印刷装置
【課題】基材に形成されたパターン形状を高精度に矯正することが可能な印刷装置、を提供する。
【解決手段】印刷装置は、印刷版12に形成されたパターン形状を、印刷版12にその平面方向の張力を付与することにより矯正する装置である。印刷装置は、プリテンション付与装置20と、温度変化に伴って熱膨縮可能な棒状導電体パターン31と、温度制御部50とを有する。プリテンション付与装置20は、印刷版12の周縁に接続され、印刷版12に対して予張力を付与する。棒状導電体パターン31は、印刷版12の周縁に沿って配列され、印刷版12に対して、予張力に抗する方向の圧縮力を付与する。温度制御部50は、棒状導電体パターン31の温度を制御する。棒状導電体パターン31の熱膨縮によって印刷版12に付与される圧縮力が変化し、印刷版12に所定の張力が付与される。
【解決手段】印刷装置は、印刷版12に形成されたパターン形状を、印刷版12にその平面方向の張力を付与することにより矯正する装置である。印刷装置は、プリテンション付与装置20と、温度変化に伴って熱膨縮可能な棒状導電体パターン31と、温度制御部50とを有する。プリテンション付与装置20は、印刷版12の周縁に接続され、印刷版12に対して予張力を付与する。棒状導電体パターン31は、印刷版12の周縁に沿って配列され、印刷版12に対して、予張力に抗する方向の圧縮力を付与する。温度制御部50は、棒状導電体パターン31の温度を制御する。棒状導電体パターン31の熱膨縮によって印刷版12に付与される圧縮力が変化し、印刷版12に所定の張力が付与される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般的には、印刷装置に関し、より特定的には、印刷によりレジスト材や導電性ペースト材料などの機能性樹脂材料をパターニング形成する際、フォトリソグラフィで得られるパターン位置精度と同等の位置精度を有したパターンを得るために、パターン形状を矯正する機構を備える印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の印刷装置に関して、たとえば、特開2000−177102号公報には、版枠の温度変化に基づく寸法変化や、スクリーンのテンション低下等に起因する印刷精度の低下を抑制することを目的としたスクリーン印刷装置が開示されている(特許文献1)。また、特開2006−62241号公報には、精度に優れた印刷が可能であるとともに、繰り返し長期間使用することができ、かつ、取り扱い性および汎用性に優れるとともに、製造コストの低減を図ることを目的としたスクリーン印刷用製版が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−177102号公報
【特許文献2】特開2006−62241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、印刷技術は、微細化用途への応用が進められており、たとえば、フラットパネルディスプレイなどの製造工程において、μmオーダーの微細パターンの形成に利用されている。このような微細パターンの形成においては、特に積層パターンを形成する場合に重ね合わせ時の位置精度が低いと、抵抗不良や絶縁不良に起因して回路の動作不良が発生する。このため、パターンの位置精度は、文字や美術品用途の印刷と比較して、非常に高いレベルで求められる。
【0005】
高精度の位置合わせを行なうためには、印刷版の材料も考慮する必要がある。一般的に、印刷版の材料として、数100μmオーダーの厚さを有するアルミニウム板が用いられている。しかしながら、アルミニウムの線膨張係数は、フラットパネルディスプレイなどに一般的に用いられ、基板材料であるガラスや石英等の線膨張係数と比較して、1桁程度大きい。このため、温度変化による寸法変化の差が、印刷版と基板との間で大きくなり、高精度な位置合わせを行なうことが困難となる。
【0006】
このため、高い位置精度が要求される印刷版の材料としては、熱膨張係数の小さいガラスや石英等の材料を用いることが望ましい。しかしながら、このような材料を用いたとしても、印刷版のサイズがm(メートル)サイズになると、全ての印刷位置のパターンを、サブμmから数μm以下の精度で位置合わせを行なうことが困難となる。このため、印刷版等に形成されたパターンを下地等のパターンの位置に合わせるなど、パターン位置を形成されるべき位置に矯正する必要がある。
【0007】
また、被印刷物(基板)は、下地パターンを形成する過程において熱処理など様々な工程を経ており、このため、基板毎にその下地パターンの形成位置や寸法が異なることがある。すなわち、上述したように、印刷版等に形成されたパターンを下地等のパターンの位置にサブμmから数μm以下の精度で合わせるためには、印刷毎に基板に対して印刷版に形成されたパターンを矯正する必要がある。
【0008】
このようなパターン矯正技術としては、アルミニウムの印刷版の場合は、版の周縁を万力等により引っ張ることでパターンを矯正する方法が考えられる。
【0009】
また、上述の特許文献1に開示された印刷装置では、中空の版枠内にヒーターおよび冷却管を配置し、設定された目標温度と一致するように温度調節が行なわれる。これにより、周囲温度の変化に起因するパターン寸法変動を抑制したり、印刷版の張力低下時のテンション付与を行ない、印刷精度の低下を抑制したりする。また、上述の特許文献2に開示された印刷用製版は、所定の開口形状の開口部が形成されたマスク材を有する印刷版と、印刷版が張設された版枠とを備える。版枠が内外両側方向に変形可能に構成されることにより、開口部の開口形状を調節する。
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、周囲温度変化や、印刷版の経時的な変形という、長期的な寸法変化に対応する手法である。たとえば、印刷版を予めパターン形成された被印刷物上に精度よく重ね合わせるために、被印刷物1枚ごとに寸法矯正を行なうような対応はきわめて困難である。
【0011】
また、特許文献2に記載の方法は、ねじの押し引きによる寸法矯正を基本としている。すなわち、寸法矯正点数や間隔に大きく依存するところがあり、矯正点に応力が集中し、その部分の変位量が特異的に多くなるので、一般的には辺に沿って変位分布の少ない矯正を行なうことは極めて困難である。
【0012】
そこでこの発明の目的は、上記の課題を解決することであり、基材に形成されたパターン形状を高精度に矯正することが可能な印刷装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明に従った印刷装置は、基材に形成されたパターン形状を、基材にその平面方向の張力を付与することにより矯正する印刷装置である。印刷装置は、プリテンション付与装置と、温度変化に伴って熱膨縮可能な複数のテンション調節部と、温度制御部とを備える。プリテンション付与装置は、基材の周縁に接続され、基材に対して予張力を付与する。複数のテンション調節部は、基材の周縁に沿って配列され、基材に対して、予張力に抗する方向の圧縮力を付与する。温度制御部は、複数のテンション調節部の温度を制御する。複数のテンション調節部の熱膨縮によって基材に付与される圧縮力が変化し、基材に所定の張力が付与される。
【0014】
このように構成された印刷装置によれば、複数のテンション調節部の温度制御を通じて、基材に付与される圧縮力を自在に調整する。これにより、基材に所定の張力を付与し、基材に形成されたパターン形状を高精度に矯正することができる。
【0015】
また好ましくは、温度制御部は、複数のテンション調節部の温度を個々に調節可能である。このように構成された印刷装置によれば、複数のテンション調節部の温度を個々に調節することによって、基材に形成されたパターン形状を任意の形状、寸法に矯正することができる。
【0016】
また好ましくは、複数のテンション調節部は、複数の棒状の導電体パターンが配列されてなる。このように構成された印刷装置によれば、複数のテンション調節部を基材の周縁に沿って精細に配列することができる。このため、基材に形成されたパターン形状をより高精度に矯正することができる。
【0017】
また好ましくは、印刷装置は、ダクト部材をさらに備える。ダクト部材は、複数のテンション調節部を取り囲むように基材の周縁に沿って設けられている。ダクト部材は、冷媒が流通される冷媒通路を形成する。このように構成された印刷装置によれば、冷媒の流通により複数のテンション調節部の初期温度を所定の値に設定することができる。これにより、複数のテンション調節部の温度制御を通じたパターン形状の矯正を、より高精度に行なうことができる。
【0018】
また好ましくは、温度制御部は、複数のテンション調節部に電圧を印加する電源部と、電源部と複数のテンション調節部との間の電気的な接続を開閉するスイッチ部とを含む。このように構成された印刷装置によれば、簡易な構成で、複数のテンション調節部の温度制御を実現することができる。
