側値Lbが基準送り量Laより大きい場合の副走査特性の例を示している。このような副走査特性の場合に、目標単位送り量Lを狙い値として印刷を実行すると、実際の単位送り量は、ほぼ確実に目標単位送り量Lより大きくなると考えられる。このような副走査特性の場合には、上述した設定処理において、4パスの印刷方式は4n+1に決定され、8パスの印刷方式は8n+1に決定される。
【0046】
図7(d)には、平均測定送り量Lmaveが基準送り量La以下であり、かつ、予測区間の上側値Luが基準送り量La以上である場合の副走査特性の例を示している。このような副走査特性の場合に、目標単位送り量Lを狙い値として印刷を実行すると、実際の単位送り量は、平均的に見れば目標単位送り量Lより小さい傾向にあるが、バラツキによって目標単位送り量Lより大きくなる場合もあると考えられる。このような副走査特性の場合には、上述した設定処理において、4パスの印刷方式は4n−1に決定され、8パスの印刷方式は8n−3に決定される。
【0047】
図7(e)には、予測区間の上側値Luが基準送り量Laより小さい場合の副走査特性の例を示している。このような副走査特性の場合に、目標単位送り量Lを狙い値として印刷を実行すると、実際の単位送り量は、ほぼ確実に目標単位送り量Lより小さくなると考えられる。このような副走査特性の場合には、上述した設定処理において、4パスの印刷方式は4n−1に決定され、8パスの印刷方式は8n−1に決定される。
【0048】
このような基準で、印刷方式を決定する理由を以下に説明する。
【0049】
A−4:各印刷方式における単位送り量の誤差と白筋との関係:
上述したラスタ番号RN(図3〜図5参照)がsであるラスタラインRL(s)を印刷するパスのパス順をPN(s)とし、ラスタラインRL(s)の副走査方向下流側に隣接するラスタラインRL(s+1)を印刷するパスのパス順をPN(s+1)とする。2本のラスタラインRL(s)とRL(s+1)とのパス順差ΔPN(s)を、ΔPN(s)=PN(s+1)−PN(s)と定義する。ΔPN(s)は、0ではない整数値となる。ΔPN(s)=「2」は、ラスタラインRL(s)を印刷するパスの2回後のパスでラスタラインRL(s+1)が印刷されることを表す。また、ΔPN(s)=「−2」は、ラスタラインRL(s)を印刷するパスの2回前のパスでラスタラインRL(s+1)が印刷されることを表す。
【0050】
パス順差ΔPN(s)は、2本のラスタラインRL(s)とRL(s+1)とのライン間隔の誤差ΔD(s)を評価する指標となる。ライン間隔の誤差ΔD(s)が大きいほど、実際のライン間隔が目標ライン間隔Dより広くなり、白筋が発生しやすくなる。実際の各単位送り量が目標単位送り量Lより誤差ΔLだけ大きい場合には、ライン間隔の誤差ΔD(s)は、以下の式(1)で表される。
ΔD(s)=ΔPN(s)×ΔL...(1)
【0051】
上記式(1)は、パス順差ΔPN(s)の絶対値の回数分だけ、送り量の誤差ΔLが積算されて、ライン間隔の誤差ΔD(s)となって現れることを意味している。すなわち、パス順差ΔPN(s)の絶対値が大きいと、ライン間隔の誤差ΔD(s)の絶対値が大きくなる。また、パス順差ΔPN(s)が正の値である場合には、送り量の誤差ΔLが正である場合に、実際のライン間隔が目標ライン間隔Dより広くなる。逆に、パス順差ΔPN(s)が負の値である場合には、送り量の誤差ΔLが負である場合に、実際のライン間隔が目標ライン間隔Dより広くなる。したがって、送り量の誤差ΔLが正である場合、すなわち、実際の単位送り量が設計上の単位送り量Lより大きい場合には、パス順差ΔPN(s)が正であり、かつ、その絶対値が大きいほど、そのパス順差ΔPN(s)に対応する2本のラスタラインの間に白筋が生じやすい。送り量の誤差ΔLが負である場合、すなわち、実際の単位送り量が設計上の単位送り量Lより小さい場合には、パス順差ΔPN(s)が負であり、かつ、その絶対値が大きいほど、そのパス順差ΔPN(s)に対応する2本のラスタラインの間に白筋が生じやすい。
【0052】
ここで、印刷画像に含まれる全ての隣接するラスタラインの組のパス順差ΔPN(s)のうち、絶対値が最大となるパス順差を最大パス順差と呼ぶ。これらのパス順差ΔPN(s)のうちの正であるパス順差の中で絶対値が最大となるパス順差を最大正パス順差と呼ぶ。また、これらのパス順差ΔPN(s)のうちの負であるパス順差ΔPN(s)の中で絶対値が最大となるパス順差を最大負パス順差と呼ぶ。
