説明

印刷装置および印刷システム

【課題】第三者へのパスワードの漏洩の可能性が低い印刷装置および印刷システムを提供すること。
【解決手段】プリンタ100は,印刷データを記憶し,その印刷データ用のパスワードの発行指示を操作パネル40への入力操作によって受け付ける。そして,プリンタ100は,その発行指示を受け付けたことを契機に,その印刷データ用のパスワードを作成する。そして,プリンタ100は,作成したパスワードをその印刷データに対応する送信先(例えば,モバイル装置400)に送信する。また,プリンタ100は,パスワードの送信後,ユーザからのパスワードの入力を受け付け,入力されたパスワードと送信したパスワードとが一致した場合にそのパスワードに対応する印刷データの印刷を開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,印刷装置および印刷システムに関する。さらに詳細には,印刷データを印刷装置に記憶し,ユーザ入力を受け付けたことを条件にその印刷データを印刷する印刷装置および印刷システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から,PCや携帯電話等の端末装置から印刷装置に印刷データを送信し,印刷装置はその印刷データを記憶して待機し,その後,ユーザが印刷装置に対してその印刷データの印刷指示を行ったことを契機に印刷を開始するリモート印刷技術がある。近年,公衆無線LANサービスの普及により,前述のようなリモート印刷技術が広く利用されており,例えば,駅,空港等の公共施設の印刷装置に印刷データを事前に送信しておくことで,ユーザは現地で印刷物を手に入れることができる。
【0003】
前述のリモート印刷技術では,第三者が印刷装置を操作することも考えられることから,機密性の低下が問題になる。そこで,例えば特許文献1には,印刷データを受信した印刷装置がパスワードを作成すること,また,そのパスワードを印刷データの送信元の装置に通知すること,また,ユーザが入力したパスワードの認証を行ったことを契機に,そのパスワードに対応する印刷データの印刷を開始することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−196481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら,前記した従来のリモート印刷技術には,次のような問題があった。すなわち,特許文献1の技術では,ユーザが印刷データの送信元の装置でパスワードを確認した後,そのユーザが印刷装置まで移動してパスワードの入力操作を行うまでの間に時間がかかる場合がある。そのため,特許文献1の技術では,パスワードが第三者に漏洩する可能性があり,機密性に更なる改善の余地がある。
【0006】
本発明は,前記した従来のリモート印刷技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,第三者へのパスワードの漏洩の可能性が低い印刷装置および印刷システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題の解決を目的としてなされた印刷装置は,印刷データを記憶する記憶部と,ユーザによる入力操作を受け付ける操作部と,前記印刷データに対応するパスワードを発行するための発行指示を,前記操作部への入力操作によって受け付ける受付部と,前記パスワードを作成する作成部と,前記印刷データに対応する送信先を取得する取得部と,前記受付部が前記発行指示を受け付けたことを条件として,前記作成部が作成したパスワードを,前記取得部にて取得した送信先に送信する送信部と,パスワードのユーザ入力を受け付ける入力部と,前記入力部が受け付けたパスワードと前記送信部が送信したパスワードとが一致するか否かを判断する判断部と,前記判断部にてパスワードが一致すると判断した場合に,当該パスワードに対応する印刷データの印刷を開始する印刷部とを備えることを特徴としている。
【0008】
本発明の印刷装置は,印刷データを記憶部に記憶し,操作部への入力操作によってその印刷データ用のパスワードの発行指示を受け付けたことを契機に,その印刷データ用のパスワードを作成する。そして,本発明の印刷装置は,作成したパスワードをその印刷データに対応する送信先に送信する。本発明の印刷装置は,パスワードの送信後,パスワードのユーザ入力を受け付け,入力されたパスワードと送信したパスワードとが一致した場合にそのパスワードに対応する印刷データの印刷を開始する。
【0009】
すなわち,本発明の印刷装置では,ユーザが操作部を操作したことを条件に,印刷データのパスワードがその印刷データに対応する送信先(例えば,印刷データのユーザが所有するモバイル装置)に送信される。この構成では,ユーザが送信先の装置を所有した状態で発行指示を行うと,ユーザは印刷装置の近くでパスワードを受け取ることになる。このことから,パスワード取得からパスワード入力までの時間の短縮が期待できる。よって,第三者へのパスワードの漏洩の可能性が低くなることが期待できる。
【0010】
また,前記取得部は,送信先を複数取得し,前記送信部は,複数ある送信先のうち,少なくとも1つに前記パスワードを送信するとよい。複数の送信先を取得することで,複数の送信先にパスワードが送信可能となり,印刷データの所有ユーザがパスワードを受け取り易くなる。なお,送信部は,複数の送信先全てに送信してもよいし,一部の送信先のみに送信してもよい。
【0011】
また,本発明の印刷装置は,前記印刷データの機密度が高いか否かを判断する機密判断部を備え,前記送信部は,前記機密判断部にて機密度が高いと判断された場合に,前記機密判断部にて機密度が高くないと判断された場合と比較して,送信先の数が少ないとよい。印刷データの機密度が高い場合,送信先の数を少なくすることで,第三者がパスワードを受信する可能性を低減することができる。なお,機密度の高低は,例えば印刷データのプロパティによって判断できる。また,印刷データの種類(例えば,セキュア印刷用の印刷データであれば機密度が高い)によっても判断できる。
【0012】
また,前記送信部は,複数ある送信先のうち,1つの送信先に前記パスワードを送信し,その送信が失敗した場合に,他の送信先に前記パスワードを送信するとよい。1つの送信先への送信が失敗しても他の送信先にリトライすることから,パスワードの受信が成功する確率が高く,印刷データの所有ユーザが印刷できない状況に陥る可能性が低くなる。また,1つの送信先への送信の失敗を条件として他の送信先に送信する態様とすれば,パスワードを受信する送信先は1つであり,複数の送信先に一斉送信する態様と比較して,第三者がパスワードを取得する可能性が低くなる。
【0013】