【0019】
また好ましくは、プリテンション付与装置から基材に対して付与される予張力は、基材の変形が弾性変形範囲内に収まるように設定される。このように構成された印刷装置によれば、基材の塑性変形や破断を防ぐことができる。
【0020】
また好ましくは、複数のテンション調節部の発熱による変形量は、予張力の付与による基材の変形量よりも小さく設定される。このように構成された印刷装置によれば、基材の座屈を防ぐことができる。
【0021】
また好ましくは、プリテンション付与装置は、基材に付与する予張力を一定に保持するための保持機構を含む。このように構成された印刷装置によれば、パターン形状の矯正時に、プリテンション付与装置から基材に一定のプリテンションを付与した状態を保つことができる。
【0022】
また好ましくは、基材は、略矩形の平面形状を有する。複数のテンション調節部は、基材の4辺の各辺に沿って配列されている。プリテンション付与装置は、基材に対して、基材の各辺の略直交方向に予張力を付与するように設けられる。このように構成された印刷装置によれば、略矩形の基材に形成されたパターン形状を、自在に矯正することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上に説明したように、この発明に従えば、基材に形成されたパターン形状を高精度に矯正することが可能な印刷装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の実施の形態における印刷装置を示す平面図である。
【図2】図1中のII−II線上に沿った印刷装置を示す断面図である。
【図3】図1中の印刷装置に搭載される印刷版の第1具体例を示す平面図である。
【図4】図1中の印刷装置に搭載される印刷版の第2具体例を示す平面図である。
【図5】棒状導電体パターンの発熱温度と、棒状導電体パターンの熱膨張量との関係を示すグラフである。
【図6】有限要素シミュレーションに用いられる印刷版および棒状導電体パターンのモデルを示す図である。
【図7】図6中の2点鎖線VIIで囲まれた範囲を拡大して示す図である。
【図8】図6中に示すモデルの解析条件を示す表である。
【図9】図8中の条件のもと実施した有限要素シミュレーションの解析結果を示すグラフである。
【図10】図9中の2点鎖線Xで囲まれた範囲を示すグラフである。
【図11】図9中の2点鎖線XIで囲まれた範囲を示すグラフである。
【図12】図6中に示すモデルの別の解析条件を示す表である。
【図13】図12中の条件のもと実施した有限要素シミュレーションの解析結果を示すグラフである。
【図14】図13中の2点鎖線XIVで囲まれた範囲を示すグラフである。
【図15】図13中の2点鎖線XVで囲まれた範囲を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
この発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下で参照する図面では、同一またはそれに相当する部材には、同じ番号が付されている。
【0026】
図1は、この発明の実施の形態における印刷装置を示す平面図である。図2は、図1中のII−II線上に沿った印刷装置を示す断面図である。
【0027】
図1および図2を参照して、まず、本実施の形態における印刷装置10の基本的な構成について説明すると、印刷装置10は、基材としての印刷版12に形成されたパターン形状を、印刷版12にその平面方向の張力を付与することにより矯正する装置である。印刷装置10は、プリテンション付与装置20と、温度変化に伴って熱膨縮可能な複数のテンション調節部としての棒状導電体パターン31と、温度制御部50とを有する。プリテンション付与装置20は、印刷版12の周縁12a〜12dに接続され、印刷版12に対して予張力を付与する。棒状導電体パターン31は、印刷版12の周縁12a〜12dに沿って配列され、印刷版12に対して、予張力に抗する方向の圧縮力を付与する。温度制御部50は、複数の棒状導電体パターン31の温度を制御する。複数の棒状導電体パターン31の熱膨縮によって印刷版12に付与される圧縮力が変化し、印刷版12に所定の張力が付与される。
【0028】
続いて、本実施の形態における印刷装置10の構造について詳細に説明する。
印刷装置10は、印刷版12を保持するための基台としての微動ステージ14および吸着ステージ13をさらに有する。微動ステージ14は、印刷版12の平面方向に位置移動可能に構成されている。微動ステージ14上に吸着ステージ13が搭載されている。印刷版12は、吸着ステージ13上に吸着保持される。
【0029】
印刷版12は、略矩形の平面形状を有する。印刷版12は、周縁12a〜12dを有する。周縁12aと周縁12cとは、互いに対向して配置され、周縁12bと周縁12dとは、互いに対向して配置される。
【0030】
本実施の形態では、印刷版12が、ガラス基板から形成され、3000mm×3000mm、厚さ0.7mmの大きさを有する。印刷版12の上面には、アライメントパターンと、図示しない回路等の親撥液パターンとが形成されている。
【0031】
印刷版12に形成されているパターンは、重ね合わせ印刷を行なう被印刷物(基板)に形成されている下地のパターンよりも、縮尺倍率が若干小さくなるように形成されている。
【0032】
具体的には、印刷版12に形成されているパターン寸法は、理想とする印刷パターンの設計寸法よりも、予め6ppm程度小さくなるように形成されている。すなわち、被印刷物に形成されている下地のパターンの縦、横の長さを1とした場合、印刷版12に形成されているパターンの縦、横の長さは、0.999994(=1−1×0.000006)に設定されている。
【0033】
複数の棒状導電体パターン31は、互いに間隔を隔てて周縁12a〜12dの各周縁に沿って配列されている。本実施の形態では、複数の棒状導電体パターン31が等間隔に配列されている。棒状導電体パターン31は、周縁12a〜12dの各周縁に接続される一方端を有し、各周縁から遠ざかる方向に棒状に延びて形成されている。
【0034】
棒状導電体パターン31は、電流が流された時に熱膨張可能な金属から形成されている。棒状導電体パターン31は、ニクロム、カンタル、クロメルなどの抵抗体から形成されている。本実施の形態では特に、ニクロムの薄板をエッチングすることによって複数の棒状導電体パターン31が形成されている。このような構成により、複数の棒状導電体パターン31を、周縁12a〜12dの各周縁に沿ってより高密度に配置することができる。
【0035】
印刷装置10は、ダクト部材としてのフィルム26をさらに有する。フィルム26は、複数の棒状導電体パターン31を覆うように設けられている。フィルム26は、複数の棒状導電体パターン31の上下両面を挟み込む形態で設けられている。フィルム26は、印刷版12に固着されている。フィルム26は、高い耐熱性を有する高分子材料から形成されることが好ましい。本実施の形態では、フィルム26としてポリイミドフィルムが用いられている。
【0036】
棒状導電体パターン31とフィルム26の間には、隙間が形成されており、この隙間によって、複数の棒状導電体パターン31が配置される冷媒通路としての冷却油通路41が形成されている。冷却油通路41は、周縁12a〜12dの各周縁に沿って延びるように形成されている。冷却油通路41には、冷却油が流通される。冷却油通路41は、排出口27および排出口28を通じて温度調節器29に接続されている。温度調節器29は、たとえば、オイル冷却が可能なオイルクーラから構成されている。
【0037】
なお、複数の棒状導電体パターン31を冷却する冷媒は、オイルに限られず、たとえば水であってもよい。
【0038】
プリテンション付与装置20は、テンショナ21およびクランプ部材22を含んで構成されている。本実施の形態では、テンショナ21およびクランプ部材22が組となって、周縁12a〜12dの各周縁の外周上にそれぞれ配置されている。クランプ部材22は、フィルム26の外縁を把持する。テンショナ21は、クランプ部材22に接続されている。
【0039】
テンショナ21は、フィルム26を介して印刷版12をその平面方向に引っ張る機能を有する。本実施の形態では、テンショナ21は、印刷版12に対して、周縁12a〜12dの各周縁の略直交方向にプリテンションを付与するように設けられている。
【0040】
テンショナ21は、印刷版12に対するプリテンション状態を電気的に保持することが可能な、パルスモータ駆動の電動シリンダから構成されている。すなわち、テンショナ21は、印刷版12に付与するプリテンションを一定に保持するための保持機能を有する。クランプ部材22とテンショナ21との間には、図示しないロードセルが設けられている。このような構成により、電動シリンダの変位量を目標荷重値になるように制御し、印刷版12に対するプリテンション荷重を精密に調整することができる。