【0053】
以上の説明に基づいて、以下のことが解る。
1.最大正パス順差の絶対値が小さい印刷方式ほど、送り量の誤差ΔLが正である場合に白筋が生じにくい。
2.最大負パス順差の絶対値が小さい印刷方式ほど、送り量の誤差ΔLが負である場合に白筋が生じにくい。
3.最大パス順差の絶対値が小さい印刷方式ほど、正負の両方の送り量の誤差ΔLが発生し得る場合に白筋が生じにくい。
【0054】
以上を踏まえて、図3に示した4パスの2種類の印刷方式について検討する。
4n+1(図3(a))の場合には、パス順差ΔPN(s)は、「−3」または「1」のいずれかの値を取る。例えば、ラスタラインRL(4)とRL(5)とのパス順差ΔPN(4)は、「−3」である(図3(a):破線c1参照)。また、ラスタラインRL(2)とRL(3)のパス順差ΔPN(2)は、「1」である(図3(a):破線c2参照)。したがって、4n+1の最大パス順差および最大負パス順差は、「−3」であり、最大正パス順差は、「1」である。
【0055】
4n−1(図3(b))の場合には、パス順差ΔPN(s)は、「3」または「−1」のいずれかの値を取る。例えば、ラスタラインRL(3)とRL(4)とのパス順差ΔPN(3)は、「3」である(図3(b):破線c1参照)。ラスタラインRL(4)とRL(5)のパス順差ΔPN(4)は、「−1」である(図3(b):破線c2参照)。したがって、4n−1の最大パス順差および最大正パス順差は、「3」であり、最大負パス順差は、「−1」である。
【0056】
4n+1の最大正パス順差は、4n−1の最大正パス順差より絶対値が小さい。したがって、4n+1は、4n−1と比較して、送り量の誤差ΔLが正である場合、すなわち、実際の単位送り量が目標単位送り量Lより大きくなる場合に、白筋が生じにくい。4n−1の最大負パス順差は、4n+1の最大負パス順差より絶対値が小さい。したがって、4n−1は、4n+1と比較して、送り量の誤差ΔLが負である場合、すなわち、実際の単位送り量が目標単位送り量Lより小さくなる場合に、白筋が生じにくい。
【0057】
以上の説明から、実際の単位送り量が目標単位送り量Lより大きくなる可能性が高い場合には、4パスの印刷方式として4n+1を用いることが好ましく、実際の単位送り量が目標単位送り量Lより小さくなる可能性が高い場合には、4パスの印刷方式として4n−1を用いることが好ましいことが解る。
【0058】
次に、図4、5に示した8パスの4種類の印刷方式について検討する。
8n+1(図4(a))の場合には、パス順差ΔPN(s)は、「−7」または「1」のいずれかの値を取る。例えば、ラスタラインRL(8)とRL(9)とのパス順差ΔPN(8)は、「−7」である(図4(a):破線c1参照)。また、ラスタラインRL(10)とRL(11)のパス順差ΔPN(10)は、「1」である(図4(a):破線c2参照)。したがって、8n+1の最大パス順差および最大負パス順差は、「−7」であり、最大正パス順差は、「1」である。
【0059】
8n−1(図4(b))の場合には、パス順差ΔPN(s)は、「7」または「−1」のいずれかの値を取る。例えば、ラスタラインRL(7)とRL(8)とのパス順差ΔPN(7)は、「7」である(図4(b):破線c1参照)。また、ラスタラインRL(10)とRL(11)のパス順差ΔPN(10)は、「−1」である(図4(b):破線c2参照)。したがって、8n−1の最大パス順差および最大正パス順差は、「7」であり、最大負パス順差は、「−1」である。
【0060】
8n+3(図5(a))の場合には、パス順差ΔPN(s)は、「−5」または「3」のいずれかの値を取る。例えば、ラスタラインRL(2)とRL(3)とのパス順差ΔPN(2)は、「−5」である(図5(a):破線c1参照)。また、ラスタラインRL(4)とRL(5)のパス順差ΔPN(4)は、「3」である(図5(a):破線c2参照)。したがって、8n+3の最大パス順差および最大負パス順差は、「−5」であり、最大正パス順差は、「3」である。
【0061】
