説明

印刷装置及び印刷方法

【課題】ラインヘッドタイプの印刷装置において、印刷される画像の画質を向上させる。
【解決手段】搬送方向に搬送される媒体に第1のインクを噴出する第1のヘッドと、第2のインクを噴出する第2のヘッドと、を有するヘッド組を搬送方向と交差する方向に複数有するヘッド部を備え、ヘッド組毎にインクが噴出される領域であるバンドに、第1のインク、及び、第2のインクによるドットを形成して画像を印刷する印刷装置であって、異なるドット径を有するドットにてヘッド組毎に複数形成されるパッチをバンド毎に有するテストパターンについて光沢度を測定した結果に基づいて、複数のパッチのうち、同じドット径のドットにてバンド毎に形成されたパッチ同士の光沢度の違いを表す光沢差を求め、光沢差によって決定されるドット径となるように、全てのヘッド組に含まれる第1のヘッド及び第2のヘッドから噴出される第1のインク及び第2のインクの量を調節する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置及び印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘッド部からインク等の液体を噴出して媒体上に液滴(ドット)を着弾させることで画像の印刷を行う印刷装置が知られている。印刷装置として、例えば、紫外光(UV)や可視光などの光を照射することによって硬化する光硬化性インク(例えば、UVインク)を噴出する印刷装置がある。このような印刷装置では、ノズルから媒体にUVインクを噴出した後、媒体に形成されたUVインクドットに光を照射する。これにより、UVインクドットが硬化して媒体に定着する(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−158793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の方法では、媒体上に噴出されたUVインクドットを光で硬化させることによってUVインクドット同士に生ずるブリード(滲み)の発生を抑制し、良好な画質の画像を形成しやすくなる。しかし、この方法でも画像の光沢差に関する問題が残る。例えば、媒体の幅方向に並ぶ複数のヘッド部からインクを噴出する、所謂ラインヘッドタイプの印刷装置においては、各ヘッド部のアライメントずれや媒体搬送時の蛇行等の影響によって、インクドットが媒体に着弾する位置がずれる場合がある。この場合、印刷された画像には場所によって光沢度に差が生じ、画質が悪化する。また、このような問題はUVインクを用いて印刷を行う場合に限らず、通常のインク(例えば、媒体に浸透することによって定着する一般的な水性インク等)を用いた印刷においても生じる問題である。
【0005】
本発明は、ラインヘッドタイプの印刷装置において、印刷される画像の画質を向上させることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための主たる発明は、搬送方向に搬送される媒体に第1のインクを噴出する第1のヘッドと、前記第1のヘッドと前記搬送方向に並び、前記媒体に第2のインクを噴出する第2のヘッドと、を有するヘッド組を前記搬送方向と交差する方向に複数有するヘッド部を備え、前記ヘッド組毎にインクが噴出される領域であるバンドに、前記第1のインクによるドット、及び、前記第2のインクによるドットを形成して画像を印刷する印刷装置であって、異なるドット径を有するドットにて前記ヘッド組毎に複数形成されるパッチを前記バンド毎に有するテストパターンについて光沢度を測定した結果に基づいて、複数の前記パッチのうち、同じドット径のドットにて前記バンド毎に形成されたパッチ同士の光沢度の違いを表す光沢差を求め、前記光沢差によって決定されるドット径となるように、全ての前記ヘッド組に含まれる前記第1のヘッド及び前記第2のヘッドから噴出される前記第1のインク及び前記第2のインクの量を調節することを特徴とする印刷装置である。
【0007】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】プリンター1の全体構成を示すブロック図である。
【図2】プリンター1の構成を表した概略側面図である。
【図3】図3Aは、ヘッドユニット30のカラーインクヘッド31〜34、及びクリアインクヘッド35における複数の短尺ヘッドの配置を説明する図である。図3Bは、各ヘッドの下面に配置されるノズル列の様子を説明する図である。
【図4】駆動信号COMについて説明する図である。
【図5】駆動パルスの振幅について説明する図である。
【図6】図6Aは、UVインクドットが正確な位置に着弾した場合の画像について説明する図である。図6Bは、UVインクドットが正確な位置に着弾しなかった場合の画像について説明する図である。
【図7】図7A及び図7Bは、インクドットのドット径を変更して画像を印刷した場合について比較する図である。
【図8】第1実施形態における検査工程のフローを表す図である。
【図9】第1実施形態において印刷されるテストパターンの一例を表す図である。
【図10】各バンドの第1番目のパッチの光沢差ΔGを算出する方法について具体的に説明する図である。
【図11】印刷工程においてプリンタードライバーによって行われる処理のフローを表す図である。
【図12】第2実施形態における検査工程のフローを表す図である。
【図13】a〜dの4種類のドット径にて形成されたテストパターンについて、光沢差ΔG及び粒状度σについてまとめたデータの一例を表す図である。
【図14】第3実施形態の検査工程でインクDutyを決定するためのフローを表す図である。
【図15】第3実施形態において或るバンド領域に印刷されるテストパターンの一例を表す図である。
【図16】インクDutyと光沢度との関係を表すグラフの一例を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0010】
搬送方向に搬送される媒体に第1のインクを噴出する第1のヘッドと、前記第1のヘッドと前記搬送方向に並び、前記媒体に第2のインクを噴出する第2のヘッドと、を有するヘッド組を前記搬送方向と交差する方向に複数有するヘッド部を備え、前記ヘッド組毎にインクが噴出される領域であるバンドに、前記第1のインクによるドット、及び、前記第2のインクによるドットを形成して画像を印刷する印刷装置であって、異なるドット径を有するドットにて前記ヘッド組毎に複数形成されるパッチを前記バンド毎に有するテストパターンについて光沢度を測定した結果に基づいて、複数の前記パッチのうち、同じドット径のドットにて前記バンド毎に形成されたパッチ同士の光沢度の違いを表す光沢差を求め、前記光沢差によって決定されるドット径となるように、全ての前記ヘッド組に含まれる前記第1のヘッド及び前記第2のヘッドから噴出される前記第1のインク及び前記第2のインクの量を調節することを特徴とする印刷装置。
このような印刷装置によれば、ラインヘッドタイプの印刷装置において、印刷される画像の画質を向上させることができる。
【0011】
かかる印刷装置であって、同じドット径を有するドットにて前記ヘッド組毎に形成される複数の前記パッチからそれぞれ測定された光沢度について、隣接する前記バンド間での光沢度の差から前記光沢差を算出し、算出された前記光沢差が規定値以下、または、最小となるようにドット径を選択し、選択された前記ドット径となるように、全ての前記ヘッド組に含まれる前記第1のヘッド及び前記第2のヘッドから噴出される前記第1のインク及び前記第2のインクの量を調節することが望ましい。
このような印刷装置によれば、バンド間の光沢差が規定値以下、または、最小となる時のドットサイズを選択して画像を印刷することにより、光沢差の小さい良好な画質の画像が印刷できる。
【0012】
かかる印刷装置であって、同じドット径を有するドットにて前記ヘッド組毎に形成される複数の前記パッチからそれぞれ測定された光沢度について、前記光沢度の平均値とそれぞれの光沢度との差に基づいて前記光沢差を算出し、算出された前記光沢差が規定値以下、または、最小となるようにドット径を選択し、選択された前記ドット径となるように、全ての前記ヘッド組に含まれる前記第1のヘッド及び前記第2のヘッドから噴出される前記第1のインク及び前記第2のインクの量を調節することが望ましい。
このような印刷装置によれば、バンド間の光沢差が規定値以下、または、最小となる時のドットサイズを選択して画像を印刷することにより、光沢差の小さい良好な画質の画像が印刷できる。
【0013】
かかる印刷装置であって、前記テストパターンについて各パッチの濃度を測定した結果に基づいて、複数の前記パッチのうち同じドット径を有するドットにて前記ヘッド組毎に形成されたパッチ同士の粒状性を表す粒状度を求め、前記粒状度が所定の閾値以下となるときのドット径で、全ての前記ヘッド組に含まれる前記第1のヘッド及び前記第2のヘッドから噴出される前記第1のインク及び前記第2のインクの量を調節することが望ましい。
このような印刷装置によれば、バンド間の光沢差に加えて粒状性を考慮することによって、より高画質な画像が印刷できる。
【0014】
かかる印刷装置であって、前記第1のヘッドと前記搬送方向に並び、前記媒体に第3のインクを噴出する第3のヘッドを備え、前記第1のインクはカラーインクであり、前記第3のインクはクリアインクである場合に、前記第1のインクの単位領域あたりの噴出量に応じて、前記第3のインクの単位領域あたりの噴出量を変更することが望ましい。