【0041】
なお、プリテンション付与装置20は、上記構成に限られず、たとえば、テンショナ21をウォームギア等の機構から構成し、印刷版12をワイヤーを介して引っ張る構成としてもよい。
【0042】
温度制御部50は、パルス電源51、配線52およびスイッチ53を含んで構成されている(図2を参照のこと)。パルス電源51は、配線52を介して棒状導電体パターン31に電気的に接続されている。スイッチ53は、配線52の経路上に設けられており、その開閉操作により、パルス電源51から棒状導電体パターン31に対する電圧印加がオン、オフされる。
【0043】
一般的に、抵抗体の発生熱量と印加電圧との関係は、比例関係にある。このため、棒状導電体パターン31に所定の電圧を印加することによって、棒状導電体パターン31の発生熱量を制御することが可能である。
【0044】
また、本実施の形態では、温度制御部50が、複数の棒状導電体パターン31の温度を個々に調節可能となるように構成されている。より具体的には、複数の棒状導電体パターン31の各々に対応してスイッチング素子であるスイッチ53が設けられており、1つのパルス電源51によって電圧印加される。このような構成により、個々の棒状導電体パターン31に対してたとえばPWM(パルス幅変調)制御を行なうことによって、簡易なシステム構成で、個々の棒状導電体パターン31の発熱量を制御することが可能となる。
【0045】
続いて、本実施の形態における印刷装置10の動作の一例について説明する。
予め、被印刷物である基板を吸着ステージ13上に吸着保持しておき、必要に応じて、微動ステージ14によって後述する計測のための概略の位置あわせを行なう。基板上のアライメントパターンを図示しない複数のCCD等のカメラを用いて観察することにより、各アライメントパターンの重心位置を計測し、パターン間距離からパターン間寸法を計測する。その後、吸着ステージ13による基板の吸着保持を解除し、図示しない搬送手段を用いて基板を搬出する。さらに、インク等の印刷材料が塗布された印刷版12を装置内に搬入し、吸着ステージ13上に載置する。
【0046】
次に、吸着ステージ13上で印刷版12を吸着保持し、上述した基板のアライメントパターン計測と同様の手順で、印刷版12上のアライメントパターンの位置計測を行なう。なお、このステップは必要に応じて省略してもよい。
【0047】
次に、吸着ステージ13による印刷版12の吸着保持を解除し、印刷版12の端部に接続されたフィルム26の端部を、クランプ部材22によって把持する。そして、テンショナ21によって、印刷版12の各周縁に対して略直交する四方向にプリテンションを付与する。
【0048】
このとき、印刷版12に付与するプリテンション量は、印刷版12の変形が弾性変形範囲内に収まるように設定される。また好ましくは、プリテンション量は、印刷版12の元寸法と、理想とする印刷パターンの設計寸法との差の2倍程度に設定される。たとえば、印刷版12の元寸法と、理想とする印刷パターンの設計寸法との差が、6ppmの倍率差である場合、印刷版12に付与するプリテンション量がその2倍の12ppm分となるように印刷版12を引っ張る。
【0049】
次に、プリテンションを付与した状態における印刷版12のアライメントパターン位置およびパターン間寸法を計測する。その計測値と、先に計測した被印刷物である基板のアライメントパターン間寸法との差を算出し、算出した値を後述する印刷版12の必要な寸法矯正量とする。
【0050】
次に、テンショナ21を構成する電動シリンダのパルスモータを励磁することによって、印刷版12のプリテンション状態を保持した状態で、パルス電源51から棒状導電体パターン31に電圧を印加する。棒状導電体パターン31が発熱することによって熱膨張する。棒状導電体パターン31の熱膨張に伴って、テンショナ21から付与されたプリテンション方向に抗する方向の反力が生じる。結果、熱膨張した棒状導電体パターン31がプリテンション状態の印刷版12を押し戻すことになり、印刷版12上のパターン形状が矯正される。
【0051】
この際、棒状導電体パターン31に対する印加電圧、すなわち発熱量は、棒状導電体パターン31の線膨張係数と、必要な寸法矯正量とから予め算出して決定される。矯正量は、印刷版12のプリテンション量以下、すなわち、引っ張り弾性変形の範囲内で制御される。一例を挙げれば、矯正量は、プリテンション付与前の印刷版12の元寸法の1倍〜1+12ppm倍の範囲で制御される。このような範囲内で寸法矯正を行なうことによって、印刷版12に圧縮変形が生じることがなく、座屈の発生を抑制することができる。
【0052】
また、矯正中において、適宜微動ステージ14を駆動させながら印刷版12の位置合わせを行ない、パターン間距離の変化をフィードバック制御して印加電圧を調整することも可能である。この場合、より高精度な寸法矯正を実現することができる。
【0053】
また、本実施の形態では、冷却油通路41に冷却油を流すことにより、棒状導電体パターン31のベースとなる温度を所望の値に設定することができる。これにより、電圧印加による棒状導電体パターン31の温度制御、延いては、パターン形状の矯正を精度よく行なうことができる。
【0054】
上記ステップの後、吸着ステージ13によって印刷版12の吸着保持を行なうことにより、パターン矯正動作が完了する。その後、パターン形状が矯正された印刷版12を用いて基板の印刷工程を実施する。
【0055】
図3は、図1中の印刷装置に搭載される印刷版の第1具体例を示す平面図である。図3を参照して、テンショナ21により印刷版12に付与するプリテンションの大きさが、矢印102によって表わされ、棒状導電体パターン31に対する印加電圧の大きさ、すなわち棒状導電体パターン31の発熱量が、矢印101によって表わされている。図中に示すように、印刷版12にプリテンションを付与した状態で、印刷版12のパターン間寸法が面内に対して非線形に分布している場合には、個々の棒状導電体パターン31に対する印加電圧量をPWM制御により変化させることによって、印刷版12上のパターン形状を任意形状に矯正することができる。
【0056】
図4は、図1中の印刷装置に搭載される印刷版の第2具体例を示す平面図である。図4を参照して、パターン16が形成された印刷版12と、パターン62が形成された被印刷物である基板61とが重ね合わさって示されている。図中に示すように、印刷版12に形成されたパターン16と、基板61に形成されたパターン62との位置ずれ量が場所によって異なる場合であっても、個々の棒状導電体パターン31に対する印加電圧量をPWM制御により変化させることによって、印刷版12上のパターン形状を任意形状に矯正することができる。
【0057】
このように構成された、この発明の実施の形態における印刷装置10によれば、複数の棒状導電体パターン31の温度制御を通じて、印刷版12に付与されるプリテンションを自在に調整する。これにより、印刷版12上のパターン形状を高精度に矯正することができる。
【0058】
なお、本実施の形態においては、発熱体として、抵抗体であるニクロムの薄板をエッチングすることで複数の棒状導電体パターン31とした場合について説明したが、その他の例として、シーズヒータやカートリッジヒータ等に代表されるような、金属製のパイプの中にセラミック等の絶縁体に発熱線を巻き付けたものを挿入した形態としてもよい。
【0059】
また、本実施の形態では、印刷版材料としてガラス基板を用いた場合について説明したが、言うまでもなく、金属等その他の材料においても本発明を適用可能である。また、本実施の形態においては、3m×3mの大きさを有する印刷版12の寸法矯正に本発明を適用したが、印刷版12の規模を問わず、何れの大きさに対しても本発明を適用可能である。
【0060】
また、本実施の形態では、パターン矯正の対象物として、印刷版についての例を説明したが、当然のことながら、被印刷物であるガラス基板であってもよい。また、パターン矯正の対象物は、印刷版のパターンを被印刷物であるガラス基板に転写する転写版であってもよく、さらには、対象物の面内寸法、あるいは形状を制御する必要のある任意の装置にも本発明を適用可能である。
【0061】
続いて、本実施の形態における印刷装置10によって奏される上記効果を確認するために行なった実施例について説明する。本実施例においては、棒状導電体パターン31の発熱による印刷版12の寸法矯正の精度を、有限要素シミュレーションによって確認した。
【0062】
はじめに、棒状導電体パターン31の最適長さを求めるための試算を行なった。図5は、棒状導電体パターンの発熱温度と、棒状導電体パターンの熱膨張量との関係を示すグラフである。
【0063】