また,本発明の印刷装置は,前記送信先となる通信装置が,自装置から所定の範囲内に位置するか否かを判断する位置判断部と,前記位置判断部にて前記通信装置が前記所定の範囲内に位置していないと判断された場合に,前記送信部による前記パスワードの送信を禁止する第1送信禁止部とを備えるとよい。送信先となる装置が印刷装置から離れた位置にある場合には,パスワードの取得からパスワードの入力までの時間短縮が期待し難い。そのため,パスワードの送信を禁止し,印刷データの機密性を高める方が好ましい。
【0014】
また,本発明の印刷装置は,前記送信部による前記パスワードの送信を許可する時間帯を決定する決定部と,前記決定部にて決定された時間帯外には,前記送信部による前記パスワードの送信を禁止する第2送信禁止部とを備えるとよい。勤務時間外等,印刷データの所有ユーザが印刷指示する可能性が低い時間帯においては,パスワードの送信を禁止し,印刷データの機密性を高める方が好ましい。なお,パスワードの送信を許可する時間帯は,印刷装置に設定された全印刷データに有効な時間帯であってもよいし,所有ユーザごとあるいは印刷データごとに設定された時間帯であってもよい。
【0015】
また,本発明の印刷装置は,前記送信部にて前記パスワードを送信してからの経過時間が所定時間以上か否かを判断する時間判断部と,前記時間判断部にて前記経過時間が前記所定時間以上と判断された場合に,前記印刷部による前記パスワードに対応する印刷データの印刷を禁止する第1印刷禁止部とを備えるとよい。パスワードを長期間有効にすると,漏洩のリスクが高くなる。そのため,パスワードの送信から所定時間経過した後は,そのパスワードを失効させ,印刷を禁止する方が望ましい。なお,所定時間は,印刷装置に設定され,全てのパスワードに共通な時間であってもよいし,パスワードごとに設定された時間であってもよい。
【0016】
また,本発明の印刷装置は,前記送信部から前記パスワードが送信された場合,前記パスワードを送信したことを,前記パスワードに対応する印刷データを前記記憶部に記憶させた記憶元装置に対応する宛先に通知する通知部を備えるとよい。印刷データの記憶元装置に対応する宛先にパスワードの送信を通知することで,例えば,第三者による発行指示があった場合に,その事実を印刷データの所有ユーザが把握できる可能性が高まる。
【0017】
また,本発明の印刷装置は,前記通知部による通知後,送信された前記パスワードに対応する印刷データの印刷を許可するか否かの命令を,前記記憶元装置から受け付ける命令受付部と,前記命令受付部にて印刷を許可しない命令を受け付けた場合に,前記印刷部による前記印刷データの印刷を禁止する第2印刷禁止部とを備えるとよい。通知先の記憶元装置では,印刷装置からの通知を受け,そのパスワードに対応する印刷データの印刷を許可するか否かを決定し,その決定内容を印刷装置に送信する。印刷装置では,その決定内容が不許可であった場合にその印刷データの印刷を禁止する。これにより,仮に第三者がパスワードを受信できる装置を有していたとしても,その印刷データの印刷を禁止することができる。そのため,印刷データの機密性が高まる。
【0018】
また,本発明の印刷装置は,前記送信部による前記パスワードの送信を条件として,前記パスワードに対応する印刷データの展開を開始する展開部を備えるとよい。パスワードが送信された印刷データは,近々,印刷が開始される可能性が高い。そのため,パスワードが送信された後は印刷データの展開を開始することで,印刷開始時間を早めることができる。
【0019】
また,本発明は,印刷データを記憶する記憶部と,前記印刷データに対応するパスワードを発行するための発行指示を,外部装置からの出力によって受け付ける受付部と,前記パスワードを作成する作成部と,前記印刷データに対応する送信先を取得する取得部と,前記受付部が前記発行指示を受け付けたことを条件として,前記作成部が作成したパスワードを,前記取得部にて取得した送信先に送信する送信部と,前記外部装置が自装置から所定の範囲内に位置するか否かを判断し,前記所定の範囲内に位置しないと判断した場合に,前記作成部による前記パスワードの作成と,前記送信部による前記パスワードの送信との,少なくとも一方を禁止する禁止部と,パスワードのユーザ入力を受け付ける入力部と,前記入力部が受け付けたパスワードと前記送信部が送信したパスワードとが一致するか否かを判断する判断部と,前記判断部にてパスワードが一致すると判断された場合に,当該パスワードに対応する印刷データの印刷を開始する印刷部とを備えることを特徴とする印刷装置を含んでいる。
【0020】
また,本発明は,印刷データを記憶する記憶部と,ユーザによる入力操作を受け付ける操作部と,前記印刷データに対応するパスワードを発行するための発行指示を,前記印刷装置の前記操作部への入力操作によって受け付ける受付部とを備え,前記印刷データに対するパスワードと,ユーザ入力によるパスワードとが一致したことを条件に,前記印刷データを印刷する印刷装置を有する印刷システムであって,前記パスワードを作成する作成部と,前記印刷データに対応する送信先を取得する取得部と,前記印刷装置の前記受付部が前記発行指示を受け付けたことを条件として,前記作成部が作成したパスワードを,前記取得部にて取得した送信先に送信する送信部とを備えることを特徴とする印刷システムを含んでいる。作成部,取得部,および送信部は,印刷装置が具備してもよいし,印刷装置以外の装置が具備してもよい。
【0021】
また,本発明は,印刷データを記憶する記憶部を備え,前記印刷データに対するパスワードとユーザ入力によるパスワードとが一致したことを条件に,前記印刷データを印刷する印刷装置と,前記印刷装置に前記印刷データに対するパスワードを発行するための発行指示を入力する外部装置とを有する印刷システムであって,前記パスワードを作成する作成部と,前記印刷データに対応する送信先を取得する取得部と,前記外部装置からの前記発行指示が前記印刷装置に入力されたことを条件として,前記作成部が作成したパスワードを,前記取得部にて取得した送信先に送信する送信部と,前記外部装置が前記印刷装置から所定の範囲内に位置するか否かを判断し,前記所定の範囲内に位置しないと判断した場合に,前記作成部による前記パスワードの作成と,前記送信部による前記パスワードの送信との,少なくとも一方を禁止する禁止部とを備えることを特徴とする印刷システムを含んでいる。作成部,取得部,送信部,および禁止部は,印刷装置が具備してもよいし,印刷装置以外の装置が具備してもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば,第三者へのパスワードの漏洩の可能性が低い印刷装置および印刷システムが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施の形態にかかるプリンタの電気的構成を示すブロック図である。
【図2】第1の形態にかかる印刷システムの動作概略を示すブロック図である。
【図3】第1の形態にかかるパスワード発行処理の手順を示すフローチャートである。
【図4】送信先情報を記憶するデータベースの登録例を示す図である。
【図5】発行条件を記憶するデータベースの登録例を示す図である。