このような印刷装置によれば、画像を印刷するカラーインクの噴出量に応じてクリアインクの噴出量をコントロールすることにより、所望の大きさの光沢度を有する画像が印刷できるようになる。これにより、より高画質な画像が印刷できる。
【0015】
かかる印刷装置であって、光を照射する照射部を備え、前記インクは前記光の照射を受けることによって硬化するインクであることが望ましい。
このような印刷装置によれば、UV照射の制御によってドットの硬化をコントロールできるので、ドット同士のブリードを抑制して、良好な画質の画像を形成することができる。また、インク受容層を持たずインク吸収性の無い媒体に対しても印刷を行うことができる。
【0016】
また、搬送方向に搬送される媒体に第1のインクを噴出する第1のヘッドと、前記第1のヘッドと前記搬送方向に並び、前記媒体に第2のインクを噴出する第2のヘッドと、を有するヘッド組を前記搬送方向と交差する方向に複数有するヘッド部から、前記ヘッド組毎にインクが噴出される領域であるバンドに、前記第1のインクによるドット、及び、前記第2のインクによるドットを形成して画像を印刷する印刷方法であって、異なるドット径を有するドットにて前記ヘッド組毎に複数形成されるパッチを前記バンド毎に有するテストパターンについて光沢度を測定した結果に基づいて、複数の前記パッチのうち、同じドット径のドットにて前記バンド毎に形成されたパッチ同士の光沢度の違いを表す光沢差を求め、前記光沢差によって決定されるドット径となるように、全ての前記ヘッド組に含まれる前記第1のヘッド及び前記第2のヘッドから噴出される前記第1のインク及び前記第2のインクの量を調節することを特徴とする印刷方法、が明らかとなる。
【0017】
===印刷装置の基本的構成===
本実施形態において用いられる印刷装置の形態として、ラインプリンター(プリンター1)を例に挙げて説明する。
【0018】
<プリンター1の構成>
プリンター1は、紙、布、フィルムシート等の媒体に向けて、インク等の液体を噴出することで画像を記録する印刷装置である。プリンター1は、インクジェット方式のプリンターであるが、かかるインクジェット方式プリンターは、インクを噴出して印刷可能な印刷装置であれば、いかなる噴出方法を採用した装置でも良い。
【0019】
プリンター1では、紫外線(以下、UV)等の光を照射することによって硬化するインク、例えば紫外線硬化型インク(以下、UVインク)を噴出することにより、媒体に画像を印刷する。UVインクは、紫外線硬化樹脂を含むインクであり、UVの照射を受けると紫外線硬化樹脂において光重合反応が起こることにより硬化する。UVインクを用いた印刷では、UVの照射量や照射タイミングを制御することによって、媒体上に形成されるインクドットの硬化度やインクドットの形状をコントロールしやすい。したがって、前述したように、UVインクドット同士に生ずるブリード(滲み)の発生を抑制することで、良好な画質の画像を形成すること等が可能となる。また、UVインクを硬化させてドットを形成することによって、インク受容層を持たずインク吸収性の無い媒体に対しても印刷を行うことができる。
【0020】
なお、本実施形態のプリンター1は、UVインクとして、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンダ(M)、及びイエロー(Y)の4色のカラーインク、及び、無色透明なクリアインク(CL)を用いて画像の記録を行う。
【0021】
図1は、プリンター1の全体構造を示すブロック図である。プリンター1は、搬送ユニット20、ヘッドユニット30、照射ユニット40、検出器群50、及びコントローラー60を有する。コントローラー60は、外部装置であるコンピューター110から受信した印刷データに基づいてヘッドユニット30や照射ユニット40等の各ユニットを制御する制御部である。プリンター1内の状況は検出器群50によって監視されており、検出器群50は検出結果をコントローラー60に出力する。コントローラー60は検出器群50から出力された検出結果に基づいて各ユニットを制御する。
【0022】
<コンピューター110>
プリンター1は、外部装置であるコンピューター110と通信可能に接続されている。コンピューター110にはプリンタードライバーがインストールされている。プリンタードライバーは、表示装置にユーザーインターフェースを表示させ、アプリケーションプログラムから出力された画像データを印刷データに変換させるためのプログラムである。このプリンタードライバーは、フレキシブルディスクFDやCD−ROMなどの記録媒体(コンピューターが読み取り可能な記録媒体)に記録されている。また、プリンタードライバーはインターネットを介してコンピューター110にダウンロードすることも可能である。なお、このプログラムは、各種の機能を実現するためのコードから構成されている。
【0023】
コンピューター110はプリンター1に画像を印刷させるため、印刷させる画像に応じた印刷データをプリンター1に出力する。印刷データは、プリンター1が解釈できる形式のデータであって、各種のコマンドデータと、画素データとを有する。コマンドデータとは、プリンター1に特定の動作の実行を指示するためのデータである。このコマンドデータには、例えば、媒体供給を指示するコマンドデータ、媒体の搬送量を示すコマンドデータ、媒体排出を指示するコマンドデータがある。また、画素データは、印刷される画像の画素に関するデータである。
【0024】
ここで、画素とは画像を構成する単位要素であり、この画素が2次元的に並ぶことにより画像が構成される。印刷データにおける画素データは、媒体(例えば紙Sなど)上に形成されるドットに関するデータ(例えば、階調値)である。画素データは画素毎に、例えば2ビットのデータによって構成される。この2ビットの画素データは1つの画素を4階調で表現できるデータである。
【0025】
<搬送ユニット20>
図2に、本実施形態のプリンター1の構成を表した概略側面図を示す。
搬送ユニット20は、媒体を所定の方向(以下、搬送方向という)に搬送させるためのものである。この搬送ユニット20は、搬送方向上流側の搬送ローラー23A及び搬送方向下流側の搬送ローラー23Bと、ベルト24とを有する(図2)。不図示の搬送モーターが回転すると、上流側搬送ローラー23A及び下流側搬送ローラー23Bが回転し、ベルト24が回転する。媒体供給ローラー(不図示)によって供給された媒体は、ベルト24によって印刷可能な領域(後述するヘッドユニット30と対向する領域)まで搬送される。印刷可能な領域を通過した媒体はベルト24によって外部へ排出される。なお、搬送中の媒体はベルト24に静電吸着又はバキューム吸着されている。
【0026】
<ヘッドユニット30>
ヘッドユニット30は、媒体にUVインクを噴出するためのものである。ヘッドユニット30は搬送中の媒体に対してカラー(KCMY)及びクリア(CL)の各色インクを噴出することによってインクドットを形成し、媒体上に画像を印刷する。本実施形態のプリンター1はラインプリンターであり、ヘッドユニット30の各ヘッドは媒体幅分のドットを一度に形成することができる。
【0027】
図2に示されるプリンター1では、搬送方向の上流側から順にカラーインクヘッド31〜34が設けられている。カラーインクヘッドは、第1カラーインクヘッド31(以下、第1ヘッド31とも呼ぶ)と、第2カラーインクヘッド32(以下、第2ヘッド32とも呼ぶ)と、第3カラーインクヘッド33(以下、第3ヘッド33とも呼ぶ)と、第4カラーインクヘッド34(以下、第4ヘッド34とも呼ぶ)と、から構成される。本実施形態では、第1ヘッド31からブラックインク(K)を、第2ヘッド32からシアンインク(C)を、第3ヘッド33からマゼンタインク(M)を、第4ヘッド34からイエローインク(Y)をそれぞれ噴出する。ただし、カラーインクヘッド31〜34がそれぞれどの色のインクを噴出するかは任意であり、例えば、第1ヘッド31がイエローインク(Y)を噴出し、第2ヘッド32がブラックインク(B)を噴出するようにしてもよい。また、カラーインクヘッド31〜34の他に、上述のKCMY以外の色のインク(例えばライトシアンやメタリック色等)を噴出するカラーインクヘッドが設けられていてもよい。
【0028】
なお、第1ヘッド31と第2ヘッド32とが同じ色のインクを噴出するようにしてもよい。例えば、第1ヘッド31と第2ヘッド32とが共にシアンインク(C)を噴出してもよい。詳細は後述するが、本実施形態では媒体上に形成されるインクドットのドット径を調整することで、印刷される画像中の光沢の差が目立たないようにして画質の向上を図っている。つまり、噴出されるインクの色よりも形成されるインクドットの大きさがより重要である。
【0029】
カラーインクヘッド34の搬送方向下流側には、無色透明なクリア(CL)のUVインクを噴出するクリアインクヘッド35が設けられている。ここで、クリア(CL)のインクとは、色材を含まないか含んでいても少量の、一般的に「クリアインク」と呼ばれるインクである。以下、クリアインクヘッド35を第5ヘッド35とも呼ぶ。
【0030】
各ヘッドは各々、複数の短尺ヘッドから構成され、各短尺ヘッドはUVインクを噴出するための噴出口であるノズルを複数備えている。
【0031】
図3Aは、ヘッドユニット30のカラーインクヘッド31〜34、及びクリアインクヘッド35における複数の短尺ヘッドの配置を説明する図である。図3Bは、各短尺ヘッドの下面に配置されるノズル列の様子を説明する図である。なお、図3A及び図3Bはノズルを上面から仮想的に見た図である。
