説明

印刷装置及び印刷方法

【課題】媒体を劣化させることなく、安全かつ効果的に裏移りを防止することができる印刷装置を提供する。
【解決手段】本発明の印刷装置は、気体をプラズマ状態として陰イオンを生成する生成手段2と、該生成手段2により生成された陰イオンを、媒体に印刷された酸化重合型インキに接触させる接触手段3とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置及び印刷方法に関し、より詳細には、酸化重合型インキを用いた印刷に好適な印刷装置及び印刷方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化重合型インキは、印刷後、自然乾燥されていた。しかし、自然乾燥では、インキが完全に乾くまでに長時間を要するため、印刷直後に印刷物を重ね合わせたときに、他の印刷物の裏面にインキが付着するという、いわゆる裏移りが問題となっていた。
【0003】
かかる裏移りを解消するため、インキが印刷された表面に粉末を散布する方法が一般に採用されているが、かかる方法では、印刷物の品質の低下や作業環境の悪化等を招来するという問題がある。
【0004】
一方、特開2001−158080号公報には、酸素濃度5000ppm以上30%以下の雰囲気中で、印刷された酸化重合型インキに電子線を照射することを特徴とするインキの乾燥方法が開示されている。かかる方法によれば、インキに照射される電子線のエネルギーと電子線の照射により発生するオゾンとの相乗効果により、インキの酸化重合反応を促進し、乾燥時間の短縮を図ることができる。
【0005】
しかし、かかる方法では、インキが印刷された媒体に電子線を直接照射するため、例えば、媒体が紙である場合には、電子線の照射によって、紙の繊維を構成するセルロースの重合度が低下するなど、媒体を劣化させるおそれがある。また、乾燥時間の短縮を図るために、1ppm以上10%以下、好ましくは50ppm以上5%以下のオゾンを発生させているが、そのような高濃度のオゾンの使用は、人体に悪影響を及ぼす蓋然性が高いため実用的でない。また、高濃度のオゾンを使用するとすれば、人体との接触を回避するための手段を講じる必要があり、また、使用後のオゾンを回収する手段も必要となるため、印刷装置の製造コストやランニングコストが高くつくという問題がある。
【0006】
【特許文献1】特開2001−158080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、媒体を劣化させることなく、安全かつ効果的に裏移りを防止することができる印刷装置及び印刷方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の印刷装置及び印刷方法を提供する。
(1)気体をプラズマ状態として陰イオンを生成する生成手段と、該生成手段により生成された陰イオンを、媒体に印刷された酸化重合型インキに接触させる接触手段とを有することを特徴とする印刷装置。
(2)前記接触手段が、前記陰イオンを所定の空間において循環させる循環手段を具備して構成され、前記空間において循環する陰イオンを、前記インキに接触させるものであることを特徴とする前記(1)に記載の印刷装置。
(3)前記接触手段が、前記陰イオンを前記インキに吹き付ける吹き付け手段を具備して構成され、該吹き付け手段により、前記陰イオンを前記インキに接触させるものであることを特徴とする前記(1)に記載の印刷装置。
(4)a.気体をプラズマ状態として陰イオンを生成する工程と、b.前記陰イオンを、媒体に印刷された酸化重合型インキに接触させる工程とを含むことを特徴とする印刷方法。
(5)工程bにおいて、所定の空間において循環する前記陰イオンを前記インキに接触させることを特徴とする前記(4)に記載の印刷方法。
(6)工程bにおいて、前記陰イオンを前記インキに吹き付けることを特徴とする前記(4)に記載の印刷方法。
【発明の効果】
【0009】
前記(1)及び(4)に記載の本発明によれば、媒体に印刷された酸化重合型インキに陰イオンを接触させるため、媒体を劣化させることなく、インキの酸化重合反応を促進させることができる。従って、インキを短時間で乾燥させることが可能となる。また、陰イオンが人体に悪影響を及ぼすおそれは少ないため、安全かつ効果的に裏移りを防止することが可能となる。さらに、気体をプラズマ状態として陰イオンを生成するため、インキの酸化重合反応に十分な陰イオンを大量かつ効率的に生成することが可能となる。
前記(2)及び(5)に記載の本発明によれば、所定の空間において循環する陰イオンをインキに接触させるため、陰イオンを循環させずに、陰イオンが停滞している場合と比較して、インキの酸化重合反応をより促進させることが可能となる。また、陰イオンを所定の空間において循環させることにより、陰イオンの間欠的な供給が可能となるため、陰イオンの生成にかかるコストを低減させることも可能となる。
前記(3)及び(6)に記載の本発明によれば、陰イオンをインキに吹き付けるため、インキの酸化重合反応をより促進させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に示した実施例に従って説明する。
【実施例1】
【0011】
図1は、本発明の実施例1に係る印刷装置の構成を示すブロック図である。この図に示したように、本実施例に係る印刷装置は、印刷手段1、生成手段2及び接触手段3を有して構成される。
【0012】