図5を参照して、前提条件として、印刷版12および棒状導電体パターン31の厚みは同一とし、印刷版12の1辺当たりの複数の棒状導電体パターン31の合計幅は、印刷版12の1辺の長さの半分とした。すなわち、複数の棒状導電体パターン31を、印刷版12の1辺の半分の断面積を有するように配設した。また、棒状導電体パターン31の材質をニクロムとした。線膨張係数および温度上昇から算出した棒状導電体パターン31の熱膨張量を、棒状導電体パターン31の元の長さ(10mm、20mm、50mm、100mm)ごとにプロットした。
【0064】
図中に示すように、各長さの棒状導電体パターン31を1μm膨張させるために必要な温度は、10mmの場合は0.66℃/μmとなり、20mmの場合は1.41℃/μmとなり、50mmの場合は3.69℃/μmとなり、100mmの場合は7.48℃/μmとなった。棒状導電体パターン31の長さが短すぎると、より細かい温度制御を行なう必要があり、長すぎると温度制御はラフになるが、与える熱量が増大して効率の低下を招いてしまう。本実施例における印刷版12の寸法は3m×3mであり、必要な矯正量は平均的には6ppm程度であるため、棒状導電体パターン31の長さは20mm〜50mmの範囲が妥当と判断される。本試算に基づき、棒状導電体パターン31の長さを50mmに設定することにした。
【0065】
図6は、有限要素シミュレーションに用いられる印刷版および棒状導電体パターンのモデルを示す図である。図7は、図6中の2点鎖線VIIで囲まれた範囲を拡大して示す図である。図8は、図6中に示すモデルの解析条件を示す表である。
【0066】
図6から図8を参照して、本シミュレーションでは、印刷版12としてガラス基板を用い、3m×3mの中心対称条件として1/4モデル(1.5m×1.5m)により解析を行なった。棒状導電体パターン31の材料はニクロムとし、上述した試算に基づき、長さを50mm、幅sを5mmとし、間隔tを5mmとして、棒状導電体パターン31を配設した。また、プリテンション状態を保持した状態での解析を表現するために、棒状導電体パターン31の、印刷版12と接していない側の端部31pを変位拘束した。モデル全体の初期温度を23℃、寸法矯正時の棒状導電体パターン31の温度を35.7℃とした。
【0067】
上記条件のもと、有限要素シミュレーションにより、印刷版12の端部、印刷版12の端部より5mm内側、印刷版12の端部より10mm内側の各位置(図7を参照のこと)について、印刷版12の矯正量の分布を求めた。
【0068】
図9は、図8中の条件のもと実施した有限要素シミュレーションの解析結果を示すグラフである。図10は、図9中の2点鎖線Xで囲まれた範囲を示すグラフである。図11は、図9中の2点鎖線XIで囲まれた範囲を示すグラフである。図10および図11中には、それぞれ、印刷版12の辺方向の中心部および端部における矯正量の分布が拡大して示されている。
【0069】
図9から図11を参照して、印刷版12の端部、印刷版12の端部より5mm内側、印刷版12の端部より10mm内側の各位置の矯正量の分布が、それぞれ、線110、120、130によって表わされている。印刷版12の矯正量の最大値と最小値との差は、印刷版12の端部で0.26μm、印刷版12の端部より5mm内側で0.14μm、印刷版12の端部より10mm内側で0.10μmとなった。
【0070】
印刷版12の外形サイズを被印刷物である基板と同一であるとすると、通常、印刷パターンが形成される有効領域は、印刷版12の端部より10mm内側の部分である。このことから、上記解析結果により矯正量の誤差としては極めて精度の高いものが実現されたといえる。また、仮に有効領域が印刷版12の端部からの範囲であるとしても、その矯正量誤差は0.26μmであり、重ね合わせに必要な精度としては十分なものである。
【0071】
図12は、図6中に示すモデルの別の解析条件を示す表である。図12を参照して、次に、50mmの長さ、1mmの幅を有する棒状導電体パターン31を間隔1mmで配設し、他の条件を既に説明した上記解析条件と同一として、有限要素シミュレーションを実施した。
【0072】
図13は、図12中の条件のもと実施した有限要素シミュレーションの解析結果を示すグラフである。図14は、図13中の2点鎖線XIVで囲まれた範囲を示すグラフである。図15は、図13中の2点鎖線XVで囲まれた範囲を示すグラフである。図14および図15中には、それぞれ、印刷版12の辺方向の中心部および端部における矯正量の分布が拡大して示されている。
【0073】
図13から図15を参照して、印刷版12の端部、印刷版12の端部より5mm内側、印刷版12の端部より10mm内側の各位置の矯正量の分布が、それぞれ、線110、120、130によって表わされている。印刷版12の矯正量の最大値と最小値との差は、印刷版12の端部で0.12μm、印刷版12の端部より5mm内側で0.09μm、印刷版12の端部より10mm内側で0.07μmとなった。
【0074】
棒状導電体パターン12の幅を小さくし、配設数を増やすことによって、先の解析条件の場合と比較して、さらに高精度なパターン形状の矯正が実現できる。また、上記のように棒状導電体パターン12を細かく配設することで、各棒状導電体パターン12の温度変化をPWM制御により任意に付与し、より多様な形態のパターン形状の矯正を行なうことが可能である。
【0075】
なお、本実施例においては、対向する2辺について寸法矯正を実施した場合を説明したが、上述した本実施の形態の構成に基づき、印刷版12の4辺に寸法矯正機構を設けることにより、各々直交する2軸の方向について、高精度な寸法矯正を行なうことが可能である。
【0076】
また、本実施例においては、各々の棒状導電体パターン31の温度変化を一定とした場合について説明したが、上述した本実施の形態の記載に基づき、各棒状導電体パターン31の温度変化をPWM制御により任意に付与することで、様々な形態のパターン寸法矯正を行なうことが可能である。
【0077】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、主に、印刷によりレジスト材や導電性ペースト材料などの機能性樹脂材料をパターニング形成する印刷装置に利用される。
【符号の説明】
【0079】
10 印刷装置、12 印刷版、12a〜12d 周縁、20 プリテンション付与装置、21 テンショナ、22 クランプ部材、26 フィルム、31 棒状導電体パターン、41 冷却油通路、50 温度制御部、51 パルス電源、52 配線、53 スイッチ。
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般的には、印刷装置に関し、より特定的には、印刷によりレジスト材や導電性ペースト材料などの機能性樹脂材料をパターニング形成する際、フォトリソグラフィで得られるパターン位置精度と同等の位置精度を有したパターンを得るために、パターン形状を矯正する機構を備える印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の印刷装置に関して、たとえば、特開2000−177102号公報には、版枠の温度変化に基づく寸法変化や、スクリーンのテンション低下等に起因する印刷精度の低下を抑制することを目的としたスクリーン印刷装置が開示されている(特許文献1)。また、特開2006−62241号公報には、精度に優れた印刷が可能であるとともに、繰り返し長期間使用することができ、かつ、取り扱い性および汎用性に優れるとともに、製造コストの低減を図ることを目的としたスクリーン印刷用製版が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−177102号公報
【特許文献2】特開2006−62241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、印刷技術は、微細化用途への応用が進められており、たとえば、フラットパネルディスプレイなどの製造工程において、μmオーダーの微細パターンの形成に利用されている。このような微細パターンの形成においては、特に積層パターンを形成する場合に重ね合わせ時の位置精度が低いと、抵抗不良や絶縁不良に起因して回路の動作不良が発生する。このため、パターンの位置精度は、文字や美術品用途の印刷と比較して、非常に高いレベルで求められる。
【0005】
高精度の位置合わせを行なうためには、印刷版の材料も考慮する必要がある。一般的に、印刷版の材料として、数100μmオーダーの厚さを有するアルミニウム板が用いられている。しかしながら、アルミニウムの線膨張係数は、フラットパネルディスプレイなどに一般的に用いられ、基板材料であるガラスや石英等の線膨張係数と比較して、1桁程度大きい。このため、温度変化による寸法変化の差が、印刷版と基板との間で大きくなり、高精度な位置合わせを行なうことが困難となる。
【0006】