【0032】
第1ヘッド31では、媒体の搬送方向と交差する方向である媒体の幅方向に沿って31A〜31Hの8個の短尺ヘッドが千鳥列状に並んでいる。同様に、第2ヘッド32では、幅方向に沿って8個の短尺ヘッド32A〜32Hが千鳥列状に並んでいる。また、第3ヘッド33、第4ヘッド34、及び、第5ヘッド35についても同様である(図3A)。図3Aの例では、各ヘッドは8個の短尺ヘッドから構成されているが、各ヘッドを構成する短尺ヘッドの数は8個より多くてもよいし、少なくてもよい。
【0033】
各ヘッドの8個の短尺ヘッドは、媒体の幅方向に位置が揃うようにして設けられる。すなわち、第1ヘッドのn番目の短尺ヘッド31nと、第2ヘッドのn番目の短尺ヘッド32nと、第3ヘッドのn番目の短尺ヘッド33nと、第4ヘッドのn番目の短尺ヘッド34nと、第5ヘッドのn番目の短尺ヘッド35nとは、幅方向の同じ位置に設けられている。これらの5つの短尺ヘッドをn番目の「ヘッド組」と定義する。図3Aにおいては、A〜Hの8個のヘッド組が形成されている。そして、各ヘッド組から媒体上にUVインクを噴出してドットを形成することによって、媒体幅方向の所定の幅を有する領域に画像を形成する。この領域を「バンド」と呼ぶ。例えば、31A〜35Aからなるヘッド組Aに対応する領域はバンドAであり、短尺ヘッド31A〜34AからそれぞれKCMYのカラーインクを噴出し、短尺ヘッド35Aからクリアインクを噴出することにより、バンドAの領域に画像が形成される。同様にして、バンドB〜バンドHの領域にも、対応する各ヘッド組(B〜H)からインクが噴出されることによって画像が形成される。このように、媒体幅方向に並ぶバンドA〜Hによって印刷対象の画像(画像全体)が形成される。
【0034】
各短尺ヘッドには複数のノズル列が形成されている(図3B)。ノズル列は、インクを噴出するノズルをそれぞれ180個ずつ備えており、該ノズルは媒体の幅方向に沿って#1〜#180まで一定のノズルピッチ(例えば360dpi)で並んでいる。図3Bの場合は2列のノズル列が平行に並んでおり、各ノズル列のノズル同士は媒体の幅方向に720dpiずつずれた位置に設けられている。なお、1列のノズル数は180個には限られない。例えば、1列に360個のノズルを備えていても良いし、90個のノズルを備えていてもよい。また、各短尺ヘッドに設けられるノズル列の数も2列には限られない。
【0035】
各ノズルには、それぞれインクチャンバー及び圧電素子であるピエゾ素子(共に不図示)が設けられている。ピエゾ素子はユニット制御回路64により生成される駆動信号COMにより駆動される。そして、ピエゾ素子の駆動によりインクチャンバーが伸縮・膨張し、インクチャンバーに満たされたインクがノズルから噴出される。
【0036】
プリンター1では、駆動信号COMに従ってピエゾ素子に印加されるパルスの大きさによって、大きさの異なる(インク量の異なる)複数種類のインク液滴を各ノズルから噴出することができる。例えば、各ノズルからは、大ドットを形成し得る量の大インク滴、中ドットを形成し得る量の中インク滴、及び小ドットを形成し得る量の小インク滴からなる3種類のインクを噴出させることができる。そして、搬送中の媒体に対して各ノズルから断続的にインク滴が噴出されることによって、各ノズルは、媒体の搬送方向に沿ったドットライン(ラスタライン)を形成する。駆動信号COMと該駆動信号によって形成されるドットの大きさとの関係については後で説明する。
【0037】
<照射ユニット40>
照射ユニット40は、媒体に着弾したUVインクドットに向けてUVを照射するものである。媒体上に形成されたドットは、照射ユニット40からのUVの照射を受けることにより、硬化する。本実施形態の照射ユニット40は、照射部41を備えている。
【0038】
照射部41は、クリアインクヘッド35の搬送方向の下流側に設けられ(図2)、カラーインクヘッド31〜34及びクリアインクヘッド35によって媒体上に形成されたUVインクドットを硬化させるためのUVを照射する。照射部41の媒体幅方向の長さは媒体幅以上である。
【0039】
本実施形態において、照射部41は、UV照射の光源として発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)を備える。LEDは入力電流の大きさを制御することによって、照射エネルギーを容易に変更することが可能である。また、照射部41としてメタルハライドランプ等LED以外の光源を用いても良い。照射部41の光源は、照射部41内に収容されることによりクリアインクヘッド35(及びカラーインクヘッド31〜34)から隔離されている。これにより、光源から照射されるUVがクリアインクヘッド35の下面へ漏れるのを防ぎ、以って、当該下面に形成された各ノズルの開口付近でUVインクが硬化することによってノズルの目詰まり等が発生することを抑制している。
【0040】
なお、図2では照射ユニット40として、搬送方向の最下流側に照射部41を一つだけ備えているが、各カラーインクヘッドの下流にそれぞれ照射部41を一つずつ備える構成としてもよい。
【0041】
また、搬送方向の最下流側にさらに照射部42(不図示)を備える構成とし、照射部41及び照射部42からUVを照射することで、UVインクドットを2段階の工程で硬化させるようにしてもよい。例えば、照射部41からUVインクドットの表面を硬化(仮硬化)させる程度のエネルギーでUVを照射し、媒体搬送の最終段階で照射部42からUVインクドットの全体を硬化(完全硬化)させる程度のエネルギーでUVを照射する。これにより、UVインクドットの硬化度を調整し、各ヘッドからUVインクドットを噴出する際に、硬化度の高いUVインクドット同士が弾きあうことによってドットの着弾位置がずれるというような問題を生じにくくすることもできる。
【0042】
<検出器群>
検出器群50には、ロータリー式エンコーダー(不図示)や、媒体検出センサー(不図示)などが含まれる。ロータリー式エンコーダーは上流側搬送ローラー23Aや下流側搬送ローラー23Bの回転量を検出する。ロータリー式エンコーダーの検出結果に基づいて媒体の搬送量を検出することができる。媒体検出センサーは媒体供給中の媒体の先端の位置を検出する。
【0043】
<コントローラー>
コントローラー60は、プリンターの制御を行うための制御ユニット(制御部)である。コントローラー60は、インターフェース部61と、CPU62と、メモリー63と、ユニット制御回路64とを有する。
インターフェース部61は、外部装置であるコンピューター110とプリンター1との間でデータの送受信を行う。CPU62は、プリンター1の全体の制御を行うための演算処理装置である。メモリー63は、CPU62のプログラムを格納する領域や作業領域等を確保するためのものであり、RAM、EEPROM等の記憶素子によって構成される。そして、CPU62は、メモリー63に格納されているプログラムに従って、ユニット制御回路64を介して搬送ユニット20等の各ユニットを制御する。
【0044】
<画像印刷動作について>
プリンター1による画像印刷動作について簡単に説明する。
プリンター1がコンピューター110から印刷データを受信すると、コントローラー60は、まず、搬送ユニット20によって媒体供給ローラー(不図示)を回転させ、印刷すべき媒体をベルト24上に送る。媒体はベルト24上を一定速度で停まることなく搬送され、ヘッドユニット30、照射ユニット40の各ユニットを通過する。
【0045】
この間に、カラーインクヘッド31〜34の各ノズルからカラーインク(KCMY)を断続的に噴出させることによって、カラーインクドットからなる文字や画像を、媒体上に形成する。また、クリアインクヘッド35の各ノズルからクリアインク(CL)を断続的に噴出させることによって、所定の画素にクリアインクドットを形成する。そして、照射ユニット40の照射部41からUVを照射してカラーインクドット及びクリアインクドットを硬化させる。こうして媒体に画像が印刷される。
最後に、コントローラー60は、画像の印刷が終了した媒体を媒体排出する。
【0046】
===駆動信号COMの説明===
図4に、駆動信号COMについて説明する図を示す。図に示すように、駆動信号COMは、ラッチ信号LATの立ち上がりタイミングを区切りとした期間Tを1つの単位として生成される。なお、ラッチ信号は他の信号の開始・終了等の目印となる信号である。期間Tには、ラッチ信号LAT又はチェンジ信号CHの立ち上がりタイミングによって区切られる区間T1〜T4が含まれる。また、区間T1〜T4には後述する駆動パルスがそれぞれ含まれる。繰り返し周期である期間Tは、媒体に対してノズルが1画素分移動する間の期間に対応する。例えば、印刷解像度が720dpiの場合、期間Tは、媒体が1/720インチ搬送される期間に相当する。そして、各画素について形成されるインクドットを表すデータである画素データSIに基づいて、期間Tに含まれる各区間の駆動パルスPS1〜PS4をピエゾ素子に印加することによって、ノズルから噴出されるインクの量を調節し、複数階調からなる画像の表現を可能としている。
【0047】
駆動信号COMは、繰り返し周期における区間T1で生成される第1波形部SS1と、区間T2で生成される第2波形部SS2と、区間T3で生成される第3波形部SS3と、区間T4で生成される第4波形部SS4とを有する。ここで、第1波形部SS1は駆動パルスPS1を有している。また、第2波形部SS2は駆動パルスPS2を、第3波形部SS3は駆動パルスPS3を、第4波形部SS4は駆動パルスPS4をそれぞれ有している