【図6】第1の形態にかかる印刷受付処理の手順を示すフローチャートである。
【図7】第2の形態にかかるパスワード発行処理の手順を示すフローチャートである。
【図8】連絡先情報を記憶するデータベースの登録例を示す図である。
【図9】パスワード発行通知を受信した際の,PCの表示例を示す図である。
【図10】第3の形態にかかる印刷システムの動作概略を示すブロック図である。
【図11】第4の形態にかかる印刷システムの動作概略を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下,本発明にかかる印刷装置を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,パーソナルコンピュータ(PC)と接続するプリンタに本発明を適用したものである。
【0025】
[プリンタの構成]
本形態のプリンタ100(印刷装置の一例)は,図1に示すように,CPU31と,ROM32と,RAM33と,NVRAM(Non Volatile RAM)34とを備えた制御部30を備えている。また,制御部30は,用紙に画像を印刷する画像形成部10と,動作状況の表示やユーザによる入力操作の受付を行う操作パネル40と,ネットワークインターフェース37と,USBインターフェース38と,無線通信インターフェース39とに,電気的に接続されている。
【0026】
ROM32には,プリンタ100を制御するための制御プログラムであるファームウェアや各種設定,初期値等が記憶されている。RAM33およびNVRAM34(記憶部の一例)は,各種制御プログラムが読み出される作業領域として,あるいは印刷データを一時的に記憶する記憶領域として利用される。
【0027】
CPU31(受付部,作成部,取得部,送信部,判断部,機密判断部,位置判断部,第1送信禁止部,決定部,第2送信禁止部,時間判断部,第1印刷禁止部,通知部,命令受付部,第2印刷禁止部,展開部,禁止部の一例)は,ROM32から読み出した制御プログラムや各種センサから送られる信号に従って,その処理結果をRAM33またはNVRAM34に記憶させながら,プリンタ100の各構成要素を制御する。
【0028】
ネットワークインターフェース37,USBインターフェース38および無線通信インターフェース39は,他の装置との通信を可能にするインターフェースである。プリンタ100は,これらのインターフェースを介して他の装置から送信される印刷データを受信する。
【0029】
本形態では,プリンタ100は,ネットワークインターフェース37を介して,パーソナルコンピュータ(PC)200やサーバ300との通信が可能になっている。この他,USBインターフェース38を介して他の装置を利用してもよい。例えば,USBインターフェース38にフラッシュメモリが装着されている場合には,そのフラッシュメモリを記憶領域として利用できる。
【0030】
また,画像形成部10(印刷部の一例)は,用紙に画像を印刷することができればよく,画像形成方式については電子写真方式であってもインクジェット方式であってもよい。また,カラー印刷が可能であってもよく,モノクロ印刷専用であってもよい。
【0031】
また,操作パネル40(操作部,入力部の一例)は,ユーザ入力を受け付ける各種のボタンと,文字情報やボタン等を表示するタッチパネル画面とを有している。各種のボタンとしては,例えば,印刷動作の開始を指示するOKボタンや,印刷動作のキャンセルを指示するキャンセルボタンがある。
【0032】
[第1の形態]
[印刷システムの構成]
続いて,プリンタ100を含む印刷システム900の構成および動作について,図2を参照しつつ説明する。
【0033】
印刷システム900では,PC200がユーザからの印刷指示を受け付けると,PC200に組み込まれているプリンタドライバ210が印刷ジョブを作成する。そして,PC200からプリンタ100に対して,その印刷ジョブが投入される(図2の(1))。
【0034】
印刷ジョブには,印刷対象となる印刷データの他,個々の印刷ジョブを識別するための情報と,印刷ジョブを投入するユーザを識別する情報と,セキュリティ情報と,パスワード情報とが含まれる。パスワード情報には,例えば,パスワードの有効期限が含まれる。このパスワード情報は,ユーザ入力によって設定してもよいし,プリンタドライバ210が自動的に設定してもよい。また,印刷ジョブに含まれる情報として,パスワード情報は必ずしも必須ではなく,例えばパスワードの有効期限が印刷ジョブに含まれない場合には,プリンタ100がパスワードの有効期限を決定する。
【0035】
プリンタ100は,印刷ジョブが投入されると,その印刷ジョブを,印刷ジョブの保管用に確保されたメモリ領域に記憶する。このメモリ領域は,RAM33あるいはNVRAM34あるいはその両方によって構成される。なお,USBメモリや外付けHDD等の外部メモリ340が接続されている場合にはその外部メモリに確保されたメモリ領域を含めてもよい。
【0036】
プリンタ100は,印刷ジョブを記憶した後,その印刷ジョブに対するパスワードの発行指示を待つ待機状態になる。すなわち,プリンタ100は,印刷ジョブを受信した段階ではその印刷ジョブの印刷を開始しない。
【0037】
本形態では,ユーザが操作パネル40を操作してパスワード発行対象の印刷ジョブを選択すると,プリンタ100は操作パネル40のタッチパネル画面にパスワードを発行するためのパスワード発行ボタン41を表示する。そして,ユーザがパスワード発行ボタン41を押下することで,選択された印刷ジョブに対するパスワードの発行指示がプリンタ100に対して入力される(図2の(2))。
【0038】
プリンタ100は,パスワード発行ボタン41の押下を受け付けたことを契機に,その印刷ジョブに対するパスワードを作成し,モバイル装置400に対してそのパスワードを送信する(図2の(3),(4))。本形態では,サーバ300がメールサーバを兼ねており,プリンタ100から出力された電子メールは,サーバ300を経由してモバイル装置400に送られる。すなわち,プリンタ100は,印刷ジョブを投入したPC200とは異なる装置に,その印刷ジョブ用のパスワードを送信する。パスワードの送信先は,あらかじめユーザごとにプリンタ100に登録されており,印刷ジョブのユーザに従って決定される。
【0039】
つまり,ユーザは,プリンタ100に印刷ジョブを投入した後,プリンタ100が設置されている場所まで移動する。その際,ユーザは,プリンタ100から発行されるパスワードを受け取る装置(例えば,モバイル装置400)を所持する。そして,プリンタ100の操作パネル40を操作して所望の印刷ジョブを選択し,パスワード発行ボタン41を入力する。そして,プリンタ100から発行されるパスワードを,所持しているモバイル装置400で受信し,そのパスワードを確認する。モバイル装置400がパスワードを受信する手段としては,例えば電子メール,赤外線通信,あるいはBluetoothを利用すればよい。その後,ユーザは,モバイル装置400が受信したパスワードをプリンタ100に入力する。