印刷手段1は、媒体に酸化重合型インキを印刷するものである。印刷手段1としては、例えば、オフセット印刷により媒体にインキを印刷するものを用いることができる。ここで、媒体としては、紙が典型例として挙げられる。印刷に使用される酸化重合型インキとは、酸化重合により硬化する油脂成分を含有するインキである。酸化重合型インキとしては、酸化重合により硬化する油脂成分、酸化重合促進剤及び顔料を含有するものを用いることができ、さらに、溶剤を含有するもの、或いは、任意の補助剤(例えば、耐摩耗剤、皮張り防止剤等)を含有するものを用いることもできる。
【0013】
生成手段2は、気体をプラズマ状態として陰イオンを生成するものである。生成手段2は、例えば、コロナ放電により気体をプラズマ状態とし、陰イオンを生成する。ここで、コロナ放電としては、両極性コロナ放電、直流コロナ放電又はストリーマコロナ放電等を採用することができる。なお、気体をプラズマ状態とする方法としては、上記の方法に何等限定されるものではない。かかる方法としては、気体、好ましくは大気をプラズマ状態として陰イオンを生成し得るものであればよく、例えば、13.56MHz又は2.45GHzの高周波電源を用いて大気中でプラズマを発生し、陰イオンを生成してもよい。生成される陰イオンとしては、スーパーオキシドアニオン(O)であることが好ましい。スーパーオキシドアニオンをインキに接触させることにより、インキの酸化重合反応をより促進させることができる。
【0014】
接触手段3は、生成手段2により生成された陰イオンを、媒体に印刷された酸化重合型インキに接触させるものである。陰イオンをインキに接触させる方法としては、(1)停滞する気体中の陰イオンをインキに接触させる方法、(2)循環する気体中の陰イオンをインキに接触させる方法、及び(3)陰イオンをインキに吹き付ける方法が挙げられる。本実施例における接触手段3は、上記(1)の方法を実現したものである。
【0015】
すなわち、本実施例では、図2に示したように、接触手段3として形成される空間3aの内部に生成手段2を配設し、空間3aの内部に存する気体を、生成手段2によりプラズマ状態として、その気体中に陰イオンを存在させる。また、本実施例では、空間3a内に存する陰イオンを含む気体に対して流れを生じさせる手段は講じずに、そのまま放置する。印刷手段1により媒体に印刷されたインキは、空間3a内において、陰イオンと接触する。これにより、インキの酸化重合が促進され、乾燥に要する時間を短縮することができる。
【0016】
なお、本実施例と異なり、接触手段3として形成される空間3aの外部に生成手段2を配設し、生成手段2により生成された陰イオンを空間3aの内部に供給するように構成してもよい。この場合でも、インキに陰イオンが接触することにより、インキの酸化重合が促進され、乾燥に要する時間を短縮することができる。
【実施例2】
【0017】
本実施例に係る印刷装置は、接触手段3が循環手段4を有して構成される点で、実施例1の印刷装置と異なり、その他の点は実施例1の印刷装置と同様に構成される。
【0018】
すなわち、本実施例における接触手段3は、循環する気体中の陰イオンをインキに接触させる方法を実現したものであり、図3に示したように、接触手段3の一部として形成される空間3aの内部で、生成手段2により生成された陰イオンを循環させる循環手段4を有して構成される。ここで、循環手段4としては、空間3a内に風を送り込むファンや空間3a内に存する気体を攪拌する攪拌装置等を用いることができる。
【0019】
本実施例では、印刷手段1により媒体に印刷されたインキは、空間3a内において循環する陰イオンと接触する。これにより、実施例1の接触手段3と比較して、インキに対する陰イオンの接触機会が増大するため、インキの酸化重合がより促進され、乾燥に要する時間をさらに短縮することができる。
【0020】
また、本実施例では、空間3a内において陰イオンを循環させる構成であるため、生成手段2により陰イオンを常時生成しなくても、陰イオンのインキへの接触機会を作ることができる。従って、空間3a内への陰イオンの間欠的な供給が可能となり、その結果、陰イオンの生成にかかるコストの低減を図ることが可能となる。
【実施例3】
【0021】
本実施例に係る印刷装置は、接触手段3が吹き付け手段5を有して構成される点で、実施例1の印刷装置と異なり、その他の点は実施例1の印刷装置と同様に構成される。
【0022】
すなわち、本実施例における接触手段3は、陰イオンをインキに吹き付ける方法を実現したものであり、図4に示したように、接触手段3として機能する吹き付け手段5を有して構成される。吹き付け手段5は、生成手段2により生成された陰イオンをインキに吹き付ける役割を果たすものであり、かかる機能を果たし得る限り、その構造は何等限定されるものではない。
【0023】
本実施例では、図4に示したように、吹き付け手段5として、先端に吐出口5bを有するノズル5aを採用し、かかるノズル5aの吐出口5bから吹き出す陰イオンを、印刷手段1により媒体6に印刷されたインキ7に吹き付けることにより、インキ7に陰イオンを接触させる。これにより、実施例1の接触手段3と比較して、インキに対する陰イオンの接触機会が格段に増大するため、インキの酸化重合がより促進され、乾燥に要する時間をさらに短縮することができる。
【0024】
以上説明したように、本発明の原理は、酸化重合型インキに陰イオンを接触させることにより、インキの酸化重合を促進させ、乾燥に要する時間の短縮を図ることにある。かかる本発明の効果を確認するため、以下の実験を行った。