8n−3(図5(b))の場合には、パス順差ΔPN(s)は、「5」または「−3」のいずれかの値を取る。例えば、ラスタラインRL(5)とRL(6)とのパス順差ΔPN(5)は、「5」である(図5(b):破線c1参照)。また、ラスタラインRL(6)とRL(7)のパス順差ΔPN(6)は、「−3」である(図5(b):破線c2参照)。したがって、8n−3の最大パス順差および最大正パス順差は、「5」であり、最大負パス順差は、「−3」である。
【0062】
最大正パス順差の絶対値を各印刷方式で比較すると、8n+1<8n+3<8n−3<8n−1である。したがって、送り量の誤差ΔLが正である場合には、白筋が生じにくい順に、8n+1、8n+3、8n−3、8n−1である。
【0063】
最大負パス順差の絶対値を各印刷方式で比較すると、8n−1<8n−3<8n+3<8n+1である。したがって、送り量の誤差ΔLが負である場合には、白筋が生じにくい順に、8n−1、8n−3、8n+3、8n+1である。
【0064】
最大パス順差の絶対値を各印刷方式で比較すると、8n−3=8n+3<8n−1=8n+1である。したがって、正負の送り量の誤差ΔLが生じ得る場合には、8n−3および8n+3は、8n−1および8n+1と比較して白筋が生じにくい。
【0065】
以上の説明から、正負の送り量の誤差ΔLが生じ得る可能性がある場合には、8n+3または8n−3を、8n+1および8n−1より優先して用いることが好ましい。そして、8n+3と8n−3との比較では、送り量の誤差ΔLが正となる可能性が高い場合には、8n+3を用いることが好ましく、送り量の誤差ΔLが負となる可能性が高い場合には、8n−3を用いることが好ましい。さらには、送り量の誤差ΔLがほぼ確実に正となると判断できる場合には、8n+1を用いることが好ましく、送り量の誤差ΔLがほぼ確実に負となると判断できる場合には、8n−1を用いることが好ましい。
【0066】
図8は、上述した計測チャート500を測定して得られた副走査特性のデータに基づいて、8パスの各印刷方式を用いて印刷した場合におけるライン間隔の最大値をシミュレートした結果を示すグラフである。このシミュレーションでは、実際の単位送り量が、各印刷方式の目標単位送り量Lからずれた場合におけるライン間隔の最大値の変化を算出した。図8では、各印刷方式の目標単位送り量Lを、横軸上の同じ位置(図10の符号Lで示す位置)に合わせて、この位置からのずれ量に応じたライン間隔の最大値の変化をプロットしている。ライン間隔の最大値が大きいほど、白筋が発生しやすく、ライン間隔の最大値が小さいほど、白筋が発生しにくい。このシミュレーションでは、目標単位送り量Lより送り量が大きい領域(誤差ΔLが正である領域)では、ライン間隔の最大値が、8n−1>8n−3>8n+3>8n+1の順になっている。そして、目標単位送り量Lより送り量が小さい領域(誤差ΔLが負である領域)では、ライン間隔の最大値が、逆に、8n−1<8n−3<8n+3<8n+1の順になっている。また、8n−3および8n+3は、目標単位送り量Lの前後において、ライン間隔の最大値の変動が小さく、ライン間隔の最大値が8n−1および8n+1より小さくなっている。すなわち、シミュレーションによっても、上述した説明を裏付ける結果が得られた。
【0067】
本実施例の設定処理によれば、複数種類の印刷方式の中から、副走査特性に応じて適切な印刷方式を決定することにより、複合機200によってインタレース印刷が行われる際に、印刷画像において白筋の発生による画質劣化を抑制することができる。
【0068】
さらに、上記設定処理では、予測区間を算出して印刷方式を決定する判断基準として用いている。この結果、8n−3と8n−1との間、および、8n+3と8n+1との間で、いずれの印刷方式を用いるかの判断を、予測区間を用いて適切に行うことができる。
【0069】
さらに、上記設定処理では、複合機200を用いて印刷された計測チャート500を用いて副走査特性を表す特性情報を生成するので、個々の複合機200ごとに異なる副走査特性を容易に取得することができる。
【0070】
また、上記設定処理では、印刷ヘッド222が有する複数のノズルのうちの1つのノズルを用いて1つのラスタラインを印刷する単位印刷と、基準送り量Laでの副走査とを繰り返して、複数のラスタラインRLを含む計測チャート500を印刷している。そして、計測チャート500における複数のラスタラインRLの間隔に基づいて副走査特性を表す特性情報を生成するので、ラスタラインRLのライン間隔に基づいて、個々の複合機200ごとに異なる副走査特性を精度良く生成することができる。