【0048】
画素データSIが2ビットで表されるデータであるものとして、画素データSIが[00]の場合、駆動信号COMの第1区間信号SS1がピエゾ素子PZTへ印加され、ピエゾ素子PZTは駆動パルスPS1により駆動される。この駆動パルスPS1に応じてピエゾ素子PZTが駆動すると、インクが噴出されない程度の圧力変動がインクに生じて、インクメニスカス(ノズル部分で露出しているインクの自由表面)が微振動する。
【0049】
画素データSIが[01]の場合、駆動信号COMの第3区間信号SS3がピエゾ素子PZTへ印加され、ピエゾ素子PZTは駆動パルスPS3により駆動される。この駆動パルスPS3に応じてピエゾ素子PZTが駆動すると、小程度の量のインクが噴出され、媒体に小ドットが形成される。
【0050】
画素データSIが[10]の場合、駆動信号COMの第2区間信号SS2がピエゾ素子PZTへ印加され、ピエゾ素子PZTが駆動パルスPS2により駆動される。この駆動パルスPS2に応じてピエゾ素子PZTが駆動すると、中程度の量のインクが噴出され、媒体に中ドットが形成される。
【0051】
画素データSIが[11]の場合、駆動信号COMの第2区間信号SS2及び第4区間信号SS4がピエゾ素子PZTへ印加され、ピエゾ素子PZTが駆動パルスPS2及び駆動パルスPS4により駆動される。これらの駆動パルスPS2及び駆動パルスPS4に応じてピエゾ素子PZTが駆動すると、媒体に大ドットが形成される。
【0052】
また、それぞれの種類のドットの大きさ(小・中・大ドット毎のインクの噴出量)は駆動パルス波形の振幅によって規定される。図5に駆動パルスの振幅について説明する図を示す。図5は、上述の中ドットを形成するための駆動パルスPS2を拡大した例である。駆動パルスPS2の振幅は最大電圧Vmaxと最小電圧Vminとの電位差Vhで表され、このVhの大きさによって実際のピエゾ素子の駆動量(インクチャンバーの伸縮量)が決定される。つまり、パルス波形の振幅Vhの大きさを変更することでノズルから噴出されるインク量が変更される。例えば、PS2の振幅がVhのときに3plのインク滴が噴出され、3pl分のドット(中ドット)が形成される。また、PS2の振幅を図5の破線で表されるVhaに変更すると(Vha>Vh)、3.5plのインクが噴出され、PS2の振幅がVhの時よりもやや大きめの中ドットが形成される。また、PS2の振幅を図5の一点鎖線で表されるVhbに変更すると(Vh>Vhb)、2.5plのインクが噴出され、PS2の振幅がVhの時よりもやや小さめの中ドットが形成される。
【0053】
このように、同じ種類のドット(上述の例では中ドット)を形成する場合でも、駆動パルスの振幅の大きさを変更することによって、形成されるドットの大きさ(ドット径)を調整することが可能である。小ドットや大ドットを形成する場合も同様である。
【0054】
===印刷される画像について===
次に、プリンター1で印刷される画像について説明する。前述のように、プリンター1では、A〜Hの8つのヘッド組に対応するバンドA〜HにそれぞれUVインクドットを形成することで画像を印刷する。印刷の際には、原画像のデータから印刷データ(画素データ)を生成し、該印刷データ(画素データ)により指定される画素に所定の大きさのインクドットを打ち込むことにより、画像を形成する。したがって、インクドットが印刷データで指定された位置(画素)に正確に形成されれば、良好な画質の画像が得られる。しかし、インクドットが印刷データで指定された位置(画素)からずれた位置に形成される場合、形成される画像の画質は悪化する。
【0055】
図6Aは、UVインクドットが正確な位置に着弾した場合の画像について説明する図である。図6Bは、UVインクドットが正確な位置に着弾しなかった場合の画像について説明する図である。両図の場合とも、ヘッド組Aの短尺ヘッド31A(以下、第1ヘッド31Aとも呼ぶ)及び短尺ヘッド32A(以下、第2ヘッド32Aとも呼ぶ)を用いてバンドAに画像を印刷する場合の例について示している。図の白丸で表されるのが第1ヘッド31Aによって形成されるドットであり、黒丸で表されるのが第2ヘッド32Aによって形成されるドットである。図6A及び図6Bにおいて、形成されるドットの個数やドットの大きさは説明のために概略的に描かれたものであり、印刷の際に実際に形成されるドットはこれとは異なるものである。
【0056】
図6Aでは、2つの短尺ヘッド31A及び31Bの位置関係が正常(幅方向のずれがない)であり、また、媒体が搬送方向に真直ぐに搬送される場合、すなわち、ドットの着弾位置がずれる要因が少ない場合に形成されるドットの様子を表している。この場合、両ヘッドから噴出されるインクドットは、印刷データで指定された画素に正確に着弾する。図6Aで示される各ドットの位置が正確な着弾点を示している。図のように、第1ヘッド31Aと第2ヘッド32Aとの幅方向位置が揃っている場合、言い換えるとヘッドのアライメントずれが無い場合、第1ヘッド31Aによって形成されるドット(白丸)と第2ヘッド32Aによって形成されるドット(黒丸)との幅方向の着弾位置にずれは生じない。
【0057】
これに対して、図6Bでは、2つの短尺ヘッドのうち、第2ヘッド32Aの位置が、媒体幅方向にずれている場合、言い換えるとヘッドのアライメントずれが生じている場合に形成されるドットの様子を表している。ずれが生じていない第1ヘッド31Aによって形成されるドット(白丸)は、図6Aと同じ位置に着弾している。一方、アライメントずれが生じている第2ヘッド32Aによって形成されるドット(黒丸)は、図6Aと比較して媒体幅方向にずれた位置に着弾している。つまり、黒丸で示されるドットは、印刷データで指定された画素からずれた位置に形成される。なお、このような着弾位置のズレは、ヘッドのアライメントずれによる影響の他に、媒体が蛇行して搬送されるような場合にも発生する。
【0058】
図6Aと図6Bとを比較すると、バンドAにおいて第2ヘッド32Aによって形成されるドット(黒丸)の着弾位置が異なるため、両画像は印象が異なって見える。例えば、図6Aと図6Bとでは画像の色合いの違い(色差)が大きくなる。インクドットの着弾位置がずれるため、白丸と黒丸との中心間距離が変化することにより、各色インクドットの重なり方に差が生じるため色差が発生する。
【0059】
また、図6Aと図6Bとでは光沢度に差(光沢差)が生じる。インクドットの着弾位置がずれるため、媒体表面においてドットが「密」に形成される領域と「疎」に形成される領域とが生じる。ドットが「密」に形成される部分では、画像表面も平面形状に近くなるため画像表面(媒体表面)に入射した光は正反射し、光沢度が高くなる。一方、ドットが「疎」に形成される部分では、ドットが分散するので画像表面が粗くなり、画像表面(媒体表面)に入射した光は散乱して反射し、光沢度が低くなる。そのため、画像表面において部分的に光沢度が変化して見えることになる。
【0060】
このように、インクドットの着弾位置にずれが生じると、場所によって色差や光沢差が大きくなり、画質が悪化する。すなわち、各ヘッド組が担当するバンド間で色差や光沢差が大きくなると、印刷画像の画質が悪化する。なお、このようなインクドットの着弾位置のずれは、プリンター1の製造段階におけるヘッドユニット30の取り付け誤差(アライメントずれ)や、搬送ユニット20の搬送特性等に起因し、製造されるプリンター毎に発生する固有の問題である。したがって、良好な画質の画像を印刷するためにはプリンター毎に補正を行う必要がある。
【0061】
===第1実施形態===
第1実施形態では、前述のような印刷画像の画質悪化を抑制するために、バンド毎の光沢差を補正して、画像全体にわたって光沢度の差が少ない良好な画質の画像を印刷する。具体的には、駆動信号COMのパルス振幅Vhの大きさ(図5参照)を調整することによって、媒体上に形成されるドットのドット径を変更する。ドットの大きさが変わると媒体の所定の領域中に形成されるドットの割合を示す被覆率やドット同士の重なり方が変化するため、画像表面における反射光の散乱の度合いが変わり、それに応じてバンド間の光沢差も変化する。
【0062】
図7A及び図7Bに、インクドットのドット径を変更して画像を印刷した場合について比較する図を示す。図7Aは或る所定のドット径で印刷を行った場合の例を表し、図7Bは図7Aよりも大きなドット径で印刷を行った場合の例を表す。両図とも、左側に示される図はドット着弾位置のずれが生じていない場合であり、右側に示される図は幅方向にaだけドット着弾位置のずれが生じた場合を表している。また、図で白丸で表されるドットと斜線で表されるドットとは異なるヘッド(短尺ヘッド)から噴出されたドットであり、各ドットの黒く塗りつぶされた部分は、ドット同士が重複する部分を表している。
【0063】
図7Aにおいて、着弾位置のずれが生じていない場合(左側の図)にはドット同士の重複が見られるが、着弾位置のずれが生じている場合(右側の図)にはドット同士の重複は見られない。つまり、図7Aの例では、着弾位置のずれによって媒体上に形成されるドットの重なり方に差が生じやすくなっている。これにより、ドットによって媒体が覆われる割合(被覆率)が変化する。例えば、図7Aの左側の図では、右側の図と比較して、黒塗り部分の面積分だけ被覆率が小さくなる。したがって、画像表面に入射した光がドット部分で反射する割合も変化し、光沢度の差も大きくなる。
【0064】