【0025】
実験では、ローラを用いて媒体としての紙の表面に酸化重合型インキを均一に塗布することによって、インキが印刷された後の状態をつくり、当該インキに対して陰イオンを吹き付けた場合の裏移り濃度の減少率と、単に風を吹き付けた場合の裏移り濃度の減少率とを比較した。
【0026】
酸化重合型インキは、TKハイエコーNV100(東洋インキ製造株式会社製)を使用した。かかるインキは、揮発性有機化合物を含有しない油性インキであり、オフセット印刷に用いられている。陰イオンは、両極性コロナ放電により気体をプラズマ状態として生成した。裏移り濃度は、インキが塗布された紙の上に他の紙を重ね合わせ、さらにその上に500グラムの錘を載せたときに、他の紙の裏面に付着したインキの濃度を分光光度計(SpectroEye、株式会社きもと製)を用いて測定した。裏移り濃度の減少率は、次式により算出される。
A=(a−b)/a×100
(式中、Aは裏移り濃度の減少率、aは自然乾燥させたときの裏移り濃度、bは吹き付け後、所定時間経過したときの裏移り濃度である。)
【0027】
実験の結果を図5に示す。この結果から、インキに陰イオンを吹き付ける場合の方が単に風を吹き付ける場合よりも裏移りが減少することがわかる。つまり、この実験によって、インキに対して同様に気体を吹き付けても、陰イオンを含む気体では、陰イオンの作用により、インキの酸化重合が促進され、乾燥時間の短縮を図ることが可能であることが確認された。
【0028】
上記した本発明の実施形態によれば、媒体に印刷された酸化重合型インキに陰イオンを接触させるため、インキの酸化重合反応を促進させることができる。従って、インキを短時間で乾燥させることが可能となる。また、陰イオンをインキに接触させる構成であるため、電子線をインキに照射する方法のように媒体を劣化させることもない。また、陰イオンは、オゾンのように人体に悪影響を及ぼすこともないので、安全かつ効果的に裏移りを防止することが可能となる。さらに、気体をプラズマ状態として陰イオンを生成するため、インキの酸化重合反応に十分な陰イオンを大量かつ効率的に生成することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施例1に係る印刷装置の構成を示すブロック図である。
【図2】実施例1において採用した接触手段の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施例2に係る印刷装置において採用した接触手段の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施例3に係る印刷装置において採用した接触手段の構成を示す概略図である。
【図5】本発明の効果を確認するために行った実験の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0030】
1 印刷手段
2 生成手段
3 接触手段
3a 空間
4 循環手段
5 吹き付け手段
5a ノズル
5b 吐出口
6 媒体
7 酸化重合型インキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体をプラズマ状態として陰イオンを生成する生成手段と、
該生成手段により生成された陰イオンを、媒体に印刷された酸化重合型インキに接触させる接触手段と
を有することを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記接触手段が、前記陰イオンを所定の空間において循環させる循環手段を具備して構成され、前記空間において循環する陰イオンを、前記インキに接触させるものであることを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記接触手段が、前記陰イオンを前記インキに吹き付ける吹き付け手段を具備して構成され、該吹き付け手段により、前記陰イオンを前記インキに接触させるものであることを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項4】
a.気体をプラズマ状態として陰イオンを生成する工程と、
b.前記陰イオンを、媒体に印刷された酸化重合型インキに接触させる工程と
を含むことを特徴とする印刷方法。
【請求項5】
工程bにおいて、所定の空間において循環する前記陰イオンを前記インキに接触させることを特徴とする請求項4に記載の印刷方法。
【請求項6】
工程bにおいて、前記陰イオンを前記インキに吹き付けることを特徴とする請求項4に記載の印刷方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−54987(P2007−54987A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−240536(P2005−240536)
【出願日】平成17年8月23日(2005.8.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年2月23日 国立大学法人山梨大学主催の「平成16年度 山梨大学工学部電気電子システム工学科 情報通信システム(S)分野『卒業論文発表会』」において文書をもって発表
【出願人】(599068407)ソシオダイヤシステムズ株式会社 (3)
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【Fターム(参考)】