このため、高い位置精度が要求される印刷版の材料としては、熱膨張係数の小さいガラスや石英等の材料を用いることが望ましい。しかしながら、このような材料を用いたとしても、印刷版のサイズがm(メートル)サイズになると、全ての印刷位置のパターンを、サブμmから数μm以下の精度で位置合わせを行なうことが困難となる。このため、印刷版等に形成されたパターンを下地等のパターンの位置に合わせるなど、パターン位置を形成されるべき位置に矯正する必要がある。
【0007】
また、被印刷物(基板)は、下地パターンを形成する過程において熱処理など様々な工程を経ており、このため、基板毎にその下地パターンの形成位置や寸法が異なることがある。すなわち、上述したように、印刷版等に形成されたパターンを下地等のパターンの位置にサブμmから数μm以下の精度で合わせるためには、印刷毎に基板に対して印刷版に形成されたパターンを矯正する必要がある。
【0008】
このようなパターン矯正技術としては、アルミニウムの印刷版の場合は、版の周縁を万力等により引っ張ることでパターンを矯正する方法が考えられる。
【0009】
また、上述の特許文献1に開示された印刷装置では、中空の版枠内にヒーターおよび冷却管を配置し、設定された目標温度と一致するように温度調節が行なわれる。これにより、周囲温度の変化に起因するパターン寸法変動を抑制したり、印刷版の張力低下時のテンション付与を行ない、印刷精度の低下を抑制したりする。また、上述の特許文献2に開示された印刷用製版は、所定の開口形状の開口部が形成されたマスク材を有する印刷版と、印刷版が張設された版枠とを備える。版枠が内外両側方向に変形可能に構成されることにより、開口部の開口形状を調節する。
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、周囲温度変化や、印刷版の経時的な変形という、長期的な寸法変化に対応する手法である。たとえば、印刷版を予めパターン形成された被印刷物上に精度よく重ね合わせるために、被印刷物1枚ごとに寸法矯正を行なうような対応はきわめて困難である。
【0011】
また、特許文献2に記載の方法は、ねじの押し引きによる寸法矯正を基本としている。すなわち、寸法矯正点数や間隔に大きく依存するところがあり、矯正点に応力が集中し、その部分の変位量が特異的に多くなるので、一般的には辺に沿って変位分布の少ない矯正を行なうことは極めて困難である。
【0012】
そこでこの発明の目的は、上記の課題を解決することであり、基材に形成されたパターン形状を高精度に矯正することが可能な印刷装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明に従った印刷装置は、基材に形成されたパターン形状を、基材にその平面方向の張力を付与することにより矯正する印刷装置である。印刷装置は、プリテンション付与装置と、温度変化に伴って熱膨縮可能な複数のテンション調節部と、温度制御部とを備える。プリテンション付与装置は、基材の周縁に接続され、基材に対して予張力を付与する。複数のテンション調節部は、基材の周縁に沿って配列され、基材に対して、予張力に抗する方向の圧縮力を付与する。温度制御部は、複数のテンション調節部の温度を制御する。複数のテンション調節部の熱膨縮によって基材に付与される圧縮力が変化し、基材に所定の張力が付与される。
【0014】
このように構成された印刷装置によれば、複数のテンション調節部の温度制御を通じて、基材に付与される圧縮力を自在に調整する。これにより、基材に所定の張力を付与し、基材に形成されたパターン形状を高精度に矯正することができる。
【0015】
また好ましくは、温度制御部は、複数のテンション調節部の温度を個々に調節可能である。このように構成された印刷装置によれば、複数のテンション調節部の温度を個々に調節することによって、基材に形成されたパターン形状を任意の形状、寸法に矯正することができる。
【0016】
また好ましくは、複数のテンション調節部は、複数の棒状の導電体パターンが配列されてなる。このように構成された印刷装置によれば、複数のテンション調節部を基材の周縁に沿って精細に配列することができる。このため、基材に形成されたパターン形状をより高精度に矯正することができる。
【0017】
また好ましくは、印刷装置は、ダクト部材をさらに備える。ダクト部材は、複数のテンション調節部を取り囲むように基材の周縁に沿って設けられている。ダクト部材は、冷媒が流通される冷媒通路を形成する。このように構成された印刷装置によれば、冷媒の流通により複数のテンション調節部の初期温度を所定の値に設定することができる。これにより、複数のテンション調節部の温度制御を通じたパターン形状の矯正を、より高精度に行なうことができる。
【0018】
また好ましくは、温度制御部は、複数のテンション調節部に電圧を印加する電源部と、電源部と複数のテンション調節部との間の電気的な接続を開閉するスイッチ部とを含む。このように構成された印刷装置によれば、簡易な構成で、複数のテンション調節部の温度制御を実現することができる。
【0019】
また好ましくは、プリテンション付与装置から基材に対して付与される予張力は、基材の変形が弾性変形範囲内に収まるように設定される。このように構成された印刷装置によれば、基材の塑性変形や破断を防ぐことができる。
【0020】
また好ましくは、複数のテンション調節部の発熱による変形量は、予張力の付与による基材の変形量よりも小さく設定される。このように構成された印刷装置によれば、基材の座屈を防ぐことができる。
【0021】
また好ましくは、プリテンション付与装置は、基材に付与する予張力を一定に保持するための保持機構を含む。このように構成された印刷装置によれば、パターン形状の矯正時に、プリテンション付与装置から基材に一定のプリテンションを付与した状態を保つことができる。
【0022】
また好ましくは、基材は、略矩形の平面形状を有する。複数のテンション調節部は、基材の4辺の各辺に沿って配列されている。プリテンション付与装置は、基材に対して、基材の各辺の略直交方向に予張力を付与するように設けられる。このように構成された印刷装置によれば、略矩形の基材に形成されたパターン形状を、自在に矯正することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上に説明したように、この発明に従えば、基材に形成されたパターン形状を高精度に矯正することが可能な印刷装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】この発明の実施の形態における印刷装置を示す平面図である。
【図2】図1中のII−II線上に沿った印刷装置を示す断面図である。
【図3】図1中の印刷装置に搭載される印刷版の第1具体例を示す平面図である。
【図4】図1中の印刷装置に搭載される印刷版の第2具体例を示す平面図である。
【図5】棒状導電体パターンの発熱温度と、棒状導電体パターンの熱膨張量との関係を示すグラフである。
【図6】有限要素シミュレーションに用いられる印刷版および棒状導電体パターンのモデルを示す図である。
【図7】図6中の2点鎖線VIIで囲まれた範囲を拡大して示す図である。
【図8】図6中に示すモデルの解析条件を示す表である。
【図9】図8中の条件のもと実施した有限要素シミュレーションの解析結果を示すグラフである。
【図10】図9中の2点鎖線Xで囲まれた範囲を示すグラフである。
【図11】図9中の2点鎖線XIで囲まれた範囲を示すグラフである。
【図12】図6中に示すモデルの別の解析条件を示す表である。
【図13】図12中の条件のもと実施した有限要素シミュレーションの解析結果を示すグラフである。
【図14】図13中の2点鎖線XIVで囲まれた範囲を示すグラフである。
【図15】図13中の2点鎖線XVで囲まれた範囲を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
この発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下で参照する図面では、同一またはそれに相当する部材には、同じ番号が付されている。
【0026】
図1は、この発明の実施の形態における印刷装置を示す平面図である。図2は、図1中のII−II線上に沿った印刷装置を示す断面図である。
【0027】
図1および図2を参照して、まず、本実施の形態における印刷装置10の基本的な構成について説明すると、印刷装置10は、基材としての印刷版12に形成されたパターン形状を、印刷版12にその平面方向の張力を付与することにより矯正する装置である。印刷装置10は、プリテンション付与装置20と、温度変化に伴って熱膨縮可能な複数のテンション調節部としての棒状導電体パターン31と、温度制御部50とを有する。プリテンション付与装置20は、印刷版12の周縁12a〜12dに接続され、印刷版12に対して予張力を付与する。棒状導電体パターン31は、印刷版12の周縁12a〜12dに沿って配列され、印刷版12に対して、予張力に抗する方向の圧縮力を付与する。温度制御部50は、複数の棒状導電体パターン31の温度を制御する。複数の棒状導電体パターン31の熱膨縮によって印刷版12に付与される圧縮力が変化し、印刷版12に所定の張力が付与される。