これに対して、図7Bでは、着弾位置のずれが生じていない場合(左側の図)、及び、着弾位置のずれが生じている場合(右側の図)共にドット同士の重複が見られる。つまり、図7Bの例では、着弾位置のずれによって媒体上に形成されるドットの重なり方に差が生じにくい。例えば、図7Bの左側の図と右側の図とでは、ドットの黒塗り部分の面積の合計が同程度となっているため、媒体の被覆率も同程度である。したがって、画像表面に入射した光がドット部分で反射する割合も同等となり、ドットの位置ずれが生じているにもかかわらず光沢度の差は目立ちにくくなる。
【0065】
このように、ドットの着弾位置にずれが生じた場合であっても、ドット径の大きさが変化することにより、画像の光沢度に与える影響も異なってくる。ただし、実際に印刷を行う場合には、印刷データで指示される階調値によって媒体上の所定領域あたりに噴出されるインク量が部分的に異なるため、一概にドット径を大きくすれば光沢差が小さくなるとは言いきれない。
【0066】
そこで、本実施形態においては、印刷時において形成されるドット径が最適な大きさになるようにパルス振幅Vh(駆動信号COM)を調整する。これにより、アライメントずれ等によってドットの着弾位置にずれが生じた場合でも、各バンド間における光沢差を目立ちにくいようにして、良好な画質の画像を印刷する。
【0067】
<ドット径調整の概要>
プリンター1を用いた印刷において、各バンド間に発生する光沢差が或る値(規定値)以下、若しくは光沢差が最小となるようにして印刷を行うための動作の概要について説明する。
【0068】
本実施形態では、検査工程と印刷工程の2つの工程でドット径の大きさを調整しつつ、画像を印刷する。検査工程では、プリンター1を用いてパルス波形の振幅Vhを変更しながら(すなわち、ドット径を変更しながら)印刷されるテストパターンについて光沢度を測定することによって、実際にバンド毎に生じている光沢差を算出する。そして、算出された当該バンド間における光沢差が規定値以下となるときのドット径、または、最も小さくなるときのドット径を選択し、プリンター1のメモリー63等の記憶媒体にそのドット径を形成させるための駆動信号COMの波形(パルス波形の振幅Vh)を記憶させる。続いて、印刷工程において、検査工程で記憶された当該ドット径となるように全てのヘッドからインクドットを噴出させることで実際に画像の印刷を行なう。以下、各工程の詳細について説明する。
【0069】
<検査工程>
検査工程では、複数のパッチからなるテストパターンを印刷して光沢度を測定し、その結果に基づいて各ヘッドから噴出するべきインクドットの大きさ(ドット径)を規定するパルス振幅Vhを決定する。このVhは印刷時において、ヘッドユニット40の全てのヘッドに共通して用いられる。図8に検査工程のフローを表す図を示す。検査工程はS101〜S105の処理を実行することによって行なわれる。
【0070】
はじめに、テストパターンが印刷される(S101)。テストパターンは、バンドA〜バンドHの8つのバンドについてそれぞれKCMYのカラーインクを用いて複数のパッチを印刷することによって形成される。また、テストパターンは実際の印刷に用いる媒体と同じ媒体に印刷される。
【0071】
図9に、本実施形態で印刷されるテストパターンの一例を示す。図のように、本実施形態において印刷されるテストパターンは、バンド毎に複数の矩形パッチを有する。例えば、図9ではA〜Hの各バンドについてそれぞれ1〜4の4つのパッチを有し、合計で8×4=32個のパッチが形成される。以下、バンドAにおけるパッチ1を「パッチA−1」のように表記する。図9に示されるように各パッチの近傍に当該パッチを表す符号(A−1,A−2,…,H−4)を印刷しておくと、次工程の光沢度の測定(S102)時にデータの取り違い等が生じにくくなる。また、パッチの形状は矩形でなくてもよい。
【0072】
各パッチは第1〜第4のヘッドのそれぞれからUVインクを噴出することで所定の色にて所定階調値で印刷される。ここでは説明のため、各パッチは中ドットのみで形成されるものとする。例えば、パッチA−1は4色のカラーインク(KCMY)の中ドットによって形成される。そして、駆動信号COMのパルス振幅Vh(図5参照)の大きさを徐々に変更することによって、同じバンドに属するパッチ同士で、中ドットのドット径が徐々に大きくなるようにして形成される。つまり、パッチ1〜4のうち、パッチ1では振幅Vh1のパルス波形によって最も小さな中ドットが形成される。同様に、パッチ2では振幅Vh2のパルス波形(Vh1<Vh2)によって、パッチ3では振幅Vh3のパルス波形(Vh2<Vh3)によって徐々にドット径が大きくなるように中ドットが形成される。そして、パッチ4では振幅Vh4のパルス波形(Vh3<Vh4)によって最も大きな中ドットが形成される。例えば、バンドAにおいて、パッチA−1は2.5pl分のインクによる中ドットで形成され、パッチA−2は3.0pl分の中ドットで形成され、パッチA−3は3.5pl分の中ドットで形成され、パッチA−4は4.0pl分の中ドットによって形成される。なお、ここでは、インク噴出量が大きいほど媒体に着弾した際にドット径の大きなドットが形成されるものとする。
【0073】
また、同じ数字が付されたパッチは、全て同じドット径のドットによって形成される。例えば、図9の破線で囲まれる領域に含まれるA−1〜H−1の8個のパッチは全て2.5plの中ドットによって形成される。なお、図9では各バンドについて4種類のドット径にて4種類のパッチが形成されているが、前述した駆動信号COMのパルス幅Vhの大きさを調整することで、ドット径の大きさを細かく変更しながら5種類以上のパッチを各バンドについて形成させることもできる。各バンドにおけるパッチの種類(ドット径の大きさの種類)を多くすることで、画像補正の精度をより向上させることが可能となる。
【0074】
続いて、形成されたパッチについてそれぞれ光沢度の測定を行なう(S102)。パッチの光沢度の測定は光沢度計を用いて行なわれる。光沢度計は光源から測定面に向けて所定の角度(入射角)で光を照射し、測定面で反射された光(反射光)を正反射方向に設置された受光部で検出することにより、光沢度を測定することが可能な機器である。光沢度計としては、例えばコニカミノルタ社製の光沢度計GM−60を用いることができる。また、光の角度は20度,45度,60度,75度,85度で測定する方法があるが、本実施形態では20度の入射角/反射角で測定を行う。光沢度は角度の大きさに比例的な値を示すため、全ての角度を測定しなくても、20度の光について測定を行うことで他の角度の光沢度を測定することができる。
【0075】
各パッチについて取得された光沢度の値は、メモリー63等の記憶部に一時的に保存される。例えば、パッチA−1から取得された光沢度の値は(GA1)としてメモリー63に保存される。
【0076】
次に、同じドット径で形成されたパッチ同士の光沢差ΔGを算出する(S103)。前述のようにアライメントずれが生じているヘッド組によって形成される画像では光沢度が変化することから、同じドット径で形成されたパッチ同士でもそれを形成したヘッド組の状態によってバンド間における光沢度の測定値が異なる場合がある。そこで、バンド間における光沢度の差の大きさを光沢差として算出する。本実施形態では、同じドット径で形成された複数のパッチの光沢度の平均値と、個々のパッチの光沢度との差を比較することによって、光沢差ΔGを算出する。
【0077】
まず、バンドmに属する第n番目のパッチ(パッチm−n)について、同じドット径で形成されたパッチ(各バンドの第n番目のパッチ)の光沢度の平均値と、パッチm−nの光沢度との差ΔGmnを求める。ΔGmnは以下の(式1)によって算出される。

(式1)において、Gmnはパッチm−nから測定された光沢度を表し、Gnaveは各バンドにおける第n番目のパッチの光沢度の平均を表す。
そして、バンドA〜Hについて求められたΔGAn〜ΔGHnのうちの最大値ΔGn(max)と、最小値ΔGn(min)との差が、第n番目のパッチの光沢差ΔGとして算出される。
【0078】
図10に、各バンドの第1番目のパッチの光沢差ΔGを算出する方法について具体的に説明する図を示す。まず、図9の破線で囲まれる領域に属する同じドット径で形成されたパッチ(各バンドの第1番目のパッチ)A−1、B−1、〜、H−1から得られる8個の光沢度データ(GA1)、(GB1)、〜、(GH1)が測定される。(GA1)〜(GH1)は図10のようにばらつきを有するデータである。そして、各々の光沢度データと当該8個のデータの平均値G1aveとの差ΔGA1〜ΔGH1が算出される。なお、(式1)で示されるように、ΔGmnは絶対値として算出される。次に、算出されたΔGA1〜ΔGH1の8個のデータについて最小値と最大値が求められる。図10の例では、最大値ΔG1(max)はΔGD1であり、最小値ΔG1(min)はΔGG1である。そして、最大値と最小値との差(ΔGD1−ΔGG1)が、第1番目のパッチにおけるバンド間光沢差ΔGとして算出される。
【0079】
なお、光沢差ΔGをΔGAn〜ΔGHnの平均値として算出するものとしてもよい。すなわち、ΔG=(ΔGAn+ΔGBn+ 〜 +ΔGHn)/8として算出してもよい。
【0080】