【0071】
また、上記設定処理によって、設定情報292(設定情報1(図1))が格納された複合機200は、当該設定情報292を参照することにより、複合機200固有の副走査特性に応じた適切な印刷方式を選択することができる。
【0072】
B.第2実施例:
図1を参照して、第2実施例における複合機200の構成を説明する。第2実施例における複合機200の印刷制御部M20は、第1実施例における複合機200の印刷制御部M20が備える各機能部に加えて、媒体情報取得部M23を備えている。媒体情報取得部M23が行う処理については後述する。第2実施例における複合機200の設定情報292は、図1に設定情報2として示す内容を含む。第2実施例における複合機200のその他の構成は、第1実施例における複合機200の構成と同一である。
【0073】
図6を参照して、第2実施例における設定処理について説明する。第2実施例における設定処理は、第1実施例における設定処理の処理ステップに加えて、図6において破線で囲んだ処理ステップS100およびS114とを備えている。処理ステップS100では、設定装置300の設定処理部M30は、選択対象である複数種類の用紙種の中から、1つの用紙種を選択する。ステップS114では、設定処理部M30は、選択対象である全ての用紙種が上述したステップS100において選択済みであるか否かを判断する。設定処理部M30は、全ての用紙種が選択済みである場合には(ステップS114:YES)、ステップS115に処理を移行する。設定処理部M30は、全ての用紙種が選択済みでない場合には(ステップS114:NO)、ステップS100に戻って選択済みでない用紙種を選択する。このように、第2実施例では、設定処理部M30は、用紙種ごとに、上述したステップS101〜ステップS113までの処理をそれぞれ実行する。この結果、用紙種ごとに、4パスおよび8パスのインタレース印刷を行う際に、複合機200が用いる印刷方式がそれぞれ記述された設定情報292(設定情報2(図2))が作成される。
【0074】
図9は、第2実施例における複合機200の印刷処理の処理ステップを示すフローチャートである。この印刷処理は、複合機200の印刷制御部M20が、インタレース印刷を行うための印刷ジョブを受け付けた場合に実行される。
【0075】
ステップS200では、印刷制御部M20の媒体情報取得部M23は、印刷に用いる用紙種を特定するための用紙種情報を取得する。印刷制御部M20は、取得された用紙種情報に基づいて、印刷に用いる用紙種を特定する。用紙種情報は、例えば、操作部280を介してユーザから受け付けられる用紙種の指示情報であっても良く、例えば、複合機200の用紙トレイ20a、20bに備えられた用紙種検出センサの検出信号であっても良い。用紙種検出センサは、例えば、用紙の表面の光の反射特性に基づいて光学的に用紙種を検出するセンサが用いられ得る。
【0076】
ステップS201では、印刷制御部M20は、副走査方向の印刷解像度、すなわち、インタレース印刷のパス数を特定する。この特定は、例えば、印刷ジョブに含まれるプリントコマンドを参照することによって行われる。ステップS202では、印刷制御部M20の設定情報取得部M21は、設定情報292を取得・参照して、ステップS200にて特定された用紙種が設定情報292に存在するか否かを判断する。用紙種が設定情報292に存在する場合には(ステップS202:YES)、印刷制御部M20の印刷方式選択部M22は、設定情報292に基づいて、用紙種とパス数の組み合わせに対応付けられた印刷方式を選択する(ステップS204)。用紙種が設定情報292に存在しない場合には(ステップS202:NO)、印刷方式選択部M22は、パス数ごとに定められたデフォルトの印刷方式を選択する(ステップS203)。ここで、8パスのデフォルトの印刷方式は、8n+1または8n−1ではなく、8n+3または8n−3のいずれかに設定されている。つまり、8n+1または8n−1より、8n+3または8n−3が優先して選択されるように構成されている。
【0077】