【0028】
続いて、本実施の形態における印刷装置10の構造について詳細に説明する。
印刷装置10は、印刷版12を保持するための基台としての微動ステージ14および吸着ステージ13をさらに有する。微動ステージ14は、印刷版12の平面方向に位置移動可能に構成されている。微動ステージ14上に吸着ステージ13が搭載されている。印刷版12は、吸着ステージ13上に吸着保持される。
【0029】
印刷版12は、略矩形の平面形状を有する。印刷版12は、周縁12a〜12dを有する。周縁12aと周縁12cとは、互いに対向して配置され、周縁12bと周縁12dとは、互いに対向して配置される。
【0030】
本実施の形態では、印刷版12が、ガラス基板から形成され、3000mm×3000mm、厚さ0.7mmの大きさを有する。印刷版12の上面には、アライメントパターンと、図示しない回路等の親撥液パターンとが形成されている。
【0031】
印刷版12に形成されているパターンは、重ね合わせ印刷を行なう被印刷物(基板)に形成されている下地のパターンよりも、縮尺倍率が若干小さくなるように形成されている。
【0032】
具体的には、印刷版12に形成されているパターン寸法は、理想とする印刷パターンの設計寸法よりも、予め6ppm程度小さくなるように形成されている。すなわち、被印刷物に形成されている下地のパターンの縦、横の長さを1とした場合、印刷版12に形成されているパターンの縦、横の長さは、0.999994(=1−1×0.000006)に設定されている。
【0033】
複数の棒状導電体パターン31は、互いに間隔を隔てて周縁12a〜12dの各周縁に沿って配列されている。本実施の形態では、複数の棒状導電体パターン31が等間隔に配列されている。棒状導電体パターン31は、周縁12a〜12dの各周縁に接続される一方端を有し、各周縁から遠ざかる方向に棒状に延びて形成されている。
【0034】
棒状導電体パターン31は、電流が流された時に熱膨張可能な金属から形成されている。棒状導電体パターン31は、ニクロム、カンタル、クロメルなどの抵抗体から形成されている。本実施の形態では特に、ニクロムの薄板をエッチングすることによって複数の棒状導電体パターン31が形成されている。このような構成により、複数の棒状導電体パターン31を、周縁12a〜12dの各周縁に沿ってより高密度に配置することができる。
【0035】
印刷装置10は、ダクト部材としてのフィルム26をさらに有する。フィルム26は、複数の棒状導電体パターン31を覆うように設けられている。フィルム26は、複数の棒状導電体パターン31の上下両面を挟み込む形態で設けられている。フィルム26は、印刷版12に固着されている。フィルム26は、高い耐熱性を有する高分子材料から形成されることが好ましい。本実施の形態では、フィルム26としてポリイミドフィルムが用いられている。
【0036】
棒状導電体パターン31とフィルム26の間には、隙間が形成されており、この隙間によって、複数の棒状導電体パターン31が配置される冷媒通路としての冷却油通路41が形成されている。冷却油通路41は、周縁12a〜12dの各周縁に沿って延びるように形成されている。冷却油通路41には、冷却油が流通される。冷却油通路41は、排出口27および排出口28を通じて温度調節器29に接続されている。温度調節器29は、たとえば、オイル冷却が可能なオイルクーラから構成されている。
【0037】
なお、複数の棒状導電体パターン31を冷却する冷媒は、オイルに限られず、たとえば水であってもよい。
【0038】
プリテンション付与装置20は、テンショナ21およびクランプ部材22を含んで構成されている。本実施の形態では、テンショナ21およびクランプ部材22が組となって、周縁12a〜12dの各周縁の外周上にそれぞれ配置されている。クランプ部材22は、フィルム26の外縁を把持する。テンショナ21は、クランプ部材22に接続されている。
【0039】
テンショナ21は、フィルム26を介して印刷版12をその平面方向に引っ張る機能を有する。本実施の形態では、テンショナ21は、印刷版12に対して、周縁12a〜12dの各周縁の略直交方向にプリテンションを付与するように設けられている。
【0040】
テンショナ21は、印刷版12に対するプリテンション状態を電気的に保持することが可能な、パルスモータ駆動の電動シリンダから構成されている。すなわち、テンショナ21は、印刷版12に付与するプリテンションを一定に保持するための保持機能を有する。クランプ部材22とテンショナ21との間には、図示しないロードセルが設けられている。このような構成により、電動シリンダの変位量を目標荷重値になるように制御し、印刷版12に対するプリテンション荷重を精密に調整することができる。
【0041】
なお、プリテンション付与装置20は、上記構成に限られず、たとえば、テンショナ21をウォームギア等の機構から構成し、印刷版12をワイヤーを介して引っ張る構成としてもよい。
【0042】
温度制御部50は、パルス電源51、配線52およびスイッチ53を含んで構成されている(図2を参照のこと)。パルス電源51は、配線52を介して棒状導電体パターン31に電気的に接続されている。スイッチ53は、配線52の経路上に設けられており、その開閉操作により、パルス電源51から棒状導電体パターン31に対する電圧印加がオン、オフされる。
【0043】
一般的に、抵抗体の発生熱量と印加電圧との関係は、比例関係にある。このため、棒状導電体パターン31に所定の電圧を印加することによって、棒状導電体パターン31の発生熱量を制御することが可能である。
【0044】
また、本実施の形態では、温度制御部50が、複数の棒状導電体パターン31の温度を個々に調節可能となるように構成されている。より具体的には、複数の棒状導電体パターン31の各々に対応してスイッチング素子であるスイッチ53が設けられており、1つのパルス電源51によって電圧印加される。このような構成により、個々の棒状導電体パターン31に対してたとえばPWM(パルス幅変調)制御を行なうことによって、簡易なシステム構成で、個々の棒状導電体パターン31の発熱量を制御することが可能となる。
【0045】
続いて、本実施の形態における印刷装置10の動作の一例について説明する。
予め、被印刷物である基板を吸着ステージ13上に吸着保持しておき、必要に応じて、微動ステージ14によって後述する計測のための概略の位置あわせを行なう。基板上のアライメントパターンを図示しない複数のCCD等のカメラを用いて観察することにより、各アライメントパターンの重心位置を計測し、パターン間距離からパターン間寸法を計測する。その後、吸着ステージ13による基板の吸着保持を解除し、図示しない搬送手段を用いて基板を搬出する。さらに、インク等の印刷材料が塗布された印刷版12を装置内に搬入し、吸着ステージ13上に載置する。
【0046】
次に、吸着ステージ13上で印刷版12を吸着保持し、上述した基板のアライメントパターン計測と同様の手順で、印刷版12上のアライメントパターンの位置計測を行なう。なお、このステップは必要に応じて省略してもよい。
【0047】
次に、吸着ステージ13による印刷版12の吸着保持を解除し、印刷版12の端部に接続されたフィルム26の端部を、クランプ部材22によって把持する。そして、テンショナ21によって、印刷版12の各周縁に対して略直交する四方向にプリテンションを付与する。
【0048】
このとき、印刷版12に付与するプリテンション量は、印刷版12の変形が弾性変形範囲内に収まるように設定される。また好ましくは、プリテンション量は、印刷版12の元寸法と、理想とする印刷パターンの設計寸法との差の2倍程度に設定される。たとえば、印刷版12の元寸法と、理想とする印刷パターンの設計寸法との差が、6ppmの倍率差である場合、印刷版12に付与するプリテンション量がその2倍の12ppm分となるように印刷版12を引っ張る。
【0049】
次に、プリテンションを付与した状態における印刷版12のアライメントパターン位置およびパターン間寸法を計測する。その計測値と、先に計測した被印刷物である基板のアライメントパターン間寸法との差を算出し、算出した値を後述する印刷版12の必要な寸法矯正量とする。
【0050】
次に、テンショナ21を構成する電動シリンダのパルスモータを励磁することによって、印刷版12のプリテンション状態を保持した状態で、パルス電源51から棒状導電体パターン31に電圧を印加する。棒状導電体パターン31が発熱することによって熱膨張する。棒状導電体パターン31の熱膨張に伴って、テンショナ21から付与されたプリテンション方向に抗する方向の反力が生じる。結果、熱膨張した棒状導電体パターン31がプリテンション状態の印刷版12を押し戻すことになり、印刷版12上のパターン形状が矯正される。