算出された光沢差ΔGが或る規定値以下、または、該光沢差ΔGが最も小さくなるときのドット径を選択し、実際の印刷時に使用されるドット径として決定する(S104)。決定されたドット径は、メモリー63に保存される(S105)。例えば、図9の場合、A〜Hの8つのバンドにおいて、それぞれ1〜4番目のパッチの光沢差ΔG〜ΔGが算出される。算出された4つの光沢差のうちΔGが所定の値(例えば光沢差が10)以下、または、最小となるときのドット径(上述の例においては2.5pl、3.0pl、3.5pl、4.0plのいずれかの大きさの中ドット)が実際の印刷時に用いられるドット径(中ドット)として決定される。言い換えると、最適なドット径を形成することができるパルス振幅Vhが決定される。
【0081】
ここで、実際の画像について光沢差が目立つのは、隣接するバンド間(例えばバンドB−C間や、バンドD−E間)で生じる光沢差が大きい時である。そのため、隣接バンド間における光沢差をドット径選択の基準とする方法でも良い。
【0082】
この場合、バンドA〜Hの8つのバンドについて、隣接するバンド間での光沢差をそれぞれ算出し、当該隣接バンド間の光沢差が規定値以下、または、最小となるようにドット径が選択される。具体的には、隣接するバンドA−B間の光沢差(|GA1−GB1|)、バンドB−C間の光沢差(|GB1−GC1|)、…、バンドG−H間の光沢差(|GG1−GH1|)の7つの光沢差を算出し、算出された光沢差がそれぞれ規定値(例えば光沢差が10)以下となる時、もしくは、光沢差の平均が最小となる時のドット径が、実際の印刷時に使用されるドット径として選択され(S104)、メモリー63に保存される(S105)。
【0083】
そして、バンド間の光沢差ΔGが規定値以下、または、最小となる時のドット径のドットにて画像を形成することにより、バンド間における光沢度の違いが目立ちにくくなり、画像全体を良好な画質で印刷することが可能になる。
【0084】
なお、上述の例においては中ドットのみで各パッチを形成していたが、実際の印刷時において、例えば2ビットの画素データを用いて印刷を行う場合は、小ドット、中ドット、大ドット等複数種類の大きさのドットによって画像が形成される。そこで、テストパターンを形成する際に、一つのパッチが小ドット、中ドット、大ドットによって混成されるようにしておく。すなわち、上述のS101の工程において、駆動信号COMの振幅がVh1〜Vh4の場合にそれぞれ形成される小・中・大ドットのセットについてのテストパターンを形成する。例えば、パッチA−1は、振幅Vh1を有するパルス波形によってバンドAの領域に形成される小ドット・中ドット・大ドットによって構成され、パッチB−2は、振幅Vh2を有するパルス波形によってバンドBの領域に形成される小ドット・中ドット・大ドットによって構成される。
【0085】
このようなテストパターンについてS102〜S105の処理を行なうことで、複数種類のドットを用いた印刷において、バンド間の光沢差ΔGが規定値以下、または、最小となるときの各ドットの大きさ(パルス波形の振幅Vhを有する駆動信号COM)を決定する。実際に印刷を行う際には、決定された当該パルス振幅Vhを有する駆動信号COMを用いて小・中・大ドットを形成させることで、バンド間における光沢度の違いが目立ちにくくなり、画像全体をより良好な画質で印刷することができる。
【0086】
<印刷工程>
印刷工程では、ユーザーのもとでプリンター1を用いて実際に画像を印刷する。その際、検査工程で決定されたドット径となるようなパルス波形の振幅Vhを有する駆動信号COMを用いて印刷が行われる。
【0087】
プリンター1のユーザーが、アプリケーションプログラム上で描画した画像の印刷を指示すると、コンピューター110のプリンタードライバーが起動する。プリンタードライバーは、アプリケーションプログラムから画像データを受け取り、プリンター1が解釈できる形式の印刷データに変換し、印刷データをプリンターに出力する。アプリケーションプログラムからの画像データを印刷データに変換する際に、プリンタードライバーは、解像度変換処理・色変換処理・ハーフトーン処理などを行う。図11に印刷工程においてプリンタードライバーによって行われる処理のフローを表す図を示す。
【0088】
はじめに、アプリケーションプログラムから出力された画像データ(テキストデータ、イメージデータなど)を、媒体に印刷する際の解像度(印刷解像度)に変換する処理(解像度変換処理)が行なわれる(S201)。例えば、印刷解像度が720×720dpiに指定されている場合、アプリケーションプログラムから受け取ったベクター形式の画像データを720×720dpiの解像度のビットマップ形式の画像データに変換する。
【0089】
なお、解像度変換処理後の画像データの各画素データは、RGB色空間により表される各階調(例えば256階調)のRGBデータである。
【0090】
次に、RGBデータをCMYK色空間のデータに変換する色変換処理が行なわれる(S202)。CMYK色空間の画像データは、プリンターが有するインクの色に対応したデータである。この色変換処理は、RGBデータの階調値とCMYKデータの階調値とを対応づけたテーブル(色変換ルックアップテーブルLUT)に基づいて行われる。
【0091】
なお、色変換処理後の画素データは、CMYK色空間により表される256階調の8ビットCMYKデータである。
【0092】
次に、高階調数のデータを、プリンターが形成可能な階調数のデータに変換するハーフトーン処理が行なわれる(S203)。例えば、ハーフトーン処理により、256階調を示すデータが、2階調を示す1ビットデータや、4階調を示す2ビットデータに変換される。ハーフトーン処理では、ディザ法・γ補正・誤差拡散法などが利用される。ハーフトーン処理されたデータは、印刷解像度(例えば720×720dpi)と同等の解像度である。ハーフトーン処理後の画像データでは、画素ごと1ビット又は2ビットの画素データが対応しており、この画素データは各画素でのドット形成状況(ドットの有無、ドットの大きさ)を示すデータになる。
【0093】
その後、マトリクス状に並ぶ画素データを、プリンター1に転送すべきデータ順に、画素データごとに並び替えるラスタライズ処理が行なわれる(S204)。例えば、各ノズル列のノズルの並び順に応じて、画素データを並び替える。
【0094】
ラスタライズ処理されたデータに、印刷方法に応じたコマンドデータを付加するコマンド付加処理が行なわれる(S205)。コマンドデータとしては、例えば媒体の搬送速度を示す搬送データなどがある。
【0095】
これらの処理を経て生成された印刷データは、プリンタードライバーによりプリンター1に送信される。そして、プリンター1によって実際に印刷が行われる。印刷の際には、検査工程で決定されたバンド間の光沢差が最小となるドット径を有するドットが形成されるよう、メモリー63に記憶されている所定のパルス振幅Vhを有する駆動信号COMが各ノズルのピエゾ素子に印加される。これにより、全てのヘッド(ノズル)から噴出されるインクドット(小・中・大ドット)の径が揃うようになり、バンド間の光沢差を目立たなくする。
【0096】
なお、上述の例では、コンピューター110にインストールされたプリンタードライバーによって、印刷工程における各種処理を実行する構成について説明されていたが、プリンタードライバーがプリンター1のコントローラー60にインストールされ、プリンター1によってそれらの処理が行なわれるのであってもよい。
【0097】
<第1実施形態のまとめ>
第1実施形態では、検査工程において、異なるドット径を有するドットにてヘッド組毎に形成される複数のパッチをバンド毎に有するテストパターンを印刷し、該テストパターンの光沢度を測定した結果に基づいて各バンド間におけるパッチ同士の光沢差を求める。該光沢差は、複数のパッチのうち、同じドット径のドットにてバンド毎にそれぞれ形成されたパッチ同士の光沢度の違いを表すものである。そして、バンド間の光沢差が規定値以下、または、最小となる時のドット径が印刷に用いるドット径として選択され、メモリー等に記憶される。その後、印刷工程において、該決定されたドット径となるように、各ヘッド組からそれぞれインクが噴出される。
これにより、印刷装置1のようなラインヘッドタイプの印刷装置において、バンド間における光沢度の差が目立ちにくい、良好な画質の画像を印刷することができる。
【0098】
===第2実施形態===
第1実施形態の方法によれば、バンド間の光沢差に着目し、ドット径が所定の大きさになるように駆動信号COMを調整することによって該光沢差をなるべく小さくして、印刷される画像の画質を向上させることができる。しかし、バンド間の光沢差のみに着目してドット径を決定すると、光沢差については目立たなくすることができても、画像の粒状性が悪化する場合がある。粒状性とは、画像全体のざらつきの程度を表すものであり、例えば、媒体上に形成されるインクドット(粒子)が大きすぎると個々の粒子が目立ち、画像がざらついたような印象を与える。したがって、印刷装置1を用いて印刷を行う際に、バンド間の光沢差が小さくなったとしても粒状性が悪ければ、印刷される画像の画質は悪化する。
そこで、第2実施形態では、バンド間の光沢差に加えて、画像の粒状性を考慮することによって、より高画質な画像を印刷する。
【0099】
<粒状性について>
粒状性の程度を評価する概念として、粒状度がある。本実施形態では「RMS粒状度」を用いて画像の粒状性評価を行なう。
RMS粒状度は、画像濃度のバラツキを二乗平均の平方根(root-mean-square)で表すものであり、下記の式2によって算出される。

式2でDiは画像中の或る場所における濃度データ(第i番目の濃度データ)を表し、nは濃度データの個数を表す。また、Daveはn個の濃度データの平均値を表す。