ステップS205では、印刷制御部M20は、選択された印刷方式を用いて、印刷ジョブに従ったインタレース印刷を実行する。インタレース印刷が終了すると、印刷処理は終了される。
【0078】
以上説明した第2実施例の設定処理によれば、印刷に用いられる用紙種ごとに、それぞれ副走査特性を表す特性情報を生成して、当該特性情報に応じて、設定情報292を作成する。この結果、複合機200ごとに、かつ、用紙種ごとに異なり得る副走査特性に応じて、適切な印刷方式を設定することができる。
【0079】
また、第2実施例の複合機200によれば、インタレース印刷に用いる用紙種を特定するための用紙種情報を取得して用紙種を特定することができる。そして、特定された用紙種ごとに、用いるべき印刷方式が対応付けられた対応情報としての設定情報292を参照して、印刷方式を選択する。この結果、用紙種ごとに異なり得る副走査特性に応じて、適切な印刷方式を用いてインタレース印刷を実行することができる。例えば、副走査特性は、用紙の表面の摩擦係数の影響などにより変動し得る。
【0080】
さらに、第2実施例の複合機200によれば、特定した用紙種が設定情報292に存在しない場合には、8n+3または8n−3を、8n+1および8n−1よりも優先して選択する。上述したように、8n+3、8n−3は、正負のいずれの送り量の誤差ΔLが生じた場合であっても、比較的、白筋が発生しにくい。一方、8n+1、8n−1は、正負のうち、いずれか一方の送り量の誤差ΔLが生じた場合には白筋が発生しにくいが、他の一方の送り量の誤差ΔLが生じた場合には白筋が発生しやすい。このために、副走査特性が不明な用紙種に対しては、8n+3または8n−3を採用することによって、白筋の発生を抑制することができる。
【0081】
以上の説明から解るように、上記各実施例において、8n+1、8n+3、4n+1の印刷方式は、請求項における第1種の印刷方式の例であり、8n−1、8n−3、4n−1の印刷方式は、請求項における第2種の印刷方式の例である。上記第1実施例において、測定送り量Lmの測定結果は、請求項における特性情報の例であり、上記第2実施例において用紙種情報は、請求項における特性情報の例である。上記第1実施例において、計測チャート500は、請求項における特定画像の例である。
【0082】
C.変形例:
この発明は上記実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。
【0083】
(1)上記実施例における複合機200は、単機能の印刷装置であっても良い。また、プリンタ部250は、主走査を伴わない印刷装置、いわゆるラインプリンタであっても良い。プリンタ部250の搬送機構240は、用紙を固定した状態で、用紙上を印刷ヘッドが副走査方向に移動する機構であっても良い。
【0084】
(2)上記実施例における設定処理(図6)は、複合機200の製造工程に限らず、複合機200のユーザによって定期的に実行されても良い。こうすれば、複合機200の経年変化に伴う複合機200の副走査特性の変化に応じて、適切な印刷方式を決定することができる。この場合には、設定装置300は、インターネットを介して複合機200がアクセス可能なサーバとして構成され得る。例えば、複合機200は、設定装置300から計測チャート500の印刷データを受信し、計測チャート500を印刷する。複合機200の利用者は、設定装置300の管理者に計測チャート500を郵送する。設定装置300は、計測チャート500に基づいて作成された設定情報292を複合機200に対して送信する。あるいは、図1において、設定処理部M24として示すように、設定装置300における設定処理部M30と同様の機能部を、複合機200が備えても良い。この場合は、例えば、計測チャート500の測定は、複合機200のスキャナ部260を用いて実行されても良い。
【0085】