【0051】
この際、棒状導電体パターン31に対する印加電圧、すなわち発熱量は、棒状導電体パターン31の線膨張係数と、必要な寸法矯正量とから予め算出して決定される。矯正量は、印刷版12のプリテンション量以下、すなわち、引っ張り弾性変形の範囲内で制御される。一例を挙げれば、矯正量は、プリテンション付与前の印刷版12の元寸法の1倍〜1+12ppm倍の範囲で制御される。このような範囲内で寸法矯正を行なうことによって、印刷版12に圧縮変形が生じることがなく、座屈の発生を抑制することができる。
【0052】
また、矯正中において、適宜微動ステージ14を駆動させながら印刷版12の位置合わせを行ない、パターン間距離の変化をフィードバック制御して印加電圧を調整することも可能である。この場合、より高精度な寸法矯正を実現することができる。
【0053】
また、本実施の形態では、冷却油通路41に冷却油を流すことにより、棒状導電体パターン31のベースとなる温度を所望の値に設定することができる。これにより、電圧印加による棒状導電体パターン31の温度制御、延いては、パターン形状の矯正を精度よく行なうことができる。
【0054】
上記ステップの後、吸着ステージ13によって印刷版12の吸着保持を行なうことにより、パターン矯正動作が完了する。その後、パターン形状が矯正された印刷版12を用いて基板の印刷工程を実施する。
【0055】
図3は、図1中の印刷装置に搭載される印刷版の第1具体例を示す平面図である。図3を参照して、テンショナ21により印刷版12に付与するプリテンションの大きさが、矢印102によって表わされ、棒状導電体パターン31に対する印加電圧の大きさ、すなわち棒状導電体パターン31の発熱量が、矢印101によって表わされている。図中に示すように、印刷版12にプリテンションを付与した状態で、印刷版12のパターン間寸法が面内に対して非線形に分布している場合には、個々の棒状導電体パターン31に対する印加電圧量をPWM制御により変化させることによって、印刷版12上のパターン形状を任意形状に矯正することができる。
【0056】
図4は、図1中の印刷装置に搭載される印刷版の第2具体例を示す平面図である。図4を参照して、パターン16が形成された印刷版12と、パターン62が形成された被印刷物である基板61とが重ね合わさって示されている。図中に示すように、印刷版12に形成されたパターン16と、基板61に形成されたパターン62との位置ずれ量が場所によって異なる場合であっても、個々の棒状導電体パターン31に対する印加電圧量をPWM制御により変化させることによって、印刷版12上のパターン形状を任意形状に矯正することができる。
【0057】
このように構成された、この発明の実施の形態における印刷装置10によれば、複数の棒状導電体パターン31の温度制御を通じて、印刷版12に付与されるプリテンションを自在に調整する。これにより、印刷版12上のパターン形状を高精度に矯正することができる。
【0058】
なお、本実施の形態においては、発熱体として、抵抗体であるニクロムの薄板をエッチングすることで複数の棒状導電体パターン31とした場合について説明したが、その他の例として、シーズヒータやカートリッジヒータ等に代表されるような、金属製のパイプの中にセラミック等の絶縁体に発熱線を巻き付けたものを挿入した形態としてもよい。
【0059】
また、本実施の形態では、印刷版材料としてガラス基板を用いた場合について説明したが、言うまでもなく、金属等その他の材料においても本発明を適用可能である。また、本実施の形態においては、3m×3mの大きさを有する印刷版12の寸法矯正に本発明を適用したが、印刷版12の規模を問わず、何れの大きさに対しても本発明を適用可能である。
【0060】
また、本実施の形態では、パターン矯正の対象物として、印刷版についての例を説明したが、当然のことながら、被印刷物であるガラス基板であってもよい。また、パターン矯正の対象物は、印刷版のパターンを被印刷物であるガラス基板に転写する転写版であってもよく、さらには、対象物の面内寸法、あるいは形状を制御する必要のある任意の装置にも本発明を適用可能である。
【0061】
続いて、本実施の形態における印刷装置10によって奏される上記効果を確認するために行なった実施例について説明する。本実施例においては、棒状導電体パターン31の発熱による印刷版12の寸法矯正の精度を、有限要素シミュレーションによって確認した。
【0062】
はじめに、棒状導電体パターン31の最適長さを求めるための試算を行なった。図5は、棒状導電体パターンの発熱温度と、棒状導電体パターンの熱膨張量との関係を示すグラフである。
【0063】
図5を参照して、前提条件として、印刷版12および棒状導電体パターン31の厚みは同一とし、印刷版12の1辺当たりの複数の棒状導電体パターン31の合計幅は、印刷版12の1辺の長さの半分とした。すなわち、複数の棒状導電体パターン31を、印刷版12の1辺の半分の断面積を有するように配設した。また、棒状導電体パターン31の材質をニクロムとした。線膨張係数および温度上昇から算出した棒状導電体パターン31の熱膨張量を、棒状導電体パターン31の元の長さ(10mm、20mm、50mm、100mm)ごとにプロットした。
【0064】
図中に示すように、各長さの棒状導電体パターン31を1μm膨張させるために必要な温度は、10mmの場合は0.66℃/μmとなり、20mmの場合は1.41℃/μmとなり、50mmの場合は3.69℃/μmとなり、100mmの場合は7.48℃/μmとなった。棒状導電体パターン31の長さが短すぎると、より細かい温度制御を行なう必要があり、長すぎると温度制御はラフになるが、与える熱量が増大して効率の低下を招いてしまう。本実施例における印刷版12の寸法は3m×3mであり、必要な矯正量は平均的には6ppm程度であるため、棒状導電体パターン31の長さは20mm〜50mmの範囲が妥当と判断される。本試算に基づき、棒状導電体パターン31の長さを50mmに設定することにした。
【0065】
図6は、有限要素シミュレーションに用いられる印刷版および棒状導電体パターンのモデルを示す図である。図7は、図6中の2点鎖線VIIで囲まれた範囲を拡大して示す図である。図8は、図6中に示すモデルの解析条件を示す表である。
【0066】
図6から図8を参照して、本シミュレーションでは、印刷版12としてガラス基板を用い、3m×3mの中心対称条件として1/4モデル(1.5m×1.5m)により解析を行なった。棒状導電体パターン31の材料はニクロムとし、上述した試算に基づき、長さを50mm、幅sを5mmとし、間隔tを5mmとして、棒状導電体パターン31を配設した。また、プリテンション状態を保持した状態での解析を表現するために、棒状導電体パターン31の、印刷版12と接していない側の端部31pを変位拘束した。モデル全体の初期温度を23℃、寸法矯正時の棒状導電体パターン31の温度を35.7℃とした。
【0067】
上記条件のもと、有限要素シミュレーションにより、印刷版12の端部、印刷版12の端部より5mm内側、印刷版12の端部より10mm内側の各位置(図7を参照のこと)について、印刷版12の矯正量の分布を求めた。
【0068】
図9は、図8中の条件のもと実施した有限要素シミュレーションの解析結果を示すグラフである。図10は、図9中の2点鎖線Xで囲まれた範囲を示すグラフである。図11は、図9中の2点鎖線XIで囲まれた範囲を示すグラフである。図10および図11中には、それぞれ、印刷版12の辺方向の中心部および端部における矯正量の分布が拡大して示されている。
【0069】
図9から図11を参照して、印刷版12の端部、印刷版12の端部より5mm内側、印刷版12の端部より10mm内側の各位置の矯正量の分布が、それぞれ、線110、120、130によって表わされている。印刷版12の矯正量の最大値と最小値との差は、印刷版12の端部で0.26μm、印刷版12の端部より5mm内側で0.14μm、印刷版12の端部より10mm内側で0.10μmとなった。
【0070】
印刷版12の外形サイズを被印刷物である基板と同一であるとすると、通常、印刷パターンが形成される有効領域は、印刷版12の端部より10mm内側の部分である。このことから、上記解析結果により矯正量の誤差としては極めて精度の高いものが実現されたといえる。また、仮に有効領域が印刷版12の端部からの範囲であるとしても、その矯正量誤差は0.26μmであり、重ね合わせに必要な精度としては十分なものである。
【0071】
図12は、図6中に示すモデルの別の解析条件を示す表である。図12を参照して、次に、50mmの長さ、1mmの幅を有する棒状導電体パターン31を間隔1mmで配設し、他の条件を既に説明した上記解析条件と同一として、有限要素シミュレーションを実施した。