【0040】
上述のパスワード取得手順では,第三者は勿論のこと,印刷ジョブを投入したユーザであっても,モバイル装置400がパスワードを受信するまでは,その印刷ジョブに対応するパスワードを把握できない。また,パスワードはプリンタ100が作成し,さらにパスワードはユーザが所持するモバイル装置400に送信されるため,印刷ジョブを投入したユーザが不在となっているPC200ではパスワードを把握できない。よって,パスワードが漏洩する機会は少なく,パスワードの安全性は高い。
【0041】
プリンタ100は,パスワードの送信後,パスワードの入力を受け付ける。そして,プリンタ100は,ユーザがパスワードを入力した後,入力されたパスワードと,送信したパスワードとを照合し,一致したことを条件としてそのパスワードに対応する印刷ジョブの印刷を開始する。
【0042】
[プリンタの制御]
続いて,上述した印刷システム900の動作を実現するプリンタ100の制御について説明する。上述したようにプリンタ100の動作としては,パスワードを発行する動作と,パスワードを発行した後にそのパスワードに対応する印刷データの印刷を開始する動作とがある。以下,上記の2つの動作を中心に説明する。
【0043】
[パスワード発行処理]
始めに,パスワードを発行する動作であるパスワード発行処理(作成部,取得部,送信部,機密判断部,位置判断部,第1送信禁止部,決定部,第2禁止部の一例)の手順を,図3のフローチャートを参照しつつ説明する。パスワード発行処理は,操作パネル40のタッチパネル画面に表示されるパスワード発行ボタン41が押下されたことを契機にCPU31によって実行される。
【0044】
パスワード発行処理では,先ず,パスワードの発行対象となった印刷ジョブのセキュリティレベルが高いか否かを判断する(S101,機密判断部の一例)。ユーザは,PC200から印刷ジョブを投入する際,セキュリティレベルの高低を設定することができる。そして,印刷ジョブには,セキュリティレベルの高低がセキュリティ情報として付加されている。S101では,このセキュリティレベルが高いか否かを判断する。
【0045】
次に,セキュリティレベルの高低に基づいて,パスワードの送信先の情報を取得する。プリンタ100は,図4に示すように,ユーザごとにパスワードの送信先となる電子メールアドレスを記憶する送信先データベース341を有しており,パスワードの発行対象となった印刷ジョブのユーザに対応する送信先の情報を取得する。
【0046】
送信先データベース341は,ユーザごとに,少なくとも1つの送信先を記憶している。具体的に,送信先データベース341には,ユーザIDと,第1送信先と,第2送信先と,高セキュリティ時の送信設定とが1つのレコードとして記憶される。ユーザIDには,ユーザを識別する情報が記憶される。第1送信先には,パスワードの一次送信先となる電子メールアドレスが記憶される。第1送信先に複数の送信先が記憶されている場合には,その複数の送信先に対してパスワードが一括送信される。また,第2送信先には,対応する第1送信先への送信が失敗した際の再送先となる電子メールアドレスが記憶される。第2送信先が記憶されていない場合,第1送信先への送信が失敗したとしても再送は行わない。また,高セキュリティ時の送信設定については,「○」の場合,セキュリティレベルが高い場合であっても送信されることを意味し,「×」の場合,セキュリティレベルが高い場合には送信されないことを意味する。
【0047】
そこで,送信先の情報を取得する際,印刷ジョブのセキュリティレベルが高い場合には(S101:YES),その印刷ジョブのユーザに対応するレコードのうち,高セキュリティ時の送信設定が「○」になっている送信先のみを抽出する(S102,取得部の一例)。一方,印刷ジョブのセキュリティレベルが高くない場合には(S101:NO),高セキュリティ時の送信設定内容に関わらず,その印刷ジョブのユーザに対応する全ての送信先を抽出する(S111,取得部の一例)。すなわち,セキュリティレベルが高い場合は,送信先の数を減らし,印刷データの機密性を高める。一方,セキュリティレベルが低い場合は,送信先の数を増やし,パスワードを受け取り易くする。つまり,印刷開始の確実性を高める。
【0048】
S102あるいはS111にて送信先の情報を取得した後,パスワードを発行するための発行条件を満たしているか否かを判断する(S103,位置判断部,決定部の一例)。プリンタ100は,図5に示すように,各種の発行条件を記憶する条件データベース342を有しており,S103では条件データベース342の各種条件を満たすか否かを判断する。
【0049】
具体的に,図5に示した本形態の条件データベース342には,発行エリアおよび発行時間の条件が記憶されている。発行エリアは,送信先となる装置の位置に関する条件であり,例えば,プリンタ100からの距離や,特定の場所が設定される。例えば,「5m以内」の設定では,送信先の装置がプリンタ100から5m以内に存在すれば条件を満たし,存在しなければ条件を満たさない。送信先となる装置の情報は,別のデータベースによって設定されている。そして,その装置およびプリンタ100の位置は,GPS等の公知の位置測定技術によって取得することができる。また,装置の正確な位置を把握できなくても,例えばBluetoothやRFID等の公知の無線技術を利用すれば,送信先の装置がプリンタ100から所定の範囲内に存在するか否かを把握できる。このように発行エリアを限定することで,パスワードの送信先となる装置を所持していない第三者がパスワード発行ボタン41を押下した際に,パスワードの送信を回避できる。
【0050】
また,発行時間は,パスワード発行ボタン41が押下された時間に関する条件であり,パスワードの送信を許可する時間帯が設定される。そして,パスワード発行ボタン41が押下された時刻が,設定された時間帯内であれば条件を満たし,時間帯外であれば条件を満たさない。このように発行時間を限定することで,想定外の時間帯に第三者がパスワード発行ボタン41を押下した際に,パスワードの送信を回避できる。
【0051】
発行エリアおよび発行時間は,それぞれ複数の条件を設定することができ,さらに各条件には有効か無効かを設定できる。そして,発行エリアおよび発行時間のそれぞれについて,有効になっている条件について判断する。そして,発行エリアについては,1つでも条件を満たせば,発行エリアの条件を満たしていると判断する。また,発行時間についても,1つでも条件を満たせば,発行時間の条件を満たしていると判断する。
【0052】
なお,本形態の条件データベース342では,パスワードの発行を許可する条件を記憶しているが,パスワードの発行を禁止する条件を記憶してもよい。すなわち,条件データベース342は,パスワードの発行が許可されるか否かを判断できる条件を記憶すればよい。
【0053】