(3)上記実施例における6種類の印刷方式は、インタレース印刷の印刷方式の一例であり、他のあらゆる種類の印刷方式が用いられても良い。この場合には、実施例で説明した手法によりその印刷方式における副走査特性と白筋の発生との関係を評価し、適切な印刷方式を選択すれば良い。例えば、目標単位送り量が、D×(k×n+b)(Dは、目標ライン間隔、nは、使用するノズル数に応じて定まる自然数、kは、k=N/Dで表される3以上のパス数、bは、−(1/2)k<b<(1/2)kである0を除く整数)で表される複数種類の均等送りの印刷方式が採用される場合には、実際の送り量が目標単位送り量より統計的に大きい傾向である場合には、bの値が正である印刷方式が優先して選択され、実際の送り量が目標単位送り量より統計的に小さい傾向である場合には、bの値が負である印刷方式が優先して選択されても良い。また、実際の送り量の目標単位送り量に対する誤差の程度が特定基準より小さい場合には、bの絶対値が大きい印刷方式が優先して選択され、誤差の程度が特定基準より大きい場合には、bの絶対値が小さい印刷方式が選択されても良い。
【0086】
(4)上記実施例では、実際の送り量が目標単位送り量より統計的に大きい傾向であるか否かの判断は、平均測定送り量Lmaveと基準送り量Laとの比較によって判断されているが、他の判断基準、例えば、測定送り量Lmの中間値と基準送り量Laとの比較などが採用され得る。
【0087】
(5)上記実施例では、8n+3と8n+1のうち、いずれの印刷方式を採用するかの判断、および、8n−3と8n−1のうち、いずれの印刷方式を採用するかの判断は、予測区間を用いて判断されているが、他の特定基準、例えば、信頼区間などが採用され得る。この特定基準には、統計的に見て実際の送り量が特定確率より高い確率で、目標単位送り量より大きくなること、または、目標単位送り量より小さくなることを、含むことが好ましい。
【0088】
(6)搬送途中で走査に関する特性情報が変わる場合には、その特性情報の切り替わりに応じて、印刷方式を切り替えてもよい。例えば、用紙Pは、上流側挟持部244と下流側挟持部255とに挟持された状態における搬送速度と、下流側挟持部255のみに挟持された状態における搬送速度とが異なる。例えば、4パスの場合、用紙Pが上流側挟持部244と下流側挟持部255とに挟持されて搬送される状態では、4n−1の印刷方式で印刷を行い、用紙Pが上流側挟持部244から離れた場合、すなわち、下流側挟持部255のみで搬送される場合では、4n+1の印刷方式で印刷を行ってもよい。
【0089】
(7)上記実施例において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、逆に、ソフトウェアによって実現されていた構成の一部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0090】
200...複合機、220...インク吐出機構、221...ヘッド駆動部、222...印刷ヘッド、230...主走査機構、240...搬送機構、250...プリンタ部、260...スキャナ部、270...通信部、280...操作部、290...記憶装置、291...制御プログラム、300...設定装置、400...光学測定機、500...計測チャート、1000...設定システム、M20...印刷制御部、M21...設定情報取得部、M22...印刷方式選択部、M23...媒体情報取得部、M24...設定処理部、M30...設定処理部、M31...計測チャート印刷部、M32...チャート計測部、M33...統計処理部、M34...印刷方式決定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷媒体にドットを形成することにより印刷を行う印刷装置であって、
第1の方向に沿って所定のノズルピッチで配置された複数のノズルであって同一色のドットを形成するための複数のノズルを有する印刷ヘッドと、
前記印刷ヘッドを、前記印刷媒体に対して前記第1の方向に相対的に移動させる走査を行う走査部と、
前記複数のノズルのうちの少なくとも一部を駆動して前記第1の方向と交差する第2の方向に沿ったラスタライン上のドットを形成させるヘッド駆動部と、
前記各部を制御して、複数のラスタラインが第1の方向に前記ノズルピッチより小さいライン間隔で並ぶ解像度での印刷を行う印刷制御部であって、
前記走査に関する特性に関する特性情報を取得する特性情報取得部と、
複数のラスタラインを印刷する順序が異なる複数種類の印刷方式の中から、前記特性情報に応じて1つの印刷方式を選択する印刷方式選択部と、
を有し、選択された前記印刷方式を用いて、前記解像度での印刷を行う、前記印刷制御部と、