【0072】
図13は、図12中の条件のもと実施した有限要素シミュレーションの解析結果を示すグラフである。図14は、図13中の2点鎖線XIVで囲まれた範囲を示すグラフである。図15は、図13中の2点鎖線XVで囲まれた範囲を示すグラフである。図14および図15中には、それぞれ、印刷版12の辺方向の中心部および端部における矯正量の分布が拡大して示されている。
【0073】
図13から図15を参照して、印刷版12の端部、印刷版12の端部より5mm内側、印刷版12の端部より10mm内側の各位置の矯正量の分布が、それぞれ、線110、120、130によって表わされている。印刷版12の矯正量の最大値と最小値との差は、印刷版12の端部で0.12μm、印刷版12の端部より5mm内側で0.09μm、印刷版12の端部より10mm内側で0.07μmとなった。
【0074】
棒状導電体パターン12の幅を小さくし、配設数を増やすことによって、先の解析条件の場合と比較して、さらに高精度なパターン形状の矯正が実現できる。また、上記のように棒状導電体パターン12を細かく配設することで、各棒状導電体パターン12の温度変化をPWM制御により任意に付与し、より多様な形態のパターン形状の矯正を行なうことが可能である。
【0075】
なお、本実施例においては、対向する2辺について寸法矯正を実施した場合を説明したが、上述した本実施の形態の構成に基づき、印刷版12の4辺に寸法矯正機構を設けることにより、各々直交する2軸の方向について、高精度な寸法矯正を行なうことが可能である。
【0076】
また、本実施例においては、各々の棒状導電体パターン31の温度変化を一定とした場合について説明したが、上述した本実施の形態の記載に基づき、各棒状導電体パターン31の温度変化をPWM制御により任意に付与することで、様々な形態のパターン寸法矯正を行なうことが可能である。
【0077】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、主に、印刷によりレジスト材や導電性ペースト材料などの機能性樹脂材料をパターニング形成する印刷装置に利用される。
【符号の説明】
【0079】
10 印刷装置、12 印刷版、12a〜12d 周縁、20 プリテンション付与装置、21 テンショナ、22 クランプ部材、26 フィルム、31 棒状導電体パターン、41 冷却油通路、50 温度制御部、51 パルス電源、52 配線、53 スイッチ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に形成されたパターン形状を、基材にその平面方向の張力を付与することにより矯正する印刷装置であって、
基材の周縁に接続され、基材に対して予張力を付与するプリテンション付与装置と、
基材の周縁に沿って配列され、基材に対して、予張力に抗する方向の圧縮力を付与し、温度変化に伴って熱膨縮可能な複数のテンション調節部と、
前記複数のテンション調節部の温度を制御する温度制御部とを備え、
前記複数のテンション調節部の熱膨縮によって基材に付与される圧縮力が変化し、基材に所定の張力が付与される、印刷装置。
【請求項2】
前記温度制御部は、前記複数のテンション調節部の温度を個々に調節可能である、請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記複数のテンション調節部は、複数の棒状の導電体パターンが配列されてなる、請求項1または2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記複数のテンション調節部を取り囲むように基材の周縁に沿って設けられ、冷媒が流通される冷媒通路を形成するダクト部材をさらに備える、請求項1から3のいずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項5】
前記温度制御部は、前記複数のテンション調節部に電圧を印加する電源部と、前記電源部と前記複数のテンション調節部との間の電気的な接続を開閉するスイッチ部とを含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項6】
前記プリテンション付与装置から基材に対して付与される予張力は、基材の変形が弾性変形範囲内に収まるように設定される、請求項1から5のいずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項7】
前記複数のテンション調節部の発熱による変形量は、予張力の付与による基材の変形量よりも小さく設定される、請求項1から6のいずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項8】
前記プリテンション付与装置は、基材に付与する予張力を一定に保持するための保持機構を含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項9】
基材は、略矩形の平面形状を有し、
前記複数のテンション調節部は、基材の4辺の各辺に沿って配列され、
前記プリテンション付与装置は、基材に対して、基材の各辺の略直交方向に予張力を付与するように設けられる、請求項1から8のいずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項1】
基材に形成されたパターン形状を、基材にその平面方向の張力を付与することにより矯正する印刷装置であって、
基材の周縁に接続され、基材に対して予張力を付与するプリテンション付与装置と、
基材の周縁に沿って配列され、基材に対して、予張力に抗する方向の圧縮力を付与し、温度変化に伴って熱膨縮可能な複数のテンション調節部と、
前記複数のテンション調節部の温度を制御する温度制御部とを備え、
前記複数のテンション調節部の熱膨縮によって基材に付与される圧縮力が変化し、基材に所定の張力が付与される、印刷装置。
【請求項2】
前記温度制御部は、前記複数のテンション調節部の温度を個々に調節可能である、請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記複数のテンション調節部は、複数の棒状の導電体パターンが配列されてなる、請求項1または2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記複数のテンション調節部を取り囲むように基材の周縁に沿って設けられ、冷媒が流通される冷媒通路を形成するダクト部材をさらに備える、請求項1から3のいずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項5】
前記温度制御部は、前記複数のテンション調節部に電圧を印加する電源部と、前記電源部と前記複数のテンション調節部との間の電気的な接続を開閉するスイッチ部とを含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項6】
前記プリテンション付与装置から基材に対して付与される予張力は、基材の変形が弾性変形範囲内に収まるように設定される、請求項1から5のいずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項7】
前記複数のテンション調節部の発熱による変形量は、予張力の付与による基材の変形量よりも小さく設定される、請求項1から6のいずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項8】
前記プリテンション付与装置は、基材に付与する予張力を一定に保持するための保持機構を含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の印刷装置。
【請求項9】
基材は、略矩形の平面形状を有し、
前記複数のテンション調節部は、基材の4辺の各辺に沿って配列され、
前記プリテンション付与装置は、基材に対して、基材の各辺の略直交方向に予張力を付与するように設けられる、請求項1から8のいずれか1項に記載の印刷装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図9】
【公開番号】特開2010−214771(P2010−214771A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64244(P2009−64244)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(596041995)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(596041995)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]