発行エリアおよび発行時間の少なくとも一方の発行条件を満たしていない場合には(S103:NO),発行条件を満たしていないことを報知し(S121),パスワードを発行することなく,パスワード発行処理を終了する(第1送信禁止部,第2送信禁止部の一例)。S121の報知としては,例えば,操作パネル40のタッチパネル画面にテキストメッセージを表示する。
【0054】
発行エリアおよび発行時間の両方ともに発行条件を満たしている場合には(S103:YES),パスワードを作成する(S104,作成部の一例)。パスワードは,1回の発行指示に対してその対象印刷ジョブについてのみに有効であり,プリンタ100が無作為に抽出した複数個の番号ないし記号によって構成される。パスワードを作成した後は,そのパスワードを印刷ジョブと対応付けて記憶する(S105)。
【0055】
その後,S104で作成したパスワードを,S102あるいはS111にて取得した送信先に送信する(S106,送信部の一例)。具体的には,S102あるいはS111にて取得した送信先の第1送信先に,パスワードを記載したテキスト情報を電子メールによって送信する。
【0056】
S106の後は,メール送信が成功したか否かを判断する(S107)。メール送信の成功ないし失敗は,例えばメールサーバからの応答によって判断できる。また,送信先の装置がメールの開封を応答する機能を有している場合には,その応答の有無によっても判断できる。
【0057】
メール送信が失敗した場合には(S107:NO),失敗した送信先について送信のリトライ先が設定されているか否かを判断する(S131)。具体的には,失敗した送信先について第2送信先が設定されているか否かを判断する。リトライ先が設定されている場合には(S131:YES),その第2送信先に対してパスワードを送信する(S141)。S141の後は,S107に移行してその送信の成功可否を判断する。
【0058】
リトライ先が設定されていない場合には(S131:NO),パスワードの送信に失敗したことを報知し(S132),印刷を開始することなく,パスワード発行処理を終了する。なお,本形態では,第2送信先への送信が失敗した場合の第3送信先が設定されないため,S141での第2送信先への送信が失敗した場合には,リトライ先が設定されていないと判断される。
【0059】
一方,メール送信が成功した場合には(S107:YES),印刷ジョブの印刷を開始するための印刷受付処理を起動する(S108)。S108の後は,パスワード発行処理を終了する。
【0060】
[印刷受付処理]
続いて,印刷ジョブの印刷を開始する印刷受付処理(入力部,判断部,印刷部,時間判断部,第1印刷禁止部,展開部の一例)の手順を,図6のフローチャートを参照しつつ説明する。印刷受付処理は,パスワード発行処理にてパスワードの発行に成功したことを契機にCPU31によって実行される。
【0061】
印刷受付処理では,先ず,操作パネル40のタッチパネル画面に,パスワードの入力を受け付ける受付画面を表示する(S161)。そして,パスワードの入力後に速やかに印刷が開始できるように,印刷ジョブに含まれる印刷データの,ビットマップデータへの展開を開始する(S162,展開部の一例)。なお,S162は,S161よりも先に行ってもよい。また,S162は,パスワード発行処理中のS106のパスワード送信直後に行ってもよい。すなわち,印刷データの展開を,パスワードの送信を条件として,後述するS167の印刷開始前までに開始することで,印刷開始を早めることが期待できる。
【0062】
次に,S106で発行されたパスワードが有効時間切れか否か,すなわちパスワードを送信してからの経過時間がパスワードの有効時間を超えたか否かを判断する(S163,時間判断部の一例)。パスワードの有効時間は,印刷ジョブに設定されている場合には,その有効時間を利用する。一方,印刷ジョブに設定されていない場合には,プリンタ100に設定されている有効時間を利用する。
【0063】
パスワードが有効時間切れの場合には(S163:YES),パスワードの有効時間が経過したことを報知する(S171)。そして,展開データを消去し(S172),印刷を開始することなく,印刷受付処理を終了する(第1印刷禁止部の一例)。
【0064】
パスワードが有効時間切れではない場合には(S163:NO),中止指示があったか否かを判断する(S164)。中止指示としては,例えば,操作パネル40に設けられたキャンセルボタンの押下が該当する。中止指示があった場合には(S164:YES),中止指示を受け付けたことを報知する(S181)。そして,展開データを消去し(S172),印刷を開始することなく,印刷受付処理を終了する。
【0065】
中止指示がなかった場合には(S164:NO),ユーザによるパスワード入力があったか否かを判断する(S165,入力部の一例)。パスワード入力がなかった場合には(S165:NO),S163に移行し,再度,有効時間の判断を行う。
【0066】
一方,パスワード入力があった場合には(S165:YES),入力されたパスワードと,送信したパスワードとが一致するか否かを判断する(S166,判断部の一例)。不一致の場合には(S166:NO),入力されたパスワードに誤りがあることを報知し(S191),S165に移行して再度パスワードの入力を促す。
【0067】
パスワードが一致した場合には(S166:YES),そのパスワードに対応する印刷ジョブの,印刷データの印刷を開始する(S167,印刷部の一例)。S167の後は,印刷受付処理を終了する。
【0068】
前述のように,第1の形態の印刷システム900では,ユーザがプリンタ100のパスワード発行ボタン41を押下したことを条件に,選択された印刷ジョブに対応するパスワードが,その印刷ジョブのユーザに対応する送信先(例えば,モバイル装置400)に送信される。つまり,ユーザがPC200から離れ,プリンタ100まで到達する間にはパスワードは発行されず,ユーザがプリンタ100の前にいると推測される状態でパスワードが発行される。そのため,パスワード取得からパスワード入力までの時間が短縮されることが期待できる。よって,パスワードが第三者に漏洩する可能性は低い。
【0069】
また,第1の形態の印刷システム900では,仮に第三者がパスワード発行ボタン41を押下したとしても,あらかじめ設定されている送信先にパスワードが送信されるため,第三者がパスワードを取得する可能性は低い。よって,印刷データの機密性は高い。
【0070】
[第2の形態]
[パスワード発行処理]
続いて,パスワード発行処理の別の形態について,図7のフローチャートを参照しつつ説明する。第2の形態のパスワード発行処理では,パスワードを発行した際,そのパスワード発行の事実を印刷ジョブの投入元の装置に通知する。なお,以下の説明では,第1の形態と同じ処理については同じ符号を付して説明を省略する。
【0071】