【0100】
<第2実施形態の検査工程>
第2実施形態では、検査工程において最適なドット径のドットを形成するためのパルス振幅Vhを決定するまでの処理が第1実施形態と異なる。印刷装置の構成、及び、印刷工程における各種処理については第1実施形態と同様である。
図12に第2実施形態における検査工程のフローを表す図を示す。S121〜S123、及びS127の工程は第1実施形態の対応する各工程(S101〜S103、S105)と同様であり、S124〜S126工程が第1実施形態とは異なる。以下、異なる点について説明する。
【0101】
第2実施形態の検査工程では、テストパターンの印刷・光沢度の測定を行なって光沢差ΔGを算出した後(S121〜S123)、当該テストパターンの各パッチについて濃度の測定を行なう(S124)。使用されるテストパターンは第1実施形態で説明したテストパターンと同一のものである(図9参照)。パッチの濃度測定は、マイクロデンシトメーター(微小濃度計)を用いて行なわれる。各パッチの濃度を測定する際、同じパッチ内であればどの部分を測定しても基本的に濃度は一定と考えられる。しかし、本実施形態ではマイクロメートルオーダーの微小領域についての濃度を測定することから、印刷面にゴミやかすれが存在すると正確な濃度が測定しにくくなる。そこで、各パッチについて複数点の濃度を測定し、所定の濃度範囲に含まれるデータの平均を当該パッチの濃度とする。
【0102】
測定された濃度はメモリー63に保存される。例えば、パッチA−1から測定された濃度(平均濃度)がDA1としてメモリー63に一時的に保存される。このようにして図9に示される32個のパッチについてそれぞれ濃度が測定される。
【0103】
続いて、各パッチから測定された濃度値を用いて、ドット径(パルス振幅Vh)ごとにRMS粒状度σが算出される(S125)。例えば、図9の破線で囲まれたパッチA−1〜パッチH−1の8つのパッチから測定された8つの濃度値DA1〜DH1から、各バンド(A〜H)の1番目のパッチについての粒状度σが算出される。算出の際には上述の式2が用いられる。図9の場合、式2においてn=8であり、DAaveはDA1〜DH1の平均値である。この動作を各ドット径について行い、4種類のドット径(パルス振幅Vh1〜Vh4)についてそれぞれRMS粒状度σ〜σが求められる。
【0104】
また、メモリー63には粒状性を評価する基準となる値σが閾値として登録されている。算出されたRMS粒状度(例えばσ〜σ)がこの閾値σ以下の場合、形成される画像の粒状性は良好なものと言え、高画質な画像を印刷することができる。一方、算出されたRMS粒状度が閾値σよりも大きい場合、形成される画像は粒子のざらつきが目立つようになり、画質は悪くなる。このように、ドット径毎にRMS粒状度の大きさを算出して評価することにより、印刷される画像の粒状性を判断することができる。なお、粒状度の基準値σはユーザーの好みや印刷される画像の用途に応じて変更可能なものとしておくとよい。
【0105】
そして、第1実施形態で算出された光沢差ΔG、及び、上述の粒状度σの両方を用いて、実際の印刷時において採用するドット径(パルス振幅Vh)が決定され(S126)、メモリー63に保存される(S127)。ドット径の決定に際して、光沢差ΔGが規定値以下若しくは最小となり、かつ、粒状度σが所定の基準値σ以下となるときのドット径が選択される。図13に、a〜dの4種類のドット径にて形成されたテストパターンについて、光沢差ΔG及び粒状度σについてまとめたデータの一例を示す。図で、ΔGの行に示される数値はS123においてドット径毎に算出される光沢差ΔG〜ΔGの値である。また、σの行に示される○印または×印は、S125においてドット径毎に算出されたRMS粒状度σ〜σと基準となる閾値σとを比較した結果に基づいて、粒状性がよい場合(σ≦σ)を○、粒状性が悪い場合(σ<σ)を×として表している。
【0106】
図13で、粒状度σについて着目すると、ドット径cのときに評価が×となっているため、ドット径cが印刷時に採用されるドット径の候補から外され、ドット径a、b、dが候補に残る。続いて光沢差ΔGに着目し、候補の中で最もΔGの値が小さくなるときのドット径であるドットbが、印刷時のドット径として決定される。すなわち、ドット径bのドットを形成するようなパルス振幅Vhを有する駆動信号COMを用いて全てのヘッドからUVインクを噴出させることによって、画像が印刷される。
【0107】
仮に、光沢差ΔGのみに着目した場合、該光沢差が最小となるドット径cが印刷時に用いられるドット径として選択されることになる。しかし、ドット径cにて印刷を行うと、粒状性の悪い画像が形成され、画質を十分に向上させることができない。そこで、本実施形態のように、光沢差と粒状性を同時に考慮して最適なドット径を決定することで、バンド間の光沢差が小さく、かつ、粒状性も良好な高画質な画像を印刷することが可能となる。
【0108】
なお、図12において、光沢差ΔGを算出するまでの工程(S122及びS123)と、粒状度σを算出するまでの工程(S124及びS125)との順序を入れ替えて各処理を実行してもよい。例えば、先に粒状度σを算出して、粒状性の評価を行い、評価の結果不採用となったドット径で形成されるパッチについては光沢度の測定を行なわないようにすることができる。このようにすれば、無駄な測定作業を行なわなくてすむため、検査工程を効率化させることができる。
また、本実施形態における粒状性の評価指標として、RMS粒状度以外の他の指標を用いて粒状性を評価してもよい。
【0109】
<第2実施形態のまとめ>
第2実施形態では、光沢差に加えて粒状性を考慮することによってドット径を決定して、当該ドット径を用いて印刷を行う。
具体的には、第1実施形態と同様のテストパターンについて各パッチの濃度を測定した結果に基づいて、複数のパッチのうち、同じドット径を有するドットにてヘッド組毎に形成されたパッチ同士の粒状性を表すRMS粒状度を算出する。そして、該RMS粒状度が所定の閾値以下となるときのドット径で、かつ、光沢差が規定値以下または最小となるときのドット径を実際の印刷時におけるドット径として採用する。
これにより、バンド間の光沢差が小さく、さらに粒状性も良好な画像を形成することが可能となり、より高画質な印刷を実現できる。
【0110】
===第3実施形態===
第3実施形態では、前述の各実施形態のようにドット径を調整した上で、さらに、カラーインク及びクリアインクの単位面積あたりの噴出量(インクDuty)を変更することで画像の光沢度を調整する。
【0111】
インクDutyの調整は、検査工程において複数のパッチからなるテストパターンを印刷し、当該テストパターンの各パッチの光沢度を測定した結果に基づいてカラーインクの噴出量に対するクリアインクの噴出量を調整することで行なわれる。図14に第3実施形態の検査工程でインクDutyを決定するためのフローを示す。当該フローは第1・第2実施形態の検査工程において説明したドット径決定のためのフロー(図8、図12)とは独立して実施される。
【0112】
はじめに、テストパターンを印刷する(S131)。本実施形態で用いるテストパターンは第1実施形態で用いたテストパターン(図9)とは異なり、別途印刷されるものである。図15に第3実施形態において或るバンド領域に印刷されるテストパターンの一例を示す。テストパターンはヘッド組ごと(バンド毎)に第1〜第4ヘッド(カラーインクヘッド)、及び、第5ヘッド(クリアインクヘッド)からDutyを変更しながらそれぞれカラーインク、及び、クリアインクを噴出することによって複数のパッチを印刷することによって形成される。つまり、図15に示されるように、カラーDuty、クリアDutyをそれぞれ複数段に分けて形成される複数のパッチからなるテストパターンが、ヘッド組毎(バンド毎)に形成される。なお、上述の例ではKCMYの4色のカラーインク及びクリアインクを同時に噴出することでテストパターンを形成しているが、KCMYの各色についてそれぞれテストパターンを形成させても良い。すなわち、図15に示されるようなテストパターンがKCMYの色毎に分けて形成されても良い。その場合は、後述の印刷工程において、KCMY各色インクの噴出量に対して、クリアインクの噴出量が個別に調整される。例えば、ブラックインク(K)のDutyに対してクリアインク(CL)のDutyが定められ、シアンインク(C)のDutyに対してクリアインク(CL)のDutyが別途定められる。
【0113】
各パッチはカラーインクの単位面積あたりの噴出量(以下、カラーDutyとも呼ぶ)とクリアインクの単位面積あたりの噴出量(以下、クリアDutyとも呼ぶ)とを変更しながら図のように複数形成される。図15では、カラーインクDuty、クリアインクDuty共5段階に変更しながらパッチが形成されているが、それぞれのインクDUtyの変更の幅を細く設定するほど、正確なデータを得ることができる。なお、各パッチの配置や形状は図15の例には限られない。
テストパターンが印刷された後、前述の光沢度計を用いて各パッチについてそれぞれ光沢度の測定が行われる(S132)。
【0114】