を備える印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷装置であって、
前記各印刷方式において、前記ライン間隔をDとし、前記ノズルピッチをNとするとき、前記複数のラスタラインのライン間隔を等しくする前記走査の目標単位送り量は、D×(k×n+b)(nは、使用するノズル数に応じて定まる自然数、kは、k=N/Dで表される3以上のパス数、bは、−(1/2)k<b<(1/2)kである0を除く整数)で表され、
複数種類の前記印刷方式は、前記bの値が正である第1種の印刷方式と、前記bの値が負である第2種の印刷方式とを含み、
前記特性は、実際の送り量の前記目標単位送り量に対する誤差を含み、
前記印刷方式選択部は、前記実際の送り量が前記目標単位送り量より統計的に大きい傾向である場合には、前記第1種の印刷方式を選択し、前記実際の送り量が前記目標単位送り量より統計的に小さい傾向である場合には、前記第2種の印刷方式を選択する、印刷装置。
【請求項3】
請求項2に記載の印刷装置であって、
前記第1種の印刷方式および前記第2種の印刷方式は、前記bの絶対値が異なる複数の印刷方式を含み、
前記印刷方式選択部は、さらに、前記実際の送り量の前記目標単位送り量に対する誤差の程度が特定基準より小さい場合には、前記bの絶対値が大きい印刷方式を選択し、前記誤差の程度が前記特定基準より大きい場合には、前記bの絶対値が小さい印刷方式を選択する、印刷装置。
【請求項4】
請求項3に記載の印刷装置であって、
前記特定基準は、統計的に見て前記実際の送り量が特定確率より高い確率で前記目標単位送り量より大きくなること、または、統計的に見て前記実際の送り量が特定確率より高い確率で前記目標単位送り量より小さくなること、を含む、印刷装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の印刷装置であって、
前記走査部は、前記印刷媒体を前記第1の方向の反対方向に搬送する搬送部であり、
前記特性は、前記印刷媒体の種類に応じて異なる前記搬送部の特性を含む、印刷装置。
【請求項6】
請求項5に記載の印刷装置であって、
前記特性情報取得部は、前記印刷媒体の種類を特定するための媒体情報を取得する媒体情報取得部を含み、
前記印刷装置は、さらに、前記印刷媒体の種類と、少なくとも1つの前記印刷方式とを対応付けた対応情報を取得する対応情報取得部を備え、
前記印刷方式選択部は、前記対応情報において、前記媒体情報によって特定された印刷媒体の種類に対応付けられた印刷方式を選択する、印刷装置。
【請求項7】
印刷ヘッドを駆動してラスタライン上のドットを形成する単位印刷と、前記ラスタラインと交差する方向に前記印刷ヘッドを印刷媒体に対して相対的に移動させる走査とを繰り返して印刷を行う印刷装置に関する設定を行う設定方法であって、
前記印刷ヘッドは、前記走査の方向に沿って所定のノズルピッチで配置された複数のノズルであって同一色のドットを形成するための前記複数のノズルを有し、
前記設定方法は、
(a)前記走査に関する特性に関する特性情報を取得する工程と、
(b)複数のラスタラインが前記走査の方向に前記ノズルピッチより小さいライン間隔で並ぶ解像度での印刷を行う際に用いられる印刷方式を、複数のラスタラインを印刷する順序が異なる複数種類の印刷方式の中から、前記特性情報に応じて設定する工程と、
を備える設定方法。
【請求項8】
請求項7に記載の設定方法であって、
前記(a)工程は、
(a−1)前記印刷装置を用いて特定画像を印刷する工程と、
(a−2)前記印刷された特定画像を用いて前記特性情報を生成する工程と、
を含む、設定方法。
【請求項9】
請求項8に記載の設定方法であって、
前記(a−1)工程は、前記印刷ヘッドが有する複数のノズルのうちの1つのノズルを用いて1つのラスタラインを印刷する前記単位印刷と、所定送り量での前記走査と、を繰り返して、複数のラスタラインを含む前記特定画像を印刷する工程を含み、
前記(a−2)工程は、前記特定画像における前記複数のラスタラインの間隔に基づいて前記特性情報を生成する工程を含む、設定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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