第2の形態のパスワード発行処理は,S106のパスワードの送信までは第1の形態と同じである。S106の後,選択された印刷ジョブのユーザに対応する通知先を取得する(S206)。プリンタ100は,図8に示すように,ユーザごとに通知先となるIPアドレスを記憶する通知先データベース343を有しており,パスワードの発行対象となった印刷ジョブのユーザに対応する連絡先情報を取得する。
【0072】
次に,S206で取得した通知先に対して,パスワードを送信したことを通知する(S207,通知部の一例)。これにより,印刷ジョブの投入元の装置に,パスワード発行の事実が通知される。S207による通知後は,S107に移行する。S107以降の処理は第1の形態と同じである。
【0073】
S207による通知(以下,「パスワード発行通知」とする)を受信した印刷ジョブの投入元の装置(以下,PC200が受信したものとする)では,図9に示すように,PC200のディスプレイ220に,パスワードの発行を確認するメッセージが記載されたメッセージボックス230を表示する。このメッセージボックス230の表示は,例えば,PC200に組み込まれた常駐プログラムによって行われる。
【0074】
メッセージボックス230には,メッセージの他,OKボタン231と,中止ボタン232とが表示される。ユーザによってOKボタン231が押下されると,PC200はメッセージボックス230を閉じる。一方,中止ボタン232が押下されると,PC200はメッセージボックス230を閉じるとともに,印刷を中止する中止指示をプリンタ100に送信する。
【0075】
プリンタ100は,PC200から中止指示を受け付けると,印刷動作を中止する(命令受付部,第2印刷禁止部の一例)。また,プリンタ100が印刷動作を開始する前であれば,印刷受付処理(図6参照)中,S164にて中止指示を受け付ける(命令受付部の一例)。そして,印刷受付処理において,中止指示を受け付けたことを報知し(S181),展開データを消去し(S172),印刷動作を開始することなく,印刷受付処理を終了する(第2印刷禁止部の一例)。
【0076】
前述のように,第2の形態の印刷システムでは,印刷データの記憶元の装置にパスワードの送信を通知する。これにより,仮に第三者によるパスワードの発行指示があった場合に,そのことを印刷データの所有ユーザが把握できる可能性が高まる。また,その通知を受け,PC200からプリンタ100に中止指示を送信できる。これにより,印刷データの機密性が高まる。
【0077】
すなわち,前述した第1の形態では,仮に第三者がパスワードの発行指示を入力したとしても,パスワードを受信するモバイル装置をその第三者が所持していなければ,その第三者にとってパスワードは不明であり,印刷データの印刷を開始できない。しかしながら,第三者がモバイル装置まで所持していた場合には,パスワードが漏洩して印刷を開始されてしまうおそれがある。そこで,第2の形態では,印刷データの記憶元装置であるPC200から中止指示が送信できるようにする。これにより,第三者がモバイル装置まで所持し,パスワードを取得できたとしても,印刷データの全ページ分の印刷完了の回避が期待できる。
【0078】
[第3の形態]
[印刷システムの構成]
続いて,印刷システムの動作の別の形態について,図10を参照しつつ説明する。第3の形態の印刷システム910は,プリンタ100に対し,モバイル装置400から無線通信によってパスワード発行指示を入力する。この点,プリンタ100の操作パネル40への入力操作によってパスワードの発行指示を入力する第1の形態と異なる。
【0079】
第3の形態の印刷システム910では,先ず,PC200からプリンタ100に投入される(図10の(1))。そして,プリンタ100に記憶されている特定の印刷ジョブに対するパスワードの発行指示が,その印刷ジョブのパスワードの送信先となるモバイル装置400から遠隔操作によって入力される(図10の(2))。モバイル装置400からプリンタ100への入力は,赤外線通信,無線LAN等の公知の無線通信技術を利用すればよい。
【0080】
印刷ジョブの選択は,例えば,モバイル装置400がプリンタ100から印刷ジョブの一覧を取得し,その中から選択してもよいし,モバイル装置400からユーザIDを入力することで,プリンタ100がそのユーザIDに対応する印刷ジョブを自動的に選択してもよい。
【0081】
ユーザは,プリンタ100に印刷ジョブを投入した後,プリンタ100から発行されるパスワードを受け取る装置(例えば,モバイル装置400)を所持してプリンタ100が設置されている場所まで移動する。そして,プリンタ100の近くでモバイル装置400を操作して所望の印刷ジョブに対するパスワードの発行指示を入力する。
【0082】
プリンタ100は,モバイル装置400からパスワードの発行指示を受け付けたことを契機に,その印刷ジョブに対するパスワードを作成し,モバイル装置400に対してそのパスワードを送信する(図10の(3),(4))。
【0083】
なお,第3の形態では,モバイル装置400から遠隔操作によってパスワードの発行指示を入力できることから,プリンタ100から離れた場所からでもパスワードの発行指示が入力可能である。そのため,パスワードが漏洩するリスクが高くなる。
【0084】
そこで,第2の形態では,パスワード発行処理(図3参照)中,S103の発行条件判断において,モバイル装置400がプリンタ100から所定の範囲内に位置することを必須の発行条件とする。そして,モバイル装置400がプリンタ100から所定の範囲内に位置する場合にはパスワードの発行を許可し,モバイル装置400がプリンタ100から所定の範囲内に位置しない場合にはパスワードの発行を許可しない。これにより,パスワードが漏洩するリスクを低減できる。また,第1の形態と同様に,パスワード取得からパスワード入力までにかかる時間の短縮が期待できるようになる。
【0085】
その後,ユーザは,モバイル装置400がパスワードを受信することで,印刷ジョブに対応するパスワードを把握し,モバイル装置400が受信したパスワードをプリンタ100に入力する。
【0086】
プリンタ100は,パスワードの送信後,印刷受付処理を実行し,パスワードの入力を受け付ける。そして,プリンタ100は,ユーザがパスワードを入力した後,入力されたパスワードと,送信したパスワードとを照合し,一致したことを条件としてそのパスワードに対応する印刷ジョブの印刷を開始する。
【0087】
なお,第3の形態の説明では,パスワードの発行指示を行う装置と,パスワードの送信先となる装置とが,同じモバイル装置400であるが,別々の装置であってもよい。例えば,パスワードの発行指示を行う装置がプリンタ100用のリモートコントローラであり,パスワードを受信する装置がユーザ各自で所有するモバイル装置であってもよい。個の場合,S103の判断にて,少なくともパスワードの発行指示を行う装置が,プリンタ100から所定の範囲内であるか否かを判断し,範囲外であればパスワードの発行を禁止する。
【0088】
[第4の形態]
[印刷システムの構成]