そして、各パッチの測定結果に基づいて、インクDutyと光沢度との関係が求められる(S133)。図16はインクDutyと光沢度との関係を表すグラフの一例である。図16に相当するグラフはヘッド組毎(バンド毎)に作成される。図の縦軸はクリアDutyを表し、横軸はカラーDutyを表す。そして、図中で等高線のように描かれる曲線はそれぞれ光沢度の大きさを表している。例えば、画像を印刷する際にカラーDutyがDco(A1)となるようにカラーインクを噴出させる場合、光沢度の大きさがAとなる画像を印刷するためには、クリアDutyがDcl(A1)またはDcl(A2)となるようにクリアインクを噴出させればよい。逆に、クリアDutyをDcl(A1)とした場合、光沢度の大きさがAとなる画像を印刷するために必要なカラーDutyはDco(A1)またはDco(A2)となる。
求められた関係は、メモリー63に保存される(S134)。
【0115】
そして、印刷工程において、該関係に基づいてカラーDutyに対するクリアDutyを調整しながら印刷が行われる。具体的には、図11の色変換処理及びハーフトーン処理において、RGBのデータからKCMYのデータが作成され、カラーインク(KCMY)の単位面積当たりの噴出量の合計が決定された後、該カラーインクのDutyに応じて、所定の光沢度となるようなクリアインクのDutyがヘッド組毎に決定され、実際にインクが噴出される。このように、ヘッド組毎にカラーDutyに対してクリアDutyを調整することで、バンド毎に所望の光沢度を有する画像を印刷することができる。つまり、バンド間の光沢度の差がより目立ちにくい、高画質な画像を印刷することができるようになる。
【0116】
<第3実施形態のまとめ>
第3実施形態では、カラーインクの単位領域あたりの噴出量(カラーDuty)に応じて、クリアインクの単位領域あたりの噴出量(クリアDuty)を変更することで、ヘッド組毎(バンド毎)に所定の光沢度を有する画像を形成する。すなわち、クリアDutyを調整することによって、画像の光沢度を整える。
画像の光沢度の大きさを自由にコントロールすることができるようになるため、バンド間における光沢差が目立ちにくくなり、より高画質な印刷が実現できる。
【0117】
===その他の実施形態===
一実施形態としてのプリンター等を説明したが、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0118】
<印刷装置について>
前述の各実施形態では、印刷装置の一例としてプリンターが説明されていたが、これに限られるものではない。例えば、カラーフィルタ製造装置、染色装置、微細加工装置、半導体製造装置、表面加工装置、三次元造型機、液体気化装置、有機EL製造装置(特に高分子EL製造装置)、ディスプレイ製造装置、成膜装置、DNAチップ製造装置などのインクジェット技術を応用した各種の印刷装置に、本実施形態と同様の技術を適用してもよい。
【0119】
<ノズル列について>
前述の実施形態では、KCMYの4色、及び、クリアインクを使用して画像を形成する例が説明されていたが、これに限られるものではない。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタ、ホワイト等、KCMY、及びCL以外の色のインクを用いて画像の記録を行ってもよい。
また、ヘッド部のノズル列の配列順も任意である。例えば、KとCのノズル列の順番が入れ替わっていてもよいし、Kインクのノズル列数が他のインクのノズル列数より多い構成などであってもよい。
【0120】
<ピエゾ素子について>
前述の各実施形態では、液体を噴出させるための動作を行う素子としてピエゾ素子PZTを例示したが、他の素子であってもよい。例えば、発熱素子や静電アクチュエーターを用いてもよい。
【0121】
<使用するインクについて>
前述の各実施形態では、印刷に用いる液体(インク)として、UV等の光の照射を受けることによって硬化するインク(例えばUVインク)を用いた例について説明されていたが、印刷に用いるインクはこのようなUVインクには限られない。例えば、媒体に浸透することにより定着する一般的な水性インクや、媒体上で溶媒が蒸発することで定着する溶剤系インク等、他のインクを用いた印刷装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0122】
1 プリンター1、
20 搬送ユニット、23A 上流側搬送ローラー、23B 下流側搬送ローラー、
24 ベルト、
30 ヘッドユニット、31〜34 カラーインクヘッド、35 クリアインクヘッド、
40 照射ユニット、41 照射部、
50 検出器群、
60 コントローラー、61 インターフェース部、62 CPU、63 メモリー、
64 ユニット制御回路、
110 コンピューター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送方向に搬送される媒体に第1のインクを噴出する第1のヘッドと、前記第1のヘッドと前記搬送方向に並び、前記媒体に第2のインクを噴出する第2のヘッドと、を有するヘッド組を前記搬送方向と交差する方向に複数有するヘッド部を備え、
前記ヘッド組毎にインクが噴出される領域であるバンドに、前記第1のインクによるドット、及び、前記第2のインクによるドットを形成して画像を印刷する印刷装置であって、
異なるドット径を有するドットにて前記ヘッド組毎に複数形成されるパッチを前記バンド毎に有するテストパターンについて光沢度を測定した結果に基づいて、
複数の前記パッチのうち、同じドット径のドットにて前記バンド毎に形成されたパッチ同士の光沢度の違いを表す光沢差を求め、
前記光沢差によって決定されるドット径となるように、
全ての前記ヘッド組に含まれる前記第1のヘッド及び前記第2のヘッドから噴出される前記第1のインク及び前記第2のインクの量を調節することを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷装置であって、
同じドット径を有するドットにて前記ヘッド組毎に形成される複数の前記パッチからそれぞれ測定された光沢度について、隣接する前記バンド間での光沢度の差から前記光沢差を算出し、
算出された前記光沢差が規定値以下、または、最小となるようにドット径を選択し、
選択された前記ドット径となるように、
全ての前記ヘッド組に含まれる前記第1のヘッド及び前記第2のヘッドから噴出される前記第1のインク及び前記第2のインクの量を調節することを特徴とする印刷装置。
【請求項3】
請求項1に記載の印刷装置であって、
同じドット径を有するドットにて前記ヘッド組毎に形成される複数の前記パッチからそれぞれ測定された光沢度について、前記光沢度の平均値とそれぞれの光沢度との差に基づいて前記光沢差を算出し、
算出された前記光沢差が規定値以下、または、最小となるようにドット径を選択し、
選択された前記ドット径となるように、
全ての前記ヘッド組に含まれる前記第1のヘッド及び前記第2のヘッドから噴出される前記第1のインク及び前記第2のインクの量を調節することを特徴とする印刷装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の印刷装置であって、
前記テストパターンについて各パッチの濃度を測定した結果に基づいて、
複数の前記パッチのうち同じドット径を有するドットにて前記ヘッド組毎に形成されたパッチ同士の粒状性を表す粒状度を求め、
前記粒状度が所定の閾値以下となるときのドット径で、
全ての前記ヘッド組に含まれる前記第1のヘッド及び前記第2のヘッドから噴出される前記第1のインク及び前記第2のインクの量を調節することを特徴とする印刷装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の印刷装置であって、
前記第1のヘッドと前記搬送方向に並び、前記媒体に第3のインクを噴出する第3のヘッドを備え、
前記第1のインクはカラーインクであり、前記第3のインクはクリアインクである場合に、
前記第1のインクの単位領域あたりの噴出量に応じて、
前記第3のインクの単位領域あたりの噴出量を変更することを特徴とする印刷装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の印刷装置であって、
光を照射する照射部を備え、
前記インクは前記光の照射を受けることによって硬化するインクであることを特徴とする印刷装置。
【請求項7】
搬送方向に搬送される媒体に第1のインクを噴出する第1のヘッドと、前記第1のヘッドと前記搬送方向に並び、前記媒体に第2のインクを噴出する第2のヘッドと、を有するヘッド組を前記搬送方向と交差する方向に複数有するヘッド部から、
前記ヘッド組毎にインクが噴出される領域であるバンドに、前記第1のインクによるドット、及び、前記第2のインクによるドットを形成して画像を印刷する印刷方法であって、
異なるドット径を有するドットにて前記ヘッド組毎に複数形成されるパッチを前記バンド毎に有するテストパターンについて光沢度を測定した結果に基づいて、
複数の前記パッチのうち、同じドット径のドットにて前記バンド毎に形成されたパッチ同士の光沢度の違いを表す光沢差を求め、
前記光沢差によって決定されるドット径となるように、
全ての前記ヘッド組に含まれる前記第1のヘッド及び前記第2のヘッドから噴出される前記第1のインク及び前記第2のインクの量を調節することを特徴とする印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−86429(P2013−86429A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230993(P2011−230993)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】