続いて,印刷システムの動作の別の形態について,図11を参照しつつ説明する。第4の形態の印刷システム920は,プリンタ100がサーバ300に対してパスワードの送信命令を出力し,サーバ300がパスワードを作成する。この点,プリンタ100がパスワードを作成する第1の形態と異なる。
【0089】
第4の形態の印刷システム920では,先ず,PC200からプリンタ100に投入される(図11の(1))。そして,第1の形態と同様に,ユーザによってパスワード発行対象の印刷ジョブを選択した後,パスワード発行ボタン41が押下されることで,選択された印刷ジョブに対するパスワードの発行指示が入力される(図11の(2))。なお,パスワードの発行指示の入力は,第3の形態のように,モバイル装置400から遠隔操作によって行ってもよい。
【0090】
プリンタ100は,パスワード発行ボタン41の押下を受け付けたことを契機に,その印刷ジョブに対するパスワードの作成をサーバ300に依頼する。本形態では,プリンタ100は,サーバ300に対して,パスワードの作成およびそのパスワードの送信を命令する送信命令を送信する(図11の(3))。
【0091】
サーバ300は,プリンタ100から送信命令を受け付けると,その送信命令に対応付けられた印刷ジョブのパスワードを作成する。そして,その印刷ジョブのユーザに対応付けられたパスワードの送信先を取得し,モバイル装置400およびプリンタ100に対してそのパスワードを送信する(図11の(4),(5))。送信先の抽出は,サーバ300が行ってもよいし,プリンタ100が行って送信命令に付加してもよい。
【0092】
すなわち,本形態のサーバ300は,パスワード発行処理(図3参照)のうち,少なくともS104からS107までの処理を行う。このように,本形態では,第1の形態ではプリンタ100が行っていた処理の一部をサーバ300が担うことで,プリンタ100の負荷を軽減できる。その結果として,スペックの低いプリンタであっても本形態の印刷システムを実現できる。
【0093】
なお,サーバ300は,パスワードを送信する前に,パスワード発行処理のS103で行った発行条件の判断を行ってもよい。そして,発行条件を充足しない場合には,パスワードの発行を禁止してもよい。また,パスワード発行処理のS103で行った発行条件の判断をプリンタ100で行った後,発行条件を充足した場合に,送信命令を出力してもよい。
【0094】
その後,プリンタ100は,サーバ300からのパスワードの受信後,印刷受付処理を実行し,パスワードの入力を受け付ける。そして,プリンタ100は,ユーザがパスワードを入力した後,入力されたパスワードと,受信したパスワードとを照合し,一致したことを条件としてそのパスワードに対応する印刷ジョブの印刷を開始する。
【0095】
以上詳細に説明したように第1から第4の形態のプリンタないし印刷システムでは,ユーザが操作パネル40を操作したことを条件に,あるいはプリンタから所定範囲内に存在する外部装置から発行指示が入力されたことを条件に,印刷データのパスワードがその印刷データに対応する送信先(例えば,印刷データの所有ユーザのモバイル装置)に送信される。このことから,ユーザがプリンタ100の近くにいるときにパスワードが発行されることになり,パスワード取得からパスワード入力までの時間の短縮が期待できる。よって,パスワードが第三者に漏洩する可能性が低くなる。
【0096】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,プリンタは,印刷機能を備えるものであればよく,複合機や複写機であっても適用可能である。また,プリンタに印刷ジョブを投入する情報処理装置は,PCに限るものではなく,例えば,スマートフォン等のモバイル装置であってもよい。
【0097】
また,実施の形態では,PC200からプリンタ100に直接印刷ジョブが送信されるが,これに限るものではない。例えば,PC200からサーバ300を介してプリンタ100にジョブが送信されてもよい。
【0098】
また,実施の形態では,電子メール送信によってサーバ300を介してモバイル装置400にパスワードが送信されるが,これに限るものではない。例えば,プリンタ100がモバイル装置400と直接データの受け渡しが可能であり,個々の送信先装置を識別可能であれば,そのモバイル装置400に直接パスワードを送信してもよい。
【0099】
また,実施の形態では,印刷ジョブが選択されていることを条件にパスワード発行ボタン41がタッチパネル画面に表示されることになっているが,始めからタッチパネル画面に表示されていてもよい。また,タッチパネル画面以外にも,操作パネル40に専用のボタンが設けられていてもよい。これらの形態では,印刷ジョブが選択されていない状態でボタンが押下された場合,その入力を無効としてもよいし,記憶している全印刷ジョブに対するパスワード発行指示としてもよい。
【0100】
また,実施の形態では,送信先情報を記憶する送信先データベース341をプリンタ100が有しているが,サーバ300が有していてもよい。この場合,プリンタ100がサーバ300に問い合わせて送信先情報を取得する。また,印刷ジョブに送信先情報が付加されていてもよい。この場合,送信先データベース341に記憶されている送信先よりも印刷ジョブに付加されている送信先を優先することで,ユーザの希望に合致したパスワード送信を行うことができる。
【0101】
また,実施の形態では,発行条件を記憶する条件データベース342をプリンタ100が有しているが,サーバ300が有していてもよい。この場合,プリンタ100がサーバ300に問い合わせて発行条件を取得する。また,印刷ジョブに発行条件が付加されていてもよい。この場合,条件データベース342に記憶されている発行条件よりも印刷ジョブに付加されている発行条件を優先することで,ユーザの希望に合致したパスワード送信を行うことができる。
【0102】
また,実施の形態では,セキュリティレベルが高い場合に,一次送信(第1送信先への送信)における送信数を減らしているが,これに限るものではない。例えば,セキュリティレベルが高い場合には,二次送信(第2送信先への送信)を禁止することで送信数を減らしてもよい。
【符号の説明】
【0103】
10 画像形成部
30 制御部
40 操作パネル
41 パスワード発行ボタン
100 プリンタ
200 PC
300 サーバ
400 モバイル装置
900 印刷システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷データを記憶する記憶部と,
ユーザによる入力操作を受け付ける操作部と,
前記印刷データに対応するパスワードを発行するための発行指示を,前記操作部への入力操作によって受け付ける受付部と,
前記パスワードを作成する作成部と,
前記印刷データに対応する送信先を取得する取得部と,
前記受付部が前記発行指示を受け付けたことを条件として,前記作成部が作成したパスワードを,前記取得部にて取得した送信先に送信する送信部と,
パスワードのユーザ入力を受け付ける入力部と,
前記入力部が受け付けたパスワードと前記送信部が送信したパスワードとが一致するか否かを判断する判断部と,
前記判断部にてパスワードが一致すると判断した場合に,当該パスワードに対応する印刷データの印刷を開始する印刷部と,
を備えることを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載する印刷装置において,
前記取得部は,送信先を複数取得し,
前記送信部は,複数ある送信先のうち,少なくとも1つに前記パスワードを送信することを特徴とする印刷装置。
【請求項3】
請求項2に記載する印刷装置において,
前記印刷データの機密度が高いか否かを判断する機密判断部を備え,
前記送信部は,前記機密判断部にて機密度が高いと判断された場合に,前記機密判断部にて機密度が高くないと判断された場合と比較して,送信先の数が少ないことを特徴とする印刷装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載する印刷装置において,
前記送信部は,複数ある送信先のうち,1つの送信先に前記パスワードを送信し,その送信が失敗した場合に,他の送信先に前記パスワードを送信することを特徴とする印刷装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1つに記載する印刷装置において,
前記送信先となる通信装置が,自装置から所定の範囲内に位置するか否かを判断する位置判断部と,
前記位置判断部にて前記通信装置が前記所定の範囲内に位置していないと判断された場合に,前記送信部による前記パスワードの送信を禁止する第1送信禁止部と,
を備えることを特徴とする印刷装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1つに記載する印刷装置において,
前記送信部による前記パスワードの送信を許可する時間帯を決定する決定部と,
前記決定部にて決定された時間帯外には,前記送信部による前記パスワードの送信を禁止する第2送信禁止部と,
を備えることを特徴とする印刷装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1つに記載する印刷装置において,
前記送信部にて前記パスワードを送信してからの経過時間が所定時間以上か否かを判断する時間判断部と,
前記時間判断部にて前記経過時間が前記所定時間以上と判断された場合に,前記印刷部による前記パスワードに対応する印刷データの印刷を禁止する第1印刷禁止部と,
を備えることを特徴とする印刷装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1つに記載する印刷装置において,
前記送信部から前記パスワードが送信された場合,前記パスワードを送信したことを,前記パスワードに対応する印刷データを前記記憶部に記憶させた記憶元装置に対応する宛先に通知する通知部を備えることを特徴とする印刷装置。
【請求項9】
請求項8に記載する印刷装置において,
前記通知部による通知後,送信された前記パスワードに対応する印刷データの印刷を許可するか否かの命令を,前記記憶元装置から受け付ける命令受付部と,
前記命令受付部にて印刷を許可しない命令を受け付けた場合に,前記印刷部による前記印刷データの印刷を禁止する第2印刷禁止部と,
を備えることを特徴とする印刷装置。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか1つに記載する印刷装置において,
前記送信部による前記パスワードの送信を条件として,前記パスワードに対応する印刷データの展開を開始する展開部を備えることを特徴とする印刷装置。
【請求項11】
印刷データを記憶する記憶部と,
前記印刷データに対応するパスワードを発行するための発行指示を,外部装置からの出力によって受け付ける受付部と,
前記パスワードを作成する作成部と,
前記印刷データに対応する送信先を取得する取得部と,
前記受付部が前記発行指示を受け付けたことを条件として,前記作成部が作成したパスワードを,前記取得部にて取得した送信先に送信する送信部と,
前記外部装置が自装置から所定の範囲内に位置するか否かを判断し,前記所定の範囲内に位置しないと判断した場合に,前記作成部による前記パスワードの作成と,前記送信部による前記パスワードの送信との,少なくとも一方を禁止する禁止部と,
パスワードのユーザ入力を受け付ける入力部と,
前記入力部が受け付けたパスワードと前記送信部が送信したパスワードとが一致するか否かを判断する判断部と,
前記判断部にてパスワードが一致すると判断された場合に,当該パスワードに対応する印刷データの印刷を開始する印刷部と,
を備えることを特徴とする印刷装置。
【請求項12】
印刷データを記憶する記憶部と,ユーザによる入力操作を受け付ける操作部と,前記印刷データに対応するパスワードを発行するための発行指示を,前記印刷装置の前記操作部への入力操作によって受け付ける受付部とを備え,前記印刷データに対するパスワードと,ユーザ入力によるパスワードとが一致したことを条件に,前記印刷データを印刷する印刷装置を有する印刷システムにおいて,
前記パスワードを作成する作成部と,
前記印刷データに対応する送信先を取得する取得部と,
前記印刷装置の前記受付部が前記発行指示を受け付けたことを条件として,前記作成部が作成したパスワードを,前記取得部にて取得した送信先に送信する送信部と,
を備えることを特徴とする印刷システム。
【請求項13】
印刷データを記憶する記憶部を備え,前記印刷データに対するパスワードとユーザ入力によるパスワードとが一致したことを条件に,前記印刷データを印刷する印刷装置と,前記印刷装置に前記印刷データに対するパスワードを発行するための発行指示を入力する外部装置とを有する印刷システムにおいて,
前記パスワードを作成する作成部と,
前記印刷データに対応する送信先を取得する取得部と,
前記外部装置からの前記発行指示が前記印刷装置に入力されたことを条件として,前記作成部が作成したパスワードを,前記取得部にて取得した送信先に送信する送信部と,
前記外部装置が前記印刷装置から所定の範囲内に位置するか否かを判断し,前記所定の範囲内に位置しないと判断した場合に,前記作成部による前記パスワードの作成と,前記送信部による前記パスワードの送信との,少なくとも一方を禁止する禁止部と,
を備えることを特徴とする印刷システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−22855(P2013−22855A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160450(P2011−160450)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】